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審決分類 |
審判 一部申し立て 2項進歩性 F16C 審判 一部申し立て 特29条の2 F16C |
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管理番号 | 1384123 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-14 |
確定日 | 2022-01-11 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6787198号発明「ハブユニット軸受」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6787198号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕〔4、5〕について訂正することを認める。 特許第6787198号の請求項2、3、5に係る特許を維持する。 特許第6787198号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6787198号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、2017年(平成29年) 3月10日(優先権主張 2016年(平成28年) 4月12日)の出願であって、令和 2年11月 2日にその特許権の設定登録がされ、同年11月18日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和 3年 5月14日付け:特許異議申立人高垣泰志(以下、「申立人」 という。)による請求項1ないし3及び5に 係る特許に対する特許異議の申立て 同年 8月 4日付け:取消理由通知書 同年10月 5日付け:特許権者による意見書の提出及び訂正請求( 以下、この訂正請求を「本件訂正請求」とい い、この訂正請求による訂正を「本件訂正」 という。) 同年11月26日付け:申立人による意見書の提出 第2 本件訂正の適否 1.本件訂正の内容 本件訂正の内容は、訂正箇所に下線を付して示すと、以下のとおりである。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1を削除する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2に「前記水抜き孔の内周面が、軸方向内方に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜している、請求項1に記載のハブユニット軸受。」とあるものを、独立形式に改め、「内周面に外輪軌道を有する外方部材と、外周面に内輪軌道を有する内方部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、前記水抜き孔の内周面が、軸方向内方に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜しており、前記取付孔は、内周面に、雌ねじ部を有する、ハブユニット軸受。」に訂正する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3に「前記水抜き孔が、前記環状溝と径方向に重畳する部分の内周面に、軸方向内方に向かうほど径方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有する、請求項1に記載のハブユニット軸受。」とあるものを、独立形式に改め、「内周面に外輪軌道を有する外方部材と、外周面に内輪軌道を有する内方部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、前記水抜き孔が、前記環状溝と径方向に重畳する部分の内周面に、軸方向内方に向かうほど径方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有しており、前記取付孔は、内周面に、雌ねじ部を有する、ハブユニット軸受。」に訂正する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4に「前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している、請求項1に記載のハブユニット軸受。」とあるものを、独立形式に改め、「内周面に外輪軌道を有する外方部材と、外周面に内輪軌道を有する内方部材と、前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している、ハブユニット軸受。」に訂正する。 (5)訂正事項5 特許請求の範囲の請求項5に「前記取付孔の内周面に、雌ねじ部を有する、請求項1〜4のうちの何れか1項に記載のハブユニット軸受。」と記載されているのを、「前記取付孔の内周面に、雌ねじ部を有する、請求項4に記載のハブユニット軸受。」に訂正する。 2.一群の請求項について (1)訂正前の請求項1ないし5について、訂正前の請求項2ないし5は、訂正前の請求項1を直接的又は間接的に引用しているから、訂正事項1に係る訂正に連動して訂正されるものであるため、訂正前の請求項1ないし5に対応する訂正後の請求項1ないし5は、一群の請求項である。 3.本件訂正の適否について (1)訂正事項1について ア 訂正の目的の適否 訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、特許請求の範囲を拡張し又は変更するものではないことが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項の規定に適合する。 ウ 新規事項追加の有無 訂正事項1は、請求項1を削除するものであるから、新規事項を追加するものではないことが明らかであり、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項の規定に適合する。 (2)訂正事項2について ア 訂正の目的の適否 訂正事項2は、訂正前の請求項1に記載された「取付孔」を、「内周面に、雌ねじ部を有する」ものに限定するとともに、訂正前の請求項2が請求項1の記載を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正である。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げられた「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項2は、訂正前の請求項2に係る発明の「取付孔」について、上記アのとおり発明特定事を直列的に付加するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 玉及び外輪軌道溝について、本件特許の願書に添付した明細書(以下、「本件明細書」という。)の発明の詳細な説明の段落【0030】には、「取付孔12aは、回転側フランジ11aの径方向中間部の円周方向等間隔複数箇所に配置されており、内周面に雌ねじ部27を有している。」と記載されている。 よって、訂正事項2は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 (3)訂正事項3について ア 訂正の目的の適否 訂正事項3は、訂正前の請求項1に記載された「取付孔」を、「内周面に、雌ねじ部を有する」ものに限定するとともに、訂正前の請求項3が請求項1の記載を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正である。 よって、訂正事項3は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」及び特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げられた「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項3は、訂正前の請求項3に係る発明の「取付孔」について、上記アのとおり発明特定事を直列的に付加するものであって、発明のカテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 玉及び外輪軌道溝について、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0030】には、「取付孔12aは、回転側フランジ11aの径方向中間部の円周方向等間隔複数箇所に配置されており、内周面に雌ねじ部27を有している。」と記載されている。 よって、訂正事項3は、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 (4)訂正事項4 ア 訂正の目的の適否 訂正事項4は、訂正前の請求項4が請求項1の記載を引用する記載であるところ、請求項間の引用関係を解消して、独立形式請求項へ改めるための訂正であって、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に掲げられた「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること。」を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項4は、訂正前の請求項4について何ら実質的な内容の変更を伴うものではないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第6項に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 訂正事項4は、訂正前の請求項4について何ら実質的な内容の変更を伴うものではないことが明らかであるから、特許法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項に適合するものである。 エ 特許出願の際独立して特許を受けることができること 訂正事項4は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する「他の請求項の記載を引用する請求項の記載を当該他の請求項の記載を引用しないものとすること」を目的とする訂正であって、同第1号又は第2号に規定する事項を目的とする訂正ではないから、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の要件は課されない。 (5)訂正事項5について ア 訂正の目的の適否 訂正事項5は、訂正前の請求項5において、「請求項1〜4のうちの何れか1項に記載のハブユニット軸受」と記載されていたのを、「請求項4に記載のハブユニット軸受」として、択一的記載の要素を一部削除するものである。 よって、訂正事項5は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げられた「特許請求の範囲の減縮」を目的とするものである。 イ 特許請求の範囲の拡張・変更の存否 訂正事項5は、上記アのとおり、訂正前の請求項5に係る発明について択一的記載の要素を一部削除するものであるから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことが明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第6項の規定に適合するものである。 ウ 新規事項追加の有無 訂正事項5は、上記アのとおり、択一的記載の要素を一部削除するものであるから、本件特許の願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であることが明らかであり、特許法第120条の5第9項において準用する同法第126条第5項の規定に適合するものである。 4.むすび 上記3.のとおり、訂正事項1ないし5に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号又は第4号に掲げられた事項を目的とするものであり、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 また、訂正事項4に係る訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第4号に規定する事項を目的とするものであり、同法第120条の5第2項ただし書第1号又は第2号に規定する事項を目的とする訂正ではないから、同法第120条の5第9項で読み替えて準用する同法第126条第7項の要件は課されない。 よって、訂正事項1ないし5に係る訂正は、訂正の要件を満たしている。 ただし、訂正後の請求項4及び5については、当該請求項についての訂正が認められる場合には、別の訂正単位とする求めがされている。 したがって、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜3〕〔4、5〕について訂正することを認める。 第3 本件訂正後の発明 本件訂正請求により訂正された請求項1ないし請求項5に係る発明(以下、各々「本件発明1」ないし「本件発明5」という。)は、訂正特許請求の範囲の請求項1ないし請求項5に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 (削除) 【請求項2】 内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔の内周面が、軸方向内方に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜しており、 前記取付孔は、内周面に、雌ねじ部を有する、 ハブユニット軸受。 【請求項3】 内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔が、前記環状溝と径方向に重畳する部分の内周面に、軸方向内方に向かうほど径方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有しており、 前記取付孔は、内周面に、雌ねじ部を有する、 ハブユニット軸受。 【請求項4】 内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、 前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している、 ハブユニット軸受。 【請求項5】 前記取付孔の内周面に、雌ねじ部を有する、 請求項4に記載のハブユニット軸受。」 第4 取消理由の概要 当審が令和3年 8月 4日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。 1.(新規性)本件特許の請求項1及び5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件特許の請求項1及び5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものである。 2.(進歩性)本件特許の請求項1及び5に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の引用文献1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件特許の請求項1及び5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。 3.(拡大先願)本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、本件特許出願の日(優先日)前の特許出願であって、本件特許出願(の優先日)後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた下記の特許出願3(以下「先願」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、しかも、本件特許出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また本件特許出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができないものであるから、本件特許の請求項1ないし3に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものである。 <引用文献等一覧> 引用文献1.仏国特許出願公開第3005124号明細書 引用文献2.特開2016−2916号公報 先願.特願2015−141921号(特開2017−24453号) なお、引用文献1及び2は、申立人が提出した甲第1及び2号証である。また、特開2017−24453号は、申立人が提出した甲第3号証である。 第5 当審の判断 1.引用文献等に記載された事項及び引用発明 (1)引用文献1に記載された事項及び引用発明 引用文献1には、以下の事項が記載されている。 ア「 」(明細書第1頁第1〜3行) 当審訳:「本発明は、ピボットへの自動車の車輪の回転駆動システムの組立に関し、当該システムは、転がり軸受と、回転のエンジントルクを伝達するカップとを含む。」(申立人が提出した参考資料1の段落【0001】) イ「 」(明細書第5頁第30〜33行) 当審訳:「回転部材1はボア17を有し、また、この回転部材は車輪の結合手段を含み、この結合手段は、図示された実施形態では、特にねじ止めによる締め付け手段を備えた少なくとも1つの穴19を有するフランジ18を含む。」(申立人が提出した参考資料1の段落【0023】) ウ「 」(明細書第9頁第6〜12行) 当審訳:「さらに、係合手段37の密封性を保つためにカラー5と半径方向の壁40との間にパッキン41を配置可能であり、これにより特にボア17と端部品36との間の境界面への汚染物質の侵入を防ぐ。(後略)」(申立人が提出した参考資料1の段落【0037】) エ「 」(明細書第10ページ第11〜14行) 当審訳:「さらに、ソケット39はボアを有し、回転部材1は、ボア17内への汚染物質の侵入を防ぐキャップ52を備える。」(申立人が提出した参考資料1の段落【0042】) オ「Fig.1 」 カ「Fig.2 」 キ「Fig.3 」 ク 摘記事項イから、締め付け穴19は内周面に雌ねじ部を有すると認められる。 ケ Fig.1から、複数の球3と接触する転がり軌道面が、固定部材2の内周面及び回転部材1の外周面に形成されている点、及び、回転部材1に設けられたフランジ18が径方向外方に突出している点を看取できる。 コ Fig.2から、フランジ18の外側面(軸方向外側の半径方向の壁)22に、回転駆動軸Rを中心とした円周方向に沿った環状溝が形成されている点を看取できる。また、該環状溝に対応するものとして、Fig.3から、外側面22に対して凹んだ領域が形成されている点を看取できる。 サ Fig.1及びFig.2から、フランジ18に形成された複数の締め付け穴19が、上記環状溝の回転駆動軸Rを中心とした半径方向領域内に形成されている点を看取できる。また、Fig.3から、該締め付け穴19の軸方向外側(図中左側)の端部が、上記環状溝の底面に開口している点を看取できる。 シ Fig.1及びFig.2から、フランジ18に形成された複数の締め付け穴19の回転駆動軸Rを中心とした周方向間に、フランジ18を軸方向に貫通する複数の貫通孔が形成されている点を看取できる。 ス Fig.2から、上記複数の貫通孔が、上記環状溝から外径側にはみ出している点を看取できる。言い換えると、上記環状溝の外径が、上記複数の貫通孔の外側面22への開口部の回転駆動軸Rを中心とした内接円の直径よりも大きく、同開口部の回転駆動軸Rを中心とした外接円の直径よりも小さい点を看取できる。 上記ア〜キの摘記事項及び上記ク〜スの認定事項から、引用文献1には、次の発明が記載されていると認められる(以下、「引用発明」という。)。 [引用発明] 「内周面に転がり軌道面を有する固定部材2と、 外周面に転がり軌道面を有する回転部材1と、 前記固定部材2の前記転がり軌道面と前記回転部材1の前記転がり軌道面との間に配された複数の球3とを備え、 前記回転部材1が、径方向外方に突出したフランジ18を有し、 前記回転部材1の前記フランジ18の外側面22に回転駆動軸Rを中心とした環状溝が形成され、前記フランジ18に、前記環状溝の底面に開口する複数の締め付け穴19が形成され、前記フランジ18を軸方向に貫通する複数の貫通穴が形成され、 前記環状溝の外径が、前記複数の貫通穴の前記外側面22への開口部の回転駆動軸Rを中心とした内接円の直径よりも大きく、同開口部の回転駆動軸Rを中心とした外接円の直径よりも小さく、 前記締め付け穴19は、内周面に、雌ねじ部を有する、 ピボットへの自動車の車輪の回転駆動システムの組立構造。」 (2)引用文献2に記載された事項 引用文献2には、以下の事項が記載されている。 ア「【0001】 本発明はハブユニットに関する。さらに詳しくは、自動車などの車両の車輪を車体の懸架装置に対して回転自在に支持するハブユニットに関する。」 イ「【0018】 ハブ軸8のアウトボード側端部の外周には、ハブユニットHに車輪を取り付けるための車輪取付用フランジ11が形成されており、この車輪取付用フランジ11の周縁部には、ボルト孔12が所定の間隔で穿設されている。このボルト孔12に圧入されたハブボルト13に車輪側構成部品であるホイール14やブレーキロータ4が取り付けられる。ホイール14及びブレーキロータ4は、ナット15により共締めされている。 【0019】 車輪取付用フランジ11のフランジ面のうち、ブレーキロータ4が取り付けられる側のフランジ面11aには、図2〜3に示されるように、環状溝16が形成されている。この環状溝16は、前述したように、ブレーキロータ4が取り付けられるフランジ面11aの面振れ精度を高めるために形成されている。具体的に、ハブボルト13をボルト孔12に圧入することによる当該ボルト孔周縁の局部的変形や、前記フランジ面11aに発生するうねりを前記環状溝内にとどめて、当該変形やうねりが環状溝外のフランジ面11aに影響するのを抑制するために形成されている。」 ウ「【0021】 環状溝16の底面16aには、車輪取付用フランジ11を貫通する排水路である排水孔17が形成されている。この排水孔17は、例えばドリルを用いて形成することができる。本実施形態では、互いに隣接するハブボルト13の周方向中央に排水孔17が形成されている。車両走行時にハブユニットHにモーメント荷重が作用すると、前記ハブボルト13がかかるモーメント荷重に抵抗しようとする。その際、ハブボルト13の周辺に応力集中が生じるが、排水孔17を互いに隣接するハブボルト13の周方向中央に形成してハブボルト13周辺の強度を確保することで、応力集中のフランジ面11aへの影響を小さくすることができる。 【0022】 環状溝16の底面16aに排水孔17を形成することで、仮に、ブレーキロータ4及びハブ軸8が被水して当該ブレーキロータ4と環状溝16との間のスペースに水が侵入したとしても、このスペース内の水を、当該スペースと連通しており且つ車輪取付用フランジ11を貫通して形成された排水孔17を経由してハブユニットHの外部に排出することができる。これにより、ブレーキロータ4と環状溝16との間のスペースに侵入した水が当該スペースに滞留することによってブレーキロータ4、ハブ軸8及びハブボルト13が腐食するのを防止することができる。排水孔17の直径は、本発明において特に限定されるものではないが、通常、3mm〜4mm程度である。排水孔17は大きい方が排水しやすいが、大きすぎると車輪取付用フランジ11の強度低下につながる虞があるので、これらを考慮して選定する必要がある。」 (3)先願明細書等に記載された事項及び先願発明 先願の出願日は、平成27年7月16日であり、公開日は、平成29年2月2日であり、発明者は、中辻雄太であり、出願人は、NTN株式会社である。 これに対し、本件特許の優先権主張に係る優先日は、平成28年4月12日であり、発明者は、高梨晴美であり、出願人は、日本精工株式会社である。 先願の明細書、特許請求の範囲及び図面(以下、「先願明細書等」という。)には、以下の事項が記載されている。 ア「【0001】 本発明は、自動車等の車輪を支持する車輪用軸受装置に関するもので、特に、軽量化を図ると共に、車輪取付フランジの面振れ精度を高めてブレーキジャダーの発生を抑制し、信頼性を向上させた車輪用軸受装置に関する。」 イ「【0011】 然しながら、前述した従来の車輪用軸受装置において、図8(a)に示すように、軽量化を図るために各ハブボルト55間に円孔(軽量穴)80を形成した場合、(b)に示すように、車輪取付フランジ54の側面54aとブレーキロータ81の側面81aとの間のすきまに泥水等が溜まり、接合面に錆が発生する。その結果、車輪取付フランジ54の側面54aの面振れ精度が悪化し、ブレーキジャダーが発生する恐れがあると共に、ブレーキロータ81が固着し、補修時に分解が難しくなると言った課題があった。 【0012】 本発明は、このような事情に鑑みてなされたもので、車輪取付フランジの軽量穴に泥水等が浸入しても、車輪取付フランジとブレーキロータとの接合面のすきまに滞留せず容易に排出する構造に着眼し、車輪用軸受装置の軽量化を図ると共に、車輪取付フランジの面振れ精度を高めてブレーキジャダーの発生を抑制し、信頼性を向上させた車輪用軸受装置を提供することを目的としている。 【課題を解決するための手段】 【0013】 係る目的を達成すべく、本発明のうち請求項1記載の発明は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備え、前記外方部材および内方部材のうち回転側となる部材にブレーキディスクを介して車輪を取り付けるための車輪取付フランジが一体に形成され、この車輪取付フランジの周方向等配位置に前記車輪を締結するためのハブボルトが植設された車輪用軸受装置において、前記車輪取付フランジのアウター側の側面に前記ハブボルトを包含する環状溝が形成されると共に、前記車輪取付フランジの各ハブボルト間に軽量化のための軽量穴が穿設され、これら軽量穴の外接円径が前記環状溝の外径よりも大径に設定されるか、または、前記軽量穴が前記車輪取付フランジの外周面に開口している。」 ウ「【0021】 本発明に係る車輪用軸受装置は、内周に複列の外側転走面が一体に形成された外方部材と、外周に前記複列の外側転走面に対向する複列の内側転走面が形成された内方部材と、この内方部材と前記外方部材の両転走面間に転動自在に収容された複列の転動体と、を備え、前記外方部材および内方部材のうち回転側となる部材にブレーキディスクを介して車輪を取り付けるための車輪取付フランジが一体に形成され、この車輪取付フランジの周方向等配位置に前記車輪を締結するためのハブボルトが植設された車輪用軸受装置において、前記車輪取付フランジのアウター側の側面に前記ハブボルトを包含する環状溝が形成されると共に、前記車輪取付フランジの各ハブボルト間に軽量化のための軽量穴が穿設され、これら軽量穴の外接円径が前記環状溝の外径よりも大径に設定されるか、または、前記軽量穴が前記車輪取付フランジの外周面に開口しているので、軽量穴に浸入してきた泥水等が車輪取付フランジのアウター側の側面とブレーキディスクの側面との間に滞留せず、軽量穴から容易に排出され、車輪用軸受装置の軽量化を図ると共に、車輪取付フランジの面振れ精度を高めてブレーキジャダーの発生を抑制し、信頼性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。」 エ「【0025】 図1に示す車輪用軸受装置は駆動輪用の第3世代と称され、ハブ輪1と、このハブ輪1に圧入された内輪2とからなる内方部材3と、この内方部材3に複列の転動体(ボール)4、4を介して外挿された外方部材5とを備えている。 【0026】 ハブ輪1は、アウター側の端部に、図示しないブレーキディスク(またはブレーキドラム)を介して車輪を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、外周に一方(アウター側)の内側転走面1aと、この内側転走面1aから軸方向に延びる円筒状の小径段部1bが形成され、内周にはトルク伝達用のセレーション(またはスプライン)1cが形成されている。また、車輪取付フランジ6の周方向等配位置には車輪を締結するためのハブボルト6aが植設されている。 【0027】 一方、内輪2は、外周に他方(インナー側)の内側転走面2aが形成され、ハブ輪1の小径段部1bに所定のシメシロを介して圧入され、この小径段部1bの端部を径方向外方に塑性変形させて形成した加締部1dによって、所定の軸受予圧が付与された状態で軸方向に固定されている。 【0028】 車輪取付フランジ6のアウター側(ブレーキディスクが装着される側)の側面7が旋盤等の切削加工により一次切削されると共に、この側面7に所定幅の環状溝(周方向溝)7aが形成されている。この環状溝7aの溝幅中央部にはボルト穴8が円周方向等配に穿設されている。そして、ハブボルト6aの外径に形成したナール部9をこのボルト穴8に圧入固定した後、側面7が旋盤により二次切削されている。なお、二次切削は旋盤に限らず、フライス盤や研削盤による切削であっても良い。」 オ「【0031】 外方部材5は、外周に懸架装置を構成するナックル(図示せず)に取り付けられるための車体取付フランジ5bを一体に有し、内周に内方部材3の内側転走面1a、2aに対向する複列の外側転走面5a、5aが一体に形成されている。そして、これら両転走面5a、1aおよび5a、2a間に保持器12を介して複列の転動体4、4が転動自在に収容されている。」 カ「【0038】 また、車輪取付フランジ6の各ハブボルト6a間には軽量化のための円孔(軽量穴)13が円周方向等配に鍛造加工によって穿設されている。この円孔13は、環状溝7aの外径を越えて形成されている。すなわち、円孔13の外接円径をAとし、環状溝7aの外径をBとした時、A>Bとなるように設定されている。これにより、図3に拡大して示すように、円孔13に浸入してきた泥水等が車輪取付フランジ6のアウター側の側面7とブレーキディスク14の側面14aとの間に滞留せず、円孔13から図中矢印に示すように容易に排出され、車輪用軸受装置の軽量化を図ると共に、車輪取付フランジ6の面振れ精度を高めてブレーキジャダーの発生を抑制し、信頼性を向上させた車輪用軸受装置を提供することができる。」 キ「【0039】 図4に前述した円孔13の変形例を示す。(a)に示すように、円孔15は、前述した実施形態と同様、その外接円径が環状溝7aの外径よりも大きくなるように形成されている。そして、この円孔15の内周面は、(b)に示すように、インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面に形成されている。これにより、円孔15に浸入してきた泥水等が車輪取付フランジ6のアウター側の側面7とブレーキディスク14の側面14aとの間に滞留せず、円孔15から容易に排出される。」 ク「【図1】 」 ケ「【図2】 」 コ「【図3】 」 サ「【図4】 」 シ 摘記事項クの【図1】から、車輪取付フランジ6が径方向外方に突出している点を看取できる。 ス 摘記事項ケの【図2】から、車輪取付フランジ6に形成された環状溝7aの外径端が、各円孔13の内径端(回転中心側端部)よりも外径側に配されている点、すなわち、環状溝7aの外径Bが、複数の円孔13の内接円径よりも大きい点を看取できる。 セ 摘記事項キの段落【0039】及び摘記事項サの【図4】から、円孔15の内周面が、軸方向の全域にわたって、インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面に形成されていると認められる。 上記ア〜サの摘記事項及び上記シ〜セの認定事項から、先願明細書等には、次の発明(以下「先願発明」という。)が記載されていると認められる。 [先願発明] 「内周に複列の外側転走面5a、5aが形成された外方部材5と、 外周に内側転走面1aが形成されたハブ輪1と、外周に内側転走面2aが形成された内輪2とからなる内方部材3と、 前記内方部材3の前記転走面1a、2aと前記外方部材5の前記転走面5a、5aとの間に転動自在に収容された複列の転動体4、4とを備え、 前記内方部材3の前記ハブ輪1が、径方向外方に突出した車輪取付フランジ6を有し、 前記車輪取付フランジ6のアウター側の側面7に環状溝7aが形成され、前記環状溝7aの溝幅中央部に複数のボルト穴8が円周方向等配に穿設され、前記車輪取付フランジ6に複数の円孔15が円周方向等配に穿設され、 前記円孔15から、前記車輪取付フランジ6のアウター側の前記側面7とブレーキディスク14の側面14aとの間の泥水等が排出され、 前記環状溝7aの外径Bが、前記円孔15の内接円径よりも大きく、前記円孔15の外接円径Aよりも小さく、 前記円孔15の内周面が、軸方向の全域にわたって、インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面に形成されており、 前記ボルト穴8は、ハブボルト6aの外径に形成したナール部9が圧入固定される 車輪用軸受装置。」 2.特許法第29条第1項第3号(新規性)、第2項(進歩性)について (1)本件発明5について ア 対比 本件発明5と引用発明とを対比する。 引用発明の「内周面」に「転がり軌道面」を有する「固定部材2」は、本件発明5の「内周面」に「外輪軌道」を有する「外方部材」に相当する。 引用発明の「外周面」に「転がり軌道面」を有する「回転部材1」は、本件発明5の「外周面」に「外輪軌道」を有する「内方部材」に相当する。 引用発明の「前記固定部材2の前記転がり軌道面と前記回転部材1の前記転がり軌道面との間に配された」「複数の球3」は、本件発明5の「前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された」「複数個の転動体」に相当する。 引用発明の「回転部材1」は、本件発明5の「前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材」のうち、「前記内方部材」が「使用時に回転する」ものに相当する。そして、引用発明の「径方向外方に突出した」「フランジ18」は、回転部材1に設けられるものであるから、本件発明5の「径方向外方に突出した」「回転側フランジ」に相当する。 引用発明の「外側面22」は、本件発明5の「軸方向外側面」に相当する。したがって、引用発明の「外側面22」に形成された、回転駆動軸Rを中心とした「環状溝」は、本件発明5の「軸方向外側面」に設けられた、「環状溝」に相当する。 引用発明の「前記環状溝の底面に開口する」「複数の締め付け穴19」は、本件発明5の「前記環状溝の底面に開口する」「複数個の取付孔」に相当する。 引用発明の「前記フランジ18を軸方向に貫通する」「複数の貫通穴」は、本件発明5の「前記回転側フランジを軸方向に貫通する」「複数個の水抜き孔」との関係において、「複数個の貫通穴」である限りにおいて一致する。 引用発明の「前記環状溝の外径」が、「前記複数の貫通穴の前記外側面22への開口部の回転駆動軸Rを中心とした内接円の直径よりも大きく」、かつ、「同開口部の回転駆動軸Rを中心とした外接円の直径よりも小さ」いことは、本件発明5の「前記環状溝の外径」が、「前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく」、「前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さ」いこととの関係において、「前記環状溝の外径」が、「前記貫通穴の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく」、「前記貫通穴の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さ」い限りにおいて一致する。 引用発明の「前記締め付け穴19は、内周面に、雌ねじ部を有する」ことは、本件発明5の「前記取付孔の内周面に、雌ねじ部を有する」ことに相当する。 引用発明の「ピボットへの自動車の車輪の回転駆動システムの組立構造」は、本件発明5の「ハブユニット軸受」に相当する。 したがって、本件発明5と引用発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点1] 「内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 使用時に回転する回転部材である前記内方部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の貫通穴とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記貫通穴の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記貫通穴の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記取付孔の内周面に、雌ねじ部を有する、 ハブユニット軸受。」 [相違点1] 本件発明5は、「前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔」を有しているが、引用発明の「前記フランジ18を軸方向に貫通する複数の貫通穴」が水抜き孔として機能するものか不明である点。 [相違点2] 本件発明5は、「前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している」が、引用発明は、そのように構成されていない点。 イ 判断 事案に鑑みて、上記相違点2について先に検討する。 まず、本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0057】には「図6における符号αは、ハブ3dの円周方向に関して取付孔12aの両側に配置された1対の水抜き孔17dの軸方向外側開口部のうちで、ハブ3dの径方向に関する外側部に接する共通の接線を表している。本例では、取付孔12aが、共通接線αよりも径方向内側に存在している。」と記載されており、段落【0058】には「本例では、車両停止時における、回転側フランジ11dの回転位相にかかわらず、常に、水抜き孔17dの一部が取付孔12aよりも鉛直方向下方に存在する。このため、取付孔12aが、環状溝15の底面16と、ブレーキロータ22の軸方向内側面との間の隙間32内に浸入した水分に浸かってしまう状態が発生してしまうことを防止できる。この結果、ハブボルトと取付孔12aの雌ねじ部27との錆びつきがさらに効果的に防止される。」と記載されているから、本件発明5は、「前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している」いることにより、「車両停止時における、回転側フランジ11dの回転位相にかかわらず、常に、水抜き孔17dの一部が取付孔12aよりも鉛直方向下方に存在」し、「取付孔12aが、環状溝15の底面16と、ブレーキロータ22の軸方向内側面との間の隙間32内に浸入した水分に浸かってしまう状態が発生してしまうことを防止でき」、「ハブボルトと取付孔12aの雌ねじ部27との錆びつきがさらに効果的に防止される」と認められる。 ここで、第5 1.(1)の摘記事項アから、引用発明は自動車の車輪の回転駆動システムに関するものであると認められるところ、自動車の車輪が雨水や泥水等の水分に接触する環境で用いられることは技術常識である。 そして、第5 1.(1)の摘記事項ウ、エから、引用発明の回転部材1は、雨水や泥水等の水分に接触する環境に晒されるものであり、回転部材1の径方向外方に突出したフランジ18の外側面22もこのような環境にあるといえるため、引用発明の「複数の貫通穴」は、水抜き孔として機能しているものと認められる。 しかしながら、引用文献1には、第5 1.(1)の摘記事項カから、「貫通穴」が円周方向に関して「締め付け穴19」の両側に配置されることが記載されていると認められるものの、「締め付け穴19」が、円周方向に関して「締め付け穴19」の両側に配置された「貫通穴」の軸方向外側開口部の共通接線のうちで「貫通穴」のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在していることは記載されておらず、「貫通穴」と「締め付け穴19」との位置関係に起因した「締め付け穴19」の錆びつきに関する記載もない。 さらに、引用文献2についても、「前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している」いるという構成を開示するものではないし、他に「前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している」という構成が本件特許の出願前に周知技術または技術常識であったとする証拠もないことから、引用発明の「貫通穴」と「締め付け穴19」との位置関係を上記相違点2に係る本件発明5の構成とすることは当業者が容易に想到し得たことということはできない。 してみると、本件発明5は、上記相違点1を検討するまでもなく、引用発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 3.特許法第29条の2(拡大先願)について (1)本件発明2について ア 対比 本件発明2と先願発明とを対比する。 先願発明の「内周に」「複列の外側転走面5a、5aが形成された」「外方部材5」は、本件発明2の「内周面に」「外輪軌道を有する」「外方部材」に相当する。 先願発明の「外周に」「内側転走面1aが形成された」「ハブ輪1」及び「外周に」「内側転走面2aが形成された」「内輪2」は、いずれも本件発明2における「外周面に」「内輪軌道を有する」「内方部材」に相当するから、先願発明の「内方部材3」は、本件発明2の「内方部材」に相当する。 先願発明の「前記内方部材3の前記転走面1a、2aと前記外方部材5の前記転走面5a、5aとの間に転動自在に収容された」「複列の転動体4、4」は、本件発明2の「前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された」「複数個の転動体」に相当する。 先願発明の「前記内方部材3の前記ハブ輪1」は、先願明細書等の段落【0026】に「アウター側の端部に、図示しないブレーキディスク(またはブレーキドラム)を介して車輪を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、」と記載されているから、「使用時に回転する回転部材」であるといえる。したがって、先願発明の「前記内方部材3の前記ハブ輪1」は、本件発明2の「前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材」のうち、「前記内方部材」が「使用時に回転する」ものに相当する。そして、先願発明の「径方向外方に突出した」「車輪取付フランジ6」は、本件発明2の「径方向外方に突出した」「回転側フランジ」に相当する。 先願発明の「アウター側の側面7」は、本件発明2の「軸方向外側面」に相当する。したがって、先願発明の「環状溝7a」は、本件発明2の「環状溝」に相当する。 先願発明の「前記環状溝7aの溝幅中央部」は、先願明細書等の【図2】のとおり環状溝7aの溝幅内に設けられているものであるから、「環状溝の底面」であるといえる。したがって、先願発明の「前記環状溝の溝幅中央部」に「穿設され」た「複数のボルト穴8」は、本件発明2の「前記環状溝の底面」に「開口する」「複数の取付孔」に相当する。 先願発明の「複数の円孔15」は、「前記車輪取付フランジ6のアウター側の前記側面7とブレーキディスク14の側面14aとの間の泥水等が排出され」るものであるから、「水抜き孔」として機能しているものといえる。したがって、先願発明の「前記車輪取付フランジ6」に「穿設され」た「複数の円穴15」は、本件発明2の「前記回転側フランジ」を「軸方向に貫通する」「複数個の水抜き孔」に相当する。 先願発明の「前記環状溝7aの外径B」は、本件発明2の「前記環状溝の外径」に相当する。そして、先願明細書等の【図4】は、側面図であるから、先願発明の「前記円孔15の内接円径」は、本件発明2の「前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径」に相当する。また、先願発明の「前記円孔15の外接円径A」は、本件発明2の「前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径」に相当する。そうすると、先願発明の「前記環状溝7aの外径Bが、前記円孔15の内接円径よりも大きく、前記円孔15の外接円径Aよりも小さ」いことは、本件発明2の「前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さ」いことに相当する。 先願発明の「インナー側」は、本件発明2の「軸方向内方」に相当するから、先願発明の「前記円孔15の内周面が、軸方向の全域にわたって、インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面に形成されて」いることは、本件発明2の「前記水抜き孔の内周面が、軸方向内方に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜して」いることに相当する。 先願発明の「車輪用軸受装置」は、本件発明2の「ハブユニット軸受」に相当する。 したがって、本件発明2と先願発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点2] 「内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 使用時に回転する回転部材である前記内方部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔の内周面が、軸方向内方に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜している ハブユニット軸受。」 [相違点3] 本件発明2の「取付孔」は「内周面に、雌ねじ部を有する」が、先願発明の「ボルト穴8」は「ハブボルト6aの外径に形成したナール部9が圧入固定される」点。 イ 判断 上記相違点3について検討する。 本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】には「すなわち、環状溝15の軸方向深さおよび径方向幅は、後述するように、取付孔12aの雌ねじ部27にハブボルトが螺合されることによって、取付孔12aの軸方向外側開口部の周囲に生じる盛り上がりを環状溝15内にとどめられるように設計的に定められる。」と記載されており、段落【0027】には「具体的には、環状溝15の軸方向深さは、ハブボルトの螺合に基づく盛り上がりを環状溝15内にとどめられるようにしつつ、回転側フランジ11aの強度が低下することを防止し、かつ、環状溝15と、ブレーキロータ22の軸方向内側面との間に存在する隙間32に毛細管現象によって水分が保持されることを防止する観点から定める。」と記載されているから、本件発明2の「前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と」を有するところ、「取付孔」を「内周面に、雌ねじ部を有する」ように構成することで、「取付孔12aの雌ねじ部27にハブボルトが螺合されることによって、取付孔12aの軸方向外側開口部の周囲に生じる盛り上がりを環状溝15内にとどめられる」という効果を奏すると認められる。 ここで、申立人は、令和 3年11月26日に意見書において、引用文献1及び引用文献2を例示して、一般に、車輪用軸受装置の回転側フランジは、ボルトによって自動車の車軸に固定されるところ、フランジに設けられた取付穴(ボルト穴)に予めボルトを植設するか、あるいは、取付穴の内周面に雌ねじ部を設けるかは、車種(自動車メーカー)によって異なり、フランジの取付穴の内周面に雌ねじ部を設けることも、フランジの取付穴にボルトを植設することも周知技術であり、フランジの取付穴の内周面に雌ねじ部を設けるという周知技術を先願発明に適用することで新たな効果を奏することはない旨を主張している(第1頁第17行〜第2頁第13行)。 しかしながら、引用文献1には、第5 1.(1)の摘記事項ク、サから、フランジ18には環状溝の底面に開口する締め付け穴19が形成され、当該締め付け穴19は内周面に雌ねじ部を有することが記載されているが、引用文献2は、環状溝の底面に開口するボルト孔の内周面に雌ねじ部を設けることを開示するものではなく、「軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と」を有する「回転側フランジ」において「取付孔」が「内周面に、雌ねじ部を有する」という構成が、本件特許の出願前に周知技術または技術常識であったとまでは認められない。 そうすると、本件発明2のように、「軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と」を有する「回転側フランジ」において「取付孔」を「内周面に、雌ねじ部を有する」ように構成することは、単なる周知技術の適用のような課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。 したがって、上記相違点3は実質的な相違点であるから、本件発明2は先願発明と同一であるとはいえない。 (2)本件発明3について ア 対比 本件発明3と先願発明とを対比する。 先願発明の「内周に」「複列の外側転面5a、5aが形成された」「外方部材5」は、本件発明3の「内周面に」「外輪軌道を有する」「外方部材」に相当する。 先願発明の「外周に」「内側転走面1aが形成された」「ハブ輪1」及び「外周に」「内側転走面2aが形成された」「内輪2」は、いずれも本件発明3における「外周面に」「内輪軌道を有する」「内方部材」に相当するから、先願発明の「内方部材3」は、本件発明3の「内方部材」に相当する。 先願発明の「前記内方部材3の前記転走面1a、2aと前記外方部材5の前記転走面5a、5aとの間に転動自在に収容された」「複列の転動体4、4」は、本件発明3の「前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された」「複数個の転動体」に相当する。 先願発明の「前記内方部材3の前記ハブ輪1」は、先願明細書等の段落【0026】に「アウター側の端部に、図示しないブレーキディスク(またはブレーキドラム)を介して車輪を取り付けるための車輪取付フランジ6を一体に有し、」と記載されているから、「使用時に回転する回転部材」であるといえる。したがって、先願発明の「前記内方部材3の前記ハブ輪1」は、本件発明3の「前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材」のうち、「前記内方部材」が「使用時に回転する」ものに相当する。そして、先願発明の「径方向外方に突出した」「車輪取付フランジ6」は、本件発明3の「径方向外方に突出した」「回転側フランジ」に相当する。 先願発明の「アウター側の側面7」は、本件発明3の「軸方向外側面」に相当する。したがって、先願発明の「環状溝7a」は、本件発明3の「環状溝」に相当する。 先願発明の「前記環状溝7aの溝幅中央部」は、先願明細書等の【図2】のとおり環状溝7aの溝幅内に設けられているものであるから、「環状溝の底面」であるといえる。したがって、先願発明の「前記環状溝の溝幅中央部」に「穿設され」た「複数のボルト穴8」は、本件発明3の「前記環状溝の底面」に「開口する」「複数の取付孔」に相当する。 先願発明の「円孔15」は、「前記車輪取付フランジ6のアウター側の前記側面7とブレーキディスク14の側面14aとの間の泥水等が排出され」るものであるから、「水抜き孔」として機能しているものといえる。したがって、先願発明の「前記車輪取付フランジ6」に「穿設され」た「複数の円穴15」は、本件発明3の「前記回転側フランジ」を「軸方向に貫通する」「複数個の水抜き孔」に相当する。 先願発明の「前記環状溝7aの外径B」は、本件発明3の「前記環状溝の外径」に相当する。そして、先願明細書等の【図4】は、側面図であるから、先願発明の「前記円孔15の内接円径」は、本件発明3の「前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径」に相当する。また、先願発明の「前記円孔15の外接円径A」は、本件発明3の「前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径」に相当する。そうすると、先願発明の「前記環状溝7aの外径Bが、前記円孔15の内接円径よりも大きく、前記円孔15の外接円径Aよりも小さい」ことは、本件発明3の「前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さい」ことに相当する。 先願発明の「インナー側」は、本件発明3の「軸方向内方」に相当する。また、先願発明は「前記円孔15の内周面が、軸方向の全域にわたって、インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面に形成されている」ため、円孔15の内周面のうち、環状溝7aと径方向に重畳する部分においても「インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面に形成されている」ものであるといえる。したがって、先願発明の「前記円孔15の内周面」のうち環状溝7aと径方向に重畳する部分における「インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面」は、本件発明3における「前記環状溝と径方向に重畳する部分の内周面」における、「軸方向内方に向かうほど径方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜面部」に相当する。そうすると、先願発明の「前記円孔15の内周面が、軸方向の全域にわたって、インナー側に向って漸次拡径する傾斜角θからなるテーパ面に形成されている」ことは、本件発明3の「前記水抜き孔が、前記環状溝と径方向に重畳する部分の内周面に、軸方向内方に向かうほど径方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有して」いることに相当する。 先願発明の「車輪用軸受装置」は、本件発明3の「ハブユニット軸受」に相当する。 したがって、本件発明3と先願発明の一致点及び相違点は以下のとおりである。 [一致点3] 「内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 使用時に回転する回転部材である前記内方部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔が、前記環状溝と径方向に重畳する部分の内周面に、軸方向内方に向かうほど径方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有している ハブユニット軸受。」 [相違点4] 本件発明3の「取付孔」は「内周面に、雌ねじ部を有する」が、先願発明の「ボルト穴8」は「ハブボルト6aの外径に形成したナール部9が圧入固定される」点。 イ 判断 上記相違点4について検討する。 本件明細書の発明の詳細な説明の段落【0026】には「すなわち、環状溝15の軸方向深さおよび径方向幅は、後述するように、取付孔12aの雌ねじ部27にハブボルトが螺合されることによって、取付孔12aの軸方向外側開口部の周囲に生じる盛り上がりを環状溝15内にとどめられるように設計的に定められる。」と記載されており、段落【0027】には「具体的には、環状溝15の軸方向深さは、ハブボルトの螺合に基づく盛り上がりを環状溝15内にとどめられるようにしつつ、回転側フランジ11aの強度が低下することを防止し、かつ、環状溝15と、ブレーキロータ22の軸方向内側面との間に存在する隙間32に毛細管現象によって水分が保持されることを防止する観点から定める。」と記載されているから、本件発明3の「前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と」を有するところ、「取付孔」を「内周面に、雌ねじ部を有する」ように構成することで、「取付孔12aの雌ねじ部27にハブボルトが螺合されることによって、取付孔12aの軸方向外側開口部の周囲に生じる盛り上がりを環状溝15内にとどめられる」という効果を奏すると認められる。 ここで、申立人は、令和 3年11月26日に意見書において、一般に、車輪用軸受装置の回転側フランジは、ボルトによって自動車の車軸に固定されるところ、フランジに設けられた取付穴(ボルト穴)に予めボルトを植設するか、あるいは、取付穴の内周面に雌ねじ部を設けるかは、車種(自動車メーカー)によって異なり、フランジの取付穴の内周面に雌ねじ部を設けることも、フランジの取付穴にボルトを植設することも周知技術であり、フランジの取付穴の内周面に雌ねじ部を設けるという周知技術を先願発明に適用することで新たな効果を奏することはない旨を主張している(第1頁第17行〜第2頁第13行)。 しかしながら、引用文献1には、第5 1.(1)の摘記事項ク、サから、フランジ18には環状溝の底面に開口する締め付け穴19が形成され、当該締め付け穴19は内周面に雌ねじ部を有することが記載されているが、引用文献2は、環状溝の底面に開口するボルト孔の内周面に雌ねじ部を設けることを開示するものではなく、「軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と」を有する「回転側フランジ」において「取付孔」が「内周面に、雌ねじ部を有する」という構成が、本件特許の出願前に周知技術または技術常識であったとまでは認められない。 そうすると、本件発明3のように、「軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と」を有する「回転側フランジ」において「取付孔」を「内周面に、雌ねじ部を有する」ように構成することは、単なる周知技術の適用のような課題解決のための具体化手段における微差であるとはいえない。 したがって、上記相違点4は実質的な相違点であるから、本件発明3は先願発明と同一であるとはいえない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、本件発明5は、特許法第29条第1項第3号の発明ではなく、同法同条第2項の規定により特許を受けることができない発明でもない。また、本件発明2及び3は、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができない発明でもない。 そのため、本件特許の請求項2、3及び5に係る特許は、同法第113条第2号に該当せず、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由によっては、取り消すことができない。 また、他に本件特許の請求項2、3及び5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正により、本件特許の請求項1は削除されたため、本件特許の請求項1に係る特許について申立人がした特許異議の申立ては申立ての対象が存在しないものとなった。よって、本件特許の請求項1に係る特許についての特許異議の申立ては、不適法であって、その補正をすることができないものであるから、特許法第120条の8で準用する同法第135条の規定により、却下すべきものである。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 (削除) 【請求項2】 内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔の内周面が、軸方向内方に向かうほど内径が大きくなる方向に傾斜しており、 前記取付孔は、内周面に、雌ねじ部を有する、 ハブユニット軸受。 【請求項3】 内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔が、前記環状溝と径方向に重畳する部分の内周面に、軸方向内方に向かうほど径方向外方に向かう方向に傾斜した傾斜面部を有しており、 前記取付孔は、内周面に、雌ねじ部を有する、 ハブユニット軸受。 【請求項4】 内周面に外輪軌道を有する外方部材と、 外周面に内輪軌道を有する内方部材と、 前記外輪軌道と前記内輪軌道との間に転動自在に配置された複数個の転動体とを備え、 前記外方部材と前記内方部材とのうちで使用時に回転する回転部材に、径方向外方に突出した回転側フランジが設けられており、 前記回転側フランジは、軸方向外側面に設けられた環状溝と、前記環状溝の底面に開口する複数個の取付孔と、前記回転側フランジを軸方向に貫通する複数個の水抜き孔とを有しており、 前記環状溝の外径が、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の内接円の直径よりも大きく、前記水抜き孔の軸方向外側開口部の外接円の直径よりも小さく、 前記水抜き孔が、円周方向に関して前記取付孔の両側に配置されており、 前記取付孔が、円周方向に関して該取付孔の両側に配置された前記水抜き孔の軸方向外側開口部の共通接線のうちで該水抜き孔のそれぞれの中心軸よりも径方向外側に位置する共通接線よりも、径方向内側に存在している、 ハブユニット軸受。 【請求項5】 前記取付孔の内周面に、雌ねじ部を有する、 請求項4に記載のハブユニット軸受。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2021-12-20 |
出願番号 | P2017-046553 |
審決分類 |
P
1
652・
121-
YAA
(F16C)
P 1 652・ 16- YAA (F16C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
間中 耕治 |
特許庁審判官 |
段 吉享 内田 博之 |
登録日 | 2020-11-02 |
登録番号 | 6787198 |
権利者 | 日本精工株式会社 |
発明の名称 | ハブユニット軸受 |
代理人 | 特許業務法人貴和特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人貴和特許事務所 |