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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B22D
審判 全部申し立て 2項進歩性  B22D
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B22D
管理番号 1384113
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-04-28 
確定日 2022-01-11 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6775780号発明「低圧鋳造用溶湯保持炉」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6775780号の明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。 特許第6775780号の請求項1−5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6775780号(以下「本件特許」という。)の請求項1−5に係る特許についての出願は、平成28年7月22日に出願されたものであり、令和2年10月9日にその特許権の設定登録がされ、令和2年10月28日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。
令和 3年 4月28日 : 特許異議申立人金井澄子(以下「特許異議申立人」という。)による請求項1−5に係る特許に対する特許異議の申立て
令和 3年 7月15日付け: 取消理由通知
令和 3年 9月10日 : 特許権者による訂正請求書及び意見書の提出
なお、合議体は、特許異議申立人に対して令和3年9月16日付けで通知書を送付し、特許権者により令和3年9月10日に提出された訂正請求書及び意見書について、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許異議申立人からの応答はなかった。


第2 訂正の適否
1.訂正の内容
令和3年9月10日提出の訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)による訂正事項は、以下のとおりである。
なお、下線部は当審で付した。(以下、同様。)(1)訂正事項1
請求項1に「炉床部」と記載されているのを、「炉床」に訂正する。
なお、請求項1の記載を引用する請求項2−5についても、上記訂正に伴い同様に訂正するものである。
(2)訂正事項2
請求項2に「炉床」と記載されているのを、「前記炉床」に訂正する。
(3)訂正事項3
請求項3に「炉床」と記載されているのを、「前記炉床」に訂正する。
(4)訂正事項4
請求項4に「炉床」と記載されているのを、「前記炉床」に訂正する。
(5)訂正事項5
請求項5に「炉床」と記載されているのを、「前記炉床」に訂正する。
(6)訂正事項6
明細書の段落【0008】の「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」と記載されているのを、「溶湯収納容器の内側面又は内底面(以下、この内底面を「炉床の表面」、又は略して「炉床面」という。)」に訂正する。
(7)訂正事項7
明細書の段落【0011】の「炉床部」と記載されているのを、「炉床」に訂正する。
(8)訂正事項8
明細書の段落【0012】の「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」と記載されているのを、「溶湯収納容器の内側面又は炉床面」に訂正する。
(9)訂正事項9
明細書の段落【0013】の
「(2)前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の炉床の表面近傍に埋設されていることが好ましい。この場合、気泡阻止部材の表面は炉床の表面に露出されていてもよい。
(3)あるいは、前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の炉床の表面に固定されていてもよい。
(4)また、前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯取納容器の炉床の表面に形成された凹部に配設されていてもよい。
(5)さらに、前記気泡阻止部材は、上端開口の有底円筒状で、前記溶湯収納容器の炉床の表面に形成された凹部内に下部が配設されていてもよい。」
と記載されているのを、
「(2)前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面近傍に埋設されていることが好ましい。この場合、気泡阻止部材の表面は炉床の表面に露出されていてもよい。
(3)あるいは、前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に固定されていてもよい。
(4)また、前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯取納容器の前記炉床の表面に形成された凹部に配設されていてもよい。
(5)さらに、前記気泡阻止部材は、上端開口の有底円筒状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に形成された凹部内に下部が配設されていてもよい。」
に訂正する。
(10)訂正事項10
明細書の段落【0023】の「炉床部」と記載されているのを、「炉床」に訂正する。
(11)訂正事項11
明細書の段落【0024】の「炉床部」と記載されているのを、「炉床」に訂正する。
(12)訂正事項12
明細書の段落【0029】の「炉床表面」と記載されているのを、「炉床面」に訂正する。
(13)訂正事項13
明細書の段落【0030】の「炉床表面」と記載されているのを、「炉床面」に訂正する。
(14)訂正事項14
明細書の段落【0031】の「炉床表面」と記載されているのを、「炉床面」と訂正する。
(15)訂正事項15
明細書の段落【0032】の「溶湯収納容器4の内側面又は内底面(炉床)」と記載されているのを、「溶湯収納容器4の内側面又は炉床面」と訂正する。

本件訂正請求は、一群の請求項〔1−5〕に対して請求されたものである。また、明細書に係る訂正は、一群の請求項〔1−5〕について請求されたものである。

2.訂正の検討
(1)訂正事項1
ア 訂正の目的
訂正事項1に係る請求項1についての訂正は、訂正前の請求項1の「炉床部」と、訂正前の請求項2−5の「炉床」の関係(異同)が不明瞭であったため、請求項1の「炉床部」を「炉床」に訂正することで、両者が同一であることを明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項1は、訂正前の請求項1の「炉床部」と請求項2−5の「炉床」とを、訂正により「炉床」に統一するものであるところ、明細書の段落【0023】には、「溶湯収納容器4の炉床部には、ストーク6の下端開口6aを臨む位置、換言すればストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に非通気性の気泡阻止部材13が配設されている。ここで、ストーク6の下端開口6aを臨む位置とは、溶湯取納容器4の炉床の表面近傍(表層部内、表面上、表面の上方を含む)をいう。気泡阻止部材13は、溶湯収納容器4の炉床の表層部に完全に埋設された状態、一部が表面に露出した状態、表面に載置された状態、表面の上方に支持された状態のいずれでもよい。」と記載され、炉床部と路床とは別の部位を指すものではなく、同義で用いられていると理解できるし、炉床の一部であってストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、気泡阻止部材が配置されることは、段落【0023】に記載されているから、訂正事項1は、新規事項の追加に該当しない。
また、訂正事項1は、訂正前の請求項1について不明瞭な記載を訂正により明確にするものであって、実質的に内容の変更を伴うものではないから、特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。
なお、請求項2−5は、請求項1についての訂正に伴い、訂正されるものであるところ、請求項2−5の訂正についても、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであって、明細書に記載された事項の範囲内で行われたものであり、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(2)訂正事項2−5
ア 訂正の目的
訂正事項2−5に係る請求項2−5についての訂正は、訂正前の請求項2−5の「炉床」を「前記炉床」に訂正することで、請求項2−5の「炉床」が、訂正後の請求項1の「炉床」と同一であることを明確にするものである。
よって、訂正事項2−5は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
訂正事項2−5は、訂正事項1により請求項1の「炉床部」が「炉床」と訂正されたことに伴い、請求項2−5の「炉床」を「前記炉床」と訂正するものであるところ、上記(1)イで述べたとおり、炉床部と炉床とは同義で用いられることが理解できるから、何ら実質的な内容の変更を伴うものではなく、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。

(3)訂正事項6
ア 訂正の目的
訂正事項6は、訂正後の請求項1−5の「炉床」に関連して、訂正前の段落【0008】に「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」と記載されているところ、「炉床」が「溶湯収納容器の内側面」又は「溶湯収納容器の内底面」であるのか、(「溶湯収納容器の内側面」は含まない)「溶湯収納容器の内底面」であるのか、この記載以外のものであるのか、その定義が不明確であったところ、訂正事項6により、段落【0008】の「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」との記載を「溶湯収納容器の内側面又は内底面(以下、この内底面を「炉床の表面」、又は略して「炉床面」という。)」に訂正して、「溶湯収納容器の内底面」が「炉床の表面」又は「炉床面」であることを明瞭にして、「炉床」と「溶湯収納容器の内側面又は内底面」との関係及びその定義を明瞭にするというものであるから、訂正事項6は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に規定する明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。
イ 新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
明細書の段落【0008】の「溶湯収納容器の内側面又は内底面」は溶湯収納容器における「面」(表面)を指すことは明らかである一方、例えば、明細書の段落【0023】に「気泡阻止部材13は、溶湯収納容器4の炉床の表層部に完全に埋設された状態、一部が表面に露出した状態、表面に載置された状態、表面の上方に支持された状態のいずれでもよい。」、段落【0026】に「図3は、図2と同様にして溶湯収納容器4の炉床の表層部に埋設した気泡阻止部材13bの周縁を10mm程度残して、炉床の表面の不定形耐火物を削り取ることにより、気泡阻止部材13bの表面を溶湯収納容器4の炉床の表面に露出させたものである。」と記載されていることなどから、明細書に記載された「炉床」が「面」を指すのではなく厚みがある気泡阻止部材を埋設する部分を指すことは明らかである。また、「溶湯収納容器の内底面」が、溶湯収納容器の底部分の内側の面を指すことは技術常識であるから、「溶湯収納容器の内底面」が、気泡阻止部材が埋設される部分である厚みのある「炉床」の「表面」又は「炉床面」に相当することは明細書に実質的に記載されていたといえる。さらに、「溶湯収納容器の内底面」が「炉床の表面」又は「炉床面」であることを明確にする訂正が、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものに該当しない。
よって、訂正事項6に係る明細書の段落【0008】についての訂正は、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(4)訂正事項7、9
訂正事項7、9に係る明細書の段落【0011】及び【0013】についての訂正は、請求項1−5に係る訂正(訂正事項1−5)に伴って、請求項1−5と対応する明細書の記載である段落【0011】及び【0013】を、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために訂正するものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1−5と同様に新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(5)訂正事項8、15
訂正事項8、15は、訂正後の請求項1−5の「炉床」に関連して、明細書の段落【0012】及び【0032】の「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」と記載されているのを、「溶湯収納容器の内側面又は炉床面」に訂正する訂正であるところ、訂正事項6について検討したとおり(上記(3)を参照。)、「炉床」と「溶湯収納容器の内側面又は内底面」との関係及びその定義を明瞭にするための訂正であるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(6)訂正事項10−11
訂正事項10−11に係る明細書の段落【0023】及び【0024】についての訂正は、請求項1に係る訂正(訂正事項1)に伴って、「炉床部」を「炉床」に統一して明確にするというものであるところ、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載との整合を図るために訂正したものであるから、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、訂正事項1と同様に新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

(7)訂正事項12−14
訂正事項12−14は、訂正後の請求項1−5の「炉床」に関連して、厚みのある「炉床」の「面」(表面)について、明細書に「炉床表面」及び「炉床面」との用語が混在して不明瞭であったところ、明細書の段落【0029】−【0031】の「炉床表面」を「炉床面」に統一して明瞭にするものであるから、上記訂正事項6(上記(3)を参照。)について検討したとおり、明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、新規事項の追加に該当せず、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではない。

3.小括
上記のとおり、本件訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、明細書及び特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の一群の請求項〔1−5〕について訂正することを認める。


第3 本件特許
上記第2のとおり、本件訂正は認められるから、本件特許の請求項1−5に係る発明は以下のとおりである。(以下、それぞれ「本件発明1」等といい、全てをまとめて「本件発明」という場合がある。なお、以下の第4以降においては、便宜上、取消理由通知を通知した時点における特許請求の範囲の請求項1−5に係る発明を「訂正前の本件発明1」等という。)

【請求項1】
不定形耐火物からなる溶湯収納容器を備えるとともに、前記溶湯収納容器内の溶湯と金型のキャビティとを連通するストークを備えた炉本体と、
前記炉本体の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段とを有し、
前記加圧気体供給手段により前記溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させることにより、前記溶湯収納容器内の溶湯を金型のキャビティ内に注湯する低圧鋳造用溶湯保持炉において、
前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されていることを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面近傍に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項4】
前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に形成された凹部に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項5】
前記気泡阻止部材は、上端開口の有底円筒状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に形成された凹部内に下部が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。


第4 取消理由及び取消理由として採用しなかった特許異議申立理由の概要
1.取消理由通知書で通知した取消理由の概要
本件訂正前の特許に対して、当審が令和3年7月15日付けで特許権者に通知した取消理由通知書の取消理由の要旨は、次のとおりである。
【特許法第36条第6項2号明確性要件)違反】
訂正前の本件発明1の「炉床部」及び訂正前の本件発明2−5の「炉床」の定義、及び両者の関係(異同)が不明確である。ここで、訂正前の本件発明2−5の「炉床」については、明細書の段落【0008】、【0012】及び【0032】に「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」と記載されているものの、「炉床」が「溶湯収納容器の内側面」又は「溶湯収納容器の内底面」であるのか、(「溶湯収納容器の内側面」は含まない)「溶湯収納容器の内底面」であるのか、この記載以外のものであるのか、その定義が不明確である。
よって、訂正前の本件発明1及び訂正前の本件発明2−5はいずれも明確でない。

2.取消理由として採用しなかった特許異議申立理由の概要
本件特許異議の申立てにおいて、特許異議申立人が主張した特許異議申立理由のうち、上記の取消理由として採用しなかった理由の要旨は、次のとおりである。
なお、特許異議申立人が、異議申立書の20−23ページにて主張する、取消理由4(明確性要件違反)については、上記1.で当審が通知した取消理由と同旨である。
(1)特許異議申立理由1:【特許法第29条第2項進歩性)違反】
訂正前の本件発明1−5は、甲第1号証又は甲第2号証に基づき、あるいは甲第1号証又は甲第2号証と甲第3号証ないし甲第5号証の技術常識に基づき、当業者が容易に想到できたものであり、進歩性を有しない。
甲第1号証:特公平2−46302号公報
甲第2号証:特開昭59−127961号公報
甲第3号証:実公平6−9734号公報
甲第4号証:特開2001−71116号公報
甲第5号証:再公表特許第2012/042581号
(以下、甲第1号証ないし甲第5号証を、「甲1」等という。)
なお、特許異議申立人は、異議申立書の15ページにて「本件発明1は、甲第1号証又は甲第2号証に基づき、あるいはこれらと甲第3号証〜甲第7号証などの技術常識に基づき、当業者が容易に想到できたものであり、進歩性を有しない。」とし、下記甲第6号証及び甲第7号証をも形式的には含めた主張をしているが、当該甲第6号証及び甲第7号証は、サポート要件違反の理由(異議申立書16−18ページ)において、ファインセラミックスの材質は通気性の耐火材の材質でもあることを示すための証拠としてその記載事項が摘記されているのみであって、進歩性違反の理由では何ら言及がないから、進歩性違反についての証拠としては検討しない。
甲第6号証:特開2006−88203号公報
甲第7号証:横山誠二,外2名,“Al2O3−SiO2系れんがの通気率と気孔内表面積値の測定法による差異”,鉄と鋼,社団法人日本鉄鋼協会,昭和62年2月1日,第73巻,第2号,p.305−312

(2)特許異議申立理由2:【特許法第36条第6項1号(サポート要件)違反】
訂正前の本件発明1には、気泡阻止部材の材質や物性などの記載がなく、「非通気性」とも記載されていないため、本件発明1の気泡阻止部材は、「通気性」も「非通気性」も包含していると解釈される。また、本件明細書の段落【0023】に「気泡阻止部材13は、非通気性で、且つ、耐熱性を有する材料からなり、例えば窒化珪素質ファインセラミックスが好ましいが、二硼化チタン質、Si含侵SiC質、高純度アルミナ質、ジルコニア質、又はアルミナ・ジルコニア複合からなるファインセラミックスも使用可能である。」と記載されているが、ファインセラミックスの材料からなる通気性の耐火材は、すでに一般的であり周知であることを当業者なら容易に想到することから、本件発明の効果である「気泡発生の低減及び気泡発生の回避」を発揮する気泡阻止部材にするには、「ファインセラミックスの材料からなる通気性の耐火材」では達成が困難である。

(3)特許異議申立理由3:【特許法第36条第4項第1号実施可能要件)違反】
明細書の段落【0023】の「表面近傍」には「表層部に完全に埋設された状態」を含むものであり、この場合、ストーク下端開口と気泡阻止部材の間に炉床が存在するし、図1、図2のような気泡阻止部材の配置は、気泡阻止部材より上にも炉床が存在するため、気泡阻止部材の上の炉床から、気泡が溶湯内に放出される可能性がある。この場合、気泡阻止部材より下に位置する炉床からは、気泡発生が阻止できるため気泡発生が低減されるが、気泡発生自体を回避できるものではない。
他方、訂正前の本件発明1では、気泡阻止部材の位置について、「炉床部の一部であって」と記載されているから、気泡阻止部材が位置するのが炉床部の表面とは限らないことがわかる。また、訂正前の本件発明2についても、気泡阻止部材の位置について、「前記溶湯収納容器の炉床の表面近傍に埋設されている」と記載されているので、気泡が発生し得る形態である。
したがって、本件特許の明細書には、訂正前の本件発明1及び2の(気泡発生を阻止し得る)低圧鋳造装置について、当業者が実施できる程度に記載されていない。


第5 当審の判断
1.取消理由通知書の取消理由についての検討
本件訂正により、本件発明1−5について、「炉床部」の記載は削除され、「炉床」に統一されているから、「炉床部」と「炉床」の関係(異同)が不明確であるとの取消理由は解消した。
また、本件発明の「炉床」について、明細書の段落【0008】、【0012】及び【0032】に、「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」と記載されていたことから、「炉床」が「溶湯収納容器の内側面」又は「溶湯収納容器の内底面」であるのか、(「溶湯収納容器の内側面」は含まない)「溶湯収納容器の内底面」であるのか、この記載以外のものであるのか、その定義が不明確であるとの取消理由について、本件訂正により、請求項1の「炉床部」を「炉床」に訂正し(訂正事項1)、明細書の段落【0008】、【0012】及び【0032】の「溶湯収納容器の内側面又は内底面(炉床)」を「溶湯収納容器の内側面又は内底面(以下、この内底面を「炉床の表面」、又は略して「炉床面」という。)」(訂正事項6)又は「溶湯収納容器4の内側面又は炉床面」(訂正事項8、15)と訂正したことで、本件発明1−5の「炉床」が、溶湯収納容器の底部分にある厚みを有する部分であり、その表面が溶湯収納容器の内底面に合致する部分であることが明確になったといえるから、当該取消理由は解消した。
よって、当審で通知した取消理由によっては、本件特許を取り消すことはできない。

2.取消理由として採用しなかった特許異議申立理由についての検討
(1)特許異議申立理由1:【特許法第29条第2項進歩性)違反】(甲1を主引例とした場合)
甲1を主引例とした場合の上記第4の2.(1)の特許異議申立理由1について検討する。
本件発明1は、上記第3において示したとおりのものである。
ア 甲1の記載事項等
甲1には、以下の事項が記載されている。
(ア)「1 溶湯を保持する炉体が通気性を有する耐火材により形成されている低圧鋳造方法において、炉内空間に直接開口する加圧導管から送り込まれる気体により炉内の加圧を行い、炉壁内にライニングされている耐火材に通ずる減圧導管によって炉内の気体を該耐火材を通過させて炉外に流出させるようにしたことを特徴とする低圧鋳造方法。
2 溶湯を保持する炉体が通気性を有する耐火材により形成されている低圧鋳造装置において、該低圧鋳造装置が、気密性を有する鉄皮によって形成されている炉壁と、該炉壁内にライニングされた通気性を有する耐火材と、前記炉壁と耐火材を貫通し、炉内空間に直接開口している加圧導管と、前記炉壁を貫通し、炉内の気体を前記耐火材を通過させて炉外に流出させるように、前記炉壁と接する耐火材面に通じている減圧導管とから構成されていることを特徴とする低圧鋳造装置。」(1ページ1欄2行−18行)
(イ)「本発明は、溶湯を保持する炉体が通気性を有する耐火材により形成されている低圧鋳造方法とその装置に関するものである。」(1ページ1欄20−22行)
(ウ)「従来、低圧鋳造に使用される炉体は気体を加減圧して鋳造するため気密構造が必要であり、一般には金属性ルツボのように溶湯容器自体が気密性を有する材料で構成されている。しかし、この金属性ルツボにおいては、溶湯を保持する熱エネルギーを減少させる不具合があることから、最近では、一般の炉に使用されている断熱性の良い耐火材で構成された炉体が出現している。しかしながら、この形式の炉体は耐火材が通気性を有し、且つ耐火材中に水分を含有しているので、鋳造時における減圧時において耐火材から溶湯中に気体が混入し、それに伴い耐火材中の水分も気体と共に溶湯中に混入して鋳造製品にピンホール等の欠陥を発生させる。また、耐火材が乾燥状態であっても加圧気体中に含まれる水分が、炉壁(鉄皮)側に接している耐火材面に凝縮する。この耐火材面に凝縮した水分は、鋳造時の加圧時における炉内から炉壁側に向けて流れた加圧気体が減圧時に炉壁側から炉内へ再び流れ込む時に、その気体中に含まれて溶湯中に混入し、鋳造製品にピンホール等の欠陥を発生させる問題がある。」(1ページ1欄23行−2欄17行)
(エ)「第1図において、1は気密性を有する鉄皮から形成されている炉壁であって、この炉壁1の内側には耐火煉瓦、耐火粘土、耐火モルタル等の通気性を有する耐火材2がライニングされており、この耐火材2と炉壁1によって下部炉体3を形成している。そしてこの下部炉体3の上部には該下部炉体3と同様な炉壁1aと耐火材2aとから成る上部炉体4が配設されており、この上部炉体4蓋の役目もなしている。またこの上部炉体4の上方には支持部材5が設けられており、この支持部材5の上に鋳造用の鋳型6が設置されている。更にこの鋳型6には上部炉体4の炉壁1a及び耐火材2aを貫通して炉内空間10に向かって垂下するストーク7が取付けられており、このストーク7の下端8は下部炉体3の内側底面9よりやや上方に位置するところに配設されている。
また、上部炉体4の側面には炉壁1a及び耐火材2aを貫通して炉内空間10に直接関口する加圧導管11が配設されており、この加圧導管11は加圧気体源(図示せず)に接続されていると共にその途中に給気弁12が設けられている。また下部炉体3の底部には炉壁1を貫通して耐火材2の下面に開口している減圧導管13が配設されており、この減圧導管13の途中には排気弁14が設けられている。」(2ページ3欄25行−4欄5行)
(オ)「上記のように構成された低圧鋳造装置において、まず、加減圧制御装置によって給気弁12が開き、加圧気体源より所定の圧力と流量の加圧用の気体が炉内空間10に送り込まれる。下部炉体3に収容されている溶湯Aは加圧用の気体によってストーク7を上昇して鋳型6内に鋳込まれると同時に鋳型6内に押し込まれた気体は該鋳型6の間隙から外部に逃げる。」(2ページ4欄12−19行)
(カ)「一方、炉内空間10に送り込まれた加圧用の気体の一部は通気性を有する耐火材2中にも流入するが、この時溶湯Aには炉内空間圧+溶湯ヘット圧が作用し、溶湯圧>耐火材内圧力となり耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入は防止される。 鋳型6に鋳込まれた溶湯Aが凝固するまで加圧を保持した後、加圧導管11の給気弁12を閉じ減圧導管13の排気弁14を開くと炉内空間10内の気体は耐火材2の溶湯Aの非接触部から耐火材2を通って減圧導管13から流出し始める。この場合も耐火材2内の圧力が先行して減少するので、溶湯圧>耐火材内圧力の関係が保たれ、耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入は防止される。」(2ページ4欄20−32行)
(キ)「以上説明したように、本考案によれば炉内空間に直接開口する加圧導管から送り込まれる気体により炉内の加圧を行い、耐火材に通ずる減圧導管により炉内の気体を該耐火材を通過させて炉外に出させるようにしたから、鋳造時の加減圧サイクルにおいて常に一定の気体の流れが耐火材中に生じ、溶湯圧>耐火材内圧力となり、溶湯中への気体の混入を防止することができると共に炉壁内面での気体の滞留も生じないので、加圧用の気体に含まれる水分が炉壁に凝縮することがなくなる。これらによって溶湯中への水分の混入がなくなり、鋳造製品中のピンホールの発生を防止することができる効果がある。」(3ページ5欄15行−6欄6行)
「第1図



イ 甲3の記載事項等
甲3には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【請求項1】内側にキャスタが塗布された耐火レンガ、該耐火レンガの外側を包む断熱材、該断熱材の外側を包む鉄皮、から成る炉壁構造を有する加圧鋳造機の保持炉において:保持炉が、炉下部においては互いに連通しながらも炉上部において仕切壁により互いに隔てられた圧力室と定湯面室とに分離されており;炉壁のうち、少なくとも圧力室側の炉壁と定湯面室側の炉壁とが交わる炉壁部分に、前記鉄皮と前記耐火レンガとの間にわたって延び一端が前記鉄皮に気密にとりつけられ他端が前記耐火レンガに気密にとりつけられた遮断プレートが設けられている;ことを特徴とする加圧鋳造機の保持炉。」(1ページ1欄2−14行)
(イ)「本考案は、保持炉内から電磁ポンプに常に一定圧の溶湯の供給を可能とし、かつ溶湯内での溶湯への空気の混入を防止し、これによって不良品の少ない、鋳物製品を効率よく供給できる加圧鋳造機の保持炉を提供することを、目的とする。」(2ページ3欄14−18行)
(ウ)「また、圧力室と定湯面室に分離される部分の炉壁は、完全に空気遮断されているので、圧力室側から定湯面室側に溶湯とともに空気が混入して流れることが防止され、空気を含んだ溶湯をスリーブ内に送り込むことはなくなる。」(2ページ3欄40−44行)
(エ)「第1図において圧力室3側の炉壁部分Aと定湯面室1側の炉壁部分Bとが交わる部位の炉壁部分C(炉壁部分Cは炉底壁と炉側壁との両方を含む)は、第2図に示すように、耐火レンガ6と鉄皮8との間が、エアーの連通を遮断する遮断プレート9によって遮断されており、エアーが断熱材7(断熱材7はエアーを通す材料から成っている)を通して圧力室3側の炉壁部分Aから定湯面室1側の炉壁部分Bにもれないように、空気遮断されている。遮断プレート9は、鉄皮8と耐火レンガ6との間にわたって延び、一端が鉄皮8と溶接結合(溶接部を符号11で示した)され、必要に応じて溶接部11を更にエアーシーリング材によってシーリングされている。遮断プレート9の他端は、耐火レンガ6に形成した溝に嵌め込まれ、エアーシーリング材10によってシーリングされている。したがって、圧力室3からのエアーが保持炉の壁を伝わって、定湯面室1に入り込むことが無いようになっている。」(2ページ4欄19−35行)
(オ)「圧力室3から定湯面室1側へのエアーもれが生じるのは、従来炉壁構造では、炉壁の通気性のある断熱材を通してのエアーもれだけであるが、本考案では、遮断プレート9を用いた完全なエアー遮断構造となっているので、炉壁の断熱材7を伝わるエアーもれは完全に防止される。」(3ページ5欄8−13行)
「図1


「図2



ウ 甲4の記載事項等
甲4には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】【発明の属する技術分野】この発明は低圧鋳造装置に関し、主として、ストーク内における溶湯の湯面の酸化を防止する際に使用される。」
(イ)「【0009】次に、60は不活性ガス供給管であり、前記補助保持炉20が進退可能(軸方向に沿って)に設けられている。この不活性ガス供給管60は補助保持炉20内の溶湯A中に不活性ガスGを供給するためのものである。そして、進退することによって、その先端開口から排出される不活性ガスGの気泡が前記ストーク30内に侵入する位置(図3および図4の位置)とこの気泡が前記ストーク30内に侵入しない位置(図1,図2,図5および図6の位置)との間を移動することができる。このため、不活性ガスGを排出した状態で、前記不活性供給管60をその気泡が前記ストーク30内に侵入する位置(図3および図4の位置)に移動させると、不活性ガスGは前記ストーク30に供給されてストーク30の溶湯Aの湯面の酸化を防止することができるとともにストーク内壁に付くアルミ膜の酸化防止もでき、一方、その気泡が前記ストーク30内に侵入しない位置(図1,図2,図5および図6の位置)に移動させると不活性ガスGは溶湯A中の水素ガスに付着して脱ガスを図ることができる。なお、61はベローズである。
【0010】なお、図において、22は遮蔽板であり、前記不活性供給管60から排出される不活性ガスGの気泡が前記ストーク30内に侵入するのを防止するためのものである。また、23,23,…は前記補助保持炉20を加熱維持するための加熱手段である。」
「図1


「図3



エ 甲5の記載事項等
甲5には、以下の事項が記載されている。
(ア)「【0001】
本発明は、食品工業等の有機性廃水に代表される産業廃水、又は下水、し尿等の廃水をメタン醗酵処理してメタンガス,炭酸ガスなどに分解するメタン発酵処理装置に関する。・・・」
(イ)「【0017】
本発明のメタン発酵処理装置において、前記開口部の上流側近傍に、前記上流側反応室内のガスが前記下流側反応室内に流入することを阻止する阻止板が設けられていることが好ましい。例えば、開口部からわずかに上流側の反応室内に、開口部よりも大きな断面積を有する浮上ガス阻止板を設けることにより、上流側反応室内で発生したメタンガスが開口部を通じて下流側反応室内に流入することを阻止し、ガスをガス抜き手段へと効果的に誘導することが可能となる。このような浮上ガス阻止板は、上方に頂点を有するように配置された円錐面状に構成することができる。・・・」
(ウ)「【0029】
反応室10Zで発生したメタンガスの一部分は、開口3Aの下方にある浮上ガス阻止板12に捕捉されて反応室10Aへの流入が阻止され、阻止されたメタンガスを含めた反応室10Zで発生したメタンガスは隔壁2Aの円錐面下側に沿って上昇し、隔壁2Aと多段式反応槽1との接合部の周囲に滞留する。その接合部付近には上向き配管5Aの一端が開口しているので、当該接合部の周囲に滞留したメタンガスは、上向き配管5Aを通ってガス抜き槽7Aの水面下に導かれ、その水面から気中に放出されたメタンガスはガス放出管11を介して多段式反応槽1外に排出される。」
「図1



オ 甲1発明
上記アの記載事項等を踏まえると、甲1には、以下の甲1発明が記載されていると認められる。
<甲1発明>
「通気性を有する耐火材2、2aからなる下部炉体3及び上部炉体4を備えるとともに、前記下部炉体3及び上部炉体4内の溶湯Aと鋳型6内とを連通するストーク7を備えた炉体と、
前記炉体の炉内空間10に加圧用の気体を供給する加圧導管11とを有し、
下部炉体3に収容されている溶湯Aは加圧用の気体によってストーク7を上昇して鋳型6内に鋳込まれる低圧鋳造装置において、
溶湯圧>耐火材内圧力とすることで、耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止する低圧鋳造装置。」

カ 対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「通気性を有する耐火材2、2a」は、その機能に照らせば、本件発明1の「不定形耐火物」に相当する。
また、甲1発明の「下部炉体3及び上部炉体4」は、その内部に溶湯Aを収納するものであるから、本件発明1の「溶湯収納容器」に相当する。
また、甲1発明の「鋳型6内」は、本件発明1の「金型のキャビティ」に相当し、以下同様に、「ストーク7」は「ストーク」に、「炉内空間10」は「炉本体の内部空間」に、「加圧用の気体」は「加圧気体」に、「加圧導管11」は「加圧気体供給手段」に、「低圧鋳造装置」は溶湯を保持する炉体を有するから「低圧鋳造用溶湯保持炉」に、それぞれ相当する。
また、甲1発明の「下部炉体3に収容されている溶湯Aは加圧用の気体によってストーク7を上昇して鋳型6内に鋳込まれる」ことは、加圧導管11から加圧用の気体が下部炉体3に吹き込まれると、その圧力が下部炉体3に収容されている溶湯面に作用して溶湯面を押し下げて、溶湯Aを鋳型6内に鋳込むことは明らかであるから、本件発明1の「前記加圧気体供給手段により前記溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させることにより、前記溶湯収納容器内の溶湯を金型のキャビティ内に注湯する」ことに相当する。

そうすると、両者は、以下の一致点、相違点を有する。
一致点:「不定形耐火物からなる溶湯収納容器を備えるとともに、前記溶湯収納容器内の溶湯と金型のキャビティとを連通するストークを備えた炉本体と、
前記炉本体の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段とを有し、
前記加圧気体供給手段により前記溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させることにより、前記溶湯収納容器内の溶湯を金型のキャビティ内に注湯する低圧鋳造用溶湯保持炉。」
相違点:本件発明1は「前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されている」のに対し、甲1発明は、溶湯圧>耐火材内圧力とすることで耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止するもので、気泡阻止部材が配置されていない点。

キ 判断
上記相違点について検討する。
溶湯収納容器の炉床の一部であってストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材を配置することは、甲3ないし甲5のいずれの文献にも記載されていない。
仮に、特許異議申立人が主張するように、甲3に、炉床部に遮断プレートを設けて空気遮断を行うことで溶湯への気泡の移行を防止すること、甲4に、低圧鋳造装置のストーク内に気泡が侵入しないように遮蔽板(気泡阻止部材)を設けること、甲5に、上流側反応室のガスが上昇して、開口部を通じて下流側反応室に入ることを阻止するために開口部直下に開口部よりも大きな阻止板を設けることがそれぞれ記載されているとしても、甲1発明において、溶湯圧>耐火材内圧力とすることで耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止すること、すなわち溶湯中に気体が侵入しないことは不可欠の構成であるところ、甲1発明において耐火材内圧力を低減させつつ、如何に甲3ないし甲5の構成を適用すればよいか想定できないし、甲1発明の溶湯圧>耐火材内圧力とすることで耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止することを捨象して、溶湯中に侵入する気泡を阻止する部材を設ける動機も見いだせない。
そうすると、甲1発明に甲3ないし甲5の記載事項を適用して本件発明1に想到することはないから、本件発明1は、甲1発明に、甲3ないし甲5に記載の技術事項や、これらの証拠から把握できる技術常識や周知の技術を適用しても、当業者が容易に発明をすることができたということはできない。

(2)特許異議申立理由1:【特許法第29条第2項進歩性)違反】(甲2を主引例とした場合)
甲2を主引例とした場合の上記第4の2.(1)の特許異議申立理由1について検討する。
ア 甲2の記載事項等
甲2には、以下の事項が記載されている。
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)通気性を有する耐火材により形成された炉体を使用し、炉内空間に直接開口する加圧導管から送り込まれる炉内加圧によって、鋳型への注湯を行う低圧鋳造方法において、前記加圧導管から送り込まれた炉内の気体を、炉内加圧及び減圧過程にわたって、常時、前記通気性を有する耐火材から成る炉体を経由し、該耐火材に通ずる連通導管から、炉外大気中に排出させることを特徴とした低圧鋳造方法。」(1ページ左下欄4行−13行)
(イ)「本発明は低圧鋳造技術、特に通気性を有する耐火材により形成された炉体を使用する低圧鋳造方法に関する。」(1ページ左下欄15−17行)
(ウ)「このため、溶湯圧力と耐火材中の気体圧力の間に圧力差が生じ、炉内加圧時には溶湯圧力が耐火材中の気体圧力より高圧となるが、炉内減圧時には、耐火材中の気体圧力の方が溶湯圧力より高圧となり、耐火材から溶湯中に気体が侵入し、それに伴い耐火材中に含有されている水分も、気体とともに溶湯中に侵入し、鋳造品にピンホール等の鋳造欠陥が発生する欠点がある。
また、耐火材が乾燥状態であっても、鋳造作業の繰り返しによって、加圧気体中の水分が炉内の低温部に凝縮し、耐火材中に含まれる水分の場合と同様な過程を経て、炉内低温部に凝縮した水分が、炉内減圧時に溶湯中に侵入することとなり、鋳造品にピンホール等の鋳造欠陥の発生を避けることができない欠点がある。」(1ページ右下欄下から2行−2ページ左上欄13行)
(エ)「第1図において、1は気密性を有する鉄皮により形成された炉壁であって、この炉壁1の内側には耐火レンガ、耐火粘土、耐火モルタル等の通気性を有する耐火材2がライニングされており、この耐火材2と炉壁によって下部炉体3を形成している。
そして、この下部炉体3の上部には、下部炉体3と同様に炉壁1aと耐火材2aから成る上部炉体4が配設されており、この上部炉体4は炉体の蓋の役目ももっている。
また、この上部炉体4の上方には、図示されない固定具に固定された支持部材5が設置されており、この支持部材5の上に鋳造用の鋳型6が設置されている。
さらに、この鋳型6には、上部炉体4の炉壁1a及び耐火材2aを貫通して、炉内空間10に向かって垂下するストーク7が取付けられており、このストーク7の下端8は下部炉体3の内側底面9よりやや上方の位置に配置してある。
また、上部炉体4の側面には、炉壁1a及び耐火材2aを貫通して、炉内空間10に直接開口する加圧導管11が配設されており、この加圧導管11は加圧気体源(図示せず)に接続されるとともに、その途中に給気弁12が設けられている。
また、下部炉体3には、炉壁1aを貫通して、耐火材2の下方側面に開口している連通導管13が配設されている。
そして、この連通導管13の一端は常に大気圧に開放されており、炉内空間10が加圧状態及び減圧過程にわたって、常時、耐火材2から成る炉体を経由して気体が炉外大気中に流出し、一定方向の気体の流れが生じるようになっている。」(2ページ右上欄下から4行−右下欄8行)
(オ)「上記のように構成された低圧鋳造装置において、まず加圧制御装置によって給気弁12が開き、加圧気体源より所定の圧力と流量の加圧用の気体が、炉内空間10に送り込まれる。
この加圧用気体による炉内空間10の圧力上昇によって、下部炉体3に収容されている溶湯Aは、ストーク7を上昇して鋳型6内に鋳込まれると同時に、鋳型6内に押し込まれた気体は、鋳型6の間隙から外部へ排出される。」(2ページ右下欄下から6行−3ページ左上欄3行)
(カ)「一方、炉内空間10に送り込まれた加圧気体の一部は、通気性を有する耐火材2から成る炉体を経由して、連通導管13より炉外大気中に流出する。
この時、耐火材2中の通気性の制約から耐火材2に含まれる気体には、炉内空間10側から炉壁1側に向かって、また、溶湯Aに接触していない部分から、溶湯Aに接触している部分に向かって圧力勾配が生じている。
このために、炉内空間加圧時において耐火材2の溶湯Aに接する部分に含まれる気体の圧力の立ち上がりが、炉内空間10内気体圧力の上昇に比べ遅れを生じ、一方溶湯Aには、「炉内空間10内気体圧力」+「溶湯自重圧力」が作用し、その結果「溶湯圧力」>「耐火材内気体圧力」となり、耐火材2中の気体の溶湯中への侵入が防止される。」(3ページ左上欄4行−下から2行)
(キ)「鋳型6に鋳込まれた溶湯Aが凝固するまで加圧保持された後、加圧導管11の給気弁12を閉じると、連通導管13の一端が常に炉外大気圧に開放されているために、炉内空間10から通気性を有する耐火材2から成る炉体を経由して、前記連通導管13より流出する気体の流れによって、炉内空間10の圧力が低下する。
この場合にも、耐火材2内の気体圧力が先行して低下するので、「溶湯圧力」>「耐火材内気体圧力」の関係が保たれ、耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入は防止される。」(3ページ左上欄下から1行−右上欄10行)
(ク)「以上により明らかなように、本発明によれば、炉内空間に直接開口する加圧導管から送り込まれる気体により、炉内の加圧を行うと同時に、耐火材に通ずる連通導管によって、炉内の気体の一部を耐火材から成る炉体を経由して炉外に流出させるようにしたことにより、鋳造時の加圧及び減圧過程にわたって、常時、気体の流れが耐火材中に生じ、「溶湯圧力」>「耐火材内気体圧力」となり、溶湯中への気体の侵入を防止することができ、従って溶湯中への水分の侵入がなくなり、鋳造製品中のピンホール等の鋳造欠陥の発生を防止できる利点がある。」(3ページ左下欄下から1行−右下欄11行)
「第1図



イ 甲3ないし甲5の記載事項等
上記(1)イないしエに記載したとおりである。

ウ 甲2発明
上記アの記載事項等を踏まえると、甲2には、以下の甲2発明が記載されていると認められる。
<甲2発明>
「通気性を有する耐火材2、2aからなる下部炉体3及び上部炉体4を備えるとともに、前記下部炉体3及び上部炉体4内の溶湯Aと鋳型6内とを連通するストーク7を備えた炉体と、
前記炉体の炉内空間10に加圧用の気体を供給する加圧導管11とを有し、
下部炉体3に収容されている溶湯Aは加圧用の気体によってストーク7を上昇して鋳型6内に鋳込まれる低圧鋳造装置において、
溶湯圧>耐火材内気体圧力とすることで、耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止する低圧鋳造装置。」

エ 対比
本件発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明の「通気性を有する耐火材2、2a」は、その機能に照らせば、本件発明1の「不定形耐火物」に相当する。
また、甲2発明の「下部炉体3及び上部炉体4」は、その内部に溶湯Aを収納するものであるから、本件発明1の「溶湯収納容器」に相当する。
また、甲2発明の「鋳型6内」は、本件発明1の「金型のキャビティ」と相当し、以下同様に、「ストーク7」は「ストーク」に、「炉内空間10」は「炉本体の内部空間」に、「加圧用の気体」は「加圧気体」に、「加圧導管11」は「加圧気体供給手段」に、「低圧鋳造装置」は溶湯を保持する炉体を有するから「低圧鋳造用溶湯保持炉」に、それぞれ相当する。
また、甲2発明の「下部炉体3に収容されている溶湯Aは加圧用の気体によってストーク7を上昇して鋳型6内に鋳込まれる」ことは、加圧導管11から加圧用の気体が下部炉体3に吹き込まれると、その圧力が下部炉体3に収容されている溶湯面に作用して溶湯面を押し下げて、溶湯Aを鋳型6内に鋳込むことは明らかであるから、本件発明1の「前記加圧気体供給手段により前記溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させることにより、前記溶湯収納容器内の溶湯を金型のキャビティ内に注湯する」ことに相当する。

そうすると、両者は、以下の一致点、相違点を有する。
一致点:「不定形耐火物からなる溶湯収納容器を備えるとともに、前記溶湯収納容器内の溶湯と金型のキャビティとを連通するストークを備えた炉本体と、
前記炉本体の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段とを有し、
前記加圧気体供給手段により前記溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させることにより、前記溶湯収納容器内の溶湯を金型のキャビティ内に注湯する低圧鋳造用溶湯保持炉。」
相違点:本件発明1は「前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されている」のに対し、甲2発明は、溶湯圧>耐火材内気体圧力とすることで耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止するもので、気泡阻止部材が配置されていない点。

オ 判断
上記相違点について検討する。
溶湯収納容器の炉床の一部であってストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材を配置することは、甲3ないし甲5のいずれの文献にも記載されていない。
仮に、特許異議申立人が主張するように、甲3に、炉床部に遮断プレートを設けて空気遮断を行うことで溶湯への気泡の移行を防止すること、甲4に、低圧鋳造装置のストーク内に気泡が侵入しないように遮蔽板(気泡阻止部材)を設けること、甲5に、上流側反応室のガスが上昇して、開口部を通じて下流側反応室に入ることを阻止するために開口部直下に開口部よりも大きな阻止板を設けることがそれぞれ記載されているとしても、甲2発明において、溶湯圧>耐火材内気体圧力とすることで耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止すること、すなわち溶湯中に気体が侵入しないことは不可欠の構成であるところ、甲2発明において耐火材内気体圧力を低減させつつ、如何に甲3ないし甲5の構成を適用すればよいか想定できないし、甲2発明の溶湯圧>耐火材内気体圧力とすることで耐火材2内の気体の溶湯A中への侵入を防止することを捨象して、溶湯中に侵入する気泡を阻止する部材を設ける動機も見いだせない。
そうすると、甲2発明に甲3ないし甲5の記載事項を適用して本件発明1に想到することはないから、本件発明1は、甲2発明に、甲3ないし甲5に記載の技術事項や、これらの証拠から把握できる技術常識や周知の技術を適用しても、当業者が容易に発明することができたということはできない。

カ 本件発明2−5について
本件発明2−5は、本件発明1を直接又は間接的に引用するものであり、本件発明1の特定事項を全て含むものであるところ、本件発明2−5と甲1発明又は甲2発明とは、上記(1)カ及び(2)エと同じ相違点を有するから、上記(1)キ及び(2)オの判断と同様に、甲1発明又は甲2発明及び甲3ないし甲5から当業者が容易に発明をすることができたものではない。
よって、特許異議申立理由1によっては、本件特許を取り消すことはできない。

(3)特許異議申立理由2:【特許法第36条第6項1号(サポート要件)違反】
特許異議申立人は、概ね、請求項1の「前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されている」との発明特定事項に、気泡阻止部材の材質や物性などの記載がなく、「非通気性」とも記載されていないため、気泡阻止部材は、「通気性」も「非通気性」も包含していると解釈できるところ、明細書の段落【0023】の「気泡阻止部材13は、非通気性で、且つ、耐熱性を有する材料からなり、例えば窒化珪素質ファインセラミックスが好ましいが、二硼化チタン質、Si含侵SiC質、高純度アルミナ質、ジルコニア質、又はアルミナ・ジルコニア複合からなるファインセラミックスも使用可能である。」の記載を考慮しても、請求項1の記載はサポート要件を充足しない旨を主張している。
ここで、特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解されるところ、まず、本件特許の明細書に記載された課題及び課題解決手段について検討する。
明細書の段落【0010】には、「本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、特に、ストークの下端開口からの気泡侵入を防止し、鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生を防止することができる低圧鋳造用溶湯保持炉を提供することを課題とする。」と記載され、段落【0014】には、「本発明によれば、気泡阻止部材がストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に配置されているので、気泡発生が全体的に低減されるとともに、ストークの下端開口の直下領域を覆う炉床面からの気泡発生が回避され、ストークの下端開口からストーク内への気泡の侵入が防止される結果、鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生が防止されるという効果を有している。」と記載され、段落【0032】には、「以上の構成からなる低圧鋳造用溶湯保持炉1では、加圧気体供給装置3により溶湯収納容器4内の溶湯面Lに気体圧力を作用させたときに不定形耐火物からなる溶湯収納容器4の壁内に侵入した気体は、図1に示すように、大気解放時に溶湯収納容器4の内側面又は内底面(炉床)から溶湯M内に気泡Bとなって放出される。非通気性の気泡阻止部材13がストーク6の下端開口6aを臨む位置に配置されているので、気泡阻止部材13(13a−13gを含む。以下同様。)が設けられた面積分だけ、気泡発生が全体的に低減される。また、この気泡阻止部材13により、ストーク6の下端開口6aを臨む炉床面からの気泡発生が回避され、ストーク6の下端開口6aからストーク6内への気泡Bの侵入が防止される。」と記載されている。
よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載からは、ストークの下端開口からの気泡侵入を防止し、鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生を防止するとの課題を解決するために、炉床面からの気泡発生が回避される気泡阻止部材が設けられ、その配置が、ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置であり、気泡阻止部材の面積分だけ気泡発生が全体的に低減されると理解するものである。
他方、請求項1の上記発明特定事項は、上記課題及び課題解決手段に関連して、「前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されている」というものであり、上記課題を解決するための手段である、気泡阻止部材の配置と面積についても記載されているといえる。
したがって、本件発明1及び本件発明1を引用する本件発明2−5は、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、特許異議申立人のサポート要件違反であるとの主張は採用できない。
よって、特許異議申立理由2によっては、本件特許を取り消すことはできない。

(4)特許異議申立理由3:【特許法第36条第4項第1号実施可能要件)違反】
特許異議申立人は、概ね、ストーク下端開口と気泡阻止部材の間に炉床が存在する場合、気泡阻止部材の上の炉床から、気泡が溶湯内に放出される可能性があり、気泡発生自体を回避できるものではないのに対して、訂正前の本件発明1及び2では、気泡阻止部材が位置するのが炉床部の表面とは限らないことを論拠として、本件特許の明細書には、訂正前の本件発明1及び2の低圧鋳造装置について、当業者が実施できる程度に記載されていない旨を主張している。
ここで、実施可能要件を充足するか否かについては、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願当時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かによるところ、本件特許の発明の詳細な説明には、本件発明の「低圧鋳造用溶湯保持炉」について、特に「前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されている」ことに関し、その段落【0016】−【0035】に、【発明を実施するための形態】が明確かつ十分に記載されており、図1−8の図示内容も合わせてみれば、当業者が過度な試行錯誤を要することなく、製造し、使用することができる程度の記載があると認められる。
また、上記で主張されるとおり、ストーク下端開口と気泡阻止部材の間に炉床が存在する場合に、気泡阻止部材の上の炉床から、気泡が溶湯内に放出される可能性があるとしても、本件発明が気泡阻止部材を備えることにより、気泡阻止部材を設けない場合に比べて、気泡発生が全体的に低減されるとともに、ストークの下端開口の直下領域を覆う炉床面からの気泡発生が回避され、ストークの下端開口からストーク内への気泡の侵入が防止されるものであることは、発明の詳細な説明の記載内容から特段の支障なく理解できるものである。
したがって、特許異議申立人の実施可能要件違反についての主張は採用できない。
よって、特許異議申立理由3によっては、本件特許を取り消すことはできない。


第6 むすび
以上のとおり、本件発明1−5に係る特許は、取消理由通知書に記載した取消理由、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことはできない。さらに、他に本件発明1−5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (54)【発明の名称】低圧鋳造用溶湯保持炉
【技術分野】
【0001】
本発明は、例えば、アルミニウム合金等の鋳造品を低圧鋳造法により製造するのに好適な低圧鋳造用溶湯保持炉に関し、詳しくは、溶湯に直接接触する不定形耐火物で成形された溶湯収納容器を備えた低圧鋳造用溶湯保持炉の炉床構造に関する。
【背景技術】
【0002】
低圧鋳造法では、炉内に乾燥空気等の加圧気体を導入して、溶湯面に例えば0.2〜0.5気圧程度の圧力を作用させ、炉内に保持された溶湯をストークを介して金型のキャビティ内に充填させ、所定時間経過後、炉内を大気解放することにより、鋳造品が製造される。
【0003】
低圧鋳造用溶湯保持炉は、一室型炉と複室型炉がある。いずれの炉においても、溶湯に直接接触する不定形耐火物からなる溶湯収納容器と炉殼を構成する鉄皮との間にシリカボード等からなる断熱層が施された内張り構造を有している。
【0004】
例えば、特許文献1には、炭化珪素の不定形耐火物からなる溶湯収納容器の外面にセラミックファイバー層、耐アルミ耐火板(セラミックファイバーブランケット)、高温用断熱板(珪酸カルシウム保温板)、充填材(多孔性粒状耐火物)、及び低温用断熱板(パーライトボード)を順次施した溶湯貯留槽が開示されている。
【0005】
また、特許文献2には、アルミナ系不定形耐火物からなる溶湯収納容器の外周面に耐火層及び断熱層を順次施した2室型低圧鋳造用溶湯保持炉が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特公平5−83835号公報
【特許文献2】特許第4519806号明細書
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
溶湯収納容器は、ボード等の断熱層を施工し、該断熱層に対向するように型枠を設置し、該型枠と断熱層の間に水等で混練した不定形耐火物を流し込み、所定時間放置(養生)して脱枠し、所定の昇温曲線で乾燥焚きすることで形成される。このように溶湯収納容器は、乾燥焚き工程を経ることから、水分の放出に伴って微細な亀裂及び微細な気孔が発生し、通気性を有する。また、溶湯収納容器の外面と鉄皮の間には断熱ボード等からなる断熱層が内張りされることから、内張り全体としても通気性を有する。
【0008】
このため、このような溶湯保持炉による低圧鋳造工程における炉内の加圧時に、加圧気体の一部が溶湯収納容器の外面の断熱層に流入する。断熱層に流入した気体及び溶湯収納容器の壁内の微細な亀裂や気孔内の気体の一部は、大気解放時に、溶湯収納容器の内側面又は内底面(以下、この内底面を「炉床の表面」、又は略して「炉床面」という。)から溶湯内に放出されて気泡が発生する。
【0009】
この気泡は、溶湯と反応して酸化物等の異物を形成するので、溶湯の清浄度が悪化する。特に、炉床で発生した気泡はストーク内に侵入すると、ストーク内で異物が形成されるとともに、微細気泡としてストーク内の溶湯に残留する可能性がある。ストーク内の異物や微細気泡は溶湯流の障害となり、鋳造品に鋳物巣が生じたり、異物が混入する等により、鋳造不良の一因となる。
【0010】
本発明はかかる問題点に鑑みてなされたもので、特に、ストークの下端開口からの気泡侵入を防止し、鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生を防止することができる低圧鋳造用溶湯保持炉を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
前記課題を解決するための手段として、本発明は、
(1)不定形耐火物からなる溶湯収納容器を備えるとともに、前記溶湯収納容器内の溶湯と金型のキャビティとを連通するストークを備えた炉本体と、
前記炉本体の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段とを有し、
前記加圧気体供給手段により前記溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させることにより、前記溶湯収納容器内の溶湯を金型のキャビティ内に注湯する低圧鋳造用溶湯保持炉において、
前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されている。
【0012】
本発明では、加圧気体供給手段により溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させたときに不定形耐火物からなる溶湯収納容器の壁内に侵入した気体は、大気解放時に溶湯収納容器の内側面又は炉床面から溶湯内に気泡となって放出されるが、非通気性の気泡阻止部材がストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に配置されているので、気泡発生が全体的に低減されるとともに、ストークの下端開口の直下領域を覆う炉床面からの気泡発生が回避され、ストークの下端開口からストーク内への気泡の侵入が防止される。
【0013】
(2)前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面近傍に埋設されていることが好ましい。この場合、気泡阻止部材の表面は炉床の表面に露出されていてもよい。
(3)あるいは、前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に固定されていてもよい。
(4)また、前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に形成された凹部に配設されていてもよい。
(5)さらに、前記気泡阻止部材は、上端開口の有底円筒状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に形成された凹部内に下部が配設されていてもよい。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、気泡阻止部材がストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に配置されているので、気泡発生が全体的に低減されるとともに、ストークの下端開口の直下領域を覆う炉床面からの気泡発生が回避され、ストークの下端開口からストーク内への気泡の侵入が防止される結果、鋳造品への異物の混入及び鋳物巣の発生が防止されるという効果を有している。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】本発明に係る低圧鋳造用溶湯保持炉の実施形態の断面図。
【図2】気泡阻止部材の設置位置及び構造を示す図1の部分拡大平面図(a)及びIIb−IIb線断面図(b)。
【図3】気泡阻止部材の設置位置及び構造の変形例1を示す平面図(a)及びIIIb−III線断面図(b)。
【図4】気泡阻止部材の設置位置及び構造の変形例2を示す平面図(a)及びIVb−IVb線断面図(b)。
【図5】気泡阻止部材の設置位置及び構造の変形例3を示す平面図(a)及びVb−Vb線断面図(b)。
【図6】気泡阻止部材の設置位置及び構造の変形例4を示す平面図(a)及びVIb−VIb線断面図(b)。
【図7】気泡阻止部材の設置位置及び構造の変形例5を示す平面図(a)及びVIIb−VIIb線断面図(b)。
【図8】気泡阻止部材の設置位置及び構造の変形例6を示す平面図(a)及びVIIIb−VIIIb線断面図(b)。
【発明を実施するための形態】
【0016】
次に、本発明の実施形態を添付図面に従って説明する。
【0017】
図1は、本発明の実施形態に係る一室型の低圧鋳造用溶湯保持炉1を示す。この溶湯保持炉1は、炉本体2と、加圧気体供給装置3を有している。炉本体2は、溶湯収納容器4と、ダイベース5と、ストーク6とを備えている。
【0018】
溶湯収納容器4は、アルミナ質系不定形耐火物からなり、上方に開口している。溶湯収納容器4の外面と炉本体2の炉殼を構成する鉄皮8との間には断熱ボード等からなる断熱層7が設けられている。断熱層7は、溶湯収納容器4の外面から順次、セラミックファイバーと耐火骨材を配合したセラミックファイバー質不定形耐火物、バルクの充填層、及びケイ酸カルシウム系の断熱ボードで構成されている。断熱ボードは二酸化ケイ素系断熱ボード等も使用可能である。
【0019】
ダイベース5は、鉄皮8の上端開口部に着脱可能に取り付けられ、炉本体2を密閉可能になっている。ダイベース5の内面には珪酸カルシウム系ボード等の断熱材9が取り付けられている。ダイベース5の上面には金型10が載置される。
【0020】
ストーク6は、円筒形状の窒化珪素質ファインセラミック製で、その下端は溶湯収納容器4に収納される溶湯Mの溶湯面Lより下方に浸漬されて炉床面の上方に位置し、上端はダイベース5に取り付けられて、溶湯収納容器4内の溶湯Mと金型10のキャビティとを連通している。溶湯収納容器4の炉床面よりストーク6の下端開口6aまでの高さは、ストーク6の外径が100mm、内径が80mmの場合、250mmである。
【0021】
炉本体2内には、溶湯収納容器4の溶湯面Lより上方に、溶湯Mを輻射熱で加熱するヒータ11が配設されている。また、炉本体2の側壁には、溶湯収納容器4の溶湯面Lより上方に、空気入口ノズル12が設けられている。
【0022】
加圧気体供給装置3は、炉本体2の空気入口ノズル12から炉本体2内に加圧気体を供給するもので、エアコンプレッサ、エアリザーバ等で構成されている。
【0023】
溶湯収納容器4の炉床には、ストーク6の下端開口6aを臨む位置、換言すればストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に非通気性の気泡阻止部材13が配設されている。ここで、ストーク6の下端開口6aを臨む位置とは、溶湯収納容器4の炉床の表面近傍(表層部内、表面上、表面の上方を含む)をいう。気泡阻止部材13は、溶湯収納容器4の炉床の表層部に完全に埋設された状態、一部が表面に露出した状態、表面に載置された状態、表面の上方に支持された状態のいずれでもよい。気泡阻止部材13は、ストーク6の下端開口6aより大なる大きさを有し、好ましくはストーク6の下端開口6aの内径の2倍以上の大きさを有する。気泡阻止部材13は、非通気性で、且つ、耐熱性を有する材料からなり、例えば窒化珪素質ファインセラミックスが好ましいが、二硼化チタン質、Si含侵SiC質、高純度アルミナ質、ジルコニア質、又はアルミナ・ジルコニア複合からなるファインセラミックスも使用可能である。
【0024】
溶湯収納容器4の炉床に設ける気泡阻止部材13の具体的な形態とその施工方法及び変形例を以下に説明する。
【0025】
図2は、板状の気泡阻止部材13aを溶湯収納容器4の炉床の表層部に埋設したものである。気泡阻止部材13aは、ストーク6の下端開口6aの外径が100mm、内径が80mmの場合、200mm×200mmの矩形で、厚さ10mmである。気泡阻止部材13aの埋設位置は、炉床面にできるだけ近いほうが好ましく、具体的には炉床面から20mmである。気泡阻止部材13aは、溶湯収納容器4を成形する発泡スチロール製の型枠の所定位置(4箇所)に貫通孔を設け、該貫通孔に棒状の支持部材を挿通して型枠に気泡阻止部材13aの四隅を吊り下げて支持する。この状態で型枠を炉本体2内に設置し、型枠に混練した不定形耐火物を流し込む。所定時間(約12〜24時間)放置した後、脱枠と同時に支持部材を取り除き、乾燥焚きする。支持部材の跡の穴HはモルタルPを充填して塞ぐ。
【0026】
図3は、図2と同様にして溶湯収納容器4の炉床の表層部に埋設した気泡阻止部材13bの周縁を10mm程度残して、炉床の表面の不定形耐火物を削り取ることにより、気泡阻止部材13bの表面を溶湯収納容器4の炉床の表面に露出させたものである。成形時の支持部材の跡の穴Hは、不定形耐火物を削り取る範囲内に位置するようにすることで、当該穴Hを塞ぐ必要がなくなる。
【0027】
図4は、図3と同様に溶湯収納容器4の炉床の表層部に埋設した気泡阻止部材13cの周縁部を除く表面が露出するように炉床の表面の不定形耐火物を削り取ったものである。気泡阻止部材13cは図3の気泡阻止部材13bよりも浅く埋設されている。気泡阻止部材13cの周縁は下向きに広がるテーパ13´が形成されている。このため、気泡阻止部材13cの周縁の不定形耐火物が損傷しても気泡阻止部材13cが浮力で溶湯M中に浮き上がるのを防止できる。
【0028】
図5は、気泡阻止部材13dを溶湯収納容器4の炉床の表層部に、全表面が露出するように、埋設したものである。埋設位置は、気泡阻止部材13dの表面が炉床面と面一になるような深さとする。気泡阻止部材13dは、ストーク6の下端開口6aの外径が100mm、内径が80mmの場合、200mm×200mmの矩形の四隅を切り落とした八角形で、厚さ8mmであり、その周縁には四隅を除いて下向きに広がるテーパ13´が形成されている。溶湯収納容器4を形成する発泡スチロール製型枠の所定箇所(4箇所)に凹部を設ける。この凹部に気泡阻止部材13dの切落とし部に係合した鉤状の固定ピン14の頭部を挿入し、気泡阻止部材13dの表面が型枠表面に接した状態で支持する。この状態で図2と同様に不定形耐火物を成形し、乾燥焚きする。気泡阻止部材13dは、溶湯収納容器4の炉床面と面一に固定ピン14で支持された状態になる。
【0029】
図6は、板状の気泡阻止部材13eを溶湯収納容器4の炉床の表面に固定したものである。気泡阻止部材13eは、ストーク6の下端開口6aの外径が100mm、内径が80mmの場合、200mm×200mmの矩形の四隅を切り落とした八角形で、厚さ8mmである。溶湯収納容器4を成形する発泡スチロール製の型枠を炉本体2内に設置し、混練した不定形耐火物を流し込み、所定時間(約12〜24時間)放置した後、脱枠する。成形された溶湯収納容器4の炉床の所定位置に、ファインセラミック製のボルト16を設置するための竪穴15を設ける。竪穴15は、気泡阻止部材13eの切落とし部(4箇所)に対応する位置に設ける。この状態で乾燥焚きする。溶湯収納容器4の炉床面の所定位置に気泡阻止部材13eをモルタルPを介して設置した後、竪穴15にボルト16を配置するとともに、竪穴15にモルタルPを充填して、気泡阻止部材13eの切落とし部を固定する。なお、竪穴15は、乾燥焚き後に設けてもよい。
【0030】
図7は、板状の気泡阻止部材13fを溶湯収納容器4の炉床の凹部17aに配設し固定したものである。気泡阻止部材13fは、ストーク6の下端開口6aの外径が100mm、内径が80mmの場合、200mm×200mmの矩形の四隅を切り落とした八角形で、厚さ8mmである。溶湯収納容器4を成形する発泡スチロール製の型枠の所定位置に凸部を形成しておく。凸部は、気泡阻止部材13fが収容される凹部17aを形成するためのものである。この型枠を炉本体2内に設置し、混練した不定形耐火物を流し込み、所定時間(約12〜24時間)放置した後、脱枠する。成形された溶湯収納容器4の炉床面には、凹部17aが形成されている。成形された溶湯収納容器4の炉床の所定位置に、ファインセラミック製の鉤状の固定ピン14を配置するための竪穴15を設ける。竪穴15は、気泡阻止部材13fの切落とし部(4箇所)に対応する位置に設ける。この状態で乾燥焚きする。溶湯収納容器4の炉床面の凹部17aに気泡阻止部材13fをモルタルPを介して設置し、気泡阻止部材13fの切落とし部を固定ピン14に係合するとともに、竪穴15にモルタルPを充填して、気泡阻止部材13fの切落とし部を固定する。なお、竪穴15は、乾燥焚き後に設けてもよい。
【0031】
図8は、鍋状の気泡阻止部材13gを溶湯収納容器4の炉床の凹部17bに配設し固定したものである。気泡阻止部材13gは、ストーク6の下端開口6aの外径が100mm、内径が80mmの場合、外径200mm、内径180mm、高さ100mmの上端開口の有底円筒形で、その外周面には、環状溝18が形成されている。溶湯収納容器4を成形する発泡スチロール製の型枠の所定位置に円形凸部を形成しておく。円形凸部は、外径約200mm、高さ約50mmで、成形後に鍋状の気泡阻止部材13gが収容される凹部17bを形成するためのものである。この型枠を炉本体2内に設置し、混練した不定形耐火物を流し込み、所定時間(約12〜24時間)放置した後、脱枠する。成形された溶湯収納容器4の炉床面には、凹部17bが形成されている。この状態で、乾燥焚きする。溶湯収納容器4の炉床面の凹部17bの底面に鍋状の気泡阻止部材13gをモルタルPを介して設置し、凹部17bの内側面と鍋状の気泡阻止部材13gの外周面との間の隙間にモルタルPを充填して固定する。
【0032】
以上の構成からなる低圧鋳造用溶湯保持炉1では、加圧気体供給装置3により溶湯収納容器4内の溶湯面Lに気体圧力を作用させたときに不定形耐火物からなる溶湯収納容器4の壁内に侵入した気体は、図1に示すように、大気解放時に溶湯収納容器4の内側面又は炉床面から溶湯M内に気泡Bとなって放出される。非通気性の気泡阻止部材13がストーク6の下端開口6aを臨む位置に配置されているので、気泡阻止部材13(13a―13gを含む。以下同様。)が設けられた面積分だけ、気泡発生が全体的に低減される。また、この気泡阻止部材13により、ストーク6の下端開口6aを臨む炉床面からの気泡発生が回避され、ストーク6の下端開口6aからストーク6内への気泡Bの侵入が防止される。
【0033】
この結果、気泡Bと溶湯Mが反応して形成される異物がストーク6を通じて金型10内の鋳造品に混入したり、微細な気泡Bが金型10のキヤビティ内の溶湯Mに侵入して鋳物巣が発生するのを防止することができる。
【0034】
なお、以上の実施形態は、本発明を一室型の低圧鋳造用溶湯保持炉に適用したものであるが、本発明は、特許文献2のような溶湯保持室と加圧室からなる2室型の低圧鋳造用溶湯保持炉にも適用できることは言うまでもない。また、溶湯収納容器4は、炉本体2内で成形及び乾燥焚きする方式を適用したが、予め成形及び乾燥焚きする方式でもよい。
【0035】
本発明は、以上の実施形態に限定されるものではなく、特許請求の範囲に記載された発明に範囲内で種々変更することができる。例えば、非通気性の気泡阻止部材13は、矩形板に限らず、円形板、皿型、椀型、半球型等でもよく、要はストーク6の下端開口6aより大なる大きさを有するものであればよい。
【符号の説明】
【0036】
1…低圧鋳造用溶湯保持炉
2…炉本体
3…加圧気体供給装置
4…溶湯収納容器
5…ダイベース
6…ストーク
6a…下端開口
7…断熱層
8…鉄皮
9…断熱材
10…金型
11…ヒータ
12…空気入口ノズル
13,13a−13g…気泡阻止部材
14…固定ピン
15…竪穴
16…ボルト
17a,17b…凹部
18…溝
M…溶湯
B…気泡
(57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
不定形耐火物からなる溶湯収納容器を備えるとともに、前記溶湯収納容器内の溶湯と金型のキヤビティとを連通するストークを備えた炉本体と、
前記炉本体の内部空間に加圧気体を供給する加圧気体供給手段とを有し、
前記加圧気体供給手段により前記溶湯収納容器内の溶湯面に気体圧力を作用させることにより、前記溶湯収納容器内の溶湯を金型のキヤビティ内に注湯する低圧鋳造用溶湯保持炉において、
前記溶湯収納容器の炉床の一部であって前記ストークの下端開口の直下領域を覆うことができる位置に、前記ストークの下端開口より大なる大きさを有する気泡阻止部材が配置されていることを特徴とする低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項2】
前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面近傍に埋設されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項3】
前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に固定されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項4】
前記気泡阻止部材は、平板状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に形成された凹部に配設されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
【請求項5】
前記気泡阻止部材は、上端開口の有底円筒状で、前記溶湯収納容器の前記炉床の表面に形成された凹部内に下部が配設されていることを特徴とする請求項1に記載の低圧鋳造用溶湯保持炉。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2021-12-23 
出願番号 P2016-143861
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (B22D)
P 1 651・ 537- YAA (B22D)
P 1 651・ 536- YAA (B22D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 見目 省二
特許庁審判官 大山 健
田々井 正吾
登録日 2020-10-09 
登録番号 6775780
権利者 株式会社アクセル技研
発明の名称 低圧鋳造用溶湯保持炉  
代理人 前田 厚司  
代理人 前田 厚司  

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