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審決分類 |
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 G03F 審判 全部申し立て 2項進歩性 G03F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 G03F 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 G03F |
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管理番号 | 1384061 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-01-29 |
確定日 | 2022-01-12 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6733266号発明「感光性樹脂組成物、感光性樹脂フィルム、硬化物の製造方法、積層体、及び電子部品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6733266号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕、〔8−17〕について訂正することを認める。 特許第6733266号の請求項1ないし6、8ないし17に係る特許を維持する。 特許第6733266号の請求項7に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続等の経緯 特許第6733266号の請求項1〜請求項17に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願(特願2016−72451号、以下「本件出願」という。)は、平成28年3月31日の出願であって、令和2年7月13日に特許権の設定の登録がされたものである。 本件特許について、令和2年7月29日に特許掲載公報が発行されたところ、発行の日から6月以内である令和3年1月29日に、本件特許のうち請求項1〜請求項17に係 る特許に対して、特許異議申立人 松井 伸一(以下「特許異議申立人」という。)から、特許異議の申立てがされた。 その後の手続等の概要は、以下のとおりである。 令和3年4月30日付け:取消理由通知書 令和3年7月 9日付け:訂正請求書 令和3年7月 9日付け:意見書(特許権者) なお、令和3年7月9付けの訂正請求書及び意見書に対して、特許法第120条の5第5項の規定により、特許異議申立人に対して期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からの応答はなかった。 第2 本件訂正請求について 令和3年7月9日付け訂正請求書による訂正の請求を、以下「本件訂正請求」という。 1 訂正の趣旨 本件訂正請求の趣旨は、特許第6733266号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜17について訂正することを求める、というものである。 2 訂正の内容 本件訂正請求において特許権者が求める訂正の内容は、以下のとおりである。なお、下線は訂正箇所を示す。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲第1項に「(A)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体と、(B)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体と、(C)成分:炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物と、(D)成分:光重合開始剤と、を含有し、 前記(C)成分が、脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し、 前記(D)成分が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有する、」と記載されているのを、 「(A)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体と、(B)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体と、(C)成分:炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物と、(D)成分:光重合開始剤と、を含有し、 前記(C)成分が、脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し、 前記(D)成分が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有し、前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であり、 前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり、 前記(C)成分が、光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物である、」に訂正する(本件訂正請求による訂正後の請求項2〜請求項17についても、同様に訂正する。)。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項8に「請求項1〜7のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1〜6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項9に「請求項1〜8のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1〜6及び8のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項10に「請求項1〜9のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1〜6、8及び9のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項11に「請求項1〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」に訂正する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項12に「請求項1〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」に訂正する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項15に「請求項1〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」に訂正する。 (9)訂正事項9 特許請求の範囲の請求項17に「請求項1〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」と記載されているのを、 「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物」に訂正する。 (10)本件訂正請求は、一群の請求項である、請求項1〜請求項17を対象として請求されたものである。 3 訂正の適否 (1)訂正事項1について ア 訂正の目的 訂正事項1による訂正は、請求項1の[A]「高分子量体」及び「低分子量体」の「重量平均分子量」を、それぞれ「2000以上」及び「2000未満」という数値範囲内に限定し、[B]「(C)成分」について、新たに「光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物である」と限定するものである。 そして、これは、請求項1を引用する請求項2〜請求項17についてみても同様である。 そうしてみると、訂正事項1による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 イ 新規事項 訂正事項1による訂正のうち、上記[A]は、本件特許明細書の「『高分子量体』とは、重量平均分子量2,000以上である化合物を意味する。」(【0014】)及び「『低分子量体』とは、重量平均分子量2,000未満である化合物を意味する。」【0044】との記載に基づくものである。また、上記[B]は、本件特許明細書の「(C)成分の光重合性化合物に含まれる光重合性官能基の総数(官能基数)は、パターン形成性、底部細り現象抑制性能、耐熱性向上の観点から、一分子中に、1〜12、また、得られる硬化物の物性及び特性を安定化させる観点から、2〜6、2〜4、または、2〜3から適宜選択すればよい。」(【0058】)との記載に基づくものである。 以上勘案すると、訂正事項1による訂正は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者によって、願書に添付した明細書、特許請求の範囲及び図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入するものではない。 したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものである。 ウ 拡張又は変更 上記アで述べた訂正の内容からみて、訂正事項1による訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならない。 したがって、訂正事項1による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2について 訂正事項2による訂正は、訂正前の請求項7を削除するものである。 したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、訂正事項2による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項2による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (3)訂正事項3について 訂正事項3による訂正は、訂正前の請求項7を削除するという訂正事項2による訂正にともなって、訂正前の請求項8が引用していた請求項の範囲を、「請求項1〜7のいずれか1項」から「請求項1〜6のいずれか1項」へと限定するものである。 したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、上記訂正内容からみて、訂正事項3による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項3による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない (4)訂正事項4について 訂正事項4による訂正は、訂正前の請求項7を削除するという訂正事項2による訂正にともなって、訂正前の請求項9が引用していた請求項の範囲を、「請求項1〜8のいずれか1項」から「請求項1〜6及び8のいずれか1項」へと限定するものである。 したがって、訂正事項4による訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、上記訂正内容からみて、訂正事項4による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項4による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない (5)訂正事項5について 訂正事項5による訂正は、訂正前の請求項7を削除するという訂正事項2による訂正にともなって、訂正前の請求項10が引用していた請求項の範囲を、「請求項1〜9のいずれか1項」から「請求項1〜6、8及び9のいずれか1項」へと限定するものである。 したがって、訂正事項5による訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、上記訂正内容からみて、訂正事項5による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項5による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない (6)訂正事項6について 訂正事項6による訂正は、訂正前の請求項7を削除するという訂正事項2による訂正にともなって、訂正前の請求項11が引用していた請求項の範囲を、「請求項1〜10のいずれか1項」から「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項」へと限定するものである。 したがって、訂正事項6による訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、上記訂正内容からみて、訂正事項6による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項6による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない (7)訂正事項7について 訂正事項7による訂正は、訂正前の請求項7を削除するという訂正事項2による訂正にともなって、訂正前の請求項12が引用していた請求項の範囲を、「請求項1〜10のいずれか1項」から「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項」へと限定するものである。 したがって、訂正事項7よる訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、上記訂正内容からみて、訂正事項7による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項7による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない (8)訂正事項8について 訂正事項8による訂正は、訂正前の請求項7を削除するという訂正事項2による訂正にともなって、訂正前の請求項15が引用していた請求項の範囲を、「請求項1〜10のいずれか1項」から「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項」へと限定するものである。 したがって、訂正事項8による訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、上記訂正内容からみて、訂正事項8による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項8による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない (9)訂正事項9について 訂正事項9による訂正は、訂正前の請求項7を削除するという訂正事項2による訂正にともなって、訂正前の請求項17が引用していた請求項の範囲を、「請求項1〜10のいずれか1項」から「請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項」へと限定するものである。 したがって、訂正事項9による訂正は、特許法第120条の5ただし書1号に掲げる事項(特許請求の範囲の減縮)を目的とするものである。 そして、上記訂正内容からみて、訂正事項9による訂正が、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内でしたものであって、この訂正により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないこととされた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることにはならないことは明らかである。 そうしてみると、訂正事項9による訂正は、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない 4 まとめ 以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法120条の5第2項ただし書、同法同条9項において準用する同法126条5項及び6項の規定に適合する。 よって、結論に記載のとおり、特許第6733266号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−6〕、〔8−17〕について訂正することを認める。 第3 本件特許発明 上記「第2」のとおり、本件訂正請求による訂正は認められたから、本件特許の請求項1〜請求項6及び請求項8〜請求項17に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」などといい、総称して「本件特許発明」という。)は、本件訂正請求による訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜請求項6及び請求項8〜請求項17に記載された事項によって特定されるとおりの、次のものである。 なお、本件訂正請求により請求項7は削除されている。 「【請求項1】 (A)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体と、(B)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体と、(C)成分:炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物と、(D)成分:光重合開始剤と、を含有し、 前記(C)成分が、脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し、 前記(D)成分が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有し、 前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であり、 前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり、 前記(C)成分が、光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物である、感光性樹脂組成物。 【請求項2】 前記(A)成分が、光重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する高分子量体を含有する、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項3】 前記(A)成分が、炭素−窒素結合としてウレタン結合を有する高分子量体を含有する、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項4】 前記(A)成分が、鎖状炭化水素骨格、脂環式骨格、及び芳香環骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格を有する高分子量体を含有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項5】 前記(B)成分が、光重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する低分子量体を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項6】 前記(B)成分が、炭素−窒素結合としてウレタン結合を有する低分子量体を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。」 「【請求項8】 (A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の含有量が、感光性樹脂組成物中の固形分全量を基準として、各々10〜95質量%、3〜70質量%、1〜30質量%、及び0.05〜20質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項9】 更に、(E)成分:熱ラジカル重合開始剤を含有する、請求項1〜6及び8のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項10】 厚み50μmにおける波長365nmの光に対する吸光度が、0.35以下である請求項1〜6、8及び9のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項11】 請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物を用いた感光層を有する、感光性樹脂フィルム。 【請求項12】 基板上に請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物、又は、請求項11に記載の感光性樹脂フィルムを用いて感光層を設ける工程、該感光層の少なくとも一部に活性光線を照射して、光硬化部を形成する工程、及び、該感光層の光硬化部以外の少なくとも一部を除去し、樹脂パターンを形成する工程、を順に有する、硬化物の製造方法。 【請求項13】 更に、前記樹脂パターンを加熱処理する工程を有する、請求項12に記載の硬化物の製造方法。 【請求項14】 前記樹脂パターンの厚みが、70μm以上300μm以下である、請求項12又は13に記載の硬化物の製造方法。 【請求項15】 請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を備える積層体。 【請求項16】 前記硬化物の厚みが、70μm以上300μm以下である、請求項15に記載の積層体。 【請求項17】 請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を備える電子部品。」 第4 取消しの理由及び証拠 1 取消しの理由 令和3年4月30日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由は、次のものである。 理由1:(新規性、進歩性)本件特許の請求項1〜5、7、8、10〜11、15〜17に係る発明は、その出願前(以下「本件出願前」という。)に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法29条1項3号に該当し、特許を受けることができない。また、本件特許の請求項1〜5、7、8、10〜11、15〜17に係る発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基づいて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法29条2項の規定により特許を受けることができない。 したがって、本件特許は、特許法113条2号に該当し、取り消されるべきものである。 理由2:(明確性要件)本件特許は、特許を受けようとする発明が、明確であるということができないから、本件特許は、特許法36条6項2号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 理由3:(サポート要件、実施可能要件)本件特許は、特許を受けようとする発明が、発明の詳細な説明に記載したものであるということができないから、本件特許は、特許法36条6項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。また、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであるということができないから、本件特許は、特許法36条4項1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものである。 したがって、本件特許は、特許法113条4号に該当し、取り消されるべきものである。 2 証拠について 特許異議申立人が提出した証拠は、以下のとおりである。 甲1:国際公開第2010/123082号 甲2:特開2011−38088号公報 甲3:国際公開第2012/141275号 (当合議体注:甲1〜甲3は、いずれも主引用例である。) 第5 当合議体の判断(新規性・進歩性) 1 甲号証の記載及び甲号証に記載された発明 (1)甲1の記載 甲1は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「 技術分野 [0001] 本発明は、電子線又は紫外線等の活性エネルギー線の照射により、親水性プラスチックを接着することが可能な活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関するものであり、本発明の組成物は、特にプラスチック製フィルム又はシートを含む薄層被着体の接着に好適に使用され、さらに液晶表示素子等に使用される各種光学フィルム又はシートの製造に好適に使用されるものであり、これら技術分野で賞用され得るものである。」 イ 「発明が解決しようとする課題 [0012] しかしながら、上記特許文献に記載された接着剤組成物でプラスチックフィルム等を貼り合わせた場合、接着力が不十分なことがあった。より具体的には、積層体が高温及び高湿条件下において剥がれが生じるという問題があった。特許文献4記載の発明は、接着力に優れるものではあったが、より過酷な耐熱水性試験では剥がれが生じてしまうものであった。 [0013] よって、本発明は、親水性プラスチックフィルムに対する接着力に優れ、高温及び高湿条件下において、さらに又、熱水条件下においても接着力に優れる活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0014] 本発明者らは、上記の課題を解決するために鋭意研究を行った結果、エチレン性不飽和基及びイソシアネート基を有する化合物からなる活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が、親水性プラスチックフィルムに対する接着力に優れ、かつその接着積層物が高温及び高湿条件下においても、さらには耐熱水試験においても剥がれを生じないものであることを見出し、さらに検討を加えて本発明を完成するに至った。」 ウ 「発明を実施するための形態 [0016] 本発明は、(A)エチレン性不飽和基及びイソシアネート基を有する化合物〔以下、「(A)成分」という〕、 (B)1個のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分以外の化合物でありかつ(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物〔以下、「(B)成分」という〕及び (C)2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分以外の化合物でありかつ(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物〔以下、「(C)成分」という〕 を含む、親水性プラスチック用活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関する。 以下、本発明の組成物に含まれる必須成分の(A)成分〜(C)成分、及び必要に応じ配合されるその他の成分((D)成分等)について順に説明する。 [0017]1.配合成分 (A)成分 (A)成分は、エチレン性不飽和基及びイソシアネート基を有する化合物である。 ・・・中略・・・ [0026](B)成分 (B)成分は、1個のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分以外の化合物でありかつ(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物である。 (B)成分としては、(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物、具体的には、水酸基や酸性基を有しない化合物であり、(A)成分以外の、1個のエチレン性不飽和基を有する化合物であれば任意である。 (B)成分は、1種のみを使用することも、2種以上を併用することもできる。 ・・・中略・・・ [0038](C)成分 (C)成分は、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分以外の化合物でありかつ(A)成分と反応性を有しない化合物である。 (C)成分としては、(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物、具体的には、水酸基や酸性基を有しない化合物であり、(A)成分以外の、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であれば任意である。 (C)成分は、1種のみを使用することも、2種以上を併用することもできる。 [0039] (C)成分としては、ポリオール、有機ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートの反応物であるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー〔以下、(C−1)成分という〕、並びに前記(A)及び(C−1)成分以外の、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物〔以下、(C−2)成分という〕が好ましい。以下、これらの成分について説明する。 [0040] (C−1)成分 本発明においては、親水性プラスチックの接着において、耐熱水性により優れたものとなるとなるため、(C)成分として、ポリオール、有機ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートの反応物である(C−1)成分を配合することが好ましい。 ・・・中略・・・ [0047] (C−2)成分 本発明の組成物においては、(C)成分として、前記(A)成分及び(C−1)成分以外の、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物を配合することができる。 (C−2)成分としては、(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物、具体的には、水酸基や酸性基を有しない化合物であり、前記(A)及び(C−1)成分以外の、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であれば任意である。 [0048] (C−2)成分におけるエチレン性不飽和基としては、例えば、ビニル基、(メタ)アクリロイル基等が挙げられる。 [0049] (C−2)成分としては、モノマー、オリゴマー及びポリマーを挙げることができる。 [0050] モノマー モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物(以下、多官能(メタ)アクリレートという)が挙げられる。 多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸ジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸ジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、炭素数2〜5の脂肪族変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、炭素数2〜5の脂肪族変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。 ・・・中略・・・ [0060]その他の成分 本発明の組成物には、必須成分である(A)〜(C)成分に加え、接着剤組成物で通常使用されるその他の成分を配合することができる。 本発明の組成物は、可視光線又は紫外線等で硬化させる場合には、光重合開始剤〔以下、(D)成分という〕を配合することが好ましい。」 エ 「実施例 [0095] 以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。尚、以下の各例における「部」は重量部を意味する。 [0096] 製造例1〔(C−1)成分の製造〕 攪拌機を備えた500mL反応容器に、イソホロンジイソシアネート24g(0.11モル)、希釈剤としてイソボルニルアクリレート(以下、「IBXA」という)を198g、触媒としてジブチルスズジラウレートを0.16g、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール 0.10gを入れ、5容量%の酸素を含む窒素の雰囲気下、これらを攪拌しながら液温が70℃になるまで加温した。 反応溶液に水酸基価が57mgKOH/gのポリエステルポリオール((株)クラレ製 P−2010、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールのエステル化物)の169g(0.086モル)を2時間かけて滴下した。内温を80℃に上げてさらに2時間反応させ、エチレングリコールを0.67g(0.011モル)加えてさらに2時間、2−ヒドロキシエチルアクリレートを4.46g(0.038モル)加えてさらに2時間反応させた。 赤外線吸収スペクトル装置(Perkin Elmer製FT−IR Spectrum100)によりスペクトルを測定し、イソシアネート基が完全に消費されたことを確認した。得られた反応物は、ウレタンアクリレートオリゴマー(以下、「UA1」という)50部とIBXAの50部を含む混合物であった。尚、後記表1においては、組成物の成分として、UA1とIBXAの割合を分けて記載している。 得られたUA1を、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶媒:テトラヒドロフラン、カラム:Waters製HSPgel HR MB−L)により測定した結果、ポリスチレン換算のMwは34,000であった。 [0097] 実施例1〜同9、比較例1〜同3 下記表1に示す(B)〜(D)成分を、60℃で1時間加熱撹拌して溶解させ、室温まで冷却した後に(A)成分を添加し、さらに30分攪拌して活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を製造した。 得られた組成物の粘度を、25℃でE型粘度計により測定した。 [0098] 試験例1 ・フィルム積層体の製造1(偏光板製造のモデル実験) ポリビニルアルコールフィルム(ソルブロンEF#30、アイセロ社製、以下「PVAフィルム1」という)に、得られた組成物をバーコーターにより3μmの厚みに塗布し、トリアセチルセルロースフィルム(ロンザ製、厚さ100μm、以下「TACフィルム」という)をラミネートした。この積層物のPVAフィルム1側に同様に組成物を塗布し、TACフィルムをラミネートした。この積層物の両側から、160W/cm集光型のメタルハライドランプ(焦点距離から30cm)を用いて、コンベアスピ−ド5m/minの条件で紫外線を照射して組成物を硬化させ、フィルム積層体を得た。 得られた積層体について、下記の試験方法に従い浸水試験を行った。その結果を表2に示す。 [60℃浸水試験] 得られたフィルム積層体を幅20mm、長さ50mmに裁断し、60℃の流水に3時間浸漬してフィルムのハガレの有無を確認した。フィルムのハガレの程度は、フィルム積層体の全面積のうち、ハガレが生じていない部分(接着している部分)の面積の百分率(残存面積;%)として評価した。残存面積が80%以上であれば良好として評価した。 [0099] 試験例2 ・フィルム積層体の製造2(偏光板製造のモデル実験) ポリビニルアルコールフィルムをソルブロンNP(アイセロ社製、以下「PVAフィルム2」という)に変更する以外は、上記と同様の方法でフィルム積層体を得た。 得られた積層体について、下記の試験方法に従い、接着強度を剥離試験による剥離強度を測定して評価した。その結果を表2に示す。 [剥離強度測定] 得られたフィルム積層体を幅25mmに裁断し、ポリ塩化ビニル基板(日本テストパネル工業(株)製、三菱樹脂291A仕様)に粘着シートで固定し、引張り試験機により90°剥離試験を行った。剥離強度の単位はN/25mmであり、1N/25mm以上であれば良好として評価した。 [0100] [表1] [0101] 表1における略号は、下記を意味する。 (A)成分 AOI:2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製 カレンズAOI MOI:2−メタクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製 カレンズMOI LR9000:2−ヒドロキシエチルアクリレートとヘキサメチレンジイソシアネートの重合体、BASF製LaromerLR9000 (B)成分 THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート、大阪有機化学工業(株)製ビスコート#150 ACMO:アクリロイルモルホリン POA:2−フェノキシエチルアクリレート、共栄社化学(株)製ライトアクリレートPO−A M140:N−アクリロイルオキシエチルヘキサヒドロフタルイミド、東亞合成(株)製アロニックスM−140 (C)成分 M1600:ポリエーテル系ウレタンアクリレート、東亞合成(株)製アロニックスM−1600 UA1:製造例1で得られたポリエステルウレタンアクリレート M240:ポリエチレングリコールジアクリレート、東亞合成(株)製アロニックスM−240 (D)成分 TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、チバ・ジャパン(株)製ダロキュアTPO [0102][表2] 」 (2)甲1に記載された発明 上記「(1)エ」によれば、甲1の[0096]〜[0102](特に、[0096]、[0100][表1]〜[0101])には、実施例8に係る組成物が記載されている。上記組成物は、上記[表1]に記載された、(A)成分〜(D)成分を含み、[表1]の(B)成分の1つである「IBXA」及び(C)成分の「UA1」(ポリスチレン換算のMwは34,000)は、[0096]に記載された工程によって製造したものである。 また、「ウレタンアクリレートオリゴマー」([0096])及び「製造例1で得られたポリエステルウレタンアクリレート」([0101])は、ともに甲1で「UA1」と称される化合物を意味する用語であって、以下では、後者に用語を統一する。) 以上によれば、甲1には、次の組成物の発明(以下「甲1組成物発明8」という。)が記載されている。 「(B)〜(D)成分を、60℃で1時間加熱撹拌して溶解させ、室温まで冷却した後に(A)成分を添加し、さらに30分攪拌して、製造した、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。 上記各成分は、以下に示すものであり、 (A)成分: AOI:2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製 カレンズAOI(10部) (B)成分: THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート、大阪有機化学工業(株)製ビスコート#150(50部)、 POA:2−フェノキシエチルアクリレート、共栄社化学(株)製ライトアクリレートPO−A(20部) IBXA:イソボルニルアクリレート(10部) (C)成分: UA1:ポリエステルウレタンアクリレート(ポリスチレン換算のMwは34,000)(10部) (D)成分: TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、チバ・ジャパン(株)製ダロキュアTPO(1部) また、上記IBXA及びUA1は、以下の工程によって製造したものである。 イソホロンジイソシアネート24g(0.11モル)、希釈剤としてイソボルニルアクリレート(以下、「IBXA」という)を198g、触媒としてジブチルスズジラウレートを0.16g、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール 0.10gを入れ、5容量%の酸素を含む窒素の雰囲気下、これらを攪拌しながら液温が70℃になるまで加温し、 反応溶液に水酸基価が57mgKOH/gのポリエステルポリオール((株)クラレ製 P−2010、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールのエステル化物)の169g(0.086モル)を2時間かけて滴下し、内温を80℃に上げてさらに2時間反応させ、エチレングリコールを0.67g(0.011モル)加えてさらに2時間、2−ヒドロキシエチルアクリレートを4.46g(0.038モル)加えてさらに2時間反応させ、 赤外線吸収スペクトル装置によりスペクトルを測定し、イソシアネート基が完全に消費されたことを確認し、得られた反応物(UA1(50部)とIBXA(50部)を含む混合物)」 (3)甲2の記載 甲2は、本件出願前に日本国内又は外国において頒布された発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「【技術分野】 【0001】 本発明は、電子線又は紫外線等の活性エネルギー線の照射により、種々の基材、特にプラスチック製フィルム又はシートを接着することが可能な活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関するものであり、本発明の組成物は、プラスチック製フィルム又はシートを含む薄層被着体の接着に好適に使用され、さらに液晶表示素子等に使用される各種光学フィルム又はシートの製造に好適に使用されるものであり、これら技術分野で賞用され得るものである。 尚、本明細書においては、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。 又、以下において、特に明示する必要がない場合は、プラスチック製フィルム又はシートをまとめて「プラスチックフィルム等」と表し、フィルム又はシートを、まとめて「フィルム等」と表す。 【背景技術】 【0002】 ・・・中略・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0012】 しかしながら、上記特許文献に記載された接着剤組成物でプラスチックフィルム等を貼り合わせた場合、接着剤が不十分なことがあった。より具体的には、積層体が高温及び高湿条件下において剥がれが生じるという問題があった。特許文献4記載の発明は、接着剤性に優れるものではあったが、より過酷な耐熱水性試験では剥がれが生じてしまうものであった。 ・・・中略・・・ 【課題を解決するための手段】 【0015】 本発明者らは、種々の研究の結果、エチレン性不飽和基及びイソシアネート基を有する化合物に、さらにマレイミド基を有するエチレン性不飽和化合物を配合した組成物が、前記性能に加え、剥離強度がより優れるものとなることを見出し本発明を完成した。」 イ 「【発明を実施するための形態】 【0017】 本発明は、(A)エチレン性不飽和基及びイソシアネート基を有する化合物〔以下、「(A)成分」という〕、(B)マレイミド基及びマレイミド基以外のエチレン性不飽和基を有する化合物〔以下、「(B)成分」という〕、並びに(C)前記(A)及び(B)成分以外の1個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物〔以下、「(C)成分」という〕を含む活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関する。 以下、必須成分の(A)成分〜(C)成分について説明する。 【0018】 1.配合成分 1-1.(A)成分 (A)成分は、エチレン性不飽和基及びイソシアネート基を有する化合物である。 ・・・中略・・・ 【0027】 1−2.(B)成分 (B)成分は、マレイミド基及びマレイミド基以外のエチレン性不飽和基を有する化合物である。 ・・・中略・・・ 【0047】 1−3.(C)成分 (C)成分は、前記(A)及び(B)成分以外の1個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物である。 (C)成分としては、前記(A)及び(B)成分以外の化合物で、かつ(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しないものであれば種々の化合物が使用できる。具体的には、水酸基や酸性基を有しないもので、エチレン性不飽和基を有する化合物であれば任意である。 【0048】 (C)成分におけるエチレン性不飽和基としては、前記(A)成分で例示したものと同様の基が挙げられる。 (C)成分は、1種のみを使用することも、2種以上を併用することもできる。 (C)成分としては、モノマー、オリゴマー及びポリマーを挙げることができる。 【0049】 1−3−1.モノマー モノマーとしては、エチレン性不飽和基としてビニル基を有する化合物の例としては、ビニル系化合物及びアリル化合物が挙げられ、エチレン性不飽和基として(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。 ・・・中略・・・ 【0052】 (メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物(以下、単官能(メタ)アクリレートという)及び(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物(以下、多官能(メタ)アクリレートという)が挙げられる。 ・・・中略・・・ 【0054】 多官能(メタ)アクリレートとしては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸ジ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸ジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、アルキレンオキサイド変性1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコール変性トリメチロールプロパンジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリプロピレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート、炭素数2〜5の脂肪族変性ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、炭素数2〜5の脂肪族変性ジペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールペンタ(メタ)アクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、カプロラクトン変性ジペンタエリスリトールヘキサ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールテトラ(メタ)アクリレート、トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、カプロラクトン変性トリス[(メタ)アクリロキシエチル]イソシアヌレート、ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。 ・・・中略・・・ 【0077】 1-4.その他の成分 本発明の組成物には、必須成分である(A)〜(C)成分に加え、接着剤組成物で通常使用されるその他の成分を配合することができる。 【0078】 1-4-1.光重合開始剤 本発明の組成物は、可視光線又は紫外線等で硬化させる場合には、光重合開始剤〔以下(D)成分という〕を配合することが好ましい。」 ウ 「【実施例】 【0112】 以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。尚、以下の各例における「部」は重量部を意味する。 【0113】 ○製造例1〔(C)成分の製造〕 攪拌機を備えた500mL反応容器に、イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIという)24g(0.11モル)、希釈剤としてイソボルニルアクリレートを198g、触媒としてジブチルスズジラウレート(以下、DBTDLという)を0.16g、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、BHTという)を0.10gを入れ、5容量%の酸素を含む窒素の雰囲気下、これらを攪拌しながら液温が70℃になるまで加温した。 反応溶液に水酸基価が57mgKOH/gのポリエステルポリオール((株)クラレ製 P−2010、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールのエステル化物)の169g(0.086モル)を2時間かけて滴下した。内温を80℃に上げてさらに2時間反応させ、エチレングリコールを0.67g(0.011モル)加えてさらに2時間、2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAという)を4.46g(0.038モル)加えてさらに2時間反応させた。赤外線吸収スペクトル装置(Perkin Elmer製FT−IR Spectrum100)によりスペクトルを測定し、イソシアネート基が完全に消費されたことを確認した。 得られたウレタンアクリレートを、ゲル浸透クロマトグラフィー(溶媒:テトラヒドロフラン、カラム:Waters製HSPgel HR MB−L)により測定した結果、ポリスチレン換算のMwは34,000であった。 ・・・中略・・・ 【0115】 ○実施例1〜同3、比較例1〜同4 下記表1に示す(B)〜(D)成分を、60℃で1時間加熱撹拌して溶解させ、室温まで冷却した後に(A)成分を添加し、さらに30分攪拌して活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を製造した。 得られた組成物の粘度を、25℃でE型粘度計により測定した。 【0116】 ・フィルム積層体の製造(偏光板製造のモデル実験) ポリ酢酸ビニルフィルム(ソルブロンEF#30、アイセロ社製、以下PVAフィルム)に、得られた組成物をバーコーターにより3μmの厚みに塗布し、トリアセチルセルロースフィルム(ロンザ製、厚さ100μm、以下TACフィルム)をラミネートした。この積層物のPVAフィルム側に同様に組成物を塗布し、TACフィルムをラミネートした。この積層物の両側から、160W/cm集光型のメタルハライドランプ(焦点距離から30cm)を用いて、コンベアスピ−ド5m/minの条件で紫外線を照射して組成物を硬化させ、フィルム積層体を得た。 得られた積層体について、下記の試験方法に従い浸水試験及び剥離強度測定を行った。その結果を表2に示す。 【0117】 [60℃浸水試験] 得られたフィルム積層体を幅20mm、長さ50mmに裁断し、60℃の流水に3時間浸漬してフィルムのハガレの有無を確認した。 【0118】 [剥離強度測定] 得られたフィルム積層体を幅25mm、長さ100mmに裁断し、25℃の条件下、剥 離試験(剥離速度100mm/分)を行った。 【0119】 【表1】 【0120】 表1における略号は、下記を意味する。 AOI:2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製 カレンズAOI M145:下記式(9)で表される化合物、東亞合成(株)製アロニックスM−145 【0121】 【化9】 【0122】 THFA:テトラヒドロフルフリルアクリレート、大阪有機化学工業(株)製ビスコート#150 POA:2−フェノキシエチルアクリレート、共栄社化学(株)製ライトアクリレートPO−A ACMO:アクリロイルモルホリン IBXA:イソボルニルアクリレート UA1:製造例1で得られたポリエステルウレタンアクリレート UA2:製造例2で得られたポリエーテルウレタンアクリレート M240:ポリエチレングリコールジアクリレート、東亞合成(株)製アロニックスM−240 TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、チバ・ジャパン(株)製ダロキュアTPO 【0123】 【表2】 【0124】 本発明の組成物に相当する実施例1〜同3の組成物は60℃浸水試験後に剥がれが発生せず、さらに剥離強度にも優れるものであった。 これに対して、本発明の(A)成分及び(B)成分を含まない比較例1の組成物は、60℃浸水試験後に剥がれが発生し、さらに剥離強度も不十分なものであった。 又、本発明の(B)成分を含まない比較例2の組成物は、60℃浸水試験後に端部に剥がれが発生し、さらに剥離強度も不十分なものであった。又、本発明の(B)成分を含まないがウレタンアクリレートオリゴマーを含む比較例3及び同4の組成物(特許文献5の発明に相当)は、60℃浸水試験後に端部に剥がれが発生しないものであったが、剥離強度は実施例と比較して不十分なものであった。」 (4)甲2に記載された発明 上記「(3)ウ」によれば、甲2の【0113】〜【0124】(特に、【0113】、【0119】【表1】〜【0122】)には、実施例2に係る組成物が記載されている。上記組成物は、上記【表1】に記載された、(A)成分〜(D)成分を含み、【表1】(C)成分の1つである「UA1」(10部)は、ポリスチレン換算のMwは34,000であって、【0113】に記載された工程によって製造したものである。 また、「ウレタンアクリレート」(【0113】)及び「製造例1で得られたポリエステルウレタンアクリレート」(【0122】)は、ともに甲2で「UA1」と称される化合物を意味する用語であって、以下では、後者に用語を統一する。) 以上によれば、甲2には、次の組成物の発明(以下「甲2組成物発明」という。)が記載されている。 「(B)〜(D)成分を、60℃で1時間加熱撹拌して溶解させ、室温まで冷却した後に(A)成分を添加し、さらに30分攪拌して、製造した、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。 上記各成分は、以下に示すものであり、 (A)成分: AOI:2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート、昭和電工(株)製 カレンズAOI(10部) (B)成分: M145:下記式(9)で表される化合物、東亞合成(株)製アロニックスM−145(20部) (C)成分: ACMO:アクリロイルモルホリン(40部) IBXA:イソボルニルアクリレート(20部) UA1:製造例1で得られたポリエステルウレタンアクリレート(10部、ポリスチレン換算のMwは34,000) (D)成分: TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド、チバ・ジャパン(株)製ダロキュアTPO(1部) また、上記UA1は、以下の工程によって製造したものである。 イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIという)24g(0.11モル)、希釈剤としてイソボルニルアクリレートを198g、触媒としてジブチルスズジラウレート(以下、DBTDLという)を0.16g、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、BHTという)を0.10gを入れ、5容量%の酸素を含む窒素の雰囲気下、これらを攪拌しながら液温が70℃になるまで加温し、 反応溶液に水酸基価が57mgKOH/gのポリエステルポリオール((株)クラレ製 P−2010、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールのエステル化物)の169g(0.086モル)を2時間かけて滴下し、内温を80℃に上げてさらに2時間反応させ、エチレングリコールを0.67g(0.011モル)加えてさらに2時間、2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAという)を4.46g(0.038モル)加えてさらに2時間反応させ、 赤外線吸収スペクトル装置によりスペクトルを測定し、イソシアネート基が完全に消費されたことを確認した、ポリエステルウレタンアクリレート」 (5)甲3の記載 甲3は、本件出願前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには、以下の記載がある。 なお、下線は当合議体が付したものであり、引用発明の認定や判断等に活用した箇所を示す。 ア 「技術分野 [0001] 本発明は、電子線又は紫外線等の活性エネルギー線の照射により、種々の基材を接着することが可能な活性エネルギー線硬化型接着剤組成物に関するものである。 本発明の組成物は、光学部品として使用されるプラスチックフィルム又はプラスチックシート(以下、「フィルム又はシート」をまとめて「フィルム」という)等の薄層被着体のラミネート接着に好適に使用され、さらに液晶表示素子、EL(エレクトロルミネッセンス)表示素子、プロジェクション表示素子、プラズマ表示素子等に使用される各種光学フィルム又はシートの製造に好適に使用されるものであり、これら技術分野で賞用され得るものである。 背景技術 [0002] 従来、プラスチックフィルム等の薄層被着体同士、又はプラスチックフィルム等の薄層被着体とこれと他の素材からなる薄層被着体とを貼り合わせるラミネート法においては、エチレン−酢酸ビニル共重合体やポリウレタン系重合体を含む溶剤型接着剤組成物を第1の薄層被着体に塗布して乾燥させた後、これに第2の薄層被着体をニップ・ローラー等にて圧着するドライラミネート法が主に行われている。 ・・・中略・・・ 発明が解決しようとする課題 [0007] しかしながら、従来の活性エネルギー線接着剤組成物をプラスチックフィルムの接着に使用した場合、硬化収縮により得られた積層体に反り(カール)を生じる場合があった。 加えて、近年では、表示装置の薄型化、小型化により各種駆動装置や光源などから発生する熱が拡散されずにフィルム積層体の一部分に集中することがあり、また、カーナビなど日光が当るような屋外で製品を使用する場合、製品全体ではなく一部分のみが過度に温度が高くなることがある。従来から提案されている接着剤組成物を使用したフィルム積層体の場合、フィルム積層体の一部分に熱が集中するとたわみが発生し、その結果得られる画像の視認性の低下や歪み等が問題になってきている。 ・・・中略・・・ 課題を解決するための手段 [0010] 本発明者らは、種々の研究の結果、ウレタン(メタ)アクリレートと(メタ)アクリルアミド化合物からなる組成物であって、その中に特定割合でメタクリロイル基を有する化合物を含む活性エネルギー線硬化型接着剤組成物が接着力に優れ、高温下の使用においてもフィルムのたわみを抑え、それが実用的なレベルにあることを見出し、以下に示す本発明を完成した。 本発明は、(A)成分:ウレタン(メタ)アクリレート〔以下、「(A)成分」という。〕、 (B)成分:後記式(1)で表される化合物〔以下、「(メタ)アクリルアミド(1)」という〕及び後記式(2)で表される化合物〔以下、「(メタ)アクリルアミド(2)」という〕を含み、(メタ)アクリルアミド(1)及び(2)の合計量100重量部に対して、(メタ)アクリルアミド(1)の95〜5重量部と(メタ)アクリルアミド(1)5〜95重量部とからなる(メタ)アクリルアミド化合物〔以下、「(B)成分」という。〕、並びに、 (C)成分:前記(A)及び(B)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物〔以下、「(C)成分」という。〕 を含む組成物であって、 (A)〜(C)成分の合計量に対して、(A)〜(C)成分を下記割合で含み、 (A)成分:5〜50重量% (B)成分:30〜93重量% (C)成分:2〜65重量% かつ(A)〜(C)成分の合計中にメタクリロイル基を有する化合物を2〜30重量%の割合で含む活性エネルギー線硬化型接着剤組成物〔以下、単に「本発明の接着剤組成物」又は「本発明の組成物」ともいう〕に関する。」 イ 「発明を実施するための形態 [0019] 以下、本発明を詳細に説明する。 尚、本明細書においては、アクリレート及び/又はメタクリレートを(メタ)アクリレートと、アクリロイル基及び/又はメタクリロイル基を(メタ)アクリロイル基と、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を(メタ)アクリル酸と表す。 [0020] 本発明の活性エネルギー線硬化型接着剤組成物は、前記(A)、(B)成分及び(C)成分を必須成分として含むものである。 以下、それぞれの成分について説明する。 ・・・中略・・・ [0021] 1.(A)成分 (A)成分は、ウレタン(メタ)アクリレートである。 (A)成分としては、種々のウレタン(メタ)アクリレートを使用することができ、具体的には、ポリエステル骨格、ポリエーテル骨格又はポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートを挙げることができる。 これらの中でも得られる硬化物の高温及び高湿条件下における接着力に優れるものとなる点で、ポリリエステル骨格又はポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートが好ましく、より好ましくはポリカーボネート骨格を有するウレタン(メタ)アクリレートである。 (A)成分としては、オリゴマー及びポリマーのいずれも使用可能であり、重量平均分子量500〜5万のものが好ましく、より好ましくは3,000〜5万のものであり、特に好ましくは1万〜4万のものである。 尚、本発明において、重量平均分子量とは、ゲル・パーミエーションクロマトグラフィーにより測定した分子量をポリスチレン換算した値である。 ・・・中略・・・ [0028]2.(B)成分 (B)成分は、(メタ)アクリルアミド(1)及び(メタ)アクリルアミド(2)を含み、(メタ)アクリルアミド(1)及び(2)の合計量100重量部に対し、(メタ)アクリルアミド(1)の5〜95重量部と(メタ)アクリルアミド(2)の95〜5重量部とからなる(メタ)アクリルアミド化合物である。 本発明では、(B)成分を含むことにより、基材への密着性向上させ、かつ組成物硬化物のガラス転移温度を高くすることができるため、得られる積層体の加熱試験後のたわみを防止することができる。 ・・・中略・・・ [0039]3.(C)成分 (C)成分は、前記(A)及び(B)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物である。 (C)成分としては、(A)及び(B)成分以外の化合物であれば種々の化合物が使用できる。(C)成分としては、モノマー、オリゴマー及びポリマーがある。 [0040]3−1.モノマー モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物が挙げられる。 ・・・中略・・・ (メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート・・・中略・・・前記ポリオールのアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;イソシアヌル酸アルキレンオキサイドのジ又はトリ(メタ)アクリレート等・・・中略・・・等が挙げられる。 ・・・中略・・・ [0048] (C)成分の化合物としては、後記する組成物の硬化物のガラス転移温度が好ましい範囲となる様に選定することが好ましい。 (C)成分としては、前記した化合物の中でも密着性が良好である点で、(メタ)アクリロイル基を1個有するモノマーが好ましい。 さらに、(C)成分としては、ホモポリマーのガラス転移温度(以下、「Tg」という)が0〜200℃を有するものが好ましく、より好ましくは60〜180℃を有する化合物である。当該化合物の例としては、ジシクロペンタニルアクリレート(ホモポリマーのTg:120℃。以下、括弧書きは同様の意味。)、ジシクロペンタニルメタクリレート(175℃)、イソボルニルアクリレート(94℃)及びイソボルニルメタクリレート(180℃)等が挙げられる。 ・・・中略・・・ [0051]5.その他の成分 本発明の組成物を紫外線により硬化させる場合には、必要に応じて光重合開始剤〔以下、(D)成分ともいう〕を配合することもできる。」 ウ 「実施例 [0061] 以下に実施例及び比較例を挙げ、本発明をより具体的に説明する。尚、以下の各例における「部」は重量部を意味する。 [0062]○実施例1〜同6及び比較例1〜同5 下記表1及び表2に示す(A)、(B)、(C)及び(D)成分を、60℃で1時間加熱攪拌して溶解させ、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物を製造した。 得られた組成物を、下記の試験方法に従い評価した。 [0063] [表1] ・・・中略・・・ [0065] 表1及び表2において、(A)〜(D)成分中の各数字は部数を意味し、各略号は、以下の意味を示す。 1)UN9200A:非芳香族系のポリカーボネート骨格を有するポリカーボネート系ウレタンアクリレート、重量平均分子量約2万〔根上工業(株)製アートレジンUN9200A〕 2)OT−1001:非芳香族系のポリエステル骨格を有するポリエステル系ウレタンアクリレート、重量平均分子量約4万〔東亞合成(株)製アロニックスOT−1001〕 3)KY−303:ポリエーテル系ウレタンアクリレート、重量平均分子量約1万5千〔根上工業(株)製KY−303〕 4)DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド〔(株)興人製DMAA〕 5)DEAA:N,N−ジエチルアクリルアミド〔(株)興人製DEAA〕 6)ACMO:アクリロイルモルホリン〔(株)興人製ACMO〕 7)IBX:イソボルニルメタクリレート〔共栄社化学(株)製ライトアクリレートIB−X〕 8)BzMA:ベンジルメタクリレート 9)IBXA:イソボルニルアクリレート〔共栄社化学(株)製ライトアクリレートIB−XA〕 10)M−111:ノニルフェノールエチレンオキサイド変性アクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスM−111〕 11)FA−513M:ジシクロペンタニルメタクリレ−ト〔日立化成工業(株)製ファンクリルFA−513M〕 12)FA−513AS:ジシクロペンタニルアクリレ−ト〔日立化成工業(株)製ファンクリルFA−513AS〕 13)Irg184:1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン〔BASF社製イルガキュア184〕 14)TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド〔BASF社製ルシリンTPO〕 15)MAの割合:(A)〜(C)成分合計量に対するメタクリロイル基を有する化合物の割合(単位:重量%) 16)M−120:2−エチルヘキシルエチレンオキサイド変性アクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスM−120〕 17)OPPA:オルトフェニルフェノールアクリレート〔東亞合成(株)製アロニックスTO−2344〕 [0066]○試験方法 1)Tg ・・・中略・・・ [0067]2)試験体の製造 ・・・中略・・・ [0068]3)剥離強度 ・・・中略・・・ [0069]4)貼り合せ時の反り ・・・中略・・・ [0070]5)加熱試験 ・・・中略・・・ [0071] 実施例1〜同6の組成物は、いずれも剥離強度に優れ、貼り合せ時の反りがなく、加熱試験後のたわみがないものであった。」 (6)甲3に記載された発明 上記「(5)ウ」によれば、甲3の[0061]〜[0071](特に、[0063][表1]及び[0065])には、実施例3に係る組成物が記載されている。そして、上記組成物は、甲3の[0062]によれば、「(A)、(B)、(C)及び(D)成分を、60℃で1時間加熱攪拌して溶解させ、」「製造した」「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物」であるところ、上記各成分は、それぞれ甲3の[0063]の[表1]に記載されたとおりのものである。 以上によれば、甲3には、次の組成物の発明(以下「甲3組成物発明3」という。)が記載されている。 「(A)、(B)、(C)及び(D)成分を、60℃で1時間加熱攪拌して溶解させ、製造した、活性エネルギー線硬化型接着剤組成物。 上記各成分は、以下に示すものである。 (A)成分: KY−303:ポリエーテル系ウレタンアクリレート、重量平均分子量約1万5千〔根上工業(株)製KY−303〕(30部) (B)成分: DMAA:N,N−ジメチルアクリルアミド〔(株)興人製DMAA〕(10部) ACMO:アクリロイルモルホリン〔(株)興人製ACMO〕(40部) (C)成分: IBX:イソボルニルメタクリレート〔共栄社化学(株)製ライトアクリレートIB−X〕(20部) (D)成分: TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキシド〔BASF社製ルシリンTPO〕(1部)」 2 甲1を主引用例とした場合 (1)対比 本件特許発明1と甲1組成物発明8とを対比する。 ア (A)成分 甲1組成物発明8の「組成物」は、「イソホロンジイソシアネート24g(0.11モル)、希釈剤としてイソボルニルアクリレート(以下、「IBXA」という)を198g、触媒としてジブチルスズジラウレートを0.16g、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール 0.10gを入れ、5容量%の酸素を含む窒素の雰囲気下、これらを攪拌しながら液温が70℃になるまで加温し、反応溶液に水酸基価が57mgKOH/gのポリエステルポリオール((株)クラレ製 P−2010、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールのエステル化物)の169g(0.086モル)を2時間かけて滴下し、内温を80℃に上げてさらに2時間反応させ、エチレングリコールを0.67g(0.011モル)加えてさらに2時間、2−ヒドロキシエチルアクリレートを4.46g(0.038モル)加えてさらに2時間反応させ、赤外線吸収スペクトル装置によりスペクトルを測定し、イソシアネート基が完全に消費されたことを確認し、得られた反応物(UA1(50部)とIBXA(50部)を含む混合物)」を含む。そして、甲1組成物発明8の「UA1」は、「ポリスチレン換算のMwは34,000であ」る。 上記製造工程からみて、甲1組成物発明8の「UA1」は、その構造中にアクリロイル基及びウレタン結合を具備する。 以上によれば、甲1組成物発明8の「UA1」は、本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体」及び「前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であ」るとされる、「(A)成分」に相当する。 イ (B)成分 甲1組成物発明8の「組成物」は、「(B)〜(D)成分を、60℃で1時間加熱撹拌して溶解させ、室温まで冷却した後に(A)成分を添加し、さらに30分攪拌して、製造した」ものである。 ここで、上記「(A)成分」は、「AOI」、すなわち、「2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート」であって、分子量は約141であるから、本件特許発明1の「重量平均分子量が2000未満であり」とされる低分子化合物に該当し、アクリロイル基を有し、オキシエチル基の末端の炭素とイソシアネート基の窒素とが炭素−窒素結合で結合された構造を具備する。 そうしてみると、甲1組成物発明8の「AOI」は、本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体」及び「前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり」とされる、「(B)成分」に相当する。 ウ (C)成分 甲1組成物発明8の「組成物」は、上記「(B)成分」として、「イソボルニルアクリレート(以下、「IBXA」という)」を含む。ここで、「IBXA」は、一方の末端にアクリロイル基を1つ、他方の末端にイソボルニル基(脂環式骨格を有する基に該当)を具備し、その構造中に窒素原子を含まない。 そうしてみると、甲1組成物発明8の「IBXA」と、本件特許発明1の「(C)成分」とは、「炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物」であって、「脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し」、「光重合性官能基を」「有する光重合性化合物である」点で共通する。 エ (D)成分 甲1組成物発明8の「組成物」は、上記「(D)成分」として、「TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド」を含む。上記「TPO」が、アシルホスフィンオキサイド系化合物であって、甲1組成物発明8の「組成物」において、光重合開始剤として機能する化合物であることは技術常識である。 そうしてみると、甲1組成物発明8の「TPO」は、本件特許発明1において、「アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤」とされる、「(D)成分」に相当する。 オ 感光性樹脂組成物 甲1組成物発明8の「組成物」は、「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物」である。そして、上記「組成物」は、上記ア〜イの製造工程からみて、樹脂を含むことは明らかである。 そうしてみると、甲1組成物発明8の「組成物」は、本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に相当する。そして、上記各成分の対比結果を総合すると、甲1組成物発明8の「組成物」は、本件特許発明1において、「(A)成分」、「(B)成分」、「(C)成分」及び「(D)成分」「と、を含有し」とされる、「感光性樹脂組成物」に相当する。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明1と甲1組成物発明8とは、次の点で一致する。 「(A)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体と、(B)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体と、(C)成分:炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物と、(D)成分:光重合開始剤と、を含有し、 前記(C)成分が、脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し、 前記(D)成分が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有し、 前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であり、 前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり、 前記(C)成分が、光重合性官能基を有する光重合性化合物である、感光性樹脂組成物。」 イ 相違点 本件特許発明1と甲1組成物発明8とは、次の点で相違する。 [相違点1−1] 本件特許発明1は、「(C)成分が、光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物である」のに対して、甲1組成物発明8の「IBXA」は、光重合性官能基を1つ有する光重合性化合物である点。 (3)判断 上記「IBXA」は、甲1組成物発明8における「(B)成分」に該当する化合物である。ここで、甲1の[0026]によれば、「(B)成分は、1個のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分以外の化合物でありかつ(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物である」。そうしてみると、上記記載に接した当業者は、「IBXA」を他の化合物に置換することを試みたとしても、当該他の化合物として、甲1の「(B)成分」としての上記「1個のエチレン性不飽和基を有する化合物であって」との要件を満たさない、相違点1−1に係る「光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物」を敢えて選択する動機は見出し難い。 また、そもそも、甲1組成物発明8の「IBXA」は、甲1の[0096]によれば、「UA1」(甲1の「(C)成分」)の製造工程における「希釈剤」として用いられたものであるから、「IBXA」に換えて、組成物全体の粘度が大きくなることが容易に予想される、相違点1−1に係る「光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物」を採用するような材料の変更を当業者が試みるとは想定し難いことである。 さらに進んで検討する。 甲1には、「(C)成分」について、次の記載がある。 ア 「(C)成分は、1種のみを使用することも、2種以上を併用することもできる。 [0039] (C)成分としては、ポリオール、有機ポリイソシアネート及び水酸基含有(メタ)アクリレートの反応物であるウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー〔以下、(C−1)成分という〕、並びに前記(A)及び(C−1)成分以外の、2個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって、(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物〔以下、(C−2)成分という〕が好ましい。」([0038]、[0039]) イ 「 (C−2)成分としては、モノマー、オリゴマー及びポリマーを挙げることができる。 [0050] モノマー モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物(以下、多官能(メタ)アクリレートという)が挙げられる。 多官能(メタ)アクリレートとしては、例えば、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート・・・中略・・・トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート・・・中略・・・ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。」([0049]〜[0050]) (当合議体注:下線は当合議体で付与した。) ここで、上記「トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート」は、いずれも相違点1−1に係る構成を満たす化合物である。そして、上記ア〜イの記載(特に、下線部)に接した当業者が、甲1の「(C)成分」が、(C−1)成分と(C−2)成分の2種を併用してもよい点に着目して、(C−1)成分として、「ウレタン(メタ)アクリレートオリゴマー」(高分子量体)を、(C−2)成分として、「トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート」又は「ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート」を選択して、相違点1−1に係る本件特許発明1の構成に到る可能性は否定できない。 しかしながら、甲1組成物発明8において、当業者が、上記「(1)ア」で一致点とした構成を維持したまま、相違点1−1に係る構成に到るためには、甲1組成物発明8の「(C)成分」としての「UA1」(10部)のうちの一部を、甲1の[0049]〜[0050]において多数列挙された化合物の中から、「トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート」又は「ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート」に着目して置換する必要があるのであって、このような組成の改変は、もはや当業者が容易に想到し得るといえる範囲を超えるものである(後知恵といえる。)。 以上によれば、甲1組成物発明8において、当業者が相違点1−1に係る構成に想到することが容易になし得たことであるということはできない。 (4)本件特許発明2〜6及び8〜17について 本件特許発明2〜6及び8〜17は、本件特許発明1の感光性樹脂組成物を発明を特定するための事項として具備するから、本件特許発明1が上記(3)で検討したとおり、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであれば、本件特許発明2〜6及び8〜17も同様に容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)甲1に記載された実施例9から主引用発明を認定した場合 甲1に記載された実施例9に係る組成物の発明を、以下、「甲1組成物9発明」という。 甲1組成物9発明は、甲1組成物8発明と、「(B)成分」を「THFA(60部)」及び「IXBA(25部)」に、「(C)成分」を「UA1(5部)」に変更した点、「POA(20部)」を省いた(含まない)点でのみ相違する。 そうすると、本件特許発明1と甲1組成物9発明との一致点及び相違点は、上記「(2)ア」及び「(2)イ」と同一である。 したがって、甲1組成物発明9を主引用発明とした場合の判断は、上記(3)と同様となる。 (6)小括 以上によれば、本件特許発明1〜6及び8〜17は、甲1に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 3 甲2を主引用例とした場合 (1)対比 本件特許発明1と甲2組成物発明を対比する。 ア (A)成分 甲2組成物発明の「組成物」は、「イソホロンジイソシアネート(以下、IPDIという)24g(0.11モル)、希釈剤としてイソボルニルアクリレートを198g、触媒としてジブチルスズジラウレート(以下、DBTDLという)を0.16g、重合禁止剤として2,6−ジ−t−ブチル−4−メチルフェノール(以下、BHTという)を0.10gを入れ、5容量%の酸素を含む窒素の雰囲気下、これらを攪拌しながら液温が70℃になるまで加温し、 反応溶液に水酸基価が57mgKOH/gのポリエステルポリオール((株)クラレ製 P−2010、アジピン酸と3−メチル−1,5−ペンタンジオールのエステル化物)の169g(0.086モル)を2時間かけて滴下し、内温を80℃に上げてさらに2時間反応させ、エチレングリコールを0.67g(0.011モル)加えてさらに2時間、2−ヒドロキシエチルアクリレート(以下、HEAという)を4.46g(0.038モル)加えてさらに2時間反応させ、 赤外線吸収スペクトル装置によりスペクトルを測定し、イソシアネート基が完全に消費されたことを確認した、ポリエステルウレタンアクリレート」を含む。そして、甲2組成物発明の「UA1」は、「ポリスチレン換算のMwは34,000」である。 上記製造工程からみて、甲2組成物発明の「UA1」は、その構造中にアクリロイル基及びウレタン結合を具備する。 以上によれば、甲2組成物発明の「UA1」は、本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体」及び「前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であ」るとされる、「(A)成分」に相当する。 イ (B)成分 甲2組成物発明の「組成物」は、「(B)〜(D)成分を、60℃で1時間加熱撹拌して溶解させ、室温まで冷却した後に(A)成分を添加し、さらに30分攪拌して、製造した」ものである。 ここで、上記「(A)成分」は、「AOI」、すなわち、「2−アクリロイルオキシエチルイソシアネート」(分子量:約141)であるから、本件特許発明1の「重量平均分子量が2000未満であり」とされる低分子化合物に該当し、アクリロイル基を有し、オキシエチル基の末端の炭素とイソシアネート基の窒素とが炭素−窒素結合で結合で結合された構造を具備する。 そうしてみると、甲2組成物発明の「AOI」は、本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体」及び「前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり」とされる、「(B)成分」に相当する。 あるいは、甲2組成物発明の「ACMO」及び「M145」も、それぞれ、その構造及び分子量から、本件特許発明1の上記「(B)成分」に相当するといえる。 ウ (C)成分 甲2組成物発明の「組成物」は、上記「(C)成分」として、「イソボルニルアクリレート(以下、「IBXA」という)」を含む。ここで、「IBXA」は、一方の末端にアクリロイル基を1つ、他方の末端にイソボルニル基(脂環式骨格を有する基に該当)を具備し、その構造中に窒素原子を含まない。 そうしてみると、甲2組成物発明の「IBXA」と、本件特許発明1の「(C)成分」とは、「炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物」であって、「脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し」、「光重合性官能基を」「有する光重合性化合物である」点で共通する。 エ (D)成分 甲2組成物発明の「組成物」は、上記「(D)成分」として、「TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド」を含む。上記「TPO」が、上記「組成物」において、アシルホスフィンオキサイド系化合物であって、甲2組成物発明の「組成物」において、光重合開始剤として機能する化合物であることは技術常識である。 そうしてみると、甲2組成物発明の「TPO」は、本件特許発明1において、「アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤」とされる、「(D)成分」に相当する。 オ 感光性樹脂組成物 甲2組成物発明の「組成物」は、「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物」である。そして、上記「組成物」は、上記ア〜イの製造工程からみて、樹脂を含むことは明らかである。 そうしてみると、甲2組成物発明の「組成物」は、本件特許発明1の「感光性樹脂組成物」に相当する。そして、上記各成分の対比結果を総合すると、甲2組成物発明の「組成物」は、本件特許発明1において、「(A)成分」、「(B)成分」、「(C)成分」及び「(D)成分」「と、を含有し」とされる、「感光性樹脂組成物」に相当する。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明1と甲2組成物発明とは、上記「2(2)ア」の点で一致する。 イ 相違点 本件特許発明1と甲2組成物発明とは、次の点で相違する。 [相違点2−1] 「(C)成分」が、本件特許発明1が、「光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物である」のに対して、甲2組成物発明の「IBXA」((C)成分)は、「光重合性官能基を1つ有する光重合性化合物である」点。 (3)判断 上記「IBXA」は、甲2組成物発明における「(C)成分」に該当する化合物である。ここで、甲2には、「(C)成分」について、次の記載がある。 ア 「(C)成分は、前記(A)及び(B)成分以外の1個以上のエチレン性不飽和基を有する化合物であって(A)成分のイソシアネート基と反応性を有しない化合物である。」(【0047】) イ 「(C)成分は、1種のみを使用することも、2種以上を併用することもできる。 (C)成分としては、モノマー、オリゴマー及びポリマーを挙げることができる。」(【0048】) ウ 「モノマーとしては・・・中略・・・エチレン性不飽和基として(メタ)アクリロイル基を有する化合物の例としては、(メタ)アクリルアミド、(メタ)アクリレート、(メタ)アクリル酸及び(メタ)アクリロイルモルホリン等が挙げられる。」(【0049】) エ 「(メタ)アクリレートとしては、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物(以下、単官能(メタ)アクリレートという)及び(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物(以下、多官能(メタ)アクリレートという)が挙げられる。・・・中略・・・多官能(メタ)アクリレートとしては、ネオペンチルグリコールジ(メタ)アクリレート、1,6−ヘキサンジオールジ(メタ)アクリレート、ネオペンチルグリコールヒドロキシピバリン酸ジ(メタ)アクリレート・・・中略・・・トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート、ペンタエリスリトールトリ(メタ)アクリレート・・・中略・・・ジトリメチロールプロパンテトラ(メタ)アクリレート等が挙げられる。」(【0052】及び【0054】) (当合議体注:下線は当合議体で付与した。) ここで、上記「トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート、ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート」は、いずれも相違点2−1に係る構成を満たす化合物である。そして、上記ア〜エの記載(特に、下線部)に接した当業者が、甲2組成物発明の「(C)成分」に該当する「IXBA」の一部又は全部を、上記「トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート」又は「ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート」に変更する等して、相違点2−1に係る本件特許発明1の構成に到る可能性は否定できない。 しかしながら、甲2組成物発明において、当業者が、上記「(2)ア」及び「(2)イ」で一致点とした構成を維持したまま、相違点2−1に係る構成に到るためには、甲2組成物発明の「(C)成分」である、「UA1」(10部)及び「ACMO」(40部)を少なくとも維持しつつ、「IXBA」の一部又は全部を、甲2の【0052】〜【0054】(上記エ参照。)において多数列挙された化合物の中から、「トリシクロデカンジメチロールジ(メタ)アクリレート」又は「ジシクロペンタニルジ(メタ)アクリレート」に着目して置換する必要があるのであって、このような組成の改変は、もはや当業者が容易に想到し得るといえる範囲を超えるものである。(後知恵といえる。) また、そもそも、甲2組成物発明の「IBXA」は、甲2の【0113】によれば、「UA1」(甲2の「(C)成分」)の製造工程における「希釈剤」として用いられたものであるから、「IBXA」に換えて、組成物全体の粘度が大きくなることが容易に予想される、相違点2−1に係る「光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物」を採用するような材料の変更を当業者が試みるとは想定し難いことである。 以上によれば、甲2組成物発明において、当業者が相違点2−1に係る構成に想到することが容易になし得たことであるということはできない。 (4)本件特許発明2〜6及び8〜17について 本件特許発明2〜6及び8〜17は、本件特許発明1の感光性樹脂組成物を発明を特定するための事項として具備するから、本件特許発明1が上記(3)で検討したとおり、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであれば、本件特許発明2〜6及び8〜17も同様に容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)小括 以上によれば、本件特許発明1〜6及び8〜17は、甲2に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 4 甲3を主引用例とした場合 (1)対比 本件特許発明1と甲3組成物発明3を対比する。 ア (A)成分 甲3組成物発明3の「組成物」は、「(A)、(B)、(C)及び(D)成分を、60℃で1時間加熱攪拌して溶解させ、」「製造した」ものである。ここで、「(A)成分」は、「ポリエーテル系ウレタンアクリレート、重量平均分子量約1万5千〔根上工業(株)製KY−303〕」であるところ、技術的にみて、その構造中に、アクリロイル基及びウレタン結合を有していることは明らかである。 そうしてみると、甲3組成物発明3の「KY−303」は、その構造及び分子量から、本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体」及び「前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であ」るとされる、「(A)成分」に相当する。 イ (B)成分 甲3組成物発明3の「組成物」は、「DMAA」及び「ACMO」を含む。ここで、上記「DMAA」及び「ACMO」は、それぞれ「N,N−ジメチルアクリルアミド〔(株)興人製DMAA〕」(分子量:99)及び「アクリロイルモルホリン〔(株)興人製ACMO〕」(分子量:141)である。 そうしてみると、甲3組成物発明3の「DMAA」及び「ACMO」は、その構造及び分子量から、いずれも本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体」及び「前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり」とされる、「(B)成分」に相当する。 ウ (C)成分 甲3組成物発明3の「組成物」は、「IBX:イソボルニルメタクリレート〔共栄社化学(株)製ライトアクリレートIB−X〕」を含む。ここで、「IBX」は、一方の末端にメタクリロイル基を1つ、他方の末端にイソボルニル基(脂環式骨格を有する基に該当)を具備し、その構造中に窒素原子を含まない。 そうしてみると、甲3組成物発明3の「IBX」と、本件特許発明1の「(C)成分」とは、「炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物」であって、「脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し」、「光重合性官能基を」「有する光重合性化合物である」点で共通する。 エ (D)成分 甲3組成物発明3の「組成物」は、「TPO:2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルフォスフィンオキサイド〔BASF社製ルシリンTPO〕」を含む。ここで、「TPO」が、上記「組成物」において、アシルホスフィンオキサイド系化合物であって、光重合開始剤として機能することは技術常識である。 そうしてみると、甲3組成物発明3の「TPO」は、本件特許発明1において、「アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤」とされる、「(D)成分」に相当する。 オ 感光性樹脂組成物 甲3組成物発明3の「組成物」は、「活性エネルギー線硬化型接着剤組成物」である。 上記「組成物」は、その成分(特に、重量平均分子量約1万5千である「KY−303」)からみて、樹脂を含むものといえる。 以上ア〜エの対比結果から、甲3組成物発明3の「組成物」は、本件特許発明1において、「(A)成分」、「(B)成分」、「(C)成分」及び「(D)成分」「を含有する、」とされる、「感光性樹脂組成物」に相当する。 (2)一致点及び相違点 ア 一致点 本件特許発明1と甲3組成物発明3とは、上記「2(2)ア」の点で一致する。 イ 相違点 本件特許発明1と甲3組成物発明3とは、次の点で相違する。 [相違点3−1] 本件特許発明1は、「(C)成分が、光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物である」のに対して、甲3組成物発明3の「IBX」は、光重合性官能基を1つ有する光重合性化合物である点。 (3)判断 上記「IBX」は、甲3組成物発明における「(C)成分」に該当する化合物である。ここで、甲3には、「(C)成分」について、次の記載がある。 ア 「3.(C)成分 (C)成分は、前記(A)及び(B)成分以外のエチレン性不飽和基を有する化合物である。 (C)成分としては、(A)及び(B)成分以外の化合物であれば種々の化合物が使用できる。(C)成分としては、モノマー、オリゴマー及びポリマーがある。 [0040]3−1.モノマー モノマーとしては、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物が挙げられる。 ・・・中略・・・ (メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物としては、エチレングリコールジ(メタ)アクリレート・・・中略・・・前記ポリオールのアルキレンオキサイド付加物のポリ(メタ)アクリレート;イソシアヌル酸アルキレンオキサイドのジ又はトリ(メタ)アクリレート等・・・中略・・・等が挙げられる。」([0039]〜[0040]) イ 「(C)成分としては、前記した化合物の中でも密着性が良好である点で、(メタ)アクリロイル基を1個有するモノマーが好ましい。 さらに、(C)成分としては、ホモポリマーのガラス転移温度(以下、「Tg」という)が0〜200℃を有するものが好ましく、より好ましくは60〜180℃を有する化合物である。当該化合物の例としては、ジシクロペンタニルアクリレート(ホモポリマーのTg:120℃。以下、括弧書きは同様の意味。)、ジシクロペンタニルメタクリレート(175℃)、イソボルニルアクリレート(94℃)及びイソボルニルメタクリレート(180℃)等が挙げられる。」([0048]) (当合議体注:下線は当合議体で付与した。) 上記アの記載は、甲3組成物発明3の「(C)成分」が、(メタ)クリロイル基を1個有する化合物であっても、2個以上有する化合物であってもよいことを示唆しているものの、当該記載に続く上記イの記載によれば、(メタ)アクリロイル基を1個有するモノマーが、2個以上有するモノマーよりも密着性の観点から好ましいこと及びガラス転移点(耐熱性)の観点からは、(メタ)アクリロイル基を1個有する化合物の具体例として「イソボルニルアクリレート」が挙げられている。 上記事情に照らせば、当業者が、甲3組成物発明3において、密着性及びガラス転移点の観点から、より好ましいとされる「IBX」に換えて、(メタ)アクリロイル基を2個以上有する化合物を採用する動機は見出し難い。 以上によれば、甲3組成物発明3において、当業者が相違点3−1に係る構成に想到することが容易になし得たことであるということはできない。 (4)本件特許発明2〜6及び8〜17について 本件特許発明2〜6及び8〜17は、本件特許発明1の感光性樹脂組成物を発明を特定するための事項として具備するから、本件特許発明1が上記(3)で検討したとおり、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということができないのであれば、本件特許発明2〜6及び8〜17も同様に容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (5)甲3に記載された実施例4及び実施例6から主引用発明を認定した場合 甲3に記載された、実施例4及び実施例6に係る組成物の発明を、それぞれ、以下、「甲3組成物発明4」及び「甲3組成物発明6」という。 ア 甲3組成物発明4について 甲3組成物発明4は、甲3組成物発明3において、「(A)成分」を「UN9200A」(20部)とし、「(B)成分」を「DEAA」(35部)及び「ACMO」(35部)とし、「(C)成分」を「IBX」(10部)としたものに相当する。 ここで、「UN9200A」は、「非芳香族系のポリカーボネート骨格を有するポリカーボネート系ウレタンアクリレート、重量平均分子量約2万〔根上工業(株)製アートレジンUN9200A〕」([0065])であるから、本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体」及び「前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であ」るとされる、「(A)成分」に相当する。 また、甲3組成物発明4は、「ACMO」を含むから、本件特許発明1において、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体」及び「前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり」とされる、「(B)成分」を有する。 さらに、甲3組成物発明4の「IBX」(10部)と、本件特許発明1の「(C)成分」とが、「炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物」であって、「脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し」、「光重合性官能基を」「有する光重合性化合物である」点で共通することは、上記「(1)ウ」で示したとおりである。 以上によれば、甲3組成物発明4と本件特許発明1の相違点は、甲3組成物発明3と本件特許発明1の相違点である、相違点3−1と同一である。 したがって、上記(3)〜(4)と同様の理由により、本件特許発明1〜6及び8〜17は、甲3組成物発明4に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 イ 甲3組成物発明6について 甲3組成物発明6は、甲3組成物発明4において、「(A)成分」を「UN9200A」(30部)とし、「(B)成分」を「DMAA」(30部)及び「ACMO」(35部)とし、「(C)成分」を「IBX」(5部)としたものに相当する。 上記成分からみて、甲3組成物発明6と本件特許発明1の相違点も、甲3組成物発明3と本件特許発明1の相違点である、相違点3−1と同一である。 したがって、上記(3)〜(4)と同様の理由により、本件特許発明1〜6及び8〜17は、甲3組成物発明6に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 (6)小括 以上によれば、本件特許発明1〜6及び8〜17は、甲3に記載された発明から、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。 第6 当合議体の判断(明確性要件) 本件訂正請求の訂正事項1は、訂正前の請求項1の「高分子量体」及び「低分子量体」について、「前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であり、前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり」と訂正して、分子量の範囲を明確にしたものといえる。そして、上記のとおり、各分子量が特定されたことにより、本件特許発明の「高分子量体」及び「低分子量体」とは区別できるものとなった。 したがって、令和3年4月30日付け取消理由通知書により通知した取消しの理由(理由2)は、本件訂正請求により解消した。 第7 当合議体の判断(サポート要件、実施可能要件) 本件特許発明1において、「(A)成分」は、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体」及び「前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であり」と特定され、「(B)成分」は、「光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体」及び「前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり」と特定されているところ、「光重合性官能基」及び「炭素−窒素結合」の種類についてはこれ以上特定されていない。 他方、本件特許明細書の【0007】の記載によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「厚い感光層を形成する場合であっても優れたパターン形成性と底部細り現象抑制性能とを有する感光性樹脂組成物、感光性樹脂フィルム、硬化物の製造方法、積層体、及び電子部品を提供すること」と認められる。そして、上記課題を解決する手段として、本件特許明細書において、その効果が具体的に確認されているのは、「(A)成分」及び「(B)成分」が、ともに特定の光重合性官能基である「(メタ)アクリロイル基」であって、かつ、特定の「炭素−窒素結合」である「ウレタン結合」であるものにとどまる。 そこで、本件特許明細書に記載された事項及び技術常識に基づいて、本件特許明細書等の記載から、本件特許発明1の発明が上記課題を解決できることを当業者が認識することができるか(いわゆる、サポート要件を満たすか)について、以下検討する。 本件特許明細書の【0045】には、「(B)成分の低分子量体が、光重合性官能基と炭素−窒素結合を有すると、ラジカル重合の連鎖移動剤として働くことが可能であり、優れたパターン形成性及び底部細り減少抑制効性能を得ることができる。」と記載されている。ここで、炭素−窒素結合では窒素原子の非共有電子対の働きにより、ラジカル重合におけるラジカルの生成を促して重合反応を促進する機能を有することは、当業者には理解できることといえる。そして、(A)成分に比較して低分子量である(B)成分の炭素−窒素結合によって、このような促進機能が発揮されやすいことは技術的に見ても理解し得る事項である。 以上によれば、本件特許発明1の「(A)成分」及び「(B)成分」について、「光重合性反応基」及び「炭素−窒素結合」をさらに限定しなければ、本件特許発明1が、上記課題を解決できることを当業者が認識することができないとはいえない。 したがって、本件特許発明1は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。 さらに、本件特許発明2〜6及び8〜17は、本件特許発明1の構成を具備し、さらに技術的な限定を付加したものに相当するから、本件特許発明1と同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものである。 また、本件特許明細書の上記記載及び技術常識を踏まえると、サポート要件と同様の理由により、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件特許発明1を実施することが程度に明確かつ十分に記載したものということができる。 第8 まとめ 以上のとおりであるから、当合議体が通知した取消しの理由及び特許異議申立ての理由によっては、本件請求項1〜請求項6及び請求項8〜17に係る特許を取り消すことはできない。さらに、他に本件請求項1〜6及び本件請求項8〜17に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 また、請求項7に係る特許は、上記のとおり、本件訂正請求により削除された。これにより、請求項7に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (A)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する高分子量体と、(B)成分:光重合性官能基及び炭素−窒素結合を有する低分子量体と、(C)成分:炭素−窒素結合を有さない光重合性化合物と、(D)成分:光重合開始剤と、を含有し、 前記(C)成分が、脂環式骨格を有する光重合性化合物を含有し、 前記(D)成分が、アシルホスフィンオキサイド系光重合開始剤を含有し、 前記高分子量体は、重量平均分子量が2000以上であり、 前記低分子量体は、重量平均分子量が2000未満であり、 前記(C)成分が、光重合性官能基を少なくとも2つ有する光重合性化合物である、感光性樹脂組成物。 【請求項2】 前記(A)成分が、光重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する高分子量体を含有する、請求項1に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項3】 前記(A)成分が、炭素−窒素結合としてウレタン結合を有する高分子量体を含有する、請求項1又は2に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項4】 前記(A)成分が、鎖状炭化水素骨格、脂環式骨格、及び芳香環骨格からなる群から選ばれる少なくとも1種の骨格を有する高分子量体を合有する、請求項1〜3のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項5】 前記(B)成分が、光重合性官能基として(メタ)アクリロイル基を有する低分子量体を含有する、請求項1〜4のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項6】 前記(B)成分が、炭素−窒素結合としてウレタン結合を有する低分子量体を含有する、請求項1〜5のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項7】(削除) 【請求項8】 (A)成分、(B)成分、(C)成分、及び(D)成分の含有量が、感光性樹脂組成物中の固形分全量を基準として、各々10〜95質量%、3〜70質量%、1〜30質量%、及び0.05〜20質量%である、請求項1〜6のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項9】 更に、(E)成分:熱ラジカル重合開始剤を含有する、請求項1〜6及び8のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項10】 厚み50μmにおける波長365nmの光に対する吸光度が、0.35以下である請求項1〜6、8及び9のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物。 【請求項11】 請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物を用いた感光層を有する、感光性樹脂フィルム。 【請求項12】 基板上に請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物、又は、請求項11に記載の感光性樹脂フィルムを用いて感光層を設ける工程、該感光層の少なくとも一部に活性光線を照射して、光硬化部を形成する工程、及び、該感光層の光硬化部以外の少なくとも一部を除去し、樹脂パターンを形成する工程、を順に有する、硬化物の製造方法。 【請求項13】 更に、前記樹脂パターンを加熱処理する工程を有する、請求項12に記載の硬化物の製造方法。 【請求項14】 前記樹脂パターンの厚みが、70μm以上300μm以下である、請求項12又は13に記載の硬化物の製造方法。 【請求項15】 請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を備える積層体。 【請求項16】 前記硬化物の厚みが、70μm以上300μm以下である、請求項15に記載の積層体。 【請求項17】 請求項1〜6及び8〜10のいずれか1項に記載の感光性樹脂組成物の硬化物を備える電子部品。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-12-22 |
出願番号 | P2016-072451 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
YAA
(G03F)
P 1 651・ 537- YAA (G03F) P 1 651・ 536- YAA (G03F) P 1 651・ 121- YAA (G03F) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
榎本 吉孝 |
特許庁審判官 |
井口 猶二 里村 利光 |
登録日 | 2020-07-13 |
登録番号 | 6733266 |
権利者 | 昭和電工マテリアルズ株式会社 |
発明の名称 | 感光性樹脂組成物、感光性樹脂フィルム、硬化物の製造方法、積層体、及び電子部品 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |
代理人 | 清水 義憲 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 平野 裕之 |
代理人 | 吉住 和之 |
代理人 | 長谷川 芳樹 |