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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1384045
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2020-12-28 
確定日 2022-01-07 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6722780号発明「固体電解質組成物、固体電解質含有シートおよび全固体二次電池、ならびに固体電解質含有シートおよび全固体二次電池の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6722780号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5,9,10〕〔6〜8〕について訂正することを認める。 特許第6722780号の請求項1〜10に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6722780号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜10に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2018年(平成30年) 2月14日(優先権主張 平成29年 2月16日、平成29年 6月 9日)を国際出願日とする出願であって、令和 2年 6月24日にその特許権の設定登録がされ、令和 2年 7月15日に特許掲載公報が発行され、その後、その全ての請求項に係る特許について、令和 2年12月28日に特許異議申立人 林 尚子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
特許異議申立て後の手続きの経緯は、次のとおりである。

令和 3年 4月21日付け:取消理由通知
同年 7月 8日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提出
同年10月27日 :申立人による意見書の提出

第2 訂正請求について
1 訂正請求の趣旨、及び訂正の内容
令和 3年 7月 8日受付の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)に係る訂正(以下、「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜10について訂正を求めるものであり、その訂正の内容は、以下のとおりである(なお、訂正箇所には当審が下線を付した。)。

(1)訂正事項1
訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、「前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマーを含む固体電解質組成物」と記載されているのを、
「前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む固体電解質組成物」に訂正する。

(2)訂正事項2
訂正前の特許請求の範囲の請求項6に「前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマーを含む固体電解質含有シート」と記載されているのを、
「前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む固体電解質含有シート」に訂正する。

2 本件訂正の適否について
(1)訂正の目的、特許請求の範囲の実質上の拡張又は変更の存否、及び新規事項追加の有無
訂正事項1、2に係る訂正は、訂正前の請求項1、6に記載されている「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー」との特定事項から「ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体」が除かれることを明示するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものに該当する。
上記のとおり、当該訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
また、当該訂正は、令和 3年 4月21日付けの取消理由通知で引用した特開2014−86222号公報に記載された発明との重なりのみを除くものであって、いわゆる「除くクレーム」とするものにすぎず、それによって新たな技術的事項を導入するものではないから、本願の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「本件明細書等」という。)に記載した事項の範囲内においてしたものである。

(2)独立特許要件について
本件特許異議の申立ては、訂正前の全ての請求項に対してされているので、訂正事項1、2に係る訂正について、訂正を認める要件として、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項に規定する独立特許要件は課されない。

(3)一群の請求項について
本件訂正前の請求項1〜5、9及び10について、訂正前の請求項2〜5、9及び10はそれぞれ訂正前の請求項1を直接又は間接的に引用するものであって、請求項1の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項1〜5、9及び10は一群の請求項である。
また、本件訂正前の請求項6〜8について、訂正前の請求項7及び8はそれぞれ訂正前の請求項6を直接又は間接的に引用するものであって、請求項6の訂正に連動して訂正されるものであるので、本件訂正前の請求項6〜8は一群の請求項である。
そして、本件訂正請求は、上記一群の請求項ごとに訂正の請求をするものである。

3 本件訂正請求についての結言
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第4項及び第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。
したがって、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜5,9,10〕〔6〜8〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で検討したとおり、本件訂正請求による訂正は認められるから、本件特許の請求項1〜10に係る発明(以下、順に「本件発明1」〜「本件発明10」といい、総称して「本件発明」ということがある。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質組成物であって、前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む固体電解質組成物。
(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%
(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%
【請求項2】
前記ポリマーが、下記条件3を満たす請求項1に記載の固体電解質組成物。
(条件3)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び300〜700%
【請求項3】
前記ポリマーの降伏伸びが、10%以上である請求項1又は2に記載の固体電解質組成物。
【請求項4】
活物質(C)を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項5】
分散媒(D)を含有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項6】
周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質含有シートであって、前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む固体電解質含有シート。
(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%
(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%
【請求項7】
活物質(C)を含有する請求項6に記載の固体電解質含有シート。
【請求項8】
正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層を具備する全固体二次電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも1つの層が、請求項6または7に記載の固体電解質含有シートである全固体二次電池。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体電解質組成物を基材上に塗布する工程を含む固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。」

第4 特許異議の申立ての理由及び取消理由の概要
1 特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、後記する甲第1〜8号証(以下、単に「甲1」〜「甲8」という。)を提出し、以下の理由により、訂正前の請求項1〜10に係る特許は取り消されるべきものである旨主張している。

(1) 申立理由1−1(新規性
訂正前の請求項1〜10に係る発明は、甲3〜6に記載された技術事項を勘案すれば、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由1として一部採用)。

(2) 申立理由1−2(新規性
訂正前の請求項1、4〜10に係る発明は、甲7、8に記載された事項を勘案すれば、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。

(3) 申立理由2−1(進歩性
訂正前の請求項1〜10に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3〜6に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由2として一部採用)。

(4) 申立理由2−2(進歩性
訂正前の請求項1〜10に係る発明は、甲2に記載された発明及び甲7、8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、取り消されるべきものである(取消理由として不採用)。

2 令和 3年 4月21日付け取消理由通知における取消理由の概要
訂正前の請求項1〜10に係る特許に対して、当審が令和 3年 4月21日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。

(1)取消理由1(新規性
訂正前の請求項1〜10に係る発明は、甲3−5、当審が職権で発見した参考資料1、2に記載された技術事項を勘案して、甲1に記載された発明であり、特許法第29条1項3号に該当し、特許を受けることができないから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

(2)取消理由2(進歩性
訂正前の請求項1〜10に係る発明は、甲1に記載された発明及び甲3−5、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当する。

<証拠方法>
甲1:特開2014−86222号公報
甲2:特開2012−178256号公報
甲3:「Kynar/Kynar Flex ポリフッ化ビニリデン性能特性&データ」、アルケマ株式会社、p.3、5(当審注:「Kynar」と「Kynar Flex」には、登録商標マークが付されている。)
甲4:「主要グレードと特性」、東京材料株式会社、[online]、[令和3年3月25日検索](当審注:当審による検索日)、インターネット<URL:http://www.tokyozairyo.co.jp/content/200167948.pdf>(当審注:申立人は、甲4の名称を「Kynarの主要グレードと特性」としているが、甲4からは、かようには読み取れず、甲4の記載から上述のとおり名称を認定した。また、甲4から直接「東京材料株式会社」が発行人であることは読み取れなかったが、インターネットのURL<http://www.tokyozairyo.co.jp/>より、「東京材料株式会社」が発行人であると判断した。
甲5:“ASTM International Designation:D638-14 Standard Test Method for Tensile Properties of Plastics”,p.1、3、4、7
甲5の2:甲5の抄訳
甲6:「ふっ素樹脂特性表 2.その他のふっ素樹脂」、日本弗素樹脂工業会、[online]、[令和3年3月24日検索](当審注:当審による検索日)、インターネット<URL:http://www.jfia.gr.jp/tokusei2.htm>(当審注:甲6から直接「日本弗素樹脂工業会」が発行人であることは読み取れなかったが、インターネットのURL<http://www.jfia.gr.jp>より、「日本弗素樹脂工業会」が発行人であると判断した。)
甲7:「タフテック Hシリーズ・Pシリーズ・Mシリーズ 水添スチレン系熱可塑性エラストマーSEBS」、2019年6月改訂(当審注:甲7の末尾に「2019年6改訂」と記載されており、「2019年6月改訂」を意味するものと判断した。)、旭化成株式会社、p.6
甲8:「硬度(硬さ)と弾性率(ヤング率)の関係、および換算方法」、ぷんたむの悟りの書、[online]、[令和3年4月5日検索](当審注:当審による検索日)、インターネット<URL:https://punhundon-lifeshift.com/hardness_modulus>(当審注:申立人は、甲8の発行人を「ぷんたむ」としているが、インターネットのURL<https://punhundon-lifeshift.com>を参照し、「ぷんたむの悟りの書」が甲8の発行人であると判断した。)

3 当審が職権調査により発見した参考資料
当審が職権調査により発見した参考資料として、以下の参考資料1、2がある。
参考資料1:「ふっ素樹脂特性表 1.パーフルオロ樹脂」、[online]、日本弗素樹脂工業会、[令和3年3月11日検索]、インターネット<URL:http://www.jfia.gr.jp/tokusei1.htm>(当審注:参考文献1から直接「日本弗素樹脂工業会」が発行人であることは読み取れなかったが、インターネットのURL<http://www.jfia.gr.jp>より、「日本弗素樹脂工業会」が発行人であると判断した。)
参考資料2:「スーパーダンベルカッター取扱製品[抜粋] 対応規格一覧表」、[online]、株式会社ダンベル、[令和3年3月24日検索]、インターネット<URL: http://www.dumbbell.co.jp/super_dumbbell01.html>

第5 甲1〜8及び参考資料1、2の記載事項
1 甲1の記載事項
本願優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲1には、以下の記載がある。(なお、下線は当審が付した。「…」は、省略を表す。以下、同様。)
「【0001】
本発明は、二次電池の製造方法に関する。」
「【0005】
本発明の目的は、全固体二次電池の性能を高くすることができる二次電池の製造方法を提供することである。」
「【0009】
本発明の二次電池の製造方法は、固体電解質を含む電解質層と、電極活物質を含む電極と、を備える二次電池の製造方法である。そして、電極と電解質層、又は電極と集電体を接触させた後、電極と電解質層、又は電極と集電体を接触させた後、電極に伝導種をプレドープする工程を有することを特徴とする。」
「【0021】
1.電解質層
電解質層は、固体電解質を含む。また、バインダーを含んでいてもよい。
固体電解質はイオン伝導性があり、大気圧(1013.25hPa)かつ25℃の条件の下、固体である電解質を意味する。
固体電解質は、例えば、リチウムイオン伝導性固体電解質、ナトリウムイオン伝導性固体電解質、カリウムイオン伝導性固体電解質、ルビジウムイオン伝導性固体電解質、セシウムイオン伝導性固体電解質、フランシウムイオン伝導性固体電解質、マグネシウムイオン伝導性固体電解質、カルシウムイオン伝導性固体電解質、ストロンチウムイオン伝導性固体電解質、バリウムイオン伝導性固体電解質、ラジウムイオン伝導性固体電解質である。」
「【0023】
以下、リチウムイオン伝導性固体電解質とナトリウムイオン伝導性固体電解質を例示して説明するが、本発明はリチウムイオン伝導性固体電解質とナトリウムイオン伝導性固体電解質に限定されるものではない。
(A)リチウムイオン伝導性固体電解質
リチウムイオン伝導性固体電解質としては、ポリマー系固体電解質、酸化物系固体電解質及び硫化物系固体電解質がある。
…フッ素樹脂としては、例えば、フッ化ビニリデン(VdF)、ヘキサフルオロプロピレン(HFP)、テトラフルオロエチレン(TFE)や、これらの誘導体などを構成単位として含むものが挙げられる。具体的には、ポリフッ化ビニリデン(PVdF)、ポリヘキサフルオロプロピレン(PHFP)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)などのホモポリマーや、VdFとHFPとの共重合体(以下、この共重合体を「P(VdF−HFP)」と示す場合がある。)などの2元共重合体や3元共重合体、などが挙げられる。」
「【0025】
(3)硫化物系固体電解質
硫化物系固体電解質は、下記式(1)に示す組成を満たすリチウムイオン伝導性無機固体電解質が好ましい。
LiaMbPcSd…(1)
式(1)において、MはB、Zn、Si、Cu、Ga又はGeから選択される元素を示す。
a〜dは各元素の組成比を示し、a:b:c:dは1〜12:0〜0.2:1:2〜9を満たす。
好ましくは、bは0であり、より好ましくは、a、c及びdの比(a:c:d)がa:c:d=1〜9:1:3〜7、さらに好ましくは、a:c:d=1.5〜4:1:3.25〜4.5である。
各元素の組成比は、下記するように、硫化物系固体電解質を製造する際の原料化合物の配合量を調整することにより制御できる。」
「【0062】
固体電解質の形状は特に制限はなく、粒子状であってもシート状であっても良い。粒子状であれば、電解質層を形成する際に、硫化物系固体電解質を含むスラリーを塗布することにより電解質層を製造することができる。
また、静電法を用いて電解質層を製造することもできる。
【0063】
電解質層は、上述した固体電解質の他にバインダーを含んでいてもよい。
バインダーは、特に問わないが、例えば、フッ化ビニリデン系が好適であり、ポリビニリデンフルオライド、ポリエチレングリコール、ポリエチレンオキシド、ポリアクリロニトリル、ポリメタクリル酸メチル、ポリシロキ酸、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体等が挙げられる。」
「【0065】
2.電極(正極及び負極)
電極は、電極活物質を含む。また、固体電解質、バインダー、導電助剤等を含んでいてもよい。」
「【実施例】
【0081】
製造例1
[硫化リチウム(Li2S)の製造]
硫化リチウムの製造及び精製は、国際公開公報WO2005/040039A1の実施例と同様に行った。具体的には下記の通りである。
(1)硫化リチウムの製造
撹拌翼のついた10リットルオートクレーブにN−メチル−2−ピロリドン(NMP)3326.4g(33.6モル)及び水酸化リチウム287.4g(12モル)を仕込み、300rpm、130℃に昇温した。昇温後、液中に硫化水素を3リットル/分の供給速度で2時間吹き込んだ。
続いて、この反応液を窒素気流下(200cc/分)昇温し、反応した硫化水素の一部を脱硫化水素化した。昇温するにつれ、上記硫化水素と水酸化リチウムの反応により副生した水が蒸発を始めたが、この水はコンデンサにより凝縮し系外に抜き出した。水を系外に留去すると共に反応液の温度は上昇するが、180℃に達した時点で昇温を停止し、一定温度に保持した。脱硫化水素反応が終了後(約80分)反応を終了し、硫化リチウムを得た。
【0082】
(2)硫化リチウムの精製
上記(1)で得られた500mLのスラリー反応溶液(NMP−硫化リチウムスラリー)中のNMPをデカンテーションした後、脱水したNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌した。その温度のままNMPをデカンテーションした。さらにNMP100mLを加え、105℃で約1時間撹拌し、その温度のままNMPをデカンテーションし、同様の操作を合計4回繰り返した。デカンテーション終了後、窒素気流下230℃(NMPの沸点以上の温度)で硫化リチウムを常圧下で3時間乾燥した。得られた硫化リチウム中の不純物含有量を測定した。
【0083】
尚、亜硫酸リチウム(Li2SO3)、硫酸リチウム(Li2SO4)並びにチオ硫酸リチウム(Li2S2O3)の各硫黄酸化物、及びN−メチルアミノ酪酸リチウム(LMAB)の含有量は、イオンクロマトグラフ法により定量した。その結果、硫黄酸化物の総含有量は0.13質量%であり、LMABは0.07質量%であった。
【0084】
製造例2
[固体電解質粒子の製造]
製造例1で製造した硫化リチウムを用いて、国際公開公報WO07/066539の実施例1と同様の方法で固体電解質の製造及び結晶化を行った。
具体的には、下記のように行った。
製造例1で製造した硫化リチウム0.6508g(0.01417mol)と五硫化二燐(アルドリッチ社製)を1.3492g(0.00607mol)をよく混合した。そして、この混合した粉末と直径10mmのジルコニア製ボール10ケと遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)アルミナ製ポットに投入し完全密閉するとともにこのアルミナ製ポット内に窒素を充填し、窒素雰囲気にした。
【0085】
そして、はじめの数分間は、遊星型ボールミルの回転を低速回転(85rpm)にして硫化リチウムと五硫化二燐を十分混合した。その後、徐々に遊星型ボールミルの回転数を上げ370rpmまで回転数を上げた。遊星型ボールミルの回転数を370rpmで20時間メカニカルミリングを行った。このメカニカルミリング処理をした白黄色の粉体をX線測定により評価した結果、ガラス化(硫化物ガラス)していることが確認できた。この硫化物ガラスのガラス転移温度をDSC(示差走査熱量測定)により測定したところ、220℃であった。
【0086】
この硫化物ガラスを窒素雰囲気下、300℃で2時間加熱し、硫化物ガラスセラミックスを得た。
得られた硫化物ガラスセラミックスについて、X線回折測定したところ、2θ=17.8、18.2、19.8、21.8、23.8、25.9、29.5、30.0degにピークが観測された。
硫化物ガラスセラミックスの平均粒径を測定したところ、8.8μmであり、イオン伝導度を測定したところ、6.36×10−4S/cmであった。
【0087】
製造例3
[正極合材の製造]
(1)硫黄と多孔質炭素の複合体の調製
硫黄(アルドリッチ製、純度99.998%)0.500gと活性炭(関西熱化学、MSC30)0.214gを乳鉢で混合した後、混合物を密閉性のステンレス容器に入れ、電気炉にて加熱処理した。当該加熱処理は、室温から10℃/分にて150℃まで昇温し、150℃で6時間保持した後、300℃まで10℃/分で昇温し、2.75時間保持した。その後自然冷却し、硫黄・多孔質炭素複合体を得た。
【0088】
(2)正極合材の作製
上記(1)で調製した硫黄・多孔質炭素複合体0.5gと製造例2で製造した硫化物ガラスセラミックス:0.5gを直径10mmのジルコニア製ボール10ケと遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)アルミナ製ポットに投入しアルゴン雰囲気中、室温(25℃)にて、回転速度を370rpmとし、5時間メカニカルミリング処理することで正極合材1を得た。
正極合材1(15.0g)をハイブリダイゼーションシステム(奈良機械製作所製、型式:NHS−O型)に入れ、10000rpm1時間の条件で造粒処理を行ない、正極合材2を得た。
【0089】
製造例4
[正極塗料の調製]
製造例3で作製した正極合材2とバインダー(アルケマ製、KYNAR2750−01)を重量比で95:5の割合となるよう所定量秤量し、乳鉢と乳棒を用いて混合した。
【0090】
製造例5
[電解質塗料の調製]
製造例2で製造した硫化物ガラスセラミックスとバインダー(アルケマ製、KYNAR2750−01)を重量比で95:5の割合となるよう所定量秤量し、乳鉢と乳棒を用いて混合した。
【0091】
製造例6
[負極塗料1の調製]
ケイ素(レアメタリック製、SI−74−70−0035、)、製造例2で製造した硫化物ガラスセラミックス及びバインダー(アルケマ製、KYNAR2750−01)を重量比で66.5:28.5:5の割合となるよう所定量秤量し、乳鉢と乳棒を用いて混合し、負極塗料1とした。
尚、負極活物質であるケイ素(Si)の、理論容量の100%分を充電させた体積(V)と充電前の体積(V0)との比(V/V0)は4.1である。
【0092】
製造例7
[負極塗料2の調製]
PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2750−01)20gを脱水イソブチロニトリル(キシダ化学(株)製、電池グレード)180gに80℃で加熱溶解させたものをPVDF−HFPバインダー溶液とした。
遊星ボールミル(伊藤製作所製、LP−4、500mLポット)のポットに、負極活物質であるケイ素(レアメタリック製、SI−74−70−0035)を93g添加し、製造例2で製造した硫化物ガラスセラミックス40g、上記PVDF−HFPバインダー溶液9g、イソブチロニトリル98gを投入し、220rpmで2.0時間ミリングを行ない、負極塗料2を得た。
【0093】
実施例1
図2(a)〜(c)に示した工程により、負極にリチウムイオンをプレドープした。
(1)負極の形成
製造例7の負極塗料2を、負極集電体であるカーボンコートされたアルミ箔上に、ドクターブレードを用いて塗布し、加熱減圧乾燥を行い、集電体−負極の積層体を作製した。」
「【0100】
実施例5
図2(a)〜(d)に示した工程により、リチウムイオン二次電池を作製しした。
(1)負極の形成
製造例6の負極塗料1を、負極集電体であるカーボンコートされたアルミ箔上に、静電スクリーン印刷機(ベルク工業有限会社製、型式T−1)を用いて、負極塗料1を単位面積当たり約7mgとなるように塗布して集電体と負極の積層体を形成した。
次に、この積層体をSKD−11製の金型で挟み、単動シリンダMS2−150を用いて100MPaにて加圧し、圧密化した集電体/負極の積層体を作製した。尚、圧密化は負極及び負極集電体の負極が形成されている範囲に均等に圧力が加わるように加圧して行った。」
「【0102】
(3)集電体/正極/電解質層の積層体の作製
製造例4で製造した正極塗料を、集電体であるカーボンコートアルミ箔上に、静電スクリーン印刷機(ベルク工業有限会社製、型式T−1)を用いて、単位面積当たりの重量が約9mgとなるように塗布し、集電体/正極の積層体を製造する。
次に、この集電体/正極の積層体をSKD−11製の金型で挟み、理研精機株式会社製の単動シリンダMS2−150を用いて、集電体の正極が塗布された面に均等な圧力がかかり、かつ正極全面に均等な圧力がかかるようにして100MPaで加圧した。
次に、正極上に、静電スクリーン印刷機を用いて、製造例5で製造した電解質塗料を単位面積当たりの重量が約8mgとなるように塗布し、集電体/正極/電解質層の積層体を形成した。
次に、この集電体/正極/電解質層の積層体をSKD−11製の金型で挟み、単動シリンダMS2−150を用いて集電体の正極が塗布された面に均等な圧力がかかり、かつ電解質層全面に均等な圧力がかかるようにして100MPaで加圧して、圧密化した集電体/正極/電解質層の積層体を得た。
【0103】
(4)リチウムイオン二次電池の作製
(2)で作製した集電体/負極の積層体と、(3)で作製した集電体/正極/電解質層の積層体とを貼り合せて、SKD−11製の金型で挟み、単動シリンダMS2−150を用いて、正極集電体と負極集電体の所定の面に均等な圧力がかかるようにして、350MPaで圧密して圧密化した集電体/正極/電解質層/負極/集電体の積層体を製造し、この積層体をアルミ箔の外装に入れ、真空ラミネーターを用いて、−100kPaで真空パックしリチウムイオン二次電池を製造した。
この二次電池を、25MPa加圧下で充放電させたところ、0.2Cでほぼ計算容量(正極基準)に相当する放電容量が得られた。」


「【図1】



「【図2】



2 甲2の記載事項
本願優先日前に日本国内または外国において頒布された刊行物である甲2には、以下の記載がある。(なお、「タフテック」は登録商標である。以下同様。)
「【請求項1】
硫化物固体電解質材料と、アミノ基を有する結着材とを含有することを特徴とするイオン伝導体材料。

【請求項4】
前記硫化物固体電解質材料が、Li2SおよびP2S5を含有する原料組成物を用いてなる硫化物ガラスであり、前記原料組成物におけるLi2SおよびP2S5の割合が、モル換算で、Li2S:P2S5=72〜78:22〜28の範囲内であることを特徴とする請求項1に記載のイオン伝導体材料。」
「【0001】
本発明は、例えば、全固体電池に用いられるイオン伝導体材料に関し、詳しくは密着性に優れたイオン伝導体材料に関する。」
「【0008】
従来、固体電解質層や電極活物質層に、結着材としてポリマーを添加しても、他の部材(例えば、集電体、固体電解質層または電極活物質層等)との密着性が低いという問題がある。本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、密着性に優れたイオン伝導体材料を提供することを主目的とする。」
「【0025】
A.イオン伝導体材料
まず、本発明のイオン伝導体材料について説明する。本発明のイオン伝導体材料は、硫化物固体電解質材料と、アミノ基を有する結着材とを含有することを特徴とするものである。」
「【0028】
1.結着材
まず、本発明における結着材について説明する。本発明における結着材は、アミノ基を有するものであり、後述する硫化物固体電解質材料を結着するものである。また、上記結着材は、例えば、骨格ポリマーとなる、一般的に結着材として用いられるポリマーの分子中に、アミノ基を導入したものである。」
「【0039】
本発明における結着材としては、例えば、市販の旭化成株式会社製のタフテックMP10等を用いることができる。」
「【0041】
2.硫化物固体電解質材料
次に、本発明における硫化物固体電解質材料について説明する。本発明における硫化物固体電解質材料は、硫黄(S)を含有し、かつ、イオン伝導性を有するものであれば特に限定されるものではない。本発明のイオン伝導体材料が全固体リチウム電池に用いられる場合、用いられる硫化物固体電解質材料として、例えば、Li2Sと、第13族〜第15族の元素の硫化物とを含有する原料組成物を用いてなるものを挙げることができる。
【0042】
上記第13族〜第15族の元素としては、例えば、Al、Si、Ge、P、As、Sb等を挙げることができる。また、第13族〜第15族の元素の硫化物としては、具体的には、Al2S3、SiS2、GeS2、P2S3、P2S5、As2S3、Sb2S3等を挙げることができる。特に、本発明においては、硫化物固体電解質材料が、Li2S−P2S5材料、Li2S−SiS2材料、Li2S−GeS2材料またはLi2S−Al2S3材料であることが好ましく、Li2S−P2S5材料であることがより好ましい。Liイオン伝導性が優れているからである。」
「【0053】
本発明のイオン伝導体材料の製造方法としては、上記のイオン伝導体材料を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上記硫化物固体電解質材料および上記結着材を溶媒中で混合してスラリーを調製し、溶媒を乾燥させる方法等を挙げることができる。上記溶媒としては、硫化物固体電解質材料および結着材を分散させることができるものであれば特に限定されるものではない。具体的には、飽和炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、フッ素系溶媒、塩素系溶媒等を挙げることができ、飽和炭化水素系溶媒、芳香族炭化水素系溶媒、フッ素系溶媒が好ましい。また、上記溶媒は、界面活性剤や反応促進剤を含有していても良い。界面活性剤としては、例えば、ポリエーテル系界面活性剤およびポリチオール系界面活性剤等を挙げることができる。
【0054】
B.固体電解質層
次に、本発明の固体電解質層について説明する。本発明の固体電解質層は、上述したイオン伝導体材料を含有することを特徴とするものである。
【0055】
図2は、本発明の固体電解質層の一例を示す概略断面図である。図2における固体電解質層10は、イオン伝導体材料1を含有するものである。また、イオン伝導体材料1は、硫化物固体電解質材料2と、アミノ基を有する結着材3とを含有する。」
「【0060】
本発明の固体電解質層の製造方法としては、上述した固体電解質層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上記イオン伝導体材料の原料である硫化物固体電解質材料およびアミノ基を有する結着材を溶媒中で混合してスラリーを作製し、ドクターブレード等を用いてこのスラリーを基板上に塗工した後、溶媒を乾燥する方法、上記イオン伝導体材料をプレスする方法等を挙げることができる。なお、上記溶媒については、上述したものを用いることができる。また、上記基板としては、例えば、フッ素樹脂シート等の剥離可能なもの、および、電極活物質層等を用いることができる。」
「【0071】
D.全固体電池
次に、本発明の全固体電池について説明する。本発明の全固体電池は、正極活物質を含有する正極活物質層と、負極活物質を含有する負極活物質層と、上記正極活物質層および上記負極活物質層の間に形成された固体電解質層とを有するものである。さらに、本発明の全固体電池は、2つの実施態様に大別することができる。
【0072】
1.第一実施態様
本発明の全固体電池の第一実施態様は、上記固体電解質層が、上記「B.固体電解質層」に記載した固体電解質層である実施態様である。この場合、上述した固体電解質層を用いることにより、固体電解質層と、正極活物質層および負極活物質層との密着性を向上させることができ、耐久性に優れた全固体電池とすることができる。」
【0073】
図4は、本発明の全固体電池の一例を示す概略断面図である。図4における全固体電池30は、正極活物質を含有する正極活物質層21と、負極活物質を含有する負極活物質層22と、正極活物質層21および負極活物質層22の間に形成された固体電解質層23と、正極活物質層21の集電を行う正極集電体24と、負極活物質層22の集電を行う負極集電体25と、これらの部材を収納する電池ケース26とを有するものである。第一実施態様においては、固体電解質層23が、上述した固体電解質層であることを特徴とする。」
「【0075】
第一実施態様の全固体電池の種類としては、全固体リチウム電池、全固体ナトリウム電池、全固体マグネシウム電池および全固体カルシウム電池等を挙げることができ、中でも、全固体リチウム電池および全固体ナトリウム電池が好ましく、特に、全固体リチウム電池が好ましい。また、第一実施態様の全固体電池は、一次電池であっても良く、二次電池であっても良いが、中でも、二次電池であることが好ましい。繰り返し充放電でき、例えば、車載用電池として有用だからである。第一実施態様の全固体電池の形状としては、例えば、コイン型、ラミネート型、円筒型および角型等を挙げることができる。なお、第一実施態様の全固体電池の製造方法は、上述した全固体電池を得ることができる方法であれば特に限定されるものではなく、一般的な全固体電池の製造方法と同様の方法を用いることができる。」
「【図2】


「【図4】



3 甲3の記載事項
甲3には、Kynar PVDFのグレード2750−1の物性値について記載されている。

4 甲4の記載事項
甲4には、KYNAR FLEXのグレード2750−1の物性値について記載されている。

5 甲5の記載事項
甲5には、ASTM D638の規格の内容について記載されている。

6 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。



以上から、甲6には、以下の事項が記載されているといえる。
PVDFは、伸び20−370%、引張弾性率0.37−2.58GPaの機械的特性を有している。

7 甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。



以上から、甲7には、以下の事項が記載されているといえる。
タフテックMP10は、ISO7619 (デュロメータータイプA) による硬さ89、ISO37(ダンベルタイプIA 500mm/min)による伸び600%の機械的特性を有している。

8 甲8の記載事項
甲8には、硬度(硬さ)と弾性率(ヤング率)の関係、および換算方法について記載されている。

9 参考資料1の記載事項
参考資料1には、以下の記載がある。




10 参考資料2の記載事項
参考資料2には、以下の記載がある。



そして、この表の「No.」「3」、「型式」「SDK−300」の「寸法図」には、以下の記載がある。



また、この表の「No.」「5」、「型式」「SDK−500」の「寸法図」には、以下の記載がある。



以上から、参考資料2には、以下の事項が記載されているといえる。
ISO 37−1Aの試験片の寸法図は、
狭い平行部の幅5mm
両端の幅25mm
標線間距離20mm
標線と端部との距離40mm
全長100mm
半径11mm
大半径25mm
であり、
JIS K7127の試験片の寸法図は、
狭い平行部の幅6mm
両端の幅25mm
標線間距離25mm
狭い平行部の長さ33mm
全長115mm
半径14mm
大半径25mm
である。

第6 当審の判断
以下に述べるように、取消理由通知書に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
以下、取消理由として採用した理由も含め、甲1から引用発明を認定する場合(申立理由1−1(新規性)、取消理由1(新規性)、申立理由2−1(進歩性)及び取消理由2(進歩性))についてまとめて検討し、その後、取消理由として採用しなかった、甲2から引用発明を認定する場合(申立理由1−2(新規性)及び申立理由2−2(進歩性))について検討する。

1 甲1から引用発明を認定する場合
(1)甲1に記載された発明
ア 甲1の特に【0084】〜【0086】、【0090】、【0102】を参照すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

硫化リチウム0.6508g(0.01417mol)と五硫化二燐(アルドリッチ社製)を1.3492g(0.00607mol)をよく混合して、この混合した粉末と直径10mmのジルコニア製ボール10ケと遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)アルミナ製ポットに投入し完全密閉するとともにこのアルミナ製ポット内に窒素を充填し、窒素雰囲気にし、はじめの数分間は、遊星型ボールミルの回転を低速回転(85rpm)にして硫化リチウムと五硫化二燐を十分混合した後、徐々に遊星型ボールミルの回転数を上げ370rpmまで回転数を上げ、20時間メカニカルミリングを行い、得られた硫化物ガラスを窒素雰囲気下、300℃で2時間加熱し(以下「製造例2」という場合がある。)、得られた固体電解質粒子の硫化ガラスセラミックスとPVDF−HFPであるバインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)を重量比95:5の割合となるように所定量秤量し、乳鉢と乳棒を用いて混合して製造された電解質塗料。(以下、「甲1発明1−1」という。)

イ 甲1の特に【0084】〜【0086】、【0092】、【0102】を参照すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

甲1発明1−1の電解質塗料を正極上に、静電スクリーン印刷機を用いて、単位面積当たりの重量が約8mgとなるように塗布し、集電体/正極/電解質層の積層体を形成する電解質層。(以下、「甲1発明1−2」という。)

ウ 甲1の特に【0084】〜【0086】、【0092】を参照すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

硫化リチウム0.6508g(0.01417mol)と五硫化二燐(アルドリッチ社製)を1.3492g(0.00607mol)をよく混合して、この混合した粉末と直径10mmのジルコニア製ボール10ケと遊星型ボールミル(フリッチュ社製:型番P−7)アルミナ製ポットに投入し完全密閉するとともにこのアルミナ製ポット内に窒素を充填し、窒素雰囲気にし、はじめの数分間は、遊星型ボールミルの回転を低速回転(85rpm)にして硫化リチウムと五硫化二燐を十分混合した後、徐々に遊星型ボールミルの回転数を上げ370rpmまで回転数を上げ、20時間メカニカルミリングを行い、得られた硫化物ガラスを窒素雰囲気下、300℃で2時間加熱し(製造例2)、固体電解質粒子の硫化ガラスセラミックスを得て、
PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2750−01)20gを脱水イソブチロニトリル(キシダ化学(株)製、電池グレード)180gに80℃で加熱溶解させたものをPVDF−HFPバインダー溶液とし、
遊星ボールミル(伊藤製作所製、LP−4、500mLポット)のポットに、負極活物質であるケイ素(レアメタリック製、SI−74−70−0035)を93g添加し、硫化物ガラスセラミックス40g、上記PVDF−HFPバインダー溶液9g、イソブチロニトリル98gを投入し、220rpmで2.0時間ミリングを行ない(製造例7)、得られた負極塗料。(以下、「甲1発明2−1」という。)

エ 甲1の特に【0084】〜【0086】、【0092】を参照すると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。

甲1発明2−1の負極塗料を、負極集電体であるカーボンコートされたアルミ箔上に、ドクターブレードを用いて塗布し、加熱減圧乾燥を行い、集電体/負極の積層体となる負極。(以下、「甲1発明2−2」という。)

(2)本件発明1について
ア 甲1発明1−1との対比
(ア)甲1発明1−1の「硫化リチウム」を「混合」している「固体電解質粒子」の「硫化ガラスセラミックス」は、「無機」の物質であって、「リチウム」は、「周期律表第1族または第2族に属」しており、また、「固体電解質粒子」であることから「金属のイオンの伝導性を有する」ものであり、本件発明1の「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)」に相当する。
(イ)甲1発明1−1の「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」は、バインダーである限りにおいて、本件発明1の「バインダー(B)」に相当する。
(ウ)甲1発明1−1の「電解質塗料」は、上記「硫化リチウム」を「混合」している「固体電解質粒子」の「硫化ガラスセラミックス」を含むものであり、本件発明1の「固体電解質組成物」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明1−1とは、

「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質組成物」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1は、「バインダー(B)」が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む
「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」
「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」
のに対し、甲1発明1−1の「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」は「PVDF−HFP(当審注:ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)」であり、かつ「条件(1)または(2)を満たすポリマーを含む」か明らかではない点。

イ 相違点1の検討
(ア)まず、相違点1が実質的な相違点であるか否かについて検討する。
甲1発明1−1の「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」は本件発明1で除かれた「ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体」に該当するものと認められる。すなわち、甲1発明1−1における「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」は、本件発明1における「バインダー(B)」から除かれていることになる。
以上によれば、相違点1は実質的な相違点である。

(イ)次に、相違点1の容易想到性について検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明の【0002】〜【0007】、【0012】、【0029】の記載によれば、本件発明1は、固体電解質含有シートの無機固体電解質等の固体粒子間の結着性を向上させ、耐擦傷性を向上させることを課題とし、その課題を解決するために、周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質組成物であって、「前記バインダー(B)」が「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー
(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%
(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」
とするものである。
一方、甲1発明1−1は、【0005】、【0009】、【0069】の記載によれば、全固体二次電池の性能を高くすることができる二次電池の製造方法を提供することを課題とし、その課題を解決するために、固体電解質を含む電解質層と、電極活物質を含む電極と、を備える二次電池の製造方法において、「電極と電解質層、又は電極と集電体を接触させた後、電極と電解質層、又は電極と集電体を接触させた後、電極に伝導種をプレドープする」ものである。そして、甲1にはバインダーのヤング率及び破断伸びについては記載されていない。
そうすると、甲3〜甲8、参考資料1、2の記載や、本願の優先権主張の日当時の技術常識を参酌しても、固体電解質含有シートの無機固体電解質等の固体粒子間の結着性を向上させ、耐擦傷性を向上させることを課題としたものではない甲1発明1−1において、「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」を除外して、相違点1に係る特定事項を備えようとする動機付けがない。
以上によれば、甲1発明1−1において、「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」を「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含むバインダー」「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」とすることが、当業者が容易に想到することができたこととはいえない。

ウ 甲1発明2−1との対比
(ア)甲1発明2−1の「硫化リチウム」を「混合」している「固体電解質粒子」の「硫化ガラスセラミックス」は、「無機」の物質であって、「リチウム」は、「周期律表第1族または第2族に属」しており、また、「固体電解質粒子」であることから「金属のイオンの伝導性を有する」ものであり、本件発明1の「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)」に相当する。
(イ)甲1発明2−1の「PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2750−01)」は、バインダーである限りにおいて、本件発明1の「バインダー(B)」に相当する。
(ウ)甲1発明2−1の「負極塗料」は、上記「硫化リチウム」を「混合」している「固体電解質粒子」の「硫化ガラスセラミックス」を含むものであり、本件発明1の「固体電解質組成物」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明2−1とは、

「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質組成物」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
本件発明1は、「バインダー(B)」が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む
「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」
「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」
のに対し、甲1発明2−1の「PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2750−01)」は「PVDF−HFP(当審注:ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)」であり、かつ「条件(1)または(2)を満たすポリマーを含む」か明らかではない点。

エ 相違点2の検討
相違点2について検討するに、上記イと同様の理由で、相違点2は実質的な相違点であり、また甲1発明2−1において、「PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2750−01)」を「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含むバインダー」「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」とすることが、当業者が容易に想到することができたこととはいえない。

オ 本件発明1についての小括
したがって、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件発明2〜5について
本件発明2〜5に係る固体電解質組成物はいずれも、本件発明1に係る固体電解質組成物を更に技術的に特定するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない以上、本件発明2〜5についても同様に、甲1に記載された発明であるとはいえず、また、甲1に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明6について
ア 甲1発明1−2との対比
(ア)甲1発明1−2の「電解質層」について、本件明細書の発明の詳細な説明の【0125】には、「本発明の固体電解質シートは、本発明の固体電解質組成物(好ましくは(D)分散媒を含有する。)を基材上(他の層を介していてもよい)に製膜(塗布乾燥)して、基材上に固体電解質層を形成することにより、得られる。」と記載されており、本件発明6の「固体電解質含有シート」は、「基材上」に「製膜(塗布乾燥)」して形成されるところ、甲1発明1−1の電解質塗料を正極上に、静電スクリーン印刷機を用いて、塗布することで形成される甲1発明1−2の「電解質層」も、「製膜(塗布乾燥)」して形成されるものであり、「シート」であると解されることから、甲1発明1−2の「電解質層」は、本件発明6の「固体電解質含有シート」に相当する。
(イ)してみると、上記(2)アで検討した事項を援用すれば、本件発明6と甲1発明1−2とは、

「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質含有シート」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点3>
本件発明6は、「バインダー(B)」が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む
「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」
「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」
のに対し、甲1発明1−2の「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」は「PVDF−HFP(当審注:ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)」であり、かつ「条件(1)または(2)を満たすポリマーを含む」か明らかではない点。

イ 相違点3の検討
相違点3について検討するに、上記(2)イと同様の理由で、相違点3は実質的な相違点であり、また甲1発明1−2において、「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」を「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含むバインダー」「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」とすることが、当業者が容易に想到することができたこととはいえない。
ウ 甲1発明2−2との対比
(ア)甲1発明2−2の「負極」について、本件明細書の発明の詳細な説明の【0125】には、「本発明の固体電解質シートは、本発明の固体電解質組成物(好ましくは(D)分散媒を含有する。)を基材上(他の層を介していてもよい)に製膜(塗布乾燥)して、基材上に固体電解質層を形成することにより、得られる。」と記載されており、本件発明6の「固体電解質含有シート」は、「基材上」に「製膜(塗布乾燥)」して形成されるところ、甲1発明2−2の「負極」も、甲1発明2−1の負極塗料を、負極集電体であるカーボンコートされたアルミ箔上に、ドクターブレードを用いて塗布し、加熱減圧乾燥を行うことで形成されるものであり、「製膜(塗付乾燥)」して形成された「シート」であると解されることから、甲1発明2−2の「負極」は、本件発明6の「固体電解質含有シート」に相当する。
(イ)してみると、上記(2)ウで検討した事項を援用すれば、本件発明6と甲1発明2−2とは、

「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質含有シート」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4>
本件発明6は、「バインダー(B)」が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む
「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」
「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」
のに対し、甲1発明2−2の「PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2750−01)」は「PVDF−HFP(当審注:ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)」であり、かつ「条件(1)または(2)を満たすポリマーを含む」か明らかではない点。

エ 相違点4の検討
相違点4について検討するに、上記(2)エと同様の理由で、相違点4は実質的な相違点であり、また甲1発明2−2において、「PVDF−HFP(バインダー:アルケマ製、KYNAR2750−01)」を「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含むバインダー」「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」とすることが、当業者が容易に想到することができたこととはいえない。

オ 本件発明6についての小括
したがって、本件発明6は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(5)本件発明7、8について
本件発明7に係る固体電解質含有シートは、本件発明6に係る固体電解質含有シートを更に技術的に特定するものである。また、本件発明8は、本件発明6又は7に係る固体電解質含有シートを引用して、全固体二次電池を特定するものである。そのため、上記(4)で検討したとおり、本件発明7、8と甲1発明1−2とは少なくとも上記(4)アの相違点3で相違する。また、本件発明7、8と甲1発明2−2とは少なくとも上記(4)ウの相違点4で相違する。そして、相違点3、4の検討はそれぞれ上記(4)イ、エに記載したとおりである。
したがって、本件発明7、8は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明9、10について
本件発明9は、本件発明1〜5のいずれかの固体電解質組成物を引用して、固体電解質含有シートの製造方法を特定するものである。また、本件発明10は、本件発明9に係る固体電解質含有シートの製造方法を引用して、全固体二次電池の製造方法を特定するものである。そのため、上記(2)で検討したとおり、本件発明9、10と甲1発明1−1とは少なくとも上記(2)アの相違点1で相違する。また、本件発明7、8と甲1発明2−1とは少なくとも上記(2)ウの相違点2で相違する。そして、相違点1、2の検討はそれぞれ上記(2)イ、エに記載したとおりである。
したがって、本件発明9、10は、甲1に記載された発明であるとはいえず、甲1に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)申立人の主張について
ア 申立人は令和2年12月28日提出の特許異議申立書において、甲1の【0063】における「電解質層は、上述した固体電解質の他にバインダーを含んでいてもよい。バインダーは、特に問わないが、例えば、フッ化ビニリデン系が好適であり、ポリビニリデンフルオライド・・・が挙げられる。」という記載に基き、甲1の「ポリビニリデンフルオライド」は、甲6の記載を参酌すれば訂正前の請求項1〜10に係る発明の「バインダー(B)」に相当する旨を主張しているので、これについて検討する。
甲6は、本願優先日前に頒布されたものであるか明らかではないが、時間の経過によって変化するものではない物性値に係る事項として参照すると、引張弾性率はヤング率と同義であり、また単に伸びという場合は破断伸びを意味することは技術常識であるから、上記第5の6のとおり、甲6には、PVDF(当審注:ポリビニリデンフルオライド)は、破断伸び20−370%、ヤング率0.37−2.58GPaの機械的特性を有することが記載されていると認められる。
しかしながら、ポリマー材料においては同じ名称でも重合度や分子量によって機械的特性が大きく変動することは技術常識であるから、甲1の「ポリビニリデンフルオライド」について、「破断伸び」が「20−370%」のうちのいずれの値を取り、「ヤング率」が「0.37−2.58GPa」のいずれの値を取るのかは明らかでない。
そして、破断伸び及びヤング率に係る上記数値範囲全体が、本件発明1及び6における「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」または「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」のいずれの数値範囲にも包含されていない以上、甲1の「ポリビニリデンフルオライド」の破断伸び及びヤング率の値が条件1または条件2を満たすとは必ずしもいえない。
してみると、甲1の「ポリビニリデンフルオライド」が訂正前の請求項1〜10に係る発明の「バインダー(B)」に相当するとはいえない。よって出願人の主張は採用することができない。
イ また、申立人は令和3年10月27日提出の意見書において、本件発明1及び6は、ポリマーからPVDF−HFPのみを除外するものであり、ポリマーからPVDF−HFPのみを除いた残余の固体電解質組成物および固体電解質含有シート(残余発明)は、甲1発明と比較した有利な効果がなく、PVDF−HFPのみが除外された残余発明に格別の技術的意義はなく、よって相違点は、公知の機械特性をもつポリマーの中から材料を適当に選択しただけのものに過ぎず、単なる設計的事項であるから、本件発明1及び6は、甲第3−5号証、参考資料1及び2を勘案して、甲第1号証に記載された発明であるか、あるいは、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、取り消すべきものであると主張する。また本件発明2−5、7−10についても同様に主張する。
しかしながら、固体電解質含有シートの無機固体電解質等の固体粒子間の結着性を向上させ、耐擦傷性を向上させることを課題としたものではない甲1発明1の「バインダー(アルケマ製 KYNAR2750−01)」を、相違点1〜4のいずれかに係る特定事項を備えようとする動機付けがないことは、上記(2)イ、(2)エ、(4)イ、(4)エで述べたとおりであるから、申立人の主張は採用できない。

(8)甲1から引用発明を認定する場合のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜10は、甲1に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1〜10は、甲1に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1−1(新規性)、取消理由1(新規性)、申立理由2−1(進歩性)及び取消理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。

2 甲2から引用発明を認定する場合
(1)甲2に記載された発明
ア 甲2の特に【0025】、【0028】、【0039】、【0041】、【0042】、【0053】を参照すると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。

硫化物固体電解質材料2と、アミノ基を有する結着材とを含有するイオン伝導体材料1であって、硫化物固体電解質材料が、Li2S−P2S5材料、Li2S−SiS2材料、Li2S−GeS2材料またはLi2S−Al2S3材料であることが好ましく、Li2S−P2S5材料であることがより好ましく、Liイオン伝導性が優れており、結着材3が旭化成株式会社製のタフテックMP10を用いることができるイオン伝導体材料1。(以下、「甲2発明1」という。)

イ 甲2の特に【0025】、【0028】、【0039】、【0041】、【0042】、【0053】〜【0055】、【0060】及び図2を参照すると、甲2には、以下の発明が記載されているといえる。

甲2発明1のイオン伝導体材料1を含有する固体電解質層であって、固体電解質層の製造方法としては、上述した固体電解質層を得ることができる方法であれば特に限定されるものではないが、例えば、上記イオン伝導体材料の原料である硫化物固体電解質材料およびアミノ基を有する結着材を溶媒中で混合してスラリーを作製し、ドクターブレード等を用いてこのスラリーを基板上に塗工した後、溶媒を乾燥する方法を用いることができる、固体電解質層。(以下、「甲2発明2」という。)

(2)本件発明1について
ア 甲2発明1との対比
(ア)甲2発明1の「硫化物固体電解質材料2」は、「無機」の物質であって、「Liイオン伝導性が優れて」いることから「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する」ものであって、本件発明1の「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)」に相当する。
(イ)甲2発明1の「結着材」は、本件発明1の「バインダー(B)」に相当する。
(ウ)甲2発明1の「イオン伝導体材料1」は、上記「硫化物固体電解質」を含むものであり、本件発明1の「固体電解質組成物」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲2発明1とは、

「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質組成物」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点5>
本件発明1は、「バインダー(B)」が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む
「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」
「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」
のに対し、甲2発明1の「結着材」は「旭化成株式会社製のタフテックMP10を用いることができる」ものの、「条件(1)または(2)を満たすポリマー)を含む」か明らかではない点。

イ 相違点5の検討
まず、相違点5が実質的な相違点であるか否か検討する。
本件明細書の発明の詳細な説明の【0032】には、実施例におけるポリマーの破断伸びの値はJIS K 7127により規定される標準試験片タイプ 5を用いて算出されたことが記載されているから、本件発明1における「破断伸び」の値は、JIS K 7127により規定される標準試験片タイプ 5に基づくものであると認められる。
一方、甲7は、本願優先日前に頒布されたものであるか明らかではないが、時間の経過によって変化するものではない物性値に係る事項として参照すると、上記(2)のとおり、甲7には、タフテックMP10は、ISO7619 (デュロメータータイプA) による硬さ89、ISO37(ダンベルタイプIA 500mm/min)による伸び600%の機械的特性を有することが記載されている。
そうすると、甲2発明1の「タフテックMP10」は甲7に記載の「タフテックMP10」と同一であるから、上記「タフテックMP10」は、ISO7619 (デュロメータータイプA) による硬さ89、ISO37(ダンベルタイプIA 500mm/min)による伸び600%の機械的特性を有すると認められる。
また、参考文献2は、本願優先日前に頒布されたものであるか明らかではないが、時間の経過によって変化するものではない標準規格に係る事項として参照すると、ISO 37―1Aの試験片とJIS K7127の試験片とは異なる寸法であることが記載されている。
ここで、甲2発明1の「タフテックMP10」の機械的特性が本件発明1の「条件(1)または(2)を満たす」かどうか検討すると、「ISO37(ダンベルタイプIA 500mm/min)による伸び600%」は、「JIS K7127の試験片」とは異なる「ISO37―1Aの試験片」に基づく値であるから、条件1の「破断伸び300%〜700%」または条件2の「破断伸び10〜1000%」を充足するとはいえない。よって、相違点5は実質的な相違点である。
次に、相違点5の容易想到性について検討する。
甲7及び参考文献2の記載事項を考慮しても、甲2には「タフテックMP10」を条件1の「破断伸び300%〜700%」または条件2の「破断伸び10〜1000%」を充足させる旨の記載も示唆もされていない。
また、本願の優先権主張の日当時の技術常識を参酌しても、固体電解質含有シートの無機固体電解質等の固体粒子間の結着性を向上させ、耐擦傷性を向上させることを課題としたものではない甲2発明1の「結着材」を、相違点5に係る特定事項を備えようとする動機付けがない。
以上によれば、甲2発明1において、「結着材」を「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含むバインダー」「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」とすることが、当業者が容易に想到することができたこととはいえない。

ウ 本件発明1についての小括
したがって、本件発明1は、甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(3)本件発明2〜5について
本件発明2〜5に係る固体電解質組成物はいずれも、本件発明1に係る固体電解質組成物を更に技術的に特定するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない以上、本件発明2〜5についても同様に、甲2に記載された発明であるとはいえず、また、甲2に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)本件発明6について
ア 甲2発明2との対比
(ア)甲2発明2の「固体電解質層」は、「イオン伝導体材料の原料である硫化物固体電解質材料およびアミノ基を有する結着材を溶媒中で混合してスラリーを作製し、ドクターブレード等を用いてこのスラリーを基板上に塗工した後、溶媒を乾燥する方法」にて製造されるものであり、本件発明6の「固体電解質」を「含有」し、さらに、本件明細書の発明の詳細な説明の【0125】には、「本発明の固体電解質シートは、本発明の固体電解質組成物(好ましくは(D)分散媒を含有する。)を基材上(他の層を介していてもよい)に製膜(塗布乾燥)して、基材上に固体電解質層を形成することにより、得られる。」と記載されており、本件発明6の「固体電解質含有シート」は、「基材上」に「製膜(塗布乾燥)」して形成されるところ、イオン伝導体材料の原料である硫化物固体電解質材料およびアミノ基を有する結着材を溶媒中で混合したスラリードクターブレード等を用いてこのスラリーを基板上に塗工した後、溶媒を乾燥して製造される甲2発明2−2の「固体電解質層」も、「製膜(塗布乾燥)」して形成されるものであり、「シート」であると解されることから、甲2発明2の「固体電解質層」は、本件発明6の「固体電解質含有シート」に相当する。
(イ)してみると、上記(2)アで検討した事項を援用すれば、本件発明6と甲2発明2とは、

「周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質含有シート」

の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点6>
本件発明6は、「バインダー(B)」が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む
「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」
「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」
のに対し、甲2発明2の「結着材」は「旭化成株式会社製のタフテックMP10を用いることができる」ものの、「条件(1)または(2)を満たすポリマー)を含む」か明らかではない点。

イ 相違点6の検討
相違点6について検討するに、上記イと同様の理由で、相違点6は実質的な相違点であり、また甲2発明2において、「結着材」を「下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含むバインダー」「(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%」「(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%」とすることが、当業者が容易に想到することができたこととはいえない。

ウ 本件発明6についての小括
したがって、本件発明6は、甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明することができたものとはいえない。

(5)本件発明7、8について
本件発明7に係る固体電解質含有シートは、本件発明6に係る固体電解質含有シートを更に技術的に特定するものである。また、本件発明8は、本件発明6又は7に係る固体電解質含有シートを引用して、全固体二次電池を特定するものである。そのため、上記(4)で検討したとおり、本件発明7、8と甲2発明2とは少なくとも上記(4)アの相違点6で相違する。そして、相違点6の検討は上記(4)イに記載したとおりである。
したがって、本件発明7、8は、甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(6)本件発明9、10について
本件発明9は、本件発明1〜5のいずれかの固体電解質組成物を引用して、固体電解質含有シートの製造方法を特定するものである。また、本件発明10は、本件発明9に係る固体電解質含有シートの製造方法を引用して、全固体二次電池の製造方法を特定するものである。そのため、上記(2)で検討したとおり、本件発明9、10と甲2発明1とは少なくとも上記(2)アの相違点5で相違する。そして、相違点5の検討はそれぞれ上記(2)イに記載したとおりである。
したがって、本件発明9、10は、甲2に記載された発明であるとはいえず、甲2に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(7)甲2から引用発明を認定する場合のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜10は、甲2に記載された発明であるとはいえない。
また、本件発明1〜10は、甲2に記載された発明及び甲3〜甲8、参考資料1、2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
したがって、申立理由1−2(新規性)及び申立理由2−2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。

3 むすび
以上のとおり、取消理由及び特許異議の申立ての理由によっては、請求項1〜10に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜10に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質組成物であって、前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む固体電解質組成物。
(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%
(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%
【請求項2】
前記ポリマーが、下記条件3を満たす請求項1に記載の固体電解質組成物。
(条件3)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び300〜700%
【請求項3】
前記ポリマーの降伏伸びが、10%以上である請求項1又は2に記載の固体電解質組成物。
【請求項4】
活物質(C)を含有する請求項1〜3のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項5】
分散媒(D)を合有する請求項1〜4のいずれか1項に記載の固体電解質組成物。
【請求項6】
周期律表第1族または第2族に属する金属のイオンの伝導性を有する無機固体電解質(A)と、バインダー(B)とを含有する固体電解質含有シートであって、前記バインダー(B)が、下記条件(1)または(2)を満たすポリマー(ただし、ビニリデンフルオライド−ヘキサフルオロプロピレン共重合体を除く。)を含む固体電解質含有シート。
(条件1)ヤング率0.003GPa以上0.2GPa未満、破断伸び300〜700%
(条件2)ヤング率0.2〜2GPa、破断伸び10〜1000%
【請求項7】
活物質(C)を含有する請求項6に記載の固体電解質含有シート。
【請求項8】
正極活物質層、負極活物質層および固体電解質層を具備する全固体二次電池であって、前記正極活物質層、前記負極活物質層および前記固体電解質層の少なくとも1つの層が、請求項6または7に記載の固体電解質含有シートである全固体二次電池。
【請求項9】
請求項1〜5のいずれか1項に記載の固体電解質組成物を基材上に塗布する工程を含む固体電解質含有シートの製造方法。
【請求項10】
請求項9に記載の製造方法を介して全固体二次電池を製造する、全固体二次電池の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-28 
出願番号 P2018-568543
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01M)
P 1 651・ 113- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平塚 政宏
特許庁審判官 佐藤 陽一
境 周一
登録日 2020-06-24 
登録番号 6722780
権利者 富士フイルム株式会社
発明の名称 固体電解質組成物、固体電解質含有シートおよび全固体二次電池、ならびに固体電解質含有シートおよび全固体二次電池の製造方法  
代理人 赤羽 修一  
代理人 特許業務法人イイダアンドパートナーズ  
代理人 赤羽 修一  
代理人 飯田 敏三  
代理人 植松 拓己  
代理人 飯田 敏三  
代理人 植松 拓己  
代理人 特許業務法人イイダアンドパートナーズ  

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