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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 F16L 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F16L 審判 全部申し立て 2項進歩性 F16L 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 F16L |
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管理番号 | 1384132 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-05-25 |
確定日 | 2022-01-31 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6799963号発明「樹脂管、樹脂管の製造方法、及び配管構造」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6799963号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6799963号の請求項に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許6799963号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成28年8月8日(優先権主張平成27年8月27日)に出願され、令和2年11月26日にその特許権の設定登録がされ、令和2年12月16日に特許掲載公報が発行された。本件特許異議の申立ての経緯は、次のとおりである。 令和3年 5月25日 :特許異議申立人渋谷都(以下「異議申立人」という。)による請求項1〜4に係る特許に対する特許異議の申立て 令和3年 9月 3日付け:取消理由通知書 令和3年11月 5日 :特許権者による訂正請求書及び意見書の提出 令和3年12月16日 :異議申立人による意見書の提出 第2 訂正の適否についての判断 令和3年11月5日に提出された訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)は、以下のとおりである(下線は訂正箇所を示すため当審で付したものである。)。 1 訂正の内容 (1)訂正事項1 本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された 「可撓性のある樹脂製の管であって、 外力が作用していない初期状態において、湾曲した管の中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1が、750mm以上であり、 前記初期状態から、前記初期状態での管の湾曲の向きとは逆向きに湾曲し、かつ、前記中心軸線に対して曲率中心C2側の外周面部分の曲率半径R2が管について予め定められた最小曲げ半径であるような、曲げ状態へと、管を曲げたとき、前記初期状態での前記中心軸線に対して曲率中心C1側に位置していた内周面部分の歪みが、8.5%以下となり、 前記管は、梱包材によって、巻かれた状態を維持されている、樹脂管。」 を、 「可撓性のある樹脂製の管であって、 前記管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなり、 外力が作用していない初期状態において、湾曲した管の中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1が、750mm以上であり、 前記初期状態から、前記初期状態での管の湾曲の向きとは逆向きに湾曲し、かつ、前記中心軸線に対して曲率中心C2側の外周面部分の曲率半径R2が前記管の外径Dの10倍であるような、曲げ状態へと、管を曲げたとき、前記初期状態での前記中心軸線に対して曲率中心C1側に位置していた内周面部分の歪みが、8.5%以下となり、 前記管は、梱包材によって、巻かれた状態を維持されており、 前記初期状態は、前記管が前記梱包材から出された状態の配管される前の状態において、前記管に外力が作用していない状態であり、 前記初期状態における、前記管の前記中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1は、前記管に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径であり、 前記梱包材によって維持される前記管の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である、樹脂管。」と訂正する。(請求項1の記載を引用する請求項2〜4も同様に訂正する。) (2)訂正事項2 本件特許の特許請求の範囲の請求項3に記載された 「請求項1又は2に記載の樹脂管を製造する方法であって、 押出成形によって熱可塑性樹脂を管状体に成形する、押出成形工程と、 前記押出成形工程の後、前記管状体を直線状に延在させた状態で硬化する、硬化工程と、 前記硬化工程の後、前記管状体を巻き、梱包材によって、該管状体を巻かれた状態に維持し、これにより前記樹脂管を得る、梱包工程と、 を含むことを特徴とする、樹脂管の製造方法。」 を、 「請求項1又は2に記載の樹脂管を製造する方法であって、 押出成形によってポリブテン又は架橋ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂を管状体に成形する、押出成形工程と、 前記押出成形工程の後、前記管状体を直線状に延在させた状態で硬化する、硬化工程と、 前記硬化工程の後、前記管状体を巻き、梱包材によって、該管状体を巻かれた状態に維持し、これにより前記樹脂管を得る、梱包工程と、 を含み、 前記梱包工程において前記梱包材によって維持される前記管状体の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である、樹脂管の製造方法。」と訂正する。 2 訂正の適否について (1)訂正事項1 ア 訂正の目的 訂正事項1は、請求項1の「樹脂製の管」の材料について、「前記管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなり、」という事項を追加し、「曲率半径R2」について、「前記管の外径Dの10倍」という事項を追加し、「初期状態」について、「前記初期状態は、前記管が前記梱包材から出された状態の配管される前の状態において、前記管に外力が作用していない状態であり、」、「前記初期状態における、前記管の前記中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1は、前記管に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径であり、」という事項を追加し、さらに、「管」について、「前記梱包材によって維持される前記管の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である。」という事項を追加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項1のうち、「前記管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなり、」との記載を追加する訂正は、本件特許明細書の段落【0016】の「本実施形態の管10は、例えばポリブテン又は架橋ポリエチレン(PEX)等の熱可塑性樹脂からなる、可撓性のある樹脂管であり、」との記載に基づくものである。 訂正事項1のうち、訂正前の請求項1の「管について予め定められた最小曲げ半径」を「前記管の外径Dの10倍」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0019】の「本例において、管10について予め定められた最小曲げ半径は、管10の外径Dの10倍である(すなわち、R2=10D)。」との記載に基づくものである。 訂正事項1のうち、「前記初期状態は、前記管が前記梱包材から出された状態の配管される前の状態において、前記管に外力が作用していない状態であり、」との記載を追加する訂正は、本件特許明細書の段落【0006】の「ところで、図4(a)の例のように、従来の管100は、施工現場で使用される際に、梱包材から出された状態(配管される前の、外力が作用していない初期状態)では、一定の向きに400mm程度の曲率半径をもって湾曲するような、いわゆる巻き癖が付いているものである。」との記載に基づくものである。 訂正事項1のうち、「前記初期状態における、前記管の前記中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1は、前記管に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径であり、」との記載を追加する訂正は、本件特許明細書の段落【0018】の「ここで、初期状態での管10の上記曲率半径R1とは、管10に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径である。」との記載に基づくものである。 訂正事項1のうち、「前記梱包材によって維持される前記管の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である、」との記載を追加する訂正は、本件特許明細書の段落【0027】の「なお、管に付く巻き癖をなるべく抑制する観点から、梱包工程において梱包材40によって維持される管10の円環形状は、内径d1が700mm以上であり、外径d2が900mm以上であると、好適である。また、梱包材40により梱包された管10の良好な搬送性を得る観点から、梱包工程において梱包材40によって維持される管10の円環形状は、内径d1が900mm以下であり、外径d2が、1100m以下であると、好適である。」との記載に基づくものである。 したがって、訂正事項1は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「願書に添付した明細書等」という。)の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 そして、訂正事項1は、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的 訂正事項2は、請求項3の「熱可塑性樹脂」について、「ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂」という事項を追加し、「管」について、「前記梱包工程において前記梱包材によって維持される前記管状体の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である」という事項を追加して限定するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する「特許請求の範囲の減縮」を目的とする訂正である。 イ 新規事項の有無、及び特許請求の範囲の拡張又は変更について 訂正事項2のうち、訂正前の請求項3の「熱可塑性樹脂」を「ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂」に限定する訂正は、本件特許明細書の段落【0024】の「まず、管10を構成する熱可塑性樹脂(ポリブテンや架橋ポリエチレン等)を、押出成形によって管状体に成形する(押出成形工程)。」との記載に基づくものである。 訂正事項2のうち、「前記梱包工程において前記梱包材によって維持される前記管状体の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である」との記載を追加する訂正は、本件特許明細書の段落【0027】の「なお、管に付く巻き癖をなるべく抑制する観点から、梱包工程において梱包材40によって維持される管10の円環形状は、内径d1が700mm以上であり、外径d2が900mm以上であると、好適である。また、梱包材40により梱包された管10の良好な搬送性を得る観点から、梱包工程において梱包材40によって維持される管10の円環形状は、内径d1が900mm以下であり、外径d2が、1100m以下であると、好適である。」との記載に基づくものである。 したがって、訂正事項2は、願書に添付した明細書等の記載に基づくものであり、願書に添付した明細書等のすべての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において新たな技術的事項を導入するものではなく、願書に添付した明細書等に記載した事項の範囲内においてしたものである。 そして、訂正事項2は、特許請求の範囲を減縮するものであり、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではない。 よって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合するものである。 (3)一群の請求項についての説明 訂正前の請求項1〜4について、請求項2〜4はそれぞれ請求項1を引用しているものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、訂正前の請求項1〜4に対応する訂正後の請求項1〜4は、特許法120条の5第4項に規定する一群の請求項である。 3 小活 したがって、本件訂正の訂正事項1、2は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同法第120条の5第9項で準用する同法第126条第5項及び第6項に適合するから、訂正後の請求項1〜4について訂正することを認める。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正により訂正された請求項1〜4に係る発明(以下「本件発明1」〜「本件発明4」ということがある。)は、次のとおりのものである。 「【請求項1】 可撓性のある樹脂製の管であって、 前記管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなり、 外力が作用していない初期状態において、湾曲した管の中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1が、750mm以上であり、 前記初期状態から、前記初期状態での管の湾曲の向きとは逆向きに湾曲し、かつ、前記中心軸線に対して曲率中心C2側の外周面部分の曲率半径R2が前記管の外径Dの10倍であるような、曲げ状態へと、管を曲げたとき、前記初期状態での前記中心軸線に対して曲率中心C1側に位置していた内周面部分の歪みが、8.5%以下となり、 前記管は、梱包材によって、巻かれた状態を維持されており、 前記初期状態は、前記管が前記梱包材から出された状態の配管される前の状態において、前記管に外力が作用していない状態であり、 前記初期状態における、前記管の前記中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1は、前記管に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径であり、 前記梱包材によって維持される前記管の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である、樹脂管。 【請求項2】 前記管の長さは10m以上である、請求項1に記載の樹脂管。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の樹脂管を製造する方法であって、 押出成形によってポリブテン又は架橋ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂を管状体に成形する、押出成形工程と、 前記押出成形工程の後、前記管状体を直線状に延在させた状態で硬化する、硬化工程と、 前記硬化工程の後、前記管状体を巻き、梱包材によって、該管状体を巻かれた状態に維持し、これにより前記樹脂管を得る、梱包工程と、 を含み、 前記梱包工程において前記梱包材によって維持される前記管状体の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である、樹脂管の製造方法。 【請求項4】 請求項1又は2に記載の樹脂管を用いて、建築物に配設された、給水又は給湯用の配管構造。」 第4 取消理由通知に記載した取消理由について 1 取消理由の概要 訂正前の請求項1〜4に係る特許に対して、当審が令和3年9月3日付けで特許権者に通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。 (1)本件特許の請求項1〜4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、不備があるため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (2)本件特許の請求項1〜4に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)本件特許の請求項1〜4に係る特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で、不備があるため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 当審の判断 (1)特許法第36条第6項第2号について ア 訂正前の請求項1の「予め定められた最小曲げ半径であるような、曲げ状態」との記載について 本件訂正により、訂正前の請求項1の「予め定められた最小曲げ半径」は、「前記管の外径Dの10倍」に訂正された。これにより「曲げ状態」の定義が明確になり、該曲げ状態へと管を曲げたときの「歪み」についても明確となった。 イ 訂正前の請求項1の「外力が作用していない初期状態」との記載について 本件訂正により、訂正前の請求項1に「前記初期状態は、前記管が前記梱包材から出された状態の配管される前の状態において、前記管に外力が作用していない状態であり」、「前記初期状態における、前記管の前記中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1は、前記管に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径であり」との記載が追加され、これにより「初期状態」がどのような状態を意味しているのかが明確となった。 そして、「外力が作用していない初期状態」とは、「管が梱包材から出された状態の配管される前の状態」であり、梱包材から出した直後(例えば、数時間以内)の状態を意味するものであると理解できるから、時間の特定がなくとも訂正後の請求項1の記載は明確である。 さらに、管状体が梱包材から取り出されると、管状体は梱包材からの拘束から解放され、時間と共にその形状が直線状に戻ろうとすると考えられるが、例えば数ヶ月以上経過したものは、梱包材から出した直後の状態である「管が梱包材から出された状態の配管される前の状態において、外力が作用していない初期状態」とは言えないから、時間の特定がなくとも訂正後の請求項1の記載は明確である。 異議申立人は、令和3年12月16日提出の意見書において、「梱包材から出した直後の配管される前」とは、不明確な記載である。特許権者は、『梱包材から出した直後(例えば数時間)』と記載するが、そもそも『直後』を例えば数時間とあいまいな記載で説明しており、科学的に明確な記載とは当然いえない。」と主張する(第2頁ア(イ))。 しかしながら、梱包材から出す、配管するといった行為自体は明確であり、「例えば数時間」というのも梱包材から出した直後から配管するまでの期間を例示していると理解できるので、「梱包材から出した直後の配管される前」との記載は明確である。 さらに、「梱包材から出した直後の配管される前」の例えば数時間においては、配管が直線状に戻ろうとする変化はほとんど起こりえないから、「初期状態」を明確に特定しているといえる。 よって、異議申立人の主張は採用できない。 ウ 本件特許の請求項2〜4について 本件特許の請求項2〜4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用しており、本件特許の請求項1が明確であるから、本件特許の請求項2〜4の記載も同様に明確である。 (2)特許法第36条第4項第1号について 上記(1)イで検討したとおり、「外力が作用していない初期状態」との記載は、時間の特定がなくとも明確となったから、訂正後の請求項1で特定される「外力が作用していない初期状態において、湾曲した管の中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1が、750mm以上であり、前記初期状態から、前記初期状態での管の湾曲の向きとは逆向きに湾曲し、かつ、前記中心軸線に対して曲率中心C2側の外周面部分の曲率半径R2が前記管の外形Dの10倍であるような、曲げ状態へと、管を曲げたとき、前記初期状態での前記中心軸線に対して曲率中心C1側に位置していた内周面部分の歪みが、8.5%以下」とすることを実施することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものではない。 そして、訂正後の請求項1においては、管の材料を「ポリブテン又は架橋ポリエチレン」に限定されたため、材料の観点からも上記請求項1で特定される事項を実施することは、当業者にとって過度の試行錯誤を要するものではない。 よって、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、当業者が請求項1に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。 また、本件特許の請求項2〜4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用しているから、本件特許の発明の詳細な説明の記載は、同様に、当業者が請求項2〜4に係る発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものである。 (3)特許法第36条第6項第1号について 本件訂正により、請求項1において、管の材料について「ポリブテン又は架橋ポリエチレン」に限定された。 本件特許明細書の段落【0023】には、通常のポリブテン製の管を用いて実施した耐久性試験の結果が記載されており、歪みが8.5%以下となると良好な耐久性が得られる旨記載されているが、架橋ポリエチレン等の他の材料を用いた耐久性試験の結果は記載されていない。 しかしながら、一般的に架橋ポリエチレンは、ポリブテン管と、製造者等によって予め定められる最小曲げ半径がほぼ同じであり、同じような使われ方をするものであり、性能値(使用温度別の最高使用圧力、引張降伏強さ等)がほぼ同じであるから、架橋ポリエチレンと、ポリブテン管とは良好な耐久性が得られる歪みの範囲が同じとなることは、当業者にとって自明である。 したがって、管の材料が「ポリブテン又は架橋ポリエチレン」である樹脂管は、本件特許の「耐久性が向上された樹脂管を提供する」という課題を解決できると当業者が認識できるものである。 よって、本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものである。 また、本件特許の請求項2〜4は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用しているから、同様に、請求項2〜4に係る発明も、発明の詳細な説明に記載したものである。 第5 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について 1 特許異議申立理由の概要 異議申立人の主張する特許異議申立理由のうち取消理由通知において採用しなかったものは以下のとおりである。 本件発明1〜4は、甲1に記載された発明であるか、もしくは、かかる発明から当業者であれば容易に想到し得るものである。 よって、本件発明1〜4は、特許法第29条第1項第3号に該当するか、もしくは特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができない。 2 甲各号証の記載 (1)甲第1号証 甲第1号証(特開2005−344820号公報)には、以下の事項が記載されている(「・・・」は記載の省略を意味し、下線は当審にて付した。以下同様。)。 (1−a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 給水給湯用または冷暖房用の配管に使用する合成樹脂製の長尺通水管の製造方法であって、 合成樹脂材料により、長尺の合成樹脂管を成形する、成形工程と、 前記成形された合成樹脂管を、直状に伸ばした状態で、その直状態を形状記憶させるべく架橋する、架橋工程と、 前記直状態で架橋された合成樹脂管を巻回するとともに、その巻回状態を維持すべく結束する、巻回結束工程と、 からなることを特徴とする合成樹脂製の長尺通水管の製造方法。 【請求項2】 前記架橋工程では、前記成形された合成樹脂管を、直状に伸ばした状態で、容器内に収容し、その容器内に蒸気を送り込むことで、架橋することを特徴とする請求項1に記載の合成樹脂製の長尺通水管の製造方法。 【請求項3】 給水給湯用または冷暖房用の配管に使用する合成樹脂製の長尺通水管であって、 合成樹脂材料により、長尺に成形された合成樹脂管が、直状に伸ばされた状態で、その直状態を形状記憶させるべく架橋された後、巻回されて結束されてなることを特徴とする合成樹脂製の長尺通水管。」 (1−b)「【発明が解決しようとする課題】 【0003】 しかし、前記通水管は、巻回状態とされることで、強い巻き癖が付いてしまい、この巻き癖は、結束を解いても解消されることはなかった。従って、常に、巻き癖による、配管作業の困難性を伴っていた。 ・・・ 【0008】 この発明は、上記した従来の欠点を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、巻き癖を低減することができる、合成樹脂製の長尺通水管の製造方法、および合成樹脂製の長尺通水管を提供することにある。」 (1−c)「【0018】 長尺通水管1は、架橋ポリブデン、架橋ポリエチレン、架橋ポリプロピレン等の、架橋された合成樹脂管からなる。そして、この長尺通水管1は、例えば、20m〜120m程度の長さを有している。」 (1−d)「【0023】 次に、以上の構成からなる長尺通水管1およびその製造方法の作用効果について説明する。この長尺通水管1は、成形工程により合成樹脂管1aが成形された後に、架橋工程で、その合成樹脂管1aが、直状に伸ばされた状態で架橋されて、その直状態が形状記憶される。したがって、その後の、巻回結束工程にて、合成樹脂管1aが巻回されても、その巻き癖が付きにくく、その巻き癖を低減することができる。そして、このように、長尺通水管1は、その巻き癖が低減されることから、この長尺通水管1の配管作業において、長尺通水管1を鞘管内に容易に挿通することができ、また、鞘管内に挿通しない露出配管の場合にも、所望の経路に沿って容易に配管することができる。また、この長尺通水管1を、例えば、床暖房配管に用いる場合であっても、床の配管溝内への嵌め込み配管を容易に行なうことができ、嵌め込み後も長尺通水管1の飛び出しが抑えられ、その施工性が改善される。さらに、長尺通水管1を切断する際には、その長尺通水管1を真直ぐな状態に保ち易く、切断面を管軸と直角となるよう切断することが容易となる。したがって、長尺通水管1を継手等へ的確に差し込むことができ、継手等による接続を確実なものとすることができる。 【0024】 なお、本発明は、上述した実施の形態に限定されるわけではなく、その他種々の変更が可能である。例えば、図5ないし図7に示すように、長尺通水管1の製造方法は、前記巻回結束工程の後に、梱包工程が加わってもよい。この梱包工程は、例えば、巻回状態となった管束2の、外周面2aおよび側面2b、2bをガードするとともに内周面2cを開放状態とするよう梱包し、かつ、内周面2c側から、巻回状態を解きながら外方に引き出し可能に形成するものである。ここで、梱包にあたっては、図6および図7に示すように、例えば、段ボールからなる梱包箱5が用いられる。そして、この梱包箱5には、管束2の側面2bをガードする一方の側壁5a(図示実施の形態においては、上壁)の中央部分に、長尺通水管1を外方に引き出すための取出し窓5bが明けられている。もっとも、取出し窓5bは、長尺通水管1を引き出す際には、開口しているが、梱包した際には、閉じていてもよい。そして、長尺通水管1を引き出す際には、結束具4、4は、当然に、切断されたり取り除かれたりする。このようにして、合成樹脂製の長尺通水管1は、合成樹脂材料により、長尺に成形された合成樹脂管1aが、直状に伸ばされた状態で、その直状態を形状記憶させるべく架橋された後、巻回されて結束され、その巻回状態となった管束2において、外周面2aおよび側面2b、2bがガードされるとともに内周面2cが開放状態となるよう梱包され、かつ、前記内周面2c側から、前記巻回状態を解きながら外方に引き出し可能に形成されることとなる。そして、この長尺通水管1によると、前述の作用効果に加えて、その巻回状態となった管束2において、外周面2aおよび側面2b、2bがガードされるので、この長尺通水管1の配管作業において、長尺通水管1が、外方に広がってばらけるのを防ぎながら、長尺通水管1を、開放状態となった内周面2c側から外方に引き出すことができる。」 以上の事項を総合すると、甲1には以下の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「給水給湯用または冷暖房用の配管に使用する架橋ポリブデン、架橋ポリエチレン等の合成樹脂製の長尺通水管であって、 合成樹脂材料により、長尺に成形された合成樹脂管が、直状に伸ばされた状態で、その直状態を形状記憶させるべく架橋された後、巻回されて結束され、さらに梱包箱によって梱包された合成樹脂製の長尺通水管。」 3 当審の判断 (1)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 甲1発明の「架橋ポリブデン、架橋ポリエチレン等の合成樹脂製の長尺通水管」は、本件発明1の「ポリブテン又は架橋ポリエチレンから」なる「可撓性のある樹脂製の管」に相当する。 また、甲1発明の「巻回されて結束され、さらに梱包箱によって梱包された」態様は、本件発明1の「梱包材によって、巻かれた状態を維持され」た態様に相当する。 したがって、本件発明1と甲1発明とは、 「可撓性のある樹脂製の管であって、 前記管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなり、 前記管は、梱包材によって、巻かれた状態を維持された樹脂管。」 である点で一致し、以下の点で相違する。 [相違点] 本件発明1は、「外力が作用していない初期状態において、湾曲した管の中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1が、750mm以上であり、前記初期状態から、前記初期状態での管の湾曲の向きとは逆向きに湾曲し、かつ、前記中心軸線に対して曲率中心C2側の外周面部分の曲率半径R2が前記管の外径Dの10倍であるような、曲げ状態へと、管を曲げたとき、前記初期状態での前記中心軸線に対して曲率中心C1側に位置していた内周面部分の歪みが、8.5%以下」であり、「前記初期状態は、前記管が前記梱包材から出された状態の配管される前の状態において、前記管に外力が作用していない状態であり、前記初期状態における、前記管の前記中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1は、前記管に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径であり、前記梱包材によって維持される前記管の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下」であるのに対し、甲1発明は、そのように特定されていない点。 イ 判断 上記相違点について検討する。 本件発明1は、「管が梱包材から出された状態の配管される前の状態」である「外力が作用していない初期状態において、湾曲した管の中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1が、750mm以上であり、前記初期状態から、前記初期状態での管の湾曲の向きとは逆向きに湾曲し、かつ、前記中心軸線に対して曲率中心C2側の外周面部分の曲率半径R2が前記管の外径Dの10倍であるような、曲げ状態へと、管を曲げたとき、前記初期状態での前記中心軸線に対して曲率中心C1側に位置していた内周面部分の歪みが、8.5%以下」となるように構成し、しかも「梱包材によって維持される前記管の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下」であることにより、「管10が、巻き癖の向きとは逆向きに曲げられた状態で配管された場合に、管10に作用する応力不可を低減でき、ひいては、その曲げられた部分でのクラックの発生を抑制できる。」(本件特許明細書の段落【0022】)という効果を奏するものであるが、このような技術的事項は、甲1には記載されておらず、甲1発明に基いて当業者が容易になし得たものでもない。 また、管をまっすぐに延在させた状態で硬化させることで、巻き癖を防止することが、甲2(特開2013−53302号公報)(段落【0001】、【0006】、【0009】)に記載のとおり、周知の技術であったとしても、上記の技術的事項を導き出すことはできない。 したがって、本件発明1は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 異議申立人は、令和3年12月16日提出の意見書において、上記歪みの値である「8.5%以下」は、通常の管であれば当然に満たす範囲の歪みであり、技術的な特徴とはいえない旨主張するとともに、以下の歪みの式に基づき歪みを計算している。 歪み={(Y−X)/X}×100(%) そして、Xの値を曲率半径R1に基づく管の内側の内周長さで代表させ、Yの値を曲率半径R2(外径Dの10倍)に基づく管の内側の外周の長さで代表させると、 X=(17×10+2.1)×2π=1081.3 Y=(17×10+2.1+13)×2π=1161.7 歪み={(1162−1081)/1081}×100=7.4% よって、上記計算結果からすると、本件発明における管の歪みは、7.4%よりも小さな値である蓋然性が極めて高いから、本件発明における「歪みが8.5%以下」との特定は、通常採用される管であれば、当然に有する値である旨主張している(第6〜8頁)。 しかしながら、上記の計算は、初期状態の管の内側の長さであるXを計算する際に、曲率半径R1が管の外径の10倍の状態であることを前提に計算しており(Xの計算式の17×10の部分)、通常採用される管の曲率半径(本件特許明細書の段落【0006】によれば400mm)で計算したものではない。さらに、管の曲率半径を通常採用される管の曲率半径として400mmとして同様に計算するとY−Xが負の値となり歪みが計算できない。 したがって、上記の計算は、前提において誤っているから、歪みの値である「8.5%以下」は、通常の管であれば当然に満たす範囲の歪みであるとする根拠はない。 よって、異議申立人の主張は採用できない。 (2)本件発明2〜4について 本件発明2〜4は、本件発明1を引用するものであるから、同様に、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 4 小活 したがって、本件発明1〜4は、甲1発明ではなく、甲1発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 よって、本件発明1〜4は、特許法第29条第1項第3号に該当するものでなく、特許法第29条第2項の規定により、特許を受けることができないものではない。 第6 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件請求項1及び2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 可撓性のある樹脂製の管であって、 前記管は、ポリブテン又は架橋ポリエチレンからなり、 外力が作用していない初期状態において、湾曲した管の中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1が、750mm以上であり、 前記初期状態から、前記初期状態での管の湾曲の向きとは逆向きに湾曲し、かつ、前記中心軸線に対して曲率中心C2側の外周面部分の曲率半径R2が前記管の外径Dの10倍であるような、曲げ状態へと、管を曲げたとき、前記初期状態での前記中心軸線に対して曲率中心C1側に位置していた内周面部分の歪みが、8.5%以下となり、 前記管は、梱包材によって、巻かれた状態を維持されており、 前記初期状態は、前記管が前記梱包材から出された状態の配管される前の状態において、前記管に外力が作用していない状態であり、 前記初期状態における、前記管の前記中心軸線に対して曲率中心C1側の外周面部分の曲率半径R1は、前記管に付いた巻き癖のみに起因する曲率半径であり、 前記梱包材によって維持される前記管の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下である、樹脂管。 【請求項2】 前記管の長さは10m以上である、請求項1に記載の樹脂管。 【請求項3】 請求項1又は2に記載の樹脂管を製造する方法であって、 押出成形によってポリブテン又は架橋ポリエチレンからなる熱可塑性樹脂を管状体に成形する、押出成形工程と、 前記押出成形工程の後、前記管状体を直線状に延在させた状態で硬化する、硬化工程と、 前記硬化工程の後、前記管状体を巻き、梱包材によって、該管状体を巻かれた状態に維持し、これにより前記樹脂管を得る、梱包工程と、 を含み、 前記梱包工程において前記梱包材によって維持される前記管状体の円環形状は、内径d1が700mm以上900mm以下であり、外径d2が900mm以上1100mm以下 である、樹脂管の製造方法。 【請求項4】 請求項1又は2に記載の樹脂管を用いて、建築物に配設された、給水又は給湯用の配管構造。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-01-19 |
出願番号 | P2016-155676 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(F16L)
P 1 651・ 537- YAA (F16L) P 1 651・ 113- YAA (F16L) P 1 651・ 536- YAA (F16L) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
松下 聡 |
特許庁審判官 |
平城 俊雅 山崎 勝司 |
登録日 | 2020-11-26 |
登録番号 | 6799963 |
権利者 | 株式会社ブリヂストン |
発明の名称 | 樹脂管、樹脂管の製造方法、及び配管構造 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 山口 雄輔 |
代理人 | 杉村 憲司 |
代理人 | 杉村 光嗣 |
代理人 | 齋藤 恭一 |
代理人 | 山口 雄輔 |
代理人 | 伊藤 怜愛 |
代理人 | 杉村 光嗣 |
代理人 | 伊藤 怜愛 |
代理人 | 齋藤 恭一 |