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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  D06M
管理番号 1384058
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-01-28 
確定日 2022-01-14 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6733070号発明「抗菌特性を有する布地」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6733070号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜11〕、〔12〜15〕について訂正することを認める。 特許第6733070号の請求項1〜15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6733070号の請求項1〜15に係る特許(以下「本件特許」ということがある)についての出願は、2016年(平成28年)2月29日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2015年2月27日、2015年12月30日、欧州特許庁)を国際出願日とする特願2017−545552号の一部を新たな特許出願(特願2019−159304号)とし、さらにその一部を令和2年4月22日に新たな特許出願(以下「本件特許出願」という)としたもので、令和2年7月10日に特許権の設定の登録がされ、同年7月29日に特許掲載公報が発行された。
その後、令和3年1月28日に特許業務法人朝日奈特許事務所(以下「申立人」という)により、そのすべての請求項に係る特許について特許異議の申立てがされ、同年4月1日付けで取消理由が通知され、同年6月23日に特許権者より意見書及び訂正請求書が提出され、同年7月27日に申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の請求について
1 訂正の内容
令和3年6月23日提出の訂正請求書による訂正の請求は、「特許第6733070号の特許請求の範囲を本訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜15について訂正することを求める。」というものであり、その訂正(以下「本件訂正」という)の内容は以下のとおりである。なお、訂正箇所には当審で下線を付した。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み」と記載されているのを、「その液剤は、溶媒と、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み」に訂正する。(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜11の記載も同様に訂正する。)

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項12に「請求項1から11のいずれか一項のプロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、ASTM規格E 2149-10及び/又はAATCC試験法100-1999及び/又はAATCC試験法100-2012に従って測定した、大腸菌ATCC 25922及び/又は黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 4352及び/又はATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、24時間の接触時間内で、特に15分の接触時間内で、最も好ましくは5分の接触時間内で、99.9%以上となる、抗菌性布地材料。」とあるのを、請求項1の記載を引用するものについて、「布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、ASTM規格E 2149-10及び/又はAATCC試験法100-1999及び/又はAATCC試験法100-2012に従って測定した、大腸菌ATCC 25922及び/又は黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 4352及び/又はATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、24時間の接触時間内で、特に15分の接触時間内で、最も好ましくは5分の接触時間内で、99.9%以上となる、抗菌性布地材料。」に訂正する。(請求項12の記載を引用する請求項15の記載も同様に訂正する。)

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項13に「請求項1から11のいずれか一項のプロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、EPA 90072PA4プロトコルに従って試験した場合に、10分以内の連続再接種に続く交互の乾式及び湿式摩耗サイクルにおいて、25回の洗濯後に、黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又は大腸菌ATCC 11229及び/又は緑膿菌ATCC 15442及び/又はサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)ATCC 10708及び/又は黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC 33592及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、99%以上となる、抗菌性布地材料。」とあるのを、請求項1の記載を引用するものについて、「布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、EPA 90072PA4プロトコルに従って試験した場合に、10分以内の連続再接種に続く交互の乾式及び湿式摩耗サイクルにおいて、25回の洗濯後に、黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又は大腸菌ATCC 11229及び/又は緑膿菌ATCC 15442及び/又はサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)ATCC 10708及び/又は黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC 33592及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、99%以上となる、抗菌性布地材料。」に訂正する。(請求項13の記載を引用する請求項15の記載も同様に訂正する。)

(4)訂正事項4
許請求の範囲の請求項14に「請求項1から11のいずれか一項のプロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、24時間の試験期間内に水に曝露されたときの前記抗菌剤のそれぞれの浸出が5.0ppm以下となる、抗菌性布地材料。」とあるのを、請求項1の記載を引用するものについて、「布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、24時間の試験期間内に水に曝露されたときの前記抗菌剤のそれぞれの浸出が5.0ppm以下となる、抗菌性布地材料。」に訂正する。(請求項14の記載を引用する請求項15の記載も同様に訂正する。)

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項15に「エアフィルタ、水フィルタ、フェイスマスク、手袋、医療用ガウン、下着、靴下、医療用衣服、戦闘服、航空乗務員の制服、Tシャツ、寝具、ベッドシーツ、枕カバー、布団カバー、カーテン、子供服、学生服、バスタオル、足ふきマット、椅子張り、建築織地、テント又はオーニング、健康用具、フィットネス用マット、ボクシング用グローブ、犬用ベッド、包帯、又は失禁おむつ、キッチン布地又は製パン布地、タオル、エプロン、又はオーブン手袋から選択される製品であって、請求項1から11のいずれか一項のプロセスにより得られる布地材料又は請求項12から14のいずれか一項の抗菌性布地材料を含む、製品。」とあるのを、請求項12〜14の記載を引用するものについて、「エアフィルタ、水フィルタ、フェイスマスク、手袋、医療用ガウン、下着、靴下、医療用衣服、戦闘服、航空乗務員の制服、Tシャツ、寝具、ベッドシーツ、枕カバー、布団カバー、カーテン、子供服、学生服、バスタオル、足ふきマット、椅子張り、建築織地、テント又はオーニング、健康用具、フィットネス用マット、ボクシング用グローブ、犬用ベッド、包帯、又は失禁おむつ、キッチン布地又は製パン布地、タオル、エプロン、又はオーブン手袋から選択される製品であって、請求項12から14のいずれか一項の抗菌性布地材料を含む、製品。」に訂正する。

(6)一群の請求項、別の訂正単位とする求め
本件訂正前の請求項2〜15は、請求項1の記載を直接的に引用する関係にあり、これら請求項1〜15は、請求項1の記載によって連動して訂正されるものであるから、一群の請求項を構成している。
また、特許権者は、本件訂正後の請求項12〜15については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めている。

2 訂正の適否
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1において「液剤」の種類として択一的に記載されていたもののうち、「銀カチオン」を削除するもので、訂正事項1の目的は、「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
また、訂正事項1により発明のカテゴリー、対象、目的を変更するものではないから、訂正事項1は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

(2)訂正事項2〜5について
訂正事項2は、請求項12の記載について、そのうちの請求項1の記載を引用するものについて、独立形式に改めたものであるから、訂正事項2の目的は、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」に該当する。
訂正事項3も、請求項13の記載について、そのうちの請求項1の記載を引用するものについて、独立形式に改めたものであり、また、訂正事項4も、請求項14の記載について、そのうちの請求項1の記載を引用するものについて、独立形式に改めたものであるから、訂正事項3,4の目的は、「特許請求の範囲の減縮」及び「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」に該当する。
さらに、訂正事項5は、請求項15の記載について、請求項1〜11の記載を引用しないものとするものであるから、訂正事項4の目的は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」に該当する。
そして、訂正事項2〜5は、いずれも、それにより発明のカテゴリー、対象、目的を変更するものではないから実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、さらに、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内のものである。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正後の請求項1〜15について訂正することを認める。特許権者が本件訂正後の請求項12〜15についての訂正が認められる場合には一群の請求項の他の請求項とは別途訂正することを求めているところ、本件訂正後の請求項15の記載が請求項12〜14の記載のいずれかを択一的に引用するものであることから、本件訂正後の請求項12〜15からなる群を、一群の請求項として扱うこととする。

第3 本件特許発明
上記のとおり本件訂正を認めることができるので、本件特許の請求項1〜15に係る発明は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(これらの各発明を以下「本件発明1」のようにいう)。
「【請求項1】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、
プロセス。
【請求項2】
前記液剤は、45℃以上の温度を有する、請求項1のプロセス。
【請求項3】
前記液剤は、沸点よりも低い温度を有する、請求項1又は2のプロセス。
【請求項4】
前記吸尽プロセスの吸尽時間は120分以下である、請求項1から3のいずれか一項のプロセス。
【請求項5】
前記吸尽プロセスは、ジェット染色機、連続染色機、又はジガー内で行われる、請求項1から4のいずれか一項のプロセス。
【請求項6】
前記液剤は、6.9以下のpH値を有する、請求項1から5のいずれか一項のプロセス。
【請求項7】
前記液剤は、有機酸、クエン酸、酢酸、又はそれらの組合せを含む、請求項1から6のいずれか一項のプロセス。
【請求項8】
前記布地材料は、前記乾燥及び/又は前記キュアリング中に徐々に上昇する温度に曝される、請求項1から7のいずれか一項のプロセス。
【請求項9】
前記布地材料は、20%から60%の綿を含む、請求項1から8のいずれか一項のプロセス。
【請求項10】
前記布地材料は、40%から80%のポリエステルを含む、請求項1から9のいずれか一項のプロセス。
【請求項11】
前記キュアリングは、160℃以上のキュアリング温度で行われる、請求項1から10のいずれか一項のプロセス。
【請求項12】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、ASTM規格E 2149-10及び/又はAATCC試験法100-1999及び/又はAATCC試験法100-2012に従って測定した、大腸菌ATCC 25922及び/又は黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 4352及び/又はATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、24時間の接触時間内で、特に15分の接触時間内で、最も好ましくは5分の接触時間内で、99.9%以上となる、抗菌性布地材料。
【請求項13】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、EPA 90072PA4プロトコルに従って試験した場合に、10分以内の連続再接種に続く交互の乾式及び湿式摩耗サイクルにおいて、25回の洗濯後に、黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又は大腸菌ATCC 11229及び/又は緑膿菌ATCC 15442及び/又はサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)ATCC 10708及び/又は黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC 33592及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、99%以上となる、抗菌性布地材料。
【請求項14】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、24時間の試験期間内に水に曝露されたときの前記抗菌剤のそれぞれの浸出が5.0ppm以下となる、抗菌性布地材料。
【請求項15】
エアフィルタ、水フィルタ、フェイスマスク、手袋、医療用ガウン、下着、靴下、医療用衣服、戦闘服、航空乗務員の制服、Tシャツ、寝具、ベッドシーツ、枕カバー、布団カバー、カーテン、子供服、学生服、バスタオル、足ふきマット、椅子張り、建築織地、テント又はオーニング、健康用具、フィットネス用マット、ボクシング用グローブ、犬用ベッド、包帯、又は失禁おむつ、キッチン布地又は製パン布地、タオル、エプロン、又はオーブン手袋から選択される製品であって、請求項12から14のいずれか一項の抗菌性布地材料を含む、製品。」

第4 当審の判断
1 取消理由の概要
令和3年4月1日付けで通知した取消理由の概要は、以下のとおりである。
本件特許の請求項1〜4、6、7、9〜11に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内または外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
本件特許の請求項1〜11、15に係る発明は、本件特許出願の優先日前に日本国内又は外国において頒布された以下の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。

甲第2号証:国際公開第2010/143317号
甲第5号証:特開2010−90523号公報
(なお、各甲号証を「甲2」等という。)

2 特許権者に通知した取消理由についての判断
(1)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2には、以下の記載がある。
・「技術分野
[0001] 本発明は、繊維などの各種基材、特にポリエステル系繊維に対して抗菌性を付与するために好適に用いられる抗菌性組成物、この抗菌性組成物による抗菌性処理が施された抗菌性ポリエステル系繊維、及び前記抗菌性ポリエステル系繊維の製造方法に関する。
背景技術
[0002] 銀イオンが抗菌性や防かび性に優れていることは広く知られており、近年では、衛生上の観点から、この銀イオンを無機物質に担持させた抗菌剤(銀系抗菌剤)が開発されている(特許文献1参照)。特に、衣類などに用いられる繊維には、従来はアミン系の抗菌剤が広く使用されていたが、健康面に配慮して銀系抗菌剤が使用されるようになってきている。銀系抗菌剤を用いて繊維等の基材に抗菌処理を施す方法としては、銀系抗菌剤を水に分散させて得られる水系分散体を基材に付着させたり浸透させたりするなどの方法が考えられる。このような水系分散体を使用した抗菌処理は、労働安全性及び環境保全性に優れている。
[0003] しかし、銀系抗菌剤は水に分散しにくいため、水系分散体を用いた抗菌処理は容易ではないという問題がある。また、銀系抗菌剤を含有する水系分散体を用いた抗菌処理では、処理対象の基材等の黄変を引き起こすことがあるという問題もある。これは、銀系抗菌剤から銀イオンが溶出して、この銀イオンが関与する何らかの化学反応が引き起こされるためであると考えられる。
[0004] そこで、銀系抗菌剤にカップリング剤処理を施すことで、銀系抗菌剤の水分散性を向上すると共に銀イオンの溶出の防止を図ることも提案されている(特許文献2参照)。しかし、この場合でも、銀系抗菌剤が高温高圧下に曝された場合には、黄変の発生を充分に抑制することができないという問題がある。例えばポリエステル系繊維等の繊維に染色を施す場合には、吸尽染色法などにより高温高圧下で染色処理を施すことがあるが、この場合は繊維に銀系抗菌剤による抗菌処理を施していると、繊維に黄変が生じてしまうことがある。」
・「発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明は上記の点に鑑みてなされたものであり、水分散性が良好であり、且つ、抗菌処理が施される基材等の黄変の発生を著しく抑制することができる抗菌性組成物、この抗菌性組成物による抗菌性処理が施された抗菌性ポリエステル系繊維、及び前記抗菌性ポリエステル系繊維の製造方法を提供することを目的とする。
課題を解決するための手段
[0007] 本発明に係る抗菌性組成物は、カルボン酸成分としてテレフタル酸成分及びイソフタル酸成分のうち少なくとも一方を含むと共にグリコール成分として少なくともポリアルキレングリコールを含む重合性成分が反応してなるポリエステル樹脂と、銀系抗菌剤とを含有することを特徴とする。」
・「[0051] 〔実施例1〕
反応器に、ジメチルテレフタル酸124.3部、イソフタル酸59.8部、エチレングリコール127.0部、ポリエチレングリコール(数平均分子量Mn=3300)834.0部、及び触媒としてシュウ酸チタンカリウム0.1部を加え、常圧、窒素雰囲気中で攪拌混合しながら200℃に昇温した。次に、4時間かけて反応温度を250℃にまで徐々に昇温しエステル交換反応を終了させた。その後、銀系抗菌剤(バクテキラーBM−102NS(SB)、富士ケミカル株式会社製)を反応系内に投入し、250℃で徐々に減圧し250℃、0.67hPa(0.5mmHg)の条件下で1時間重縮合反応を進行させ、抗菌性組成物を得た。
[0052] この抗菌性組成物中のポリエステル樹脂に対する、上記使用したポリアルキレングリコールの割合、並びに抗菌性組成物に対する銀系抗菌剤の含有量の比率は、表1に示すとおりである。
[0053] この抗菌性組成物15部及び水85部を溶解槽に加え攪拌下、温度80〜95℃で2時間かけて分散させ、抗菌性組成物の15%水系分散体を得た。」
・「[0104] 〔評価試験〕
各実施例及び比較例につき、次の評価試験をおこなった。その評価結果は表1,2に示す。
・・・・・
[0106] (2)試験布の作製
各実施例・比較例で得られた水系分散体に、着色剤(スミカロンレッド、住友化学株式会社製)を0.3g/L、均染剤(ニッカサンソルトRM−340、日華化学株式会社製)を0.5g/Lの各濃度になるように配合し、更に酢酸を加えてpHを3〜4の範囲に調整した。
[0107] このように調製された着色剤を含有する水系分散体を用い、ポリエステルトロピカル布およびポリエステル繊維/綿(=65/35)混紡布を、吸尽法(130℃×30分、浴比20:1、4%o.w.f.)にて処理した後、水洗し、更に105℃で5分間乾燥させ、170℃で1分間キュア処理したものを試験布とした。」
・「[0118] (8)抗菌性試験
上記洗濯処理が施されてない試験布(HL=0)及び30サイクルの洗濯処理が施された後の試験布(HL=30)のそれぞれについて、抗菌性試験(JIS L−1902(2002)に規定される定量試験、菌液吸収法)に準拠して静菌活性値を測定した。
[0119] その結果、静菌活性値が2.0以上の場合を「○」、2.0未満の場合を「×」と評価した。」
・「[0122][表1]


イ 甲2に記載された発明
上記アの記載事項、とりわけその実施例1の記載([0051]〜[0053])及び評価試験に係る記載(特に[0106]、[0107]、[0118]、[0119])に着目すると、甲2には、次の発明(以下「引用発明1」という)が記載されている。
「銀系抗菌剤(バクテキラーBM−102NS(SB)、富士ケミカル株式会社製)を含む抗菌性組成物15部及び水85部からなる水系分散体に、着色剤、均染剤を配合し、更に酢酸を加えてpHを3〜4の範囲に調整した水系分散体を用い、ポリエステル繊維/綿(=65/35)混紡布を、吸尽法(130℃×30分、浴比20:1、4%o.w.f.)にて処理した後、水洗し、更に105℃で5分間乾燥させ、170℃で1分間キュア処理する方法。」
また、甲2には、引用発明1の方法により得られたポリエステル繊維/綿(=65/35)混紡布に係る次の発明(以下「引用発明2」という)も記載されている。
「引用発明1の方法により得られたポリエステル繊維/綿(=65/35)混紡布。」

(2)甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
・「【技術分野】
【0001】
本発明は親水置換基を有するジハロゲノトリアジン系化合物・多価アミノ化合物並び親水性(以下、水系と記す)性を有する天然有機系あるいは有機系の抗菌防臭・制菌剤を共存させ繊維構造物に含浸させたのち、熱処理工程を実施することにより繊維構造物に耐久性のある抗菌防臭・制菌性能を付与、向上させるものである。より具体的には親水置換基を有するジハロゲノトリアジン系化合物・多価アミノ化合物並び水系の天然有機系・有機系あるいは有機系の抗菌防臭・制菌剤を共存させ繊維構造物に含浸させたのち「浴中吸尽法」及び「パッドドライ法」でアルカリ浴に酸結合剤を用いて調液した後、30℃〜90℃の熱処理を付し、該構造物に耐久性のある抗菌防臭・制菌性能を付与させ、該繊維構造物の市場を拡大させる、抗菌防臭・制菌加工方法である。」
・「【0013】
有機シリコーン系第四級アンモニウム塩のトリメトキシル基と繊維表面の水酸基との間で、脱アルコール反応を実施して抗菌剤を繊維表面に固着化させる加工法である。この加工法と反応システムの概要を説明する。有機シリコーン系第四級アンモニウム塩を浸漬法やパッド法を用いて繊維表面に被膜化を実施する。この段階で抗菌剤分子が水に微分散してトリメトキシル基が分解して、80℃〜120℃で乾燥する行程で繊維表面の水酸基と酸素原子が、脱アルコール反応で置換反応を実施すると同時に反応樹脂がクラフト重合して抗菌剤が熱固着する加工方法である。」
・「【0027】
繊維構造物を、前記化合物を共存させた水溶液に含浸させた後30℃〜90℃で熱処理することを特徴とするものである。」
・「【0032】
「浴中吸尽法」は昇温熱処理を用いて浴液温度30℃〜90℃までの加工を実施する。加工機として液流染色機・ウインス染色機・ジッカー染色機並びワッシャー染色機などがあり反応染色を実施する場合とよく似た条件で加工することが出来る。30℃〜60℃までの20分間〜30分間かけて徐々に昇温、60℃〜90℃の処理温度の時間は30分間〜60分間が好ましい。徐々にとは、急激かつ均一に昇温すると親水性の置換基を有するジハロゲノトリアジン系化合物が加水分解や凝集を引き起こしたり多価アミノ化合物並び水系の天然有機系あるいは有機系の抗菌・制菌加工剤が重合結合を実施して繊維製品への(H)ハロゲン部位に有効に共有結合を実施しない。より具体的には昇温温度は1.5℃/分以下である事が好ましい。」
・「【発明の効果】
【0038】
本発明の製造方法によって得られる、繊維製品の抗菌防臭・制菌加工方法は今後環境問題や健康問題で使用禁止が予想される合成樹脂や有機シリコーン系第四級アンモニウム塩を用いる化工方法と比較して合成樹脂、有機溶剤やホルマリン等の有害な薬剤を使用することなく安全で生体適合性及び環境適合性に優れた安価な加工薬剤であること、合成樹脂加工による莫大なエネルギーを使用することなく、省エネルギーを達成し二酸化炭素や窒素酸化物の削減にも寄与し熱による作業環境の悪化を防ぐ点にありこれらのことから新規の設備を設置することなく遊休設備を活用できるなど優れた経済性のもとで従来は規制・制約が多かった衣料分野のみならず、寝装用品・医療分野にまで繊維製品の用途を広く拡大できる、抗菌防臭・制菌加工方法である。
【0039】
具体的には、カジュアル衣料・ユニホームなどの一般衣料、枕・布団・シーツなどの寝装分野、ドクターコート・ナースコート・介護用エプロンなどの医療分野、靴下・ショーツ・ランジェリー・ファンデーションなどの下着用途・皮革製品などに使用できる。」
・「【0065】
「糖質」
キトサン・ヒドロキシプロピルキトサン・架橋キトサン・キトサン有機酸塩・キトサ微粉末(ポリグルコサミン)・キチン繊維・キチン」

(3)本件発明1について
ア 対比
本件発明1を引用発明1と対比する。
引用発明1(以下「後者」ということがある)の「ポリエステル繊維/綿(=65/35)混紡布」は、本件発明1(以下「前者」ということがある)の「布地材料」に相当するから、後者での「ポリエステル繊維/綿(=65/35)混紡布を、吸尽法(130℃×30分、浴比20:1、4%o.w.f.)にて処理」することは、前者での「吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理」することに相当する。
後者の「水系分散体」は、前者の「液剤」に相当する。後者の「銀系抗菌剤(バクテキラーBM−102NS(SB)、富士ケミカル株式会社製)を含む抗菌性組成物15部及び水85部からなる水系分散体」は、本件発明1の「第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤」と「抗菌剤」という限りで一致する。また、後者の「水系分散体」が「溶媒」を含むものであることは自明である
後者の「105℃で5分間乾燥」させることは、前者の「布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ」ることに相当し、また、後者の「170℃で1分間キュア処理」することは、前者の「150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする」ことに含まれている。
そして、後者による「ポリエステル繊維/綿(=65/35)混紡布」に抗菌性が付与されることが確認されているから(前記(1)アで摘記した[0122]で実施例1の抗菌性がHL=0でもHL=30でも「○」とされていることを参照)、後者は、前者でいう「布地材料に抗菌性を付与するプロセス」であるといえる。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点1>
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、
プロセス。
<相違点1>
抗菌剤が、本件発明1では「第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤」であるのに対して、引用発明1では「銀系抗菌剤(バクテキラーBM−102NS(SB)、富士ケミカル株式会社製)」である点。
イ この相違点は、抗菌剤という薬剤についての相違点であり、実質的なものであって形式的なものではないから、本件発明1は引用発明1ではない。
したがって、本件発明1は、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
ウ また、甲2の記載事項(前記(1)ア参照)からすると、引用発明1は、あくまで銀系抗菌剤の採用を念頭に置いたものというべきである。そうすると、甲5をはじめ他の証拠を考慮に入れても、引用発明1において、敢えて銀系抗菌剤に代えて「第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤」を採用することの動機付けは見当たらない。
申立人は、意見書において、他の証拠を用いて本件発明1の抗菌剤に含まれる抗菌剤が周知であったことを指摘するが、上記したように、周知であるとしても他の抗菌剤を用いることの動機付けは見当たらないのであるから、当業者が引用発明1において相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を容易に採用し得たとすることの根拠にはならない。
また、申立人は、引用発明1において甲1や甲5に記載の水溶性の第4級アンモニウム塩を併用することが当業者にとって困難なことではないとも指摘する。しかし、そもそも抗菌剤として銀系のものでない水溶性のものを用いてもよいのであるなら、わざわざ水溶性の観点で問題があるとされる銀系のものを用いる必然性がなくなり、引用発明1に基づいて考える限り、そのようなことが当業者にとって容易に想到し得ることとはいえない。
そうすると、申立人の指摘にかかわらず、相違点1に係る本件発明1の発明特定事項は、引用発明1において当業者が容易に採用し得たものとはいえない。
したがって、本件発明1は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明し得たものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。

(4)本件発明2〜11について
これら本件発明2〜11は、いずれも、本件発明1の発明特定事項を全て含んだものであるから、本件発明1と対比すると、少なくとも本件発明1と引用発明1を対比したときの相違点1で相違するものである。
そうすると、本件発明2〜11は、引用発明1ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明2〜11は、引用発明1に基づいて当業者が容易に発明し得たものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。

(5)本件発明15について
ア 本件発明15は、請求項12〜14のいずれか一項の抗菌性布地材料を含むものであるところ、本件発明15を引用発明2と対比すると、本件発明1と引用発明1の対比(上記「(3)ア」参照)を踏まえれば、引用発明2が備える「銀系抗菌剤(バクテキラーBM−102NS(SB)、富士ケミカル株式会社製)」は、本件発明15の「銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤」に含まれるから、本件発明15と引用発明2は以下の一致点2で一致し、本件発明12を引用する本件発明15は以下の相違点2で、本件発明13を引用する本件発明15は以下の相違点3で、本件発明14を引用する本件発明15は以下の相違点4で、それぞれ相違する。
<一致点2>
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料。
<相違点2(本件発明12を引用する本件発明15)>
本件発明15は、ASTM規格E 2149-10及び/又はAATCC試験法100-1999及び/又はAATCC試験法100-2012に従って測定した、大腸菌ATCC 25922及び/又は黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 4352及び/又はATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、24時間の接触時間内で、特に15分の接触時間内で、最も好ましくは5分の接触時間内で、99.9%以上となるものに特定されているのに対して、引用発明2では、それらの菌の減少につき明らかでない点。
<相違点3(本件発明13を引用する本件発明15)>
本件発明15は、EPA 90072PA4プロトコルに従って試験した場合に、10分以内の連続再接種に続く交互の乾式及び湿式摩耗サイクルにおいて、25回の洗濯後に、黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又は大腸菌ATCC 11229及び/又は緑膿菌ATCC 15442及び/又はサルモネラ・エンテリカ(Salmonella enterica)ATCC 10708及び/又は黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC 33592及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、99%以上となるものに特定されているのに対して、引用発明2では、それらの菌の減少につき明らかでない点。
<相違点4(本件発明14を引用する本件発明15)>
本件発明15は、24時間の試験期間内に水に曝露されたときの抗菌剤のそれぞれの浸出が5.0ppm以下となるものに特定されているのに対して、引用発明2では、抗菌剤の浸出の度合いは明らかでない点。
イ 甲2には、相違点2及び3で特定される菌に対する抗菌性、相違点4で特定される抗菌剤の浸出の度合いについて、記載も示唆もされておらず、相違点2〜4は、いずれも実質的な相違点である。
また、本件発明15の相違点2〜4に係る各構成について、記載あるいは示唆する証拠は提出されていないから、本件発明15の相違点2〜4に係る各構成は、当業者が容易に想到し得たものでもない。
ウ そうすると、本件発明15は、引用発明2ではなく、特許法第29条第1項第3号に該当しない。
また、本件発明15は、引用発明2に基づいて当業者が容易に発明し得たものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立人は、上記甲2、甲5の他、以下の証拠を提出し、甲1に基づく進歩性、甲8に基づく進歩性の理由を申立てているが、いずれも理由がなく、採用できない。
甲1:国際公開第2013/047642号
甲3:特許第4558934号公報
甲4:国際公開第2012/049978号
甲6:特開2009−120549号公報
甲7:国際公開第2005/054566号(特表2007−513262号公報)
甲8:特開昭57−51874号公報

(2)甲1に基づく進歩性
ア 甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という)が記載されている。
「カルボキシル基を有するバインダーを含有する80℃〜140℃の溶液中に、布帛を浸漬し、マングル等で絞った後に加熱乾燥し、布帛にバインダーを付着させ、続いて、当該布帛をエトキシシラン系第4級アンモニウム塩を含む所望濃度の抗菌剤に浸漬し、マングル等で絞った後に加熱乾燥処理を行って、抗菌剤を固定化する方法。」
イ 本件発明1を甲1発明と対比する。
甲1発明(以下「後者」ということがある)の「布帛」は、本件発明1(以下「前者」ということがある)の「布地材料」に相当する。
後者の「エトキシシラン系第4級アンモニウム塩」は、前者の「第4級アンモニウムオルガノシラン化合物」に相当するから、それはまた、前者の「第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤」に含まれる。
後者の「抗菌剤」は、「エトキシシラン系第4級アンモニウム塩」が所定濃度とされたものであるから、前者でいう「液剤」に相当し、また、それが後者でいう「溶媒」を含んだものであることは明らかである。
後者の「加熱乾燥処理を行って」は、前者の「前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ」に相当する。申立人は、令和3年7月27日付け意見書において「甲第1号証には、100〜190℃のキュアリング温度でキュアリングすることが開示されている。」(「<構成要件1A〜構成要件1Cについて>」)と述べるが、それは甲1発明におけるこの「加熱乾燥処理」を指すものと理解されるので、参酌できない。
後者でいう「抗菌剤を固定化する方法」は、前者でいう「布地材料に抗菌性を付与するプロセス」に相当する。
以上を踏まえると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点3>
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物からなる抗菌剤を含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させる、
プロセス。
<相違点5>
布地材料を乾燥して当該布地材料中の水分を蒸発させた後に、本件発明1では、「150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする」のに対して、甲1発明では、そのようなことが行われていない点。
ウ 上記相違点5について検討する。
甲1発明によれば、エトキシシラン系第4級アンモニウム塩を用いた抗菌処理をした後、加熱乾燥処理を行うことで所望の布帛が得られると理解される。
ここで、甲2には、試験布の作成に関し、105℃で5分間乾燥させ、170℃で1分間キュア処理することが記載され、甲4には、抗菌加工薬剤を繊維材料に付与する方法に関し、乾燥を行い、必要に応じてキュアリングを行うことが記載され、また、甲7には、繊維を組成物と接触させた後、過剰の液体を除去し、次に好ましくは100〜180℃の範囲の温度の硬化段階により自己架橋性樹脂を架橋させることが記載されている。これら甲2、甲4、甲7によれば、布地材料に抗菌処理を施した際に水分を減少させてから加熱処理を行うことが把握される。
しかし、甲1発明自体は、バインダーを用いることで抗菌剤の固定を促進しようというものであって、甲1発明に接したときに、加熱乾燥処理が終了した後に更に加熱する工程を追加しようとする誘因はない。さらに甲2、甲4、甲7を考慮しても、甲1発明において“布地材料を乾燥して当該布地材料中の水分を蒸発させた後に、更に「150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする」工程を加えることを積極的に動機付ける要素は見当たらない。
そして、本件発明1は、「布地材料を乾燥して当該布地材料中の水分を蒸発させた後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする」という発明特定事項を備えたことによって、本件特許の明細書及び図面に種々の試験結果としてまとめられているものから理解できるように、その後の抗菌剤の浸出、菌・胞子の減少度につき格別の効果をもたらすものである。
そうすると、相違点5に係る本件発明1の発明特定事項は、甲1発明において当業者が容易に採用し得たものとはいえない。
エ したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。
本件発明2〜15についても、上記と同様の理由で、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。

(3)甲8に基づく進歩性
ア 甲8には、次の発明(以下「甲8発明」という)が記載されている。
「タフテッドカーペットを、カチオン染料、酸性染料、分散染料の3種を使ってウィンス染色機にて染色後、下記式

で示されるオルガノシリコーン第四級アンモニウム塩の0.21重量%濃度(対パイル繊維重量)の水溶液に70℃で20分浸漬して前記化合物を吸尽させたのち、脱水乾燥し、更にテフロンC−SF(デュポン社製フッ素系防汚剤)をパイル繊維重量に対し0.2%スプレーし、130℃で15分間乾燥して抗菌性カーペットを得る方法。」
イ 本件発明1を甲8発明と対比する。
甲8発明(以下「後者」ということがある)の「タフテッドカーペット」は、本件発明1(以下「前者」ということがある)の「布地材料」に相当する。
後者の「式

で示されるオルガノシリコーン第四級アンモニウム塩」は、前者の「第4級アンモニウムオルガノシラン化合物」に相当するから、それはまた、前者の「第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤」に含まれる。
後者の「水溶液」は、前者の「液剤」に相当し、また、それが後者でいう「溶媒」を含んだものであることは明らかである。
後者の「130℃で15分間乾燥して」は、前者の「前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ」に相当する。
後者でいう「抗菌性カーペットを得る方法」は、前者でいう「布地材料に抗菌性を付与するプロセス」に相当する。
以上を踏まえると、両発明の一致点及び相違点は、次のとおりである。
<一致点4>
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物からなる抗菌剤を含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させる、
プロセス。
<相違点6>
本件発明1では、「前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする」のに対して、甲8発明では、そのようなことが行われていない点。
ウ 上記相違点6について検討する。
甲8発明に接したときに、130℃で15分間の乾燥が終了した後にことさら加熱する工程を追加しようとする誘因は見当たらないから、既に「3(2)ウ」で述べたと同様に、相違点6に係る本件発明1の発明特定事項は、甲8発明において当業者が容易に採用し得たものとはいえない。
エ したがって、本件発明1は、甲8発明に基づいて当業者が容易に発明し得たものではなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。
本件発明2〜15についても、上記と同様の理由で、特許法第29条第2項の規定により特許を受けられないものではない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、本件発明1〜15に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナソール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、
プロセス。
【請求項2】
前記液剤は、45℃以上の温度を有する、請求項1のプロセス。
【請求項3】
前記液剤は、沸点よりも低い温度を有する、請求項1又は2のプロセス。
【請求項4】
前記吸尽プロセスの吸尽時間は120分以下である、請求項1から3のいずれか一項のプロセス。
【請求項5】
前記吸尽プロセスは、ジェット染色機、連続染色機、又はジガー内で行われる、請求項1から4のいずれか一項のプロセス。
【請求項6】
前記液剤は、6.9以下のpH値を有する、請求項1から5のいずれか一項のプロセス。
【請求項7】
前記液剤は、有機酸、クエン酸、酢酸、又はそれらの組合せを含む、請求項1から6のいずれか一項のプロセス。
【請求項8】
前記布地材料は、前記乾燥及び/又は前記キュアリング中に徐々に上昇する温度に曝される、請求項1から7のいずれか一項のプロセス。
【請求項9】
前記布地材料は、20%から60%の綿を含む、請求項1から8のいずれか一項のプロセス。
【請求項10】
前記布地材料は、40%から80%のポリエステルを含む、請求項1から9のいずれか一項のプロセス。
【請求項11】
前記キュアリングは、160℃以上のキュアリング温度で行われる、請求項1から10のいずれか一項のプロセス。
【請求項12】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナソール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、ASTM規格E 2149−10及び/又はAATCC試験法100−1999及び/又はAATCC試験法100−2012に従って測定した、大腸菌ATCC 25922及び/又は黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 4352及び/又はATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、24時間の接触時間内で、特に15分の接触時間内で、最も好ましくは5分の接触時間内で、99.9%以上となる、抗菌性布地材料。
【請求項13】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205で以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、EPA 90072PA4プロトコルに従って試験した場合に、10分以内の連続再接種に続く交互の乾式及び湿式摩耗サイクルにおいて、25回の洗濯後に、黄色ブドウ球菌ATCC 6538及び/又はATCC 43300及び/又は大腸菌ATCC 11229及び/又は緑膿菌ATCC 15442及び/又はサルモネラ・エンテリカ(Salmonellaenterica)ATCC 10708及び/又は黄色ブドウ球菌(MRSA)ATCC 33592及び/又はATCC 43300及び/又はクレブシエラ・ニューモニエATCC 13883及び/又はコレラ菌ATCC 14035及び/又はクロストリジウム・ディフィシレATCC 43598胞子の減少値が、99%以上となる、抗菌性布地材料。
【請求項14】
布地材料に抗菌性を付与するプロセスであって、
吸尽プロセスを用いて前記布地材料を処理し、その液剤は、溶媒と、銀カチオン、第4級アンモニウムオルガノシラン化合物、ポリグルコサミン、プロピコナゾール、及びポリヘキサメチレンビグアニドからなる群から選択される1つ以上の抗菌剤とを含み、
前記布地材料を乾燥して前記布地材料中の水分を蒸発させ、前記乾燥により前記布地材料中の前記水分が蒸発した後に、150℃以上205℃以下のキュアリング温度でキュアリングする、プロセスにより得られる抗菌性布地材料であって、24時間の試験期間内に水に曝露されたときの前記抗菌剤のそれぞれの浸出が5.0ppm以下となる、抗菌性布地材料。
【請求項15】
エアフィルタ、水フィルタ、フェイスマスク、手袋、医療用ガウン、下着、靴下、医療用衣服、戦闘服、航空乗務員の制服、Tシャツ、寝具、ベッドシーツ、枕カバー、布団カバー、カーテン、子供服、学生服、バスタオル、足ふきマット、椅子張り、建築織地、テント又はオーニング、健康用具、フィットネス用マット、ボクシング用グローブ、犬用ベッド、包帯、又は失禁おむつ、キッチン布地又は製パン布地、タオル、エプロン、又はオーブン手袋から選択される製品であって、請求項12から14のいずれか一項の抗菌性布地材料を含む、製品。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-04 
出願番号 P2020-076257
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (D06M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 久保 克彦
特許庁審判官 井上 茂夫
矢澤 周一郎
登録日 2020-07-10 
登録番号 6733070
権利者 リヴィンガード エージー
発明の名称 抗菌特性を有する布地  
代理人 森 友宏  
代理人 森 友宏  

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