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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01B
管理番号 1384142
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-06 
確定日 2022-02-26 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6810778号発明「導電性ペーストとこれを用いた電子部品の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6810778号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−11]について訂正することを認める。 特許第6810778号の請求項1、2及び4ないし11に係る特許を維持する。 特許第6810778号の請求項3係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6810778号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和1年9月25日の出願であって、令和2年12月15日にその特許権の設定登録(請求項の数11)がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、その特許に対し、令和3年7月6日に特許異議申立人 森本 晋(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし11)がされ、同年9月10日付で取消理由が通知され、同年11月12日に特許権者 株式会社ノリタケカンパニーリミテッド(以下、「特許権者」という。)より訂正の請求(以下、「本件訂正請求」という。)がなされるとともに意見書の提出がされ、同年同月26日付で特許法第120条の5第5項に基づく訂正請求があった旨の通知を行ったところ、令和4年1月4日に特許異議申立人より意見書の提出がされたものである。

第2 訂正の適否についての判断
1 訂正の内容
本件訂正請求による訂正の内容は、以下のとおりである。(下線は、訂正箇所について合議体が付したものである。)
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲第1項に、「25℃において、前記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下である、グラビア印刷用の導電性ペースト。」と記載されているのを、「25℃において、前記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下であり、前記粘度V40に対する前記導電性ペーストのせん断速度4s−1における粘度V4の比(V4/V40)が、7以下である、グラビア印刷用の導電性ペースト。」に訂正する。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する請求項2及び4ないし11も同様に訂正する。

(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項3を削除する。

(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項4に、「請求項1〜3のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」と記載されているのを、「請求項1または2に記載の導電性ペースト。」に訂正する。
請求項4の記載を直接又は間接的に引用する請求項5ないし11も同様に訂正する。

(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項5に、「請求項1〜4のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」と記載されているのを、「請求項1、2、4のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」に訂正する。
請求項5の記載を直接又は間接的に引用する請求項6ないし11も同様に訂正する。

(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項8に、「請求項1〜7のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」と記載されているのを、「請求項1、2、4、5、6、7のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」に訂正する。
請求項8の記載を直接又は間接的に引用する請求項9ないし11も同様に訂正する。

(6) 訂正事項6
特許請求の範囲の請求項9に、「請求項1〜8のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」と記載されているのを、「請求項1、2、4、5、6、7、8のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」に訂正する。
請求項9の記載を直接又は間接的に引用する請求項10及び11も同様に訂正する。

(7) 訂正事項7
特許請求の範囲の請求項10に、「請求項1〜9のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」と記載されているのを、「請求項1、2、4、5、6、7、8、9のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」に訂正する。
請求項10の記載を引用する請求項11も同様に訂正する。

(8) 訂正事項8
特許請求の範囲の請求項11に、「請求項1〜10のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」と記載されているのを、「請求項1、2、4、5、6、7、8、9、10のいずれか1項に記載の導電性ペースト。」に訂正する。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否
(1) 訂正事項1について
訂正事項1に係る請求項1の訂正は、導電性ペーストにおける粘度に関し、「粘度V40に対する前記導電性ペーストのせん断速度4s−1における粘度V4の比(V4/V40)が、7以下である」ことをさらに特定するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項1に係る請求項1の訂正は、訂正前の請求項3の記載からみて、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内においてするものであるから、新規事項の追加に該当しない。また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様である。

(2) 訂正事項2について
訂正事項2に係る請求項3の訂正は、請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項2に係る請求項3の訂正が、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。

(3) 訂正事項3ないし8について
訂正事項3ないし8に係る請求項4、5及び8ないし11の訂正は、請求項3が削除されることに伴い、引用先請求項から請求項3を削除するものであるから、特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。
そして、訂正事項3ないし8に係る請求項4、5及び8ないし11の訂正が、新規事項の追加に該当せず、また、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではないことも明らかである。
請求項4、5及び8ないし10を直接又は間接的に引用する他の請求項についても同様である。

3 訂正の適否についてのまとめ
以上のとおりであるから、本件訂正請求による訂正は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる事項を目的とするものであり、かつ、同条第9項において準用する同法第126条第5項及び第6項の規定に適合する。
したがって、本件特許の特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[1−11]について訂正することを認める。

第3 本件特許
上記第2のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし11に係る発明(以下、順に「本件特許発明1」のようにいう。)は、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1ないし11に記載された次の事項により特定されるものである。

「【請求項1】
(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含む、グラビア印刷用の導電性ペーストであって、
前記(E)分散剤は、下記式(1):
【化1】

(ただし、式(1)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。);で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含み、
25℃において、前記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下であり、前記粘度V40に対する前記導電性ペーストのせん断速度4s−1における粘度V4の比(V4/V40)が、7以下である、グラビア印刷用の導電性ペースト。
【請求項2】
前記(E)分散剤が、下記式(2):
【化2】

(ただし、式(2)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、Rは、炭素数3〜30であり、直鎖または分岐、飽和または不飽和の脂肪族基である。);で表される化合物である、
請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記(B)誘電体粉末の平均粒子径D2に対する前記(A)導電性粉末の平均粒子径D1の比(D1/D2)が、2以上である、
請求項1または2のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記(D)溶剤が、炭化水素系溶剤と、炭化水素系以外の溶剤とを含み、
前記炭化水素系以外の溶剤が、沸点が230℃以下であり、かつ、Fedorsの溶解度パラメータが9.9(cal/cm3)0.5以下の溶剤を含む、
請求項1、2、4のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記炭化水素系以外の溶剤が、
沸点が200℃以上であり、かつ、前記溶解度パラメータが10.0(cal/cm3)0.5以上である第1溶剤と、
沸点が220℃以下であり、かつ、前記溶解度パラメータが9.5(cal/cm3)0.5以下である第2溶剤と、
を含む、
請求項5に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記炭化水素系以外の溶剤全体の前記溶解度パラメータが、9.8(cal/cm3)0.5以下である、
請求項5または6に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記(E)分散剤が、前記導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、0.5質量%以下である、
請求項1、2、4、5、6、7のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記(C)バインダ樹脂が、ポリビニルアセタール系樹脂を含み、
前記ポリビニルアセタール系樹脂の重量平均分子量が20万以下である、
請求項1、2、4、5、6、7、8のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
積層セラミック電子部品の内部電極層を形成するために用いられる、
請求項1、2、4、5、6、7、8、9のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
請求項1、2、4、5、6、7、8、9、10のいずれか1項に記載の導電性ペーストを基材上に付与して焼成することを包含する、電子部品の製造方法。」

第4 特許異議申立理由の概要
特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし11に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記1〜4)及び証拠方法(同5)は、次のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証を主引用例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第4号証を主引用例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第4号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第7号証を主引用例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第7号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

4 申立理由4(サポート要件)
本件特許発明1ないし11の特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

なお、申立理由4の具体的理由は、おおむね次のとおりである。

(1) 申立理由4−1
本件特許の請求項1〜7、9〜11に係る発明は、「(E)分散剤」の含有量を特定していない。さらに、請求項8に係る発明、及び、請求項8に従属する請求項9〜11に係る発明は、「(E)分散剤」の含有量を特定しているものの、「(E)分散剤」に含まれる「(式)1又は(式)2で表されるジカルボン酸系分散剤」の含有量を特定していない。
この点について、本願の明細書の発明の詳細な説明、実施例等の記載を見ても、「(E)分散剤」として、「式(1)で表されるジカルボン酸系分散剤」以外の「他のアニオン系分散剤や、アミン系の分散剤」(例えば、比較例3〜9の分散剤)を含む場合にまで、本発明の課題が解決できるとは当業者が認識することはできない。

(2) 申立理由4−2
本件特許の請求項1に係る発明は、「(D)溶剤」の種類を特定していない。また、本件特許の請求項5に係る発明は「(D)溶剤」に含まれる「炭化水素系溶剤」の種類を特定していない。
この点について、本件特許明細書では、炭化水素系溶剤として「ナフテン系溶剤」を含む例にて、分散性、グラビア印刷性とあわせて、乾燥性及びシートアタック性が良好であることが示されているが、甲第19号証や甲第24号証に記載されているように、「炭化水素系溶剤」の種類によって、乾燥性や樹脂の溶解性が異なることは周知の技術事項である。
してみれば、本件特許の請求項1〜11に係る発明において、炭化水素系溶剤として、「ナフテン系溶剤」以外の、他の溶剤を用いた場合にまで効果があるとはいえず、本発明の課題が解決できるとは当業者が認識することはできない。

5 証拠方法
甲第1号証:国際公開第2014/080600号
甲第2号証:HYPERMERTMのKD−12(CRODA社)の安
全データシート(SDS)、クローダジャパン株式会社、
平成30年(2018年)3月28日
甲第3号証:CAS番号:28299−29−8の基本情報、特許異議
申立人、令和3年6月出力
甲第4号証:異議申立事件(異議2017−701010号)における
特許決定公報
甲第5号証:HYPERMERTMのKD−16(CRODA社)の安
全データシート(SDS)、クローダジャパン株式会社、
平成29年(2017年)11月29日
甲第6号証:特開2004−200450号公報
甲第7号証:特許第6511109号公報
甲第8号証:特開2017−141332号公報
甲第9号証:特開2017−88668号公報
甲第10号証:特開2003−242835号公報
甲第11号証:特開2003−187638号公報
甲第12号証:特開2006−244845号公報
甲第13号証:Technical Report No.UCB/EECS-2015-213,US,Electrical
Engineering and Computer Sciences University of
California at Berkeley,December 1,2015.(https://
www2.eecs.berkeley.edu/Pubs/TechRpts/2015/EECS-2015-
213.pdf) (27頁〜28頁)、Electrical Engineering
and Computer Sciences University of California at
Berkeley、平成27年(2015年)12月1日
甲第13−1号証:甲第13号証の訳文
甲第14号証:JOURNAL OF DISPLAY TECHNOLOGY,Vol.7;No.6;pp.318-324;
June 2011(https://www.researchgate.net/publication/
252060335_Gravure_Printing_of_Conductive_Inks_on_
Glass_Substrates_for_Applications_in_Printed_
Electroniocs)、IEEE Photonics Society、平成23年
(2011年)6月
甲第14−1号証:甲第14号証の訳文
甲第15号証:特開2015−166452号公報
甲第16号証:特許第5028514号公報
甲第17号証:特許第5899379号公報
甲第18号証:特開2007−273677号公報
甲第19号証:特開2012−174797号公報
甲第20号証:特開2010−287763号公報
甲第21号証:特開20189−36435号公報
甲第22号証:特許第5566686号公報
甲第23号証:特開2017−143202号公報
甲第24号証:特開2007−19122号公報

なお、証拠の表記については、おおむね特許異議申立書及び証拠説明書の記載にしたがった。

また、特許異議申立人は、令和4年1月4日に提出した意見書に添付して、次の参考資料1を提出している。
参考資料1:甲第14号証の図3の説明図

第5 令和3年9月10日付で特許権者に通知した取消理由の概要
当審が令和3年9月10日付で特許権者に通知した取消理由通知における取消理由の概要は、次のとおりである。なお、取消理由は申立理由1を包含する。

取消理由(甲第1号証を主引例とする進歩性
本件特許の請求項1ないし11に係る特許は、本件特許の出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。

第6 当審の判断
1 取消理由についての判断
(1) 甲第1号証の記載事項等
ア 甲第1号証の記載事項
甲第1号証には、「ニッケル粉末、導電ペースト、および、積層セラミック電子部品」に関し、次の記載がある。(なお、下線は各証拠において付されていたものに加え、合議体が付したものもある。以下同様。)

「[請求項1] 積層セラミック電子部品の内部電極に用いるニッケル粉末であって、
X線回折によって面心立方格子(FCC)構造のピークが得られ、
a軸長が3.530Å以上3.600Å未満であり、
ニッケルの含有率が50質量%以上である、ニッケル粉末。
[請求項2] 請求項1に記載のニッケル粉末を用いた導電ペースト。
[請求項3] 請求項2に記載の導電ペーストを用いて内部電極を形成した積層セラミック電子部品。」

「[0001] 本発明は、ニッケル粉末、導電ペースト、および、積層セラミック電子部品に関する。」

「[0008] 本発明は、以上の点を鑑みてなされたものであり、積層セラミック電子部品の内部電極に用いるニッケル粉末であって、焼結温度が高く、凝集が抑制され、高周波特性が改善されたニッケル粉末を提供することを目的とする。」

「[0028] 本発明のニッケル粉末は、例えば、積層コンデンサ、積層インダクタ、積層アクチュエーターなどの積層セラミック電子部品の内部電極を形成する材料として、好適に用いることができる。この場合、本発明のニッケル粉末を用いて導電ペーストを作製し、作製した導電ペーストを用いて内部電極を作製すればよい。なお、導電ペーストおよび積層セラミック電子部品の製造方法は、特に限定されず、従来公知の方法を用いることができる。」

「[0029] 以下に、実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。ただし、本発明はこれらに限定されるものではない。
[0030] <PVD法によるニッケル粉末の製造>
図1のPVD装置1を用いて、ニッケル粉末を製造した。
まず、チャンバ11内を10Pa以下まで真空引きし、アルゴンで満たし0.7気圧となったところで、ニッケルと添加金属とを一緒に溶融させ試料4を作製した。試料支持台5上に試料4をセットし、試料4の質量は合計で60gとなるようにした。その後、トーチ13の先端部に取り付けてある電極2からアーク3を試料4に向かって飛ばし、溶融させた。より均一な試料とするため、溶融させた試料4を裏返して溶融させ、この操作を3回繰り返した。このようにして得られた試料4を用いた。
製造条件は、アーク雰囲気をアルゴンと水素との混合ガス雰囲気として、その体積比(アルゴン/水素)を50/50とした。また、チャンバ11内の圧力を0.7気圧として、試料4に対してアーク放電を行い、アーク電流150A、アーク電圧40Vとなるように調整し、蒸発した金属蒸気を、熱交換器6で十分に冷却した後、捕集器12の捕集フィルタ7で、ニッケル粉末を捕集した。トーチ13の先端の電極2には、3質量%の酸化トリウムを添加したタングステン電極を用いた。トーチ用流量計9で測定されるガス流量を1NL/minとし、チャンバ用流量計10で測定されるキャリアガスの流量を150NL/minとして、ガスを循環ポンプ8で循環させた。
捕集したニッケル粉末は、窒素ガスをベースとしたガスで徐酸化を行った。上記と同じガス流量でガスを循環させ、酸素0.25%で30分、酸素1%で30分、酸素5%で30分、酸素20%で30分の徐酸化を行った。徐酸化を行った後、フィルタ7の内側から外側にガスを噴出させ、フィルタ7に付着した粉末を落とすことで、ニッケル粉末を回収した。

[0031] <CVD法によるニッケル粉末の製造>
図2のマイクロリアクタ31を用いて、ニッケル粉末を製造した。なお、反応部37の内径dを26mm、反応部37の長さlを130mmとした。
まず、石英反応管33を電気炉32により加熱し、塩化スズを気化させる気化部の温度を800℃、塩化ニッケルを気化させる気化部の温度を1120℃、水素還元反応させる反応部37の温度を1050℃に保ち、キャリア窒素ガスノズル35からの窒素ガスのガス量を6.5NL/minとし、水素ガスノズル34からの水素ガスのガス量を3.0NL/minとし、電気炉32内の温度およびガス量を安定させた。
次に、無水塩化ニッケル40gおよび無水塩化スズを充填させた試料ボート36を電気炉32の外側から内側に押し込み、ニッケル粉末を製造した。このとき、無水塩化スズの量は、実施例1では1.2g、実施例2および3では3.1g、実施例4では5.1gとした。なお、図2のマイクロリアクタ31においては、気化した塩化ニッケルガスおよび塩化スズガスがスムーズに反応部37に送られるようにするため、キャリア窒素ガスが試料ボート36内を通過する構造とした。製造したニッケル粉末については、冷却管(図示せず)内を通過させてフィルタ(図示せず)にて捕集し、回収した。」

「[0038]
[表1]



「[0041] 次に、比較例1のニッケル粉末および実施例2のニッケル粉末について、インピーダンスの周波数依存性を調べた。具体的には、比較例1で得られた粉末を分級したニッケル粉末、または、実施例2で得られた未分級のニッケル粉末40gに対して、分散剤(KD−12、クローダ・ジャパン社製)1.44g、バインダ(TE−45、ヤスハラケミカル社製)31.25g、および、溶剤(ターピネオールC)27.31gを配合し、導電ペーストを得た。次に、得られた導電ペーストを、ガラス基板上に塗布した後、650℃で10分焼成することにより、10μm厚の膜状の試料を作製した。作製した試料について、インピーダンス測定器を用いてインピーダンス(単位:Ω)を測定し、周波数(単位:kHz)との関係をプロットしてグラフ化した。
図7は、ニッケル粉末の周波数とインピーダンスとの関係を示すグラフであり、(A)は比較例1、(B)は実施例2である。図7のグラフに示すように、スズを添加した実施例2のニッケル粉末においては、比較例1と比べて、インピーダンスは増加しているものの、周波数が増加してもインピーダンスの増加量は小さく、高周波領域でも低インピーダンスで使うことができることが分かった。
[0042] 次に、比較例1のニッケル粉末および実施例2のニッケル粉末を用いて得られた上記導電ペーストを用いて、積層セラミックコンデンサを作製し、積層評価を行った。積層条件として、誘電体は0.2μmのBT粉を用いたX5R特性材とし、シート厚さ3μm、形状は3225タイプで積層数は5層、焼成温度1220℃、水素0.9%、Wetter35℃とした。
作製した積層セラミックコンデンサについて、LCRメーターを用いて誘電損失(DF、単位:%)を測定し、絶縁抵抗計を用いて絶縁抵抗(単位:×1010Ω)を測定した。なお、各例ともにコンデンサを5個作製し、5個の測定結果を求めた。結果を下記第2表に示す。」

イ 甲第1号証に記載された発明
上記アの記載、特に、段落[0041]、[0042]の記載を中心にまとめると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。
「ニッケル粉末と、
バインダ(TE−45、ヤスハラケミカル社製)と、
溶剤(ターピネオールC)と、
分散剤(KD−12、クローダ・ジャパン社製)を含む、
積層セラミック電子部品の内部電極用の導電性ペースト。」(以下、「甲1発明」という。)

(2) 対比・判断
ア 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「ニッケル粉末」、「バインダ(TE−45、ヤスハラケミカル社製)」、「溶剤(ターピネオールC)」及び「分散剤(KD−12、クローダ・ジャパン社製)」はそれぞれ、本件特許発明1の「(A)導電性粉末」、「(C)バインダー樹脂」、「(D)溶剤」及び「(E)分散剤」に相当する。
また、甲1発明の分散剤である「KD−12、クローダ・ジャパン社製」は、甲第2号証によると、CAS番号28299-29-8の高分子系イオン性分散剤であり、甲第3号証によると、CAS番号28299-29-8は「オクタデシルブタンニ酸」であるから、本件特許発明1の式(1)を満たすものである。
してみると、本件特許発明1と甲1発明は、
「(A)導電性粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含む、導電性ペーストであって、
前記(E)分散剤は、下記式(1):
【化1】

(ただし、式(1)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。);で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含む、
導電性ペースト。」
で一致し、次の点で相違する。

(相違点1−1)
導電性ペーストにおいて、本件特許発明1は、「(B)誘電体粉末」を含むのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

(相違点1−2)
導電性ペーストについて、本件特許発明1は、「グラビア印刷用」と特定されるとともに、「25℃において、前記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下であり、前記粘度V40に対する前記導電性ペーストのせん断速度4s−1における粘度V4の比(V4/V40)が、7以下である」と特定されるのに対し、甲1発明にはそのような特定がない点。

事案に鑑み、まず相違点1−2について検討する。
導電性ペーストを用いて内部電極を作製するにあたり、グラビア印刷法を利用できることは、甲第9号証ないし甲第11号証に記載されているように、本件出願前において周知であり、また、グラビア印刷法で導電性ペーストを塗布する際には、導電性ペーストの粘度を十分小さいものとする必要があることも甲第9号証ないし甲第11号証に記載されている。
しかしながら、甲第1号証や他の証拠全体を見ても、グラビア印刷に用いる導電性ペーストの粘度に関し、粘度V40に対する粘度V4の比(V4/V40)を特定の範囲にすることについては何ら記載されておらず、また、示唆する記載もない。
さらに、グラビア印刷に用いる導電性ペーストに関し、粘度V40に対する粘度V4の比(V4/V40)を相違点1−2にかかる本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることが、当該技術分野において、本件出願時に自明のことであったとする証拠もない。

なお、特許異議申立人は、令和4年1月4日に提出した意見書において、甲第13号証、甲第14号証及び参考資料1等を引用しつつ、相違点1−2にあたる粘度条件はグラビア印刷用の導電性ペーストの粘度範囲と重複するものであることなどをあげ(意見書の3(5)(a))、甲1発明の導電性ペーストを用いてグラビア印刷法により内部電極を作製する際に、導電性ペーストの粘度特定について、相違点1−2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとすることは、特段の困難性はない旨主張する。
しかしながら、上記検討のとおり、甲第1号証には、導電性ペーストの粘度に関し、粘度V40に対する粘度V4の比(V4/V40)に関する記載はなく、また、他の証拠をみても、(A)導電性粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含むグラビア印刷用の導電性ペーストに関し、V4/V40を調整することを示唆する文献もない。
してみれば、特許異議申立人の当該主張は、採用できない。

したがって、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件特許発明2及び4ないし11について
本件特許発明2及び4ないし11は、直接又は間接的に請求項1を引用する発明であり、本件特許発明1の特定事項を全て有するものである。
そして、上記アのとおり、本件特許発明1は、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明2及び4ないし11も、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 取消理由についてのまとめ
上記ア及びイのとおりであるから、取消理由の理由によって、本件特許発明1、2及び4ないし11に係る特許を取り消すことはできない。

2 採用しなかった特許異議申立理由について
特許異議申立理由のうち、取消理由として採用しなかった理由は、申立理由2ないし4である。
以下、順に検討する。
(1) 申立理由2について
ア 主な証拠の記載事項等
(ア) 甲第4号証の記載事項
甲第4号証は、「ニッケル粉末、導電ペースト、および、積層セラミック電子部品」に関する特許第6119939号の特許異議申立事件(異議2017−701010号)の特許決定公報であり、当該特許決定公報には、次の記載がある。
「第5 甲各号証の記載事項、引用発明
・・・(略)・・・
(2)甲第2号証について
(2−1)甲第2号証の記載事項
ア 「3.報告の内容
3-1 本件特許の従来技術である甲第1号証(特開2004−200450号公報)に記載の積層セラミックコンデンサ内部電極用導電性ペーストの性状について、以下のとおり確認試験を行ったので、その結果を報告する。

3-2 目的
甲第1号証の実施例5に記載の導電性ペーストが、本件特許の請求項11が規定する無機粒子分散ペーストの要件を全て充足することの確認。

3-3 確認試験の方法と結果
I.甲第1号証の実施例5の導電性ペーストの作製
甲第1号証の実施例5の導電性ペーストを作製した。すなわち、甲第1号証の実施例1において、共材の走査電子顕微鏡(SEM)観察により求められた粒径を0.01μmに変化させ、共材量を10重量%とした以外は実施例1と同様にすることで、実施例5の導電性ペーストを得た。

(1)まず、内部電極用導電性ペーストに使用される有機バインダを、段落0026の記載に従って製造した。
具体的には、有機溶剤(ターピネオールα、β、γ混合体)94.8gを70℃まで加熱し、インペラー(羽根車)で撹拌しながら樹脂としてエチルセルロース(EC)2.6gとポリビニルブチラール(PVB)2.6gとを、徐々に加えることで、有機バインダを得た。
・有機溶剤としては、日本テルペン化学(株)製、ターピネオールCを使用した。このターピネオールCは、α−、β−、γ−ターピネオールの異性体混合物である。(参考URL;http://www.nipponterpene.co.jp/products/yakuhin/yakuhin07.html)
・ECとしては、ダウケミカル社製のSTD45およびSTD100を使用した。STD45は、本件実施例で使用したB3のエチルセルロースである。これらのECは、トルエン80%・エタノール20%溶液に5重量%で溶解したときの粘度がいずれも約40〜300cpsの範囲にある1グレードの市販品である。(参考URL;http://www.nisshinkasei.co.jp/denzai/ethocel.pdf)
なお、後述する導電性ペーストAは有機添加剤の作用によって相対的に低粘度となったために相対的に高粘度のSTD100を用い、導電性ペーストB,Cは有機添加剤の作用によって相対的に高粘度となったために相対的に低粘度のSTD45を用い、全体の粘度を印刷に適するように調整した。
・PVBとしては、本件実施例で使用したA1のポリビニルブチラールである積水化学工業(株)製、エスレックBM−Sを使用した。このPVBは、トルエン50%・エタノール50%溶液に10%溶解したときの粘度が20〜300cpsの範囲にある1グレード市販品である。(参考URL;http://www.sekisui.co.jp/cs/product/type/slecbk/doc/index.html)

(2)次に、段落0027の記載に従って、Ni粉末と、共材と、上記有機バインダと、有機添加剤としてアミン価/酸価が2.0のものを混合し、スリーロールミルで完全分散させ、導電性ペーストを得た。
・Ni粉末としては、乾式法で作製され、走査電子顕微鏡(SEM)写真観察で求めた平均粒径が0.4μmで、非表面積が1.6m2/gの、市販のNi粉末を用いた。
・共材としては、SEM観察で求めた平均粒径が0.01μm、比表面積が85m2/gの、市販のBaTiO3を用いた。

なお、甲第1号証の実施例には、「アミン価/酸価が2.0」の有機添加剤の具体的な構成が開示されていない。そのため、報告者は、甲第1号証に不記載の条件を恣意的に決定したと判断されることを避けるために、段落0014の記載を基に、電子ペースト分野において、酸価を示す官能基を有する化合物として一般的な、(A)カルボン酸系分散剤、(B)スルホン酸系分散剤および(C)リン酸系分散剤の3種の分散剤と、アミン価を示す官能基を有する化合物として一般的なアミン系界面活性剤と、を用い、下記表1に示す配合でこれらを混合することで、3種の「アミン価/酸価が2.0」の有機添加剤を用意した。そして、導電性ペーストとして、3種の有機添加剤をそれぞれ用いた導電性ペーストA〜Cを作製した。
・カルボン酸系分散剤としては、クローダジャパン(株)製、KD16(酸価299)を用いた。
・スルホン酸系分散剤としては、クローダジャパン(株)製、Zephrym3300B(酸価140)を用いた。
・リン酸系分散剤としては、クローダジャパン(株)製、Crodafos 03A(酸価130)を用いた。
・アミン系界面活性剤としては、関東化学(株)製、ジシクロヘキシルアミン(アミン価395)を用いた。

(3)導電性ペーストA〜Cの配合を、下記表1に示した。なお、導電性ペーストA〜Cにおける全樹脂量を2.0重量%(甲第1号証の表2参照)とするために、有機バインダの配合は39重量%とした。
[表1]


II.甲第1号証の実施例5の導電性ペーストの性状
導電性ペーストA〜Cについて、以下の物性を調べた。

(1)25℃、10rpmにおける導電性ペーストA〜Cの粘度を、ブルックフィールド社製、B型粘度計HBT、スピンドルNo.14を用いて測定した。その結果、導電性ペーストA〜Cの粘度は20〜50Pa・sの範囲にあることが確認できた。

(2)導電性ペーストA〜Cに対して、HAKKE製のレオメータRheoStress6000を用い、25℃、角周波数を6.284rad/s(1Hz)、ひずみ振幅を0.02又は0.2で一定とする周期的なひずみを印加し、応答としてのせん断応力波形からひずみと応力との位相差δを調べ、その結果を下記の表2に示した。
表2から、導電性ペーストA〜Cのひずみ0.02、0.2における位相差δは、60.90°〜73.31°であり、いずれも45°より大きいことが確認できた。

(3)導電性ペーストA〜Cに対して、HAKKE製のレオメータRheoStress6000を用い、25℃、せん断速度40(1/s)における粘度と、せん断速度4(1/s)における粘度と、を測定した。これらの粘度の測定結果から、せん断速度40(1/s)の粘度に対するせん断速度4(1/s)の粘度の比を粘度比として算出し、下記の表2に示した。
表2から、導電性ペーストA〜Cの粘度比は、2.63〜4.18であり、いずれも4.5以下であることが確認できた。
[表2]



(イ) 甲第4号証に記載された発明
上記アの記載、特に、導電ペーストAについての記載をまとめると、甲第4号証には次の発明(以下、「甲4発明」という。)が記載されていると認める。

「Ni粉末と、
共材として、BaTiO3と、
樹脂として、エチルセルロース(EC)及びポリビニルブチラールと、
有機溶剤として、ターピネオールと、
カルボン酸系分散剤として、クローダジャパン(株)製、KD16(酸価299)と、
を含む導電性ペーストであって、
導電性ペーストの、25℃におけるせん断速度40(1/s)における粘度が8.0Pa・sである、
導電性ペースト。」

イ 対比・検討
(ア) 本件発明1について
本件特許発明1と甲4発明とを対比する。
甲4発明の「Ni粉末」、共材としての「BaTiO3」、樹脂としての「エチルセルロース(EC)及びポリビニルブチラール」、有機溶剤としての「ターピネオール」及びカルボン酸系分散剤としての「クローダジャパン(株)製、KD16」はそれぞれ、本件特許発明1の「(A)導電性粉末」、「(B)誘電体粉末」、「(C)バインダー樹脂」、「(D)溶剤」及び「(E)分散剤」に相当する。
また、甲4発明の分散剤である「クローダジャパン(株)製、KD16」は、甲第5号証によると、CAS番号28299-29-8の高分子系イオン性分散剤であり、甲第2号証によると、CAS番号28299-29-8は「オクタデシルブタンニ酸」であるから、本件特許発明1の式(1)を満たすものである。
してみると、本件特許発明1と甲4発明は、
「(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含む、導電性ペーストであって、
前記(E)分散剤は、下記式(1):
【化1】

(ただし、式(1)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。);で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含む、
導電性ペースト。」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点4
導電性ペーストについて、本件特許発明1は、「グラビア印刷用」と特定されるとともに、「25℃において、前記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下であり、前記粘度V40に対する前記導電性ペーストのせん断速度4s−1における粘度V4の比(V4/V40)が、7以下である」と特定されるのに対し、甲4発明にはそのような特定がない点。

上記相違点4について検討する。
甲第4号証には、甲第4号証中で引用する甲第1号証において
「(密着性評価結果および粘度特性評価)
得られた導電性ペースト試料の乾燥膜とその上部誘電体グリーンシートとの密着性評価は、積層チップの圧壊強度、および断面の電極アラインメントを確認することによりおこなった。その方法としては、まず1インチ角に切断された厚さ10μmのBaTiO3系誘電体グリーンシートにペーストを、ウェット厚さ約3μmとなるようスクリーン印刷し、次にそのシートを80℃、3分乾燥した。続いてこのシートを20層積層し、80℃、100kg/cm2で3分間熱圧着し、3mm×5mmに切断してグリーンチップを作製した。」(第7頁第6ないし11行)
との記載があることが摘記されており、スクリーン印刷に適用し、評価を行ったことも記載されている。
つまり、甲4発明は、あくまでスクリーン印刷に適する導電性ペーストに関するものであるから、甲4発明の導電性ペーストを「グラビア印刷用」とする動機付けがあるとはいえず、ましてや、その粘度をさらに調整する必然性もないし、その粘度が自ずと満たすものであるともいえない(甲4発明のせん断速度40(1/s)における粘度(本件特許発明の粘度V40に相当)は8.0Pa・sであり、本件特許発明1の5.0Pa・s以下との特定事項を満たしていない。)。
したがって、本件特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(イ) 本件特許発明2及び4ないし11について
本件特許発明2ないし11はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件及び4特許発明1は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし11についても同様に、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由2についてのまとめ
上記イで検討のとおり、本件特許発明1、2及び4ないし11は、甲4発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1、2及び4ないし11に係る特許は、申立理由2によって取り消すことはできない。

(2) 申立理由3について
ア 主な主な証拠の記載事項等
(ア) 甲第7号証の記載事項
甲第7号証には、「導電性ペースト」に関し、次の記載がある。

「【請求項1】
無機成分と有機成分とを含み、導体膜の形成に用いられる導電性ペーストであって、
前記無機成分は、導電性粉末と、誘電体粉末と、を含み、
前記有機成分は、分散剤と、ビヒクルと、を含み、
前記分散剤は、酸価を有する分散剤を含み、
前記導電性ペーストの単位質量あたりの前記有機成分の全酸価をX(mgKOH)とし、前記導電性ペーストの単位質量あたりの前記無機成分の総比表面積をY(m2)としたときに、次の式:5.0×10-2≦(X/Y)≦6.0×10-1;を満たし、
前記導電性ペーストを基材上に付与して、100℃で10分間乾燥した前記導体膜において、5.0g/cm3を超える導体膜密度を実現する、導電性ペースト。
【請求項2】
前記無機成分は、いずれも、電子顕微鏡観察に基づく個数基準の平均粒子径が0.3μm以下である、請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】
前記導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、前記分散剤が3質量%以下である、請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項4】
前記導電性粉末が、ニッケル、白金、パラジウム、銀および銅のうちの少なくとも1つである、請求項1から3のいずれか一項に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
積層セラミック電子部品の内部電極層を形成するために用いられる、請求項1から4のいずれか一項に記載の導電性ペースト。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストに関する。特には、積層セラミック電子部品の内部電極層の形成に好適な導電性ペーストに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで近年、各種電子機器の更なる小型化や高性能化に伴って、電子機器に実装される電子部品にも一層の小型化や薄型化、高密度化が求められている。かかる要求に応えるべく、例えばチップタイプのMLCCでは、誘電体層および内部電極層の一層分の厚みがサブミクロン〜ミクロンレベルにまで薄層化され、積層数も1000層を超えるようになってきている。このようなMLCCでは、導体膜の表面のわずかな凹凸が積層構造の歪みにつながり、ショート不良等の不具合の原因になり得る。そのため、このような積層セラミック電子部品の製造では、表面平滑性の高い導体膜を形成することが要求される。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、表面平滑性の優れた導体膜を形成することができる導電性ペーストを提供することにある。」

「【0015】
ここで開示される好ましい一態様では、積層セラミック電子部品の内部電極層を形成するために用いられる。積層セラミック電子部品では、導体膜のわずかな凹凸が致命的となり、ショート不良等の不具合が発生する。そのため、積層セラミック電子部品の内部電極層の形成には、上記導電性ペーストを好適に使用することができる。」

「【0027】
<(B)誘電体粉末>
ペーストに含まれる誘電体粉末(B)は、導体膜の焼成時に導電性粉末(A)の熱収縮を緩和する成分である。誘電体粉末(B)の種類等については特に限定されず、一般的に使用される各種の無機材料粉末の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜用いることができる。
誘電体粉末(B)の一好適例として、チタン酸バリウム、チタン酸ストロンチウム、チタン酸カルシウム、チタン酸マグネシウム、ジルコン酸カルシウム、チタン酸ビスマス、チタン酸ジルコニウム、チタン酸亜鉛等の、ABO3で表されるペロブスカイト構造を有するセラミックや、酸化チタン、二酸化チタン等が挙げられる。例えばMLCCの内部電極層を形成する用途では、誘電体層に含まれるセラミック粉末と同種の材料、典型的にはチタン酸バリウム(BaTiO3)の使用が好ましい。これにより、誘電体層と内部電極層との一体性が高められる。
【0028】
誘電体粉末(B)の比誘電率は、典型的には100以上であり、好ましくは1000以上、例えば1000〜20000程度であるとよい。
【0029】
誘電体粉末(B)を構成する粒子の性状、例えば粒子のサイズや形状等は、電極層の断面における最小寸法(典型的には、電極層の厚みおよび/または幅)に収まる限りにおいて、特に限定されない。
誘電体粉末(B)の平均粒子径は、例えばペーストの用途や電極層の寸法(微細度)等に応じて適宜選択することができる。通常は、誘電体粉末(B)の平均粒子径が、概ね数nm〜数十μm程度、例えば10nm〜10μm、好ましくは0.3μm以下であるとよい。電極層の電気伝導性や均質性、緻密性を高める観点からは、誘電体粉末(B)の平均粒子径が、導電性粉末(A)の平均粒子径よりも小さいことが好ましく、導電性粉末(A)の平均粒子径の1/20〜1/2程度であることがより好ましい。」

「【0033】
<(C)分散剤>
ペーストに含まれる分散剤(C)は、無機成分(典型的には、導電性粉末(A)および誘電体粉末(B))をビヒクル(D)中に分散させて、無機成分の粒子の凝集を好適に抑制する成分である。なお、本明細書において「分散剤」とは、親水性部位と親油性部位とを有する両親媒性を有する化合物全般をいい、界面活性剤、湿潤分散剤、乳化剤をも包含する用語である。
【0034】
分散剤(C)の種類等については特に限定されず、一般的に使用される各種の分散剤の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜用いることができる(ただし、後述する(D1)バインダの好適例は除くものとする)。分散剤(C)は、導体膜の焼成時に(典型的には、酸化雰囲気中において250℃以上の温度での加熱処理で)燃え抜けることが好ましい。言い換えれば、分散剤(C)は、沸点が導体膜の焼成温度よりも低いことが好ましい。
【0035】
分散剤(C)は、酸価を有する(酸価が検出下限を超える)分散剤を含んでいる。なお、以下の説明では、酸価を有する分散剤を「有酸価分散剤」ということがある。
有酸価分散剤は、典型的には、親水性基として1つまたは2つ以上の酸性基を有している。有酸価分散剤の一例として、1つまたは2つ以上のカルボキシル基(COO-基)を有するカルボン酸系の分散剤、1つまたは2つ以上のホスホン酸基(PO3-基、PO32-基)を有するリン酸系の分散剤、1つまたは2つ以上のスルホン酸基(SO3-基、SO32-基)を有するスルホン酸系の分散剤等が挙げられる。なかでも、カルボン酸系の分散剤は、概して酸価が高いため、比較的少ない使用量で、ここに開示される技術の効果を安定的に発揮することができる。カルボン酸系の分散剤としては、例えば、モノカルボン酸系の分散剤、ジカルボン酸系の分散剤、ポリカルボン酸系の分散剤、ポリカルボン酸部分アルキルエステル系の分散剤等が挙げられる。
【0036】
有酸価分散剤は、有機成分の全酸価Xを調整するための成分である。有酸価分散剤の酸価は、概ね10mgKOH/g以上、好ましくは30mgKOH/g以上、例えば50mgKOH/g以上であるとよい。これにより、少ない添加量で本願発明の効果を好適に実現することができる。
有酸価分散剤の酸価の上限は特に限定されないが、概ね300mgKOH/g以下、好ましくは200mgKOH/g以下、例えば180mgKOH/g以下であるとよい。これにより、有機成分の全酸価Xを微調整し易くなる。また、ペースト中の無機成分との親和性が過度に高まり過ぎることを抑制できる。したがって、ペーストの粘度上昇を抑えてペーストのハンドリング性や成膜時の作業性を向上することができる。さらに、ペーストのセルフレベリング性を高めて、より滑らかな表面の導体膜を実現することができる。
【0037】
分散剤(C)は、酸価を有しない無酸価分散剤を含んでいてもよい。無酸価分散剤とは、酸価が検出下限値以下(測定精度にもよるが、概ね0.1mgKOH/g以下)の分散剤をいう。無酸価分散剤の一例として、1つまたは2つ以上のアミノ基を親水性基として有するアミン系の分散剤が挙げられる。
【0038】
分散剤(C)の重量平均分子量Mw(ゲルクロマトグラフィー(Gel Permeation Chromatography:GPC)によって測定し、標準ポリスチレン検量線を用いて換算した重量基準の平均分子量。以下同じ。)は、概ね2万未満、例えば50〜15000程度であるとよい。分子量が所定値以上であると、無機成分の粒子間の斥力が増して、凝集を抑制する効果がより良く発揮される。また、分子量が所定値以下であると、ペーストのセルフレベリング性を向上することができ、より滑らかな表面の導体膜を実現することができる。
【0039】
分散剤(C)の含有割合は特に限定されないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、概ね0.01質量%以上、典型的には0.05質量%以上、好ましくは0.1質量%以上、例えば0.12質量%以上であるとよい。分散剤の割合を所定値以上とすることで、分散剤(C)添加の効果をより良く発揮することができる。
また、分散剤(C)の含有割合の上限は特に限定されないが、概ね5質量%以下、好ましくは3質量%以下、例えば2質量%以下であるとよい。分散剤の割合を所定値以下に抑えることで、焼成時に分散剤が燃え抜けやすくなる。これにより、分散剤が電極層中に残存しにくくなる。そのため、電気伝導性に優れた電極層を好適に実現することができる。また、例えば薄膜状の導体膜を形成する場合においても、焼成後の電極層にポアや亀裂等の不具合が生じることを抑制することができる。」

「【0042】
<(D1)バインダ>
バインダ(D1)は、焼成前の導体膜に粘着性を付与して、無機成分同士および無機成分と導体膜を支持する基材とを密着させる成分である。バインダ(D1)は、導体膜の焼成時に(典型的には、酸化雰囲気中において250℃の温度での加熱処理で)燃え抜けることが好ましい。言い換えれば、バインダ(D1)は、沸点が導体膜の焼成温度よりも低いことが好ましい。バインダ(D1)の種類等については特に限定されず、一般的に使用される各種の有機重合体(ポリマー)の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜用いることができる。
【0043】
バインダ(D1)の一好適例として、セルロース系樹脂、ブチラール系樹脂、アクリル系樹脂、エポキシ系樹脂、フェノール系樹脂、アルキド系樹脂、ロジン系樹脂、エチレン系樹脂等の有機高分子化合物が挙げられる。バインダ(D1)は、典型的には繰り返し構成単位を有する。なかでも、焼成時の燃焼分解性に優れる点や環境配慮の点等から、セルロース系樹脂が好ましい。」

「【0047】
バインダ(D1)の重量平均分子量Mwは、概ね2万以上、典型的には2万〜100万、例えば5万〜50万程度であるとよい。分子量が所定値以上であると、バインダ(D1)の粘着性が高まり、少ない添加量で粘着効果を発揮することができる。また、分子量が所定値以下であると、ペーストの粘度を低めに維持して、ペーストのハンドリング性やセルフレベリング性を向上することができる。そのため、導体膜の表面の凹凸をより小さく抑えることができる。」

「【0049】
<(D2)有機溶剤>
有機溶剤(D2)の種類等については特に限定されず、一般的に使用される各種の有機溶剤の中から用途等に応じて1種または2種以上を適宜用いることができる。成膜時の作業性や保存安定性等の観点からは、沸点が概ね200℃以上、例えば200〜300℃の高沸点有機溶剤を主成分(50体積%以上を占める成分。)とするとよい。
有機溶剤(D2)の一好適例として、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール等の、−OH基を有するアルコール系溶剤;エチレングリコール、ジエチレングリコール等の、グリコール系溶剤;ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ブチルカルビトール(ジエチレングリコールモノブチルエーテル)等の、グリコールエーテル系溶剤;イソボルニルアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ブチルカルビトールアセテート(ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート)等の、エステル結合基(R−C(=O)−O−R’)を有するエステル系溶剤;トルエン、キシレン等の炭化水素系溶剤;ミネラルスピリット等が挙げられる。なかでも、アルコール系溶剤を好ましく用いることができる。」

「【0056】
このようなペーストは、上述した材料を所定の含有割合(質量比率)となるよう秤量し、均質に撹拌混合することで調製し得る。材料の撹拌混合は、従来公知の種々の攪拌混合装置、例えばロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー等を用いて行うことができる。また、基材へのペーストの付与は、例えばスクリーン印刷、グラビア印刷、オフセット印刷およびインクジェット印刷等の印刷法やスプレー塗布法等を用いて行うことができる。特に積層セラミック電子部品の内部電極層を形成する用途では、高速印刷が可能なグラビア印刷法が好適である。」

「【0063】
以下、本発明に関するいくつかの実施例を説明するが、本発明を係る実施例に示すものに限定することを意図したものではない。
【0064】
まず、表1に示すように、導電性粒子と誘電体粒子と分散剤とビヒクルとを混合して、導電性ペースト(例1〜11、比較例1〜5)を調製した。ここに開示される導電性ペーストにおいて、無機成分は、導電性粉末と誘電体粉末である。有機成分は、分散剤とバインダと有機溶剤である。
なお、カルボン酸系の分散剤Aの重量平均分子量Mwは500、アミン系の分散剤Bの重量平均分子量Mwは400、ジカルボン酸系の分散剤Cの重量平均分子量Mwは14000である。また、バインダ(エチルセルロース)は、重量平均分子量Mwが異なる複数種の混合物であり、最も重量平均分子量Mwの低いものは8万、質量基準で最も多くの割合を占めるもの(主バインダ)は重量平均分子量Mwが18万である。
また、表1において「Ni粉」とはニッケル粉末を指す。ニッケル粉末としては、平均粒子径(メーカーの公称値。電子顕微鏡観察に基づく個数基準の平均粒子径。)が0.1〜0.3μmにあるものを使用した。また、表1において「BT粉」とはチタン酸バリウム粉末を指す。チタン酸バリウム粉末としては、平均粒子径(メーカーの公称値。電子顕微鏡観察に基づく個数基準の平均粒子径。)が10〜100nmにあるものを使用した。」

「【0069】
【表1】



(イ) 甲第7号証に記載された発明
上記アの記載、特に、表1の例6ないし11及び比較例1ないし4に関する記載についてまとめる(例6ないし11及び比較例1ないし4は、いずれをまとめても、下記の発明という点では同じである)と、甲第7号証には次の発明(以下、「甲7発明」という。)が記載されているものと認める。

「導電性粒子として、Ni粉と、
誘電体粒子として、BaTiO3粉と、
バインダとして、エチルセルロースと、
有機溶剤として、ジヒドロターピネオールと、
分散剤として、ジカルボン酸系の分散剤と、
を含む、グラビア印刷用の導電性ペースト。」

イ 対比・判断
(ア) 本件特許発明1について
本件特許発明1と甲7発明とを対比する。
甲7発明の導電性粒子としての「Ni粉末」、誘電体粒子としての「BaTiO3」、バインダとしての「エチルセルロース」、有機溶剤としての「ジヒドロターピネオール」及び「ジカルボン酸系の分散剤C」はそれぞれ、本件特許発明1の「(A)導電性粉末」、「(B)誘電体粉末」、「(C)バインダー樹脂」、「(D)溶剤」及び「(E)分散剤」に相当する。
してみると、本件特許発明1と甲7発明は、
「(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含む、グラビア印刷用の導電性ペースト。」
で一致し、次の点で相違する。

・相違点7−1
導電性ペーストの(E)分散剤について、本件特許発明1は、「下記式(1):
【化1】

(ただし、式(1)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。);で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含む」ものであるのに対し、甲7発明にはそのような特定がない点。

・相違点7−2
導電性ペーストの粘度に関し、本件特許発明1は、「25℃において、前記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下であり、前記粘度V40に対する前記導電性ペーストのせん断速度4s−1における粘度V4の比(V4/V40)が、7以下である」と特定されるのに対し、甲7発明にはそのような特定がない点。

上記相違点について検討する。
・相違点7−1について
甲7発明では、「ジカルボン酸系の分散剤C」を用いているものの、その具体的な化合物は明らかではないし、甲第7号証の明細書の記載を見ても、「カルボン酸系の分散剤は、概して酸価が高いため、比較的少ない使用量で、ここに開示される技術の効果を安定的に発揮することができる」(【0035】)との記載はあるものの、ジカルボン酸系の分散剤として何ら具体的な化合物は記載も示唆もされていない。
他方、導電性ペーストに、相違点7−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たす分散剤を用いることは、甲第1号証及び甲第4号証に記載されるように、本件特許の出願前において知られているものの、甲第1号証及び甲第4号証はいずれも、「グラビア印刷用」の導電性ペーストであるとはいえず、甲7発明のグラビア印刷用の導電性ペーストに、甲第1号証及び甲第4号証に記載された特定の分散剤を適用する動機付けがあるともいえない。
してみれば、他の相違点については検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲7発明に基づいて当業者が容易になし得たものではない。

(イ) 本件特許発明2及び4ないし11について
本件特許発明2及び4ないし11はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。
そして、上記(ア)で検討のとおり、本件特許発明1は、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2及び4ないし11についても同様に、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

ウ 申立理由3についてのまとめ
上記イで検討のとおり、本件特許発明1、2及び4ないし11は、甲7発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではないから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるとはいえない。
よって、本件特許の請求項1、2及び4ないし11に係る特許は、申立理由3によって取り消すことはできない。

(3) 申立理由4について
ア サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、おおむね次の記載がある。なお、下線は当審で付したものである。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、導電性ペーストとこれを用いた電子部品の製造方法に関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
ところで近年、各種電子機器の高性能化に伴って、電子機器に実装される各電子部品にも薄型化や小型化、高密度化が求められている。例えばMLCCでは、内部電極層の一層分の厚みを薄くして積層数を増やすことにより、MLCCの体積を小型化しつつ静電容量を増大することが求められている。
【0005】
このような事情から、内部電極層形成用の導電性ペーストの付与では、スクリーン印刷法にかえて、グラビア印刷法が用いられるようになってきている。グラビア印刷法は、スクリーン印刷法よりも印刷速度が早いため生産性に優れ、また安定した品質で薄膜状の塗膜を形成することができる。上記の通り、グラビア印刷は印刷速度が早いため、導電性ペーストの粘度をスクリーン印刷時と同程度に調整すると、塗膜の表面が荒れて凹凸が大きくなることがある。このことが積層構造の歪みにつながり、ショート不良等の不具合の原因につながりうる。このため、グラビア印刷用の導電性ペーストは、スクリーン印刷用のものに比べて低粘度に調整する必要がある。しかし、導電性ペースト中に粒径や比重の異なる無機粉末、例えば導電性粉末と誘電体粉末とを含む場合等には、導電性ペースト中でこれら無機粉末が分離しやすくなり、均質な塗膜を形成することが難しい。
【0006】
本発明はかかる点に鑑みてなされたものであり、その目的は、低粘度でグラビア印刷性に優れ、かつ均質な塗膜を形成することができる導電性ペーストと、これを用いた電子部品の製造方法を提供することにある。」

「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明により、(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含む、グラビア印刷用の導電性ペーストが提供される。上記(E)分散剤は、下記式(1):
【化1】

(ただし、式(1)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属である。);で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含む。25℃において、上記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下である。
【0008】
ここに開示される技術では、上記分散剤を含み、かつ上記粘度V40に調整することで、グラビア印刷に適した性状の導電性ペーストを実現している。これにより、印刷ダレ等が生じにくく、基材上に迅速かつ安定して塗膜を形成することができる。また、例えば、他のアニオン系分散剤(例えば、モノカルボン酸系の分散剤、上記式(1)の構造部分を有しないジカルボン酸系の分散剤、ポリカルボン酸系の分散剤、スルホン酸系分散剤、リン酸系分散剤等)や、アミン系の分散剤等を用いた場合と比較して、導電性粉末と誘電体粉末との分散性が良好で、かつ表面の平滑な塗膜を形成することができる。」

「【0023】
[グラビア印刷用の導電性ペースト]
ここに開示される導電性ペーストは、(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含んでいる。なお、以下の説明では、(A)導電性粉末と(B)誘電体粉末とを「無機粉末」の成分といい、(C)バインダ樹脂と(D)溶剤と(E)分散剤とを「有機成分」ということがある。この導電性ペーストは、グラビア印刷に好適に用いることができる。」

「【0025】
(A)導電性粉末
導電性粉末は、電極層に電気伝導性を付与する成分である。導電性粉末の種類は特に限定されず、従来公知のもののなかから、例えば電極層の用途等に応じて、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。導電性粉末としては、例えば、ニッケル(Ni)、アルミニウム(Al)、銅(Cu)、タングステン(W)等の卑金属の単体、金(Au)、銀(Ag)、白金(Pt)、パラジウム(Pd)、ロジウム(Rh)、イリジウム(Ir)、ルテニウム(Ru)、オスミウム(Os)等の貴金属の単体、およびこれらの混合物や合金等が挙げられる。合金としては、例えば、ニッケル−銅(Ni−Cu)、ニッケル−アルミニウム(Ni−Al)等のニッケル合金が挙げられる。」

「【0031】
(B)誘電体粉末
誘電体粉末は、導電性ペーストの焼成時に導電性粒子の間に配置され、導電性粉末の熱収縮を緩和する成分である。また、MLCCの内部電極層を形成する用途では、誘電体層と内部電極層との焼結接合性を向上させる共材としても機能しうる。特に限定されるものではないが、誘電体粉末の誘電率は、典型的には100以上、例えば1000〜20000程度であってもよい。ただし、誘電体粉末は、比誘電率が100未満、ひいては絶縁性材料であってもよい。」

「【0036】
(C)バインダ樹脂
バインダ樹脂は、導電性ペーストの粘度(流動性)を調整すると共に、塗膜に粘着性を付与して無機粉末同士および無機粉末と基材とを密着させる成分である。バインダ樹脂は、後述する(D)溶剤に溶解され、ビヒクルとして機能しうる。バインダ樹脂は、典型的には焼成によって消失される成分である。言い換えれば、バインダ樹脂は、塗膜の焼成時に燃え抜ける化合物である。バインダ樹脂は、例えば分解温度が500℃以下であってもよい。」

「【0045】
(D)溶剤
溶剤は、無機粉末を分散して、グラビア印刷に適した粘度(流動性)を導電性ペーストに付与するための液状媒体である。また、溶剤は、上記した(C)バインダ樹脂および/または後述する(E)分散剤を溶解するビヒクルとしても機能しうる。溶剤は、典型的には乾燥、焼成によって消失される成分である。溶剤は、導電性ペーストの乾燥時、および/または、塗膜の焼成時に燃え抜ける成分である。溶剤の種類は特に限定されず、この種の用途に使用されている従来公知の有機溶剤のなかから、例えば基材や(C)バインダ樹脂の種類等に応じて、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。溶剤としては、例えば、−OH基を有するアルコール系溶剤、エーテル結合(R−O−R’)を有するエーテル系溶媒、エステル結合(R−C(=O)−O−R’)を有するエステル系溶剤、炭素原子と水素原子とで構成される炭化水素系溶剤等が挙げられる。
【0046】
アルコール系溶剤およびエーテル系溶剤としては、例えば、ターピネオール、テキサノール、ジヒドロターピネオール、ベンジルアルコール、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノール、フェノキシエタノール、1−フェノキシ−2−プロパノール、イソボルネオール、ジエチレングリコール、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル(ブチルカルビトール)、プロピレングリコールモノブチルエーテル、ジプロピレングリコールメチル−n−プロピルエーテル等が挙げられる。エステル系溶剤としては、例えば、3−メトキシ−3−メチル−1−ブタノールアセテート、3−メトキシブチルアセテート、エチレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールジアセテート、シクロヘキサノールアセテート、イソボルニルアセテート、カルビトールアセテート、エチルジグリコールアセテート、ブチルグリコールアセテート、ブチルジグリコールアセテート、ブチルセロソルブアセテート、ジエチレングリコールモノブチルエーテルアセタート(ブチルカルビトールアセテート)、ターピネオールアセテート、ジヒドロターピネオールアセテート等が挙げられる。炭化水素系溶剤としては、例えば、トルエン、キシレン等の芳香族系炭化水素溶剤;ノルマルパラフィン類、イソパラフィン類等のパラフィン系溶剤、単環ナフテン類、二環ナフテン類等のナフテン系溶剤、パラフィン/ナフテン混合系溶剤、ミネラルスピリット等の脂肪族系炭化水素溶剤が挙げられる。
【0047】
特に限定されるものではないが、グリーンシートの上に導電性ペーストを付与する場合は、シートアタック現象(溶剤がグリーンシートを浸食する現象)を抑える観点等から、溶剤として、炭化水素系溶剤を含むことが好ましく、例えば、炭化水素系溶剤と、炭化水素系以外の溶剤、例えばアルコール系溶剤およびエステル系溶剤のうちの少なくとも1つと、を組合せて用いることが好適である。なかでも、炭化水素系溶剤がナフテン系溶剤を含むことが好ましく、炭化水素系溶剤がナフテン系溶剤を主成分として構成されていてもよい。炭化水素系溶剤の全体を100質量%としたときに、ナフテン系溶剤は、概ね50質量%以上、例えば60〜80質量%を占めていてもよい。また、溶剤として炭化水素系溶剤と、炭化水素系以外の溶剤とを同時に含む場合、炭化水素系溶剤と、炭化水素系以外の溶剤との合計を100質量%としたときに、炭化水素系以外の溶剤の含有割合は、概ね10〜95質量%、典型的には20〜90質量%、例えば50〜80質量%であってもよい。
【0048】
特に限定されるものではないが、炭化水素系以外の溶剤は、導電性ペーストの保存安定性やグラビア印刷時の作業性等を向上する観点から、沸点が概ね100℃以上、例えば200℃以上の高沸点溶剤を含むとよい。また、塗膜を迅速に乾燥させて生産性を向上する観点を考慮すると、沸点が概ね100〜300℃、例えば200〜250℃、好ましくは230℃以下の高沸点溶剤を主成分とするとよい。高沸点溶剤は、炭化水素系以外の溶剤の全体を100質量%としたときに、概ね50質量%以上、例えば90質量%以上を占めていてもよく、実質的に溶剤全体(95質量%以上)が高沸点溶剤から構成されていてもよい。
【0049】
また、炭化水素系以外の溶剤は、導電性ペーストをグラビア印刷に適した性状に調整すると共に、シートアタック性をバランス良く両立する観点から、SP値が、概ね10.5(cal/cm3)0.5以下、例えば10(cal/cm3)0.5以下、好ましくは9.9(cal/cm3)0.5以下、例えば8〜9.9(cal/cm3)0.5の溶剤を含むとよい。樹脂の溶解性の観点から、炭化水素系以外の溶剤全体のSP値は、概ね8(cal/cm3)0.5以上、例えば8.5(cal/cm3)0.5以上、9(cal/cm3)0.5以上であってもよい。また、シートアタック現象をより良く抑制する観点等から、炭化水素系以外の溶剤全体のSP値は、概ね9.8(cal/cm3)0.5以下、例えば9.7(cal/cm3)0.5以下であってもよい。
【0050】
炭化水素系以外の溶剤は、沸点および/またはSP値が相互に異なる第1溶剤と第2溶剤とを含んでもよい。一例として、バインダ樹脂の溶解性に優れた第1溶剤と、速乾性に優れた第2溶剤と、を含んでもよい。第1溶剤は、SP値が第2溶剤よりも高く、概ね10.0(cal/cm3)0.5以上、例えば10〜10.5(cal/cm3)0.5であってもよい。また、第1溶剤は、沸点が、概ね200℃以上、例えば200〜230℃であってもよい。第2溶剤は、沸点が第1溶剤と同等かそれよりも低く、概ね220℃以下、例えば140〜215℃であってもよい。また、第2溶剤は、SP値が、概ね9.5(cal/cm3)0.5以下、例えば8.5〜9.5(cal/cm3)0.5であってもよい。これにより、導電性ペーストにおける無機粉末の分散性およびバインダ樹脂の溶解性と、塗膜の乾燥性と、を高いレベルで兼ね備えることができる。第1溶剤の含有割合は、第1溶剤と第2溶剤との合計を100質量%としたときに、概ね10〜95質量%、典型的には20〜90質量%、例えば50〜80質量%であってもよい。
【0051】
特に限定されるものではないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、溶剤の含有割合は、概ね80質量%以下、典型的には10〜70質量%、例えば30〜60質量%であってもよい。上記範囲を満たすことで、導電性ペーストに適度な流動性を付与することができ、グラビア印刷時の作業性を向上することができる。また、セルフレベリング性を向上して、高速印刷時にも表面平滑性に優れた塗膜を安定的に形成することができる。」

「【0052】
(E)分散剤
分散剤は、上記した無機粉末、すなわち(A)導電性粉末および(B)誘電体粉末を導電性ペースト中に均一に分散させて、これら成分の凝集を抑制するための両親媒性化合物である。分散剤は、上記した(D)溶剤に溶解され、ビヒクルとして機能しうる。このことにより、無機粉末を均一かつ安定に分散させることができる。
【0053】
ここに開示される導電性ペーストは、分散剤として、下記式(1):
【化3】

で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含んでいる。式(1)において、A1、A2は、それぞれ独立して、水素(H);ナトリウム(Na)、カリウム(K)等のアルカリ金属;または、マグネシウム(Mg)、カルシウム(Ca)等のアルカリ土類金属;である。なかでも、A1、A2は、いずれも水素であるとよい。
【0054】
式(1)の構造部分において、右から第2番目および第3番目の炭素原子には、それぞれカルボキシレート基(−C(=O)O−)が結合している。すなわち、カルボキシレート基が隣り合う炭素原子にそれぞれ結合している。また、第3番目の炭素原子と隣り合う第4番目の炭素原子(一番左の炭素原子)には、置換基が結合していない。すなわち、−CH2で表されている。詳細は明らかではないが、このような構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を用いることによって、他のアニオン系分散剤(例えば、モノカルボン酸系の分散剤、上記式(1)の構造部分を有しないジカルボン酸系の分散剤、ポリカルボン酸系の分散剤、スルホン酸系分散剤、リン酸系分散剤等)や、アミン系分散剤を用いる場合に比べて、導電性ペースト中の無機粉末の均一分散性が、特異的に高められると考えられる。
【0055】
すなわち、2つのカルボキシレート基が同一分子内の近くにあることで、導電性粉末および誘電体粉末の表面に結合する確率が高まる。このため、分散剤が無機粉末表面により多く吸着して、無機粒子が安定化していると考えられる。また、式(1)の構造部分を有する本分散剤では、2つのカルボキシレート基の両方が無機粒子に吸着する場合と、片方が無機粒子に吸着し、他方が平衡反応で未吸着状態になっている場合とが考えられるが、確率的には後者が支配的と考えられる。したがって、例えば誘電体粉末の方が導電性粉末よりも微粒である場合には、本分散剤は、未吸着のカルボキシレート基によって電荷を帯びた状態で、誘電体粉末の表面に吸着しやすいと考えられる。そして、未吸着のカルボキシレート基が導電性粉末と電気的相互作用することで、導電性粉末と誘電体粉末とが偏りなく均一に分散されるものと考えられる。
【0056】
分散剤の性状は特に限定されない。分散剤の分子量は、概ね100以上であってもよく、例えば150以上、200以上、230以上であってもよい。また、分散剤の分子量は、概ね2万以下、例えば約1万以下、5000以下、2000以下、1000以下、500以下であってもよい。分子量を所定値以上とすることで、上記した無機粉末の均一分散性を高める効果をより良く発揮することができる。また、分子量を所定値以下とすることで、ペースト粘度の上昇を好適に抑制することができる。分散剤は、分子量が1万以上である高分子化合物よりも、分子量が1万未満である低分子化合物であることが好ましい。これにより、上述の効果をより高いレベルで発揮することができる。
【0057】
なお、本明細書において、単に「分子量」というときは、分子式に基づく各原子の原子量の総和から計算によって算出される値をいう。なお、化合物の分子式は、分子構造に応じた分析方法を適宜選択することにより特定することができる。分析方法の一例としては、赤外分光法(IR:Infrared Spectroscopy)、核磁気共鳴法(NMR:Nuclear Magnetic Resonance)、質量分析法(MS:Mass Spectrometry)、ガスクロマトグラフィー−質量分析法(GC−MS:Gas Chromatography - Mass spectrometry)、ガスクロマトグラフィー法(GC:Gas Chromatography)、ゲル浸透クロマトグラフィー法(GPC:Gel Permeation Chromatography)、CHN元素分析、等が挙げられる。
【0058】
分散剤は、式(1)の構造部分を有すること以外、特に限定されず、この種の用途に使用されている従来公知の両親媒性化合物のなかから、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる。分散剤の一例としては、例えば、下記式(2):
【化4】

;で表される化合物が挙げられる。式(2)において、A1、A2は、上記式(1)と同様である。また、Rは、炭素数3〜30の飽和または不飽和の脂肪族基である。炭素数は、例えば4以上、5以上、6以上、さらには7以上であってもよく、例えば29以下、28以下、27以下、さらには25以下であってもよい。脂肪族基は、直鎖状であってもよく、分岐を有する分岐鎖状であってもよい。脂肪族基としては、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基等が挙げられる。脂肪族基は、ビニレン基(−CH=CH−)を含んでいてもよい。
【0059】
上記式(2)で表される分散剤の具体例として、例えば、下記式(3)で表されるオクタテニルブタン二酸(C12H20O4:分子量=228)、下記式(4)で表されるオクタデセニルブタン二酸(C22H40O4:分子量=368)、下記式(5)で表されるヘキサコセニルブタン二酸(C30H56O4:分子量=480)等が挙げられる。なお、下記式(3)では、式(2)R部分が炭素数7の直鎖状のアルケニル基であり、下記式(4)では、式(2)R部分が炭素数17の直鎖状のアルケニル基であり、下記式(5)では、式(2)R部分が炭素数25の直鎖状のアルケニル基である。
【0060】
【化5】

【0061】
【化6】

【0062】
【化7】

【0063】
分散剤は、上記した式(1)の構造部分を有する化合物を主成分とするとよい。式(1)の構造部分を有する化合物は、分散剤の全体を100質量%としたときに、概ね50質量%以上を占めているとよく、実質的に分散剤全体(95質量%以上)が式(1)の構造部分を有する化合物から構成されているとよい。ただし、分散剤は、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、他の化合物を補助的に含んでもよい。補助的に含まれうる分散剤の一例として、モノカルボン酸系の分散剤、上記式(1)の構造部分を有しないジカルボン酸系の分散剤、ポリカルボン酸系の分散剤、スルホン酸系分散剤、リン酸系分散剤等のアニオン系分散剤や、アミン系の分散剤が挙げられる。これら補助的な分散剤は、分散剤全体の概ね50質量%以下、30質量%以下、10質量%以下、例えば5質量%以下に抑えるとよい。
【0064】
特に限定されるものではないが、導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、分散剤の含有割合は、概ね0.01〜5質量%、典型的には0.05〜3質量%、例えば0.1〜2質量%、好ましくは0.5質量%以下、例えば0.3質量%以下、0.2質量%以下であってもよい。分散剤の含有割合を所定値以上とすることで、微細な無機粉末に対して分散剤を十分に作用させることができる。また、分散剤の含有割合を所定値以下とすることで、電気伝導性や緻密性に優れた電極層を好適に実現することができる。」

「【0067】
(G)導電性ペーストの性状
ここに開示される導電ペーストは、印刷速度の速いグラビア印刷用として低粘度に調整されている。具体的には、25℃において、せん断速度40s−1における粘度V40が、5Pa・s以下に調整されている。印刷速度を迅速化して生産性を高める観点からは、粘度V40が、例えば4.5Pa・s以下、4Pa・s以下、3.5Pa・s以下、3Pa・s以下に調整されていてもよい。印刷ダレ等を抑制して作業性を向上する観点からは、粘度V40が、例えば0.1Pa・s以上、0.2Pa・s以上に調整されていてもよい。なお、導電性ペーストの粘度は、例えば、バインダ樹脂の種類や含有割合、分散剤の種類や含有割合、溶剤の種類や含有割合、その他添加剤(例えば粘度調整剤、増粘剤)の添加等によって調整することができる。
【0068】
特に限定されるものではないが、25℃において、せん断速度4s−1における粘度V4は、概ね20Pa・s以下、18Pa・s以下、15Pa・s以下、13Pa・s以下に調整されていてもよい。粘度V4は、例えば0.1Pa・s以上、0.2Pa・s以上、0.4Pa・s以上に調整されていてもよい。また、粘度V40に対する粘度V4の比(V4/V40)は、概ね7以下、典型的には6以下、例えば5.5以下、5以下、4.5以下であってもよい。これにより、導電性ペーストの保存安定性やハンドリング性を向上することができる。
【0069】
このような導電ペーストは、例えば、(C)バインダ樹脂と(E)分散剤とを(D)溶剤中に分散または溶解させたビヒクルを調製し、そこに(A)導電性粉末と(B)誘電体粉末とを加えたのち、撹拌混合することによって好適に調製することができる。導電ペーストの調製に際しては、従来公知の種々の撹拌装置や分散装置、例えば、ボールミル、ビーズミル、ロールミル、マグネチックスターラー、プラネタリーミキサー、ディスパー、高圧分散機、乳鉢等を適宜用いることができる。」

ウ サポート要件についての判断
本件特許の明細書の段落【0004】ないし【0006】の記載によると、本件特許発明1、2及び4ないし11の発明の課題は、「低粘度でグラビア印刷性に優れ、かつ均質な塗膜を形成することができる導電性ペーストと、これを用いた電子部品の製造方法を提供すること」である。
そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、グラビア印刷に好適に用いることができる本件発明の導電性ペーストは、「(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含んでいる」(段落【0023】)ものであって、(E)分散剤として、下記式(1)

(合議体注:A1、A2のついての特定は省略)
を用いることで、「無機粉末を均一かつ安定に分散させることができる」こと(段落【0052】)、さらには、導電ペーストの性状として、印刷速度の速いグラビア印刷用として低粘度、具体的には、「導電性ペーストの粘度が、25℃において、せん断速度40s−1における粘度V40が、5Pa・s以下」に調整されること(段落【0067】)との記載があり、さらに、例(実施例に相当)や比較例を通じ、(E)分散剤の種類や粘度の違いによる分散度指数やグラビア印刷性についての具体的な検討例も開示されている。
これらの記載に接した当業者であれば、導電性ペーストが、(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含んでおり、(E)分散剤として、下記式(1):
【化3】

(合議体注:A1、A2のついての特定は省略)で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含んでいるものであって、
導電性ペーストの粘度が、25℃において、せん断速度40s−1における粘度V40が、5Pa・s以下に調整されていれば、発明の課題を解決できると認識する。
そして、本件特許発明1、2及び4ないし11は、いずれも、(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含むグラビア印刷用の導電ペーストであって、分散剤が式(1)を満たすものを含むものであり、導電性ペーストの粘度として、25℃において、せん断速度40s−1における粘度V40が、5Pa・s以下であるとの特定事項を有するものであるから、本件特許発明1、2及び4ないし11は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

エ 特許異議申立人の主張について
(ア) 申立理由4−1について
本件特許の明細書には、導電性ペーストは、「(E)分散剤」として、(式1)の構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含むもの(【0053】)であって、その添加割合等についても、「式(1)の構造部分を有する化合物は、分散剤の全体を100質量%としたときに、概ね50質量%以上を占めているとよく、実質的に分散剤全体(95質量%以上)が式(1)の構造部分を有する化合物から構成されているとよい。ただし、分散剤は、ここに開示される技術の効果を著しく低下させない限りにおいて、他の化合物を補助的に含んでもよい。」(【0063】)と記載され、その作用機序についての一応の記載(【0054】ないし【0055】)もある。
そして、これらの記載に接した当業者であれば、「(E)分散剤」として「式(1)の構造部分を有するジカルボン酸系分散剤」を添加すれば、定性的な効果が発現されるであろうことは十分理解できるのであり、かつ、「(E)分散剤」を含む導電性ペーストの粘度についても特定の粘度条件を満たすものであることからすれば、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2及び4ないし11についても同様である。

(イ) 申立理由4−2について
本件特許の明細書には、「溶剤は、無機粉末を分散して、グラビア印刷に適した粘度(流動性)を導電性ペーストに付与するための液状媒体である」こと、「溶剤の種類は特に限定されず、この種の用途に使用されている従来公知の有機溶剤のなかから、例えば基材や(C)バインダ樹脂の種類等に応じて、1種類を単独で、または2種類以上を適宜組み合わせて用いることができる」ことがそれぞれ記載(【0045】)されている。
そして、本件特許発明1は、あわせて導電性ペーストが特定の粘度条件を満たすものであることからすれば、本件特許発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
請求項1の記載を直接又は間接的に引用する本件特許発明2及び4ないし11についても同様である。

オ 申立理由4のまとめ
したがって、本件特許の請求項1、2及び4ないし11に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえないので、申立理由4によって取り消すことはできない。

第7 結語
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1、2及び4ないし11に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2及び4ないし11に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
本件特許の請求項3に係る特許は、訂正により削除されたため、特許異議申立人による請求項3に係る特許異議の申立ては、申立ての対象が存在しないものとなったので、特許法第120条の8第1項で準用する同法第135条の規定により却下する。
よって、結論のとおり決定する。
 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(A)導電性粉末と、(B)誘電体粉末と、(C)バインダ樹脂と、(D)溶剤と、(E)分散剤と、を含む、グラビア印刷用の導電性ペーストであって、
前記(E)分散剤は、下記式(1):
【化1】

(ただし、式(1)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはア ルカリ土類金属である。);で表される構造部分を有するジカルボン酸系分散剤を含み、
25℃において、前記導電性ペーストのせん断速度40s−1における粘度V40は、5Pa・s以下であり、
前記粘度V40に対する前記導電性ペーストのせん断速度4s−1における粘度V4の比(V4/V40)が、7以下である、グラビア印刷用の導電性ペースト。
【請求項2】
前記(E)分散剤が、下記式(2):
【化2】

(ただし、式(2)中のA1、A2は、それぞれ独立して、水素、アルカリ金属またはアルカリ土類金属であり、Rは、炭素数3〜30であり、直鎖または分岐、飽和または不飽和の脂肪族基である。);で表される化合物である、
請求項1に記載の導電性ペースト。
【請求項3】(削除)
【請求項4】
前記(B)誘電体粉末の平均粒子径D2に対する前記(A)導電性粉末の平均粒子径D1の比(D1/D2)が、2以上である、
請求項1または2に記載の導電性ペースト。
【請求項5】
前記(D)溶剤が、炭化水素系溶剤と、炭化水素系以外の溶剤とを含み、
前記炭化水素系以外の溶剤が、沸点が230℃以下であり、かつ、Fedorsの溶解度パラメータが9.9(cal/cm3)0.5以下の溶剤を含む、
請求項1、2、4のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項6】
前記炭化水素系以外の溶剤が、
沸点が200℃以上であり、かつ、前記溶解度パラメータが10.0(cal/cm3)0.5以上である第1溶剤と、
沸点が220℃以下であり、かつ、前記溶解度パラメータが9.5(cal/cm3)0.5以下である第2溶剤と、
を含む、
請求項5に記載の導電性ペースト。
【請求項7】
前記炭化水素系以外の溶剤全体の前記溶解度パラメータが、9.8(cal/cm3)0.5以下である、
請求項5または6に記載の導電性ペースト。
【請求項8】
前記(E)分散剤が、前記導電性ペーストの全体を100質量%としたときに、0.5質量%以下である、
請求項1、2、4、5、6、7のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項9】
前記(C)バインダ樹脂が、ポリビニルアセタール系樹脂を含み、
前記ポリビニルアセタール系樹脂の重量平均分子量が20万以下である、
請求項1、2、4、5、6、7、8のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項10】
積層セラミック電子部品の内部電極層を形成するために用いられる、
請求項1、2、4、5、6、7、8、9のいずれか1項に記載の導電性ペースト。
【請求項11】
請求項1、2、4、5、6、7、8、9、10のいずれか1項に記載の導電性ペースト
を基材上に付与して焼成することを包含する、電子部品の製造方法。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-17 
出願番号 P2019-174262
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (H01B)
P 1 651・ 537- YAA (H01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 植前 充司
大島 祥吾
登録日 2020-12-15 
登録番号 6810778
権利者 株式会社ノリタケカンパニーリミテド
発明の名称 導電性ペーストとこれを用いた電子部品の製造方法  
代理人 安部 誠  
代理人 安部 誠  

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