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審決分類 |
審判 全部申し立て 発明同一 F28F 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 F28F |
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管理番号 | 1384143 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-07-07 |
確定日 | 2022-02-03 |
異議申立件数 | 1 |
訂正明細書 | true |
事件の表示 | 特許第6810101号発明「積層型熱交換器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6810101号の明細書及び特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正明細書及び訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1ないし3〕について訂正することを認める。 特許第6810101号の請求項1ないし3に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6810101号の請求項1ないし3に係る特許は、令和2年12月14日に特許権の設定登録がされ、令和3年1月6日に特許掲載公報が発行された。 本件特許異議申立ての経緯は、次のとおりである。 令和3年7月5日付け(令和3年7月7日受付) 特許異議申立人 岡崎聡(以下、「申立人」という。)による特許異議の申立て 令和3年9月16日付け 取消理由通知書 令和3年11月17日 特許権者による意見書及び訂正請求書の提出 令和3年11月24日付け 訂正請求があった旨の通知(特許法第120条の5第5項) 令和3年12月24日付け(令和3年12月27日受付) 申立人による意見書 第2 訂正の請求 1 訂正の内容 令和3年11月17日付けの訂正請求書による訂正(以下「本件訂正」という。)の内容は、次の事項からなる(なお、下線を付した箇所は訂正箇所である。)。 (1)訂正事項1 特許請求の範囲の請求項1に、 「前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されており、」とあるのを、 「前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されており、前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であり、」と訂正する。 (2)訂正事項2 本願特許明細書の段落【0006】に「前記の目的を達成するため、本発明は、高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層と、前記高温側流体よりも低温の低温側流体が導入される複数の流路を有し、前記高温層に積層された低温層と、を備える積層型熱交換器である。前記低温層の前記複数の流路はそれぞれ、前記低温側流体が導入される上流側部と、前記上流側部の下流側に位置する下流側部と、を有し、前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されている。前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温され、前記低温層は、前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部に連通するとともに、前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部に連通する連通流路を備え、前記連通流路は、前記上流側部及び前記下流側部の間を横断する方向に延びるとともに、前記連通流路の幅方向の一側が前記上流側部に繋がり且つ前記連通流路の幅方向のもう一方側が前記下流側部に繋がっている。」とあるのを、 「前記の目的を達成するため、本発明は、高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層と、前記高温側流体よりも低温の低温側流体が導入される複数の流路を有し、前記高温層に積層された低温層と、を備える積層型熱交換器である。前記低温層の前記複数の流路はそれぞれ、前記低温側流体が導入される上流側部と、前記上流側部の下流側に位置する下流側部と、を有し、前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されている。前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成である。前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温され、前記低温層は、前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部に連通するとともに、前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部に連通する連通流路を備え、前記連通流路は、前記上流側部及び前記下流側部の間を横断する方向に延びるとともに、前記連通流路の幅方向の一側が前記上流側部に繋がり且つ前記連通流路の幅方向のもう一方側が前記下流側部に繋がっている。」と訂正する。 2 訂正の目的の適否、新規事項の追加の有無、及び特許請求の範囲の拡張・変更の存否 (1)訂正事項1 ア 訂正の目的について 訂正事項1は、「複数の流路」について、「前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であ」ることを限定したものである。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に掲げる特許請求の範囲の減縮を目的とするものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項1は、本願特許明細書の段落【0026】、【0033】、図4及び図6の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項1は、上記アのように訂正前の請求項1における記載をさらに限定するものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 したがって、訂正事項1は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 (2)訂正事項2 ア 訂正の目的について 訂正事項2は、訂正事項1による訂正に伴って、本願特許明細書の段落【0006】を訂正することにより、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るものであるから、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものである。したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第2項ただし書き第3号に規定する目的に適合するものである。 イ 願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正であること 訂正事項2は、本願特許明細書の段落【0026】、【0033】、図4及び図6の記載に基づく訂正であるから、願書に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内の訂正である。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項の規定に適合するものである。 ウ 実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更する訂正ではないこと 訂正事項2は、上記アのように、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載の整合を図るものであり、「明瞭でない記載の釈明」を目的とするものであって、カテゴリーや対象、目的を変更するものではないから、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものに該当しない。 したがって、訂正事項2は、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第6項の規定に適合するものである。 3 一群の請求項について 訂正事項1に係る訂正前の請求項1ないし3について、請求項2及び3は、それぞれ請求項1を引用するものであって、訂正事項1によって記載が訂正される請求項1に連動して訂正されるものである。 したがって、本件訂正は、訂正前の請求項〔1ないし3〕の一群の請求項について請求されたものであるから、特許法第120条の5第4項の規定に適合するものである。 第3 訂正後の本件発明 本件訂正後の特許請求の範囲は以下のとおりであり、本件訂正後の本件特許の請求項1ないし3に係る発明(以下、「本件訂正発明1」などという。)は、それぞれ本件訂正後の特許請求の範囲の請求項1ないし3に記載された事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層と、 前記高温側流体よりも低温の低温側流体が導入される複数の流路を有し、前記高温層に積層された低温層と、を備え、 前記低温層の前記複数の流路はそれぞれ、前記低温側流体が導入される上流側部と、前記上流側部の下流側に位置する下流側部と、を有し、前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されており、前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であり、 前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、 前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温され、 前記低温層は、前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部に連通するとともに、前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部に連通する連通流路を備え、 前記連通流路は、前記上流側部及び前記下流側部の間を横断する方向に延びるとともに、前記連通流路の幅方向の一側が前記上流側部に繋がり且つ前記連通流路の幅方向のもう一方側が前記下流側部に繋がっている積層型熱交換器。 【請求項2】 請求項1に記載の積層型熱交換器において、 前記上流側部と前記下流側部とにおいて流路形状、流路ピッチ及び流路幅の少なくとも一つが異なることにより、前記低温層の所定面積中において前記伝熱面の占める割合が、前記下流側部よりも前記上流側部の方が低く設定されている積層型熱交換器。 【請求項3】 請求項1に記載の積層型熱交換器において、 前記高温側流体が導入される複数の流路を有し、前記低温層とは反対側において前記高温層に積層された第2高温層をさらに備えている積層型熱交換器。」 第4 特許異議申立理由の概要及び証拠方法 特許異議申立書における特許異議申立理由の概要及び証拠方法は以下のとおりである。 1 特許異議申立理由の概要 (1)理由1:特許法第29条の2(同法第113条第2号)について 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、甲第1号証の当初明細書等に記載された発明と同一である。 (2)理由2:特許法第36条第6項第2号(同法第113条第4号)について 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、特許を受けようとする発明が明確でない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 (3)理由3:特許法第36条第6項第1号(同法第113条第4号)について 本件特許の請求項1ないし3に係る発明は、発明の詳細な説明に記載したものではなく、本件出願時の技術常識に照らしても、請求項1ないし3に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえない。 よって、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 2 証拠方法 甲第1号証:特願2018−67616号(特開2019−178807号) (以下、甲第1号証を略して「甲1」という。) 第5 取消理由の概要 当審において、令和3年9月16日付けで通知した取消理由の概要は以下のとおりである。 [理由](拡大先願)この出願の請求項1ないし3に係る発明は、その出願の日前の特許出願であって、その出願後に特許掲載公報の発行又は出願公開がされた甲1の特許出願の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかも、この出願の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により、特許を受けることができない。 第6 当審の判断 1 取消理由通知に記載した取消理由(拡大先願)について (1)甲1の記載等 (下線は、当審が理解の一助のために付与したものである。また「・・・」は省略を表す。) ア「【請求項1】 積層されて拡散接合された第1伝熱板および第2伝熱板を含むコアを備え、 前記第1伝熱板は、流路幅方向に並んで設けられた溝状の複数のチャネルを有し、高温流体を流通させる高温流路を含み、 前記第2伝熱板は、低温流体を流通させる低温流路を含み、 前記第1伝熱板の前記高温流路は、少なくとも前記第2伝熱板の流路入口から前記流路入口よりも下流側の位置までの所定範囲と積層方向に重なる範囲において、前記高温流体が複数の前記チャネル間に跨がって流動可能に構成された連結チャネル部を有する、拡散接合型熱交換器。 ・・・ 【請求項7】 前記低温流路は、前記第2伝熱板の前記所定範囲に設けられた第1部分と、前記第1部分よりも下流側の第2部分とを含み、 前記第1部分は、前記第2部分よりも伝熱性能が低くなるように構成されている、請求項1〜6のいずれか1項に記載の拡散接合型熱交換器。 【請求項8】 前記低温流路は、前記低温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含み、 前記第1部分の前記チャネルは、前記第2部分の前記チャネルよりも伝熱性能が低くなるように平面形状が異なっている、請求項7に記載の拡散接合型熱交換器。」 イ「【0023】 (第1実施形態) 図1〜図6を参照して、第1実施形態による熱交換器100の構成について説明する。第1実施形態による熱交換器100は、それぞれ溝状の流路が形成された第1伝熱板10および第2伝熱板20を積層し、拡散接合によって一体化することにより構成した拡散接合型のプレート式熱交換器である。熱交換器100は、特許請求の範囲の「拡散接合型熱交換器」の一例である。」 ウ「【0025】 第1実施形態による熱交換器100は、高温流体HFと低温流体LFとの熱交換により低温流体LFを昇温させて気化させる気化装置として構成されている。熱交換器100は、気化を伴わない昇温装置でもよい。低温流体LFは、高温流体HFの凝固点よりも低温の流体である。高温流体HFは、低温流体LFよりも高温の流体である。第1実施形態では、低温流体LFは、極低温の液化ガスであり、たとえば液化天然ガス(LNG)である。高温流体HFとしては、たとえば、水または海水、不凍液などの液体である。」 エ「【0028】 図2に示すように、第1伝熱板10および第2伝熱板20には、それぞれ一方表面(上面)に溝状の流路が形成されており、他方表面(下面)は平坦面となっている。第1伝熱板10は、高温流体HFを流通させる高温流路11を含み、第2伝熱板20は、低温流体LFを流通させる低温流路21を含む。それぞれの流路は、たとえばエッチングにより所定形状に形成されている。第1伝熱板10および第2伝熱板20の一方表面(上面)において、流路の形成部分(溝部分)以外は平坦面となっており、拡散接合による接合面となっている。」 オ「【0044】 (低温流路) 低温流路21は、流路幅方向に並んで設けられた溝状の複数のチャネル24を有する。複数のチャネル24は、流路幅方向において、低温流路21内に形成された隔壁22によって仕切られた個々の通路部である。 【0045】 図4の構成例では、低温流路21のチャネル24は、流路の途中で平面形状が異なっている。つまり、低温流路21では、チャネル形状が、上流側の第1のパターンから、下流側の第2のパターンに切り替わっている。 【0046】 具体的には、低温流路21は、第2伝熱板20の所定範囲PRに設けられた第1部分21aと、第1部分21aよりも下流側の第2部分21bとを含み、第1部分21aは、第2部分21bよりも伝熱性能が低くなるように構成されている。第1実施形態では、この伝熱性能の相違が、チャネル24の形状パターンの相違によって実現されている。 【0047】 第1部分21aは、第2伝熱板20の流路入口23aから流路入口23aよりも下流側の位置までの所定範囲PRに設けられている。第1部分21aの各チャネル24aは、線状形状を有し、隔壁22によって互いに分離されている。このため、複数のチャネル24間に跨がって低温流体LFが流動することはない。また、第1部分21aの各チャネル24aは、低温流路21の折れ曲がり部分を除いて直線状に形成されている。つまり、第1部分21aの各チャネル24aは、流路入口23aからY方向に直線状に延びた後、低温流路21の折れ曲がり部分で屈曲してX方向に直線状に延びている。チャネル形状の第1のパターンは、個々のチャネル24が主として直線により構成された1本の線状に形成されたパターンである。 【0048】 第2部分21bは、第1部分21a(所定範囲PR)の下流側端部から第2伝熱板20の流路出口23bまでの範囲に設けられている。第2部分21bの各チャネル24bは、第1部分21a(所定範囲PR)の下流側端部からX方向に直線状に延びた後、低温流路21の折れ曲がり部分で屈曲してY方向に直線状に延びている。 【0049】 図4の例では、第2部分21bの各チャネル24bは、高温流路11の連結チャネル部11aにおけるチャネル形状と同様に、(低温流路21の折れ曲がり部分を除いて)直線状に形成され、連結通路25によって隣り合うチャネル24b同士で接続されている。すなわち、チャネル形状の第2のパターンは、個々のチャネル24bが主として直線により構成されつつ、千鳥状に配列された複数の連結通路25により相互接続されたパターンである。第2部分21bのチャネル24bの形状パターンは、低温流路21が途中で折れ曲がっている点を除いて、上記第1部分21aの連結チャネル部11aと同様である。 【0050】 なお、図4において、第1部分21aのチャネル幅と、第2部分21bのチャネル幅とは、略等しい。第1部分21aのチャネル幅と、第2部分21bのチャネル幅とを異ならせても良い。 【0051】 第1部分21aと第2部分21bとを比較すると、第2部分21bの方が連結通路25によって隔壁22が分断されている分だけ伝熱面積が大きく、かつ、チャネル24b間での低温流体LFの流動が可能となる分流れが乱流に近くなるので、第1部分21aの方が伝熱性能が低い。」 カ「【0103】 (第1部分および第2部分の構成例) また、上記第1および第2実施形態では、低温流路21の第1部分21aを互いに独立した線状のチャネル24aにより構成したパターンとし、第2部分21bを連結チャネル部11aと同様に直線状のチャネル24b同士を複数の連結通路25により連通させたパターンとした例を示したが、第1部分21aおよび第2部分21bの各チャネルを、それぞれ図11(A)および(B)に示すパターンとしてもよい。 【0104】 図11(A)は、第1部分21aのパターンであり、上記第1および第2実施形態と同様に、隔壁222により互いに独立した線状のチャネル224aが構成されている。これに対して、図11(B)は、第2部分21bのパターンであり、各チャネル224bは、上記第1および第2実施形態とは異なり、隔壁222により互いに独立した線状のチャネルとなっている。ただし、図11(B)のチャネル224bは、流路幅方向(Y方向)に交互に傾斜することにより、ジグザクに蛇行した形状を有する。この場合でも、第1部分21aのチャネル224aは、第2部分21bのジグザグのチャネル224bと比較して経路長が小さく、チャネルの内表面積が小さいので、伝熱性能が相対的に低くなる。この他、第2部分21bのチャネル224bを、図10(A)または(B)に示した形状としてもよい。」 キ「【0108】 また、上記第1および第2実施形態では、複数の第1伝熱板10および複数の第2伝熱板20を、交互に積層することによりコア1を構成した例を示したが、本発明はこれに限られない。本発明では、第1伝熱板と第2伝熱板とを必ずしも交互に積層しなくともよい。たとえば、Z方向に沿って、第2伝熱板、第1伝熱板、第2伝熱板、第2伝熱板、第1伝熱板・・・、となるように、1層の第1伝熱板に対して2層(複数層)の第2伝熱板を積層させてもよい。逆に、2層(複数層)の第1伝熱板に対して1層の第2伝熱板を積層させてもよい。」 ク ![]() ![]() ![]() ![]() ケ 図4に基づく異議申立人による説明図(異議申立書第15ページ) ![]() コ ![]() (2)上記(1)から分かること ア 上記(1)ケの説明図から、第2伝熱板は、第2部分の上流側端部に、第2部分の複数のチャネルのそれぞれと連通するとともに、第1部分の複数のチャネルのそれぞれと連通する連結通路(当審注:上記説明図における太い点線で囲まれた箇所に相当)を備え、連結通路は、第2部分を横断する方向に延びるとともに、連結通路の幅方向の一側が第1部分の複数のチャネル、幅方向の他側が第2部分の複数のチャネルに連通していることが分かる。 イ 上記(1)オ 段落【0051】及び、(1)ク 図4の記載からみて、第1部分は第2伝熱板の所定面積あたりの低温流体が流動可能となるチャネルの面積がしめる割合が第2部分よりも小さくなっていることが分かる。 (3)甲1の当初明細書等に記載された発明 ア 上記(1)及び(2)から、甲1の当初明細書等における図4に示された実施形態には、次の発明(以下、「先願発明1」という。)が記載されている。 「高温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含む第1伝熱板と、 低温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含み、前記第1伝熱板に積層された第2の伝熱板と、を備え、 前記第2伝熱板の複数のチャネルはそれぞれ、第1部分と、第1部分よりも下流側の第2部分とを含み、前記第1部分は第2伝熱板の所定面積あたりの低温流体が流動可能となるチャネルの面積がしめる割合が前記第2部分よりも小さくなっており、 前記第2部分における複数のチャネルは、千鳥状に配列された複数の連結通路により相互接続されたものであり、 前記高温流体と前記低温流体との熱交換により、前記低温流体が昇温して気化するものであって、 前記第2伝熱板は、第1部分の複数のチャネルのそれぞれと連通するとともに、第2部分の複数のチャネルのそれぞれと連通する連結通路を備え、連結通路は、第2部分の上流側端部において、第2部分を横断する方向に延びるとともに、連結通路の幅方向の一側が第1部分の複数のチャネルに連通し、かつ、幅方向の他側が第2部分の複数のチャネルに連通している拡散接合型熱交換器。」 イ 上記(1)及び(2)から、甲1の当初明細書等における図11(A)、(B)に示された実施形態には、次の発明(以下、「先願発明2」という。)が記載されている。 「高温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含む第1伝熱板と、 低温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含み、前記第1伝熱板に積層された第2の伝熱板と、を備え、 前記第2伝熱板の複数のチャネルはそれぞれ、第1部分と、第1部分よりも下流側の第2部分とを含み、前記第1部分は第2伝熱板の所定面積あたりの低温流体が流動可能となるチャネルの面積がしめる割合が前記第2部分よりも小さくなっており、 前記第2部分における複数のチャネルは、隔壁により互いに独立した線状のチャネルとなっており、 前記高温流体と前記低温流体との熱交換により、前記低温流体が昇温して気化するものである拡散接合型熱交換器。」 ウ 先願発明1についての判断 ・請求項1について 本件訂正発明1と先願発明1とを対比する。 ア)先願発明1における「高温流体」は、本件訂正発明1における「高温側流体」に相当し、以下同様に、「溝状の複数のチャネル」は「複数の流路」に、「第1伝熱板」は「高温層」に、それぞれ相当する。 そして、先願発明1における「高温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含む第1伝熱板」は、本件訂正発明1における「高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層」に相当する。 イ)先願発明1における「低温流体」は、本件訂正発明1における「前記高温側流体よりも低温の」、「低温側流体」に相当し、同様に、「第2の伝熱板」は「低温層」に相当する。 そして、先願発明1における「低温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含」む「第2の伝熱板」は、本件訂正発明1における「前記高温側流体よりも低温の流体が導入される複数の流路を有」する「低温層」に相当する。 ウ)先願発明1における「第2伝熱板の複数のチャネル」は、本件訂正発明1における「前記低温層の前記複数の流路」に相当し、以下同様に、「第1部分」は「前記低温側流体が導入される」、「上流側部」に、「第1部分よりも下流側の」、「第2部分」は「前記上流側部の下流側に位置する」、「下流側部」に、それぞれ相当する。 エ)先願発明1における「第2伝熱板の所定面積あたりの低温流体が流動可能となるチャネルの面積がしめる割合」は、本件訂正発明1における「前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合」に相当し、以下同様に、「小さくなっており」は「低く設定されており」に相当する。 さらに、先願発明1における「前記高温流体と前記低温流体との熱交換により、前記低温流体が昇温して気化する」ことは、低温流体を気化するにあたって、高温流体からの熱によって第2伝熱板の第1部分において少なくとも一部分が気化し、第1部分において気化した低温流体が下流側の第2部分においてさらに加温されるのは技術常識からみて明らかであるから、本件訂正発明1における「前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温される」ことに相当する。 オ)先願発明1における「第1部分の複数のチャネルのそれぞれ」は、本件訂正発明1における「前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部」に、以下同様に、「第2部分の複数のチャネルのそれぞれ」は「前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部」に、「連結通路」は「連通流路」に、「第1部分の複数のチャネルに連通」することは、「前記上流側部に繋が」ることに、「第2部分の複数のチャネルに連通」することは、「前記下流側部に繋が」ることに、それぞれ相当する。 カ)先願発明1における「拡散接合型熱交換器」は、上記(1)イ 段落【0023】及び ク 図2の記載からみて、第1伝熱板と第2伝熱板とを積層して拡散接合によって一体化することにより構成したものであるから、本件訂正発明1における「積層型熱交換器」に相当する。 したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層と、 前記高温側流体よりも低温の低温側流体が導入される複数の流路を有し、前記高温層に積層された低温層と、を備え、 前記低温層の前記複数の流路はそれぞれ、前記低温側流体が導入される上流側部と、前記上流側部の下流側に位置する下流側部と、を有し、前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されており、 前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、 前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温され、 前記低温層は、前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部に連通するとともに、前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部に連通する連通流路を備え、 前記連通流路の幅方向の一側が前記上流側部に繋がり且つ前記連通流路の幅方向のもう一方側が前記下流側部に繋がっている積層型熱交換器。」 [相違点1] 本件訂正発明1においては「前記連通流路は、前記上流側部及び前記下流側部の間を横断する方向に延びる」のに対して、先願発明1においては「連結通路は、第2部分の上流側端部において、第2部分を横断する方向に延びる」点。 [相違点2] 本件訂正発明1においては「前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であ」るのに対して、先願発明1においては「前記第2部分における複数のチャネルは、千鳥状に配列された複数の連結通路により相互接続されたものであ」る点。 上記相違点1及び2について判断する。 [相違点1について] 本件訂正発明1における「上流側部及び下流側部の間」とは、本件特許明細書の図4、図6(下記本件図4及び図6を参照。)からみて、上流側部の溝34の下流側端部と下流側部の溝34の上流側端部との間の溝34が存在しない部分と解せられる。 ![]() ![]() そうすると、先願発明1における「連結通路」は、上記(1)ケにおける図4に基づく説明図を参照すると、第1部分の溝状の複数のチャネルの第2部分の側の端部と、第2部分の溝状の複数のチャネルの第1部分の側の端部との間の溝状の複数のチャネルが存在しない部分に設けられたものであるから、実質的に、第1部分と第2部分との間を横断する方向に延びるといえる。 したがって、上記相違点1は実質的な相違点ではない。 [相違点2について] 先願発明1においては「前記第2部分における複数のチャネルは、千鳥状に配列された複数の連結通路25により相互接続されたものであ」るから、第2部分における複数のチャネルは、連結通路25において低温流体が合流する構成となることは明らかである。 そうすると、本件訂正発明1は、先願発明1と相違点2において相違し、また、相違点2は、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。 したがって、本件訂正発明1は先願発明1との対比において上記相違点2を有しているから、本件訂正発明1と先願発明1とは同一であるということはできない。 ・請求項2ないし3について 本件訂正発明2及び3は本件訂正発明1を引用するものであり、先願発明1との対比において上記相違点2を有しているから、本件訂正発明1と同様に、本件訂正発明2及び3と先願発明1とは同一であるとはいえない。 エ 先願発明2についての判断 ・請求項1について 本件訂正発明1と先願発明2とを対比する。 ア)先願発明2における「高温流体」は、本件訂正発明1における「高温側流体」に相当し、以下同様に、「溝状の複数のチャネル」は「複数の流路」に、「第1伝熱板」は「高温層」に、それぞれ相当する。 そして、先願発明2における「高温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含む第1伝熱板」は、本件訂正発明1における「高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層」に相当する。 イ)先願発明2における「低温流体」は、本件訂正発明1における「前記高温側流体よりも低温の」、「低温側流体」に相当し、同様に、「第2の伝熱板」は「低温層」に相当する。 そして、先願発明2における「低温流体を流通させる溝状の複数のチャネルを含」む「第2の伝熱板」は、本件訂正発明1における「前記高温側流体よりも低温の流体が導入される複数の流路を有」する「低温層」に相当する。 ウ)先願発明2における「第2伝熱板の複数のチャネル」は、本件訂正発明1における「前記低温層の前記複数の流路」に相当し、以下同様に、「第1部分」は「前記低温側流体が導入される」、「上流側部」に、「第1部分よりも下流側の」、「第2部分」は「前記上流側部の下流側に位置する」、「下流側部」に、それぞれ相当する。 エ)先願発明2における「第2伝熱板の所定面積あたりの低温流体が流動可能となるチャネルの面積がしめる割合」は、本件訂正発明1における「前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合」に相当し、以下同様に、「小さくなっており」は「低く設定されており」に、それぞれ相当する。 オ)先願発明2における「前記第2部分における複数のチャネルは、隔壁により互いに独立した線状のチャネルとなっており、」は、隔壁により互いに独立した線状のチャネルにおいて、流体は互いに合流しないことは明らかであるから、本件訂正発明1における「前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であり、」に相当する。 さらに、先願発明2における「前記高温流体と前記低温流体との熱交換により、前記低温流体が昇温して気化する」ことは、低温流体を気化するにあたって、高温流体からの熱によって第2伝熱板の第1部分において少なくとも一部分が気化し、第1部分において気化した低温流体が下流側の第2部分においてさらに加温されるのは技術常識からみて明らかであるから、本件訂正発明1における「前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温される」ことに相当する。 カ)先願発明2における「拡散接合型熱交換器」は、上記(1)イ 段落【0023】及び(1)ク 図2の記載からみて、第1伝熱板と第2伝熱板とを積層して拡散接合によって一体化することにより構成したものであるから、本件訂正発明1における「積層型熱交換器」に相当する。 したがって、両者の一致点及び相違点は次のとおりである。 [一致点] 「高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層と、 前記高温側流体よりも低温の低温側流体が導入される複数の流路を有し、前記高温層に積層された低温層と、を備え、 前記低温層の前記複数の流路はそれぞれ、前記低温側流体が導入される上流側部と、前記上流側部の下流側に位置する下流側部と、を有し、前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されており、前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であり、 前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、 前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温される積層型熱交換器。」 [相違点3] 本件訂正発明1においては「前記低温層は、前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部に連通するとともに、前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部に連通する連通流路を備え、前記連通流路は、前記上流側部及び前記下流側部の間を横断する方向に延びるとともに、前記連通流路の幅方向の一側が前記上流側部に繋がり且つ前記連通流路の幅方向のもう一方側が前記下流側部に繋がっている」のに対して、先願発明2においては、第2伝熱板の第1部分と、第1部分より下流側の第2部分との間を横断する方向に延びる連通流路を備えるか不明である点。 上記相違点3について検討する。 [相違点3について] 先願発明2においては、第2伝熱板の第1部分と、第1部分より下流側の第2部分との間を横断する方向に延びる連通流路を備えるか不明であって、第1部分と第2部分との間に連通流路を設けることは自明であるともいえない。 そうすると、本件訂正発明1は、先願発明2と相違点3において相違し、また、相違点3は、課題解決のための具体化手段における微差であるともいえない。 したがって、本件訂正発明1は先願発明2との対比において上記相違点3を有しているから、本件訂正発明1と先願発明2とは同一であるということはできない。 ・請求項2ないし3について 本件訂正発明2及び3は本件訂正発明1を引用するものであり、先願発明2との対比において上記相違点3を有しているから、本件訂正発明1と同様に、本件訂正発明2及び3と先願発明2とは同一であるとはいえない。 2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について (1)特許法第36条第6項第2号について 本件特許の請求項1において、「上流側部」、「下流側部」、「連通流路」の形状が十分に特定されておらず、請求項1の「上流側部」、「下流側部」、「連通流路」がどのような構造を含むのか不明確であるから、本件特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 判断:本件訂正により訂正された請求項1の記載によると、低温側流体が導入される複数の流路が有する「上流側部」、「下流側部」及び「連通流路」に関して、「上流側部」は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が「下流側部」よりも低く設定されており、複数の流路の各「下流側部」は、「低温側流体が互いに合流しない独立した構成」を有するものであり、「連通流路」は、「上流側部」及び「下流側部」の間を横断する方向に延びるとともに、「連通流路」の幅方向の一側が「上流側部」に繋がり且つ連通流路の幅方向のもう一方側が「下流側部」に繋がるという意味であるから、「上流側部」、「下流側部」、及び「連通流路」の各領域の形状を特定するまでもなく明確である。 請求項1の記載を引用する請求項2及び3の記載においても同様である。 (2)特許法第36条第6項第1号について 本件特許の請求項1は、文言上、「上流側部」、「下流側部」、「連通流路」が、「複数の流路が分岐したり合流することにより相互に連通し合う」形態のものを含み得るが、本件特許明細書においては、「上流側部」、「下流側部」、「連通流路」がそれぞれ独立した線状の流路であるものしか開示されていないから、出願時の技術常識に照らしても、本件特許の請求項1に係る発明の範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえないから、本件特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。 判断:本件訂正により訂正された請求項1の記載における、低温側流体が導入される複数の流路が有する「上流側部」、「下流側部」及び「連通流路」について、「上流側部」は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が「下流側部」よりも低く設定されており、複数の流路の各「下流側部」は、「低温側流体が互いに合流しない独立した構成」を有するものであり、「連通流路」は、「上流側部」及び「下流側部」の間を横断する方向に延びるとともに、「連通流路」の幅方向の一側が「上流側部」に繋がり且つ連通流路の幅方向のもう一方側が「下流側部」に繋がっているところ、本件訂正により、「下流側部」は、低温側流体が互いに合流しない独立した構成となったので、発明の詳細な説明に記載(図4、図6等参照。)されたものとなった。 さらに、本件訂正による請求項1に記載の「上流側部」について、本件の特許明細書には1本1本が独立した流路の実施例のみが記載されているものの、技術常識から、本件の特許明細書の実施例に記載されたもの以外の形態を文言上含み得ることは明らかであり、想定しうる例を全て記載しなければならないということはない。 よって、本件訂正により訂正された本件特許の請求項1に係る発明は、発明の詳細な説明に記載されたものではないとはいえない。 請求項1を引用する請求項2及び3に係る発明においても同様である。 3 令和3年12月24日に異議申立人が提出した意見書について 異議申立人は、令和3年12月24日に提出の意見書において、概略以下の理由(1)、(2)により、特許法第29条の2に関する取消理由が本件訂正によってもなお解消されていないと主張しているので以下判断する。 (1)本件訂正発明1の「前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であり」という構成と、甲第1号証の図4に開示された発明の「第2部分21bのうちの、低温側流体が互いに合流しない独立した構成を有する部分」とは、実質的な差異がなく同一である。 判断:本件特許明細書における図4及び図6を参照すると、低温層21が、連通流路40を境界として、上流側部37と下流側部38に区分されているところ、上流側部37と下流側部38とは、それらのうちのごく一部分のみを意味するのではなく、上流側部37と下流側部38の全体を意味すると解するのが自然である。 そうすると、甲第1号証の図4に示される第2の部分21bは、全体としてみると、千鳥状に配列された複数の連結通路により相互接続されたものであり、本件訂正発明1における「低温側流体が互いに合流しない独立した構成」と相違するから、本件訂正発明1と甲第1号証の図4に開示された発明とが、実質的な差異がなく同一であるとはいえない。 本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2及び3についても同様である。 (2)本件訂正発明1の「前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であり」という構成と、甲第1号証(段落【0103】、及び【0104】)の「第1部分21aおよび第2部分21bの各チャネルを、それぞれ図11(A)および(B)に示すパターンとしてもよい」という記載、及び「図11(B)は、第2部分21bのパターンであり」、「隔壁222により互いに独立した線状のチャネルとなっている」の記載に基づいて、甲第1号証の図4に記載された第2部分21bを、甲第1号証の図11(B)のパターンとしたものの発明との間には、実質的な差異がなく同一である。 判断:上記1(3)イで認定した先願発明2が、上記1(3)エで判断したとおり、本件訂正発明1は先願発明2との対比において相違点3を有しているから、本件訂正発明1と先願発明2とは同一であるとはいえない。 本件訂正発明1を引用する本件訂正発明2及び3についても同様である。 よって、令和3年12月24日に異議申立人が提出した意見書における、異議申立人による上記(1)、(2)の主張は採用できない。 第7 むすび 以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件請求項1ないし3に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
発明の名称 |
(54)【発明の名称】積層型熱交換器 【技術分野】 【0001】 本発明は、積層型熱交換器に関するものである。 【背景技術】 【0002】 従来、下記特許文献1に開示されているように、低温の流体が流れる複数の低温側流路を有する低温層と、低温の流体を加熱するための加熱用流体が流れる複数の高温側流路を有する高温層とが積層状態で並ぶように配置された積層型熱交換器が知られている。特許文献1に開示された積層型熱交換器は、加熱用流体が低温の流体で冷やされて凍結することを抑制すべく、複数の低温側流路が形成された低温層と、複数の高温側流路が形成され、第1低温層に隣接する第1高温層と、複数の高温側流路が形成され、第1高温層に隣接する第2高温層と、を有する構成を採用している。この構成では、第1高温層を構成する高温側流路内の高温側流体は、低温側流体によって冷やされる。しかしながら、第1高温層の高温側流路と第2高温層の高温側流路との間の部位が高温に維持されるため、第1高温層内の高温側流体が冷やされるとしても、高温側流体が凍結することを抑制することができる。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0003】 【特許文献1】特開2017−166775号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0004】 特許文献1に開示された積層型熱交換器では、第1高温層内の高温側流体が凍結することを抑制することができる。しかしながら、この熱交換器では、高温側流体が過度に冷却されることを抑制するには、第2高温層が必須の構成となり、設計上の自由度は少ないという間題がある。 【0005】 そこで、本発明は、前記従来技術を鑑みてなされたものであり、その目的とするところは、第2高温層を必須の構成とすることなく、設計上の自由度を確保した上で、高温側および低温側の流路を最適化することにより、低温側流体の冷熱によって高温層内の高温側流体の温度が過度に低下することを抑制することにある。 【課題を解決するための手段】 【0006】 前記の目的を達成するため、本発明は、高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層と、前記高温側流体よりも低温の低温側流体が導入される複数の流路を有し、前記高温層に積層された低温層と、を備える積層型熱交換器である。前記低温層の前記複数の流路はそれぞれ、前記低温側流体が導入される上流側部と、前記上流側部の下流側に位置する下流側部と、を有し、前記上流側部は、前記低温層の所定面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されている。前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成である。前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温され、前記低温層は、前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部に連通するとともに、前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部に連通する連通流路を備え、前記連通流路は、前記上流側部及び前記下流側部の間を横断する方向に延びるとともに、前記連通流路の幅方向の一側か前記上流側部に繋がり且つ前記連通流路の幅方向のもう一方側が前記下流側部に繋がっている。 【0007】 本発明に係る積層型熱交換器では、低温層において、高温側流体によって加熱される前の低温側流体が上流側部に流入し、上流側部で加熱された低温側流体が下流側部を流れる。このため、低温側流体の温度は、上流側部において相対的に低く、下流側部において相対的に高い。そして、低温側流体の少なくとも一部が蒸発する上流側部において、伝熱面面積の割合が相対的に低く設定されている。例えばストレート流路のような伝熱を促進しない流路が用いられてもよい。このため、低温側流体から低温層を構成する部材への伝熱が抑制されている。このため、低温層を構成する部材の温度(低温層の壁面温度)が過度に低下することを抑制することができる。このため、上流側部を流れる低温側流体によって冷却される高温側流体の温度が過度に低下することを抑制することができる。一方、上流側部において蒸発した低温側流体をさらに加温する下流側部においては、伝熱面面積の割合が相対的に高く設定されている。これにより、上流側部に比べ所定面積中の伝熱性能が高い。したがって、低温側流体を所望の温度まで加温することができる。したがって、低温側流体の冷熱による高温側流体の過度の温度低下を抑制しつつ、所望の温度の低温側流体を得ることができる。しかも、第1高温層に隣接する第2高温層が設けられない場合であっても、高温側流体の過度の温度低下を抑制することができる。 しかも、低温層が連通流路を備えているので、上流側部において低温側流体の偏流が発生したとしても、低温側流体が連通流路に流入することによって、低温側流体の偏流が解消する。したがって、低温側流体が下流側部に流入する際の偏流を防止することができ、各下流側部において低温側流体の圧力に差が生ずることを抑制することができる。また、流路毎の偏流が抑制されることにより、低温層を構成する部材に熱応力の偏りが生ずることを抑制することができる。 【0008】 前記上流側部と前記下流側部とにおいて流路形状、流路ピッチ及び流路幅の少なくとも一つが異なることにより、前記低温層の所定面積中において前記伝熱面の占める割合が、前記下流側部よりも前記上流側部の方が低く設定されていてもよい。 【0009】 前記積層型熱交換器は、前記高温側流体が導入される複数の流路を有し、前記低温層とは反対側において前記高温層に積層された第2高温層をさらに備えていてもよい。 【0010】 この態様では、第2高温層は、低温側流体によって冷却され難く、高温側流体によって加温されて高温に維持されやすい。このため、低温層の上流側部に積層される一方で第2高温層が積層される高温層は、低温側流体によって過度に冷却され難い。したがって、高温側流体の温度が過度に低下することをより一層抑制することができる。 【発明の効果】 【0013】 以上説明したように、本発明によれば、第2高温層を必須の構成要素としなくても、低温側流体の冷熱を制限することによって、高温層内の高温側流体の温度が過度に低下することを抑制することができる。 【図面の簡単な説明】 【0014】 【図1】(a)実施形態に係る積層型熱交換器の正面図であり、(b)前記積層型熱交換器の側面図である。 【図2】前記積層型熱交換器に含まれる積層体の断面図を部分的に示す図である。 【図3】前記積層体において、高温層を構成する金属板を概略的に示す図である。 【図4】前記積層体において、低温層を構成する金属板を概略的に示す図である。 【図5】高温層から低温層への伝熱量の変化に基づく壁面温度の変化を説明するための図である。 【図6】その他の実施形態に係る積層型熱交換器に含まれる低温層を構成する金属板を概略的に示す図である。 【図7】その他の実施形態に係る積層型熱交換器に含まれる積層体の断面図を部分的に示す図である。 【発明を実施するための形態】 【0015】 以下、本発明を実施するための形態について図面を参照しながら詳細に説明する。 【0016】 図1に示すように、本実施形態に係る積層型熱交換器10は、積層体12と、低温側流入ヘッダ14と、低温側流出ヘッダ15と、高温側流入ヘッダ17と、高温側流出ヘッダ18と、を備え、いわゆるマイクロチャネル熱交換器によって構成されている。低温側流入ヘッダ14及び低温側流出ヘッダ15は、略直方体状に形成された積層体12において互いに反対側に位置する面に接続されている。高温側流入ヘッダ17は、積層体12において低温側流出ヘッダ15が接続された面に隣接する面に接続されている。高温側流出ヘッダ18は、積層体12において低温側流入ヘッダ14が接続された面に隣接する面に接続されている。また、高温側流入ヘッダ17及び高温側流出ヘッダ18は、積層体12において互いに反対側に位置する面に接続されている。 【0017】 低温側流入ヘッダ14は、低温側流体が流れる図外の配管に接続されるように構成されている。そして、低温側流入ヘッダ14は、積層体12内に形成されている後述の低温層21内の複数の流路25のそれぞれに低温側流体を分配するように構成されている。低温側流出ヘッダ15は、積層体12内から流出した低温側流体を所定の場所に供給するための図外の配管に接続されるように構成されている。低温側流体は、積層体12内で所定の温度まで加熱されるため、この所望の温度に加熱された低温側流体が積層体12から流出する。低温側流出ヘッダ15は、低温層21内の各流路25から流出した低温側流体を合流させて、この合流した低温側流体を、当該ヘッダ15に接続された配管に流出させる。 【0018】 高温側流入ヘッダ17は、高温側流体が流れる図外の配管に接続されるように構成されている。そして、高温側流入ヘッダ17は、積層体12内に形成されている後述の高温層23内の複数の流路27のそれぞれに高温側流体を分配するように構成されている。高温側流出ヘッダ18は、積層体12内から流出した高温側流体を所定の場所に流すための図外の配管に接続されるように構成されている。高温側流出ヘッダ18は、高温層23内の各流路27から流出した高温側流体を合流させて、この合流した高温側流体を、当該ヘッダ18に接続された配管に流出させる。 【0019】 低温側流体としては、例えば、液化天然ガス、液化窒素、液化水素等の極低温の液化ガスを例示することができる。また、高温側流体としては、温水、海水、エチレングリコール等の液状の流体を例示することができる。すなわち、低温側流体及び高温側流体は、低温側流体の温度が高温側流体の凝固点よりも低くなる関係となっていてもよい。 【0020】 図2に示すように、積層体12は、低温層21と、低温層21に積層された高温層23とを有している。積層体12は、低温層21及び高温層23が交互に繰り返されるように、複数の低温層21と複数の高温層23とを有している。低温層21及び高温層23は、それぞれ熱伝導性の高い材質の金属材によって構成されていて、例えば、重ね合わされた複数の金属板29,30同士を拡散接合することによって積層体12が形成されている。 【0021】 低温層21は、複数の流路(低温側流路)25を含む偏平な領域として形成されている。また、高温層23には、複数の流路(高温側流路)27を含む偏平な領域として形成されている。低温側流路25は、一方向に並ぶように配置され、また高温側流路27は、低温側流路25が並ぶ方向と平行な方向に並ぶように配置されている。すなわち、板面に間隔をおいて複数の溝が形成された金属板29,30同士を重ね合わせて拡散接合するため、一方向に並ぶように低温側流路25及び高温側流路27が形成される。低温側流路25及び高温側流路27は、何れも断面が半円形状に形成されている。各低温側流路25には、低温側流入ヘッダ14を通して低温側流体が流入する。また、高温側流路27には、高温側流入ヘッダ17を通して高温側流体が流入する。 【0022】 ここで、拡散接合とは、金属板29,30同士を互いに密着させ、金属板29,30を構成する素材の融点以下の温度条件で、かつ塑性変形をできるだけ生じない程度に加圧して、接合面間に生じる原子の拡散を利用して金属板29,30同士を接合する方法である。このため、隣接する層間の境界が明確に現れているわけではない。なお、各層は、拡散接合によって接合されるものに限られない。この場合、層同士の境界が現れていてもよい。 【0023】 図示省略しているが、積層体12における高温層23及び低温層21の積層方向における両端部にはそれぞれ端板が配置されている。高温層23及び低温層21は、この端板間に挟み込まれた構成となっている。 【0024】 図3は、高温層23を形成する金属板29の板面を概略的に示している。金属板29は細長い矩形状に形成されており、金属板29の板面には複数の溝32が並ぶように形成されている。この溝32は、積層体12が形成されたときに高温側流路27を形成する溝である。溝32の一端部32aは、矩形の一方の長辺における端部の近傍に開口していて、この開口から矩形の短辺に沿う方向に延びている。そして、溝32は、矩形に短辺に沿う方向から折れ曲がり、矩形の長辺に沿う方向に延びている。そして、溝32は、再度折れ曲がり、再び短辺に沿う方向に延びている。溝32の他端部32bは、もう一方の長辺(溝32の一端部32aが開口する長辺とは反対側の長辺)における端部の近傍に開口している。溝32は全体として見ると2箇所で折れ曲がる形状であるが、溝32は、微視的には、直線状に延びているのではなく、波形に延びている。なお、溝32は、波形に形成されているのではなく、直線状に延びていてもよい。 【0025】 図4は、低温層21を形成する金属板30の板面を概略的に示している。金属板30は高温層23を形成する金属板29と同じ外形を有しており、金属板30の板面には複数の溝34が並ぶように形成されている。この溝34は、積層体12が形成されたときに低温側流路25を形成する溝である。溝34の一端部34aは、矩形の一方の短辺に開口し、矩形の長辺に沿う方向に延びている。そして、溝34の他端部34bは、矩形のもう一方の短辺に開口している。 【0026】 低温層21に形成された溝34、すなわち、低温層21の低温側流路25は、それぞれ、上流側部37と、下流側部38と、を有している。上流側部37は、低温側流入ヘッダ14に繋がる部分であり、下流側部38は、低温側流出ヘッダ15に繋がる部分である。すなわち、低温側流入ヘッダ14を通して導入された低温側流体は、各低温側流路25の上流側部37を流れ、上流側部37を流れ出た低温側流体は、下流側部38を流れて低温側流出ヘッダ15内で合流される。上流側部37においては、液状の低温側流体は、高温側流体の熱によって加熱され、その少なくとも一部が蒸発する。下流側部38においては、蒸発した低温側流体が高温側流体の熱によってさらに加温される。すなわち、上流側部37は、低温側流体が蒸発する蒸発部であり、下流側部38は、蒸発した低温側流体がさらに加熱される加温部である。 【0027】 上流側部37はそれぞれ、直線状に延びる形状であり、下流側部38はそれぞれ波形に延びる形状となっている。また、上流側部37における流路ピッチは、下流側部38における流路ピッチよりも広く設定されている。例えば、上流側部37における流路ピッチは、下流側部38における流路ピッチの2倍のピッチとなっている。このように、上流側部37と下流側部38とにおいて流路形状及び流路ピッチが異なることにより、低温層21における所定面積に占める上流側部37の面積の割合は、低温層21における所定面積に占める下流側部38の面積の割合よりも低く設定されている。つまり、低温層21における所定面積のうち、上流側部37によって形成される伝熱面の面積の割合が、下流側部38によって形成される伝熱面の面積の割合よりも低く設定されている。これにより、上流側部37における伝熱性能が下流側部38における伝熱性能に比べて低く抑えられている。この結果、低温側流体が蒸発する上流側部37における壁面温度を高温層23の温度に近づけることができる。 【0028】 この点について、図5を用いて、具体的に説明する。図5は、高温側流体の温度と、高温層23を構成する部材温度(高温側流路27と低温側流路25との間に位置する金属板29の温度、壁面温度)と、低温側流体の温度との関係を説明するものである。 【0029】 高温側流路27内を流れる高温側流体の温度をTH(℃)とし、低温側流路25内を流れる低温側流体の温度とTL(℃)とし、高温側流路27と低温側流路25との間に位置する部材(金属板29)の温度即ち壁面温度をTW(℃)とする。温度TWは、高温側流路27における伝熱面の温度TW1(℃)と、低温側流路25における伝熱面の温度TW2(℃)との平均値として表すことができる。高温側流路27によって形成される伝熱面の面積をAH(m2)とし、低温側流路25によって形成される伝熱面の面積をAL(m2)とし、高温側流路27によって形成される伝熱面における熱伝達率をhH(W/m2K)とし、低温側流路25によって形成される伝熱面における熱伝達率をhL(W/m2K)とする。 【0030】 高温側流路27によって形成される伝熱面を通過する熱量q1及び低温側流路25によって形成される伝熱面を通過する熱量q2はそれぞれ以下の式(1)(2)で表すことができる。 q1=hH×AH×(TH−TW)・・・(1) q2=hL×AL×(TW−TL)・・・(2) 【0031】 熱量q1と熱量q2は等しくなるため、熱量q1が一定であると仮定した場合において、例えば低温側流路25における伝熱面の面積ALが小さく設定されれば、式(1)及び式(2)から、壁面温度TWは高くなる。すなわち、上流側部37の面積が小さく設定されれば、壁面温度TWが高くなるため、壁面温度TWを高温層23の温度に近づけることができる。また、上流側部37において、熱伝達率hLが小さくなるように設定される場合も同様である。 【0032】 なお、本実施形態では、上流側部37と下流側部38とにおいて、流路形状及び流路ピッチが異なる設定となっているが、これに限られない。例えば、低温側流路25の上流側部37が直線状に形成されるとともに下流側部38が波形又はジグザグ状に形成される一方で、流路ピッチ及び流路幅が上流側部37と下流側部38とにおいて同じに設定されることにより、低温層21において所定面積に占める上流側部37の伝熱面の面積の割合が、低温層21において所定面積に占める下流側部38の伝熱面の面積の割合よりも低く設定されていてもよい。あるいは、上流側部37及び下流側部38の流路形状及び流路幅が同じに形成される一方で、上流側部37の流路ピッチが下流側部38の流路ピッチよりも広く設定されていてもよい。あるいは、上流側部37及び下流側部38において流路形状及び流路ピッチが同じに形成される一方で、上流側部37の流路幅が下流側部38の流路幅よりも狭く設定されていてもよい。 【0033】 図4に示すように、複数の上流側部37と、複数の下流側部38との間には、これらに繋がる連通流路40が形成されている。連通流路40は、全ての上流側部37に繋がっているため、各上流側部37を流れた低温側流体は連通流路40に合流する。したがって、上流側部37間で流量又は圧力に偏り又は差が生じた場合であっても、連通流路40においてそれが解消される。そして、その状態で低温側流体は各下流側部38に分流される。 【0034】 以上説明したように、本実施形態では、低温層21において、高温側流体によって加熱される前の低温側流体が上流側部37に流入し、上流側部37で加熱された低温側流体が下流側部38を流れる。このため、低温側流体の温度は、上流側部37において相対的に低く、下流側部38において相対的に高い。そして、低温側流体の少なくとも一部が蒸発する上流側部37において、伝熱面面積の割合が相対的に低く設定されている。このため、上流側部37においては、低温側流体から低温層21を構成する部材への伝熱が抑制されている。このため、低温層21を構成する部材の温度(低温層21における低温側流路25の壁面温度)が過度に低下することを抑制することができる。このため、上流側部37を流れる低温側流体によって冷却される高温側流体の温度が過度に低下することを抑制することができる。一方、上流側部37において蒸発した低温側流体をさらに加温する下流側部38においては、伝熱面面積の割合が相対的に高く設定されている。これにより、上流側部37に比べ所定面積中の伝熱性能が高い。したがって、低温側流体を所望の温度まで加温することができる。したがって、低温側流体の冷熱による高温側流体の過度の温度低下を抑制しつつ、所望の温度の低温側流体を得ることができる。しかも、高温層23に隣接する第2高温層が設けられない場合であっても、高温側流体の過度の温度低下を抑制することができる。 【0035】 また本実施形態では、低温側流路25の下流側部38が波形形状を有する。このため、低温側流体の飛沫同伴による伝熱性能低下を抑制することができる。すなわち、低温側流路25が波形に形成されている場合、低温側流体が気液二相状態で流れる場合であっても、飛沫同伴された液滴が流路壁面に衝突しやすくなる。つまり、波形の流路においては、ガス(低温側流体)の流れが乱れやすいため、流路壁面に沿ってガス層が形成されることが抑制される。したがって、ガス層が形成されることによって壁面での伝熱が阻害されるという事態が生ずることを抑制することができる。言い換えると、低温側流体の飛沫が同伴されることによる蒸発が促進され、熱交換性能が低下することを避けることができる。 【0036】 また本実施形態では、低温層21が、上流側部37のそれぞれに繋がるとともに下流側部38のそれぞれに繋がる連通流路40を備えている。このため、上流側部37において低温側流体の偏流が発生したとしても、低温側流体が連通流路40に流入することによって、低温側流体の偏流が解消する。したがって、低温側流体が下流側部38に流入する際の偏流を防止することができ、各下流側部38において低温側流体の圧力に差が生ずることを抑制することができる。また、流路毎の偏流が抑制されることにより、低温層21及び高温層23を構成する部材に熱応力の偏りが生ずることを抑制することができる。 【0037】 本実施形態において、低温層21において所定面積に占める上流側部37の面積の割合は、低温層21において所定面積に占める下流側部38の面積の割合の1/6以上1/2以下に設定されていてもよい。面積比が1/6以上に設定されることにより、上流側部37における圧力損失が過大になることを防止することができるとともに、上流側部37における熱交換量が小さくなり過ぎることを防止できることにより、高温側流体が所定の温度まで加熱されないことを防止することができる。また、面積比が1/2以下に設定されることにより、低温側流体の冷熱による高温側流体の過度の温度低下を効果的に抑制することができる。 【0038】 なお、本発明は、前記実施形態に限られるものではなく、その趣旨を逸脱しない範囲で種々変更、改良等が可能である。 【0039】 例えば、前記実施形態では、上流側部37が直線状に形成されるとともに、下流側部38が波形に形成されているのに対し、図6に示す形態では、上流側部37及び下流側部38の何れも直線状に形成される一方で、上流側部37の流路ピッチが下流側部38の流路ピッチよりも大きく設定されている。より具体的には、上流側部37の流路幅が下流側部38の流路幅と同じ寸法であるのに対し、上流側部37の流路ピッチは、下流側部38の流路ピッチの流路ピッチの2倍に設定されている。すなわち、低温層21において所定面積に占める上流側部37の伝熱面の面積の割合が、低温層21において所定面積に占める下流側部38の伝熱面の面積の割合の1/2に設定されている。したがって、低温側流体の冷熱による高温側流体の過度の温度低下を効果的に抑制することができる。また、上流側部37における流路ピッチが下流側部38における流路ピッチの2倍に設定されることにより、低温側流体の流入部近傍において積層体12内の温度変化が緩やかになり、起動、停止、運転時の熱応力変化が抑制される。 【0040】 図6に示す形態は、図4に示す形態と異なり、低温側流路25は途中で折れ曲がっている。すなわち、金属板30の板面に形成された溝34の一端部34aは、矩形の一方の長辺における端部の近傍に開口し、溝34の他端部34bは、もう一方の長辺における端部の近傍に開口している。そして、溝34は、一端部34aから矩形の短辺に沿う方向に延びるとともに、そこから矩形の長辺に沿う方向に向けて折れ曲がり、さらに、そこから再び、矩形の短辺に沿う方向に向けて折れ曲がっている。そして、低温側流入ヘッダ14は、積層体12の長手方向において、高温側流入ヘッダ17と反対側の端部に配置され、また、低温側流出ヘッダ15は、積層体12の長手方向において、高温側流出ヘッダ18と反対側の端部に配置されている。したがって、この形態でも、図1の形態と同様に、低温側流体と高温側流体とが対向流となって流れる形態となっている。 【0041】 図6に示す形態でも、複数の上流側部37と複数の下流側部38とに繋がる連通流路40が形成されている。連通流路40の幅は、上流側部37の幅及び下流側部38の幅と同じ寸法に設定されている。例えばエッチング加工によって溝34を形成する場合、連通流路40の幅及び深さが上流側部37の幅及び深さ及び下流側部38の幅及び深さと同じに形成されていれば、これらを同時に加工することが可能となり、製作が容易となる。ただし、連通流路40の幅及び深さはこれに限られるものではない。それぞれの目的及び機能に応じて、連通流路40の幅が上流側部37の幅及び下流側部38の幅よりも広く設定されていても、狭く設定されていてもよい。また、連通流路40の深さは、上流側部37の深さ及び下流側部38の深さと同じであっても異なっていてもよい。 【0042】 連通流路40は、上流側部37及び下流側部38が延びる方向に対して傾斜した方向に延びている。すなわち、連通流路40は、各上流側部37が折れ曲がっている部位を繋ぐように延びる仮想直線ELに平行な方向に延びている。これは、低温側流路25が途中の2箇所で折れ曲がる形状に形成されているため、上流側部37において矩形の長辺に沿って延びる部位の長さが何れも同じになるようにするためである。連通流路40に繋がるまでの各上流側部37の長さが同じに構成されることにより、各上流側部37の圧力損失(流動抵抗)を同じにすることができる。 【0043】 前記実施形態では、積層体12において、高温層23と低温層21とが交互に繰り返されるように積層された構成としたが、これに代え、図7に示すように、積層体12が、高温層23(第1高温層23)と低温層21に加え、第2高温層42を有する構成としてもよい。第2高温層42は、複数の流路43を有しており、低温層21とは反対側において高温層23に積層されている。第2高温層42の流路(高温側流路)43には、高温層23と同様に、高温側流体が流れる。すなわち、高温側流入ヘッダ17に流入した高温側流体は、高温層23の流路(高温側流路)27だけでなく、第2高温層42の流路43にも流入する。第2高温層42に形成された複数の流路43は、高温層23に形成された流路27が並ぶ方向と平行な方向に並んでいる。 【0044】 この形態では、第2高温層42は、低温側流体によって冷却され難く、高温側流体によって加温されて高温に維持されやすい。このため、低温層21の上流側部37に積層される一方で第2高温層42が積層される高温層23は、低温側流体によって過度に冷却され難い。したがって、高温側流体の温度が過度に低下することをより一層抑制することができる。 【0045】 高温側流体の流れる方向に直交する面内において、第2高温層42の流路43の面積は、高温層23の流路27の面積よりも小さく設定されている。したがって、第2高温層42の流路43を流れる高温側流体の流速を、高温層23の流路27を流れる高温側流体の流速よりも高くすることができる。ただし、この構成に限られるものではなく、高温側流体の流れる方向に直交する面内における第2高温層42の流路43の面積が、高温層23の流路27の断面積と同じ面積に設定されていてもよい。また、高温側流体の流れる方向に直交する面内において、低温層21の流路25の面積と、高温層23の流路27の面積と、第2高温層42の流路43の面積とが同じ面積に設定されていてもよい。 【符号の説明】 【0046】 10 積層型熱交換器 12 積層体 21 低温層 23 高温層 25 低温側流路(流路) 27 高温側流路(流路) 37 上流側部 38 下流側部 40 連通流路 42 第2高温層 43 流路 (57)【特許請求の範囲】 【請求項1】 高温側流体が導入される複数の流路を有する高温層と、 前記高温側流体よりも低温の低温側流体が導入される複数の流路を有し、前記高温層に積層された低温層と、を備え、 前記低温層の前記複数の流路はそれぞれ、前記低温側流体が導入される上流側部と、前記上流側部の下流側に位置する下流側部と、を有し、前記上流側部は、前記低温層の所定 面積中において伝熱面の占める割合が前記下流側部よりも低く設定されており、前記複数の流路の各下流側部は、前記低温側流体が互いに合流しない独立した構成であり、 前記上流側部では、前記高温層内を流れる高温側流体によって加熱されて前記低温側流体の少なくとも一部が蒸発し、 前記下流側部では、前記上流側部で蒸発した低温側流体が前記高温層内を流れる高温側流体によって加温され、 前記低温層は、前記複数の流路のそれぞれの前記上流側部に連通するとともに、前記複数の流路のそれぞれの前記下流側部に連通する連通流路を備え、 前記連通流路は、前記上流側部及び前記下流側部の間を横断する方向に延びるとともに、前記連通流路の幅方向の一側が前記上流側部に繋がり且つ前記連通流路の幅方向のもう一方側が前記下流側部に繋がっている積層型熱交換器。 【請求項2】 請求項1に記載の積層型熱交換器において、 前記上流側部と前記下流側部とにおいて流路形状、流路ピッチ及び流路幅の少なくとも一つが異なることにより、前記低温層の所定面積中において前記伝熱面の占める割合が、前記下流側部よりも前記上流側部の方が低く設定されている積層型熱交換器。 【請求項3】 請求項1に記載の積層型熱交換器において、 前記高温側流体が導入される複数の流路を有し、前記低温層とは反対側において前記高温層に積層された第2高温層をさらに備えている積層型熱交換器。 |
訂正の要旨 |
審決(決定)の【理由】欄参照。 |
異議決定日 | 2022-01-26 |
出願番号 | P2018-108693 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
YAA
(F28F)
P 1 651・ 161- YAA (F28F) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
林 茂樹 |
特許庁審判官 |
松下 聡 河内 誠 |
登録日 | 2020-12-14 |
登録番号 | 6810101 |
権利者 | 株式会社神戸製鋼所 |
発明の名称 | 積層型熱交換器 |
代理人 | 玉串 幸久 |
代理人 | 玉串 幸久 |
代理人 | 小谷 昌崇 |
代理人 | 小谷 悦司 |
代理人 | 小谷 昌崇 |
代理人 | 小谷 悦司 |