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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C03C
審判 全部申し立て 2項進歩性  C03C
管理番号 1384068
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-10 
確定日 2022-01-06 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6738243号発明「ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランクおよび光学素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6738243号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。 特許第6738243号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6738243号(以下、「本件特許」という。)は、平成28年8月31日の出願であって、令和2年7月21日にその特許権の設定登録がされ、同年8月12日に特許掲載公報が発行された。その特許についての特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 3年 2月10日 :特許異議申立人 石田 祥子(以下「申立
人」という。)による請求項1〜7に係る
特許に対する特許異議の申立て
同年 4月20日付け:取消理由通知
同年 7月27日 :特許権者による意見書及び訂正請求書の提


なお、令和3年8月17日付けで通知書(訂正請求があった旨の通知)を申立人に送付したが、申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年7月27日提出の訂正請求書における訂正請求(以下、「本件訂正請求」といい、本件訂正請求による訂正を「本件訂正」という。)は、次の訂正事項1、2からなる(下線部は訂正箇所を示す。)。

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1について、「B3+とSi4+との合計含有量が35.0〜53.0%の範囲であり」との記載を「B3+とSi4+との合計含有量が35.0〜47.0%の範囲であり」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。)。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項1について、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が30.0〜50.0%の範囲であり」との記載を「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が33.0〜50.0%の範囲であり」に訂正する(請求項1の記載を直接的又は間接的に引用する請求項2〜7も同様に訂正する。)。

(3)一群の請求項について
訂正前の請求項1の記載を請求項2〜7が引用する関係にあるから、訂正前の請求項1〜7は一群の請求項であるところ、本件訂正事項1、2に係る特許請求の範囲の訂正は、特許法第120条の5第4項の規定に従い、この一群の請求項〔1〜7〕を訂正の単位として請求されたものである。

2 訂正要件(訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について)の判断
(1)訂正事項1について
訂正事項1は、本件訂正前の請求項1について「B3+とSi4+との合計含有量」の数値範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「B3+とSi4+との合計含有量」が「47.0%」以下であることは本件特許に係る明細書(以下、「本件明細書」という。)の段落【0030】に記載されているから、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項1は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(2)訂正事項2について
訂正事項2は、本件訂正前の請求項1について「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」の数値範囲を減縮するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
また、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が「33.0%」以上であることは本件明細書の段落【0031】に記載されているから、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
さらに、訂正事項2は、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではなく、また、当該訂正事項により、訂正前の特許請求の範囲には含まれないとされていた発明が訂正後の特許請求の範囲に含まれることとなるという事情は認められないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。

(3)独立特許要件について
特許異議申立ては、本件訂正前の全ての請求項1〜7についてされているので、訂正事項1、2に関して、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の独立特許要件は課されない。

3 小括
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜7〕について訂正することを認める。

第3 特許異議の申立てについて
1 本件発明
本件訂正請求が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件訂正請求により訂正された請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」といい、まとめて「本件発明」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される次のとおりのものである(下線部は訂正箇所を示す。)。

「【請求項1】
アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、屈折率ndがアッベ数νdに対して式(1):
nd≧−1.0000×10−2×νd+2.2726 ・・・(1)
を満たし、
カチオン%表示のガラス組成において、
B3+とSi4+との合計含有量が35.0〜47.0%の範囲であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が33.0〜50.0%の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3.0〜20.0%の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量のカチオン比{(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.56〜5.20の範囲であり、
B3+とSi4+との合計含有量に対するZn2+含有量のカチオン比{Zn2+/(B3++Si4+)}が0.001〜0.200の範囲であり、
B3+含有量に対するLa3+含有量のカチオン比(B3+/La3+)が1.165以下であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するGd3+含有量のカチオン比{Gd3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)}が0.10以下であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するY3+含有量のカチオン比{Y3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)}が0.03〜0.50の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比{Ti4+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が0.20〜0.70の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTa5+含有量のカチオン比{Ta5+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が0.10以下であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するW6+含有量のカチオン比{W6+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が0.20以下であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)}が1.40以下であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.50〜5.70の範囲であり、かつ
表1に記載のカチオン成分について、各カチオン成分の含有量に表1に記載の係数を掛けた値の合計Aが屈折率ndに対して式(2):
A≦137.778×nd−175.033 ・・・(2)
を満たす酸化物ガラスであるガラス。
【表1】

【請求項2】
Zr4+含有量が2.0〜10.0カチオン%の範囲である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
B3+とSi4+との合計含有量に対するB3+含有量のカチオン比{B3+/(B3++Si4+)}が0.40〜0.95の範囲である、請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
B3+、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+、Si4+、Zn2+、Zr4+、Ti4+、Nb5+、Ta5+、W6+、Al3+、P5+、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびBi3+の合計含有量が90.0カチオン%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。」

2 取消理由の概要
令和3年4月20日付けの取消理由通知で通知した取消理由の概要は、次のとおりである。

(1)取消理由1(サポート要件)
ア 本件発明の課題は、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、かつnd≧−1.0000×10−2×νd+2.2726(式(1))の関係を満たし、かつ光学素子の軽量化に寄与するガラスを提供することであると認められる。

イ 「B3+とSi4+との合計含有量」の範囲について
本件特許に係る出願時の技術常識に照らすと、本件訂正前の請求項1に係る発明の「B3+とSi4+との合計含有量」が47.48%においては、式(1)の関係を満たさなくなる蓋然性が高いから、本件明細書の記載から、本件訂正前の請求項1に係る発明の「B3+とSi4+との合計含有量」が35.0〜53.0%の全ての範囲において、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、かつ式(1)の関係を満たすことを当業者が認識できない。

ウ 「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」について
本件特許に係る出願時の技術常識に照らすと、本件訂正前の請求項1に係る発明の「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が36.81%においては、式(1)の関係を満たさなくなる蓋然性が高いから、本件明細書の記載から、本件訂正前の請求項1に係る発明の「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が30.0〜50.0%の全ての範囲において、アッベ数νdが35.5以上39未満であり、かつ式(1)の関係を満たすことを当業者が認識できない。

エ したがって、本件訂正前の請求項1〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当するため取り消されるべきものである。

<技術常識を認定するにあたって参酌した証拠>
甲第2号証:上原進、“光学ガラスの高屈折率化”、光学、2013年、第42巻、第7号、p.345〜350

3 特許異議申立理由の概要
申立人が主張する特許異議申立理由は、概略、以下のとおりである。

(1)申立理由1(進歩性
本件訂正前の請求項1〜7に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件訂正前の請求項1〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号に該当するため取り消されるべきものである(特許異議申立書第6頁3行〜第19頁下から7行)。

(2)申立理由2(サポート要件)
ア 「B3+とSi4+との合計含有量」の範囲について
本件訂正前の請求項1に係る発明において、「B3+とSi4+との合計含有量」は35.0〜53.0%と特定されているが、実施例においては「B3+とSi4+との合計含有量」は41.93〜45.48%という限られた範囲になっている。
「B3+とSi4+との合計含有量」が上限である53%となるように、La3+等の希土類化合物やNb5+等の遷移金属化合物をB3+、Si4+等のネットワークフォーマーと置換した場合、甲第2号証を参照すると約0.03程度の屈折率の減少が見込まれるから、本件訂正前の請求項1に係る発明の式(2)を満たさなくなる蓋然性が高い。
他方、「B3+とSi4+との合計含有量」が下限である35%となるように、B3+、Si4+等のネットワークフォーマーをLa3+等の希土類化合物やNb5+等の遷移金属化合物で置換すると、急激な耐失透性低下が当然予測されるので、ガラスが製造できる蓋然性が高いとは言えない。

イ 「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」について
本件訂正前の請求項1に係る発明において、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」は、3.0〜20.0%と特定されているが、実施例においては「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」は9.69〜10.30%という限られた範囲になっている。
「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が上限である20.0%となるように、La3+等の希土類化合物やB3+等のネットワークフォーマーをTi4+、Nb5+、Ta5+、W6+と置換した場合、甲第2号証を参照すると約5程度のアッベ数の減少が予測されるから、本件訂正前の請求項1に係る発明の「アッベ数νdが35.5以上39.0未満」を満たさなくなる蓋然性が高い。

ウ 「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」について
本件訂正前の請求項1に係る発明において、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」は、30.0〜50.0%と特定されているが、実施例においては「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」は37.81〜41.79%という限られた範囲になっている。
「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が上限である50%となるように、Ti4+、Nb5+、Ta5+、W6+とB3+等のネットワークフォーマーをLa3+、Gd3+、Y3+、Yb3+と置換した場合、ネットワークフォーマーの大きな減少による耐失透性の低下が予測されるので、ガラスが製造できる蓋然性が高いとは言えない。
「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が下限である30.0%となるように、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+をネットワークフォーマーと置換した場合、甲第2号証を参照すると、屈折率の大きな減少が予測され、その他の成分と置換するとアッベ数が大きく減少することが予測されるので、式(2)を満たさなくなる蓋然性が高い。

エ したがって、本件訂正前の請求項1〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号に該当するため取り消されるべきものである(特許異議申立書第19頁下から6行〜第23頁7行)。

<甲号証一覧>
甲第1号証:特開2014−62024号公報
甲第2号証:上原進、“光学ガラスの高屈折率化”、光学、2013年、第42巻、第7号、p.345〜350

4 甲号証の記載内容について
(1)甲第1号証の記載内容及び引用発明
ア 甲第1号証の記載内容
甲第1号証には、以下の記載がある(当審注:「…」は当審による省略を意味する。以下も同様。)。

(ア)「【請求項1】
質量%でB2O3成分を1.0〜30.0%及びLa2O3成分を10.0〜60.0%含有し、Y2O3成分の含有量が30.0%以下である光学ガラス。
【請求項2】
質量%で
Gd2O3成分 0〜40.0%
Yb2O3成分 0〜20.0%
である請求項1に記載の光学ガラス。
【請求項3】
Ln2O3成分(式中、LnはLa、Gd、Y、Ybからなる群より選択される1種以上)の質量和が30.0%以上70.0%以下である請求項1又は2に記載の光学ガラス。
【請求項4】
質量比(Gd2O3+Yb2O3)/(La2O3+Y2O3)が0.50以下である請求項1から3のいずれかに記載の光学ガラス。

【請求項7】
質量%で
WO3成分 0〜25.0%
Nb2O5成分 0〜20.0%
TiO2成分 0〜20.0%
である請求項1から6のいずれかに記載の光学ガラス。

【請求項9】
質量%で、SiO2成分の含有量が20.0%以下である請求項1から8のいずれかに記載の光学ガラス。

【請求項16】
質量%で

ZrO2成分 0〜15.0%
ZnO成分 0〜15.0%

Sb2O3成分 0〜1.0%
である請求項1から15のいずれか記載の光学ガラス。」

(イ)「【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであって、その目的とするところは、屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にあり、且つ光学機器の軽量化に寄与しうる安定なガラスを、より安価に得ることにある。」

(ウ)「【0034】
<必須成分、任意成分について>
B2O3成分は、ガラス形成酸化物として欠かすことの出来ない必須成分である。
特に、B2O3成分を1.0%以上含有することで、ガラスの耐失透性を高められ、且つガラスの分散を小さくできる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは8.5%、さらに好ましくは10.5%を下限とする。
一方、B2O3成分の含有量を30.0%以下にすることで、より大きな屈折率を得易くでき、化学的耐久性の悪化を抑えられる。従って、B2O3成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%を上限とする。
B2O3成分は、原料としてH3BO3、Na2B4O7、Na2B4O7・10H2O、BPO4等を用いることができる。
【0035】
La2O3成分は、ガラスの屈折率を高め、分散を小さく(アッベ数を大きく)する成分である。特に、La2O3成分を10.0%以上含有することで、所望の高屈折率を得ることができる。従って、La2O3成分の含有量は、好ましくは10.0%、より好ましくは20.0%、さらに好ましくは26.0%、さらに好ましくは34.0%、さらに好ましくは39.0%を下限とする。
一方、La2O3成分の含有量を60.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、La2O3成分の含有量は、好ましくは60.0%、より好ましくは58.0%、さらに好ましくは56.0%を上限とする。
La2O3成分は、原料としてLa2O3、La(NO3)3・XH2O(Xは任意の整数)等を用いることができる。
【0036】
Y2O3成分は、0%超含有する場合に、高屈折率及び高アッベ数を維持しながらも、ガラスの材料コストを抑えられ、且つ比重を低減できる任意成分である。このY2O3成分は、希土類元素の中でも材料コストが安く、他の希土類元素に比べて比重を低減し易いため、本発明の光学ガラスにとって有用である。従って、Y2O3成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%超、さらに好ましくは1.0%超としてもよい。
一方で、Y2O3成分の含有量を30.0%以下にすることで、ガラスの屈折率の低下を抑えられ、且つガラスの耐失透性を高められる。従って、Y2O3成分の含有量は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは20.0%を上限とする。
Y2O3成分は、原料としてY2O3、YF3等を用いることができる。
【0037】
Gd2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つアッベ数を高められる任意成分である。
一方で、希土類元素の中でも特に高価なGd2O3成分を40.0%以下に低減することで、ガラスの材料コストが低減されるため、より安価な光学ガラスを作製できる。また、これによりガラスのアッベ数の必要以上の上昇を抑えられる。従って、Gd2O3成分の含有量は、それぞれ好ましくは40.0%、より好ましくは30.0%、さらに好ましくは20.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは10.0%未満とする。
Gd2O3成分は、原料としてGd2O3、GdF3等を用いることができる。
【0038】
Yb2O3成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、且つ分散を小さくできる任意成分である。
一方で、Yb2O3成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの耐失透性を高められる。従って、Yb2O3成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは10.0%、さらに好ましくは5.0%を上限とする。
Yb2O3成分は、原料としてYb2O3等を用いることができる。

【0045】
TiO2成分は、0%超含有する場合に、ガラスの屈折率を高め、アッベ数を低く調整し、且つ耐失透性を高められる任意成分である。そのため、TiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは0.5%、さらに好ましくは1.0%を下限としてもよい。
一方で、TiO2の含有量を20.0%以下にすることで、ガラスの着色を低減して可視光透過率を高め、ガラスのアッベ数の必要以上の低下を抑えられる。また、TiO2成分の過剰な含有による失透を抑えられる。従って、TiO2成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは18.0%、さらに好ましくは15.0%を上限とし、さらに好ましくは10.0%未満とする。
TiO2成分は、原料としてTiO2等を用いることができる。

【0048】
SiO2成分は、0%超含有する場合に、熔融ガラスの粘度を高め、ガラスの着色を低減でき、且つ耐失透性を高められる任意成分である。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは0%超、より好ましくは1.0%、さらに好ましくは3.0%を下限としてもよい。
一方で、SiO2成分の含有量を20.0%以下にすることで、ガラス転移点の上昇を抑え、且つ屈折率の低下を抑えることができる。従って、SiO2成分の含有量は、好ましくは20.0%、より好ましくは15.0%、さらに好ましくは10.0%、さらに好ましくは8.0%を上限とする。
SiO2成分は、原料としてSiO2、K2SiF6、Na2SiF6等を用いることができる。
【0049】
ここで、B2O3成分及びSiO2成分の含有量の和(質量和)は、1.0%以上30.0%以下が好ましい。
特に、この和を1.0%以上にすることで、B2O3成分やSiO2成分の欠乏による耐失透性の低下を抑えられる。従って、質量和(B2O3+SiO2)は、好ましくは1.0%、より好ましくは5.0%、さらに好ましくは10.0%を下限とする。
一方で、この和を30.0%以下にすることで、これらの成分の過剰な含有による屈折率の低下が抑えられるので、所望の高屈折率を得易くできる。従って、質量和(B2O3+SiO2)は、好ましくは30.0%、より好ましくは25.0%、さらに好ましくは21.0%を上限とする。」

(エ)「【0071】
[物性]
本発明の光学ガラスは、高屈折率及び高アッベ数(低分散)を有することが好ましい。特に、本発明の光学ガラスの屈折率(nd)は、好ましくは1.75、より好ましくは1.80、さらに好ましくは1.85を下限とする。この屈折率の上限は、好ましくは2.20、より好ましくは2.15、さらに好ましくは2.10であってもよい。また、本発明の光学ガラスのアッベ数(νd)は、好ましくは23、より好ましくは25、さらに好ましくは28、さらに好ましくは30、さらに好ましくは31、さらに好ましくは32を下限とし、好ましくは50、より好ましくは45を上限とし、さらに好ましくは39未満とする。
このような高屈折率を有することで、光学素子の薄型化を図っても大きな光の屈折量を得ることができる。また、このような低分散を有することで、単レンズであっても光の波長による焦点のずれ(色収差)が小さくなる。加えて、このような低分散を有することで、例えば高分散(低いアッベ数)を有する光学素子と組み合わせた場合に、高い結像特性等を図ることができる。
従って、本発明の光学ガラスは、光学設計上有用であり、特に高い結像特性等を図りながらも、光学系の小型化を図ることができ、光学設計の自由度を広げることができる。
【0072】
また、本発明の光学ガラスは、比重が小さいことが好ましい。より具体的には、本発明の光学ガラスの比重は5.50[g/cm3]以下である。これにより、光学素子やそれを用いた光学機器の質量が低減されるため、光学機器の軽量化に寄与することができる。従って、本発明の光学ガラスの比重は、好ましくは5.50、より好ましくは5.40、好ましくは5.30を上限とする。…
【0073】
本発明の光学ガラスは、耐失透性が高いこと、より具体的には、低い液相温度を有することが好ましい。すなわち、本発明の光学ガラスの液相温度は、好ましくは1300℃、より好ましくは1290℃、さらに好ましくは1280℃を上限とする。これにより、より低い温度で熔融ガラスを流出しても、作製されたガラスの結晶化が低減されるため、特に熔融状態からガラスを形成したときの失透を低減でき、ガラスを用いた光学素子の光学特性への影響を低減できる。…」

(オ)「【実施例】
【0078】
本発明の実施例(No.1〜No.132)及び比較例(No.A)の組成、並びに、これらのガラスの屈折率(nd)、アッベ数(νd)、部分分散比(θg,F)、液相温度、分光透過率が5%及び70%を示す波長(λ5及びλ70)並びに比重の結果を表1〜表19に示す。なお、以下の実施例はあくまで例示の目的であり、これらの実施例のみ限定されるものではない。

【0101】
【表18】



イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載を、実施例124の「ガラス」に注目して整理すると、甲第1号証には、以下の発明が記載されている(以下、甲1発明という。)。

「質量%でB2O3成分を13.03%及びLa2O3成分を47.94%含有し、Y2O3成分が10.28%、WO3成分が2.32%、Nb2O5成分が7.65%、TiO2成分が3.32%、SiO2成分が7.01%、ZrO2成分が5.27%、ZnO成分が3.16%、Sb2O3成分が0.02%であり、アッベ数が37.3、屈折率が1.8913である光学ガラス。」

(2)甲第2号証の記載内容
甲第2号証には、下記の事項が記載されている。
ア 「図7に,ある光学ガラスにおいて酸化ランタン成分から各成分に置換した場合の,屈折率ndとアッベ数νdの変化量を示す.」(第348頁左欄16行〜右欄1行)

イ 「

」(第348頁、図7)

5 当審の判断
(1)取消理由1、申立理由2(サポート要件)について
ア 本件発明の課題について
本件明細書には、【発明が解決しようとする課題】の項目に以下の事項が記載されている。
「【0008】
以上の点に関して本発明者が検討を重ねる中で、高屈折率低分散ガラスについて従来知られていたガラスの組成調整では、高屈折率化、低分散化および低比重化という3つの特性をいずれも満たすことが困難な領域があることが判明した。かかる領域とは、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、かつ光学特性マップにおいて、右肩上がりの直線−1.0000×10−2×νd+2.2726の直線上および直線よりも屈折率が高い領域である。即ち、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、nd≧−1.0000×10−2×νd+2.2726の関係を満たし、かつ光学素子の軽量化に寄与し得るガラスを得ることは、従来困難であった。
【0009】
本発明の一態様は、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、かつnd≧−1.0000×10−2×νd+2.2726の関係を満たし、かつ光学素子の軽量化に寄与するガラスを提供することを目的とする。」

そうすると、上記記載から、本件発明の課題は、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、かつnd≧−1.0000×10−2×νd+2.2726(式(1))の関係を満たし、かつ光学素子の軽量化に寄与するガラスを提供することであると認められる。

イ 本件発明1について
(ア)特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号所定のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを比較し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識し得る範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らして当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断するのが相当である。
そこで、これを本件発明1に当てはめると、本件発明1は、上記1に記載したとおり、ガラス組成の範囲(組成要件)と、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、かつ式(1)及び式(2)の関係を満たすこと(物性要件)を特定した発明といえるところ、このような組成要件と物性要件により特定された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であるというためには、組成要件により特定されるガラスが、発明の詳細な説明に記載されていることに加えて、組成要件で特定されるガラスが高い蓋然性をもって物性要件を満たし得るものであることを、発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることを要する。
したがって、以下では、この観点で検討を行う。

(イ)「B3+とSi4+との合計含有量」の範囲について
a 上記1に記載されるとおり、本件発明1は、「B3+とSi4+との合計含有量」が35.0〜47.0%(「%」はカチオン%を意味する。以下、単に「%」と記載する場合についても同様である。)の範囲であるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0098】〜【0107】に実施例1−1〜34が記載されており、これらの実施例は、「B3+とSi4+との合計含有量」が、41.93%(実施例1−13)から45.48%(実施例1−9)の範囲内のものであり、アッベ数νdが37.04(実施例1−16等)〜37.42(実施例1−8)の範囲内であり、屈折率ndも式(1)及び式(2)の関係を満たしている。
したがって、上記実施例の記載によって、「B3+とSi4+との合計含有量」が41.93〜45.48%の範囲内では、上記物性要件を満たすことが裏付けられている。

b そして、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0044】、【0048】〜【0050】等の記載を考慮してY3+やZn2+の一部をB3+やLa3+に置き換えるといったガラス成分の置き換えを適宜行うことによって、実施例によって裏付けられた41.93〜45.48%の範囲を中心にして、これと近接する35.0〜47.0%の範囲で高い蓋然性をもって上記物性要件を満たし得るものであることは発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることであり、これを否定する具体的な根拠もない。
なお、特許権者が令和3年7月27日提出の意見書に添付して提出する乙第2号証(実験成績証明書)には、ガラス9−1として、「B3+とSi4+との合計含有量」が47.00%の光学ガラスが本件発明の物性要件を満たすことが記載されており、このような当業者の認識を支持するものである。

c また、「B3+とSi4+との合計含有量」が35.0〜47.0%の範囲の下限である35.0%付近において、耐失透性の低下が予測されるとしても、ガラスが製造できないとする証拠はない。

d したがって、「B3+とSi4+との合計含有量」が35.0〜47.0%の範囲内において高い蓋然性をもって上記物性要件を満たし得るガラスを製造できることを当業者が認識できる。

(ウ)「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の範囲について
a 上記1に記載されるとおり、本件発明1は、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が3.0〜20.0%の範囲であるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0098】〜【0107】に実施例1−1〜34が記載されており、これらの実施例は、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が、9.69%(実施例1−2等)から10.30%(実施例1−17等)の範囲内のものであり、アッベ数νdが37.04(実施例1−16等)〜37.42(実施例1−8)の範囲内であり、屈折率ndも式(1)及び式(2)の関係を満たしている。
したがって、上記実施例の記載によって、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が9.69〜10.30%の範囲内では、上記物性要件を満たすことが裏付けられている。

b ところで、上記1に記載されるとおり、本件発明1は、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が33.0〜50.0%の範囲」であり、「カチオン比{(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.56〜5.20の範囲」であるものであるから、これらから「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の下限を算出すると、約6.3%となる。
また、「B3+とSi4+との合計含有量」、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」及び「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」をすべて足したものは100%以下になることと、上記1に記載されるとおり、本件発明1は、「カチオン比{(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.56〜5.20の範囲」であり、「カチオン比{(B3++Si4+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.50〜5.70の範囲」であることから、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」の上限を算出すると、約12.4%となる。
そうすると、本件発明1では、実質的に、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」は、約6.3〜約12.4%の範囲の値しか取り得ない。

c そして、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0030】〜【0042】等の記載を考慮して、ガラス成分の置き換えを適宜行うことによって、実施例によって裏付けられた9.69〜10.30%の範囲を中心にして、これと近接し、実質的に取り得る約6.3〜約12.4%の範囲で高い蓋然性をもって上記物性要件を満たし得るものであることは発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることであり、これを否定する具体的な根拠もない。

d したがって、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が3.0〜20.0%の範囲内において高い蓋然性をもって上記物性要件を満たし得るガラスを製造できることを当業者が認識できる。

(エ)「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」について
a 上記第1に記載されるとおり、本件特許発明1は、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が33.0〜50.0%の範囲であるものである。
本件明細書の発明の詳細な説明には、段落【0098】〜【0107】に実施例1−1〜34が記載されており、これらの実施例は、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が、37.81%(実施例1−3等)から41.79%(実施例1−25等)の範囲内のものであり、アッベ数νdが37.04(実施例1−16等)〜37.42(実施例1−8)の範囲内であり、屈折率ndも式(1)及び式(2)の関係を満たしている。
したがって、上記実施例の記載によって、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が37.81〜41.79%の範囲内では、上記物性要件を満たすことが裏付けられている。

b そして、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0039】、【0048】、【0050】、【0052】等の記載を考慮してY3+やTi4+の一部をZn3+に置き換えるといったガラス成分の置き換えを適宜行うことによって、実施例によって裏付けられた37.81〜41.79%の範囲を中心にして、これと近接する33.0〜50.0%の範囲で高い蓋然性をもって上記物性要件を満たし得るものであることは発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から当業者が認識できることであり、これを否定する具体的な根拠もない。
なお、乙第2号証(実験成績証明書)には、ガラス3−1として、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が34.81%の光学ガラスが本件発明の物性要件を満たすことが記載されており、このような当業者の認識を支持するものである。

c また、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が33.0〜50.0%の範囲の上限である50.0%付近において、耐失透性の低下が予測されるのは当然であるとしても、ガラスが製造できないとする証拠はない。

d したがって、「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が33.0〜50.0%範囲内において高い蓋然性をもって上記物性要件を満たし得るガラスが製造できることを当業者が認識できる。

(オ)以上のとおり、本件発明1のガラス組成の範囲は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件特許に係る出願時の技術常識から、高い蓋然性をもって、アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、かつ式(1)及び式(2)の関係を満たし得るものであることを当業者が認識できるものであるから、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものではない。

ウ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1をさらに限定したものであるから、上記イと同様に、本件発明2〜7は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものではない。

エ 小活
以上のとおりであるから、取消理由1、申立理由2に理由はない。

(2)申立理由1(進歩性)について
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の組成は、カチオン%で表すと、B3+が35.08%、Si4+が10.93%、La3+が27.58%、Y3+が8.53%、Ti4+が3.89%、Nb5+が5.39%、W6+が0.94%、Zn2+が3.64%、Zr4+が4.01%、Sb3+が0.01%からなる組成であって、Gd3+、Yb3+、Ta5+を含まないことは明らかであるし、当該組成から合計含有量及びカチオン比を算出すると、
「B3+とSi4+との合計含有量」が46.0%であり、
「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量」が36.1%となり、
「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量」が10.2%となり、
「B3+とSi4+との合計含有量に対するZn2+含有量のカチオン比{Zn2+/(B3++Si4+)}」が0.079となり、
「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するGd3+含有量のカチオン比{Gd3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)}」が0.00となり、
「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するY3+含有量のカチオン比{Y3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)}」が0.24となり、
「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比{Ti4+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}」が0.38となり、
「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTa5+含有量のカチオン比{Ta5+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}」が0.00となり、
「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するW6+含有量のカチオン比{W6+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}」が0.09となり、
「La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)}」が1.27となり、
「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}」が4.50となる。
また、甲1発明の「アッベ数が37.3、屈折率が1.8913である」ことは、本件発明1の「アッベ数νdが35.5以上39.0未満」との規定を満足するし、さらに、甲1発明の組成及びアッベ数から、本件発明1の「式(2)」の右辺及び左辺を算出すると、左辺のAは81.439となり、右辺は85.547となるから、本件発明1の「式(2)」の規定も満足する。
そうすると、本件発明1は、甲1発明とは、以下の相違点1〜3で相違し、その余の点で一致する。
<相違点1>
本件発明1は、「式(1)」を満たすのに対し、甲1発明は、アッベ数が37.3、屈折率が1.8913であって、「式(1)」を満たさない点。
<相違点2>
本件発明1は、「Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量のカチオン比{(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.56〜5.20の範囲」であるのに対し、甲1発明は、これが3.53である点。
<相違点3>
本件発明1は、「B3+含有量に対するLa3+含有量のカチオン比(B3+/La3+)が1.165以下」であるのに対し、甲1発明は、これが1.272である点。

まず、相違点1について検討する。
甲第1号証(上記4(1)ア)及び甲第2号証(上記4(2))には、「式(1)」を満たす範囲に屈折率nd及びアッベ数νdを調整することを示唆する記載はないから、甲1発明において、式(1)を満たすようにすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
次に、相違点2、3について併せて検討する。
甲第1号証及び甲第2号証の記載から、「式(1)」を満たすように調整する動機付けが生じないことは相違点1についての上記検討のとおりであるから、甲1発明において、「式(1)」を満たすように組成を調整する動機付けも生じることはない。
また、甲1発明は、甲第1号証の段落【0008】に記載されるように「屈折率及びアッベ数が所望の範囲内にあり、且つ光学機器の軽量化に寄与しうる安定なガラスを、より安価に得ること」を課題とするものであるから、軽量化を重視すればTiO2成分をより比重が大きくなることが予測されるLa2O3成分で置換しようとはしない。
したがって、甲第1号証及び甲第2号証の記載を考慮しても、甲1発明において、TiO2成分をLa2O3成分で適量置換し、さらに、B2O3成分をSiO2成分で適量置換し、相違点2、3に係る本件発明1の規定を満足させようとすることは当業者が容易に想到し得たことではない。
よって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、本件発明1を引用するものであるから、事情は同じである。
よって、本件発明2〜7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 小活
以上のとおりであるから、申立理由1に理由はない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜7係る特許は、特許異議申立書に記載された申立理由、及び、取消理由通知に記載した取消理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
アッベ数νdが35.5以上39.0未満であり、屈折率ndがアッベ数νdに対して式(1):
nd≧−1.0000×10−2×νd+2.2726 ・・・(1)
を満たし、
カチオン%表示のガラス組成において、
B3+とSi4+との合計含有量が35.0〜47.0%の範囲であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量が33.0〜50.0%の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量が3.0〜20.0%の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するLa3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量のカチオン比{(La3++Gd3++Y3++Yb3+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.56〜5.20の範囲であり、
B3+とSi4+との合計含有量に対するZn2+含有量のカチオン比{Zn2+/(B3++Si4+)}が0.001〜0.200の範囲であり、
B3+含有量に対するLa3+含有量のカチオン比(B3+/La3+)が1.165以下であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するGd3+含有量のカチオン比{Gd3+/(La3++Gd3++Y3++Yb3+)}が0.10以下であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するY3+含有量のカチオン比{Y3+/{La3++Gd3++Y3++Yb3+)}が0.03〜0.50の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTi4+含有量のカチオン比{Ti4+/{Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が0.20〜0.70の範囲であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するTa5+含有量のカチオン比{Ta5+/{Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が0.10以下であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するW6+合有量のカチオン比{W6+/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が0.20以下であり、
La3+、Gd3+、Y3+およびYb3+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/{La3++Gd3++Y3++Yb3+)}が1.40以下であり、
Ti4+、Nb5+、Ta5+およびW6+の合計含有量に対するB3+とSi4+との合計含有量のカチオン比{(B3++Si4+)/(Ti4++Nb5++Ta5++W6+)}が3.50〜5.70の範囲であり、かつ
表1に記載のカチオン成分について、各カチオン成分の含有量に表1に記載の係数を掛けた値の合計Aが屈折率ndに対して式(2):
A≦137.778×nd−175.033 ・・・(2)
を満たす酸化物ガラスであるガラス。
【表1】

【請求項2】
Zr4+含有量が2.0〜10.0カチオン%の範囲である、請求項1に記載のガラス。
【請求項3】
B3+とSi4+との合計含有量に対するB3+含有量のカチオン比{B3+/(B3++Si4+)}が0.40〜0.95の範囲である、請求項1または2に記載のガラス。
【請求項4】
B3+、La3+、Gd3+、Y3+、Yb3+、Si4+、Zn2+、Zr4+、Ti4+、Nb5+、Ta5+、W6+、Al3+、P5+、Li+、Na+、K+、Mg2+、Ca2+、Sr2+、Ba2+およびBi3+の合計含有量が90.0カチオン%以上である、請求項1〜3のいずれか1項に記載のガラス。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスからなるプレス成形用ガラス素材。
【請求項6】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子ブランク。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれか1項に記載のガラスからなる光学素子。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-21 
出願番号 P2016-169586
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C03C)
P 1 651・ 537- YAA (C03C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 宮澤 尚之
特許庁審判官 伊藤 真明
金 公彦
登録日 2020-07-21 
登録番号 6738243
権利者 HOYA株式会社
発明の名称 ガラス、プレス成形用ガラス素材、光学素子ブランクおよび光学素子  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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