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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 発明同一  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
管理番号 1384103
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-19 
確定日 2022-02-15 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6773926号発明「冷凍又はチルド食品及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6773926号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕〔8,9〕について訂正することを認める。 特許第6773926号の請求項1ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6773926号の請求項1〜9に係る特許についての出願は、令和2年1月10日(優先権主張 平成31年1月10日、令和1年6月28日)の出願であって、令和2年10月5日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月21日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年4月19日に特許異議申立人 中嶋美奈子 により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年7月16日付け取消理由通知により取消理由を通知した。それに対し、特許権者は令和3年9月24日に意見書及び訂正請求書を提出した。その後、当審は、特許異議申立人に対して、訂正請求があった旨を通知し(特許法第120条の5第5項)、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からは何ら応答はなかった。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
令和3年9月24日提出の訂正請求(以下、「本件訂正請求」という。)による訂正の内容は、令和3年9月24日提出の訂正請求書に記載されるとおりの次のものである(下線部は訂正箇所を示す。)。

[訂正事項1]
特許請求の範囲の請求項1に「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む、冷凍又はチルド食品。」と記載されているのを、以下の通りに訂正する(請求項1の記載を引用する請求項3、6、7も同様に訂正する)。
「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含み、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液を15質量部以下含む、冷凍又はチルド食品。」

[訂正事項2]
特許請求の範囲の請求項2に「前記炊飯物の表面に、澱粉糊液が付着している、請求項1に記載の冷凍又はチルド食品。」と記載されているのを、以下のように訂正する(請求項2の記載を引用する請求項3、6、7も同様に訂正する)。
「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む食品(但し、食品(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分を液状部として含むものを除く)が冷凍又はチルドされた冷凍又はチルド食品であって、前記炊飯物の表面に、澱粉糊液が付着している、冷凍又はチルド食品。」

[訂正事項3]
特許請求の範囲の請求項4に「前記炊飯物が米粒麦の炊飯物を含む、請求項1〜3の何れか1項に記載の冷凍又はチルド食品。」と記載されているのを、以下のように訂正する(請求項4の記載を引用する請求項6、7も同様に訂正する)。
「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉瑚液がリン酸架橋澱粉を含む冷凍又はチルド食品であって、前記炊飯物が米粒麦の炊飯物を含む冷凍又はチルド食品。」

[訂正事項4]
特許請求の範囲の請求項5に「前記リン酸架橋澱粉がヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉である、請求項1〜4の何れか1項に記載の冷凍又はチルド食品。」と記載されているのを、以下のように訂正する(請求項5の記載を引用する請求項6、7も同様に訂正する)。
「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む冷凍又はチルド食品であって、
前記リン酸架橋澱粉がヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であり、前記炊飯物が炒められたものであるか、又は炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又はまぜご飯である、冷凍又はチルド食品。」

[訂正事項5]
特許請求の範囲の請求項8に「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物に、前記穀類に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液を絡めた後、包装し、冷凍又はチルドする、冷凍又はチルド食品の製造方法であって、前記澱粉がリン酸架橋澱粉を含む、冷凍又はチルド食品の製造方法。」と記載されているのを、以下のように訂正する。
「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物に、前記穀類に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液を絡めた後、包装し、冷凍又はチルドする、冷凍又はチルド食品の製造方法であって、前記澱粉がリン酸架橋澱粉を含み、得られる冷凍又はチルド食品において、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液の含有量が15質量部以下である、冷凍又はチルド食品の製造方法。」(請求項8の記載を引用する請求項9も同様に訂正する)。

なお、訂正前の請求項1〜7について、訂正前の請求項2〜7は、請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項1〜7に対応する訂正後の請求項1〜7に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。
訂正前の請求項8〜9について、訂正前の請求項9は、請求項8を引用するものであって、訂正事項5によって記載が訂正される請求項8に連動して訂正されるものであるから、訂正前の請求項8、9に対応する訂正後の請求項8、9に係る本件訂正請求は、特許法第120条の5第4項に規定する一群の請求項ごとにされたものである。
また、特許権者は、訂正事項1〜訂正事項5はそれぞれ、別の訂正単位として扱われることを求めている。

2 訂正の目的、新規事項の追加及び特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的について
訂正事項1は、訂正前の請求項1において、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に対する「澱粉糊液」の量の上限を限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」ともいう。)又は特許請求の範囲(以下、合わせて「本件特許明細書等」ともいう。)には、
「【0025】
本発明の冷凍又はチルド食品はその食感及び物性を良好なものとする点から、澱粉糊液を、前記炊飯物100質量部に対して3質量部以上15質量部以下含有することが好ましく、4質量部以上10質量部以下含有することがより好ましく、5質量部以上10質量部以下含有することが最も好ましい。」(下線は当審による。)との記載があることから、訂正事項1は、本件特許明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
訂正事項1は、上記アで検討したように、特許請求の範囲を減縮したものであり、カテゴリーを変更したものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(2)訂正事項2
ア 訂正の目的について
訂正事項2は、訂正前の請求項2の記載が請求項1の記載を引用していたものを、引用しないものとし、さらに、訂正前の請求項2において、「冷凍又はチルド食品であって」とされていたものを、「食品(……)が冷凍又はチルドされた冷凍又はチルド食品であって」とするとともに、「食品」から「食品(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分を液状部として含むもの」を除くことにより、限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び同項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

新規事項の追加について
(ア)本件特許明細書等には、
「【0029】
前記炊飯物として、炒めた炊飯物を用いる場合、澱粉糊液は、炒め調理の後に前記炊飯物に混合させる。炒め調理としては、前記炊飯物を炒めるものであればよく、上述した他の具材をともに炒め調理してもよい。また、前記炊飯物の炊め調理と、澱粉糊液の調製とはいずれを先に行ってもよい。前記炊飯物の炒め調理は、通常、例えば200℃〜280℃の鍋やフライパンにて2分間〜5分間行う。炒めた前記炊飯物を澱粉糊液と混合させて澱粉糊液を絡めた後に、包装し、食品を冷凍又は冷蔵させる。前記炊飯物は、炒め調理されている場合、炒め調理された直後、冷却前に澱粉糊液と混合されることが、得られる食品の食感、物性の点で好ましい。
【0030】
前記炊飯物として、炒めていない炊飯物を用いる場合は、炊飯物を煮る、他の具材と和える等の調理を施してもよいが、通常、炊飯物をそのまま澱粉糊液と混合させる。炊飯物は油ちょう等の処理をされずに大麦の粒表面に直接澱粉糊液が付着するように構成されることが好ましい。次いで澱粉糊液と混合した炊飯物を包装し、冷凍又は冷蔵させる。」(下線は当審による。)との記載があるから、訂正事項2のうち、「冷凍又はチルド食品であって」とされていたものを「食品(……)が冷凍又はチルドされた冷凍又はチルド食品であって」として限定する点は、この記載から導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
(イ)本件特許出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた日本語特許出願であるPCT/JP2019/034049(国際公開第2020/045606号)の優先権主張の基礎とされた特願2018−163136号は、本件出願のいずれの優先日よりも前の2018年8月31日を出願日とする特許出願であるところ、特願2018−163136号の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「出願1当初明細書等」という。)に記載された事項のうち、その出願を優先権主張の基礎とする日本語特許出願(PCT/JP2019/034049(国際公開第2020/045606号))の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲にも共通して記載された事項として、「本明細書において、液状食品の液状部とは、該液状食品から具材を除いた液状部分をいい、具体的には、該液状食品(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分をいう。」(国際公開第2020/045606号4頁13〜16行)との記載があるから、訂正事項2のうち、「食品」から「食品(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分を液状部として含むもの」を除く点は、この態様を除くものである。
(ウ)上記(ア)及び(イ)により、訂正事項2は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
訂正事項2は、上記アで検討したように、特許請求の範囲を減縮し、さらに請求項間の引用関係を解消したものであり、カテゴリーを変更したものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項3
ア 訂正の目的について
訂正事項3は、訂正前の請求項4の記載が請求項1〜3の記載を引用していたものを、引用しないものとしたものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び同項第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

新規事項の追加について
訂正事項3は、上記アで検討したように、請求項間の引用関係を解消したものであるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
訂正事項3は、上記アで検討したように、請求項間の引用関係を解消したものであり、カテゴリーを変更したものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4
ア 訂正の目的について
訂正事項4は、訂正前の請求項5が請求項1〜4の記載を引用していたものを、引用しないものとし、さらに、「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又はまぜご飯である」との限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮、及び同項ただし書第4号に掲げる「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とするものである。

新規事項の追加について
本件特許明細書等には、
「【0016】
本発明において、前記炊飯物は炒めたものであることが、澱粉を含む澱粉糊液を混合させることによる食感向上効果や、飯粒同士の付着性及び前記炊飯物の保形性等の物性の向上効果を特に高いものとする点で好ましい。ここでいう炒めた前記炊飯物とは、大麦又は大麦及び米からなる穀類を炊飯した後、炒め調理したものを指す。具体的には、炒めた炊飯物の料理の種類としては、チャーハン、チキンライス、ピラフ、ドライカレー、ビビンバ、ジャンバラヤ、ナシゴレン、ガーリックライス、バターライスが挙げられる。ここで炒め調理とは、鍋等の調理器具に油を引くか又は引かずに食材を入れてかき混ぜながら加熱し、調味する料理を指す。
【0017】
本発明の冷凍又はチルド食品は前記炊飯物を炒め調理していないものであってもよい。前記炊飯物を炒め調理していない冷凍又はチルド食品としては、例えば、炊き込みご飯、まぜご飯等が挙げられる。」(下線は当審による。)との記載があるから、訂正事項4は、この記載から導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項4は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
訂正事項4は、上記アで検討したように、特許請求の範囲を減縮し、さらに請求項間の引用関係を解消したものであり、カテゴリーを変更したものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項4は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(5)訂正事項5
ア 訂正の目的について
訂正事項5は、訂正前の請求項8において、「得られる冷凍又はチルド食品において、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液の含有量が15質量部以下である」との限定を加えるものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。

新規事項の追加について
本件特許明細書等には、
「【0025】
本発明の冷凍又はチルド食品はその食感及び物性を良好なものとする点から、澱粉糊液を、前記炊飯物100質量部に対して3質量部以上15質量部以下含有することが好ましく、4質量部以上10質量部以下含有することがより好ましく、5質量部以上10質量部以下含有することが最も好ましい。また冷凍又はチルド食品はその食感及び物性を良好なものとする観点から、澱粉糊液の量は、澱粉糊液に含まれる澱粉の質量として、前記炊飯物100質量部に対して0.06質量部以上1.5質量部以下であることが好ましく、0.15質量部以上0.60質量部以下であることがより好ましく、0.20質量部以上0.5質量部以下であることが特に好ましく、0.16質量部以上0.5質量部以下であることが最も好ましい。澱粉糊液の量は、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液として10質量部以下又は澱粉として0.6質量部以下であることが特に冷凍又はチルド食品の粘りを大きくさせすぎない点から好ましく澱粉糊液として6質量部以下又は澱粉として0.5質量部以下であることが更に一層好ましい。また低糖質の観点、及び本発明の効果を高める点から、冷凍又はチルド食品中、前記炊飯物及び澱粉糊液の合計量は90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが特に好ましく、70質量%以下であってもよい。」(下線は当審による。)との記載があるから、訂正事項5は、この記載から導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものである。
したがって、訂正事項5は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項の規定に適合する。

ウ 特許請求の範囲の実質的拡張・変更について
訂正事項5は、上記アで検討したように、特許請求の範囲を減縮したものであり、カテゴリーを変更したものではないから、実質的に特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項5は、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第6項の規定に適合する。

(6)別の訂正単位とする求めについて
上記1に示したとおり、特許権者は、訂正事項1〜訂正事項5はそれぞれ、別の訂正単位として扱われることを求めている。
しかし、訂正事項1に係る訂正後の請求項1は訂正後の請求項3、6、7に引用されるものであり、訂正事項2に係る訂正後の請求項2は訂正後の請求項3、6、7に引用されるものであり、訂正事項3に係る訂正後の請求項4は訂正後の請求項6、7に引用されるものであり、訂正事項4に係る訂正後の請求項5は訂正後の請求項6、7に引用されるものであるから、訂正事項1〜4のいずれも訂正後の請求項6、7に共通する点で区分けして扱うことはできない。
したがって、訂正事項1〜訂正事項4をそれぞれ別の訂正単位とする求めについては認められない。
一方、訂正事項5に係る訂正後の請求項9は訂正後の請求項8を引用するものであって、訂正事項5を訂正事項1〜訂正事項4と区分けして扱うことができるので、訂正事項5を訂正事項1〜訂正事項4とは別の訂正単位とすることを認める。

3 小括
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項及び同項ただし書第4号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、特許法第120条の5第9項で準用する第126条第5項及び同条第6項の規定に適合する。
したがって、特許請求の範囲を、令和3年9月24日提出の訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−7〕〔8,9〕について訂正することを認める。

第3 訂正後の本件発明
本件訂正は、上記第2で検討したとおり適法なものであるから、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜9に係る発明(以下、それぞれ「本件訂正発明1」〜「本件訂正発明9」といい、これらをまとめて「本件訂正発明」ということがある。)は、本件訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含み、前記炊飯物100量部に対して澱粉糊液を15質量部以下含む、冷凍又はチルド食品。
【請求項2】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む食品(但し、食品(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分を液状部として含むものを除く)が冷凍又はチルドされた冷凍又はチルド食品であって、前記炊飯物の表面に、澱粉糊液が付着している、冷凍又はチルド食品。
【請求項3】
前記炊飯物が炒められたものである、請求項1又は2に記載の冷凍又はチルド食品。
【請求項4】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱紛糊液がリン酸架橋澱粉を含む冷凍又はチルド食品であって、前記炊飯物が米粒麦の炊飯物を含む冷凍又はチルド食品。
【請求項5】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む冷凍又はチルド食品であって、
前記リン酸架橋澱粉がヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であり、前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又はまぜご飯である、冷凍又はチルド食品。
【請求項6】
前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液を3質量部以上15質量部以下含む、請求項1〜5の何れか1項に記載の冷凍又はチルド食品。
【請求項7】
炒めた前記炊飯物と澱粉糊液の混合物からなり、以下の方法で測定する付着性(J/m3)が9J/m3以上30J/m3以下であるか、炒めていない前記炊飯物と澱粉糊液の混合物からなり、以下の方法で測定する付着性(J/m3)が10J/m3以上30J/m3以下である請求項1、2、4〜6の何れか1項に記載の冷凍又はチルド食品。
<付着性の測定方法>
クリープメーターRE2-33005C2型(株式会社山電社製)を用い、上部に開口部を有する有底円筒状の容器(直径40mm、15mm)に食品12gを、厚さ12mmに均ーに充填し、その上方から圧縮・弾性用アダプタ(直径16mm円柱形)を、1mm/秒の速度で、容器に充填された食品の上表面を基準に食品の厚みの50%の振幅で上下運動をさせて測定する。
【請求項8】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物に、前記穀類に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液を絡めた後、包装し、冷凍又はチルドする、冷凍又はチルド食品の製造方法であって、前記澱粉がリン酸架橋澱粉を含み、得られる冷凍又はチルド食品において、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液の含有量が15質量部以下である、冷凍又はチルド食品の製造方法。
【請求項9】
前記炊飯物を炒めた後に、前記澱粉糊液と絡める、請求項8に記載の冷凍又はチルド食品の製造方法。」
(以下、請求項順に、「本件訂正発明1」、「本件訂正発明2」、…、「本件訂正発明9」ともいい、まとめて「本件訂正発明」ともいう。)

第4 取消理由及び特許異議申立理由の概要
1 取消理由の概要
当審において、令和3年7月16日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。

「1(拡大先願)
請求項1、2、5及び8に係る発明は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた日本語特許出願であるPCT/JP2019/034049(国際公開第2020/045606号)の優先権主張の基礎とされた出願である特願2018−163136号の明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)ものであるから、その特許は同規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。


1 先願当初明細書の記載及び先願発明
ア 先願当初明細書の記載
本件出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた日本語特許出願であるPCT/JP2019/034049(国際公開第2020/045606号)の優先権主張の基礎とされた特願2018−163136号は、本件出願のいずれの優先日よりも前の2018年8月31日を出願日とする特許出願である。
特願2018−163136号の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「出願1当初明細書等」という。)に記載された事項のうち、その出願を優先権主張の基礎とする日本語特許出願(PCT/JP2019/034049(国際公開第2020/045606号))の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲(……)にも共通して記載された事項として、以下の記載事項がある。
……
イ 先願発明
記載事項……から、以下の発明が認定される。
「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、炊いたもち麦粒を、おじや全量中もち麦粒量5〜75質量%となる量で加え、ひと煮立ちしてから5分間加熱することで製造されたおじやを、冷凍保存した食品。」(以下、「先願1食品発明」という。)、及び
「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、炊いたもち麦粒を、おじや全量中もち麦粒量5〜75質量%となる量でを加え、ひと煮立ちしてから5分間加熱することで製造されたおじやを、冷凍保存する、冷凍保存した食品の製造方法。」(以下、「先願1製法発明」という。)

2 判断
(1)請求項1、2及び5に係る発明について
請求項1、2及び5に係る発明を、先願1食品発明と対比する。
「もち麦」は大麦の一種であるので、先願1食品発明における「炊いたもち麦粒」は、「大麦からなる穀類の炊飯物」であって、請求項1にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に該当する。
また、先願1食品発明における「リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉」は、請求項1にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しない「澱粉」及び「リン酸架橋澱粉」並びに請求項5にいう「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」に該当する。
また、先願1食品発明における「冷凍保存した食品」は、請求項1、2、5にいう「冷凍又はチルド食品」に該当する。
先願1食品発明においては、「澱粉糊液」との記載はないものの、「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、……、ひと煮立ちしてから5分間加熱する」ことを行っていることから、技術常識に照らして、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が生成していると認められ、その結果として、「炊いたもち麦粒」の表面に生成したリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が付着した状態で混合物になっていると認められる。
したがって、請求項1、2、5に係る発明は、先願1食品発明と同一である。

(2)請求項8に係る発明について
請求項8に係る発明を、先願1製法発明と対比する。
「もち麦」は大麦の一種であるので、先願1製法発明における「炊いたもち麦粒」は、「大麦からなる穀類の炊飯物」であって、請求項8にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に該当する。
また、先願1製法発明における「リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉」は、請求項8にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しない「澱粉」及び「リン酸架橋澱粉」に該当する。
また、先願1製法発明における「冷凍保存する」及び「冷凍保存した食品」は、請求項8にいう「冷凍又はチルドする」及び「冷凍又はチルド食品」に該当する。
また、液状食品を冷凍保存する際には、容器充填等により「包装」することが必要不可欠であることは技術常識であるので、先願1製法発明においても、液状食品である「おじや」を冷凍保存する前に「おじや」の「包装」が行われていると認められる。
先願1製法発明においては、「澱粉糊液」との記載はないものの、「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、……、ひと煮立ちしてから5分間加熱する」ことを行っていることから、技術常識に照らして、「ひと煮立ちしてから5分間加熱する」間には、「だし汁」に加えられたリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が生成していると認められ、その結果として、「だし汁」に加えた「炊いたもち麦粒」に、生成したリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液を絡めた状態になっていると認められる。
したがって、請求項8に係る発明は、先願1製法発明と同一である。」

2 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人は、以下の甲第1号証〜甲第8号証を提出し、次の理由1、理由2、理由3−1〜理由3−2、理由4−1〜理由4−2及び理由5を主張していると認める。
甲第1号証:国際公開第2020/045606号(PCT/JP2019/034049)
甲第2号証:特開2007−151483号公報
甲第3号証:特開2004−121082号公報
甲第4号証:特開2006−109821号公報
甲第5号証:特開2018−143116号公報
甲第6号証:特開2013−202003号公報
甲第7号証:再表WO01/008508号公報
甲第8号証:特開2019−154429号公報(特願2019−30884号)
(以下、それぞれを略して「甲1」、「甲2」、……、「甲8」ともいう。)

・理由1(拡大先願)
本件特許発明1、2、5、8は、その出願の日前の日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた甲1に係る日本語特許出願(PCT/JP2019/034049)の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の日本語特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記日本語特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない(同法第184条の13参照)ものであるから、その特許は同規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・理由2(拡大先願)
本件特許発明1、2、3、5、8、9は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた甲8に係る特許出願(特願2019−30884号)の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、その特許は同規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・理由3−1(進歩性欠如)
本件特許発明1〜7は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲2〜甲6の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・理由3−2(進歩性欠如)
本件特許発明8〜9は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲2〜甲7の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・理由4−1(進歩性欠如)
本件特許発明1〜7は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲3〜甲7の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・理由4−2(進歩性欠如)
本件特許発明8〜9は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された甲3〜甲7の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

・理由5(サポート要件違反)
本件特許発明1〜9は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

第5 当審の判断
当審は、本件訂正発明1〜9に係る特許は、令和3年7月16日付け取消理由通知に記載した取消理由又は特許異議申立書に記載された特許異議申立理由により取消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 令和3年7月16日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由のうちの理由1(拡大先願)の検討
(1)引用出願について
甲1に係るPCT/JP2019/034049は、本件特許にかかる特許出願の日前の2019年8月30日を国際出願日とする日本語特許出願であって、その出願後に国際公開がされた日本語特許出願であるところ、当該国際出願日は、本件特許に係る特許出願についての最先の優先日(2019年1月10日)よりも後であり、本件訂正発明1、2、5、8は当該最先の優先日にされた出願を基礎とする優先権主張の効果を享受できると認められるものであるから、当該国際出願を理由として、本件訂正発明1、2、5、8の特許に係る特許出願について特許法第29条の2を適用することはできない。
一方、甲1に係る日本語特許出願の優先権主張の基礎とされた特願2018−163136号(以下「出願1」という。)は、本件特許にかかる特許出願についてのいずれの優先日よりも前の2018年8月31日を出願日とする特許出願であるため、以下では、出願1の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲(以下、「出願1当初明細書等」という。)に記載された事項のうち、甲1に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲にも共通して記載された事項から認定される発明を、引用先願発明として特許法第29条の2の判断を行う。

(2)出願1当初明細書等の記載及び引用先願発明
ア 出願1当初明細書等の記載
出願1当初明細書等に記載された事項のうち、甲1に係る日本語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書又は請求の範囲にも共通して記載された事項として、以下の記載事項がある。

記載事項(1−1)
「【0026】
試験例1
(もち麦粒含有おじやの製造)
もち麦粒を3倍量の水に加えて加熱し、炊き上げた。市販の鳥鍋の素を規定通りに希釈してだし汁を製造した。該だし汁を加熱しながら、表1の量で各種澱粉を加え、均ーに分散した。これに、上記の炊いたもち麦粒を加え、ひと煮立ちしてから5分間加熱し、おじやを製造した。製造したおじやを目開き5mmの篩で濾して固形物を除き、粘度(20℃の)を測定したところ、いずれも480mPa・s〜750mPa・sの範囲であった。さらに、得られた各おじやの取り扱い性、及び冷凍保存して再加熱した後の品質を下記の手順で評価した。結果を表1に示す。」(出願1当初明細書等の段落【0026】(甲1の段落[0026]が対応)

記載事項(1−2)
「【0029】
【表1】

」(出願1当初明細書等の段落【0029】(甲1の段落[0029]が対応))

記載事項(1−3)
「【0030】
試験例2
澱粉又はもち麦粒の添加量を表2〜4のように変えた以外は、試験例1と同様の手順でおじやを製造して評価した。結果を表2〜4に示す。
【0031】
【表2】

【0032】
【表3】

【0033】
【表4】

」(出願1当初明細書等の段落【0030】〜【0033】(甲1の段落[0030]〜[0033]が対応))

イ 引用先願発明
記載事項(1−1)〜(1−3)から、以下の発明が認定される。
「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、炊いたもち麦粒を、おじや全量中もち麦粒量5〜75質量%となる量で加え、ひと煮立ちしてから5分間加熱することで製造されたおじやを、冷凍保存した食品。」(以下、「先願1食品発明」という。)、及び
「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、炊いたもち麦粒を、おじや全量中もち麦粒量5〜75質量%となる量で加え、ひと煮立ちしてから5分間加熱することで製造されたおじやを、冷凍保存する、冷凍保存した食品の製造方法。」(以下、「先願1製法発明」という。)

(3)判断
ア 本件訂正発明1について
本件訂正発明1を、先願1食品発明と対比する。
「もち麦」は大麦の一種であるので、先願1食品発明における「炊いたもち麦粒」は、「大麦からなる穀類の炊飯物」であって、本件訂正発明1にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に該当する。
また、先願1食品発明における「リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉」は、本件訂正発明1にいう「前記穀類」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しない澱粉糊液に含まれる「リン酸架橋澱粉」に該当する。
また、先願1食品発明における「冷凍保存した食品」は、本件訂正発明1にいう「冷凍又はチルド食品」に該当する。
先願1食品発明においては、「澱粉糊液」との記載はないものの、「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、……、ひと煮立ちしてから5分間加熱する」ことを行っていることから、技術常識に照らして、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が生成していると認められ、その結果として、「炊いたもち麦粒」の表面に生成したリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が付着した状態で混合物になっていると認められる。
しかし、先願1食品発明においては、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に対する「澱粉糊液」の比率は特定されておらず、記載事項(1−1)〜記載事項(1−3)を含む先願1当初明細書等の記載を参酌しても、先願1食品発明が「前記炊飯物」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」100質量部に対して澱粉糊液を15質量部以下含む」ものであるとは認められない。
したがって、本件訂正発明1は、先願1食品発明と同一ではない。

イ 本件訂正発明2について
本件訂正発明2を、先願1食品発明と対比する。
「もち麦」は大麦の一種であるので、先願1食品発明における「炊いたもち麦粒」は、「大麦からなる穀類の炊飯物」であって、本件訂正発明2にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に該当する。
また、先願1食品発明における「リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉」は、本件訂正発明2にいう「前記穀類」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しない澱粉糊液に含まれる「リン酸架橋澱粉」に該当する。
また、先願1食品発明における「冷凍保存した食品」は、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明5にいう「冷凍又はチルド食品」に該当する。
先願1食品発明においては、「澱粉糊液」との記載はないものの、「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、……、ひと煮立ちしてから5分間加熱する」ことを行っていることから、技術常識に照らして、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が生成していると認められ、その結果として、「炊いたもち麦粒」の表面に生成したリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が付着した状態で混合物になっていると認められる。
しかし、先願1食品発明は、「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、炊いたもち麦粒を、おじや全量中もち麦粒量5〜75質量%となる量で加え、ひと煮立ちしてから5分間加熱することで製造されたおじやを、冷凍保存した食品。」(下線は当審による。)とされており、記載事項(1−1)に「該だし汁を加熱しながら、表1の量で各種澱粉を加え、均ーに分散した。これに、上記の炊いたもち麦粒を加え、ひと煮立ちしてから5分間加熱し、おじやを製造した。製造したおじやを目開き5mmの篩で濾して固形物を除き、粘度(20℃の)を測定したところ、いずれも480mPa・s〜750mPa・sの範囲であった。」との記載があることからも、先願1食品発明における「おじや」は、「おじや」(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分を液状部として含むものであると認められるところ、本件訂正発明2においては「(但し、食品(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分を液状部として含むものを除く)」とすることにより、先願1食品発明と重なる態様を除いている。
したがって、本件訂正発明2は、先願1食品発明と同一ではない。

ウ 本件訂正発明5について
本件訂正発明5を、先願1食品発明と対比する。
「もち麦」は大麦の一種であるので、先願1食品発明における「炊いたもち麦粒」は、「大麦からなる穀類の炊飯物」であって、本件訂正発明5にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に該当する。
また、先願1食品発明における「リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉」は、本件訂正発明5にいう「前記穀類」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しない澱粉糊液に含まれる「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」に該当する。
また、先願1食品発明における「冷凍保存した食品」は、本件訂正発明5にいう「冷凍又はチルド食品」に該当する。
先願1食品発明においては、「澱粉糊液」との記載はないものの、「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、……、ひと煮立ちしてから5分間加熱する」ことを行っていることから、技術常識に照らして、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が生成していると認められ、その結果として、「炊いたもち麦粒」の表面に生成したリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が付着した状態で混合物になっていると認められる。
しかし、先願1食品発明においては、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」について、「炒められたもの」であるとも、「炒め調理していないもの」であり、かつ「炊き込みごはん又は混ぜごはん」ともされておらず、記載事項(1−1)〜記載事項(1−3)を含む先願1当初明細書等の記載を参酌しても、先願1食品発明における「前記炊飯物」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」について、「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みごはん又は混ぜごはんである冷凍又はチルド食品」100質量部に対して澱粉糊液を15質量部以下含む」ものであるとは認められない。
したがって、本件訂正発明5は、先願1食品発明と同一ではない。

エ 本件訂正発明8について
本件訂正発明8を、先願1製法発明と対比する。
「もち麦」は大麦の一種であるので、先願1製法発明における「炊いたもち麦粒」は、「大麦からなる穀類の炊飯物」であって、請求項8にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に該当する。
また、先願1製法発明における「リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉」は、請求項8にいう「前記穀類」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液に含まれる「リン酸架橋澱粉」に該当する。
また、先願1製法発明における「冷凍保存する」及び「冷凍保存した食品」は、請求項8にいう「冷凍又はチルドする」及び「冷凍又はチルド食品」に該当する。
また、液状食品を冷凍保存する際には、容器充填等により「包装」することが必要不可欠であることは技術常識であるので、先願1製法発明においても、液状食品である「おじや」を冷凍保存する前に「おじや」の「包装」が行われていると認められる。
先願1製法発明においては、「澱粉糊液」との記載はないものの、「だし汁を加熱しながら、リン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉を加えて、均一に分散した後に、……、ひと煮立ちしてから5分間加熱する」ことを行っていることから、技術常識に照らして、「ひと煮立ちしてから5分間加熱する」間には、「だし汁」に加えられたリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液が生成していると認められ、その結果として、「だし汁」に加えた「炊いたもち麦粒」に、生成したリン酸架橋ワキシーコーンスターチ及びヒドロキシプロピル化リン酸架橋タピオカ澱粉の澱粉糊液を絡めた状態になっていると認められる。
しかし、先願1製法発明においては、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に対する「澱粉糊液」の比率は特定されておらず、記載事項(1−1)〜記載事項(1−3)を含む先願1当初明細書等の記載を参酌しても、先願1製法発明が「前記炊飯物」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」100質量部に対して澱粉糊液の含有量が15質量部以下」であるものであるとは認められない。
したがって、本件訂正発明8は、先願1製法発明と同一ではない。

(4)小括
以上のとおり、令和3年7月16日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立理由のうちの理由1(拡大先願)によっては、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明5、本件訂正発明8に係る特許を取り消すことはできない。

2 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち、理由2(拡大先願)の検討
(1)引用出願について
甲8に係る特許出願である特願2019−30884号はその出願日が平成31年2月22日であるところ、当該出願日は、本件特許に係る特許出願についての最先の優先日(2019年1月10日)よりも後であり、本件訂正発明1、2、3、5、8、9については当該最先の優先日にされた出願を基礎とする優先権主張の効果を享受できると認められるものであるから、当該特許出願を理由として、本件訂正発明1、2、3、5、8、9の特許に係る特許出願について特許法第29条の2を適用することはできない。
一方、甲8に係る特許出願の優先権主張の基礎とされた特願2018−42900号(以下「出願8」という。)は、上記最先の優先日前の出願であるため、以下では、出願8の明細書又は特許請求の範囲(以下、「出願8当初明細書等」という。)に記載された事項のうち、甲8に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書又は特許請求の範囲にも共通して記載された事項から認定される発明を、引用出願発明として特許法第29条の2の判断を行う。

(2)出願8当初明細書等の記載及び引用先願発明
ア 出願8当初明細書等の記載
出願8当初明細書等に記載された事項のうち、甲8に係る特許出願の願書に最初に添付された明細書又は請求の範囲にも共通して記載された事項として、以下の記載事項がある。

記載事項(8−1)
「【請求項1】
小麦蛋白質を有効成分として含むことを特徴とする米飯類用保形剤。
……
【請求項4】
さらにα化澱粉を含有し、米飯類に対してα化澱粉を0.1〜3質量%の量で用いられる請求項1〜3のいずれかに記載の米飯類用保形剤。
……
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の米飯用保形剤を米飯類に添加することを含むことを特徴とする米飯類の保形方法。」(出願8当初明細書等の特許請求の範囲の請求項1、請求項4、及び請求項7(甲8の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項3、及び請求項1を引用する請求項3をさらに引用する請求項8は、出願8当初明細書等の特許請求の範囲の請求項1を引用する請求項4、及び請求項1を引用する請求項4をさらに引用する請求項7と、同一内容である。))

記載事項(8−2)
「【0002】
近年、消費者の食の多様化などにより、コンビニエンスストアやスーパーなどで販売されるおにぎりなどの成形米飯類の中には、炊飯した白米を用いたもの以外にも、炒飯やピラフ、ガーリックライス等の米粒同士が結着しにくい調理を施した米飯類を用いたものもある。しかしながら、米粒同士が結着しにくい調理を施した米飯類を成形したものでは、輸送の段階や、製品の陳列時に形状が崩れてしまうという問題がある。また、輸送や陳列時の形状の崩れを防止するために、包装により形状を保持させた場合であっても、包装を解いたときに形状が崩れてしまうという問題がある。」(出願8当初明細書等の段落【0002】(甲8の段落【0002】にも同一内容の記載がある。))

記載事項(8−3)
「【0006】
本発明は、このような要望に応え、現状を打破し、従来における前記諸問題を解決し、以下の目的を達成することを課題とする。即ち、本発明は、炒飯やピラフ、ガーリックライス等の米粒同士が結着しにくい調理を施した米飯類であっても、おにぎり等の形状を容易に保持させることができる米飯類用保形剤および米飯類の保形方法を提供すること目的とする。」(出願8当初明細書等の段落【0006】(甲8の段落【0006】にも同一内容の記載がある。))

記載事項(8−4)
「【0010】
(米飯類用保形剤)
本発明の米飯類用保形剤(以下、「保形剤」または「結着剤」と称することがある)は、小麦蛋白質を有効成分として含み、必要に応じて更にα化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉、その他の成分を含む。」(出願8当初明細書等の段落【0010】(甲8の段落【0010】にも同一内容の記載がある。))

記載事項(8−5)
「【0013】
<α化澱粉>
前記α化澱粉としては、α化された澱粉を含み、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、小麦澱粉、米澱粉、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、コーンスターチ、甘藷澱粉をα化(糊化)処理を施した澱粉、α化穀粉(例えばα化小麦粉)が挙げられる。」(出願8当初明細書等の段落【0013】(甲8の段落【0013】にも同一内容の記載がある。))
(甲8の段落【0013】には、「前記α化澱粉は、加工澱粉であってもよい。前記加工澱粉としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、熱処理澱粉、酸処理澱粉、架橋澱粉、エーテル化澱粉、エステル化澱粉などが挙げられ、エーテル化澱粉および/または架橋澱粉等が好ましく、リン酸架橋澱粉、エーテル化澱粉(例えばヒドロキシプロピル化澱粉)、エーテル化リン酸架橋澱粉(例えばヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉)等がより好ましい。」との記載もあるが、出願8当初明細書等にはない。)

記載事項(8−6)
「【0021】
−−α化澱粉−−
前記α化澱粉の使用量としては、特に制限はなく、適宜選択することができるが、米飯類に対して、0.1〜3質量%の量で用いられることが好ましく、0.2〜2質量%の量で用いられることがより好ましく、0.5〜2質量%の量で用いられることが更に好ましい。前記使用量が好ましい範囲内であると、保形効果および食感がより優れる点で、有利である。」(出願8当初明細書等の段落【0021】(甲8の段落【0022】にも同一内容の記載がある。))
(甲8の段落【0022】には、「また、前記α化澱粉のうち、50質量%以上が加工澱粉にα化処理を施したα化加工澱粉、例えばα化架橋澱粉、α化エーテル化澱粉、α化エステル化澱粉等であるのが好ましく、α化リン酸架橋澱粉、α化ヒドロキシプロピル化澱粉、α化ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉等がより好ましい。」との記載もあるが、出願8当初明細書等にはない。)

記載事項(8−7)
「【0024】
−使用方法−
前記保形剤の使用方法(以下、「添加方法」と称することもある)としては、特に制限はなく、米飯類の種類に応じて適宜選択することができ、例えば、炊飯後の米飯類に添加したり、炊飯後、炒め等の加熱処理を行った後の米飯類に添加したり、冷凍した米飯類を加熱した後に添加したりするなどが挙げられる。前記添加の態様としては、本発明の効果を損なわない限り、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、米飯類に振りかけたり、噴霧したり、塗布したりするなどが挙げられる。」(出願8当初明細書等の段落【0024】(甲8の段落【0025】にも同一内容の記載がある。))

記載事項(8−8)
「【0026】
<米飯類>
本発明における米飯類としては、米を炊飯したものや炊飯した米を更に調理したものの中から適宜選択することができ、例えば、精米した米を炊飯した米飯類、玄米、雑穀および麦飯の少なくともいずれかを含む米飯類、並びにこれらの米飯類に調理を施した米飯類、例えば炒飯、ピラフ、ガーリックライス、バターライス、ケチャップライス、ジャンバラヤ、ガパオライス、ナシゴレン、タコライス、メキシカンライス、ビビンバ、カオパット、ビリヤンなどが挙げられる。これらは、1種単独で使用してもよいし、2種以上を併用してもよい。
前記米飯類に用いる米の種類および品種としては、特に制限はなく、目的に応じて適宜選択することができる。また、前記米飯類は、米以外の食品素材(糖類、甘味料、塩、胡椒、酢、醤油、味噌、だし、コンソメ、グルタミン酸ナトリウム、ケチャップ等の調味料;野菜、きのこ、こんにゃく、油揚げ、肉、魚介、海藻類、豆等の具材;カレ?粉、胡椒、サフラン等の香辛料)を含んでいてもよい。」(出願8当初明細書等の段落【0026】(甲1の段落【0027】にも同一内容の記載がある。))

記載事項(8−9)
「【0027】
本発明の保形剤によれば、米飯類に単に添加するだけで、炒飯やピラフ、ガーリックライス等の米粒同士が結着しにくい調理を施した米飯類であっても、おにぎり等の形状を容易に保持させることができるので、輸送の段階や製品の陳列時、または包装を解いたときに形状が崩れてしまうことを抑制することができ、米飯類の商品価値を高めることができる。
前記形状としては、特に制限はなく、適宜選択することができ、例えば、三角形、俵形、丸形、円盤形、球形、四角形、星形などが挙げられる。」(出願8当初明細書等の段落【0027】(甲8の段落【0028】にも同一内容の記載がある。))

記載事項(8−10)
「【0045】
(試験例5)
<保形剤>
下記の配合にて、保形剤を製造した。
・ 小麦蛋白質(グリアジン) ・・・ 20質量%
・ α化澱粉 ・・・ 60質量%
・ オクテニルコハク酸澱粉 ・・・ 20質量%
【0046】
<米飯類の製造>
米粒同士が結着しにくい調理を施した米飯類の一例としてピラフを選択し、次のようにしてピラフのおにぎりを製造した。市販の冷凍ピラフを推奨条件にて電子レンジで温めた後、前記保形剤をピラフに対して1質量%となるように添加し、混合した。20℃まで冷却した後、三角型(底辺(最長部)7.0cm、高さ6.5cm、厚さ4cm)に入れ、蓋をし、重り(370g)を載せて30秒間静置した後、型から取り出した。
なお、保形剤を添加しなかった以外は同様にして製造したものを対照とした。
【0047】
<評価>
試験例2と同様にして、保形性および米飯類の食感食感を評価した。結果を表5に示す。
【表5】

」(出願8当初明細書等の段落【0045】〜【0048】)
(出願8当初明細書等の段落【0045】に対応する甲8の段落【0046】の記載は、
「【0046】
(試験例5)
<保形剤>
下記の配合にて、保形剤を製造した。
・ 小麦蛋白質(グリアジン) ・・・ 20質量%
・ α化澱粉 ・・・ 60質量%
(α化タピオカ澱粉(未加工)70質量%、α化リン酸架橋澱粉30質量%)
・ オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム ・・・ 20質量%」
であり、甲8の段落【0046】には、「α化澱粉」がα化タピオカ澱粉(未加工)70質量%及びα化リン酸架橋澱粉30質量%である旨の記載があるが、出願8当初明細書等にはない。
なお、食品添加物として用いられる「オクテニルコハク酸澱粉」の実体は「オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム」であることが技術常識であるので、出願8当初明細書等の段落【0045】に記載される「オクテニルコハク酸澱粉」と甲8の段落【0045】に記載される「オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム」は同一であると認められる。)

なお、出願8当初明細書等には、甲8の段落【0054】〜【0055】の記載に対応する記載はない。

イ 引用先願発明
記載事項(8−1)〜記載事項(8−10)、特に、記載事項(8−1)から、以下の発明が認定される。
「精米した米を炊飯した米飯類、玄米、雑穀および麦飯の少なくともいずれかを含む米飯類、並びにこれらの米飯類に調理を施した米飯類の1種を使用又は2種以上を併用した米飯類に、小麦蛋白質及びα化澱粉を有効成分として含む米飯類用保形剤を添加した、食品。」(以下、「先願8食品発明」という。)、及び
「精米した米を炊飯した米飯類、玄米、雑穀および麦飯の少なくともいずれかを含む米飯類、並びにこれらの米飯類に調理を施した米飯類の1種を使用又は2種以上を併用した米飯類に、小麦蛋白質及びα化澱粉を有効成分として含む米飯類用保形剤を添加する、食品の製造方法。」(以下、「先願8製法発明」という。)

(3)判断
ア 本件訂正発明1、本件訂正発明2について
本件訂正発明1及び本件訂正発明2を、先願8食品発明と対比する。
先願8食品発明にいう「精米した米を炊飯した米飯類、玄米、雑穀および麦飯の少なくともいずれかを含む米飯類、並びにこれらの米飯類に調理を施した米飯類の1種を使用又は2種以上を併用した米飯類」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」と同一といえる。
しかし、先願8食品発明にいう「α化澱粉」が「リン酸架橋澱粉」であってもよいことは先願当初明細書等の記載(特に、記載事項(8−5)、記載事項(8−6))には示されておらず、先願8食品発明にいう「α化澱粉」が「リン酸架橋澱粉」と同一であることが技術常識から明らかであるともいえないので、先願8食品発明にいう「α化澱粉」は「リン酸架橋澱粉」と同一ではない。
また、先願8食品発明にいう「α化澱粉」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「前記穀類」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しないものには該当するものの、「澱粉糊液」に含まれる形態のものであることは、記載事項(8−1)〜記載事項(8−10)を含む先願当初明細書等の記載には示されておらず、先願8食品発明にいう「α化澱粉」が粉末等の形態のものではなく「澱粉糊液」に含まれる形態のものと同一であることが技術常識から明らかであるともいえないので、先願8食品発明にいう「α化澱粉」は「澱粉糊液」に含まれる形態のものと同一であるとは認められない。
また、先願8食品発明が、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「冷凍又はチルド食品」であることは、出願8当初明細書等の記載には示されておらず、技術常識に照らしても、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「冷凍又はチルド食品」と同一ではない。
したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明2はいずれも、先願8食品発明と同一ではない。

イ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明1及び本件訂正発明2がいずれも、先願8食品発明と同一ではない以上、本件訂正発明3もまた、先願8食品発明とは同一ではない。

ウ 本件訂正発明5について
本件訂正発明5を、先願8食品発明と対比する。
先願8食品発明にいう「精米した米を炊飯した米飯類、玄米、雑穀および麦飯の少なくともいずれかを含む米飯類、並びにこれらの米飯類に調理を施した米飯類の1種を使用又は2種以上を併用した米飯類」は、本件訂正発明5にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」と同一といえる。
しかし、先願8食品発明にいう「α化澱粉」が「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」であってもよいことは出願8当初明細書等の記載(特に、記載事項(8−5)、記載事項(8−6))には示されておらず、「α化澱粉」が「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」と同一であることが技術常識から明らかであるともいえないので、先願8食品発明にいう「α化澱粉」は「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」と同一ではない。
また、先願8食品発明にいう「α化澱粉」は、本件訂正発明5にいう「前記穀類」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しないものには該当するものの、「澱粉糊液」に含まれる形態のものであることは、記載事項(8−1)〜記載事項(8−10)を含む先願当初明細書等の記載には示されておらず、先願8食品発明にいう「α化澱粉」が粉末等の形態のものではなく「澱粉糊液」に含まれる形態のものと同一であることが技術常識から明らかであるともいえないので、先願8食品発明にいう「α化澱粉」は「澱粉糊液」に含まれるものと同一であるとは認められない。
また、先願8食品発明が、本件訂正発明5にいう「冷凍又はチルド食品」であることは、出願8当初明細書等の記載には示されておらず、技術常識に照らしても、本件訂正発明5にいう「冷凍又はチルド食品」と同一ではない。
したがって、本件訂正発明5は、先願8食品発明と同一ではない。

エ 本件訂正発明8について
本件訂正発明8を、先願8製法発明と対比する。
先願8製法発明にいう「精米した米を炊飯した米飯類、玄米、雑穀および麦飯の少なくともいずれかを含む米飯類、並びにこれらの米飯類に調理を施した米飯類の1種を使用又は2種以上を併用した米飯類」は、本件訂正発明8にいう「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を包含する。
しかし、先願8製法発明にいう「α化澱粉」が「リン酸架橋澱粉」であってもよいことは先願当初明細書等の記載(特に、記載事項(8−5)、記載事項(8−6))には示されておらず、先願8製法発明にいう「α化澱粉」が「リン酸架橋澱粉」と同一であることが技術常識から明らかであるともいえないので、先願8製法発明にいう「α化澱粉」は「リン酸架橋澱粉」と同一ではない。
また、先願8製法発明にいう「α化澱粉」は、本件訂正発明8にいう「前記穀類」すなわち「大麦又は大麦及び米からなる穀類」に由来しないものには該当するものの、「澱粉糊液」に含有される形態で添加されるものであることは、記載事項(8−1)〜記載事項(8−10)を含む先願当初明細書等の記載には示されておらず、先願8製法発明にいう「α化澱粉」が粉末等の形態で添加されるものではなく「澱粉糊液」に含有される形態で添加されるものと同一であることが技術常識から明らかであるともいえないので、先願8製法発明にいう「α化澱粉」は「澱粉糊液」に含有される形態で添加されるものと同一であるとは認められない。
また、先願8製法発明により製造される食品が、本件訂正発明8にいう「冷凍又はチルド食品」であることは、出願8当初明細書等の記載には示されておらず、技術常識に照らしても、本件訂正発明8にいう「冷凍又はチルド食品」とは同一ではない。
したがって、本件訂正発明8は、先願8製法発明と同一ではない。

カ 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、本件訂正発明8の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明8が、先願8製法発明と同一ではない以上、本件訂正発明9もまた、先願8製法発明とは同一ではない。

(4)小括
以上のとおり、特許異議申立理由のうちの理由2(拡大先願)によっては、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明3、本件訂正発明5、本件訂正発明8、本件訂正発明9に係る特許を取り消すことはできない。

3 取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうちの理由3−1〜理由5の検討
(1)甲2〜甲7の記載事項
ア 甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
甲2には、以下の記載事項が記載されている。

記載事項(2−1)
「【請求項1】
飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯にコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させたことを特徴とする複粒化した冷凍米飯。
【請求項2】
飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯にコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させることを特徴とする複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項3】
前記複粒状態は、飯粒全体の60%以上が4粒以上、かつ、90%以上が20粒以下で連結した状態であり、比容積が2.0ml/g以上であることを特徴とする請求項2記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項4】
複粒状態の冷凍米飯のベースとなる前記バラ状冷凍米飯は、飯粒全体の40%以上が3粒以下の状態にバラ化されていることを特徴とする請求項2又は3記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項5】
前記コーティング液は、穀物澱粉を含んでいることを特徴とする請求項2乃至4のいずれか1項記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項6】
前記穀物澱粉が、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉であることを特徴とする請求項5記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項7】
前記コーティング液を添加するときの前記バラ状冷凍米飯の温度が−40℃〜−5℃の範囲であることを特徴とする請求項2乃至6のいずれか1項記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。
【請求項8】
前記バラ状冷凍米飯にコーティング液を添加するときの撹拌を、撹拌羽根を持たない回転ドラムで行うことを特徴とする請求項2乃至7のいずれか1項記載の複粒化した冷凍米飯の製造方法。」(【特許請求の範囲】

記載事項(2−2)
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、従来の方法で複粒状態に凍結しても、その過程で米飯をある程度物理的に抑える工程が入ってしまうため、複粒内の飯粒間に十分な空間が生じにくく、詰まった状態になってしまう。このため、バラ状冷凍米飯に比べて一定の改善は認められるものの、理想の状態である「飯が立った状態(飯粒同士の付着が面ではなく点でなされている状態)」に比べると、未だ見た目のふっくら感が十分ではなく、かつ、複粒内の一部の米飯の食感がベタついたものとなってしまっている。
【0005】
そこで本発明は、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯及びその製造方法を提供することを目的としている。
」(段落【0004】〜段落【0005】)

記載事項(2−3)
「【0008】
ベースとなる前記バラ状冷凍米飯には、飯粒全体の40%以上が3粒以下の状態にバラ化されているものを使用することが好ましく、前記コーティング液には穀物澱粉を含んだもの、特に、前記穀物澱粉として、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合して加熱したものを使用することが好ましい。さらに、前記コーティング液を添加するときの前記バラ状冷凍米飯の温度が−40℃〜−5℃の範囲であること、また、前記バラ状冷凍米飯にコーティング液を添加するときの撹拌を、撹拌羽根を持たない回転ドラムで行うことが好ましい。」(段落【0008】)

記載事項(2−4)
「【0009】
本発明によれば、各飯粒表面に膜状に付着したコーティング液を介して複粒状態に凍結された飯粒は、複数の飯粒が単に連結しているだけではなく、6粒程度の飯粒がジャングルジムのように空間を抱いた状態で連結している。この複粒状態の冷凍米飯を電子レンジで加熱すると、米飯表面の糊化した部分の水分が蒸散し、飯粒表面の薄い澱粉の層が互いに強く付着する状態となり、解凍前の複粒状態を保持したまま解凍、加熱される。これにより、解凍、加熱後の米飯は、飯粒間に空間が存在する「飯が立った」状態となり、全体にふっくらとした外観となることから、通常の白飯や和飯に近い品質となる。
【0010】
また、飯粒間に空間が開いていることで、加熱時に発生した蒸気が満遍なく行き渡り、温度ムラの発生を抑制できるので、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍、加熱しても良好な状態の米飯を得ることができる。さらに、解凍後の米飯が複粒状態となっているため、箸に絡みやすく、食べやすいという効果もある。」(段落【0009】〜【0010】)

記載事項(2−5)
「【0012】
前記バラ状冷凍米飯に添加するコーティング液は、複数の飯粒同士を連結させることができれば、各種液体を使用することができるが、コーティング液中に澱粉質、特に穀物澱粉を含んでいて、液自体に糊様の粘度を有している液体を使用することが好ましい。例えば、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合し、加熱して糊化させた穀物澱粉を含むものをコーティング液として好適に用いることができる。」(段落【0012】)

記載事項(2−6)
「【0015】
バラ状冷凍米飯に対するコーティング液の添加量は、コーティング液の性状によっても異なるが、通常は、バラ状冷凍米飯に対して5重量%以上、望ましくは10〜15重量%の範囲が好ましく、少なすぎると米飯同士の連結を十分に行えずに複粒状態とすることが困難となる。一方、コーティング液が多すぎると、解凍、加熱後の米飯の食感や食味を損なうことがある。」(段落【0015】)

記載事項(2−7)
「【0023】
一方、米粉(新潟製粉製:ライスパウダーCK)3gを水97ccに混合し、沸騰水中に投入したビーカー内でゆっくりと撹拌しながら湯煎にて90℃に加熱し、約10分間保持することによって粘度が7〜25cP、平均で約20cPのコーティング液を製造した。なお、このコーティング液の糊化度は90%以上となっており、一部の実験では、保持時間を長くすることによって粘度を増大させたコーティング液を使用した。
【0024】
また、コーティング液添加時のバラ状冷凍米飯の撹拌及びコーティング液添加後の凍結処理時の撹拌には、撹拌機として市販のロータリーシェフを使用し、凍結時の冷媒には、米飯と略同量のスノー状ドライアイスを使用した。コーティング液の添加は、撹拌中のバラ状冷凍米飯にスプレーにて12秒間で行い、その後108秒間撹拌混合を継続した(合計撹拌時間2分間)。凍結処理も、ドライアイス投入後に2分間の撹拌を行い、米飯を所定温度に冷却して凍結させた。
」(段落【0023】〜【0024】)

記載事項(2−8)
「【0026】
原料として使用したバラ状冷凍米飯と、実施例1で製造した各冷凍米飯とをそれぞれ使用し、これらを茶碗に100gを投入してラップをかけた状態で600Wの電子レンジで2分間それぞれ加熱した。その結果、加熱によって米飯の茶碗内への沈み込みがいずれの場合も認められたが、バラ状冷凍米飯に比べると、実施例1で製造した各冷凍米飯の沈み込み量は小さく、米飯の立体感が残っており、見た目の感じが自然なものであった。その他、食する際の箸への絡み方、食味、風味のいずれをとっても、実施例1で製造した冷凍米飯の方が明らかに優れていた。」(段落【0026】)

甲2に記載された発明として、記載事項(2−1)〜記載事項(2−8)、特に、記載事項(2−1)から、以下の発明が認定される。
「飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯に、穀物澱粉を含んでいるコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させたことを特徴とする複粒化した冷凍米飯。」(以下、「甲2食品発明」という。)、及び
「飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯に、穀物澱粉を含んでいるコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させることを特徴とする複粒化した冷凍米飯の製造方法。」(以下、「甲2製法発明」という。)

イ 甲3の記載事項
甲3には、以下の記載事項が記載されている。

記載事項(3−1)
「【請求項1】 インディカ種の米を含む米に架橋デンプンを添加し、炊飯した米飯を使用することを特徴とするおにぎり類。
【請求項2】 該架橋デンプンがリン酸架橋デンプンであることを特徴とする請求項1記載のおにぎり類。
【請求項3】 洗米後の米に架橋デンプンを添加して炊飯した米飯、または炊飯後調理した米飯を、所定の型に入れ圧縮成形することを特徴とするおにぎり類の製造方法。」(特許請求の範囲)

記載事項(3−2)
「【0004】
【発明が解決しようとする課題】
近年、焼き飯、ピラフ、炊き込みご飯等調理米飯にはインディカ種の米を用いたものが増加している。インディカ種の米はその性質から、通常日本で食されているジャポニカ種の米と同じ方法で炊飯すると、非常にぱさついた炊き上がりになり、食味も悪くなる。そこで、水分を多くして炊飯すると米飯表面が異常にべたつき、食味も悪くなってしまう。
【0005】
またおにぎりを大量製造する際には、米粒が機械に付着しないように油脂や乳化剤を添加すると、逆に米飯同士の結着性が悪くなり、おにぎりにする際の成形性もよくない。特に調味米飯を用いたおにぎり類には、調味液やその味を出す上で、油脂、乳化剤(モノグリセリン脂肪酸エステル、ショ糖脂肪酸エステルなど)の添加は必然的である。したがって、ジャポニカ種の米と同じ方法で炊飯したインディカ種の米を、おにぎり類に使用することは非常に難しかった。
【0006】
【課題を解決するための手段】
本発明者等は、前記課題を解決するため鋭意検討した結果、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することを見いだした。その結果、ジャポニカ種に限らずインディカ種の米で、食味もよく、成形性も優れた白米飯から調理米飯のおにぎりを製造することができ、本発明を完成するに至った。」(段落【0004】〜【0006】)

記載事項(3−3)
「【0008】
本発明に使用できる架橋デンプンとしては、リン酸架橋デンプン、酢酸アジピン酸架橋デンプンが挙げられるが、好ましくはリン酸架橋デンプンが挙げられる。……。」(段落【0008】)

記載事項(3−4)
「【0022】
【発明の効果】
以上説明してきたように、本発明によれば、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することを見いだした。その結果、ジャポニカ種に限らずインディカ種の米で、食味もよく、成形性も優れた白米飯から調理米飯のおにぎりを製造することができることがわかった。」(段落【0022】)

ウ 甲4の記載事項
甲4には、以下の記載事項が記載されている。

記載事項(4−1)
「【0002】
近年、食生活の多様化に伴い、コンビニエンスストアーなどで、多種類の米飯加工品が数多く提供されるようになった。
その中でも、油で炒めたチャ−ハン、ピラフ、チキンライス、バターライスなどの調理飯が増加している。
しかしながら、これらの油で炒めた調理飯は、炒める際に油を多用すると食味が低下し、またにぎり飯などに成形すると、輸送中などの振動により形が崩れるなどの難点が多い。」(段落【0002】)

記載事項(4−2)
「【0004】
そこで、本発明者らは、油で炒めた調理飯をおにぎり等の成形飯にした場合、一度に多量の調理飯を炒めても、成形後の輸送などの振動により型崩れせず、食味も良好な調理飯を開発することを目的として鋭意検討した。
【課題を解決するための手段】
【0005】
即ち、本発明者らは、生米又は炊飯後の米飯を油で炒める調理飯の成形前にα化でんぷん及び/又はα化加工でんぷんを加えることにより、一度に多量の調理飯を炒めても、成形後の輸送中の振動などにより型崩れせず、食味も良好な成形調理飯を得ることを見いだし、本発明を完成するに至った。」(段落【0004】〜【0005】)

記載事項(4−3)
「【0007】
本発明におけるα化加工でんぷんは、加工でんぷんを水と共に加熱糊化(α化)したものを急速に脱水乾燥し、粉末化することにより得られる。
原料となる加工でんぷんは、とうもろこし、ばれいしょ、タピオカ、小麦などのでんぷんにカルボキシメチル基を導入したカルボキシメチルでんぷん、リン酸を導入したリン酸化でんぷん、さらにこれを架橋した架橋型リン酸でんぷん、ヒドロキシプロピル基を付加させるエーテル反応とリン酸架橋を行ったでんぷんを水と共に加熱糊化(α化)したものを急速に脱水乾燥し、粉末化することにより得られる。
市販品としては、ナショナル104(タピオカを原料としたα化加工でんぷん、日本エヌエスシー(株)製品)、ミラスパース626(ワキシーコーンを原料にしたヒドロキシプロピルエーテル化及びリン酸架橋したα化加工でんぷん、ステーリー社製品)などがある。」(段落【0007】)

記載事項(4−4)
「【0010】
以下、本発明による実施例および比較例を示すが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
実施例1〜2として本発明の成分を表1の配合で、卵チャ−ハンを調理し、にぎり飯の木型に200gを詰め握り飯とした。
【0011】
卵チャーハンの作り方は次の通りである。
1.卵5ケ(約250g)良く解きほぐす。
2.大きな中華なべを強火で加熱し、サラダ油50gを加え、鍋から薄煙が出てきたら、溶き卵を一気に流しいれ、玉杓子で大きくひと混ぜする。卵が油の中で花が咲いたように大きく膨らみ、周囲が泡だってきたらざっと混ぜる。
3.生米1,000gを砥ぎ、水1、200gを加えて30分浸漬し、炊飯する。30分蒸らし米飯1,800gを得た。荒熱と蒸気を逃がしてから加え、卵と混ぜ合わす。
4.みじん切りにした長ねぎ50g、塩5g、こしょう1g、醤油20g、日本酒20gを加えて、木ベラで切るように炒める。
5.α化でんぷん及び/又はα化加工でんぷん50〜200g(対生米0.5〜2%)を混合する。
【0012】
卵チャーハンのにぎり飯の評価は、型くずれのし易さは、各試験区5ケのにぎり飯を1ケずつ食品用フィルムで包み、10cmの高さから3回落下させ、フィルムを剥離した際のにぎり飯の型崩れを判定した。
判定方法は、全く型崩れのない場合は3点、やや崩れのある場合は2点、型崩れが著しい場合は1点として、5ケのにぎり飯の合計点で示した。したがって、点数の多い方が、にぎり飯の型崩れがし難いことを示している。
食味は専門パネル5人による官能評価法で行った。判定方法は、食味が良好な場合3点、普通の場合2点、劣っている場合は1点とし、5人の合計点で示した。したがって、点数の多い方が、食味が優れていることを示す。
【0013】
比較例1として、α化でんぷん及び/又はα化加工でんぷんの代わりに食品糊料(グアーガム)を対生米2%使用し、実施例と同様に卵チャーハンを作り、にぎり飯に成形し、型崩れ及び食味の評価を行った。
【0014】
表1の結果から、本発明による実施例1〜2の場合は、にぎり飯の型崩れも少なく、食味も良好であった。しかし、比較例1においては、にぎり飯の型崩れは少なかったが、食味は糊感が強く官能評価が劣った。
【0015】
【表1】

」(段落【0010】〜【0015】)

エ 甲5の記載事項
甲5には、以下の記載事項が記載されている。

記載事項(5−1)
「【0012】
本発明において「米」とは、目的とする米飯食品の製造に通常用いられる種類の米をいい、特に限定されない。本発明の一態様において、様々な米飯食品に適しているジャポニカ米を用いることが好ましく、うるち米を用いることがより好ましい。そして、白米、分搗き米、無洗米などの精米、および玄米などのいずれの精製度の(生)米でも用いることができる。なお、黒米、赤米、小麦、大麦、大麦(押し麦)、大麦(米粒麦)、大麦(もち麦)、はとむぎ、粟、稗、黍、たかきび、大豆、黒豆、小豆、緑豆、トウモロコシ、ソバ、黒ごま、白ごま、クコ、アマランサス、キヌアなどの雑穀類を添加(配合)することもできる。」(段落【0012】

記載事項(5−2)
「【0022】
<試験例1> 酵素の比較1
以下表1〜表4に記載の配合でピラフを炊飯した。炊飯後のピラフは食品用ラップフィルム(ポリ塩化ビニリデン製)で密閉して凍結した。」(段落【0022】)

オ 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載事項が記載されている。

記載事項(6−1)
「【0015】
本発明において「米飯」とは、米を炊飯などしたものをいう。本発明の一態様において、ソースの種類を選択して組合せることにより、様々な種類の米飯食品を製造できることから、生米を水で炊飯した白飯を用いることが好ましい。また、本発明の別の一態様において、米飯食品の風味を向上させる観点から、出汁やブイヨンなどで炊飯した味付き飯などを用いることができる。
【0016】
本発明において「米」とは、目的とする米飯食品の製造に通常で用いられる種類の米をいい、特に限定されない。本発明の一態様において、様々な米飯食品に適しているジャポニカ米を用いることが好ましく、うるち米を用いることがより好ましい。そして、白米、分搗き米、無洗米などの精米、および玄米などのいずれの精製度の(生)米でも用いることができる。また、本発明の別の一態様において、リゾットなどの米飯食品の場合には、ジャバニカ米を用いると、より本格的な風味や食感を有する米飯食品を製造することができる。なお、黒米、赤米、小麦、大麦、大麦(押し麦)、大麦(米粒麦)、大麦(もち麦)、はとむぎ、粟、稗、黍、たかきび、大豆、黒豆、小豆、緑豆、トウモロコシ、ソバ、黒ごま、白ごま、クコ、アマランサス、キヌアなどの雑穀類を添加(配合)することもできる。」(段落【0015】〜【0016】)

記載事項(6−2)
「【0022】
<試験例1> 酵素の比較1
以下表1〜表4に記載の配合でピラフを炊飯した。炊飯後のピラフは食品用ラップフィルム(ポリ塩化ビニリデン製)で密閉して凍結した。」(段落【0024】)

カ 甲7の記載事項及び甲7に記載された発明
甲7には、以下の記載事項が記載されている。

記載事項(7−1)
「【請求項1】炊飯した米飯粒や茹で上げたパスタのような主材料の表面を水分移動防止層で被覆し、該水分移動防止層の外面をソース層で被覆した状態で凍結していることを特徴とする凍結食品。
【請求項2】前記水分移動防止層は、外面のソース層を形成する二次ソースとは異なる組成の一次ソースにより形成されたソース層である請求項1記載の凍結食品。
【請求項3】前記一次ソースは、糖度がBrix10〜40°である請求項2記載の凍結食品。
【請求項4】前記二次ソースは、糖度がBrix0〜25°である請求項2記載の凍結食品。
【請求項5】前記水分移動防止層が澱粉層である請求項1記載の凍結食品。
【請求項6】前記水分移動防止層が油膜層である請求項1記載の凍結食品。
【請求項7】前記水分移動防止層が澱粉と油との混合物からなる層である請求項1記載の凍結食品。
【請求項8】パスタ片の表面を水分含有量の少ないソース層で被覆した凍結食品。
【請求項9】生米を洗米し、浸漬し、炊飯した炊飯米や、茹でて湯切りしたパスタのような主材料に対して、一次ソースを混合する一次ソース混合工程と、該工程後の主材料を凍結する第1凍結工程と、該工程後の主材料に一次ソースとは異なる組成の二次ソースを混合する二次ソース混合工程と、該工程後の主材料を凍結する第2凍結工程を行う凍結食品の製造方法。
【請求項10】前記一次ソースの混合割合は、前記主材料に対して、5〜20重量%である請求項9記載の凍結食品の製造方法。
【請求項11】前記主材料が炊飯米のとき、前記二次ソースの混合割合は、前記炊飯米に対して、10〜40重量%である請求項9記載の凍結食品の製造方法。
【請求項12】前記主材料がパスタのとき、前記二次ソースの混合割合は、前記
パスタの重量に対して、10〜50重量%である請求項9記載の凍結食品の製造方法。
【請求項13】前記主材料が炊飯米のとき、浸漬米に油脂を添加してから炊飯する請求項9記載の凍結食品の製造方法。
【請求項14】前記油脂の添加割合は、生米の重量に対して1〜5重量%である請求項13記載の凍結食品の製造方法。
【請求項15】前記主材料が炊飯米のとき、洗米又は浸漬水に澱粉を添加してから浸漬を行う請求項9記載の凍結食品の製造方法。
【請求項16】前記澱粉の添加割合は、生米に対して0.1〜10重量%である請求項15記載の凍結食品の製造方法。」(特許請求の範囲)

記載事項(7−2)
「本発明の目的は、米飯粒やパスタ片のような主材料とソースとが均一の混合したバラ凍結食品を効率良く生産する方法を確立することにより、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品及びその製造方法を提供することを目的としている。
本発明の凍結食品は、炊飯した米飯粒や茹で上げたパスタ片のような主材料の表面を水分移動防止層で被覆し、該水分移動防止層の外面をソース層で被覆した状態で凍結したものである。
このように形成された凍結食品は、温度が上昇してもソースが解け難く、一旦解凍したものが再凍結してブロック化しても元のバラ凍結状態に容易に戻すことができ、解凍調理した後でも、米飯粒やパスタ片がソースの水分を吸収し難くいため、良好な食感が得られる。
前記水分移動防止層は、外面のソース層を形成する二次ソースとは異なる組成の一次ソースにより形成されたソース層で形成することができる。このときの一次ソースは糖度がBrix10〜40°が好ましく、二次ソースは糖度がBrix0〜25°が好ましい。また、水分移動防止層は、澱粉層又は油膜層、あるいは、澱粉と油との混合物からなる層であってもよい。」(5頁21行〜6頁9行)

記載事項(7−3)
「本発明の凍結食品の製造方法は、生米を洗米し、浸漬し、炊飯した炊飯米や、茹でて湯切りしたパスタ片のような主材料に対して、一次ソースを混合する一次ソース混合工程と、該工程後の主材料を凍結する第1凍結工程と、該工程後の主材料に一次ソースとは異なる組成の二次ソースを混合する二次ソース混合工程と、該工程後の主材料を凍結する第2凍結工程を行う方法である。
前記方法において、前記一次ソースの混合割合は、前記主材料に対して、5〜20重量%が好ましい。また、前記二次ソースの混合割合は、前記主材料が炊飯米のときには、炊飯米の重量に対して10〜40重量%が好ましい。」(6頁12〜19行)

記載事項(7−4)
「次に、図1の凍結米飯において、水分移動防止層12を、外面のソース層13を形成する二次ソースとは異なる組成の一次ソースで形成した製造例を図3に基づいて説明する。
まず、生米を水で洗米する洗米工程21を行った後、水に浸漬して浸漬工程22を所定時間行う。次に浸漬工程22を終えた浸漬米に、所定量の炊飯水を加えて炊飯工程23を行う。このとき、炊飯水には、油脂やブイヨンスープ、鰹だし等の調味料を添加することもできる。
炊飯工程23で炊きあげた炊飯米に一次ソースを添加混合する一次混合工程24を行う。この一次混合工程24では、必要に応じて適宜な種類の具材を適量添加することができる。この一次混合工程24は、適宜な混合機を使用して行うことができる。この一次混合工程24を行うことにより、米飯粒の表面を一次ソースで覆うことができる。放冷工程25は、米飯を常温付近まで冷却する工程である。この放冷工程25は、一次混合工程24と並行して行うことが可能であり、一次ソースや具材は、炊飯工程23を終了した後、一次凍結工程26を開始するまでの間に添加混合すればよい。
一次凍結工程26は、放冷工程25で適当な温度に冷却したソース混合米飯を、バラ状凍結機等に投入してばらばらにした状態に凍結させる工程である。二次混合工程27は、一次凍結工程26を終えたソース混合米飯に、二次ソースを添加して混合する工程である。この二次混合工程27においては、米飯(又は米飯+具材)が既に一次凍結されているので、ここで添加した二次ソースは、米飯等が有する冷熱により米飯等の表面で凍結し、アイスコーテイングされた状態となる。
最後に、二次ソース混合後の米飯を所定の冷凍保存温度に凍結する二次凍結工程28を行う。これにより、図1に示した凍結米飯が得られる。この凍結米飯は、必要に応じて別添具材を適宜同梱して包装する包装工程29を行い、保存又は出荷する。」(7頁23行〜8頁19行)

記載事項(7−5)
「前記一次ソース及び二次ソースは、製造する凍結米飯の種類等に応じて適宜なものを選択することができ、相互に影響を与えるものであるが、一次ソースは、水分移動防止機能を得るため、二次ソースに比べて濃いめのソースを使用することが好ましい。
濃いめのソースとは、糖度が高く、凍結温度が低く、かつ、水分が少ないものである。例えば、糖度はBrix10〜40°の範囲、凍結温度は−3℃以下、水分は70重量%以下、好ましくは60重量%以下が適切である。糖度がBrix10°未満であると米飯粒への水分の移動を確実に防止することが困難となることがある。糖度がBrix40°を超えると、製品の味、特に甘みが強くなり過ぎて食味・食感に欠けることがあるほか、粘性が高すぎて取扱いが困難になる。また、凍結温度が−3℃より高いと、米飯に含まれる水分との関係で十分な水分移動防止効果が得られないことがある。さらに、水分が70重量%を超えると、米飯に含まれる水分(約60〜65重量%)を超えるので、この場合も、米飯粒への水分の移動防止効果が十分に得られ難くなる。
このような一次ソースとして、具体的には、トマトソース、カレーソース、ブイヨン、ドミグラソース、ミートソース等を挙げることができ、必要に応じて煮詰めたものを使用することができる。一次ソースの混合割合は、炊飯米飯に対して5〜20重量%、特に、7〜15重量%の範囲が適当である。一次ソースの混合割合が5重量%未満であると、ソースを混合した効果が十分に得られず、逆に20重量%を超えると、食品の甘みが強くなり過ぎて食味を損なうだけでなく、製造ラインや冷凍機に対する付着量が著しく多くなり、生産性を低下させるおそれがある。
このような性状を有する一次ソースは、混合時に米飯と接触している状態で、両者の水分濃度と浸透圧との関係により、水分がソースから米飯に移動することがない。したがって、凍結米飯の温度が上昇したときや解凍調理するとき、また、調理した後において、ソースから米飯に水分が移動しないので、多量の水分によって米飯がべたべたした水っぽい食感になることがなくなる。
一方、前記二次ソースは 一次ソースよりも薄めのソースを使用することが望ましい。薄めのソースとは、前記一次ソースに比べて糖度が低く、凍結温度が高く、水分が多いものであって、例えば、糖度はBrix0〜25°の範囲、凍結温度は−4℃以上、水分は70重量%以上が適当であり、水もソースの一種として使用することが可能である。すなわち、糖度は、一次ソース>(一次ソース+二次ソース)>二次ソースとし、水分は、一次ソース<(一次ソース+二次ソース)<二次ソースとすることが好ましい。
二次ソースの混合割合は、炊飯米飯に対して10〜40重量%が適当であり、特に15〜35重量%が好ましい。二次ソースとしてこのような性状のソースを選定して適当量混合することにより、米飯粒をバラ状(個別)に凍結させた好ましい状態の凍結米飯を得ることができる。
このような二次ソースとしては、トマトソース、カレーソース、ブイヨン、ドミグラソース、ミートソース等を使用することができ、必要に応じて水分が70重量%以上になるように水で希釈して用いることができる。
また、二次ソースは、喫食事に一次ソースと合体することで、食味・食感がやや強すぎる一次ソースを中和し、全体としてまろやかな食味・食感とする作用を有しているため、一次ソースの性状に応じて最適な性状のものを選択すべきである。すなわち、喫食時には、一次ソースと二次ソースとが合体混合した状態のソースと米飯とが絡んだ状態で喫食することになるため、喫食事において、所定の濃度、量、食味、食感が得られる配合とすることが最も望ましく、一次ソース及び二次ソースの種類、糖度、水分等によって適切に定めるべきである。
さらに、凍結米飯の最外側を、水分の多い二次ソース、すなわち、比熱の大きな水分を多く含む二次ソースで覆うことにより、凍結米飯の周囲温度が短時間上昇しても、二次ソースが解け難いという効果もある。また、流通過程において、米飯が一部又は全部解凍した後に再凍結した状態で保存されてしまうことがあるが、このように一旦解凍状態になると、ソースを介して米飯粒同士が結合してブロック化した状態になるため、再凍結によってブロック化したまま塊状に凍結されてしまう。このようにブロック化した凍結米飯は、バラ化しているものに比べて、解凍調理後の外観や食感が劣ることが多いので、凍結米飯にとってブロック化は大きな問題となる。
しかし、上述のように、凍結米飯の外側を水分が多い二次ソースで覆っておくことにより、温度上昇時の米飯粒同士の結合が二次ソースの層同士の間で生じることになる。このとき、二次ソースの層は、一次ソースの層や一次ソースと二次ソースとが合体した層よりも水分が多いため、外的ショックで容易に二次ソースの層が割れてブロックが破壊し、米飯粒がバラ化した状態に戻り易いという利点もある。特に、二次ソースの層を薄く形成しておくことにより、再凍結後に生じるブロックをより容易に崩すことがで可能となる。
このように、ソースの混合を一次と二次とに分けて行い、濃いめの水分が少ない一次ソースを内側にして米飯と接触させることにより、米飯粒と一次ソースとにおける水分濃度と浸透圧との関係により、温度が上昇しても一次ソースから米飯粒に水分が移動することを防止でき、同時に、外側を水分の多い二次ソースで覆っておくことにより、所望の食味が得られるだけでなく、購入後に自宅で再凍結してブロック状に固まったとしても、容易にバラ凍結に戻すことができるので、解凍調理を簡単に行うことができる。」(8頁20行〜11頁3行)

記載事項(7−6)
「また、水分移動防止層12として、前記一次ソース層に代えて油膜層あるいは澱粉層を形成することもできる。」(11頁4〜5行)

記載事項(7−7)
「また、水分移動防止層12を澱粉層とした場合、澱粉は、水分と混合して糊化、ゲル化することにより水分を通さない層を形成するので、凍結米飯の流通又は保存時における一時的な温度上昇や、解凍調理時の温度上昇によりソース層が氷解して水が発生したときでも、水分が米飯粒へ移行することを澱粉層によって防止できる。
澱粉層に使用する澱粉は、食用になるものなら特に限定されることなく使用できる。例えば、いも、麦、米、タピオカ、トウモロコシ等から作られる澱粉粒と称されるものを使用でき、さらに、これらを酵素処理して分子量を小さくした澱粉糖と呼ばれるものなども使用可能である。
澱粉の添加量は、生米に対して0.1〜10重量%が適当であり、好ましくは、1〜3重量%である。澱粉量が0.1重量%未満であると、形成される澱粉層が薄すぎて水分移行防止効果が十分に得られないことがある。澱粉量が10重量%を超えると、製品としての米飯の品質が低下する。
米飯粒への澱粉層の形成は、例えば、前記浸漬工程に先立って洗米又は浸漬水に澱粉を添加してから浸漬工程を行ったり、前記炊飯工程に先立って浸漬米又は炊飯水に澱粉を添加してから炊飯工程を行ったりすることによって行うことができる。また、炊飯後の米飯に澱粉を混合することによっても澱粉層を形成することができる。
さらに、水分移動防止層12は、油脂層と澱粉層とを積層したものであってもよく、油脂と澱粉とを混合した油脂・澱粉混合層であってもよい。」(11頁27行〜12頁17行)

記載事項(7−8)
「【図1】

【図2】

【図3】

」(図1〜図3)

甲7に記載された発明として、記載事項(7−1)〜記載事項(7−8)、特に、記載事項(7−1)から、以下の発明が認定される。

「生米を洗米し、浸漬し、炊飯した炊飯米に対して、5〜20重量%の一次ソースを混合する一次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第1凍結工程と、該工程後の炊飯米に一次ソースとは異なる組成の二次ソースを混合する二次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第2凍結工程を行う凍結食品の製造方法により製造される凍結食品。」(以下、「甲7食品発明」という。)、及び
「生米を洗米し、浸漬し、炊飯した炊飯米に対して、5〜20重量%の一次ソースを混合する一次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第1凍結工程と、該工程後の炊飯米に一次ソースとは異なる組成の二次ソースを混合する二次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第2凍結工程を行う凍結食品の製造方法。」(以下、「甲7製法発明」という。)

(2)理由3−1(進歩性欠如)の検討
ア 甲2食品発明
前記(1)アに示したとおり、甲2には、
「飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯に、穀物澱粉を含んでいるコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させたことを特徴とする複粒化した冷凍米飯。」の発明(甲2食品発明)が記載されている。

イ 本件訂正発明1、本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明1及び本件訂正発明2を、甲2食品発明と対比する。
甲2食品発明にいう「米飯」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲2食品発明にいう「コーティング液」の「液」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲2食品発明にいう「冷凍米飯」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、甲2食品発明と、
一致点(2−1):「穀類の炊飯物と、液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品。」である点で一致し、
相違点(2−1):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明1及び本件訂正発明2では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」とされる一方、甲2食品発明では「米飯」とされる点、及び
相違点(2−2):「液」について、本件訂正発明1及び本件訂正発明2では、「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」とされるとともに、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」100質量部に対して15質量部以下の量で含むとされる一方、甲2食品発明では「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」とされ、その「炊飯物」に対する量は特定されていない点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(2−1)についての判断
甲2には、甲2食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、冷凍米飯の製造の際に、「米飯」の「米」に大麦を加え、又は「米飯」の「米」を大麦に変更すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲2食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−1)に係る本件訂正発明1及び本件訂正発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(2−2)についての判断
甲2には、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」について、記載事項(2−5)に「例えば、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合し、加熱して糊化させた穀物澱粉を含むものをコーティング液として好適に用いることができる。」と記載されていることから、澱粉糊液を用いることが示されているといえ、また、記載事項(2−6)に「バラ状冷凍米飯に対するコーティング液の添加量は、コーティング液の性状によっても異なるが、通常は、バラ状冷凍米飯に対して5重量%以上、望ましくは10〜15重量%の範囲が好ましく、…。」と記載されていることから、「炊飯物」100質量部に対して15質量部以下の量で含むことが示されているといえる。
しかし、甲2には、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」を「リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にリン酸架橋澱粉を含む澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」に代えて「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」を用いるとともに、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」100質量部に対して15質量部以下の量で含むものとすることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−2)に係る本件訂正発明1及び本件訂正発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、いずれも、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明1及び本件訂正発明2がいずれも、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明3もまた、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件訂正発明4について
(ア)対比
本件訂正発明4を、甲2食品発明と対比する。
甲2食品発明にいう「米飯」は、本件訂正発明4にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲2食品発明にいう「コーティング液」の「液」は、本件訂正発明4にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲2食品発明にいう「冷凍米飯」は、本件訂正発明4にいう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明4は、甲2食品発明と、
一致点(2−2):「穀類の炊飯物と、液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品。」である点で一致し、
相違点(2−3):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明4では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「米粒麦の炊飯物を含む」とされる一方、甲2食品発明では「米飯」とされる点、及び
相違点(2−4):「液」について、本件訂正発明4では、「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」とされる一方、甲2食品発明では「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」とされる点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(2−3)についての判断
甲2には、甲2食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「米粒麦の炊飯物を含む」ものを用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、冷凍米飯の製造の際に、「米飯」の「米」に大麦を加え、又は「米飯」の「米」を大麦に変更し、さらに、炊飯物を「米粒麦の炊飯物を含む」ものとすると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲2食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「米粒麦の炊飯物を含む」ものを用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−3)に係る本件訂正発明4の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(2−4)についての判断
甲2には、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」について、記載事項(2−5)に「例えば、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合し、加熱して糊化させた穀物澱粉を含むものをコーティング液として好適に用いることができる。」と記載されていることから、澱粉糊液を用いることが示されているといえる。
しかし、甲2には、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」を「リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にリン酸架橋澱粉を含む澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」に代えて「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−4)に係る本件訂正発明4の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明4は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明4は、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件訂正発明5について
(ア)対比
本件訂正発明5を、甲2食品発明と対比する。
甲2食品発明にいう「米飯」は、本件訂正発明5にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲2食品発明にいう「コーティング液」の「液」は、本件訂正発明5にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲2食品発明にいう「冷凍米飯」は、本件訂正発明5にいう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明5は、甲2食品発明と、
一致点(2−3):「穀類の炊飯物と、液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品。」である点で一致し、
相違点(2−5):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明4では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又は混ぜご飯である」とされる一方、甲2食品発明では「米飯」とされる点、及び
相違点(2−6):「液」について、本件訂正発明5では、「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」とされるとともに「リン酸架橋澱粉がヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」とされる一方、甲2食品発明では「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」とされる点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(2−5)についての判断
甲2には、甲2食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又は混ぜご飯である」ものを用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、冷凍米飯の製造の際に、「米飯」の「米」に大麦を加え、又は「米飯」の「米」を大麦に変更し、さらに、炊飯物を「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又は混ぜご飯である」ものとすると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲2食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又は混ぜご飯である」ものを用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−5)に係る本件訂正発明5の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(2−6)についての判断
甲2には、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」について、記載事項(2−5)に「例えば、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合し、加熱して糊化させた穀物澱粉を含むものをコーティング液として好適に用いることができる。」と記載されていることから、澱粉糊液を用いることが示されているといえる。
しかし、甲2には、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」を「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を含む澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲2食品発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」に代えて、「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」であり、「リン酸架橋澱粉がヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」であるものを用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−6)に係る本件訂正発明5の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明5は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明5は、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、本件訂正発明1〜本件訂正発明5のいずれかの発明の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明1〜本件訂正発明5が、いずれも、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明6もまた、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 本件訂正発明7について
本件訂正発明7は、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明4〜本件訂正発明6のいずれかの発明の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明4〜本件訂正発明6が、いずれも、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明7もまた、甲2食品発明及び甲2〜甲6の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク 小括
以上のとおり、特許異議申立理由のうちの理由3−1(進歩性欠如)によっては、本件訂正発明1〜本件訂正発明7に係る特許を取り消すことはできない。

(3)理由3−2(進歩性欠如)の検討
ア 甲2製法発明
前記(1)アに示したとおり、
甲2には、
「飯粒をバラ状に凍結させたバラ状冷凍米飯に、穀物澱粉を含んでいるコーティング液を添加しながら撹拌することにより複数の飯粒同士が連結した複粒状態とし、該複粒状態で凍結させることを特徴とする複粒化した冷凍米飯の製造方法。」の発明(甲2製法発明)が記載されている。

イ 本件訂正発明8について
(ア)対比
本件訂正発明8を、甲2製法発明と対比する。
甲2製法発明にいう「米飯」は、本件訂正発明8にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲2製法発明にいう「コーティング液」の「液」は、本件訂正発明8にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲2製法発明にいう「冷凍米飯」は、本件訂正発明8いう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明8は、甲2製法発明と、
一致点(2−4):「穀類の炊飯物と、液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品の製造方法。」である点で一致し、
相違点(2−7):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明8では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」とされる一方、甲2製法発明では「米飯」とされる点、及び
相違点(2−8):「液」について、本件訂正発明8では、「前記穀類に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液」とされ、かつ「前記澱粉」が「リン酸架橋澱粉を含む」とされる一方、甲2製法発明では「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」とされ、「前記澱粉」が「リン酸架橋澱粉を含む」とはされていない点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(2−7)についての判断
甲2には、甲2製法発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、冷凍米飯の製造の際に、「米飯」の「米」に大麦を加え、又は「米飯」の「米」を大麦に変更すると、記載事項(2−2)に示される甲2製法発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲2製法発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−7)に係る本件訂正発明8の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(2−8)についての判断
甲2には、甲2製法発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」について、記載事項(2−5)に「例えば、うるち米内部の個々の細胞の単位が残った状態で粉にした米粉を水と混合し、加熱して糊化させた穀物澱粉を含むものをコーティング液として好適に用いることができる。」と記載されていることから、澱粉糊液を用いることが示されているといえる。
しかし、甲2には、甲2製法発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」の「穀物澱粉」を「リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にリン酸架橋澱粉を含む澱粉を含有する澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2製法発明の課題、すなわち、茶碗等の高さのある容器に盛って電子レンジで解凍しても、見た目の容積低下が少なく、飯粒間に空間がある「飯が立った」状態を保持するとともに、飯粒の解凍後の温度にムラが少なく、良好な食感を得ることのできる複粒化した冷凍米飯を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲7の記載事項を検討しても、甲2製法発明における「穀物澱粉を含んでいるコーティング液」に代えて「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(2−8)に係る本件訂正発明8の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明8は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明8は、甲2製法発明及び甲2〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、本件訂正発明8の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明8が、甲2製法発明及び甲2〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明9もまた、甲2製法発明及び甲2〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおり、特許異議申立理由のうちの理由3−2(進歩性欠如)によっては、本件訂正発明8及び本件訂正発明9に係る特許を取り消すことはできない。

(4)理由4−1(進歩性欠如)の検討
ア 甲7食品発明
前記(1)カに示したとおり、
甲7には、
「生米を洗米し、浸漬し、炊飯した炊飯米に対して、5〜20重量%の一次ソースを混合する一次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第1凍結工程と、該工程後の炊飯米に一次ソースとは異なる組成の二次ソースを混合する二次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第2凍結工程を行う凍結食品の製造方法により製造される凍結食品。」の発明(甲7食品発明)が記載されている。

イ 本件訂正発明1、本件訂正発明2について
(ア)対比
本件訂正発明1及び本件訂正発明2を、甲7食品発明と対比する。
甲7食品発明にいう「炊飯米」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲7食品発明にいう「一次ソース」及び「二次ソース」の「ソース」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲7食品発明にいう「凍結食品」は、本件訂正発明1及び本件訂正発明2にいう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、甲7食品発明と、
一致点(7−1):「穀類の炊飯物と、液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品。」である点で一致し、
相違点(7−1):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明1及び本件訂正発明2では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」とされる一方、甲7食品発明では「炊飯米」とされる点、及び
相違点(7−2):「液」について、本件訂正発明1及び本件訂正発明2では、「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」とされるとともに、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」100質量部に対して15質量部以下の量で含むとされる一方、甲7食品発明では「炊飯米に対して、5〜20重量%の一次ソース」、「一次ソースとは異なる二次ソース」とされ、「二次ソース」の「炊飯米」に対する量は特定されていない点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(7−1)についての判断
甲7には、甲7食品発明における「炊飯米」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、炊飯米の凍結食品を製造する際に、炊飯前の「米」に大麦を加え、又は「米」を大麦に変更すると、記載事項(7−2)に示される甲7食品発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲3〜甲7の記載事項を検討しても、甲7食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−1)に係る本件訂正発明1及び本件訂正発明2の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(7−2)についての判断
甲7には、甲7食品発明における「一次ソース」及び「二次ソース」のうち「一次ソース」については、記載事項(7−6)に「また、水分移動防止層12として、前記一次ソース層に代えて油膜層あるいは澱粉層を形成することもできる。」と記載され、記載事項(7−7)にまた、「水分移動防止層12を澱粉層とした場合、澱粉は、水分と混合して糊化、ゲル化することにより水分を通さない層を形成する……。」と記載されていることから、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて、澱粉を水分と混合した澱粉糊液を用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
しかし、甲7には、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて形成することのできる「澱粉層」を「リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にリン酸架橋澱粉を含む澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−2)に係る本件訂正発明1及び本件訂正発明2の発明特定事項は、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に対する「液」の量を検討するまでもなく、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明1及び本件訂正発明2は、いずれも、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明3について
本件訂正発明3は、本件訂正発明1又は本件訂正発明2の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明1及び本件訂正発明2がいずれも、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明3もまた、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 本件訂正発明4について
(ア)対比
本件訂正発明4を、甲7食品発明と対比する。
甲7食品発明にいう「炊飯米」は、本件訂正発明4にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲7食品発明にいう「一次ソース」及び「二次ソース」の「ソース」は、本件訂正発明4にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲7食品発明にいう「凍結食品」は、本件訂正発明4にいう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明4は、甲7食品発明と、
一致点(7−2):「穀類の炊飯物と、液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品。」である点で一致し、
相違点(7−3):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明4では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」とされる一方、甲7食品発明では「炊飯米」とされる点、及び
相違点(7−4):「液」について、本件訂正発明4では、「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」とされる一方、甲7食品発明では「一次ソース」、「一次ソースとは異なる二次ソース」とされる点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(7−3)についての判断
甲7には、甲7食品発明における「炊飯米」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、炊飯米の凍結食品を製造する際に、炊飯前の「米」に大麦を加え、又は「米」を大麦に変更すると、記載事項(7−2)に示される甲7食品発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲3〜甲7の記載事項を検討しても、甲7食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−3)に係る本件訂正発明4の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(7−4)についての判断
甲7には、甲7食品発明における「一次ソース」及び「二次ソース」のうち「一次ソース」については、記載事項(7−6)に「また、水分移動防止層12として、前記一次ソース層に代えて油膜層あるいは澱粉層を形成することもできる。」と記載され、記載事項(7−7)にまた、「水分移動防止層12を澱粉層とした場合、澱粉は、水分と混合して糊化、ゲル化することにより水分を通さない層を形成する……。」と記載されていることから、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて、澱粉を水分と混合した澱粉糊液を用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
しかし、甲7には、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて形成することのできる「澱粉層」を「リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にリン酸架橋澱粉を含む澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−4)に係る本件訂正発明4の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明4は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明4は、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

オ 本件訂正発明5について
(ア)対比
本件訂正発明5を、甲7食品発明と対比する。
甲7食品発明にいう「炊飯米」は、本件訂正発明5にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲7食品発明にいう「一次ソース」及び「二次ソース」の「ソース」は、本件訂正発明5にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲7食品発明にいう「凍結食品」は、本件訂正発明5にいう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明5は、甲7食品発明と、
一致点(7−3):「穀類の炊飯物と、液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品。」である点で一致し、
相違点(7−5):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明5では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」とされるとともに、「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又はまぜご飯である」とされる一方、甲7食品発明では「炊飯米」とされる点、及び
相違点(7−6):「液」について、本件訂正発明5では、「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」とされるとともに、「前記リン酸架橋澱粉がヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であり」とされる一方、甲7食品発明では「一次ソース」、「一次ソースとは異なる二次ソース」とされる点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(7−5)についての判断
甲7には、甲7食品発明における「炊飯米」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又はまぜご飯である」ものを用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、炊飯米の凍結食品を製造する際に、炊飯前の「米」に大麦を加え、又は「米」を大麦に変更すると、記載事項(7−2)に示される甲7食品発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲3〜甲7の記載事項を検討しても、甲7食品発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」であり、かつ「前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又はまぜご飯である」ものを用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−5)に係る本件訂正発明5の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(7−6)についての判断
甲7には、甲7食品発明における「一次ソース」及び「二次ソース」のうち「一次ソース」については、記載事項(7−6)に「また、水分移動防止層12として、前記一次ソース層に代えて油膜層あるいは澱粉層を形成することもできる。」と記載され、記載事項(7−7)にまた、「水分移動防止層12を澱粉層とした場合、澱粉は、水分と混合して糊化、ゲル化することにより水分を通さない層を形成する……。」と記載されていることから、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて、澱粉を水分と混合した澱粉糊液を用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
しかし、甲7には、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて形成することのできる「澱粉層」を「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にリン酸架橋澱粉を含む澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲7食品発明における「一次ソース」に代えて「ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉」である「リン酸架橋澱粉を含」む「前記穀類に由来しない澱粉糊液」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−6)に係る本件訂正発明5の発明特定事項は、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に対する「液」の量を検討するまでもなく、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明5は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明5は、いずれも、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

カ 本件訂正発明6について
本件訂正発明6は、本件訂正発明1〜本件訂正発明5のいずれかの発明の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明1〜本件訂正発明5が、いずれも、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明6もまた、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

キ 本件訂正発明7について
本件訂正発明7は、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明4〜本件訂正発明6のいずれかの発明の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明1、本件訂正発明2、本件訂正発明4〜本件訂正発明6が、いずれも、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明7もまた、甲7食品発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ク 小括
以上のとおり、特許異議申立理由のうちの理由4−1(進歩性欠如)によっては、本件訂正発明1〜本件訂正発明7に係る特許を取り消すことはできない。

(5)理由4−2(進歩性欠如)の検討
ア 甲7製法発明
前記(1)カに示したとおり、
甲7には、
「生米を洗米し、浸漬し、炊飯した炊飯米に対して、5〜20重量%の一次ソースを混合する一次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第1凍結工程と、該工程後の炊飯米に一次ソースとは異なる組成の二次ソースを混合する二次ソース混合工程と、該工程後の炊飯米を凍結する第2凍結工程を行う凍結食品の製造方法。」の発明(甲7製法発明)が記載されている。

イ 本件訂正発明8について
(ア)対比
本件訂正発明8を、甲7製法発明と対比する。
甲7製法発明にいう「炊飯米」は、本件訂正発明8にいう「穀類の炊飯物」に相当し、甲7製法発明にいう「一次ソース」及び「二次ソース」の「ソース」は、本件訂正発明8にいう「澱粉糊液」の「液」に相当し、甲7製法発明にいう「凍結食品」は、本件訂正発明8にいう「冷凍又はチルド食品」に相当する。
したがって、本件訂正発明8は、甲7製法発明と、
一致点(7−4):「穀類の炊飯物に、液を混合し、冷凍又はチルドする、冷凍又はチルド食品の製造方法。」である点で一致し、
相違点(7−7):
「穀類の炊飯物」について、本件訂正発明8では「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」とされる一方、甲7製法発明では「炊飯米」とされる点、及び
相違点(7−8):「液」について、本件訂正発明8では、「前記穀類に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液」であり、かつ「前記澱粉がリン酸架橋澱粉を含」むものとされるとともに、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」100質量部に対する含有量が15質量部以下であるとされる一方、甲7製法発明では「炊飯米に対して、5〜20重量%の一次ソース」、「一次ソースとは異なる二次ソース」とされ、「二次ソース」の「炊飯米」に対する量は特定されていない点
で、少なくとも相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(7−7)についての判断
甲7には、甲7製法発明における「炊飯米」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることは記載されていない。
記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、特許異議申立人の主張するように、米に大麦を混合して炊飯物とすることが示されてはいるものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(5−1)及び記載事項(5−2)並びに記載事項(6−1)及び記載事項(6−2)には、炊飯米の凍結食品を製造する際に、炊飯前の「米」に大麦を加え、又は「米」を大麦に変更すると、記載事項(7−2)に示される甲7製法発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲3〜甲7の記載事項を検討しても、甲7製法発明における「米飯」に代えて「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」を用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−7)に係る本件訂正発明8の発明特定事項は、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(7−8)についての判断
甲7には、甲7製法発明における「一次ソース」及び「二次ソース」のうち「一次ソース」については、記載事項(7−6)に「また、水分移動防止層12として、前記一次ソース層に代えて油膜層あるいは澱粉層を形成することもできる。」と記載され、記載事項(7−7)にまた、「水分移動防止層12を澱粉層とした場合、澱粉は、水分と混合して糊化、ゲル化することにより水分を通さない層を形成する……。」と記載されていることから、甲7製法発明における「一次ソース」に代えて、澱粉を水分と混合した澱粉糊液を用いることは、当業者が容易に想到し得たことといえる。
しかし、甲7には、甲7製法発明における「一次ソース」に代えて形成することのできる「澱粉層」を「リン酸架橋澱粉」を含むものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、特許異議申立人の主張するように、インディカ種の米を含む米を炊飯する際に、リン酸架橋デンプンを添加することで、おにぎり類の成形性を優位に改善し、また食味も改善することが示されているものの、これは冷凍米飯ではない常温下での白米飯から調理米飯のおにぎりに関するものにとどまる。
特許異議申立人の主張にもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−4)には、冷凍米飯の製造の際に、米飯にリン酸架橋澱粉を含む澱粉糊液を添加すると、記載事項(2−2)に示される甲2食品発明の課題、すなわち、消費者において通常のバラ凍結食品と同様の簡便な手段で解凍することができ、かつ、個食分けしても常に米飯やパスタとソースとが均等に配合されている安定な品質、すなわち、ポーションコントロールを容易に行うことができる従来にないタイプの付加価値の高い凍結食品を得るという課題が解決できることは示されておらず、甲2〜甲6の記載事項を検討しても、甲7製法発明における「一次ソース」に代えて「前記穀類に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液」であり、かつ「前記澱粉がリン酸架橋澱粉を含」むものを用いることの動機付けを見出すことはできない。
したがって、相違点(7−8)に係る本件訂正発明8の発明特定事項は、「大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物」に対する「液」の量を検討するまでもなく、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件訂正発明8は、本件特許明細書又は訂正された特許請求の範囲に記載されるとおり、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができるという、当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものと認められる。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)により、本件訂正発明8は、いずれも、甲7製法発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 本件訂正発明9について
本件訂正発明9は、本件訂正発明8の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件訂正発明8が、甲7製法発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件訂正発明9もまた、甲7製法発明及び甲3〜甲7の記載事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

エ 小括
以上のとおり、特許異議申立理由のうちの理由4−2(進歩性欠如)によっては、本件訂正発明8及び本件訂正発明9に係る特許を取り消すことはできない。

(6)理由5(サポート要件違反)の検討
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。

イ 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載がある。
記載(本−1)
「【背景技術】
【0002】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物は麦飯と呼ばれる。麦飯は米飯とは異なり、硬めで粘り気の少ない食感と独特の香りを有する。大麦は米よりも低糖質で食物繊維量が多い。このため、近年、生活習慣病の予防や改善等、健康的な食生活を求める観点から麦飯が注目されている。
【0003】
大麦は、炊飯直後においても一般に固めで粘り気の少ない食感を有しているが、炊飯後一定時間が経過すると、水分が失われてパサつき、ボソボソとした硬い食感となりやすい(特許文献1)。特に麦飯を冷凍食品又はチルド食品とする場合、その保存中の食感の低下が問題となる。また麦飯の飯粒同士の付着性が低いために非常に食べづらいという問題や、麦飯の保形性が低く皿などに盛り付けにくい、という問題がある。
【0004】
一方、米飯に粘りや柔らかさを付与するために澱粉類を添加することが知られている。例えば、特許文献2には、澱粉と調味料を含む噴霧造粒粉末をチャーハンの炒め調味料に用いることが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2015−84759号公報
【特許文献2】特開平8−38094号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
しかしながら、麦飯を冷凍食品又はチルド食品とする場合、特許文献2に記載のように澱粉を粉末として添加しても、パサパサで硬い食感の改善は十分なものではなかった。
【0007】
本発明の課題は、前述した従来技術が有する欠点を解消し得る冷凍又はチルド食品及びその製造方法を提供することにある。」

記載(本−2)
「【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、麦飯を冷凍食品又はチルド食品とする場合のパサパサで硬い食感の改善方法について鋭意検討した。その結果、冷凍食品やチルド食品における「澱粉糊液は食べる直前に混合する必要がある」という技術常識とは異なり、麦飯を、澱粉糊液と混合した状態において冷凍食品やチルド食品とすることで、前記課題を解決しうることを見出した。
【0009】
すなわち、本発明は、大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含む、冷凍又はチルド食品を提供するものである。
【0010】
また本発明は、大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物に前記穀類に由来しない澱粉糊液を絡めた後、包装し、冷凍又はチルドする、冷凍又はチルド食品の製造方法を提供するものである。」

記載(本−3)
「【発明の効果】
【0011】
本発明により、麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供することができる。」

記載(本−4)
「【発明を実施するための形態】
【0012】
以下本発明を、その好ましい実施形態に基づき説明する。本発明において冷凍又はチルド食品とは、冷凍状態又はチルド状態で保存されている食品を指す。冷凍状態とは、好ましくは凍結状態を指す。チルド状態とは、好ましくは0℃超10℃以下の温度で冷蔵されている状態を指す。
本発明は、大麦又は大麦及び米からなる穀類を炊飯した炊飯物(以下、単に「前記炊飯物」又は「麦飯」ともいう。)を用いる。
大麦は、もち種、うるち種に分かれるがいずれを用いてもよい。またうるち種の麦については、加工方法により押し麦、米粒麦などに分類されるがいずれを用いてもよい。米粒麦は米の形に加工した大麦を指す。
とりわけ、本発明においては、米粒麦を用いることが、米の食感に近く、麦飯が苦手な喫食者にも比較的受け入れられやすい点や、米と一緒に食べた時に違和感が少ないなどの理由から好ましい。」

記載(本−5)
「【0016】
本発明において、前記炊飯物は炒めたものであることが、澱粉を含む澱粉糊液を混合させることによる食感向上効果や、飯粒同士の付着性及び前記炊飯物の保形性等の物性の向上効果を特に高いものとする点で好ましい。ここでいう炒めた前記炊飯物とは、大麦又は大麦及び米からなる穀類を炊飯した後、炒め調理したものを指す。具体的には、炒めた炊飯物の料理の種類としては、チャーハン、チキンライス、ピラフ、ドライカレー、ビビンバ、ジャンバラヤ、ナシゴレン、ガーリックライス、バターライスが挙げられる。ここで炒め調理とは、鍋等の調理器具に油を引くか又は引かずに食材を入れてかき混ぜながら加熱し、調味する料理を指す。
【0017】
本発明の冷凍又はチルド食品は前記炊飯物を炒め調理していないものであってもよい。前記炊飯物を炒め調理していない冷凍又はチルド食品としては、例えば、炊き込みご飯、まぜご飯等が挙げられる。」

記載(本−6)
「【0019】
本発明において、澱粉糊液とは、澱粉が分散した水溶液に対して澱粉の糊化温度以上の加熱を行った結果、澱粉粒の糊化膨潤が生じ、粘性のある状態となったものを言う。この澱粉は、前記炊飯物を構成する穀類に由来しないものである。前記炊飯物を構成する穀類に由来しないとは、穀類自体も澱粉を含有するが、当該穀類の澱粉とは異なる澱粉の糊液であることを意味する。ここでいう「異なる」とは、例えば、澱粉原料及び/又は澱粉の加工方法が異なることが挙げられる。本発明において、澱粉糊液は通常、液状物又はその凍結物である。本発明の食品は、澱粉糊液が大麦の粒の周囲に付着している。例えば、前記炊飯物の炒め中に澱粉糊液を添加して前記炊飯物とともに澱粉糊液を炒めた場合、通常、水分が揮発して、液状ではなくなってしまう。この場合、炒め調理により得られた食品は、前記炊飯物と澱粉糊液とを含有したものとはならない。ただし、本発明の冷凍又はチルド食品において、澱粉糊液中の澱粉は冷凍又は冷蔵保存中に老化(ベータ化)したものであってもよい。澱粉糊液における澱粉としては、コーンスターチ、ワキシーコーンスターチ、タピオカ澱粉、馬鈴薯澱粉、小麦澱粉、米澱粉、葛澱粉が挙げられる。これらの澱粉は未加工澱粉であっても加工澱粉であってもよい。加工澱粉としては、α化、エーテル化、エステル化、架橋、酸化等の処理を施したものが挙げられる。エステル化澱粉にはリン酸化澱粉、リン酸架橋澱粉、アセチル化アジピン酸架橋澱粉、アセチル化リン酸化架橋澱粉、アセチル化酸化澱粉、オクテニルコハク酸澱粉ナトリウム、酢酸澱粉、酸化澱粉、ヒドロキシプロピル化澱粉、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉、リン酸モノエステル化リン酸架橋澱粉等が含まれる。
【0020】
澱粉糊液に含有させる澱粉としては加工澱粉を用いることが、澱粉糊液の物性、本発明の食品の食感の点で好ましく、とりわけこの観点からリン酸架橋澱粉を用いることが好ましい。リン酸架橋澱粉としては、リン酸架橋処理のほかに、アセチル化、リン酸化、ヒドロキシプロピル化等の複数の加工処理を組み合わせたリン酸架橋澱粉も含む。リン酸架橋澱粉としては、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を用いることが耐冷凍老化性を高める点で特に好ましい。また、澱粉糊液に含有させるリン酸架橋澱粉の原料としては、特に馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉、ワキシーコーン澱粉を用いることが、食品に適度な付着性を付与する点で好ましく、馬鈴薯澱粉、タピオカ澱粉を用いることが更に好ましく、とりわけ、馬鈴薯澱粉を用いることが、飯粒同士の付着性を最適なものとして、違和感の無い食感を付与する点で好ましい。」

記載(本−7)
「【0025】
本発明の冷凍又はチルド食品はその食感及び物性を良好なものとする点から、澱粉糊液を、前記炊飯物100質量部に対して3質量部以上15質量部以下含有することが好ましく、4質量部以上10質量部以下含有することがより好ましく、5質量部以上10質量部以下含有することが最も好ましい。また冷凍又はチルド食品はその食感及び物性を良好なものとする観点から、澱粉糊液の量は、澱粉糊液に含まれる澱粉の質量として、前記炊飯物100質量部に対して0.06質量部以上1.5質量部以下であることが好ましく、0.15質量部以上0.60質量部以下であることがより好ましく、0.20質量部以上0.5質量部以下であることが特に好ましく、0.16質量部以上0.5質量部以下であることが最も好ましい。澱粉糊液の量は、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液として10質量部以下又は澱粉として0.6質量部以下であることが特に冷凍又はチルド食品の粘りを大きくさせすぎない点から好ましく澱粉糊液として6質量部以下又は澱粉として0.5質量部以下であることが更に一層好ましい。また低糖質の観点、及び本発明の効果を高める点から、冷凍又はチルド食品中、前記炊飯物及び澱粉糊液の合計量は90質量%以下であることが好ましく、85質量%以下であることがより好ましく、80質量%以下であることが特に好ましく、70質量%以下であってもよい。」

記載(本−8)
「【0027】
本発明の冷凍又はチルド食品は、後述する実施例に記載の方法で測定する付着性(J/m3)としては、例えば9J/m3以上30/m3以下、特に、11J/m3以上27J/m3以下の範囲が好ましく挙げられる。パサパサしすぎず、一方でベタベタしすぎない、適度な食感である点から、前記の付着性は、冷凍又はチルド食品が炒めた前記炊飯物と澱粉糊液との混合物からなる場合には、9J/m3以上30J/m3以下であることが好ましく、10J/m3以上25J/m3以下であることがより好ましく、10J/m3以上20J/m3以下であることが更に一層好ましく、11J/m3以上15J/m3以下であることが最も好ましい。パサパサしすぎず、一方でベタベタしすぎない、適度な食感である点から、前記の付着性は、冷凍又はチルド食品が炒めていない前記炊飯物と澱粉糊液との混合物からなる場合は、10J/m3以上30J/m3以下であることが好ましく、18J/m3以上27J/m3以下であることがより好ましい。特になお冷凍食品の付着性は後述する実施例に記載の条件で解凍したものに対して後述する実施例に記載の方法にて測定する。またチルド食品の付着性は包装材から出した食品250gを皿に盛り、ラップ(材質ポリ塩化ビニリデン)をかけて電子レンジで500W、5分の加熱にて解凍したものに対して後述する実施例に記載の方法にて測定する。
付着性を上記範囲内とするためには、後述する本発明の冷凍又はチルド食品の製造方法において前記炊飯物に対する澱粉糊液の量や澱粉糊液の濃度、澱粉糊液中の澱粉の種類、前記炊飯物との混合温度などを調整すればよい。」

記載(本−9)
「【0035】
〔実施例1〕
米19.2質量部、米粒麦19.2質量部、油脂(なたね油)0.9質量部に対し、水60.7質量部を加えて炊飯して麦飯を得た。
それとは別に調味料として醤油及び発酵調味料を合計15質量部(水分70〜80質量%程度)、水81.5質量部、馬鈴薯由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(王子コーンスターチ社製「トレコメックスAET−4」)を4.8質量部混合し、澱粉の糊化温度以上に加熱して澱粉糊液を得た。
油脂(なたね油)2.7質量部で卵液10.1質量部を1分間炒めた。次いで具材(たけのこ、にんじん、焼豚)15.9質量部を1分間炒めた。そこに、上記炊飯した麦飯を60.5質量部、調味料としてオイスターソース、醤油、食塩、チキンエキスを合計5.9質量部投入し更に1分間炒めて、チャーハンを得た。炒める温度は200〜280℃とした。炒めた直後のチャーハン95.1質量部に上記で調製した澱粉糊液4.9質量部を混合した(混合時の混合物の温度:約20℃)。包装材として、ポリエチレンとポリアミド(ナイロン)の貼り合わせフィルム(厚さ60μm、水蒸気透過性30cc/(m2・day・MPa))を用いて気密に包装した。包装後のチャーハンを−20℃で冷凍させた。大麦及び米からなる穀類の炊飯物100質量部に対し、澱粉糊液の量は8質量部であり、澱粉の量としては0.4質量部であった。
【0036】
〔比較例1〕
実施例1において、澱粉糊液の調製、及び炒めた後のチャーハンへの澱粉糊液の混合を行わなかった。その点以外は実施例1と同様にして、冷凍チャーハンを得た。
【0037】
〔比較例2〕
実施例1において、澱粉糊液の調製を行わず、炒めた直後のチャーハン95.1質量部に澱粉糊液4.9質量部を混合する代わりにヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉2質量部を混合した。その点以外は実施例1と同様にして、冷凍チャーハンを得た。
【0038】
(評価1:チャーハン物性測定1)
冷凍14日目における実施例1、比較例1の冷凍チャーハンを、それぞれ250g包装材から出して皿に盛り、ラップ(材質ポリ塩化ビニリデン)をかけて電子レンジで500W、5分の加熱にて解凍した。
解凍したチャーハンの物性をクリープメーターRE2-33005C2型(株式会社山電社製)により測定した。方法は上部に開口部を有する有底円筒状の容器(直径40mm、高さ15mm)にチャーハン12gを、過剰に力を加えることなく厚さ12mmに均一に充填し、その上方から圧縮・弾性用アダプタ(直径16mm円柱形)を、アダプタの中心軸と容器の中心軸が一致するようにして、1mm/秒の速度で容器に充填された食品の上表面を基準にチャーハンの厚みの50%の振幅で上下運動をさせて測定し、その結果得られたデータを同社製の自動解析装置にて解析したものである。測定時点のチャーハンの温度は約20℃であった。結果を表1に示す。
【0039】
【表1】

【0040】
硬さ荷重の数値は、大きいほど飯粒を噛みしめた時により硬さを感じることを示し、付着性の数値は大きいほど飯粒同士の付着性が高いことを示す。付着性の数値が高いことは、実際に口に入れて食べた場合における食べやすさに寄与する。
表1の結果に示されるように糊液の粘性によって付着性の数字が高くなっている。従って、飯粒同士の付着性が高くなって、食べやすさの向上に寄与していることが判る。また澱粉糊液を混合した実施例1は糊液の水分の影響を受け、比較例1に比べてやや硬さ荷重が下がっており、澱粉糊液の水分を吸って柔らかくなったと考えられる。
【0041】
(評価2:チャーハン物性測定2)
冷凍14日目における実施例1、比較例1の冷凍チャーハンを、それぞれ250g皿に盛り、ラップ(材質ポリ塩化ビニリデン)をかけて電子レンジで500W、5分の加熱にて解凍した。
解凍したチャーハンの物性をクリープメーターRE2-33005C2型(株式会社山電社製)により測定した。方法は上部に開口部を有する有底円筒状の容器(直径40mm、高さ15mm)にチャーハン12gを、過剰に力を加えることなく厚さ12mmに均一に充填した後に容器を反転させてチャーハンのみを取り出した。取り出した円柱状のチャーハン(直径40mm、高さ12mm)の上方から圧縮・弾性用アダプタ(直径16mm円柱形)を、アダプタの中心軸とチャーハンの中心軸が一致するようにして、1mm/秒の速度で、チャーハンの厚みの90%まで下方に侵入させて測定し、その結果得られたデータを同社製の自動解析装置にて解析したものである。結果を表2に示す。
【0042】
【表2】

【0043】
最大荷重の数値が大きいほど、チャーハンの飯粒の塊を潰すのに必要な力(荷重)が大きいことを示す。最大荷重の値が高いほど、チャーハンを皿などに盛り付けた時に飯粒同士がきちんと付着して崩れにくくなる。
表2の結果に示されるように澱粉糊液を混合した実施例1は最大荷重が比較例1よりも大きい。従って、飯粒同士のくっつきあう力は澱粉糊液(あん)を混合した実施例1の方が比較例1よりも強くなっており、麦飯の保形性が高くなっていることが判る。
【0044】
(評価3:冷凍チャーハンの官能評価)
冷凍14日目における実施例1、比較例1及び2の冷凍チャーハンを、それぞれ250g皿に盛り、ラップ(材質ポリ塩化ビニリデン)をかけて電子レンジで500W、5分の加熱にて解凍した。
これらのチャーハンについて、健常な成人である10人のパネラー(男性5人、女性5人、平均年齢36歳)に食べさせ、以下の方法で評価した。
【0045】
(食感:パラパラ感・パサパサ感)
「非常にパサパサした食感であり、まずい」と感じる場合を0点、「適度にパラパラしており、パサパサした食感とは感じられない」場合を10点として、10段階評価で評価させた。
【0046】
(食感:麦飯の硬さ)
「麦飯が硬すぎて食べ難い」と感じる場合を0点、「適度な硬さであり食べやすい」と感じる場合を10点として、10段階評価で評価させた。
【0047】
(総合評価)
「非常にまずい」と感じる場合を0点、「非常においしい」と感じる場合を10点として、10段階評価で評価させた。
【0048】
パネラーの評価点の平均点を下記表3に示す。
【表3】

【0049】
表3の結果に示されるように、澱粉糊液を混合した実施例1のチャーハンは澱粉糊液を混合していない比較例1のチャーハンよりもパサパサした硬い食感が改善され、美味しさの評価が高くなっている。また実施例1と比較例2との比較より、特許文献2に記載の発明と同様に澱粉を乾燥状態で使用する場合に比べ、本発明では澱粉糊液を使用することで、パサパサした食感や硬さの改善効果に優れることもわかる。
【0050】
〔実施例2〕
米12質量部、米粒麦12質量部、その他雑穀(粟、きび、ごま)合計2質量部、調味料(かつお風味調味料、発酵調味料、食塩、しょうゆ等)1質量部に対し、水38質量部を加えて炊飯したものに、五目具材(れんこん、にんじん、鶏肉、枝豆、昆布、きざみ梅)合計16質量部を混合して五目入りの麦飯を得た。
それとは別に調味料として発酵調味料、風味調味料、チキンコンソメを合計1.5質量部(これらの調味料中の水分量は平均3質量%程度)、水4質量部、馬鈴薯由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉(王子コーンスターチ社製「トレコメックスAET−4」)を0.3質量部混合し、澱粉の糊化温度以上に加熱して澱粉糊液を得た。
五目入りの麦飯に対し澱粉糊液を混合させた。混合比率は五目以外の麦飯100質量部に対して、澱粉糊液5質量部とした。これにより、米粒麦、米及び雑穀の混合物の表面に、澱粉糊液を付着させた(混合時の混合物の温度:約80℃)。包装材として、ポリエチレンとポリアミド(ナイロン)の貼り合わせフィルム(厚さ60μm、水蒸気透過性30cc/(m2・day・MPa))を用いて混合物を気密に包装した。包装後の五目入り麦飯を−20℃で冷凍させて、冷凍五目入り麦飯を得た。なお、得られた冷凍五目入り麦飯中、麦飯100質量部に対し、澱粉糊液の澱粉の量としては0.3質量部である。
【0051】
〔実施例3及び4、比較例3〕
実施例3では、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を、ワキシーコーン由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉に変更した。また、実施例4では、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を、タピオカ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉に変更した。更に、比較例3では、澱粉糊液を用いなかった。それらの点以外は実施例2と同様にして、冷凍五目入り麦飯を得た。
【0052】
(評価4:五目麦飯の物性評価)
冷凍14日目における比較例3、実施例2〜4の冷凍した五目入り麦飯を、それぞれ250g皿に盛り、ラップ(材質ポリ塩化ビニリデン)をかけて電子レンジで500W、5分の加熱にて解凍した。
解凍した五目入り麦飯について、上記の評価1と同様の方法で硬さ荷重と付着性を測定した。結果を表4に示す。
【0053】
【表4】

【0054】
表4に示すように各実施例において、澱粉糊液を添加しない場合(比較例3)に比して、澱粉糊液を添加した実施例2〜4は、硬さ荷重が比較例3と同程度でありながら、付着性が比較例3に比して向上していることが判る。従って、飯粒同士の付着性が高くなって、食べやすさの向上に寄与していることが判る。
なお澱粉糊液における澱粉濃度を15質量%としたり、澱粉糊液の添加量を15質量部とする以外は実施例2と同条件とした冷凍五目入り麦飯について硬さ荷重を実施例2と同様に測定したところ、実施例2と同程度の結果が得られた。
【0055】
また実施例2〜4、及び後述する実施例5及び6について、米粒のまとまり具合を触感で評価し、澱粉糊液を添加することで比較例3に比べて保形性を向上させることができることについて確認した。
【0056】
(評価5:五目麦飯の官能評価1)
冷凍14日目における実施例2、比較例3の冷凍された五目入り麦飯を、それぞれ250g皿に盛り、ラップ(材質ポリ塩化ビニリデン)をかけて電子レンジで500W、5分の加熱にて解凍した。
解凍した五目入り麦飯について、健常な成人である10人のパネラー(男性5人、女性5人、平均年齢 34歳)に喫食させ、以下の方法で評価した。
【0057】
(食感:パラパラ感・パサパサ感)
「非常にパサパサした食感であり、まずい」と感じる場合を0点、「適度にパラパラしており、パサパサした食感とは感じられない」と感じる場合を10点として、10段階評価で評価させた。
【0058】
(食感:麦飯の硬さ)
「麦飯が硬すぎて食べ難い」と感じる場合を0点、「適度な硬さであり食べやすい」と感じる場合を10点として、10段階評価で評価させた。
【0059】
(総合評価)
「非常にまずい」と感じる場合を0点、「非常においしい」と感じる場合を10点として、10段階評価で評価させた。
【0060】
パネラーの評価点の平均点を下記表5に示す。
【0061】
【表5】

【0062】
表5の結果に示されるように、澱粉糊液を混合した実施例2の冷凍五目入り麦飯は澱粉糊液を混合していない比較例3よりもパサパサした硬い食感が改善され、美味しさの評価が高くなっている。
【0063】
〔実施例5及び6〕
実施例5では、表6に示すように、実施例2において、澱粉糊液中のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の濃度を変更させた。濃度の変更はヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の使用量を0.3質量部から0.17質量部に変更することにより行った。
実施例6では、実施例2において、表6に示すように、澱粉糊液の添加量を変化させた。
表6には、五目を除く麦飯に対する澱粉糊液の量を示す。
【0064】
(評価6:五目麦飯の官能評価2)
実施例2、5及び6の冷凍五目入り麦飯について、評価5と同様にして解凍させた後に、健常な成人である10人のパネラー(男性5人、女性5人、平均年齢 34歳)に喫食させ、以下の方法で評価した。
【0065】
(食感:粘り性)
10人のパネラーに「パサパサした食感であり、食べにくい」と感じる場合を0点、「適度な粘りがあり食べやすい」と感じる場合を5点、「ベタベタした食感であり、食べにくい」と感じる場合を10点とする10段階評価で評価させた。
それぞれのパネラーの平均点を集計し、以下の評価基準で評価した。結果を表6に示す。
0点以上2.0点未満:×
2.0点以上4.0点未満:○
4.0点以上6.0点未満:◎
6.0点以上8.0点未満:○+
8.0点以上10.0点以下:×+
【0066】
【表6】

【0067】
表6に示す通り、澱粉糊液における澱粉の濃度及び澱粉糊液の添加量を調整することで、粘りの官能評価を最適化することができることが判る。
【0068】
〔実施例7〜11〕
実施例7では実施例1において、澱粉糊液におけるヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の濃度及び澱粉糊液の添加量を表7に記載のように変更した。実施例8〜11では、澱粉糊液の添加量を表7に記載のように変更した。更に実施例10では、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を、ワキシーコーン由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉に変更した。また、実施例11では、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を、タピオカ由来のヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉に変更した。それらの点以外は実施例1と同様にして、冷凍チャーハンを得た。
なお実施例7において澱粉糊液の濃度は、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉の量を4.8質量部から3.0質量部に変更した。
【0069】
(評価7:チャーハンの物性評価3)
冷凍14日目における実施例7〜11の冷凍チャーハンを、それぞれ250g皿に盛り、ラップ(材質ポリ塩化ビニリデン)をかけて電子レンジで500W、5分の加熱にて解凍した。
解凍したチャーハンについて、上記の評価1と同様の方法で硬さ荷重と付着性を測定した。結果を表7に示す。
【0070】
【表7】

【0071】
表7に示すように各実施例において、澱粉糊液を添加しない場合(比較例1)に比して、澱粉糊液を添加した実施例7〜11は、硬さ荷重が比較例1と同程度でありながら、付着性が比較例1に比して向上していることが判る。従って、飯粒同士の付着性が高くなって、食べやすさの向上に寄与していることが判る。
なお澱粉糊液における澱粉濃度を15質量%としたり、澱粉糊液の添加量を15質量部とする以外は実施例8と同条件とした冷凍チャーハンについて硬さ荷重を実施例8と同様にして測定したところ、実施例8と同程度の結果が得られた。
【0072】
また比較例1、実施例7〜11について、アダプタをチャーハンの厚みの50%まで下方に侵入させて測定した以外は上記評価2と同様の方法で最大荷重を測定したところ、比較例1の最大荷重が4.20Nであったのに対し、実施例7〜11は最大荷重が8.20〜8.41N程度となり、保形性が向上したことを確認した。
【0073】
(評価8:チャーハンの官能評価2)
実施例7〜9の冷凍チャーハンについて、評価7と同様にして解凍させた後、健常な成人である10人のパネラー(男性5人、女性5人、平均年齢 35歳)に喫食させ、以下の方法で評価した。
【0074】
(食感:粘り性)
10人のパネラーに「パサパサした食感であり、食べにくい」と感じる場合を0点、「適度な粘りがあり食べやすい」と感じる場合を5点、「ベタベタした食感であり、食べにくい」と感じる場合を10点とする10段階評価で評価させた。
それぞれのパネラーの平均点を集計し、以下の評価基準で評価した。結果を表8に示す。
0点以上2.0点未満:×
2.0点以上4.0点未満:○
4.0点以上6.0点未満:◎
6.0点以上8.0点未満:○+
8.0点以上10.0点以下:×+
【0075】
【表8】



ウ 本件訂正発明1〜9の課題
本件特許明細書の記載(特に、記載(本−1)及び記載(本−3))及び訂正された特許請求の範囲の記載から、本件訂正発明1〜9の課題は、
「麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品及びその製造方法を提供する」ことと認められる。

エ 検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、課題を解決する手段に関して、記載(本−2)に、麦飯を、澱粉糊液と混合した状態において冷凍食品やチルド食品とすることが記載されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、発明を実施するための形態に関して、
・記載(本−4)に、大麦又は大麦及び米からなる穀類を炊飯した炊飯物を用いること、及び麦として米粒麦を用いることが米の食感に近く、麦飯が苦手な喫食者にも比較的受け入れられやすい点や、米と一緒に食べた時に違和感が少ないなどの理由から好ましいことが記載され、
・記載(本−5)に、前記炊飯物は炒めたものであることが、澱粉を含む澱粉糊液を混合させることによる食感向上効果や、飯粒同士の付着性及び前記炊飯物の保形性等の物性の向上効果を特に高いものとする点で好ましいことが記載され、
・記載(本−6)に、澱粉について「前記炊飯物を構成する穀類に由来しないとは、穀類自体も澱粉を含有するが、当該穀類の澱粉とは異なる澱粉の糊液であることを意味する。」と記載され、澱粉糊液に含有させる澱粉としてはリン酸架橋澱粉を用いることが、澱粉糊液の物性、食感の点で好ましく、リン酸架橋澱粉としては、ヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉を用いることが耐冷凍老化性を高める点で特に好ましいことが記載され、
・記載(本−7)に、澱粉糊液の含有量について、食感及び物性を良好なものとする点から、澱粉糊液を、前記炊飯物100質量部に対して3質量部以上15質量部以下含有することが好ましいことが記載され、
・記載(本−8)に、付着性(J/m3)について、パサパサしすぎず、一方でベタベタしすぎない、適度な食感である点から、冷凍又はチルド食品が炒めた前記炊飯物と澱粉糊液との混合物からなる場合には、9J/m3以上30J/m3以下であることが好ましく、冷凍又はチルド食品が炒めていない前記炊飯物と澱粉糊液との混合物からなる場合は、10J/m3以上30J/m3以下であることが好ましいことが記載されている。
また、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件訂正発明1〜9の態様及び効果を具体的に示すものとして、記載(本−9)に、実施例1〜11が記載されるとともに、比較例1〜3が記載されている。
記載(本−2)及び記載(本−4)〜記載(本−9)に示された事項(特に、記載(本−9)に示された、実施例1と比較例1〜比較例2、実施例2〜実施例4と比較例3、実施例5〜実施例6と比較例3、実施例7〜11と比較例1についての記載事項等)により、当業者は、大麦又は大麦及び米からなる穀類を炊飯した炊飯物を澱粉糊液と混合した状態において冷凍又はチルド食品とすることにより、本件訂正発明1〜9がその課題である「麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供する」ことを解決できると認識するといえる。

特許異議申立人は、
「本件特許発明1、8のいずれも、該炊飯物に対する該澱粉糊液の適用量、及び該澱粉糊液に含まれるリン酸架橋澱粉の量については特定していない。本件特許発明1を引用する本件特許発明2、5、7、及び本件特許発明8を引用する本件特許発明9についても同様である。
一方、本件特許発明6は、該澱粉糊液の量が、該炊飯物100質量部に対して3質量部以上15質量部以下であることを要件とする。しかし、該澱粉糊液に含まれるリン酸架橋澱粉の量については特定していない。」(特許異議申立書1〜7行)、
「澱粉糊液の量や、該澱粉糊液の澱粉濃度がどのような場合であっても、常に炊飯物の付着性、保形性、及び食感が改善され、本願発明の課題が解決できることを認識できる記載は、本願特許明細書には存在せず、またそのような技術常識も存在しない。
むしろ、炊飯物の付着性、保形性、及び食感が、混合する澱粉糊液の量及び該澱粉糊液の澱粉濃度(すなわち、炊飯物への澱粉の総添加量)に依存して変動することは明らかである。」(特許異議申立書43頁2行〜8行)
などと述べて、炊飯物への澱粉糊液の使用量及び該澱粉糊液の澱粉濃度又は該澱粉糊液の澱粉濃度が特定されていない本件特許発明1〜9は、課題を解決できない範囲を含む旨を主張する。
しかし、特許異議申立人の主張にもかかわらず、本件訂正発明1〜9において、澱粉糊液の使用量及び該澱粉糊液の澱粉濃度又は該澱粉糊液の澱粉濃度が、記載(本−9)に記載された実施例1〜11に示された値の範囲外にある場合には、適度な粘り、付着性、保形性のいずれも付与されず、かつ、手軽に摂食することもできない冷凍又はチルド食品となるという技術常識があるとはいえず、上記のとおり、記載(本−2)及び記載(本−4)〜記載(本−9)に示された事項により、当業者は、大麦又は大麦及び米からなる穀類を炊飯した炊飯物を澱粉糊液と混合した状態において冷凍又はチルド食品とすることにより、本件訂正発明1〜9がその課題である「麦飯に適度な粘りと付着性、保形性が付与されており、手軽に摂食できる冷凍又はチルド食品を提供する」ことを解決できると認識するといえる。

したがって、本件訂正発明1〜9は、発明の詳細な説明に記載されたものである。

エ 小括
以上のとおり、特許異議申立理由のうちの理由5(サポート要件違反)によっては、本件訂正発明1〜本件訂正発明9に係る特許を取り消すことはできない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、本件訂正発明1〜9に係る特許は、令和3年7月16日付け取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立人が申立てた特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。
また、他に本件訂正発明1〜9に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含み、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液を15質量部以下含む、冷凍又はチルド食品。
【請求項2】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む食品(但し、食品(20℃)を目開き5mmの篩で濾して得られる濾過分を液状部として含むものを除く)が冷凍又はチルドされた冷凍又はチルド食品であって、前記炊飯物の表面に、澱粉糊液が付着している、冷凍又はチルド食品。
【請求項3】
前記炊飯物が炒められたものである、請求項1又は2に記載の冷凍又はチルド食品。
【請求項4】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む冷凍又はチルド食品であって、前記炊飯物が米粒麦の炊飯物を含む冷凍又はチルド食品。
【請求項5】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物と、前記穀類に由来しない澱粉糊液との混合物を含み、前記澱粉糊液がリン酸架橋澱粉を含む冷凍又はチルド食品であって、
前記リン酸架橋澱粉がヒドロキシプロピル化リン酸架橋澱粉であり、前記炊飯物が炒められたものであるか、又は、炒め調理していないものであり、前記炊飯物を炒め調理していない前記冷凍又はチルド食品が、炊き込みご飯又はまぜご飯である、冷凍又はチルド食品。
【請求項6】
前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液を3質量部以上15質量部以下含む、請求項1〜5の何れか1項に記載の冷凍又はチルド食品。
【請求項7】
炒めた前記炊飯物と澱粉糊液の混合物からなり、以下の方法で測定する付着性(J/m3)が9J/m3以上30J/m3以下であるか、炒めていない前記炊飯物と澱粉糊液の混合物からなり、以下の方法で測定する付着性(J/m3)が10J/m3以上30J/m3以下である請求項1、2、4〜6の何れか1項に記載の冷凍又はチルド食品。
<付着性の測定方法>
クリープメーターRE2−33005C2型(株式会社山電社製)を用い、上部に開口部を有する有底円筒状の容器(直径40mm、高さ15mm)に食品12gを、厚さ12mmに均一に充填し、その上方から圧縮・弾性用アダプタ(直径16mm円柱形)を、1mm/秒の速度で、容器に充填された食品の上表面を基準に食品の厚みの50%の振幅で上下運動をさせて測定する。
【請求項8】
大麦又は大麦及び米からなる穀類の炊飯物に、前記穀類に由来しない澱粉を含有する澱粉糊液を絡めた後、包装し、冷凍又はチルドする、冷凍又はチルド食品の製造方法であって、前記澱粉がリン酸架橋澱粉を含み、得られる冷凍又はチルド食品において、前記炊飯物100質量部に対して澱粉糊液の含有量が15質量部以下である、冷凍又はチルド食品の製造方法。
【請求項9】
前記炊飯物を炒めた後に、前記澱粉糊液と絡める、請求項8に記載の冷凍又はチルド食品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-31 
出願番号 P2020-002990
審決分類 P 1 651・ 161- YAA (A23L)
P 1 651・ 537- YAA (A23L)
P 1 651・ 121- YAA (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 村上 騎見高
齊藤 真由美
登録日 2020-10-05 
登録番号 6773926
権利者 マルハニチロ株式会社
発明の名称 冷凍又はチルド食品及びその製造方法  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  
代理人 特許業務法人翔和国際特許事務所  

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