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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1384138
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-06-16 
確定日 2022-03-16 
異議申立件数
事件の表示 特許第6800662号発明「具材用卵黄加圧ゲル」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6800662号の請求項1ないし5、7に係る特許を取り消す。 同請求項6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6800662号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成28年9月5日に出願され、令和2年11月27日にその特許権の設定登録がされ、同年12月16日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許について、令和3年6月16日に特許異議申立人 森田 弘潤(以下、「異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年9月17日付けで請求項1〜5、7に係る特許に対して取消理由を通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、特許権者からは応答がなかった。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
卵黄を主成分とし、25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲルからなるおにぎりの具材用卵黄加圧ゲル。
【請求項2】
上記加圧ゲルが、調味料を含有する加圧ゲルである請求項1に記載のおにぎりの具材用卵黄加圧ゲル。
【請求項3】
上記調味料が、醤油、白だし、味噌、砂糖及び食塩から選ばれる1種以上の調味料である請求項2に記載のおにぎりの具材用卵黄加圧ゲル。
【請求項4】
卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物である請求項2または3に記載のおにぎりの具材用卵黄加圧ゲル。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれかに記載のおにぎりの具材用卵黄加圧ゲルを、冷凍状態で袋状容器に収容したおにぎりの具材用袋状容器入り卵黄加圧ゲル。
【請求項6】
卵黄85〜97質量%、調味料3〜15質量%を必須成分とし、かつ塩分濃度が4質量%以下である卵黄組成物を、25℃における粘度が1.6〜390Pa・sになるように、70℃未満で300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工をするおにぎりの具材用卵黄加圧ゲルの製造方法。
【請求項7】
請求項1〜4のいずれかに記載のおにぎりの具材用卵黄加圧ゲルを、米飯の加圧成形体であるおにぎりの内部に具材として保持する卵かけごはん風味おにぎり。」
(以下、請求項順に、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、……、「本件特許発明7」ともいう。)

第3 取消理由及び特許異議申立理由の概要
1 取消理由の概要
令和3年9月17日付け取消理由通知に記載した取消理由の概要は、次のとおりである。

「1.(明確性要件違反)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

請求項1には「卵黄を主成分とし、」との記載があり、請求項4には「卵黄85〜97質量%を主成分とし、」との記載がある。
これらにいう「主成分」が、卵黄加圧ゲルの原材料のうち、重量割合の最も多いものを意味するのか、重量割合が一定以上のものを意味するのか、加圧ゲル化に寄与するものを意味するのか、生卵の風味を得ることに寄与するものを意味するのか、その他の意味であるのか、明細書又は特許請求の範囲には記載がなく、当業界の技術常識に照らして明細書又は特許請求の範囲の記載から明らかであるといえる根拠を見出すこともできないので、たとえ「…質量%」という規定が存在しても、「主成分」の示す内容が不明である。
したがって、請求項1及び請求項4に係る発明、並びにそれらの請求項を直接又は間接に引用する請求項2、3、5、7に係る発明は、明確でない。」

2 特許異議申立理由の概要
異議申立人は、以下の甲第1号証〜甲第4号証を提出し、特許異議申立理由として、次の申立理由1−1〜4を主張していると認める。

甲第1号証:林力丸編,「生物と食品の高圧科学」,1993年3月1日発行,325〜330頁、表紙及び奥付
甲第2号証:特許第2613045号公報
甲第3号証:特開2012−105641号公報
甲第4号証:「コンビニに”T.K.Gおむすび”ブーム到来!各社の力作を実食調査」,東京ウォーカー(全国版),2012年7月7日13:37更新,印刷日:2021/5/13 <URL:https://www.walkerplus.com/article/17109>
(以下、それぞれを順に「甲1」、「甲2」、……、「甲4」ともいう。)

・申立理由1−1(進歩性欠如):
本件特許発明1〜7は、甲第1号証に記載された発明並びに甲第3号証及び甲第4号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

・申立理由1−2(進歩性欠如):
本件特許発明1〜7は、甲第2号証に記載された発明並びに甲第3号証及び甲第4号証の記載に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

・申立理由2−1(実施可能要件違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明4〜7を当業者が実施できるように記載されておらず、本件特許発明4〜7に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

・申立理由2−2(実施可能要件違反)
本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明6を当業者が実施できるように記載されておらず、本件特許発明6に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

・申立理由3−1(サポート要件違反)
本件特許発明4〜7は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件特許発明4〜7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

・申立理由3−2(サポート要件違反)
本件特許発明6は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載された発明ではなく、本件特許発明6に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

・申立理由4(明確性要件違反)
本件特許発明1〜3、5〜7は、発明の範囲が不明確であり、本件特許発明1〜3、5〜7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

第4 当審の判断
(以下では、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面を「本件特許明細書等」という。)

1.取消理由及び申立理由4(明確性要件違反)について
(1)特許請求の範囲に記載される「主成分」について
本件特許の特許請求の範囲の記載を検討すると、請求項1に「卵黄を主成分とし、」との記載があり、請求項4に「卵黄85〜97質量%を主成分とし、」との記載がある。
「主成分」とは、字義から、成分のうち主なものを指すといえるところ、飲食品及び飲食品関連組成物の分野においては、「成分のうち主なもの」とは、
・成分のうち、重量割合の最も多いものを意味する場合(特開2016−127812号公報(特に、段落0036及び段落0039)、特許第5292520号公報(特に、段落0013)等を参照のこと)、
・成分のうち、重量割合が一定以上のものを意味する場合(特開2016−123332号公報(特に、段落0019)、特開2016−154507号公報(特に、段落0009)等を参照のこと)、
・成分のうち、飲食品又は飲食品関連組成物の特性を発揮するために必要な成分を意味する場合(特開2016−123291号公報(特に、段落0023〜段落0024)、特開2016−123290号公報(特に、段落0018〜段落0019)、特開2006−6257号公報(特に、請求項1、段落0001、段落0041、及び段落0042)等、特開2016−101115号公報(特に、段落0008、段落0010、段落0013、段落0016、及び段落0024の表1を参照のこと)
のあることが、技術常識である。
請求項1及び請求項4に記載される「主成分」が、卵黄加圧ゲルの原材料のうち、重量割合の最も多いものを意味するのか、重量割合が一定以上のものを意味するのか、又は、卵黄加圧ゲルの特性を発揮するために必要な成分(すなわち、加圧ゲル化に寄与する成分、あるいは、生卵の風味を得ることに寄与する成分等)を意味するのか、その他の意味であるのか、明細書又は特許請求の範囲には明記されておらず、上記の飲食品及び飲食品関連組成物の分野における技術常識に照らして、明細書又は特許請求の範囲の記載から当業者には明らかであるといえる根拠を見出すこともできないので、たとえ「…質量%」という規定が存在しても、請求項1及び請求項4に記載される「主成分」の示す内容が不明である。
したがって、請求項1及び請求項4に係る発明、並びにそれらの請求項を直接又は間接に引用する請求項2、3、5、7に係る発明は、明確でない。
一方、請求項6には「主成分」との記載はなく、請求項1又は請求項4を直接又は間接に引用する請求項でもないので、請求項1及び請求項4に記載される「主成分」の示す内容が不明であることによって、請求項6に係る発明は明確でないとすることはできない。

(2)特許請求の範囲に記載される「超高圧加工」について
本件特許の特許請求の範囲の記載を検討すると、請求項6に「70℃未満で300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工をする」との記載がある。
「超高圧」とは、字義どおり、通常の圧力をはるかに超える高い圧力であるといえるので、「70℃未満で300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工をする」とは、「70℃未満」の温度下で、通常の圧力をはるかに超える圧力である「300〜500MPa」を対象物に「1〜10分間」加える加工をすることを意味することが明確である。
異議申立人は、「本件特許発明6には、超高圧加工の条件として「70℃未満」と記載されているが、下限値が規定されておらず、不明確である。」(特許異議申立書21頁16〜17行)と主張するが、技術常識に照らしても、「70℃未満」との温度が明確でないとする根拠を見出すことはできず、異議申立人の当該主張は受け入れられない。

(3)小括
以上(1)〜(2)に示したとおり、上記の取消理由は妥当なものと認められ、本件特許発明1〜5、及び本件特許発明7に係る特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号により取り消すべきものである。

2.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち、申立理由1−1(進歩性欠如)及び申立理由1−2(進歩性欠如)について
(1)甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
ア 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載事項が記載されている。
・記載事項(1−1)
「近年,食品加工への高圧利用が盛んに研究されるようになり,食品の調理。殺菌への応用の可能性が報告されている1−3).」(325頁左欄2〜4行)

・記載事項(1−2)
「今回,卵白および卵黄の物性が,加圧処理時の圧力によってどのような影響を受けるか,また,卵白の物性が,卵白の固形分濃度によってどのような影響を受けるかを検討した.さらに,食品加工への応用として,乾燥卵白を利用した畜肉の接着を検討した.」(325頁左欄19〜24行)

・記載事項(1−3)
「43.2.2 卵黄,卵白の加圧方法
市販の鶏卵を衛生的に割卵し,液卵黄と液卵白を得る.この液卵黄と液卵白をホモゲナイズ後,ポリエチレン袋(φ20mm×150mm)に封人し,5,25,45℃で100〜700MPa,10分間高圧処理する.」(325頁右欄下から15〜11行)

・記載事項(1−4)
「43.2.3 加圧処理した卵黄,卵白の物性の測定方法
高圧処理した卵黄と卵白の粘度・ゲル強度・窒素溶解指数(NSI)を以下の方法に従って測定した.なお, 加圧処理時の5,25,45℃は,加圧前の品温,および圧力容器内の溶媒(蒸留水)の品温である.
粘度は(株)東京計器製のE型粘度計を用いて測定した.ゲル強度は不動工業(株)のレオメーターを用いて破断応力(プランジャーφ8mmの球形,上昇速度6cm/min)を測定した.NSIは次の手順で測定した.加圧処理した試料を,卵黄は0.2%(w/v),卵白は0.4%(w/v)になるように3%(w/w)食塩水に希釈し,0.45μmのメンブランフィルターで濾過する.この濾液中のタンパク量を色素結合法(Coomassic Blue G method)を用いて測定し,未処理の卵黄,および卵白と比較して求めた.」(325頁右欄下から4行〜326頁左欄13行)

・記載事項(1−5)




」(326頁右欄2行〜327頁左欄)

・記載事項(1−6)
「卵黄は,加圧処理時の温度が高くなるにつれて,低い圧力で,粘度およびゲル強度が高くなり,NSIは低下することが認められた.」(327頁右欄2〜4行)

・記載事項(1−7)
「43.4 まとめ
筆者らは,高圧処理によって液卵白の物性を変化させずに,通常行われている低温加熱殺菌と同程度の殺菌が可能であることを報告した11).今回,卵黄と卵白の処理温度と圧力の変性曲線から,加圧による殺菌を目的とする微生物の種類にもよるが,卵黄は5℃くらいからの低温で,また,卵白は20〜25℃くらいで行うことが適切であると推察した.」(329頁左欄13行〜右欄2行)

イ 甲1に記載された発明
記載事項(1−1)〜記載事項(1−7)より、甲1には以下の発明が記載されていると認める。
「加圧前の温度が5℃、25℃、又は45℃の卵黄を100〜700MPaの圧力で10分間高圧処理して得られたもの」の発明(以下、「甲1発明」という。)

(2)甲2の記載事項及び甲2に記載された発明
ア 甲2の記載事項
甲2には、以下の記載事項が記載されている。

・記載事項(2−1)
「【請求項1】卵黄もしくは卵黄含有物を加圧し、ゲル化せしめることを特徴とする卵黄のゲル化方法。
【請求項2】加圧が静水圧500〜11,000気圧で1分〜20時間の処理であることを特徴とする特許請求の範囲第1項記載の卵黄のゲル化方法。」(1頁1欄2〜6行)

・記載事項(2−2)
「一般に、卵黄は生のままでは消化性が悪く、また、加熱凝固させた場合は消化性は高まるが、ビタミン類はかなり減少することが知られている。
本発明では、卵黄の消化性を高め、しかも、ビタミン類を減少させることなく、卵黄もしくは卵黄含有物をゲル化することを行う。
また、生の卵黄を利用した食品としては、マヨネーズが代表的なものであるが、これを処理してそのままゲル化し、卵黄の消化性を高め、マヨネーズの新たな用途も見出そうとするものである。」(1頁2欄12行〜2頁3欄6行)

・記載事項(2−3)
「卵黄もしくは卵黄含有物を加圧処理した場合、圧力と加圧時間とによって、得られるゲル状の強さはかなり変化するので、静水圧で500〜11,000気圧の任意の圧を選び、求める強度のゲルに合せて加圧時間を求めておくのが好ましい。
例えば卵黄のみの場合や卵黄と卵白の1:1混合物の場合には、静水圧5,000気圧で5分加圧したときは、やっと盛上がる程度の粘稠なゲルであるが、同じ気圧で30分加圧したときはかなり固く感じるゲルとなるのである。
ここに得られる粘稠なゲルや固く感じるゲルなどは、それぞれ食品の加工やサラダ素材としても有用である。
また、卵黄を多量含有するマヨネーズを加圧する場合は、静水圧で500〜11,,000気圧の間で、加圧時間を適宜変更すれば、任意の強さをもった各種ゲルを得ることができ、固形調味料として各種用途がある。
また、全卵黄混合物を用いるカスタードプリンの原料混合物を加熱しないで、生のまま加圧することをによって適度な固さに全体をゲル化することができる。
また、これら以外にも卵黄含有物であれば、生のまま静水圧で500〜11,000気圧程度で、1分〜1時間の処理で任意の固さのゲルを生成させることができるものである。」(2頁3欄21〜42行)

・記載事項(2−4)
「本発明においては、卵黄もしくは卵黄含有物を加圧してゲル化するものであるが、ゲル化に際して、ビタミン類を減少させることなく、生の卵黄の消化性を向上させることができるものである。
また、卵黄もしくは卵黄含有物をゲル化したものは、粘稠なものから固いものまで様々の性状のものとなるので、各種性状に応じて多くの用途が考えられ、新たな食品素材を提供することができたものである。また、卵黄もしくは卵黄含有物をゲル化したものは、粘稠なものから固いものまで様々の性状のものとなるので、各種性状に応じて多くの用途が考えられ、新たな食品素材を提供することができたものである。」(2頁3欄44行〜4欄1行)

イ 甲2に記載された発明
記載事項(2−1)〜記載事項(2−4)より、甲2には以下の発明が記載されていると認める。
「卵黄もしくは卵黄含有物を加圧し、ゲル化せしめることにより得られるもの」の発明(以下、「甲2発明」という。)

(3)甲3の記載事項
甲3には、以下の記載事項が記載されている。

・記載事項(3−1)
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
卵黄含量(蛋白質換算)が7〜16%でかつナトリウム含量が0.5〜3%である卵黄含有液を65〜80℃に加熱する工程と、前記卵黄含有液を冷凍する工程と、を含む、粘度10〜150Pa・s(品温20℃)の加工卵黄含有液の製造方法。
【請求項2】
粘度10〜150Pa・s(品温20℃)であり、かつ卵黄含量(蛋白質換算)が7〜16%、ナトリウム含量が0.5〜3%である、加工卵黄含有液。
【請求項3】
醤油を2.5〜30%含有する、請求項2項記載の加工卵黄含有液。
【請求項4】
グリシンを0.1〜4%含有する、請求項2又は3に記載の加工卵黄含有液。
【請求項5】
冷凍処理されてなる請求項2乃至4のいずれか1項に記載の加工卵黄含有液。
【請求項6】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の加工卵黄含有液を用いた食品。
【請求項7】
請求項2乃至5のいずれか1項に記載の加工卵黄含有液を具材として用いたおにぎり。」

・記載事項(3−2)
「【0008】
また、上記加工卵黄含有液は、粘度10〜150Pa・s(品温20℃)であり、かつ卵黄含量(蛋白質換算)が7〜16%、ナトリウム含量が0.5〜3%であることにより、流動性が抑えられ、かつ、食品に用いたときに卵の風味を呈することができる。例えば、上記加工卵黄含有液をごはんに用いた場合、液状であるにも拘らず、ごはんと混ぜたときにごはんへの染み込みが抑えられるので、黄身様の液部と白いごはんの部分からなる外観を保持することができる。このため、上記加工卵黄含有液は、食品(例えば、ごはんを用いた食品、具体的には、おにぎり)に好適に使用することができる。」

・記載事項(3−3)
「【0013】
本実施形態に係る加工卵黄含有液において、粘度は10〜150Pa・sである。10Pa・s未満であると、流動性が高すぎて、前記加工卵黄含有液を食品(例えばごはん)に混ぜたときに食品(ごはん)に染み込み、形状が崩れるおそれがあり、一方、粘度が150Pa・sを超えると、前記加工卵黄含有液を食品(例えばごはん)に混ぜようとしても、硬すぎて均一に混ざらないおそれや、ボソボソとして食感が悪くなるおそれがある。食品(ごはん)の形状をより長期間保持することができ、かつ、食品(例えばごはん)の食感をより良好にすることができる観点で、本実施形態に係る加工卵黄含有液の粘度は20〜100Pa・sであるのが好ましく、30〜80Pa・sがより好ましい。」

・記載事項(3−4)
「【0015】
本実施形態に係る加工卵黄含有液は、ナトリウム含量が0.5〜3%であり、0.5〜2%であることが好ましい。本実施形態に係る加工卵黄含有液において、ナトリウム含量が0.5〜3%であることにより、食品(例えばごはん)に用いたときに適度な塩味を供することができる。この場合、ナトリウム含量が0.5%未満であると、卵黄の変性(ゲル化)による染込み防止効果が発揮され易く、ナトリウム含量が3%を超えると、本実施形態に係る加工卵黄含有液を用いた食品によっては、塩味が濃すぎる場合がある。なお、本発明において、加工卵黄含有液におけるナトリウム含量は公知の方法(例えば、原子吸光光度法)によって測定することができる。また、ナトリウムを含有する原料としては、食塩の他に、鰹だし、昆布だし等のだし類、グルタミン酸ナトリウム、コハク酸ナトリウム等の有機酸ナトリウム、リン酸ナトリウム等の無機酸ナトリウム、醤油、味噌、ケチャップ、ウスターソース、オイスターソース、マヨネーズ、コンソメ、ブイヨン等のナトリウム分を含量する調味料が挙げられる。
【0016】
さらに、本実施形態に係る加工卵黄含有液は、醤油を2.5〜30%含有することが好ましく、3〜30%含有することがより好ましい。本実施形態に係る加工卵黄含有液が醤油を2.5〜30%(より好ましくは3〜30%)含有することにより、本実施形態に係る加工卵黄含有液にナトリウム分を供することができ、かつ、食品(例えばごはん)に用いたときに醤油の風味を適度に付与することができる。また、本実施形態に係る加工卵黄含有液は、醤油とともに、または醤油の代わりに、醤油以外の調味料(好ましくはナトリウム分を含有する調味料)を含有していてもよい。さらに、本実施形態に係る加工卵黄含有液は、保存性向上の観点でグリシンを加えると、後述する冷凍処理工程において卵黄の変性(ゲル化)を穏やかに抑制することができ、食感を阻害するような凝集を生じることなくゲル化できることから、グリシンを0.1〜4%含有することが好ましい。この場合、本実施形態に係る加工卵黄含有液におけるグリシンの含有量が0.1%未満であると、十分な染込み防止効果が得られない場合があり、一方、4%を超えると、風味に劣る場合がある。」

・記載事項(3−5)
「【0018】
また、本実施形態に係る加工卵黄含有液は必要に応じて、例えば、菜種油、大豆油等の食用油脂、塩化カルシウム、核酸等の各種調味料、グラニュ糖、上白糖、三温糖、ぶどう糖果糖液糖、果糖ぶどう糖液糖、澱粉、デキストリン、フルクトース、トレハロース、グルコース、乳糖、オリゴ糖及び糖アルコール等の糖類、湿熱処理澱粉、加工澱粉、キサンタンガム、ローカストビーンガム、ジェランガム等の増粘剤、クエン酸、酒石酸、コハク酸、リンゴ酸等の有機酸、アスコルビン酸、ビタミンE等の酸化防止剤、色素、各種具材等の他の配合成分を含んでいてもよい。例えば、本実施形態に係る加工卵黄含有液が増粘剤を含有する場合、増粘剤を0.05〜1%含有することができる。
【0019】
なお、本実施形態に係る加工卵黄含有液は、常温保存品、冷蔵品または冷凍品として取り扱うことができる。この場合、保存および取扱いが容易である点で、本実施形態に係る加工卵黄含有液は容器(例えばポリエチレン袋)に充填されていることが好ましい。なお、本発明において、「冷凍」とは、物体が凍結した状態をいう。本実施形態に係る加工卵黄含有液が冷凍品であることにより、品質をより長期間保持することができる。また、上記冷凍品は容器に充填されていることが好ましい。」

・記載事項(3−6)
「【0033】
図1に示されるように、おにぎり100の中央部に加工卵黄含有液110が封入されていることにより、おにぎり100がほぼ等分になるように2つに割ったときに、加工卵黄含有液110のごはん120への染み込みが抑えられるため、加工卵黄含有液110の黄身様とごはん120の白色とにより、茶碗に盛られた卵かけごはんを想起することができるとともに、卵かけごはんの風味を楽しむことができる。」

・記載事項(3−7)
「【0043】
【表2】



(4)甲4の記載事項
甲4には、以下の記載事項が記載されている。

・記載事項(4−1)




(5)対比・判断
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明は、(1)イに示したとおり、
「加圧前の温度が5℃、25℃、又は45℃の卵黄を100〜700MPaの圧力で10分間高圧処理して得られたもの」の発明である。
甲1発明にいう「卵黄」は本件特許発明1にいう「卵黄を主成分とし、」に相当し、甲1発明にいう「100〜700MPaの圧力で10分間高圧処理」は、本件特許発明1にいう「加圧」に該当し、甲1発明は、記載事項(1−4)より「ゲル」であると認められるので、本件特許発明1と甲1発明とは、
両者とも「卵黄加圧ゲル」である点で一致し、
用途について、本件特許発明1では「おにぎりの具材用」とされる一方、甲1発明では用途の特定賀されていない点(以下、「相違点(1−1)」という。)、及び
粘度について、本件特許発明1では「25℃における粘度1.6〜390Pa.sの加圧ゲルからなる」ものとされる一方、甲1発明では、記載事項(1−4)のFig.43.2から、甲1発明のうち、加圧前の温度が5℃の卵黄を300MPaの圧力で10分間高圧処理して得られるものでは約5000mPa.s、加圧前の温度が5℃の卵黄を400MPaの圧力で10分間高圧処理して得られるものでは約9000mPa.s、加圧前の温度が25℃の卵黄を300MPaの圧力で10分間高圧処理して得られるものでは約10000mPa.s、と認められ、他の場合についての粘度は示されていない点(以下、「相違点(1−2)」という。)で相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(1−1)について
記載事項(1−1)及び記載事項(1−2)には、食品加工への高圧利用が盛んに研究されるようになり、食品の調理・殺菌への応用の可能性が報告されている中で、卵黄の物性が加圧処理時の圧力によってどのような影響を受けるかを検討したことが示されており、記載事項(1−7)には、卵黄を5℃くらいの低温で高圧処理することが、その殺菌に適切であることが示されている。
一方、甲1には、記載事項(1−1)〜記載事項(1−7)を含めて、甲1発明をおにぎりの具材用に用いることについての記載はない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)には、卵黄含量(蛋白質換算)が7〜16%でかつナトリウム含量が0.5〜3%である卵黄含有液を65〜80℃に加熱する工程と、前期卵黄含有液を冷凍する工程と、を含む製造方法により製造される、粘度10〜150Pa・s(品温20℃)の加工卵黄含有液を、おにぎりなどの食品に好適に使用することができることが示されているものの、甲1発明が、高圧処理を経たものであるにもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)に示されたナトリウム含量並びに加熱工程及び冷凍工程を含む製造方法により製造される加工卵黄含有液と同様の味・食感・風味等を有するものであるとは、技術常識に照らして認めることはできない。甲1発明が、その味・食感・風味等の違いにもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)に示されたナトリウム含量並びに加熱工程及び冷凍工程を含む製造方法により製造される加工卵黄含有液と同様の用途に用いることのできるものであることは、甲1及び甲3のいずれにも記載されておらず、技術常識であるともいえない。
記載事項(4−1)には、「4種の醤油をブレンドした卵ソース」が、おむすびにおいて「ご飯を割った瞬間、とろ〜っと出てくる」ことが示されているが、甲1発明が、高圧処理を経たものであるにもかかわらず、記載事項(4−1)に示された「4種の醤油をブレンドした卵ソース」と同様の味・食感・風味等を有するものであるとは、技術常識に照らして認めることはできない。甲1発明が、その味・食感・風味等の違いにもかかわらず、記載事項(4−1)に示された「4種の醤油をブレンドした卵ソース」と同様の用途に、用いることのできるものであることは、甲1及び甲4のいずれにも記載されておらず、技術常識であるともいえない。

異議申立人は、「甲第3号証には、粘度が10〜150Pa・sの卵黄ゲルが記載されており、ご飯への染み込みが抑えられるため、おにぎりの具材として好適に用いることができると記載されている。」(特許異議申立書10頁21〜24行)、及び「甲第4号証には、粘性のある卵黄を具材としたおにぎりが市販されていることが記載されている。具体的な粘度の記載はないが、「とろ〜っと出てくる」という記載や、おにぎりの具材として内部の保持されていることを鑑みると、1.6〜390Pa・sである蓋然性が高い。」(特許異議申立書10頁25〜28行)と述べて、「甲1発明の卵黄加圧ゲルを甲第3号証及び甲第4号証の記載事項を参酌し、おにぎりの具材として用いることは、当業者が容易に想到することである。」(特許異議申立書11頁1〜3行)と主張するが、記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)を含めた甲3及び記載事項(4−1)を含めた甲4の記載は、どのような工程を経て得られた卵黄ゲル又は卵ソースであっても、その粘度が特定の範囲にあれば必ずおにぎりの具材として用いることができることを示すものではないので、異議申立人のこの主張は受け入れられない。

したがって、相違点(1−1)に係る本件特許発明1の「おにぎりの具材用」という用途は、甲1発明並びに甲3及び甲4の記載から、当業者が容易に想到し得たものではない。
よって、相違点(1−2)について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲3及び甲4の記載から当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件特許発明1は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明(特に、段落0012、段落0015、段落0022〜段落0024)に記載されるとおり、生卵の風味が損なわれておらず、卵かけご飯の風味と食感を充分に感じさせるおにぎり具材という効果を奏するものであり、この効果は、甲1、甲3及び甲4の記載並びに技術常識から予想できるものとも顕著でないものともいえないことから、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲3及び甲4の記載からは当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)より、本件特許発明1は、甲1発明並びに甲3及び甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明2〜7は、いずれも本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件特許発明1が、甲1発明並びに甲3及び甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2〜7もまた、甲1発明並びに甲3及び甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 甲2発明との対比・判断
(ア)本件特許発明1と甲2発明とを対比する。
甲2発明は、(2)イに示したとおり、
「卵黄もしくは卵黄含有物を加圧し、ゲル化せしめることにより得られるもの」の発明である。
甲2発明にいう「卵黄」は本件特許発明1にいう「卵黄を主成分とし、」に相当し、甲2発明にいう「加圧」は本件特許発明にいう「加圧」に該当し、甲2発明にいう「ゲル化せしめることにより得られるもの」は本件特許発明にいう「ゲル」に該当するので、本件特許発明1と甲2発明とは、
両者とも「卵黄加圧ゲル」である点で一致し、
用途について、本件特許発明1では「おにぎりの具材用」とされる一方、甲2発明では用途の特定賀されていない点(以下、「相違点(2−1)」という。)、及び
粘度について、本件特許発明1では「25℃における粘度1.6〜390Pa.sの加圧ゲルからなる」ものとされる一方、甲2発明では粘度の特定はされていない点(以下、「相違点(2−2)」という。)で相違する。

(イ)相違点についての判断
・相違点(2−1)について
記載事項(2−2)〜記載事項(2−3)には、甲2発明を利用した食品として、マヨネーズ、サラダ素材、固形調味料、及びカスタードプリンが記載されており、記載事項(2−4)には、各種性状に応じて多くの用途が考えられる旨の記載がある。
しかし、甲2には、記載事項(2−1)〜記載事項(2−4)を含めて、甲2発明を、おにぎりの具材用に用いることについての記載はない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)には、卵黄含量(蛋白質換算)が7〜16%でかつナトリウム含量が0.5〜3%である卵黄含有液を65〜80℃に加熱する工程と、前期卵黄含有液を冷凍する工程と、を含む製造方法により製造される、粘度10〜150Pa・s(品温20℃)の加工卵黄含有液を、おにぎりなどの食品に好適に使用することができることが示されているものの、甲2発明が、加圧・ゲル化処理を経たものであるにもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)に示されたナトリウム含量並びに加熱工程及び冷凍工程を含む製造方法により製造される加工卵黄含有液と同様の味・食感・風味等を有するものであるとは、技術常識に照らして認めることはできない。甲2発明が、その味・食感・風味等の違いにもかかわらず、記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)に示されたナトリウム含量並びに加熱工程及び冷凍工程を含む製造方法により製造される加工卵黄含有液と同様の用途に用いることのできるものであることは、甲2及び甲3のいずれにも記載されておらず、技術常識であるともいえない。
記載事項(4−1)には、「4種の醤油をブレンドした卵ソース」が、おむすびにおいて「ご飯を割った瞬間、とろ〜っと出てくる」ことが示されているが、甲2発明が、加圧・ゲル化処理を経たものであるにもかかわらず、記載事項(4−1)に示された「4種の醤油をブレンドした卵ソース」と同様の味・食感・風味等を有するものであるとは、技術常識に照らして認めることはできない。甲2発明が、その味・食感・風味等の違いにもかかわらず、記載事項(4−1)に示された「4種の醤油をブレンドした卵ソース」と同様の用途に、用いることのできるものであることは、甲2及び甲4のいずれにも記載されておらず、技術常識であるともいえない。

異議申立人は、「甲第3号証には、粘度が10〜150Pa・sの卵黄ゲルが記載されており、ご飯への染み込みが抑えられるため、おにぎりの具材として好適に用いることができると記載されている。」(特許異議申立書10頁21〜24行)、及び「甲第4号証には、粘性のある卵黄を具材としたおにぎりが市販されていることが記載されている。具体的な粘度の記載はないが、「とろ〜っと出てくる」という記載や、おにぎりの具材として内部の保持されていることを鑑みると、1.6〜390Pa・sである蓋然性が高い。」(特許異議申立書10頁25〜28行)と述べて、「甲1発明の卵黄加圧ゲルを甲第3号証及び甲第4号証の記載事項を参酌し、おにぎりの具材として用いることは、当業者が容易に想到することである。」(特許異議申立書11頁1〜3行)と主張するが、記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)を含めた甲3及び記載事項(4−1)を含めた甲4の記載は、どのような工程を経て得られた卵黄ゲル又は卵ソースであっても、その粘度が特定の範囲にあれば必ずおにぎりの具材として用いることができることを示すものではないので、異議申立人のこの主張は受け入れられない。

したがって、相違点(2−1)に係る本件特許発明1の「おにぎりの具材用」という発明特定事項は、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載から、当業者が容易に想到し得たものではない。

・相違点(2−2)について
甲2発明を得るための加圧・ゲル化条件の例として、記載事項(2−1)に示される「静水圧500〜11,000気圧で1分〜20時間の処理」、及び、記載事項(2−3)に示される「静水圧500〜11,000気圧で1分〜1時間の処理」はいずれも、本件特許発明1を得るために好ましい圧力・時間の条件として本件特許明細書等(特に、発明の詳細な説明の段落0040、請求項6)に記載された「300〜550MPaで1〜10分間の超高圧加工」よりも広範な条件であることから、甲2発明の粘度範囲は本件特許発明1の粘度範囲よりも広範であると推定される。
記載事項(2−3)には、任意の固さのゲルを生成させることができる旨の記載はあるものの、本件特許発明1の粘度である「25℃における粘度1.6〜390Pa.s」のものとすることは記載されていない。
記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)には、卵黄含量(蛋白質換算)が7〜16%でかつナトリウム含量が0.5〜3%である卵黄含有液を65〜80℃に加熱する工程と、前期卵黄含有液を冷凍する工程と、を含む製造方法により製造される、粘度10〜150Pa・s(品温20℃)の加工卵黄含有液を、おにぎりなどの食品に好適に使用することができることが示されており、記載事項(4−1)には、「4種の醤油をブレンドした卵ソース」が、おむすびにおいて「ご飯を割った瞬間、とろ〜っと出てくる」ことが示されているものの、上記相違点(2−1)について示したとおり、本件特許発明1の「おにぎりの具材用」という用途が、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載から、当業者が容易に想到し得たものではない以上、甲2発明の粘度を「25℃における粘度1.6〜390Pa.s」にする動機付けを見出すことはできない。

異議申立人は、「甲第3号証には、おにぎりの具材として好適に用いることができる加工卵黄含有液の発明が記載されており、ご飯への染み込みやすさ等の観点から、粘度が10〜150Pa・sであること好ましいと記載されている。甲第4号証には、粘性のある卵黄を具材としたおにぎりが市販されていることが記載されている。具体的な粘度の記載はないが、「とろ〜っと出てくる」という記載や、おにぎりの具材として内部の保持されていることを鑑みると、1.6〜390Pa・sである蓋然性が高い。」(特許異議申立書15頁10〜17行)、及び「甲2発明には、卵黄もしくは卵黄含有物をゲル化したものは粘稠なものから固いものまで様々な性状のものとなるので、各種性状に応じて多くの用途が考えられ、新たな食品素材を提供することができると記載されている。」(特許異議申立書15頁18〜21行)と述べて、「甲2発明の卵黄加圧ゲルを甲第3号証及び甲第4号証の記載事項を参酌し、おにぎりの具材として用い、その際の粘度を1.6〜390Pa・sの範囲とすることは、当業者が容易に想到することである。」(特許異議申立書15頁22〜25行)と主張するが、上記相違点(2−1)について示したとおり、本件特許発明1の「おにぎりの具材用」という用途が、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載から、当業者が容易に想到し得たものではない以上、記載事項(3−1)〜記載事項(3−7)を含めた甲3及び記載事項(4−1)を含めた甲4の記載が、甲2発明の粘度を「25℃における粘度1.6〜390Pa.s」にする動機付けとなるものではない。

したがって、相違点(2−2)に係る本件特許発明1の「25℃における粘度1.6〜390Pa.sの加圧ゲルからなる」という発明特定事項は、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載から、当業者が容易に想到し得たものではない。

(ウ)効果についての判断
本件特許発明1は、本件特許明細書等の発明の詳細な説明(特に、段落0012、段落0015、段落0022〜段落0024)に記載されるとおり、生卵の風味が損なわれておらず、卵かけご飯の風味と食感を充分に感じさせるおにぎり具材という効果を奏するものであり、この効果は、甲2、甲3及び甲4の記載並びに技術常識から予想できるものとも顕著でないものともいえないことから、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載からは当業者の予想し得ない顕著な効果を奏するものである。

(エ)小括
以上(ア)〜(ウ)より、本件特許発明1は、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。
また、本件特許発明2〜7は、いずれも本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とし、さらに技術的に限定したものであるので、本件特許発明1が、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2〜7もまた、甲2発明並びに甲3及び甲4の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち申立理由1−1(進歩性欠如)及び申立理由1−2(進歩性欠如)についてのまとめ
以上(1)〜(5)に示したとおり、申立理由1−1(進歩性欠如)及び申立理由1−2(進歩性欠如)はいずれも理由がなく、本件特許発明1〜7に係る特許は、特許法第29条の規定に違反してされたものではない。

3.取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち、申立理由2−1(実施可能要件違反)、申立理由2−2(実施可能要件違反)、申立理由3−1(サポート要件違反)、及び申立理由3−2(サポート要件違反)について
(1)本件特許明細書等の記載
本件特許明細書等の発明の詳細な説明には、以下の記載事項が記載されている。
・記載事項(本−1)
「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
しかし、上記した従来の卵かけごはん風味おにぎりに使用する具材は、卵黄が加熱によって変性し、生卵の黄身の色から白っぽく変色しており、生卵とは少し異なった色や形態になることは避けられなかった。
【0008】
そして、加熱変性した卵には、生卵と少し異なる香りがあり、そのような香りの生じる理由は、蛋白質の加熱変性によってアミノ酸が分解して硫黄臭が生じたためであると考えられた。
【0009】
また、高圧処理技術を利用して、卵類と牛乳等の混合物を加圧して液状卵の粘性を高めたプリン状ゲル食品(特許文献2)は、卵黄だけでなく複数の蛋白質が混ざり合ったものであるから、生卵や生の卵黄を主要成分とする場合には、加圧変性による粘度変化の特性を予想できるものではなかった。
【0010】
例えば、加熱による卵黄の加熱変性温度は、65〜70℃であり、また卵白中のトランスフェリンの加熱変性温度は60〜65℃であり、同じく卵白中の卵白アルブミンの加熱変性温度は75〜78℃であるので、卵白だけをゲル化するためには60〜65℃に加熱すればよいが、例えば4000気圧程度の超高圧下で10分加圧すると、卵黄は加圧変性してゲル化または固化するが、卵白はゲル化または固化しないという加熱変性とは異なる特性が加圧ゲルにはある。
【0011】
このように加熱変性と加圧変性は異なる機序で起こる可能性があり、また生卵や卵黄の加圧によるゲル形成性は、塩分、糖分などの調味料の種類や添加量によっても変化する場合があることから、所要の調味料を卵黄に添加した状態で所要粘度の加圧ゲルを確実に調製可能な条件を予想することは容易なことではなかった。
【0012】
そこで、この発明の課題は、上記した問題点を解決して、生卵の風味が損なわれていない、存在感がある具材を得ることである。なお、この発明において「存在感」とは、具材の食感として好ましく感じられる粘度や風味があることをいう。」

・記載事項(本−2)
「【0014】
加圧変性により所定範囲の粘度に調整されている卵黄加圧ゲルは、米飯、パン、麺類などの主材料が食べやすい適当な形状に成形され、または皿などの容器に盛られもしくは集合した状態にある場合、そのような主材料となる食品の内部に注入されるか、または表面に適当量をかけられた状態で、食品の表面や内部に保持されやすい粘度を有するものであり、特におにぎりのように、多孔質性の隙間を有している米飯等(以下、米以外の穀物が含まれる場合も含めて「米飯等」という。)の食品に対しては、注入作業性及び保持性が適当なものである。
【0015】
特に、このような卵黄加圧ゲルは、米飯等への染み込みが適度に抑制されていて半熟卵状の粘性であり流動性があるので、滑らかな食感があると共におにぎり等への注入作業性が良く、しかもアミノ酸の熱分解によって生じる臭気が無く、非加熱状態と同じように生卵としての風味がある。そのため、卵かけごはんの風味と食感を充分に感じさせるおにぎり具材になる。
より好ましい上記のおにぎり等の具材用卵黄加圧ゲルとしては、卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物からなる。
【0016】
上記したように所定成分で構成されるこの発明のおにぎり等の具材用卵黄加圧ゲルは、調味料の配合量および塩分濃度が調整されたものであり、上述したように加圧変性によっておにぎり等に用いられる具材として、米飯等に対する保持性および食感及びおにぎり等への充填作業性が適当であるように、25℃における粘度1.6〜390Pa・sに粘度調整されており、しかも混ざり合った醤油などの調味料も熱変性することなく存在するから、良質の風味のある卵黄加圧ゲルになる。
【0017】
調味料および塩分濃度が、前記した所定配合量未満では、調味料に特有の風味が不足するので好ましくない。また、調味料または塩分の量が、前記配合量を超える多量では、適度な風味が得られず、加圧加工で粘度を適度に上げることも困難になり、米飯等への染み込みが過剰になって、おにぎり等の具材として好ましくない低粘度のゲルになる。」

・記載事項(本−3)
「【0019】
また、上記した具材用卵黄加圧ゲルは、調味料3〜15質量%を必須成分として調味する場合、卵黄85〜97質量%、塩分濃度が4質量%以下である卵黄組成物を、25℃における粘度が1.6〜390Pa・sになるように、卵黄の熱変性温度の70℃未満で300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工をすることによって効率よく製造することができる。」

・記載事項(本−4)
「【0026】
この発明の実施形態であるおにぎり等に用いる具材用卵黄加圧ゲル、具材用袋状容器入り卵黄加圧ゲルおよびそれを注入したおにぎりについて、以下に説明する。
この発明のおにぎり等に用いる具材用卵黄加圧ゲルは、卵黄を主成分とし、25℃における粘度1.6〜390Pa・sの卵黄加圧ゲルからなり、敢えて調味料を含有せずに加水されたものであっても良いが、例えば卵黄85〜97質量%、調味料3〜15質量%を含有し、塩分濃度4質量%以下であり、かつ25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲルからなるものは、嗜好性を高めた実施形態である。」

・記載事項(本−5)
「【0030】
この発明に用いる調味料は、需要者の嗜好に合わせて使用され、食品に適用できる周知の調味料であれば、特に限定されるものではないが、例えば醤油、白だし、味噌、砂糖及び食塩から選ばれる1種以上の調味料は、卵黄加圧ゲルをおにぎり具材に適した風味を有したものである。
【0031】
このような調味料は、具材用卵黄加圧ゲル中に3〜15質量%配合されていることが好ましい。卵黄の加圧変性の特性を大きく変化させずに、しかも充分に調味できる濃度範囲に配合できるからである。調味料のより好ましい配合割合としては、5〜10質量%である。
【0032】
この発明に用いる調味料のうち、醤油は、大豆の他、小麦などの穀物と塩を原料とし、発酵過程を経て得られる液体調味料であり、醤油の種類別に、濃口(こいくち)、薄口(うすくち)、たまり、再仕込み(さいしこみ)、白(しろ)のいずれでも使用できる。ちなみに、JAS規格からも周知な醤油は、アミノ酸量の指標となる窒素分が、0.4〜3.0質量%、無塩可用性固形分(エキス)14〜31室質量%、食塩分12〜19質量%が含まれている。
【0033】
醤油の成分とその配合割合から換算すると、醤油3〜15質量%を必須成分とする具材用卵黄加圧ゲルには、少なくとも食塩が0.36〜2.9質量%含まれており、さらに食塩分を加減調整して、具材用卵黄加圧ゲル中の塩分濃度を4質量%以下、好ましくは0.36〜4質量%に調整する。このような塩分濃度は、0.6〜1.0質量%に調整すれば、低塩分で健康的であり、また好ましい食味も得られるので、より好ましい。
【0034】
このような調整を積極的にしなくても所定塩分濃度の醤油を使用すれば良い場合もあるが、さらに他の調味料を添加する場合には、塩分濃度が増加することになり、具材用卵黄加圧ゲル中の食塩分が総量として4質量%を超えることは適切ではない。なぜなら、4質量%を超える過量の塩分濃度では、後述する比較例の結果からも明らかなように、300〜550MPaで1〜10分間の超高圧加工で粘度を上昇させることが困難になり、25℃における粘度1.6〜390Pa・sの粘度に調整できないからである。」

・記載事項(本−6)
「【0040】
上記のように組成される具材用卵黄加圧ゲルは、上記所定の粘度の加圧ゲルとするために、300〜550MPaで1〜10分間の超高圧加工をすることが製造効率が良く適切である。また、上記所定粘度の加圧ゲルが、品質および食感により優れたものに加工できるより好ましい条件は、350〜450MPaで1〜10分間の超高圧加工である。」

・記載事項(本−7)
「【0042】
後述する実施例および比較例の結果からも明らかなように、超高圧加工の条件が、300MPaという所定範囲未満の低圧では、10分加圧しても粘度が充分に上がらず、ごはんの粒同士の隙間から流れ出し、卵黄の具材としての存在感が希薄となる。また、おにぎりの中心付近へ限定的に充填する(良い品質の)おにぎりを製造するための作業が困難になり、また手で持って食べるときのおにぎりの保形性(強度)が得られなくなるからである。
【0043】
また、超高圧加工の条件が、550MPaを超える高圧では、1分またはそれ以下の短時間で加圧しても粘度が上がり過ぎて、充填作業が容易でなく、また、おにぎりの内部に小さいかたまりとなって保持されてしまい、生卵の風味が得られない。」

・記載事項(本−8)
「【実施例】
【0050】
[実施例1〜18、比較例1〜14]
プロペラ式の攪拌機付きの混合容器内に、液状卵黄90質量%、白醤油(100g当たり食塩相当量14.8g)10質量%を配合し、充分に攪拌して塩分濃度1.48質量%の液状卵黄組成物を調製した。
【0051】
この液状卵黄組成物を、前記したように図1に示した三角形状チューブ3に充填し封した。これを品温5℃にて、以下に仕様(1)、(2)を示す高圧処理装置を用いて、表1に示す加工圧力である所定静水圧(MPa)および所定圧力での加工(維持)時間の条件で超高圧加工処理を行ない、実施例1〜18、比較例1〜14の卵黄加圧ゲルを得た。」

・記載事項(本−9)
「【0054】
そして、これらを−20℃に急速冷凍したものを3日間保持し、その後、常温解凍したものを開封し、実施例1、5、10、18については、単一円筒形回転粘度計(東機産業社製:RB型粘度計)を用いてローターM3(6.35mm)、回転数12rpmで25℃での粘度を測定し、その結果を表1中に併記した。
【0055】
次に、実施例1〜18、比較例1〜14の卵黄加圧ゲルを三角形状チューブの鋭角部の先端開口から適量の卵黄加圧ゲルを絞り出しながら、図1、2に示したおにぎり(各90g)の内部へ10gずつ充填し、卵かけごはん風味おにぎりを製造した。
【0056】
得られたおにぎりの実施例1〜18、比較例1〜14に対し、25℃の室内で2時間静置した後、以下の基準で品質および食感について評価し、品質については、その結果を表中に記号(○、×)で二段階に評価し、食感については、その結果を表中に記号(○、△、×)で三段階に評価した。
【0057】
[品質評価基準]
○:おにぎり中心部へ注入された卵黄加圧ゲルが適度に広がるが、表面にまでは至らない。
×:おにぎり中心部へ注入された卵黄加圧ゲルが硬くて全く広がらないか、または柔らか過ぎて表面近くにまで染み出す。
【0058】
[食感評価基準]
○:半熟卵のようにとろりとした流動性のある食感であり、生卵の風味が強く感じられる。
△:低圧加工では半熟卵としては少し柔らかすぎる食感であり、生卵の風味がやや感じにくい。また、高圧加工では半熟卵としては少し硬目の食感であり、生卵の風味がやや感じにくい。
×:低圧加工では低粘度でごはんに染み込んでしまい流動性のある食感がない、また高圧加工では高粘度で硬すぎて固形物が含まれるような食感である。
【0059】
【表1】

【0060】
表1の結果からも明らかなように、加圧ゲルとして1.6Pa・s未満の粘度であり、300MPa以下の低圧で5分以下で加圧された比較例1〜6および比較例7(図2(a)参照)の卵黄加圧ゲル2aは、おにぎり1の中心部へ注入された卵黄加圧ゲル2aが柔らかくておにぎり1の表面近くにまで染み出す状態で品質は不良であり、また食感は低粘度であって、卵黄加圧ゲル2aは、ごはんに短時間で染み込んでしまい流動性ある食感が得られなかった。
【0061】
また、390Pa・sを超える粘度になるように、550MPa以上の高圧で5分以上加圧された比較例8、比較例9(図2(c)参照)および比較例10〜14の卵黄加圧ゲルは、おにぎり1の中心部へ注入された卵黄加圧ゲル2cが硬くて全く広がらない品質であり、または高粘度で硬すぎて固形物が含まれるような食感であった。
【0062】
これに対して、加圧ゲルとして1.6Pa・s以上で7.1Pa・s未満の粘度であるように、300MPaで10分又は350MPaで1〜5分加圧された実施例1〜4の卵黄加圧ゲルは、おにぎりの中心部へ注入された卵黄加圧ゲルが表面近くまで広がっているが、表面にまでは至らず品質は良好であるが、半熟卵としては低粘度過ぎて、注入物が分散し、卵黄の具材としての存在感が希薄であった。
【0063】
また320Pa・sを超える粘度になるように、450MPa以上の高圧で3分以上で加圧された実施例11〜18の卵黄加圧ゲルは、おにぎりの中心部へ注入された卵黄加圧ゲルが適度に広がっていて品質は良好であるが、半熟卵としては若干硬いが、まずまず満足できる食感になった。
【0064】
特に、7.1〜320Pa・sの粘度であり、350〜450MPaで10〜1分加圧された実施例5〜9および実施例10(図2(b)参照)の卵黄加圧ゲル2bは、おにぎり1の中心部へ注入された卵黄加圧ゲル2bが適度に広がり、表面近くにまでは至らないという良い品質のものであり、また半熟卵のようにとろりとした流動性があり極めて好ましい食感があった。」

・記載事項(本−10)
「【0065】
[実施例19〜23、比較例15]
次に、実施例9において、表2に示すように白醤油に代えて他の調味料を使用するか、または全く使用しない条件で液状卵黄組成物を調製し、実施例9と同様に品温5℃にて400MPaで維持時間10分(昇圧時間は2.5分)の条件で超高圧加工処理を行ない、実施例9〜23、比較例15の卵黄加圧ゲルを得た。
【0066】
得られた卵黄加圧ゲルの粘度を、実施例9と同程度の100〜300Pa・sである場合を粘度良好(表中に○)と評価し、1.6Pa・s未満の低粘度である場合を粘度不良(表中に×)と評価した。
【0067】
【表2】

【0068】
表2の結果からも明らかなように、醤油ばかりでなく、砂糖、味噌などの調味料の添加により、またはそのような調味料を添加しないで加水し、400MPaで10分の加圧処理をした実施例9〜23の卵黄加圧ゲルは、適正粘度に調整されていた。また、調味料として食塩を5%添加した比較例15の卵黄加圧ゲルは、1.6Pa・s未満の低粘度であり、所期した粘度に増粘する調整ができなかった。」

(2)申立理由2−1(実施可能要件違反)についての判断
記載事項(本−3)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明4〜7に係る「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」である卵黄加圧ゲルについての記載があり、記載事項(本−3)、記載事項(本−5)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明4、本件特許発明5を得るための条件、本件特許発明6を行うための条件、及び本件特許発明7の卵かけご飯風味おにぎりを得るための条件が記載され、特に、記載事項(本−8)〜記載事項(本−10)には「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物から「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の範囲にある加圧ゲルを得るための条件が具体的に示されていることから、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明4〜7を実施することができると認められる。

異議申立人は、「本件特許発明4及び6には、塩分濃度が4質量%以下であることが記載されているが、本願発明の詳細な説明において実証しているのは、塩分濃度が1.49%以下の場合のみである(段落0067)。本願段落0034にも記載されている通り、塩分濃度が高くなると、加圧により粘度を上昇させることがより困難になるものであることを考えると、塩分濃度が4質量%以下のすべての濃度において、300〜550MPa、1〜10分の加圧条件で所望の粘度の加圧卵黄ゲルが得られるとは到底認められない。さらに、本件特許発明4及び6には、卵黄85〜97質量%と記載されているが、本願発明の詳細な説明において実証しているのは、卵黄90質量%以上である(段落0059、0067)。加圧変性する卵黄量が少なくなると、加圧により粘度を上昇させることがより困難になり、卵黄90質量%未満の濃度でも所望の粘度の加圧卵黄ゲルが得られるとの技術常識もない。」(特許異議申立書19頁25行〜20頁11行)及び「塩分濃度が1.49%を超える場合に、あるいは卵黄90質量%未満の場合に、どのような加圧条件(温度、圧力、時間等)を例えば所望の粘度を有する加圧卵黄ゲルが得られるかは、発明の詳細な説明には一切記載されておらず、当業者に期待し得る程度を超える施行錯誤を要求するものである。」(特許異議申立書20頁15行〜20頁19行)と述べて、「本件特許発明4及び6、並びに従属する本件特許発明5及び7は、当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではない。」(特許異議申立書20頁20〜22行)と主張する。
しかし、たとえ、発明の詳細な説明に、「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物のうち、塩分濃度が1.49%を超える組成物や卵黄の割合が90質量%未満である組成物から「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」を得るための条件が具体的に示されていないとしても、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて本件特許発明4〜7を実施することができない根拠とはならず、異議申立人の当該主張は受け入れられない。
したがって、申立理由2−1は理由がない。

(3)申立理由2−2(実施可能要件違反)についての判断
記載事項(本−3)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明4〜7に係る「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」である卵黄加圧ゲルについての記載があり、記載事項(本−3)、記載事項(本−5)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明6を行うための条件が記載され、特に、記載事項(本−8)〜記載事項(本−10)には「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物から「70℃未満で300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工」の範囲にある超高圧加工により「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の範囲にある加圧ゲルを得るための条件が具体的に示されていることから、当業者は、発明の詳細な説明の記載に基づいて、本件特許発明6を実施することができると認められる。

異議申立人は「本件特許発明6には、加圧時の温度が「70℃未満」であることが記載されているが、本願発明の詳細な説明において記載されているのは、加圧時の温度が5℃の場合のみである。甲1発明に記載のとおり、加圧処理時の温度は粘度に大きく影響するものであることを考えると、マイナス温度も含めた70℃未満のすべての温度において、300〜550MPa、1〜10分の加圧条件で所望の粘度の加圧卵黄ゲルが得られるとは到底認められない。」(特許異議申立書20頁24行〜21頁2行)、及び「加圧処理時の温度が5℃を超える場合に、どのような加圧条件であれば、所望の粘度を有する加圧卵黄ゲルが得られるかは、当業者に期待し得る程度を超える施行錯誤を要求するものである。」(特許異議申立書21頁5〜7行)と述べて、「本件特許発明6は、当業者が実施することができる程度に 明確かつ十分に記載されたものではない。」(21頁5〜8行)と主張する。
しかし、たとえ、発明の詳細な説明に、「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物のうち、塩分濃度が1.49%を超える組成物や卵黄の割合が90質量%未満である組成物から、5℃を超える温度において「300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工」の範囲にある超高圧加工により「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」を得るための条件が具体的に示されていないとしても、当業者が、発明の詳細な説明の記載に基づいて本件特許発明6を実施することができない根拠とはならず、異議申立人の当該主張は受け入れられない。
したがって、申立理由2−2は理由がない。

(4)申立理由3−1(サポート要件違反)についての判断
本件特許発明4〜7の課題は、請求項4〜7の記載及び記載事項(本−1)から、生卵の風味が損なわれていない、存在感がある、おにぎりの具材用卵黄加圧ゲル、おにぎりの具材用袋状容器入り卵黄加圧ゲル、おにぎりの具材用卵黄加圧ゲルの製造方法、又はおにぎりの具材用卵黄加圧ゲルを米飯の加圧成形体であるおにぎりの内部に具材として保持する卵かけごはん風味おにぎりを提供することであると認める。
記載事項(本−3)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明4〜7に係る「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」である卵黄加圧ゲルについての記載があり、記載事項(本−3)、記載事項(本−5)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明4、本件特許発明5を得るための条件、本件特許発明6を行うための条件、及び本件特許発明7の卵かけご飯風味おにぎりを得るための条件が記載され、特に、記載事項(本−8)〜記載事項(本−10)には「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物から「70℃未満で300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工」の範囲にある超高圧加工により「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の範囲にある加圧ゲルを得るための条件が具体的に示されるとともに、記載事項(本−9)には、得られた「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の範囲にある加圧ゲルの風味・食感が好ましいものであることが示されていることから、当業者は、発明の詳細な説明の記載により、又は技術常識に照らして、本件特許発明4〜7がその課題を解決できるものであると認識する。

異議申立人は、「本件特許発明4及び6には、塩分濃度が4質量%以下であることが記載されているが、本願発明の詳細な説明において実証しているのは、塩分濃度が1.49%以下の場合のみである(段落0067)。本願段落0034にも記載されている通り、塩分濃度が高くなると、加圧により粘度を上昇させることがより困難になるものであることを考えると、塩分濃度が4質量%以下のすべての濃度において、300〜550MPa、1〜10分の加圧条件で所望の粘度の加圧卵黄ゲルが得られるとは到底認められない。さらに、本件特許発明4及び6には、卵黄85〜97質量%と記載されているが、本願発明の詳細な説明において実証しているのは、卵黄90質量%以上である(段落0059、0067)。加圧変性する卵黄量が少なくなると、加圧により粘度を上昇させることがより困難になり、卵黄90質量%未満の濃度でも所望の粘度の加圧卵黄ゲルが得られるとの技術常識もない。」(特許異議申立書19頁25行〜20頁11行)と述べて、「本件特許発明4及び6、並びに従属する本件特許発明5及び7は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものである。」(特許異議申立書20頁12〜14行)と主張する。
しかし、たとえ、発明の詳細な説明に、「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物のうち、塩分濃度が1.49%を超える組成物や卵黄の割合が90質量%未満である組成物から「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」を得るための条件が具体的に示されておらず、「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物のうち、塩分濃度が1.49%を超える組成物や卵黄の割合が90質量%未満である組成物から得られた「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の風味・食感の評価結果が示されていないとしても、当業者は、発明の詳細な説明の記載によっても、技術常識に照らしても、本件特許発明4〜7がその課題を解決できるものであると認識できないことの根拠とはならず、異議申立人の当該主張は受け入れられない。
したがって、申立理由3−1は理由がない。

(5)申立理由3−2(サポート要件違反)についての判断
本件特許発明6の課題は、請求項6の記載及び記載事項(本−1)から、生卵の風味が損なわれていない、存在感がある、おにぎりの具材用卵黄加圧ゲルの製造方法を提供することであると認める。
記載事項(本−3)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明4〜7に係る「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」である卵黄加圧ゲルについての記載があり、記載事項(本−3)、記載事項(本−5)〜記載事項(本−10)には、本件特許発明6を行うための条件が記載され、特に、記載事項(本−8)〜記載事項(本−10)には「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物から「70℃未満で300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工」の範囲にある超高圧加工により「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の範囲にある加圧ゲルを得るための条件が具体的に示されるとともに、記載事項(本−9)には、得られた「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の範囲にある加圧ゲルの風味・食感が好ましいものであることが示されていることから、当業者は、発明の詳細な説明の記載により、又は技術常識に照らして、本件特許発明6がその課題を解決できるものであると認識する。

異議申立人は「本件特許発明6には、加圧時の温度が「70℃未満」であることが記載されているが、本願発明の詳細な説明において記載されているのは、加圧時の温度が5℃の場合のみである。甲1発明に記載のとおり、加圧処理時の温度は粘度に大きく影響するものであることを考えると、マイナス温度も含めた70℃未満のすべての温度において、300〜550MPa、1〜10分の加圧条件で所望の粘度の加圧卵黄ゲルが得られるとは到底認められない。」(特許異議申立書20頁24行〜21頁2行)と述べて、「本件特許発明6は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えて特許を請求するものである。」(特許異議申立書21頁3〜4行)と主張する。

しかし、たとえ、発明の詳細な説明に、「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物のうち、塩分濃度が1.49%を超える組成物や卵黄の割合が90質量%未満である組成物から、5℃を超える温度において「300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工」の範囲にある超高圧加工により「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」を得るための条件が具体的に示されておらず、「卵黄85〜97質量%を主成分とし、調味料3〜15質量%を含有し、かつ塩分濃度が4質量%以下の組成物」の範囲にある組成物から、5℃を超える温度において「300〜550MPaでの1〜10分間の超高圧加工」の範囲にある超高圧加工により得られた「25℃における粘度1.6〜390Pa・sの加圧ゲル」の風味・食感の評価結果が示されていないとしても、当業者は、発明の詳細な説明の記載によっても、技術常識に照らしても、本件特許発明6がその課題を解決できるものであると認識できないことの根拠とはならず、異議申立人の当該主張は受け入れられない。
したがって、申立理由3−2は理由がない。

(6)取消理由に採用しなかった特許異議申立理由のうち、申立理由2−1(実施可能要件違反)、申立理由2−2(実施可能要件違反)、申立理由3−1(サポート要件違反)、及び申立理由3−2(サポート要件違反)についてのまとめ
以上(1)〜(5)に示したとおり、申立理由2−1(実施可能要件違反)、申立理由2−2(実施可能要件違反)、申立理由3−1(サポート要件違反)、及び申立理由3−2(サポート要件違反)はいずれも理由がなく、本件特許発明4〜7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではなく、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものでもない。

第5 むすび
上記第4のとおり、本件特許の請求項1〜5及び7に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。
また、本件特許の請求項6に係る特許は、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、取消すことはできない。
さらに、他に本件特許の請求項6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
別掲 (行政事件訴訟法第46条に基づく教示) この決定に対する訴えは、この決定の謄本の送達があった日から30日(附加期間がある場合は、その日数を附加します。)以内に、特許庁長官を被告として、提起することができます。
 
異議決定日 2022-01-31 
出願番号 P2016-172908
審決分類 P 1 651・ 121- ZC (A23L)
P 1 651・ 537- ZC (A23L)
P 1 651・ 536- ZC (A23L)
最終処分 08   一部取消
特許庁審判長 大熊 幸治
特許庁審判官 村上 騎見高
齊藤 真由美
登録日 2020-11-27 
登録番号 6800662
権利者 マリンフーズ株式会社
発明の名称 具材用卵黄加圧ゲル  
代理人 中谷 弥一郎  
代理人 鎌田 文二  
代理人 鎌田 直也  

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