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審決分類 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
管理番号 1384106
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-21 
確定日 2022-02-18 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6774717号発明「害虫防除材およびそれを用いた害虫防除方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6774717号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−3〕、〔4−5〕について」)訂正することを認める。 特許第6774717号の請求項1、3ないし5に係る特許を維持する。 特許第6774717号の請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6774717号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、2016年12月6日(優先権主張 2015年12月24日 日本国(JP))を国際出願日とする出願であって、令和2年10月7日にその特許権の設定登録がされ、同年10月28日にその特許公報が発行され、その後、令和3年4月21日に安藤 慶治(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。
その後の手続の経緯の概要は次のとおりである。

令和3年 7月19日付け 取消理由通知
同年10月25日 意見書・訂正請求書の提出
同年11月 5日付け 訂正請求があった旨の通知

なお、令和3年11月5日付けの訂正請求があった旨の通知に対し、特許異議申立人からの応答はなかった。

第2 訂正の適否
令和3年10月25日提出の訂正請求書による訂正請求(以下「本件訂正」という。)は、本件特許の特許請求の範囲を訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項1〜5について訂正することを求めるものである。

1 訂正の内容
(1)訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1の
「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、
下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)」との記載を、
「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、
下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)」に訂正する。
請求項1の記載を引用する請求項3も同様に訂正する。

(2)訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を削除する。

(3)訂正事項3
特許請求の範囲の請求項3の
「自然揮散用である請求項1または2に記載の害虫防除材」との記載を、
「自然揮散用である請求項1に記載の害虫防除材」に訂正する。

(4)訂正事項4
特許請求の範囲の請求項4の
「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除効力維持方法であって、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除効力維持方法。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)」との記載を、
「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された、5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除効力維持方法であって、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除効力維持方法。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)」に訂正する。
請求項4の記載を引用する請求項5も同様に訂正する。

2 本件訂正の適否
(1)一群の請求項について
本件訂正は、訂正前の請求項1〜5についてのものであるところ、訂正前の請求項2〜3は請求項1を引用するものであり、訂正前の請求項5は請求項4を引用するものであるから、訂正前の請求項1〜3と4〜5は、それぞれ特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。
そして、本件訂正の請求は、訂正前の請求項1〜5についてされているから、特許法第120条の5第4項の規定に適合する。

(2)訂正事項1について
ア 訂正の目的
訂正事項1による訂正は、本件訂正前の請求項1に記載された「担体」、「常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)」について、それぞれ「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の」ものであること、「1日の平均気温を30℃とした場合における」ものであることを限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加の有無
願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件特許明細書等」という。)には、「担体の形状は特に限定されず、揮散方法によって適宜設定すればよい。例えば、本開示の害虫防除材が自然揮散用の場合、ピレスロイド系化合物が効率よく大気中に放出されるように、網目構造を有するシート状の担体を用いることが好ましい。網目構造を有するシート状の担体としては、ネット状、メッシュ状、レース状などのように多数の連続的または断続的な空隙を有する生地が挙げられる。」(【0011】)、「網目構造を有するシート状の担体の場合、保持濃度の算出は、シート状の担体の面積から開口部の面積を除いた面積で算出する。網目構造を有するシート状の担体は、50〜200cm2程度の面積を有し、5〜30%程度の開口率を有するものが好ましい。このような網目構造を有するシート状の担体を用いることによって、式(I)に示される保持量のピレスロイド系化合物を、十分な薬剤濃度で保持させることができる。」(【0013】)との記載がある。
また、本件特許明細書等には、「・・・1日あたりの最大揮散量を規定すればよい。1日の平均気温を30℃とした場合、主なピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量は下記のとおりである。トランスフルトリン:4.5mg/日 メトフルトリン:2.0mg/日 プロフルトリン:4.5mg/日」(【0017】)との記載がある。
したがって、訂正事項1による訂正は、新たな技術的事項の導入ではなく、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。
よって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合する。

ウ 実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項1による訂正は、特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるところ、そのカテゴリー変更もないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項1による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合する。

(3)訂正事項2について
ア 訂正の目的
訂正事項2による訂正は、請求項2を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加の有無及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項2による訂正は、請求項2を削除するものに過ぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項2による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項3について
ア 訂正の目的
訂正事項3による訂正は、本件訂正前の請求項3において引用する請求項が請求項1及び2であったのを、請求項1のみとし、引用する請求項を削減するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とする訂正である。

新規事項の追加の有無及び実質上の特許請求の範囲の拡張・変更の有無
訂正事項3による訂正は、請求項3において引用する請求項を削減するものに過ぎないから、本件特許明細書等に記載した事項の範囲内のものであり、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。
したがって、訂正事項3による訂正は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。

(4)訂正事項4について
訂正事項4は、訂正事項1と同様の訂正であるから、その判断についても上記(1)で述べたのと同様である。

3 まとめ
以上のとおりであるから、本件訂正は特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するので、訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1〜3〕、〔4〜5〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項〔1〜3〕、〔4〜5〕について訂正することを認めるので、本件特許の請求項1、3〜5に係る発明は、令和3年10月25日提出の訂正請求書に添付した訂正特許請求の範囲の請求項1、3〜5に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、
下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)
【請求項2】(削除)
【請求項3】
自然揮散用である請求項1に記載の害虫防除材。
【請求項4】
下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された、5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除効力維持方法であって、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除効力維持方法。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)
【請求項5】
前記常温揮散性のピレスロイド系化合物を自然に揮散させる請求項4に記載の害虫防除方法。」

第4 当審が通知した令和3年7月19日付け取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由の概要

1 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
[申立理由1−1]訂正前の本件の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1〜4号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、訂正前の請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由1−2]訂正前の本件の請求項1〜3に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1〜4号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由2]訂正前の本件の請求項4〜5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第1〜5号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、訂正前の請求項4〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

[申立理由3]訂正前の本件の請求項1〜5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

申立理由3の具体的な理由の概要は次のとおりである。
本件特許明細書等に記載の全ての実施例及び比較例において、常温揮散性ピレスロイド系化合物を担体に保持させるための溶剤として流動パラフィンを用いている(本件特許明細書等の【0022】)ところ、甲第6号証〜甲第9号証に記載のとおり、流動パラフィンは、ピレスロイド系化合物と共に用いる場合、安定化剤としての効果を有することが知られているから、訂正前の本件特許発明が奏する、使用開始時から終了時まで安定して優れた害虫に対する防虫効果を発揮するという効果(本件特許明細書等の【0007】)に、ピレスロイド系化合物に対する安定化効果を有する流動パラフィンが寄与しているということは、当業者にとって当然に認識することがらであり、流動パラフィンを用いない場合に、上記【0007】に記載の効果を奏するか否かについては、実施例がなく、確認されていない。
したがって、訂正前の本件特許発明が、流動パラフィンを用いることなく、上記効果を奏することは示されておらず、上記効果を示すか否かは不明であるから、訂正前の本件特許の特許請求の範囲には流動パラフィンの記載がなく、明細書に記載された範囲を超えており、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。

[申立理由4]訂正前の本件の請求項1〜5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、訂正前の請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

申立理由4の具体的な理由の概要は次のとおりである。
(4−1)訂正前の請求項1〜5に係る発明において、担体の材質、大きさ、開口率、形状等について規定されていないが、本件特許明細書等においては、実施例1に記載された特定の担体(本件特許明細書等の【0028】)が記載されるのみで他の例は記載されていない。
担体の材質・大きさ・開口率・形状等が、ピレスロイド系化合物の揮散の状態に影響を与えるということは、当業者にとって周知の事実であり、ピレスロイド系化合物の揮散状態の影響は、「常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)」の値が変化するということを意味しており、結果的に 式(I)、特に式(I)の定数部分に影響が生じることとなる。
このため、訂正前の請求項1、4における式(I)は、本件特許明細書等の【0028】に開示されている担体を用いた場合の条件といえる。したがって、訂正前の請求項1、4に係る発明は、担体の条件が記載されていないため、不明確となっているといえる。
また、訂正前の請求項2、3、5は、請求項1、4を引用するので、これらの請求項も同様の理由を有する。
したがって、訂正前の請求項1〜5に係る発明について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。

(4−2)本件特許明細書等の実施例12(本件特許明細書等の【0064】〜【0067】)は、訂正前の請求項1に示す要件である「担体に少なくとも2mg/cm2の濃度」の条件を満たしていない。
したがって、本件特許明細書等の明細書には、訂正前の請求項1に係る発明を満たさない実施例が記載されており、請求項1に係る発明が明確でないといえるので、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。



甲第1号証:特開2013−132216号公報(以下「甲1」という。下記甲各号証についても同様。)
甲第2号証:特開2014−73089号公報
甲第3号証:特開2014−83023号公報
甲第4号証:特開2015−38055号公報
甲第5号証:久保山真帆ら、吊り下げ式防虫剤に関する調査、静岡県環境衛生科学研究所報告、(2014)、No.57、pp.47〜52
甲第6号証:特許第5556790号公報
甲第7号証:特開2003−137708号公報
甲第8号証:特開平9−67207号公報
甲第9号証:特開2001−192309号公報

2 当審が通知した令和3年7月19日付け取消理由の概要
[理由1]訂正前の本件特許の請求項1〜5に係る発明は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない。
したがって、訂正前の本件の請求項1〜5に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

理由1の具体的な理由の概要は次のとおりである。
(1−1)訂正前の請求項1に「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており」との記載があるところ、濃度を算出するにあたり、担体のどの部分の面積を用いるのかは訂正前の特許請求の範囲の記載及び明細書の記載をみても明らかではない。
したがって、上記面積に対する濃度を用いて特定される訂正前の請求項1の特許を受けようとする発明は明確でない。
同様の記載がある訂正前の請求項4、請求項1又は請求項4を引用する請求項2、3、5についても同様である。

(1−2)訂正前の請求項1に「A:常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)」との記載があるところ、Aの量は、少なくとも害虫防除材が存在する場所の温度によって変化するといえ、また、技術常識からみて、風の有無、強弱によっても変化するといえるが、請求項1において、害虫防除材が適用される環境は特定されていないから、Aがどのような値であるかが明確でない。
してみると、上記Aの量を用いて特定される訂正前の請求項1の特許を受けようとする発明は,明確でない。
同様の記載がある訂正前の請求項4、請求項1を引用する請求項2についても同様である。
また、訂正前の請求項3、5については、自然揮散の下では温度等の環境は時間及び日によって変化するのが通常であるから、請求項1と同様である。

[理由2]訂正前の本件特許の請求項1〜3に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができない。
したがって、訂正前の本件の請求項1〜3に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

理由2の「刊行物」は、下記刊行物1〜3である。

[理由3]訂正前の本件特許の請求項1〜5に係る発明は、その出願前に日本国内又は外国において頒布された下記の刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができない。
したがって、訂正前の本件の請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

理由3の刊行物は、下記刊行物1〜3、5である。



刊行物1:特開2013−132216号公報(上記甲1と同じ。)
刊行物2:特開2014−73089号公報(上記甲2と同じ。)
刊行物3:特開2014−83023号公報(上記甲3と同じ。)
刊行物5:静岡県環境衛生科学研究所報告,(2014),No.57,pp.47−52(上記甲5と同じ。)
(刊行物4は欠番)

第5 当審の判断
当審は、本件発明1、3〜5に係る特許は、当審が通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由により取り消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 甲各号証及び刊行物について
甲各号証及び各刊行物の記載事項
刊行物1(甲1):
1a)「【請求項1】
開口部を有する薬剤容器の内部に常温揮散性薬剤を保持させた担体を収納したドアノブ用薬剤揮散体であって、
前記開口部が少なくとも側面および正面に設けられており、
前記側面における開口部(A)の面積が前記側面の面積全体の10〜50%であり、
前記正面及び背面における開口部(B)の合計面積が前記正面及び背面の合計面積全体の10〜50%であり、
前記側面に設けられた開口部(A)と前記正面及び背面に設けられた開口部(B)との面積比が、A/B=0.3〜3.0であることを特徴とするドアノブ用薬剤揮散体。
・・・
【請求項4】
前記常温揮散性薬剤が、
トランスフルトリン、メトフルトリン、エンペントリン、プロフルトリンから選ばれる少なくとも一種以上の薬剤を用いたものであることを特徴とする請求項1から請求項3のいずれか一項に記載のドアノブ用薬剤揮散体。」

1b)「【0001】
本発明は、ドアノブに係止して使用することによって、蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除または忌避するドアノブ用薬剤揮散体に関するものである。
・・・
【0005】
本発明は、上記した従来の問題点に鑑みてなされたものであって、ドアノブに係止して使用した場合においても、常温揮散性薬剤の十分な揮散効率を確保することができるドアノブ用薬剤揮散体の提供を目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記目的を達成するために、本発明の請求項1にかかるドアノブ用薬剤揮散体は、開口部を有する薬剤容器の内部に常温揮散性薬剤を保持させた担体を収納したドアノブ用薬剤揮散体であって、開口部が少なくとも側面および正面に設けられており、側面における開口部(A)の面積が側面の面積全体の10〜50%であり、正面及び背面における開口部(B)の合計面積が正面及び背面の合計面積全体の10〜50%であり、側面に設けられた開口部(A)と正面及び背面に設けられた開口部(B)との面積比が、A/B=0.3〜3.0であることを特徴とする。」

1c)「【0024】
本発明における担体に常温揮散性薬剤を保持させる方法としては、担体に保持させた常温揮散性薬剤を徐々に担体表面から揮散させることができる方法であれば特に限定されず、例えば、樹脂製の担体に常温揮散性薬剤を練り込んで成形することによって保持させる方法や紙製または繊維製の担体に常温揮散性薬剤を含浸または練り込むことによって保持させる方法などが挙げられる。
【0025】
ここで、担体に樹脂製の担体を使用する場合には、揮散効率の点からメッシュ状にすることが好ましく、メッシュのフィラメントの直径としては、同じく揮散効率の点から0.1〜2mmの範囲にすることが好ましい。
なお、フィラメントの直径は、常温揮散性薬剤の種類や使用期間に応じて上記範囲内から適宜設定される。すなわち、蒸気圧が高い(揮散速度が速い)常温揮散性薬剤の場合には、フィラメント直径を大きくすることによって揮散を抑制するように調整し、蒸気圧が低い(揮散速度が遅い)常温揮散性薬剤の場合には、フィラメント直径を小さくすることによって揮散を促すように調整する。
【0026】
また、メッシュの網目(目開き)の大きさ(開孔率)についても、揮散効率と通気性の点から40〜85%の範囲にすることが好ましく、さらには50〜75%にすることが好ましい。」

1d)「【0029】
なお、通常、担体に配合される常温揮散性薬剤の含有量は30〜600mg程度で約30〜120日程度の使用量として例示される。
また、含有量を設定するに当たっては、使用する常温揮散性薬剤の種類により異なるものの、例えば、メトフルトリン単独を使用した場合では、防虫効果が発現するのに必要な最低の揮散量は0.03mg/hr以上であり、プロフルトリン単独では0.03mg/hr以上であり、トランスフルトリン単独では0.06mg/hr以上であることから、30日における含有量についてはメトフルトリンでは30〜500mg、プロフロトリンでは30〜300mg、トランスフルトリンでは60〜500mgの範囲で設定すればよいことになる。」

1e)「【0034】
【図1】本発明のドアノブ用薬剤揮散体の一例を示す分解斜視図である。」

1f)「【0046】
(実施例1)
表1に示すように、ポリエチレン系樹脂にメトフルトリンを練り込んだ後、線径を0.7mmにしてメッシュ状に成形した常温揮散性薬剤を含浸させた担体を作製した。
次に、当該担体700mm3を、略直方体状に成形した長さ170mm×幅50mm×厚み13mmのポリエステル製の本体部と、側面視が円弧状になるように成形した長さ170mm、幅50mm、中心部の厚みが25mm、端部の厚みが5mmの蓋体とからなる薬剤容器に収納してドアノブ用薬剤揮散体を作製した。
ここで、薬剤容器の側面における開口部(A)の面積は側面の面積全体の10%であり、正面及び背面における開口部(B)の合計面積は正面及び背面の合計面積全体の33.3%であり、側面に設けられた開口部(A)と正面及び背面に設けられた開口部(B)との面積比はA/B=0.3である。
【0047】
(実施例2〜11)
常温揮散性薬剤、側面、正面、背面の開口部の開口率、側面に設けられた開口部(A)と正面及び背面に設けられた開口部(B)との面積比(開口比率)を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして実施例2〜11のドアノブ用薬剤揮散体を作製した。」

1g)「【0049】(防虫性能試験) 次に、上記にて作製したドアノブ用薬剤揮散体を25m3の部屋(床面積10m2×高さ2.5m)のドアノブにフック部を用いて引っ掛け、常温揮散性薬剤を室内に揮散させた。所定期間後、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、時間の経過に伴う仰転数を数え、KT50値を求めた。KT50値により、以下のように評価した。結果を表1に示す。
○:40分未満、△:40分以上80分未満、×:80分以上
【0050】
【表1】

【0051】
試験の結果、表1から、実施例1〜11については、使用期間の初期段階から末期段階まで、安定した防虫効果が発現することがわかった。また、フィラメントの直径、容器の開口率、含有量を調整することによって、使用期間や使用状態に応じた防虫効果を発現させることができることがわかった。」

1h)「【図1】



刊行物2(甲2):
2a)「【請求項1】
常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する繊維状物からなる立体状メッシュを有する立体構造体からなる薬剤揮散体において、
この立体構造体の空隙率が70〜99%であることを特徴とする薬剤揮散体。」

2b)「【0001】
本発明は、蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除および忌避するための薬剤揮散体に係り、更に詳しくは、繊維状物からなり、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する立体状メッシュを構成した薬剤揮散体に関するものである。
・・・
【0007】
本発明者らは、前記した従来の問題点に鑑み、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を樹脂担体に練り込み成形して得られる樹脂フィラメントを立体状にメッシュを構成した薬剤揮散体、もしくは予め樹脂フィラメントを撚り合わせて立体状メッシュを構成した立体構造体に常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含浸させた薬剤揮散体において、この薬剤揮散体内部の空気の流れに着目し、鋭意検討を行った。即ち、本発明は、この薬剤揮散体内部の空気の流れを改善し、空気の流れやすい構造を有する薬剤揮散体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、以下の構成が前記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する繊維状物からなる立体状メッシュを有する立体構造体からなる薬剤揮散体において、この立体構造体の空隙率が70〜99%であることを特徴とする薬剤揮散体。
・・・
【発明の効果】
【0009】
本発明の薬剤揮散体は、構成される立体構造体の空隙率を所定範囲内としたので、薬剤揮散体内の空気の流れがよくなり、立体構造体を構成する繊維状物から揮散する薬剤の拡散をより容易とすることができる。」

2c)「【0033】
[薬剤揮散体]
前記の樹脂組成物からなるペレットは、成形されて薬剤揮散体とする。また、前記の通り、前記の防虫成分含有樹脂ペレットに前記他の樹脂担体が含有されていない場合は、前記防虫成分含有樹脂ペレットを前記他の樹脂担体を用いて希釈し、混練・成形して薬剤揮散体としてもよい。
【0034】
この薬剤揮散体は、樹脂フィラメントを組み合わせて立体状メッシュに構成した形状を有する立体構造体である。この成形方法としては、まず、前記ペレットを押出成形や射出成形等によって成形して樹脂フィラメントを得、次いで、立体状にメッシュを構成する方法や、前記の防虫成分含有樹脂ペレットを射出成形等によって直接、複数の樹脂フィラメントを交差させた、平面状又は立体状のメッシュを成形する方法があげられる。」

2d)「【0059】
ここで、前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量を例示すれば、30〜200日程度の使用期間に対応して30〜1400mg程度の量をあげることができる。
【0060】
すなわち、含有量を設定するに当たっては、使用する防虫成分の種類により異なるものの、例えば、メトフルトリン単独を使用した場合では、防虫効果が発現するのに必要な最低の揮散量は0.03mg/hr以上であり、プロフルトリン単独では0.03mg/hr以上であり、トランスフルトリン単独では0.06mg/hr以上であることから、30日〜200日における含有量についてはメトフルトリンでは30〜700mg、プロフロトリンでは30〜700mg、トランスフルトリンでは60〜1400mgの範囲で設定すればよいことになる。」

2e)「【0083】
[用途]
本発明によって調製される薬剤揮散体は、使用直後からおよそ200日間までのその設計仕様に応じた所定期間にわたり、リビングや和室、玄関などの室内、倉庫、飲食店、工場や作業場内部やその出入り口、鶏舎、豚舎等の畜舎、犬小屋、ウサギ小屋等のペット小屋やその周辺、浄化槽やマンホールの内部、キャンプなどにおけるテント内部やその出入り口、バーベキュー、釣り、ガーデニング等の野外活動場所やその周辺などで、アカイエカ、チカイエカ、ヒトスジシマカ等の蚊類、ブユ、ユスリカ類、ハエ類、チョウバエ類、イガ類等に対して優れた防虫効果を奏する。また、室内と室外を隔てる窓やベランダ等の場所で、例えばそのフック部をカーテンレール等に引っ掛けたり、物干し竿に吊るして使用すれば、屋外から屋内へのこれら害虫の侵入を効果的に防ぐこともでき、極めて実用的である。」

2f)「【実施例】
【0086】
次に、実施例を用いて、本発明の薬剤揮散体を説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
まず、使用した薬剤、及び性能の評価方法について説明する。
【0087】
<使用薬剤>
・メトフルトリン(住友化学(株)製:エミネンス)
・トランスフルトリン(住友化学(株)製:バイオスリン)
・プロフルトリン(住友化学(株)製:フェアリテール)
・微結晶シリカ(EVONIK社製:カープレックス#80、ホワイトカーボン、平均粒子径:15μm、以降「シリカ」と記す。)
・エチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、以降「EVA」と記す。)
・低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、以降「LDPE−A」と記す。)
・低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802、以降「LDPE−B」と記す。)
・ポリエチレンテレフタレート((株)ベルポリエステルプロダクツ製:ベルペットIP121B、以降「PET」と称す。)
【0088】
<揮散性薬剤の揮散性評価試験>
得られた薬剤揮散体を、25℃の室内で、約1m/秒の風を当て、揮散開始後25日目と30日目の立体構造メッシュ中に含まれる有効成分量をガスクロマトグラフィーによりそれぞれ測定し、1日当りの薬剤揮散量を算出した。
【0089】
(実施例1)
<樹脂ペレットの製造方法>
50℃に加温したメトフルトリン10重量部をシリカ6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE−A44重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのメトフルトリン含有樹脂ペレットを製造した。
【0090】
<成形体の製造>
前記メトフルトリン含有樹脂ペレット100重量部とLDPE−B300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、図1に示す立体構造体からなる薬剤揮散体(10g)を得た。
この立体構造体を構成する矩形波状体11及び補強材12の樹脂フィラメントの断面形状は、1.3mm×1.3mmの正方形で、最短径(b)が1.0mm、最長径(a)/最短径(b)の比率は1.4であった。なお、薬剤揮散体全体の大きさを、150mm×80mm×10mmとした。そして、空隙率は97%であった。
得られた薬剤揮散体を用いて、上記の方法に基づいて、揮散性薬剤の揮散量ならびに揮散時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0091】
(実施例2〜5、比較例1〜4)
表1に示す常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及びその量を用い、樹脂フィラメントの最短径(b)、立体構造体の大きさ及び空隙率を表1に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にして、薬剤揮散体を製造した。
得られた薬剤揮散体を用いて、上記の方法に基づいて、揮散性薬剤の揮散量ならびに揮散時間を測定した。その結果を表1に示す。
【0092】
【表1】



2g)「【符号の説明】
【0095】
1 立体構造体
11 矩形波状体
11a 第1頂部
11b 第2頂部
12 補強材」

2h)「【図1】



刊行物3(甲3):
3a)「【請求項1】
揮散装置本体と、これに振り子運動可能に取付けられる振り子部材とからなり、前記振り子部材の上端部に薬剤揮散体及び下端部に永久磁石が備えられ、前記揮散装置本体には前記永久磁石と対向可能な位置に電磁石が設置されており、前記永久磁石と電磁石との吸引力並びに反発力から生じる振り子運動を利用して前記薬剤揮散体から薬剤を揮散させる薬剤揮散装置において、前記薬剤揮散体は、25℃における蒸気圧が1〜100mPaである揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有したものであり、しかも前記薬剤揮散体がその振り子運動により1分間あたり動作する角度の累計(角振幅×振動数)をラジアンで表したとき、5π〜150πラジアン/分の範囲であることを特徴とする薬剤揮散装置。
【請求項2】
前記揮散性ピレスロイド系防虫成分が、メトフルトリン、トランスフルトリン、プロフルトリン、及びエムペントリンから選ばれた1種以上であることを特徴とする請求項1に記載の薬剤揮散装置。
【請求項3】
前記薬剤揮散体が、繊維状物からなる平板状の構造体であることを特徴とする請求項1又は2に記載の薬剤揮散装置。
【請求項4】
前記平板状の構造体が、空隙を有するメッシュ構造であることを特徴とする請求項3に記載の薬剤揮散装置。」

3b)「【0001】
本発明は、蚊、ブユ等の飛翔害虫を駆除および忌避するための薬剤揮散装置に係り、更に詳しくは、振り子運動を利用して揮散性ピレスロイド系防虫成分を揮散させるための薬剤揮散装置に関するものである。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかるに、本発明者らは、鋭意試験を繰返し、特定の蒸気圧を有する防虫成分であれば、特定の振り子運動条件を組み合わせることによって、振り子運動を利用した薬剤揮散装置を実現できることを見出し、本発明に至ったものである。
即ち、本発明は、振り子運動を利用するとともに、従来のファン式蚊取と較べてさほど遜色なく効率的に薬剤を揮散させ得る薬剤揮散装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、以下の構成が前記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである。
(1)揮散装置本体と、これに振り子運動可能に取付けられる振り子部材とからなり、前記振り子部材の上端部に薬剤揮散体及び下端部に永久磁石が備えられ、前記揮散装置本体には前記永久磁石と対向可能な位置に電磁石が設置されており、前記永久磁石と電磁石との吸引力並びに反発力から生じる振り子運動を利用して前記薬剤揮散体から防虫成分を揮散させる薬剤揮散装置において、
前記薬剤揮散体は、25℃における蒸気圧が1〜100mPaである揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有したものであり、しかも前記薬剤揮散体がその振り子運動により1分間あたり動作する角度の累計(角振幅×振動数)をラジアンで表したとき、5π〜150πラジアン/分の範囲である薬剤揮散装置。
・・・
【発明の効果】
【0007】
本発明の薬剤揮散装置は、非加熱であって、駆動源としてモーターではなくエネルギー的に小さな振り子運動を利用しながら、従来のファン式蚊取と較べてさほど遜色なく効率的に薬剤を揮散させ得るのでその実用性は極めて高い。」

3c)「【0057】
ここで、前記揮散性ピレスロイド系防虫成分の含有量を例示すれば、30〜200日程度の使用期間に対応して30〜1400mg程度の量をあげることができる。
【0058】
すなわち、含有量を設定するに当たっては、使用する防虫成分の種類により異なるものの、例えば、メトフルトリン単独を使用した場合では、防虫効果が発現するのに必要な最低の揮散量は0.03mg/hr以上であり、プロフルトリン単独では0.03mg/hr以上であり、トランスフルトリン単独では0.06mg/hr以上であることから、30日〜200日における含有量についてはメトフルトリンでは30〜700mg、プロフロトリンでは30〜700mg、トランスフルトリンでは60〜1400mgの範囲で設定すればよいことになる。」

3d)「【実施例】
【0071】
次に、実施例を用いて、本発明の薬剤揮散装置を説明する。なお、以下に述べる実施例は本発明を具体化した一例に過ぎず、本発明の技術的範囲を限定するものでない。
まず、使用した薬剤、及び性能の評価方法について説明する。
【0072】
<使用薬剤>
・メトフルトリン(住友化学(株)製:エミネンス)
・トランスフルトリン(住友化学(株)製:バイオスリン)
・プロフルトリン(住友化学(株)製:フェアリテール)
・プラレトリン(住友化学(株)製:エトック)
・微結晶シリカ(EVONIK社製:カープレックス#80、ホワイトカーボン、平均粒子径:15μm、以降「シリカ」と記す。)
・エチレン−ビニルアセテート共重合体(東ソー(株)製:ウルトラセン710、エチレン:酢酸ビニル単位比=72:28、以降「EVA」と記す。)
・低密度ポリエチレン(旭化成(株)製:サンテックLDM6520、以降「LDPE−A」と記す。)
・低密度ポリエチレン(日本ポリエチレン(株)製:ノバテックLDLJ802、以降「LDPE−B」と記す。)
・ポリエチレンテレフタレート((株)ベルポリエステルプロダクツ製:ベルペットIP121B、以降「PET」と称す。)
【0073】
<揮散性薬剤の揮散性評価試験>
得られた薬剤揮散装置を25℃の室内で揮散させた。揮散性ピレスロイド系防虫成分の揮散量は、所定期間(有効期間の中間時点)経過後に薬剤揮散体に含まれる防虫成分量をガスクロマトグラフィにより分析して測定した。
【0074】
<殺虫効力試験>
8畳(33m3)の広さで25℃の部屋に供試薬剤揮散装置を置いた。所定期間(有効期間の中間時点)経過後に、アカエイカ雌成虫100匹を放ち、その後の経時的なノックダウン数を2時間後まで観察し、プロビット法によりKT50値を求めた。
【0075】
(実施例、比較例)
<樹脂ペレットの製造方法>
揮散性ピレスロイド系防虫成分・メトフルトリン10重量部を50℃に加温してシリカ6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE−A44重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのメトフルトリン含有樹脂ペレットを製造した。
【0076】
<成形体の製造>
前記メトフルトリン含有樹脂ペレット100重量部とLDPE−B300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、図2に示す立体構造体からなる薬剤揮散体を得た。
なお、上記に準じて製造した各薬剤揮散体の重量、大きさ、最小網目の面積は、表1に示すとおりである。
【0077】
【表1】

【0078】
<薬剤揮散装置の作製>
得られた薬剤揮散体を表2に示す仕様の振り子部材に取り付け、揮散装置本体にセットして供試用の薬剤揮散装置を作製した。なお、振り子部材は、図1に示すようにコの字型下端部の両面に永久磁石を配するタイプとし、電源としては1.5Vの乾電池を2個用いた。上記の方法に基づいて、揮散性評価試験及び殺虫効力試験を行った結果を併せて表2に示す。
【0079】
【表2】

【0080】
試験の結果、25℃における蒸気圧が1〜100mPaである揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有した薬剤揮散体を用い、しかもその薬剤揮散体がその振り子運動により1分間あたり動作する角度の累計(角振幅×振動数)が5π〜150πラジアン/分の範囲である本発明の薬剤揮散装置は、従来のファン式蚊取り(比較例5)と較べると運動エネルギーが小さいため防虫成分の揮散量が低いにも拘わらず、実用的に十分な殺虫効力を示した。なお、薬剤揮散体としては、繊維状物からなる平板状の構造体で、空隙を有するメッシュ構造であり、また、平板状の構造体の平面部分を振動方向に対し垂直になるように設置したものが好ましいことも確認された。
これに対し、25℃における蒸気圧が100mPaを超える忌避香料を用いた比較例1の場合、初期の揮散量が過大なため有効期間の中間時点で既に揮散量が激減した。また、蒸気圧が1mPa未満のプラレトリンを用いた薬剤揮散装置(比較例2及び3)は、揮散性能が劣り、更に、防虫成分の蒸気圧が適性であっても、振り子運動の動作角度の累計が5πラジアン未満では本発明の目的に合致しなかった。」

3e)「【図1】

【図2】

【図3】



甲4:
4a)「【請求項1】
樹脂を含む担体に、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分と、250〜400℃の範囲に沸点を有する香料成分とを担持させた香り付き防虫剤。」

4b)「【0001】
本発明は、害虫を駆除及び忌避するための防虫剤、当該防虫剤を容器に収容した防虫器、及び当該防虫剤の製造方法に関する。」

4c)「【0008】
本発明は、上記問題点に鑑みてなされたものであり、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分を長期間に亘って揮散し続けることができ、さらに、当該ピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とを連動させることが可能な香り付き防虫剤、香り付き防虫器、及び香り付き防虫剤の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するための本発明に係る香り付き防虫剤の特徴構成は、
樹脂を含む担体に、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分と、250〜400℃の範囲に沸点を有する香料成分とを担持させたことにある。」

4d)「【0026】
(A)ピレスロイド系防虫成分
ピレスロイド系防虫成分は、常温で揮散性を有するものが使用される。ここで、「常温で揮散性を有する」とは、25℃において、0.001Pa以上の蒸気圧を示すことを意味し、揮散量として0.005mg/hr以上であれば、常温で揮散性を有するとみなすことができる。そのようなピレスロイド系防虫成分として、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、及びエムペントリン等が挙げられる。」

4e)「【発明の効果】
【0022】
・・・さらに、上記のようにピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とが連動しているため、使用者は香り付き防虫剤の使用開始と同時に香料成分の芳香を感知し、香り付き防虫剤の使用実感を得ることができる。そして、使用者が芳香を感知することができなくなると、香り付き防虫剤が寿命に近づいたことが容易に認識できるので、防虫剤の使用を終了したり、新たな商品に交換する目安となる。」

4f)「【0026】
(A)ピレスロイド系防虫成分
ピレスロイド系防虫成分は、常温で揮散性を有するものが使用される。ここで、「常温で揮散性を有する」とは、25℃において、0.001Pa以上の蒸気圧を示すことを意味し、揮散量として0.005mg/hr以上であれば、常温で揮散性を有するとみなすことができる。そのようなピレスロイド系防虫成分として、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、及びエムペントリン等が挙げられる。」

4g)「【実施例】
【0061】
本発明の香り付き防虫剤の効果を確認するため、防虫(忌避)効果及び芳香効果の持続性試験を実施した。PETからなる繊維(単繊維を28〜42本撚り合わせたもの)に捲縮加工を施し、得られた繊維を用いてレース編みによるネット状の担体を作製した。この担体に薬剤を担持させて香り付き防虫剤を作製し、これを住居のベランダに吊るして、防虫(忌避)効果及び芳香効果を3ヵ月間追跡した。実施例1〜9、及び比較例1〜4の香り付き防虫剤の配合を以下に示す。
【0062】
〔実施例1〕
ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.8g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:10%)に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55−S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例1の香り付き防虫剤を得た。
【0063】
〔実施例2〕
実施例1と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]600mg、香料成分[ムスクケトン(沸点;395℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒドを含む]350mg、並びにラウリン酸ヘキシル(沸点;337℃)200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例2の香り付き防虫剤を得た。
【0064】
〔実施例3〕
ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.4g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:32%)に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ヘキシルシンナミックアルデヒド、メチルアトラレート(沸点;361℃)]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「40−S」(50%留分の沸点;291℃)]200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例3の香り付き防虫剤を得た。
【0065】
〔実施例4〕
実施例3と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ヘキシルシンナミックアルデヒド、ガラクソリド(沸点;326℃)]350mg、並びにミリスチン酸ヘキシル(沸点;362℃)200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例4の香り付き防虫剤を得た。
【0066】
〔実施例5〕
実施例3と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ヘキシルシンナミックアルデヒド、ヘキシルサリシレート(沸点;290℃)]350mg、並びにジプロピレングリコールモノブチルエーテル(沸点;230℃)200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例5の香り付き防虫剤を得た。
【0067】
〔実施例6〕
実施例3と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ヘキシルシンナミックアルデヒド、メチルジヒドロジャスモネート(沸点;309℃)]350mg、並びにセバシン酸ジブチル(沸点;344℃)200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例6の香り付き防虫剤を得た。
【0068】
〔実施例7〕
実施例3と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ヘキシルシンナミックアルデヒド、メチルβ−ナフチルケトン(沸点;301℃)]350mg、並びにフタル酸ジブチル(沸点;340℃)200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例7の香り付き防虫剤を得た。
【0069】
〔実施例8〕
ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.4g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:25%)に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[α−イオノン(沸点;259〜263℃)、β−イオノン(沸点;267℃)]350mg、並びにラウリン酸ヘキシル200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例8の香り付き防虫剤を得た。
【0070】
〔実施例9〕
実施例8と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ジフェニルオキシド(沸点;257℃)]350mg、並びにラウリン酸ヘキシル200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例9の香り付き防虫剤を得た。
【0071】
〔実施例10〕
実施例8と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ダマスコンα(沸点;259℃)、ダマスコンβ(沸点;270℃)、及びダマスコンδ(沸点;263℃)]350mg、並びにラウリン酸ヘキシル200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例10の香り付き防虫剤を得た。
【0072】
〔実施例11〕
実施例8と同様のネット状の担体に、防虫成分[トランスフルトリン]500mg、香料成分[ダマセノン(沸点;274℃)、フェニルアセティックアシッド(沸点;265℃)、ローズフェノン(沸点;282℃)]350mg、並びにラウリン酸ヘキシル200mgから構成される薬剤を担持させ、実施例11の香り付き防虫剤を得た。」

4h)「【0077】
実施例1〜11の香り付き防虫剤による防虫(忌避)効果及び芳香効果の持続性試験の結果を表1に示す。比較例1〜4の香り付き防虫剤による防虫(忌避)効果及び芳香効果の持続性試験の結果を表2に示す。表1、及び表2において、防虫(忌避)効果は、害虫の忌避率により評価した。○は忌避率75%以上、△は忌避率50%以上75%未満、×は忌避率50%未満である。芳香効果は、10人のパネラーによる官能試験により評価した。○は芳香をはっきりと感じたもの、△は芳香がやや弱いと感じたもの、×は芳香を感じなかったものである。
【0078】
【表1】



刊行物5(甲5):
5a)「吊り下げ式防虫剤に関する調査」(47頁、表題)

5b)「試料および方法
1 テスト対象
静岡市内のドラッグストア等で購入した吊り下げ式防虫剤8銘柄(No.1〜8)およびプッシュ式殺虫剤2銘柄(No.9〜10)をテスト対象とした(表1).
2 試薬および標準品
トランスフルトリン,エンペントリン:AccuStandard,その他の試薬:特級またはそれ以上のもの
3 方法
・・・
2) ・・・
○1(当審注:○の中に1。以下同様。)・・・

・・・
ポンプの空気捕集口の先端に,ビニールチューブとSep-Pak C18を取り付け,毎分1Lの空気を捕集した.
Sep-Pak C18は,1個あたり残留農薬用アセトン約19mLで溶出した後,20mLに定容し,これをGC/MS用試料とした.
・・・
3) 吊り下げ式防虫剤からの防虫剤成分の拡散量に関する調査(経時変化)
吊り下げ式防虫剤は,製品によって使用期限が異なり,今回購入した銘柄も30日から365日と使用期限が大きく異なっていた.製品によっては使用方法(設置場所等)によって使用期限は異なるとの記載がある銘柄も見られたが,すべての銘柄を同条件で使用し始めた場合,時間の経過によって防虫成分の拡散量がどのように変化するかについて調査した.
No.1〜8を雨に濡れない屋根下に設置し,開封直後から1か月ごとにサンプリングし,防虫剤成分の拡散濃度を測定した.また,No.1,2については,雨に濡れる軒下にも設置し,同様にサンプリングした.
○1 試験溶液の調製
No.1〜7について,扇風機の風下50cm地点に吊り下げ式防虫剤を吊り下げ,さらにその風下40cm地点にポンプを設置して,開封直後から各銘柄の使用期限がくるまで1か月ごとに経時的(表2)に一定時間室内空気を捕集し(図2),2)○1の方法で得たアセトン溶液をGC/MS用試料とした.
なお,No.8については防虫剤成分の拡散量が非常に少なく,空気捕集では定量できなかったため,No.8の製品の中にセットされている薬剤を染み込ませてある紙片(製品1個分)を適当な大きさに切断したものをアセトン30mLで20分間超音波抽出を行い,これを2回繰り返した溶液をアセトンで適宜希釈し,GC/MS用試料とした.

」(47頁右欄5行〜48頁右欄最終行)

5c)「

3 吊り下げ式防虫剤からの防虫剤成分の拡散量に関する調査(経時変化)
すべての銘柄を同条件で使用し始めた場合の防虫剤成分の拡散量の変化を図4に示した.なお,No.4,6,7については有効成分としてトランスフルトリンと共にエンペントリンも記載されていたが,どの銘柄においても,エンペントリンは定量限界以下であったため,トランスフルトリンの結果のみを示した.
図4に示したとおり,No.1〜7は,銘柄や使用期限に関わらず,時間の経過と共に空気中の成分濃度の低下,防虫成分の拡散量が減少している傾向が見られた.若干濃度の上昇が見られた部分もあるが,それほど大きな変化ではなく,サンプリング場所の室温やわずかな風の影響があると推察された.
今回調査した銘柄では,2〜4か月経過時点で,開封直後と比較して成分拡散量は50%以下となっていた.特にNo.6は使用期限が1年間と多数販売されている製品の中でも最も使用期限の長い製品であったが,7か月経過時点で成分拡散量は開封直後の約8%まで減少しており,残りの5か月の間,期待する効果が得られない可能性があることが予想された.
No.8については,拡散量が非常に少なく,薬剤を染み込ませた紙片から直接抽出することで変化を調べたが,使用期限となる1か月後にも,紙片には約78%の成分が残っていたことから,成分が拡散しにくく,期待する効果が得られない可能性があることが予想された.
使用期限が記載されていることから,使用期限までの間は変わらずに一定の効果があることを期待する消費者も多いと思われるが,今回テスト対象としたどの銘柄についても,使用期限まで変わらずに同じ効果を得ることは難しいと考えられた.」(50頁図4〜51頁左欄31行)

甲6:
6a)「【0024】
〈第3の課題を解決する手段〉
前述した第3の課題は、下記の構成により達成される。
(1)メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群より選ばれる少なくとも1種のピレスロイド系化合物と、常温液状のパラフィンとを含み、
前記ピレスロイド系化合物と常温液状のパラフィンとの混合比が1:1以下の質量比である、
ピレスロイド系化合物の光・紫外線劣化が防止された組成物。
(2)メトフルトリン、プロフルトリン、及びトランスフルトリンからなる群より選ばれる少なくとも1種のピレスロイド系化合物に対し、常温液状のパラフィンを添加する、ピレスロイド系化合物の光・紫外線劣化を防止する方法であって、
前記ピレスロイド系化合物と常温液状のパラフィンとの混合比が1:1以下の質量比である光・紫外線劣化防止方法。」

6b)「【0074】
〈パラフィン類とエステル類の耐光試験〉
パラフィンの添加によりメトフルトリンの光分解が抑制されることを見い出した本願発明についてさらに、その有効なパラフィンなどの範囲を設定するため以下のような耐光性試験を行った。
〈メトフルトリンについての光・紫外線に対する安定性試験〉
20mlの硝子瓶に下記パラフィン類、エステル類を100μl、メトフルトリンを200μlを量り取り、密封した後、サンルームにて1ヶ月放置した。所定時間後、内容物を量り取り、これに内部標準の入ったアセント溶液を加え分析用サンプルとした。
実施例1は、光・紫外線安定化剤として出光興産製IPソルベント1620(以下、「IP1620」と言う。)、実施例2は、光・紫外線安定化剤として出光興産製IPソルベント2028(以下、「IP2028」と言う。)、実施例3は、光・紫外線安定化剤として三光化学製流動パラフィン40−Sである(以下、「流パラ40S」と言う。)。一方、比較例1はフタル酸ジプロピル、比較例2はマレイン酸ジプチル、比較例3はラウリン酸ヘキシルを用い、比較例4はメトフルトリンのみを用いた。
その結果、表4が得られた。
【表4】

〈プロフルトリンについての光・紫外線に対する安定性試験〉
上記メトフルトリンについての光・紫外線に対する安定性試験のメトフルトリンに代えてプロフルトリンを用いた。
実施例4は、光・紫外線安定化剤として「流パラ40S」を用い、比較例5はメトフルトリンのみを用いた。
その結果、表5が得られた。
【表5】

〈考察〉
表4から、実施例1では残存率が89.2%、実施例2及び3では77.6%となり、パラフィン類にはメトフルトリンの耐光性を向上させる効果が認められた。
これに対して、比較例1では73.1%、比較例2では72.1%、比較例3では60.8となり、吸光度がより高いと思われていたエステル系化合物に耐光性を向上させる効果が認められなかった。また、比較例4では69.2となり、同じく耐光性を向上させる効果が認められなかった。
また、表5からは、「流パラ40S」を用いたら83.3%となり、「流パラ40S」にプロフルトリンの耐光性を向上させる効果が認められた。
これに対して、比較例5では67.1となり、耐光性を向上させる効果が認められなかった。
したがってこのことから、本発明が見出したパラフィン類の耐光性を向上させる効果(すなわち、光・紫外線に対する安定作用)が容易に類推できるものではないことが示されたと言える。
【符号の説明】
【0075】
10薬剤揮散装置
11表容器(容器)
12裏容器(容器)
13薬剤保持体
14保持部材(保持手段)
18a第1の揮散性薬剤供給部(揮散性薬剤供給手段)
18b第2の揮散性薬剤供給部(揮散性薬剤供給手段)
20a第1の皿形状部(皿形状部)
20b第2の皿形状部(皿形状部)
25a第1の平板部(平板部)
25b第2の平板部(平板部)
27側板部
29スリット
30スタンド用片
32貫通孔」

甲7:
7a)「【0009】
本発明において用いられる防虫活性成分は、誘引した害虫を薬殺する殺虫活性成分、例えばピレスロイド化合物、有機リン化合物、カーバメート化合物等であってもよいし、誘引した害虫を不妊化して次世代の害虫密度を減少させるための昆虫成長制御活性成分、例えば幼若ホルモン活性化合物、キチン合成阻害化合物等であってもよい。」

7b)「【0022】
防虫活性成分を基材に保持させるに際しては、該活性成分に必要によりバインダー、可塑剤、溶剤、界面活性剤、安定化剤、香料、撥水剤、フィラー、粘着剤等を添加して保持させる。
・・・
【0027】
用いられる安定化剤としては、例えば、フェノール系酸化防止剤、アミン系酸化防止剤、リン系酸化防止剤、イオウ系酸化防止剤などの酸化防止剤、ベンゾトリアゾール系紫外線吸収剤、ベンゾフェノン系紫外線吸収剤、ベンゾエート系紫外線吸収剤、シアノアクリレート系紫外線吸収剤、サリチル酸系紫外線吸収剤、ヒンダードアミン系系紫外線吸収剤などの紫外線吸収剤、有機ニッケル系化合物などのクエンチャー、イソプロピルアシッドホスフェート、流動パラフィン、エポキシ化大豆油、エポキシ化菜種油、エポキシ化アマニ油等およびその混合物が挙げられる。
安定化剤の使用量は特に制限されないが、一般に防虫活性成分1重量部に対して0.05〜2重量部、好ましくは0.05〜0.5重量部である。」

甲8:
8a)「【請求項1】
有害生物防除活性成分または植物生長調節活性成分である農薬活性成分二種以上を含有する農薬組成物であって、少なくとも一種の農薬活性成分が酵母菌体内に内包されてなることを特徴とする農薬組成物。」

8b)「【0013】
農薬活性成分が、例えば上述の化合物(1)〜(39)に示される有機リン酸エステル化合物と化合物(59)〜(89)に示される含窒素複素環化合物との組合せや化合物(1)〜(39)に示される有機リン酸エステル化合物と化合物(40)〜(58)に示されるシアノベンジル型ピレスロイド化合物との組合せのように、農薬活性成分の分解が起こり易い場合において、本発明は特に有効である。・・・
【0016】
本発明組成物は必要により溶剤、分散剤、界面活性剤、増粘剤、防腐剤、凍結防止剤、水、安定化剤、バインダー、担体、香料、色素等が添加され、粉末状、粒状、水和性粉末状、水和性粒状、塊状、シート状、水中懸濁状、油中懸濁状等の形態をとり得る。
・・・
【0021】
本発明組成物において用いられる安定化剤としては、・・・。また、イソプロピルアシッドホスフェート、流動パラフィン、エポキシ化大豆油、エポキシ化アマニ油、あるいはエポキシ化ナタネ油等のエポキシ化植物油などの安定化剤も使用できる。・・・」

甲9:
9a)「【請求項1】 トランスフルスリンと、ミリスチン酸イソプロピル、ミリスチン酸ノルマルブチル、ラウリン酸ノルマルアミル、ラウリン酸ヘキシル及び流動パラフィンの群から選ばれる少なくとも1種の溶媒とを混合してなることを特徴とする害虫防除液。」

9b)「【0006】流動パラフィンとしては、沸点範囲が250℃〜460℃のものを使用することができ、好ましくは270℃〜435℃のものである。流動パラフィンとしては、例えば、沸点範囲が277〜353℃(商品名、IP2835:出光石油化学社製)、277〜363℃(商品名、流動パラフィン40S:中央化成社製)、271〜433℃(商品名、流動パラフィン55S:中央化成社製)、310〜453℃(商品名、流動パラフィン80S:中央化成社製)が挙げられる。」

9c)「【0018】
【発明の効果】本発明は、結晶の析出がない、高濃度のトランスフルスリンを含む害虫防除液を提供するものである。そして該防除液を担体(薬剤保持材)に保持させて用いる場合に、コンパクト化しても必要量のトランスフルスリンを十分に保持させることができ、十分で、安定な害虫防除効果が得られる。」

(2)引用発明
ア 刊行物1発明
刊行物1には、ドアノブ用薬剤揮散体についての発明が記載されているところ、摘示1gに、「試験の結果、表1から、実施例1〜11については、使用期間の初期段階から末期段階まで、安定した防虫効果が発現することがわかった。」との記載があり、表1には、各実施例についての防虫性能試験の結果が、「10日後」、「30日後」等と所定の日数後の評価が記載されているところ、評価がされた各日毎に使用期間として把握できる。
したがって、摘示1a〜1h、特に1a、1f〜1hの記載、1gの表1において防虫性能試験で○の結果が記載されていることからみて、刊行物1には、
「開口部を有する薬剤容器の内部に常温揮散性薬剤を保持させた担体を収納した、飛翔害虫を駆除又は忌避するためのドアノブ用薬剤揮散体であって、
以下の表1の実施例1に示すように、ポリエチレン系樹脂にメトフルトリンを練り込んだ後、線径を0.7mmにしてメッシュ状に成形した常温揮散性薬剤を含浸させた担体を作製し、次に、当該担体700mm3を、略直方体状に成形した長さ170mm×幅50mm×厚み13mmのポリエステル製の本体部と、側面視が円弧状になるように成形した長さ170mm、幅50mm、中心部の厚みが25mm、端部の厚みが5mmの蓋体とからなる薬剤容器に収納して作製した、また、常温揮散性薬剤、側面、正面、背面の開口部の開口率、側面に設けられた開口部(A)と正面及び背面に設けられた開口部(B)との面積比(開口比率)を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして作製した実施例2〜8、10〜11の、使用期間が10、30、60又は120日であるドアノブ用薬剤揮散体。
【表1】

表1中、KT50からの評価の方法は次のとおり。
(防虫性能試験)
上記にて作製したドアノブ用薬剤揮散体を25m3の部屋(床面積10m2×高さ2.5m)のドアノブにフック部を用いて引っ掛け、常温揮散性薬剤を室内に揮散させた。所定期間後、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、時間の経過に伴う仰転数を数え、KT50値を求めた。KT50値により、以下のように評価した。
○:40分未満、△:40分以上80分未満、×:80分以上」の発明(以下「刊行物1発明1」という。)及び
「開口部を有する薬剤容器の内部に常温揮散性薬剤を保持させた担体を収納した、飛翔害虫を駆除又は忌避するためのドアノブ用薬剤揮散体であって、
以下の表1の実施例1に示すように、ポリエチレン系樹脂にメトフルトリンを練り込んだ後、線径を0.7mmにしてメッシュ状に成形した常温揮散性薬剤を含浸させた担体を作製し、次に、当該担体700mm3を、略直方体状に成形した長さ170mm×幅50mm×厚み13mmのポリエステル製の本体部と、側面視が円弧状になるように成形した長さ170mm、幅50mm、中心部の厚みが25mm、端部の厚みが5mmの蓋体とからなる薬剤容器に収納して作製した、また、常温揮散性薬剤、側面、正面、背面の開口部の開口率、側面に設けられた開口部(A)と正面及び背面に設けられた開口部(B)との面積比(開口比率)を表1に示すようにした以外は、実施例1と同様にして作製した実施例2〜8、10〜11の、使用期間が10、30、60又は120日であるドアノブ用薬剤揮散体を使用することによる飛翔害虫を駆除又は忌避する方法。
【表1】

表1中、KT50からの評価の方法は次のとおり。
(防虫性能試験)
上記にて作製したドアノブ用薬剤揮散体を25m3の部屋(床面積10m2×高さ2.5m)のドアノブにフック部を用いて引っ掛け、常温揮散性薬剤を室内に揮散させた。所定期間後、アカイエカ雌成虫50匹を放ち、時間の経過に伴う仰転数を数え、KT50値を求めた。KT50値により、以下のように評価した。
○:40分未満、△:40分以上80分未満、×:80分以上」の発明(以下「刊行物1発明2」という。)が記載されていると認める。

イ 刊行物2発明
摘示2a〜2h、特に2a、2f〜2hの記載からみて、刊行物2には、
「メトフルトリン、トランスフルトリン又はプロフルトリンである常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する繊維状物からなる立体状メッシュを有する立体構造体からなる、飛翔害虫を駆除又は忌避するための薬剤揮散体において、
この立体構造体の空隙率が70〜99%であることを特徴とする薬剤揮散体であって、
下記表1の実施例1に示されるとおり、50℃に加温したメトフルトリン10量部をシリカ6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE−A44重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmの常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレットを製造し、前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレット100重量部とLDPE−B300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、得た、また、表1に示す常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及びその量を用い、樹脂フィラメントの最短径(b)、立体構造体の大きさ及び空隙率を表1に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にして、製造した下記表1の実施例2〜5で示される立体構造体からなる、薬剤揮散体。
【表1】

」の発明(以下「刊行物2発明1」という。)及び
「メトフルトリン、トランスフルトリン又はプロフルトリンである常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する繊維状物からなる立体状メッシュを有する立体構造体からなる、飛翔害虫を駆除又は忌避するための薬剤揮散体において、
この立体構造体の空隙率が70〜99%であることを特徴とする薬剤揮散体であって、
下記表1の実施例1に示されるとおり、50℃に加温したメトフルトリン10量部をシリカ6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE−A44重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmの常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレットを製造し、前記常温揮散性ピレスロイド系防虫成分含有樹脂ペレット100重量部とLDPE−B300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、得た、また、表1に示す常温揮散性ピレスロイド系防虫成分及びその量を用い、樹脂フィラメントの最短径(b)、立体構造体の大きさ及び空隙率を表1に記載の通りにした以外は、実施例1と同様にして、製造した下記表1の実施例2〜5で示される立体構造体からなる、薬剤揮散体を使用することによる飛翔害虫を駆除又は忌避する方法。
【表1】

」の発明(以下「刊行物2発明2」という。)が記載されていると認める。

ウ 刊行物3発明
摘示3a〜3e、特に3a、3dの記載からみて、刊行物3には、
「揮散装置本体と、これに振り子運動可能に取付けられる振り子部材とからなり、前記振り子部材の上端部に薬剤揮散体及び下端部に永久磁石が備えられ、前記揮散装置本体には前記永久磁石と対向可能な位置に電磁石が設置されており、前記永久磁石と電磁石との吸引力並びに反発力から生じる振り子運動を利用して前記薬剤揮散体から薬剤を揮散させる、飛翔害虫を駆除又は忌避するための薬剤揮散装置において、
前記薬剤揮散体は、25℃における蒸気圧が1〜100mPaである揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有したものであり、しかも前記薬剤揮散体がその振り子運動により1分間あたり動作する角度の累計(角振幅×振動数)をラジアンで表したとき、5π〜150πラジアン/分の範囲であり、前記揮散性ピレスロイド系防虫成分が、メトフルトリン、トランスフルトリン又はプロフルトリンであることを特徴とする薬剤揮散装置であって、
揮散性ピレスロイド系防虫成分・メトフルトリン10重量部を50℃に加温してシリカ6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE−A44重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのメトフルトリン含有樹脂ペレットを製造し、該ペレット100重量部とLDPE−B300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、得た、下記表1で示される薬剤揮散体及び上記に準じて製造した薬剤揮散体を、下記表2に示す仕様の振り子部材に取り付け、揮散装置本体にセットして作製した薬剤揮散装置。
【表1】

【表2】

」の発明(以下「刊行物3発明1」という。)及び
「揮散装置本体と、これに振り子運動可能に取付けられる振り子部材とからなり、前記振り子部材の上端部に薬剤揮散体及び下端部に永久磁石が備えられ、前記揮散装置本体には前記永久磁石と対向可能な位置に電磁石が設置されており、前記永久磁石と電磁石との吸引力並びに反発力から生じる振り子運動を利用して前記薬剤揮散体から薬剤を揮散させる、飛翔害虫を駆除又は忌避するための薬剤揮散装置において、
前記薬剤揮散体は、25℃における蒸気圧が1〜100mPaである揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有したものであり、しかも前記薬剤揮散体がその振り子運動により1分間あたり動作する角度の累計(角振幅×振動数)をラジアンで表したとき、5π〜150πラジアン/分の範囲であり、前記揮散性ピレスロイド系防虫成分が、メトフルトリン、トランスフルトリン又はプロフルトリンであることを特徴とする薬剤揮散装置であって、
揮散性ピレスロイド系防虫成分・メトフルトリン10重量部を50℃に加温してシリカ6重量部に担持させた後、これにEVA40重量部、及びLDPE−A44重量部を、(株)テクノベル製:二軸押出し成形機を用いて、120〜140℃で混練・押出成形し、直径3mm、長さ5mmのメトフルトリン含有樹脂ペレットを製造し、該ペレット100重量部とLDPE−B300重量部(着色剤ペレット10重量部を含む)を120〜140℃で混練後、インジェクション成形機に投入し、得た、下記表1で示される薬剤揮散体及び上記に準じて製造した薬剤揮散体を、下記表2に示す仕様の振り子部材に取り付け、揮散装置本体にセットして作製した薬剤揮散装置を使用することによる飛翔害虫を駆除又は忌避する方法。
【表1】

【表2】

」の発明(以下「刊行物3発明2」という。)が記載されていると認める。

エ 甲4発明
摘示4a〜4h、特に4gの実施例1及び2の記載からみて、甲4には、
「ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.8g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:10%)に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55−S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される薬剤又は防虫成分[トランスフルトリン]600mg、香料成分[ムスクケトン(沸点;395℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒドを含む]350mg、並びにラウリン酸ヘキシル(沸点;337℃)200mgから構成される薬剤を担持させて得た香り付き防虫剤。」の発明(以下「甲4発明1」という。)及び
「ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.8g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:10%)に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg、香料成分[エチレンブラシレート(沸点;332℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒド(沸点;305℃)を含む]350mg、並びにパラフィン系炭化水素[三光化学工業株式会社製の流動パラフィン「55−S」(50%留分の沸点;341℃)]200mgから構成される薬剤又は防虫成分[トランスフルトリン]600mg、香料成分[ムスクケトン(沸点;395℃)、及びヘキシルシンナミックアルデヒドを含む]350mg、並びにラウリン酸ヘキシル(沸点;337℃)200mgから構成される薬剤を担持させる香り付き防虫剤による、害虫を駆除及び忌避する方法。」の発明(以下「甲4発明2」という。)が記載されていると認める。

2 当審が通知した取消理由について
理由1について
ア (1−1)について
本件発明1において、「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されて」いることが特定されるとともに、担体について「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」であることが特定されているところ、訂正された、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「本件明細書等」という。)には「網目構造を有するシート状の担体の場合、保持濃度の算出は、シート状の担体の面積から開口部の面積を除いた面積で算出する。網目構造を有するシート状の担体は、50〜200cm2程度の面積を有し、5〜30%程度の開口率を有するものが好ましい。」(【0013】)との記載がある。
してみると、本件発明1において特定されている上記「濃度」は、シート状の担体に保持されている式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物の重量と「シート状の担体の面積から開口部の面積を除いた面積で算出される」ことは明らかである。なお、技術常識からみて、当該「面積」とはシート状の担体の片面の面積であるといえる。
したがって、本件発明1の特許を受けようとする発明は明確である。
本件発明3〜5についても同様である。

イ (1−2)について
本件発明1において、「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材」であることが特定され、「A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)」と特定されているところ、本件明細書等には、「1日の平均気温を30℃とした場合、主なピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量は下記のとおりである。
トランスフルトリン:4.5mg/日
メトフルトリン:2.0mg/日
プロフルトリン:4.5mg/日」(【0017】)との記載がある。
したがって、本件発明1において特定される「A」は、トランスフルトリン、メトフルトリン及びプロフルトリンについて、それぞれ、4.5、2.0及び4.5mg/日であるといえる。
技術常識からみて、常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)は、風の有無、強弱等によって変化するといえるとしても、上述のとおり、本件発明1において「A」は特定の値であるといえる。
したがって、本件発明1の特許を受けようとする発明は明確である。
本件発明3〜5についても同様である。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、理由1は理由がない。

理由2、3について
ア 対比・判断
(ア)本件発明1について
a 刊行物1について
本件発明1と刊行物1発明1とを対比する。
刊行物1発明1の「飛翔害虫を駆除又は忌避するためのドアノブ用薬剤揮散体」は、本件発明1の「害虫防除材」に相当する。
刊行物1発明1は、「常温揮散性薬剤を保持させた担体」を有し、常温揮散性薬剤として、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリンを用いたものであるところ、これらは、本件発明1の「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含」むこと、「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であること」に相当する。
してみると、本件発明1と刊行物1発明1は、
「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1−1>
担体について、本件発明1が「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」と特定しているのに対し、刊行物1発明1は「ポリエチレン系樹脂に常温揮散性薬剤を練り込んだ後、線径を表1に記載のとおりにしてメッシュ状に成形した常温揮散性薬剤を含浸させた担体」であって、その体積が「700mm3」である点。

<相違点1−1−2>
本件発明1が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、刊行物1発明1において、用いられた担体は、長さ170mm×幅50mm×厚み13mmのポリエステル製の本体部と、側面視が円弧状になるように成形した長さ170mm、幅50mm、中心部の厚みが25mm、端部の厚みが5mmの蓋体とからなる薬剤容器に収納されており、常温揮散性薬剤、常温揮散性薬剤の含有量、KT50値からの評価(評価した日)が表1に記載のとおりである点。

上記相違点について検討する。
刊行物1発明1においては、担体の開口率の特定がなく、刊行物1発明1の担体の開口率が5〜30%であるとする技術常識もない。
したがって、相違点1−1−1は実質的な相違点であるから、相違点1−1−2について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1に記載された発明であるとはいえない。

また、刊行物1には、ドアノブに係止して使用した場合においても、常温揮散性薬剤の十分な揮散効率を確保することができるドアノブ用薬剤揮散体の提供を目的とし、当該目的を達成するために、薬剤容器の開口部の面積を特定のものとしたことが記載されている(摘示1b)ところ、担体がメッシュである場合のメッシュの網目(目開き)の大きさ(開孔率)は、揮散効率と通気性の点から40〜85%の範囲にすることが好ましいことが記載されているから(摘示1c)、刊行物1発明1において、開孔率(開口率)がこれとは範囲の異なることを含む、「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」とすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

したがって、相違点1−1−2及び本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物1に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

b 刊行物2について
本件発明1と刊行物2発明1とを対比する。
刊行物2発明1の「飛翔害虫を駆除又は忌避するための薬剤揮散体」は、本件発明1の「害虫防除材」に相当する。
刊行物2発明1は、「メトフルトリン、トランスフルトリン又はプロフルトリンである常温揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有する繊維状物からなる立体状メッシュを有する立体構造体からなる」ところ、当該「立体構造体」は本件発明1の「担体」に相当するから、本件発明1の「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含」むこと、「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であること」に相当する。
してみると、本件発明1と刊行物2発明1は、
「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−2−1>
担体について、本件発明1が「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」と特定しているのに対し、刊行物2発明1は「繊維状物からなる立体状メッシュを有する立体構造体」であって、その空隙率が、「97%」、「93%」、「91%」、「88%」、「83%」である点。

<相違点1−2−2>
本件発明1が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、刊行物2発明1は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の種類及び含有量、立体構造体(担体)のサイズ及び空隙率、平均揮散量、揮散時間が表1に記載のとおりである点。

上記相違点1−2−1について検討する。
刊行物2発明1の「空隙率」は本件発明1の「開口率」に相当すると認められるところ、それぞれ、「97%」、「93%」、「91%」、「88%」、「83%」であって、本件発明1の「5〜30%」とは大きく異なっており、刊行物2発明1の開口率が5〜30%であるとする技術常識もない。
したがって、相違点1−2−1は実質的な相違点であるから、相違点1−2−2について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物2に記載された発明であるとはいえない。

また、刊行物2には、薬剤揮散体内部の空気の流れを改善し、空気の流れやすい構造を有する薬剤揮散体を提供することを目的とし、立体構造体の空隙率が70〜99%であることを特徴とする薬剤揮散体とすることを含む構成が前記目的を達成するために優れた効果を奏することを見出したものである(摘示2b)ことが記載されているから、刊行物2発明1において、立体空隙率(開口率)がこれとは異なる範囲であることを含む、「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」とすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

したがって、相違点1−2−2及び本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物2に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 刊行物3について
本件発明1と刊行物3発明1とを対比する。
刊行物3発明1の「飛翔害虫を駆除又は忌避するための薬剤揮散装置」は、本件発明1の「害虫防除材」に相当する。
刊行物3発明1は、「薬剤揮散体は、25℃における蒸気圧が1〜100mPaである揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有したものであり」、「揮散性ピレスロイド系防虫成分が、メトフルトリン、トランスフルトリン又はプロフルトリンである」ところ、「揮散性ピレスロイド系防虫成分」を除く「薬剤揮散体」は本件発明1の「担体」に相当し、「25℃における蒸気圧が1〜100mPaである揮散性」であることは、本件発明1の「常温揮散性」に相当するから、本件発明1の「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含」むこと、「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であること」に相当する。
してみると、本件発明1と刊行物3発明1は、
「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−3−1>
担体について、本件発明1が「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」と特定しているのに対し、刊行物3発明1は、他成分、構造、サイズ、網目面積が表1のとおりである点。

<相違点1−3−2>
本件発明1が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、刊行物3発明1は、防虫成分、構造、サイズ、網目面積、用途(日数)が表1のとおりである点。

上記相違点1−3−1について検討する。
刊行物3発明1における担体(防虫成分を除く薬剤揮散体)の開口率は不明であり、開口率が5〜30%であるという技術常識もない。
したがって、相違点1−3−1は実質的な相違点であるから、相違点1−3−2について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物3に記載された発明であるとはいえない。

また、刊行物3には、振り子運動を利用するとともに、従来のファン式蚊取と較べてさほど遜色なく効率的に薬剤を揮散させ得る薬剤揮散装置を提供することを目的とし、揮散装置本体と振り子部材とからなる、特定の構造を有する薬剤揮散装置であって、かつ、薬剤揮散体が特定の蒸気圧を有する揮散性ピレスロイド系防虫成分を含有するものとすることによって、当該目的を達成したものであって、開口率に着目する動機付けはなく、また、刊行物3発明1の構造体のサイズ及び網目面積並びに図面等の刊行物3の記載をみても、「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」とすることは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

したがって、相違点1−3−2及び本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は刊行物3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに技術的に特定するものであるから、本件発明1と同様に、刊行物1〜3に記載された発明であるとはいえず、刊行物1〜3に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(ウ)本件発明4について
a 刊行物1について
上記(ア)aと同様に本件発明4と刊行物1発明2とを対比すると、両者は、
「常温揮散性のピレスロイド系化合物が保持された担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除に関する方法であって、常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4−1−1>
担体について、本件発明4が「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」と特定しているのに対し、刊行物1発明2は「ポリエチレン系樹脂に常温揮散性薬剤を練り込んだ後、線径を表1に記載のとおりにしてメッシュ状に成形した常温揮散性薬剤を含浸させた担体」であって、その体積が「700mm3」である点。

<相違点4−1−2>
本件発明4が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、刊行物1発明2において、用いられた担体は、長さ170mm×幅50mm×厚み13mmのポリエステル製の本体部と、側面視が円弧状になるように成形した長さ170mm、幅50mm、中心部の厚みが25mm、端部の厚みが5mmの蓋体とからなる薬剤容器に収納されており、常温揮散性薬剤、常温揮散性薬剤の含有量、KT50値からの評価(評価した日)が表1に記載のとおりである点。

<相違点4−1−3>
常温揮散性のピレスロイド系化合物の揮散について、本件発明4が「少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように」揮散させると特定しているのに対し、刊行物1発明2はそのような特定をしていない点。

<相違点4−1−4>
害虫防除に関する方法について、本件発明4が「害虫防除効力維持方法」であるのに対し、刊行物1発明2は「飛翔害虫を駆除又は忌避する方法」である点。

上記相違点について検討するに、相違点4−1−1は、上記相違点1−1−1と同様の相違点であり、吊り下げ式防虫剤の気中濃度に関する記載がある刊行物5の記載事項(摘示5a〜5c)をみても、相違点4−1−1に係る本件発明4の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、相違点4−1−2〜4−1−4及び本件発明4が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明4は、刊行物1及び5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

b 刊行物2について
上記(ア)bと同様に本件発明4と刊行物2発明2とを対比すると、両者は、
「常温揮散性のピレスロイド系化合物が保持された担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除に関する方法であって、常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4−2−1>
担体について、本件発明4が「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」と特定しているのに対し、刊行物2発明2は「繊維状物からなる立体状メッシュを有する立体構造体」であって、その空隙率が、「97%」、「93%」、「91%」、「88%」、「83%」である点。

<相違点4−2−2>
本件発明4が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、刊行物2発明2は、常温揮散性ピレスロイド系防虫成分の種類及び含有量、立体構造体(担体)のサイズ及び空隙率、平均揮散量、揮散時間が表1に記載のとおりである点。

<相違点4−2−3>
常温揮散性のピレスロイド系化合物の揮散について、本件発明4が「少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように」揮散させると特定しているのに対し、刊行物2発明2はそのような特定をしていない点。

<相違点4−2−4>
害虫防除に関する方法について、本件発明4が「害虫防除効力維持方法」であるのに対し、刊行物2発明2は「飛翔害虫を駆除又は忌避する方法」である点。

上記相違点について検討するに、相違点4−2−1は、上記相違点1−2−1と同様の相違点であり、吊り下げ式防虫剤の気中濃度に関する記載がある刊行物5の記載事項(摘示5a〜5c)をみても、相違点4−2−1に係る本件発明4の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、相違点4−2−2〜4−1−4及び本件発明4が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明4は、刊行物2及び5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

c 刊行物3について
上記(ア)cと同様に本件発明4と刊行物3発明2とを対比すると、両者は、
「常温揮散性のピレスロイド系化合物が保持された担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除に関する方法であって、常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4−3−1>
担体について、本件発明4が「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」と特定しているのに対し、刊行物3発明2は、他成分、構造、サイズ、網目面積が表1のとおりである点。

<相違点4−3−2>
本件発明4が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、刊行物3発明2は、防虫成分、構造、サイズ、網目面積、用途(日数)が表1のとおりである点。

<相違点4−3−3>
常温揮散性のピレスロイド系化合物の揮散について、本件発明4が「少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように」揮散させると特定しているのに対し、刊行物3発明2はそのような特定をしていない点。

<相違点4−3−4>
害虫防除に関する方法について、本件発明4が「害虫防除効力維持方法」であるのに対し、刊行物3発明2は「飛翔害虫を駆除又は忌避する方法」である点。

上記相違点について検討するに、相違点4−3−1は、上記相違点1−3−1と同様の相違点であり、吊り下げ式防虫剤の気中濃度に関する記載がある刊行物5の記載事項(摘示5a〜5c)をみても、相違点4−3−1に係る本件発明4の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、相違点4−3−2〜4−3−4及び本件発明4が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明4は、刊行物3及び5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(エ)本件発明5について
本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに技術的に特定するものであるから、本件発明4と同様に、刊行物1〜3、5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ まとめ
以上のとおりであるから、理由2、3は理由がない。

3 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
(1)申立理由1−1、1−2について
ア 申立理由1−1は甲1〜4を証拠方法とするものであるところ、甲1〜3を証拠方法とする理由1−1は、取消理由通知で通知した理由2と同じである。

イ 申立理由1−2のうち甲1〜3を主引用例とするものについて、上記相違点1−1−1、1−2−1及び1−3−1に係る本件発明1の技術的事項については、甲1〜4に記載された事項を考慮しても、刊行物1発明1、刊行物2発明1及び刊行物3発明1のそれぞれにおいて採用することは当業者が容易になし得た事項であるとする理由はない。
したがって、上記2で述べたのと同様に、本件発明1、3は甲1〜4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ 甲4を主引用例とする理由について
(ア)対比・判断
a 本件発明1について
本件発明1と甲4発明1とを対比する。
甲4発明1の「香り付き防虫剤」は、本件発明1の「害虫防除材」に相当する。
甲4発明1は「担体」を用い、該担体が「ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.8g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:10%)」であるところ、ネット状であること及びそのサイズが平面で特定されていることから、シート状で、網目構造を有するといえる。また、「ネットの目開き」は、本件発明1の「開口率」に相当する。したがって、甲4発明1の「担体」は本件発明1の「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体」に相当する。
甲4発明1は「担体」に「防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]」を「担持」させたものであるところ、これは、本件発明1の「担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み」、「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種である」ことに相当する。
してみると、本件発明1と甲4発明1とは、
「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−4−1>
本件発明1が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、甲4発明1は、「ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.8g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:10%)に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg」を「担持」させたものである点。

上記相違点1−4−1について検討するに、甲4発明1の防虫剤の1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)は不明であり、保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)との式を満たすかも不明であり、保持量がかかる値であることが技術常識であるともいえない。

したがって、本件発明1は甲4に記載された発明であるとはいえない。

また、甲4には、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分を長期間に亘って揮散し続けることができ、さらに、当該ピレスロイド系防虫成分によって防虫効果が得られる期間と、香料成分によって芳香効果が得られる期間とを連動させることが可能な香り付き防虫剤、香り付き防虫器、及び香り付き防虫剤の製造方法を提供することを目的とし、防虫剤の特徴構成が、樹脂を含む担体に、常温で揮散性を有するピレスロイド系防虫成分と、250〜400℃の範囲に沸点を有する香料成分とを担持させたことにあることが記載されている(摘示4c)一方で、本件明細書等には、「本開示の課題は、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮し得る害虫防除材および害虫防除方法を提供することである。」(【0005】)、「式(I)中の「100mg」は、本開示の害虫防除材において重要なファクターである。すなわち、ピレスロイド系化合物が担体に100mg保持されていれば、害虫を防除するのに十分な気中濃度でピレスロイド系化合物が揮散することを見出して、本開示の害虫防除材はなされたものである。保持量が100mg未満になると、害虫を防除するのに十分な気中濃度でピレスロイド系化合物が揮散せず、防除効果が発揮されなくなる。」(【0016】)と記載されていることから、本件発明1の式(I)は、使用期間終了時に少なくとも100mgのピレスロイド系化合物が残存することによって、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮し得る害虫防除材および害虫防除方法を提供することができたものであると解されるところ、甲4発明1では、使用期間、1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)はいずれも不明であり、保持量がかかる値であることが技術常識であるともいえず、甲4には、上記したような本件発明1の技術的思想は記載も示唆もされておらず、上記相違点1−4−1に係る本件発明1の技術的事項を記載・示唆する記載もない。また、甲1〜3にも、上記相違点1−4−1に係る本件発明1の技術的事項を記載・示唆する記載はない。
したがって、甲4発明1において、上記相違点1−4−1に係る本件発明1の技術的事項を採用することは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

よって、本件発明1が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明1は甲1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

b 本件発明3について
本件発明3は、本件発明1を引用し、さらに技術的に特定するものであるから、本件発明1と同様に、甲4に記載された発明であるとはいえず、甲1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

エ まとめ
したがって、申立理由1−1、1−2は理由がない。

(2)申立理由2について
ア 本件発明4について
(ア)甲1〜3を主引用例とする理由
本件発明4と甲1〜3に記載された発明との一致点・相違点は、上記2(2)ア(ウ)に示したとおりであるところ、相違点4−1−1、4−2−1及び4−3−1に係る本件発明4の技術的事項は、甲1〜4に記載された事項とさらに吊り下げ式防虫剤の気中濃度に関する記載がある刊行物5の記載事項(摘示5a〜5c)をみても、刊行物1発明2、刊行物2発明2及び刊行物3発明2のそれぞれにおいて採用することは当業者が容易になし得た事項であるとする理由はない。
したがって、上記2で述べたのと同様に、本件発明4は甲1〜5に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(イ)甲4を主引用例とする理由
上記(1)(ア)aと同様に本件発明4と甲4発明2を対比すると、両者は、
「5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除に関する方法であって、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除に関する方法。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点4−4−1>
本件発明4が「下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された、」、「保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I) A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日) B:使用期間(120日以下)」と特定しているのに対し、甲4発明2は、「ネット状の担体(サイズ:9cm×14cm、重量:2.8g、撚り合わせ数:40本、ネットの目開き:10%)に、防虫成分[トランスフルトリン(沸点;340℃)]600mg」を「担持」させたものである点。

<相違点4−4−2>
常温揮散性のピレスロイド系化合物の揮散について、本件発明4が「少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように」揮散させると特定しているのに対し、甲4発明2はそのような特定をしていない点。

<相違点4−4−3> 害虫防除に関する方法について、本件発明4が「害虫防除効力維持方法」であるのに対し、甲4発明2は「害虫を駆除及び忌避する方法」である点。

上記相違点について検討するに、相違点4−4−1は、上記相違点1−4−1と同様の相違点であり、甲1〜4の記載をみても、また、さらに、吊り下げ式防虫剤の気中濃度に関する記載がある刊行物5の記載事項(摘示5a〜5c)をみても、相違点4−4−1に係る本件発明4の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。
したがって、相違点4−4−2〜4−4−3及び本件発明4が奏する効果について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1〜5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明5について
本件発明5は、本件発明4を引用し、さらに技術的に特定するものであるから、本件発明4と同様に、甲1〜5に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

ウ まとめ
したがって、申立理由2は理由がない。

(3)申立理由3について
ア いわゆるサポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 本件明細書等の記載
本件明細書等には以下の記載がある。
本1)「【技術分野】
【0001】
本開示は、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮し得る害虫防除材およびそれを用いた害虫防除方法に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、ネットなどの薬剤保持体に薬剤を含浸させた虫よけ材が報告されている(例えば、特許文献1および2)。このような虫よけ材は、薬剤としてトランスフルトリンやメトフルトリンなど自然蒸散する薬剤を使用し、飛翔害虫が家屋内などに侵入するのを防止するものである。このような虫よけ材は、一般に使用期間が定められている。
【0003】
このような虫よけ材は、薬剤含浸量が多い使用初期には十分な虫よけ効果を発揮する。しかし、使用終期に近づくと、薬剤含浸量の減少とともに効力が低下するため、使用開始時から終了時まで安定した効力を発揮させることができないという問題がある。
・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本開示の課題は、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮し得る害虫防除材および害虫防除方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本開示の害虫防除材は、担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、少なくとも下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に保持されている。さらに、本開示の害虫防除方法は、少なくとも下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が保持された担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように揮散させる。
保持量(mg)=100mg+A×B (I)
A:常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(日数)
【発明の効果】
【0007】
本開示によれば、使用開始時から終了時まで、安定して優れた害虫に対する防除効果が発揮される。」

本2)「【発明を実施するための形態】
【0009】
本開示の害虫防除材は、担体とこの担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物(以下、単に「ピレスロイド系化合物」と記載する場合がある)とを含む。本明細書において「防除」とは、害虫の侵入を阻止すること(忌避)、害虫を駆除すること(殺虫)、害虫をノックダウンさせること、および害虫に不快行動(例えば吸血行動、刺咬行動など)を起こさせないようにすることの少なくとも1つを意味する。
【0010】
本開示の害虫防除材に用いられる担体は、ピレスロイド系化合物を保持できれば特に限定されない。担体の材料としては、例えば、糸(撚り糸など)、不織布、木材、パルプ(紙)、無機高分子物質、無機多孔質物質(ケイ酸塩、シリカ、ゼオライトなど)、有機高分子物質(セルロース、ポリエステル、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリビニルアルコールなど)などが挙げられる。また、自重の数倍以上を保持できる担体、例えば高吸液性ポリマー、綿、海綿体、連続気泡の発泡体などを用いてもよい。
【0011】
担体の形状は特に限定されず、揮散方法によって適宜設定すればよい。例えば、本開示の害虫防除材が自然揮散用の場合、ピレスロイド系化合物が効率よく大気中に放出されるように、網目構造を有するシート状の担体を用いることが好ましい。網目構造を有するシート状の担体としては、ネット状、メッシュ状、レース状などのように多数の連続的または断続的な空隙を有する生地が挙げられる。このような生地を形成している横糸および縦糸は、真直ぐであってもよいし、ジグザグになっていてもよい。
【0012】
自然揮散用の場合、本開示の害虫防除材は、通常、窓やドア、室内などに吊り下げて使用される。この場合、網目構造を有するシート状の担体に保持されたピレスロイド系化合物は、重力方向に偏りやすい。吊り下げて使用しても、偏りを生じにくくするために、例えば、横糸にピレスロイド系化合物を含浸させ得る素材を採用し、縦糸に非含浸性の素材を採用するのが好ましい。担体がこのように形成されていると、横糸に含浸された薬剤が一定幅ごとに縦糸で固定されるので、偏りが生じにくくなる。
【0013】
担体の大きさは、保持させるピレスロイド系化合物の種類や、害虫防除材の使用期間などを考慮して適宜設定される。例えば、害虫防除材の使用終了時に、ピレスロイド系化合物が少なくとも1mg/cm2の濃度で残存するような大きさの担体が好ましい。網目構造を有するシート状の担体の場合、保持濃度の算出は、シート状の担体の面積から開口部の面積を除いた面積で算出する。網目構造を有するシート状の担体は、50〜200cm2程度の面積を有し、5〜30%程度の開口率を有するものが好ましい。このような網目構造を有するシート状の担体を用いることによって、式(I)に示される保持量のピレスロイド系化合物を、十分な薬剤濃度で保持させることができる。
【0014】
このような担体に保持されるピレスロイド系化合物は特に限定されず、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エンペントリン、テラレスリン、フラメトリン、テフラメトリン、ジメトリン、ジメフルトリン、メパフルトリンなどが挙げられる。ピレスロイド系化合物は単独で用いてもよく、2種以上を併用してもよい。
【0015】
本開示の害虫防除材において、ピレスロイド系化合物は、少なくとも下記の式(I)に示される保持量で、担体に保持される。ピレスロイド系化合物がこのような保持量で保持されていると、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果が発揮される。
保持量(mg)=100mg+A×B (I)
A:ピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(日数)
【0016】
式(I)中の「100mg」は、本開示の害虫防除材において重要なファクターである。すなわち、ピレスロイド系化合物が担体に100mg保持されていれば、害虫を防除するのに十分な気中濃度でピレスロイド系化合物が揮散することを見出して、本開示の害虫防除材はなされたものである。保持量が100mg未満になると、害虫を防除するのに十分な気中濃度でピレスロイド系化合物が揮散せず、防除効果が発揮されなくなる。
【0017】
この「100mg」に、使用するピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)に防除材の使用期間(日数)を乗じて得られる量を加えて保持量とすればよい。1日あたりの揮散量(揮散速度)は、気温が高いほど多くなり、気温が低いほど少なくなる。そこで、最も気温が高くなる夏季の気温を考慮して、1日あたりの最大揮散量を規定すればよい。1日の平均気温を30℃とした場合、主なピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量は下記のとおりである。
トランスフルトリン:4.5mg/日
メトフルトリン:2.0mg/日
プロフルトリン:4.5mg/日
・・・
【0020】
例えば、ピレスロイド系化合物としてトランスフルトリンを用い、60日間使用する防除材を得る場合、少なくとも370mg(100mg+4.5mg/日×60日)、好ましくは少なくとも470mg(200mg+4.5mg/日×60日)のトランスフルトリンを担体に保持させればよい。120日間使用する防除材であれば、少なくとも640mg(100mg+4.5mg/日×120日)、好ましくは少なくとも740mg(200mg+4.5mg/日×120日)のトランスフルトリンを担体に保持させればよい。
【0021】
ピレスロイド系化合物を担体に保持させる濃度は特に限定されない。効率よく自然に揮散させるために、ピレスロイド系化合物は、例えば少なくとも2mg/cm2、好ましくは少なくとも2.5mg/cm2、より好ましくは少なくとも3mg/cm2の濃度で担体に保持される。なお、上限については特に限定されず、担体に保持させ得る飽和量を考慮すると、多くても7mg/cm2程度である。ピレスロイド系化合物の保持量(総量)は、化合物の種類、使用期間などによって異なるため、担体の大きさによって濃度を調整すればよい。
【0022】
ピレスロイド系化合物を担体に保持させる方法は特に限定されない。例えば、ピレスロイド系化合物を担体に滴下塗布やスプレー塗布する方法、含浸させる方法、練り込む方法などが挙げられる。ピレスロイド系化合物を担体に保持させる際に、ピレスロイド系化合物を溶剤に溶解させて用いてもよい。溶剤としては、例えば水、アルコール類(メタノール、エタノールなど)、エーテル類(テトラヒドロフラン、ジオキサンなど)、脂肪族炭化水素類(ヘキサン、パラフィン、流動パラフィン、石油ベンジンなど)、エステル類(酢酸エチルなど)などが挙げられる。
【0023】
ピレスロイド系化合物は、上述のように、害虫防除材の使用終了時にピレスロイド系化合物が少なくとも1mg/cm2の濃度で残存するような保持濃度で保持させるのが好ましい。さらに、本開示の害虫防除材には、ピレスロイド系化合物以外に、本開示の効果を阻害しない範囲で、香料、酸化防止剤、消臭剤、色素、キレート剤、界面活性剤、保留剤、pH調整剤、殺菌剤、防カビ剤などの添加剤が含まれていてもよい。
【0024】
本開示の害虫防除材は、通常、自然揮散用として使用され、例えば風のある環境下に設置して使用される。「風のある環境下」とは、自然または強制的に気流が生じている環境を意味する。強制的な気流とは、扇風機、送風機、エアコンなどの送風手段による気流、ドア、障子、窓などの開閉によって生じる気流、団扇や扇子による気流などが挙げられる。
【0025】
本開示に係る害虫防除材の使用方法は特に限定されない。例えば、窓やドア、室内などに吊り下げて使用される。害虫防除効果を発揮させるためには、ピレスロイド系化合物の気中濃度が少なくとも0.05μg/m3、好ましくは0.1μg/m3となるように揮散させればよい。例えば、トランスフルトリンまたはプロフルトリンを用いる場合は、少なくとも0.5μg/m3の気中濃度となるように揮散させることが好ましい。メトフルトリンを用いる場合は、少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように揮散させることが好ましい。害虫の侵入口付近に、ピレスロイド系化合物が上記のような気中濃度で揮散していれば、侵入口に近づいてきた害虫に対しては忌避効果が発揮され、既に侵入している害虫に対してはノックダウン効果などが発揮される。」

本3)「【実施例】
【0027】
以下、実施例および比較例を挙げて本開示の害虫防除材および害虫防除方法を具体的に説明するが、本開示の害虫防除材および害虫防除方法はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0028】
(実施例1:準自然環境下での侵入阻害試験)
<処理区>
図1に示すように、約100m2の試験区域1内に、12畳の居室11を設置した。居室11以外の空間を居室外12とする。試験区域1の高さは3.5mであり、居室11の高さは2.4mであった。次いで、200mgのトランスフルトリンと100mgの流動パラフィンとの混合物を、担体に含浸させて検体13を得た。担体として、縦14cm、横9cm、開口率が15%のメッシュ状のポリエステル製の担体を用いた。なお、以下の試験において、特に記載のない場合には、環境温度20〜30℃にて実施した。
【0029】
居室外12に、ヒトスジシマカの雌成虫150頭を放ち、1時間馴化させた。その後、居室11に試験者14に入ってもらい、居室11のほぼ中央部に立ってもらった。居室11の入り口を10cm開けて開口部15とした。得られた検体13を、開口部15の床から180cmの位置に吊るした。試験者14を誘引源として、試験開始から30分後まで10分毎に、居室11内に侵入したヒトスジシマカの頭数をカウントした。30分間に侵入した頭数を処理区合計侵入数とした。
【0030】
<無処理区>
検体13を用いなかった以外は、上記の処理区と同様の手順で居室11内に侵入したヒトスジシマカの頭数をカウントした。30分間に侵入した頭数を無処理区合計侵入数とした。下記の式(II)を用いて侵入阻害率を求めた。同様の試験を2回行い、侵入阻害率の平均を求めた。結果を表1に示す。
侵入阻害率(%)={1−(処理区合計侵入数/無処理区合計侵入数)}×100 (II)
【0031】
(実施例2)
トランスフルトリンの使用量を300mgおよび流動パラフィンの使用量を150mgに変更した以外は、実施例1と同様の手順で試験を行い、ヒトスジシマカの侵入阻害率を求めた。同様の試験を2回行い、侵入阻害率の平均を求めた。結果を表1に示す。
【0032】
【表1】

【0033】
表1に示すように、トランスフルトリンの使用量が200mgおよび300mgの場合は80%以上であった。したがって、担体にトランスフルトリンが少なくとも100mg、好ましくは少なくとも200mg含浸されていれば、優れた侵入阻害効果を発揮することがわかる。
【0034】
(実施例3:自然環境下での侵入阻害試験)
<処理区>
図2に示すように、1か所に開口部22が設けられた8畳の居室21からなる試験室2を、ヒトスジシマカを含む蚊類が生息している自然環境下に設置した。居室21の高さは2.4mであり、開口部22の高さおよび幅は、それぞれ1.9mおよび0.8mであった。次いで、200mgのトランスフルトリンと100mgの流動パラフィンとの混合物を、担体に含浸させて検体23を得た。担体としては実施例1と同じ担体を用いた。
【0035】
居室21に試験者に入ってもらい、得られた検体23を、開口部22の上部に吊るした。開口部22の外側にドライアイス24を誘引源として置き、3時間、居室21内に侵入したヒトスジシマカを含む蚊類の頭数をカウントした。この頭数を処理区合計侵入数とした。
【0036】
<無処理区>
検体23を用いなかった以外は、上記の処理区と同様の手順で居室21内に侵入したヒトスジシマカを含む蚊類の頭数をカウントした。この頭数を無処理区合計侵入数とした。上記の式(II)を用いて侵入阻害率を求めた。同様の試験を3回行い、侵入阻害率の平均を求めた。結果を表2に示す。
【0037】
(比較例1)
トランスフルトリンの使用量を50mgに変更した以外は、実施例3と同様の手順で試験を行い、ヒトスジシマカを含む蚊類の侵入阻害率を求めた。結果を表2に示す。
【0038】
【表2】

【0039】
表2に示すように、トランスフルトリンの使用量が200mgの場合、自然環境下であっても侵入阻害率が80%を超えており、優れた侵入阻害効果を発揮することがわかる。一方、50mgの場合は、80%を下回っている。したがって、実施例1〜3から、害虫防除材の使用終了時に、トランスフルトリンが少なくとも100mg、好ましくは少なくとも200mg残存していれば、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果が発揮されることがわかる。
【0040】
(実施例4:ノックダウン効果の検証)
次に、ノックダウン効果をケージ法に準じで検証した。図3に示すように、8畳の試験室3(高さ2.4m)のほぼ中央部に、床面から120cmの位置に検体31を設置した。検体31としては、200mgのトランスフルトリンと100mgの流動パラフィンとの混合物を、実施例1と同じ担体に含浸させものを用いた。次いで、アカイエカの雌成虫20頭を入れた試験ケージ32を4個準備した。床面から75cmの位置に2個の試験ケージ32aを、検体31を中心に対称となるように設置した。残りの2個の試験ケージ32bを、床面から150cmの位置に検体31を中心に対称となるように設置した。試験ケージ32は、いずれも検体31から130cm離して設置した。一定時間ごとにアカイエカのノックダウン数を観察し、半数のアカイエカがノックダウンした時間(KT50)を測定した。試験開始から6時間後に検体31と試験ケージ32とを取り除き(6時間暴露)、試験ケージ32の中のアカイエカを清潔なポリカップに移し替えた。その後、24時間後に致死観察を行い、致死率を求めた。結果を表3に示す。
【0041】
8畳の試験室3の代わりに12畳の試験室(高さ2.4m)に変更した以外は、上記と同様の手順でKT50を測定し、さらに致死率を求めた。結果を表3に示す。
【0042】
(実施例5)
試験開始から8時間後に検体31を取り除いた以外は(8時間暴露)、実施例4と同様の手順でKT50を測定し、さらに致死率を求めた。結果を表3に示す。
【0043】
【表3】


【0044】
表3に示すように、たとえ害虫が室内に侵入したとしても、6時間以上検体に曝されることによって、高い致死効果が発揮されることがわかる。なお、12時間以上暴露した場合の24時間後の致死率は100%であった。このように、室内に侵入した害虫についても駆除できることがわかる。
【0045】
(実施例6:吸血阻害効果の検証)
PET製の円筒(内径4.5cmおよび長さ12cm)を2個準備し、それぞれの円筒内にヒトスジシマカの雌成虫10頭程度入れて、円筒の両端をメッシュ生地で閉じた。次いで、実施例4で用いた試験室(8畳、高さ2.4m)のほぼ中央部に、床面から120cmの位置に検体を設置した。検体は、実施例4と同じ検体を用いた。検体から130cm離して、床面から75cmの位置に、ヒトスジシマカを入れた円筒を設置した。2つの円筒は、検体を中心に対称となるように設置した。
【0046】
試験開始から10分後(ヒトスジシマカへの暴露時間10分)、試験室から円筒を2本取り出して、円筒の両端に手のひらを近づけて3分間保持し、吸血行動を行った頭数をカウントして下記の式(III)を用いて吸血阻害率を求めた。円筒の両端から手を離し、さらに10分後(20分暴露)、吸血行動を行った頭数を同様の手順でカウントして吸血阻害率を求めた。検体への暴露時間が60分となるまで、同様の手順で吸血阻害率を求めた。同様の試験を2回繰り返して行い、吸血阻害率の平均を求めた。結果を表4に示す。
吸血阻害率(%)={1−(X/Y)}×100 (III)
X:吸血行動を行った頭数
Y:検体暴露前の吸血行動数
【0047】
【表4】

【0048】
表4に示すように、検体に少なくとも50分間曝されると、吸血阻害率が80%を超えることがわかる。これは、たとえノックダウンしていなくても、吸血行動を行わないことを示しており、刺される被害を軽減し得ることを示している。
【0049】
(実施例7:1日あたりの揮散量)
図4(A)に示すように、揮散量を測定するための試験装置4を準備した。試験装置4は、プラスチックボックス41(各辺1mの立方体)で作製されており、ボックス41の天井面の2か所に吸気孔42が設けられている。一方、ボックス41の側面底部の1か所に排気孔43が設けられている。排気孔43は、ボックス41内の空気が17L/分の割合で排気される、すなわちボックス41内の空気がほぼ1時間で排気されるように設けられている。図4(B)に示すように、ボックス41内に小型ファン44を設置し、ボックス41内の空気を循環させた。次いで、ボックス41内のほぼ中央部に5個の検体45を吊り下げた。検体45としては、実施例1と同じ担体にトランスフルトリンを500mgおよび流動パラフィンを250mg含浸させたものを用いた。
【0050】
ボックス41内の温度を20〜25℃に維持して試験を進めた。試験開始から9日後、20日後、41日後および60日後に検体を回収して、薬剤残量から揮散総量(mg)を求めた。さらに、揮散総量を日数と検体の設置個数との積で除して、1日あたりの揮散量(揮散速度(mg/日))を求めた。同様の手順で試験を4回行い、揮散速度の平均を求めた。結果を表5に示す。
【0051】
さらに、ボックス内の温度を30〜35℃に変更した以外は、同様の手順で揮散総量(mg)および揮散速度(mg/日)を求めた。同様の手順で試験を4回行い、揮散速度の平均を求めた。結果を表5に示す。
【0052】
【表5】

【0053】
表5に示すように、常温(20〜25℃)条件下では、トランスフルトリンの揮散量(揮散速度)は約1.1〜1.4mg/日であり、高温条件下(30〜35℃)条件下では、約3.7〜4.5mg/日であることがわかる。例えば、最も揮散量が多くなる夏季(7月および8月)において、1日の気温変化を考慮すると、1日あたりの最大揮散量は4.5mg/日程度と想定できる。したがって、使用開始から終了まで60日間(60日用)の害虫防除材を調製する際に、少なくとも470mg(200mg+4.5mg×60日)のトランスフルトリンを担体に含浸させれば、60日後(終了時)でも少なくとも200mgのトランスフルトリンが残存している。その結果、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果が発揮される。
【0054】
(実施例8:トランスフルトリンの気中濃度の測定)
図5(A)に示すように、ボックス41に捕集孔46を設けた以外は、図4(A)に示す試験装置4と同様の試験装置4’を準備した。次いで、図5(B)に示すように、実施例7と同様、この試験装置4’の中に小型ファン44を設置し、ボックス41内の空気を循環させた。次いで、ボックス41内のほぼ中央部に、実施例7と同じ5個の検体45を吊り下げた。
【0055】
ボックス41内の温度を20〜25℃に維持して、検体45から薬剤を揮散させた。試験開始から表6に示す所定期間経過時に、排気を停止した状態で、捕集孔46からボックス41内の空気を17L/分の速度で約1時間吸引した。吸引は、下記に示すシリカゲルトラップを用いて行った。シリカゲルトラップに捕集されたトランスフルトリンの定量分析を行った。
<シリカゲルトラップ>
15mmの内径および100mmの長さを有するガラス管の一方の端部に脱脂綿を挿入した。ガラス管の中に約1gのシリカゲル(ワコーゲルC−100、和光純薬工業(株)製)を充填した。その後、別の脱脂綿をガラス管に挿入して(すなわち、ガラス管の両端部を脱脂綿で栓をして)、シリカゲルトラップを得た。
【0056】
シリカゲルトラップに捕集されたトランスフルトリンの定量分析を行い、得られた値から下記の式(IV)を用いて、ボックス41内のトランスフルトリンの気中濃度を求めた。同様の試験を2回行い、気中濃度の平均を求めた。結果を表6に示す。
気中濃度(μg/m3)=R×1000(L)/S (IV)
R:トランスフルトリンの定量値(μg)
S:積算流量計の空気吸引量(L)
【0057】
(実施例9)
ボックス41内の温度を30〜35℃に維持した以外は、実施例8と同様の手順で、トランスフルトリンの気中濃度を求めた。同様の試験を2回行い、気中濃度の平均を求めた。結果を表6に示す。
【0058】
【表6】

【0059】
表6に示すように、実施例8(20〜25℃)では、試験期間中、ボックス41内のトランスフルトリンの気中濃度は、少なくとも86μg/m3であることがわかる。すなわち、検体1個あたり少なくとも17μg/m3(86μg/5個)であることがわかる。この検体を例えば12畳(約19.8m2、高さ2.4m)の居室で使用した場合、居室内での気中濃度は、約0.36μg/m3(17μg/47.52m3)となり、8畳(約13.2m2、高さ2.4m)の場合は、約0.54μg/m3(17μg/31.68m3)となる。トランスフルトリンなどの薬剤は、通常、温度が高いほど揮散しやすいため、試験温度が高い実施例9の方が、実施例8よりも気中濃度が高いことがわかる。
【0060】
(実施例10:メトフルトリンの気中濃度の測定)
トランスフルトリンの代わりにメトフルトリンを200mgおよび流動パラフィンを400mg用いて、試験開始から表7に示す所定期間経過時に、ボックス41内の空気を17L/分の速度で約1時間吸引した以外は、実施例8と同様の手順でメトフルトリンの気中濃度を求めた。同様の試験を2回行い、気中濃度の平均を求めた。結果を表7に示す。
【0061】
(実施例11)
ボックス41内の温度を30〜35℃に維持した以外は、実施例10と同様の手順で、メトフルトリンの気中濃度を求めた。同様の試験を2回行い、気中濃度の平均を求めた。結果を表7に示す。
【0062】
【表7】

【0063】
表7に示すように、実施例10(20〜25℃)では、試験期間中、ボックス41内のメトフルトリンの気中濃度は、少なくとも17μg/m3であることがわかる。すなわち、検体1個あたり少なくとも3.4μg/m3(17μg/5個)であることがわかる。この検体を例えば12畳の居室で使用した場合、居室内での気中濃度は、約0.07μg/m3(3.4μg/47.52m3)となり、8畳の場合は、約0.11μg/m3(3.4μg/31.68m3)となる。メトフルトリンなどの薬剤は、通常、温度が高いほど揮散しやすいため、試験温度が高い実施例11の方が、実施例10よりも気中濃度が高いことがわかる。
【0064】
(実施例12:60日間の実地試験)
<処理区>
図6に示すように、1か所にドア52が設けられた8畳の居室51からなる試験室5を、ヒトスジシマカを含む蚊類が生息している自然環境下に設置した。居室51の高さは2.4mであり、ドア52の高さおよび幅は、それぞれ2.1mおよび0.85mであった。次いで、500mgのトランスフルトリンと250mgの流動パラフィンとの混合物を、担体に含浸させて検体53を得た。担体としては実施例1と同じ担体を用いた。
【0065】
ドア52を全開にして、得られた検体53を居室51への出入口付近の上部に吊るした。次いで、出入口付近の外側にドライアイス54を誘引源として置いた。初日および60日後に、朝夕各3時間、ほぼ同時刻に居室51内に侵入した蚊類の頭数をカウントした。朝夕の合計頭数を処理区合計侵入数とした。
【0066】
<無処理区>
検体53を用いなかった以外は、上記の処理区と同様の試験室を、試験室5の隣に設置した。上記の処理区と同様の手順で居室51内に侵入した蚊類の頭数をカウントした。朝夕の合計頭数を無処理区合計侵入数とした。
【0067】
得られた処理区合計侵入数および無処理区合計侵入数から、上記の式(II)を用いて侵入阻害率を求めた。試験開始初日(使用開始時)の侵入阻害率は88%であった。一方、試験開始から60日後(使用終了時)の侵入阻害率は81%であった。このように、使用終了時においても侵入阻害率が80%を超えており、本開示の害虫防除材は、使用開始時から終了時まで高い侵入阻害率を維持しており、優れた侵入阻害効果を発揮することがわかる。
【0068】
(実施例13:準自然環境下での侵入阻害試験)
<処理区>
実施例1で用いた試験区域1(図1)において、12畳の居室11の代わりに8畳の居室を設置した試験区域を準備した。居室以外の空間を居室外(図1の居室外12に相当)とする。この試験区域の高さは3.5mであり、居室の高さは2.4mであった。次いで、100mgのメトフルトリンと200mgの流動パラフィンとの混合物を、担体に含浸させて検体を得た。担体としては実施例1と同じ担体を用いた。
【0069】
居室外に、ヒトスジシマカの雌成虫150頭を放ち、1時間馴化させた。その後、居室に試験者(図1の試験者14に相当)に入ってもらい、居室のほぼ中央部に立ってもらった。居室の入り口を10cm開けて開口部(図1の開口部15に相当)とした。得られた検体を、開口部の床から180cmの位置に吊るした。試験者を誘引源として、試験開始から30分後まで10分毎に、居室内に侵入したヒトスジシマカの頭数をカウントした。30分間に侵入した頭数を処理区合計侵入数とした。
【0070】
<無処理区>
検体を用いなかった以外は、上記の処理区と同様の手順で居室内に侵入したヒトスジシマカの頭数をカウントした。30分間に侵入した頭数を無処理区合計侵入数とした。上記の式(II)を用いて侵入阻害率を求めた。同様の試験を2回行い、侵入阻害率の平均を求めた。結果を表8に示す。
【0071】
(実施例14)
メトフルトリンの使用量を200mgおよび流動パラフィンの使用量を400mgに変更した以外は、実施例13と同様の手順で試験を行い、ヒトスジシマカの侵入阻害率を求めた。同様の試験を2回行い、侵入阻害率の平均を求めた。結果を表8に示す。
【0072】
(比較例2)
メトフルトリンの使用量を50mgおよび流動パラフィンの使用量を100mgに変更した以外は、実施例13と同様の手順で試験を行い、ヒトスジシマカの侵入阻害率を求めた。同様の試験を2回行い、侵入阻害率の平均を求めた。結果を表8に示す。
【0073】
【表8】

【0074】
表8に示すように、メトフルトリンの使用量が100mgおよび200mgの場合は80%以上であった。したがって、担体にメトフルトリンが少なくとも100mg含浸されていれば、優れた侵入阻害効果を発揮することがわかる。」

ウ 判断
本件明細書等の全体の記載事項(特に【0005】)及び出願時の技術常識からみて、本件発明1及び3の解決しようとする課題は、「使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮し得る害虫防除材を提供すること」であり、本件発明4及び5の解決しようとする課題は、「使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮し得る害虫防除効力維持方法を提供すること」であると認める。

本件明細書等の記載(【0006】)からみて、本件発明は、上記課題を、担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、少なくとも本件明細書等に記載の所定の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に保持されているものとすることによって解決したものと解される。
本件明細書等には、網目構造を有するシート状の担体を用いることが好ましいこと(【0011】)、シート状の担体は、5〜30%程度の開口率を有するものが好ましいこと(【0013】)、ピレスロイド系化合物を担体に保持させる濃度が少なくとも2mg/cm2であること(【0021】)、ピレスロイド系化合物は特に限定されず、例えば、トランスフルトリン、メトフルトリン、プロフルトリン、エンペントリン、テラレスリン、フラメトリン、テフラメトリン、ジメトリン、ジメフルトリン、メパフルトリンなどが挙げられること(【0014】)、式(I)のAについて、1日の平均気温を30℃とした場合、1日あたりの最大揮散量はトランスフルトリンが4.5mg/日、メトフルトリンが2.0mg/日、プロフルトリンが4.5mg/日であること(【0017】)、害虫防除材は、通常、自然揮散用として使用されること(【0024】)、害虫防除効果を発揮させるためには、ピレスロイド系化合物の気中濃度が少なくとも0.05μg/m3となるように揮散させればよいこと(【0025】)が記載されており、実施例として、具体的な各種害虫防除材、各種の侵入阻害試験、ノックダウン効果の検証、吸血阻害効果の検証、1日あたりの揮散量、気中濃度の測定の結果と共に、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮されることが記載されている(【0028】〜【0074】)。
してみると、本件発明について、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

特許異議申立人の主張について検討するに、甲6〜9の記載から、流動パラフィンがピレスロイド系化合物の安定化効果を有するといえるとしても、本件明細書等には、流動パラフィンは配合できる物質の1つとして記載されている(【0022】)に過ぎず、上述のとおり、本件発明は、所定の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に保持されているものとすることによって、使用開始時から終了時まで、安定して優れた防除効果を発揮し得る害虫防除材及び害虫防除効力維持方法を提供するという課題を解決したものであって、それは、害虫防除材の使用終了時に、ピレスロイド系化合物が一定量残存するという技術的思想に基づくものであると解される(【0016】)一方で、上記課題解決のために流動パラフィンが必須の成分であるとは解することはできないし、仮に、実施例に記載の害虫防除材の安定性に流動パラフィンが寄与しており、流動パラフィンを含有しないものとした場合に、害虫防除効果に変化があったとしても、上記課題を解決することができないほどに害虫防除効果が低減するとする技術常識もない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

エ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由3は理由がない。

(4)申立理由4について
ア (4−1)について
本件発明1は、「式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に」、「保持されて」おり、式(I)は「保持量(mg)=100〜300mg+A×B」、「A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)」、「B:使用期間(120日以下)」と特定されている。
材質・大きさ・開口率・形状等の担体の条件が、ピレスロイド系化合物の揮散の状態に影響を与えることは特許異議申立人の主張のとおりであるといえるから、常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)は、担体の材質・大きさ・開口率・形状等により変動するといえるが、本件発明1は、常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)について、「1日の平均気温を30℃とした場合における」と特定され、さらに、「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種である」と特定されており、本件明細書等には、1日の平均気温を30℃とした場合、1日あたりの最大揮散量はトランスフルトリンが4.5mg/日、メトフルトリンが2.0mg/日、プロフルトリンが4.5mg/日であること(【0017】)が記載されているから、上記Aの値は、担体の材質・大きさ・開口率・形状等の担体の条件によらずに一義的に決まるといえる。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できず、本件発明1は明確である。
本件発明3〜5についても同様である。

イ (4−2)について
本件発明1は「常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており」と特定されている。また、本件明細書等には、「網目構造を有するシート状の担体の場合、保持濃度の算出は、シート状の担体の面積から開口部の面積を除いた面積で算出する。」との記載があり(【0013】)、特に厚みに関する説明はない。
また、本件明細書等に記載の実施例12の担体は、実施例1で用いられた「縦14cm、横9cm、開口率が15%のメッシュ状のポリエステル製の担体」であり、厚みが記載されていないこと、「メッシュ状の」担体であることから、本件発明1で特定する「網目構造を有するシート状の担体」であるといえる。
そこで、実施例12の保持濃度を算出すると、500/14×9×(1−0.15)=約4.67mg/cm2である(なお、特許権者は令和3年10月25日提出の意見書において、担体の面積が片面の面積である趣旨の主張をしており、本件明細書等の記載及び技術常識からみてもそのように解される。)。
上記のとおり、特許請求の範囲の記載と実施例12を含めた本件明細書の記載との関係も整合しているといえる。
したがって、上記特許異議申立人の主張は採用できず、本件発明1は明確である。
本件発明3〜5についても同様である。

ウ まとめ
以上のとおりであるから、申立理由4は理由がない。

第6 むすび
以上のとおりであるから、請求項1、3〜5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1、3〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
特許異議申立の対象であった請求項2は、訂正請求により削除されたので、請求項2に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体と、この担体に保持された常温揮散性のピレスロイド系化合物とを含み、
下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、担体に少なくとも2mg/cm2の濃度で保持されており、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除材。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)
【請求項2】
(削除)
【請求項3】
自然揮散用である請求項1に記載の害虫防除材。
【請求項4】
下記の式(I)で示される量の常温揮散性のピレスロイド系化合物が、少なくとも2mg/cm2の濃度で保持された、5〜30%の開口率を有する網目構造を有するシート状の担体から、常温揮散性のピレスロイド系化合物を少なくとも0.05μg/m3の気中濃度となるように揮散させるピレスロイド系化合物の害虫防除効力維持方法であって、
常温揮散性のピレスロイド系化合物が、トランスフルトリン、メトフルトリンおよびプロフルトリンからなる群より選択される少なくとも1種であることを特徴とする害虫防除効力維持方法。
保持量(mg)=100〜300mg+A×B (I)
A:1日の平均気温を30℃とした場合における常温揮散性のピレスロイド系化合物
の1日あたりの最大揮散量(mg/日)
B:使用期間(120日以下)
【請求項5】
前記常温揮散性のピレスロイド系化合物を自然に揮散させる請求項4に記載の害虫防除効力維持方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-07 
出願番号 P2017-557849
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A01N)
P 1 651・ 113- YAA (A01N)
P 1 651・ 121- YAA (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 冨永 保
齊藤 真由美
登録日 2020-10-07 
登録番号 6774717
権利者 アース製薬株式会社
発明の名称 害虫防除材およびそれを用いた害虫防除方法  
代理人 深井 敏和  
代理人 深井 敏和  
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