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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A61L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A61L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A61L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61L
管理番号 1384155
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-07-27 
確定日 2022-01-26 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6826070号発明「流体殺菌モジュール」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 
結論 1 特許第6826070号の特許請求の範囲を,訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項[1〜10]について訂正することを認める。 2 特許第6826070号の請求項2〜10に係る特許を維持する。 3 特許第6826070号の請求項1に係る特許についての特許異議の申立てを却下する。 
理由 第1 主な手続の経緯等
特許第6826070号(請求項の数は10。以下「本件特許」という。)は,平成30年4月20日にされた特許出願(特願2018−81807号)に係るものであって,令和3年1月18日にその特許権が設定登録され,同年2月3日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後,令和3年7月27日に特許異議申立人三木郁子(以下,単に「申立人」という。)より本件特許の請求項1〜10に係る特許に対して特許異議の申立てがされ,同年10月22日付けで取消理由が通知され,同年12月16日に特許権者より意見書が提出されるとともに訂正請求書が提出されることで特許請求の範囲の訂正(以下「本件訂正」という。)が請求された。
なお,下記第2で述べるように,本件訂正の内容は,特許請求の範囲について,構成要件の限定・付加を行うような実質的な特許請求の範囲の減縮には当たらないと認められるところ,この点は,特許法(以下単に「法」という場合がある。)120条の5第5項ただし書き所定の「特別の事情があるとき」に該当すると判断されることから,当合議体は,申立人に対し,同項所定の「意見書を提出する機会」を与えないこととしている。

第2 本件訂正の可否
1 特許権者の請求の趣旨
結論第1項に同旨。
2 訂正の内容
訂正請求書及びそれに添付された訂正特許請求の範囲によれば,特許権者の求める訂正は,実質的に,以下のとおりである(決定注:訂正事項は,訂正請求書によらず,本決定において整理した。)。
(1) 訂正事項1
特許請求の範囲の請求項1を削除する。
(2) 訂正事項2
特許請求の範囲の請求項2を以下のとおり訂正する。
・ 本件訂正前
「【請求項2】
前記筒状部を収容するケース部と,
前記筒状部と前記ケース部との間に密着して配置され,前記筒状部と前記ケース部との間の領域を前記筒状部の前記一端側の領域と前記他端側の領域とに区分けする区画部材と,
前記区画部材によって区分けされた前記他端側の領域からなり,前記処理流路と前記流出部とを連通する第二整流室と,をさらに備え,
前記第一整流室は,前記一端側の領域である請求項1に記載の流体殺菌モジュール。」
・ 本件訂正後
「【請求項2】
長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と,
前記筒状部の一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一整流室と,
前記筒状部の前記一端側に設けられ,前記第一整流室に対象物を流入する流入部と,
前記筒状部の他端側に設けられ,前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部から流出させる流出部と,
前記処理流路の前記他端側の開口部に面して設けられ,前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する発光素子と,
前記筒状部を収容するケース部と,
前記筒状部と前記ケース部との間に密着して配置され,前記筒状部と前記ケース部との間の領域を前記筒状部の前記一端側の領域と前記他端側の領域とに区分けする区画部材と,
前記区画部材によって区分けされた前記他端側の領域からなり,前記処理流路と前記流出部とを連通する第二整流室と,
を備え,
前記第一整流室は,前記一端側の領域であり,前記第一整流室の内容積が,前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上前記処理流路の内容積以下である流体殺菌モジュール。」
(3) 訂正事項3
特許請求の範囲の請求項5を以下のとおり訂正する。
・ 本件訂正前
「【請求項5】
前記処理流路の最上流部から最下流部までの断面積の変化量が5%以下である請求項1から請求項4のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。」
・ 本件訂正後
「【請求項5】
前記処理流路の最上流部から最下流部までの断面積の変化量が5%以下である請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。」
(4) 訂正事項4
特許請求の範囲の請求項6を以下のとおり訂正する。また,請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7〜9も同様に訂正する。
・ 本件訂正前
「【請求項6】 前記筒状部の前記一端側に,前記筒状部の開口部を覆う整流板を備え,
当該整流板は,表裏間を通じる開口孔を有し,前記整流板が設置される部分の処理流路の流路断面積を1としたときの,前記整流板に形成された前記開口孔の開口面積が占める割合を表す開口率が0.05以上0.8以下である請求項1から請求項5のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。」
・ 本件訂正後
「【請求項6】
長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と,
前記筒状部の一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一整流室と,
前記筒状部の前記一端側に設けられ,前記第一整流室に対象物を流入する流入部と,
前記筒状部の他端側に設けられ,前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部から流出させる流出部と,
前記処理流路の前記他端側の開口部に面して設けられ,前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する発光素子と,
前記筒状部の前記一端側に,前記筒状部の開口部を覆う整流板と,を備え,
前記第一整流室の内容積が,前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上前記処理流路の内容積以下であり,
前記整流板は,表裏間を通じる開口孔を有し,前記整流板が設置される部分の処理流路の流路断面積を1としたときの,前記整流板に形成された前記開口孔の開口面積が占める割合を表す開口率が0.05以上0.8以下である流体殺菌モジュール。」
(5) 訂正事項5
特許請求の範囲の請求項10を以下のとおり訂正する。
・ 本件訂正前
「【請求項10】
前記流入部は,前記筒状部の前記一端側の端部から,前記流入部の流入口相当半径以上処理流路長の2/3以下の距離だけ,前記筒状部の前記他端側寄りとなる位置に配置されている請求項1から請求項9のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。」
・ 本件訂正後
「【請求項10】
前記流入部は,前記筒状部の前記一端側の端部から,前記流入部の流入口相当半径以上処理流路長の2/3以下の距離だけ,前記筒状部の前記他端側寄りとなる位置に配置されている請求項2から請求項9のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。」
3 本件訂正の可否についての判断
(1) 請求項1についての訂正
請求項1についての訂正は,その記載を削除するものであるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。
また,このような特許請求の範囲の記載を削除する訂正は,願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面(以下,これらをまとめて「本件明細書」という。)に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないのは明らかである。
よって,請求項1についての訂正は,法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5項及び6項で規定する要件を満たすと判断される。
(2) 請求項2についての訂正
訂正前の請求項2は請求項1の記載を引用する記載であったところ,請求項2についての訂正は,請求項1の記載を引用しないものとするいわゆる引用関係の解消を目的とする訂正であると認められる。また,このような訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないのは明らかである。
よって,請求項2についての訂正は,法120条の5第2項ただし書4号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5項及び6項で規定する要件を満たすと判断される。
(3) 請求項5についての訂正
訂正前の請求項5は「請求項1から請求項4のいずれか」を引用する記載であったところ,請求項5についての訂正は,引用する請求項について,「請求項2から請求項4のいずれか」とする訂正であるから,特許請求の範囲の減縮を目的とするものであるといえる。また,このような訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないのは明らかである。
よって,請求項5についての訂正は,法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5項及び6項で規定する要件を満たすと判断される。
(4) 請求項6についての訂正
訂正前の請求項6は「請求項1から請求項5のいずれか」を引用する記載であったところ,請求項6についての訂正は,実質的にみて,引用する請求項について請求項1のみを選択するものとしつつ,その記載を他の請求項の記載を引用しないものとする訂正であると認められるから,特許請求の範囲の減縮及び引用関係の解消を目的とするものであるといえる。また,このような訂正は,本件明細書に記載した事項の範囲内においてするものであるといえるし,実質上特許請求の範囲を拡張し,又は変更するものでもないのは明らかである。
よって,請求項6についての訂正は,法120条の5第2項ただし書1号及び4号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5項及び6項で規定する要件を満たすと判断される。
(5) 請求項7〜9についての訂正
本件訂正は,請求項6の記載を直接的又は間接的に引用する請求項7〜9について,請求項6についての訂正と同様の訂正をするものである。(ただし,引用関係の解消を目的とするものでない。)
よって,請求項7〜9についての訂正は,上記(4)で述べたことと同様に,法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5項及び同条6項で規定する要件を満たすと判断される。
(6) 請求項10についての訂正
本件訂正は,請求項2〜9の記載を直接的又は間接的に引用する請求項10について,これら請求項についての訂正と同様の訂正をするものである。(ただし,引用関係の解消を目的とするものでない。)
よって,請求項10についての訂正は,上記で述べたことと同様に,法120条の5第2項ただし書1号に掲げる事項を目的とするものであり,同条9項で準用する法126条5項及び同条6項で規定する要件を満たすと判断される。
(7) 小括
上述のとおり,請求項2〜10は請求項1に連動して訂正されるものであるから,訂正前の請求項1〜10に対応する訂正後の請求項1〜10は,法120条の5第4項所定の一群の請求項の関係を有する。
よって,結論の第1項のとおり,本件訂正を認める。

第3 本件発明
上記第2で検討のとおり本件訂正は認められるので,本件特許の請求項1〜10に係る発明は,訂正特許請求の範囲の請求項1〜10に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を順に「本件発明1」,「本件発明2」,…といい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。
「【請求項1】
(削除)
【請求項2】
長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と,
前記筒状部の一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一整流室と,
前記筒状部の前記一端側に設けられ,前記第一整流室に対象物を流入する流入部と,
前記筒状部の他端側に設けられ,前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部から流出させる流出部と,
前記処理流路の前記他端側の開口部に面して設けられ,前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する発光素子と,
前記筒状部を収容するケース部と,
前記筒状部と前記ケース部との間に密着して配置され,前記筒状部と前記ケース部との間の領域を前記筒状部の前記一端側の領域と前記他端側の領域とに区分けする区画部材と,
前記区画部材によって区分けされた前記他端側の領域からなり,前記処理流路と前記流出部とを連通する第二整流室と,
を備え,
前記第一整流室は,前記一端側の領域であり,前記第一整流室の内容積が,前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上前記処理流路の内容積以下である流体殺菌モジュール。
【請求項3】
前記筒状部の前記他端側には,前記処理流路と前記第二整流室とを連通する連通口が設けられている請求項2に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項4】
前記流出部は,前記連通口から前記流出部の流出口相当半径以上処理流路長の2/3以下の距離だけ,前記筒状部の前記一端側寄りとなる位置に配置されている請求項3に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項5】
前記処理流路の最上流部から最下流部までの断面積の変化量が5%以下である請求項2から請求項4のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項6】
長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と,
前記筒状部の一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一整流室と,
前記筒状部の前記一端側に設けられ,前記第一整流室に対象物を流入する流入部と,
前記筒状部の他端側に設けられ,前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部から流出させる流出部と,
前記処理流路の前記他端側の開口部に面して設けられ,前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する発光素子と,
前記筒状部の前記一端側に,前記筒状部の開口部を覆う整流板と,を備え,
前記第一整流室の内容積が,前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上前記処理流路の内容積以下であり,
前記整流板は,表裏間を通じる開口孔を有し,前記整流板が設置される部分の処理流路の流路断面積を1としたときの,前記整流板に形成された前記開口孔の開口面積が占める割合を表す開口率が0.05以上0.8以下である流体殺菌モジュール。
【請求項7】
前記開口孔の相当直径が,0.5mm以上前記処理流路の相当内径の1/3以下である請求項6に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項8】
前記第一整流室の壁面の,前記筒状部の前記一端側の開口部と対向する位置に凸部を有し,
前記整流板は,前記凸部と前記筒状部の端面とで挟むことにより固定されている請求項6又は請求項7に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項9】
前記整流板は,紫外線反射性材料で形成される請求項6から請求項8のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項10】
前記流入部は,前記筒状部の前記一端側の端部から,前記流入部の流入口相当半径以上処理流路長の2/3以下の距離だけ,前記筒状部の前記他端側寄りとなる位置に配置されている請求項2から請求項9のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。」

第4 申立人の主張に係る申立理由の概要
特許異議申立書における申立人の主張は,概略以下のとおりであって,本件発明1,5,9及び10は法29条1項3号に該当し特許を受けることができない発明であるか,本件発明1,5〜7,9及び10は法29条2項の規定により特許を受けることができない発明であるか,請求項1〜10に係る特許は法36条4項1号又は同条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから,請求項1〜10に係る特許は法113条2号あるいは4号に該当し取り消されるべきもの,というものである。
1 申立理由1(甲1関係)
本件発明1,5,9及び10は,下記の甲1を主たる引用文献としたとき,この主たる引用文献に対していわゆる新規性を有しないものであるか,本件発明1,5〜7,9及び10は ,甲1に記載された発明を主たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて,その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものである。(この理由を,以下「申立理由1」という。)
2 申立理由2(甲2関係)
本件発明1及び5は,下記の甲2を主たる引用文献としたとき,この主たる引用文献に対していわゆる新規性を有しないものであるか,甲2に記載された発明を主たる引用発明としたとき,この主たる引用発明に基いて,その出願前に当業者が容易に発明をすることができたものである。(この理由を,以下「申立理由2」という。)
3 申立理由3(実施可能要件
請求項1〜10についての特許は,法36条4項1号に規定するいわゆる実施可能要件を満たしていない特許出願についてされたものである。(この理由を,以下「申立理由3」という。)
4 申立理由4(サポート要件)
請求項1〜10についての特許は,法36条6項1号に規定するいわゆるサポート要件を満たしていない特許出願についてされたものである。(この理由を,以下「申立理由4」という。)
5 証拠
証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1〜2)を提出する。
・甲1: 特開2017−104230号公報
・甲2: 意匠登録第1578940号公報

第5 令和3年10月22日付けで通知された取消理由(以下,単に「取消理由」という。)の概要
取消理由は,概略,以下のとおりであって,上記申立理由1に包含されるといえる。
本件特許の請求項1,5及び10に係る発明は,本件特許の出願前に頒布された刊行物である甲1に記載された発明に基いて,当業者が容易に発明をすることができたものであって,法29条2項の規定により特許を受けることができないから,その発明に係る特許は法113条2号に該当し取り消すべきものである。

第6 当合議体の判断
当合議体は,以下述べるように,上記申立理由1〜4(上記第4)はいずれも理由がないと判断する。
1 証拠に記載された発明
(1) 甲1の記載
甲1には,次の記載がある。(下線は本決定による。以下同じ。)
・「【請求項1】
第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部とを有し,軸方向に延びる処理流路を区画する流路管と,
前記第1端部の近傍に設けられ,前記処理流路に向けて前記第1端部から前記軸方向に紫外光を照射する光源と,
前記第1端部の径方向外側を囲う整流室を区画する筐体と,を備え,
前記整流室は,前記処理流路を流れる流体の入口または出口となる流通口を有し,前記第1端部と,前記第1端部と前記軸方向に対向する対向部材との間の隙間を介して前記処理流路と連通することを特徴とする流体殺菌装置。」
・「【0022】
(第1の実施の形態)
図1は,第1の実施の形態に係る流体殺菌装置10の構成を概略的に示す図である。流体殺菌装置10は,流路管20と,第1筐体30と,第2筐体40と,第1光源50と,第2光源55とを備える。第1光源50および第2光源55は,流路管20の内部に向けて紫外光を照射する。流体殺菌装置10は,流路管20の内部を流れる流体(水など)に紫外光を照射して殺菌処理を施すために用いられる。」
・「【0024】
流路管20は,円筒状の側壁26で構成される直管である。流路管20は,第1端部21と,第1端部21とは反対側の第2端部22とを有し,第1端部21から第2端部22に向けて軸方向に延びる。第1端部21には第1光源50からの紫外光が入射し,第2端部22には第2光源55からの紫外光が入射する。流路管20は,流体への紫外光照射がなされる処理流路12を区画する。」
・「【0037】
第2筐体40は,第1筐体30と同様に構成される。第2筐体40は,第2端部22の周囲を取り囲むように設けられ,第2整流室14と第2光源室18を区画する。第2筐体40は,第2側壁42と,第2内側端壁43と,第2外側端壁44とを有する。
【0038】
第2側壁42は,第2内側端壁43から第2外側端壁44まで軸方向に延びる円筒部材であり,流路管20の中心軸Aと同軸となる位置に設けられる。第2内側端壁43は,第2端部22よりも軸方向内側の位置に設けられる円環形状の部材であり,流路管20の外面24に固定されている。第2外側端壁44は,第2端部22よりも軸方向外側の位置に設けられる円板状の部材である。第2内側端壁43と第2外側端壁44は,第2端部22を挟んで軸方向に対向する位置に設けられる。
【0039】
第2筐体40の内部には,第2光源55からの紫外光を透過する第2窓部46が設けられる。第2窓部46は,第2筐体40の内部を第2整流室14と第2光源室18に区画する。第2整流室14は,第2側壁42,第2内側端壁43および第2窓部46により区画される領域であり,第2端部22の径方向外側を囲うように環状に設けられる領域である。第2光源室18は,第2側壁42,第2外側端壁44および第2窓部46で区画される領域であり第2光源55が設けられる。
【0040】
第2窓部46は,第2端部22と軸方向に対向する対向部材であり,第2端部22との間にわずかな寸法の第2隙間16が設けられるようにして第2端部22の近傍に配置される。第2隙間16は,例えば,処理流路12や第2整流室14の通水断面積よりも狭くなるように形成される。第2窓部46は,第2隙間16の寸法が第2端部22の全周にわたって一定となるように配置されることが好ましく,第2端部22の端面と第2窓部46の対向面とが略平行となるように配置されることが好ましい。
【0041】
第2筐体40には,流入口47と流入管48が設けられる。流入口47は,処理流路12にて紫外光が照射される流体が流入する流通口であり,第2整流室14と連通する位置に設けられる。流入管48は,流入口47に取り付けられる接続管である。流入口47および流入管48は,第2隙間16から流入口47に向かう方向と,流入管48の長手方向とが同一直線上に乗らない位置に配置される。具体的には,流入口47は,第2隙間16から軸方向にずれた位置に配置され,流入管48は,第2隙間16から流入口47に向かう方向と交差する方向(図示する例では,径方向)に延びる。このような配置とすることで,流入管48の流れの方向に起因して第2隙間16を流れる流体のうち流入口47に相対的に近い位置の流れF3が速くなり,流入口47に相対的に遠い位置の流れF4が遅くなる影響を低減できる。…
【0043】
以上の構成により,流体殺菌装置10は,処理流路12を流れる流体に向けて第1光源50および第2光源55からの紫外光を照射して殺菌処理を施す。処理対象となる流体は,流入管48,流入口47,第2整流室14,第2隙間16を通って第2端部22から処理流路12の内部に流入する。処理流路12を流れる流体は,例えば,軸方向に直交する断面において中央付近の流速v1が相対的に速く,内面23付近の流速v2が相対的に遅い状態に整流化される。処理流路12を通過した流体は,第1端部21から第1隙間15,第1整流室13,流出口37,流出管38を通って流出する。
【0044】
このとき,第2整流室14は,流入管48および流入口47を通じて流入する流体の流れを整え,周方向に異なる位置から第2隙間16を通って放射状(径方向内側)に処理流路12に流入する流体の流れを均一化させる。第2整流室14は,第2隙間16の流れを均一化することで,第2端部22の近傍の位置から処理流路12の流れが整流化されるようにする。同様に,第1整流室13は,流出口37および流出管38を通じて流出する流体の流れを整え,処理流路12から第1隙間15を通って放射状(径方向外側)に流出する流体の流れを均一化させる。第1整流室13は,第1隙間15の流れを均一化することで,第1端部21の近傍の位置まで処理流路12の流れが整流化された状態で維持されるようにする。
【0045】
第1光源50および第2光源55は,上述のように整流化されて処理流路12を流れる流体に向けて紫外光を照射する。第1光源50および第2光源55は,図2に示すような中央付近の強度が高く,径方向外側の強度が低くなる強度分布を有するため,処理流路12の流速分布に対応した強度で紫外光を照射できる。つまり,流速の高い中央付近に高強度の紫外光を照射し,流速の低い径方向外側の位置には低強度の紫外光を照射することができる。その結果,処理流路12を通過する流体に作用する紫外光のエネルギー量を流体が通過する径方向の位置によらずに均一化できる。これにより,処理流路12を流れる流体の全体に対して所定以上のエネルギー量の紫外光を照射することができ,流体全体に対する殺菌効果を高めることができる。」
・「【0061】
(第2の実施の形態)
図7は,第2の実施の形態に係る流体殺菌装置210の構成を概略的に示す断面図である。本実施の形態は,第2筐体40を設ける代わりに,流入管240が流路管20の第2端部22に設けられる点で上述の実施の形態と相違する。以下,流体殺菌装置210について上述の第1の実施の形態との相違点を中心に説明する。
【0062】
流体殺菌装置210は,流路管20と,第1筐体30と,流入管240と,第1光源50と,整流板214とを備える。流路管20,第1筐体30および第1光源50は,上述の第1の実施の形態と同様に構成される。
【0063】
流入管240は,漏斗状の部材であり,口径の大きい第2端部22と口径の小さい流入口247とを接続する。流入管240は,第2端部22に接続される接続端部244と,円錐状の円錐部246と,流入口247を規定する接続管248とを有する。流入管240は,流路管20の中心軸Aと同軸となるように配置され,流入口247から流入する流体を処理流路12に向けて軸方向に流すための流入路242を区画する。流入管240は,樹脂材料や金属材料で構成され,紫外光の反射率が低い材料で構成されることが望ましい。」
・「【図1】


(2) 甲1に記載された発明
ア 上記(1)での摘記,特に【請求項1】,【0037】,【0041】,【0044】及び【図1】からみて,甲1には次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「第1端部と前記第1端部とは反対側の第2端部とを有し,軸方向に延びる処理流路を区画する円筒状の側壁で構成される直管である流路管と,
前記第1端部の近傍に設けられ,前記処理流路に向けて前記第1端部から前記軸方向に紫外光を照射する光源と,
前記第1端部の径方向外側を囲う第1整流室を区画する,流出管が設けられた第1筐体と,
前記第2端部の径方向外側を囲う第2整流室を区画する,流入管が設けられた第2筐体と,を備え,
前記第1整流室は,前記処理流路を流れる流体の出口となる流通口を有し,前記第1端部と,前記第1端部と前記軸方向に対向する対向部材との間の第1隙間を介して前記処理流路と連通するとともに,
前記第2整流室は,前記処理流路を流れる流体の入口となる流通口を有し,前記第2端部と,前記第2端部と前記軸方向に対向する対向部材との間の第2隙間を介して前記処理流路と連通している,流体殺菌装置。」
イ なお,申立人は,甲1に記載されている発明について,「整流板214」が処理流路の第2端部の開口を覆うものとして認定できる旨主張するが(特許異議申立書27頁など),当合議体は,そのような主張に与しない。
すなわち,甲1は,整流板214を備えたものを「第2の実施の形態」として説明するところ,このような第2の実施の形態は,「第2筐体40を設ける代わりに,流入管240が流路管20の第2端部22に設けられる」(【0061】)もの,換言すれば,上記甲1発明の「第2端部の径方向外側を囲う第2整流室を区画」するような構成を設けることに代わるものであるから,「第2整流室」を備える上記甲1発明において,さらに「整流板214」を備えたものを認定することはできない。

(3) 甲2の記載
甲2には,次の記載がある。
・「意匠に係る物品 流水殺菌モジュール」
・「意匠に係る物品の説明 本物品は,水中に潜む大腸菌等の細菌を紫外線LEDにより殺菌・消毒する流水式紫外線殺菌モジュールである。流入口と流出口を円筒部における水の流方向と垂直方向に設けている。流入口から流入した水は,流出口側に設置された紫外線LEDから,水の流方向と逆方向に発光される紫外線により殺菌される仕組みである。」
・「【正面・平面・左側面側からの斜視図】



・「【背面・底面・右側面側からの斜視図】



・「【平面図】



・「【右側面図】



・「【左側面図】



・「【A−A断面図】



・「【各部の名称を示す参考図】


(4) 甲2に記載された発明
上記(3)での摘記から,甲2には,実質的にみて,甲1に記載された発明(甲1発明)と同様の構成からなる発明が記載されていると解される。

2 申立理由1についての判断
(1) 本件発明5について
特許異議申立書によれば,申立人は,申立理由1のうち,本件発明5に対しては,訂正前の請求項1を引用する場合について主張するにとどまり,請求項2〜4を引用する場合について何ら主張していない。そして,上記第2でも述べたように,本件訂正後の請求項5は,実質的にみて,訂正前の請求項2〜4を引用するものと同じである。すなわち,申立理由1のうち,本件発明5については,本件訂正によって,もはや申立人が取消事由を主張していないものとなったとみることができる。
しかも,本件発明5はいわゆる従属請求項に係る発明であるところ,そもそも申立人は,請求項5が引用するいわゆる独立請求項である請求項2に係る発明(本件発明2)について何ら主張していないのは,上述のとおりである。
本件発明5は,申立理由1について,その当否の判断を要しないといえる。
(2) 本件発明6について(甲1発明との対比・判断)
ア 本件発明6と甲1発明とを対比すると,甲1発明(流体殺菌装置)の「流路管」は本件発明6(流体殺菌モジュール)の「筒状部」に相当し,同様に,「流路管」の「第1端部」は「筒状部の一端(側)」に,同「第2端部」は「筒状部の他端(側)」に,「第2整流室」は「第一整流室」に,「流入管」は「流入部」に,「流出管」は「流出部」に,「光源」は「発光素子」にそれぞれ相当する。
そうすると,本件発明6と甲1発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりであると認められる。
・一致点
「長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と,前記筒状部の一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一整流室と,前記筒状部の前記一端側に設けられ,前記第一整流室に対象物を流入する流入部と,前記筒状部の他端側に設けられ,前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部から流出させる流出部と,前記処理流路の前記他端側の開口部に面して設けられ,前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する発光素子とを備えた流体殺菌モジュール。」である点
・相違点1
第一整流室(第2整流室)の内容積について,本件発明6は「前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上前記処理流路の内容積以下」と特定するのに対し,甲1発明はそのような特定を有しない点。
・相違点2
本件発明6(流体殺菌モジュール)は,筒状部の一端側に「筒状部の開口部を覆う整流板」を備え,かつ,当該整流板について「表裏間を通じる開口孔を有し,前記整流板が設置される部分の処理流路の流路断面積を1としたときの,前記整流板に形成された前記開口孔の開口面積が占める割合を表す開口率が0.05以上0.8以下である」と特定するものであるのに対し,甲1発明(流体殺菌装置)は,このような整流板に相当する構成を有していない点。
イ まず,上記相違点2について検討する。
甲1には,本件発明6の「整流板」に相当すると思しき「整流板214」についての記載が確かに見受けられるが,上記1(2)で述べたように,甲1は,整流板214を備えたものを,甲1発明の「第2端部の径方向外側を囲う第2整流室を区画」するような構成を設けることに代わるものとして説明している。
さすれば,甲1には,「第2整流室」を有する構成からなる甲1発明において,さらに「整流板」を備えることを阻害する記述があるといえるのであるから,甲1発明に「整流板」を備えることを動機付けることは,整流板の設置部位,態様などに関係なく,そもそもできないといわざるを得ない。
ウ そうすると,相違点1について検討するまでもなく,本件発明6は,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。
(3) 本件発明7,9及び10について
本件訂正後の請求項7,9及び10の記載は請求項6を直接又は間接的に引用するものであるから,本件発明7,9及び10については,本件発明6についての上記判断と同様に,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。
(4) 本件発明1について
本件発明1については,上記第2で判断のとおり,特許請求の範囲の請求項1を削除する訂正が認められることに伴い,判断の対象が存在しない。
(5) 小括
以上のとおりであるから,申立人主張の申立理由1には理由がない。

3 申立理由2についての判断
(1) 本件発明5について
特許異議申立書によれば,申立人は,申立理由2のうち,本件発明5に対しては,申立理由1と同様に,訂正前の請求項1を引用する場合について主張するにとどまり,請求項2〜4を引用する場合について何ら主張していない。そうすると,申立理由2のうち,本件発明5についても,本件訂正によって,もはや申立人が取消事由を主張していないものとなったとみることができる。
本件発明5は,申立理由2についても,その当否の判断を要しないといえる。
(2) 小括
よって,申立人主張の申立理由2にも理由がない。

4 申立理由3についての判断
(1) 実施可能要件の判断基準について
36条4項1号には,発明の詳細な説明の記載は,「…その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている。
特許制度は,発明を公開する代償として,一定期間発明者に当該発明の実施につき独占的な権利を付与するものであるから,明細書には,当該発明の技術的内容を一般に開示する内容を記載しなければならない。特許法が上記のとおり規定する趣旨は,明細書の発明の詳細な説明に,当業者が容易にその実施をすることができる程度に発明の構成等が記載されていない場合には,発明が公開されていないことに帰し,発明者に対して特許法の規定する独占的権利を付与する前提を欠くことになるからであると解される。
そして,物の発明における発明の実施とは,その物を生産,使用等をすることをいうから(法2条3項1号),物の発明については,例えば明細書にその物を製造することができ,使用することができることの具体的な記載があるか,そのような記載がなくても,明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し,使用することができるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。
(2) 判断
以下,物の発明である本件発明の実施可能要件の存否について,上記(1)の見地に基づいて検討するに,本件明細書には,本件発明に係る物を製造することができ,使用することができる程度の具体的な記載があると認めることができる(例えば,本件発明2について,【図1】や【図2】に係る記載参照。)。
そうすると,本件発明は実施可能要件を満たすといえる。
申立人は,本件発明は「第一整流室の内容積」を一定以上とする数値条件を特定しているところ,発明の詳細な説明をみても,当該数値条件と発明の課題との関係が不明であり,発明の技術上の意義を理解できない旨主張する。
そこで検討するに,本件明細書には,例えば次の記載がある。
・「しかしながら,特許文献1に記載の発明においては,処理流路の端部と対向部材との間の隙間を介して流入又は流出することで,流速を調整するようにしているため,圧力損失を大きく設定,すなわち隙間を小さく設定すると,僅かな寸法誤差が流速の速度差を生む。そのため,紫外線照射量が不足する流速の早い部分を作ってしまう。これを回避するために圧力損失を小さく,すなわち隙間を大きく設定すると,流体の慣性による速度差を十分に減らすことができなくなってしまう。
そこで,この発明は従来の未解決の問題に着目してなされたものであり,組み付け誤差により,流路を流れる流体に,流速の早い部分が形成されることを抑制することの可能な流体殺菌モジュールを提供することを目的としている。」(【0005】)
・「【発明の効果】
本発明の一態様によれば,組み付け精度が低い場合であっても,流路を流れる流体に流速の早い部分が形成されることを抑制することができ,流体殺菌モジュールの個体間のばらつきを抑制することができる。」(【0008】)
・「このとき,流入側整流室26の内容積は,処理流路21dの処理流路相当内径の三乗の2/3(約67%)以上,処理流路21dの処理流路内容積以下に設定される。流入側整流室26の内容積を,このような範囲とすることによって,流入側整流室26及び流出側整流室27を設けない場合に比較して,より整流効果を得ることができる。…流入側整流室26の内容積が処理流路内容積を上回ると,流体殺菌モジュール1全体のサイズが処理流量に対して大きくなり過ぎるため,流入側整流室26の内容積は処理流路内容積以下であることが好ましい。」(【0030】)
・「〔効果〕
(1)本発明の一実施形態に係る流体殺菌モジュール1は,処理流路21dの上流に,一定以上の容積を有する流入側整流室26を設けている。そのため,例えば組み付け精度にばらつきが生じる場合であっても,対象物を,流入側整流室26を介して処理流路21dに流入させることによって,組み付け精度によるばらつきの影響を緩和させることができ,結果的に,処理流路21dにおける対象物の流速のばらつきを抑制することができる。そのため,組み付け精度による個体間のばらつきが抑制された流体殺菌モジュール1を実現することができる。」(【0038】)
そして,上記摘記したところからみて,上記数値条件と発明の課題との関係,並びに,当該数値条件の技術上の意義はいずれも理解できるといえる。
したがって,申立人の上記主張は,採用できない。
(3) 小括
以上のとおりであるから,申立理由3には理由がない。

5 申立理由4についての判断
(1) サポート要件の判断基準について
36条6項1号には,特許請求の範囲の記載は,「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること」でなければならない旨が規定されている。
特許制度は,発明を公開させることを前提に,当該発明に特許を付与して,一定期間その発明を業として独占的,排他的に実施することを保障し,もって,発明を奨励し,産業の発達に寄与することを趣旨とするものである。
そして,ある発明について特許を受けようとする者が願書に添付すべき明細書及び特許請求の範囲は,本来,当該発明の技術内容を一般に開示するとともに,特許権として成立した後にその効力の及ぶ範囲(特許発明の技術的範囲)を明らかにするという役割を有するものであるから,特許請求の範囲に発明として記載して特許を受けるためには,明細書の発明の詳細な説明に,当該発明の課題が解決できることを当業者において認識できるように記載しなければならない。法36条6項1号の規定するサポート要件が,特許請求の範囲の記載を上記規定のように限定したのは,発明の詳細な説明に記載していない発明を特許請求の範囲に記載すると,公開されていない発明について独占的,排他的な権利が発生することになり,一般公衆からその自由利用の利益を奪い,ひいては産業の発達を阻害するおそれを生じ,上記の特許制度の趣旨に反することになるからである。
そして,特許請求の範囲の記載が,サポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と明細書の発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断される。
(2) 判断
以下,本件発明のサポート要件の存否について,上記(1)の見地に基づいて検討する。
本件発明の解決しようとする課題は,本件明細書(特に【0005】)の記載から,「組み付け誤差により,(処理)流路を流れる流体に流速の早い部分が形成されることを抑制することを可能とした流体殺菌モジュールを提供すること」にあるということができる。
また,当業者は,本件明細書(例えば【0038】)の記載から,処理流路の上流に一定以上の容積を有する流入側整流室(第一整流室)を設けることで,組み付け精度にばらつきが生じる場合であっても,上記課題を解決できると認識するといえる。
そして,本件発明は「前記第一整流室の内容積が,前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上」という構成を有するものであり,このような構成を有する本件発明は,上述で述べるところの本件発明の課題を解決できると認識できる範囲内のものであると認められることから,本件発明はサポート要件を満たすものである。
(3) 小括
以上のとおりであるから,申立理由4には理由がない。

第7 取消理由について
上記5で述べたように,取消理由は上記申立理由1にすべて包含されるところ,申立理由1に理由がないのは上記第6で検討のとおりであるから,取消理由についても同様に理由がない。

第8 むすび
したがって,申立人の主張する申立理由及び通知した取消理由によっては,請求項2〜10に係る特許を取り消すことはできない。また,他にこれら特許が法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。
本件訂正が認められるのは,上記第2で述べたとおりである。
さらに,請求項1に係る特許に対する特許異議の申立ては,上記第2で述べたとおり,特許請求の範囲の請求項1を削除する訂正が認められることに伴い,申立ての対象が存在しないものとなるので,法120条の8第1項で準用する同法135条の規定により却下する。
よって,結論の第1項〜第3項のとおり決定する。

 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
(削除)
【請求項2】
長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と、
前記筒状部の一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一整流室と、
前記筒状部の前記一端側に設けられ、前記第一整流室に対象物を流入する流入部と、
前記筒状部の他端側に設けられ、前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部から流出させる流出部と、
前記処理流路の前記他端側の開口部に面して設けられ、前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する発光素子と、
前記筒状部を収容するケース部と、
前記筒状部と前記ケース部との間に密着して配置され、前記筒状部と前記ケース部との間の領域を前記筒状部の前記一端側の領域と前記他端側の領域とに区分けする区画部材と、
前記区画部材によって区分けされた前記他端側の領域からなり、前記処理流路と前記流出部とを連通する第二整流室と、
を備え、
前記第一整流室は、前記一端側の領域であり、前記第一整流室の内容積が、前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上前記処理流路の内容積以下である流体殺菌モジュール。
【請求項3】
前記筒状部の前記他端側には、前記処理流路と前記第二整流室とを連通する連通口が設 けられている請求項2に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項4】
前記流出部は、前記連通口から前記流出部の流出口相当半径以上処理流路長の2/3以 下の距離だけ、前記筒状部の前記一端側寄りとなる位置に配置されている請求項3に記載 の流体殺菌モジュール。
【請求項5】
前記処理流路の最上流部から最下流部までの断面積の変化量が5%以下である請求項2 から請求項4のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項6】
長手方向に延びる筒状の処理流路を形成する筒状部と、
前記筒状部の一端側の開口部を介して前記処理流路と連通する第一整流室と、
前記筒状部の前記一端側に設けられ、前記第一整流室に対象物を流入する流入部と、
前記筒状部の他端側に設けられ、前記処理流路を通過した前記対象物を前記筒状部から流出させる流出部と、
前記処理流路の前記他端側の開口部に面して設けられ、前記処理流路を通過する前記対象物に向けて前記長手方向に沿って紫外光を照射する発光素子と、
前記筒状部の前記一端側に、前記筒状部の開口部を覆う整流板と、を備え、
前記第一整流室の内容積が、前記処理流路の相当内径の三乗の2/3以上前記処理流路 の内容積以下であり、
前記整流板は、表裏間を通じる開口孔を有し、前記整流板が設置される部分の処理流路 の流路断面積を1としたときの、前記整流板に形成された前記開口孔の開口面積が占める 割合を表す開口率が0.05以上0.8以下である流体殺菌モジュール。
【請求項7】
前記開口孔の相当直径が、0.5mm以上前記処理流路の相当内径の1/3以下である 請求項6に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項8】
前記第一整流室の壁面の、前記筒状部の前記一端側の開口部と対向する位置に凸部を有し、
前記整流板は、前記凸部と前記筒状部の端面とで挟むことにより固定されている請求項 6又は請求項7に記載の流体殺菌モジュール。
【請求項9】
前記整流板は、紫外線反射性材料で形成される請求項6から請求項8のいずれか一項に 記載の流体殺菌モジュール。
【請求項10】
前記流入部は、前記筒状部の前記一端側の端部から、前記流入部の流入口相当半径以上 処理流路長の2/3以下の距離だけ、前記筒状部の前記他端側寄りとなる位置に配置され ている請求項2から請求項9のいずれか一項に記載の流体殺菌モジュール。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-01-14 
出願番号 P2018-081807
審決分類 P 1 651・ 537- YAA (A61L)
P 1 651・ 121- YAA (A61L)
P 1 651・ 113- YAA (A61L)
P 1 651・ 536- YAA (A61L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 須藤 康洋
奥田 雄介
登録日 2021-01-18 
登録番号 6826070
権利者 旭化成株式会社
発明の名称 流体殺菌モジュール  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 田中 秀▲てつ▼  
代理人 森 哲也  
代理人 森 哲也  

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