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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C12N
審判 全部申し立て 2項進歩性  C12N
管理番号 1384076
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-02-22 
確定日 2021-12-06 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6750023号発明「組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6750023号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5、6〕、8について訂正することを認める。 特許第6750023号の請求項1−11に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6750023号の請求項1〜11に係る特許についての出願は、平成30年2月5日(パリ条約による優先権主張 平成29年7月7日 中国)を国際出願日として出願され、令和2年8月14日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年2月22日に特許異議申立人 山田友則は特許異議の申立てを行った。
その後の手続の経緯は以下のとおりである。
令和3年 4月30日付け 取消理由通知
令和3年 6月11日 上申書(異議申立人)
令和3年 7月30日 意見書、訂正請求書(特許権者)
令和3年 9月30日 意見書(異議申立人)


第2 訂正の適否についての判断
1.訂正の内容
令和3年7月30日の訂正請求(以下「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、以下のとおりである。
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項5の「前記コリンキナーゼは、出芽酵母由来のCKI1若しくはEKI1、又は、レンサ球菌由来のLicCを含む」を「前記コリンキナーゼは、出芽酵母由来のCKI1又はEKI1を含む」に訂正する。
この訂正事項に係る訂正請求は、一群の請求項〔5、6〕に対して請求されたものである。
(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項8の「ウリジン−5’−一リン酸をウリジンに分解するウリジン−5’−一リン酸ホスホリラーゼは、もはや産生されず、前記ウリジン−5’−一リン酸ホスホリラーゼは、UmpH、UmpG、PhoA、AphA、YjjGを含む」を「ウリジン−5’−一リン酸をウリジンに分解するウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼは、もはや産生されず、前記ウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼは、UmpH、UmpGを含む」に訂正する。
(3)訂正事項3
願書に添付した明細書の段落【0013】及び【0014】に記載の「ホスホリラーゼ」を「ホスファターゼ」に訂正する。

2.訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1)訂正事項1について
特許明細書の段落【0009】に記載されるように、「レンサ球菌由来のLicC」はシチジルトランスフェラーゼに該当するものであり、訂正前の請求項5においてコリンキナーゼの一例としての「レンサ球菌由来のLicC」の記載は誤記であり、この記載を削除する訂正事項1は誤記の訂正を目的とするものである。
そして、訂正事項1は新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲の拡張・変更するものでもない。
(2)訂正事項2について
特許明細書の段落【0017】、【0025】に記載されるように、「UmpH、UmpG」はホスファターゼに該当するものである。また、ホスホリラーゼは化合物をリン酸化する酵素であり、リン酸化合物をリン酸と化合物に分解する酵素はホスファターゼであるから、訂正前の請求項8においてウリジン−5’−一リン酸をウリジンに分解する酵素は、ホスホリラーゼではなくホスファターゼである。したがって、「ウリジン−5’−一リン酸をウリジンに分解するウリジン−5’−一リン酸ホスホリラーゼ」の記載は「ウリジン−5’−一リン酸をウリジンに分解するウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼ」の誤記であり、訂正事項2における「ウリジン−5’−一リン酸ホスホリラーゼ」の記載を「ウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼ」とすることは、誤記の訂正を目的とするものである。
また、「ウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼ」に該当する酵素について「UmpH、UmpG、PhoA、AphA、YjjGを含む」の記載を「UmpH、UmpGを含む」とする訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2は新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲の拡張・変更するものでもない。
(3)訂正事項3について
特許明細書の段落【0013】の「大部分の野生型生物は、酸性ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ(例えば、大腸菌が産生した酸性ホスファターゼ(AphA)及びアルカリホスファターゼ(PhoA))のような複数種類のホスホリラーゼを生産することができる(参考http://ecocyc.org/)。一方、細胞内のホスホコリンは、これらのホスファターゼによってコリン及びリン酸に加水分解される。」における「ホスホリラーゼ」の記載は、その前後の記載からみて「ホスファターゼ」の誤記であると認められる。
そして、段落【0013】には「細胞内のホスホコリンは、これらのホスファターゼによってコリン及びリン酸に加水分解される」ことが記載されており、段落【0014】の「CDPCの前駆体として、ホスホコリンの連続的供給が重要である。従って、・・・2、一貫して安定したホスホコリンの供給を実現するために、細胞にホスホリラーゼの欠如をさせなければならない。」の記載にいう欠如させるべき「ホスホリラーゼ」は、ホスホコリンを加水分解して細胞内のホスホコリンを減らしてしまう「ホスファターゼ」を指していることが明らかであるから、段落【0014】の「ホスホリラーゼ」の記載は「ホスファターゼ」の誤記であると認められる。
そうすると、訂正事項3は、誤記の訂正を目的とする訂正である。
そして、訂正事項3は新規事項を追加するものでなく、特許請求の範囲の拡張・変更するものでもない。

3.小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号及び第2号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔5、6〕、8について訂正することを認める。


第3 本件発明
特許第6750023号の請求項1〜11の特許に係る発明は、訂正後の特許請求の範囲の請求項1〜11に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
シチコリンの再利用に関与する酵素は、シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ、を含み、
前記シチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え微生物を製造する工程と、
前記組換え微生物に、塩化コリンを基質として添加して発酵させることにより前記シチコリンを得る工程と、を有し、
前記組換え微生物は大腸菌であることを特徴とする組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項2】
コリンの再利用に関与する酵素は、コリンデヒドロゲナーゼを含み、
前記コリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え微生物を製造する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項3】
ホスホコリンの再利用に関与する酵素は、アルカリホスファターゼ及び酸性ホスファターゼを含み、
前記ホスホコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え微生物を製造する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項4】
前記組換え微生物は、塩化コリンを細胞内に輸送する内膜タンパク質コリントランスポーターの活性が野生型微生物よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項5】
前記組換え微生物は、塩化コリンからホスホコリンの生成を触媒するコリンキナーゼの活性が野生型微生物よりも高く、
前記コリンキナーゼは、出芽酵母由来のCKI1又はEKI1を含むことを特徴とする請求項4に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項6】
前記組換え微生物は、ホスホコリンからシチコリンの生成を触媒するシチジルトランスフェラーゼの活性が野生型微生物よりも高く、
前記シチジルトランスフェラーゼは、出芽酵母由来のPCT1、CDS1、ECT1、大腸菌由来のCdsA、IspD、MocA、KdsB、Cca、レンサ球菌由来のLicC、又は、カンジダ由来のCD36_40620を含むことを特徴とする請求項5に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項7】
前記コリントランスポーターは、大腸菌由来のBetTを含むことを特徴とする請求項4に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項8】
前記大腸菌のピリミジン合成経路において、ウリジン−5’−一リン酸をウリジンに分解するウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼは、もはや産生されず、前記ウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼは、UmpH、UmpGを含むことを特徴とする請求項7に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項9】
前記組換え微生物のピリミジン合成経路におけるリプレッサータンパク質のコード遺伝子に対して、ピリミジン合成経路における最終産物のフィードバック抑制をノックアウト及び/又は排除したことを特徴とする請求項7に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項10】
前記大腸菌のピリミジン合成経路におけるリプレッサータンパク質のコード遺伝子に対して、
1)カルバモイルリン酸シンテターゼのコード遺伝子の転写抑制リプレッサータンパク質のコード遺伝子をノックアウトする、
2)カルバモイルリン酸シンテターゼの突然変異体S948Fを発現させる、
3)アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼのpyrIサブユニットのコード遺伝子をノックアウトする、
4)リボースリン酸ピロホスホキナーゼ又はその突然変異体D128Aを発現させる、
5)ウリジン−5’−一リン酸キナーゼ又はその突然変異体D93Aを発現させる、及び
6)シチジン三リン酸シンテターゼ又はその突然変異体D160E,E162A,E168Kを発現させる、という1つ以上の方法によって、ピリミジン合成経路におけるフィードバック抑制をノックアウト及び/又は排除したことを特徴とする請求項9に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項11】
前記カルバモイルリン酸シンテターゼのコード遺伝子の転写抑制リプレッサータンパク質のコード遺伝子は、purR、pepA、argRの1つ又は複数を含むことを特徴とする請求項10に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。」
なお、以下では、本件の請求項1〜11の特許に係る発明をそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」などといい、まとめて「本件発明」ということもある。


第3 申立理由の概要
特許異議申立人 山田友則は、本件の請求項1〜11に係る発明の特許は、甲第1号証〜甲第28号証、甲第30号証、及び甲第33号証に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり(取消理由1)、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件を満足せず、及び、本件の特許請求の範囲の記載はサポート要件を満足せず(取消理由2)、本件の特許請求の範囲の記載は明確性要件を満足しない(取消理由3)から、本件の請求項1〜11に係る発明の特許は、特許法第29条第2項の規定に違反し、同法第36条第4項第1号、同法第36条第6項第1号、及び同法第36条第6項第2号に規定された要件を満足せずになされたものであるから、請求項1〜11に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

(甲号証)
甲第1号証(甲1):Applied Microbiological Biotechnology, 101: 2017, 1409-1417
甲第2号証(甲2):Journal of Bacteriology, Vol.190, No.18: 2008, 6153-6161
甲第3号証(甲3):The Journal of Biol. Chemistry, Vol.258, No.24,: 1983, 14974-14980
甲第4号証(甲4): 微分方程式で理解する反応速度論,ぶんせき, 3:2014, 94-100
甲第5号証(甲5): Journal of General Microbiology, 134:1988, 1737-1746
甲第6号証(甲6): Journal of Bacteriology, Vol.146, No.2: 1981, 668-675
甲第7号証(甲7): Talanta, 66:2005, 445-452
甲第8号証(甲8):Acta Cryst, D59: 2003, 1058-1060
甲第9号証(甲9):FEBS Letters, Vol.299, No.1: 1992, 96-98
甲第10号証(甲10): 国際公開第2017/073701号
甲第11号証(甲11): 特許第5112869号公報
甲第12号証(甲12):The Journal of Biological Chemistry, Vol.274, No.21: 1999, 14857-14866
甲第13号証(甲13):Journal of Bacteriology, Vol.183, No.16: 2001, 4927-4931
甲第14号証(甲14):Proc. Natl. Acad. Sci. USA, Vol.95: 1998, 12346-12351
甲第15号証(甲15):The Journal of Biological Chemistry, Vol.271, No.2: 1996, 789-795
甲第16号証(甲16):The Journal of Biological Chemistry, Vol.262, No.30: 1987, 14563-14570
甲第17号証(甲17):J. Biochem., 120: 1996, 1040-1047
甲第18号証(甲18):Biochemistry, Vol.50, No.17: 2011, 3570-3577
甲第19号証(甲19):The Journal of Biological Chemistry, Vol.284, No.33: 2009, 21891-21898
甲第20号証(甲20):Journal of Bacteriology, Vol.177, No.15: 1995, 4488-4500
甲第21号証(甲21):Genes to Cells, 5: 2000, 689-698
甲第22号証(甲22):CTP: phosphocholine cytidylyltransferase, putative [Candida dubliniensis CD36], GenBank: CAX41949.1, 27-FEB-2015(令和2年12月22日検索)インターネット<URL: https://www.ncbi.nlm.nih.gov/protein/CAX41949.1>
甲第23号証(甲23):NATURE, Vol.500: 2013, 237-242
甲第24号証(甲24):国際公開第2005/030974号
甲第25号証(甲25):FEMS Microbiology Letters, 146: 1997, 191-198
甲第26号証(甲26):Journal of Bacteriology, Vol.189, No.5: 2007, 2186-2189
甲第27号証(甲27):中国特許出願公開第106754602号明細書
甲第28号証(甲28):The Journal of Biological Chemistry, Vol.259, No.18: 1984, 11257-11264
甲第29号証(甲29):Microbiological Reviews, Vol.57, No.4,: 1993, 862-952
甲第30号証(甲30):J. Mol. Microbiol. Biotechnol., 13: 2007, 96-104
甲第31号証(甲31):UniProtKB-P06282(CDH-ECOLI), Entry Ingormation, Entry history,(令和2年12月24日検索)インターネット<https://www.uniprot.org/uniprot/P06282>
甲第32号証(甲32):ID CDH_ECOLI, DT, DE(令和2年12月23日検索)インターネット<https://www.uniprot.org/uniprot/P06282.txt?version=131>
甲第33号証(甲33):Microbial cell factories(2015), 14:98


第4 甲号証の記載事項
1.甲1
(1−1)「抄録 シチジン二リン酸コリン(CDP−コリン)は、急性脳損傷の治療や脳手術後の意識回復に応用されている。本研究では、アセテートキナーゼ(ACK)/アセチルリン酸系を用いてATPを供給し、大腸菌で過剰発現されたCMPキナーゼ(CMK)、NDPキナーゼ(NDK)、コリンリン酸シチジルトランスフェラーゼ(CCT)、コリンキナーゼ(CKI)と組み合わせて、CMPと塩化コリンからCDP−コリンを生産させた。その結果、1時間以内に49mMのCDP−コリンが生成し、そのモル収率は、CMPが89.9%、塩化コリンが68.4%であった。エネルギー利用効率(UEE)は79.5%であった。・・・・このように、生体触媒を用いたCDP−コリンの高収率・高生産性は、今後の工業規模での応用を示唆するものである。」
(1−2)図1の記載から、オロチン酸はUTPを経てCTPに変換され、塩化コリンはコリンキナーゼ(CKI)によってホスホコリンに変換された後、CTPとホスホコリンとはシチジルトランスフェラーゼ(CCT)によってシチコリンに変換されること。

2.甲2
大腸菌のUshAはCDP−アルコール加水分解酵素であり、シチコリンを加水分解する活性を有すること。

3.甲3
CDP−ジグリセリド加水分解酵素(シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ、以下、「Enzyme」)には、CMP−アクセプターのCMP残基をEnzymeに転移させてCMP−Enzymeとアクセプターを生成する活性があること。

4.甲10
目的物質の生産能を上げるために、目的物質の生合成に関わる酵素の活性を増大させること、目的物質の前駆体の取り込み系の活性を増大させること、目的物質の資化や目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性を低下させること、は技術常識であること。

5.甲27
シチジンの前駆体はCMPであり、CMPはピリミジン合成経路からCTPを経由して合成されること、組換え微生物のピリミジン合成経路におけるリプレッサータンパク質のコード遺伝子に対して、ピリミジン合成経路における最終産物のフィードバック抑制をノックアウト及び/又は排除した、シチジン生産用組換え微生物。

6.甲28
大腸菌のCDP−ジグリセリド加水分解酵素はcdhにコードされており、加水分解活性とシチジルトランスフェラーゼ活性の両方を示すこと。
CDP−ジグリセリド加水分解酵素が欠損した大腸菌。

7.甲30
ushAが欠損した大腸菌。aphAが欠損した大腸菌。

8.甲33
目的物質の生産能を上げるために、目的物質の分解に関与する酵素の活性を低下させることは技術常識であること、複数の酵素を同時に欠損させること。


第5 当審の判断
1.取消理由1について
(1)甲1に記載の発明
上記第4の1.に示した甲1の記載事項から、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「組換え大腸菌に塩化コリンを基質として添加して発酵させることによりシチコリンを得る工程を含む、シチコリンの生産方法。」

(2)本件発明1について
本件発明1と甲1発明を対比すると、両者は、
「組換え微生物に、塩化コリンを基質として添加して発酵させることにより前記シチコリンを得る工程を有し、
前記組換え微生物は大腸菌であることを特徴とする組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点)
本件発明1には「シチコリンの再利用に関与する酵素は、シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ、を含み、
前記シチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え微生物を製造する工程」が特定されている、すなわち、組換え大腸菌においてシチコリンの再利用に関与する酵素であるシチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼという2つの酵素をコードする遺伝子を欠損させることが特定されているのに対して、甲1発明には特定されていない点。

上記相違点について検討する。
甲10にも記載されるように、目的物質の生産能を上げる目的で、目的物質の生合成に関わる酵素の活性を増大させること、目的物質の前駆体の取り込み系の活性を増大させること、目的物質の資化や目的物質以外の物質の副生に関与する酵素の活性を低下させることなど様々な手段を用いることは技術常識であると認められる。
そして、甲1にはシチリコンの生合成に関与する酵素、前駆体、副反応については記載されているから、甲1発明においてシチコリンの生産能を高めるためには、当業者であれば、シチコリン生合成に関わる酵素の活性の増大、シチコリンの前駆体の取り込み系の活性の増大、シチコリン以外の物質の副生に関与する酵素の活性の低下などの手段を採用することを検討するといえる。しかし、甲1には生合成されたシチコリンの再利用などについては何ら記載されていないから、シチコリンの再利用に関与する酵素の活性の低下という手段を特に選択するような動機はない。
また、甲2には、表1に列挙される各種の基質の一つとしてのシチコリンが、「シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素」によって分解されることが示されているに過ぎず、「シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素」と大腸菌におけるシチコリンの生産との関係などに関しては記載されていない。甲3にはCMP−アクセプターのCMP残基を「シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」に転移させること、多数のリン酸モノエステルがアクセプターとして機能することが記載されているが、「シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」がシチコリンの再利用に関与する酵素であることは記載されていない。したがって、上述のとおり、シチリコンの再利用について何らの記載もない甲1発明の大腸菌において、これらの酵素を欠損させることなどを当業者は想到せず、ましてや、それによりシチリコンの収量が増加することは想到できない。
なお、甲3の記載から、「シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」がシチコリンの再利用に関与する酵素であることが理解できたとしても、甲2、甲3には「シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素」、「シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」の他にはシチコリンを分解する酵素が存在しないことなどは記載されていないから、シチコリンの再利用に関与する酵素としてこれらを選択する動機はない。そうすると、シチコリンの再利用に関与する酵素の活性の低下の検討を試みようとした場合であっても、シチコリンを分解できる酵素は複数存在することが想定されることを考慮すると、甲2〜甲33の記載を参酌しても、シチコリンの生産を向上させる手段として、「シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」という特定の2つの酵素の活性の低下を選択することを当業者が容易に想到するとはいえない。
そして、そもそも微生物の代謝系は複雑であって、微生物中において一の酵素が複数の基質に作用してそれぞれ異なるものを生成する場合があることや、酵素の働きが相互に影響し合う場合があることが技術常識であるから、組換え微生物を用いた発酵において目的物質の生産性が実際に向上するかどうかは、実験的に確認してみなければ分からないところ、本件特許明細書の実施例5の記載から、塩化コリンを基質とする発酵によりシチコリンを生産する方法では、特定の2つの酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え大腸菌を用いる場合に、生産されたシチコリンの分解が排除され、その結果、シチコリンの収量が増加するという効果を奏し得たことが認められる。
したがって、本件発明1において、甲1〜甲28、甲30、及び甲33の記載から予測できない効果が奏されたと認められる。
よって、本件発明1は、甲1〜甲28、甲30及び甲33に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。

(3)本件発明2〜本件発明11について
本件発明2〜本件発明11は、本件発明1をさらに限定したものであり、上記(2)に示した理由と同様の理由により、甲1〜甲28、甲30及び甲33に記載された発明に基づいて当業者が容易になし得るものとはいえない。

2.取消理由2について
(1)サポート要件
本件発明1の解決しようとする課題は、本件特許明細書の段落【0007】の「本発明の目的は、シチコリンの合成及び蓄積のための高い生産能力を有する組換え微生物を設計及び生産し、且つ当該組換え微生物を用いて、塩化コリンを基質とするシチコリンの高収量の生物学的方法での生産を実現することである。」記載からみて、「シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素(UshA)及び、シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ(Cdh)」というシチコリンの再利用に関与する2つの酵素をコードする遺伝子を欠損させた、シチコリンの合成及び蓄積のための高い生産能力を有する組換え大腸菌を用いる、シチコリンを生産する方法の提供であると認められる。
そして、本件特許明細書及び図面には、これらの酵素を大腸菌において欠損させる方法及び欠損させることによりシチコリンの生産能が上昇する機構が記載され、実施例5には、大腸菌においてUshA及びCdhのコード遺伝子をノックアウトした組換え大腸菌、すなわち、大腸菌WJ2(ATCC27325 Δlac IentDT5)を出発菌株としてUshA及びCdhのコード遺伝子をノックアウトして取得した組換え大腸菌株HQ24(WJ2 △ushA ΔumpG ΔumpH ΔpyrI Δcdh)は、振盪フラスコ発酵においてCDPC(シチコリン)を完全に利用及び分解することができなくなったこと、すなわち再利用できなくなったことが記載され、また、組換え大腸菌株HQ24にプラスミドpY022(pHS01−PCT1−CKI1−pyrE−prs128)を導入したHQ24/pY022は、発酵槽において26h発酵した場合にシチコリンの生産が17g/Lに達することなどが記載されている。実施例5におけるこれらの記載から、上記課題が解決できることが認められる。
したがって、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものと認められる。また、請求項1を引用する本件発明2〜11も、その課題は本件発明1の課題と同じであるから、同様に、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載されたものと認められる。
したがって、本件発明1〜本件発明11は発明の詳細な説明に記載されたものである。

(2)実施可能要件
上記(1)で述べたとおり、本件明細書は本件発明について十分な説明がなされているから、本件特許明細書は、本件発明1〜本件発明11について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

(3)異議申立人の主張について
特許異議申立人は概ね次の点を主張している。
ア 本件特許の審査段階で示された引用文献2(甲28)には、CDPジグリセリド加水分解酵素であるcdhが欠損した大腸菌が記載されているところ、本件特許権者が令和2年6月12日付け意見書において、引用文献2のcdhは本件発明1のシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼを表すcdhとは異なるものである旨を主張したことを理由として、本件発明のサポート要件や実施可能要件を満足しないことを主張している。
イ 請求項1には「シチコリンの再利用に関与する酵素は、シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ、を含み」と記載され、シチコリンの再利用に関与する酵素として、シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼとい2つの酵素以外の酵素も含むものとなっているが、上記2つの酵素以外のシチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子は記載されていない。
ウ 本件特許明細書の実施例5(段落0033)における「HQ24/pY022(pHS01−PCT1−CKI1−pyrE−prs128)が発酵槽において26h発酵した場合、17g/Lに達することができる。」との記載から明らかように、シチコリンの生産を確認できているのは、シチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子(ushA、cdh)だけでなく、umpG、umpHおよびpyrIを欠損させた菌株に、シチコリンの生合成経路上の遺伝子(PCT1、CKI1、pyrEおよびprs)の発現が強化された組換え微生物HQ24/pY022のみである。
シチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損することによってシチコリンの生産を向上する効果は示されていない。
エ 請求項2には「コリンの再利用に関与する酵素は、コリンデヒドロゲナーゼを含み」と記載され、コリンの再利用に関与する酵素として、コリンデヒドロゲナーゼ以外の酵素も含むものとなっているが、コリンデヒドロゲナーゼ以外のシチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子は記載されていない。
また、本件明細書の実施例6(段落0035〜0037)においてシチコリンの生産を確認できているのは、2つのシチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子(ushA、cdh)、及びコリンデヒドロゲナーゼをコードする遺伝子を欠損させ、さらに、シチコリンの生合成経路上の遺伝子の発現が強化された株(HQ33株)のみであり、シチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子およびコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させただけの組換え微生物については、シチコリンを生産できることは示されていない。また、実施例6に、シチコリンの収量がコリンデヒドロゲナーゼの欠損によって増加するという効果が示されているとはいえない。

アについて
異議申立人が主張するとおり、「シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」における「シチジン−5’−二リン酸」はCDPと同義であり、「ジアシルグリセロール」はジグリセリドと同義であり、「ピロホスファターゼ」は加水分解酵素であるから、本件発明にいう「シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」は、引用文献2に記載の「CDPジグリセリド加水分解酵素」の別称であると認められる。そして、技術常識を参酌すれば、当業者は本件特許明細書の記載から本件発明について十分に理解できるといえる。
特許権者が審査段階で誤った主張をしたとしても、そのことと本件発明がサポート要件や実施可能要件を満足するかどうかとは別の問題である。
したがって、異議申立人の主張は妥当でない。

イについて
請求項1には「含み」と記載されているが、本件特許明細書に「シチコリンの再利用に関与する酵素」として具体的に説明されているのは「シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」という2つの酵素のみであり、「含み」に該当する他の酵素については記載されていいない。
仮に、「シチコリンの再利用に関与する酵素」というものが技術常識であるなら、本件特許明細書に記載がなくともそのような酵素を具体的に理解できるといえるかもしれないが、そのような技術常識が存在するとは認められず、本件特許明細書の記載からは「シチコリンの再利用に関与する酵素」として上記2つの酵素以外の酵素を具体的に把握できない
このような本件特許明細書の記載及び技術常識を踏まえると、請求項1に単に「含み」と記載しても「シチコリンの再利用に関与する酵素」として特定の2つの酵素以外を含む場合の発明までが実質的に包含されるとはいえないから、「含み」と記載したことを理由として、本件発明が実施可能要件やサポート要件を満足しないとはいえない。

ウについて
本件特許明細書の実施例5には、大腸菌WJ2(ATCC27325 Δlac IentDT5)の残留シチコリンは0.15g/Lであるのに対して、これに△ushAを導入した大腸菌WJ3の残留シチコリンは1.02/Lと増加したこと、HQ19(WJ12 △ushA ΔumpG ΔumpH ΔpyrI)の残留シチコリンは0.5g/Lであるのに対して、これに△cdhを導入したHQ24(WJ2 △ushA ΔumpG ΔumpH ΔpyrI Δcdh)の残留シチコリンは1.0g/Lと増加したことが記載されているから、これらの記載から大腸菌に△ushA及び△cdhを導入することで、残留シチコリンが増加することが読み取れる。
したがって、本件特許明細書の記載から、特定の2つの酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え大腸菌を用い、塩化コリンを基質として発酵することによって、生産されたシチコリンの分解が排除され、その結果、シチコリンの収量が増加するという本件発明の効果を理解できるといえる。

エについて
本件特許明細書には「【0012】
3、細胞内のコリン及びホスホコリンの供給の強化
より多くのホスホコリンを得るために、塩化コリンをより迅速に供給する必要がある。塩化コリンが細胞に入り、律速段階になることを防ぐために、我々は、より多くの 輸送タンパク質を得るために、コリントランスポーターBetTを発現させた。
【0013】
大部分の野生型生物は、酸性ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ(例えば、大腸菌が産生した酸性ホスファターゼ(AphA)及びアルカリホスファターゼ(PhoA))のような複数種類のホスホリラーゼを生産することができる(参考http://ecocyc.org/)。一方、細胞内のホスホコリンは、これらのホスファターゼによってコリン及びリン酸に加水分解される。コリンは、さらに脱水素化されてグリシンベタインを生成する。大腸菌のコリンデヒドロゲナーゼBetA、BetB(Gadda2003,Appl Environ Microbiol 69(4);2126−32.)、及び、グリコレートオキシダーゼGlcD、GlcE、GlcF(Lord1972,Biochim Biophys Acta 1972;267(2);227−37.)を含むコリンの脱水素酵素を分解することができる。」と記載されており、また、図1には、コリンにBetA、BetBが作用するとグリシンベタインが生成することが示されている。
本件特許明細書及び図面のこれらの記載から、請求項2に記載される「コリンの再利用に関与する酵素」とは、BetA、BetBのような大腸菌のコリンデヒドロゲナーゼに代表される、コリンを脱水素化する酵素であることが理解される。そして、コリンを脱水素化する酵素をコードする遺伝子を欠損させることで、コリンの供給が強化されることも理解される。さらに、実施例6には、ΔbetAB変異の有無のみで相違するHQ33/pY012とHQW34/pY012の培養を比較すると、ΔbetAB変異を有するHQ34/pY012の方がΔbetAB変異を有さないHQ33/pY012よりもシチコリンの収量が18.40g/Lから20.87g/Lへと増加したことが示されている。
したがって、異議申立人の主張は妥当でない。

3.取消理由3について
(1)シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼについて
上記2.(3)のアについて で述べたとおり、本件発明にいう「シチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ」は「CDPジグリセリド加水分解酵素」の別称であると認められ、技術常識からみてその意味するところは明確である。

(2)本件発明5の「コリンキナーゼ」について
訂正により請求項5の「コリンキナーゼ」は「連鎖球菌由来のLicC」を含まないものとなり、「コリンキナーゼ」の記載は明確となった。

(3)本件発明8のUmpH、UmpGについて
「ウリジン−5’−一リン酸ホスホリラーゼ」の誤記が「ウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼ」に訂正され、UmpH、UmpGが特定されたため、請求項8の記載は明確となった。

4.令和3年4月30日付け取消理由について
令和3年4月30日付け取消理由における特許法第36条第6項第2号に規定する要件に関する理由は、令和3年7月30日の訂正請求による訂正により解消した。


第6 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
発明の名称 (54)【発明の名称】組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法
【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオテクノロジー分野に属し、具体的には、シチコリンを生産するための組換え微生物に関する。組換え微生物を利用してシチコリンを生産し、当該組換え微生物を利用して生物学的方法によってシチコリンを生産する。
【背景技術】
【0002】
シチコリン(Citicoline、CDP−choline、略語CDPC)は、ヌクレオシドの誘導体であり、5’−シチジル酸及びホスホコリンから合成されている。分子式は、C14H26N4O11P2であり、相対分子質量は、488.32396であり、沸点は、851.4℃である。シチコリンは、コリンからホスファチジルコリンへ生成する経路における中間体であり、すべての細胞に存在し、リン脂質合成の主な補酵素であり、レシチンの合成を促進することにより脳の機能を改善する。急性頭蓋脳外傷及び脳手術後の意識障害等の治療に用いられる。
【0003】
シチコリンの生産は主に、化学的方法及び生物学的方法の2種類ある。化学合成法は、シチジル酸及びホスホコリンを基質とし、トルエンスルホニルクロリドを縮合剤として、N−ジメチルホルムアミドの作用下でシチコリンナトリウムを生成させる方法であるが、反応転化率が低く、副生成物が多く、コストが高く、且つ汚染が大きい。
【0004】
生物学的方法は、シチコリンを生産する歴史が長く、主に、単一酵素/多酵素の触媒作用又は単一細菌/多細菌の形質転換という方法である。Shoji Shirotaらは、1975年に酵母によるシチコリンの合成及びその影響要因を研究していた(Shoji Shirota 1975、Agr Biol Chen、35(3):1469−1474)。Takata Isaoらは、1982年に複合K2カラギナンを用いてCDPCの生合成のためのフマラーゼ(Fumarase)酵素を固定化した(TakataJ1982、FermemTechnol、60(5):431−437)。邱蔚然らは、1992年〜2002年に固定化酵母細胞を用いてシチコリンを産生した(邱蔚然 1992、中国生化学薬物雑誌、62(4):37−39、余冬生 2002、無錫軽工業大学誌、21(3):277−280。)。近年、酵母菌又はブレビバクテリウム・アンモニアゲネス等を用いてオロチン酸及びホスホコリンを基質として、グルコースを添加してATPを産生する状況における発酵によるシチコリンの産生は、依然としてコストが高く、形質転換率が低いという問題を有し(應漢傑2015、コリンキナーゼ及びホスホコリンシチジルトランスフェラーゼを発現するための遺伝子組換え細菌、その構築方法及びその応用、201510184705.8)、大規模な工業生産の応用に寄与しない。
【0005】
従って、シチコリンの製造コスト及び汚染を低減するために、シチコリンの大規模な工業生産を効果的に実現することができる、無汚染及び低コストのシチコリンの合成する方法を開発する必要がある。
【0006】
現在、シチコリンの年間需要量は、中国国内だけで1000トンに達しているが、現在供給できるのは、約50トンしかない。本発明は、上記のニーズを満たしつつ、関連する優位性をも有する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、シチコリンの合成及び蓄積のための高い生産能力を有する組換え微生物を設計及び生産し、且つ当該組換え微生物を用いて、塩化コリンを基質とするシチコリンの高収量の生物学的方法での生産を実現することである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
1、シチコリンを利用及び分解するための酵素コード遺伝子の除去
まず、微生物にシチコリン(CDPC)を蓄積させるために、細胞内のシチコリンを用いた酵素をコードする遺伝子をノックアウト又はブロックする。これらの酵素には、シチジンー5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ(Cdh)、及び、シチジンー5’−二リン酸アルコール加水分解酵素(UshA)が含まれ、これらは、シチコリンを、シチジル酸及びホスホコリンを生成するように触媒することができる。
【0009】
2、ホスホコリンのシチジンアシル化によるシチコリンの合成
自然界の生物において、シチジン三リン酸(CTP)を脱リン酸化し、且つホスホコリン(PC)とともにシチコリン及びピロリン酸を産生することができるシチジルトランスフェラーゼ(EC2.7.7をCTaseと総称)が存在する。例えば、出芽酵母由来のPCT1(Tsukagoshi Y 1991、J Bacteriol.173(6):2134−6)、CDS1(Carter1966,J Lipid Res 7(5);678−83.),ECT1(VisedoGonzalez1989,Biochem J 260(1);299−301.)、大腸菌由来のCdsA(Carter1966,J Lipid Res 7(5);678−83.),IspD(Rohdich1999,Proc Natl Acad Sci U S A 1999;96(21);11758−63.),MocA(Neumann2009,J Biol Chem 284(33);21891−8.),KdsB(Ghalambor1966,J Biol Chem 1966;241(13);3216−21.),Cca(Shi1998,EMBO J 17(11);3197−206.)、レンサ球菌(Streptococcus mitis B6)由来のLicC(Denapaite D2010PLoS One.5(2):e9426.)、ハツカネズミ(Mus musculus)由来のPcyt1a(Gene ID:13026)、Pcyt1b(Gene ID:236899)、Komagataella phaffii GS115由来のPAS_chr2−2_0401(Gene ID:8199108)、カンジダ(Candida dubliniensis CD36)由来のCD36_40620、及び、ショウジョウバエ由来のCct 1(Gene ID:117353)、Cct2(Gene ID:38180)等がある。
【0010】
CTPに対して特異性を有するこれらのCTase及び/又はそれらの相同酵素をコードする遺伝子は、DNA合成の方法によって得られてもよく、対応する生物から抽出したmRNAを鋳型として、PCRの方法によって直接得られてもよい。従って、上記で得られた遺伝子のいずれかを組換え細胞で発現させ、発現に成功したCTaseは、組換え細胞においてCTP及びPCを基質としてCDPCを生成し、且つCDPCの収量を顕著に増加させることができる。
【0011】
特異性のより高いCTaseをさらに得るために、タンパク質工学技術によってCTPに対する高い特異性を有するCTase突然変異体を得て、組換え細胞内において大量のCDPCを生成する(例えば、タンパク質工学によってバシラス内のプルラナーゼの熱安定性を向上させる(Chang2016, MPLoS One.11(10):e0165006.))ために用いることができる。
【0012】
3、細胞内のコリン及びホスホコリンの供給の強化
より多くのホスホコリンを得るために、塩化コリンをより迅速に供給する必要がある。塩化コリンが細胞に入り、律速段階になることを防ぐために、我々は、より多くの輸送タンパク質を得るために、コリントランスポーターBetTを発現させた。
【0013】
大部分の野生型生物は、酸性ホスファターゼ、アルカリホスファターゼ(例えば、大腸菌が産生した酸性ホスファターゼ(AphA)及びアルカリホスファターゼ(PhoA))のような複数種類のホスファターゼを生産することができる(参考http://ecocyc.org/)。一方、細胞内のホスホコリンは、これらのホスファターゼによってコリン及びリン酸に加水分解される。コリンは、さらに脱水素化されてグリシンベタインを生成する。大腸菌のコリンデヒドロゲナーゼBetA、BetB(Gadda2003,Appl Environ Microbiol 69(4);2126−32.)、及び、グリコレートオキシダーゼGlcD、GlcE、GlcF(Lord1972,Biochim Biophys Acta 1972;267(2);227−37.)を含むコリンの脱水素酵素を分解することができる。
【0014】
CDPCの前駆体として、ホスホコリンの連続的供給が重要である。従って、1、コリンの細胞内に入る速度を促進するために、組換え細胞においてコリントランスポーターを発現又は過剰発現させる。2、一貫して安定したホスホコリンの供給を実現するために、細胞にホスファターゼの欠如をさせなければならない。3、組換え細胞においてコリンキナーゼ(CKase)を発現又は過剰発現させることにより、ホスホコリンを生成するコリンのリン酸化を促進する。関連するコリンキナーゼは、遺伝子組み換えされていない全ての細胞に存在していなくてもよい。現在知られている、コリンをリン酸化となるように触媒することができるコリンキナーゼは、出芽酵母由来のCKI1(EC2.7.1.32 https://www.biocyc.org/gene?orgid=YEAST&id=YLR133W−MONOMER)(Wittenberg1953, Biol. Chem,431−44)、及び、EKI1(エタノールアミンキナーゼ、ethanolamine kinase https://biocyc.org/gene?orgid=YEAST&id=YDR147W)(SUNG1967,Biochem.J.105,497))、ハツカネズミ(Mus museulus)由来のChka(Gene ID:12660)、Chkb(Gene ID:12651)、ホモ・サピエンス由来のCHKA(Gene ID:1119)及びCHKB(Gene ID:1120)、シロイヌナズナ(Arabidopsis thaliana)由来のCK1(Gene ID:843500)、並びに、カエノラブディティス・エレガンス(Caenorhabditis elegans)由来のCka−1(Gene ID:177807)、Cka−2(Gene ID:180703)、Ckb−1(Gene ID:181904)、Ckb−2(Gene ID:175565)、Ckb−4(Gene ID:184864)等を含む。
【0015】
本発明は、発酵期間中に基質としての塩化コリンを添加するため、基質の分解を防ぐために、コリンを分解可能な酵素をノックアウト又はブロックする必要がある。
【0016】
4、CDPCの前駆体CTPの濃度の増加
細胞内のCTPは、ピリミジン合成経路における中間体であり、シチジン三リン酸合成酵素PyrGの作用下でウリジン三リン酸UTPによって産生される。しかし、PyrGは、その産物CDPによってフィードバック抑制され、当該酵素の、160番目のアスパラギン酸からグルタミン酸(D160E)へ、162番目のグルタミン酸からアラニン(E162A)へ、又は、168番目のグルタミン酸からリシン(E168K)への突然変異に対して、CDPによるフィードバック抑制を効果的に排除することができる(Iyengar A2003、Biochem J.369(Pt 3):497−507)。一方、CTPは、5−ヒドロキシ−CTP ピロホスファターゼNudGの作用においてシチジル酸CMPを生成する。NudGのコード遺伝子をノックアウト又はブロックすることにより、CTPの分流が効果的に防止され、より高い濃度のCTPを蓄積することができ、それにより、CDPCの収量が増加する。
【0017】
5、ウリジン二リン酸UMPの分流のブロック
大腸菌のピリミジン合成経路において、UMPは、シチコリン合成の中間体として、CTPによってシチコリンを合成するほか、5’−ヌクレオチダーゼの触媒作用においてウリジンを生成することもできる。5’−ヌクレオチダーゼをコードする遺伝子umpG、umpHをブロック又はノックアウトすることにより、UMPの分流が解除され、UMPが専らCDPC合成に用いられ得る。
【0018】
6、ピリミジンヌクレオシド合成のフィードバック抑制及びフィードバック阻害の排除、ピリミジンヌクレオシド合成の代謝フラックス及びCDPCの収量の増加
ピリミジンヌクレオチド合成経路における触媒の第1段階は、カルバモイルリン酸シンテターゼCarABの触媒作用によってカルバモイルリン酸を合成することである。この酵素は、代謝最終産物プリン、ピリミジン及びアルギニンのそれぞれによってフィードバック阻害され(Devroede N2006,J Bacteriol.188(9):3236−45.)、対応するリプレッサータンパク質はそれぞれ、PurR、PepA及びArgRである(Kim2015,Microb Cell Fact 14:98)。本発明は、リプレッサータンパク質をコードする遺伝子PurR、PepA及びArgRをノックアウトすることにより、CarAB転写の阻害を排除し、カルバモイルリン酸合成を加速させた。また、当該酵素は、UMPのフィードバック抑制をも受ける。文献(Delannay S1999,J MolBiol。286(4):1217−28)の報告によれば、当該酵素の1つのサブユニット(CarB)の948位のアミノ酸セリンを、フェニルアラニン(S948F)に突然変異させれば、UMPの抑制作用を効果的に解除することができる。本発明は、染色体におけるcarB遺伝子を突然変異させることにより、CarB(S948F)をコードする突然変異遺伝子を担持する組換え菌株が得られる。
【0019】
ピリミジンヌクレオチド合成経路における触媒の第2段階は、アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼの触媒作用によってカルバモイルアスパラギン酸を合成することである。当該酵素は、1つの調節サブユニット(PyrI)及び1つの触媒サブユニット(PyrB)から構成されており、CTPの濃度が高い場合、CTPはPyrIと結合して酵素活性を低下させる。アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼをコードする調節サブユニットを破壊する場合、そのコード遺伝子をノックアウトすれば、最終産物CTPによるフィードバック抑制が排除される(Coudray L2009,Bioorg Med Chem. 17(22):7680−9)。
【0020】
ピリミジンヌクレオチド合成経路におけるpyrEでコードされるオロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼは、オロチン酸からオロチジン−リン酸の合成を触媒する。大腸菌W3110の宿主菌におけるpyrE遺伝子上流のrph遺伝子の終止コドン付近に、フレームシフト突然変異が存在する(Kaj Frank Jensen 1993、Journal Of Bacteriology、3401−3407)ため、一部のrph遺伝子の転写が終了することができず、これにより、下流のpyrE遺伝子の発現が影響され、宿主菌におけるオロチン酸の蓄積がもたらされる。ゲノム内のpyrEを補正することにより、副生成物であるオロチン酸の蓄積を効果的に排除することができる。
【0021】
また、ピリミジンヌクレオチド合成において、リボースは、リボースリン酸ピロリン酸を前駆体としてヌクレオシドに合成されたものであり、リボースリン酸ピロホスホキナーゼ(Prs)は、リボース−5−リン酸を、ATPと反応してリボースリン酸ピロリン酸PRPPに合成するように触媒する。しかしながら、大腸菌由来のリボースリン酸ピロホスホキナーゼは、ADPによるフィードバック抑制を受けており、Prs上の128位のアスパラギン酸からアラニン(D128A)までの突然変異は、ADPによるフィードバック抑制作用を効果的に排除することができる(Shimaoka 2007J Biosci Bioeng 103(3):255−61.)。
【0022】
pyrH遺伝子によってコードされたUMPキナーゼは、UMPのリン酸化からウリジン二リン酸UDPの合成を触媒するが、当該酵素は、その産物であるUDPのフィードバック抑制作用を受け、文献に報道されたように、当該酵素の93位のアスパラギン酸からアラニンまでの突然変異(D93A)は、対応するフィードバック抑制作用を効果的に排除することができる(Meyer P2008,J Biol Chem.283(51):36011−8.)。
【発明の効果】
【0023】
本発明の利点は下記の通りである。従来技術と比較すれば、本発明は、シチコリンを生産するための組換え微生物及び当該組換え微生物を利用して生物学的方法によってシチコリンの高収量を実現する生産方法により、無汚染且つ低コストのシチコリンの合成方法を開発した。当該方法は、以下の有益な効果を有する。微生物発酵の過程において、一定量のシチジン三リン酸が細胞内に蓄積され、遺伝子操作された生体材料を用いる方法により組換え微生物が確立され、代謝工学的方法によって微生物が形質転換され、微生物発酵の方法によってシチコリンの前駆体であるシチジン三リン酸が細胞内に濃縮され、最終的に、シチコリンの合成及びそれが増殖する基質内での蓄積が実現され、シチコリンの大規模な工業生産が効果的に達成され、それによって、シチコリンの生産コスト及び汚染が削減され、環境保護に役に立ち、普及及び利用価値が高い。
【図面の簡単な説明】
【0024】
【図1】大腸菌におけるシチコリンの代謝経路の概略図である。
【図2】シチコリン検出のHPLCチャートである。
【0025】
ここで、carbamoyl phosphateはカルバモイルリン酸、carbamoyl aspartateはカルバモイルアスパラギン酸、orotateはオロチン酸、OMPはオロチジン5’−一リン酸、UMPはウリジン−5’−一リン酸、UDPはウリジン−5’−二リン酸、UTPはウリジンー5’−三リン酸、UdR:ウリジン、CdRはシチジン、CTPはシチジン−5’−三リン酸、CDPはシチジン−5’−二リン酸、CMPはシチジン−5’−一リン酸、CDPCはシチコリン、PCはホスホコリン、cholineはコリン、glycine betaineはグリシンベタイン、PyrAはカルバモイルリン酸シンテターゼ、PyrB/Iはアスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼ、PyrEはオロト酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ、PyrFはウリジン−5’リン酸デカルボキシラーゼ、PyrHはウリジン−5’−一リン酸キナーゼ、PyrGはシチジン三リン酸シンテターゼ、Cmkはシチジン−5’−一リン酸キナーゼ、CTaseはシチジルトランスフェラーゼ、CKaseはコリンキナーゼ、Ndkはヌクレオシド二リン酸キナーゼ、NudGは5−ヒドロキシ−シチジン三リン酸ジホスファターゼ、UMPはウリジン−5’−一リン酸、UmpGは一般特異的ヌクレオチダーゼノポリホスファターゼ、UmpHはウリジン5’ホスファターゼ、BetAはコリンデヒドロゲナーゼ、BetBはベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼ、AphAは酸性ホスファターゼ、PhoAはアルカリホスファターゼ、UshAはシチジン二リン酸リビドールヒドロラーゼ、Cdhはシチジン二リン酸 −ジアシルグリセロールピロホスファターゼである。
【発明を実施するための形態】
【0026】
以下、いくつかの特定の実施例により本発明をさらに説明する。これらの実施例は、課題を説明するためだけであり、限定するものではない。
【0027】
<実施例1:大腸菌における遺伝子ノックアウト方法>
本発明は、Datsenkoの方法を採用して大腸菌において遺伝子ノックアウトを行った(Datsenko KA 2000、Proc Natl Acad Sci USA、97(12):6640−6645)。対応する遺伝子ノックアウトプライマーについて、Baba T2006、Mol Syst Biol 2 (1)、0008を参照されたい。
【0028】
<実施例2:振盪フラスコ発酵による組換え菌株の確認方法>
振盪フラスコ発酵における組換え菌株がシチコリンを生産するための発酵培地を検証した。具体的には、培地1リットル当たりYC溶液100ml、グルコース20g、5倍の塩溶液200ml、TM2溶液1ml、クエン酸鉄10mg、無水硫酸マグネシウム120mg、塩化カルシウム111mg、チアミン1ugを添加し、脱イオン水で定容した。ここで、5倍の塩溶液は、リン酸水素二ナトリウム30g/リットル、リン酸二水素カリウム15g/リットル、塩化ナトリウム2.5g/リットル、塩化アンモニウム5.0gを添加して、イオン水で定容したものであった。TM2溶液は、塩化亜鉛四水和物2.0g/リットル、塩化カルシウム六水和物2.0g/リットル、モリブデン酸ナトリウムニ水和物2.0g/リットル、硫酸銅五水和物1.9g/リットル、ホウ酸0.5g/リットル、塩酸100ml/リットルを添加したものであった。発酵培地M9内のYC溶液は、100mlの脱イオン水であり、発酵培地MS3.2内のYC溶液は、4gのペプトン、4gの酵母粉末、10gの塩化ナトリウム及び100mlの脱イオン水であった。上記の溶液を121℃で20〜30分間滅菌した。
【0029】
振盪フラスコ発酵過程は、以下の通りである。まず、抗生物質を含む一定量のLB培地に組換え菌株を接種([米]J.サムブルック(Sambrook)著、黄培堂訳、サブクローンガイド2002、1595)し、34℃のシェーカーに置いて250rpmで一晩培養した。一晩経った種を100μl採取して抗生物質を含む2mlのLB培地に移し、34℃のシェーカーにおいて、OD600値が1.5前後になるまで250rpmで4〜6h培養した。次に、2mlの第2段階の種の全てを、18mlの発酵培地を含んだ振盪フラスコに移し、34℃のシェーカーに入れて、250rpmでの培養OD600値が1前後である場合、最終濃度が0.1mMになるまでIPTGを添加し、その後、最終濃度が4mMになるまで塩化コリンを添加し、約20時間培養を続けた後、発酵ブロスで遠心分離試験を行った。具体的な試験方法については、実施例4を参照されたい。
【0030】
<実施例3:組換え菌株を用いる5Lの発酵槽でのシチコリンの発酵生産方法>
発酵槽における組換え菌株によるシチコリンの発酵生産のための発酵培地は、MF1.32であることが検証された。具体的には、1リットルの培地には、2gの硫酸アンモニウム、8gの塩化ナトリウム、2gのリン酸二水素カリウム、1.65gの塩化マグネシウム六水和物、10gのグルコース、105mgの塩化カルシウム、10mgの塩化亜鉛、1mLのTM2微量元素溶液、94mgのクエン酸鉄、6gのペプトン、6gの酵母粉末が含まれており、脱イオン水で定容した。TM2微量元素溶液は、塩化亜鉛1.31g、塩化カルシウム1.01g、モリブデン酸アンモニウム四水和物1.46g、硫酸銅1.9g、ホウ酸0.5g、及び塩酸10mLの、脱イオン水で定容したものである。フィード培地は、1リットルあたり600gのグルコース、40gのペプトン、及び40gの酵母粉末を含む。
【0031】
発酵過程は、以下の通りである。まず、種を調製する。LBプレートからモノクローンを採取して抗生物質を含むLB試験管において34℃で一晩培養した。1%の接種量に従って100mLのLBを含む500mLの振盪フラスコに接種し、ODが1.5〜2まで34℃で4時間培養した。5%の接種量で1.5Lの発酵培地MF1.32を含む5Lの発酵槽に接種し、37℃で培養し、アンモニア水でpHを6.9に調整し、溶存酸素と回転速度とをカップリングし、溶存酸素を30%に維持しながら3時間発酵させた。8g/L/hの基質添加を開始し、5時間発酵させ、OD600が16〜25までなった際に、32℃まで温度を下げ、IPTGを加え、最終濃度を0.5mmol/Lになるように誘導し、10時間発酵させ、回転速度を1000rpmに固定した。溶存酸素が40%を超えると、溶存酸素を30%〜45%に維持するように添加基質をカップリングし始めた。発酵の27時間後にサンプリングを開始した。試験方法については、実施例4を参照されたい。
【0032】
<実施例4 発酵ブロス内のシチコリン及び関連副生成物についてのHPLC測定>
200ulの発酵ブロスを正確に吸収して800ulの脱イオン水内に入れ、1mlの無水エタノールを添加し、5minボルテックスし、上清液を遠心分離して0.22umのフィルターを通過させ、高速液体クロマトグラフィー(HPLC)で検出した。HPLCのパラメータは以下の通りである。Agilent SB C18 4.6*150mm 5umを使用し、移動相がメタノール及び10mM PBS(pH4.0)であり、移動相の比率が0.01〜4.00分間の場合のメタノール比率は2%であり、移動相の比率が4.00〜5.00分間の場合のメタノール比率は2%から10%に上昇し、移動相の比率が5.00〜5.01分間の場合のメタノールの比率は10%から2%に減少し、移動相の比率が5.10〜10.0分間の場合のメタノール比率は2%であった。紫外線検出器を使用して272nmの波長を測定した。移動相の流速は0.8mL/minであり、発酵ブロスのサンプルローディング量は5μLであり、カラム温度は30℃であった。CDPCのピーク保持時間は2.745分間であり、スペクトルは図2に示されている。
【0033】
<実施例5 CDPCを分解及び利用できない組換え大腸菌の構築>
図1に示すように、大腸菌において、CDPCは、シチジン二リン酸リビトールヒドロラーゼUshA、CDP−ジアシルグリセロールピロホスファターゼCdhによって触媒されて、CMP及びホスホコリンを生成する。本発明は、大腸菌WJ2(ATCC27325ΔlacIentDT5)を出発菌株として、WJ2においてUshA及びCdhのコード遺伝子をノックアウトして組換え細菌を取得した。これらの菌株の、CDPCを使用及び分解する能力が徐々に低下し、うちの組換え細菌HQ24WJ2△ushAΔumpGΔumpHΔpyrIΔcdh)は、振盪フラスコ発酵においてCDPCを完全に利用及び分解することができない。例えば、2.0g/Lのシチコリンを発酵培地に添加して24時間後、WJ2、WJ3(WJ2△ushA)の残留CDPCは、0.15g/L、1.02g/Lであることが検出された。[SQ150916結果:0.3/1.92]は、ushAのノックアウトがCDPCの分解を顕著に排除することができることを証明した。発酵培地に1g/Lのシチコリンを添加して24時間後、HQ19((WJ2△ushAΔumpGΔumpH ΔPyrI)、HQ24(HQ19Δcdh)、HQ25(HQ19ΔmazG)、HQ26(HQ19ΔnudF)の残留CDPCは、0.5g/L、1.0g/L、0.45g/L、0.46g/Lであることが検出された。cdhノックアウトは、CDPCの分解を完全に排除することができることが証明された。HQ24/pY022(pHS01−PCT1−CKI1−pyrE−prs128)が発酵槽において26h発酵した場合、17g/Lに達することができる。
【0034】
HQ24/pY022の分類から、エシェリヒア・コリ(Escherichia coli.)と命名されている。当該菌株は、2017年06月26日に中国微生物菌種保管委員会一般微生物センター(住所は、北京市朝陽区北辰西路1号院3号、中国科学院微生物研究所(郵便番号:100101)である。)に保管(保管番号CGMCC No.14277)されている。
【0035】
<実施例6 コリンを分解できない組換え大腸菌の構築>
本発明において、大腸菌の代謝によるシチコリンの生産は、外因的に添加された塩化コリンを基質とし、細胞自身のピリミジン合成経路で産生されたCTPを用いてシチコリンを合成することである。これは、基質及び中間体の細胞内での代謝に関係している。基質であるコリンは、コリンデヒドロゲナーゼの作用において細胞膜の電子伝達に関与し且つベタインアルデヒドを生成し、さらに、ベタインアルデヒドデヒドロゲナーゼの作用においてグリシンベタインを生成した。
【0036】
基質及び中間体の分解を防止するために、本発明は、コリンデヒドロゲナーゼのコード遺伝子betA/Bをノックアウトした。
【0037】
HQ33(HQ24ΔpurRΔfhuA::Trc−pyrE,carB948)、HQ34(HQ33ΔbetAB)をそれぞれ宿主として、プラスミドpY012を発現させ、発酵槽において発酵させた後、43hのCDPC収量として、HQ33/pY012は18.40g/Lであり、HQ34/pY012は20.87g/Lであることが検出された。これは、コリンデヒドロゲナーゼのノックアウトが、塩化コリンがリン酸化に完全に使用されてホスホリルコリンを生成するように、基質である塩化コリンの分解をブロックすることができ、これにより、CDPCの収量が増加することを示した。
【0038】
<実施例7 ホスホコリンを分解できない組換え大腸菌の構築>
本発明において、シチコリンの生産は、外因的に添加された塩化コリンを基質とし、中間体であるホスホコリンをコリンキナーゼの触媒によって生成することである。一方、大腸菌内のホスホコリンは、細胞中に存在する酸性ホスファターゼ又はアルカリホスファターゼによってコリンに分解されてコリンに戻された。
【0039】
中間体であるホスホコリンの分解を防止するために、本発明は、酸性ホスファターゼのコード遺伝子aphA及びアルカリホスファターゼのコード遺伝子phoAをノックアウトした。
【0040】
HQ33(HQ24ΔpurRΔfhuA::Trc−pyrE,carB948)、HQ35(HQ33ΔaphA)、HQ36(HQ33ΔphoA)をそれぞれ宿主として、プラスミドpY012を発現させ、発酵培地において振盪フラスコ発酵させた後、HQ33/pY012のCDPC収量は、それぞれ1.82g/L、1.86g/L、1.87g/Lであることが検出された。これは、ホスファターゼのノックアウトが、より多くのホスホコリンが産物の合成に入るように、中間体であるホスホコリンの分解を低減又はブロックすることができ、これにより、CDPCの収量が増加することを示した。
【0041】
<実施例8 シチジルトランスフェラーゼ及び/又はコリンキナーゼを過剰発現させることによるCDPC収量の増加>
シチコリン及びその基質であるコリンの中間体ホスホコリンの分解遺伝子をノックアウトした後、CDPCの収量が低くなった。これは、コリンによるCDPC産生を触媒する細胞内の重要な酵素の発現量が不十分であることを示している。細胞内のCDPCの収量を増加させるために、本発明は、CDPCの合成過程におけるCTase及びCKaseを適切に発現させた。担持コードが異なるCTase及び/又はCKase遺伝子が発現したプラスミドを大腸菌発現宿主に形質転換し、CDPCの収量を様々な程度に増加させた。例えば、HQ33において、プラスミドpHS01(pCL1920PLac::Ptrc、LS9 特許番号US20130029395A1を参照)、pY008(pHS01−PCT1−CKI1)、pY012(pHS01−PCT1−CKI1−licC)をそれぞれ発現させ、振盪フラスコ発酵培養して24時間経過後のCDPCの収量は、それぞれ0g/L、1.44g/L及び1.55g/Lであった。
【0042】
<実施例9 コリントランスポーターの過剰発現によるCDPC収量の増加>
BetTは、ベタインコリン輸送体BCCTファミリーに属する、水素イオンによって駆動されたコリントランスポーターである。当該タンパク質は、好気条件下において発現され、浸透圧によって誘導された。高い浸透圧がBetT転写を増強することと同様に、コリンの添加は、転写をさらに増強した。より多くのCDPCを得るために、塩化コリンをより迅速に供給する必要がある。塩化コリンが細胞に入り、律速段階になることを防ぐために、我々は、浸透圧が増加しない場合により多くの輸送タンパク質を得るために、BetTを過剰発現させた。HQ33を宿主として、pY012及びpY012−betTをそれぞれ発現させ、発酵培地において振盪フラスコ発酵させて24h後のCDPCの収量として、後者が前者の2.36倍であることが検出された。これは、betTの過剰発現により、CDPCの収量が顕著に増加することができることを示した。
【0043】
<実施例10 UMP分解酵素のコード遺伝子のノックアウトによるCDPC収量の増加>
ウリジン一リン酸UMPは、ピリミジン合成経路の中間体であり、補充経路におけるウリジン5’−モノホスファターゼによってウリジン二リン酸UDPを産生してもよく、5’−ヌクレオチダーゼによってウリジンに分解されてもよい。より多くの生成物CDPCを得るために、本発明において、5’−ヌクレオチダーゼのコード遺伝子umpG及びumpHをノックアウトした。WJ3及びHQ18(WJ3ΔumpGΔumpH)を宿主として、プラスミドpY022(pY008−pyrE―prs128)を形質転換し、発酵培地において振盪フラスコ発酵させて24h後のCDPCの収量は、それぞれ1.9g/L及び1.92g/Lであることが検出された。菌株HQ18/pY022が発酵槽において26h発酵した場合、8.93g/Lに達することができる。
【0044】
<実施例11 PyrEの過剰発現によるCDPC収量の増加>
プラスミド及びゲノム上のpyrE遺伝子を過剰発現させることにより、上流のrph遺伝子のフレームシフト突然変異によって引き起こされた発現欠損を排除し、これにより、CDPCの収量が増加した。例えば、HQ04(W3110(ΔDeoAΔungΔpurRΔushAΔbetABI,betTPtrc))を宿主として、pY008及びpY009(pY008−pyrE)をそれぞれ発現させ、発酵培地において振盪フラスコ発酵させ、CDPCの収量が、0.67g/Lから0.80g/Lまで増加した。これは、pyrEの過剰発現により、シチコリンの収量が顕著に増加することができることを示した。
【0045】
<実施例12 Prs128の過剰発現によるCDPC収量の増加>
大腸菌のピリミジン合成経路において、リボースリン酸ピロリン酸(PRPP)は、オロチン酸ホスホリボシルトランスフェラーゼ(PyrE)の作用下で、リン酸基をオロチン酸に転化させてオロチジン一リン酸(OMP)を生成した。PRPPの欠乏は、ピリミジン合成経路における律速段階になり、シチコリンの収量を低下させ、副生成物であるオロチン酸を蓄積させる。リボースリン酸ピロホスホキナーゼ(Prs)は、リボース−5−リン酸を、ATPと反応してPRPPに合成するように触媒した。しかしながら、PrsがADPのフィードバック抑制を受けているため、Prsの第128位のアスパラギン酸をアラニンに突然変異させることによって得られたPrs128は、ADPのフィードバック抑制作用を解除することができる。例えば、WJ3を宿主として、pY017(pY009−prs)、pY022(pY009−prs128)をそれぞれ発現させた後、発酵培地において振盪フラスコ発酵させ、CDPCの収量が、1.80g/Lから1.96g/Lまで増加した。
【0046】
<実施例13 PyrIをコードする遺伝子のノックアウトによるCDPC収量の増加>
ピリミジンヌクレオチド合成経路における触媒の第2段階は、アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼの触媒作用によってカルバモイルアスパラギン酸を合成することである。当該酵素は、1つの調節サブユニット(PyrI)及び1つの触媒サブユニット(PyrB)から構成されており、CTPの濃度が高い場合、CTPはPyrIと結合して酵素活性を低下させる。本発明は、PyrIのコード遺伝子をノックアウトすることにより、最終産物CTPのフィードバック抑制作用が排除された。例えば、HQ18、HQ19(HQ18ΔpyrI)の宿主においてpY022を発現させ、発酵培地において振盪フラスコ発酵させ、CDPCの収量が、1.74g/Lから1.92g/Lまで増加した。これは、pyrI遺伝子のノックアウトが、アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼに対するCTPのフィードバック抑制を排除することができ、それによってピリミジン合成経路の合成を促進し、CDPCの収量を増加させることを示している。
【0047】
<実施例14 リプレッサータンパク質PurR、ArgRをコードする遺伝子のノックアウトによるCDPC収量の増加>
ピリミジンヌクレオシド合成経路における第1段階は、カルバモイルリン酸シンテターゼの触媒作用によってカルバモイルリン酸を合成することである。当該酵素のコード遺伝子carABは、代謝最終産物であるプリン、ピリミジン及びアルギニンのフィードバック阻害作用を受けた。一方、プリンヌクレオチドは、purR遺伝子によってコードされるリプレッサータンパク質の阻害を受け、アルギニンは、argR遺伝子によってコードされるリプレッサータンパク質の抑制を受けた。本発明は、purR及びargRをノックアウトすることにより、carAB転写の阻害を排除し、カルバモイルリン酸の合成を加速させた。例えば、HQ19、HQ22(HQ19ΔpurR)、HQ20(HQ18ΔpurR)、HQ21(HQ20ΔargR)においてそれぞれpY022を発現させ、発酵培地MS3.2において振盪フラスコ発酵させ、CDPCの収量のそれぞれが、1.25g/L、1.54g/L、1.15g/L、1.34g/Lであった。これは、purR又はargR遺伝子のノックアウトが、carABに対するフィードバック阻害を排除することができ、それにより、ピリミジン経路の合成を促進し、CDPCの収量を増加させることを示している。
【0048】
上記の記載が発明に係るいくつかの実施例にすぎず、本発明が属する分野の当業者は、本発明の原理から逸脱しない限り、複数の改良をすることができる。これらの改良が本発明の保護範囲であることはみなされるべきである。
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
シチコリンの再利用に関与する酵素は、シチジン−5’−二リン酸アルコール加水分解酵素及びシチジン−5’−二リン酸−ジアシルグリセロールピロホスファターゼ、を含み、
前記シチコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え微生物を製造する工程と、
前記組換え微生物に、塩化コリンを基質として添加して発酵させることにより前記シチコリンを得る工程と、を有し、
前記組換え微生物は大腸菌であることを特徴とする組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項2】
コリンの再利用に関与する酵素は、コリンデヒドロゲナーゼを含み、
前記コリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え微生物を製造する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項3】
ホスホコリンの再利用に関与する酵素は、アルカリホスファターゼ及び酸性ホスファターゼを含み、
前記ホスホコリンの再利用に関与する酵素をコードする遺伝子を欠損させた組換え微生物を製造する工程を有することを特徴とする請求項1に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項4】
前記組換え微生物は、塩化コリンを細胞内に輸送する内膜タンパク質コリントランスポーターの活性が野生型微生物よりも高いことを特徴とする請求項1に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項5】
前記組換え微生物は、塩化コリンからホスホコリンの生成を触媒するコリンキナーゼの活性が野生型微生物よりも高く、
前記コリンキナーゼは、出芽酵母由来のCKI1又はEKI1を含むことを特徴とする請求項4に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項6】
前記組換え微生物は、ホスホコリンからシチコリンの生成を触媒するシチジルトランスフェラーゼの活性が野生型微生物よりも高く、
前記シチジルトランスフェラーゼは、出芽酵母由来のPCT1、CDS1、ECT1、大腸菌由来のCdsA、IspD、MocA、KdsB、Cca、レンサ球菌由来のLicC、又は、カンジダ由来のCD36_40620を含むことを特徴とする請求項5に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項7】
前記コリントランスポーターは、大腸菌由来のBetTを含むことを特徴とする請求項4に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項8】
前記大腸菌のピリミジン合成経路において、ウリジン−5’−一リン酸をウリジンに分解するウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼは、もはや産生されず、前記ウリジン−5’−一リン酸ホスファターゼは、UmpH、UmpGを含むことを特徴とする請求項7に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項9】
前記組換え微生物のピリミジン合成経路におけるリプレッサータンパク質のコード遺伝子に対して、ピリミジン合成経路における最終産物のフィードバック抑制をノックアウト及び/又は排除したことを特徴とする請求項7に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項10】
前記大腸菌のピリミジン合成経路におけるリプレッサータンパク質のコード遺伝子に対して、
1)カルバモイルリン酸シンテターゼのコード遺伝子の転写抑制リプレッサータンパク質のコード遺伝子をノックアウトする、
2)カルバモイルリン酸シンテターゼの突然変異体S948Fを発現させる、
3)アスパラギン酸カルバモイルトランスフェラーゼのpyrIサブユニットのコード遺伝子をノックアウトする、
4)リボースリン酸ピロホスホキナーゼ又はその突然変異体D128Aを発現させる、
5)ウリジン−5’−一リン酸キナーゼ又はその突然変異体D93Aを発現させる、及び
6)シチジン三リン酸シンテターゼ又はその突然変異体D160E,El62A,E168Kを発現させる、という1つ以上の方法によって、ピリミジン合成経路におけるフィードバック抑制をノックアウト及び/又は排除したことを特徴とする請求項9に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
【請求項11】
前記カルバモイルリン酸シンテターゼのコード遺伝子の転写抑制リプレッサータンパク質のコード遺伝子は、purR、pepA、argRの1つ又は複数を含むことを特徴とする請求項10に記載の組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-11-25 
出願番号 P2018-540717
審決分類 P 1 651・ 536- YAA (C12N)
P 1 651・ 121- YAA (C12N)
P 1 651・ 537- YAA (C12N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 田村 聖子
特許庁審判官 松野 広一
中島 庸子
登録日 2020-08-14 
登録番号 6750023
権利者 スーヂョウ バイオシンセティカ カンパニー リミテッド
発明の名称 組換え微生物を用いたシチコリンの生産方法  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  

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