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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G21F
管理番号 1384101
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-13 
確定日 2022-04-21 
異議申立件数
事件の表示 特許第6769902号発明「貯蔵容器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6769902号の請求項1ないし4に係る特許を取り消す。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6769902号の請求項1〜10に係る特許についての出願は、平成29年3月29日に出願され、令和2年9月28日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月14日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。

令和 3年 4月13日 :特許異議申立人村山玉恵(以下「申立人」
という。)による請求項1〜4に係る特許
に対する特許異議の申立て
令和 3年 8月20日付け:取消理由通知書
令和 3年10月 4日 :特許権者による意見書の提出
令和 3年11月 4日付け:取消理由通知書(決定の予告)
なお、令和3年11月 4日付けの取消理由通知(決定の予告)に対し、応答期間内に特許権者からの応答はなかった。

第2 本件発明
本件の特許請求の範囲の請求項1〜10に係る発明のうち、請求項1ないし4に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし4に記載された事項により特定される、下記のとおりのものである(以下、順に「本件発明1」ないし「本件発明4」という。)。

「【請求項1】
放射性物質を収容する縦置き設置される容器本体であって、外周部にハンドリング用の複数のトラニオンが取り付けられた容器本体と、
前記容器本体の上端部の開口を密封する、放射線遮蔽機能を有する蓋体と、
貯蔵状態において前記容器本体の上端部の外周縁部に取り付けられた蓋体補助カバーと、
を備え、
前記蓋体補助カバーは、
前記蓋体の側面側に配置された、外部から前記蓋体が受ける衝撃力を緩和する衝撃吸収部材と、
前記蓋体の上面側に配置された、前記蓋体の上面からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽部材と、
を有する、貯蔵容器。
【請求項2】
請求項1に記載の貯蔵容器において、
前記衝撃吸収部材は、木材、発泡樹脂、発泡金属、モルタル、およびコンクリートのうちのいずれか1つ、または、これらの組合せで構成されている、貯蔵容器。
【請求項3】
請求項1または2に記載の貯蔵容器において、
前記放射線遮蔽部材は、γ線遮蔽材、および中性子遮蔽材のうちの少なくともいずれか一方の遮蔽材、または、これらの複合材で構成されている、貯蔵容器。
【請求項4】
請求項1〜3のいずれかに記載の貯蔵容器において、
前記衝撃吸収部材が金属板で囲まれている、貯蔵容器。」

第3 引用文献等一覧
甲第1号証:特開2015−184196号公報
甲第2号証:特開2007−71787号公報
甲第3号証:特開平11−287893号公報
甲第4号証:特開2004−28987号公報
甲第5号証:特開2004−117008号公報
甲第6号証:特開2016−17742号公報
甲第7号証:特開昭60−260307号公報
甲第8号証:特開平6−79714号公報
甲第9号証:特開2007−24755号公報
(以下、甲第1ないし9号証を順に「甲1」ないし「甲9」と略して記載する。)

第4 引用文献の記載事項
1 甲1には、以下の記載がある(下線は、当審で付した。以下同様。)。
(1)「【0023】
上述した課題を解決し、目的を達成するために、本発明の放射性物質の貯蔵及び輸送方法は、一方の端部に開口部を有する筒状の部材である胴本体を有する放射性物質収納容器に放射性物質を収納して、前記開口部に一次蓋を取り付け、前記開口部における前記一次蓋の外側に二次蓋を取り付け、前記開口部における前記二次蓋の外側に、前記二次蓋を外部の衝撃から防御する三次蓋を取り付けて、前記放射性物質を貯蔵し、前記三次蓋を取り外して、輸送用三次蓋を前記開口部における前記二次蓋の外側に取付け、前記胴本体の外側を覆う輸送用緩衝体を前記胴本体に取付けて、前記放射性物質を輸送する。この放射性物質の貯蔵及び輸送方法によると、貯蔵時に三次蓋を取り付けるため、放射性物質収納容器の耐衝撃性をより向上させることができる。」

「【0028】
放射性物質収納容器としてのキャスク11は、胴部12と蓋部13とバスケット14とを有する。胴部12は、胴本体21の一方、つまり、上部に開口部22が形成され、他方、つまり、下部に底部(閉塞部)23が形成された円筒形状をなしており、内部に放射性物質(例えば、使用済燃料集合体)を収納可能となっている。すなわち、胴本体21は、内部にキャビティ24が設けられ、このキャビティ24は、その内面がバスケット14の外周形状に合わせた形状となっている。バスケット14は、複数の放射性物質(図示略)を個々に収納するセルを複数有している。バスケット14は、図1に示すようにバスケット本体14Aを有する。バスケット本体14Aは、互いに平行かつ所定間隔で配置されるセルとしての放射性物質収納部14Bが上下方向で連続して形成されている。上下方向とは、キャスク11において胴本体21の円筒形状の長手方向Xに沿う方向であり、胴本体21の上下方向に相当する。そして、胴本体21は、下部に底部23が溶接により結合又は一体成形されており、この胴本体21及び底部23は、γ線遮蔽機能を有する炭素鋼製の鍛造品となっている。胴本体21及び底部23は、炭素鋼の代わりにステンレス鋼を用いることもできる。また、胴本体21及び底部23は、球状黒鉛鋳鉄又は炭素鋼鋳鋼などの鋳造品を用いることもできる。」

「【0030】
また、胴部12は、底部23の下側に複数の連結板27により所定の隙間を空けて底板28が連結されていてもよく、この連結板27と底板28との空間部にレジン(中性子遮蔽体)29が設けられている。また、胴部12は、側面35にトラニオン29が固定されている。なお、連結板27を設けないこともある。
【0031】
図1に示されるように、蓋部13は、一次蓋31と、二次蓋32と、三次蓋33とを有する。一次蓋31は、開口部22に着脱可能に取り付けられる。二次蓋32は、開口部22における一次蓋31の外側に着脱可能に取り付けられる。三次蓋33は、開口部22における二次蓋32の外側に着脱可能に取り付けられる。詳しくは後述するが、三次蓋33は、二次蓋32を、外部の衝撃から防御する。また、一次蓋31と二次蓋32との間には、二次蓋32の衝撃を吸収する緩衝部34が設けられていてもよい。次に、一次蓋31、二次蓋32及び三次蓋33の開口部22への取付けについて詳細に説明する。」

「【0037】
一次蓋31は、例えば、炭素鋼又はステンレス鋼によって製造される。図3に示されるように、一次蓋31は、突起部41と円板部42とを有する。突起部41は、円板部42の一方の端面である端面71の中央部に設けられる。一次蓋31は、突起部41を第1内周部74に挿入して、端面71と第1座面部77とを当接させることにより、開口部22へ取付けられる。なお、一次蓋31にはレジンが設けられていてもよい。」

「【0040】
二次蓋32は、例えば、炭素鋼又はステンレス鋼によって製造される。図3に示されるように、二次蓋32は、突起部43と円板部44とを有する。突起部43は、円板部44の一方の端面である端面72の中央部に設けられる。二次蓋32は、突起部43を第2内周部75に挿入して、端面72と第2座面部78とを当接させることにより、開口部22へ取付けられる。なお、突起部43は、その中央部に緩衝部34を覆う凹部が設けてられていてもよい。また、二次蓋32には、一次蓋31と二次蓋32との間の空間96を連通する検査用貫通孔90が設けられている。検査用貫通孔90は、二次蓋32の端面72の反対側の面に、収納部95を有する。収納部95には、空間96の圧力を計測する圧力センサ91が設けられている。なお、二次蓋32にはレジンが設けられていてもよい。」

「【0043】
図3に示されるように、三次蓋33は、突起部45と円板部46とカバー部47とを有する。三次蓋33は、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属によって製造される。突起部45は、円板部46の一方の端面である端面73の中央部に設けられる。カバー部47は、円板部46の外周に設けられ、円板部46の端面73の方向に延伸する。三次蓋33は、突起部45を第3内周部76に挿入して、端面73と第3座面部79とを当接させることにより、開口部22へ取付けられる。」

「【0056】
三次蓋33は、二次蓋32の外側に取付けられて、二次蓋32を覆う。従って、三次蓋33は、二次蓋32を外部の衝撃から防御する。例えば、航空機事故などが起こった場合、飛来物がキャスク11に衝突する可能性がある。このような場合、飛来物の衝突は、強い衝撃を発生させる。実施形態1に係るキャスク11は、二次蓋32を覆う三次蓋33を有する。三次蓋33は、飛来物が二次蓋32に直接衝突することを防止し、二次蓋32を衝撃から防御する。従って、実施形態1に係るキャスク11は、三次蓋33を有することにより耐衝撃性が向上する。そのため、例えば航空機事故などがあった場合にも、キャスク11は、その内部の密封が維持されなくなることを抑制する。さらに、三次蓋33は、航空機事故等により発生した火災から二次蓋32を防御することができる。
【0057】
また、胴本体21の側面35を介して二次蓋32の側面へ衝撃があった場合、例えば二次蓋32が胴本体21に対して横ずれし、二次蓋32が胴本体21を密封できなくなる可能性がある。しかし、三次蓋33は、カバー部47を有する。カバー部47は、胴本体21の側面35を覆うため、二次蓋32の側面への衝撃から二次蓋32を防御する。
【0058】
また、三次蓋33は、金属製である。従って、三次蓋33は、キャスク11の耐衝撃性及び耐火災性をより好適に向上させる。また、三次蓋33は、放射性物質からの熱を好適に外部へ逃がすことができる。
【0059】
また、実施形態1において、キャスク11は、二次蓋32と三次蓋33との間に第1の空間66を有する。第1の空間66は、外部の衝撃から二次蓋32をより好適に防御する。例えば、外部からの衝撃により三次蓋33が変形した場合においても、第1の空間66は、変形した三次蓋33が二次蓋32に接触することを抑制したり、その衝撃を緩和させたりする。同様に、キャスク11は、カバー部47と胴本体21の側面35との間に第2の空間67を有する。従って、第2の空間67は、外部の衝撃から二次蓋32をより好適に防御する。例えば、カバー部47に側面から衝撃があった場合、第2の空間67は、カバー部47が側面35に接触することを抑制したり、その衝撃を緩和させたりする。また、例えば、カバー部47に側面から衝撃があった場合、ボルト62及び第2の空間67が、その衝撃を吸収することができる。」

「【0079】
三次蓋33bは、内部に発泡金属が充填されていてもよい。または、三次蓋33bは、発泡金属により製造されていてもよい。発泡金属は、内部に気孔を有するため、例えば火災の際に、熱が二次蓋32に伝わることをより好適に抑制することができる。なお、この場合、三次蓋33bは、開口部130bを有さなくてもよい。」

図1の記載から、胴部12の側面35に4つのトラニオン29が固定されていることが、見て取れる。

図3の記載から、三次蓋33は、一次蓋31及び二次蓋32の上面側に配置された突起部45と円板部46を有することが、見て取れる。


(2)したがって、甲1には、以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる(以下、甲1発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付した。)。
「胴部12と蓋部13とを有し、
胴部12は、上部に開口部22が形成され、下部に底部(閉塞部)23が形成された円筒形状をなしており、内部に放射性物質(例えば、使用済燃料集合体)を収納可能となっており、胴部12は、側面35に4つのトラニオン29が固定されており、(【0028】、【0030】、図1)
蓋部13は、一次蓋31と、二次蓋32と、三次蓋33とを有し、一次蓋31は、開口部22に着脱可能に取り付けられ、二次蓋32は、開口部22における一次蓋31の外側に着脱可能に取り付けられ、(【0031】)
一次蓋31は、炭素鋼又はステンレス鋼によって製造され、(【0037】)
二次蓋32は、炭素鋼又はステンレス鋼によって製造され、(【0040】)
三次蓋33は、突起部45と円板部46とカバー部47とを有し、炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属によって製造され、(【0043】)
カバー部47は、胴本体21の側面35を覆うため、二次蓋32の側面への衝撃から二次蓋32を防御し、(【0057】)
突起部45と円板部46は、一次蓋31及び二次蓋32の上面側に配置され、(図3)
貯蔵時に三次蓋を取り付けるため、放射性物質収納容器の耐衝撃性をより向上させることができる、(【0023】)
放射性物質収納容器。(【0028】)」

2 甲2には、以下の記載がある。
「【0013】
一次蓋11および二次蓋12は炭素鋼等の材料からなり、胴部10の上部開口を密封してキャスクCの輸送時および貯蔵時の密封境界を形成する。
・・・(中略)・・・
【0014】
図1に示すように、下部緩衝体20Aは、胴部10の底部を包む状態に取り付けられ、また、同じく上部緩衝体20Bは、胴部10の上部および二次蓋12を包む状態に取り付けられる。下部緩衝体20Aおよび上部緩衝体20Bは、前記した放射線遮へい機能として作用する遮へい部30と、この遮へい部30の側方(ここでは、下方または上方)に設けられ、下部緩衝体20Aおよび上部緩衝体20Bの外部から遮へい部30へ伝わる熱(火災を想定した熱)を断熱する作用をなす断熱部40とを内包した構造を備えている。本実施形態では、遮へい部30が、断熱部40よりもキャスク本体C1側に配置される状態で、キャスク本体C1の軸線方向に遮へい部30と断熱部40とが層状に設けられている。本実施形態では、下部緩衝体20Aおよび上部緩衝体20Bが同一の形状もしくはほぼ同じ形状とされているので、以下では、上部緩衝体20Bを例にとって説明し、適宜、下部緩衝体20Aについて説明する。
【0015】
図2に示すように、上部緩衝体20Bは、胴部10の上部および二次蓋12を包む断面凹形状に形成されており、外殻部21がステンレス鋼製等から形成され、内部22が木材もしくは木質ボード等から形成されている。本実施形態では、内部22を形成する材料として軽量で衝撃緩衝性に優れたバルサ材が用いられている。
遮へい部30は、キャスク本体C1の軸線方向に所定の厚さを備えるとともに、キャスク本体C1の直径より大きい直径を備えた円板形状とされており、本実施形態では、中性子を遮へいすることが可能な中性子遮へい材からなっている。このような遮へい部30は、上部緩衝体20B内に所定の空間を予め形成しておき、その空間に中性子遮へい材を充填することにより設けられる。中性子遮へい材としては、例えば、一般に入手できるレジンや、ポリプロピレン、ポリエチレン等の高分子の樹脂にホウ素を混入したもの、または、ホウ酸水等の中性子減速材(水素H、炭素C等)と中性子吸収材(ホウ素B等)を含む物質等を使用することができる。
ここで、遮へい部30としては、中性子を遮へいすることが可能な中性子遮へい材の他に、γ線を遮へいするγ線遮へい材を用いて構成することもでき、また、中性子遮へい材とγ線遮へい材の両方を用いて構成することもできる。γ線遮へい材としては、例えば、炭素鋼、ステンレス鋼,鉛等を使用することができる。」

3 甲3には、以下の記載がある。
「【0009】上記構成によれば、キャスクを貯蔵所に設置した後、輸送用キャスクに代えて、貯蔵用三次遮蔽蓋を取り付けることにより、キャスクの上方への遮蔽能力を増大させることができるので、敷地境界までの距離の節約ができるとともに、貯蔵建屋の特に天井部分の遮蔽体の低減(重量の軽減)が可能となり、貯蔵建屋の設備コストの低減に寄与することができる。またカバー筒部により雨水の浸入などを未然に防止することができる。」

4 甲4には、以下の記載がある。
「【0098】
蓋部109は、一次蓋110と二次蓋111によって構成される。一次蓋110は、γ線を遮蔽するステンレス鋼または炭素鋼からなる円盤形状である。また、二次蓋111も、ステンレス鋼製または炭素鋼製の円盤形状であるが、その上面には、中性子遮蔽体としてレジン112、すなわち上述した中性子遮蔽体が封入されている。一次蓋110および二次蓋111は、ステンレス鋼製または炭素鋼製のボルト113によって胴本体101に取り付けられている。さらに、一次蓋110および二次蓋111と胴本体101との間には、それぞれ金属ガスケットが設けられ、内部の密封性を保持している。また、蓋部109の周囲には、レジン114を封入した補助遮蔽体115が設けられている。
【0099】
キャスク本体116の両側には、キャスク100を吊り下げるためのトラニオン117が設けられている。なお、図4では、補助遮蔽体115を設けたものを示したが、キャスク100の搬送時には、補助遮蔽体115を取り外して緩衝体118を取り付ける(図5参照)。緩衝体118は、ステンレス鋼材によって作成された外筒120内にレッドウッド材などの緩衝材119を組み込んだ構造である。バスケット130は、使用済み燃料集合体を収容するセル131を構成する69本の角パイプ132からなる。角パイプ132には、AlまたはAl合金粉末に中性子吸収性能をもつBまたはB化合物の粉末を添加したアルミニウム複合材またはアルミニウム合金を用いる。また、中性子吸収材としては、ボロンの他にカドミウムを用いることができる。」

「【0144】
また、本発明のキャスクは、上記中性子遮蔽体用組成物を含む中性子遮蔽体を有するので、効果的に中性子およびγ線を遮蔽することができる。」

5 甲5には、以下の記載がある。
「【0014】
1つの緩衝体6が、二次蓋3を覆って、キャスク本体15の緩衝体取付フランジ8Aにボルト6aにより取り付けられる。他の緩衝体16が、キャスク本体15の底部を覆って緩衝体取付フランジ8Bにボルト16aにより取り付けられる。緩衝体6,16は、輸送貯蔵用キャスク14が輸送中に落下したとき、キャスク本体15の密封性能、未臨界性能、遮へい性能及び除熱性能などが損なわれないようにその落下衝撃を吸収するために設置される。緩衝体6は、内部に衝撃吸収性能の高い材質である木材(衝撃力吸収部材)17,緩衝体フランジ7及びステンレス鋼,炭素鋼などの剛性の高い金属で構成された外側缶体7aを備える。緩衝体フランジ7は、二次蓋3,二次蓋3から緩衝体取付フランジ8Aに至る胴体1の外面及び緩衝体取付フランジ8Aに面し、これらに沿って配置される。すなわち、緩衝体フランジ7は、緩衝体取付フランジ8Aから二次蓋3までのキャスク本体15の部分を挿入する凹部18(図2参照)を形成している。木材17は、緩衝体フランジ7に接触しており、更に、緩衝体フランジ7に取り付けられる外側缶体7aで覆われている。具体的に言えば、木材17は、緩衝体フランジ7及び外側缶体7aによって取り囲まれている。緩衝体フランジ7の外径は、緩衝体取付フランジ8A,8Bの外径に等しいか、この外径よりも若干大きくなっている。」

6 甲6には、以下の記載がある。
(1)「【技術分野】
【0001】
本発明は、使用済み燃料等を収納して輸送又は貯蔵するキャスクに取付ける緩衝装置に関する。
【背景技術】
【0002】
一般に、使用済み燃料は、原子力発電所内に設けられた冷却プールで、放射線量が一定レベル以下に低下するまで保管される。その後、遮へい機能及び密封機能を有するキャスクに収納されて、燃料処理施設まで輸送される。あるいは、中間貯蔵施設まで輸送され、キャスクに収納された状態で貯蔵される。
【0003】
キャスクは、輸送時及び取扱い時の万一の事故に備える必要がある。すなわち、例えば高所から落下しても、所定の遮へい機能及び密封機能を有する必要がある。そこで、例えば特許文献1に記載のような緩衝体を、キャスクの両端部に取付ける。これにより、落下時の姿勢(詳細には、例えば水平姿勢、垂直姿勢、又は傾斜姿勢)にかかわらず、衝撃を緩和させることができる。」

「【0012】
キャスク1は、複数の使用済み燃料集合体2を収納して輸送又は貯蔵するための容器である。キャスク1は、γ線遮へい機能を有する有底円筒状の内筒3と、この内筒3内に設けられ、複数の燃料集合体2をそれぞれ収納する複数の区画を形成するバケット(図示せず)と、内筒3の開口側(図1及び図2中右側)に複数のボルト(図示せず)を用いて取付けられた複数の蓋(本実施形態では、一次蓋4及び二次蓋5)とを有している。また、キャスク1は、内筒3の外周側に設けられた外筒6と、内筒3と外筒6の間に充填された中性子遮へい材7と、外筒6の外周側に設けられた複数のトラニオン(突起吊具)8とを有している。
【0013】
本実施形態のキャスク用緩衝装置は、キャスク1の軸方向一方側(図1及び図2中左側)の端部に取付ける略円盤状の第1緩衝体9Aと、キャスク1の軸方向他方側(図1及び図2中右側)の端部に取付ける略円盤状の第1緩衝体9Bと、第1緩衝体9Aに対して着脱自在に取付ける略円盤状の第2緩衝体10Aと、第1緩衝体9Bに対して着脱自在に取付ける略円盤状の第2緩衝体10Bとを備えている。
【0014】
第1緩衝体9A,9Bは、外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ、その内部に木材や木質ボード等が充填されている。第1緩衝体9A,9Bは、内筒3の外径に合わせた窪みを有している。そして、例えば複数のボルト(図示せず)を用いて第1緩衝体9Aをキャスク1の軸方向一方側の端部に取付け、第1緩衝体9Aの窪みに内筒3の底部を嵌めることにより、第1緩衝体9Aが内筒3の底部(言い換えれば、内筒3の軸方向一方側の端面と側面の一部)を覆うようになっている。また、例えば複数のボルト(図示せず)を用いて第1緩衝体9Bをキャスク1の軸方向他方側の端部に取付け、第1緩衝体9Bの窪みに内筒3の開口端部を嵌めることにより、第1緩衝体9Bが内筒3の開口端部(言い換えれば、内筒3の軸方向他方側の端面と側面の一部)と二次蓋5を覆うようになっている。」

図1の記載から、一次蓋4及び二次蓋5側のキャスク1の軸方向の端部の上面側及び側面側に取付ける第1緩衝体9Bが、見て取れる。


(2)したがって、甲6には、以下の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されていると認められる(以下、甲6発明の認定に用いた段落番号等を参考までに括弧内に付した。)。
「内筒3の外周側に設けられた外筒6と、内筒3と外筒6の間に充填された中性子遮へい材7と、外筒6の外周側に設けられた複数のトラニオン(突起吊具)8とを有し、
この内筒3内に設けられ、複数の燃料集合体2をそれぞれ収納する複数の区画を形成するバケットと、内筒3の開口側に取付けられた複数の蓋(本実施形態では、一次蓋4及び二次蓋5)とを有し、(【0012】)
キャスク1の軸方向一方側の端部に取付ける略円盤状の第1緩衝体9Aと、一次蓋4及び二次蓋5側のキャスク1の軸方向の端部の上面側及び側面側に取付ける略円盤状の第1緩衝体9Bとを備え、(【0013】、図1)
第1緩衝体9A,9Bは、外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ、その内部に木材や木質ボード等が充填されている、(【0014】)
複数の使用済み燃料集合体2を収納して輸送又は貯蔵するための容器であるキャスク1及び第1緩衝体9A,9B。(【0001】、【0012】、【0013】、図1)」

7 甲7には、以下の記載がある。
「表皮材16の中空内部には、好ましくはポリウレタンフォームの如き発泡樹脂からなるクッション材18が充填されており、当該クッション材の硬度その他の物性は、衝撃吸収性、感触等のファクターを総合的に考慮して決定される。」(第3頁左上欄下から4行目〜右上欄1行目)

8 甲8には、以下の記載がある。
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はコンクリート、モルタル、石膏等のコンクリート系材料に関するものであり、特に形状記憶合金を用いて強度と制振性を付与したコンクリート系材料に関するものである。」

「【0023】振動減衰特性試験はハンマー打撃法により行った。この方法は図6に示されるようにアブソーバー20の上に配置した試料1にゴム・プラスチック等からなるハンマー22を矢印23方向に落下させそのときに生じた振動エネルギーをピックアップ21で拾い上げて解析するものである。X軸を時間軸に取って、どのように振動エネルギーが減衰していくかということを、比較例と重ね合わせて図7に示されている。これにより本発明材料が比較例に比べて、2倍程度早く振動が減衰してしまう様子が読み取れる。さらに、その際の衝撃吸収エネルギーも3倍程度大きくなった。これらの結果は、本発明複合機能コンクリート系材料の制振性および衝撃吸収性が非常に向上していることを示している。」

9 甲9には、以下の記載がある。
「【0011】
(貯蔵用遮へい蓋)
貯蔵用遮へい蓋13(13a〜13d)は、炭素鋼等の材料からなり、相互に径の異なる円板状の板から構成されている。貯蔵用遮へい蓋13は、図3に示すように、放射線を遮へいすることが可能な中性子遮へい材13Aを内包した構造を有している。なお、貯蔵用遮へい蓋13の厚さ、中性子遮へい材13Aの材質や厚さは、収容する使用済燃料の種類や貯蔵建屋の遮へい能力等を考慮して適宜設定することができる。中性子遮へい材13Aとしては、例えば、ポリプロピレンやポリエチレン等の高分子の樹脂にホウ素を混入したもの、または、ホウ酸水等の中性子減速材(水素、炭素等)と中性子吸収材(ホウ素等)を含むものを使用することができる。そして、貯蔵用遮へい蓋13は、図2に示すように、複数枚積層されるときに、二次蓋12から離れるものほど面積の小さいものが順次積層されて、全体として側面視で階段状に積層されるように構成されている。これにより、キャスク本体C1の中心Oに近い位置ほど、積層される貯蔵用遮へい蓋13(13a〜13d)の枚数が多くなり、中心Oに近い位置ほど放射線の遮へい能力が高くなるようにされている。貯蔵用遮へい蓋13のうち、二次蓋12の直上に位置する貯蔵用遮へい蓋13aは、胴部10の上端部に対してボルト10eにより取り付けられ、また、その他の貯蔵用遮へい蓋13b〜13dは、取付部材13eによって、下側に位置するそれぞれの貯蔵用遮へい蓋13a,13b,13cの上面に取り付けられる。これにより、地震等における貯蔵用遮へい蓋13の横ずれを防止した貯蔵を実現できる。」

第5 理由1(進歩性)について
1 甲1を主引用例とした場合
(1)本件発明1について
ア 甲1発明の「『上部に開口部22が形成され、下部に底部(閉塞部)23が形成された円筒形状をなしており、内部に放射性物質(例えば、使用済燃料集合体)を収納可能となっており、胴部12は、側面35に4つのトラニオン29が固定されて』いる『胴部12』」と、本件発明1の「放射性物質を収容する縦置き設置される容器本体であって、外周部にハンドリング用の複数のトラニオンが取り付けられた容器本体」とは、「放射性物質を収容する容器本体であって、外周部にハンドリング用の複数のトラニオンが取り付けられた容器本体」の点で一致する。

イ 甲1発明の「一次蓋31」及び「二次蓋32」は、「炭素鋼又はステンレス鋼によって製造され」ているので、放射能遮蔽機能を有するといえる。
そうすると、甲1発明の「『炭素鋼又はステンレス鋼によって製造され、』『胴部12』の『上部』の『開口部22に着脱可能に取り付けられ』る『一次蓋31と、』『炭素鋼又はステンレス鋼によって製造され、』『開口部22における一次蓋31の外側に着脱可能に取り付けられ』る『二次蓋32』」は、本件発明1の「容器本体の上端部の開口を密封する、放射線遮蔽機能を有する蓋体」に相当する。

ウ 甲1発明の「三次蓋33」は、「炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属によって製造され」ているので、放射能遮蔽機能を有するといえる。
甲1発明の「三次蓋33」は、本件発明1の「蓋体補助カバー」に、
甲1発明の「突起部45と円板部46」は、本件発明1の「放射線遮蔽部材」に、
それぞれ相当する。

また、甲1発明の「カバー部47」と、本件発明1の「衝撃吸収部材」とは、「部材」の点で一致する。
そうすると、甲1発明の「『炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属によって製造され、』『貯蔵時に』『取り付ける』『三次蓋33』であって、前記『三次蓋33』は、『胴本体21の側面35を覆うため、二次蓋32の側面への衝撃から二次蓋32を防御』する『カバー部47と』、『一次蓋31及び二次蓋32の上面側に配置され』る『突起部45と円板部46と』『を有し』」と、本件発明1の「貯蔵状態において前記容器本体の上端部の外周縁部に取り付けられた蓋体補助カバーと、を備え、前記蓋体補助カバーは、前記蓋体の側面側に配置された、外部から前記蓋体が受ける衝撃力を緩和する衝撃吸収部材と、前記蓋体の上面側に配置された、前記蓋体の上面からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽部材と、を有する」とは、「貯蔵状態において前記容器本体の上端部の外周縁部に取り付けられた蓋体補助カバーと、を備え、前記蓋体補助カバーは、前記蓋体の側面側に配置された、部材と、前記蓋体の上面側に配置された、前記蓋体の上面からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽部材と、を有する」点で一致する。

エ 以上のことから、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「放射性物質を収容する容器本体であって、外周部にハンドリング用の複数のトラニオンが取り付けられた容器本体と、
前記容器本体の上端部の開口を密封する、放射線遮蔽機能を有する蓋体と、
貯蔵状態において前記容器本体の上端部の外周縁部に取り付けられた蓋体補助カバーと、
を備え、
前記蓋体補助カバーは、
前記蓋体の側面側に配置された、部材と、
前記蓋体の上面側に配置された、前記蓋体の上面からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽部材と、
を有する、貯蔵容器。」

【相違点1】
容器本体について、本件発明1では「縦置き設置される」ものであるのに対し、甲1発明ではそのようなものか明らかでない点。

【相違点2】
蓋体補助カバーの蓋体の側面側に配置された部材について、本件発明1では「外部から前記蓋体が受ける衝撃力を緩和する衝撃吸収部材」であるのに対し、甲1発明では「『二次蓋32の側面への衝撃から二次蓋32を防御』する『カバー部47』」である点。

オ 相違点1について
本件発明1は「貯蔵容器」という物の発明であるから、本件発明1の「縦置き設置される容器本体」との特定は、容器本体が「縦置き設置」されているという状態を特定するものではなく、貯蔵容器につき、容器本体が「縦置き設置」可能な形状・構造等であることを特定するものと解するのが相当である。そして、甲1発明の「胴部12は、上部に開口部22が形成され、下部に底部(閉塞部)23が形成された円筒形状をなしており」との特定等も考慮すると、相違点1は実質的な相違点であるとはいえない。
また、仮に、相違点1が実質的な相違点であるといえるとしても、甲1発明の「放射性物質収納容器」を設置するときに、開口部22を上側とし、底部(閉塞部)23を下側とするような縦置きとすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

カ 相違点2について
甲1発明では「三次蓋33は、突起部45と円板部46とカバー部47とを有し、炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属によって製造され、カバー部47は、胴本体21の側面35を覆うため、二次蓋32の側面への衝撃から二次蓋32を防御し」と特定されており、「炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属」は、剛性だけでなく展性をも有するものである。
そして、甲1の【0059】には「外部からの衝撃により三次蓋33が変形した場合においても、第1の空間66は、変形した三次蓋33が二次蓋32に接触することを抑制したり、その衝撃を緩和させたりする。」、「カバー部47に側面から衝撃があった場合、第2の空間67は、カバー部47が側面35に接触することを抑制したり、その衝撃を緩和させたりする。」と記載されていることから、カバー部47に側面から衝撃があった場合、第2の空間67側に、カバー部47が変形するといえる。
そうすると、カバー部47は、側面から衝撃があった場合、変形し、衝撃を吸収していると考えるのが自然である。
さらに、甲1の【0079】には「三次蓋33bは、内部に発泡金属が充填されていてもよい。または、三次蓋33bは、発泡金属により製造されていてもよい。」と記載されていることから、甲1には、三次蓋として衝撃を受けた際に変形しやすい構造を有する発泡金属も示唆されている。
そうすると、甲1発明において、相違点2に係る本件発明1の構成となすことは、当業者が容易に想到し得た事項である。

キ したがって、本件発明1は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
ア 本件発明2と甲1発明とを対比すると、両者は、上記相違点1、2に加え、次の点で相違する。
【相違点3】
蓋体の側面側に配置された、部材について、本件発明2では「木材、発泡樹脂、発泡金属、モルタル、およびコンクリートのうちのいずれか1つ、または、これらの組合せで構成されている」のに対し、甲1発明では「炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属」である点。

イ 衝撃吸収部材として、木材、発泡樹脂、発泡金属、モルタル、又はコンクリートを用いることは、周知技術(必要ならば、甲1(特に、【0079】参照。)、甲2(特に、【0015】参照。)、甲5(特に、【0014】参照。)、甲6(特に、【0014】参照。)、甲7(特に、第3頁左上欄下から4行目〜右上欄1行目参照。)、甲8(特に、【0023】参照。)を参照されたい。)である。

ウ 甲1発明の「カバー部47」は「二次蓋32の側面への衝撃から二次蓋32を防御」するものであるから、上記周知技術を採用することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

エ したがって、本件発明2は、甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
ア 本件発明3と甲1発明とを対比すると、両者は、上記相違点1、2に加え、次の点で相違する。
【相違点4】
放射線遮蔽部材について、本件発明3では「γ線遮蔽材、および中性子遮蔽材のうちの少なくともいずれか一方の遮蔽材、または、これらの複合材で構成されている」のに対し、甲1発明では「炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属」である点。

イ 炭素鋼、ステンレス鋼等の金属がγ線を遮蔽する機能を有することは技術常識であり、甲1発明の「三次蓋33は、」「炭素鋼、ステンレス鋼又はアルミニウム等の金属によって製造される」ことから、炭素鋼、ステンレス鋼等のγ線を遮蔽する機能を有する部材を採用することは当業者が適宜選択する事項にすぎない。

ウ また、貯蔵容器に使用される放射線遮蔽部材として、γ線遮蔽材、および中性子遮蔽材のうちの少なくともいずれか一方の遮蔽材、または、これらの複合材で構成されている遮蔽材を用いることは、周知技術(必要ならば、甲2(特に、【0015】参照。)、甲4(特に、【0144】参照。)、甲9(特に、【0011】参照。)を参照されたい。)である。

エ そして、放射性物質からγ線、中性子線が放出されることは通常知られており、放射性物質収納容器の蓋においても遮蔽するために、上記周知技術を採用することは、当業者が考慮する事項にすぎない。

オ したがって、本件発明3は、甲1発明、又は甲1発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1発明とを対比すると、両者は、上記相違点1、2に加え、次の点で相違する。
【相違点5】
蓋体の側面側に配置された、部材について、本件発明4では「金属板で囲まれている」のに対し、甲1発明ではそのようなものか明らかでない点。

イ 甲6発明は「複数の使用済み燃料集合体2を収納して輸送又は貯蔵するための容器であるキャスク1」に関する発明であり、「一次蓋4及び二次蓋5側のキャスク1の軸方向の端部の上面側及び側面側に取付ける略円盤状の第1緩衝体9Bとを備え、第1緩衝体9A,9Bは、外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ、その内部に木材や木質ボード等が充填されている」と特定されている。

ウ そして、甲1発明は「放射性物質収納容器」に関する発明であり、「三次蓋33」の「突起部45と円板部46は、一次蓋31及び二次蓋32の上面側に配置され」、「三次蓋33」の「カバー部47は、胴本体21の側面35を覆うため、二次蓋32の側面への衝撃から二次蓋32を防御」するもので、また、「放射性物質収納容器」は、「貯蔵時に三次蓋を取り付けるため、放射性物質収納容器の耐衝撃性をより向上させることができる」ものである。

エ そうすると、甲1発明及び甲6発明は、放射性物質収納容器に関するものであり、甲1発明の三次蓋33及び甲6発明の第1緩衝体9Bは、ともに一次蓋及び二次蓋の上面側及び側面側に配置され、耐衝撃性を有するものであることから、甲1発明の「三次蓋33」に甲6発明の「外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ、その内部に木材や木質ボード等が充填されている」「第1緩衝体」「9B」を採用することは、当業者が容易に想到し得た事項にすぎない。

オ したがって、本件発明4は、甲1発明及び甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

2 甲6を主引用例とした場合
(1)本件発明1について
ア 甲6発明の「内筒3の外周側に設けられた外筒6と、内筒3と外筒6の間に充填された中性子遮へい材7と、外筒6の外周側に設けられた複数のトラニオン(突起吊具)8とを有し、この内筒3内に設けられ、複数の燃料集合体2をそれぞれ収納する複数の区画を形成するバケット」と、本件発明1の「放射性物質を収容する縦置き設置される容器本体であって、外周部にハンドリング用の複数のトラニオンが取り付けられた容器本体」とは、「放射性物質を収容する容器本体であって、外周部にハンドリング用の複数のトラニオンが取り付けられた容器本体」の点で一致する。

イ 甲6発明の「内筒3の開口側に取付けられた複数の蓋(本実施形態では、一次蓋4及び二次蓋5)」と、本件発明1の「容器本体の上端部の開口を密封する、放射線遮蔽機能を有する蓋体」とは、「容器本体の上端部の開口を密封する、蓋体」の点で一致する。

ウ 甲6発明の「一次蓋4及び二次蓋5側のキャスク1の軸方向の端部の上面側及び側面側に取付ける略円盤状の第1緩衝体9B」は、本件発明1の「蓋体補助カバー」に、
甲6発明の「『略円盤状の第1緩衝体9B』の『側面側』」は、本件発明1の「衝撃吸収部材」に、
それぞれ相当する。
また、甲6発明の「『外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ』る『略円盤状の第1緩衝体9B』の『上面側』」は、ステンレス鋼や炭素鋼は、放射線遮蔽機能を有することは、技術常識であることから、本件発明1の「放射線遮蔽部材」に、相当する。
そうすると、甲6発明の「『一次蓋4及び二次蓋5側のキャスク1の軸方向の端部の上面側及び側面側に取付ける略円盤状の第1緩衝体9Bとを備え、第1緩衝体』『9Bは、外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ、その内部に木材や木質ボード等が充填されている』」は、本件発明1の「前記容器本体の上端部の外周縁部に取り付けられた蓋体補助カバーと、を備え、前記蓋体補助カバーは、前記蓋体の側面側に配置された、外部から前記蓋体が受ける衝撃力を緩和する衝撃吸収部材と、前記蓋体の上面側に配置された、前記蓋体の上面からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽部材と、を有する」に相当する。

エ 甲6発明の「複数の使用済み燃料集合体2を収納して輸送又は貯蔵するための容器であるキャスク1及び第1緩衝体9A,9B」と、本件発明1の「貯蔵容器」とは、「容器」の点で一致する。

オ 以上のことから、本件発明1と甲6発明との一致点及び相違点は、次のとおりである。
【一致点】
「放射性物質を収容する容器本体であって、外周部にハンドリング用の複数のトラニオンが取り付けられた容器本体と、
前記容器本体の上端部の開口を密封する、蓋体と、
前記容器本体の上端部の外周縁部に取り付けられた蓋体補助カバーと、
を備え、
前記蓋体補助カバーは、
前記蓋体の側面側に配置された、外部から前記蓋体が受ける衝撃力を緩和する衝撃吸収部材と、
前記蓋体の上面側に配置された、前記蓋体の上面からの放射線を遮蔽する放射線遮蔽部材と、
を有する、容器。」

【相違点6】
容器本体について、本件発明1では「縦置き設置される」ものであるのに対し、甲6発明ではそのようなものか明らかでない点。

【相違点7】
蓋体について、本件発明1では「放射線遮蔽機能を有する」ものであるのに対し、甲6発明ではそのようなものか明らかでない点。

【相違点8】
本件発明1では、「貯蔵容器」と特定され、蓋体補助カバーが「貯蔵状態において」取り付けられたものであるのに対し、甲6発明では、複数の使用済み燃料集合体2を収納して輸送又は貯蔵するための容器であるキャスク1及び第1緩衝体9A,9Bである点。

カ 相違点6について
本件発明1は「貯蔵容器」という物の発明であるから、本件発明1の「縦置き設置される容器本体」との特定は、容器本体が「縦置き設置」されているという状態を特定するものではなく、貯蔵容器につき、容器本体が「縦置き設置」可能な形状・構造等であることを特定するものと解するのが相当である。そして、甲6発明の「内筒3の外周側に設けられた外筒6と、内筒3と外筒6の間に充填された中性子遮へい材7と、外筒6の外周側に設けられた複数のトラニオン(突起吊具)8とを有し、この内筒3内に設けられ、複数の燃料集合体2をそれぞれ収納する複数の区画を形成するバケットと、内筒3の開口側に取付けられた複数の蓋(本実施形態では、一次蓋4及び二次蓋5)とを有し」との特定等も考慮すると、相違点6は実質的な相違点であるとはいえない。
また、仮に、相違点6が実質的な相違点であるといえるとしても、甲6発明の「キャスク1」を設置するときに、内筒3の開口側に取付けられた複数の蓋を上側とするような縦置きとすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

キ 相違点7について
放射性物質から放射線が放出されることは技術常識であり、放射性物質収納容器の蓋においても放射線遮蔽機能を有するようになすことは、当業者が容易に想到する事項にすぎない。

ク 相違点8について
甲6の【0001】に「使用済み燃料等を収納して輸送又は貯蔵するキャスクに取付ける緩衝装置」、【0003】に「キャスクは、輸送時及び取扱い時の万一の事故に備える必要がある」と記載されていることから、輸送時以外の貯蔵の取扱い時においても、万一の事故に備える必要があることを想定しているといえる。
また、甲6発明の「第1緩衝体9B」は、「複数の使用済み燃料集合体2を収納して輸送又は貯蔵するための容器であるキャスク1」に備えられるものである。
そうすると、万一の事故に備え、甲6発明の「第1緩衝体9B」を貯蔵時においても「キャスク1」に備えるようになし、「複数の使用済み燃料集合体2を収納して輸送又は貯蔵するための容器であるキャスク1及び第1緩衝体9A,9B」を貯蔵容器とすることは、当業者が適宜なし得た事項にすぎない。

ケ したがって、本件発明1は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(2)本件発明2について
ア 甲6発明の「『第1緩衝体』『9Bは、外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ、その内部に木材や木質ボード等が充填されている』」と、本件発明2の「衝撃吸収部材は、木材、発泡樹脂、発泡金属、モルタル、およびコンクリートのうちのいずれか1つ、または、これらの組合せで構成されている」とは、「衝撃吸収部材は、木材で構成されている」点で一致する。
また、木材以外についても、衝撃吸収部材として、上記1(2)イで説示したとおり周知技術であり、甲6発明の「『略円盤状の第1緩衝体9B』の『側面側』」」に上記1(2)イの周知技術を採用することは、当業者が適宜なし得る事項にすぎない。

イ したがって、本件発明2は、甲6発明、又は甲6発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(3)本件発明3について
ア 炭素鋼、ステンレス鋼等の金属がγ線を遮蔽する機能を有することは技術常識である。
そうすると、甲6発明の「『第1緩衝体』『9Bは、外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ』」と、本件発明3の「放射線遮蔽部材は、γ線遮蔽材、および中性子遮蔽材のうちの少なくともいずれか一方の遮蔽材、または、これらの複合材で構成されている」とは、「放射線遮蔽部材は、γ線遮蔽材の遮蔽材で構成されている」点で一致する。

イ また、貯蔵容器に使用される放射線遮蔽部材として、γ線遮蔽材、および中性子遮蔽材のうちの少なくともいずれか一方の遮蔽材、または、これらの複合材で構成されている遮蔽材を用いることは、上記1(3)ウで説示したとおり周知技術である。

ウ そして、放射性物質からγ線、中性子線が放出されることは通常知られており、放射性物質収納容器の蓋においても遮蔽するために、上記周知技術を採用することは、当業者が考慮する事項にすぎない。

エ したがって、本件発明3は、甲6発明、又は甲6発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

(4)本件発明4について
ア 甲6発明の「『一次蓋4及び二次蓋5側のキャスク1の軸方向の端部の上面側及び側面側に取付ける略円盤状の第1緩衝体9Bとを備え、第1緩衝体』『9Bは、外郭として耐食性のステンレス鋼や塗装された炭素鋼などの金属が用いられ、その内部に木材や木質ボード等が充填されている』」は、本件発明4の「衝撃吸収部材が金属板で囲まれている」に相当する。

イ したがって、本件発明4は、甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。

3 特許権者の主張について
(1)特許権者は令和3年10月4日付けの意見書において、
ア 「しかしながら、甲1発明におけるカバー部(三次蓋33)は、航空機落下などのシビアアクシデントに対する容器の健全性を確保するためのものである。また、甲1の図1、図3等から、カバー部47の厚さは、容器の胴本体21と同じ厚さとまではいえないものの、胴本体21と同様にかなり厚い。これらにより、甲1発明では、カバー部47の展性による衝撃吸収ではなく、カバー部47の剛性により衝撃から二次蓋32を防御することを目的としていることは明らかである。」、

イ 「甲6には、第1緩衝体9Bがキャスク1の貯蔵状態においてキャスク1に取り付けられることは何も記載されておらず、第1緩衝体9Bは、キャスク1の輸送時および取扱い時にキャスク1に取り付けられるものである。」、

ウ 「甲6の【0014】には、上記外郭の内部に木材や木質ボード等が充填されていることが記載されている。第1の緩衝体9Bを構成する外郭は、木材や木質ボードが潰れたときに、木材や木質ボードが飛び散らないための単なる薄いカバーであり、「放射線遮蔽部材」とまではいうことができない。」旨主張する。

(2)上記主張については以下検討する。
ア 上記3(1)アについては、上記1(1)カに説示したとおり、カバー部47(三次蓋33)は、衝撃があった場合、変形することから、衝撃を吸収しているものといえる。

イ 上記3(1)イについては、上記2(1)クに説示したとおり、甲6は、キャスクの貯蔵時に第1緩衝体9Bを取付けることを排除しているものではなく、さらに、輸送時以外の貯蔵の取扱い時においても、万一の事故に備える必要があることを想定しているといえる。

ウ 上記3(1)ウについては、上記2(1)ウに説示したとおり、ステンレス鋼や炭素鋼が、放射線遮蔽機能を有することは、技術常識であることから、薄くても多少は放射線遮蔽機能を有するといえるし、そもそも甲6発明は、使用済み燃料を収納する容器に関するものであるから、放射線を遮蔽することに配慮するのは当然のことである。

したがって、特許権者の主張は失当である。

第6 むすび
以上のとおりであるから、
本件発明1は、甲1発明、又は甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明2は、甲1発明及び周知技術、甲6発明、又は甲6発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明3は、甲1発明、甲1発明及び周知技術、甲6発明、又は甲6発明及び周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであり、
本件発明4は、甲1発明及び甲6発明、又は甲6発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、
その発明に係る特許は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
したがって、本件発明1〜4に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
異議決定日 2022-03-07 
出願番号 P2017-064349
審決分類 P 1 652・ 121- Z (G21F)
最終処分 06   取消
特許庁審判長 瀬川 勝久
特許庁審判官 松川 直樹
野村 伸雄
登録日 2020-09-28 
登録番号 6769902
権利者 株式会社神戸製鋼所
発明の名称 貯蔵容器  
代理人 特許業務法人梶・須原特許事務所  

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