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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  E02B
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  E02B
管理番号 1384062
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-02 
確定日 2022-01-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6747616号発明「防舷構造および水域鋼構造物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6747616号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。 特許第6747616号の請求項1、3ないし9に係る特許を維持する。 特許第6747616号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6747616号(以下「本件特許」という。)の請求項1ないし9に係る特許についての出願は、令和1年7月2日に出願された特願2019−123782号の一部を、令和2年3月6日に新たな特許出願としたものであり、同年8月11日にその特許権の設定登録がされ、同年同月26日に特許掲載公報が発行された。
その後の本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和3年 2月 2日 :特許異議申立人中川賢治(以下「申立人」とい
う。)による請求項1ないし9に係る特許に対
する特許異議の申立て
同年 4月26日付け:取消理由通知
同年 6月28日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求
同年 8月 5日 :申立人による意見書の提出
同年10月 1日 :取消理由通知(決定の予告)
同年 同月28日 :特許権者による意見書の提出及び訂正の請求

なお、令和3年10月28日に訂正の請求がされたことにより、同年6月28日にされた訂正の請求は、特許法第120条の5第7項の規定より取り下げられたものとみなす。
また、特許権者提出の令和3年10月28日付け訂正請求書による訂正は、後記「第2」のとおりであるところ、請求項1に係る訂正については既に意見書を提出する機会を与えており、また、令和3年10月1日付け取消理由通知(決定の予告)の対象であった請求項2を削除するとともに、これに伴い請求項3ないし9を請求項2を引用しないものとする訂正については、当該訂正の内容が実質的な判断に影響を与えるものではないから、申立人に意見書を提出する機会を与えないこととする。

第2 訂正の請求について
1.訂正の内容
令和3年10月28日付け訂正請求書(以下「本件訂正請求書」という。)による訂正の請求(以下「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、「特許第6747616号の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜9について訂正することを求める」というものであり、その訂正の内容は、本件特許に係る願書に添付した特許請求の範囲を、次のように訂正するものである(下線は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「前記鋼材部が連結された炭素鋼材部と、」と記載されているのを、「前記鋼材部が溶接で取り付けられた炭素鋼材部と、」に訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3〜9も同様に訂正する)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3に「前記炭素鋼材部は、前記炭素鋼材部が取り付けられている面から外側に所定距離突出した位置に前記鋼材部が取り付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1または2に記載の水域鋼構造物。」とあるうち、請求項1を引用するものについて「前記炭素鋼材部は、前記炭素鋼材部が取り付けられている面から外側に所定距離突出した位置に前記鋼材部が取り付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の水域鋼構造物。」に訂正する(請求項3の記載を直接的又は間接的に引用する請求項4〜9も同様に訂正する。)。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4に「前記鋼材部は、クラッド鋼で構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水域鋼構造物。」とあるうち、請求項1又は3を引用するものについて「前記鋼材部は、クラッド鋼で構成されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の水域鋼構造物。」に訂正する(請求項4の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜9も同様に訂正する。)。

(5)訂正事項5
特許請求の範囲の請求項5に「前記鋼材部は、ステンレス鋼のみで構成されていることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載の水域鋼構造物。」とあるうち、請求項1又は3を引用するものについて「前記鋼材部は、ステンレス鋼のみで構成されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の水域鋼構造物。」に訂正する(請求項5の記載を直接的又は間接的に引用する請求項6〜9も同様に訂正する。)。

(6)訂正事項6
特許請求の範囲の請求項6に「前記鋼材部は、前記ゴム製防舷材の端部が連結する連結部位、及び当該連結部位間であって前記ゴム製防舷材の内面と対向する位置に配置された平板状ステンレス鋼材であることを特徴とする請求項1〜5のいずれかに記載の水域鋼構造物。」とあるうち、請求項1、3〜5のいずれかを引用するものについて「前記鋼材部は、前記ゴム製防舷材の端部が連結する連結部位、及び当該連結部位間であって前記ゴム製防舷材の内面と対向する位置に配置された平板状ステンレス鋼材であることを特徴とする請求項1、3〜5のいずれかに記載の水域鋼構造物。」に訂正する(請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7〜9も同様に訂正する。)。

(7)訂正事項7
特許請求の範囲の請求項7に「前記ステンレス鋼は、ビッカース硬さが200以上であることを特徴とする請求項1〜6のいずれかに記載の水域鋼構造物。」とあるうち、請求項1、3〜6のいずれかを引用するものについて「前記ステンレス鋼は、ビッカース硬さが200以上であることを特徴とする請求項1、3〜6のいずれかに記載の水域鋼構造物。」に訂正する(請求項7の記載を直接的又は間接的に引用する請求項8、9も同様に訂正する。)。

(8)訂正事項8
特許請求の範囲の請求項8に「前記鋼材部は、二相ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1〜7のいずれかに記載の水域鋼構造物。」とあるうち、請求項1、3〜7のいずれかを引用するものについて「前記鋼材部は、二相ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1、3〜7のいずれかに記載の水域鋼構造物。」に訂正する(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する。)。

(9)訂正事項9
特許請求の範囲の請求項9に「前記ステンレス鋼は、Niを4.0〜9.0質量%、Crを21.5〜27.0質量%、Moを2.5〜4.0質量%、Nを0.1〜0.34質量%含有することを特徴とする請求項1〜8のいずれかに記載の水域鋼構造物。」とあるうち、請求項1、3〜8のいずれかを引用するものについて「前記ステンレス鋼は、Niを4.0〜9.0質量%、Crを21.5〜27.0質量%、Moを2.5〜4.0質量%、Nを0.1〜0.34質量%含有することを特徴とする請求項1、3〜8のいずれかに記載の水域鋼構造物。」に訂正する。

2.訂正の適否の判断
(1)訂正事項1
ア.訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1の鋼材部と炭素鋼材部との連結の態様を「溶接で取り付けられた」ものに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

イ.新規事項の追加について
本件特許の願書に添付した明細書(以下「本件明細書」といい、特許請求の範囲及び図面と併せて「本件明細書等」という。)の段落【0027】には「ステンレス鋼材12は、水域鋼構造物80の炭素鋼材80Aに溶接で取り付けられた平板状のステンレス鋼材である。」と記載され、水域鋼構造物80の炭素鋼材80A(請求項1の炭素鋼材部に相当)は、ステンレス鋼材(請求項1の鋼材部に相当)が溶接で取り付けられたものであることが記載されているから、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであり、新たな技術的事項を追加するものではない。

ウ.特許請求の範囲の拡張・変更について
上記「ア.」のとおり、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2
訂正事項2は、特許請求の範囲の請求項2を削除する訂正であるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載された事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(3)訂正事項3ないし9
訂正事項3ないし9は、訂正前の請求項3ないし9が、請求項2を引用するものであったところ、訂正事項2で請求項2が削除されたのに伴い請求項2を引用しないものに訂正するものであるから、訂正事項3ないし9に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであって、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてするものであることは明らかである。

(4)一群の請求項
訂正事項1に係る訂正前の請求項1及び3ないし9について、請求項3ないし9はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであり、訂正事項2に係る訂正前の請求項2ないし9について、請求項3ないし9はそれぞれ請求項2を引用しているものであって、訂正事項2によって記載が訂正される請求項2に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1及び3ないし9、並びに、請求項2ないし9はそれぞれ一群の請求項である。
そして、当該訂正前の請求項1及び3ないし9と請求項2ないし9とは、共通する請求項3ないし9を介して一体として特許請求の範囲の全部を形成するように連関している関係にあるから(特許法施行規則第45条の4)、訂正前の請求項1ないし9に対応する訂正後の請求項1ないし9は、特許法第120条の5第4項の規定に適合する一群の請求項である。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
よって、訂正後の請求項〔1〜9〕について訂正することを認める。

第3.本件訂正発明
本件訂正後の請求項1ないし9に係る発明は、本件訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし9に記載された事項により特定される、次のとおりのものである(以下、各請求項に係る発明を「本件訂正発明1」などといい、まとめて「本件訂正発明」という。)。

「【請求項1】
船舶が接岸する水域鋼構造物であって、
ゴム製防舷材と、
前記ゴム製防舷材が耐摩耗性ボルトで連結された鋼材部と、
前記鋼材部が溶接で取り付けられた炭素鋼材部と、
を有し、
前記鋼材部のうち、前記耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位を、炭素鋼よりも高い耐食性を有し、ビッカース硬さが170以上のステンレス鋼で構成したことを特徴とする水域鋼構造物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記炭素鋼材部は、前記炭素鋼材部が取り付けられている面から外側に所定距離突出した位置に前記鋼材部が取り付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の水域鋼構造物。
【請求項4】
前記鋼材部は、クラッド鋼で構成されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の水域鋼構造物。
【請求項5】
前記鋼材部は、ステンレス鋼のみで構成されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の水域鋼構造物。
【請求項6】
前記鋼材部は、前記ゴム製防舷材の端部が連結する連結部位、及び当該連結部位間であって前記ゴム製防舷材の内面と対向する位置に配置された平板状ステンレス鋼材であることを特徴とする請求項1、3〜5のいずれかに記載の水域鋼構造物。
【請求項7】
前記ステンレス鋼は、ビッカース硬さが200以上であることを特徴とする請求項1、3〜6のいずれかに記載の水域鋼構造物。
【請求項8】
前記鋼材部は、二相ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1、3〜7のいずれかに記載の水域鋼構造物。
【請求項9】
前記ステンレス鋼は、Niを4.0〜9.0質量%、Crを21.5〜27.0質量%、Moを2.5〜4.0質量%、Nを0.1〜0.34質量%含有することを特徴とする請求項1、3〜8のいずれかに記載の水域鋼構造物。」

第4 特許異議申立理由及び証拠
1.特許異議申立理由の概要
申立人は、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、概ね以下の申立理由を主張するとともに、証拠方法として、以下の「2.」に示す甲各号証及び参考資料を提出している。
申立人は、また、令和3年8月5日付け意見書を提出し、意見書とともに、以下の「3.」に示す参考文献を提出している。

本件特許の請求項1〜9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は甲第1〜7号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものであるから、特許法第29条第1項第3号又は特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

2.申立書に添付して提出された証拠方法
甲第1号証 国土交通省九州地方整備局、「博多港(アイランドシティ地区
)岸壁(−15m)(耐震)築造外1件工事(第2次)」入札
資料、平成18年4月27日
甲第2号証 (株)アロイ、「アロイNEWS第1307号
防舷材取替え用受け架台へのステンレス採用」、
2013年4月11日
甲第3号証 一般財団法人日本規格協会、「JIS G 3106(201
5)溶接構造用圧延鋼材」、2015年
甲第4号証 一般財団法人日本規格協会、「JIS G 4305:201
2冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」、2012年
甲第5号証 特開2016−20625号公報
甲第6号証 一般財団法人日本規格協会、「JIS G 4304:201
5熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(追補1)」、2015年
甲第7号証 「新技術概要説明情報 NETIS登録番号 QS−1200
23−VE 省合金二相ステンレス鋼 2018年2月15日
から適用」、NETIS(新技術情報提供システム)、国土交
通省、令和2年9月28日検索、インターネット
nt?regNo=QS-120023%20>
参考資料1 「官報政府調達公告版」、独立行政法人国立印刷局、
平成18年4月27日
参考資料2 国土交通省九州地方整備局博多港湾・空港整備事務所、
「博多港アイランドシティ地区におけるコンテナバース整備に
ついて」、令和元年7月9日

3.意見書に添付して提出された参考文献
参考文献1 宮越国夫、「ジャケット桟橋(大井コンテナ埠頭新5バース(
耐震強化岸壁))の計画、設計及び施工」、港湾荷役第49巻
第1号、平成16年1月、第126〜131頁
参考文献2 那須太郎他、「東京国際空港D滑走路島ジャケット式桟橋にお
ける100年間の鋼材防食システム」、
土木学会第65回年次学術講演会(平成22年9月)、
第233〜234頁
参考文献3 国土交通省九州地方整備局、「博多港(アイランドシティ地区
)岸壁(−15m)(耐震)築造外1件工事(第2次)」入札
資料図面、平成18年4月27日
参考文献4 長坂康史他、「石垣港ジャケット工事の設計と製作 〜鋼構造
事業の新たなチャレンジ〜」、川田技報 Vol.35、
2016、論文・報告7−1〜7−6

4.甲各号証の記載事項
(1)甲第1号証
ア.甲第1号証の記載
甲第1号証には次の記載がある(当審注:改行位置は適宜改めた。)。

(ア)「九州地方整備局の博多港(アイランドシティ地区)岸壁(−15m)(耐震)築造外1件工事(第2次)に係る入札公告(建設工事)に基づく入札等については、関係法令に定めるもののほか、この入札説明書によるものとする。
1.公告日 平成18年4月27日
(中略)
4.工事概要
(1)工事名 博多港(アイランドシティ地区)岸壁(−15m)(耐震)築造外1件工事(第2次)
(2)工事場所 福岡県福岡市東区香椎浜3丁目地先
(3)工事内容 別冊図面及び別冊仕様書のとおり
(4)工期 平成19年8月10日まで」
(入札説明書1枚目第2〜16行)

(イ)「次のとおり一般競争入札に付します。
平成18年4月27日
(中略)
1 工事概要
(1)品目分類番号 41
(2)工事名 博多港(アイランドシティ地区)岸壁(−15m)(耐震)築造外1件工事(第2次)(電子入札対象案件)
(3)工事場所 福岡県福岡市東区香椎浜3丁目地先
(4)工事内容 本体工 ジャケット製作・架設 2基(約400t/基)
鋼管杭打設 約30本(L=33m〜40m/本 )
土留工 HBL型ブロック製作・据付 10個(546t /個)
(5)工期 平成19年8月10日まで」
(入札公告(建設工事)1枚目第2〜16行)

(ウ)

(縮小図面 ジャケット標準断面図(J4) 図面番号12 断面図 1,3,5,7通り)

(エ)

(縮小図面 防舷材取付部詳細図(J4:その1) 図面番号32 平面図 下面)赤枠は申立人が記入した。

(オ)

(縮小図面 防舷材取付部詳細図(J4:その1) 図面番号32 A−A断面図)

(カ)

(縮小図面 防舷材取付部詳細図(J4:その2) 図面番号33 I−I断面図)

(キ)

(縮小図面 防舷材取付部詳細図(J4:その2) 図面番号33 F−F断面図)

(ク)

(縮小図面 防舷材取付部詳細図(J4:その2) 図面番号33 K−K断面図)

(ケ)



(縮小図面 防舷材取付部詳細図(J4:その2) 図面番号33
防舷材据付誤差調整図及びその注記)(当審注:申立人が記入した枠の一部が縦線として表れている。)

(コ)

(縮小図面 ジャケット標準断面図(J4) 図面番号12 上部工平面図)

イ.参考文献3の記載
参考文献3は、申立人が令和3年8月5日付けの意見書に添付して提出した文献であり、申立書に添付された甲第1号証と同じ入札資料の一部である。
そして、甲第1号証には、入札資料の縮小図面のうち図面番号1、2、11、12、32及び33の図面が含まれていたところ、参考文献3には、同縮小図面のうち図面番号20及び24の図面が含まれる。
参考文献3には次の記載がある。
(ア)

(縮小図面 重防食範囲図(J4:その1) 図面番号20 上部工平面図)

(イ)

(縮小図面 重防食範囲図(J4:その5) 図面番号24 “10“詳細図及びA−A断面図)

(ウ)

(縮小図面 重防食範囲図(J4:その5) 図面番号24 B−B断面図及びa−a断面図)

(エ)

(縮小図面 重防食範囲図(J4:その1) 図面番号20 右下の仕様表)

ウ.甲第1号証及び参考文献3の刊行物性及び公知性
上記「ア.(ア)及び(イ)」の記載からみて、甲第1号証は平成18年4月27日に公告されたものであって、入札を目的として提供された文書であることから、本件特許の出願前に不特定多数の者が見得る状態にあり、頒布され又は頒布され得る状態にあったものと認められる。
また、甲第1号証の右肩に「甲第1号証」と付された頁には、上記「ア.(ア)及び(イ)」の「入札説明書」や「入札公告」とともに各種様式や別紙、図面などの一連の書類が列記されているから、これらの書類は一体として頒布されたものであって、甲第1号証及び参考文献3として提出された入札資料は、一体の刊行物であると認められる。
したがって、以下では、申立書に添付された甲第1号証と令和3年8月5日付けの意見書に添付された参考文献3をまとめて「甲第1号証」という。

エ.甲第1号証の記載から把握できる事項
(ア)上記「ア.(ウ)」の「ジャケット標準断面図」には、その形状及び名称、全体配置図等からみて、「ジャケット(J1ないしJ5ジャケットのうちのJ4ジャケット)」が記載されていると認められる。
そして、上記「ア.(ア)及び(イ)」に「博多港(アイランドシティ地区)岸壁(−15m)(耐震)築造外1件工事(第2次)」)との記載があり、上記「ア.(ウ)」の「ジャケット標準断面図」の図中の「H.W.L.」及び「L.W.L.」がそれぞれ高水位及び低水位を意味することは明らかであるから、上記「ア.(ウ)」の「ジャケット標準断面図」において、「H.W.L.」及び「L.W.L.」の線と重なる位置に示される構造物が「ジャケット」であって、水域に設けられたものであり、その右側の構造物が「岸壁」であると理解できる。また、同図からは、「ジャケット」に相当する構造物と「岸壁」に相当する構造物とが両者の頂部において接している様子が看て取れる。
そうすると、上記「ア.(ウ)」の「ジャケット標準断面図」からは「岸壁に接して水域に設けられたジャケット」を看取することができる。

(イ)上記「ア.(エ)」の「防舷材取付部詳細図」の「平面図 下面」は、その形状及び名称等からみて、上記「ア.(ウ)」の「ジャケット標準断面図」に示される「J4ジャケット」における「防舷材取付部」の下面の平面図であり、上下方向に延びる一点鎖線に「〇3」(当審注:「〇数字」、「〇アルファベット」は、○囲いの中に数字、アルファベットを表す。以下同様。)、「〇7」の符号が付され、左右方向に延びる一点鎖線に「〇A」の符号が付されていることからして、3通り及び7通りの〇A付近の防舷材取付部の平面図である。また、上記「ア.(オ)」の「A−A断面図」は、「ア.(エ)」の「平面図 下面」のA−Aにおける断面図である。
そして、「A−A断面図」中の「φ1434×27」との説明が付された部材は、そのφが直径を表すこと及び「平面図 下面」中に円弧状で表されていることからして「管状部材」であると理解できる。

(ウ)上記「ア.(エ)」の「平面図 下面」と上記「ア.(オ)」の「A−A断面図」の関係は上記(イ)に説示したとおりである。
「A−A断面図」中の「PL−16」との説明が付された複数の部材のうち、部材の下側に「PL−16」と付された説明から上向きの矢印で示された部材(以下「PL−16部材」という。)は、「平面図 下面」においては、一点鎖線の左右において一端が「管状部材」を表す円弧上に、他端が「平面図 下面」の下部の横長さ2000及び厚さ25とされる部材にある二重線でその平面外形が表されていることを看取することができる。そして、当該表記から、「PL−16部材」は、一端が「管状部材」の外面に取り付けられ、「管状部材」から突出する方向に延びていること、その位置等からみて「ジャケット」の一部であることが理解できる。
また、「A−A断面図」には、「PL−16部材」が、「SM490YA」からなることが示されている。

(エ)上記「ア.(カ)」の「I−I断面図」は上記「ア.(エ)」の「平面図 下面」のI−Iにおける断面図である。
「平面図 下面」のA−A及びI−Iは、いずれも、紙面の右側で上下方向に延びており、左方向に矢印が向いていることから、「A−A断面図」及び「I−I断面図」は、「ジャケット」を紙面右側の同じ方向から見たものであって、A−A及びI−Iの間には、「PL−16」以外の部材は存在しないから、「I−I断面図」の「PL−16」は「A−A断面図」の「PL−16」であり、右端まで延びているのが「PL−16部材」であることが理解できる。
そうすると、「I−I断面図」からは、「PL−16部材」の他端(紙面左側端)には「PL−25」との説明が付された部材(以下「PL−25部材」という。)が取り付けられていること、「PL−25部材」は、その位置等からみて「ジャケット」の一部であることを理解することができる。
また、「A−A断面図」には、「PL−25部材」が「SM490YB」からなることが示されている。

(オ)上記「ア.(キ)」の「F−F断面図」は「ア.(カ)」の「I−I断面図」のF−Fにおける断面図であって、「F−F断面図」は「防舷材取付部詳細図(J4:その2)」という名称の図面中の図葉であるから、「F−F断面図」は、「ジャケット」における「防舷材取付部」の詳細を記載したものであると認められる。
そして、当該「F−F断面図」からは、次の点を看取することができる。
a.「ゴム防舷材」、「ライナープレート」及び「PL−25部材」が、「SUS316L」からなる「M48ボルト」で固着されている点。
b.「ライナープレート」が、「SUS316L」からなり、「ゴム防舷材」に接触している点。

(カ)上記「ア.(ク)」の「K−K断面図」は上記「ア.(エ)」の「平面図 下面」のK−Kにおける断面図であり、上記「ア.(カ)」の「I−I断面図」とは直交する方向で、「防舷材据付誤差調用ライナープレート」が取り付けられる側を背面からみた様子が示されている図である。
上記「(エ)及び(オ)」の平面図及び断面図の関係を踏まえると、上記「ア.(ウ)」の「平面図 下面」の下部の「横長さ2000及び厚さ25とされる部材」は「I−I断面図」及び「F−F断面図」の「PL−25部材」であり、「K−K断面図」には、背面からみた「PL−25部材」が表されている。
そして、「I−I断面図」及び「K−K断面図」からは、「PL−25部材」は、背面視で、1700の縦長さ及び2000の横長さの長方形の上側中央部に下辺横長さ1200、上辺横長さ600、縦長さ150の台形を突出させた形状の部材であることを看取することができる。
また、「K−K断面図」には、「φ1650」との説明が付された1点鎖線の円が示され、1点鎖線の円周上には、「6−φ57孔(防舷材取付孔)」との説明が付された小円、及びそれと同様の5つの小円が略等間隔で示されており、「PL−25部材」は、1点鎖線の円の内側全てと重なって配置されていることを看取することができる。
上記事項から、「PL−25部材」には、防舷材取付孔がφ1650の円の円周上に等間隔で配置され、「PL−25部材」は、防舷材取付孔が配置される円の内側全てと重なって配置されていることを理解できる。

(キ)上記「イ.(イ)」の「“10“詳細図」は、上記「イ.(ア)」の上部工平面図において“10“が、上下方向に延びる「〇3」の符号が付された実線と左右方向に延びる「〇A」の符号が付された直線の交点を含む部分であるから、3通りの「〇A」の示す線との交点付近の詳細図であり、上記「(イ)」の検討を踏まえると、「“10“詳細図」に示されるのは上記「ア.(エ)」及び上記「ア.(オ)」に示される防舷材取付部である。また、上記「イ.(イ)」の「A−A断面図」は、同「“10“詳細図」のA−Aにおける断面図であって、管状部材から突出する方向に延びる部分については外部に向いた面が示されている。
そして、上記「イ.(イ)」の「A−A断面図」の管状部材から突出する方向に延びる部分には、「B」との記号が付されるとともに斜線格子模様が付されており、上記「イ.(エ)」の名称及び仕様表を踏まえると、超厚膜エポキシ樹脂による重防食範囲であることが理解できるから、管状部材から突出する方向に延びる部分の、外部に向いた面には、超厚膜エポキシ樹脂による防食がされるといえる。

(ク)上記「(カ)」の検討を踏まえると、上記「イ.(ウ)」の「B−B断面図」左側の部材は「PL−25部材」であり、「B」との記号が付されるとともに斜線格子模様が付されていることから、上記「(キ)」で検討したのと同様、外部に向いた面には、超厚膜エポキシ樹脂による防食がされるといえる。

オ.甲第1号証に記載された発明
上記「ア.及びイ.並びにエ.」を総合すると、甲第1号証には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

「岸壁に接して水域に設けられるジャケットであって、
ジャケットは、一端が管状部材の外面に取り付けられ、管状部材から突出する方向に延びる、SM490YAからなるPL−16部材と、PL−16部材の他端に取り付けられる、SM490YBからなるPL−25部材と、を一部に有し、
管状部材から突出する方向に延びる部分の、外部に向いた面には、超厚膜エポキシ樹脂による防食がされ、
ゴム防舷材、SUS316Lからなりゴム防舷材に接触しているライナープレート及びPL−25部材が、SUS316LからなるM48ボルトで固着されており、
PL−25部材には、防舷材取付孔がφ1650の円の円周上に等間隔で配置され、PL−25部材は、防舷材取付孔が配置される円の内側全てと重なって配置され、PL−25部材の外部に向いた面には、超厚膜エポキシ樹脂による防食がされている、ジャケット。」

(2)甲第2号証
ア.甲第2号証の記載
甲第2号証は、「アロイNEWS」であって、次の記載がある。
(ア)「2013年4月11日発行 第1307号
アロイNEWS 防舷材取替え用受架台へのステンレス採用」(タイトル)

(イ)「SUS316L 工場製作組立状況」の写真画像(中段右))




(ウ)「防舷材受架台の設置状況」の写真画像(下段)




(3)甲第3号証
甲第3号証は、「JIS G 3106(2015)」のJIS規格文書であって、次の記載がある。
ア.「1 適用範囲
この規格は,橋梁,船舶,車両,石油貯槽,容器及びその他の溶接構造物に用いる熱間圧延鋼材(以下,鋼材という。)及び熱間押出形鋼であって,特に溶接性の優れたものについて規定する。」
(第38ページ 「1 適用範囲」の項)

イ.「3 種類及び記号並びに適用厚さ
鋼材の種類は,11種類とし,その記号及び適用厚さは,表1による。」

(第39ページ 「3 種類及び記号並びに適用厚さ」の項)

ウ.

(第40ページ 「4 化学成分」の項)

(4)甲第4号証
甲第4号証は、「JIS G 4305:2012」のJIS規格文書であって、次の記載がある。

ア.「1 適用範囲
この規格は,冷間圧延ステンレス鋼板(以下,板という。)及び冷間圧延ステンレス鋼帯(以下,帯という。)について規定する。」
(第1ページ 「1 適用範囲」の項)

イ.「3 種類の記号
板及び帯の種類は,62種類とし,その種類の記号及び分類は,表1による。

(第2ページ 「3 種類の記号」の項)

ウ.

(第4ページ 表3)

エ.

(第7ページ 表8)

オ.

(第8ページ 6.3 オーステナイト・フェライト系の機械的性質)

カ.

(第9ページ 表11)

(5)甲第5号証
甲第5号証には次の記載がある。
ア.「【発明を実施するための形態】
【0034】
図1は、この発明の第1の実施の形態による防舷材の外観を示す斜投影図であり、図2は、図1に示したII−II線の部分概略断面図である。尚、図2では、防舷材10の中心線(二点鎖線A−A)を境界として、左側に正面図、右側に概略断面図を示している。
【0035】
これらの図を参照して、防舷材10は、船舶の接舷時の衝撃を和らげるための緩衝部12と、緩衝部を岸壁11に取り付けるため岸壁固定部14a、14bとを備えている。
【0036】
緩衝部12は、ゴム(天然ゴム、スチレンブタジエンゴム(SBR)、クロロプレンゴム(CR)等)、弾性を有するポリウレタン等よりなる高分子材料等の弾性体により形成されており、断面視形状が略逆V字型となるよう構成されている。
【0037】
岸壁固定部14a、14bは、鉄材料よりも高い防錆性を有する素材、例えば、ステンレス(SUS304等)や、合成樹脂(ポリエチレン等)等からなる固定部材18a、18bにより構成される。固定部材18a、18bは、岸壁11に接するように平板状に設けられており、岸壁11に接する側と反対の側において緩衝部12の略逆V字の根本部とそれぞれ接続されている。このため、固定部材18a、18bは、外部に露出した状態となっている。尚、緩衝部12と、固定部材18a、18bとは、例えば、接着剤により貼りあわせて接着すればよい。又、緩衝部12をゴム材料から構成する場合、緩衝部12と、固定部材18a、18bとは、加硫接着を行なうことにより一体化すればよい。尚、これに限られず、緩衝部12と、固定部材18a、18bとの接着は、任意の方法を用いることができる。
【0038】
又、岸壁固定部14a、14bは、防舷材10を岸壁11に取り付けるためのボルトを挿通するための4つの貫通孔16a〜16dを備える。貫通孔16a〜16dは、固定部材18a、18bと緩衝部12との接続部分の外側の取付部分において設けられており、固定部材18a、18bを貫通している。尚、図2では、貫通孔16a、16bそれぞれの中心線を一点鎖線にて示している(以下の図面についても同様)。
【0039】
このようにして構成すると、固定部材18a、18bが鉄材料よりも高い防錆性を有するので、固定部材18a、18bの表面及び固定部材18a、18bを貫通する貫通孔16a〜16dが外部に露出している状態にあっても、錆の発生が軽減される。このように、固定部材18a、18bを外部に露出した状態で使用しても錆の発生を軽減できるため、防舷材10の腐食に対する耐久性を向上させることができる。又、固定部材18a、18bの耐久性を向上させると、防舷材の緩衝部12のほうが、劣化が早く進む場合もある(例えば、緩衝部12がゴム材料から構成される場合など)。防舷材の緩衝部12のほうが、早く劣化した場合、古いゴム材料部分を除去して、新たな緩衝部12を固定部材18a、18bに取り付けるなどして、固定部材18a、18bを再利用することも可能である。」

イ.次の図1及び図2は、甲第5号証記載の図を当審で右回りに90度回転したものである。
「【図1】


「【図2】



(6)甲第6号証
甲第6号証は、「JIS G 4304:2015」のJIS規格文書の追補であって、次の記載がある(改行は省略した。)。

ア.「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯(追補1)」
(1枚目)

イ.

(3枚目 表4)

第5 取消理由(決定の予告)について
1.取消理由(決定の予告)の要旨
令和3年6月28日付けの訂正請求により訂正された特許請求の範囲の請求項2ないし9に係る特許に対して、当審が同年10月1日付けで特許権者に通知した取消理由(決定の予告)の要旨は以下のとおりである。

(1)新規性
令和3年6月28日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2、3、5及び6に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項2、3、5及び6に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)進歩性
令和3年6月28日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項2ないし9に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、本件特許出願前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項2ないし9に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

2.取消理由(決定の予告)についての当審の判断
令和3年6月28日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜9において、請求項1、2は、それぞれ独立した記載の請求項であって、請求項3ないし9は請求項1、2のいずれかの記載を引用する請求項であったところ、請求項2に係る特許には取消理由が通知され、請求項1に係る特許には取消理由が通知されていないことから明らかなとおり、請求項3ないし9に係る特許に対する取消理由は、請求項2の記載を直接又は間接的に引用する請求項3ないし9に係る特許に対して通知されたものである。
そして、上記「第2」のとおり、本件訂正における請求項2を削除する訂正により、当審より通知した取消理由の対象とした請求項2は存在しないものとなった。
また、請求項3ないし9において、引用する請求項が、請求項2を含まないものとなったので、本件訂正発明3ないし9に係る特許は、上記取消理由によっては取り消すことができないものとなった。

第6 取消理由通知(決定の予告)において採用しなかった特許異議申立理由について
1.申立人の主張の概要
申立人の申立書における主張は次のとおり整理することができる。
(1)新規性
本件特許発明1〜9は、甲第1号証に記載された発明である。
(2)進歩性
本件特許発明1〜9は、甲第1〜7号証に記載の発明に基づいて当業者が容易になし得たものである。

2.本件訂正発明1についての当審の判断
(1)対比
本件訂正発明1と甲1発明とを対比する。
ア.甲1発明の「ゴム防舷材」は、本件訂正発明1の「ゴム製防舷材」に相当する。

イ.甲1発明の「M48ボルト」は「SUS316Lからなる」ところ、甲第4号証であるJIS G 4305:2012の上記「第4 1.(4)ア.及びイ.」の記載によれば「SUS316L」は「オーステナイト系」の「冷間圧延ステンレス鋼」であることが分かる。そして、オーステナイト系の冷間圧延ステンレス鋼が耐摩耗性を有することは技術常識である。
そうすると、甲1発明の「SUS316Lからなる」「M48ボルト」は、本件訂正発明1の「耐摩耗性ボルト」に相当する。

ウ.甲1発明の「SUS316Lからなる」「ライナープレート」は、上記「イ.」での検討を踏まえると「ステンレス鋼」であって、「ゴム防舷材に接触し」ており、「ゴム防舷材」は、「SUS316Lからなる」「M48ボルト」で「PL−25部材」とともに「ライナープレート」に固着されている。以上を踏まえると、甲1発明の「ゴム防舷材」が「SUS316Lからなる」「M48ボルト」で「PL−25部材」とともに「固着され」た「ライナープレート」は、本件訂正発明1の「ゴム製防舷材が耐摩耗性ボルトで連結された鋼材部」に相当する。

エ.甲1発明のSM490YBからなる「PL−25部材」及びSM490YAからなる「PL−16部材」は、JIS G 3106(2015)である甲第3号証の上記「第4 1.(3)ア.及びイ.」の記載によればSM490YB及びSM490YAは「溶接構造用圧延鋼材」であることが分かるから、「炭素鋼」である。そして、ジャケットの一部である「PL−16部材」及びその「他端に取り付けられ」た「PL−25部材」は、上記「ウ.」で検討したように「PL−25部材」に「M48ボルト」で「ライナープレート」が「固着され」たものである。そうすると、甲1発明の「ライナープレート」が「M48ボルト」で「固着され」た「PL−25部材」と本件訂正発明1の「前記鋼材部が溶接で取り付けられた炭素鋼材部」とは、「鋼材部が取り付けられた炭素鋼材部」で共通する。

オ.甲1発明は「ゴム防舷材、SUS316Lからなりゴム防舷材に接触しているライナープレート及びPL−25部材が、SUS316LからなるM48ボルトで固着されて」いるものであるところ、「SUS316Lからな」る「ライナープレート」は、SUS316LからなるM48ボルトで固着されている部分及びゴム防舷材に接触している部分を含め全て「SUS316Lからな」るものであるから、上記「イ.」での検討を踏まえると「ステンレス鋼」であって、「ステンレス鋼」が炭素鋼よりも高い耐食性を有することは技術常識であるから、甲1発明は、本件訂正発明1の「鋼材部のうち、耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位を、炭素鋼よりも高い耐食性を有し」た「ステンレス鋼で構成した」との発明特定事項を備える。

カ.甲第4号証であるJIS G 4305:2012の表8(上記「第4 1.(4)エ.」参照)において、「SUS316L」の「硬さ」の「HV」の列の数値が「200以下」とされているところ、「HV」が「ビッカース硬さ」を意味することは自明であるから、同表における「SUS316L」の「ビッカース硬さ」は「200以下」とされていることが理解できる。
そうすると、「SUS316Lからなるライナープレート」及び「SUS316LからなるM48ボルト」のビッカース硬さはともに200以下であるといえる。

キ.ゴム防舷材が船舶の接岸のために用いられることは技術常識であるから、甲1発明の「ゴム防舷材、SUS316Lからなりゴム防舷材に接触しているライナープレート及びPL−25部材が、SUS316LからなるM48ボルトで固着され」、「PL−25部材」が「PL−16部材の他端に取り付けられ」たものは、本件訂正発明1の「船舶が接岸する水域鋼構造物」に相当する。

以上を総合すると、本件訂正発明1と甲1発明とは、
「船舶が接岸する水域鋼構造物であって、
ゴム製防舷材と、
前記ゴム製防舷材が耐摩耗性ボルトで連結された鋼材部と、
前記鋼材部が取り付けられた炭素鋼材部と、
を有し、
前記鋼材部のうち、前記耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位を、炭素鋼よりも高い耐食性を有する、ステンレス鋼で構成したことを特徴とする水域鋼構造物。」
の点で一致しており、次の点で相違する。

(相違点1)
本件訂正発明1は、鋼材部が、炭素鋼材部に「溶接で」取り付けられたものであるのに対し、甲1発明は「ライナープレート」が「PL−25部材」に「M48ボルト」で「固着され」て取り付けられたものである点。

(相違点2)
本件訂正発明1においては、鋼材部のうち、耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含むゴム製防舷材と接触する部位のステンレス鋼のビッカース硬さが「170以上」であるのに対して、甲1発明においては、ライナープレートのSUS316Lのビッカース硬さは200以下であるものの、170以上であるかは明らかでない点。

(2)新規性に関する判断
上記「(1)キ.」で検討したように、本件訂正発明1と甲1発明とは相違点1を有し、相違点1は実質的な相違点であるから、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。

(3)進歩性に関する判断
上記相違点1について検討する。
ア.甲1発明は、「ゴム防舷材、SUS316Lからなりゴム防舷材に接触しているライナープレート及びPL−25部材が、SUS316LからなるM48ボルトで固着されて」いるものであるから、甲1発明の「ライナープレート」は、「ゴム防舷材」とともに「SUS316LからなるM48ボルト」で「PL−25部材」に「固着され」ているものといえる。

イ.そして、上記「第4 1.(1)ア.(ケ)」の防舷材据付誤差調整図の注記には、「1.・・・防舷材の法線出入りに対して、ボルト長L、ライナープレート厚tを適切に定めること。」と記載されるとともに、防舷材据付誤差調整図の左側の図には「法線に対して±0mm 16mmプレート×2枚」、中央の図には「法線に対して+50mm」、右側の図には「法線に対して−50mm 16mmプレート×2枚 19mmプレート×2枚」とそれぞれ記載されているから、甲1発明の「ライナープレート」は、防舷材の法線出入りに対応することを主な目的とするものであって、その誤差の多少によって、複数枚重ねて用いられることも、全く用いられないこともある部材であることが理解できる。

ウ.上記「ア.及びイ.」から、甲1発明の「ライナープレート」は、「ゴム防舷材」を「PL−25部材」に「固着」する「M48ボルト」により、防舷材の法線出入りに応じて必要枚数固着される部材であることが理解できる。

エ.ここで、接合のための技術として「溶接」は、例えば、申立人が提出した参考文献1に、耐海水ステンレス鋼ライニングを鋼管へ巻き付けて防食工とする際に「ステンレス鋼を部材にバンドで仮締めしスポット溶接を行い、インダイレクトシーム溶接機で点線のライン溶接を行」い、「端部はティグ溶接を行う」ことが記載されているように、水域鋼構造物の技術分野における周知技術であるといえる。

オ.しかし、上記「ウ.」にて検討したように、甲1発明の「ライナープレート」は、「ゴム防舷材」を「PL−25部材」に「固着」する「M48ボルト」により固着されるものであって、これとは別にライナープレートの固着に特化した固着手段は何ら必要なく、また、「PL−25部材」は、「外部に向いた面には、超厚膜エポキシ樹脂による防食がされ」ており、「ライナープレート」を全く固着しなくてもよいものとなっているものである。

カ.そして、仮に、甲1発明において、「ライナープレート」の固着に上記周知技術である「溶接」を用いるとすると、金属を溶接するための溶接温度はエポキシ樹脂の耐熱温度より一般に高いから、「超厚膜エポキシ樹脂による防食」は、ただちには併用できない。また、「ライナープレート」を複数枚固着する際には、1枚ごとに溶接作業が必要であるから、「ライナープレート」の枚数に略比例して、溶接の作業のための時間と労力を要することとなる。

キ.そうすると、接合のための技術として「溶接」が周知技術であるとしても、該周知技術を甲1発明の「ライナープレート」(鋼材部)の「PL−25部材」(炭素鋼材部)への取り付けに適用する動機付けはなく、甲1発明と周知技術から相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項とすることは、当業者が容易に想到し得たことではない。

ク.甲第2号証は、「防舷材取替え用受架台」を「ステンレス」とするものであって、甲第2号証には相違点1に係る本件訂正発明1の「鋼材部」を「炭素鋼材部」に「溶接」で取り付けることは記載されていない。

ケ.甲第3号証及び甲第4号証はそれぞれ「溶接構造用圧延鋼材」及び「冷間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に係るJIS文書であって、いずれも「水域鋼構造物」に係るものではないから、相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項が記載も示唆もされていないことは明らかである。

コ.甲第5号証は、防舷材の岸壁への取り付けに関するものであって、防舷材の、ゴム等の弾性体により形成される緩衝部を岸壁に取り付けるため岸壁固定部を鉄材料よりも高い防錆性を有するステンレス等とするものであるが、岸壁が「炭素鋼材」であることは記載されておらず、よって、甲第5号証には相違点1に係る本件訂正発明1の「鋼材部」を「炭素鋼材部」に「溶接」で取り付けることは記載されていない。

サ.甲第6号証は「熱間圧延ステンレス鋼板及び鋼帯」に係るJIS文書であり、甲第7号証は「省合金二相ステンレス鋼」に係るウェブページであって、いずれも「水域鋼構造物」に係るものではないから、相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項についての記載も示唆もないことは明らかである。

シ.したがって、甲第2号証ないし甲第7号証には、相違点1に係る本件訂正発明1の発明特定事項が記載も示唆もなく、上記「キ.」の判断は左右されない。
以上のとおりであるから、本件訂正発明1は、甲第1号証ないし甲第7号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ス.以上では、甲1発明の「SUS316Lからなる」「ライナープレート」が本件訂正発明1の「鋼材部」に相当するとして検討してきたが、以下、甲第1号証の水域鋼構造物において、ライナープレートが固着されない場合に、「第4 4.(1)ア.(キ)」のF−F断面図に示された「耐海水ステンレス鋼」が、本件訂正発明1の「鋼材部」に相当するとした場合(令和3年8月5日付け意見書第5頁第1〜7行)の新規性及び進歩性について検討する。

セ.本件訂正発明1の「鋼材部」は、「鋼材部のうち、前記耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位を、炭素鋼よりも高い耐食性を有し、ビッカース硬さが170以上のステンレス鋼で構成した」ものである。

ソ.本件訂正発明1の「鋼材部」が上記「セ.」のように特定される趣旨は、本件明細書段落【0011】に「・・・防食被覆の表面にゴム製防舷材を取り付けてなる従来の防舷構造そのものを抜本的に改めないと、水域鋼構造物の防舷構造の耐久性を改善することはできないという考えに至り、本発明をするに至った。」と記載されることからみて、鋼材部を「ゴム製防舷材と接触する部位」よりも広い範囲にわたって取り付け、「前記耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位」を「炭素鋼よりも高い耐食性を有し、ビッカース硬さが170以上のステンレス鋼で構成した」ものとすることにより、防食被覆の損傷がなく耐久性が改善された水域鋼構造物を得ることにあると認められる。

タ.一方、甲第1号証の「耐海水ステンレス鋼」は、「炭素鋼よりも高い耐食性を有し、」「ステンレス鋼で構成した」ものではあるものの、ボルト孔まわりに設けられる部材であって、防食被覆の損傷がないように「前記耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位」に配置されるものではない。また、甲第1号証の「耐海水ステンレス鋼」を「前記耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位」にまで拡大することについて、甲第1ないし7号証のいずれにも記載も示唆も無い。

チ.そうすると、甲第1号証に記載された発明の「耐海水ステンレス鋼」が、本件訂正発明1の「鋼材部」に相当するとした場合においても、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明及び周知技術から当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

(4)小括
相違点1については以上のとおりであるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件訂正発明1は、甲第1号証に記載された発明ではない。
また、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明及び周知技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

2.本件訂正発明2ないし7についての当審の判断
本件訂正発明3ないし7は、本件訂正発明1の発明特定事項をすべて含み、さらに他の発明特定事項を追加して限定したものであるから、上記「1.」と同様の理由により、甲第1号証に記載された発明ではなく、甲第1号証に記載された発明に基いて、または、甲第1号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。
なお、請求項2は、本件訂正によって削除されている。

第7 むすび
以上のとおり、取消理由通知(決定の予告)に記載した取消理由及び申立人が申し立てた特許異議申立理由及び証拠によっては、本件訂正発明1、3ないし9に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1、3ないし9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の特許請求の範囲の請求項2は、本件訂正により削除された。これにより、申立人による特許異議申立てについて、請求項2に係る申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったため、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
船舶が接岸する水域鋼構造物であって、
ゴム製防舷材と、
前記ゴム製防舷材が耐摩耗性ボルトで連結された鋼材部と、
前記鋼材部が溶接で取り付けられた炭素鋼材部と、
を有し、
前記鋼材部のうち、前記耐摩耗性ボルトでの連結位置近傍を含む前記ゴム製防舷材と接触する部位を、炭素鋼よりも高い耐食性を有し、ビッカース硬さが170以上のステンレス鋼で構成したことを特徴とする水域鋼構造物。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
前記炭素鋼材部は、前記炭素鋼材部が取り付けられている面から外側に所定距離突出した位置に前記鋼材部が取り付けられるように構成されていることを特徴とする請求項1に記載の水域鋼構造物。
【請求項4】
前記鋼材部は、クラッド鋼で構成されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の水域鋼構造物。
【請求項5】
前記鋼材部は、ステンレス鋼のみで構成されていることを特徴とする請求項1又は3に記載の水域鋼構造物。
【請求項6】
前記鋼材部は、前記ゴム製防舷材の端部が連結する連結部位、及び当該連結部位間であって前記ゴム製防舷材の内面と対向する位置に配置された平板状ステンレス鋼材であることを特徴とする請求項1、3〜5のいずれかに記載の水域鋼構造物。
【請求項7】
前記ステンレス鋼は、ビッカース硬さが200以上であることを特徴とする請求項1、3〜6のいずれかに記載の水域鋼構造物。
【請求項8】
前記鋼材部は、二相ステンレス鋼であることを特徴とする請求項1、3〜7のいずれかに記載の水域鋼構造物。
【請求項9】
前記ステンレス鋼は、Niを4.0〜9.0質量%、Crを21.5〜27.0質量%、Moを2.5〜4.0質量%、Nを0.1〜0.34質量%含有することを特徴とする請求項1、3〜8のいずれかに記載の水域鋼構造物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-04 
出願番号 P2020-039148
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (E02B)
P 1 651・ 113- YAA (E02B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 長井 真一
特許庁審判官 森次 顕
土屋 真理子
登録日 2020-08-11 
登録番号 6747616
権利者 JFEエンジニアリング株式会社
発明の名称 防舷構造および水域鋼構造物  
代理人 特許業務法人MTS国際特許事務所  
代理人 高矢 諭  
代理人 藤田 崇  
代理人 高矢 諭  
代理人 藤田 崇  
代理人 特許業務法人MTS国際特許事務所  
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