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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1384095
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-03-29 
確定日 2022-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6762465号発明「二次電池及び電池外装材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6762465号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜15〕について訂正することを認める。 特許第6762465号の請求項1、3〜15に係る特許を維持する。 特許第6762465号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6762465号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜15に係る特許についての出願は、2016年(平成28年)4月28日(国内優先権主張平成27年5月1日)に国際出願され、令和2年9月11日にその特許権の設定登録がされ、令和2年9月30日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和3年3月29日に、請求項1〜15に係る特許に対し、特許異議申立人 田中俊子(以下、「申立人」という。)により、甲第1号証〜甲第8号証(以下、「甲1」等という。)を証拠方法とする特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年8月16日付けで取消理由を通知し、特許権者からは、その指定期間内である令和3年10月15日に意見書及び訂正請求書が提出され、また、申立人からは、同年12月17日差出で、新たな証拠方法として甲第9号証〜甲12号証(以下、「甲9」等という。)を追加で示す意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出された。

(証拠方法)
甲第1号証(甲1):特開2010−40227号公報
甲第2号証(甲2):特開2013−1408号公報
甲第3号証(甲3):特開2012−203982号公報
甲第4号証(甲4):特開2009−146807号公報
甲第5号証(甲5):特表2010−506373号公報
甲第6号証(甲6):特開平11−67265号公報
甲第7号証(甲7):国際公開第2011/081113号
甲第8号証(甲8):特開2002−270221号公報
甲第9号証(甲9):特開2003−288866号公報
甲第10号証(甲10):特開2003−288865号公報
甲第11号証(甲11):特開2013−101764号公報
甲第12号証(甲12):特開2013−149397号公報

第2 本件訂正請求について
令和3年10月15日提出の訂正請求書による訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)の適否について検討する。

1 訂正請求の趣旨
本件訂正請求の趣旨は本件特許の明細書及び特許請求の範囲を、上記訂正請求書に添付した訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜15について訂正することを求めるものである。

2 訂正の内容
本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)の内容は、以下のとおりである。(なお、訂正箇所に下線を付した。)

(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1に、
「少なくとも三層の積層構造を有する非水電解液二次電池用の外装材であって、中間層が金属箔層であり、非水電解液と接する一方の最外層(内層)は添加剤1を含む熱可塑性樹脂で構成され、前記添加剤1は、―CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含むことを特徴とする外装材。」
とあるのを
「少なくとも三層の積層構造を有する非水電解液二次電池用の外装材であって、中間層が金属箔層であり、非水電解液と接する一方の最外層(内層)は添加剤1を含む熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムで構成され、前記添加剤1は、―CO―NR―(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含み、前記熱可塑性樹脂フィルムは、滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部であることを特徴とする外装材。」
に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の「前記外装体は請求項1または2に記載の」を、「前記外装体は請求項1に記載の」に訂正する。

なお、訂正前の請求項1〜15について、請求項2〜15はそれぞれ直接又は間接的に請求項1を引用しているものであり、訂正事項1に係る訂正よって訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜15は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項である。そして、本件訂正請求は、当該一群の請求項に対して訂正請求をするものである。

3 訂正事項の検討
(1)訂正事項1について
ア 訂正の目的、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(ア)訂正事項1に係る訂正は、
a 外装材の非水電解液と接する一方の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂が「熱可塑性フィルム」の形態をとることを限定するとともに、
b 上記aの「熱可塑性フィルム」について、「滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部である」ことをさらに限定するものである。

(イ)よって、訂正事項1に係る訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当し、また、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでないことも明らかである。

イ 新規事項の有無
(ア)本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)、図面又は特許請求の範囲(以下、これらを総称して「本件明細書等」という。)には、以下の記載がある。(なお、下線は注目する記載に当審が付した。)

「【0054】
電池外装材の構成のうち、非水電解液と接する内層を構成する熱可塑性樹脂フィルム中に、添加剤として、―CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等を練りこみ、熱可塑性樹脂フィルムから少しづつ溶出させることで、非水電解液中に添加剤を適切な濃度範囲に溶出させることが可能である。
【0055】
フィルム成型時に前記添加剤を練りこむ方法としては、例えば、熱可塑性樹脂に前記添加剤を加えた組成物を原料とし押出機に供給して、押出機で押出す過程で加熱することで熱可塑性樹脂を溶融させ、その温度で混練し、ろ過フィルターを経た後にスリット状口金から押し出し、金属ドラムに巻き付けてシート状に冷却固化せしめ未延伸フィルムとすることができる。」

「【0057】
熱可塑性樹脂フィルムには、滑剤を添加することが好ましく、前記添加剤と併用することがより好ましい。これは熱可塑性樹脂フィルムの成型時の流動性、離型性をよくするために添加されるもので、加工機械とフィルム表面、またはフィルム同士の間の摩擦力を調節するために添加される。
前記滑剤は、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪酸アミド、もしくはこれらの混合物が挙げられる。滑剤の添加量は、熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、好ましくは0.05〜2.0質量部の範囲である。」

(イ)そして、訂正事項1のうち、
a 上記ア(ア)aのように、外装材の非水電解液と接する一方の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂が「熱可塑性フィルム」の形態をとることに関しては、本件明細書【0054】〜【0055】に記載されるとおりであり、
b 上記ア(ア)bのように、「熱可塑性フィルム」が「滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部である」ことに関しては、本件明細書【0057】に記載されるとおりである。

(ウ)そうすると、訂正事項1に係る訂正は、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることは明らかである。

(2)訂正事項2について
訂正事項2に係る訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求範囲の減縮を目的としたものである。
また、訂正事項2に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものであることも明らかである。

(3)訂正事項3について
訂正事項3に係る訂正は、訂正事項2に係る訂正により請求項2が削除されたことに伴い、請求項3における引用請求項から、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書き第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものに該当する。
また、訂正事項3に係る訂正が、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しないことは明らかであるし、本件明細書等に記載した事項の範囲内の訂正であることも明らかである。

(4)独立特許要件について
申立人による特許異議の申立ては、訂正前の請求項1〜15の全てに対してなされているので、いわゆる独立特許要件に関する、特許法第120条の5第9項で読み替えて準用する特許法第126条第7項は適用されない。

4 本件訂正請求の適否についての結論
以上のとおり、本件訂正請求は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜15〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
以上のとおり、本件特許の請求項1〜15に係る発明は、本件訂正請求が認められるので、その訂正特許請求の範囲の請求項1〜15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
なお、以下では、特に断り書きがない限り、訂正特許請求の範囲の請求項1〜15に係る発明を「本件発明1」等といい、また、これらを総称して「本件発明」ということもある。
また、下線は訂正された箇所を表す。

「【請求項1】
少なくとも三層の積層構造を有する非水電解液二次電池用の外装材であって、中間層が金属箔層であり、非水電解液と接する一方の最外層(内層)は添加剤1を含む熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムで構成され、前記添加剤1は、―CO―NR―(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含み、前記熱可塑性樹脂フィルムは、滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部であることを特徴とする外装材。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
正極、負極、非水電解液、及び外装体を有する非水電解液二次電池であって、
前記外装体は請求項1に記載の非水電解液二次電池用の外装材を、内側が前記内層となるように形成してなり、
前記非水電解液が電解質と非水溶媒と添加剤2を含有し、前記添加剤2が、
(A)-CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物、
(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤、及び
(C)脂肪酸アミド
からなる群より選ばれる1種以上を含有することを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記添加剤2が(A)-CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物を含む請求項3に記載の二次電池。
【請求項5】
前記添加剤2としての環状化合物がラクタムであり、その開環重合物がラクタムのオリゴマーである請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記添加剤2としての環状化合物がε−カプロラクタムである請求項4または5に記載の二次電池。
【請求項7】
前記非水電解液が、前記添加剤2としての環状化合物及びその開環重合物を全非水電解液質量に対し、0.1〜2.0質量%含有する請求項4〜6のいずれかに記載の二次電池。
【請求項8】
前記添加剤2としての前記(A)-CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物が、前記添加剤1としての−CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物が非水溶媒に溶け出したものを一部に含む請求項4〜7のいずれかに記載の二次電池。
【請求項9】
前記添加剤2が(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤を含む請求項3に記載の二次電池。
【請求項10】
前記添加剤2としてのフェノール系酸化防止剤がペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]であり、前記添加剤2としてのリン系酸化防止剤がトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトである請求項9に記載の二次電池。
【請求項11】
前記非水電解液が、前記添加剤2としての酸化防止剤を全非水電解液質量に対し、0.1〜2.0質量%含有している請求項9または10に記載の二次電池。
【請求項12】
前記添加剤2としての前記(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤が、前記添加剤1としてのフェノール系酸化防止剤またはリン系酸化防止剤が非水溶媒に溶け出したものを一部に含む請求項9〜11のいずれかに記載の二次電池。
【請求項13】
前記添加剤2が(C)脂肪酸アミドを含む請求項3に記載の二次電池。
【請求項14】
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵可能な金属、該金属の酸化物、該金属を含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を負極活物質として含む請求項4〜13のいずれかに記載の二次電池。
【請求項15】
前記リチウムイオンを吸蔵可能な金属が、SiとSnからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項14に記載の二次電池。」

第4 特許異議の申立ての理由及び当審から通知した取消理由の概要
1 特許異議の申立ての理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本件特許に係る出願前に日本国内または外国において頒布された刊行物または電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものである、次の甲第1号証〜甲第8号証(以下、「甲1」等という。)を提出し、以下の申立理由1〜3により、本件特許の請求項1〜15に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

甲第1号証(甲1):特開2010−40227号公報
甲第2号証(甲2):特開2013−1408号公報
甲第3号証(甲3):特開2012−203982号公報
甲第4号証(甲4):特開2009−146807号公報
甲第5号証(甲5):特表2010−506373号公報
甲第6号証(甲6):特開平11−67265号公報
甲第7号証(甲7):国際公開第2011/081113号
甲第8号証(甲8):特開2002−270221号公報

(1)申立理由1(新規性進歩性:取消理由1として一部採用)
本件発明1〜8、14、15は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1〜15は、甲1に記載された発明及び甲2〜8に記載された事項に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(新規性進歩性:取消理由2として一部採用)
本件発明1〜3、9、12は、甲2に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1〜15は、甲2に記載された発明及び甲1、3〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)申立理由3(進歩性:取消理由3として一部採用)
本件発明1〜15は、甲3に記載された発明及び甲1、2、4〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 当審が通知した取消理由の概要
当審は、上記1の特許異議の申立ての理由及その他の理由を検討した結果、下記の引用文献等を提示するとともに、以下の取消理由1(新規性進歩性)、取消理由2(進歩性)及び取消理由3(進歩性)を通知した。

(1)取消理由1(新規性進歩性
本件発明1〜6、8は、甲1に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないものである。また、本件発明1〜15は、甲1に記載された発明、甲5、7及び8に記載された技術事項、並びに周知技術(裏付けとして甲2、3及び7を提示)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(2)取消理由2(進歩性
本件発明1〜7、9〜15は、甲2に記載された発明、甲5、7及び8に記載された技術事項、並びに周知技術(裏付けとして甲1、7及び資料9を提示)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜7、9〜15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

(3)取消理由3(進歩性
本件発明1〜7、9〜15は、甲3に記載された発明、甲5、7及び8に記載された技術事項、並びに周知技術(裏付けとして甲1及び7を提示)に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜7、9〜15に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

記 (引用文献等については引用文献等一覧参照)
<引用文献等一覧>
甲1:特開2010−40227号公報
甲2:特開2013−1408号公報(周知技術をも示すもの)
甲3:特開2012−203982号公報(周知技術をも示すもの)
甲5:特表2010−506373号公報
甲7:国際公開第2011/081113号(周知技術をも示すもの)
甲8:特開2002−270221号公報
資料9:国際公開第2011/101992号(当審が新たに発見した周知技術を示すもの)

第5 本件明細書及び各甲号証等の記載事項
本件明細書、上記第4の2のとおり当審が通知した取消理由で提示をした甲1〜3、5、7、8、及び資料9、並びに申立人が令和3年12月17日差出の意見書(申立人意見書)とともに提出した甲9〜甲12には、それぞれ以下の記載がある。
なお、下線は取消理由の通知時も含めて注目した記載に、また、点線(・・・)は当該部分の記載抽出を省略した部分について、当審がそれぞれ付した。

1 本件明細書に記載された事項
以下の事項が記載されている。
「【0003】
二次電池のサイクル特性を向上させるため、種々の添加剤が検討されている(特開2007−242496号公報;特許文献1)。近年、Si、Snなどの金属が負極活物質として注目されているが、Si、Snなどの金属は充放電に伴う膨張/収縮が大きいため、充放電サイクルを繰り返すと、Si、Snなどの金属の粒子に割れが生じ、その割れの部分で電解液の分解反応が起こる。粒子の割れた金属表面で速やかに反応して保護皮膜を形成し、電解液と金属粒子界面との間の反応を抑えるような添加剤も検討されている(特開2014−99263号公報;特許文献2)。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の課題は、サイクル特性の低下を抑制した二次電池を提供することにある。」
「【0029】
本発明の一実施態様においては、非水電解液への添加剤として(A)―CO−NR−を含む環状化合物及びその開環重合物を含有している。また、別の実施態様としては、添加剤が、(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤を含有している。さらに、別の実施態様としては、添加剤が、(C)脂肪酸アミドを含有している。
これらの添加剤は単独でもよく、(A)と(B)を併用してもよく、(B)と(C)を併用してもよく、(A)と(B)と(C)を併用してもよい。」
「【0037】
前記脂肪酸アミドとしては、ステアリン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどが採用可能であり、これらは混合して使用してもよい。脂肪酸アミドの添加量は、0.05〜2.0質量%の範囲が好ましく、0.3〜1.0質量%の範囲がより好ましい。添加量が0.05質量%未満では添加効果が発現しにくく、2.0質量を超えて添加した場合は、溶解性低下により析出しやすく、活物質表面やセパレータなどへの付着により電池抵抗が高くなる傾向がある。」
「【0054】
電池外装材の構成のうち、非水電解液と接する内層を構成する熱可塑性樹脂フィルム中に、添加剤として、―CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等を練りこみ、熱可塑性樹脂フィルムから少しづつ溶出させることで、非水電解液中に添加剤を適切な濃度範囲に溶出させることが可能である。」
「【0057】
熱可塑性樹脂フィルムには、滑剤を添加することが好ましく、前記添加剤と併用することがより好ましい。これは熱可塑性樹脂フィルムの成型時の流動性、離型性をよくするために添加されるもので、加工機械とフィルム表面、またはフィルム同士の間の摩擦力を調節するために添加される。
前記滑剤は、特に限定されないが、例えば、ステアリン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪酸アミド、もしくはこれらの混合物が挙げられる。滑剤の添加量は、熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、好ましくは0.05〜2.0質量部の範囲である。」

2 甲1(特開2010−40227号公報)の記載事項
「【請求項1】
正極と負極とをセパレータを介して積層してなる電極群を、電解質塩に少なくとも六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む非水電解液と共にラミネートフィルムからなる外装ケースに収納してなるリチウムイオン二次電池において、上記ラミネートフィルムの最内層がポリアミドを分散したポリオレフィン樹脂層であることを特徴とするリチウムイオン二次電池。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
この種のシート状電池はエネルギー密度のみならず寿命向上も望まれており、充放電特性面から電解質塩に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を用いられることが多い。しかしながら、電解液の電解質塩に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を使用したものは、使用に伴い負極上にフッ化リチウム(LiF)が堆積し負極を不活性化していく課題がある。すなわち、この電池は対水分安定性や熱安定性が低く、例えば電池内に少量混入した水分や、60℃程度の弱高温でも電解質アニオンが分解し電池内にフッ化水素(HF)やそれに近い酸が精製し、それが電池内に存在するLiイオンと結合してフッ化リチウム(LiF)を生成し、充放電反応を阻害する不働態被膜を負極表面に堆積する。この現象がこの種の電池の性能劣化の大きな原因である。」
「【0010】
本発明は上記従来技術の課題に鑑みてなされたものであり、正極と負極とをセパレータを介して積層してなる電極群を、電解質塩に少なくとも六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む非水電解液と共にラミネートフィルムからなる外装ケースに収納してなるリチウムイオン二次電池において、使用に伴い生成するフッ化水素(HF)をすみやかに固定することができるラミネートフィルムを提供し、もって長寿命を有するリチウムイオン二次電池を提供することを目的とする。」
「【課題を解決するための手段】
【0011】
上記課題を解決するために、本発明者はシート状電池の外装ケースとして用いられるラミネートフィルムの構成について詳細に検討した結果、外装ケース内で発電要素と接する最内層を、ポリアミド(PA)を分散したポリオレフィン樹脂層とすることで、当該電池の寿命を大きく伸ばすことができることを見出した。すなわち、本発明に係るリチウム二次電池は、請求項1に記載の通り、正極と負極とをセパレータを介して積層してなる電極群を、電解質塩に少なくとも六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む非水電解液と共にラミネートフィルムからなる外装ケースに収納してなるリチウムイオン二次電池において、上記ラミネートフィルムの最内層がポリアミド(PA)を分散したポリオレフィン樹脂層であることを特徴とするものである。」
「【0014】
本発明においては、上記したように外装ケースとして用いられるラミネートフィルムの最内層にポリアミド(PA)を分散したポリオレフィン樹脂層を有することで、電池内に発生したフッ化水素(HF)等を外装ケースのフィルム付近に集めることができ、負極上へのフッ化リチウム(LiF)の堆積を防止することができる。これは、フィルムの最内層に分散したポリアミドがフッ化水素(HF)と強いインターラクションを持つことによる。ここで、フッ化水素(HF)を捕まえるだけならスカベンジャーを投入しフッ化水素(HF)のF−を捕まえる方法があるが、その際、電池内に水素ガスが発生し電池の安全性が低下する。ここで重要なのはフッ化水素(HF)を反応させるのではなく、フッ化水素(HF)を、インターラクションを用いて電池性能に影響が少ない部位に集めることが重要である。」
「【0016】
なお、フィルムの最内層であるポリアミド(PA)を分散したポリオレフィン樹脂層の材料すべてポリアミド(PA)にすることは好ましくない。というのは、ポリアミド(PA)はこの種の電解液で膨潤するため、最内層をポリアミド(PA)のみとしたフィルムを熱融着した場合、融着強度に問題が出てしまう。したがって、フィルムの最内層はポリアミド(PA)を分散したポリオレフィン樹脂層とすることが重要である。そこで、主材となるポリオレフィン樹脂に分散させるポリアミド(PA)の量は、主材の量に対し0.1〜10体積%程度が好ましい。0.1体積%未満であるとその添加効果がなく、10体積%より大きいと、上記したようにフィルム同士を封止する際の熱融着強度に影響が出るためである。」
「【発明の効果】
【0017】
本発明は、正極と負極とをセパレータを介して積層してなる電極群を、電解質塩に少なくとも六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む非水電解液と共にラミネートフィルムからなる外装ケースに収納してなるリチウムイオン二次電池において、上記ラミネートフィルムの最内層を、ポリアミドを分散したポリオレフィン樹脂層としたことにより、その特徴である高いエネルギー密度を損なうことなく、連続的な大放電に適し、安全且つ長寿命のリチウム二次電池を提供することができる。」
「【0024】
次に、熱融着性樹脂層の内側には、ポリアミド(PA)を分散したポリオレフィン樹脂層が形成されている。この層は前述したように、電解質塩に六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を使用したリチウム二次電池において、使用に伴い生成するフッ化水素(HF)を固定するために設けられたものである。ポリアミド(PA)の材料としては、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6とナイロン6,6との共重合体、ナイロン6,10が挙げられるが、特にこれらに限定されない。・・・」
「【0029】
一方負極としては、金属リチウムもしくは各種リチウム合金、SnO2等各種金属酸化物、あるいはリチウムを吸蔵放出可能な炭素材料を用いることができる。炭素材料としては天然に産出される黒鉛もしくは有磯原料を2000℃以上の高温で焼成し、グラファイト構造が発達した平坦な電位特性を有する黒鉛系炭素材料、あるいは有機原料を1000℃以下の比較的低温で焼成し、黒鉛系材料よりも大きな充放電容量が期待できるコークス系炭素材料等が用いられる。」
「【0040】
[電池の組立]
2枚のポリエチレン製多孔シートから成るセパレータを部分的にヒートシールして、封筒状のセパレータ袋を作製し、これに、上記作製した正極板を、上記無地部を残して挿入して、セパレータ包被正極板を得た。
【0041】
次に、上記負極板と上記セパレータ包被正極板とを、各極板の無地部が互いに反対方向になるように交互にスタックして、正極板10枚、負極板11枚の電極群を作製した。
【0042】
次に、このように作製した電極群の正極板無地部に厚さ0.2mm、幅40mmのアルミニウム板からなる正極端子を、負極板無地部に厚さ0.2mm、幅40mmのニッケル板からなる負極端子を、それぞれ所定の条件で超音波溶接法にて取り付けて、電池素子を作製した。
【0043】
(実施例1)
次に、このように作製した電池素子を、図1に示す構成のラミネートフィルムからなる外装ケース内に収納した。図1中、1は最外層であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる保護層A、2はナイロンからなる保護層Bである。これら保護層の内部にはアルミニウム箔からなる金属箔層3が形成され、その内部には両面粘着性ポリプロピレン(PP)接着剤層4を挟んで、ポリプロピレン(PP)からなる熱融着性樹脂層5が形成されている。そして、最内層には、ポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6が形成されている。具体的には、このラミネートフィルム2枚で、上記ポリオレフィン樹脂層6が電池素子側に来るように挟み込んで、その端縁部において2枚のラミネートフィルムを重ね合わせ、正極端子と負極端子がラミネートフィルムからそれぞれ露出する辺及びもう一辺をヒートシールして熱溶着領域を形成し、残り一辺を開口部としてドライセルを作製した。
【0044】
次に、このドライセルを所定の条件にて真空乾燥した後、上記開口部から重量混合比3:7のエチレンカーボネートとジエチルカーボネートに六フッ化リン酸リチウムを1.3mol/lになるように溶解した有機電解液を注入し、セル内を減圧状態にして上記開口部をヒートシールして封口した後、0.1CAの電流で所定の初充電、所定時間保管を行い、その後、0.2CAの電流でセル電圧が2.75Vになるまで放電し、最後に活性化処理を行い、定格容量15Ahのシート状のリチウムイオン二次電池を5個作製した。この電池を実施例1とする。
【0045】
(実施例2)
また、上記電池素子を、図2に示す構成のラミネートフィルムからなる外装ケース内に収納した。図2中、外側から保護層1及び2、金属箔層3、接着剤層4までは、実施例1の構成と同じである。次の熱融着性樹脂層が最内層となって、ポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6となっている点で実施例1の場合と異なる。これ以外は実施例1と同様にして、定格容量15Ahのシート状のリチウムイオン二次電池を5個作製した。この電池を実施例2とする。」
「【図1】


「【図2】



3 甲2(特開2013−1408号公報)の記載事項
「【請求項1】
液体中の溶存酸素を吸収するフィルムであって、
測定温度23℃において、溶存酸素濃度が8.0ppmである水中の溶存酸素の吸収を開始してから1時間の平均溶存酸素吸収速度が、0.001mg/(l・h・cm2)以上であるフィルム。」
「【請求項9】
正極と、
負極と、
電解液と、
前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、
前記正極と前記負極と前記電解液と前記セパレータとを収納する包材とを備え、
前記セパレータおよび前記包材の少なくとも一方は、前記電解液中の溶存酸素を吸収する電池。」
「【発明が解決しようとする課題】
・・・
【0006】
本発明の目的は、液体中の溶存酸素を良好に吸収することができるフィルム、容器および電池を提供することである。」
「【課題を解決するための手段】
・・・
【0023】
(9)
本発明に係る電池は、正極と、負極と、電解液と、セパレータと、包材とを備える。セパレータは、正極と負極との間に配置される。包材は、正極と負極と電解液とセパレータとを収納する。セパレータおよび包材の少なくとも一方は、電解液中の溶存酸素を吸収する。
【0024】
この電池は、セパレータおよび包材の少なくとも一方によって、電解液中の溶存酸素を吸収する。そのため、この電池では、長寿命化が可能である。」
「【発明の効果】
【0025】
本発明に係るフィルム、容器および電池は、液体中の溶存酸素を良好に吸収することができる。」
「【発明を実施するための形態】
【0027】
図1に示されるように、本実施形態に係るフィルム100は、主に、外層110、第1接着層120、バリア層130、第2接着層140、酸素吸収層150、シール層160が、この順に積層されて形成され、液体中の溶存酸素600(図3(a)参照)を吸収する。この液体は、溶媒であってもよいし、溶媒と溶質から成る溶液であってもよい。図2に示されるように、このフィルム100は、容器200の底材300および蓋材400の材料として用いられる。以下、フィルム100の各構成について、それぞれ詳しく説明する。」
「【0029】
<第1接着層、第2接着層>
第1接着層120は、外層110と、バリア層130とを接着する機能を有する。第2接着層140は、バリア層130と、酸素吸収層150とを接着する機能を有する。第1接着層120および第2接着層140の材料として、公知の接着性のオレフィン系樹脂、例えば、接着性ポリプロピレン系樹脂、接着性ポリエチレン系樹脂などが用いられる。なお、第1接着層120および第2接着層140の少なくとも一方は、容器200の内容物の酸化を防止するために、酸化防止剤を含有していてもよい。第1接着層120および第2接着層140の少なくとも一方が酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤として、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが、単体でまたは2種類以上混合して用いられる。
【0030】
<バリア層>
バリア層130は、容器200の外部から侵入する水蒸気、酸素、光などの透過を制限するバリア機能を有する。水蒸気をバリアするバリア層130の材料として、例えば、アルミニウム箔のような金属箔、フッ素、ポリ塩化ビニリデン、環状ポリオレフィン等の水分バリア性を有する樹脂が用いられる。酸素をバリアするバリア層130の材料として、例えば、アルミニウム箔のような金属箔、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアルコール、エチレン−ビニルアルコール共重合体(EVOH)等が用いられる。水蒸気および酸素をバリアするバリア層130の材料として、例えば、バリアPET等が用いられる。光である紫外線をバリアするバリア層130の材料として、例えば、紫外線吸収剤または顔料を含有する樹脂薄膜などが用いられる。水蒸気、酸素、および光をバリアするバリア層130の材料として、例えば、透明樹脂フィルムに、酸化アルミニウム、酸化珪素、酸化マグネシウムまたはそれらの混合物などの無機酸化物からなる蒸着薄膜層が形成されたものが用いられる。なお、必要に応じて、透明樹脂フィルム上に透明プライマー層が形成されてもよいし、または蒸着薄膜層上にガスバリア被膜層が形成されてもよい。」
「【0034】
<シール層>
シール層160は、蓋材400と底材300とをシール(ヒートシール、超音波シール、高周波シール、インパルスシール等)するためのシール機能を有し、容器200に収容される内容物に対して悪影響を及ぼさないものである。シール層160の材料として、低密度ポリエチレン(LDPE)樹脂、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)樹脂、中密度ポリエチレン(MDPE)樹脂、高密度ポリエチレン(HDPE)樹脂、ポリプロピレン(PP)樹脂、エチレン−酢酸ビニル共重合体(EVA)樹脂、エチレン−メチルメタクリレート共重合体(EMMA)樹脂、エチレン−エチルアクリレート共重合体(EEA)樹脂、エチレン−メチルアクリレート共重合体(EMA)樹脂、エチレン−エチルアクリレート−無水マレイン酸共重合体(E−EA−MAH)樹脂、エチレン−アクリレート共重合体(EAA)樹脂、エチレン−メタクリル酸共重合体(EMAA)樹脂、アイオノマー(ION)樹脂などが、単体でまたは2種類以上混合して用いることができる。」
「【0036】
シール層160は、酸化防止剤を含有していてもよいし、酸化防止剤を含有していなくてもよい。シール層160が酸化防止剤を含有する場合、酸化防止剤としては、公知の酸化防止剤が用いられ、例えば、ヒンダードフェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、チオエーテル系酸化防止剤などが、単体でまたは2種類以上混合して用いられる。」
「【0056】
<変形例>
(A)
容器200の内容物は、電解液であってもよい。この容器200は、内容物である電解液中の溶存酸素600を良好に吸収することができる。
【0057】
また、容器200の内容物が電解液である場合、容器200は、電池の包材として用いられてもよい。この容器200は、収納される電解液中の溶存酸素600を良好に吸収することができる。
【0058】
この電池は、具体的に、正極と、負極と、電解液と、セパレータと、包材とを備える。セパレータは、正極と負極との間に配置される。包材は、正極と負極と電解液とセパレータとを収納する。この電池は、包材によって、収納される電解液中の溶存酸素600を良好に吸収することができる。そのため、この電池では、長寿命化が可能である。なお、セパレータは、フィルム100から構成されてもよい。この場合、電池は、セパレータによって、電解液中の溶存酸素600を良好に吸収することができる。」
「【図1】


「【図2】



4 甲3(特開2012−203982号公報)の記載事項
「【請求項1】
基材層の一方の面側に、少なくとも金属箔層、腐食防止処理層、接着樹脂層、シーラント層が順次積層され、かつ前記シーラント層同士をヒートシールして融着したヒートシール部を有するリチウムイオン電池用外装材であって、
前記接着樹脂層と前記シーラント層の少なくとも一方が、層状の下記開裂誘導部を有することを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。
(開裂誘導部)
開裂時の応力が、前記ヒートシール部におけるシーラント層同士の融着面の開裂時の応力よりも小さい部分。」
「【請求項11】
請求項1〜10のいずれか一項に記載のリチウムイオン電池用外装材を備えたリチウムイオン電池。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン電池用外装材及びリチウムイオン電池に関する。
【0002】
二次電池としては、携帯電話、ノート型パソコンをはじめとする携帯機器の小型化に伴い、高エネルギー密度で、軽量化が可能なリチウムイオン電池が多く採用されている。リチウムイオン電池用外装材(以下、単に「外装材」ということがある。)としては、特に大型機器用の二次電池用途において、従来使用されていた缶型とは異なり、形状の自由度、薄型化、軽量化、放熱性の点で優位であるラミネート型の外装材(例えば基材層/接着剤層/アルミニウム箔層/接着樹脂層/シーラント層のような構成)が注目されている(例えば、特許文献1)。」
「【0004】
一方、リチウムイオン電池においては、電解質であるLiPF6やLiBF4が電池内に浸入した水分と反応してフッ酸を発生させたり、過電圧による充電や過大電流での放電等により電池内の圧力が持続的に上昇することがある。シーラント層の融着による密封は、瞬間的な耐圧性には優れるものの、持続的な耐圧性は缶型の外装材に比べて劣っている。そのため、ラミネート型の外装材を使用したリチウムイオン電池は、場合によっては、電池内の持続的な圧力の上昇によって、外装材を融着した部分(以下、「ヒートシール部」という。)が容易に開裂する、又はヒートシール部の手前で外装材が破断することがある。電池内容物である電解液は可燃性を有しており、特に満充電状態の電池は内部に大きな電気エネルギーを蓄えている。そのため、発火を防ぐために外装材のヒートシール部に容易に開裂が生じる、又はヒートシール部の手前で外装材が破断することを防止することが重要である。」
「【発明を実施するための形態】
・・・
【0013】
基材層11には、難燃剤、スリップ剤、アンチブロッキング剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等の添加剤が分散、又は表面上に塗布されてもよい。
スリップ剤としては、例えば、脂肪酸アミド(オレイン酸アミド、エルカ酸アミド、ステアリン酸アミド、ベヘニン酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド等)等が挙げられる。
アンチブロッキング剤としては、シリカ等の各種フィラー系のアンチブロッキング剤が好ましい。
添加剤は、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。」
「【0023】
(腐食防止処理層14)
腐食防止処理層14は、電解液と水分との反応により発生するフッ酸による金属箔層13の腐食を防止し、また塗れ性を向上させて接着樹脂層15との密着性を向上させる役割を果たす。
・・・」
「【0028】
(シーラント層16)
シーラント層16は、外装材1の内層であり、電池組み立て時に熱融着される層である。つまり、シーラント層16は、熱融着性のフィルムにより形成される層である。外装材1のシーラント層16同士を向かい合わせにし、シーラント層16の融解温度以上でヒートシールすることにより、リチウムイオン電池を密閉できる。
シーラント層16を構成する樹脂としては、耐衝撃性及びヒートシール性に優れたリチウムイオン電池が得られやすい点から、熱可塑性樹脂が好ましく、ポリエチレン、ポリプロピレン等のポリオレフィン系樹脂がより好ましい。
ポリプロピレンとしては、ホモ、ブロック又はランダムポリプロピレンが挙げられる。
【0029】
シーラント層16は、単層フィルムからなる層であってもよく、多層フィルムからなる層であってもよい。例えば、防湿性を付与する目的で、エチレン−環状オレフィン共重合体、ポリメチルペンテン等の樹脂を介在させた多層フィルムを用いてもよい。
シーラント層16の厚さは、25〜100μmが好しい。シーラント層16の厚さが25μm以上であれば、優れたヒートシール性が得られやすい。シーラント層16の厚さが100μm以下であれば、シール端面から電池内部に透過する水分量を低減しやすい。
シーラント層16には、難燃剤、スリップ剤、酸化防止剤、光安定剤、粘着付与剤等を配合又は塗布してもよい。これらは、1種を単独で使用してもよく、2種以上を併用してもよい。」
「【0031】
(開裂誘導部)
本発明者は、ラミネート型の外装材のヒートシール部における低応力での開裂、又はヒートシール部手前での外装材の破断の発生について詳細に検討した。
本発明の外装材のような積層フィルムにおける剥離形態としては、接着性を有する層とそれ以外の層の界面において開裂が進行する界面剥離、接着性を有する層同士が積層されている場合にそれらの層間で開裂が進行する層間剥離、接着性を有する層の内部で開裂が進行する凝集剥離の3種類が考えられる。これらの剥離形態については、開裂時の応力、夾雑物シール性で比較すると、以下の関係がある。
界面剥離<層間剥離≦凝集剥離。
界面剥離は、一般に開裂時の応力が小さく、開裂が進行しやすい。また、凝集剥離は相溶性が高い同種成分内で開裂が進行するため、異種成分同士の層間で開裂が進行する層間剥離に比べて開裂時の応力が大きくなることがある。
【0032】
リチウムイオン電池におけるラミネート型の外装材のヒートシール部では、シーラント層の融着面に剥離のきっかけが生じると、開裂が接着樹脂層と腐食防止処理層の界面へと移行し、そこから界面剥離の形態で開裂が進行して開裂応力が低くなる。図4に従来のリチウムイオン電池用外装材101(以下、「外装材101」という。)を示して具体的に説明する。
外装材101は、基材層111の一方の面に、成型向上層112、金属箔層113、腐食防止処理層114、接着樹脂層115、及びシーラント層116が順次積層された多層フィルムであり、シーラント層16同士をヒートシールして融着したヒートシール部101aを有する。外装材101は、ヒートシール部101aを形成することで内部に電池内容物を収納できるようになっている。このような従来の外装材101では、内部の圧力がフッ酸の発生等で上昇し、ヒートシール部101におけるシーラント層116同士の融着面116aの内部側の縁部分116bに剥離のきっかけが生じた場合でも、開裂が進行し難くなるように、接着樹脂層115及びシーラント層116の内部又は層間での開裂時の応力を、シーラント層116同士の融着面116aの開裂時の応力と同等に高く設定している。しかし、従来の外装材101では、図5に示すように、ヒートシール部101aの内部近傍で、開裂が接着樹脂層115と腐食防止処理層114の界面へと移行し、そこから界面剥離の剥離形態で開裂が進行することで低い応力で開裂し、要求される強度が得られないことがわかった。
【0033】
本発明の外装材1では、接着樹脂層15及びシーラント層16の少なくとも一方が、層状の開裂誘導部を有することを特徴とする。開裂誘導部は、開裂時の応力が、ヒートシール部1aにおけるシーラント層16同士の融着面16aの開裂時の応力よりも小さい部分である。接着樹脂層15及びシーラント層16の少なくとも一方が開裂誘導部を有する外装材1では、シーラント層16同士の融着面16aの内部側の縁部分16bで剥離のきっかけが生じた際、開裂の進行が開裂誘導部に誘導される。例えば、シーラント層16を開裂誘導部とした場合、図2に示すように、シーラント層16同士の融着面16aの内部側の縁部分16bで剥離のきっかけが生じた際、開裂の進行が開裂誘導部としたシーラント層16に誘導される。これにより、ヒートシール部1aの内部近傍において開裂が接着樹脂層15と腐食防止処理層14の界面へと移行することが抑制され、剥離形態が界面剥離となることが抑制されるので、結果的に外装材1に低応力での開裂及び破断が生じ難くなる。」
「【0036】
形態(a1):
形態(a1)としては、例えば、単層の接着樹脂層15に、非相溶系の熱可塑性樹脂、及びアンチブロッキング剤、フィラー等の各種添加剤から選ばれる1種以上を配合することで、接着樹脂層15自体を開裂誘導部とする形態(a11)が挙げられる。前記成分を配合することで接着樹脂層15内での同種樹脂部分の融着面積が小さくなり、接着樹脂層15内での開裂時の応力を小さくできる。形態(a11)では、開裂が接着樹脂層15とシーラント層16の層間、又は接着樹脂層15の内部に誘導され、剥離形態が層間剥離又は凝集剥離に誘導される。
形態(a1)は、開裂誘導部の厚さが厚いほど、開裂が進行する際に糸引きが促進されやすくなるので、外装材1がより剥離し難くなる。」
「【0041】
形態(a2):
形態(a2)においては、複数層の接着樹脂層15における開裂誘導部とする層は、1層でもよく2層以上でもよい。形態(a2)においては、複数層の接着樹脂層15におけるシーラント層16側の最表層を開裂誘導部とする形態が好ましい。
形態(a2)としては、例えば、複数層の接着樹脂層15のいずれかの層に、非相溶系の熱可塑性樹脂、又は、アンチブロッキング剤、フィラー等の各種添加剤を配合することで、接着樹脂層15におけるいずれかの層を開裂誘導部とした形態(a21)が挙げられる。前記成分を配合することで、接着樹脂層15におけるいずれかの層の同種樹脂部分の融着面積を小さくし、開裂時の応力を小さくできる。形態(a21)では、接着樹脂層15における開裂誘導部となる層の内部、又は開裂が接着樹脂層15における開裂誘導部である層と開裂誘導部でない層の層間に開裂が誘導され、剥離形態が層間剥離又は凝集剥離となる。また、複数層の接着樹脂層15におけるシーラント層16側の最表層を開裂誘導部とした場合、該最表層の内部、又は該最表層とシーラント層16の層間に開裂が誘導され、剥離形態が層間剥離又は凝集剥離に誘導される。」
「【0062】
本発明のリチウムイオン電池の製造方法は、本発明の外装材を使用する以外は公知の方法を採用できる。例えば、エンボスタイプであれば、以下の方法が挙げられる。
本発明の外装材を冷間成型して凹部を形成し、該凹部内に、正極、セパレータ、負極を収納し、タブが凹部から外部に導出されるようにした後、外装材をシーラント層が対向するように重ね合わせ、1辺を残してヒートシールする。その後、開口した1辺から電解液を注入し、残りの1辺を真空環境下でヒートシールして密封することによりリチウムイオン電池を得る。
本発明のリチウムイオン電池は、本発明の外装材を備えているので、電池内の圧力が持続的に上昇した場合であっても、ヒートシール部に破損が生じ難く、長期信頼性に優れている。」
「【図2】


「【図5】



5 甲5(特表2010−506373号公報)の記載事項
「【請求項1】
電解質塩及び電解液溶媒を含んでなる二次電池用電解液であって、
前記電解液が、ラクタム系化合物及びスルフィニル基含有化合物を同時に含んでなることを特徴とする、二次電池用電解液。」
「【請求項5】
前記ラクタム系化合物が、ε−カプロラクタム、N−メチルカプロラクタム、N−ビニルカプロラクタム、N−アセチルカプロラクタム、N−トリフルオロメチルカプロラクタム、N−メチルスルホニルカプロラクタム、δ−カプロラクタム及びラウロラクタムからなる群より選ばれることを特徴とする、請求項1に記載の二次電池用電解液。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明の目的は、ラクタム系化合物及びスルフィニル基含有化合物を同時に含む電解液を提供することで、負極表面上に形成されるSEI層の物的且つ熱的安全性を最適化し、さらに電池の寿命特性を改善すると同時に、高温安全性を確保することにある。」
「【0014】
ラクタム系化合物により形成されたSEI膜は、堅固であるが、熱的安定性が劣化する。スルフィニル基含有化合物により形成されたSEI膜は、熱的安全性に優れるが、物理的に弱い。
【0015】
一方、ラクタム系化合物は、相対的に高密度のSEIを形成するが、スルフィニル基含有化合物は相対的に多孔性のSEI膜を形成できる。このようなSEI膜の密度差のため、本発明により前記化合物を電解液添加剤として混用する場合、一成分により形成されたSEI膜の薄かったり多孔性を有する部分又はSEI膜が形成されない負極表面に、異なる成分によるSEI膜がさらに形成され得る。その結果、本発明では、前記化合物の各々により形成されたSEI膜が相互補完的に作用して、熱的且つ物的安全性に優れたSEI膜を形成することができる。特に、本発明のSEI膜は、2種のSEI膜が重畳する形態なので、堅固である。また、本発明のSEI膜は、N、S、Oなどの極性基を多数含有して、優れたリチウムイオン伝導度を示すことができる。したがって、本発明では、充放電に従う電池の容量減少が最小化され、電池の寿命特性及び高温安全性を同時に向上させることができる。」
「【0036】
実施例1
エチレンカーボネート(EC):ジエチルカーボネート( DEC)=1:1重量比の1M LiPF6溶液100重量部当り、ε−カプロラクタム(化5)1.0重量部及び1,3−プロパンスルトン1.0重量部を添加して、電解液を製造した。
【化5】



6 甲7(国際公開第2011/081113号)の記載事項
「最近の電子機器では、高性能化および多機能化が益々進行する傾向にあるため、二次電池の充放電が頻繁に繰り返されて充放電容量が低下しやすい状況にある。また、用途が多角化したために、使用時などに高温状況下に置かれることが多くなり、高温で保存した後の容量劣化をより一層抑えることが求められている。」(背景技術 第1頁18〜22行)
「しかしながら、上述の電解液または正極合剤に酸化防止剤を添加する技術では、正極劣化を抑制するために、多量の酸化防止剤を添加する必要がある。酸化防止剤は充放電の繰り返しとともに分解して電池性能を劣化させるため、酸化防止剤を多量に添加すると、電池性能を劣化させる新たな要因となってしまう
したがって、この発明の目的は、酸化防止剤の含有量が少量でも、酸化防止剤による高温環境下での電池特性劣化を抑制できる効果を得ることができる非水電解質および非水電解質電池を提供することにある。」(発明が解決しようとする課題 第2頁第15〜22行)
「以下、この発明の実施の形態について図面を参照して説明する。なお、説明は、以下の順序で行う。
1.第1の実施の形態(電解液)
2.第2の実施の形態(非水電解質電池の第1の例)」(発明を実施するための形態 第5頁第10〜13行)
「(電解液)
この発明の第1の実施の形態による電解液について説明する。この発明の第1の実施の形態による電解液は、例えば非水電解質電池などの電気化学デバイスに用いるものである。電解液は、溶媒と、この溶媒に溶解された電解質塩と、酸化防止剤とを含んでいる。」(第1の実施の形態 第5頁第18〜22行)
「(酸化防止剤)
酸化防止剤としては、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、硫黄系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤などが挙げられる。中でも、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤が好ましい。なお、電解液中に、酸化防止剤は1種で含まれていてもよく、2種以上で含まれていてもよい。」(第1の実施の形態 第8頁第14〜19行)
「フェノール系酸化防止剤としては、より具体的に例えば、ハイドロキノン、tert−ブチルヒドロキノン、p−メトキシフェノール、クレゾール、tert−ブチルカテコール、2,6−ジ−tert−ブチル−p−クレゾール、1,1−ビス(2’−メチル−4’−ヒドロキシ−5’−tert−ブチルフェニル)ブタン、2,2’−メチレンビス(4−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、2,6−ジ−tert−ブチル−4−(N,N−ジメチルアミノメチル)フェノール、2,2’−メチレンビス(4−エチル−6−tert−ブチルフェノール)、4,4’−メチレンビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2’−ジヒドロキシ−3,3’−ジ(α−メチルシクロヘキシル)−5,5’−ジメチルジフェニルメタン、2,2’−エチリデン−ビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、3,9−ビス[2−{3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオニルオキシ}−1,1’−ジメチルエチル]−2,4,8,10−テトラオキサスピロ[5,5]ウンデカン、4,4’−チオビス(3−メチル−6−tert−ブチルフェノール)、ビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロシキベンジル)スルフィド、4,4’−ジチオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、4,4’−トリチオビス(2,6−ジ−tert−ブチルフェノール)、2,2−チオジエチレンビス−[3(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、2,4−ビス(n−オクチルチオ)−6−(4−ヒドロキシ−3’,5’−ジ−tert−ブチルアニリノ)−1,3,5−トリアジン、N,N,’−ビス−[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオニル]ヒドラジン、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)イソシアヌレート、トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)イソシアヌレート、1,3,5−トリス(4−tert−ブチル−3−ヒドロキシ−2,6−ジメチルベンジル)イソシアヌレート、トリエチレングリコール−N−ビス−3−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニル)プロピオネート、1,6−ヘキサンジオール−ビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ペンタエリスリチル−テトラキス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、ヘキサメチレンビス[3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]、オクタデシル3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、N,N≡−ヘキサメチレンビス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ヒドロシンナマミド)、1,3,5−トリメチル−2,4,6−トリス(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシベンジル)ベンゼン、2,4,−ビス[(オクチルチオ)メチル]−o−クレゾール、イソオクチル−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート、テトラキス[メチレン−3−(3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]メタン、3,5−ジ−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−ベンゾプロピオン酸オクチルなどが挙げられる。」(第1の実施の形態 第9頁第8行〜第11頁第4行)
「リン系酸化防止剤としては、具体的に例えば、トリフェニルホスファイト、トリス−(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェノール)フルオロホスファイト、2,2’−エチリデンビス(4,6−ジ−tert−ブチルフェニル)オクチルホスファイト、ジフェニルイソデシルホスファイト、フェニルジイソデシルホスファイト、トリス(ノニルフェニル)ホスファイト、ジイソデシルペンタエリスリトールホスファイト、トリス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(オクタデシル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ホスファイト、サイクリックネオペンタンテトライルビス(2,4−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ホスファイト、トリス[2−tert−ブチル−4−(3−tert−ブチル−4−ヒドロキシ−5−メチルフェニルチオ)−5−メチルフェニル]ホスファイト、オクチルジフェニルホスファイト、ジ(ノニルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジ−tert−フェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,6−ジ−tert−ブチル−4−メチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4,6−トリ−tert−ブチルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、ビス(2,4−ジクミルフェニル)ペンタエリスリトールジホスファイト、テトラ(トリデシル)イソプロピリデンジフェノールジホスファイト、テトラ(トリデシル)−4,4’−n−ブチリデンビス(2−tert−ブチル−5−メチルフェノール)ジホスファイト、ヘキサ(トリデシル)−1,1,3−トリス(2−メチル−4−ヒドロキシ−5−tert−ブチルフェニル)ブタントリホスファイト、テトラキス(2,4−ジ−tert−ブチルフェニル)ビフェニレンジホスホナイト、9,10−ジハイドロ−9−オキサ−10−ホスファフェナンスレン−10−オキサイド、2,2’−メチレンビス(4,6−tert−ブチルフェニル)−2−エチルヘキシルホスファイトなどが挙げられる。」(第1の実施の形態 第11頁第18行〜第12頁第23行)
「(含有量)
電解液中の酸化防止剤の含有量は、0.01ppm以上5000ppm以下であることが好ましく、より効果が得られる点から、0.1ppm以上1000ppm以下であることがより好ましい。なお、ppmとは、電解液の質量を基準に表わしたものである。」(第1の実施の形態 第14頁第11〜15行)
「リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、炭素材料が挙げられる。この炭素材料としては、例えば、難黒鉛化性炭素、易黒鉛化性炭素、MCMB(メソカーボンマイクロビーズ)などの人造黒鉛、天然黒鉛、熱分解炭素類、コークス類、グラファイト類、ガラス状炭素類、有機高分子化合物焼成体、カーボンブラック類、炭素繊維あるいは活性炭が挙げられる。このうち、コークス類には、ピッチコークス、ニードルコークスあるいは石油コークスなどがある。有機高分子化合物焼成体というのは、フェノール樹脂やフラン樹脂などの高分子材料を適当な温度で焼成して炭素化したものをいい、一部には難黒鉛化性炭素または易黒鉛化性炭素に分類されるものもある。
上述の炭素材料の他、リチウムを吸蔵および放出することが可能な負極材料としては、例えば、リチウムを吸蔵および放出することが可能であると共に金属元素および半金属元素のうちの少なくとも1種を構成元素として有する材料が挙げられる。高いエネルギー密度が得られるからである。このような負極材料は、金属元素または半金属元素の単体でも合金でも化合物でもよく、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有するようなものでもよい。なお、この発明における「合金」には、2種以上の金属元素からなるものに加えて、1種以上の金属元素と1種以上の半金属元素とを含むものも含まれる。また、「合金」は、非金属元素を含んでいてもよい。この組織には、固溶体、共晶(共融混合物)、金属間化合物、またはそれらの2種以上が共存するものがある。
上記した金属元素または半金属元素としては、例えば、リチウムと合金を形成することが可能な金属元素または半金属元素が挙げられる。具体的には、マグネシウム(Mg)、ホウ素(B)、アルミニウム(Al)、ガリウム(Ga)、インジウム(In)、ケイ素(Si)、ゲルマニウム(Ge)、スズ(Sn)、鉛(Pb)、ビスマス(Bi)、カドミウム(Cd)、銀(Ag)、亜鉛(Zn)、ハフニウム(Hf)、ジルコニウム(Zr)、イットリウム(Y)、パラジウム(Pd)または白金(Pt)などである。中でも、ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種が好ましく、ケイ素がより好ましい。リチウムを吸蔵および放出する能力が大きいため、高いエネルギー密度が得られるからである。
ケイ素およびスズのうちの少なくとも1種を有する負極材料としては、例えば、ケイ素の単体、合金または化合物や、スズの単体、合金または化合物や、それらの1種または2種以上の相を少なくとも一部に有する材料が挙げられる。」(第2の実施の形態 第18頁第16行〜第19頁第24行)
「(電池の組み立て)
非水電解質電池の組み立ては、以下のようにして行う。最初に、正極集電体21Aに正極リード25を溶接などして取り付けると共に、負極集電体22Aに負極リード26を溶接などして取り付ける。続いて、セパレータ23を介して正極21と負極22とを積層および巻回させて巻回電極体20を作製したのち、その巻回中心にセンターピン24を挿入する。続いて、一対の絶縁板12,13で挟みながら巻回電極体20を電池缶11の内部に収納すると共に、正極リード25の先端部を安全弁機構15に溶接し、負極リード26の先端部を電池缶11に溶接する。
続いて、上述の第1の実施の形態による電解液を電池缶11の内部に注入してセパレータ23に含浸させる。最後に、電池缶11の開口端部に電池蓋14、安全弁機構15および熱感抵抗素子16をガスケット17を介してかしめることにより固定する。これにより、図1および図2に示す非水電解質電池が完成する。」(第25頁第5〜18行)

7 甲8(特開2002−270221号公報)の記載事項
「【請求項1】 非水溶媒に支持電解質を溶解させてなる非水電解質二次電池用電解液であって、
脂肪酸アミドを含有することを特徴とする非水電解質二次電池用電解液。」
「【0005】
【課題を解決するための手段】本発明者は、自己放電を抑制できる非水電解質二次電池を提供すべく鋭意研究してきたところ、電解液に脂肪酸アミドを添加することにより、自己放電の抑制に顕著な効果が挙がることを見出した。本発明は、かかる新規な知見に基づいてなされたものである。」
「【0013】
【発明の作用、および発明の効果】本発明によれば、脂肪酸アミドを含有する、自己放電を抑制可能な非水電解質二次電池用電解液およびこれを用いた非水電解質二次電池を提供することができる。」

8 資料9(国際公開第2011/101992号)の記載事項
「[0010] また、有機溶媒を含有する非水電解液を用いた二次電池において、製造工程で、該有機溶媒に酸素(O2)が混入することは大いに起こり得ることである。製造工程で有機溶媒中に混入した酸素(O2)は、正極において還元されて酸素ラジカル(O2−)を生成し、酸素ラジカル(O2−)による副反応の原因となる。また、正極活物質として酸素を用いる空気電池においては、上記のような混入量よりはるかに多い酸素が電解液中に溶解する。そのため、多くの酸素ラジカル(O2−)が生成しうる。
酸素ラジカル(O2−)による副反応としては、上記したような有機カーボネート化合物等の溶媒の分解反応の他、電池を構成する他の材料の分解反応等がある。充電と放電を繰り返し、長期間使用される二次電池では、酸素ラジカルによる上記副反応は電池の耐久性を低下させる大きな要因の1つとなる。
[0011] しかしながら、本発明者らの研究によると、酸素(O2)が還元されて酸素ラジカル(O2−)が生成する反応は、2〜3Vの電位範囲(金属リチウム電極基準)で起こる。これに対して、現在、一般的に採用されているリチウム二次電池は、放電電位が3Vを超えるような設計がされている。そのため、上記のような製造工程で混入した酸素(O2)からの酸素ラジカル(O2−)の生成は、あまり問題視されていないが、今後の電池の多様化に伴い、放電電位が3V以下の電池が採用されるようになると、大きな問題とされるのは間違いない。その結果、このような副反応を抑制するために、二次電池の出荷前に、溶存酸素を取り除く調整工程(コンディショニング工程)を設ける必要がでてくる。」

9 甲9(特開2003−288866号公報)の記載事項
「【請求項1】 外装樹脂フィルム、接着剤層、化成処理アルミニウム箔、プライマー層、シーラントフィルムを順次積層した積層材であって、前記シーラントフィルムが、プロピレンとα−オレフィンとのランダム共重合体と、エラストマーまたはポリブテンのいずれか1以上とのブレンド品よりなることを特徴とする二次電池容器用積層材。」
「【0025】さらに、この発明の積層材1は、エンボスタイプ(成形容器タイプ)の二次電池用外装材に使用することを目的としている関係上、5.0mm以上の絞り成形が可能であること、いいかえれば絞り成形時に、アルミニウム箔にクラックやピンホールが入らない程度の滑り性を有していることが求められる。したがって、この発明においては、ラミネート後のシーラントフィルム4の動摩擦係数が0.2以下であることが望ましい。このため、シーラントフィルム4に、エルカ酸アミド又はオレイン酸アミド等の滑剤を0.5重量%以下、望ましくは500〜5000ppm含有させるのが好ましい。滑剤が500ppm未満の場合は、ラミネート後の滑り性が不充分であり、絞り成形時にアルミニウム箔にピンホールやクラックが生じやすくなる恐れがある。一方、滑剤が5000ppmを超える場合は、ラミネート面へのブリード量が多くなり、プライマー層との接着強度が弱くなり、絞り成形時に剥離が生じたり、電解液充填後の密封強度が弱くなる恐れがある。さらに、シーラントフィルム4には、必要に応じてアンチブロッキング剤、酸化防止剤、熱安定剤、分散剤などを配合することも勿論可能である。なお、シーラントフィルム4は、上記要件を満たす範囲であれば、2層以上の多層フィルムとしてもよい。」

10 甲10(特開2003−288865号公報)の記載事項
「【請求項1】 外装樹脂フィルム、第1の接着剤層、化成処理アルミニウム箔、第2の接着剤層、シーラントフィルムを順次積層した積層材であって、前記シーラントフィルムはα−オレフィンの含有量が2〜10重量%であるプロピレンとα−オレフィンのランダム共重合体から成り、これに滑剤を1000〜5000ppm含有させたものである二次電池容器用積層材。」
「【0014】さらに、この発明の積層材1は、エンボスタイプ(成形容器タイプ)の二次電池用外装材に使用することを目的としている関係上、5.0mm以上の絞り成形が可能であること、いいかえれば絞り成形時にアルミニウム箔にクラックやピンホールが入らない程度の滑り性を有していることが求められる。したがって、この発明においては、ラミネート後のシーラントフィルム4の動摩擦係数が0.2以下であることが望ましい。このため、この発明においては、シーラントフィルム4に、滑剤を1000〜5000ppm含有させればよく、具体的には滑剤として、エルカ酸アミド又はオレイン酸アミドを500〜2500ppm、エチレンビスオレイン酸アミドを500〜2500ppm含有させるのが望ましい。すなわち、エルカ酸アミドやオレイン酸アミドは比較的低温でもブリードし、ブリード速度も早いので製膜時やドライラミネート時のようにかなり早い段階であっても、巻き取りや貼り合せ加工に十分な滑り性を有しているのである。一方、エチレンビスオレイン酸アミドは、40〜60℃程度の雰囲気下であっても徐々にブリードして滑り性を付与する性質を有しているので、エチレンビスオレイン酸アミドを含有させることによって、 ドライラミネート後の、特にドライラミネート用接着剤として60℃もの高温でエージングする必要があるエポキシ含有ポリエステルポリウレタン接着剤を使用しているにもかかわらず滑剤が接着剤層に移行することなく、絞り成形に必要な動摩擦係数が0.2以下の滑り性を付与することが可能となったのである。」
「【0017】さらに、シーラントフィルム4には、必要に応じてアンチブロッキング剤、 酸化防止剤、熱安定剤などを配合することも勿論可能である。」

11 甲11(特開2013−101764号公報)の記載事項
「【請求項1】
外側から、少なくとも基材層、第1接着層、金属箔層、腐食防止処理層、第2接着層、及び最内面に滑剤が付与されたシーラント層が順次積層された二次電池用外装材において、
JIS B0601−1982に準拠して測定された最内面の輪郭曲線最大高さ(Rz)が100nm〜2000nmで、輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)が100μm〜1500μmであり、かつ最外面の輪郭曲線最大高さ(Rz)が500nm〜2000nmで、輪郭曲線要素の平均長さ(Rsm)が100μm〜1500μmであることを特徴とする二次電池用外装材。」
「【0012】
本発明の二次電池用外装材は、最内層表面における成型金型との接触部分に滑剤が過剰に堆積することが抑制され、成型金型に滑剤が移行し難く、かつ最外面及び最内面の耐ブロッキング性及び滑り性が高く、優れた生産性及び成型性が得られる。」
「【0069】
[シーラント層]
シーラントフィルムG−1:滑剤としてエルカ酸アミドを0.1質量%含有する無延伸ポリプロピレンフィルム(厚さ40μm)。」

12 甲12(特開2013−149397号公報)の記載事項
「【請求項1】
耐熱性樹脂フィルムを含む外層と、金属箔層と、滑剤が添加された熱可塑性樹脂フィルムを含む内層とが積層されてなり、前記外層の表面に前記滑剤が付着されていることを特徴とする電池用外装材。」
「【0029】
(滑剤)
内層53を構成する熱可塑性樹脂フィルムには、所定量の滑剤が添加される。ここで、滑剤は、絞り成形時に金型と電池用外装材との密着を防止するとともに両者の摺動性を高めて、絞り成形時の成形性を向上させる目的で添加するものである。また、滑剤は、電池用外装材5aの成形加工前のエージング工程において、外層51の表面に転写される。滑剤としては、例えば、流動パラフィンなどの炭化水素系、ステアリン酸などの脂肪酸系、ステアリルアミドなどの脂肪酸アミド類、金属石鹸、天然ワックス、シリコーンなどが好ましく、特に脂肪酸アミド類が好ましい。脂肪酸アミド類の具体例としては、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド、ラウリル酸アミド、パルミチン酸アミド、ステアリン酸アミド、エチレンビスエルカ酸アミド、エチレンビスオレイン酸アミド等を例示できる。
熱可塑性樹脂フィルムへの滑剤の添加方法は限定されるわけではなく、滑剤の必要量を直接樹脂に添加してフィルム製膜機でフィルム化する。予め高濃度の添加剤を含有した樹脂とフィルム化する樹脂とをブレンドしてフィルム化する。或いは滑剤を適切な溶媒に溶かして溶液化した後に熱可塑性樹脂フィルム表面に塗布する。といった方法を用いる。なお、滑剤は、外層51ではなく内層53に添加することが、外層51の強度を維持できる点で好ましい。
【0030】
滑剤の添加量は、特に限定されるものではないが、500〜5000ppmの範囲が好ましい。滑剤の添加量が500ppm以上であれば、成形加工時に、電池用外装材5aと金型との密着を防止するとともに摺動性を高めて、電池用外装材5aの成形性を向上できる。また、外層51への滑剤の転写量を十分に確保できる。更に、滑剤の添加量が5000ppm以下であれば、内層53の機械的強度を低下させることがなく、また、ヒートシール性を高めることができる。滑剤の添加量は、より好ましくは800ppm〜3000ppmの範囲であり、更に好ましくは1000ppm〜2000ppmの範囲である。」

第6 当審の判断
当審は、特許権者が提出した令和3年10月15日付けの意見書及び訂正請求書、並びに申立人による同年12月17日差出の申立人意見書を踏まえて本件発明の内容を検討した結果、以下のとおり、令和3年8月16日付けで通知をした取消理由は解消するとともに、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては本件特許の請求項1、3〜15に係る特許を取り消すことはできず、また、請求項2に係る特許についての特許異議の申立ては却下すべきものと判断した。

1 取消理由1(新規性進歩性)について
(1)甲1に記載された発明
上記第5の2に摘記をした甲1の記載事項を参照しながら、以下に検討する。

ア 甲1の請求項1には、「正極と負極とをセパレータを介して積層してなる電極群を、電解質塩に少なくとも六フッ化リン酸リチウム(LiPF6)を含む非水電解液と共にラミネートフィルムからなる外装ケースに収納してなるリチウムイオン二次電池において、上記ラミネートフィルムの最内層がポリアミドを分散したポリオレフィン樹脂層であるリチウムイオン二次電池。」に関する発明(以下、「請求項1記載の発明」という。)が記載されている。

イ 甲1の【0043】〜【0044】、【図1】の実施例1に関する記載を踏まえた、【0045】、【図2】の実施例2に関する記載からは、上記ア.の「請求項1記載の発明」をより具体化したリチウムイオン二次電池として、「外装ケース」が、最外層であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる保護層1、ナイロンからなる保護層2、アルミニウム箔からなる金属箔層3、両面粘着性ポリプロピレン(PP)接着剤層4、そして、最内層が熱融着性樹脂層であるポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6からなる積層構造となっている、リチウムイオン二次電池が把握される。なお、実施例2では、実施例1と相違して、ポリプロピレン(PP)からなる熱融着性樹脂層5は存在しない。
なお、甲1の【0024】記載のとおり、「ナイロン6」は、ポリアミドの一種である。
また、甲1の【0043】に、「ポリオレフィン樹脂層6が電池素子側に来るように」と記載されていることからして、実施例1において「外装ケース」を構成する「ポリオレフィン樹脂層6」は、「リチウムイオン二次電池」における「外装ケース」の最内層として、事実上、「非水電解液」に対して接するように用いられるものと判断される。そして、甲1の実施例2に開示されるリチウムイオン二次電池は、【0045】に記載されるように、図2に示す構成のラミネートフィルムからなる外装ケースは熱融着性樹脂層5が存在しない点以外は実施例1と同様であって、熱融着性樹脂層であるポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6が、「非水電解液」に対して接することになる。

ウ また、甲1の実施例1に適用される電池素子に関する【0041】の記載からは、上記ア.の「請求項1記載の発明」の「電極群」を具体化したものとして、正極板と負極板とを有するものが把握される。そして、かかる「電極群」に関する特徴は、甲1の実施例2について【0045】に「これ以外は実施例1と同様」とまとめられる特徴に包含される。

エ そうすると、甲1には、実施例2をもとにして把握される以下の発明(以下「甲1発明」という。)が、記載されているものと認められる。
<甲1発明>
非水電解液を用いるリチウムイオン二次電池の外装ケースに用いられるラミネートフィルムであって、
最外層であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる保護層1、ナイロンからなる保護層2、アルミニウム箔からなる金属箔層3、両面粘着性ポリプロピレン(PP)接着剤層4、そして、非水電解液と接する最内層が熱融着性樹脂層であるポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6からなる積層構造であるラミネートフィルム。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明との一致点・相違点
(ア)甲1発明の「外装ケースに用いられるラミネートフィルム」は、本件発明1の「外装材」に相当する。

(イ)甲1発明の「非水電解液を用いるリチウムイオン二次電池の外装ケースに用いられるラミネートフィルム」は、本件発明1の「外装材」と同様に、「非水電解液二次電池用」といえるものであって、両者は用途が一致する。

(ウ)甲1発明の「ラミネートフィルム」は、「最外層であるポリエチレンテレフタレート(PET)からなる保護層1、ナイロンからなる保護層2、アルミニウム箔からなる金属箔層3、両面粘着性ポリプロピレン(PP)接着剤層4、そして、最内層であるポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6からなる積層構造」を有しており、本件発明1の「外装材」とは、「少なくとも三層の積層構造を有する」点で一致する。

(エ)甲1発明の「ラミネートフィルム」は、最内層で熱融着樹脂層である「ポリオレフィン樹脂層6」に「ポリプロピレン(PP)」が用いられており、本件発明1の「外装材」とは、「非水電解液と接する一方の最外層(内層)」は「熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムで構成され」ている点で一致する。

(オ)甲1発明の「ラミネートフィルム」は、積層構造中に「アルミニウム箔からなる金属箔層3」を有しており、本件発明1の「外装材」とは、積層構造の「中間層が金属箔層」である点で一致する。

(カ)上記(ア)〜(オ)より、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点、及び一応の相違点1を有する。

<一致点>
少なくとも三層の積層構造を有する非水電解液二次電池用の外装材であって、中間層が金属箔層であり、非水電解液と接する一方の最外層(内層)は熱可塑性樹脂で構成される外装材。

<相違点1>
非水電解液と接する一方の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムについて、本件発明1では、「―CO―NR―(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含む」「添加剤1を含む」と特定されているのに対し、甲1発明の最内層であるポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6に関し、そのような添加剤の特定はなされていない点。

<相違点2>
非水電解液と接する一方の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムについて、本件発明1では、「滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部である」ことが特定されているのに対し、甲1発明の最内層であるポリプロピレン(PP)にナイロン6を5体積%分散させたポリオレフィン樹脂層6に関し、そのような滑剤に相当するもの併用して所定量添加する特定はなされていない点。

ウ 相違点に関する検討
事案に鑑み、上記ア(カ)の相違点2について検討する。
(ア)甲1についての検討
甲1には、甲1発明のリチウムイオン二次電池の外装ケースに用いられるラミネートフィルムの非水電解液と接する最内層のポリオレフィン樹脂層6に滑剤として脂肪酸アミドを添加することは記載も示唆もなされておらず、相違点2は、本件発明1と甲1に記載された発明との実質的な相違点である。
また、本件発明1の相違点2にかかる事項は、当業者といえども、甲1に記載された発明から容易に想到できたものとはいえない。

(イ)取消理由1の進歩性判断において甲1とともに提示をした甲2、3、5、7、8についての検討
当審が令和3年8月16日付けで通知をした取消理由のうち、取消理由1の進歩性判断において甲1とともに提示をした甲2、3、5、7、8のいずれにおいても、非水電解液と接する一方の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムに滑剤として脂肪酸アミドを添加することは記載も示唆もされていない。(なお、甲2、3については、より詳しい検討内容を後記する。)
したがって、本件発明1の相違点2にかかる事項は、甲1に記載された発明と、取消理由1の進歩性判断において甲1とともに提示をした甲2、3、5、7、8に記載された事項とから、当業者といえども容易に想到できたものとはいえない。

(ウ)申立人意見書において周知技術を示すものとして提示された甲9〜12についての検討
a 本件発明1の相違点2にかかる事項に関し、申立人は、申立人意見書において、
(a)上記第5の9〜12にそれぞれ挙げた甲9〜12に記載された事項からも明らかなとおり、「非水電解液二次電池用の外装材の成形性を高めることなどを目的として、当該外装材の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂フィルム(シーラント層)に、滑剤としての脂肪酸アミドを熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部の範囲内で添加することは、周知技術に過ぎない。」(第5頁第14〜18行)とした上で、甲1に記載された発明に対して、前記の周知技術を適用して本件発明1とすることは、当業者にとって極めて容易である。(第5頁第20〜22行)と主張するとともに、
(b)「本件明細書に記載されている熱可塑性樹脂フィルムに対する脂肪酸の添加効果は、前記の周知技術に開示されている効果と同じく、電池外装材の成形性の向上(【0057】)」(第6頁第3〜5行)であり、「本件発明において、滑剤としての脂肪酸アミドを熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部の範囲内で添加することの効果は、周知技術に開示されている効果と同じく、電池外装材の成形性の向上」(第6頁第11〜13行)であるとする一方、特許権者が令和3年10月15日に提出した意見書の第4頁において主張する「添加剤1と脂肪酸アミドを、熱可塑性樹脂フィルムから非水電解液中に少しずつ溶出させることができ、二次電池のサイクル特性を向上させることができる」との効果は、本件明細書に全く記載されておらず、また、本件明細書の実施例においても実証されているとはいえないから、本件発明において、特許権者が主張するような顕著な効果が奏されるものではないとも主張する。

b そこで、まずは、上記a(b)の申立人の主張について検討する。
(a)上記第5の1のとおり、本件明細書には、【0003】に「二次電池のサイクル特性を向上させるため、種々の添加剤が検討されている」との前置きがなされた上で、【0005】において、本件発明の課題として「サイクル特性の低下を抑制した二次電池を提供すること」が記載され、【0029】には、本発明の一実施態様として、非水電解液への添加剤が、「(C)脂肪酸アミドを含有している」場合が記載され、また、「(C)脂肪酸アミド」が「(A)―CO−NR−を含む環状化合物及びその開環重合物」と、さらには「(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤」とも併用して使われてよいことも記載され、また、かかる「(C)脂肪酸アミド」の具体例として、【0037】には、「ステアリン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどが採用可能であり、これらは混合して使用してもよい」ことが記載されている。
そして、これらの記載を総合的に勘案すると、本件明細書には、二次電池のサイクル特性を向上させる非水電解液への添加剤として、―CO―NR―(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種とともに、脂肪酸アミドを併用することも、実質的に開示されているといえる。
(b)また、本件明細書【0054】には、「電池外装材の構成のうち、非水電解液と接する内層を構成する熱可塑性樹脂フィルム中に、添加剤として、―CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤等を練りこみ、熱可塑性樹脂フィルムから少しずつ溶出させることで、非水電解液中に添加剤を適切な濃度範囲に溶出させることが可能である。」と記載され、ここでは直接、電池外装材の構成のうち、非水電解液と接する内層を構成する熱可塑性樹脂フィルム中に、添加剤として、脂肪酸アミドを練り込む記載はないものの、熱可塑性樹脂フィルム中に練り込む添加剤については、「―CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤、リン系酸化防止剤」との具体例の後に「等」と記載されており、熱可塑性樹脂フィルムに脂肪酸アミドを練り込み、熱可塑性樹脂フィルムから少しずつ溶出させることで、非水電解液中に添加剤を適切な濃度範囲に溶出させる可能性までもが、排除されているものではない。
(c)さらに、本件明細書【0057】には、「熱可塑性樹脂フィルムには、滑剤を添加することが好ましく、前記添加剤と併用することがより好ましい。」こと、かかる滑剤として「ステアリン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪酸アミド、もしくはこれらの混合物」が挙げられること、「滑剤の添加量は、熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、好ましくは0.05〜2.0質量部の範囲である。」ことが、それぞれ記載されている。
(d)そして、上記(c)のように熱可塑性樹脂フィルムに添加される滑剤は、「加工機械とフィルム表面、またはフィルム同士の間の摩擦力を調節する」作用を奏するために添加されるものであって、かかる作用を奏するためには、滑剤として熱可塑性樹脂フィルムの表面に当然露出しているものと考えられ、また、上記(c)で滑剤として挙げられた「ステアリン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミドなどの脂肪酸アミド」は、上記(a)で、二次電池のサイクル特性を向上させる非水電解液への添加剤の一つとして挙げられた「ステアリン酸アミド、エルシン酸アミド、エルカ酸アミド、オレイン酸アミド」などの脂肪酸アミドと共通した材料でもあるから、上記(c)のように熱可塑性樹脂フィルムに所定量添加される滑剤が、上記熱可塑性樹脂フィルムの表面から上記(b)のように少しずつ溶出することで、上記(a)のような二次電池のサイクル特性を向上させる非水電解液への添加剤にもなることも、当業者が本件明細書の記載を総合的に勘案することにより、把握し得たことである。
(e)そうすると、特許権者が令和3年10月15日に提出した意見書の第4頁において主張する「添加剤1と脂肪酸アミドを、熱可塑性樹脂フィルムから非水電解液中に少しずつ溶出させることができ、二次電池のサイクル特性を向上させることができる」との効果は、本件発明1が相違点2にかかる事項を備えることによって想定される範囲の効果であって、上記a(b)の周知技術に開示される効果とは異なる、いわゆる異質な効果と認めることができるから、上記a(b)の申立人の主張について採用することはできない。

c そして、上記bを踏まえた上で上記a(a)の申立人の主張について検討すると、甲9〜12のいずれにも、電池外装材の構成のうち非水電解液と接する内層を構成する熱可塑性樹脂フィルム中に、非水電解液に溶出することで二次電池のサイクル特性を向上させる脂肪酸アミドを添加することは記載されていないから、たとえ、甲9〜12により、上記a(b)の周知技術に開示の効果が把握できるとしたところで、上記a(b)の「添加剤1と脂肪酸アミドを、熱可塑性樹脂フィルムから非水電解液中に少しずつ溶出させることができ、二次電池のサイクル特性を向上させることができる」という異質な効果を伴う相違点2は、当業者といえども、甲1発明と甲9〜12に記載された事項とから、容易になし得たものとはいえない。
よって、上記a(a)の申立人の主張についても採用することはできない。

(エ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明と甲2、3、5、7〜12に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものともいえない。

(3)本件発明3〜15について
本件発明3〜15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明と甲3〜12に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものともいえない以上、申立人意見書における申立人の主張をさらに検討するまでもなく、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明であるとはいえないし、甲1に記載された発明と甲2、3、5、7〜12に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものともいえない。

(4)取消理由1(新規性進歩性)に関する検討のまとめ
したがって、取消理由1(新規性進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3〜15に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由2(進歩性)について
(1)甲2に記載された発明
上記第5の3に摘記をした甲2の記載事項を参照しながら、以下に検討する。

ア 甲2の【0027】、【図2】には、「外層110、第1接着層120、バリア層130、第2接着層140、酸素吸収層150、シール層160が、この順に積層されて形成され」、「容器200の底材300および蓋材400の材料として用いられる」「フィルム100」について記載されている。

イ また、甲2の【0027】には、「フィルム100」について、「液体中の溶存酸素600(図3(a)参照)を吸収する。」との記載があるので、【図3】(a)の内容を参照すると、「フィルム100」のうちの「シール層160」が「液体」と接する態様が想定されていることが理解できる。

ウ また、甲2の請求項9には、
「正極と、
負極と、
電解液と、
前記正極と前記負極との間に配置されるセパレータと、
前記正極と前記負極と前記電解液と前記セパレータとを収納する包材とを備え、
前記セパレータおよび前記包材の少なくとも一方は、前記電解液中の溶存酸素を吸収する電池。」
に関する発明(以下、「請求項9記載の発明」という。)が記載されている。

エ また、甲2の【0057】には、「容器200の内容物が電解液である場合、容器200は、電池の包材として用いられてもよい。」と記載されており、上記b.の「請求項9記載の発明」における「包材」を、上記a.の【0027】、【図2】記載のフィルム100として具体化できることが把握される。
そして、上記のように容器200が電池の包材として用いられ、かつ、その内容物が電解液である場合、上記b.の【0027】及び【図3】(a)から想定される電池の包材としての「フィルム100」の使用形態は、「フィルム100」のうちの「シール層160」が「電池」の「電解液」と接する態様が考えられる。

オ そうすると、甲2には、【0027】、【0057】、【図3】(a)の記載をもとにして把握される以下の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲2発明>
電解液を有する電池の包材であって、
外層110、第1接着層120、バリア層130、第2接着層140、酸素吸収層150、前記電解液に接するシール層160が、この順に積層されて形成されるフィルム100からなる、包材。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2発明との一致点・相違点
(ア)甲2発明の「包材」は、本件発明1の「外装材」に相当する。

(イ)甲2発明の「包材」は、「電解液」を有する「電池」に用いられる点において、「非水電解液二次電池用」とされる本件発明1の「外装材」と、用途が一致する。

(ウ)甲2発明の「包材」は、「外層110、第1接着層120、バリア層130、第2接着層140、酸素吸収層150、前記電解液に接するシール層160が、この順に積層されて形成されるフィルム100」であり、本件発明1の「外装材」と、「少なくとも三層の積層構造を有する」点で一致する。

(エ)上記(ア)〜(ウ)より、本件発明1と甲2発明とは、以下の一致点、及び相違点3〜6を有する。

<一致点>
少なくとも三層の積層構造を有する、電解液を有する電池用の外装材。

<相違点3>
外装材の用途について、本件発明1では「非水電解液二次電池用」とされているのに対し、甲2包材発明は、「電解液を有する電池」に用いることが把握できるにとどまる点。

<相違点4>
外装材の積層構造の中間層について、本件発明1では、金属箔層と特定されているのに対し、甲2包材発明では、「バリア層」を有することまでは特定されているものの、それが金属箔層であるとまでは特定されていない点。

<相違点5>
外装材の積層構造の非水電解液と接する一方の最外層(内層)について、本件発明1では、「熱可塑性樹脂で構成され」、かつ、「―CO―NR―(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含む」「添加剤1を含む」と特定されているのに対し、甲2発明では、対応する「シール層160」に関し、そのような特定がなされていない点。

<相違点6>
外装材の積層構造の非水電解液と接する一方の最外層(内層)について、本件発明1では、「滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部である」ことが特定されているのに対し、甲2発明では、対応する「シール層160」に関し、そのような特定がなされていない点。

ウ 相違点に関する検討
事案に鑑み、上記ア(エ)の相違点6について検討する。
(ア)甲2についての検討
甲2には、甲2発明の電池の包材の電解液に接するシール層160に滑剤として脂肪酸アミドを添加することは記載も示唆もなされておらず、本件発明1の相違点6にかかる事項は、当業者といえども、甲2に記載された発明から容易に想到できたものとはいえない。

(イ)取消理由2の進歩性判断において甲2とともに提示をした甲1、5、7、8及び資料9についての検討
当審が令和3年8月16日付けで通知をした取消理由のうち、取消理由2の進歩性判断において甲2とともに提示をした甲1、5、7、8及び資料9のいずれにおいても、非水電解液と接する一方の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂からな熱可塑性樹脂フィルムに滑剤として脂肪酸アミドを添加することは記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1の相違点6にかかる事項は、甲1に記載された発明と、取消理由2の進歩性判断において甲2とともに提示をした甲1、5、7、8及び資料9に記載された事項とから、当業者といえども容易に想到できたものとはいえない。

(ウ)申立人意見書において周知技術を示すものとして提示された甲9〜12についての検討
相違点6は、甲2発明において、本件発明1における相違点2と同様の事項が特定されていない点に関するものであるから、上記1(2)ウ(ウ)で検討したのと同様、甲9〜12により、上記1(2)ウ(ウ)a(b)の周知技術に開示の効果が把握できるとしたところで、上記1(2)ウ(ウ)a(b)の「添加剤1と脂肪酸アミドを、熱可塑性樹脂フィルムから非水電解液中に少しずつ溶出させることができ、二次電池のサイクル特性を向上させることができる」という異質な効果を伴う相違点6は、当業者といえども、甲2発明と甲9〜12に記載された事項とから、容易になし得たものとはいえない。

(エ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点3〜5について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2に記載された発明と甲1、5、7〜12及び資料9に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(3)本件発明3〜15について
本件発明3〜15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲2に記載された発明と甲1、5、7〜12及び資料9に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、申立人意見書における申立人の主張をさらに検討するまでもなく、本件発明1と同様に、甲2に記載された発明と甲1、5、7〜12に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)取消理由2(進歩性)に関する検討のまとめ
したがって、取消理由2(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3〜15に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由3(進歩性)について
(1)甲3に記載された発明
上記第5の4に摘記をした甲3の記載事項を参照しながら、以下に検討する。

ア 甲3の請求項1には、
「基材層の一方の面側に、少なくとも金属箔層、腐食防止処理層、接着樹脂層、シーラント層が順次積層され、かつ前記シーラント層同士をヒートシールして融着したヒートシール部を有するリチウムイオン電池用外装材であって、
前記接着樹脂層と前記シーラント層の少なくとも一方が、層状の下記開裂誘導部を有することを特徴とするリチウムイオン電池用外装材。
(開裂誘導部)
開裂時の応力が、前記ヒートシール部におけるシーラント層同士の融着面の開裂時の応力よりも小さい部分。」
に関する発明が記載されている。

イ また、甲3の請求項11には、上記a.の請求項1記載のリチウムイオン電池用外装材を備えた「リチウムイオン電池」に関する発明が記載されている。

ウ そして、甲3の【0062】には、「本発明の外装材を冷間成型して凹部を形成し、該凹部内に、正極、セパレータ、負極を収納し、タブが凹部から外部に導出されるようにした後、外装材をシーラント層が対向するように重ね合わせ、1辺を残してヒートシールする。その後、開口した1辺から電解液を注入し、残りの1辺を真空環境下でヒートシールして密封することによりリチウムイオン電池を得る。」ことが記載されており、上記b.のリチウムイオン電池は、このように製造されるリチウムイオン電池として具体化できること、及び、ここで注入される電解液に対しては、自ずとシーラント層が接することが理解できる。

エ そうすると、甲3には、請求項1の記載をもとにして把握される以下の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲3発明>
リチウムイオン電池用の外装材であって、
基材層の一方の面側に、少なくとも金属箔層、腐食防止処理層、接着樹脂層、電解液に接するシーラント層が順次積層された外装材。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3発明との一致点・相違点
(ア)甲3発明の「外装材」は、「電解液」を含む前提の「リチウムイオン電池」に用いられるものであり、【0002】における「二次電池としては、・・・リチウムイオン電池が多く採用されている。」との記載を参酌すると、「非水電解液二次電池用」とされる本件発明1の「外装材」に対し、「電解液」を含む「二次電池」に使われる点において、用途が一致する。

(イ)甲3発明の「外装材」は、「基材層の一方の面側に、少なくとも金属箔層、腐食防止処理層、接着樹脂層、電解液に接するシーラント層が順次積層された」ものであり、本件発明1の「外装材」とは、「少なくとも三層の積層構造を有する」点と中間層として「金属箔層」を有する点で一致する。

(ウ)上記(ア)、(イ)より、本件発明1と甲3発明とは、以下の一致点、及び上記相違点7〜9を有する。

<一致点>
少なくとも三層の積層構造を有する、電解液を有する二次電池用の外装材であって、中間層が金属箔層である外装材。

<相違点7>
外装材の用途について、本件発明1では「非水電解液二次電池用」とされているのに対し、甲3外装材発明は、「電解液」を含む「二次電池」に用いることが把握できるにとどまり、「二次電池」として「非水電解液」を含むものを用途にするとまでは特定されていない点。

<相違点8>
外装材の積層構造の非水電解液と接する一方の最外層(内層)について、本件発明1では、「熱可塑性樹脂で構成され」、かつ、「―CO―NR―(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含む」「添加剤1を含む」と特定されているのに対し、甲3発明では、対応する「シーラント層」に関し、そのような特定がなされていない点。

<相違点9>
外装材の積層構造の非水電解液と接する一方の最外層(内層)について、本件発明1では、「滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部である」ことが特定されているのに対し、甲3発明では、対応する「シーラント層」に関し、そのような特定がなされていない点。

イ 相違点に関する検討
事案に鑑み、上記ア(ウ)の相違点9について検討する。
(ア)甲3についての検討
甲3には、甲3発明のリチウムイオン電池用の外装材のシーラント層に滑剤として脂肪酸アミドを添加することは記載も示唆もなされておらず、本件発明1の相違点9にかかる事項は、当業者といえども、甲3に記載された発明から容易に想到できたものとはいえない。

(イ)取消理由3の進歩性判断において甲3とともに提示をした甲1、5、7、8についての検討
当審が令和3年8月16日付けで通知をした取消理由のうち、取消理由3の進歩性判断において甲3とともに提示をした甲1、5、7、8のいずれにおいても、非水電解液と接する一方の最外層(内層)を構成する熱可塑性樹脂からな熱可塑性樹脂フィルムに滑剤として脂肪酸アミドを添加することは記載も示唆もされていない。
したがって、本件発明1の相違点9にかかる事項は、甲3に記載された発明と、取消理由3の進歩性判断において甲3とともに提示をした甲1、5、7、8に記載された事項とから、当業者といえども容易に想到できたものとはいえない。

(ウ)申立人意見書において周知技術を示すものとして提示された甲9〜12についての検討
相違点9は、甲3発明において、本件発明1における相違点2と同様の事項が特定されていない点に関するものであるから、上記1(2)ウ(ウ)で検討したのと同様、甲9〜12により、上記1(2)ウ(ウ)a(b)の周知技術に開示の効果が把握できるとしたところで、上記1(2)ウ(ウ)a(b)の「添加剤1と脂肪酸アミドを、熱可塑性樹脂フィルムから非水電解液中に少しずつ溶出させることができ、二次電池のサイクル特性を向上させることができる」という異質な効果を伴う相違点9は、当業者といえども、甲3発明と甲9〜12に記載された事項とから、容易になし得たものとはいえない。

(エ)相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点7及び8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3に記載された発明と甲1、5、7〜12に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものともいえない。

(3)本件発明3〜15について
本件発明3〜15は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであるが、上記(2)で述べたとおり、本件発明1が、甲3に記載された発明と甲1、5、7〜12に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、申立人意見書における申立人の主張をさらに検討するまでもなく、本件発明1と同様に、甲3に記載された発明と甲1、5、7〜12に記載された事項とから、当業者が容易になし得たものとはいえない。

(4)取消理由3(進歩性)に関する検討のまとめ
したがって、取消理由3(進歩性)によっては、本件特許の請求項1、3〜15に係る特許を取り消すことはできない。

4 取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由について
特許異議の申立ての理由は、上記第4の1(1)〜(3)に挙げた申立理由1〜3のとおりであるが、令和3年8月16日付けで通知をした取消理由では、申立理由1〜3においてそれぞれ主張された理由のうち、
(1)一部の請求項に対する理由について採用しなかったものがあり、
(2)また、進歩性に関しては、主たる引用例としての甲1〜3のいずれか記載の発明に対し、組み合わせ可能と主張された甲号証のうち一部採用しなかったものもある。
しかしながら、上記1〜3のとおり、本件発明1と甲1〜3発明との各対比において、それぞれ相違点2、6、9として認定した相違点は、取消理由1〜3のいずれでも採用しなかった甲4及び甲6も含む甲1〜8のいずれにも、記載も示唆もされていない事項である。
したがって、他の事項について検討するまでもなく、本件発明1は、取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由によっても、新規性進歩性が欠如しているとはいえない。また、本件発明1を直接又は間接的に引用する本件発明3〜15についても同様である。
すなわち、取消理由通知において採用しなかった特許異議の申立ての理由によっても、本件特許の請求項1、3〜15に係る特許を取り消すことはできない。

第7 むすび
以上のとおり、請求項〔1〜15〕についての訂正は適法であるから、これを認める。
そして、当審が取消理由通知書に記載した理由及び申立人が特許異議申立書に記載した理由によっては、本件特許の請求項1、3〜15に係る特許を取り消すことはできないし、他に本件特許の請求項1、3〜15に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
さらに、請求項2は、訂正により削除されたから、請求項2に係る特許に対する特許異議の申立てについては、対象となる請求項が存在しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも三層の積層構造を有する非水電解液二次電池用の外装材であって、中間層が金属箔層であり、非水電解液と接する一方の最外層(内層)は添加剤1を含む熱可塑性樹脂からなる熱可塑性樹脂フィルムで構成され、前記添加剤1は、―CO―NR―(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物、その開環重合物、フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤から選ばれる少なくとも1種を含み、
前記熱可塑性樹脂フィルムは、滑剤としての脂肪酸アミドを、前記添加剤1と併用して添加してなり、
前記滑剤としての脂肪酸アミドの添加量が、前記熱可塑性樹脂フィルム100質量部に対して、0.05〜2.0質量部であることを特徴とする外装材。
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
正極、負極、非水電解液、及び外装体を有する非水電解液二次電池であって、
前記外装体は請求項1に記載の非水電解液二次電池用の外装材を、内側が前記内層となるように形成してなり、
前記非水電解液が電解質と非水溶媒と添加剤2を含有し、前記添加剤2が、
(A)−CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物、
(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤、及び
(C)脂肪酸アミド
からなる群より選ばれる1種以上を含有することを特徴とする非水電解液二次電池。
【請求項4】
前記添加剤2が(A)−CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物を含む請求項3に記載の二次電池。
【請求項5】
前記添加剤2としての環状化合物がラクタムであり、その開環重合物がラクタムのオリゴマーである請求項4に記載の二次電池。
【請求項6】
前記添加剤2としての環状化合物がε−カプロラクタムである請求項4または5に記載の二次電池。
【請求項7】
前記非水電解液が、前記添加剤2としての環状化合物及びその開環重合物を全非水電解液質量に対し、0.1〜2.0質量%含有する請求項4〜6のいずれかに記載の二次電池。
【請求項8】
前記添加剤2としての前記(A)−CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物が、前記添加剤1としての−CO−NR−(Rは、炭素数1〜6のアルキル基または水素原子)を含む環状化合物及びその開環重合物が非水溶媒に溶け出したものを一部に含む請求項4〜7のいずれかに記載の二次電池。
【請求項9】
前記添加剤2が(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤を含む請求項3に記載の二次電池。
【請求項10】
前記添加剤2としてのフェノール系酸化防止剤がペンタエリスリトールテトラキス[3−(3,5−ジ−t−ブチル−4−ヒドロキシフェニル)プロピオネート]であり、前記添加剤2としてのリン系酸化防止剤がトリス(2,4−ジ−t−ブチルフェニル)フォスファイトである請求項9に記載の二次電池。
【請求項11】
前記非水電解液が、前記添加剤2としての酸化防止剤を全非水電解液質量に対し、0.1〜2.0質量%含有している請求項9または10に記載の二次電池。
【請求項12】
前記添加剤2としての前記(B)フェノール系酸化防止剤及びリン系酸化防止剤からなる群より選ばれる1種以上の酸化防止剤が、前記添加剤1としてのフェノール系酸化防止剤またはリン系酸化防止剤が非水溶媒に溶け出したものを一部に含む請求項9〜11のいずれかに記載の二次電池。
【請求項13】
前記添加剤2が(C)脂肪酸アミドを含む請求項3に記載の二次電池。
【請求項14】
前記負極が、リチウムイオンを吸蔵可能な金属、該金属の酸化物、該金属を含む合金からなる群より選ばれる少なくとも1種以上を負極活物質として含む請求項4〜13のいずれかに記載の二次電池。
【請求項15】
前記リチウムイオンを吸蔵可能な金属が、SiとSnからなる群より選ばれる少なくとも1種である請求項14に記載の二次電池。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-07 
出願番号 P2017-516607
審決分類 P 1 651・ 113- YAA (H01M)
P 1 651・ 121- YAA (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 平塚 政宏
市川 篤
登録日 2020-09-11 
登録番号 6762465
権利者 昭和電工パッケージング株式会社
発明の名称 二次電池及び電池外装材  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  
代理人 特許業務法人大谷特許事務所  

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