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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23P
管理番号 1384051
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-20 
確定日 2022-04-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6725751号発明「ターボ機械インペラーを製造するための方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6725751号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 特許第6725751号の請求項5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6725751号の請求項1−5に係る特許についての出願は、平成29年10月26日に出願され、令和2年6月29日にその特許権の設定登録がされ、令和2年7月22日に特許掲載公報が発行された。
その特許について、令和3年1月20日に特許異議申立人ディエムジー・モリ・ウルトラソニック・レーザーテック・ゲゼルシャフト・ミット・ベシュレンクテル・ハフツング(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立てがされた。
当審は令和3年6月30日付けで取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者は応答しなかった。

第2 本件発明
特許第6725751号の請求項1−5の特許に係る発明(請求項1の特許に係る発明を「本件発明1」、同様に請求項2−5の特許に係る発明を、それぞれ「本件発明2」−「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1−5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
半径方向内側ハブ本体(14a)と、半径方向外側シュラウド本体(14b)と、前記ハブ本体(14a)と前記シュラウド本体(14b)との間に延在する動翼(14c)と、を備えるターボ機械インペラー(14)を製造するための方法であって、前記動翼(14c)と、前記ハブ本体(14a)と、前記シュラウド本体(14b)とは一体型モノリシックアセンブリとして具現化され、前記方法は、少なくとも、
ブランク(10)を提供するステップと、
前記ハブ本体、前記シュラウド本体および前記動翼の基本輪郭(11a,11b,11c)を形成するために、前記ブランク(10)をフライス加工するステップと、
形成された基本輪郭上で、堆積溶着を行い、かつ、堆積溶着によって形成された部分(15n)に対してそれに続くフライス加工を行うことを少なくとも1回実施するステップと
を備える方法において、
前記ターボ機械インペラーの半径方向における堆積溶着およびそれに続くフライス加工は、半径方向内側から半径方向外側への方向、半径方向外側から半径方向内側への方向、または両方の方向において複数回実施される、方法。
【請求項2】
堆積溶着によって形成された部分(15n)に対して、堆積溶着およびそれに続くフライス加工を実施することを複数回繰り返すことを特徴とする請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記ブランク(10)のフライス加工と、前記堆積溶着と、前記それに続くフライス加工とは、フライス加工のための少なくとも一つのツールおよび堆積溶着のための少なくとも一つのツールの両方を含む同一の機械ツールにおいて実施されることを特徴とする請求項1または2に記載の方法。
【請求項4】
堆積溶着はレーザー堆積溶着またはレーザー焼結として実施されることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の方法。
【請求項5】
前記堆積溶着中、金属合金材料がフライス加工されたブランク(11,12n)上に堆積させられ、これは前記ブランク(10)の金属合金材料とは異なることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の方法。」

第3 取消理由の概要
請求項1−4に係る特許に対して、当審が令和3年6月30日付けの取消理由通知において特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件発明1−4は、甲第1号証及び甲第3号証に記載された発明、又は甲第2号証及び甲第3号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1−4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
よって、請求項1−4に係る特許は、取り消されるべきものである。

第4 引用文献の記載
甲第1−3号証の記載内容については、特許異議申立書の各甲号証の後ろに添付されている翻訳文を用いる。下線は当審で付与した。
また、以下、甲第1号証を「甲1」といい、同様に甲第2−12号証を、それぞれ「甲2」−「甲12」という。

1 甲1(欧州特許出願公開第2669042号明細書)の記載事項
甲1には以下の事項が記載されている。
(1)明細書
「【0001】
本発明は、それぞれのカテゴリの独立請求項の前提部に記載の切削加工装置によって少なくとも1つの内部空洞を有する工作物を製造する方法、及びこの方法で製造される工作物に関する。
【0002】
回転する羽根車、ポンプ羽根車、インペラ、ならびにポンプの固定状態のディフューザ又は案内羽根、コンプレッサ、圧縮機、あるいはタービンが1つのブランクから切削加工によって作り出されることが知られている。その際、ブランクは中実材料であってもよいし、又は一次成形プロセスによってすでに予備加工されていてもよい。
・・・・・
【0009】
したがって本発明の課題はこの従来技術を出発点として、特にジオメトリの理由から一体切削加工での製造が可能でない工作物も製造可能な、切削加工装置によって少なくとも1つの内部空洞を有する工作物を製造する方法を提案することであり、方法は、運転状態における工作物の高い信頼性を可能にすべきである。さらに、方法により相応の工作物が提案される。
・・・・・
【0026】
本発明による方法は、切削加工装置によって、少なくとも1つの空洞を有する工作物を製造するために用いられる。以下において、工作物がターボ機械のクローズドインペラ(羽根車)である場合の実施のために重要な一例について例示的特徴を挙げて説明する。図1は、全体に参照符号1が付されたインペラの斜視図を示す。図2は、より良く理解するための、運転中にインペラ1が周りを回転する回転軸線Aに沿うインペラ1の断面図を示す。インペラ1は、それ自体知られているようにハブディスク2を備え、通常、インペラは、このハブディスクで図示されない軸に組み付け、又は取り付けられているインペラは、ハブディスク2上に配置された複数の羽根3と、これらの羽根3の、ハブディスク2から離反した側、若しくは縁を少なくとも部分的に覆うカバーディスク4とをさらに有している。その際、図示によれば(図2)、カバーディスク4は、回転軸線Aによって設定された軸方向に関してハブディスク2よりも高いところに延在する。そのことによって、図示によれば羽根3の上方に内部空間6が形成されこの内部空間は、周方向に関してカバーディスク4によって画定されている。したがって、2つの隣り合う羽根3間にそれぞれ内部空洞7が存在し、内部空洞の各々がここでは閉流路7として形成されており、この閉流路はそれぞれ内部空間6からインペラ1の径方向外側の表面まで延在し、インペラの径方向外側の表面は、カバーディスク4及びハブディスク2の径方向外側の表面41、21を含む。したがって閉流路7の各々は画定面8によって包囲されており、この画定面は、それぞれ、2つの隣り合う羽根3の互いに向かい合う表面と、これらの表面間に位置していて、ハブディスク2及びカバーディスク4の互いに向かい合う表面の表面セグメントとから構成される。
・・・・・
【0035】
次に、インペラ1の製造が以下の手順で行われる。前もって第1サブ体積物及び第2サブモジュール11若しくは12間に分離面10が設定されてから、まず、例えばコンピュータ制御されたフライス工具を備える切削加工装置によってブランクから第1サブ体積物11が作り出される。その際、ブランクは中実材料であってもよい、又は一次成形プロセスによってすでに予備加工されていてもよい。
【0036】
第1サブ体積物11は、製造開始時には中実体であり、次にフライス工具によって所望の最終形状にされる。通常、フライス工具はマニピュレータで誘導され、誘導はコンピュータ支援により行われる。閉流路7の各々を製造するために、この閉流路の、後から画定面8になるところとの間の材料体積物が切削によって除去される。すなわちフライス工具は、2つの隣り合う羽根3の吐出側の表面と吸込側の表面との間、及びハブディスク2とカバーディスク4との間に閉流路7が作り出されるように、ハブディスク2とカバーディスク4との間で誘導される。その際、フライスエ具が流路7の画定面8を損傷させないよう注意が払われる。
【0037】
このようにしてブランクから第1サブ体積物11が作り出される。
【0038】
この実施例では、第2サブ体積物12は、実質的にリング状体であり、すなわちカバープレート4の一部分である。
・・・・・
【0040】
第1の変形形態では、第1サブ体積物11の一体切削加工での製造後に、インペラ1の所望の最終形状が達成されるまで、肉盛り加工法によって分離面10上に第2サブモジュール12が構築される。この種の肉盛り加工法は、当業者には十分に知られており、したがって詳しく説明する必要はない。特に、このために肉盛溶接法、特にタングステン不活性ガス溶接(WIG)などの不活性ガス法又はレーザ肉盛り溶接、又はプラズマ法などが適している。
・・・・・
【0045】
自明のことながら、特にジオメトリに応じて、工作物1が2つより多い数のサブ体積物に分けられてもよい。当然のことながら、本発明による方法はクローズドインペラの製造に限定されない。本発明による方法は、例えば、特にポンプ、コンプレッサ、圧縮機、タービンなどのターボ機械におけるあらゆる種類のインペラ若しくは羽根車に、ならびに軸流インペラ及び遠心インペラにも適している。同様に、本発明による方法は、この種のターボ機械における案内羽根又はディフューザにも適している。

(2)図面







2 甲2(米国特許第9174426号明細書)の記載事項
甲2には以下の事項が記載されている。
(1)明細書
ア 「発明の概要
シュラウド付き遠心インペラは、到達容易な表面の大部分をストック材料に機械加工し、後方ハブ開口部を形成して、到達困難な表面がその開口部を通して機械加工できるようにすることによって、ストック材料から形成される。前方シュラウドは、機械加工プロセス中にブレードおよびシュラウドに剛性を与えるために、完成したシュラウドに必要とされるよりも厚い壁部で機械加工される。後方ハプが取り囲まれた後、前方シュラウドは、その最終厚みに機械加工される。取り囲まれた後方ハブを形成する前に、半完成したシュラウド付きインペラをその溶融温度近くまで加熱し、後方ハブエンクロージャを形成するために添加される材料との強い結合を確保する。」(甲2の第1欄第44−57行、並びに翻訳文第1ページ第31−39行)

イ 「図1は、ロータディスク11と、短い軸方向距離および大きい径方向ブレードねじれを有するブレード12とブレードを取り囲み、インペラの軸方向入口から径方向出口まで延びる別個の通路を形成するシュラウド13とを有する、本発明のシュラウド付きインペラの側断面図である。図1は、インペラの後方ハブ14が開いた状態を示す。ブレードを有するインペラは、ストック材料から、後方ハブが開いた状態で機械加工され、したがって、軸方向距離が短く、径方向のブレードのねじれが大きいブレードおよび通路が、開いた軸方向入口および後方開放ハブを通して機械加工できる。後方開放ハブ14がない場合、これらのブレードは、利用可能な空間から機械加工することができない。極低温液体を圧送するロケットエンジンにおける高速インペラの場合、ストック材料はチタンであろう。ニッケルおよび鋼を使用することもできる。
ブレードを有するインペラおよび後方開放ハブが機械加工されると、EBM(電子ビーム溶融)またはEBW(電子ビーム溶接)または他の材料添加製造などのプロセスを使用してインペラ上にハブ15を形成することによって後方開放ハブ14を閉鎖して、完全な単一部品のシュラウド付きインペラを形成する。このシュラウド付きインペラを製造するために、ブレードは、軸方向に過大なサイズで、材料内に機械加工され、後方ハブ15を形成するEBMまたはEBWプロセスによって部分的に消費される。図2は、後方ハブが開口14上に形成されたシュラウド付きインペラを示す。
シュラウド付きインペラを形成するために、材料のブロックが最初の機械加工に使用される。しかしながら、出発材料は、機械加工では形成できないインペラの最終形状ほどの半鋳造インペラとすることもできる。次いで、材料のブロックは、シュラウド付きインペラの前方側および後方側が、後方ハブが開いた状態14で可能な限り形成されるように、機械加工される。入口開口部およびブレードは、前方シュラウド13が、プレード間に形成された通路を取り囲むように形成される状態で機械加工される。前方シュラウド13は、まず、機械加工プロセス中にブレードおよび前方シュラウドのために高い剛性を与えるために仕上がった前方シュラウドに必要とされるであろうよりも厚い壁部で機械加工される。通路およびプレードが形成され、後方ハブ15が追加された後、前方シュラウドは、最終厚みまで再び機械加工される。図1および図2において特定される位置16は、後方ハブ開口部14を使用せずにプレードおよび通路を切断するのに工作機械で到達することはほとんど不可能であろう。ブレードの後端は、後方ハプ開口部14が位置する空間内に延在し、後で添加される材料が後方ハブ15を形成するよう表面を形成する。次いで、EBMまたはEBWプロセスを使用して、開口部14内に後方ハブ15を形成し、通路を取り囲み、完成したシュラウド付きインペラを形成する。」(甲2の第2欄第15−64行、並びに翻訳文第2ページ第3−34行)

(2)図面






3 甲3(欧州特許出願公開第3053677号明細書)の記載事項
甲3には以下の事項が記載されている。
(1)明細書及び特許請求の範囲
「背景
[0001] 本明細書に開示されている主題は概してターボローターに関し、より具体的にはターボ機械ローターを製造するためのハイブリッド製造方法に関する。
[0002] 現在の製造技術は、航空システムで使用されるファンローターの構成部品上の空気力学面の最適化を制限する場合がある。周知のファンローターはアルミニウムまたはチタン等の金属のブロックから材料を取り除く従来の除去製造を用いて形成される。たとえば、金属のブロックを機械加工することによりファンローターの完成品を製造する場合がある。しかしながら未使用の材料は廃棄されることが多くコストは回収されず、加工プロセスは高コストで時間がかかるものになる場合がある。
簡単な概要
[0003] 一局面において、ハブとハブから延在する複複数の羽根とをするローターの製造方法が提供される。この方法は外面を有するハブを提供するステップとハプの外面の上にレーザクラッディングを堆積させることにより復数の羽根を形成するステップとを含む。
・・・・・
[0014] 図5は、ハイブリッド付加製造プロセスを実行するための、具体例としてのワークステーション100の概略図である。ワークステーション100は、概して、被加工物プラットフォーム102と、1つ以上のハプ機械加工装置104と、1つ以上のレーザクラッディング装置106と、1つ以上の羽根機械加工装置108と、測定装置110とを含む。
・・・・・
[0016] 形成中、部分的に完成した各羽根14を、レーザクラッディング106および羽根機械加工装置108に交互に与えてもよい。そのようにして、第1の羽根14の第1の層20をハブ12の上に形成してもよい。次に、装置108によってこの第1の層20を、レーザクラッディング装置106が第2の羽根14の第1の層20を形成する間に、機械加工してもよい。その後、第1の羽根14の第2の層20を、羽根機械加工装置108が第2の羽根14の第1の層20を機械加工する間に、機械加工した第1の層20の上に形成してもよい。このプロセスを、複数の層20を堆積させ機械加工して第1および第2の羽根14を形成するまで、交互に行ってもよい。その後、さらに他の羽根14を同じやり方で形成してもよい。・・・・・
・・・・・
【書類名】特許請求の範囲
・・・・・
【請求項3】
前記レーザクラッディングを堆積させるステップは、
前記ハブの外面の上にレーザクラッディングの第1の層(20)を堆積させるステップと、
次に、前記第1の層(20)を機械加工するステップと、
前記機械加工した第1の層の上にレーザクラッディングの第2の層(20)を堆積させるステップと、
次に、前記第2の層を機械加工することにより、前記ハブの外面の上に前記複数の羽根のうちの第1の羽根を形成するステップとを含む、請求項1に記載の方法。」

イ 図面




第5 当審の判断
1 本件発明1−2について
(1)甲1を主引用例としたときの進歩性
甲1には、上記第4の1から、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されており、本件発明1と対比すると、以下のアで一致し、以下のイで相違する。

<甲1発明>
「ハブディスク2と、カバーディスク4と、前記ハブディスク2と前記カバーディスク4との間に延在する羽根3と、を備えるインペラ1を製造するための方法であって、前記羽根3と、前記ハブディスク2と、前記カバーディスク4とは製造開始時には中実体であり、次にフライス工具によって所望の最終形状にされる第1サブ体積物11として具現化され、前記方法は、少なくとも、
ブランクを提供するステップと、
前記ハブディスク2、前記カバーディスク4および前記羽根3の基本輪郭を形成するために、前記ブランクを一体切削加工するステップと、
形成された基本輪郭上で、肉盛り加工法を行い、かつ、肉盛り加工法によって第2サブ体積物12を形成する方法。」

ア 一致点
「半径方向内側ハブ本体と、半径方向外側シュラウド本体と、前記ハブ本体と前記シュラウド本体との間に延在する動翼と、を備えるターボ機械インペラーを製造するための方法であって、前記動翼と、前記ハブ本体と、前記シュラウド本体とは一体型モノリシックアセンブリとして具現化され、前記方法は、少なくとも、
ブランクを提供するステップと、
前記ハブ本体、前記シュラウド本体および前記動翼の基本輪郭を形成するために、前記ブランクをフライス加工するステップと、
形成された基本輪郭上で、堆積溶着を行い、かつ、堆積溶着によって部分
を形成する方法。」

イ 相違点
(ア)相違点1
本件発明1は、「堆積溶着によって形成された部分に対してそれに続くフライス加工を行うことを少なくとも1回実施する」のに対して、甲1発明は、肉盛り加工法によって形成された部分に対して、フライス加工を少なくとも1回実施するか不明である点。

(イ)相違点2
本件発明1が、「ターボ機械インペラーの半径方向における堆積溶着およびそれに続くフライス加工は、半径方向内側から半径方向外側への方向、半径方向外側から半径方向内側への方向、または両方の方向において複数回実施される」のに対して、甲1発明は、このようなフライス加工を実施するか不明である点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
肉盛り加工法(堆積溶着)を行った場合に、形成される部分の表面の品質は滑らかでないことが技術常識であり、甲1発明において、甲1の段落【0040】記載の肉盛り加工法(堆積溶着工程)で第1サブ体積物に堆積された第2サブ体積物12の表面性状は、ブランクからのフライス工程によって形成された第1のサブ体積物11の表面性状とは異なることが明らかであるところ、ターボ機械インペラにおいては、特に、流れる流体が通過する部分は滑らかで均一であることが求められるものであるから、甲1発明において、堆積溶着によって形成された部分(第2サブ体積物12)に、先にフライス加工された一体型モノリシックアセンブリ(第1サブ体積物11)と表面性状が均一となるように、(第1サブ体積物11と同じく)フライス加工を少なくとも1回実施することに、格別の困難性は存在しない。

(イ)相違点2について
甲3には、特に[0016]、【請求項3】の記載からみて、レーザクラッディングの層を堆積させるステップおよびそれに続く、この堆積したレーザクラッディングの層を機械加工するステップを複数回実施するターボ機械ローターの製造方法(「甲3記載の技術的事項」という。)が記載されている。
甲1の図2に図示された第2サブ体積物12は、第1サブ体積物に対して、ターボ機械インペラーの分離面10上で堆積されたものであるが、インペラー1のカバープレート4として仕上げられるためには、回転軸線A方向の上側に向けて、カバープレート4の内径が小さくなるように(回転軸線Aとの距離が短くなるように)、その表面において、機械加工の工具が、インペラーの軸方向のみならず、半径方向にも移動することが必要である。また、上記第2サブ体積物12は、上記図2図示の形状のものに限らず、機械加工の工具をインペラーの半径方向に移動させることが必要な形状となるものから選択し得ることが理解できるし、この移動を半径方向の内側から外側、及び外側から内側のいずれの方向とすることも、加工の必要性に応じて選択し得るものである。
また、甲1には、【0045】に「工作物1が2つより多い数のサブ体積物に分けられてもよい。」ことが記載されており、サブ体積物を複数設けることの可能性が示唆されている。
そうすると、甲1発明の堆積部分によって形成された部分である第2サブ体積物12について、甲1発明と同じターボ機械のインペラー(ローター)の製造に係る上記甲3記載の技術的事項を適用し、「ターボ機械インペラーの半径方向における堆積溶着およびそれに続くフライス加工は、半径方向内側から半径方向外側への方向、半径方向外側から半径方向内側への方向、または両方の方向において複数回実施される」ものとすること(請求項1)は、当業者が容易に想到し得たことである。

エ 本件発明2について
本件発明2について検討すると、上記ウ(イ)と同様に、甲1発明の堆積部分によって形成された部分である第2サブ体積物12について、甲1発明と同じターボ機械のインペラー(ローター)の製造に係る上記甲3記載の技術的事項を適用し、「堆積溶着によって形成された部分に対して、堆積溶着およびそれに続くフライス加工を実施することを複数回繰り返すこと」(請求項2)は、当業者が容易に想到し得たことである。

オ 小括
したがって、本件発明1及び2は、甲1発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)甲2を主引用例としたときの進歩性
甲2には、上記第4の2から、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されており、本件発明1と対比すると、以下のアで一致し、以下のイで相違する。

<甲2発明>
「ロータディスク11と、シュラウド13と、前記ロータディスク11と前記シュラウド13との間に延在するブレード12と、を備えるシュラウド付き遠心インペラを製造するための方法であって、前記ブレード12と、前記ロータディスク11と、前記シュラウド13とは、材料ブロックが、シュラウド付きインペラの前方側及び後方側が、後方ハブが開いた状態で可能な限り形成されるように機械加工されたものとして具現化され、前記方法は、少なくとも、
材料ブロックを提供するステップと、
前記ロータディスク11、前記シュラウド13および前記ブレード12の基本輪郭を形成するために、前記材料ブロックを機械加工するステップと、
形成された基本輪郭上で、EBM(電子ビーム溶融)又はEBW(電子ビーム溶接)を行い、EBM又はEBWによって後方ハブ15が形成される方法。」

ア 一致点
「半径方向内側ハブ本体と、半径方向外側シュラウド本体と、前記ハブ本体と前記シュラウド本体との間に延在する動翼と、を備えるターボ機械インペラーを製造するための方法であって、前記動翼と、前記ハブ本体と、前記シュラウド本体とは一体型モノリシックアセンブリとして具現化され、前記方法は、少なくとも、
ブランクを提供するステップと、
前記ハブ本体、前記シュラウド本体および前記動翼の基本輪郭を形成するために、前記ブランクをフライス加工するステップと、
形成された基本輪郭上で、堆積溶着を行い、堆積溶着によって部分が形成される方法。」

イ 相違点
(ア)相違点1
本件発明1は、「堆積溶着によって形成された部分に対してそれに続くフライス加工を行うことを少なくとも1回実施する」のに対して、甲2発明は、EBM(電子ビーム溶融)又はEBW(電子ビーム溶接)によって形成された部分にフライス加工を行うことを少なくとも1回実施するか不明である点。

(イ)相違点2
本件発明1が、「ターボ機械インペラーの半径方向における堆積溶着およびそれに続くフライス加工は、半径方向内側から半径方向外側への方向、半径方向外側から半径方向内側への方向、または両方の方向において複数回実施される」のに対して、甲2発明は、このようなフライス加工を実施するか不明である点。

ウ 判断
(ア)相違点1について
甲2においては、上記第4の2(1)イに「ブレードを有するインペラおよび後方開放ハブが機械加工されると、EBM(電子ビーム溶融)またはEBW(電子ビーム溶接)または他の材料添加製造などのプロセスを使用してインペラ上にハブ15を形成することによって後方開放ハブ14を閉鎖して、完全な単一部品のシュラウド付きインペラを形成する。」ことが記載されており、堆積溶着工程であるEBM(電子ビーム溶融)またはEBW(電子ビーム溶接)で追加された(後方)ハブ15は、機械加工で形成された他の部分とは表面等の性状が異なることが技術常識であるところ、ターボ機械インペラにおいては、特に、流れる流体が通過する部分は滑らかで均一であることが求められる。したがって、最終的に、単一部品のシュラウド付きインペラを形成するために、この後方ハブ15に対して、他の部分と同様の機械加工を少なくとも1回実施することに、格別の困難性は存在せず、適宜選択し得た事項である。

(イ)相違点2について
甲3には、[0016]、【請求項3】の記載からみて、レーザクラッディングの層を堆積させるステップおよびそれに続く、この堆積したレーザクラッディングの層を機械加工するステップを複数回実施するターボ機械ローターの製造方法が記載されている。
甲2の図1及び図2において、堆積溶着工程で追加される後方ハブ15は、内側ハブ本体11から外側シュラウドの外側先端部まで半径方向に延びているものであることから、後方ハブ15として仕上げられるためには、その表面において、機械加工の工具が、インペラーの半径方向にも移動することが必要である。
そうすると、甲2発明の堆積部分によって形成された部分である後方ハブ15について、甲2発明と同じターボ機械のインペラー(ローター)の製造に係る上記甲3記載の技術的事項を適用し、また、機械加工として慣用のフライス加工を用いて、「ターボ機械インペラーの半径方向における堆積溶着およびそれに続くフライス加工は、半径方向内側から半径方向外側への方向、半径方向外側から半径方向内側への方向、または両方の方向において複数回実施される」ものとすること(請求項1)は、当業者が容易に想到し得たことである。

エ 本件発明2について
本件発明2について検討すると、上記ウ(イ)と同様に、甲2発明の堆積部分によって形成された部分である後方ハブ15について、甲2発明と同じターボ機械のインペラー(ローター)の製造に係る上記甲3記載の技術的事項を適用し、また、機械加工として慣用のフライス加工を用いて、「堆積溶着によって形成された部分に対して、堆積溶着およびそれに続くフライス加工を実施することを複数回繰り返すこと」(請求項2)は、当業者が容易に想到し得たことである。

オ 小括
したがって、本件発明1及び2は、甲2発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 本件発明3について
甲3の[0014]には、図5に関し、「図5は、ハイブリッド付加製造プロセスを実行するための、具体例としてのワークステーション100の概略図である。ワークステーション100は、概して、被加工物プラットフォーム102と、1つ以上のハブ機械加工装置104と、1つ以上のレーザクラッディング装置106と、1つ以上の羽根機械加工装置108と、測定装置110とを含む。」と記載されている。
そうすると、甲3記載のワークステーション100は、1つ以上のハブ機械加工装置104、1つ以上のレーザクラッディング装置106の両方のツールを含むものであるから、甲3記載の技術的事項を、甲1発明又は甲2発明に適用する際に、フライス加工と、堆積溶着とを、同一の機械ツールにおいて実施することは、当業者が容易に想到し得たことである。
したがって、本件発明3は、甲1発明及び甲3記載の技術的事項、又は甲2発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 本件発明4について
甲1発明の堆積溶着の手段である肉盛り加工法について、甲1の【0040】には、「特に、このために肉盛溶接法、特にタングステン不活性ガス溶接(WIG)などの不活性ガス法又はレーザ肉盛り溶接、又はプラズマ法などが適している。」ことが記載され、また、甲2には、堆積溶着の手段として、EBM(電子ビーム溶融)またはEBW(電子ビーム溶接)が例示(甲2の翻訳文の特に第2ページ第13−19行を参照。)されており、いずれも、レーザー堆積溶着を含むものである。
したがって、本件発明4は、甲1発明及び甲3記載の技術的事項、又は甲2発明及び甲3記載の技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすること
ができたものである。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について

1 請求項5に係る特許に対する特許法第29条第2項の理由
申立人は、申立書第31−32ページにおいて、(1)甲1を主引用例とし、甲1と甲4、甲1と甲6、又は甲1と一般知識の組合せによる本件発明5の進歩性欠如、(2)甲2を主引用例とし、甲2と甲4、甲2と甲6、又は甲2と一般知識の組合せによる本件発明5の進歩性欠如を主張するので、以下、検討する。
(1)甲1を主引用例としたときの進歩性
ア 甲1発明
甲1発明は、上記第5の1(1)に示すとおりである。

イ 甲1発明と本件発明5の対比
甲1発明と本件発明5を対比すると、上記第5の1(1)アに示す一致点で一致し、上記第5の1(1)イに示す相違点1及び2で相違するほか、以下の点で相違する。

相違点3
本件発明5が、「堆積溶着中、金属合金材料がフライス加工されたブランク上に堆積させられ、これは前記ブランクの金属合金材料とは異なる」のに対して、甲1発明は、ブランクに堆積させられる金属合金材料(金属又は合金)と、ブランクの金属合金材料の異同が不明な点。

ウ 判断
(ア)相違点1及び2の判断は、上記第5の1(1)ウ(ア)及び(イ)に示すとおり、いずれも当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)次に、相違点3を検討すると、甲4には、スライド37の上部テキストボックスにおいて、「・Combination of・・・・connection)(1つの部品における2つの異なる材料の組み合わせ(例えば、ステンレス鋼および銅の接続))と記載され、堆積操作におけるいくつかの異なる金属合金の使用が開示されている。
(ウ)甲6には、以下の事項が記載されている。
(a)「この発明の方法を用いて広範な種々の材料を堆積(溶着)することができる。たとえば、チタン合金、ニッケル合金、コバルト合金、鉄合金、セラミックおよびプラスチックを堆積することができる。」(第5頁左上欄第6−10行)
(b)「実施例2
溶着合金をインコネル(Inconel)718合金、基体をインコネル718合金、送り速度を80インチ/分とした以外は実施例1と同様の手順を繰り返した。」(甲第6号証第9頁右上欄第20行−左下欄第4行)
対照的に、実施例3は以下の特徴を有する:
「実施例3
基体をレネ(Rene)95合金とした以外は実施例2と同様の手順を繰り返した。」(第9頁左下欄第5−7行)
したがって、甲4及び甲6には、堆積操作において、堆積物が堆積される対象である物の材料と、堆積物の材料とが、異なる金属合金であることが記載されている。
(エ)また、申立人が主張する一般知識は、以下に要約するものである。
ターボ機械インペラは通常、対応する適用分野が高熱および機械負荷(例えば、ガスタービン、ジェットエンジンなど)に関連するので、金属合金から構築されることが当業者には一般に知られており、これは、金属合金を材料とすることで、効率的に被覆され得る。
さらに、部品の異なる部分に対して有利な材料特性を利用し、異なる材料から部品を製造することができることは、当業者によって一般に知られており、ある材料が他の材料よりも堆積溶着によって配置されることが有利であることを認識していることから、ブランクおよび配置される材料に異なる材料を使用するという事実は、当業者によって周知である。
(オ)甲4及び甲6の記載に対して、甲1発明は、「例えばポンプの羽根車(インペラ)などの部品は、用途に応じて、例えば高強度特殊鋼、超合金、他の適当な金属又は合金、あるいは、例えばセラミック材料などの非金属材料などの塊状の材料から製作され、この材料からフライス削りなどの切削加工によって羽根車の羽根が作り出される。」(段落【0004】)ことを前提として、「特にジオメトリの理由から一体切削加工での製造が可能でない工作物も製造可能な、切削加工装置によって少なくとも1つの内部空洞を有する工作物を製造する方法を提案すること」(段落【0009】)を課題とするものであるから、甲1発明において、ブランクから一体切削加工される第1サブ体積物11に対して、一体切削加工ができない第2サブ体積物12を肉盛り加工する際には、前提となるブランクと同じ材料となるように第2サブ体積物12の材料を選択することしか想定されていないと解するべきである。
一方、本件発明5は、「堆積溶着中、金属合金材料がフライス加工されたブランク上に堆積させられ、これは前記ブランクの金属合金材料とは異なる」ことによって、本件明細書段落【0007】記載の「堆積溶着によって形成された部分に特に有利な材料特性を有するターボ機械インペラーを製造することができる。」ことや、同じく【0008】記載の「堆積溶着によって形成された部分に関して、規定された様式で調整された材料特性を有するターボ機械インペラーを提供するのに役立つ。」との効果を奏するものである。
(カ)そうすると、甲4及び甲6に、堆積操作において、堆積物が堆積される対象である物の材料と、堆積物の材料とが、異なる金属合金であることが記載されているとしても、甲1発明には、製造される工作物として単一の材質で形成されるものしか想定されていないというべきであることから、甲4あるいは甲6記載の技術的事項を適用して、本件発明5に至ることが容易であるとはいえない。
(キ)また、申立人が主張する一般知識について証拠が示されていない上に、ターボ機械インペラーの材料が金属合金であることや、「部品の異なる部分に対して有利な材料特性を利用」し、「異なる材料から部品を製造すること」が、「一般知識」に相当するとしても、甲1発明においては、製造される工作物として単一の材質で形成されるものしか想定されていないというべきであることからみて、甲1発明においては、異なる材料から部品を製造する事情を見出すことができない。
したがって、仮に、甲1発明に、申立人が主張する一般知識を適用しても、本件発明5に至ることが、当業者にとって容易であるとはいえない。
(ク)したがって、本件発明5は、甲1発明及び甲3発明に、甲4、甲6の記載事項、あるいは「一般知識」を組み合わせることで進歩性が欠如するとはいえない。

エ 小括
したがって、本件発明5は、甲1、甲3、甲4、及び甲6に記載された発明、及び「一般知識」に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲2を主引用例としたときの進歩性

ア 甲2発明
甲2発明は、上記第5の1(2)に示すとおりである。

イ 甲2発明と本件発明5の対比
甲2発明と本件発明5と対比すると、上記第5の1(2)アに示す一致点で一致し、上記第5の1(2)イに示す相違点1及び2で相違するほか、以下の点で相違する。

相違点3
本件発明5が、「堆積溶着中、金属合金材料がフライス加工されたブランク上に堆積させられ、これは前記ブランクの金属合金材料とは異なる」のに対して、甲2発明は、ブランクに堆積させられる金属合金材料(ストック材料)と、ブランクの金属合金材料の異同が不明な点。

ウ 判断
(ア)相違点1及び2の判断は、上記第5の1(2)ウ(ア)及び(イ)に示すとおり、いずれも当業者が容易に想到し得たことである。
(イ)次に、相違点3を検討すると、甲4及び甲6の記載事項並びに申立人が主張する一般知識は、上記(1)ウ(イ)−(エ)のとおりであり、甲4及び甲6には、堆積操作において、堆積物が堆積される対象である物の材料と、堆積物の材料とが、異なる金属合金であることが記載されている。
(ウ)甲2には、「シュラウド付きインペラは、従来、製造が困難であった。従来技術のシュラウド付きインペラは、ブレードおよび通路がストック材料から機械加工された後に、シュラウドがろう付けされて製造されていた。このプロセスでは、別個の形成されたシュラウドがブレードにろう付けされて、取り囲まれた通路を形成する。ろう付けされた遠心インペラでは、ろう付けされた位置は100%被覆されず、したがって漏出が生じる。また、ろう付けされたシュラウドは、ロケットエンジン性能を高めるのに必要な、より高い圧力を発生させる速度の高速使用に対しては、十分に強くない。」(「発明の背景」欄を参照。)ことを従来技術として、「シュラウド付き遠心インペラは、到達容易な表面の大部分をストック材料に機械加工し、後方ハブ開口部を形成して、到達困難な表面がその開口部を通して機械加工できるようにすることによって、ストック材料から形成される。前方シュラウドは、機械加工プロセス中にブレードおよびシュラウドに剛性を与えるために、完成したシュラウドに必要とされるよりも厚い壁部で機械加工される。後方ハブが取り囲まれた後、前方シュラウドは、その最終厚みに機械加工される。取り囲まれた後方ハブを形成する前に、半完成したシュラウド付きインペラをその溶融温度近くまで加熱し、後方ハブエンクロージャを形成するために添加される材料との強い結合を確保する。」(「発明の概要」欄を参照。)ことが記載されているから、添加される材料としてろう材等の異なる金属合金を想定することは好ましくないことが記載されていると解釈できるものである。
また、甲2には、「シュラウド付きインペラを形成するために、材料のブロックが最初の機械加工に使用される。」(甲2第2欄41−42行、甲2の翻訳文第2ページ第20−21行)、「材料のブロックは、シュラウド付きインペラの前方側および後方側が、後方ハブが開いた状態14で可能な限り形成されるように、機械加工される」(甲2第2欄45−47行、甲2の翻訳文第2ページ第22−24行)と記載され、インペラやシュラウドを可能な限り、同じ材料ブロックで形成することが示されているから、甲2発明において、従来のろう付けに換えて、EBM(電子ビーム溶融)又はEBW(電子ビーム溶接)で後方ハブを形成する際には、機械加工される材料ブロックと同じ材質とすることしか想定されていないと解するべきである。
一方、本件発明5は、「堆積溶着中、金属合金材料がフライス加工されたブランク上に堆積させられ、これは前記ブランクの金属合金材料とは異なる」ことによって、本件明細書段落【0007】記載の「堆積溶着によって形成された部分に特に有利な材料特性を有するターボ機械インペラーを製造することができる」ことや、同じく【0008】記載の「堆積溶着によって形成された部分に関して、規定された様式で調整された材料特性を有するターボ機械インペラーを提供するのに役立つ。」との効果を奏するものである。
(エ)甲4及び甲6に、堆積操作において、堆積物が堆積される対象である物の材料と、堆積物の材料とが、異なる金属合金であることが記載され、また、「ターボ機械インペラーの材料が金属合金であること」や、「部品の異なる部分に対して有利な材料特性を利用」し、「異なる材料から部品を製造すること」が、「一般知識」であるとしても、甲2発明には、製造される工作物として単一の材質で形成されるものしか想定されていないというべきであることから、甲4あるいは甲6の記載事項や申立人のいう一般知識を適用して、本件発明5に至ることが容易であるとはいえない。
(オ)したがって、本件発明5は、甲2発明及び甲3発明に、甲4、甲6の記載事項、あるいは「一般知識」を組み合わせることで進歩性が欠如するとはいえない。

エ 小括
したがって、本件発明5は、甲2、甲3、甲4、及び甲6に記載された発明、及び「一般知識」に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2 特許法第36条第6項第2号の理由
(1)申立人は、申立ての理由において、請求項1に記載した「一体型モノシリック」に関し、「特徴Eによる用語『一体型モノリシックアセンブリ』の『一体型モノリシック』とは、いかなるものかが不明である。『モノリシック』という語は日本語では無いため、当該語を含むことで請求項1の発明が明確ではない。堆積および切削加工の分野において『モノリシック』が技術用語であるとは認められない。さらに、各部分がどの程度の強度で接合していれば『一体型モノリシック』なのか、モノリシックを辞書における『巨大な』と解釈すればどの程度の大きさのものを意味するのかが不明確である。」との特許法第36条第6項第2号の取消理由を述べている。

(2)「モノリシック」は、英語の「monolithic」を語源とすることは明らかであるところ、仮に、日本語の辞書に日本語としての「モノリシック」が掲載されていない場合には、英語の「monolithic」の意味を考慮して、日本語としての「モノリシック」の意味を解釈するほかない。
そして、申立人は日本語の辞書を示していないから、英語の「monolithic」を参照すると、英語の意味としては「一本石の(ような)、がっしりとかたまっている、一枚岩的な」というものであるから、「モノリシック」も同様に解するべきである。
(3)さらに、上記の英語の意味を前提に、本件明細書の発明の詳細な説明段落【0013】−【0016】、及び図1の記載内容を参酌すれば、ブランク10をフライス加工することで、同じブランクから、ハブ本体11a、シュラウド本体11b及び動翼11cが一体となって構成されていることを意味するものと解することができる。
(4)したがって、発明の詳細な説明を参酌することで、「一体型モノリシック」の意味を明確に理解できるから、申立人の主張は採用することができない。

第7 むすび
以上のとおり、本件発明1−4は、甲1及び甲3に記載された発明、又は甲2及び甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件請求項1−4に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件請求項1−4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
また、本件請求項5に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。

審判長 刈間 宏信
出訴期間として在外者に対し90日を附加する。
 
異議決定日 2021-12-08 
出願番号 P2019-511646
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (B23P)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 刈間 宏信
特許庁審判官 大山 健
田々井 正吾
登録日 2020-06-29 
登録番号 6725751
権利者 マン・エナジー・ソリューションズ・エスイー
発明の名称 ターボ機械インペラーを製造するための方法  
代理人 村山 靖彦  
代理人 阿部 達彦  
代理人 特許業務法人深見特許事務所  
代理人 実広 信哉  

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