ポートフォリオを新規に作成して保存 |
|
|
既存のポートフォリオに追加保存 |
|
PDFをダウンロード |
審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C02F 審判 全部申し立て 2項進歩性 C02F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C02F 審判 全部申し立て ただし書き1号特許請求の範囲の減縮 C02F 審判 全部申し立て ただし書き3号明りょうでない記載の釈明 C02F 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C02F |
---|---|
管理番号 | 1384140 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-06-28 |
確定日 | 2022-03-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6807219号発明「逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6807219号の明細書、特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書、特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕、〔5〜8〕について訂正することを認める。 特許第6807219号の請求項1、5に係る特許を維持する。 特許第6807219号の請求項2〜4、6〜8に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6807219号に係る出願は、平成28年11月18日を出願日とする出願であって、令和2年12月9日にその請求項1〜8に係る発明について特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年6月28日に特許異議申立人井上幸三(以下、「申立人」という。)により甲第1〜13号証及び参考資料1を証拠方法として特許異議の申立てがされ、同年10月5日付で当審より取消理由が通知され、その指定期間内である同年12月6日に特許権者より意見書の提出及び訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がされ、令和4年1月11日に申立人より甲第14号証を添付して意見書(以下、「申立人意見書」という。)が提出されたものである。 第2 本件訂正請求による訂正の適否 1 訂正の内容 本件訂正請求による訂正(以下、「本件訂正」という。)は、以下の訂正事項1〜16からなるものである(当審注:下線は訂正箇所であり、当審が付与した。)。 (1)訂正事項1 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1に、 「被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、 を備え、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理システム。」 と記載されているのを、 「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、 を備え、 前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理システム。」 に訂正する。 (2)訂正事項2 特許請求の範囲の請求項2を削除する。 (3)訂正事項3 特許請求の範囲の請求項3を削除する。 (4)訂正事項4 特許請求の範囲の請求項4を削除する。 (5)訂正事項5 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項5に、 「被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、 を含み、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理方法。」 と記載されているのを、 「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、 を含み、 前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理方法。」 に訂正する。 (6)訂正事項6 特許請求の範囲の請求項6を削除する。 (7)訂正事項7 特許請求の範囲の請求項7を削除する。 (8)訂正事項8 特許請求の範囲の請求項8を削除する。 (9)訂正事項9 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0008】に、 「本発明は、被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、を備え、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理システムである。」 と記載されているのを、 「本発明は、分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、を備え、前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理システムである。」 に訂正する。 (10)訂正事項10 本件特許明細書の段落【0009】を削除する。 (11)訂正事項11 本件特許明細書の段落【0010】を削除する。 (12)訂正事項12 本件特許明細書の段落【0011】を削除する。 (13)訂正事項13 本件訂正前の本件特許明細書の段落【0012】に、 「また、本発明は、被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、を含み、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理方法である。」 と記載されているのを、 「また、本発明は、分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、を含み、前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理方法である。」 に訂正する。 (14)訂正事項14 本件特許明細書の段落【0013】を削除する。 (15)訂正事項15 本件特許明細書の段落【0014】を削除する。 (16)訂正事項16 本件特許明細書の段落【0015】を削除する。 (17)一群の請求項について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項2〜4は、請求項1を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項1〜4は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項であり、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項6〜8は、請求項5を直接的又は間接的に引用するものであるから、本件訂正前の請求項5〜8は特許法第120条の5第4項に規定される一群の請求項である。 訂正事項9〜16に係る訂正は、願書に添付した明細書を訂正するものであるが、いずれも一群の請求項である本件訂正前の請求項1〜4、5〜8に対応する訂正後の請求項1〜4、5〜8に関係する訂正である。 そして、本件訂正は、本件特許明細書の訂正に係る請求項を含む一群の請求項の全てについて行われるものである。 2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1及び5について 訂正事項1及び5に係る訂正のうち、「被処理水」を「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」とする訂正は、本件特許明細書の段落【0011】、【0065】の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び5の「被処理水」を、「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」に限定するものである。 また、訂正事項1及び5に係る訂正のうち、「前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、」との記載を追加する訂正は、本件特許明細書の段落【0010】、【0035】の記載に基づいて、本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び5の「第2逆浸透膜」を、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜」に限定するものである。 したがって、訂正事項1及び5による訂正は、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であり、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 そして、この訂正は、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものには該当しない。 (2)訂正事項2〜4及び6〜8について 訂正事項2〜4及び6〜8に係る訂正は、いずれも、請求項を削除するものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、当該訂正が願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであって、新規事項の追加に該当せず、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。 (3)訂正事項9及び13について 訂正事項9及び13に係る訂正は、いずれも、前記訂正事項1及び5に係る訂正に伴い、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び5の記載と本件訂正前の本件特許明細書の段落【0008】及び【0012】の記載とが不整合となっていたところ、これらを整合させて記載を明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、前記(1)に記載したのと同様の理由により、訂正事項9及び13に係る訂正は、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもない。 (4)訂正事項10〜12及び14〜16について 訂正事項10〜12及び14〜16に係る訂正は、いずれも、前記訂正事項2〜4及び6〜8に係る訂正により特許請求の範囲の請求項2〜4及び6〜8が削除されたのに伴い、これら請求項2〜4及び6〜8に対応する本件特許明細書の段落【0009】〜【0011】及び【0013】〜【0015】を削除することで記載を整合させて明瞭にするものであるから、特許法第120条の5第2項ただし書第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものである。 そして、訂正事項10〜12及び14〜16に係る訂正が、願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された事項の範囲内においてなされたものであって、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものでもないことは明らかである。 なお、本件訂正請求においては、全ての請求項に対して特許異議の申立てがされているので、特許法第120条の5第9項において読み替えて準用する同法第126条第7項の規定は適用されない。 3 小括 以上のとおりであるので、本件訂正は、特許法120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮及び第3号に掲げる明瞭でない記載の釈明を目的とするものであり、かつ、特許法120条の5第9項において準用する同法126条第5項及び第6項の規定に適合するものである。 したがって、訂正後の請求項1〜4、5〜8について訂正することを認める。 第3 本件発明 本件訂正が認められることは前記第2に記載のとおりであるので、本件特許の請求項1及び5に係る発明(以下、「本件発明1」、「本件発明5」といい、まとめて「本件発明」ということがある。)は、本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1及び5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。 「【請求項1】 分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、 を備え、 前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理システム。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、 を含み、 前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除)」 第4 特許異議申立理由の概要 1 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について (1)甲第1号証を主引用例とする場合について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 (2)甲第2号証を主引用例とする場合について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明は、甲第2号証に記載された発明であるか、甲第2号証に記載された発明、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1及び5では透過流束によって第1逆浸透膜及び第2逆浸透膜を区別しているが、RO膜の透過流束と阻止率には相関性がないから、透過流束により逆浸透膜を区別しても、阻止率が高くない膜である可能性がある。 すなわち、甲第3号証の259頁の表1の最上欄には、RO膜の要求条件として、「高い水透過率」とともに「高い選択性および阻止率」が要求されることが示されているが、透過流束と阻止率には相関性がないから、透過流束のみで膜を限定しても、阻止率が高くない膜が含まれる可能性がある。 そして、甲第3号証の260頁の図4によれば、透過流束が高い膜でも阻止率が低い膜があり、例えば図4の「SW−30」の透過流束と同等の透過流束の「NTR−7199」、「SC−3200」は、「SW−30」よりも低い阻止率であるから、「SW−30」と同等の処理結果を得られないことは明らかであり、このような膜を用いると、阻止率が高い膜と同等の処理結果を得ることができないので、十分な水質向上効果が得られる逆浸透膜処理システム及び逆浸透処理方法を提供するという課題を解決できないこととなるから、本件訂正前の請求項1〜8に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。 3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 本件特許明細書には、前記2に示された場合において不備と指摘された点に対する解決手段が示されていないから、本件訂正前の特許明細書の発明の詳細な説明の記載は、当業者が発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されていない。 4 証拠方法 甲第1号証:特開2015−73923号公報 甲第2号証:特開2015−20131号公報 甲第3号証:半導体基盤技術研究会編,「Surface Science Technology 1 超純水の科学」,平成2年9月11日,株式会社リアライズ社,目次p.1〜5,p.138〜142,255〜266 甲第4号証:特開2006−159124号公報 甲第5号証:特開2016−155074号公報 甲第6号証:特開平10−180243号公報 甲第7号証:特開2008−86966号公報 甲第8−1号証:ROMEMBRA TORAY REVERSE OSMOSIS ELEMENTS,2000年3月,東レ株式会社,TSU-272,1/2〜2/2 甲第8−2号証:ROMEMBRA TORAY REVERSE OSMOSIS ELEMENTS,2004年6月,東レ株式会社,SU-720,1/2〜2/2 甲第9号証:中垣正幸監修,「普及版膜処理技術」,1998年12月19日,株式会社フジ・テクノシステム,p.468〜478 甲第10号証:大矢晴彦ら監修,「食品膜技術 −膜技術利用の手引き−」,平成11年9月30日,株式会社光琳,p.103〜118 甲第11号証:仲川勤編,「分離機能膜の開発と応用」,普及版第1刷,2001年3月25日,株式会社シーエムシー,目次p.I〜II,p.101〜113 甲第12号証:和田洋六ら,「2段RO膜分離とUVオゾン酸化法による表面処理排水のリサイクル」,化学工学論文集,2011年11月20日,第37巻 第6号,公益社団法人化学工学会,p.563〜569 甲第13号証:特開2012−245439号公報 参考資料1:FILMTECTM Membranes FILMTEC SW30-8040 Seawater Reverse Osmosis Element,LENNTECH,p.1-2 甲第14号証:特開2006−263510号公報 第5 取消理由の概要 1 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について 本件訂正前の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、甲第1号証に記載された発明及び甲第5号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである。 第6 特許異議申立理由及び取消理由についての当審の判断 事案に鑑み、前記第4の特許異議申立理由及び第5の取消理由についてまとめて検討する。 1 特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)について (1)甲各号証の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明 (ア)甲第1号証には、以下の(1a)〜(1e)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。 (1a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 尿素濃度10〜100μg/Lの被処理水を2.0〜4.0MPaに加圧する加圧工程と、 加圧された被処理水を逆浸透膜により処理する第1の逆浸透膜処理工程と を備えることを特徴とする超純水製造方法。 ・・・ 【請求項6】 尿素濃度10〜100μg/Lの被処理水を2.0〜4.0MPaに加圧するポンプと、 加圧された被処理水を逆浸透膜により処理する第1の逆浸透膜装置と を備えることを特徴とする超純水製造システム。」 (1b)「【0004】 近年、半導体製造工程で使用される超純水については、更なる高純度化の要求が厳しくなっており、例えば比抵抗率18MΩ・cm以上、全有機炭素(TOC)濃度1μgC/L以下が求められてきている。 【0005】 ところで、近年、超純水のTOC濃度の更なる低減について多くの試みがなされている中、従来の超純水製造システムでは原水中に含まれる尿素の除去率が十分でなく、処理水に残留する尿素がTOC濃度の低減を阻んでいることが判明してきた。そのため、尿素を効率よく高除去率で除去することが求められており、このような要求に対して、前処理システムに生物処理手段を含む超純水製造システムが提案されている(例えば、特許文献1参照)。また、被処理水に次亜臭素酸を添加する方法が提案されている。(例えば、特許文献2参照) 【0006】 しかしながら、生物処理手段を使用する純水製造システムでは、尿素の高除去率を安定的に得ることができないという課題があった。また、次亜臭素酸を添加する方法では、反応性の高い薬品を使用するため、薬品の貯留や添加のための装置が必要であることや残留した薬品を処理することが必要であり、装置構成や操作が煩雑になる等の課題があった。このように、従来の方法では、尿素の高除去率かつ効率的な除去が未だ十分に行われていないという課題があった。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0008】 本発明は上記した課題を解決するためになされたものであって、薬品を使用することなく逆浸透膜装置における尿素の除去率を向上させ、TOC濃度の極めて低い超純水を製造することのできる超純水製造方法及び超純水製造システムを提供することを目的とする。」 (1c)「【0033】 このように、本実施形態の一次純水システム20では、先ず、活性炭装置21及び補助逆浸透膜装置23が前処理水から尿素濃度10〜100μg/Lの被処理水を生成し、ポンプ24が逆浸透膜装置25への被処理水の供給圧を2.0〜4.0MPaに高めた状態で逆浸透膜装置25が被処理水を逆浸透膜処理するため、尿素を高除去率で除去することができる。そして、その下流側の紫外線酸化装置26と混床式イオン交換装置27の組合せが、逆浸透膜装置25の透過水中の微量の有機物を分解、吸着除去するので、より高純度の一次純水を製造することができる。また、逆浸透膜装置25が尿素を高除去率で除去するため、尿素を分解するための酸化剤が不要であり、したがって、酸化剤を使用した場合に残留した酸化剤を還元するための還元剤を省略できる。また、尿素分解のために被処理水に酸化剤や還元剤を添加するための装置も不要である。」 (1d)「【0061】 (実施例3) 図1に示す超純水製造システム1において、活性炭装置21に、尿素濃度100μg/Lの被処理水を供給した場合の、活性炭装置21、補助逆浸透膜装置23、逆浸透膜装置25、混床式イオン交換装置27及びポリッシャー33の処理水中の尿素濃度表1に示す。なお、本実施例におけるポリッシャー33の処理水の尿素濃度(0.8μg/L)は、TOC濃度で0.16μgC/Lに相当する。 【0062】 本実施例における、各装置の仕様及び通水条件は次のようである。 原水:市水 活性炭装置(AC)21:活性炭F400(三菱化学カルゴン社製)を充填したもの、空間速度(SV)10hr−1 補助逆浸透膜装置(Sub−RO)23:逆浸透膜モジュールSU720(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧1.5MPa、水回収率75% 逆浸透膜装置(RO)25:逆浸透膜モジュールSW30(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧2.0MPa、水回収率85% 紫外線酸化装置(TOC−UV)26,32:AUV−8000TOC(日本フォトサイエンス(株)社製)、紫外線照射量0.3kW・h/m3 混床式イオン交換装置(MB)27:陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1 ポリッシャー(Polisher)33:陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1」 (1e)「【図1】 」 (イ)前記(ア)(1a)によれば、甲第1号証には、尿素濃度10〜100μg/Lの被処理水を2.0〜4.0MPaに加圧するポンプと、加圧された被処理水を逆浸透膜により処理する第1の逆浸透膜装置とを備える「超純水製造システム」、及び、尿素濃度10〜100μg/Lの被処理水を2.0〜4.0MPaに加圧する加圧工程と、加圧された被処理水を逆浸透膜により処理する第1の逆浸透膜処理工程とを備える「超純水製造方法」が記載されている。 すなわち、前記(ア)(1d)〜(1e)によれば、前記「超純水製造システム」及び「超純水製造方法」は、尿素濃度100μg/Lの被処理水を供給して、活性炭装置、補助逆浸透膜装置、逆浸透膜装置、混床式イオン交換装置及びポリッシャーにより処理するものであり、各装置の仕様及び通水条件は次のようであるものである。 原水:市水 活性炭装置(AC):活性炭F400(三菱化学カルゴン社製)を充填したもの、空間速度(SV)10hr−1 補助逆浸透膜装置(Sub−RO):逆浸透膜モジュールSU720(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧1.5MPa、水回収率75% 逆浸透膜装置(RO):逆浸透膜モジュールSW30(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧2.0MPa、水回収率85% 紫外線酸化装置(TOC−UV):AUV−8000TOC(日本フォトサイエンス(株)社製)、紫外線照射量0.3kW・h/m3 混床式イオン交換装置(MB):陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1 ポリッシャー(Polisher):陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1 (ウ)前記(イ)によれば、甲第1号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「尿素濃度10〜100μg/Lの被処理水を2.0〜4.0MPaに加圧するポンプと、加圧された被処理水を逆浸透膜により処理する第1の逆浸透膜装置とを備える超純水製造システムであって、 前記超純水製造システムは、尿素濃度100μg/Lの被処理水を供給して、活性炭装置、補助逆浸透膜装置、逆浸透膜装置、混床式イオン交換装置及びポリッシャーにより処理するものであり、各装置の仕様及び通水条件は次のようである、超純水製造システム。 原水:市水 活性炭装置(AC):活性炭F400(三菱化学カルゴン社製)を充填したもの、空間速度(SV)10hr−1 補助逆浸透膜装置(Sub−RO):逆浸透膜モジュールSU720(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧1.5MPa、水回収率75% 逆浸透膜装置(RO):逆浸透膜モジュールSW30(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧2.0MPa、水回収率85% 紫外線酸化装置(TOC−UV):AUV−8000TOC(日本フォトサイエンス(株)社製)、紫外線照射量0.3kW・h/m3 混床式イオン交換装置(MB):陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1 ポリッシャー(Polisher):陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1」(以下、「甲1発明1」という。) 「尿素濃度10〜100μg/Lの被処理水を2.0〜4.0MPaに加圧する加圧工程と、加圧された被処理水を逆浸透膜により処理する第1の逆浸透膜処理工程とを備える超純水製造方法であって、 前記超純水製造方法は、尿素濃度100μg/Lの被処理水を供給して、活性炭装置、補助逆浸透膜装置、逆浸透膜装置、混床式イオン交換装置及びポリッシャーにより処理するものであり、各装置の仕様及び通水条件は次のようである、超純水製造方法。 原水:市水 活性炭装置(AC):活性炭F400(三菱化学カルゴン社製)を充填したもの、空間速度(SV)10hr−1 補助逆浸透膜装置(Sub−RO):逆浸透膜モジュールSU720(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧1.5MPa、水回収率75% 逆浸透膜装置(RO):逆浸透膜モジュールSW30(ダウ・フィルムテック社製)、供給圧2.0MPa、水回収率85% 紫外線酸化装置(TOC−UV):AUV−8000TOC(日本フォトサイエンス(株)社製)、紫外線照射量0.3kW・h/m3 混床式イオン交換装置(MB):陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1 ポリッシャー(Polisher):陰イオン交換樹脂:強塩基性陰イオン交換樹脂デュオライトA−113plus(ローム&ハース社製)及び陽イオン交換樹脂:強酸性陽イオン交換樹脂デュオライトC−20(ローム&ハース社製)を予め再生してH型とOH型に変換した後に混合充填したもの、空間速度(SV)40hr−1」(以下、「甲1発明2」という。) イ 甲第2号証の記載事項及び甲第2号証に記載された発明 (ア)甲第2号証には、以下の(2a)〜(2d)の記載がある。 (2a)「【特許請求の範囲】 【請求項1】 ホウ素含有水を高圧型逆浸透膜装置に通水した後、イオン交換装置にて処理することを特徴とするホウ素含有水の処理方法。 ・・・ 【請求項5】 ホウ素含有水が供給される高圧型逆浸透膜装置と、該高圧型逆浸透膜装置の透過水が通水されるイオン交換装置とを備えてなるホウ素含有水の処理装置。」 (2b)「【0007】 ところで、水中のホウ素を除去する手法として逆浸透膜分離法(RO法)、イオン交換法(アニオン交換樹脂又はキレート樹脂)が挙げられる。ROは脱塩、有機物除去等水中に含有する不純物を効率良く除去できるが、水中におけるホウ素の解離は僅かであるため、ROによるホウ素除去率は低く、中性域では60〜70%程度である。・・・ 【0008】 キレート樹脂は、アニオン交換樹脂に比べホウ素吸着量が約10倍程度多いものの、再生方法として、酸、アルカリの両薬剤を使用しなければならず、再生が煩雑である。 【0009】 ホウ素含有水のpHをアルカリ性にすると、ROでのホウ素除去率が向上するところから、特許文献1〜3には、ホウ素含有水にアルカリを添加した後、耐アルカリ性RO装置でRO処理し、次いでイオン交換処理するホウ素含有水の処理方法が記載されている。 【0010】 しかしながら、ホウ素含有水のpHをアルカリ性にすると、RO膜面に硬度スケールが析出し易くなると共に、耐アルカリ性RO膜であっても、アルカリによって徐々に劣化するので、RO膜の交換頻度が高くなる。 ・・・ 【0012】 本発明は、ホウ素含有水をROの膜劣化耐性が強いpHが酸性から中性においても、RO装置及びイオン交換装置によって効率よくホウ素除去処理することができるホウ素含有水の処理方法及び装置を提供することを目的とする。」 (2c)『【実施例】 【0037】 [実施例1] ホウ素濃度100μg/L、TDS500mg/L、pH6.5、導電率32mS/mの工業用水を図1のフローに従って処理を行った。まず、この工業用水を前処理装置1にて凝集処理及び濾過処理して膜処理した。凝集処理の凝集剤としてはポリ塩化アルミニウムを10mg/L添加した。濾過には砂・アンスラサイト2層濾過器を用いた。前処理水のpHは6であった。 【0038】 この前処理水を高圧型RO装置2(日東電工(株)製SWC4Max、有効圧2.0MPa、温度25℃における純水透過流束0.78m3/m2/day;有効圧2.0MPa、温度25℃、NaCl濃度32000mg/LにおけるNaCl除去率99.8%)にて回収率75%にて処理した。さらに、この高圧型RO装置透過水をアニオン交換樹脂(ダウケミカル社製Monosphere550A(H))を充填した再生型アニオン交換樹脂塔3にSV30で通水し、さらにその後非再生型脱イオン装置4にSV50で通水した。通水開始から24Hr経過した時点での各工程における水中のホウ素濃度の測定結果を表1に示す。なお、表1では、非再生型脱イオン装置4の処理水を「非再生型処理水」と略記してある。』 (2d)「【図1】 」 (イ)前記(ア)(2a)によれば、甲第2号証には、ホウ素含有水が供給される高圧型逆浸透膜装置と、該高圧型逆浸透膜装置の透過水が通水されるイオン交換装置とを備えてなる「ホウ素含有水の処理装置」が記載されている。 また、甲第2号証には、ホウ素含有水を高圧型逆浸透膜装置に通水した後、イオン交換装置にて処理する「ホウ素含有水の処理方法」が記載されている。 そして、前記(ア)(2c)〜(2d)によれば、前記「ホウ素含有水の処理装置」及び「ホウ素含有水の処理方法」は、ホウ素濃度100μg/L、TDS500mg/L、pH6.5、導電率32mS/mの工業用水を処理するものであり、まず、この工業用水を前処理装置にて凝集処理及び濾過処理して膜処理するものであり、凝集処理の凝集剤としてはポリ塩化アルミニウムを10mg/L添加し、濾過には砂・アンスラサイト2層濾過器を用い、前処理水のpHは6であったものである。 そして、この前処理水を高圧型RO装置(日東電工(株)製SWC4Max、有効圧2.0MPa、温度25℃における純水透過流束0.78m3/m2/day;有効圧2.0MPa、温度25℃、NaCl濃度32000mg/LにおけるNaCl除去率99.8%)にて回収率75%にて処理し、さらに、この高圧型RO装置透過水をアニオン交換樹脂(ダウケミカル社製Monosphere550A(H))を充填した再生型アニオン交換樹脂塔にSV30で通水し、さらにその後非再生型脱イオン装置にSV50で通水するものである。 (ウ)前記(イ)によれば、甲第2号証には、以下の発明が記載されているといえる。 「ホウ素含有水が供給される高圧型逆浸透膜装置と、該高圧型逆浸透膜装置の透過水が通水されるイオン交換装置とを備えてなるホウ素含有水の処理装置であって、 ホウ素濃度100μg/L、TDS500mg/L、pH6.5、導電率32mS/mの工業用水を処理するものであり、まず、この工業用水を前処理装置にて凝集処理及び濾過処理して膜処理するものであり、凝集処理の凝集剤としてはポリ塩化アルミニウムを10mg/L添加し、濾過には砂・アンスラサイト2層濾過器を用い、前処理水のpHは6であったものであり、 そして、この前処理水を高圧型RO装置(日東電工(株)製SWC4Max、有効圧2.0MPa、温度25℃における純水透過流束0.78m3/m2/day;有効圧2.0MPa、温度25℃、NaCl濃度32000mg/LにおけるNaCl除去率99.8%)にて回収率75%にて処理し、さらに、この高圧型RO装置透過水をアニオン交換樹脂(ダウケミカル社製Monosphere550A(H))を充填した再生型アニオン交換樹脂塔にSV30で通水し、さらにその後非再生型脱イオン装置にSV50で通水する、ホウ素含有水の処理装置。」(以下、「甲2発明1」という。) 「ホウ素含有水を高圧型逆浸透膜装置に通水した後、イオン交換装置にて処理するホウ素含有水の処理方法であって、 ホウ素濃度100μg/L、TDS500mg/L、pH6.5、導電率32mS/mの工業用水を処理するものであり、まず、この工業用水を前処理装置にて凝集処理及び濾過処理して膜処理するものであり、凝集処理の凝集剤としてはポリ塩化アルミニウムを10mg/L添加し、濾過には砂・アンスラサイト2層濾過器を用い、前処理水のpHは6であったものであり、 そして、この前処理水を高圧型RO装置(日東電工(株)製SWC4Max、有効圧2.0MPa、温度25℃における純水透過流束0.78m3/m2/day;有効圧2.0MPa、温度25℃、NaCl濃度32000mg/LにおけるNaCl除去率99.8%)にて回収率75%にて処理し、さらに、この高圧型RO装置透過水をアニオン交換樹脂(ダウケミカル社製Monosphere550A(H))を充填した再生型アニオン交換樹脂塔にSV30で通水し、さらにその後非再生型脱イオン装置にSV50で通水する、ホウ素含有水の処理方法。」(以下、「甲2発明2」という。) ウ 甲第5号証の記載事項 甲第5号証には、以下の(5a)〜(5c)の記載がある。 (5a)「【特許請求の範囲】 ・・・ 【請求項6】 塩素系酸化剤で塩素処理されたポリアミド系の分離膜に臭素系酸化剤を接触させることを特徴とする分離膜の改質方法。 ・・・ 【請求項8】 請求項6または7に記載の分離膜の改質方法であって、 前記臭素系酸化剤が、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物とを含有する、もしくは、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物との反応生成物を含有することを特徴とする分離膜の改質方法。」 (5b)「【0001】 本発明は、逆浸透膜等の分離膜の運転方法、分離膜の改質方法、および分離膜に関する。 【0002】 逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)等のポリアミド系の分離膜の運転において、例えばスライム抑制を目的として各種の臭素系酸化剤を使用した場合、臭素系酸化剤が分離膜に流入する場合がある。臭素系酸化剤としては、次亜塩素酸等の酸化剤と臭化物イオンの反応物、次亜臭素酸等が挙げられる。しかし、これらの臭素系酸化剤は、被処理水のpHが低いほど、分離膜の透過水量を低下させ易いという問題が知られている(非特許文献1参照)。 ・・・ 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 本発明の目的は、分離膜に臭素系酸化剤が接触しても透過水量の低下が抑制され、安定的に分離膜装置を運転する分離膜の運転方法を提供することにある。また、本発明の目的は、分離膜の劣化を抑制しつつ、透過水量および透過水質を改善するための分離膜の改質方法、その改質方法により改質された逆浸透膜を提供することにある。 ・・・ 【発明の効果】 【0016】 本発明の分離膜の運転方法では、分離膜に予め塩素処理が施されることで、その後、分離膜に臭素系酸化剤が接触しても透過水量の低下が抑制され、安定的に分離膜装置を運転することができる。また、本発明では、分離膜の劣化を抑制しつつ、透過水量および透過水質を改善するための分離膜の改質方法、その改質方法により改質された分離膜を提供することができる。」 (5c)「【0069】 本実施形態に係る分離膜の改質方法により改質されたポリアミド系の逆浸透膜を備える逆浸透膜装置の用途としては、例えば、海水淡水化、排水回収等が挙げられる。 【0070】 <分離膜運転用組成物、分離膜改質用組成物> 本実施形態に係る分離膜の運転方法および分離膜の改質方法で用いられる分離膜運転用組成物または分離膜改質用組成物(以下、両者を併せて「分離膜運転・改質用組成物」と呼ぶ)は、「臭素系酸化剤」または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物」と、「スルファミン酸化合物」とを含有するものであり、さらにアルカリを含有してもよい。 ・・・ 【0074】 本実施形態に係る分離膜運転・改質用組成物は、クロロスルファミン酸等の結合塩素系スライム抑制剤と比較すると、酸化力が高く、スライム抑制力、スライム剥離力が著しく高いにもかかわらず、同じく酸化力の高い次亜塩素酸のような著しい膜劣化をほとんど引き起こすことがない。通常の使用濃度では、膜劣化への影響は実質的に無視することができる。このため、ポリアミド系の逆浸透膜(RO膜)等の分離膜用のスライム抑制剤、改質剤としては最適である。」 (2)甲第1号証を主引用例とした場合について ア 本件発明1について (ア)本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「逆浸透膜モジュールSU720」、「逆浸透膜モジュールSW30」、「補助逆浸透膜装置(Sub−RO)」、「逆浸透膜装置(RO)」及び「超純水製造システム」は、それぞれ、本件発明1における「第1逆浸透膜」、「第2逆浸透膜」、「被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段」、「少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段」及び「逆浸透膜処理システム」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲1発明1とは、 「被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、を備える逆浸透膜処理システム」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1:本件発明1は、「逆浸透膜処理システム」における「被処理水」が「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」であるのに対して、甲1発明1は、「被処理水」が「尿素濃度100μg/Lの被処理水」である点。 ・相違点2:本件発明1は、「逆浸透膜処理システム」が、「前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であ」る、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明1は前記発明特定事項を有しない点。 ・相違点3:本件発明1は、「逆浸透膜処理システム」が、「前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明1は前記発明特定事項を有しない点。 (イ)事案に鑑み、はじめに前記(ア)の相違点2から検討すると、甲第1号証には、「第2逆浸透膜」を「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質」することは記載も示唆もされていないので、前記相違点2は実質的な相違点であるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明1であるとはいえない。 (ウ)そこで、以下、前記相違点2の容易想到性について検討すると、前記(1)ア(ア)(1b)によれば、甲1発明1は、超純水の製造において次亜臭素酸のような反応性の高い薬品を使用すると、薬品の貯留や添加のための装置が必要であることや残留した薬品を処理することが必要であり、装置構成や操作が煩雑になる等の課題(以下、「甲1課題」という。)があったことから、次亜臭素酸のような反応性の高い薬品を使用することなく逆浸透膜装置における尿素の除去率を向上させ、TOC濃度の極めて低い超純水を製造することのできる超純水製造方法及び超純水製造システムを提供することを目的とするものである。 (エ)一方、前記(1)ウ(5a)〜(5b)によれば、甲第5号証には、塩素系酸化剤で塩素処理されたポリアミド系の分離膜に臭素系酸化剤を接触させる分離膜の改質方法であって、前記臭素系酸化剤が、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物とを含有する、もしくは、臭素系酸化剤、または臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物との反応生成物を含有する、分離膜の改質方法が記載されている。 すなわち、甲第5号証に記載される分離膜の改質方法は、逆浸透膜(RO膜)やナノろ過膜(NF膜)等のポリアミド系の分離膜の運転において、例えばスライム抑制を目的として各種の臭素系酸化剤を使用した場合、臭素系酸化剤が分離膜に流入すると、分離膜の透過水量を低下させ易いという課題を解決するものであって、分離膜に予め塩素処理が施されることで、その後、分離膜に臭素系酸化剤が接触しても透過水量の低下が抑制され、安定的に分離膜装置を運転することができるものであるが、前記(1)ウ(5c)によれば、甲第5号証に記載された分離膜運転・改質用組成物は、クロロスルファミン酸等の結合塩素系スライム抑制剤と比較すると、酸化力が高く、スライム抑制力、スライム剥離力が著しく高いものであり、これは、反応性の高い薬品というべきものである。 そして、甲1発明1において、甲第5号証に記載された反応性の高い薬品である分離膜運転・改質用組成物を使用することは、反応性の高い薬品を使用することなく逆浸透膜装置における尿素の除去率を向上させることで甲1課題を解決するものである甲1発明1の特長を損なうものとなるから、甲1発明1に甲第5号証に記載された事項を適用することには、阻害要因が存在するのであり、このことは、甲第3〜4号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に左右されるものでもない。 したがって、甲1発明1において、「第2逆浸透膜」を、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜」とすることを、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではない。 (オ)前記(エ)によれば、甲1発明1において、「逆浸透膜処理システム」を、「前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であ」る、との前記相違点2に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (カ)よって、本件発明1は甲1発明1であるとはいえないし、甲1発明1、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明5について (ア)前記ア(ア)と同様にして本件発明5と甲1発明2とを対比すると、本件発明5と甲1発明2とは、 「被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、を含む逆浸透膜処理方法。」 の点で一致し、以下の点で相違する。 ・相違点1’:本件発明5は、「逆浸透膜処理方法」における「被処理水」が「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」であるのに対して、甲1発明2は、「被処理水」が「尿素濃度100μg/Lの被処理水」である点。 ・相違点2’:本件発明5は、「逆浸透膜処理方法」が、「前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明2は前記発明特定事項を有しない点。 ・相違点3’:本件発明5は、「逆浸透膜処理方法」が、「前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である」、との発明特定事項を有するのに対して、甲1発明2は前記発明特定事項を有しない点。 (イ)そして、前記(ア)の相違点2’は前記ア(ア)の相違点2と同じものであるから、前記ア(イ)〜(カ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5は甲1発明2であるとはいえないし、甲1発明2、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 申立人意見書について (ア)申立人は、申立人意見書(9頁11行〜23行)において、前記(1)ア(1c)の記載からみれば、甲第1号証に記載された発明は、尿素分解のために薬品を使用しないことを前提としているに過ぎず、甲第5号証に示された「スライム抑制効果、改質効果」を得るために薬品を使用することを拒否するものではないから、甲第1号証に甲第5号証を組み合わせることは当業者が容易になし得る旨を主張している。 ところが、「スライム抑制効果、改質効果」を得るための薬品であっても、それが反応性の高い薬品であれば、その添加の際には薬品の貯留や添加のための装置が必要となることが容易に推認されるから、甲第1号証に記載された発明において、反応性の高い薬品である分離膜運転・改質用組成物を用いることで、甲第1号証に記載された発明の特長を損なうものとなることに変わりはないので、甲第1号証に記載された発明には、「スライム抑制効果、改質効果」を得るための薬品も含めて、反応性の高い薬品を使用することに阻害要因が存するものと解するのが妥当である。 また、前記(1)ア(1b)(【0004】)の記載からみれば、甲第1号証に記載された発明は、例えば比抵抗率18MΩ・cm以上、全有機炭素(TOC)濃度1μgC/L以下の水質が要求される、半導体製造工程で使用される超純水を製造するものであるのに対して、前記(1)ウ(5c)(【0069】)によれば、甲第5号証には、改質されたポリアミド系の逆浸透膜を備える逆浸透膜装置の用途として、例えば、海水淡水化、排水回収等が挙げられていることから、甲第5号証に記載された分離膜の改質方法は、半導体製造工程で使用される超純水レベルの高純度の水を製造するものを想定したものとはいえない。 そして、半導体製造工程で使用される超純水を製造するものである甲第1号証に記載された発明に、あえて、超純水レベルの高純度の水を製造するものを想定していない分離膜運転・改質用組成物を適用することを、当業者が容易になし得るものではない。 これらのことからみれば、甲第1号証に記載された発明に甲第5号証に記載された事項を組み合わせることは、当業者が容易になし得るものではないから、申立人の前記主張は採用できない。 (イ)また、申立人は、申立人意見書(9頁24行〜11頁17行)において、甲第14号証には、膜分離装置への給水又は洗浄水中に、塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物を存在させることが記載されているから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と甲第14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものである旨を主張している。 ところが、甲第14号証に記載される塩素系酸化剤及びスルファミン酸化合物も、反応性の高い薬品というべきものであるから、前記ア(エ)に記載したのと同様の理由により、甲第1号証に記載された発明において、「第2逆浸透膜」を、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜」とすることを、甲第14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。 してみれば、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明と甲第14号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないので、申立人の前記主張も採用できない。 エ 小括 したがって、本件発明1及び5は、甲第1号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第1号証に記載された発明、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、前記第4の1(1)の特許異議申立理由及び第5の1の取消理由はいずれも理由がない。 (3)甲第2号証を主引用例とした場合について ア 本件発明1について (ア)本件発明1と甲2発明1とを対比すると、甲2発明1における「日東電工(株)製SWC4Max」、「高圧型RO装置」及び「ホウ素含有水の処理装置」は、それぞれ、本件発明1における「第2逆浸透膜」、「水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段」及び「逆浸透膜処理システム」に相当する。 そうすると、本件発明1と甲2発明1とは、 「水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段を備える、逆浸透膜処理システム。」 の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 ・相違点4:本件発明1は、「逆浸透膜処理システム」の「被処理水」について、「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明1は、「被処理水」が「ホウ素濃度100μg/L、TDS500mg/L、pH6.5、導電率32mS/mの工業用水」である点。 そして、本件発明1と甲2発明1とは少なくとも前記相違点4を有するのであるから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲2発明1であるとはいえない。 (イ)そこで、以下、前記(ア)の相違点4の容易想到性について検討すると、前記(1)ア(2b)によれば、甲2発明1は、水中のホウ素を除去する手法としての逆浸透膜分離法(RO法)は、水中におけるホウ素の解離は僅かであるため、ROによるホウ素除去率は低い、という課題、ホウ素含有水のpHをアルカリ性にすると、ROでのホウ素除去率が向上するところから、従来、ホウ素含有水にアルカリを添加した後、耐アルカリ性RO装置でRO処理し、次いでイオン交換処理するホウ素含有水の処理方法が知られているが、ホウ素含有水のpHをアルカリ性にすると、RO膜面に硬度スケールが析出し易くなると共に、耐アルカリ性RO膜であっても、アルカリによって徐々に劣化するので、RO膜の交換頻度が高くなる、という課題を解決するものであって、ホウ素含有水をROの膜劣化耐性が強いpHが酸性から中性においても、RO装置及びイオン交換装置によって効率よくホウ素除去処理することができるホウ素含有水の処理方法及び装置を提供することを目的とするものである。 そうすると、甲2発明1は、特に水中のホウ素を除去することを目的としてこれに最適化したものであり、そのような甲2発明1を、「分子量200以下の低分子有機物」を除去するものとすることはそもそも想定されないから、甲2発明1において「被処理水」を「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」とする動機付けは存在しないのであって、このことは、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に左右されるものでもない。 (ウ)前記(イ)によれば、甲2発明1において、「逆浸透膜処理システム」の「被処理水」について、「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」である、との前記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることは、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明1、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (エ)よって、本件発明1が甲2発明1であるとはいえないし、甲2発明1、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 イ 本件発明5について (ア)前記ア(ア)と同様にして本件発明5と甲2発明2とを対比すると、本件発明5と甲2発明2とは、 「水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程を含む、逆浸透膜処理方法。」 の点で一致し、少なくとも以下の点で相違する。 ・相違点4’:本件発明5は、「逆浸透膜処理方法」の「被処理水」について、「分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水」である、との発明特定事項を有するのに対して、甲2発明2は、「被処理水」が「ホウ素濃度100μg/L、TDS500mg/L、pH6.5、導電率32mS/mの工業用水」である点。 (イ)そして、前記(ア)の相違点4’は前記ア(ア)の相違点4と同じものであるから、前記ア(ア)〜(ウ)に記載したのと同様の理由により、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5が甲2発明2であるとはいえないし、甲2発明2、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 ウ 小括 したがって、本件発明1及び5は、甲第2号証に記載された発明であるとはいえないし、甲第2号証に記載された発明、甲第3〜5号証に記載された事項及び本件特許の出願時における周知技術に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもないから、前記第4の1(2)の特許異議申立理由は理由がない。 (4)まとめ 以上のとおりであるので、特許法第29条第1項(新規性)、第2項(進歩性)についての特許異議申立理由及び取消理由はいずれも理由がない。 2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について (1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断手法 特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に基づいて検討する。 (2)本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には以下の(A)〜(C)の記載がある。 (A)「【0002】 従来から、工業用水や市水等の被処理水を逆浸透膜で処理して、透過水(処理水)と濃縮水とを得る逆浸透膜を用いる逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法が知られている。 【0003】 このような逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、2段以上の同種の逆浸透膜を用い、水質向上目的で、2段目の逆浸透膜として阻止率向上剤を用いて阻止率を向上させた膜を使用することが知られている。 【0004】 例えば、特許文献1には、被処理水を通水する第1段目の逆浸透膜装置と、第1段目の逆浸透膜装置の透過水を通水する第2段目の逆浸透膜分離装置とを有する純水製造装置において、少なくとも第2段目の逆浸透膜装置が、阻止率向上剤としてポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール鎖を有する化合物によって処理された逆浸透膜を備える純水製造装置が記載されている。 【0005】 しかし、特許文献1の方法では十分な水質向上効果が得られない場合がある。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られる逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法を提供することにある。」 (B)「【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は、被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、を備え、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理システムである。 ・・・ 【0012】 また、本発明は、被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、を含み、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理方法である。 ・・・ 【発明の効果】 【0016】 2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られる。」 (C)『【0025】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムでは、2段以上の逆浸透膜で処理が行われ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である。本発明者らは、第2逆浸透膜における低分子有機物の阻止率と有効圧力1MPaあたりの透過流束との関係を精査したところ、2次的な相関となっていることを見出した。このとき、有効圧力1MPaあたりの透過流束=0.5m3/m2/dが変曲点となっていたため、2段目の逆浸透膜として「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下」の高阻止率の逆浸透膜を用いた。第2透過水側にさらなる3段目以降の逆浸透膜処理装置を備える場合は、第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は、第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることが好ましい。これにより、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られる。第1逆浸透膜は、「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/dを超える逆浸透膜」であり、第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜は、高阻止率の「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下の逆浸透膜」であることが好ましい。 ・・・ 【0028】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、第2逆浸透膜の逆浸透膜、好ましくは第2逆浸透膜以降の逆浸透膜が、改質剤として酸化剤により改質された膜であることが好ましい。高阻止率逆浸透膜として酸化剤により改質された膜を用いると、水質がより向上する。酸化剤により改質された膜を得るには、逆浸透膜への給水、洗浄水等の中に、改質剤を存在させて逆浸透膜に接触させてもよいし、改質剤を含む水中に逆浸透膜を浸漬してもよい。 【0029】 酸化剤としては、酸化作用があるものであればよく,特に制限はないが、例えば、塩素系酸化剤、臭素系酸化剤、安定化次亜塩素酸組成物、安定化次亜臭素酸組成物等が挙げられる。 ・・・ 【0032】 安定化次亜塩素酸組成物は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含むものである。「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物」は、「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよいし、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよい。』 (3)判断 ア 前記(2)(A)の記載によれば、本件発明は、被処理水を通水する第1段目の逆浸透膜装置と、第1段目の逆浸透膜装置の透過水を通水する第2段目の逆浸透膜装置とを有する、同種の逆浸透膜を用いた純水製造装置において、少なくとも第2段目の逆浸透膜装置が、阻止率向上剤としてポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール鎖を有する化合物によって処理された逆浸透膜を備える従来の純水製造装置においては、十分な水質向上効果が得られない場合がある、という課題(以下、「本件課題」という。)を解決して、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られる逆浸透膜処理システム及び逆浸透処理方法を提供するものである。 そして、前記(2)(B)〜(C)の記載によれば、本件発明は、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、「第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を0.5m3/m2/d以下」とするものであって、2段以上の逆浸透膜で処理を行う場合、第2逆浸透膜における低分子有機物の阻止率と有効圧力1MPaあたりの透過流束との関係を精査したところ、2次的な相関となっていることを見出し、このとき、有効圧力1MPaあたりの透過流束=0.5m3/m2/dが変曲点となっていたため、本件発明においては、2段目の逆浸透膜として「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下」の逆浸透膜を用いるものであり、そうすることで、十分な水質向上効果が得られるものである。 イ 前記アによれば、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明は、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、「第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を0.5m3/m2/d以下」とすることで、十分な水質向上効果が得られるものとなり、本件課題を解決できることを理解する。 また、このことは、本件特許明細書の【0091】〜【0104】において、「第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を0.5m3/m2/d以下」となっている実施例1の2段目透過水IPA濃度が、そのようになっていない比較例1〜3のものよりも有意に低減していることからも裏付けられるものである。 そして、「第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を0.5m3/m2/d以下」とすることは、本件発明1及び5の発明特定事項にほかならないから、当業者は、前記発明特定事項を有する本件発明1及び5により、本件課題を解決できることを理解するのであり、このことを前記(1)の判断手法に照らせば、本件発明1及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。 ウ ここで、甲第3号証の表1(259頁)の最上欄には、以下の(3a)の記載がある。 (3a)「Reverse Osmosis Performance High selevtivity and rejection High water permeability」 (当審訳:逆浸透性能 高い選択性及び除去率 高い水透過率) ところが、前記(3a)の記載は、逆浸透膜における好ましい逆浸透性能が、高い選択性及び除去率及び高い水透過率であることをいうものに過ぎず、透過流束と阻止率に相関性がないことをいうものとは認められない。 また、仮に、透過流束と阻止率には相関性がなく、透過流束が高い膜でも阻止率が低い膜があり、その場合、阻止率が高い膜と同等の処理結果が得られないとしても、前記アによれば、本件発明は、「SW−30」のような阻止率が高い膜と同等の処理結果を得ることを課題とするものではなく、被処理水を通水する第1段目の逆浸透膜装置と、第1段目の逆浸透膜装置の透過水を通水する第2段目の逆浸透膜装置とを有する、同種の逆浸透膜を用いた純水製造装置において、少なくとも第2段目の逆浸透膜装置が、阻止率向上剤としてポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール鎖を有する化合物によって処理された逆浸透膜を備える従来の純水製造装置においては、十分な水質向上効果が得られない場合がある、という本件課題を解決するものであって、当業者は、本件発明1及び5により本件課題を解決できることを理解することは、前記イに記載のとおりである。 してみれば、甲第3号証に記載された事項にかかわらず、本件発明1及び5は、発明の詳細な説明に記載された発明というべきである。 エ 申立人は、申立人意見書(11頁18行〜12頁9行)において、本件発明1及び5における「前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、」のうち、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物」については本件特許明細書の特に実施例において具体的に記載されておらず、具体的にどのようにして調製し、使用し、どのような効果が得られるのかが記載されていないので、本件発明1及び5は発明の詳細な説明に記載された発明でない旨を主張している。 ところが、前記(2)(C)(【0028】〜【0032】)によれば、本件発明においては、「第2逆浸透膜の逆浸透膜、好ましくは第2逆浸透膜以降の逆浸透膜が、改質剤として酸化剤により改質された膜であることが好ましい」とされており、改質剤による逆浸透膜の改質は、「好ましい」とされる一態様に過ぎないことがわかる。他方、前記イによれば、本件発明1及び5は、改質剤による逆浸透膜の改質の有無に関わらず、「第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束を0.5m3/m2/d以下」とする、との発明特定事項に基づいて、本件課題を解決できるものである。 すると、仮に、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物」について、本件特許明細書に具体的に記載されていないとしても、本件発明1及び5が本件課題を解決できることに変わりはなく、このことを前記(1)の判断手法に照らせば、本件発明1及び5は発明の詳細な説明に記載された発明というべきであるので、申立人の前記主張は採用できない。 オ よって、本件発明1及び5は発明の詳細な説明に記載された発明といえ、本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号(サポート要件)所定の規定に適合するというべきであるから、前記第4の2の特許異議申立理由は理由がない。 3 特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)について 本件特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号(サポート要件)所定の規定に適合するというべきであることは、前記2(3)オに記載のとおりであり、本件特許請求の範囲の記載に特許法第36条第6項第1号(サポート要件)についての不備はない。 また、そもそも、発明の詳細な説明に、特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の不備に対する解決手段を示す必要はない。 更に、本件特許明細書の【0091】〜【0109】には、本件課題を解決できる具体的な実施例として実施例1〜4が記載されていることを併せ考えると、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明を実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものといえ、特許法第36条第4項第1号(実施可能要件)所定の規定に適合するというべきであるので、前記第4の3の特許異議申立理由は理由がない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、請求項1及び5に係る発明の特許を取り消すことはできない。 また、ほかに請求項1及び5に係る発明の特許を取り消すべき理由を発見しない。 そして、本件訂正により請求項2〜4及び6〜8は削除されたので、請求項2〜4及び6〜8に係る発明の特許に対して申立人がした特許異議申立については対象となる請求項が存在しないから、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法 【技術分野】 【0001】 本発明は、逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法に関する。 【背景技術】 【0002】 従来から、工業用水や市水等の被処理水を逆浸透膜で処理して、透過水(処理水)と濃縮水とを得る逆浸透膜を用いる逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法が知られている。 【0003】 このような逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、2段以上の同種の逆浸透膜を用い、水質向上目的で、2段目の逆浸透膜として阻止率向上剤を用いて阻止率を向上させた膜を使用することが知られている。 【0004】 例えば、特許文献1には、被処理水を通水する第1段目の逆浸透膜装置と、第1段目の逆浸透膜装置の透過水を通水する第2段目の逆浸透膜分離装置とを有する純水製造装置において、少なくとも第2段目の逆浸透膜装置が、阻止率向上剤としてポリエチレングリコール等のポリアルキレングリコール鎖を有する化合物によって処理された逆浸透膜を備える純水製造装置が記載されている。 【0005】 しかし、特許文献1の方法では十分な水質向上効果が得られない場合がある。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0006】 【特許文献1】特開2008−161818号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 本発明の目的は、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られる逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0008】 本発明は、分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、を備え、前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理システムである。 【0009】(削除) 【0010】(削除) 【0011】(削除) 【0012】 また、本発明は、分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、を含み、前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である、逆浸透膜処理方法である。 【0013】(削除) 【0014】(削除) 【0015】(削除) 【発明の効果】 【0016】 2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られる 【図面の簡単な説明】 【0017】 【図1】本発明の実施形態に係る逆浸透膜処理システムの一例を示す概略構成図である。 【図2】本発明の実施形態に係る逆浸透膜処理システムを有する水処理システムの一例を示す概略構成図である。 【発明を実施するための形態】 【0018】 本発明の実施の形態について以下説明する。本実施形態は本発明を実施する一例であって、本発明は本実施形態に限定されるものではない。 【0019】 本発明の実施形態に係る逆浸透膜処理システムの一例の概略を図1に示し、その構成について説明する。 【0020】 逆浸透膜処理システム1は、被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段として、第1逆浸透膜処理装置12と、第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段として、第2逆浸透膜処理装置14とを備える。ここで、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である。逆浸透膜処理システム1は、被処理水を貯留する被処理水槽10を備えてもよい。第1逆浸透膜処理装置12と第2逆浸透膜処理装置14との間に、第1透過水を貯留する第1透過水槽を備えてもよい。 【0021】 図1の逆浸透膜処理システム1において、被処理水槽10の入口には被処理水配管18が接続され、被処理水槽10の出口と第1逆浸透膜処理装置12の入口とは、ポンプ16を介して被処理水供給配管20により接続されている。第1逆浸透膜処理装置12の第1透過水出口と第2逆浸透膜処理装置14の入口とは、第1透過水配管22により接続されている。第1逆浸透膜処理装置12の第1濃縮水出口には第1濃縮水配管24が接続されている。第2逆浸透膜処理装置14の第1透過水出口には、第2透過水配管26が接続され、第2濃縮水出口には第2濃縮水配管28が接続されている。第1透過水配管22には、酸化剤を添加する酸化剤添加手段として、酸化剤添加配管30が接続されていてもよい。 【0022】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および逆浸透膜処理システム1の動作について説明する。 【0023】 処理対象である被処理水は、被処理水配管18を通して必要に応じて被処理水槽10に貯留される。被処理水は、ポンプ16によって被処理水供給配管20を通して、第1逆浸透膜処理装置12に供給され、第1逆浸透膜処理装置12において、被処理水の第1逆浸透膜処理が行われる(第1逆浸透膜処理工程)。第1逆浸透膜処理で得られた第1透過水は、第1透過水配管22を通して、第2逆浸透膜処理装置14に供給される。必要に応じて、第1透過水配管22において第1透過水に改質剤として酸化剤が酸化剤添加配管30を通して添加されてもよい(酸化剤添加工程)。必要に応じて酸化剤が添加された後、第2逆浸透膜処理装置14において、第1透過水の第2逆浸透膜処理が行われる(第2逆浸透膜処理工程)。第1逆浸透膜処理で得られた第1透過水の少なくとも一部は、第1逆浸透膜処理装置12の供給水、例えば被処理水槽10に循環されてもよい。第1逆浸透膜処理で得られた第1濃縮水は、第1濃縮水配管24を通して排出されてもよいし、少なくとも一部が第1逆浸透膜処理装置12の供給水、例えば被処理水槽10に循環されてもよい。第2逆浸透膜処理で得られた第2透過水は、第2透過水配管26を通して排出されてもよいし、少なくとも一部が前段の第1逆浸透膜処理装置12の供給水、例えば被処理水槽10に循環されてもよく、また少なくとも一部が第2逆浸透膜処理装置14の供給水、例えば第1透過水配管22に循環されてもよい。第2逆浸透膜処理で得られた第2濃縮水は、第2濃縮水配管28を通して排出されてもよいし、少なくとも一部が前段の第1逆浸透膜処理装置12の供給水、例えば被処理水槽10に循環されてもよく、また少なくとも一部が第2逆浸透膜処理装置14の供給水、例えば第1透過水配管22に循環されてもよい。なお、第1透過水配管22にポンプを備えて、再加圧してもよい。酸化剤は、第1透過水配管22において添加することができ、第1透過水配管22に設けられたポンプの吸込側、吐出側において添加されてもよい。第1逆浸透膜処理装置12の第1透過水に、pH調整剤の添加が行われてもよい。第1逆浸透膜処理装置12と第2逆浸透膜処理装置14との間に、脱気手段として脱気膜装置を備えて、第1透過水の脱気処理が行われてもよい。第1逆浸透膜処理装置12と第2逆浸透膜処理装置14との間に、もしくは第2濃縮水配管28に、遊離塩素または全塩素測定手段、pH測定手段、無機炭素濃度(IC)測定手段等のうち少なくとも1つを備えてもよい。 【0024】 逆浸透膜処理システム1において、透過水の水質を上げる等の目的で、第2逆浸透膜処理装置14の第2透過水側に少なくとも1つの逆浸透膜処理装置(第3逆浸透膜処理装置、必要に応じて第4逆浸透膜処理装置、さらにそれ以降の逆浸透膜処理装置)をさらに備えてもよい。この場合、第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は、第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることが好ましい。 【0025】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムでは、2段以上の逆浸透膜で処理が行われ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下である。本発明者らは、第2逆浸透膜における低分子有機物の阻止率と有効圧力1MPaあたりの透過流束との関係を精査したところ、2次的な相関となっていることを見出した。このとき、有効圧力1MPaあたりの透過流束=0.5m3/m2/dが変曲点となっていたため、2段目の逆浸透膜として「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下」の高阻止率の逆浸透膜を用いた。第2透過水側にさらなる3段目以降の逆浸透膜処理装置を備える場合は、第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は、第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることが好ましい。これにより、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られる。第1逆浸透膜は、「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/dを超える逆浸透膜」であり、第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜は、高阻止率の「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下の逆浸透膜」であることが好ましい。 【0026】 第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は、0.5m3/m2/d以下であり、0.4m3/m2/d以下であることが好ましい。第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/dを超えると、得られる処理水の水質が低下する。 【0027】 第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は、第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低くければよいが、例えば、第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は、第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束の10%〜60%の範囲であり、15%〜45%の範囲であることが好ましい。第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束と同じまたは高いと、得られる処理水の水質が低下する。 【0028】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、第2逆浸透膜の逆浸透膜、好ましくは第2逆浸透膜以降の逆浸透膜が、改質剤として酸化剤により改質された膜であることが好ましい。高阻止率逆浸透膜として酸化剤により改質された膜を用いると、水質がより向上する。酸化剤により改質された膜を得るには、逆浸透膜への給水、洗浄水等の中に、改質剤を存在させて逆浸透膜に接触させてもよいし、改質剤を含む水中に逆浸透膜を浸漬してもよい。 【0029】 酸化剤としては、酸化作用があるものであればよく,特に制限はないが、例えば、塩素系酸化剤、臭素系酸化剤、安定化次亜塩素酸組成物、安定化次亜臭素酸組成物等が挙げられる。 【0030】 塩素系酸化剤としては、例えば、塩素ガス、二酸化塩素、次亜塩素酸またはその塩、亜塩素酸またはその塩、塩素酸またはその塩、過塩素酸またはその塩、塩素化イソシアヌル酸またはその塩等が挙げられる。これらのうち、塩としては、例えば、次亜塩素酸ナトリウム、次亜塩素酸カリウム等の次亜塩素酸アルカリ金属塩、次亜塩素酸カルシウム、次亜塩素酸バリウム等の次亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ナトリウム、亜塩素酸カリウム等の亜塩素酸アルカリ金属塩、亜塩素酸バリウム等の亜塩素酸アルカリ土類金属塩、亜塩素酸ニッケル等の他の亜塩素酸金属塩、塩素酸アンモニウム、塩素酸ナトリウム、塩素酸カリウム等の塩素酸アルカリ金属塩、塩素酸カルシウム、塩素酸バリウム等の塩素酸アルカリ土類金属塩等が挙げられる。これらの塩素系酸化剤は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。塩素系酸化剤としては、取り扱い性等の点から、次亜塩素酸ナトリウムを用いるのが好ましい。 【0031】 臭素系酸化剤としては、臭素(液体臭素)、塩化臭素、臭素酸、臭素酸塩、次亜臭素酸等が挙げられる。次亜臭素酸は、臭化ナトリウム等の臭化物と次亜塩素酸等の塩素系酸化剤とを反応させて生成させたものであってもよい。 【0032】 安定化次亜塩素酸組成物は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含むものである。「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物」は、「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよいし、「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物であってもよい。 【0033】 安定化次亜臭素酸組成物は、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含むものである。「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物」は、「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよいし、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物であってもよい。 【0034】 酸化剤としては、これらのうち、安定化次亜塩素酸組成物または安定化次亜臭素酸組成物が好ましく、安定化次亜臭素酸組成物がより好ましい。安定化次亜塩素酸組成物または安定化次亜臭素酸組成物は次亜塩素酸等の塩素系酸化剤と同等以上のスライム抑制効果、改質効果を発揮するにも関わらず、塩素系酸化剤と比較すると、逆浸透膜への劣化影響が低く、改質を繰り返すことによる膜劣化を抑制することができる。このため、本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムで用いられる安定化次亜塩素酸組成物または安定化次亜臭素酸組成物は、改質剤としては好適である。 【0035】 すなわち、本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、第2逆浸透膜、または第2逆浸透膜処理以降で用いられる逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であることが好ましい。 【0036】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、「臭素系酸化剤」が臭素である場合、塩素系酸化剤が存在しないため、逆浸透膜への劣化影響が著しく低く、逆浸透膜のスライム抑制効果、改質効果を有する。塩素系酸化剤を含む場合は、塩素酸の生成が懸念される。 【0037】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、例えば、逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「臭素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物、または「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を存在させる。これにより、被処理水中で、安定化次亜臭素酸組成物または安定化次亜塩素酸組成物が生成すると考えられる。 【0038】 また、本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、例えば、逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」である安定化次亜臭素酸組成物、または「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」である安定化次亜塩素酸組成物を存在させる。 【0039】 具体的には本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、例えば、逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「臭素」、「塩化臭素」、「次亜臭素酸」または「臭化ナトリウムと次亜塩素酸との反応物」と、「スルファミン酸化合物」との混合物を存在させる。または、逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「次亜塩素酸」と、「スルファミン酸化合物」との混合物を存在させる。 【0040】 また、本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、例えば、逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」、「塩化臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」、「次亜臭素酸とスルファミン酸化合物との反応生成物」、または「臭化ナトリウムと次亜塩素酸との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」である安定化次亜臭素酸組成物を存在させる。または、逆浸透膜への給水等の中に、改質剤として「次亜塩素酸とスルファミン酸化合物との反応生成物」である安定化次亜塩素酸組成物を存在させる。 【0041】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、逆浸透膜への酸化剤の接触が、pH3〜12の範囲で行われることが好ましく、pH4〜9の範囲で行われることがより好ましい。逆浸透膜への酸化剤の接触がpH3未満で行われると、逆浸透膜への酸化剤の接触が長期的に行われた場合に逆浸透膜の劣化が起こり、阻止率が低下する場合があり、pH12超で行われると、改質効果が不十分な場合がある。特に、pH4〜9の範囲で接触が行われると、逆浸透膜の劣化を抑制しつつ、逆浸透膜の透過水質を十分に改善することができる。改質剤の接触を上記pH範囲で行うために、例えば、逆浸透膜への給水等のpHを上記範囲に維持すればよく、または、逆浸透膜の浸漬液のpHを上記範囲に維持すればよい。 【0042】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムでは、例えば、逆浸透膜を備える逆浸透膜装置の運転の際に、逆浸透膜への給水等の中に、「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とを薬注ポンプ等により注入してもよい。「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とは別々に給水等の中に添加してもよく、または、原液同士で混合させてから逆浸透膜への給水等の中に添加してもよい。また、例えば、「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」とを添加した水中に、逆浸透膜を所定の時間、浸漬して接触させてもよい。 【0043】 また、例えば、逆浸透膜への給水等の中に「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」または「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を薬注ポンプ等により注入してもよい。また、例えば、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」、または「臭素化合物と塩素系酸化剤との反応物と、スルファミン酸化合物と、の反応生成物」を添加した水中に、逆浸透膜を所定の時間、浸漬して接触させてもよい。 【0044】 酸化剤による改質は、例えば、逆浸透膜を備える逆浸透膜装置の運転の際に逆浸透膜への給水、洗浄水等の中に、酸化剤を連続的または間欠的に添加してもよいし、逆浸透膜の阻止率が低下した場合に、逆浸透膜への給水、洗浄水等の中に酸化剤を連続的または間欠的に添加したり、酸化剤を含む水中に逆浸透膜を浸漬してもよい。 【0045】 逆浸透膜への酸化剤の接触は、常圧条件下、加圧条件下または減圧条件下で行えばよいが、逆浸透膜装置を停止しなくても改質を行うことができる、逆浸透膜の改質を確実に行うことができる等の点から、加圧条件下で行うことが好ましい。逆浸透膜への酸化剤の接触は、例えば、0.1MPa〜8.0MPaの範囲の加圧条件下で行うことが好ましい。 【0046】 逆浸透膜への酸化剤の接触は、例えば、5℃〜35℃の範囲の温度条件下で行えばよい。 【0047】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比は、1以上であることが好ましく、1以上2以下の範囲であることがより好ましい。「臭素系酸化剤」または「塩素系酸化剤」の当量に対する「スルファミン酸化合物」の当量の比が1未満であると、逆浸透膜を劣化させる可能性があり、2を超えると、製造コストが増加する場合がある。 【0048】 逆浸透膜に接触する全塩素濃度は有効塩素濃度換算で、0.01〜100mg/Lであることが好ましい。0.01mg/L未満であると、十分な改質効果を得ることができない場合があり、100mg/Lより多いと、逆浸透膜の劣化、配管等の腐食を引き起こす可能性がある。 【0049】 臭素を用いた「臭素とスルファミン酸化合物(臭素とスルファミン酸化合物の混合物)」または「臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物」の製剤は、「次亜塩素酸と臭素化合物とスルファミン酸」の製剤および「塩化臭素とスルファミン酸」の製剤等に比べて、臭素酸の副生が少なく、逆浸透膜をより劣化させないため、改質剤としてはより好ましい。 【0050】 すなわち、本発明の実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、逆浸透膜への給水等の中に、臭素と、スルファミン酸化合物とを存在させる(臭素とスルファミン酸化合物の混合物を存在させる)ことが好ましい。また、逆浸透膜への給水等の中に、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を存在させることが好ましい。 【0051】 臭素化合物としては、臭化ナトリウム、臭化カリウム、臭化リチウム、臭化アンモニウムおよび臭化水素酸等が挙げられる。これらのうち、製剤コスト等の点から、臭化ナトリウムが好ましい。 【0052】 スルファミン酸化合物は、以下の一般式(1)で示される化合物である。 R2NSO3H (1) (式中、Rは独立して水素原子または炭素数1〜8のアルキル基である。) 【0053】 スルファミン酸化合物としては、例えば、2個のR基の両方が水素原子であるスルファミン酸(アミド硫酸)の他に、N−メチルスルファミン酸、N−エチルスルファミン酸、N−プロピルスルファミン酸、N−イソプロピルスルファミン酸、N−ブチルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数1〜8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N,N−ジメチルスルファミン酸、N,N−ジエチルスルファミン酸、N,N−ジプロピルスルファミン酸、N,N−ジブチルスルファミン酸、N−メチル−N−エチルスルファミン酸、N−メチル−N−プロピルスルファミン酸等の2個のR基の両方が炭素数1〜8のアルキル基であるスルファミン酸化合物、N−フェニルスルファミン酸等の2個のR基の一方が水素原子であり、他方が炭素数6〜10のアリール基であるスルファミン酸化合物、またはこれらの塩等が挙げられる。スルファミン酸塩としては、例えば、ナトリウム塩、カリウム塩等のアルカリ金属塩、カルシウム塩、ストロンチウム塩、バリウム塩等のアルカリ土類金属塩、マンガン塩、銅塩、亜鉛塩、鉄塩、コバルト塩、ニッケル塩等の他の金属塩、アンモニウム塩およびグアニジン塩等が挙げられる。スルファミン酸化合物およびこれらの塩は、1種を単独で用いても、2種以上を組み合わせて用いてもよい。スルファミン酸化合物としては、環境負荷等の点から、スルファミン酸(アミド硫酸)を用いるのが好ましい。 【0054】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、安定化次亜臭素酸組成物および安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つを逆浸透膜への給水等の中に改質剤として存在させる場合に、さらにアルカリを存在させてもよい。アルカリとしては、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の水酸化アルカリ等が挙げられる。低温時の製品安定性等の点から、水酸化ナトリウムと水酸化カリウムとを併用してもよい。また、アルカリは、固形でなく、水溶液として用いてもよい。 【0055】 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムは、酢酸セルロースや昨今主流であるポリアミド系高分子膜に好適に適用することができる。ポリアミド系高分子膜は、酸化剤に対する耐性が比較的低く、遊離塩素等をポリアミド系高分子膜に連続的に接触させると、膜性能の著しい低下が起こる。しかしながら、本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムではポリアミド高分子膜においても、このような著しい膜性能の低下はほとんど起こらない。 【0056】 第2逆浸透膜処理以降で使用される逆浸透膜は、第1逆浸透膜処理で使用される逆浸透膜より有効圧力1MPaあたりの透過流束は小さいが、阻止性能が飛躍的に向上している。第2逆浸透膜処理以降では「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下の逆浸透膜」を用い、第1逆浸透膜処理では有効圧力1MPaあたりの透過流束が第2逆浸透膜処理以降で使用される逆浸透膜よりも低い逆浸透膜を用いるが、第1逆浸透膜処理では「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/dを超える逆浸透膜」を使用することが好ましい。「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下の逆浸透膜」を2段目の逆浸透膜処理に使用することによる2段逆浸透膜装置の処理水質は、従来の「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/dを超える逆浸透膜」を使用する2段逆浸透膜システムの処理水質よりも格段に向上する。 【0057】 なお、透過流束は、透過水量を膜面積で割ったものである。「有効圧力」とは、JIS K3802:2015「膜用語」に記載の、平均操作圧から浸透圧差および二次側圧を差し引いた、膜に働く有効な圧である。なお、平均操作圧は、膜の一次側における膜供給水の圧力(運転圧力)と濃縮水の圧力(濃縮水出口圧力)の平均値で、以下の式により表される。 平均操作圧=(運転圧力+濃縮水出口圧力)/2 【0058】 有効圧力1MPaあたりの透過流束は、膜メーカーのカタログに記載の情報、例えば、透過水量、膜面積、評価時の回収率、NaCl濃度等から計算することができる。また、1つまたは複数の圧力容器に同一の透過流束である膜が複数本装填されている場合、圧力容器の平均操作圧/2次側圧力、原水水質、透過水量、膜本数等の情報より、装填された膜の透過流束を計算することができる。 【0059】 第2逆浸透膜処理、または第2逆浸透膜処理以降の逆浸透膜として用いることができる有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下の膜としては、SWCシリーズ(Hydranautics)、TM800シリーズ(東レ)、SW30シリーズ(DOW)、HR−ROシリーズ(栗田工業)等が挙げられる。例えば、SWC5MAX(有効圧力1MPaあたりの透過流束0.32m3/m2/d)(Hydranautics)、SWC6MAX(同0.43m3/m2/d)(Hydranautics)、SW30ULE(同0.39m3/m2/d)(DOW)、SW30HRLE(同0.25m3/m2/d)(DOW)、TM820V(同0.32m3/m2/d)(東レ)、TM820K(同0.20m3/m2/d)(東レ)、HR−RO(同0.36m3/m2/d)(栗田工業)等が挙げられる。 【0060】 第2逆浸透膜処理、または第2逆浸透膜処理以降の逆浸透膜より有効圧力1MPaあたりの透過流束が高く、第1逆浸透膜として用いることができる膜としては、ES20−D8(有効圧力1MPaあたりの透過流束1.14m3/m2/d)(日東電工)、LFC3−LD(同0.79m3/m2/d)(Hydranautics)、BW30XFR(同0.84m3/m2/d)(DOW)、TML20−D(同0.78m3/m2/d)(東レ)等が挙げられる。 【0061】 逆浸透膜の膜形状としては、特に限定されるものではなく、例えば、環状型、平膜型、スパイラル型、中空糸型等が挙げられ、スパイラル型については、4インチ型、8インチ型、16インチ型等のいずれでもあってもよい。 【0062】 第1逆浸透膜処理装置12、第2逆浸透膜処理装置14、および第2逆浸透膜処理装置以降の逆浸透膜処理装置は、それぞれ複数のモジュールで構成されてもよい。すなわち、供給水を各逆浸透膜装置の複数のモジュールにそれぞれ供給してもよく、また、モジュールの濃縮水を、次のモジュールの供給水としてもよい(クリスマスツリー方式)。 【0063】 逆浸透膜装置において、被処理水のpH7以上でスケールが発生する場合には、スケール抑制のために分散剤を殺菌剤と併用してもよい。分散剤としては、例えば、ポリアクリル酸、ポリマレイン酸、ホスホン酸等が挙げられる。分散剤の被処理水への添加量は、例えば、RO濃縮水中の濃度として0.1〜1,000mg/Lの範囲である。 【0064】 また、分散剤を使用せずにスケールの発生を抑制するためには、例えば、RO濃縮水中のシリカ濃度を溶解度以下に、カルシウムスケールの指標であるランゲリア指数を0以下になるように、逆浸透膜装置の回収率等の運転条件を調整することが挙げられる。 【0065】 逆浸透膜装置の用途としては、例えば、超純水製造における1次純水システム、排水回収等が挙げられる。これらの用途に対して、従来の「有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/dを超える逆浸透膜」を用いた2段逆浸透膜装置では除去しづらかったホウ素や、分子量200以下の低分子有機物の少なくともいずれかを含んだ被処理水の処理に好適に用いることができる。分子量200以下の低分子有機物として、メタノール、エタノール、イソプロピルアルコール(IPA)等のアルコール化合物、モノエタノールアミン、尿素等のアミン化合物、水酸化テトラメチルアンモニウム等のテトラアルキルアンモニウム塩等が挙げられる。 【0066】 <水処理システム> 本実施形態に係る逆浸透膜処理方法および処理システムにおいて、図2に示すように、被処理水は、予め、前処理において処理された前処理水であることが好ましい。 【0067】 例えば、図2に示すように、水処理システム3は、上記逆浸透膜処理システム1を備え、逆浸透膜処理システム1の前段に前処理システム50を備える。水処理システム3は、必要に応じて前処理水槽52を備えてもよい。 【0068】 水処理システム3において、前処理システム50の入口には原水供給配管54が接続され、前処理システム50の出口と前処理水槽52の入口とは前処理水配管56により接続されている。前処理水槽52の出口と逆浸透膜処理システム1の入口とは前処理水供給配管58により接続されている。例えば、前処理水供給配管58は、逆浸透膜処理システム1の被処理水配管18と接続されている。 【0069】 改質剤としての酸化剤を添加するための酸化剤添加配管30は、酸化剤添加配管30aとして原水供給配管54、酸化剤添加配管30bとして前処理システム50、酸化剤添加配管30cとして前処理水配管56、酸化剤添加配管30dとして前処理水槽52、酸化剤添加配管30eとして前処理水供給配管58、酸化剤添加配管30fとして逆浸透膜処理システム1のうちの少なくとも1つに接続されていてもよい。 【0070】 水処理システム3において、原水が、原水供給配管54を通して前処理システム50に供給され、前処理システム50において、後述する前処理が行われる(前処理工程)。前処理が行われた前処理水は、前処理水配管56を通して必要に応じて前処理水槽52に貯留された後、前処理水供給配管58を通して逆浸透膜処理システム1に供給される。逆浸透膜処理システム1において、上記の通り、2段以上の逆浸透膜処理が行われる(逆浸透膜処理工程)。 【0071】 改質剤としての酸化剤が、酸化剤添加配管30aを通して原水供給配管54、酸化剤添加配管30bを通して前処理システム50、酸化剤添加配管30cを通して前処理水配管56、酸化剤添加配管30dを通して前処理水槽52、酸化剤添加配管30eを通して前処理水供給配管58、酸化剤添加配管26fを通して逆浸透膜処理システム1のうちの少なくとも1つにおいて、原水、前処理水、被処理水のうちの少なくとも1つに添加されてもよい。 【0072】 前処理工程においては、生物処理、凝集処理、凝集沈殿処理、加圧浮上処理、ろ過処理、膜分離処理、活性炭処理、オゾン処理、紫外線照射処理、軟化処理、脱炭酸処理等の生物学的、物理的または化学的な前処理、およびこれらの前処理のうちの2つ以上の組み合わせが必要に応じて行われる。 【0073】 逆浸透膜処理システム1において、システム内に逆浸透膜の他に、全塩素濃度測定装置、ポンプ、安全フィルタ、流量測定装置、圧力測定装置、温度測定装置、酸化還元電位(ORP)測定装置、残留塩素測定装置、電気伝導度測定装置、pH測定装置、エネルギー回収装置等を必要に応じて備えてもよい。 【0074】 逆浸透膜処理システム1の後処理(後処理工程)として、再生型イオン交換樹脂装置、電気式脱イオン処理装置(EDI)、非再生型イオン交換樹脂装置、脱気膜処理装置、紫外線殺菌装置、紫外線酸化装置、加熱装置、限外ろ過装置等を備えてもよい。 【0075】 水処理システム3において、必要に応じて、酸化剤以外の分散剤、殺菌剤や、pH調整剤等が、原水供給配管54、前処理システム50、前処理水配管56、前処理水槽52、前処理水供給配管58、逆浸透膜処理システム1のうちの少なくとも1つにおいて、原水、前処理水、被処理水のうちの少なくとも1つに添加されてもよい。 【0076】 <逆浸透膜用改質剤> 本実施形態に係る逆浸透膜用改質剤は、「臭素系酸化剤または塩素系酸化剤」と「スルファミン酸化合物」との混合物を含む安定化次亜臭素酸組成物または安定化次亜塩素酸組成物を含有するものであり、さらにアルカリを含有してもよい。 【0077】 また、本実施形態に係る改質剤は、「臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜臭素酸組成物、または「塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物との反応生成物」を含む安定化次亜塩素酸組成物を含有するものであり、さらにアルカリを含有してもよい。 【0078】 臭素系酸化剤、臭素化合物、塩素系酸化剤およびスルファミン酸化合物については、上述した通りである。 【0079】 塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物の市販品としては、例えば、栗田工業株式会社製の「クリバーターIK−110」が挙げられる。 【0080】 本実施形態に係る改質剤としては、逆浸透膜をより劣化させないため、臭素と、スルファミン酸化合物とを含有するもの(臭素とスルファミン酸化合物の混合物を含有するもの)、例えば、臭素とスルファミン酸化合物とアルカリと水との混合物、または、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物を含有するもの、例えば、臭素とスルファミン酸化合物との反応生成物と、アルカリと、水との混合物が好ましい。 【0081】 本実施形態に係る改質剤のうち、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有するスライム抑制剤、特に臭素とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有するスライム抑制剤は、塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む改質剤(クロロスルファミン酸等)と比較すると、酸化力が高く、改質効果、スライム抑制力、スライム剥離力が著しく高いにもかかわらず、同じく酸化力の高い次亜塩素酸のような著しい膜劣化をほとんど引き起こすことがない。通常の使用濃度では、膜劣化への影響は実質的に無視することができる。このため、改質剤としては最適である。 【0082】 本実施形態に係る改質剤は、次亜塩素酸とは異なり、逆浸透膜をほとんど透過しないため、処理水水質への影響がほとんどない。また、次亜塩素酸等と同様に現場で濃度を測定することができるため、より正確な濃度管理が可能である。 【0083】 改質剤のpHは、例えば、13.0超であり、13.2超であることがより好ましい。改質剤のpHが13.0以下であると改質剤中の有効ハロゲンが不安定になる場合がある。 【0084】 改質剤中の臭素酸濃度は、5mg/kg未満であることが好ましい。改質剤中の臭素酸濃度が5mg/kg以上であると、RO透過水の臭素酸イオンの濃度が高くなる場合がある。 【0085】 <改質剤の製造方法> 本実施形態に係る改質剤は、臭素系酸化剤または塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを混合することにより得られ、さらにアルカリを混合してもよい。 【0086】 臭素と、スルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物を含有する改質剤の製造方法としては、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる工程、または、水、アルカリおよびスルファミン酸化合物を含む混合液に臭素を不活性ガス雰囲気下で添加する工程を含むことが好ましい。不活性ガス雰囲気下で添加して反応させる、または、不活性ガス雰囲気下で添加することにより、改質剤中の臭素酸イオン濃度が低くなり、RO透過水中の臭素酸イオン濃度が低くなる。 【0087】 用いる不活性ガスとしては限定されないが、製造等の面から窒素およびアルゴンのうち少なくとも1つが好ましく、特に製造コスト等の面から窒素が好ましい。 【0088】 臭素の添加の際の反応器内の酸素濃度は6%以下が好ましいが、4%以下がより好ましく、2%以下がさらに好ましく、1%以下が特に好ましい。臭素の反応の際の反応器内の酸素濃度が6%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。 【0089】 臭素の添加率は、改質剤全体の量に対して25重量%以下であることが好ましく、1重量%以上20重量%以下であることがより好ましい。臭素の添加率が改質剤全体の量に対して25重量%を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合がある。1重量%未満であると、殺菌力が劣る場合がある。 【0090】 臭素添加の際の反応温度は、0℃以上25℃以下の範囲に制御することが好ましいが、製造コスト等の面から、0℃以上15℃以下の範囲に制御することがより好ましい。臭素添加の際の反応温度が25℃を超えると、反応系内の臭素酸の生成量が増加する場合があり、0℃未満であると、凍結する場合がある。 【実施例】 【0091】 以下、実施例および比較例を挙げ、本発明をより具体的に詳細に説明するが、本発明は、以下の実施例に限定されるものではない。 【0092】 [安定化次亜臭素酸組成物の調製] 窒素雰囲気下で、液体臭素:16.9重量%(wt%)、スルファミン酸:10.7重量%、水酸化ナトリウム:12.9重量%、水酸化カリウム:3.94重量%、水:残分を混合して、安定化次亜臭素酸組成物を調製した。安定化次亜臭素酸組成物のpHは14、全塩素濃度は7.5重量%であった。全塩素濃度は、HACH社の多項目水質分析計DR/4000を用いて、全塩素測定法(DPD(ジエチル−p−フェニレンジアミン)法)により測定した値(mg/L asCl2)である。安定化次亜臭素酸組成物の詳細な調製方法は以下の通りである。 【0093】 反応容器内の酸素濃度が1%に維持されるように、窒素ガスの流量をマスフローコントローラでコントロールしながら連続注入で封入した2Lの4つ口フラスコに1436gの水、361gの水酸化ナトリウムを加え混合し、次いで300gのスルファミン酸を加え混合した後、反応液の温度が0〜15℃になるように冷却を維持しながら、473gの液体臭素を加え、さらに48%水酸化カリウム溶液230gを加え、組成物全体の量に対する重量比でスルファミン酸10.7%、臭素16.9%、臭素の当量に対するスルファミン酸の当量比が1.04である、目的の安定化次亜臭素酸組成物(組成物1)を得た。生じた溶液のpHは、ガラス電極法にて測定したところ、14であった。生じた溶液の臭素含有率は、臭素をヨウ化カリウムによりヨウ素に転換後、チオ硫酸ナトリウムを用いて酸化還元滴定する方法により測定したところ16.9%であり、理論含有率(16.9%)の100.0%であった。また、臭素反応の際の反応容器内の酸素濃度は、株式会社ジコー製の「酸素モニタJKO−02 LJDII」を用いて測定した。なお、臭素酸濃度は5mg/kg未満であった。 【0094】 なお、pHの測定は、以下の条件で行った。 電極タイプ:ガラス電極式 pH測定計:東亜ディーケーケー社製、IOL−30型 電極の校正:関東化学社製中性リン酸塩pH(6.86)標準液(第2種)、同社製ホウ酸塩pH(9.18)標準液(第2種)の2点校正で行った 測定温度:25℃ 測定値:測定液に電極を浸漬し、安定後の値を測定値とし、3回測定の平均値 【0095】 <実施例1> イソプロピルアルコール(IPA)3ppmを含む原水(20m3/h)を図1に示す逆浸透膜処理システムで処理した。1段目の逆浸透膜処理の回収率を75%、2段目の逆浸透膜処理の回収率を90%とした。逆浸透膜は、8インチのスパイラル膜を用い、1段目および2段目の膜本数は、それぞれ10本とした。1段目の逆浸透膜処理には、逆浸透膜として「ES20−D8」(日東電工社製、有効圧力1MPaあたりの透過流束:1.14m3/m2/d)を用い、2段目の逆浸透膜処理には、逆浸透膜として「SWC5MAX」(Hydranautics社製、有効圧力1MPaあたりの透過流束:0.32m3/m2/d)を用いた。結果を表1に示す。 【0096】 なお、有効圧力1MPaあたりの透過流束は、各膜メーカーのカタログ値より計算した。また、カタログのない膜については、2段目逆浸透膜装置に付属している計器の指示値を計測し、得られた平均操作圧、透過水量、原水水質をもとに透過流束を計算した。 【0097】 <実施例2> 1段目の逆浸透膜処理には、逆浸透膜として「ES20−D8」を用い、2段目の逆浸透膜処理には、逆浸透膜として「SWC5MAX」を用いた。2段目の逆浸透膜には、以下の方法により阻止率向上処理(改質処理)を施した。それ以外は、実施例1と同様にして、逆浸透膜処理を行った。結果を表1に示す。 【0098】 [阻止率向上処理] 阻止率向上剤(改質剤)として上記安定化次亜臭素酸組成物10ppmを含む水を、操作圧2.0MPa、pH4、水温25±1℃で通水した。処理後の膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.2m3/m2/dとなったところで、処理を終了した。 【0099】 <比較例1> 1段目の逆浸透膜処理、2段目の逆浸透膜処理ともに、「ES20−D8」を用いた。2段目の逆浸透膜には、以下の方法により阻止率向上処理(改質処理)を施した。それ以外は、実施例1と同様にして、逆浸透膜処理を行った。結果を表1に示す。 【0100】 [阻止率向上処理] 阻止率向上剤(改質剤)としてポリエチレングリコール(重量平均分子量MW=5000)1ppmを含む水を用い、操作圧1MPa、pH7、水温25℃で、濃縮水および透過水を全量供給水に戻す全循環運転を12時間行った。処理後の膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は1.0m3/m2/dであった。 【0101】 <比較例2> 2段目の逆浸透膜として「ES20」(日東電工社製、有効圧力1MPaあたりの透過流束1.14m3/m2/d)を用いた以外は、実施例1と同様にして、逆浸透膜処理を行った。結果を表1に示す。 【0102】 <比較例3> 2段目の逆浸透膜として「LFC3−LD」(Hydranautics製、有効圧力1MPaあたりの透過流束0.79m3/m2/d)を用いた以外は、実施例1と同様にして、逆浸透膜処理を行った。結果を表1に示す。 【0103】 【表1】 【0104】 実施例の処理方法の方が比較例の処理方法に比較して、透過水のIPA濃度が低減し、水質が向上した。また、改質膜として安定化次亜臭素酸組成物を用いることで、水質がより向上した。 【0105】 <実施例3> 実施例2の方法で改質した逆浸透膜を2段目の逆浸透膜処理に用いて、2段目逆浸透膜処理の入口において上記安定化次亜臭素酸組成物を添加しながら1000時間通水した。安定化次亜臭素酸組成物は、2段目逆浸透膜処理の濃縮水において全塩素濃度が1.0(mg/L asCl2)となるように、添加した。その他の通水条件は、実施例2と同じとした。結果を表2に示す。 【0106】 <実施例4> 改質剤として次亜塩素酸を使用して改質した逆浸透膜を用いて、実施例3と同様に通水した。改質条件は、改質剤を次亜塩素酸に変更した以外は実施例2と同じとした。処理後の膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束は0.2m3/m2/dであった。この次亜塩素酸により改質した逆浸透膜を2段目の逆浸透膜処理に用いて、2段目逆浸透膜処理の入口において次亜塩素酸を添加しながら1000時間通水した。次亜塩素酸は、2段目逆浸透膜処理の濃縮水において全塩素濃度が1.0(mg/L asCl2)となるように、添加した。その他の通水条件は、実施例2と同じとした。結果を表2に示す。 【0107】 【表2】 【0108】 運転時間1000時間後の2段目の逆浸透膜処理の透過水中のIPA濃度を比較すると、実施例3ではほとんど変化が見られないのに対し、実施例4ではIPA濃度が増加した。安定化次亜臭素酸組成物は次亜塩素酸と比較すると逆浸透膜への劣化影響が低いため、長時間の改質でも膜劣化を抑制することができたと考えられる。 【0109】 このように実施例の方法により、2段以上の逆浸透膜で処理する逆浸透膜処理システムおよび処理方法において、十分な水質向上効果が得られた。 【符号の説明】 【0110】 1 逆浸透膜処理システム、3 水処理システム、10 被処理水槽、12 第1逆浸透膜処理装置、14 第2逆浸透膜処理装置、16 ポンプ、18 被処理水配管、20 被処理水供給配管、22 第1透過水配管、24 第1濃縮水配管、26 第2透過水配管、28 第2濃縮水配管、30,30a,30b,30c,30d,30e,30f 酸化剤添加配管、50 前処理システム、52 前処理水槽、54 原水供給配管、56 前処理水配管、58 前処理水供給配管。 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理手段と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理手段と、 を備え、 前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理システム。 【請求項2】(削除) 【請求項3】(削除) 【請求項4】(削除) 【請求項5】 分子量200以下の低分子有機物を含む被処理水を第1逆浸透膜に通水して第1透過水および第1濃縮水を得る第1の逆浸透膜処理工程と、 少なくとも、前記第1透過水を第2逆浸透膜に通水して第2透過水および第2濃縮水を得る第2の逆浸透膜処理工程と、 を含み、 前記第2逆浸透膜が、臭素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜臭素酸組成物および塩素系酸化剤とスルファミン酸化合物とを含む安定化次亜塩素酸組成物のうち少なくとも1つにより改質された膜であり、 前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が前記第1逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束より低く、かつ、前記第2逆浸透膜の有効圧力1MPaあたりの透過流束が0.5m3/m2/d以下であることを特徴とする逆浸透膜処理方法。 【請求項6】(削除) 【請求項7】(削除) 【請求項8】(削除) |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-02-22 |
出願番号 | P2016-225188 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
YAA
(C02F)
P 1 651・ 113- YAA (C02F) P 1 651・ 853- YAA (C02F) P 1 651・ 851- YAA (C02F) P 1 651・ 536- YAA (C02F) P 1 651・ 537- YAA (C02F) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
原 賢一 |
特許庁審判官 |
大光 太朗 金 公彦 |
登録日 | 2020-12-09 |
登録番号 | 6807219 |
権利者 | オルガノ株式会社 |
発明の名称 | 逆浸透膜処理システムおよび逆浸透膜処理方法 |
代理人 | 特許業務法人YKI国際特許事務所 |
代理人 | 特許業務法人YKI国際特許事務所 |