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審決分類 審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B60N
審判 一部申し立て 2項進歩性  B60N
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60N
管理番号 1384086
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-15 
確定日 2022-02-07 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6794492号発明「車両シート用リクライナーシャフト」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6794492号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。 特許第6794492号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6794492号の請求項1及び2に係る特許についての出願は、令和1年5月8日(パリ条約による優先権主張 2018年5月11日 韓国(KR))に出願され、令和2年11月13日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月2日に特許掲載公報が発行された。
その後、その特許について、令和3年3月15日付けで特許異議申立人北田 保雄(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、令和3年8月17日付けで取消理由が通知され、その指定期間内である令和3年11月22日付けで意見書及び訂正請求書が提出され、同年12月7日付けで訂正請求があった旨が通知され、令和4年1月5日付けで申立人より意見書が提出されたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年11月22日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、特許第6794492号の特許請求の範囲を、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを求めるものであり、その訂正の内容は以下のとおりである(下線部は訂正箇所を示す。)。
訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に「・・・前記本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであり、前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり、前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmであり、前記第1傾斜面部の外側端と前記第2傾斜面部の外側端との間の距離は2.0mm〜2.1mmであり、前記本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmであることを特徴とする車両シート用リクライナーシャフト。」と記載されているのを、「・・・前記本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであり、前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり、前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され、前記第1傾斜面部の外側端と前記第2傾斜面部の外側端との間の距離は2.0mm〜2.1mmであり、前記本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmであることを特徴とする車両シート用リクライナーシャフト。」に訂正する。

2 訂正の適否
(1)訂正の目的について
訂正前の請求項1に係る発明は、「第2曲面部」と「第3曲面部」の「曲率半径」について「0.3mm〜0.5mm」であることを特定している。
これに対して、訂正後の請求項1は、「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」との記載により、「第2曲面部」と「第3曲面部」の「曲率半径」について、第1曲面部及び第4曲面部と比較した大小関係をより具体的に特定し、さらに限定するものである。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

(2)新規事項について
本件特許の願書に添付した明細書の段落【0029】の「本発明の他の実施例として、延長部340が内接するように描かれる仮想円C1の直径を10.0〜14.0(単位:mm)とする時、本体200の外周面の直径は7.2〜12.4である。この時、第1曲面部310と第4曲面部370の曲率半径は0.4以下、好ましくは0.1〜0.4であり、第2曲面部330と第3曲面部350の曲率半径は0.3〜0.5であり、好ましくは0.4である」との記載から、第1曲面部310と第4曲面部370の曲率半径を区別する記載があり、許容される数値範囲に鑑みるに、第2曲面部330と第3曲面部350の曲率半径が、第1曲面部310と第4曲面部370の曲率半径よりも小さい構成と、第2曲面部330と第3曲面部350の曲率半径が、第1曲面部310と第4曲面部370の曲率半径と同一である構成と、第2曲面部330と第3曲面部350の曲率半径が、第1曲面部310と第4曲面部370の曲率半径よりも大きい構成が記載されているといえる。
したがって、「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmであり」という記載を「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」とする訂正事項1は、「第2曲面部」と「第3曲面部」の「曲率半径」について、訂正前の段落【0029】の記載に含まれる三つの選択肢の中から一つを選択したものに過ぎない。
したがって、訂正事項1による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面の記載を総合して導き出される技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

(3)特許請求の範囲の拡張・変更について
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり(上記(1))、かつ、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当せず、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。

(4)小括
以上のとおりであるから、本件訂正による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正により訂正された請求項1に係る発明(以下「本件発明1」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
中空パイプ形状の本体と、
前記本体の外周面から半径方向の外側に突出形成され、前記本体の長手方向に沿って延長される7個のスプライン突起とを含み、
前記7個のスプライン突起は、前記本体の周囲に沿って同じ角度で離隔形成され、前記本体の内周面は円型断面で形成され、
前記スプライン突起は、前記本体の外周面から外側に向かって所定の曲率で突出する第1曲面部と、前記第1曲面部の端から傾斜して延長形成される第1傾斜面部と、前記第1傾斜面部の端から前記本体の外側に向かって膨らんで突出する第2曲面部と、前記第2曲面部の端から前記本体の外周面と平行に延長形成される延長部と、前記延長部の端から前記延長部に対して前記第2曲面部と対称形成される第3曲面部と、前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部と、前記第2傾斜面部の端から前記本体の外周面まで前記延長部に対して前記第1曲面部と対称形成される第4曲面部とを含み、
前記本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであり、前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり、前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され、前記第1傾斜面部の外側端と前記第2傾斜面部の外側端との間の距離は2.0mm〜2.1mmであり、前記本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmであることを特徴とする車両シート用リクライナーシャフト。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由について
1 取消理由の概要
訂正前の請求項1に係る特許に対して、当審が令和3年8月17日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許出願前(優先日前)に日本国内又は外国において、頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。


<刊行物一覧>
甲第1号証:特開2014−227026号公報
甲第2号証:特開2017−7639号公報
(申立人の提出した甲第1及び2号証である。以下、それぞれ、「甲1」及び「甲2」という。)

2 当審の判断
(1)刊行物の記載事項等
ア 甲1
(ア)記載事項
甲1には次の事項が記載されている(なお、下線は当審で付加した。以下同様。)。
「【0013】
図1に示すように、電動リクライニング機構4は、背部フレームを回動させるギア機構5と、ギア機構5を駆動させる駆動モータ8(電動モータ)とを有している。電動リクライニング機構4は、電動シート1内に配備されている。
ギア機構5(すなわち、リクライナー)は、電動モータの回転軸の駆動力を駆動シャフト20に伝達する駆動ギア6と、背もたれ部3をリクライニングさせる駆動シャフト20を回転させる従動ギア7とを有している。
・・・
【0015】
以下、本発明の駆動シャフト20について、図を基に詳細に説明する。
本願発明は、電動リクライニング機構4に採用される駆動シャフト20に関するものであり、その形状に特徴がある。
図2に示すように、本願発明の駆動シャフト20は、駆動モータ8からの回転駆動力を伝達可能な長尺の軸体であって、その軸体の外周面で周方向に沿って凸条部22と凹条部21とが交互に形成されていて、軸心方向に沿って軸体の中心に中空部23が形成されている。
【0016】
図2(a)に示すように、駆動シャフト20の外周面には、所定の幅及び深さの凹形状の溝(凹条部21)が、等間隔で駆動シャフト20の外周全体に形成されている。本実施形態では、7つの凹条部21が形成されている。凹条部21は、断面視でU字形状であり上方が放射状に開いている。凹条部21の底部は外方膨出状の円弧となっている。
凹条部21とそれに隣接する凹条部21との間には、凸形状の突起(凸条部22)が形成されている。すなわち、駆動シャフト20の外周面には、所定の幅及び高さの凸形状の膨出部(凸条部22)が、等間隔で駆動シャフト20の外周全体に形成されている。本実施形態では、7つの凸条部22(歯数7枚)が形成されている。凸条部22は、断面視で台形状であり、底辺より上辺(頂部の幅)が狭いものとなっている。凸条部22の頂部は、凹条部21の底部と相似した外方膨出状の円弧となっている。凸条部22の頂部と凹条部21の底部との差(凸条部22の高さ)は、従動ギア7に形成された雌スプラインの凹条部21の深さと略同じである。つまり、駆動シャフト20の凸条部22の高さは、従動ギア7に形成された雌スプラインの凹条部21の深さによって決定される。また同様に、駆動シャフト20の凸条部22の幅も、従動ギア7に形成された雌スプラインの凹条部21の幅によって決定される。
・・・
【0018】
このように、駆動シャフト20の外周面には、複数の凸条部22と凹条部21が交互に形成され、複数の凸条部22が駆動シャフト20の径方向に沿って放射状に並んでいることで、駆動シャフト20に雄スプラインが形成されることとなる。それ故、駆動シャフト20の端部は、従動ギア7の中心部に形成されているスプライン(雌スプライン)に嵌り込んで噛み合うようになる。なお、本実施形態では、凸条部22と凹条部21の数(スプラインの歯の数)を7つずつ配置し、凸条部22の形状を台形状としたが、駆動モータ8の回転駆動力の大きさによって凸条部22と凹条部21の数及び形状を変更してもよい。
・・・
【0020】
駆動シャフト20の中空部23は、その一方端及び他方端が開放状に形成されていて、駆動シャフト20の一方端から他方端へほぼ直線状に連通するように形成された貫通孔である。駆動シャフト20の一方端及び他方端のおける開放状の孔が、断面視で現れる孔部である。本実施形態の中空部23の断面は略丸形状で説明したが、中空部23の断面については様々な形状(例えば、略楕円形状など)を用いてもよい。また、駆動シャフト20の両端部は、面取りがなされている。
【0021】
このように、駆動シャフト20の中心部が中空とされることで、伝達できる駆動力を弱めることなく、駆動シャフト20の軽量化を図ることが可能となる。
なお、図2(b)に示すように、本実施形態の駆動シャフト20は、断面視において凸部、凹部が形成され、この凸部、凹部が略同じ形状をもって、駆動シャフト20の長手方向に連続的に形成されることで、凸条部22(筋状の凸部)、凹条部21(筋状の凹部)となっている。とはいえ、凸条部22、凹条部21は、駆動シャフト20の長手方向に完全に連続していなくてもよく、一部が切り掛かれるなどして断続状であってもよい。
【0022】
図1に示すように、上記した駆動シャフト20は、雌スプラインが形成された従動ギア7に嵌り込むようになっている。それゆえ、駆動シャフト20は、従動ギア7と共に回転するようになっている。従動ギア7は、駆動ギア6と噛み合っており、駆動モータ8の回転駆動力が伝達される。
つまり、電動モータの回転軸が回転することで、回転軸の先端に配備された駆動ギア6が回転し、駆動ギア6(回転軸)が回転することによって発生する回転駆動力は従動ギア7を介して駆動シャフト20へ伝わり、駆動シャフト20が回転することで、電動シート1の背もたれ部3がリクライニング動作するようになる。
・・・
【0024】
例えば、本実施形態では、自動車用の電動シート1を例に挙げて説明したが、電動シート1であれば、特に限定されない。また、本発明の駆動シャフト20は、あらゆる部分の軸心(例えば、座部2に備えられているスライド機構の駆動軸など)として使用できる。
また、駆動シャフト20を構成する材料は、所望とされる強度を満たすものであれば、どのような材料であってもよい。また、必要とされる強度を確保すべく、駆動シャフト20を熱間加工、冷間加工のいずれか又は両方を用いて製造してもよく、表面処理加工を行うようにしてもよい。」

また、図2は以下のとおりである。



(イ)甲1発明
上記(ア)より、甲1には、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 自動車用の電動シート1内に配備された電動リクライニング機構4に採用される駆動シャフト20であって、
その軸体の外周面で周方向に沿って凸条部22と凹条部21とが交互に形成されていて、軸心方向に沿って軸体の中心に中空部23が形成され、
中空部23の断面は略丸形状であり、
凹条部21の底部は外方膨出状の円弧となっており、
駆動シャフト20の外周面には、所定の幅及び高さの7つの凸条部22が、等間隔で駆動シャフト20の外周全体に形成され、
複数の凸条部22が駆動シャフト20の径方向に沿って放射状に並んでいることで、駆動シャフト20に雄スプラインが形成され、
凸部が駆動シャフト20の長手方向に連続的に形成されることで、凸条部22となっており、
凸条部22は、断面視で台形状であり、底辺より上辺が狭く、凸条部22の頂部は、凹条部21の底部と相似した外方膨出状の円弧となっている、
駆動シャフト20。」

イ 甲2
(ア)記載事項
甲2には次の事項が記載されている。
「【0024】
本発明の一実施形態によるリクライナーシャフト100は中空パイプ形状の本体200と、本体200の外周面に突出形成される複数のスプライン突起300と、本体200の中空の内周面にそれぞれのスプライン突起300と対応するように陥没形成される複数の溝部400、および本体200の一側に形成されるベース部500を含む。
・・・
【0033】
図3は本発明の一実施形態による車両シート用リクライナーシャフトのスプライン突起と溝部の拡大図である。
【0034】
図3に示すように、スプライン突起300は本体200の外周面で外側に突出する第1曲面部310と、第1曲面部310の終端で延長形成される第1傾斜面部320と、第1傾斜面部320の終端で外側に湾曲して突出する第2曲面部330と、第2曲面部330の終端で本体200の外周面と同心に延長形成される延長部340と、延長部340の終端で順に形成される第3曲面部350と第2傾斜面部360及び第4曲面部370を含む。
【0035】
第1曲面部310と第2曲面部330は同じ曲率で形成され、第1曲面部310の中心O1はリクライナーシャフト100の外周面の外側に形成され、第2曲面部330の中心O2はリクライナーシャフト100の外周面の内側に形成され、逆方向に凸に形成される。
【0036】
第3曲面部350は本体200の中心Oと延長部340の中間点M1をつなぐ仮想の延長線L1を基準に第2曲面部330と対称に形成され、第2傾斜面部360は仮想の延長線L1を基準に第1傾斜面部320と対称に形成され、第4曲面部370は仮想の延長線L1を基準に本体200の外周面210まで第1曲面部310と対称に形成される。この際、第1傾斜面部320は第1曲面部310の終端で仮想の延長線L1方向に傾斜するように延長形成され、第2曲面部330の終端は延長部340が内接するように描かれる仮想円C1の一側に接する。
・・・
【0050】
本発明の具体的な実施形態として、本体200の外周面210の直径が8.9であるとするとき、本体200の内周面220の直径は6.5であり、延長部340が内接する仮想円C1の直径は10.45であり得る。また、第1曲面部310の曲率半径は0.4であり、第5曲面部410の曲率半径は1.6であり、第7曲面部430の曲率半径は0.5であり得る。この際、延長部340と第7曲面部430の間隔は1.65である。
・・・
【0053】
リクライナーシャフト100の外周面に突出形成されたスプライン突起300はリクライナー装置20のスプライン溝(図示せず)に歯合され、リクライナーシャフト100の回転力をリクライナー装置20に伝達する役割を果たし、この際、上述した通りスプライン突起300と溝部400が構成されることによって、リクライナーシャフト100は従来のものより重量と材料費を節減できる中空形態で形成され、かつねじり変形を防止できる強度を有するようになる。」

また、図3は以下のとおりである。




(イ)甲2技術
上記(ア)より、甲2には次の技術的事項(以下「甲2技術」という。)が記載されているものと認められる。
「中空パイプ形状の本体200と、本体200の外周面に突出形成される複数のスプライン突起300を含み、
スプライン突起300は本体200の外周面で外側に突出する第1曲面部310と、第1曲面部310の終端で延長形成される第1傾斜面部320と、第1傾斜面部320の終端で外側に湾曲して突出する第2曲面部330と、第2曲面部330の終端で本体200の外周面と同心に延長形成される延長部340と、延長部340の終端で順に形成される第3曲面部350と第2傾斜面部360及び第4曲面部370を含み、
第1曲面部310と第2曲面部330は同じ曲率で形成され、
第3曲面部350は本体200の中心Oと延長部340の中間点M1をつなぐ仮想の延長線L1を基準に第2曲面部330と対称に形成され、第2傾斜面部360は仮想の延長線L1を基準に第1傾斜面部320と対称に形成され、第4曲面部370は仮想の延長線L1を基準に本体200の外周面210まで第1曲面部310と対称に形成され、
第1傾斜面部320は第1曲面部310の終端で仮想の延長線L1方向に傾斜するように延長形成され、
本体200の外周面210の直径が8.9であるとするとき、本体200の内周面220の直径は6.5であり、延長部340が内接する仮想円C1の直径は10.45で、第1曲面部310の曲率半径は0.4である、
車両シート用リクライナーシャフト100。」

(2)対比・判断
ア 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「自動車用の電動シート1内に配備された電動リクライニング機構4に採用される駆動シャフト20」及び「軸体」は、それぞれ、本件発明1の「車両シート用リクライナーシャフト」及び「本体」に相当する。また、甲1発明の「複数の凸条部22が駆動シャフト20の径方向に沿って放射状に並んでいることで、駆動シャフト20に雄スプラインが形成され」との構成から、「凸条部22」が「雄スプライン」であることは明らかである。そうすると、甲1発明の「凸条部22」は、本件発明1の「スプライン突起」に相当する。

(イ)甲1発明の「中空部23が形成され」た「軸体」は、上記(ア)も踏まえると本件発明1の「中空パイプ形状の本体」に相当する。

(ウ)甲1発明の「凸状部22」は「凸部が駆動シャフト20の長手方向に連続的に形成され」たものであるから、当該「凸状部22」が「駆動シャフト20の長手方向に連続的に形成され」ていることは明らかである。また、甲1発明の「凸状部22」は、「7つ」あり、「軸体の外周面で周方向に沿って」、「形成され」、「所定」の「高さ」を有するものである。以上のことから、甲1発明のかかる構成を有する「凸状部22」は、上記(ア)も踏まえると本件発明1の「前記本体の外周面から半径方向の外側に突出形成され、前記本体の長手方向に沿って延長される7個のスプライン突起」に相当する。

(エ)甲1発明の「軸体の外周面で周方向に沿って」、「形成され」た「7つの凸状部22」が「等間隔で駆動シャフト20の外周全体に形成され」、「軸体の中心」に「形成され」た「中空部23」の「断面は略丸形状であ」ることは、上記(ア)も踏まえると本件発明1の「前記7個のスプライン突起は、前記本体の周囲に沿って同じ角度で離隔形成され、前記本体の内周面は円型断面で形成され」ることに相当する。

(オ)甲1発明の「凸条部22」は、「断面視で台形状であり、底辺より上辺が狭」いから、径方向に対して傾斜する両側面を有することは明らかである。そうすると、甲1発明のかかる「両側面」は、本件発明1の「第1傾斜面部」及び「第2傾斜面部」に相当する。

(カ)本件発明1の「延長部」は「スプライン突起」の頂部であるといえる。また、甲1発明において、「外方膨出状の円弧となって」いる「凹条部21の底部」が「軸体の外周面」を形成していることは明らかである。そうすると、甲1発明の「凹条部21の底部と相似した外方膨出状の円弧となって」いる「凸条部22の頂部」と本件発明1の「第2曲面部の端から本体の外周面と平行に延長形成される延長部」は、上記(ア)も踏まえると「本体の外周面と平行な頂部」という点で共通する。

(キ)上記(ア)、(オ)及び(カ)を踏まえると、甲1発明の「凸条部22は、断面視で台形状であり、底辺より上辺が狭く、凸条部22の頂部は、凹条部21の底部と相似した外方膨出状の円弧となっている」ことと本件発明1の「前記スプライン突起は、前記本体の外周面から外側に向かって所定の曲率で突出する第1曲面部と、前記第1曲面部の端から傾斜して延長形成される第1傾斜面部と、前記第1傾斜面部の端から前記本体の外側に向かって膨らんで突出する第2曲面部と、前記第2曲面部の端から前記本体の外周面と平行に延長形成される延長部と、前記延長部の端から前記延長部に対して前記第2曲面部と対称形成される第3曲面部と、前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部と、前記第2傾斜面部の端から前記本体の外周面まで前記延長部に対して前記第1曲面部と対称形成される第4曲面部とを含」むこととは、「前記スプライン突起は、第1傾斜面部と、前記本体の外周面と平行な頂部と、第2傾斜面部とを含」むという点で共通する。

以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点、相違点は次のとおりと認められる。
<一致点>
「 中空パイプ形状の本体と、
前記本体の外周面から半径方向の外側に突出形成され、前記本体の長手方向に沿って延長される7個のスプライン突起とを含み、
前記7個のスプライン突起は、前記本体の周囲に沿って同じ角度で離隔形成され、前記本体の内周面は円型断面で形成され、
前記スプライン突起は、第1傾斜面部と、前記本体の外周面と平行な頂部と、第2傾斜面部とを含む、
車両シート用リクライナーシャフト。」

<相違点>
上記「スプライン突起」、「外周面」及び「内周面」に関して、本件発明1では、「前記スプライン突起は、前記本体の外周面から外側に向かって所定の曲率で突出する第1曲面部と、前記第1曲面部の端から傾斜して延長形成される第1傾斜面部と、前記第1傾斜面部の端から前記本体の外側に向かって膨らんで突出する第2曲面部と、前記第2曲面部の端から前記本体の外周面と平行に延長形成される延長部と、前記延長部の端から前記延長部に対して前記第2曲面部と対称形成される第3曲面部と、前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部と、前記第2傾斜面部の端から前記本体の外周面まで前記延長部に対して前記第1曲面部と対称形成される第4曲面部とを含み、前記本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであり、前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり、前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され、前記第1傾斜面部の外側端と前記第2傾斜面部の外側端との間の距離は2.0mm〜2.1mmであり、前記本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmである」のに対して、甲1発明では、「凸条部22は、断面視で台形状であり、底辺より上辺が狭く、凸条部22の頂部は、凹条部21の底部と相似した外方膨出状の円弧となって」いるものの具体的な形状、寸法の特定はなく、また、「外周面」及び「内周面」の寸法は不明である点。

イ 判断
上記相違点について以下検討する。
(ア)甲2技術の「中空パイプ形状の本体200」、「スプライン突起300」及び「車両シート用リクライナーシャフト100」は、それぞれ、本件発明1の「中空パイプ形状の本体」、「スプライン突起」及び「車両シート用リクライナーシャフト」に相当する。
そして、甲1発明と甲2技術は「中空パイプ形状の本体とスプライン突起を含む車両シート用リクライナーシャフト」という同一の技術分野に属する。
また、甲1発明の「雄スプライン」である「凸状部22」は、甲1の段落【0018】及び【0022】の記載も踏まえると、回転駆動力を伝達する機能を有するものであると認められる。そして、甲2技術の「スプライン突起」も、甲2の段落【0053】の記載も踏まえると、回転力を伝達する機能を有するものであると認められる。そうすると、甲1発明の「凸状部22」と甲2技術の「スプライン突起」は、回転駆動力を伝達するという共通する作用・機能を有するものである。
以上のことから、甲1発明に甲2技術を適用する動機付けが存在するといえる。

(イ)甲2技術の「スプライン突起300は本体200の外周面で外側に突出する第1曲面部310と、第1曲面部310の終端で延長形成される第1傾斜面部320と、第1傾斜面部320の終端で外側に湾曲して突出する第2曲面部330と、第2曲面部330の終端で本体200の外周面と同心に延長形成される延長部340と、延長部340の終端で順に形成される第3曲面部350と第2傾斜面部360及び第4曲面部370を含み」、「第3曲面部350は本体200の中心Oと延長部340の中間点M1をつなぐ仮想の延長線L1を基準に第2曲面部330と対称に形成され、第2傾斜面部360は仮想の延長線L1を基準に第1傾斜面部320と対称に形成され、第4曲面部370は仮想の延長線L1を基準に本体200の外周面210まで第1曲面部310と対称に形成され」、「第1傾斜面部320は第1曲面部310の終端で仮想の延長線L1方向に傾斜するように延長形成され」ることは、本件発明1の「スプライン突起」が「本体の外周面から外側に向かって所定の曲率で突出する第1曲面部と、前記第1曲面部の端から傾斜して延長形成される第1傾斜面部と、前記第1傾斜面部の端から前記本体の外側に向かって膨らんで突出する第2曲面部と、前記第2曲面部の端から前記本体の外周面と平行に延長形成される延長部と、前記延長部の端から前記延長部に対して前記第2曲面部と対称形成される第3曲面部と、前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部と、前記第2傾斜面部の端から前記本体の外周面まで前記延長部に対して前記第1曲面部と対称形成される第4曲面部とを含む」ことに相当する。
また、甲2技術は「本体200の外周面210の直径が8.9であるとするとき、本体200の内周面220の直径は6.5であり、延長部340が内接する仮想円C1の直径は10.45で、第1曲面部310の曲率半径は0.4であり」との事項を有している。ここで、工学系の分野において、長さの単位としてメートルが用いられることが技術常識であることと、車両シート用リクライナーシャフトの通常想定され得る寸法を踏まえると、当業者であれば、前記事項における各数値の単位がミリメートルであると理解できるものと認められる。
そうすると、甲2技術の「本体200の外周面210の直径が8.9であるとするとき、本体200の内周面220の直径は6.5であり、延長部340が内接する仮想円C1の直径は10.45で、第1曲面部310の曲率半径は0.4であり」、「第1曲面部310と第2曲面部330は同じ曲率で形成され」、「第3曲面部350」は「第2曲面部330と対称に形成され」、「第4曲面部370」は「第1曲面部310と対称に形成され」ていることと、本件発明1の「本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであり、前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり、前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され、前記第1傾斜面部の外側端と前記第2傾斜面部の外側端との間の距離は2.0mm〜2.1mmであり、前記本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmである」こととは、「本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであり、前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり、前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmであり、前記本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmである」という点で共通する。
しかしながら、甲2技術において、「第1曲面部310と第2曲面部330は同じ曲率で形成され」、「第3曲面部350は本体200の中心Oと延長部340の中間点M1をつなぐ仮想の延長線L1を基準に第2曲面部330と対称に形成され」、「第4曲面部370は仮想の延長線L1を基準に本体200の外周面210まで第1曲面部310と対称に形成され」ているから、第2曲面部330及び第3曲面部350の曲率半径と、第1曲面部310及び第4曲面部370の曲率半径は同じである。
したがって、甲2技術は、第2曲面部330及び第3曲面部350の曲率半径を第1曲面部310及び第4曲面部370の曲率半径よりも大きく設定するものではなく、第2曲面部及び第3曲面部の曲率半径と第1曲面部及び第4曲面部の曲率半径との大小関係を異ならせることの技術思想もない。

(ウ)以上のとおり、甲1発明に甲2技術を適用する動機付けは存在する(上記(ア))が、甲2技術は、第2曲面部330と第3曲面部350の曲率半径を第1曲面部310と第4曲面部370の曲率半径よりも大きく設定するものではない(上記(イ))。
また、上記相違点に係る構成のうち「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」るとの構成が、技術常識又は周知技術であると認めるに足る証拠もない。
したがって、甲1発明に甲2技術を適用しても、上記相違点に係る本件発明1の構成のうち、少なくとも「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」るとの構成には至らない。

(エ)よって、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(3)申立人の意見について
ア 令和4年1月5日付け意見書における申立人の主張の要旨は、次のとおりである。
(ア)特許権者の主張する「スプライン突起とスプライン溝の噛合いより深くなり、第1傾斜面部及び第2傾斜面部からスプライン溝の対向する側面に周方向に入力される回転駆動力の伝達効率を高めることができる。」といった効果は明細書の段落【0032】には何ら言及されておらず、また、第2曲面部と第3曲面部の曲率半径が例えば0.39mmの場合、上記効果を明細書又は図面の記載から当業者が推論することは到底できないから、上記効果は、「引用発明と比較した有利な効果」として参酌すべきではない(第6ページ第1〜19行、第8ページ第7〜13行、同第25行〜最終行)。

(イ)訂正事項1は、その数値範囲内の全ての部分で有利な効果が顕著性を有しているとは認められず、当業者の通常の創作能力の発揮といえるから、第2曲面部330と第3曲面部350の曲率半径に対して、「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」る構成を選択したことに臨界的意義は見出せない(第9ページ第1〜8行)。

(ウ)「車両の軽量化」、「製造コストの節減」との効果は、訂正請求書で訂正された「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」るとの構成とは何ら関係がない(第6ページ第4、5行、第10ページ第3〜8行)。

(エ)「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」との構成を含めて本件発明1の効果を参酌しても、本件発明1の各数値範囲に臨界的意義は見出せず、甲1発明及び甲2技術に比して、当業者が予測できないような格別なものはない(第10ページ第9〜12行))。

イ 上記アに係る主張について検討する。
申立人は、本件発明1が格別な効果を奏さないこと、各数値範囲に臨界的意義を見出せないことを主張しているが、上記(2)イ(イ)で述べたように、甲2技術は、第2曲面部330及び第3曲面部350の曲率半径を第1曲面部310及び第4曲面部370の曲率半径よりも大きく設定するものではなく、第2曲面部及び第3曲面部の曲率半径と第1曲面部及び第4曲面部の曲率半径との大小関係を異ならせることの技術思想もない。
したがって、甲1発明に甲2技術を適用しても「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」るとの構成には至らず、また、当該構成を容易想到とする証拠もない以上、本件発明1は、甲1発明及び甲2技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。
よって、申立人の上記アに係る主張は採用できない。

ウ また、申立人は、令和3年3月15日付け特許異議申立書において、甲第3号証及び甲第4号証によれば、本件特許の図2に示されるリクライナーシャフトの外形形状と、甲1の図2(a)に示される駆動シャフトの外形形状は一致するから、本件特許に係るリクライナーシャフトの外形形状は、本件特許の特許出願時において当業者に広く知られていたと主張している(第15ページ第19行〜第16ページ第4行)。

エ 上記ウに係る主張について検討する。
一般に、特許出願の願書に添付される図面は、明細書を補完し、特許を受けようとする発明に係る技術内容を当業者に理解させるための説明図にとどまるものであって、設計図と異なり、当該図面で示される部位の寸法や曲率などは、必ずしも正確でなくても足り、もとより、当該図面に示される部位の寸法や曲率などがこれによって特定されるものではないというべきである。
したがって、甲1の図2(a)に示される駆動シャフトの外形形状が本件特許の図2に示されるリクライナーシャフトの外形形状と一致するからといって、本件特許請求項1で特定される寸法や曲率を有するリクライナーシャフトが、甲1に開示されているとはいえないから、申立人の上記ウに係る主張は採用できない。

第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
1 取消理由通知において採用しなかった申立人の特許異議申立理由の要旨は、次のとおりである。
(1)申立ての理由1(特許法第36条第6項第1号及び第2号)
ア 請求項1に記載の「端」について
請求項1に記載の「第1曲面部」の「端」、「第1傾斜面部」の「端」、「第2曲面部」の「端」、「延長部」の「端」、「第3曲面部」の「端」、「第2傾斜面部」の「端」がどこにあるのか明確でないし、本件特許明細書にも記載されていない。

イ 請求項1に記載の「外側端」について
請求項1に記載の「第1傾斜面部」の「外側端」及び「第2傾斜面部」の「外側端」がどこにあるのか明確でないし、本件特許明細書にも記載されていない。

ウ 請求項1に記載の「本体の外周面の直径(C2)」について
本件発明1の仮想円の直径C1を例えば10.0mmとする時、外周面の直径C2は少なくとも10.0mm未満とする必要があるが、請求項1には「本体の外周面の直径(C2)は7.2mm〜12.4mm」と規定され、仮想円の直径C1を超える場合があり、明確でない。また、本体の外周面の直径C2が仮想円の直径C1を超えない場合であっても、その差が小さいほど、スプライン突起はより小さくなり、スプライン突起は、「リクライナー装置20のスプライン溝(図示せず)に噛み合わされ、リクライナーシャフト100の回転力をリクライナー装置20に伝達する」ことができなくなるから、本件発明1は明確でない。

エ 請求項1に記載の「本体の内周面の直径(C0)」について
本件発明1の仮想円の直径C1を例えば10.0mmとする時、本体の内周面の直径C0は少なくとも10.0mm未満とする必要があるが、請求項1には「本体の内周面の直径(C0)は4.4mm〜10.8mm」と規定され、仮想円の直径C1を超える場合があり、明確でない。
なお、令和3年3月15日付け特許異議申立書第9ページ「4−2−e)」における「本体の外周面の直径(C2)は少なくとも10.0mm未満とする必要があるが、発明特定事項Fによれば『本体の外周面の直径(C2)は7.2mm〜12.4mm』と規定され」との記載は、その前後の内容から「本体の内周面の直径(C0)は少なくとも10.0mm未満とする必要があるが、発明特定事項Fによれば『本体の内周面の直径(C0)は4.4mm〜10.8mm』と規定され」の誤記であるものとして理解した。

(2)申立ての理由2(特許法第36条第4項第1号
リクライナーシャフトのねじり強度に関して、所望のねじり強度を実現するためには、各部の寸法を最適化する必要があるが、請求項1に記載の各部の寸法の数値範囲のうち各部の寸法を無作為に選択しても、明細書の段落【0033】に記載されたようにねじり変形を防止できる強度を実現することはできない。
さらに、リクライナーシャフトのねじり強度は、各部の寸法の他、リクライナーシャフトの構成材料の組成、試験方法及び加工方法等の数多くの要因に依存するが、本件特許明細書の記載は、ねじり変形を防止できる所望のねじり強度を実現するための他の要因について何ら記載がない。
したがって、本件特許明細書の記載は、当業者がねじり変形を防止できる強度を実現できるようなリクライナーシャフトに係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものではない。

2 上記の特許異議申立理由についての当審の判断は、次のとおりである。
(1)申立ての理由1(特許法第36条第6項第1号及び第2号)について
ア 請求項1に記載の「端」について
(ア)請求項1の「前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり」との記載から、「第1曲面部」は、「曲率半径」が「0.1mm〜0.4mm」となる部位であり、「第1曲面部」は、前記部位の両端の2つの端を有するものと理解できる。
そして、請求項1に記載の「前記第1曲面部の端から傾斜して延長形成される第1傾斜面部」における「第1曲面部」の「端」は、前記2つの端のうち、「第1傾斜面部」側の「端」として特定できる。

(イ)請求項1の「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」との記載から、「第2曲面部」は、「曲率半径」が「0.3mm〜0.5mmの範囲内で第1曲面部及び第4曲面部よりも大きく設定され」た部位であり、「第2曲面部」は、前記部位の両端の2つの端を有するものと理解できる。
そして、請求項1に記載の「前記第1傾斜面部の端から前記本体の外側に向かって膨らんで突出する第2曲面部と、前記第2曲面部の端から前記本体の外周面と平行に延長形成される延長部」における「第1傾斜面部の端」は、「第1傾斜面部」において、「第2曲面部」の2つの端のうち「第1傾斜面部」側の端と接する部位として特定できる。また、「第2曲面部の端」は、「第2曲面部」の前記2つの端のうち「延長部」側の「端」として特定できる。

(ウ)請求項1の「前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され」との記載から、「第3曲面部」は、「曲率半径」が「0.3mm〜0.5mmの範囲内で第1曲面部及び第4曲面部よりも大きく設定され」た部位であり、「第3曲面部」は、前記部位の両端の2つの端を有するものと理解できる。
そして、請求項1に記載の「前記延長部の端から前記延長部に対して前記第2曲面部と対称形成される第3曲面部と、前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部」における「延長部の端」は、「延長部」において、「第3曲面部」の2つの端のうち「延長部」側の端と接する部位として特定できる。また、「第3曲面部の端」は、「第3曲面部」の前記2つの端のうち「第2傾斜面部」側の「端」として特定できる。

(エ)請求項1の「前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり」との記載から、「第4曲面部」は、「曲率半径」が「0.1mm〜0.4mm」となる部位であり、「第4曲面部」は、前記部位の両端の2つの端を有するものと理解できる。
そして、請求項1に記載の「前記第2傾斜面部の端から前記本体の外周面まで前記延長部に対して前記第1曲面部と対称形成される第4曲面部」における「第2傾斜面部の端」は、「第2傾斜面部」において、「第4曲面部」の2つの端のうち「第2傾斜面部」側の端と接する部位として特定できる。

(オ)以上のとおりであるから、請求項1に記載の「第1曲面部」の「端」、「第1傾斜面部」の「端」、「第2曲面部」の「端」、「延長部」の「端」、「第3曲面部」の「端」、「第2傾斜面部」の「端」は明確である。

(カ)本件特許明細書の段落【0023】には「また、スプライン突起300は、本体200の外周面から外側に突出する第1曲面部310と、第1曲面部310の端から延長形成される第1傾斜面部320と、第1傾斜面部320の端から外側に湾曲突出する第2曲面部330と、第2曲面部330の端から本体200の外周面と同心に延長形成される延長部340と、延長部340の端から順に形成される第3曲面部350と第2傾斜面部360及び第4曲面部370を含む。」と記載され、段落【0029】には「本発明の他の実施例として、延長部340が内接するように描かれる仮想円C1の直径を10.0〜14.0(単位:mm)とする時、本体200の外周面の直径は7.2〜12.4である。この時、第1曲面部310と第4曲面部370の曲率半径は0.4以下、好ましくは0.1〜0.4であり、第2曲面部330と第3曲面部350の曲率半径は0.3〜0.5であり、好ましくは0.4である。また、第1傾斜面部320の外側端と第2傾斜面部360の外側端との間の距離dは2.0〜2.1であり、好ましくは2.1である。また、本体200の内周面の直径は4.4〜10.8である。」と記載されている。
そうすると、上記(ア)〜(エ)も踏まえると、本件特許明細書には、「第1曲面部」の「端」、「第1傾斜面部」の「端」、「第2曲面部」の「端」、「延長部」の「端」、「第3曲面部」の「端」、「第2傾斜面部」の「端」が記載されているといえる。

イ 請求項1に記載の「外側端」について
上記ア(イ)のとおり、「第1傾斜面部の端」は、「第1傾斜面部」において、「第2曲面部」の2つの端のうち「第1傾斜面部」側の端と接する部位として特定できる。そうすると、本件特許明細書の段落【0029】の「第1傾斜面部320の外側端と第2傾斜面部360の外側端との間の距離dは2.0〜2.1であり、好ましくは2.1である。」との記載及び図2も踏まえると、「第1傾斜面部の外側端」は、当該「第1傾斜面部の端」を意味するものと理解できる。
請求項1の「前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部」との記載から、「第2傾斜面部」は「第3曲面部の端」と接する「端」を有していると理解できる。そうすると、段落【0029】の上記の記載及び図2も踏まえると、「第2傾斜面部の外側端」は、前記「第2傾斜面部」の「第3曲面部の端」と接する「端」を意味するものと理解できる。
以上より、請求項1に記載の「第1傾斜面部の外側端」及び「第2傾斜面部の外側端」は明確であるし、発明の詳細な説明に記載されたものと認められる。

ウ 請求項1に記載の「本体の外周面の直径(C2)」について
請求項1で特定されているように、「仮想円」は「本体の延長部が内接するように描かれる」ものであるから、「本体の外周面の直径」(C2)は「仮想円の直径」(C1)よりも小さいことは明らかである。
そうすると、請求項1における「仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであ」ることの特定において、「仮想円の直径」(C1)と「本体の外周面の直径」(C2)は、各数値範囲の中で、「本体の外周面の直径」(C2)を「仮想円の直径」(C1)よりも小さいものとして、選択されることとなる。
したがって、「本体の外周面の直径」(C2)が「仮想円の直径」(C1)を超えることはなく、この点において本件発明1は明確である。
また、本件発明1の「スプライン突起」は、リクライナー装置20のスプライン溝に噛み合わされ、リクライナーシャフト100の回転力をリクライナー装置20に伝達するものである(段落【0032】)。そうすると、本件発明1における請求項1に記載された各数値範囲について、スプライン突起が回転力を伝達するという機能が達成できるような数値が選択されるものであることは、本件発明1が「車両シート用リクライナーシャフト」の発明であることから明らかであって、この点においても本件発明1は明確である。

エ 請求項1に記載の「本体の内周面の直径(C0)」について
請求項1で特定されているように、「仮想円」は「本体の延長部が内接するように描かれる」ものであるから、「本体の内周面の直径」(C0)は「仮想円の直径」(C1)よりも小さいことは明らかである。
そうすると、請求項1における「仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、・・・本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmである」との特定において、上記ウと同様に、各数値範囲の中で、「本体の内周面の直径(C0)を「仮想円の直径」(C1)よりも小さいものとして、選択されることとなる。
したがって、「本体の内周面の直径」が「仮想円の直径」を超えることはなく、この点において本件発明1は明確である。
(2)申立ての理由2(特許法第36条第4項第1号)について
ア 特許法第36条第4項第1号の「その実施をすることができる」とは、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることであり、物の発明については、明細書にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書等の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。

イ そして、本件特許明細書には、本件発明1の車両シート用リクライナーシャフトの製造方法に関する具体的な記載はないものの、段落【0031】には「本発明の第1実施例によるリクライナーシャフト100は、アルミニウムなどの金属材質であり」と記載され、段落【0033】には「本発明の第1実施例によるリクライナーシャフト100は、塑性加工によって重量および材料コストを節減できる中空形態で形成され」と記載され、材質と加工方法が開示されている。また、甲1及び2に示されるように、複数のスプライン突起を有するリクライナーシャフトが本件特許の特許出願時に周知技術であることも併せ考慮すると、当業者であれば本件発明1の車両シート用リクライナーシャフトを作ることができるというべきであり、本件発明1の車両シート用リクライナーシャフトを作ることができないという特段の事情は見当たらない。また、本件特許明細書の段落【0031】、【0032】には、本件発明1の車両シート用リクライナーシャフトを、リクライナー装置20にスプライン結合して、回転力をリクライナー装置20に伝達することが記載されており、当業者がこの記載に基づいて本件発明1の車両シート用リクライナーシャフトを使用することができることは明らかである。

ウ 申立人は、請求項1に記載の各部の寸法の数値範囲のうち各部の寸法を無作為に選択しても、ねじり変形を防止できる強度を実現することはできないと主張するが、所望のねじり強度を実現できるように、構成材料の組成や加工方法等も踏まえて各部の寸法を最適化することは当業者の通常の創作能力の発揮であって、当業者に期待し得る程度を超える過度の試行錯誤を強いるものとはいえない。

エ したがって、本件特許明細書は、当業者が本件発明1を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものである。

第6 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
中空パイプ形状の本体と、
前記本体の外周面から半径方向の外側に突出形成され、前記本体の長手方向に沿って延長される7個のスプライン突起とを含み、
前記7個のスプライン突起は、前記本体の周囲に沿って同じ角度で離隔形成され、前記本体の内周面は円型断面で形成され、
前記スプライン突起は、前記本体の外周面から外側に向かって所定の曲率で突出する第1曲面部と、前記第1曲面部の端から傾斜して延長形成される第1傾斜面部と、前記第1傾斜面部の端から前記本体の外側に向かって膨らんで突出する第2曲面部と、前記第2曲面部の端から前記本体の外周面と平行に延長形成される延長部と、前記延長部の端から前記延長部に対して前記第2曲面部と対称形成される第3曲面部と、前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部と、前記第2傾斜面部の端から前記本体の外周面まで前記延長部に対して前記第1曲面部と対称形成される第4曲面部とを含み、
前記本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0mm〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2mm〜12.4mmであり、前記第1曲面部と前記第4曲面部の曲率半径は0.1mm〜0.4mmであり、前記第2曲面部と前記第3曲面部の曲率半径は0.3mm〜0.5mmの範囲内で前記第1曲面部及び前記第4曲面部よりも大きく設定され、前記第1傾斜面部の外側端と前記第2傾斜面部の外側端との間の距離は2.0mm〜2.1mmであり、前記本体の内周面の直径は4.4mm〜10.8mmであることを特徴とする車両シート用リクライナーシャフト。
【請求項2】
中空パイプ形状の本体と、
前記本体の外周面から半径方向の外側に突出形成され、前記本体の長手方向に沿って延長される7個のスプライン突起とを含み、
前記7個のスプライン突起は、前記本体の周囲に沿って同じ角度で離隔形成され、前記本体の内周面は円型断面で形成され、
前記スプライン突起は、前記本体の外周面から外側に向かって所定の曲率で突出する第1曲面部と、前記第1曲面部の端から傾斜して延長形成される第1傾斜面部と、前記第1傾斜面部の端から前記本体の外側に向かって膨らんで突出する第2曲面部と、前記第2曲面部の端から前記本体の外周面と平行に延長形成される延長部と、前記延長部の端から前記延長部に対して前記第2曲面部と対称形成される第3曲面部と、前記第3曲面部の端から前記延長部に対して前記第1傾斜面部と対称形成される第2傾斜面部と、前記第2傾斜面部の端から前記本体の外周面まで前記延長部に対して前記第1曲面部と対称形成される第4曲面部とを含み、
前記本体の内周面から前記スプライン突起に各々対応して半径方向の外側に陥没形成される複数の溝部をさらに含み、
前記溝部の両側壁は、本体の内周面から前記延長部の中間点まで湾曲形成される第5曲面部と、前記本体の中心と前記延長部の中間点をつなぐ仮想の延長線を基準に前記第5曲面部と対称形成される第6曲面部とを含み、前記溝部の床は尖って形成され、
前記本体の延長部が内接するように描かれる仮想円の直径を10.0〜14.0mmとする時、前記本体の外周面の直径は7.2〜12.4mmであり、前記第1曲面部と第5曲面部、および第4曲面部と第6曲面部との間の間隔は、各々0.8〜1.4mmであり、
前記第5曲面部は、前記第1曲面部と同じ曲率中心を有し、前記第6曲面部は、前記第4曲面部と同じ曲率中心を有し、前記第5曲面部と前記第6曲面部の曲率半径が1.1〜1.4mmであることを特徴とする車両シート用リクライナーシャフト。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-27 
出願番号 P2019-088249
審決分類 P 1 652・ 121- YAA (B60N)
P 1 652・ 537- YAA (B60N)
P 1 652・ 536- YAA (B60N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 一ノ瀬 覚
特許庁審判官 島田 信一
畔津 圭介
登録日 2020-11-13 
登録番号 6794492
権利者 ソン,クック‐テ
発明の名称 車両シート用リクライナーシャフト  
代理人 中島 淳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 加藤 和詳  
代理人 中島 淳  

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