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審決分類 審判 一部申し立て 1項3号刊行物記載  H05B
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H05B
審判 一部申し立て 発明同一  H05B
審判 一部申し立て 2項進歩性  H05B
審判 一部申し立て 特39条先願  H05B
管理番号 1384159
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-02 
確定日 2022-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6825195号発明「有機電界発光素子」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6825195号の請求項1ないし14に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6825195号の請求項1〜16に係る特許についての出願(特願2019−153845号、以下「本願」という。)は、2015年(平成27年)12月21日(パリ条約に基づく優先権主張 外国庁受理 2015年12月10日 韓国(KR) 2014年12月24日 韓国(KR))を国際出願日とする特願2017−534328号(以下「親出願」という。)の一部を、新たな特許出願として令和1年8月26日に出願されたものであって、令和3年1月18日にその特許権の設定の登録がされたものである。
本件特許について、令和3年2月3日に特許掲載公報が発行されたところ、その発行の日から6月以内である令和3年8月2日に、特許異議申立人 居石 美奈(以下「特許異議申立人」という。)から請求項1〜14に対して特許異議の申立てがされた。

第2 本件特許発明
本件特許の請求項1〜請求項14に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明14」といい、総称して「本件特許発明」という。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜請求項14に記載された事項によって特定されるとおりのものであるところ、その請求項1〜請求項14に係る発明は、以下のものである。
「【請求項1】
陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含み、
前記化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である有機電界発光素子。
【化1】

式中、
Ra及びRbは、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、C1〜C40のアルキル基及びC6〜C60のアリール基からなる群から選択され、
R1〜R3は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
Lは、単結合、又は、C6〜C18のアリーレン基及び核原子数5〜18のヘテロアリーレン基からなる群から選択され、
Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、N又はC(R4)であり、この時、少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一又は異なり、
c及びeは、それぞれ、0〜4の整数であり、
dは、0〜3の整数であり、
m及びnは、それぞれ、1〜3の整数であり、
前記R4は、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
前記Ra、Rbのアルキル基、アリール基と、前記R1〜R4のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルシリル基、アリールシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、アリールアミン基と、前記Lのアリーレン基、ヘテロアリーレン基とは、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換又は非置換であり、前記置換基が複数個である場合、複数の置換基は、互いに同一又は異なる。
【請求項2】
前記有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、寿命改善層、電子輸送層、及び電子注入層からなる群から選択される1種以上を含み、
前記寿命改善層、電子輸送層及び電子注入層のうちの少なくとも1つは、前記化1で示される化合物を含むものである請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項3】
前記寿命改善層は、前記化1で示される化合物を含むものである請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項4】
前記発光層が緑の燐光物質からなり、前記寿命改善層に含まれる前記化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、6.0eV以上であり、三重項エネルギーが、2.5eV以上である請求項3に記載の有機電界発光素子。
【請求項5】
前記発光層が青の燐光物質からなり、前記寿命改善層に含まれる前記化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、6.0eV以上であり、三重項エネルギーが、2.7eV以上である請求項3に記載の有機電界発光素子。
【請求項6】
前記電子輸送層が前記化1で示される化合物を含み、前記寿命改善層が前記化1で示される化合物を含み、
前記電子輸送層及び寿命改善層が互いに同じ化合物である請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項7】
前記電子注入層が前記化1で示される化合物を含み、前記寿命改善層が前記化1で示される化合物を含み、
前記電子注入層及び寿命改善層が互いに同じ化合物である請求項2に記載の有機電界発光素子。
【請求項8】
前記化1で示される化合物は、電子移動度及び正孔移動度が、常温で1×10−6cm2/V・s以上である請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項9】
前記化1で示される化合物は、下記化2乃至化4で示される化合物からなる群から選択されるものである請求項1に記載の有機電界発光素子。

式中、
Ra、Rb、R1〜R3、Z1〜Z5、c、d及びeは、それぞれ、請求項1における定義と同様である。
【請求項10】
前記化1で示される化合物において

式中、
R4は、請求項1における定義と同様であり、
R5は、水素、重水素、ハロゲン、シアノ基、ニトロ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールアミン基、C1〜C40のアルキルシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C6〜C60のアリールホスフィン基、C6〜C60のアリールホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールシリル基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
pは、1〜4の整数であり、
前記R5のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、アルキルオキシ基、アリールアミン基、アルキルシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、アリールホスフィン基、アリールホスフィンオキシド基、及びアリールシリル基は、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールアミン基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C1〜C40のアルキルシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C6〜C60のアリールホスフィン基、C6〜C60のアリールホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールシリル基からなる群から選択される1種以上の置換基で置換又は非置換であり、この時、前記置換基が複数個である場合、複数の置換基は、互いに同一又は異なる。
【請求項11】
前記化1で示される化合物は、下記化5で示される化合物である請求項10に記載の有機電界発光素子。
【化5】

式中、
Ra、Rb、R1〜R4、L、c、d、e、m及びnは、それぞれ、請求項1における定義と同様である。
【請求項12】
前記R4は、互いに同じものである請求項11に記載の有機電界発光素子。
【請求項13】
前記Ra及びRbは、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、メチル基又はフェニル基である請求項1に記載の有機電界発光素子。
【請求項14】
前記Lは、下記式L−1乃至L−9で示される構造(*は、結合がなされる部位)からなる群から選択されるものである請求項1に記載の有機電界発光素子。



第3 申立理由の概要及び証拠
特許異議申立人は、証拠方法として、次の甲第1号証〜甲第7号証(以下「甲1」等という。)を提出し、本件特許発明1〜本件特許発明14は、最先の基礎出願である韓国特許出願第10−2014−0188953号(出願日:2014年12月24日)に基づく優先権の主張の効果は認められないため、特許法第29条第1項第3号、特許法第29条第2項、特許法第29条の2等の規定に関する判断の基準日が2014年(平成26年)12月24日となることはないと主張するとともに、以下の申立理由1〜8により、本件特許の請求項1〜14に係る特許を取り消すべきと、主張する。

甲第1号証(甲1):国際公開第2015/152634号(翻訳文として特表2017−513224号公報を添付)
甲第2号証(甲2):国際公開第2013/077352号
甲第3号証(甲3):特開2009−249378号公報
甲第4号証(甲4):特願2018−504890号(特表2018−531883号公報)
甲第5号証(甲5):特願2015−136658号(特開2016−19002号公報)
甲第6号証(甲6):特許第6633637号公報(親出願の特許公報)
甲第7号証(甲7):韓国特許出願第10−2014−0188953号(本件の最先の優先権主張基礎出願(出願日:2014年(平成26年)12月24日))の日本語翻訳文

(1) 申立理由1(特許法第29条第1項第3号)、申立理由2(特許法第29条第2項)(特許法第113条第2号
本件特許発明1〜14は、甲1に記載された発明と同一であるか、又は、甲1に記載された発明に基づいて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に想到できたものである。
したがって、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条第1項第3号の規定、又は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(2) 申立理由3(特許法第29条第2項)(特許法第113条第2号
本件特許発明1〜14は、甲1〜甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
したがって、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(3) 申立理由4(特許法第29条第2項)(特許法第113条第2号
本件特許発明1〜14は、甲2及び甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものである。
したがって、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(4) 申立理由5(特許法第29条の2)(特許法第113条第2号
本件特許発明1〜14は、本件特許発明1〜14の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開(特表2018−531883号公報)がされた甲4に係る特願2018−504890号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質的同一であり、しかも、本件特許発明1〜14の発明者が甲4に係る出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許発明1〜14の出願の時において、その出願人が甲4に係る出願の出願人と同一でもない。
したがって、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
また、本件特許発明1〜4、6〜14は、本件特許発明1〜4、6〜14の出願の日前の特許出願であって、その出願後に出願公開(特開2016−19002号公報)がされた甲5に係る特願2015−136658号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質的同一であり、しかも、本件特許発明1〜4、6〜14の発明者が甲5に係る出願に係る上記の発明をした者と同一ではなく、また、本件特許発明1〜4、6〜14の出願の時において、その出願人が甲5に係る出願の出願人と同一でもない。
したがって、本件特許の請求項1〜4、6〜14に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

(5) 申立理由6(特許法第36条第6項第1号)(特許法第113条第4号
本件特許発明1〜14は、請求項1〜14に係る発明の範囲まで発明の詳細な説の明に開示された内容を拡張し一般化できるとはいえないので、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(6) 申立理由7(特許法第36条第6項第2号)(特許法第113条第4号
本件特許発明1、4、5及び8は、特許を受けようとする発明が明確でないことから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。
したがって、本件特許の請求項1、4、5及び8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(7) 申立理由8(特許法第39条第2項)(特許法第113条第2号
本件特許発明1は、甲6に係る親出願(特願2017−534328号)の請求項1に記載された発明と実質的同一であるから(かつ、親出願に係る発明は特許されており協議を行うことができない)、本件特許発明1は、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができない。
したがって、本件特許の請求項1に係る特許は、特許法第39条第2項の規定に違反してされたものであるから、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

第4 合議体の判断
1 優先権の主張の効果について
(1) 上記「第2 本件特許発明」に記載のとおり、本件特許発明1は、「有機電界発光素子」の「有機物層」に含まれる「化1で示される化合物」(当合議体注:「化1」については上記「第2」を参照。)が、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり」、「HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し」、「三重項エネルギーが、2.3eV以上であり」、「一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」との発明特定事項を具備する。

(2) 本願の最先の優先権主張基礎出願である韓国特許出願第10−2014−0188953号(出願日:2014年12月24日)の明細書及び特許請求の範囲(以下「最先基礎出願明細書等」という。)には、以下の記載がある(当合議体注:韓国語の原文の摘記は省略し、日本語の翻訳文のみ記載している。)。
ア 「【背景技術】
<2> 有機電界発光素子は、両電極の間に電圧を印加すると、陽極からは正孔が、陰極からは電子が有機物層に注入される。注入された正孔と電子が出合った時、励起子(exciton)が形成され、この励起子が基底状態に落ちる時に発光するようになる。前記有機物層として使用される物質は、その機能に応じて、発光物質、正孔注入物質、正孔輸送物質、電子輸送物質、電子注入物質などに分類され得る。
<3> 前記正孔注入物質、正孔輸送物質、電子輸送物質としては、NPB、BCP、Alq3などが知られており、前記発光物質としては、アントラセン誘導体と、Firpic、Ir(ppy)3、Ir(acac)Ir(btp)2などのようなIrとを含む金属錯体化合物などが知られている。
<4> しかし、このような物質は、ガラス転移温度が低くて熱的安定性が良くなり得ず、三重項エネルギーも低く、これらが有機物層に導入された有機電界発光素子は、満足できるほどの水準の電流効率及び寿命特性を示せずにいる。
【発明の内容】
【解決しようとする課題】
<5> 前記した問題点を解決するために、本発明は、有機電界発光素子の駆動電圧、電流効率及び寿命などを向上させ得る有機化合物を提供することを目的とする。
<6> また、本発明は、前記有機化合物を含む有機電界発光素子を提供することも目的とする。
【課題の解決手段】
<7> 前記した目的を達成するために、本発明は、下記化学式1で示される化合物を提供する。
<8> [化学式1]

<10> 上記化学式1において、
<11> Ra及びRbは、互いに同一であるか、あるいは異なり、それぞれ独立に、C1〜C40のアルキル基、またはC6〜C60のアリール基であるか、あるいは互いに結合して縮合環を形成し、
<12> R1〜R3は、互いに同一であるか、あるいは異なり、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択されるか、あるいは隣接した基と結合(具体的に、隣接するR1同士の結合、隣接するR2同士の結合、隣接するR3同士の結合、又は、R1とR2との結合)して縮合環を形成し、
<13> Lは、単結合、C6〜C18のアリーレン基、及び核原子数5〜18のヘテロアリーレン基からなる群から選択され、
<14> Z1〜Z5は、互いに同一であるか、あるいは異なり、それぞれ独立に、N又はC(R4)であり、この時、少なくとも1つはNであり、C(R4)が複数である場合、複数のC(R4)は、互いに同一であるか、あるいは異なり、
<15> c、d、eは、それぞれ0〜4の整数であり、
<16> m、nは、それぞれ1〜3の整数であり、
<17> 前記R4は、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル甚、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択されるか、あるいは隣接した基と結合(具体的に、隣接するR4同士結合)して縮合環を形成し、
<18> 前記Ra、Rbのアルキル基、アリール基と、前記R1〜R4のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルシリル基、アリールシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド甚、アリールアミン基と、前記Lのアリーレン基、ヘテロアリーレン基とは、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換又は非置換であり、前記置換基が複数である場合、複数の置換基は、互いに同一であるか、あるいは異なる。
<19> また、本発明は、陽極、陰極、及び前記陽極と陰極との間に介在した1層以上の有機物層を含む有機電界発光素子であって、前記1層以上の有機物層のうちの少なくとも1つが上記化学式1で示される化合物を含む有機電界発光素子を提供する。
【発明の効果】
<20> 本発明の化学式1で示される化合物は、熱的安定性及び発光特性に優れるため、有機電界発光素子の有機物層の材料として使用され得る。特に、本発明の化学式1で示される化合物を燐光ホストの材料として使用する場合、従来のホスト材料に比べて優れた発光性能、低い駆動電圧、高い効率及び長い寿命を有する有機電界発光素子を提供することができ、さらに、性能及び寿命が向上したフルカラーディスプレイパネルも提供することができる。」

イ 「【発明を実施するための具体的な内容]
<21> 以下、本発明を説明する。
<22> 1.有機化合物
<23> 本発明の有機化合物は、フルオレンモイエティと6員ヘテロ環とが、リンカー基(フェニレン又はビフェニレン又はターフェニレン)により結合されて基本骨格をなす化合物であって、上記化学式1で示される。
<24> 前記フルオレンモイエティは、電子供与性の大きな電子供与基(EDG)特性を有する。このようなフルオレンモイエティがリンカー基により電子吸引性が大きな電子吸引基(EWG)である6員ヘテロ環(例えば、ピリジン基、ビリミジン基、トリアジン基など)と結合する場合、分子全体が両極性(bipolar)の特性を有するため、正孔と電子との結合力を上げることができる。よって、本発明の化学式1で示される化合物を有機電界発光素子の有機物層の材料として使用する場合、キャリア輸送性及び発光効率を上げることができる。」

ウ 「<65> 2.有機電界発光素子
<66> 本発明は、上記化学式1で示される化合物を含む有機電界発光素子を提供する。
<67> 具体的に、木発明の有機電界発光素子は、陽極(anode)、陰極(cathode)及び前記陽極と陰極との間に介在した1層以上の有機物層を含み、前記1層以上の有機物層のうちの少なくとも1つは、上記化学式1で示される化合物を含む。この時、前記化合物は、単独で使用されるか、または2以上が混合されて使用され得る。
<68> 前記1層以上の有機物層は、正孔注入層、正孔輸送層、発光補助層、発光層、寿命改善層、電子輸送層及び電子注入層のうちのいずれか1つ以上であり得、このうち少なくとも1つの有機物層は、上記化学式1で示される化合物を含み得る。具体的に上記化学式1で示される化合物を含む有機物層は、発光層、又は発光補助層であることが好ましい。」

エ 「<220>[評価例1]
<221> 実施例1〜28及び比較例1において、それぞれ製造された緑色有機電界発光素子に対して、電流密度10mA/cm2において駆動電圧、電流効率、及び発光ピークを測定し、その結果を下表1に示した。
<222> 【表1】
・・・略・・・
<223> 上表1に示したとおり、本発明による化合物を緑色有機電界発光素子の発光層に使用した場合、(実施例1〜28)が従来のCBPを緑色有機電界発光素子の発光層に使用した場合、(比較例1)よりも電流効率及び駆動電圧に優れていることが分かる。」

オ 「 【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記化学式1で示される化合物:
[化学式1]

上記化学式1において、
Ra及びRbは、互いに同一であるか、あるいは異なり、それぞれ独立に、C1〜C40のアルキル基、又はC6〜C60のアリール基であるか、あるいは互いに結合して縮合環を形成し、
R1〜R3は、互いに同一であるか、あるいは異なり、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル墓、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択されるか、あるいは隣接した基と結合して縮合環を形成し、
Lは、単結合、C6〜C18のアリーレン基、及び核原子数5〜18のヘテロアリーレン基からなる群から選択され、
Z1〜Z5は、互いに同一であるか、あるいは異なり、それぞれ独立に、N又はC(R4)であり、この時、少なくとも1つはNであり、C(R4)が複数である場合、複数のC(R4)は、互いに同一であるか、あるいは異なり、
c、d、eは、それぞれ0〜4の整数であり、
m、nは、それぞれ1〜3の整数であり、
前記R4は、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択されるか、あるいは、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
前記Ra、Rbのアルキル基、アリール基と、前記R1〜R4のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルシリル基、アリールシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、アリールアミン基と、前記Lのアリーレン基、ヘテロアリーレン基とは、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のへテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換又は非置換であり、前記置換基が複数の場合、複数の置換基は、互いに同一であるか、あるいは異なる。
【請求項2】
第1項において、
上記化学式1で示される化合物は、下記化学式2〜4で示される化合物からなる群から選択される化合物。
[化学式2]
・・・略・・・
上記化学式2〜4において、
Ra、Rb、R1〜R3、Z1〜Z5、c,d及びeはそれぞれ第1項において定義したとおりである。
【請求項3】
・・・略・・・
【請求項4】
第1項において、
上記化学式1において

前記C−1〜C−15において、
R4は、第1項において定義したとおりであり、
R5は、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールアミン基、C1〜C40のアルキルシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C6〜C60のアリールホスフィン基、C6〜C60のアリールホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールシリル基からなる群から選択されるか、あるいは隣接する基と結合して縮合環を形成し、
pは1〜4の整数であり、
前記R5のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アリールオキシ基、アルキルオキシ基、アリールアミン基、アルキルシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、アリールホスフィン基、アリールホスフィンオキシド基、及びアリールシリル基は、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールアミン基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル墓、C1〜C40のアルキルシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C6〜C60のアリールホスフィン基、C6〜C60のアリールホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールシリル基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換又は非置換であり、前記置換基が複数の場合、複数の置換基は、互いに同一であるか、あるいは異なる。
【請求項5】
陽極、陰極、及び前記陽極と陰極との間に介在した1層以上の有機物層を含む有機電界発光素了であって、
前記1層以上の有機物層のうちの少なくとも1つが、第1項〜第4項中のいずれか1項に記載された化合物を含む有機電界発光素子。
【請求項6】
第5項において、
前記化合物を含む有機物層は、発光層である有機電界発光素子。」

(3) 最先基礎出願明細書等(上記(2)アの<8>〜<18>及び<19>、特許請求の範囲の請求項1、請求項5参照。)には、「陽極、陰極、及び前記陽極と陰極との間に介在した1層以上の有機物層を含む有機電界発光素子」において、「前記1層以上の有機物層のうちの少なくとも1つが」、[化学式1]で示される化合物(以下「最先基礎出願化学式1化合物」という。)を含むことが記載されている。
ここで、「最先基礎出願化学式1化合物」と、本件特許発明1の「有機電界発光素子」の「有機物層」に含まれる「化1で示される化合物」(以下「本件特許発明化1化合物」という。)とは、(A)「最先基礎出願化学式1化合物」における「Ra及びRb」が、「互いに結合して縮合環を形成」するものを含んでいるのに対して、「本件特許発明化1化合物」の「Ra及びRb」は、「互いに結合して縮合環を形成」するものを含んでいない点においてのみ両化合物は異なる(当合議体注:(B)「最先基礎出願化学式1化合物」の「c、d、eは、それぞれ0〜4の整数であ」るのに対して、「本件特許発明化1化合物」の「c及びeは、それぞれ、0〜4の整数であり」、「dは、0〜3の整数であり」とされている点において両者は一応異なる表記となっている。しかしながら、構造式からみて、「最先基礎出願化学式1化合物」において、dが4となることはないため、この点に関し、両化合物は実質的に異ならない。)。
しかしながら、最先基礎出願明細書等には、最先基礎出願化学式1化合物について、「フルオレンモイエティと6員ヘテロ環とが、リンカー基(フェニレン又はビフェニレン又はターフェニレン)により結合されて基本骨格をなす化合物であ」ること(<23>)、「前記フルオレンモイエティは、電子供与性の大きな電子供与基(EDG)特性を有する。このようなフルオレンモイエティがリンカー基により電子吸引性が大きな電子吸引基(EWG)である6員ヘテロ環(例えば、ピリジン基、ビリミジン基、トリアジン基など)と結合する場合、分子全体が両極性(bipolar)の特性を有するため、正孔と電子との結合力を上げることができ」、「よって、本発明の化学式1で示される化合物を有機電界発光素子の有機物層の材料として使用する場合、キャリア輸送性及び発光効率を上げることができる」こと(<24>)が記載されているに留まり、最先基礎出願化学式1化合物について、イオン化ポテンシャルを5.5eV以上、HOMO値とLUMO値との差を3.0eVを超過、三重項エネルギーを2.3eV以上、及び、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差を0.7eV未満とすることは記載も示唆もされておらず、また、最先基礎出願明細書等の記載から自明な事項でもない。
そうすると、上記1で述べた本件特許発明1の発明特定事項は、最先基礎出願明細書等全体の記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において、新たな技術的事項を導入しないものとはいえない。
そうしてみると、本件特許発明1について、本願の最先の優先権主張基礎出願である韓国特許出願第10−2014−0188953号(出願日:2014年12月24日)に基づく優先権の主張の効果は認められない。本件特許発明2〜14についても同様である。
一方、本願の最先でない優先権主張基礎出願である韓国特許出願第10−2015−0176096号(出願日:2015年12月10日)の明細書、特許請求の範囲及び図面(例えば、請求項1、請求項8、<50>〜<55>、<106>〜<109>等)には、最先基礎出願化学式1化合物について、そのイオン化ポテンシャルを5.5eV以上、HOMO値とLUMO値との差を3.0eVを超過し、三重項エネルギーを2.3eV以上、及び、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差を0.7eV未満であるものとすること記載されている。
そうすると、本件特許発明1〜14の新規性進歩性及び先後願の判断のための基準日は、本願の最先でない優先権主張基礎出願である韓国特許出願第10−2015−0176096号の出願日である2015年12月10日(以下「本願優先日」という。)である。

2 特許法第29条第1項第3号新規性)及び特許法第29条第2項進歩性)(申立理由1〜申立理由4)についての判断
(1) 甲1の記載及び引用発明
ア 甲1の記載
甲1(国際公開第2015/152634号)は、本願優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある(当合議体注:韓国語の原文の摘記は省略し、日本語の翻訳文のみ記載している。下線は、当合議体が付した。以下、同じ。)。
(ア) 221頁〜360頁
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
カソード;
アノード;
前記カソードと前記アノードとの間に備えられた発光層;
下記化学式1で表される複素環化合物を含み、前記カソードと前記発光層との間に備えられた第1電子輸送層;及び
前記カソードと前記第1電子輸送層との間に備えられた第2電子輸送層を含み、
前記第2電子輸送層は、下記化学式3ないし5で表される化合物のうち1又は2以上を含むホスト物質とアルカリ金属及びアルカリ土類金属の中から選択される1種又は2種以上のn型ドーパントとを含む有機発光素子:

化学式2において、
R1ないしR4は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;ニトリル基;ニトロ基;ヒドロキシ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリールオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルチオキシ基;置換もしくは非置換のアリールチオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルスルホキシ基;置換もしくは非置換のアリールスルホキシ基;置換もしくは非置換のアルケニル基;置換もしくは非置換のシリル基;置換もしくは非置換のホウ素基;置換もしくは非置換のアリール基;又は置換もしくは非置換の複素環基であるか、隣接する基と互いに結合して、置換もしくは非置換の炭化水素環又は置換もしくは非置換の複素環を形成するか、同一の炭素内の置換基が互いに結合して、置換もしくは非置換のスピロ結合を形成し、
L1は、直接結合;置換もしくは非置換のアリーレン基;又は置換もしくは非置換の2価の複素環基であり、
lは、1ないし5の整数であり、
mは、1ないし3の整数であり、
nは、1ないし4の整数であり、
l、m及びnがそれぞれ2以上の整数の場合、2以上の括弧内の構造は、互いに同一であるか異なっており、
[化学式3]
・・略・・・
化学式3において、
A1及びA2は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアリール基;又は置換もしくは非置換の複素環基であり、
L2及びL3は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、直接結合;置換もしくは非置換のアリーレン基;又は置換もしくは非置換の2価の複素環基であり、
Aは、置換もしくは非置換の下記構造のうちいずれか一つであり、
・・・略・・・
Xは、O;S;又はCT12T13であり、
o及びpは、1ないし3の整数であり、
o及びpが2以上の整数の場合、2以上の括弧内の構造は、互いに同一であるか異なっており、
T1ないしT8、T12及びT13は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;ニトリル基;ニトロ基;ヒドロキシ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリールオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルチオキシ基;置換もしくは非置換のアリールチオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルスルホキシ基;置換もしくは非置換のアリールスルホキシ基;置換もしくは非置換のアルケニル基;置換もしくは非置換のシリル基;置換もしくは非置換のホウ素基;置換もしくは非置換のアリール基;又は置換もしくは非置換の複素環基であるか、隣接する基と互いに結合して、置換もしくは非置換の炭化水素環又は置換もしくは非置換の複素環を形成し、
[化学式4]
・・・略・・・
化学式4において、
qは、1ないし4の整数であり、
rは、1ないし8の整数であり、
q及びrが2以上の整数の場合、2以上の括弧内の構造は、互いに同一であるか異なっており、
T9及びT10は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、水素;重水素;ハロゲン基;ニトリル基;ニトロ基;ヒドロキシ基;置換もしくは非置換のアルキル基;置換もしくは非置換のシクロアルキル基;置換もしくは非置換のアルコキシ基;置換もしくは非置換のアリールオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルチオキシ基;置換もしくは非置換のアリールチオキシ基;置換もしくは非置換のアルキルスルホキシ基;置換もしくは非置換のアリールスルホキシ基;置換もしくは非置換のアルケニル基;置換もしくは非置換のシリル基;置換もしくは非置換のホウ素基;置換もしくは非置換のアリール基;又は置換もしくは非置換の複素環基であるか、隣接する基と互いに結合して、置換もしくは非置換の炭化水素環又は置換もしくは非置換の複素環を形成し、
T9及びT10のうち少なくとも一つは、下記構造であり、
・・・略・・・
L4は、直接結合;置換もしくは非置換のアリーレン基;又は置換もしくは非置換の2価の複素環基であり、
X1は、O;S;又はSeであり、
Ar4及びAr5は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基;又は置換もしくは非置換の複素環基であり、
[化学式5]
・・・略・・・
化学式5において、
L6及びL7は、互いに同一であるか異なっており、それぞれ独立して、直接結合;置換もしくは非置換のアリーレン基;又は置換もしくは非置換の2価の複素環基であり、
A’は、置換もしくは非置換のピレニレン基であり、
Czは、置換もしくは非置換のカルバゾール基である。
【請求項2】
・・・略・・・
【請求項18】
前記化学式1で表される複素環化合物は、下記化学式1−1ないし1−627及び2−1ないし2−363のうちいずれか一つで表されるものである請求項1に記載の有機発光素子。


・・・略・・・



(イ) 1頁
「【背景技術】
有機発光現象は、特定の有機分子の内部プロセスによって電流が可視光に転換される例の一つである。有機発光現象の原理は、次の通りである。
アノードとカソードとの間に有機物層を位置させたとき、二つの電極の間に電圧をかけると、カソードとアノードからそれぞれ電子と正孔が有機物層に注入される。有機物層に注入された電子と正孔とは再結合してエキシトン(exciton)を形成し、このエキシトンが再び基底状態に戻る際に発光する。このような原理を用いる有機発光素子は、一般に、カソードとアノード及びその間に位置した有機物層、例えば正孔注入層、正孔輸送層、発光層、電子輸送層を含む有機物層から構成されることができる。
有機発光素子において使用される物質としては、純粋な有機物質または有機物質と金属とが錯体をなす錯化合物が大半を占め、用途によって、正孔注入物質、正孔輸送物質、発光物質、電子輸送物質、電子注入物質などに区分されることができる。ここで、正孔注入物質や正孔輸送物質としては、p型の性質を有する有機物質、すなわち、容易に酸化し、酸化時に電気化学的に安定した状態を有する有機物が主に使用されている。一方、電子注入物質や電子輸送物質としては、n型の性質を有する有機物質、すなわち、容易に還元し、還元時に電気化学的に安定した状態を有する有機物が主に使用されている。発光層物質としては、p型の性質とn型の性質とを同時に有する物質、すなわち、酸化と還元状態でいずれも安定した形態を有する物質が好ましく、エキシトンが形成されたとき、これを光に転換する発光効率の高い物質が好ましい。
当該技術分野においては、高い効率の有機発光素子の開発が要求されている。」

(ウ) 1〜2頁
「【発明の概要】
【技術的課題】
本明細書の目的は、高い発光効率及び/又は低い駆動電圧を有する有機発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
本明細書は、カソード;アノード;上記カソードと上記アノードとの間に備えられた発光層;下記化学式1で表される複素環化合物を含み、上記カソードと上記発光層との間に備えられた第1電子輸送層;及び上記カソードと上記第1電子輸送層との間に備えられた第2電子輸送層を含み、
上記第2電子輸送層は、下記化学式3ないし5で表される化合物のうち1又は2以上を含むホスト物質とアルカリ金属及びアルカリ土類金属の中から選択される1種又は2種以上のn型ドーパントとを含む有機発光素子を提供する。

化学式1において、
Ar1ないしAr3は、互いに異なっており、
Ar1及びAr2は、それぞれ独立して、置換もしくは非置換のアリール基;又は置換もしくは非置換の複素環基であり、
Ar3は、下記化学式2で表され、
・・・略・・・
【発明の効果】
本明細書の一実施態様に係る有機発光素子は、低い駆動電圧及び/又は高い発光効率を提供する。」

(エ) 5〜8頁
「【発明を実施するための形態】
・・・略・・・
本明細書は、カソード;アノード;上記カソードと上記アノードとの間に備えられた発光層;上記化学式1で表される複素環化合物を含み、上記カソードと上記発光層との間に備えられた第1電子輸送層;及び上記化学式3ないし5で表される化合物のうち1種以上のホスト物質及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上のドーパントを含み、上記カソードと上記第1電子輸送層との間に備えられた第2電子輸送層を含む有機発光素子を提供する。
本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物を含む有機物層は、第1電子輸送層であって、第2電子輸送層に比べて、発光層に隣接して備えられる。
本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層は、第1電子輸送層に比べて、カソードに隣接して備えられる。
・・・略・・・
本明細書の一実施態様において、上記有機発光素子は、青色蛍光発光をする。
本明細書の一実施態様において、上記有機発光素子は、白色発光をする。
本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物の HOMOエネルギー準位は、6eV以上である。本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物のHOMOエネルギー準位は、6.0eV以上7.0eV以下である。本明細書の一実施態様によって、上記化学式1で表される化合物のように深いHOMOエネルギー準位を有する場合には、発光層から正孔を効果的に遮断することができて、高い発光効率を提供することができ、素子の安定性を向上して長寿命な素子を提供することができる。
本明細書の一実施態様において、上記発光層は、ホスト及びドーパントを含み、上記ホストのHOMOエネルギー準位と上記化学式1で表される複素環化合物のHOMOエネルギー準位との差は、0.2eV以上である。上記のように、発光層のホスト物質と化学式1で表される複素環化合物のHOMOエネルギー準位との差が0.2eV以上の場合、発光層からより効果的に正孔を遮断することができて、高い発光効率及び長寿命な有機発光素子を提供することができる。
本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物を含む有機物層は、発光層に接して備えられる。この場合、発光層のホスト化合物よりもさらに深いHOMOエネルギー準位を有することで、正孔の遮断を効果的に行うことができる。
本明細書の一実施態様のように、青色蛍光発光をする有機発光素子の場合は、ホスト材料としてアントラセン誘導体を主に使用し、この場合、6eV未満のHOMOエネルギー準位を有する。よって、上記化学式1で表される複素環化合物を含む有機物層をカソードと発光層との間に備える場合には、電子の移動とともに正孔の遮断の役割を同時に果たすことができる。
本明細書において、エネルギー準位は、エネルギーの大きさを意味するものである。よって、真空準位からマイナス(−)方向にエネルギー準位が表示される場合にも、エネルギー準位は該当エネルギー値の絶対値を意味するものと解釈される。例えば、HOMOエネルギー準位とは、真空準位から最高被占分子軌道(highest occupied molecular orbital)までの距離を意味する。
本明細書の一実施態様において、上記HOMO準位は、大気中光電子分光装置(RIKEN KEIKI Co.,Ltd.製:AC3)を用いて測定することができる。具体的に、材料に光を照射し、そのとき電荷分離によって発生する電子量を測定することで、上記HOMO準位を測定することができる。
本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物の三重項エネルギーは、2.2eV以上である。
本明細書の一実施態様によって、上記多様な範囲の三重項エネルギーを有する化学式1で表される複素環化合物を含む場合には、有機発光素子において発光層の三重項エキシトンを効果的に遮断して、高い効率及び/又は長寿命な素子を期待することができる。
本明細書の一実施態様において、上記発光層は、ホスト及びドーパントを含み、上記化学式1で表される複素環化合物の三重項エネルギーは、上記ホストの三重項エネルギーよりも大きい。
本明細書の一実施態様において、上記三重項エネルギー(ET)は、低温フォトルミネッセンス(Low Temperature Photoluminescence)法を用いて測定することができる。λedge値を測定して、下記換算式を用いて三重項エネルギーを求めることができる。
ET(eV)=1239.85/(λedge)
上記換算式において、「λedge」とは、縦軸に燐光強度、横軸に波長を取って燐光スペクトルを表したとき、燐光スペクトルの短波長側の上昇に対して接線を引いて、その接線と横軸との交点の波長値を意味し、単位はnmである。
本明細書のまた一つの実施態様において、上記三重項エネルギー(ET)は、量子化学計算によっても求めることができる。量子化学計算は、米ガウシアン(Gaussian)社製の量子化学計算プログラムGaussian03を用いて行うことができる。計算においては、密度汎関数理論(DFT)を利用するが、汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G*を用いて最適化した構造について、時間依存密度汎関数理論(TD−DFT)によって三重項エネルギーの計算値を求めることができる。
本明細書のまた一つの実施態様において、特定の有機化合物においては、燐光スペクトルが観測されない場合があるが、このような有機化合物では、上記に示すように、量子化学計算を用いて求めた三重項エネルギー(ET)を推定して使用することができる。
本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物の双極子モーメント(dipole moment)は、2debye以下である。より好ましくは、上記化学式1で表される複素環化合物の双極子モーメントは、1debye以下である。
本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層に含まれるホスト物質の双極子モーメントは、1debye以上である。
本明細書において、双極子モーメント(dipole moment)は、極性の程度を示す物理量であって、下記数式1で計算されることができる。
[数式1]
・・・略・・・
上記の数式1において、分子密度(Molecular density)を計算で求め、双極子モーメントの値を得ることができる。例えば、分子密度はHirshfeld Charge Analysisという方法を使用して各原子別の電荷(Charge)及び双極子(Dipole)を求め、下記式によって計算して得ることができ、その計算結果を上記数式1に入れて双極子モーメント(Dipole Moment)を求めることができる。
・・・式略・・・
上記の双極子モーメントの値の範囲を有する有機発光素子は、カソードから入ってくる電子の注入及び輸送能力が向上して、低い駆動電圧及び高い発光効率を提供することができる。また、有機発光素子内で分子の配列が優秀であって、緻密な膜を提供する。よって、上記電子輸送物質を含む有機発光素子は、安定性に優れ、長寿命な有機発光素子を提供することができる。
本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物の電子移動度は、10−6cm2/Vs以上である。
また一つの実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物の電子移動度は、0.1ないし0.5MV/cmの電界条件で10−6cm2/Vs以上である。また他の実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物の電子移動度は、0.1MV/cmの電界条件で10−6cm2/Vs以上である。この場合、発光層内で生成されるエキシトンの数を増加させて、高い効率を期待することができる。
本明細書において、電子移動度は、当業界で使用される方法で測定することができる。具体的に、飛行時間法(TOF;Time of Flight)又は空間電荷制限電流(SCLC;Space Charge Limited Current)測定法を使用することができ、これに限定されない。」

(オ) 16頁
「 本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物は、下記化学式1−Aで表されることができる。

記化学式1−Aにおいて、
Ar1、Ar2、L1、R1ないしR4、l、m及びnの定義は、化学式1で定義した通りである。
有機発光素子に使用される有機物の重要な特性の一つは、非晶質(amorphous)蒸着膜の形成が必要だという点である。高い結晶性を有する有機物は、蒸着時に膜特性が不均一に蒸着され、素子の駆動時に駆動電圧の上昇が大きく、素子の寿命が低くなって、素子の劣化が加速化するという短所がある。かかる短所を補完するために、非晶質膜の形成が必要である。
そこで、本発明者らは、トリアジン誘導体の構造において非対称性を有する物質であるほど結晶性があらわれないことを確認した。本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物は、トリアジンの置換基であるAr1ないしAr3が互いに異なっている。この場合、複素環化合物は、トリアジンの置換基が互いに非対称であって、非晶質蒸着膜の形成が可能であり、低い駆動電圧及び長寿命な素子を提供することができる。
本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物は、トリアジンの置換基であるAr1ないしAr3が互いに異なっている。」

(カ) 25頁15〜18行
「 また一つの実施態様において、上記L1は、置換もしくは非置換のフェニレン基である。
また他の実施態様において、上記L1は、フェニレン基である。
本明細書の一実施態様において、上記L1は、置換もしくは非置換のビフェニリレン基である。」

(キ) 27頁1〜2行
「 本明細書の一実施態様において、化学式1で表される複素環化合物は、下記化学式1−1ないし1−627及び2−1ないし2−363のうちいずれか一つで表される。」

(ク) 105〜148頁




(ケ) 160頁最下行〜161頁7行
「 本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層は、上記化学式3ないし6で表される化合物のうち1又は2以上を含む。
本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層は、上記化学式3で表される化合物を含む。
本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層は、上記化学式4で表される化合物を含む。
本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層は、上記化学式5で表される化合物を含む。」

(コ) 163頁41行〜166頁
「 また一つの実施態様において、上記化学式3で表される化合物は、下記化学式3−1ないし3−101のうちいずれか一つで表される。



(サ) 181頁1行〜183頁
「 本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層は、上記化学式4の化合物を含む。
・・・略・・・
本明細書の一実施態様において、上記化学式4で表される化合物は、下記化学式4−1ないし4−84のうちいずれか一つで表される。



(シ) 192頁最下行〜199頁
「 本明細書の一実施態様において、上記第2電子輸送層は、上記化学式5で表される化合物を含む。
・・・略・・・
本明細書の一実施態様において、上記化学式5で表される化合物は、下記化学式5−1ないし5−37のうちいずれか一つで表される。



(ス) 207頁5〜10行
「図1には、基板(101)上にアノード(201)、正孔輸送層(301)、発光層(401)、第1電子輸送層(501)、第2電子輸送層(601)及びカソード(701)が順次積層された有機発光素子の構造が例示されている。
図1において、上記第1電子輸送層(501)には、化学式1で表される複素環化合物が含まれ、上記第2電子輸送層(601)には、化学式3ないし5で表される化合物のうち1種以上及び金属ドーパントが含まれる。」

(セ) 208頁34〜41行
「 上記発光物質としては、正孔輸送層と電子輸送層から正孔と電子をそれぞれ輸送されて結合させることで可視光線領域の光を出すことができる物質であって、蛍光や燐光に対する量子効率の良い物質が好ましい。具体的な例としては、8−ヒドロキシ−キノリンアルミニウム錯体(Alq3);カルバゾール系化合物;二量体化スチリル(dimerized styryl)化合物;BAlq;10−ヒドロキシベンゾキノリン−金属化合物;ベンゾオキサゾール、ベンゾチアゾール及びベンゾイミダゾール系の化合物;ポリ(p−フェニレンビニレン)(PPV)系の高分子;スピロ(spiro)化合物;ポリフルオレン、ルブレンなどがあるが、これらにのみ限定されるものではない。」

(ソ) 210頁2行〜218頁22行
「 [実施例1]
本明細書の一実施態様に係る化学式1で表される複素環化合物及び下記化学式ET−A及びET−BのHOMOエネルギー準位及び三重項エネルギー(ET)値を、下記表1に示す。
・・・略・・・
本明細書の実施例において、上記HOMO準位は、大気中光電子分光装置(RIKEN KEIKI Co.,Ltd.製:AC3)を用いて測定した。
また、上記三重項エネルギ(ET)は、米ガウシアン(Gaussian)社製の量子化計算プログラムGaussian03を用いて行い、密度汎関数理論(DFT)を用いて、汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G*を用いて最適化した構造について、時間依存密度汎関数理論(TD−DFT)によって三重項エネルギーの計算値を求めた。
[表1]

・・・略・・・
[実施例1−1]
ITO(indium tin oxide)が500Åの厚さで薄膜コーティングされたガラス基板を、洗剤を溶かした蒸留水に入れて超音波で洗浄した。このとき、洗剤としてはフィッシャー社(Fischer Co.)製を使用し、蒸留水としてはミリポア社(Millipore Co.)製のフィルター(Filter)で2次で濾過された蒸留水を使用した。ITOを30分間洗浄した後、蒸留水で2回繰り返して超音波洗浄を10分間進行した。蒸留水洗浄が終わってから、イソプロピルアルコール、アセトン、メタノールの溶剤で超音波洗浄をして乾燥させた後、プラズマ洗浄装置に輸送させた。また、酸素プラズマを用いて上記基板を5分間洗浄した後、真空蒸着装置に基板を輸送させた。
上記のように用意されたITO透明電極の上に下記化学式[HAT]を50Åの厚さで熱真空蒸着して、正孔注入層を形成した。上記正孔注入層上に下記化学式[NPB]を1100Åの厚さで真空蒸着して、正孔輸送層を形成した。上記正孔輸送層上に下記化学式[HT−A]を200Åの厚さで真空蒸着して、電子遮断層を形成した。
次いで、上記電子遮断層上に膜厚350Åで下記化学式[BH]と[BD]とを25:1の重量比で真空蒸着して、発光層を形成した。
上記発光層上に上記化学式1−1及び下記化学式[LiQ]を1:1の重量比で真空蒸着して、200Åの厚さで第1電子輸送層を形成した。上記第1電子輸送層上に上記化学式3−1及び[Li]を100:1の重量比で真空蒸着して、100Åの厚さで第2電子輸送層を形成した。
上記第2電子輸送層上に1,000Åの厚さでアルミニウムを蒸着して、陰極を形成した。
上記の過程において、有機物の蒸着速度は0.4〜0.9 Å/secを維持し、陰極のフッ化リチウムは0.3Å/sec、アルミニウムは2Å/secの蒸着速度を維持し、蒸着時の真空度は1×10−7〜5×10−8torrを維持して、有機発光素子を作製した。

・・・略・・・
[実施例1−11]
上記[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−5]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式3−15]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した。
[実施例1−12]
上記[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−6]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式5−32]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した。
[実施例1−13]
上記[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−28]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式5−14]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した。
[実施例1−14]
上記[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−141]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式3−22]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した。
[実施例1−15]
上記[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−269]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式5−10]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した。
[実施例1−16]
上記[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−282]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式4−3]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した。
・・・略・・・
上述した方法で製造した有機発光素子を10mA/cm2 の電流密度で駆動電圧と発光効率を測定し、20mA/cm2の電流密度で初期輝度に対して90%になる時間(T90)を測定した。その結果を下記表3に示す。
[表3]

・・・略・・・
上記表3の結果から、本明細書の一実施態様に係る化学式1で表される化合物を有機発光素子の第1電子輸送層として、化学式3ないし化学式5で表される化合物を第2電子輸送層として使用できることを確認することができる。
特に、本発明に係る化学式1で表される化合物は、熱的安定性に優れ、6.0eV以上の深いHOMO準位、高い三重項エネルギー(ET)、及び正孔安定性を有して、優れた特性を示した。第1電子輸送層に化学式1で表される化合物を使用する場合、アルカリ有機金属化合物又はアルカリ土類金属有機金属化合物をn型ドーパントを交ぜて使用可能である。これによる化学式1で表される化合物は、低い駆動電圧及び高い効率を有し、化合物の正孔安定性によって素子の安定性を向上することができる。
表1の結果から、上記化学式[ET−A]及び[ET−B]で表される化合物は、いずれも1.9eV未満の三重項エネルギーを有することを確認することができ、表3の実施例及び比較例の結果から、2.2eV未満の低い三重項エネルギーを有する化合物は素子効率が低いことを確認することができる。このような結果は、2.2eV未満の三重項エネルギーを有する化合物を使用する場合、三重項−三重項消滅(Triplet-Triplet Annihilation:TTA)の効果が減殺されるからである。
また、上記化学式[ET−A]及び[ET−B]で表される化合物の場合、HOMO準位が6eV未満であることを表1から確認することができ、表3の素子評価の結果から、上記化合物を含む場合、短い寿命を有することを確認することができる。上記のような結果は、HOMOエネルギー準位が6eV未満の化合物を含む有機発光素子は、発光層から伝達される正孔遮断効果が減殺することによるものである。
したがって、本願発明の一実施態様に係る上記化学式1で表される複素環化合物であっても、HOMOエネルギー準位が6eV以上であり、三重項エネルギーが2.2eVであることが、素子の駆動電圧、効率及び/又は寿命の面でより好ましいことが確認できる。
また、文献(J. AM. CHEM. SOC. 2003, 125, 3710-3711)によれば、二置換フルオレニル基(disubstituted fluorenyl group)がスピロビフルオレニル基(spirobifluorenyl group)よりも電子移動度が高いことを確認することができる。これによる化学式1で表される化合物は、比較例に使用した化学式[ET−D]よりも電子輸送がより効率的に起きるため、高い効率を示し、また寿命も向上することを確認することができた。
表3の結果から、化学式1で表される化合物は、金属をドーピングした第2電子輸送層として好適でないことを確認することができる。金属をドーピングした第2電子輸送層に、化学式1の代わりに化学式3ないし化学式5で表される化合物が、低い駆動電圧、及び高い効率を示した。上記のような結果は、化学式3ないし化学式5で表される化合物の窒素原子又はホスフィンオキシド基の酸素原子の非共有電子対が効果的に金属と結合して、金属ドーパントのドーピングが効果的に起きることによるものである。よって、化学式3ないし5で表される化合物と金属のn型ドーパントを含む第2電子輸送層を使用する場合には、カソードから電子輸送及び/又は注入が円滑になり、低い駆動電圧の有機発光素子を提供することができる。
また、有機発光素子の駆動の際、窒素原子又はホスフィンオキシド基の酸素原子の非共有電子対と金属とが結合して、有機物層にかかるフィールド(field)によって金属が移動することを防止して、有機発光素子の駆動電圧の上昇を抑制することができ、長寿命な有機発光素子の実現が可能である。」

(タ) 「【図1】



イ 甲1発明
(ア) 上記ア(ウ)の【技術的課題】の記載によれば、甲1でいう「発明」の目的は、「高い発光効率及び/又は低い駆動電圧を有する有機発光素子を提供すること」であるところ、上記ア(ソ)には、[実施例1−1]の「有機発光素子」が記載されている。
また、上記ア(ソ)には、 「[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−5]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式3−15]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した」とされる[実施例1−11]の「有機発光素子」が記載されている。
ここで、[化学式2−5]は、上記ア(キ)及び(ク)の記載によれば、上記ア(ウ)の【課題を解決するための手段】に記載の[化学式1]で表される複素環化合物の「Ar1」、「Ar2」及び「Ar3」を、上記(ク)に記載の「化学式」「2−5」欄の「Ar1」欄、「Ar2」欄及び「Ar3」欄にそれぞれ表されるものとしたものである。
同様に、上記ア(ケ)の記載によれば、「化学式3−15」は、上記ア(コ)の「化学式3−15」欄に表されるものである。

(イ) また、上記ア(ソ)の[実施例1]の記載によれば、「本明細書の一実施態様に係る化学式1で表される複素環化合物」「のHOMOエネルギー準位及び三重項エネルギー(ET)値」が「表1に示」されているとされるところ、[表1]によれば、[化学式2−5]の「HOMOエネルギー準位」は、「6.22」「eV」、「三重項エネルギー(ET)値」は、「2.62」「eV」である。
[実施例1]の記載によれば、「実施例において」、「HOMOエネルギー準位」は、「大気中光電子分光装置(RIKEN KEIKI Co.,Ltd.製:AC3)を用いて測定し」たものであり、「三重項エネルギー(ET)値」は、「米ガウシアン(Gaussian)社製の量子化計算プログラムGaussian03を用いて行い、密度汎関数理論(DFT)を用いて、汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G*を用いて最適化した構造について、時間依存密度汎関数理論(TD−DFT)によって三重項エネルギーの計算値を求め」たものである。

(ウ) また、上記ア(ソ)には、「製造した有機発光素子を10mA/cm2 の電流密度で駆動電圧と発光効率を測定し、20mA/cm2の電流密度で初期輝度に対して90%になる時間(T90)を測定した。その結果を下記表3に示す。」と記載されているところ、[表3]によれば、[実施例1−11]の「駆動電圧」は、「4.26」「V」、「発光効率」は、「6.58」「Cd/A」、「寿命」「T90」は、「166」「h」である。

(エ) 上記ア(ア)〜(タ)及び上記(ア)〜(ウ)より、甲1には、[実施例1−11]として以下の「有機発光素子」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
「 ITOが500Åの厚さで薄膜コーティングされたガラス基板(ITO透明電極)を、真空蒸着装置に輸送し、
ITO透明電極の上に下記化学式[HAT]を50Åの厚さで熱真空蒸着して、正孔注入層を形成し、
正孔注入層上に下記化学式[NPB]を1100Åの厚さで真空蒸着して、正孔輸送層を形成し、
正孔輸送層上に下記化学式[HT−A]を200Åの厚さで真空蒸着して、電子遮断層を形成し、
電子遮断層上に膜厚350Åで下記化学式[BH]と[BD]とを25:1の重量比で真空蒸着して、発光層を形成し、
発光層上に下記化学式2−5及び下記化学式[Liq]を1:1の重量比で真空蒸着して、200Åの厚さで第1電子輸送層を形成し、
第1電子輸送層上に下記化学式3−15及び[Li]を100:1の重量比で真空蒸着して、100Åの厚さで第2電子輸送層を形成し、
第2電子輸送層上に1,000Åの厚さでアルミニウムを蒸着して、陰極を形成し、
上記の過程において、有機物の蒸着速度は0.4〜0.9Å/secを維持し、陰極のアルミニウムは2Å/secの蒸着速度を維持し、蒸着時の真空度は1×10−7〜5×10−8torrを維持して、作製された有機発光素子であって、
化学式2−5のHOMOエネルギー準位は、6.22eV、三重項エネルギー(ET)値は、2.62eVであり、ここで、HOMOエネルギー準位は、大気中光電子分光装置(RIKEN KEIKI Co.,Ltd.製:AC3)を用いて測定したものであり、三重項エネルギー(ET)値は、米ガウシアン(Gaussian)社製の量子化計算プログラムGaussian03を用いて行い、密度汎関数理論(DFT)を用いて、汎関数としてB3LYP、基底関数として6−31G*を用いて最適化した構造について、時間依存密度汎関数理論(TD−DFT)によって三重項エネルギーの計算値を求めたものであり、
駆動電圧は、4.26V、発光効率は、6.58cd/A、寿命T90は、166hであり、ここで、T90は、製造した有機発光素子を10mA/cm2の電流密度で駆動電圧と発光効率を測定し、20mA/cm2の電流密度で初期輝度に対して90%になる時間である、有機発光素子。

下記化学式1の複素環化合物において、Ar1、Ar2及びAr3を下記のものとしたもの
化学式1



(2) 甲2の記載及び引用発明
ア 甲2の記載
甲2(国際公開第2013/077352号)は、本願優先日前に日本国内又は外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明が記載されたものであるところ、そこには以下の記載がある。
(ア) 「技術分野
[0001] 本発明は、有機エレクトロルミネッセンス素子、当該有機エレクトロルミネッセンス素子に用いることができる芳香族複素環誘導体、および当該芳香族複素環誘導体を含む有機エレクトロルミネッセンス素子用材料に関する。
・・・略・・・
発明の概要
発明が解決しようとする課題
[0006] 本発明の目的は、高効率で発光し、かつ、より低い駆動電圧で駆動する有機EL素子、当該有機EL素子に用いることができる芳香族複素環誘導体、および当該芳香族複素環誘導体を含む有機EL素子用材料を提供することである。
課題を解決するための手段
[0007][1] 陽極、発光層、電子輸送帯域、および陰極をこの順に備え、
前記電子輸送帯域が、下記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含んでいる有機エレクトロルミネッセンス素子。
[0008][化1]

[0009] (前記一般式(1)において、X1からX3までは、窒素原子またはCR1である。
ただし、X1からX3までのうち、少なくともいずれか1つは、窒素原子である。
R1は、それぞれ独立して、
水素原子、
ハロゲン原子、
シアノ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルケニル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルキニル基、
置換もしくは無置換の炭素数3〜30のアルキルシリル基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールシリル基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアラルキル基、または
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基である。
前記一般式(1)において、Aは、下記一般式(2)で表される。)
[0010][化2]
(HAr)a−L1− (2)
[0011](前記一般式(2)において、HArは、下記一般式(3)で表される。
前記一般式(2)において、aは、1以上5以下の整数である。
aが1のとき、L1は、単結合または二価の連結基である。
aが2以上5以下のとき、L1は、三価以上六価以下の連結基であり、HArは、同一または異なる。
前記連結基は、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、または、
これらの基が互いに2つ、もしくは3つ結合した基のいずれかから誘導される二価以上六価以下の残基である。
なお、互いに結合した基は、互いに同一または異なる。)
[0012][化3]
・・・略・・・
[0023][12] 前述した本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記電子輸送帯域は、障壁層を含み、前記障壁層が、前記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含有することを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
・・・略・・・
[0026][15] 前述した本発明の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記発光層が、前記芳香族複素環誘導体を含有する前記電子輸送帯域と接していることを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
・・・略・・・
[0047] 本発明によれば、高効率で発光し、かつ、より低い駆動電圧で駆動する有機EL素子、当該有機EL素子に用いることができる芳香族複素環誘導体、および当該芳香族複素環誘導体を含む有機EL素子用材料を提供することができる。」

(イ) 「発明を実施するための形態
[0049]〔芳香族複素環誘導体〕
本発明の芳香族複素環誘導体は、下記一般式(4)で表される。
[0050][化8]

[0051](前記一般式(4)において、X1からX3までは、窒素原子またはCR1である。
ただし、X1からX3までのうち、少なくともいずれか1つは、窒素原子である。
R1は、それぞれ独立して、
水素原子、
ハロゲン原子、
シアノ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルケニル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルキニル基、
置換もしくは無置換の炭素数3〜30のアルキルシリル基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールシリル基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアラルキル基、または
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基である。
前記一般式(4)において、Aは、下記一般式(5)で表される。)
[0052][化9]
(HAr)a−L1− (5)
[0053](前記一般式(5)において、HArは下記一般式(6)で表される。
前記一般式(5)において、aは、1以上5以下の整数である。
aが1のとき、L1は、二価の連結基である。
aが2以上5以下のとき、L1は、三価以上六価以下の連結基であり、HArは、同一または異なる。
前記連結基は、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、または、
これらの基が互いに2つ、もしくは3つ結合した基のいずれかから誘導される二価以上六価以下の残基である。
なお、互いに結合した基は、互いに同一または異なる。)
[0054][化10]

[0055](前記一般式(6)において、Y1は、酸素原子、または硫黄原子である。
前記一般式(6)において、X11およびX18は、窒素原子またはCR13である。
前記一般式(6)において、X12からX17までのうち一つは、L1に対して単結合で結合する炭素原子であり、それ以外は、窒素原子またはCR13である。
R13は、それぞれ独立して、
水素原子、
ハロゲン原子、
シアノ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルケニル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルキニル基、
置換もしくは無置換の炭素数3〜30のアルキルシリル基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールシリル基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアラルキル基、または
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基
である。複数のR13は互いに同一または異なる。また、隣り合うR13は互いに結合して環を形成していてもよい。
前記一般式(4)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、
前記一般式(5)で表されるか、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、または、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基である。)
[0056] 前記一般式(6)において、X13またはX16が、L1に対して単結合で結合する炭素原子であることが好ましい。
・・・略・・・
[0082] 本発明の前記一般式(4)で表される芳香族複素環誘導体の具体的な構造としては、例えば、次のようなものが挙げられる。但し、本発明は、これらの構造の芳香族誘導体に限定されない。
・・・略・・・
[0097][化26]
・・・略・・・

・・・略・・・
[0118]
[化47]
・・・略・・・

・・・略・・・
[0139]〔有機EL素子〕
<第一実施形態>
本実施形態は、TTF現象を利用したものである。まず、以下にTTF現象を説明する。
・・・略・・・
[0141] 図1は、本発明の第一実施形態の一例を示す有機EL素子の概略構成図である。図2は、第一実施形態に係る有機エレクトロルミネッセンス素子の発光層および電子輸送帯域における三重項エネルギーの関係を示す図である。
・・・略・・・
[0142] 図1に示す有機EL素子1は、陽極10側から順に、正孔輸送帯域60、発光層20、電子輸送帯域70、および陰極50を備える。本実施形態の有機EL素子1では、これらが互いに隣接している。本実施形態における電子輸送帯域70は、障壁層30と電子注入層40とで構成される。陽極10と発光層20との間に正孔輸送帯域60が設けられていることが好ましい。正孔輸送帯域には、正孔注入層および正孔輸送層の少なくともいずれかが含まれる。
なお、本発明において単に障壁層といったときは、三重項エネルギーに対する障壁機能を有する層をいう。
・・・略・・・
[0144] 図2において、陽極から注入された正孔は、正孔輸送帯域を通して発光層へ注入され、陰極から注入された電子は、電子注入層および障壁層を通して発光層へ注入される。
・・・略・・・
本実施形態では、図2に示されるように、ホスト材料、ドーパント材料の三重項エネルギーをそれぞれETh、ETdとするとき、次式(2A)の関係を満たす。
ETh<ETd ・・・(2A)
この式(2A)の関係を満たすことにより、さらに、図3に示されるように、ホスト材料上で再結合し発生した三重項励起子は、より高い三重項エネルギーを持つドーパント材料には移動しない。
・・・略・・・本来、蛍光型素子に用いられるドーパント材料においては、励起三重項状態から基底状態への遷移は禁制であり、このような遷移では三重項励起子は、光学的なエネルギー失活をせず、熱的失活を起こしていた。しかし、ホスト材料とドーパント材料の三重項エネルギーの関係を上記のようにすることにより、三重項励起子が熱的失活を起こす前に、互いの衝突により効率的に一重項励起子を生成できる。その結果、発光効率が向上することになる。
[0145] 本実施形態では、障壁層は、発光層に隣接する。障壁層は、発光層で生成する三重項励起子が電子輸送帯域へ拡散することを防止し、三重項励起子を発光層内に閉じ込めることによって三重項励起子の密度を高め、TTF現象を効率よく引き起こす機能を有する。
また、障壁層は、発光層へ効率よく電子を注入する役割も担っている。発光層への電子注入性が下がる場合、発光層における電子−正孔の再結合が減ることで、三重項励起子の密度が小さくなる。三重項励起子の密度が小さくなると、三重項励起子の衝突頻度が減り、効率よくTTF現象が起きない。
[0146] 本実施形態の有機EL素子の障壁層は、下記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含んでいる。
[0147][化67]

[0148](前記一般式(1)において、X1からX3までは、窒素原子またはCR1である。
ただし、X1からX3までのうち、少なくともいずれか1つは、窒素原子である。
R1は、それぞれ独立して、
水素原子、
ハロゲン原子、
シアノ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルケニル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルキニル基、
置換もしくは無置換の炭素数3〜30のアルキルシリル基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールシリル基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアラルキル基、または
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基である。
前記一般式(1)において、Aは、下記一般式(2)で表される。)

・・・略・・・
[0161] 本実施形態の有機EL素子の障壁層に含まれる、前記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体の具体的な構造としては、例えば、次のようなものが挙げられる。但し、本実施形態は、これらの構造の芳香族誘導体に限定されない。
・・・略・・・
[0179][化88]
・・・略・・・


・・・略・・・
[0200][化109]
・・・略・・・

・・・略・・・
[0221] 本実施形態の有機EL素子1は、上述のとおり障壁層30と陰極50との間に、電子注入層40を備える。この電子注入層40に、上記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含有することが好ましい。
・・・略・・・
[0222] 電子注入層は、陰極からの電子注入を容易にするためのものである。」

(ウ) 「実施例
[0340] 以下、本発明に係る実施例を説明するが、本発明はこれらの実施例によって限定されない。
[0341]<化合物の合成>
・合成例1:(化合物7)の合成
(化合物7)の合成スキームを次に示す。
・・・略・・・

・・・略・・・
[0466]<有機EL素子の作製>
有機EL素子の作製には、上記合成例で合成した化合物の他、以下に示す化合物を用いた。
[0467]
[化178]

[0468]・実施例1
25mm×75mm×0.7mm厚のITO透明電極(陽極)付きガラス基板(ジオマティック社製)をイソプロピルアルコール中で超音波洗浄を5分間行なった後、UVオゾン洗浄を30分間行なった。
洗浄後の透明電極ライン付きガラス基板を真空蒸着装置の基板ホルダーに装着し、まず透明電極ラインが形成されている側の面上に透明電極を覆うようにしてHI−1を蒸着し、膜厚5nmのHI−1膜を形成した。このHI−1膜は、正孔注入層として機能する。
このHI−1膜の成膜に続けて、HT−1を蒸着し、HI−1膜上に膜厚80nmのHT−1膜を成膜した。このHT−1膜は、第一の正孔輸送層として機能する。
このHT−1膜の成膜に続けて、化合物HT−2を蒸着し、HT−1膜上に膜厚15nmのHT−2膜を成膜した。このHT−2膜は、第二の正孔輸送層として機能する。
このHT−2膜上にBH−1(ホスト材料)およびBD−1(ドーパント材料)を20:1の質量比で共蒸着し、膜厚25nmの発光層を成膜した。
この発光層上に(化合物7)を蒸着し、膜厚20nmの障壁層を形成した。
この障壁層上に電子輸送材料であるET−1を蒸着して、膜厚5nmの電子注入層を形成した。
この電子注入層上にLiFを蒸着して、膜厚1nmのLiF膜を形成した。
このLiF膜上に金属Alを蒸着して、膜厚80nmの金属陰極を形成した。
このようにして、実施例1の有機EL素子を作製した。
[0469]・実施例2〜実施例19および比較例1
実施例2〜実施例19および比較例1の有機EL素子は、障壁層の材料として表1に示す材料に代えた以外は、実施例1の有機EL素子と同様にして作製した。比較例1の有機EL素子の障壁層の材料として、次に示すBCPを用いた。
[0470][化179]
・・・略・・・
<素子評価>
作製した有機EL素子について、以下の評価を行った。結果を表1に示す。
・初期性能
電流密度が10mA/cm2となるように有機EL素子に電圧を印加し、そのときの電圧値(V)を測定した。また、そのときのEL発光スペクトルを分光放射輝度計(CS−1000:コニカミノルタ社製)にて計測した。得られた分光放射輝度スペクトルから、色度CIEx,CIEy、電流効率L/J(cd/A)、および外部量子効率EQE(%)を算出した。
・・・略・・・
[0482]
[表1]



(エ) 「請求の範囲
[請求項1] 陽極、発光層、電子輸送帯域、および陰極をこの順に備え、
前記電子輸送帯域が、下記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含んでいる有機エレクトロルミネッセンス素子。
[化1]

(前記一般式(1)において、X1からX3までは、窒素原子またはCR1である。
ただし、X1からX3までのうち、少なくともいずれか1つは、窒素原子である。
R1は、それぞれ独立して、
水素原子、
ハロゲン原子、
シアノ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルケニル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルキニル基、
置換もしくは無置換の炭素数3〜30のアルキルシリル基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールシリル基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアラルキル基、または
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基である。
前記一般式(1)において、Aは、下記一般式(2)で表される。)
[化2]
(HAr)a−L1− (2)
(前記一般式(2)において、HArは、下記一般式(3)で表される。
前記一般式(2)において、aは、1以上5以下の整数である。
aが1のとき、L1は、単結合または二価の連結基である。
aが2以上5以下のとき、L1は、三価以上六価以下の連結基であり、HArは、同一または異なる。
前記連結基は、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、または、
これらの基が互いに2つ、もしくは3つ結合した基のいずれかから誘導される二価以上六価以下の残基である。
なお、互いに結合した基は、互いに同一または異なる。)
[化3]

(前記一般式(3)において、X11からX18までは、それぞれ独立に、窒素原子、CR13、またはL1に対して単結合で結合する炭素原子である。
前記一般式(3)において、Y1は、酸素原子、硫黄原子、SiR11R12、またはR11及びL1に対してそれぞれ単結合で結合するケイ素原子である。
ただし、L1に対して結合するのは、X11からX18まで、およびR11からR12までにおける炭素原子、並びにY1におけるケイ素原子のいずれか一つである。
R11およびR12は、前記一般式(1)におけるR1と同義である。R11およびR12は、同一または異なる。
R13は、それぞれ独立して、
水素原子、
ハロゲン原子、
シアノ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルキル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルケニル基、
置換もしくは無置換の炭素数2〜30のアルキニル基、
置換もしくは無置換の炭素数3〜30のアルキルシリル基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールシリル基、
置換もしくは無置換の炭素数1〜30のアルコキシ基、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアラルキル基、または
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリールオキシ基
である。複数のR13は互いに同一または異なる。また、隣り合うR13は互いに結合して環を形成していてもよい。
前記一般式(1)において、Ar1およびAr2は、それぞれ独立に、
前記一般式(2)で表されるか、
置換もしくは無置換の環形成炭素数6〜30のアリール基、または、
置換もしくは無置換の環形成原子数5〜30の複素環基である。
・・・略・・・
[請求項12] 請求項1から請求項11までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、前記電子輸送帯域は、障壁層を含み、前記障壁層が、前記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含有する
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。
・・・略・・・
[請求項15] 請求項1から請求項14までのいずれか一項に記載の有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記発光層が、前記芳香族複素環誘導体を含有する前記電子輸送帯域と接している
ことを特徴とする有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(オ) 「
[図1]



イ 甲2発明
(ア) 甲2でいう発明の課題は、「高効率で発光し、かつ、より低い駆動電圧で駆動する有機EL素子、当該有機EL素子に用いることができる芳香族複素環誘導体、および当該芳香族複素環誘導体を含む有機EL素子用材料を提供する」([0006])ことであり、当該課題を解決するための手段は、「陽極、発光層、電子輸送帯域、および陰極をこの順に備え」た「有機エレクトロルミネッセンス素子」において、「電子輸送帯域」を、[0008]〜[0022]に記載の「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含」むものとすること([0007])、「前記電子輸送帯域は、障壁層を含み、前記障壁層が、前記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含有する」([0023])ものとすること、「前記発光層が、前記芳香族複素環誘導体を含有する前記電子輸送帯域と接している」([0026])ものとすること、である。

(イ) また、甲2の[0161]以下に、「本実施形態の有機EL素子の障壁層に含まれる、前記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体の具体的な構造」が挙げられているところ、当該「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体の具体的な構造」として、[0188][化97]の構造のものが示されている。
さらに、甲2でいう「本発明に係る実施例」として、甲2の[0416]〜[0417]には、「合成実施例19:化合物64の合成」として、前記の[0188][化97]に例示された「芳香族複素環誘導体」に対応する、「化合物64」の合成スキームが具体的に開示されている。

(ウ) 上記(ア)と(イ)より、甲2には、請求の範囲の[請求項1]及び[請求項12]の記載を引用する[請求項15]に係る「有機エレクトロルミネッセンス素子」において、「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」として「化合物64」を採用した以下の発明(以下「甲2発明」という。)記載されていると認められる。
「 陽極、発光層、電子輸送帯域、および陰極をこの順に備え、
前記電子輸送帯域が、下記化合物64で表される芳香族複素環誘導体を含む、 有機エレクトロルミネッセンス素子において、
前記電子輸送帯域は、障壁層を含み、前記障壁層が、下記化合物64で表される芳香族複素環誘導体を含み、
前記発光層が、前記芳香族複素環誘導体を含有する前記電子輸送帯域と接している、
有機エレクトロルミネッセンス素子。



(3) 甲3の記載及び引用発明
ア 甲3の記載
甲3(特開2009−249378号公報)は、本願優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物であるところ、そこには以下の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
・・・略・・・
【請求項4】
第1の電極と、第2の電極と、前記第1の電極と第2の電極との間に設けられる少なくとも1層の有機物層とを含み、前記有機物層が、下記化学式1によって表される有機電界発光化合物及び下記化学式6または7によって表される化合物から選択されるの一以上のドーパントを含む電界発光層を含む、有機電界発光素子:
【化7】

(化学式1中、
R1乃至R8は、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシであるか、R1乃至R8は、それぞれ隣接した置換基と(C3−C60)アルキレンまたは(C3−C60)アルケニレンにより連結し、脂環式環または単環若しくは多環の芳香族環を形成することができ、但し、R1乃至R8は、同時にすべて水素であることはなく、
R9乃至R12は、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシであるか、R9乃至R12は、それぞれ隣接した置換基と(C3−C60)アルキレンまたは(C3−C60)アルケニレンにより連結し、脂環式環または単環若しくは多環の芳香族環を形成することができ、
R13は、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシであり、
W及びXは、互いに独立して、化学結合であるか、−C(R14)(R15)−、−N(R16)−、−S−、−O−、−Si(R17)(R18)−、−P(R19)−、−C(=O)−、−B(R20)−、−In(R21)−、−Se−、−Ge(R22)(R23)−、−Sn(R24)(R25)−、または−Ga(R26)−であり、
R14乃至R26は、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシであるか、R14とR15、R17とR18、R22とR23またはR24とR25は、縮合環を含むか含まない(C3−C60)アルキレンまたは(C3−C60)アルケニレンにより連結し、脂環式環または単環若しくは多環の芳香族環を形成することができ、
L1は、化学結合であるか、(C6−C60)アリーレンまたは(C3−C60)ヘテロアリーレンであり、前記L1のアリーレンまたはヘテロアリーレンは、(C1−C60)アルキル、ハロゲン、シアノ、(C1−C60)アルコキシ、(C3−C60)シクロアルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロ、ヒドロキシ、トリ(C1−C30)アルキルシリル、ジ(C1−C30)アルキル(C6−C30)アリールシリル及びトリ(C6−C30)アリールシリルから選択された一以上の置換基によりさらに置換可能であり、
Ar1は、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシであるか、下記構造から選択される置換基であり、
【化8】

式中、R31乃至R43は、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシであるか、R31〜R43は、それぞれ隣接した置換基と縮合環を含むか含まない(C3−C60)アルキレンまたは(C3−C60)アルケニレンにより連結し、脂環式環または単環若しくは多環の芳香族環を形成することができ、
Y及びZは、互いに独立して、化学結合であるか、−(CR51R52)c−、−N(R53)−、−S−、−O−、−Si(R54)(R55)−、−P(R56)−、−C(=O)−、−B(R57)−、−In(R58)−、−Se−、−Ge(R59)(R60)−、−Sn(R61)(R62)−、−Ga(R63)−または−(R64)C=C(R65)−であり、
R51乃至R65は、互いに独立して、水素、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシであるか、R51とR52、R54とR55、R59とR60、R61とR62またはR64とR65は、縮合環を含むか含まない(C3−C60)アルキレンまたは(C3−C60)アルケニレンにより連結し、脂環式環または単環若しくは多環の芳香族環を形成することができ、
Ar1、R1乃至R26、R31乃至R43、及びR51乃至R63のアルキル、アリール、ヘテロアリール、ヘテロシクロアルキル、シクロアルキル、トリアルキルシリル、ジアルキルアリールシリル、トリアリールシリル、アダマンチル、ビシクロアルキル、アルケニル、アルキニル、アルキルアミノまたはアリールアミノは、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C3−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロまたはヒドロキシによりさらに置換可能であり、
aは、0〜3の整数であり、並びに
b及びcは、互いに独立して1〜4の整数である)、
【化9】

(化学式7中、
L11は、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C4−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロ及びヒドロキシからなる群から選択された一以上の置換基を有するか、または有しない(C6−C60)アリーレンであり、前記アリーレン上の置換基であるアルキル、シクロアルキル、ヘテロシクロアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールシリル、アルキルシリル、アルキルアミノ及びアリールアミノは、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C4−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロ及びヒドロキシから選択された一以上の置換基によりさらに置換可能であり、
R121乃至R124は、互いに独立して、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C4−C60)ヘテロアリール、(C6−C60)アリールアミノ、(C1−C60)アルキルアミノ、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキルであるか、R121乃至R124は、それぞれ隣接した置換基と縮合環を含むか含まない(C3−C60)アルキレンまたは(C3−C60)アルケニレンにより連結し、脂環式環または単環若しくは多環の芳香族環を形成することができ、
前記R121乃至R124のアルキル、アリール、ヘテロアリール、アリールアミノ、アルキルアミノ、シクロアルキルまたはヘテロシクロアルキルは、ハロゲン、(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリール、(C4−C60)ヘテロアリール、N、O及びSから選択された一以上のヘテロ原子を含む5員または6員のヘテロシクロアルキル、(C3−C60)シクロアルキル、トリ(C1−C60)アルキルシリル、ジ(C1−C60)アルキル(C6−C60)アリールシリル、トリ(C6−C60)アリールシリル、アダマンチル、(C7−C60)ビシクロアルキル、(C2−C60)アルケニル、(C2−C60)アルキニル、(C1−C60)アルコキシ、シアノ、(C1−C60)アルキルアミノ、(C6−C60)アリールアミノ、(C6−C60)アル(C1−C60)アルキル、(C6−C60)アリールオキシ、(C6−C60)アリールチオ、(C1−C60)アルコキシカルボニル、カルボキシル、ニトロ、及びヒドロキシから選択された一以上の置換基によりさらに置換可能である)。」

(イ) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、新規な有機電界発光化合物(organic electroluminescent compound)及びこれを電界発光材料として採用する有機電界発光素子(organic electroluminescent device)に関し、詳細には、本発明による有機電界発光化合物は、下記化学式1で表される化合物である。
・・・略・・・
【0020】
・・・略・・・このように、従来の材料は、ホスト−ドーパント薄膜層を構成せず、単層で構成されており、色純度及び効率側面で商用化が難しいと判断されて、長寿命に対する信頼性あるデータも不備な状況である。
【0021】
・・・略・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0025】
したがって、本発明者らは、上記の従来の問題点を解決するために鋭意研究した結果、発光効率に優れ、寿命が画期的に改善された有機電界発光素子を実現するための新しい電界発光化合物を発明した。
【0026】
本発明の目的は、上記の問題点を解決するために、既存のホスト材料より発光効率及び素子寿命に優れ、適切な色座標を有する優れた骨格の有機電界発光化合物を提供することであり、また他の目的は、前記有機電界発光化合物を発光材料として採用する高効率及び長寿命の有機電界発光素子を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0027】
本発明は、下記化学式1で表される有機電界発光化合物及びこれを含む有機電界発光素子に関し、本発明による有機電界発光化合物は、発光効率がよく、材料の色純度及び寿命特性に優れ、駆動寿命が非常に良好なOLED素子を製造することができる長所がある。
・・・略・・・
【0041】
図1には、ガラス1、透明電極2、正孔注入層3、正孔輸送層4、電界発光層5、電子輸送層6、電子注入層7及びAl陰極8を含む本発明のOLEDの断面図が示されている。
・・・略・・・
【0064】
本発明による有機電界発光化合物は、より具体的に下記の化合物で例示できるが、下記化合物が本発明を限定するものではない。
【0065】
【化17】

・・・略・・・

・・・略・・・
【0080】
【化32】

・・・略・・・
【0085】
【化37】
・・・略・・・

・・・略・・・
【0086】
【化38】
・・・略・・・

・・・略・・・
【0099】
【化51】
・・・略・・・

・・・略・・・
【0124】
【化76】
・・・略・・・

・・・略・・・
【0148】
【化100】
・・・略・・・

【0166】
・・・略・・・
【発明の効果】
【0248】
本発明による有機電界発光化合物は、発光効率及び材料の寿命特性に優れており、素子の駆動寿命が非常に良好なOLED素子を製造することができる長所がある。」

(ウ) 「【発明を実施するための形態】
【0250】
・・・略・・・
【0251】
[製造例]
・・・略・・・
【0260】
・・・略・・化合物1493 4.5g(74%)が得られた。
【0261】
前記製造例1の方法に従い、有機電界発光化合物1〜2040を製造した。製造された有機電界発光化合物の1H NMR及びMS/FABを表1に示した。
【0262】
【表1】

【0272】
(実施例1) 本発明による有機電界発光化合物を利用したOLED素子の製作
本発明の発光材料を利用した構造のOLED素子を製作した。
【0273】
まず、OLED用ガラス1(三星−コーニング社製造)から得られた透明電極ITO薄膜2(15Ω/□)を、トリクロロエチレン、アセトン、エタノール、蒸留水を順に使用して超音波洗浄を行った後、イソプロパノールに入れて保管した後使用した。
【0274】
次に、真空蒸着装備の基板フォルダにITO基板を設けて、真空蒸着装備内のセルに下記構造の4,4’,4”−トリス(N,N−(2−ナフチル)−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4’,4”−tris(N,N−(2−naphthyl)−phenylamino) triphenylamine;2−TNATA)を入れて、チャンバー内の真空度が10−6torrに至るまで排気した後、セルに電流を印加して2−TNATAを蒸発させて、ITO基板上に60nm厚の正孔注入層3を蒸着した。
【0275】
【化161】

【0276】
次いで、真空蒸着装置内の他のセルに、下記構造のN,N’−ビス(α−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(N,N’−bis(α−naphthyl)−N,N’−diphenyl−4,4’−diamine;NPB)を入れて、セルに電流を印加しNPBを蒸発させて、正孔注入層上に20nm厚の正孔輸送層4を蒸着した。
【0277】
【化162】

【0278】
正孔注入層、正孔輸送層を形成した後、その上に電界発光層を次のように蒸着した。真空蒸着装置内の一方のセルに、ホストとして本発明による化合物(例えば化合物3)を入れ、また他のセルには、ドーパントとして化合物Eを入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させて、ホストを基準に2〜5mol%としてドーピングすることにより、前記正孔輸送層上に30nm厚の電界発光層5を蒸着した。
【0279】
【化163】

【0280】
次いで、電子輸送層6として下記構造のトリス(8−ヒドロキシキノリン)−アルミニウム(III)(tris(8−hydroxyquinoline)−aluminum(III);Alq)を20nm厚に蒸着した後、電子注入層7に下記構造の化合物リチウムキノレート(lithium quinolate;Liq)を1〜2nm厚に蒸着した後、別の真空蒸着装置を利用して、Al陰極8を150nm厚に蒸着してOLEDを製作した。
【0281】
【化164】

【0282】
材料別に各化合物は、10−6torr下で真空昇華精製して、OLED用電界発光材料として使用した。
・・・略・・・
【0286】
[実施例2] 製造されたOLED素子の電界発光特性
前記実施例1と比較例1で製造された、本発明による有機電界発光化合物と従来の電界発光化合物をそれぞれ含有するOLED素子の発光効率を、それぞれ5,000cd/m2及び20,000cd/m2で測定し、表2に示した。特に、緑色電界発光材料の場合、高輝度領域における電界発光特性が非常に重要であるため、これを反映するために、20,000cd/m2程度の高輝度データを添付した。
【0287】
【表11】

【0288】
前記表2に示されたように、本発明の材料を緑色電界発光素子に適用した結果、本発明の有機電界発光化合物である化合物1250に化合物Eを3.0%ドーピングした場合、従来のAlq:C545T(比較例2)に比べ、発光効率が2倍以上増加した。
【0289】
以上のように本発明の有機電界発光化合物は、高効率の緑色電界発光材料として使用でき、しかも、色純度の側面では、本発明のホスト材料を適用する場合、明らかな改善が観察されている。このように色純度及び発光効率が共に改善されたことは、本発明の材料が優れた特性を有しているということを証明する。」

(エ) 「【図1】



イ 甲3発明
(ア) 甲3でいう「本発明」は、「新規な有機電界発光化合物」「及びこれを電界発光材料として採用する有機電界発光素子」に関するものであるところ(【0001】)、「本発明」の「新規な有機電界発光化合物」は、【0002】〜【0014】、【特許請求の範囲】【請求項4】に記載された「化学式1」で表される化合物を意味していることは明らかである。
そして、上記ア(イ)の【0064】以下には、当該化合物の具体例として、化合物「1」〜「2169」が記載されている。

(イ) 上記ア(ウ)の【0261】及び【0262】〜【0271】(「表1」の化合物「1」、「3」、「442」、「1170」等)には、「有機電界発光化合物1〜2040を製造した」と記載され、【0272】〜【0282】には、(実施例1)(「本発明による有機電界発光化合物を利用したOLED素子の製作」)として、「ホストとして本発明による化合物(例えば化合物3)」を用いて、「電界発光層5を蒸着し」て「OLEDを製作した」ことが記載され、【0286】〜【0288】(特に、【0287】の「表2」のホスト「3」、「456」等)には、[実施例2](「製造されたOLED素子の電界発光特性」)として、「前記実施例1」「製造された、本発明による有機電界発光化合物」を「含有するOLED素子の発光効率を」「測定」し、「表2に示」す結果が得られたことが記載されている。上記表2及び【0288】〜【0289】によれば、上記「OLED素子」は、「色純度及び発光効率が共に改善された」ものと理解される。

(ウ) 上記ア(ア)〜(エ)、上記(ア)及び(イ)より、甲3には、甲3でいう「本発明」の「新規な有機電界発光化合物」である「化学式1で表される化合物」(「ホスト」)として化合物「456」(上記ア(イ)の【0085】【化37】)を用いた以下の「OLED素子」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。
「 OLED用ガラス1から得られた透明電極ITO薄膜2(15Ω/□)を、トリクロロエチレン、アセトン、エタノール、蒸留水を順に使用して超音波洗浄を行った後、イソプロパノールに入れて保管し、
次に、真空蒸着装備の基板フォルダにITO基板を設けて、真空蒸着装備内のセルに下記構造の4,4’,4”−トリス(N,N−(2−ナフチル)−フェニルアミノ)トリフェニルアミン(4,4’,4”−tris(N,N−(2−naphthyl)−phenylamino) triphenylamine;2−TNATA)を入れて、チャンバー内の真空度が10−6torrに至るまで排気した後、セルに電流を印加して2−TNATAを蒸発させて、ITO基板上に60nm厚の正孔注入層3を蒸着し、
次いで、真空蒸着装置内の他のセルに、下記構造のN,N’−ビス(α−ナフチル)−N,N’−ジフェニル−4,4’−ジアミン(N,N’−bis(α−naphthyl)−N,N’−diphenyl−4,4’−diamine;NPB)を入れて、セルに電流を印加しNPBを蒸発させて、正孔注入層上に20nm厚の正孔輸送層4を蒸着し、
正孔注入層、正孔輸送層を形成した後、真空蒸着装置内の一方のセルに、ホストとして下記構造の化合物456を入れ、また他のセルには、ドーパントとして化合物Eを入れた後、二つの物質を異なる速度で蒸発させて、ホストを基準に2〜5mol%としてドーピングすることにより、前記正孔輸送層上に30nm厚の電界発光層5を蒸着し、
次いで、電子輸送層6として下記構造のトリス(8−ヒドロキシキノリン)−アルミニウム(III)(tris(8−hydroxyquinoline)−aluminum(III);Alq)を20nm厚に蒸着した後、電子注入層7に下記構造の化合物リチウムキノレート(lithium quinolate;Liq)を1〜2nm厚に蒸着した後、別の真空蒸着装置を利用して、Al陰極8を150nm厚に蒸着して製造された、
色純度及び発光効率が共に改善されたOLED素子。



(4) 甲1を主引用例とする新規性進歩性(申立理由1及び申立理由2)及び甲1を主引用例、甲2及び甲3を副引用例とする進歩性(申立理由3)について

ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
a 「陽極」及び「陰極」
甲1発明の素子構造からみて、甲1発明の(「1,000Åの厚さでアルミニウムを蒸着して」「形成」された)「陰極」が、本件特許発明1の「陰極」に相当し、甲1発明の「ITO透明電極」が、本件特許発明1の「陽極」に相当することは明らかである。

b 「有機物層」及び「化1で示される化合物」
(a) 甲1発明の素子構造からみて、甲1発明の「有機発光素子」は、「ITO透明電極」上に、
[A]「化学式[HAT]を50Åの厚さで熱真空蒸着して」「形成し」た「正孔注入層」、
[B]「化学式[NPB]を1100Åの厚さで真空蒸着して」「形成し」た「正孔輸送層」、
[C]「化学式[HT−A]を200Åの厚さで真空蒸着して」「形成し」た「電子遮断層」、
[D]「膜厚350Åで」「化学式[BH]と[BD]とを25:1の重量比で真空蒸着して」「形成し」た「発光層」、
[E]「200Åの厚さで」、「化学式2−5及び」「化学式[Liq]を1:1の重量比で真空蒸着して」「形成し」た「第1電子輸送層」、及び、
[F]「100Åの厚さで」、「化学式3−15及び[Li]を100:1の重量比で真空蒸着して」「形成し」た「第2電子輸送層」を、
[A]〜[F]の順に積層した積層構造(以下「甲1積層構造」という。)を、「ITO透明電極」と「陰極」との間に有する、ものである。
また、上記各層を構成する[HAT]、[NPB]、[HT−A]、[BH]、[BD]、「化学式2−5」、「Liq」及び「化学式3−15」の化学式及び組成(比)からみて、甲1積層構造は、有機物層を形成している、ということができる。
そうすると、甲1発明の上記甲1積層構造は、本件特許発明1の「有機物層」に相当する。

(b) 「化学式1」、「Ar1」、「Ar2]及び「Ar3」の各化学式(構造式)からみて、甲1発明の「第1電子輸送層」に含まれる「化学式2−5」は、本件特許発明1の「化1」において、
「c及びeは」、「それぞれ」、「4」「であり」、
「dは」、「3」「であり」、
「m及びnは、それぞれ、1」「であり」、
「Ra」及び「Rb」は、「互いに同一」であり、「それぞれ独立に」、「C6」「のアリール基」であり、
「R1〜R3は、互いに同一」であり、「それぞれ独立に」、4つの「R1」は「水素」、3つの「R2」は「水素」、4つの「R3」は「水素」であり、
「Lは、単結合」であり、
「Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、「Z1」「はN」「であり」、「Z2」「はC(R4)であり」、「Z3」「はN」「であり」、「Z4」「はC(R4)であり」、「Z5」「はN」「であり」、「この時、少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一又は異なり」、
前記「Z2」及び「Z4」の「前記R4」は、「C6」「のアリール基」であり、
前記「Z4」の前記「R4」の「C6」「のアリール基」は、「C6」「のアリール基」を「置換基」として「置換」され、たものとした場合(あるいは、前記「Z2」の「前記R4」は、「C6」「のアリール基」、前記「Z4」の「前記R4」は、「C12」「のアリール基」とした場合)に該当するといえる。
また、甲1発明の「化学式2−5の」「三重項エネルギー(ET)値は、2.62eVであ」る。
そうしてみると、上記(a)より、甲1発明は、本件特許発明1の「有機物層は、下記化1で示される化合物を含み」、「前記化1で示される化合物は」、「三重項エネルギーが、2.3eV以上であり」、
「【化1】

」、
「式中、
Ra及びRbは、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、C1〜C40のアルキル基及びC6〜C60のアリール基からなる群から選択され、
R1〜R3は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
Lは、単結合、又は、C6〜C18のアリーレン基及び核原子数5〜18のヘテロアリーレン基からなる群から選択され、
Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、N又はC(R4)であり、この時、少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一又は異なり、
c及びeは、それぞれ、0〜4の整数であり、
dは、0〜3の整数であり、
m及びnは、それぞれ、1〜3の整数であり、
前記R4は、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
前記Ra、Rbのアルキル基、アリール基と、前記R1〜R4のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルシリル基、アリールシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、アリールアミン基と、前記Lのアリーレン基、ヘテロアリーレン基とは、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換又は非置換であり、前記置換基が複数個である場合、複数の置換基は、互いに同一又は異なる」との要件を具備する。
(当合議体注:「【化1】

」及び「式中・・・前記置換基が複数個である場合、複数の置換基は、互いに同一又は異なる」との、【化1】及びその置換基に関する要件を、以下、「【化1】要件」という。)

c 「有機電界発光素子」
甲1発明の構造及び上記b(a)より、甲1発明の「有機発光素子」は、有機電界発光素子ということができる。
してみると、甲1発明の「有機発光素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」に相当する。また、上記bより、甲1発明の「有機発光素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」の、「陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み」との要件を具備する。

(イ) 一致点及び相違点
a 本件特許発明1と甲1発明とは、以下の構成で一致する。
(一致点)
「 陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含み、
前記化1で示される化合物は、三重項エネルギーが、2.3eV以上である、有機電界発光素子。
【化1】要件」
(当合議体注:【化1】及びその置換基に関する記載を「【化1】要件」と略記している。)

b 相違点
本件特許発明1と甲1発明とは以下の点で相違する。
(相違点1−1)
「化1で示される化合物」が、本件特許発明1においては、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し」、「一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」のに対し、甲1発明においては、「化学式2−5のHOMOエネルギー準位は、6.22eV」であるものの、「イオン化ポテンシャル」、「HOMO値とLUMO値との差」及び「一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差」が上述のものとなっているかどうか不明な点。

(ウ) 判断
相違点1−1について検討する。
a 甲1には、解決すべき課題について、「高い発光効率」、「低い駆動電圧を有する有機発光素子を提供すること」(上記(1)ア(ウ))と記載されている。そして、「化学式1で表される複素環化合物」及びその「HOMOエネルギー準位」に関し、甲1の【発明を実施するための形態】には、「本明細書は、カソード;アノード;上記カソードと上記アノードとの間に備えられた発光層;上記化学式1で表される複素環化合物を含み、上記カソードと上記発光層との間に備えられた第1電子輸送層;及び上記化学式3ないし5で表される化合物のうち1種以上のホスト物質及びアルカリ金属及びアルカリ土類金属のうち1種以上のドーパントを含み、上記カソードと上記第1電子輸送層との間に備えられた第2電子輸送層を含む有機発光素子を提供する。」、「本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物のHOMOエネルギー準位は、6eV以上である。本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物のHOMOエネルギー準位は、6.0eV以上7.0eV以下である。」、「本明細書の一実施態様によって、上記化学式1で表される化合物のように深いHOMOエネルギー準位を有する場合には、発光層から正孔を効果的に遮断することができて、高い発光効率を提供することができ、素子の安定性を向上して長寿命な素子を提供することができる。」、「本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物を含む有機物層は、発光層に接して備えられる。この場合、発光層のホスト化合物よりもさらに深いHOMOエネルギー準位を有することで、正孔の遮断を効果的に行うことができる。」(上記(1)ア(エ))と記載されている。
また、甲1には、「化学式1で表される複素環化合物の三重項エネルギー」について、「本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物の三重項エネルギーは、2.2eV以上である。」、「本明細書の一実施態様によって、上記多様な範囲の三重項エネルギーを有する化学式1で表される複素環化合物を含む場合には、有機発光素子において 発光層の三重項エキシトンを効果的に遮断して、高い効率及び/又は長寿命な素子を期待することができる。」(上記(1)ア(エ))と記載されている。
さらに、甲1の「化学式1で表される複素環化合物」について、本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される「複素環化合物の双極子モーメント(dipole moment)は、2debye以下である。より好ましくは、上記化学式1で表される複素環化合物の双極子モーメントは、1debye以下である。」、「上記の双極子モーメントの値の範囲を有する有機発光素子は、カソードから入ってくる電子の注入及び輸送能力が向上して、低い駆動電圧及び高い発光効率を提供することができる。」、「また、有機発光素子内で分子の配列が優秀であって、緻密な膜を提供する。よって、上記電子輸送物質を含む有機発光素子は、安定性に優れ、長寿命な有機発光素子を提供することができる。」(上記ア(エ))と記載されている。
加えて、甲1でいう「化学式1」における「Ar1」、「Ar2」及び「Ar3」について、「有機発光素子に使用される有機物の重要な特性の一つは、非晶質(amorphous)蒸着膜の形成が必要だという点である。高い結晶性を有する有機物は、蒸着時に膜特性が不均一に蒸着され、素子の駆動時に駆動電圧の上昇が大きく、素子の寿命が低くなって、素子の劣化が加速化するという短所がある。かかる短所を補完するために、非晶質膜の形成が必要である。」、「そこで、本発明者らは、トリアジン誘導体の構造において非対称性を有する物質であるほど結晶性があらわれないことを確認した。本明細書の一実施態様において、上記化学式1で表される複素環化合物は、トリアジンの置換基であるAr1ないしAr3が互いに異なっている。この場合、複素環化合物は、トリアジンの置換基が互いに非対称であって、非晶質蒸着膜の形成が可能であり、低い駆動電圧及び長寿命な素子を提供することができる。」(上記ア(オ)))と記載されている。

b 甲1発明の「第1電子輸送層」に含まれる「化学式2−5」で表される複素環化合物は、以下に示されるものである。
[化学式2−5]
下記化学式1の複素環化合物において、Ar1、Ar2及ぶAr3を下記のものとしたもの
化学式1

上記aのとおり、甲1発明の化学式2−5で表される複素環化合物は、(化学式1の)トリアジン誘導体における置換基であるAr1、Ar2、Ar3を(互いに異なる)非対称としたものである。また、甲1発明の当該複素環化合物の「HOMOエネルギー準位は、6.22eV、三重項エネルギー(ET)値は、2.62eVであ」る。
そうすると、上記aより、甲1発明の化学式2−5で示される複素環化合物は、深いHOMOエネルギー準位(6.0eV以上7.0eV以下)を有し、発光層から正孔を効果的に遮断することができて、高い発光効率を提供することができ、素子の安定性を向上して長寿命な素子を提供することができるものといえる。また、甲1発明の複素環化合物は、2.2eV以上の三重項エネルギーを有し、有機発光素子において 発光層の三重項エキシトンを効果的に遮断して、高い効率、長寿命な素子を期待することができるものといえる。さらに、甲1発明の当該複素環化合物は、非晶質蒸着膜の形成が可能であり、低い駆動電圧及び長寿命な素子を提供することができるといえる。
しかしながら、甲1発明の化学式2−5で表される構造の複素環化合物が、上記のHOMOエネルギー準位及び三重項エネルギーを有し、また、優れた電子遮蔽特性を有し、高い発光効率特性、低駆動電圧特性、長寿命特性を有するものであるからといって、甲1発明の化学式2−5で表される複素環化合物において、イオン化ポテンシャル、HOMO値とLUMO値との差、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、相違点1−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことを示す証拠はないし、また、そのような証拠がなくても、相違点1−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものと判断し得るような技術常識があるともいえない。
また、トリアジン誘導体の置換基であるAr1乃至Ar3の各構造及びその構造の組み合わせから、当該トリアジン誘導体のイオン化ポテンシャル、HOMO値、LUMO値、一重項エネルギー、三重項エネルギーがどのような範囲となるかについての技術常識もない。
そうしてみると、甲1発明の化学式2−5で表される構造の複素環化合物が、上記のHOMOエネルギー準位及び三重項エネルギーを有し、また、優れた電子遮蔽特性を有し、高い発光効率特性、低駆動電圧特性、長寿命特性を有するものであるからといって、当該複素環化合物が、[A]イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であり、[B]HOMO値とLUMO値との差が3.0eVを超過し、及び[C]一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満であるとの要件、とりわけ、前記[B]及び[C]の要件を満たす蓋然性が高いということはできない。
さらにいえば、クープマンズの定理より、[A]について、甲1発明の化学式2−5で表される構造の複素環化合物のHOMOエネルギー準位(6.22eV)が、イオン化ポテンシャルに対応する(当合議体注:甲1発明の「HOMO準位」は、イオン化ポテンシャルを測定することができる「大気中光電子分光装置」「を用いて測定」されたものである。)といえたとしても、甲1発明の化学式2−5で表される構造の複素環化合物の、[B]HOMO値とLUMO値との差が3.0eVを超過し、及び[C]一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である、蓋然性が高いとまではいえない。
また、仮に甲1発明の化学式2−5で表される構造の複素環化合物が、「カソードから入ってくる電子の注入及び輸送能力が向上して、低い駆動電圧及び高い発光効率を提供することができる」とされる、「2debye以下、あるいは1debye以下の双極子モーメントを有するものであるとしても、甲1発明の前記複素環化合物が、[A]、[B]及び[C](あるいは、少なくとも[B]及び[C]を満たす、蓋然性が高いとはいえない。

c 「HOMOエネルギー準位」が「6.22eV」、「三重項エネルギー(ET)値」が「2.62eV」である甲1発明の「化学式2−5」の複素環化合物の構造が、例えば、本件特許明細書の【0062】に記載された「イオン化ポテンシャル」が「5.88」eV、「EHOMO−ELUMO」が「3.45」eV、「三重項エネルギー」が「2.68」eV、「ΔEst(S1−T1)」が「0.52」eV(【0063】【表1】)である「LE−02」、「イオン化ポテンシャル」が「5.92」eV、「EHOMO−ELUMO」が「3.49」eV、「三重項エネルギー」が「2.78」eV、「ΔEst(S1−T1)」が「0.42」eVである「LE−01」、あるいは「イオン化ポテンシャル」が「6.12」eV、「EHOMO−ELUMO」が「3.44」eV、「三重項エネルギー」が「2.73」eV、「ΔEst(S1−T1)」が「0.57」eVである「LE−04」と類似しているということができる(特許異議申立書第70頁下から13行〜7行、74頁14〜18行、76頁7〜11行、129頁10〜17行等)としても同様である。
すなわち、化合物の化学式、構造式が基本骨格において類似していれば、イオン化ポテンシャル、HOMO値、LUMO値及びこれらの差、あるいは一重項エネネギー、三重項エネルギー及びこれらの差について、同様な傾向、値を示すことが大まかにいえるとしても、基本骨格の構造、各置換基の各化学式、それらの組み合わせ(あるいは複数の置換基が縮合環を形成するどうか)及び置換位置が異なれば、イオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値(及びこれらの差)、あるいは一重項エネルギー、三重項エネルギー(及びこれらの差)もそれぞれ当然に変化することも、また技術常識から理解できることである。
そうしてみると、甲1発明の「化学式2−5」の複素環化合物の構造が、本件特許明細書に記載された、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」「LE−02」、「LE−01」あるいは「LE−04」と化学式、構造式が類似しているからといって、甲1発明の化学式2−5で表される構造の複素環化合物が、[A]、[B]及び[C](あるいは、少なくとも[B]及び[C])を満たす蓋然性が高いとまでいうことはできない。

d そうすると、相違点1−1は、実質的な相違点を構成する。
してみると、本件特許発明1は、甲1発明と同一であるとはいえない。

e 次に、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の構成とすることが、甲1の記載に基づき当業者が容易になし得たといえるかについて検討する。

(a) 甲1には、上記aで述べた事項が記載されているに留まり、甲1に記載の化学式1で表される複素環化合物、あるいは、甲1発明の化学式2−5で表される複素環化合物を、そのHOMO値とLUMO値との差に着目して、その差を3.0eVを超過するものとすること、また、その一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差に着目して、そのを0.7eV未満とすることについて記載も示唆もされていない。そうすると、甲1には、甲1発明において、当業者が相違点1−1に係る本件特許発明1の構成を採用する動機付けとなり得る記載がない。
さらには、有機(電界)発光素子の「電子輸送層」に含まれる材料を、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満」のものとすることが、周知技術であるとも、技術常識であるともいえない。

(b) 以上のとおりであるから、甲1発明において、相違点1−1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得たものであるということができない。

f 特許異議申立人は、特許異議申立書第90頁2行〜第111頁20行の「(4−3)申立理由3(特許法第29条第2項)について」において、甲1に記載された発明並びに甲2及び甲3に記載された技術事項に基づく進歩性について主張しているので以下に検討する。
(a) 特許異議申立人は、「(4−3)申立理由3(特許法第29条第2項)について」「(4−3−1)本件特許発明1について」「(ア)本件特許発明1と甲1に記載された発明との対比」において、概略、甲1発明は、以下に示す相違点10〜12に係る本件特許発明1の発明特定事項を具備していないが、甲1の「化学式1で表される複素環化合物」は、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と実質的に同じものであるから、上記相違点はいずれも実質的な相違点ではない(甲1発明は全ての相違点に係る構成を具備する蓋然性が高い)旨主張する。
相違点10:「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上である」点(発明特定事項E)
相違点11:「HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過する」点(発明特定事項F)
相違点12:「一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」点(発明特定事項H)

(b) しかしながら、上記cで述べたとおり、基本骨格の構造、各置換基の各化学式、それらの組み合わせ及び置換位置が異なれば、イオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値(及びこれらの差)、あるいは一重項エネルギー、三重項エネルギー(及びこれらの差)もそれぞれ変化するから、甲1発明が相違点10〜12を全て具備する蓋然性が高いとまではいえない。そして、甲2及び甲3に上記相違点を示唆する記載はなく、また、これら相違点に係る構成が技術常識であることを示す他の証拠もない。

(c) 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲1〜甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できたものであるということはできない。

g 特許異議申立人の主張について
(a) 特許異議申立人は、特許異議申立書「(4−2)申立理由1及び2(特許法29条第1項第3号及び特許法第29条第2項)について」「(4−2−1)本件特許発明1について」「(ウ)本件特許発明1と甲1に記載された発明との対比」において、「甲1に記載された「化学式1で表される複素環化合物」は、本件特許発明1における「化1で表される複素環化合物」と同じ構造式の化合物を多数含むものであり(「化学式1で表される複素官化合物の具体例」参照)、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と実質的に同じものであるから、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が3.3eVを超過し、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である蓋然性が高い。」、「(エ)以上より、本件特許発明1は、甲1に記載された発明と同一であるか、又は、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に想到できるものである。」と主張する(当合議体注:上記の特許異議申立人の主張において「参照」とされる「化学式1で示される複素環化合物の具体例」とは、甲1記載の化学式「2−5」、「2−6」、「2−28」、「2−141」、「2−269」及び「2−282」(上記(1)ア(ク)参照。)を指している。)。 しかしながら、上記cで述べたとおりであり、上記主張は採用できない。

(b) 特許異議申立人の「(4−3)申立理由3(特許法第29条第2項)について」における主張については、上記fで述べたとおりである。

(エ) 上記(ア)〜(ウ)においては、「[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−5]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式3−15]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した」とされる[実施例1−11]の「有機発光素子」に基づき、甲1発明を認定し、対比、判断を行ったが、「[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−6]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式5−32]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した」とされる[実施例1−12]の「有機発光素子」の発明、「[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−28]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式5−14]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した」とされる[実施例1−13]の「有機発光素子」の発明、「[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−141]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式3−22]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した」とされる[実施例1−14]の「有機発光素子」の発明、「[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−269]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式5−10]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した」とされる[実施例1−15]の「有機発光素子」の発明、あるいは、「[実施例1−1]の[化学式1−1]の代わりに[化学式2−282]を、[化学式3−1]の代わりに[化学式4−3]を使用したことを除いては、[実施例1−1]と同一の方法で有機発光素子を作製した」とされる[実施例1−16]の「有機発光素子」の発明、に基づき引用発明を認定し、対比、判断を行っても同様である。

(オ) 小括
本件特許発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、本件特許発明1は、甲1〜甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるということはできない。

イ 本件特許発明2〜14について
本件特許発明2〜14は、本件特許発明1の構成を全て具備するもの(あるいは、本件特許発明9〜14においては、「化1で示される化合物」を特定の構造式のものに限定するもの)であるところ、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、甲1に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
また、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、甲1〜甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(5) 甲2を主引用例とする新規性進歩性及び甲2を主引用例、甲3を副引用例とする進歩性(申立理由4)について
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
a 「陽極」、「陰極」
甲2発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」における「陽極」及び「陰極」は、本件特許発明1の「陽極」及び「陰極」に相当する。

b 「有機物層」、「化1で示される化合物」
(a) 甲2発明の構造からみて、甲2発明は、「陽極」と「陰極」との間に、「発光層」と(「発光層」と「接し」、「化合物64として示される芳香族複素環誘導体を含有する」「障壁層を含」む)「電子輸送帯域」とが積層された積層構造(以下、「甲2積層構造」)を有する、と理解できる。

(b) 甲2発明は、「有機エレクトロルミネッセンス素子」であるから、(「陽極」及び「陰極」を除いた)甲2発明の「甲2積層構造」は、有機物層ということができる。
そうすると、甲2発明の「甲2積層構造」は、本件特許発明1の「有機物層」に相当する。

(c) 「化合物64」の化学式(構造式)からみて、甲2発明の「甲2積層構造」(における「電子輸送帯域」の「障壁層」)に含まれる「化合物64」は、本件特許発明1の「化1」の「式中」において、
「c及びeは、それぞれ」、「4」「であり」、
「dは」、「3」「であり」、
「m及びnは」、「それぞれ、1」「であり」、
「Ra及びRbは、互いに同一」とし、「それぞれ独立に、C1」「のアルキル基」であり、
「R1〜R3は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、4つの「R1」は「水素」、3つの「R2」は「水素」、4つの「R3」は「水素」であり、
「L は、単結合」とし、
「Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、「Z1」「はN」「であり」、「Z2」は「C(R4)であり」、「Z3」は「N」「であり」、「Z4」は「C(R4)であり」、「Z5」を「C(R4)であり」、「少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一又は異なり」、
「Z2」の「前記R4」は、「C6」「のアリール基」であり、
「Z4」の「前記R4」は、「C6」「のアリール基」であり、
「Z5」の「前記R4は、水素」であり、
「前記」「R4の」「C6」「アリール基」は、「C12」「のアリール基」を「置換基」(ジベンゾフラニル基)として「置換」され(あるいは、「核原子数」「13」「のヘテロアリール基」を「置換基」として「置換」され)たものとした場合に該当するといえる。
そうすると、上記(a)より、甲2発明は、本件特許発明1の「前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含み」、「【化1】要件」との要件を具備する。

c 「有機電界発光素子」
甲2発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、「エレクトロルミネッセンス」との文言が意味するとおり、電界発光型の素子である。
そうすると、上記aとbより、甲2発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」に相当する。
また、上記b(b)より、甲2発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」の、「陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み」との要件を具備する。

(イ) 一致点及び相違点
a 本件特許発明1と甲2発明とは、以下の構成で一致する。
(一致点)
「 陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含む、有機電界発光素子。
【化1】要件」
(当合議体注:【化1】及びその置換基に関する記載を「【化1】要件」と略記している。)

b 相違点
本件特許発明1と甲2発明とは以下の点で相違する。
(相違点2−1)
「化1で示される化合物」が、本件特許発明1においては、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」のに対し、甲2発明においては、上述のものとなっているかどうか不明な点。

(ウ) 判断
相違点2−1について検討する。
a 甲2でいう発明の課題及び課題を解決するための手段は、上記(2)イ(ア)で述べたとおりのものであるところ、甲2の[0139]〜[0145]には、図2及び図3とともに、「2つの3重項励起子の衝突融合により1重項励起子が生成する」「TTF現象」([0003])を利用した「第一実施形態」の「有機EL素子」について、「発光層に隣接する」「障壁層」を、「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体を含」むものとすることによって、「障壁層」が、「発光層で生成する三重項励起子が電子輸送帯域へ拡散することを防止し、三重項励起子を発光層内に閉じ込めることによって三重項励起子の密度を高め、TTF現象を効率よく引き起こす機能を有する」こと、「発光層へ効率よく電子を注入する役割も担って」、三重項励起子の衝突頻度を増加させ、効率よくTTF現象を起こすこと([0145])、が記載されている。
そして、甲2の[0047]には、「本発明によれば、高効率で発光し、かつ、より低い駆動電圧で駆動する有機EL素子、当該有機EL素子に用いることができる芳香族複素環誘導体、および当該芳香族複素環誘導体を含む有機EL素子用材料を提供することができる」との記載がある。

b 上記aの記載から、甲2発明の「障壁層」に含まれる上記「化合物64」が、「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」であって、発光層で生成する三重項励起子が電子輸送帯域へ拡散することを防止し、三重項励起子を発光層内に閉じ込めることによって、甲2発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」が、TTF比率が高く、高い電流効率および外部量子効率を示し、駆動電圧も低いものとなることは理解できる。しかしながら、上記aの記載から、甲2発明の「化合物64」のイオン化ポテンシャルや、HOMO値とLUMO値との差、あるいは一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差について、相違点2−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たす値となることを示す証拠はない。
また、「化合物64」のイオン化ポテンシャル値や、HOMO値、LUMO値及びHOMO値とLUMO値との差、あるいは、一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、相違点2−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものと判断できるとする技術常識があるともいえない。
そうしてみると、甲2発明の「化合物64」が、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」、すなわち、相違点2−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする蓋然性が高いということはできない。

c そうすると、相違点2−1は、実質的な相違点を構成する。
してみると、本件特許発明1は、甲2発明と同一であるとはいえない。

d 次に、甲2発明において、相違点2−1に係る本件特許発明1の構成とすることが、甲2の記載に基づき当業者が容易になし得たといえるかについて検討する。
(a) 甲2には、上記aで述べたとおり、甲2に記載された「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」及びこれを含む「障壁層」について、(図2及び図3とともに、)発光層で生成する三重項励起子が電子輸送帯域へ拡散することを防止し、三重項励起子を発光層内に閉じ込めることや、発光層へ効率よく電子を注入する役割も担うことが記載されているに留まり、甲2の[0007]〜[0013]に記載の「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」(、あるいは[0049]〜[0055]に記載の「一般式(4)で表される」「芳香族複素環誘導体」)を、あるいは、甲2発明の「化合物64で表される芳香族複素環誘導体」を、イオン化ポテンシャルに着目して、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上のものとすること、そのHOMO値とLUMO値との差に着目し、それらの差を3.3eVを超過するものとすること、また、その一重項エネルギー、三重項エネルギーあるいは一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差に着目し、三重項エネルギーを2.3eV以上とし、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差を0.7eV未満のものすることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲2には、当業者が甲2発明において、相違点2−1に係る本件特許発明1の構成を採用する動機付けとなり得る記載とする動機付けがない。
さらには、有機電界発光素子の「障壁層」に含まれる材料を、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満とすることが、周知技術であるとも、技術常識であるともいえない。

(b) 以上のとおりであるから、甲2発明において、相違点2−1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得たものであるということができない。

e 特許異議申立人は、特許異議申立書第111頁21行〜第122頁8行の「(4−4)申立理由4(特許法第29条第2項)について」において、甲2に記載された発明及び甲3に記載された技術事項に基づく進歩性について主張しているので以下に検討する。
(a) 特許異議申立人は、「(4−4)申立理由4(特許法第29条第2項)について」「(4−4−1)本件特許発明1について」「(イ)本件特許発明1と甲2に記載された発明との対比」において、概略、甲2発明は、以下に示す相違点19〜22に係る本件特許発明1の発明特定事項を具備していないが、甲2の「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」は、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と実質的に同じものであるから、上記相違点はいずれも実質的な相違点ではない(甲2発明は全ての相違点に係る構成を具備する蓋然性が高い)旨主張するので以下に検討する。
相違点19:「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上である」点(発明特定事項E)
相違点20:「HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過する」点(発明特定事項F)
相違点21:「三重項エネルギーが、2.3eV以上である」点(発明特定事項G)
相違点22:「一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」点(発明特定事項H)

(b) しかしながら、上記(4)ア(ウ)cで述べたとおり、基本骨格の構造、各置換基の各化学式、それらの組み合わせ及び置換位置が異なれば、イオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値(及びこれらの差)、あるいは一重項エネルギー、三重項エネルギー(及びこれらの差)もそれぞれ変化するから、甲2発明が相違点19〜22を全て具備する蓋然性が高いとまではいえない。そして、甲3に上記相違点を示唆する記載はなく、また、これら相違点に係る構成が技術常識であることを示す他の証拠もない。

(c) 以上のとおりであるから、本件特許発明1は、甲2に記載された発明及び甲3に記載された技術事項に基づいて当業者が容易に想到できたものであるということはできない。

f 特許異議申立人の主張について
(a) 特許異議申立人は、特許異議申立書「(4−4)申立理由4(特許法第29条第2項)について」「(4−4−1)本件特許発明1について」「(イ)本件特許発明と甲2に記載された発明との対比」において、「甲2には、本件特許発明1の「陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、有機物層は、下記化1で示される化合物を含む有機電界発光素子」が記載されている」、「甲2に記載された「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」は、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と同じ構造式の化合物を多数含むものであり(「甲2に記載の一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体の具体例」参照)、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と実質的に同じものであるから、イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が3.0eVを超過し、三重項エネルギーが2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である蓋然性が高い。」と主張する(当合議体注:上記の特許異議申立人の主張において「参照」とされている「甲2に記載の一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体の具体例」は、上記(2)ア(イ)の[0097][化26]、[0102][化31]、[0106][化35]、[0118][化47]、[0123][化52]、[0127][化56]、[0179][化88]、[0184][化93]、[0188][化97]、[0200][化109]、[0205][化114]及び[0209][化118]においてそれぞれ示された芳香族複素環誘導体を指している。)。

(b) しかしながら、基本骨格の構造、各置換基の各化学式、それらの組み合わせ及び置換位置が異なれば、イオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値(及びこれらの差)、あるいは一重項エネルギー、三重項エネルギー(及びこれらの差)もそれぞれ変化することは、上記(4)ア(ウ)cで既に述べたとおりである。
また、甲2に記載された「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」について、そのイオン化ポテンシャル、HOMO値、LUMO値、一重項エネルギー及び三重項エネルギーがどのような値となるかについての技術常識もない。さらに、甲2の[0097][化26]、[0102][化31]、[0106][化35]、[0118][化47]、[0123][化52]、[0127][化56]、[0179][化88]、[0184][化93]、[0188][化97]、[0200][化109]、[0205][化114]及び[0209][化118]においてそれぞれ示された各芳香族複素環誘導体の、イオン化ポテンシャル、HOMO値、LUMO値、一重項エネルギー及び三重項エネルギーがどのような値となるかについての技術常識もない。
そうしてみると、甲2に記載された「一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体」が、本件特許発明1の「化1で示される化合物」に含まれるからといって、「イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が3.0eVを超過し、三重項エネルギーが2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である蓋然性が高い」とまではいえない。あるいは、甲2に記載の上記の各芳香族複素環誘導体が、本件特許発明1の「化1で示される化合物」に含まれるからといって、これら各芳香族複素環誘導体が、「イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が3.0eVを超過し、三重項エネルギーが2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である蓋然性が高い」とまではいえない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記(a)の主張には理由がなく、これを採用することはできない。

(エ) 上記(ア)〜(ウ)においては、[請求項1]、[請求項12]及び[請求項15]の記載と「合成実施例19:化合物64の合成」により合成された「化合物64」に基づいて把握される「有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明を甲2発明とし、対比、判断を行ったが、これに替えて、[請求項1]、[請求項12]及び[請求項15]の記載と[0422]〜[0423]に記載された「合成実施例20:化合物65の合成」により合成された「化合物65」に基づいて把握される「有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明を引用発明とし、対比、判断を行っても同様である。
あるいは、上記(2)ア(イ)の「本実施形態の有機EL素子の障壁層に含まれる」「前記一般式(1)で表される芳香族複素環誘導体の具体的な構造」([0161])として例示された[0179][化88]、[0184][化93]、[0188][化97]、[0200][化109]、[0205][化114]及び[0209][化118]、あるいは「本発明の前記一般式(4)で表される芳香族複素環誘導体の具体的な構造」([0082])として例示された[0097][化26]、[0102][化31]、[0106][化35]、[0118][化47]、[0123][化52]及び[0127][化56]においてそれぞれ示された各芳香族複素環誘導体に基づき把握される「有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明を引用発明とし、対比、判断を行っても同様である。

(エ) 小括
本件特許発明1は、甲2に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。
また、本件特許発明1は、甲2及び甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に想到できたものであるということはできない。

イ 本件特許発明2〜14について
本件特許発明2〜14は、本件特許発明1の構成を全て具備するもの(あるいは、本件特許発明9〜14においては、「化1で示される化合物」を特定の構造式のものに限定するもの)であるところ、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、甲2に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、甲2に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。
また、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、甲2及び甲3に記載された技術事項に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということができない。

(6) 甲3を主引用例とする新規性進歩性(申立理由4)について
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
a 「陽極」、「陰極」
(a) 甲3発明の「OLED素子」の製造工程は、上記(3)イ(ウ)に記載のとおりである。
甲3発明の製造工程からみて、甲3発明は、「透明電極ITO薄膜2」上に、 [A]「2−TNATA」「を蒸発させて」「蒸着した」「60nm厚の正孔注入層3」、[B]「NPB」「を蒸発させて」「蒸着し」た「20nm厚の正孔輸送層4」、[C]「ホストとして」の「化合物456」、「ドーパントとして」の「化合物E」を「蒸発させて」、「ホストを基準に2〜5mol%としてドーピングすることにより」「蒸着し」た「30nm厚の電界発光層5」、[D]「Alq」を「蒸着した」「20nm厚」の「電子輸送層6」、[E]「Liq」を「蒸着した」「1〜2nm厚」の「電子注入層7」を、[A]〜[E]の順に積層した積層構造(以下「甲3積層構造」)を、「透明電極ITO薄膜2」と「150nm厚に蒸着して製造された」「Al陰極8」との間に有する、と理解できる。

(b) 甲3発明の「150nm厚に蒸着して製造された」「Al陰極8」は、本件特許発明1の「陰極」に相当する。

(c) 上記(a)と(b)より、甲3発明の「透明電極ITO薄膜2」は、甲3発明の「OLED素子」における陽極であることは明らかである。
そうすると、甲3発明の「透明電極ITO薄膜2」は、本件特許発明1の「陽極」に相当する。

b 「有機物層」、「化1で示される化合物」
(a) 上記b(a)の[A]〜[E]の各層を構成する「2−TNATA」、「NPB」、「化合物456」、「化合物E」、「Alq」及び「Liq」の各構造(式)からみて、甲3発明の「甲3積層構造」は、有機物層ということができる。

(b) 「化合物456」の構造(式)からみて、甲3発明の「甲3積層構造」(における「電界発光層5」)に含まれる「化合物456」は、本件特許発明1の「化1」の「式中」において、
「c及びeは、それぞれ、」「4」及び「2」「であり」、
「dは、」「3」「であり」、
「m及びnは、それぞれ、1」「であり」、
「Ra及びRbは、互いに同一」であり、「それぞれ独立に、C1」「のアルキル基」であり、
「R1〜R3は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、4つの「R1」は「水素」、3つの「R2」は「水素」、2つの「R3」は「C6〜C60のアリール基」を満たすものであり、「隣接した基と結合して縮合環を形成し」たものであり、
「Lは、単結合」とし、
「Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、「Z1」を「C(R4)」、「Z2」を「N」、「Z3」を「C(R4)」、「Z4」を「C(R4)」、「Z5」を「C(R4)」とし、「少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一」であり、
「Z1」、「Z3」、「Z4」及び「Z5」の「前記R4」が「水素」である場合に該当するといえる。
そうすると、上記(a)より、甲3発明は、本件特許発明1の「前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含み」、「【化1】要件」との要件を具備する。

c 「有機電界発光素子」
甲3発明の「OLED素子」における「OLED」は、「Organic Light Emitting Diode」を略したものである。
そうすると、技術的にみて、甲3発明の「OLED素子」は、有機電界発光型の素子ということができる。
上記aとbより、甲3発明の「OLED素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」に相当する。
また、上記aとbより、甲3発明の「OLED素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」の、「陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み」との要件を具備する。

(イ) 一致点及び相違点
a 本件特許発明1と甲3発明とは、以下の構成で一致する。
(一致点)
「 陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含む、有機電界発光素子。
【化1】要件」
(当合議体注:【化1】及びその置換基に関する記載を「【化1】要件」と略記している。)

b 相違点
本件特許発明1と甲3発明とは以下の点で相違する。
(相違点3−1)
「化1で示される化合物」が、本件特許発明1においては、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」のに対し、甲3発明においては、上述のものとなっているかどうか不明な点。

(ウ) 判断
相違点3−1について検討する。
a 甲3の課題は、「発光効率に優れ、寿命が画期的に改善された有機電界発光素子を実現するための新しい電界発光化合物」(【0025】)を提供することであるところ、甲3の【0027】には、課題を解決するための手段として、「本発明は」、「化学式1で表される有機電界発光化合物及びこれを含む有機電界発光素子に関し、本発明による有機電界発光化合物は、発光効率がよく、材料の色純度及び寿命特性に優れ、駆動寿命が非常に良好なOLED素子を製造することができる長所がある。」、【0248】には、発明の効果として、「本発明による有機電界発光化合物は、発光効率及び材料の寿命特性に優れており、素子の駆動寿命が非常に良好なOLED素子を製造することができる長所がある。」との記載がある。ここで、甲3でいう「化学式1」は、【特許請求の範囲】【請求項4】記載のものである。
また、甲3発明は、「色純度及び発光効率が共に改善されたOLED素子」であって、「電界発光層」の「ホスト」として、「化学式1で表される有機電界発光化合物」である「化合物456」を用いたものである。

b しかしながら、甲3発明(「OLED素子」)が、「電界発光層」に「ホスト」として「化合物456」を含むものとすることにより、「色純度及び発光効率が共に改善された」ものとなること、あるいは、寿命特性に優れ、駆動寿命が非常に良好なものとの効果を奏するものであるからといって、甲3発明の「化合物456」のイオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値及びHOMO値とLUMO値との差、あるいは一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差について、相違点3−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たす値となることを示す証拠はない。
また、「化合物456」のイオン化ポテンシャル値や、HOMO値、LUMO値及びHOMO値とLUMO値との差、あるいは、一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、相違点3−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものと判断できるとする技術常識があるともいえない。
そうしてみると、甲3発明の「化合物456」が、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eV を超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」、すなわち、相違点3−1に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする蓋然性が高い、ということはできない。

c 特許異議申立人の主張について
(a) 特許異議申立人は、特許異議申立書「(4−4)申立理由4(特許法第29条第2項)について」「(4−4−1)本件特許発明1について」「(ウ)甲3に記載された発明の説明」において、「甲3に記載された「化学式1によって表される有機電界発光化合物」は、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と同じ構造式の化合物を多数含むものであり(「甲3に記載の化学式1によって表される有機電界発光化合物の具体例」参照)、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と実質的に同じものであるから、イオン化ポテンシャルが5.5eVV以上であり、HOMO値とLIMO値との差が3.0eVを超過し、三重項エネルギーが2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である蓋然性が高い。」と主張する(当合議体注:上記の特許異議申立人の主張において「参照」とされている「甲3に記載の化学式1によって表される有機電界発光化合物の具体例」は、上記(3)ア(イ)の【0067】【化19】の化合物49〜化合物55、【0068】【化20】の化合物81〜化合物83、【0072】【化24】の化合物177、化合物181〜化合物187、【0074】【化26】の化合物213〜化合物215、【0078】【化30】の化合物311〜化合物317、【0080】【化32】の化合物343〜化合物345、【0084】【化36】の化合物440〜化合物444、【0085】【化37】の化合物456〜化合物462、【0086】【化38】の化合物488〜化合物490、【0091】【化43】の化合物584〜化合物591を指している。)。

(b) しかしながら、基本骨格の構造、各置換基の各化学式、それらの組み合わせ及び置換位置が異なれば、イオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値(及びこれらの差)、あるいは一重項エネルギー、三重項エネルギー(及びこれらの差)もそれぞれ変化することは、上記(4)ア(ウ)cで既に述べたとおりである。
また、甲3に記載された「化学式1によって表される有機電界発光化合物」について、そのイオン化ポテンシャル、HOMO値、LUMO値、一重項エネルギー及び三重項エネルギーがどのような値となるかについての技術常識もない。さらに、甲3の【0067】【化19】の化合物49〜化合物55、【0068】【化20】の化合物81〜化合物83、【0072】【化24】の化合物177、化合物181〜化合物187、【0074】【化26】の化合物213〜化合物215、【0078】【化30】の化合物311〜化合物317、【0080】【化32】の化合物343〜化合物345、【0084】【化36】の化合物440〜化合物444、【0085】【化37】の化合物456〜化合物462、【0086】【化38】の化合物488〜化合物490、【0091】【化43】の化合物584〜化合物591、あるいは、【0099】【化51】の化合物763、【0104】【化56】の化合物895、【0109】【化61】の化合物1025、【0116】【化68】の化合物1170、【0124】【化76】の化合物1314、【0129】【化81】の化合物1443、【0135】【化87】の化合物1575、【0141】【化93】の化合物1705、【0148】【化100】の化合物1850、【0157】【化109】の化合物1994の、イオン化ポテンシャル、HOMO値、LUMO値、一重項エネルギー及び三重項エネルギーがどのような値となるかについての技術常識もない。
そうしてみると、甲3に記載された「化学式1によって表される有機電界発光化合物」が、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と同じ構造式の化合物を多数含むものであ」るからといって、甲3に記載された「化学式1によって表される有機電界発光化合物」が、「イオン化ポテンシャルが5.5eVV以上であり、HOMO値とLIMO値との差が3.0eVを超過し、三重項エネルギーが2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である蓋然性が高いとまではいえない。あるいは、甲3に具体的に記載された各有機電界発光化合物が、本件特許発明1の「化1で示される化合物」に含まれるからといって、これら各有機電界発光化合物が、「イオン化ポテンシャルが5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が3.0eVを超過し、三重項エネルギーが2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満である蓋然性が高い」とまではいえない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記(a)の主張には理由がなく、これを採用することはできない。

d 以上のとおりであるから、相違点3−1は、実質的な相違点を構成する。
してみると、本件特許発明1は、甲3発明と同一であるとはいえない。

e 次に、甲3発明において、相違点3−1に係る本件特許発明1の構成とすることが、甲3の記載に基づき当業者が容易になし得たといえるかについて検討する。
甲3には、上記aで述べたとおり、「化学式1によって表される有機電界発光化合物」を用いることにより、「OLED素子」を、「色純度及び発光効率が共に改善された」ものとすること、あるいは、寿命特性に優れ、駆動寿命が非常に良好なものとすることが記載されているに留まり、「化学式1によって表される有機電界発光化合物」について、そのイオン化ポテンシャルに着目して、イオン化ポテンシャルを5.5eV以上のものとすること、そのHOMO値とLUMO値との差に着目し、それらの差を3.3eVを超過するものとすること、また、その一重項エネルギー、三重項エネルギーあるいは一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差に着目し、三重項エネルギーを2.3eV以上、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差を0.7eV未満のものとすることについて記載も示唆もされていない。
そうすると、甲3には、当業者が甲3発明において、相違点3−1に係る本件特許発明1の構成を採用する動機付けとなり得る記載がない。
また、OLED素子の「電界発光層」に「ホスト」材料を、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満とすることが、周知技術であるとも、技術常識であるともいえない。
以上のとおりであるから、甲3発明において,相違点3−1に係る本件特許発明1の構成とすることが、当業者が容易になし得たものであるということができない。

(エ) 上記(ア)〜(ウ)においては、甲3の「実施例2」において、甲3でいう「本発明」の「新規な有機電界発光化合物」である「化学式1で表される化合物」(「ホスト」)として化合物「456」(【0287】の「表2」のホスト「456」、上記(3)ア(イ)の【0085】【化37】)を用いた「OLED素子」の発明を、甲3発明として、対比、判断を行ったが、これに替えて、【0262】の「表1」に記載された化合物「442」(上記(3)ア(イ)【0084】【化36】参照)あるいは化合物「1170」(上記(3)ア(イ)【0116】【化68】参照)、及び、【0272】〜【0282】の「実施例1」の記載から理解される、「化学式1で表される化合物」(「ホスト」)として化合物「442」、あるいは化合物「1170」を用いた「OLED素子」の発明を、引用発明として、対比、判断を行っても同様である。
あるいは、甲3の【0067】【化19】の化合物49〜化合物55、【0068】【化20】の化合物81〜化合物83、【0072】【化24】の化合物177、化合物181〜化合物187、【0074】【化26】の化合物213〜化合物215、【0078】【化30】の化合物311〜化合物317、【0080】【化32】の化合物343〜化合物345、【0084】【化36】の化合物440〜化合物441、化合物443〜化合物444、【0085】【化37】の化合物456〜化合物462、【0086】【化38】の化合物488〜化合物490、【0091】【化43】の化合物584〜化合物591、あるいは、【0099】【化51】の化合物763、【0104】【化56】の化合物895、【0109】【化61】の化合物1025、【0124】【化76】の化合物1314、【0129】【化81】の化合物1443、【0135】【化87】の化合物1575、【0141】【化93】の化合物1705、【0148】【化100】の化合物1850、【0157】【化109】の化合物1994のいずかの化合物と、特許請求の範囲の【請求項4】、【0041】、図1、及び、【0272】〜【0282】の「実施例1」の記載等から理解される、「電界発光層」の「ホスト」として、上記のうちのいずれかの化合物を用いた「OLED素子」の発明を、引用発明として、対比、判断を行っても同様である。
あるいは、請求項4の記載に基づき、引用発明を認定し、対比、判断を行っても同様である。

(オ) 小括
本件特許発明1は、甲3に記載された発明であるということはできない。
また、本件特許発明1は、甲3に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ 本件特許発明2〜14について
本件特許発明2〜14は、本件特許発明1の構成を全て具備するもの(あるいは、本件特許発明9〜14においては、「化1で示される化合物」を特定の構造式のものに限定するもの)であるから、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、甲3に記載された発明であるということはできない。

3 特許法第29条の2(拡大先願)(申立理由5)についての判断
(1) 甲4及び引用発明
ア 甲4
本願優先日前の特許出願であって、本願優先日後に出願公開(特表2018−531883号公報)がされた甲4に係る特願2018−504890号(以下「先願4」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願4当初明細書等」という)には、次の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
式(I)の化合物。
【化1】

(式中、
Z1およびZ2は、互いに同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、CHO、N(Ar1)2、C(=O)Ar1、P(=O)(Ar1)2、S(=O)Ar1、S(=O)2Ar1、CR2=CR2Ar1、CN、NO2、Si(R1)3、B(OR1)2、B(R1)2、B(N(R1)2)2、OSO2R1、1〜40のC原子を有する、直鎖の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、または2〜40のC原子を有する、直鎖の、アルケニルもしくはアルキニル基、3〜40のC原子を有する、分岐もしくは環状の、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基(これらのそれぞれは、1以上のラジカルR1によって置換されていてもよく、ここで1以上の、好ましくは非隣接のCH2基が、(R1)C=C(R1)、C≡C、Si(R1)2、Ge(R1)2、Sn(R1)2、C=O、C=S、C=Se、C=N(R1)、P(=O)(R1)、SO、SO2、N(R1)2、O、SまたはCON(R1)2によって置き換えられていてもよく、かつ1以上のH原子がD、F、Cl、Br、I、CNまたはNO2によって置き換えられていてもよい)、またはそれぞれのケースにおいて1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、アリールオキシもしくはヘテロアリールオキシ基であり、ここで、Z1およびZ2は、ビス−スピロビフルオレンを形成しないものであり、
Y1およびY2は、互いに同一であるかまたは異なり、D、F、Cl、Br、I、CHO、N(Ar1)2、C(=O)Ar1、P(=O)(Ar1)2、S(=O)Ar1、S(=O)2Ar1、(R1)C=C(R1)Ar1、CN、NO2、Si(R1)3、B(OR1)2、B(R1)2、B(N(R1)2)2、OSO2R1、1〜40のC原子を有する、直鎖の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、または2〜40のC原子を有する、直鎖の、アルケニルもしくはアルキニル基、3〜40のC原子を有する、分岐もしくは環状の、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基(これらのそれぞれは、1以上のラジカルR1によって置換されていてもよく、ここで1以上の、好ましくは非隣接のCH2基が、(R1)C=C(R1)、C≡C、Si(R1)2、Ge(R1)2、Sn(R1)2、C=O、C=S、C=Se、C=N(R1)2、P(=O(R1)2、SO、SO2、N(R1)2、O、SまたはCON(R1)2によって置き換えられていてもよく、かつ1以上のH原子がD、F、Cl、Br、I、CNまたはNO2、によって置き換えられていてもよい)、またはそれぞれのケースにおいて1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、アリールオキシもしくはヘテロアリールオキシ基、またはこれらの系の組み合わせであり、2以上の隣接する置換基Y1またはY2が、縮合の、単環状もしくは多環状の、脂肪族もしくは芳香族またはヘテロ芳香族環系を互いに形成していてもよく、
Ar1およびAr2は、互いに同一であるかまたは異なり、5〜23の芳香族環原子を有する、芳香族またはヘテロ芳香族環系であり、それぞれのケースにおいて1以上のラジカルR1によって置換されていてもよく、ただし、ヘテロ芳香族環系は炭素−炭素結合を介して結合されており、
R1は、互いに同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、CN、Si(R2)3、1〜40のC原子を有する、直鎖の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、3〜40のC原子を有する、分岐もしくは環状の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基(これらは、1以上のラジカルR2によって置換されていてもよく、それぞれ1以上の非隣接のCH2基がC(R2)=C(R2)、Si(R2)2、C=NR2、P(=O)(R2)、SO、SO2、NR2、O、SまたはCONR2によって置き換えられていてもよく、かつ1以上のH原子がD、F、Cl、BrまたはIによって置き換えられていてもよい)、1以上のラジカルR2によって置換されていてもよい、6〜40の炭素原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または1以上のラジカルR2によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有するアリールオキシ基、1以上のラジカルR2によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有するアラルキル基からなる群から選択され、ここで、所望により、2以上の隣接する置換基R1が、単環状もしくは多環状の、脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族環系を互いに形成していてもよく、これは1以上のラジカルR2によって置換されていてもよく、ここでR2は、H、D、F、1〜20の炭素原子を有する脂肪族炭化水素ラジカル、または5〜30のC原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系からなる群から選択され、2以上の隣接する置換基R2が、単環状もしくは多環状、脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族環系を互いに形成していてもよく、
Xは、互いに同一であるかまたは異なり、CR1またはNであり、ただし、少なくとも1つのXがNであり、
Lは、互いに同一であるかまたは異なり、5〜30の芳香族環原子を有する、芳香族またはヘテロ芳香族環系であり、1以上の非芳香族ラジカルR1によって置換されていてもよく、
a、b、cおよびdは、それぞれ、同一であるかまたは異なり、0または1であり、ただし、a、b、cまたはdのうちの少なくとも1つが1であり、
eおよびfは、それぞれ、同一であるかまたは異なり、0、1、2または3であり、かつ
nは、互いに同一であるかまたは異なり、0または1である)
・・・略・・・
【請求項17】
請求項1〜12または14に記載の化合物が、燐光もしくは蛍光発光体、電子ブロックもしくは励起子ブロック層、電荷発生層、正孔ブロック層、または電子輸送層のための、1つ以上のマトリックス材料として使用されることを特徴とする、有機エレクトロルミネッセンス素子。」

(イ) 「【発明の詳細な説明】
【0001】
本発明は、電子素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子、においける材料の使用、およびそれらの材料を含んでなる、電子素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子、に関する。
【0002】
有機半導体を機能性材料として使用した有機エレクトロルミネッセンス素子(OLED)の構造は、・・・略・・・に記載されている。
・・・略・・・
【0004】
本発明の目的は、特に燐光発光体のためのマトリックス材料として、正孔ブロック材料として、電子輸送材料として、または所望により電荷発生層のための材料として、OLEDにおける使用に適した化合物を提供することである。本発明のさらなる目的は、当業者がOLEDの製造をするための材料のより幅広い選択ができるように、有機エレクトロルミネッセンス素子のためのさらなる有機半導体を提供することである。
・・・略・・・
【0011】
驚くべきことに、以下に詳細に開示する特定の化合物が、この目的を達成し、OLEDにおける使用に高い適性を示し、有機エレクトロルミネッセンス素子における改良をもたらすことがわかった。改良は、特に、寿命および/または作動電圧も関する。それゆえ、本発明は、これらの化合物、および以下に開示される種類の化合物を含んでなる電子素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子、に関するものである。
・・・略・・・
【0013】
特に、本発明は、式(I)の化合物に関する。
【化2】

式中、使用される記号および添え字には、以下が適用される。
Z1およびZ2は、互いに同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、CHO、N(Ar1)2、C(=O)Ar1、P(=O)(Ar1)2、S(=O)Ar1、S(=O)2Ar1、CR2=CR2Ar1、CN、NO2、Si(R1)3、B(OR1)2、B(R1)2、B(N(R1)2)2、OSO2R1、1〜40のC原子を有する、直鎖の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、また2〜40のC原子を有する、直鎖の、アルケニルもしくはアルキニル基、3〜40のC原子を有する、分岐もしくは環状の、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基(これらのそれぞれは、1以上のラジカルR1によって置換されていてもよく、ここで1以上の、好ましくは非隣接のCH2基が、(R1)C=C(R1)、C≡C、Si(R1)2、Ge(R1)2、Sn(R1)2、C=O、C=S、C=Se、C=N(R1)2、P(=O)(R1)、SO、SO2、N(R1)2、O、SまたはCON(R1)2によって置き換えられていてもよく、かつ1以上のH原子がD、F、Cl、Br、I、CNまたはNO2によって置き換えられていてもよい)、またはそれぞれのケースにおいて1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、アリールオキシもしくはヘテロアリールオキシ基である。
・・・略・・・
【0015】
Y1およびY2は、互いに同一であるかまたは異なり、D、F、Cl、Br、I、CHO、N(Ar1)2、C(=O)Ar1、P(=O)(Ar1)2、S(=O)Ar1、S(=O)2Ar1、(R1)C=C(R1)Ar1、CN、NO2、Si(R1)3、B(OR1)2、B(R1)2、B(N(R1)2)2、OSO2R1、1〜40のC原子を有する、直鎖の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、または2〜40のC原子を有する、直鎖の、アルケニルもしくはアルキニル基、3〜40のC原子を有する、分岐もしくは環状の、アルキル、アルケニル、アルキニル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基(これらのそれぞれは、1以上のラジカルR1によって置換されていてもよく、ここで1以上の、好ましくは非隣接のCH2基が、(R1)C=C(R1)、C≡C、Si(R1)2、Ge(R1)2、Sn(R1)2、C=O、C=S、C=Se、C=N(R1)2、P(=O(R1)2、SO、SO2、N(R1)2、O、SまたはCON(R1)2によって置き換えられていてもよく、かつ1以上のH原子がD、F、Cl、Br、I、CNまたはNO2、によって置き換えられていてもよい)、またはそれぞれのケースにおいて1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または1以上のラジカルR1によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有する、アリールオキシもしくはヘテロアリールオキシ基、またはこれらの系の組み合わせであり、2以上の隣接する置換基Y1またはY2が、縮合の、単環状もしくは多環状の、脂肪族もしくは芳香族またはヘテロ芳香族環系を互いに形成していてもよい。
【0016】
Ar1およびAr2は、互いに同一であるかまたは異なり、5〜23の芳香族環原子を有する、芳香族またはヘテロ芳香族環系であり、それぞれのケースにおいて1以上のラジカルR1、好ましくは非芳香族ラジカルR1、によって置換されていてもよく、ただし、ヘテロ芳香族環系は炭素−炭素結合を介して結合されている。
【0017】
R1は、互いに同一であるかまたは異なり、H、D、F、Cl、Br、I、CN、Si(R2)3、1〜40のC原子を有する、直鎖の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基、3〜40のC原子を有する、分岐もしくは環状の、アルキル、アルコキシもしくはチオアルコキシ基(これらは、1以上のラジカルR2によって置換されていてもよく、それぞれ1以上の非隣接のCH2基がC(R2)=C(R2)、Si(R2)2、C=NR2、P(=O)(R2)、SO、SO2、NR2、O、SまたはCONR2によって置き換えられていてもよく、かつ1以上のH原子がD、F、Cl、BrまたはIによって置き換えられていてもよい)、1以上のラジカルR2によって置換されていてもよい、6〜40の炭素原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系、または1以上のラジカルR2によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有するアリールオキシ基、1以上のラジカルR2によって置換されていてもよい、5〜60の芳香族環原子を有するアラルキル基からなる群から選択され、ここで、所望により、2以上の隣接する置換基R1が、単環状もしくは多環状の、脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族環系を互いに形成していてもよく、これは1以上のラジカルR2によって置換されていてもよく、ここでR2は、H、D、F、1〜20の炭素原子を有する脂肪族炭化水素ラジカル、または5〜30のC原子を有する、芳香族もしくはヘテロ芳香族環系からなる群から選択され、2以上の隣接する置換基R2が、単環状もしくは多環状、脂肪族、芳香族またはヘテロ芳香族環系を互いに形成していてもよい。
Xは、互いに同一であるかまたは異なり、CR1またはNであり、ただし、少なくとも1つのXがNである。
Lは、互いに同一であるかまたは異なり、5〜30の芳香族環原子を有する、芳香族またはヘテロ芳香族環系であり、1以上の非芳香族ラジカルR1によって置換されていてもよい。
a、b、cおよびdは、それぞれ、同一であるかまたは異なり、0または1であり、ただし、a、b、cまたはdのうちの少なくとも1つが1である。
eおよびfは、それぞれ、同一であるかまたは異なり、0、1、2または3である。
nは、互いに同一であるかまたは異なり、0または1である。
・・・略・・・
【0026】
式(I)の化合物または好ましい形態が、燐光発光体のためのマトリックス材料として、または燐光発光層に直接隣接する層において、使用される場合に、本化合物のR1、R2、Z1、Z2、Y1、Y2、Ar1およびAr2ならびにLにとって、さらに好ましくは、2を超える6員環が互いに直接縮合する、縮合アリールまたはヘテロアリール基を含まない。しかしながら、1つの例外は、トリフェニレン基であり、これは2より多い6員環を有するが、三重項マトリックス材料として、適切であり、好ましい。一般に、マトリックス材料として、または隣接する層において使用される化合物の三重項エネルギーが、発光層の燐光材料の三重項エネルギーと同一またはそれ以上であることは、有利である。
・・・略・・・
【0054】
以下の例は、式(I)の化合物のいくつかである。
【化23−1】
・・・略・・・

・・・略・・・
【化23−5】
・・・略・・・
【化23−7】
・・・略・・・

・・・略・・・
【化23−12】
・・・略・・・

・・・略・・・
【化23−13】
・・・略・・・
【化23−15】
・・・略・・・

【化23−16】
・・・略・・・

【化23−17】

【0055】
・・・略・・・
【0076】
本発明による化合物および本発明による有機エレクトロルミネッセンス素子は、従来技術に優る1以上の以下の驚くべき利点により区別される。
1.蛍光または燐光発光体のためのマトリックス材料として使用される、本発明による化合物は、長い寿命をもたらす。これは、特に、化合物が燐光発光体のためのマトリックス材料として使用される場合に、あてはまる。
2.本発明による化合物は、ひじょうに高い効率をもたらす。これは、特に、化合物が、燐光発光体のためのマトリックス材料として、または正孔輸送材料として使用される場合に、あてはまる。
3.いくつかの形態において、本発明による化合物は、低電圧素子をもたらす。これは、特に、化合物が、燐光発光体のためのマトリックス材料として、または電子輸送層において、使用される場合にあてはまる。
【0077】
これらの上記の利点は、他の電子的な特性の劣化を伴わない。」

(ウ) 「【0079】
実施例
合成例
・・・略・・・
【0080】
本発明の材料は、一般に、以下の合成スキーム1(注釈:スキーム1において、2または3のXは、Nとなるであろう。2つの窒素が存在するとき、その他のXはCR1であろう。R3は、限定されないが、好ましくは、フルオレン骨格である。いくつかの形態において、フルオレン骨格は、ステップ1または2a/bにおいて加えられていてもよい)に従って、調製されうる。
【化24】
・・・略・・・
【0081】
ステップ1:295g(1.6mol、1.0eq)の2,4,6−トリクロロ−1,3,5−トリアジン[108−77−0]1が、不活性雰囲気下で、4口フラスコ中で、800mlの乾燥THF中に溶解される。溶液は、氷浴で約0℃に冷却され、800ml(1.6mol、1.0eq)の2mol/l塩化フェニルマグネシウム溶液が10℃より低い温度を保ちながらゆっくりと加えられる。そして、混合物は、一晩中室温で撹拌され、反応終了後、800mlのトルエンおよび1.2LのHCl2%が加えられる。有機相は分離され、水で3回抽出され、硫酸ナトリウムで乾燥される。溶媒は、生成物が析出するまで、減圧下で蒸留される。固体をエタノールで洗浄後、242g(1.1mol、67%)の所望の生成物3aが得られる。
【0082】
同様にその他の例も得られる。
・・・略・・・
【化25−2】
・・・略・・・
【0087】
ステップ3b:30g(80mmol、1.0eq)の7a、21g(88mmol、1.1eq)の9,9−ジメチル−9H−フルオレン−4−イル−ボロン酸[1246022−50−3]および17g(160mmol、2.0eq)の炭酸ナトリウムが、不活性雰囲気下で、400mlのトルエン、250mlの水および170mlのエタノールに溶解される。そして、0.93g(0.80mmol、0.01eq)のテトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウムが加えられ、混合物は一晩中110℃で還流される。反応完了後、300mlの水が加えられ、析出固体(36g)はろ過される。有機相は分離され、水で洗浄され、硫酸ナトリウムで乾燥される。溶媒を蒸発させた後、別の5.1gの粗生成物が得られる。合わせた固体はトルエン/へプタンから熱抽出により精製され、トルエン/エプタンから2回再結晶化され、昇華され、20g(38mmol、47%)の所望の生成物9aを得る。
【0088】
他の例も同様に得られる。
【化28−1】

【化28−5】

【0089】
・・・略・・・
【0090】
OLEDの製造
以下の例V1−V7およびE1−E22(表1および2参照)は、さまざまなOLEDからのデータを示す。
【0091】
例V1−V7およびE1−E22の基板の前処理:構造化ITO(50nm、酸化インジウムスズ)を備えるガラス基板が、20nmのPEDOT:PSS(ポリオ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)、Heraeus Precious Metals GmbH(ドイツ)からCLEVIOS(商標名)PVP AI 4083として購入され、水ベースの溶液からスピンコートされる)で被覆され、OLEDが処理される基板を形成する。
【0092】
OLEDは、原則として次の層構造を有する。基板/正孔輸送層(HTL)/所望により中間層(IL)/電子ブロック層(EBL)/発光層(EML)/所望により正孔ブロック相(HBL)(当合議体注:「正孔ブロック相」は、「正孔ブロック層」の誤記である。)/電子輸送層(ETL)/所望により電子注入層(EIL)および最後にカソード。カソードは、厚さ100nmのアルミニウム層により形成される。OLEDの詳細な構造は、表1に示される。OLEDの製造に必要な材料は、表3に示される。
【0093】
すべての材料は、真空チャンバ内で熱的真空蒸着により付される。ここで、発光層は、常に、少なくとも1つのマトリックス材料(ホスト材料)および発光ドーパント(発光体)からなり、発光体はマトリックス材料または一定の体積割合で共蒸着によりマトリックス材料と混合される。ここで、IC1:M1:TEG1(55%:35%:10%)の表示は、層中に、材料IC1が体積比率で55%存在し、M1が35%の体積比率で存在し、かつTEG1が10%の体積比率で存在することを意味する。同様に、電子輸送層は、2つの材料の混合物からなっていてもよい。
【0094】
OLEDは、標準的な方法によって特徴付けられる。この目的のために、エレクトロルミネッセンススペクトル、電流効率(CE1000、1000cd/m2でのcd/Aで測定)、発光効率(LE1000、1000cd/m2でのlm/Wで測定)、外部量子効率(EQE1000、1000cd/m2での%で測定)、および電圧(U1000、1000cd/m2でのVで測定)が、ランベルト発光特性を仮定して、電流/電圧/光束密度特性線(IUL特性線)から決定される。エレクトロルミネッセンス(EL)スペクトルは、光束密度1000cd/m2で測定され、CIE1931xおよびy色座標はELスペクトルから計算される。
【0095】
選択された実験により、寿命は決定される。寿命は、OLEDが一定の電流で駆動しているときに、光束密度が、一定の初期拘束密度L1から、一定の割合で、下がった後の時間で決定される。表2において、初期状態L0;j0=4000cd/m2およびL1=70%では、LT欄がOLEDが初期状態4000cd/m2から2800cd/m2に下がるのに必要とされる時間(h)に対応する寿命を示す。よって、初期状態L0;j0=20mA/cm2、L1=80%の寿命は、20mA/cm2の一定電流で操作されたOLEDが初期光束密度の80%に、下がるのに必要とされる時間である。
【0096】
さまざまなOLEDの素子データが表2にまとめられる。例V1−V7は、最新技術による比較例である。例E1−E22は本発明のOLEDのデータを示す。
【0097】
以下の章において、いくつかの例がより詳細に開示され、本発明のOLEDの利点を示す。
【0098】
燐光OLEDにおける、本発明の化合物の、電子輸送層およびホスト材料としての使用
本発明による化合物の電子輸送層としておよびホスト材料としての使用は、最先端の材料と比較して、特に寿命において、顕著な改良されたOLED素子をもたらす。
【0099】
・・・略・・・
【表1−1】

・・・略・・・
【表1−2】
・・・略・・・

【表2】

【表3−1】

【表3−2】

【表3−4】


イ 先願4発明
(ア) 先願4当初明細書等でいう「本発明」は、「電子素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子、における材料の使用、およびそれらの材料を含んでなる、電子素子、特に有機エレクトロルミネッセンス素子、に関する」(【0001】)ものであり、「本発明の目的」は、「特に燐光発光体のためのマトリックス材料として、正孔ブロック材料として、電子輸送材料として、または所望により電荷発生層のための材料として、OLEDにおける使用に適した化合物を提供すること」、「当業者がOLEDの製造をするための材料のより幅広い選択ができるように、有機エレクトロルミネッセンス素子のためのさらなる有機半導体を提供すること」(【0004】)である。
また、【0011】〜【0017】及び特許請求の範囲の記載によれば、先願4当初明細書等でいう「本発明の化合物」は、「1−、1’−、4−または4’−位の1つ以上の位置において、トリアジニルまたはピリミジニル誘導体の炭素原子に、任意の結合で、結合される、一般的なフルオレン誘導体であ」(【0012】)り、【0013】〜【0017】に記載の「式(1)の化合物」(【0013】【化2】)である。
さらに、【0011】の記載によれば、「本発明の化合物」は、「OLEDにおける使用に高い適性を示し」、「特に、寿命および/または作動電圧も関」し、「有機エレクトロルミネッセンス素子における改良をもたらす」ものである。

(イ) 先願4当初明細書等の【0078】〜【0088】には、「本発明の化合物」の「合成例」として、【0080】の【化24】の「合成スキーム1」の「反応物質5or7」、「反応物質8」及び「生成物9」を、それぞれ、【化28−4】及び【化28−5】に記載の「9x」〜「9ad」欄に記載のものとした「実施例」が記載されている。
また、同【0090】〜【0099】には、「OLEDの製造」において、「OLEDの詳細な構造」を、「表1−OLED層構造および膜厚」(特に、【表1−1】及び【表1−2】の「E13」〜「E22」)「に示される」ものとし、「OLEDの製造に必要な材料」を、「表3−例に使用されるOLED材料の化学構造」(特に、【表3−3】及び【表3−4】の「(9x)」〜「(9ad)」)「に示される」ものとした「実施例」が記載されている。
さらに、同【0098】によれば、「燐光OLEDにおける、本発明の化合物の、電子輸送層およびホスト材料としての使用」により、「最先端の材料と比較して、特に寿命において、顕著な改良されたOLED素子をもたらす」。

(ウ) 先願4当初明細書等の【0002】によれば、先願4当初明細書等における「OLED」は、「有機半導体を機能性材料として使用した有機エレクトロルミネッセンス素子」を意味している。
そうすると、上記ア(ア)〜(ウ)、上記(ア)及び(イ)より、先願4当初明細書等には、「実施例」として、「OLEDの詳細な構造」を、「表1−OLED層構造および膜厚」「に示される」「E20」の構成とし、「OLEDの製造に必要な材料」を「表3−例に使用されるOLED材料の化学構造」に記載の「(9ab)」「に示される」ものとした「特に寿命において、顕著」に「改良された」、「有機半導体を機能性材料として使用した有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明(以下「先願4発明」という。)が記載されているものと認められる。

「 特に寿命において顕著に改良された、有機半導体を機能性材料として使用した有機エレクトロルミネッセンス素子であって、
構造化ITO(50nm、酸化インジウムスズ)を備えるガラス基板が、20nmのPEDOT:PSS(ポリオ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート)で被覆され、有機エレクトロルミネッセンス素子が処理される基板を形成し、
有機エレクトロルミネッセンス素子は、基板/正孔輸送層(HTL)/中間層(IL)/電子ブロック層(EBL)/発光層(EML)/正孔ブロック層(HBL)/電子輸送層(ETL)および最後に厚さ100nmのアルミニウム層により形成されるカソードからなる層構造を有し、
すべての材料は、真空チャンバ内で熱的真空蒸着により付され、発光層は、常に、少なくとも1つのマトリックス材料(ホスト材料)および発光ドーパント(発光体)からなり、発光体はマトリックス材料または一定の体積割合で共蒸着によりマトリックス材料と混合され、
正孔輸送層(HTL)は5nmの下記の材料HATCN、中間層(IL)は、70nmの下記の材料SpA1、電子ブロック層(EBL)は、90nmの下記の材料SpMA1、発光層(EML)は、30nmの下記の材料IC1:下記の材料IC3:下記の材料TEG1(65%:30%:5%)、正孔ブロック層(HBL)は、10nmの下記の9ab、電子輸送層(ETL)は、30nmの下記の材料9ab:下記の材料LiQ(50%:50%)からなる、
有機エレクトロルミネッセンス素子。




(2) 甲5及び引用発明
ア 甲5
本願優先日前の特許出願であって、本願優先日後に出願公開(特開2016−19002号公報)がされた甲5に係る特願2015−136658号(以下「先願5」という。)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面(以下「先願5当初明細書等」という)には、次の記載がある。
(ア) 「【特許請求の範囲】
【請求項1】
第1の化合物を含む、材料の組成物であって、
前記第1の化合物が式Iで表されることを特徴とする組成物。
【化1】

(式中、G1は、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾセレノフェン、及びフルオレンからなる群から選択され;
L1、L2、及びL3は、それぞれ独立して、直接的な結合、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ピリジン、ピリミジン、及びこれらの組合せからなる群から選択され;
G4は、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、フェナントロリン、及びこれらの組合せからなる群から選択され;
G2、G3、及びG5は、それぞれ独立して、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、フルオレン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、フェナントロリン、アザ−フルオレン、及びこれらの組合せからなる群から選択され;
G2、G3、G4、及びG5は、それぞれ、重水素、アルキル、アルコキシル、シクロアルキル、シクロアルコキシル、ハロゲン、ニトロ、ニトリル、シリル、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ピリジン、及びこれらの組合せからなる群から選択される1つ以上の非縮合置換基で更に置換されていてもよく;
mは、0から7までの整数であり;
nは、0から4までの整数であり;
m又はnが1よりも大きいとき、G4又はG5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;
nが0のとき、mは1以上であり、G4はそれぞれフェニル及びビフェニルからなる群から選択され;
nが1以上のとき、L1は、直接的な結合ではなく;
m及びnがいずれも0であるとき、L1は、ビフェニルである。)
・・・略・・・
【請求項3】
第1の化合物が下記からなる群から選択される請求項1に記載の組成物。
【化3】
・・・略・・・
【化6】
・・・略・・・

【化8】
・・・略・・・
【化12】
・・・略・・・



(イ) 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
・・・略・・・
【0003】
本発明は、ホスト、ブロッキング材料、及び電子輸送材料としての使用のための化合物、並びに前記化合物を含む有機発光ダイオード等のデバイスに関する。
【背景技術】
【0004】
・・・略・・・
【0013】
本明細書において使用される場合、当業者には概して理解されるであろう通り、第一の「最高被占分子軌道」(HOMO)又は「最低空分子軌道」(LUMO)エネルギー準位は、第一のエネルギー準位が真空エネルギー準位に近ければ、第二のHOMO又はLUMOエネルギー準位「よりも大きい」又は「よりも高い」。イオン化ポテンシャル(IP)は、真空準位と比べて負のエネルギーとして測定されるため、より高いHOMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有するIP(あまり負でないIP)に相当する。同様に、より高いLUMOエネルギー準位は、より小さい絶対値を有する電子親和力(EA)(あまり負でないEA)に相当する。頂部に真空準位がある従来のエネルギー準位図において、材料のLUMOエネルギー準位は、同じ材料のHOMOエネルギー準位よりも高い。「より高い」HOMO又はLUMOエネルギー準位は、「より低い」HOMO又はLUMOエネルギー準位よりもそのような図の頂部に近いように思われる。
【0014】
本明細書において使用される場合、当業者には概して理解されるであろう通り、第一の仕事関数がより高い絶対値を有するならば、第一の仕事関数は第二の仕事関数「よりも大きい」又は「よりも高い」。仕事関数は概して真空準位と比べて負数として測定されるため、これは「より高い」仕事関数が更に負であることを意味する。頂部に真空準位がある従来のエネルギー準位図において、「より高い」仕事関数は、真空準位から下向きの方向に遠く離れているものとして例証される。故に、HOMO及びLUMOエネルギー準位の定義は、仕事関数とは異なる慣例に準ずる。
・・・略・・・
【発明の概要】
【0016】
1つの実施形態によれば、第1の化合物を含む、材料の組成物が提供される。前記第1の化合物は、下記の式Iの構造で表される。
【化2】

式中、G1は、ジベンゾフラン、ジベンゾチオフェン、ジベンゾセレノフェン、及びフルオレンからなる群から選択され;
L1、L2、及びL3は、それぞれ独立して、直接的な結合、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ピリジン、ピリミジン、及びこれらの組合せからなる群から選択され;
G4は、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、フェナントロリン、及びこれらの組合せからなる群から選択され;
G2、G3、及びG5は、それぞれ独立して、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、フルオレン、ナフタレン、フェナントレン、ピリジン、ピリミジン、ピラジン、キノリン、イソキノリン、フェナントロリン、アザ−フルオレン、及びこれらの組合せからなる群から選択され;
G2、G3、G4、及びG5は、それぞれ、重水素、アルキル、アルコキシル、シクロアルキル、シクロアルコキシル、ハロゲン、ニトロ、ニトリル、シリル、フェニル、ビフェニル、ターフェニル、ピリジン、及びこれらの組合せからなる群から選択される1つ以上の非縮合置換基で更に置換されていてもよく;
mは、0から7までの整数であり;
nは、0から4までの整数であり;
m又はnが1よりも大きいとき、G4又はG5は、それぞれ同一であっても異なっていてもよく;
nが0のとき、mは1以上であり、G4はそれぞれフェニル及びビフェニルからなる群から選択され;
nが1以上のとき、L1は、直接的な結合ではなく;
m及びnがいずれも0であるとき、L1は、ビフェニルである。
・・・略・・・
【0018】
本開示の他の態様によれば、1つ以上の有機発光デバイスを含むデバイスも提供される。前記1つ以上の有機発光デバイスの少なくとも1つは、アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードの間に配置された有機層とを含むことができる。前記有機層は、式I又は式IIIの構造で表される化合物、又は本明細書に記載されるその具体化合物の何れかを含む組成物を含むことができる。
【0019】
本開示の更に他の態様においては、有機発光デバイスを作製する方法が提供される。前記有機発光デバイスは、第1の電極、第2の電極、及び前記第1の電極と前記第2の電極との間に配置された第1の有機層を含み、前記第1の有機層は、第1の化合物と第2の化合物との混合物を含む第1の組成物を含む。
・・・略・・・
【発明を実施するための形態】
【0026】
・・・略・・・
【0029】
図1は、有機発光デバイス100を示す。図は必ずしも一定の縮尺ではない。デバイス100は、基板110、アノード115、正孔注入層120、正孔輸送層125、電子ブロッキング層130、発光層135、正孔ブロッキング層140、電子輸送層145、電子注入層150、保護層155、カソード160、及びバリア層170を含み得る。カソード160は、第一の導電層162及び第二の導電層164を有する複合カソードである。デバイス100は、記述されている層を順に堆積させることによって製作され得る。
・・・略・・・
【0066】
幾つかの実施形態においては、前記第1の化合物は、下記からなる群から選択される。
【化10】
・・・略・・・
【化13】
・・・略・・・

【0067】
・・・略・・・
【0068】
幾つかの実施形態においては、前記第1の化合物は、下記からなる群から選択される。
【化16】
・・・略・・・
【化20】
・・・略・・・

・・・略・・・
【0100】
幾つかの実施形態においては、前記有機層は、ブロッキング層であり、前記組成物は、前記有機層においてブロッキング材料である。幾つかの実施形態においては、前記有機層は、電子輸送層であり、前記組成物は、前記有機層において電子輸送材料である。
【0101】
幾つかの実施形態においては、前記第1のデバイスは、・・・略・・・有機発光デバイス・・・略・・・からなる群から選択される。
・・・略・・・
他の材料との組合せ
【0105】
・・・略・・・
HIL/HTL:
【0106】
本発明の実施形態において使用される正孔注入/輸送材料は特に限定されず、その化合物が正孔注入/輸送材料として典型的に使用されるものである限り、任意の化合物を使用してよい。
・・・略・・・
ホスト:
【0112】
本発明の有機ELデバイスの発光層は、発光材料として少なくとも金属錯体を含むことが好ましく、前記金属錯体をドーパント材料として用いるホスト材料を含んでいてもよい。前記ホスト材料の例は、特に限定されず、ホストの三重項エネルギーがドーパントのものより大きい限り、任意の金属錯体又は有機化合物を使用してよい。
・・・略・・・
HBL:
【0118】
正孔ブロッキング層(HBL)を使用して、発光層から出る正孔及び/又は励起子の数を低減させることができる。デバイスにおけるそのようなブロッキング層の存在は、ブロッキング層を欠く同様のデバイスと比較して大幅に高い効率をもたらし得る。
・・・略・・・
ETL:
【0121】
電子輸送層(ETL)は、電子を輸送することができる材料を含み得る。
・・・略・・・
【0125】
・・・略・・・OLED中で本明細書において開示されている材料と組み合わせて使用され得る材料の非限定的な例を、以下の表Aに収載する。
・・・略・・・



(ウ) 「【実施例】
【0126】
合成例
本明細書で使用されている化学略語は、下記の通りである。
SPhosは、ジシクロヘキシル(2’,6’−ジメトキシ−[1,1’−ビフェニル]−2−イル)ホスフィンである。
Pd2(dba)3は、トリ(ジベンジリデンアセトン)ジパラジウム(0)である。
Pd(PPh3)4は、テトラキス(トリフェニルホスフィン)パラジウム(0)である。
DCMは、ジクロロメタンである。
EtOAcは、酢酸エチルである。
DMEは、ジメトキシエタンである。
THFは、テトラヒドロフランである。
・・・略・・・
化合物A116の合成
・・・略・・・
【0171】
化合物A116の合成
【化76】

【0172】
DME(100ml)、トルエン(100ml)、及び水(50ml)中、2−(3−(ジベンゾ[b,d]チオフェン−4−イル)−5−(9,9−ジメチル−9H−フルオレン−2−イル)フェニル)−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(5.84g、10.09mmol)、2−クロロ−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン(2.70g、10.09mmol)、Pd(PPh3)4(0.233g、0.202mmol)、及びK2CO3(3.49g、25.2mmol)の溶液を窒素下で16時間還流した。室温(約22℃)まで冷却した後、沈殿物を濾過により回収し、その後水、エタノール、及びヘプタンで順に洗浄し、白色固体として化合物A116を得た(5.5g、80%)。
化合物B3の合成
【0173】
化合物B3の合成
【化77】
・・・略・・・
化合物B7の合成
【0181】
化合物B7の合成
【化81】
・・・略・・・
化合物C65の合成
【0199】
化合物C65の合成
【化90】

【0200】
トルエン(90mL)及び水(10mL)中、2−(6−([1,1’−ビフェニル]−4−イル)ジベンゾ[b,d]チオフェン−4−イル)−4,4,5,5−テトラメチル−1,3,2−ジオキサボロラン(3.75g、8.11mmol)、2−クロロ−4,6−ジフェニル−1,3,5−トリアジン(2.61g、9.73mmol)、Pd2(dba)3(0.149g、0.162mmol)、SPhos(0.266g、0.649mmol)、及びリン酸カリウム水和物(3.74g、16.22mmol)の混合溶液を窒素下で一晩(約12時間)還流した。完了すると、トルエンを蒸発させ、混合物をジクロロメタン(完全に可溶性ではない)で抽出し、食塩水及び水で洗浄した。有機相を合わせて、Na2SO4で乾燥し、減圧下で濃縮した。粗材料をエタノール、その後トルエンで順に粉砕し、淡黄色の固体として化合物C65を得た(3.0g、65%)。
・・・略・・・
デバイス実施例
【0271】
OLEDにおける応用
デバイスはいずれも、高真空下(約10−7Torr)における熱蒸着で作製した。アノード電極は、80nmの酸化インジウムスズ(ITO)である。カソード電極は、1nmのLiFと、100nmのAlとからなった。デバイスはいずれも、作製後すぐに、窒素グローブボックス(H2O及びO2は、<1ppm)中で、エポキシ樹脂で封止したガラス製の蓋で封入し、水分ゲッターをパッケージに入れた。
【0272】
デバイス実施例−セット1
デバイス実施例の第1のセットは、ITO表面から順に、正孔注入層(HIL)として10nmのLG101(LG Chemから)、正孔輸送層(HTL)として45nmの4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノビフェニル(NPD)、発光層(EML)として、30nmの化合物E8と20重量%の本願発明化合物(化合物C65)又は比較化合物(CC−1)、及び10重量%の発光体GDとからなる有機積層体を有する。前記EMLの上に、正孔ブロッキング層(HBL)として、50nmの化合物C65又はCC−1、電子輸送層(ETL)として、40nmのトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)を堆積した。使用された化合物の構造は、下記に示される。
【化126】

・・・略・・・
【0274】
デバイス実施例−セット2
デバイス実施例の第2のセットは、15%のGDでドープした本願発明化合物C101又は比較化合物CC−2を2成分EMLとして用いた以外は、デバイス実施例1と同様の構造を有する。使用される本願発明化合物及び比較化合物の化学構造は、下記に示される。
【化127】
・・・略・・・
【0278】
下記表D3は、デバイス実施例3において、1,000ニトで記録された相対的なデバイスデータのまとめである。デバイス寿命LT95は、1,000ニトの初期輝度に対してデバイスが一定の電流密度で初期輝度の95%まで低減するのにかかる時間として定義され、1.8の加速係数で、50mA/cm2の電流密度で測定された値から算出され、デバイスC−3の値を基準とする。
【表D3】

【0279】
表D3におけるデータは、E8とのコホストとして、及びEBLとして使用することで、ジベンゾチオフェン又はブリッジングフェニル(bridging phenyl)における置換を有する本願発明化合物が、これらの置換を有さない比較化合物よりも長い寿命を表すことを示す。
【0280】
デバイス実施例−セット4
デバイスの第4のセットは、デバイス実施例2におけるセットと同様の構造を有する。使用される本願発明化合物及び比較化合物の化学構造は、下記に示される。
【化129】

・・・略・・・
【化131】
・・・略・・・
【0281】
下記表D4は、デバイス実施例4において、1,000ニトで記録された相対的なデバイスデータのまとめである。デバイス寿命LT95は、デバイスC−4の値を基準とする。
【表D4】

・・・略・・・
【0282】
表D4におけるデータは、ホスト及びHBLとして本願発明化合物を用いたOLEDデバイスが比較化合物を用いたOLEDデバイスよりも長い寿命を有することを示す。
・・・略・・・
【0286】
表D1〜D5におけるデバイスデータは、OLED中のホスト又はコホスト、及びEBLとして用いられる場合、独特の化学構造を有する本願発明化合物は、比較化合物よりも優れていることを示す。OLEDデバイス性能は、材料の化学構造に起因する材料特性に高く依存することは、よく認められる。」

(エ) 「【図1】



イ 先願5発明
(ア) 先願5当初明細書等でいう発明は、【0003】の記載によれば、「ホスト、ブロッキング材料、及び電子輸送材料としての使用のための化合物、並びに前記化合物を含む有機発光ダイオード等のデバイスに関する」ものであり、当該発明の概要は、【0016】及び【0018】の記載によれば、【0016】(あるいは特許請求の範囲の請求項1)に記載の「式I」で表される「第1の化合物を含む」「材料の組成物」を提供すること、及び、「アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードの間に配置された有機層とを含」み、「前記有機層は、式I」「の構造で表される化合物」「を含む」「有機発光デバイス」を提供することであるところ、【0271】〜【0273】、【0274】〜【0276】及び【0280】〜【0282】には、先願5当初明細書等でいう発明の「OLED」「デバイス」の【実施例】として、「デバイス実施例−セット1」、「15%のGDでドープした本願発明化合物C101又は比較化合物CC−2を2成分EMLとして用いた以外は、デバイス実施例1と同様の構造を有する」「デバイス実施例−セット2」、及び、「デバイス実施例2におけるセットと同様の構造を有する」「デバイス実施例−セット4」が、それぞれ「使用される本願発明化合物及び比較化合物の化学構造」とともに記載されている。
ここで、「デバイス実施例−セット1」における「LG Chemから」入手される「LG101」は、【0125】に「正孔注入材料」として例示され、ヘキサシアノヘキサアザトリフェニレンあるいはHAT−CNとしてよく知られるものであることは技術常識である。
例えば、特表2021−504373号公報の【0158】【化34】中の化合物及び商品名を参照。

(イ) 先願5当初明細書等の【0278】及び【0281】【表D4】〜【0282】の記載によれば、「デバイス実施例−セット4」の「デバイス15」は、「1,000ニトの初期輝度に対してデバイスが一定の電流密度で初期輝度の95%まで低減するのにかかる時間として定義され、1.8の加速係数で、50mA/cm2の電流密度で測定された値から算出され」る「デバイスC−4」「の値を基準」「100」「とする」「LT95」が「1136」であって、「長い寿命を有する」ことが理解できる。また、【0280】〜【0281】の記載から、「デバイスC−4」は、「デバイス15」の「OLED」「デバイス」において、「化合物B3」に替えて「CC−4」を使用したものであると理解できる。
ここで、「LT95」の定義における「1,000ニトの初期輝度」の「ニト」は、「nit」をカタカナ表記したものであって、単位として「cd/m2」を意味するものであり、以下、「ニト」を「ニト(cd/m2)」と表記する。

(ウ) 上記ア(ア)〜(エ)と、上記(ア)及び(イ)より、先願5当初明細書等には、「デバイスの第4のセット」において、「本願発明化合物」として、「化合物3」を使用した、以下の「OLEDデバイス」の発明(以下「先願5発明」という。)が記載されているものと認められる。
「 アノード電極を、80nmの酸化インジウムスズ(ITO)、カソード電極を、1nmのLiFと100nmのAlとした、OLEDデバイスであって、
ITO表面から順に、正孔注入層(HIL)として10nmのLG101(LG Chemから)、正孔輸送層(HTL)として45nmの下記の4,4’−ビス[N−(1−ナフチル)−N−フェニルアミノビフェニル(NPD)、30nmの15%の下記のGDでドープした下記の化合物B3からなる発光層(EML)を有し、前記発光層(EML)の上に、正孔ブロッキング層(HBL)として、50nmの下記の化合物B3、電子輸送層(ETL)として、40nmの下記のトリス(8−ヒドロキシキノリナト)アルミニウム(Alq3)を堆積して作製され、
化合物B3に替えて下記のCC−4を使用したOLEDデバイスにおいて、1,000ニト(cd/m2)の初期輝度に対してデバイスが一定の電流密度で初期輝度の95%まで低減するのにかかる時間として定義され、1.8の加速係数で、50mA/cm2の電流密度で測定された値から算出される、値を基準100とするLT95が1136であって、長い寿命を有する、
OLEDデバイス。



(3) 先願4に基づく拡大先願(29条の2)(申立理由5)について
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
a 「陽極」及び「陰極」
(a) 先願4発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」の製造工程及び構造は、上記(1)イ(ウ)に記載されたとおりである。
先願4発明の製造工程及び構造から、先願4発明は、「20nm」の「PEDOT:PSS(ポリオ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート))で被覆され」た「50nm」の「構造化ITO」(「酸化インジウムスズ」)の上に、[A]「5nm」の「材料HATCN」からなる「正孔輸送層(HTL)」、[B]「70nm」の「材料SpA1」からなる「中間層(IL)」、[C]「90nm」の「材料SpMA1」からなる「電子ブロック層(EBL)」、[D]「30nm」の「材料IC1」:「材料IC3」:「材料TEG1(65%:30%:5%)」からなる「発光層(EML)」、[E]「10nm」の「材料9ab」からなる「正孔ブロック層(HBL)」、[F]「30nm」の「材料9ab」:「材料LiQ(50%:50%)からなる」「電子輸送層(ETL)」が、[A]〜[F]の順で積層した積層構造(以下「先願4積層構造」という。)を、「20nm」の「PEDOT:PSS(ポリオ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート))で被覆され」た「50nm」の「構造化ITO」と「厚さ100nmのアルミニウム層により形成されるカソード」との間に有する、と理解できる。

(b) 先願4発明の構造からみて、先願4発明の「厚さ100nmのアルミニウム層により形成されるカソード」は、本件特許発明1の「陰極」に相当する。
また、先願4発明の「PEDOT:PSS(ポリオ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート))」は、導電性ポリマーであることは技術常識である。そうすると、先願4発明の「20nm」の「PEDOT:PSS(ポリオ(3,4−エチレンジオキシチオフェン)ポリ(スチレンスルホネート))で被覆され」た「50nm」の「構造化ITO」は、本件特許発明1の「陰極」に相当する。

b 「有機物層」及び「化1で示される化合物」
(a) 先願4発明の「先願4積層構造」の各層を構成する、「HATCN」、「SpA1」、「SpMA1」、「IC1」、「IC3」、「TEG1」、「9ab」及び「LiQ」の各構造式からみて、「先願4積層構造」は、有機物層ということができる。
そうすると、上記aより、先願4発明の「先願4積層構造」は、本件特許発明1の「有機物層」に相当する。

(b) 先願4発明の「先願4積層構造」の[E]「正孔ブロック層(HBL)」及び[F]「電子輸送層(ETL)」を構成する「材料9ab」は、本件特許発明1の「化1で示される化合物」において、
「c及びeは」、「それぞれ」、「4」「であり」、
「dは」、「3」「であり」、
「m及びnは、それぞれ、1」「であり」、
「Ra及びRbは、互いに同一」であり、「それぞれ独立に」、「C6」「のアリール基」であり、
「R1〜R3は、互いに同一」であり「それぞれ独立に」、4つの「R1」は「水素」、3つの「R2」は「水素」、4つの「R3」は「水素」であり、
「Lは、単結合」であり、
「Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、「Z1」「はN」「であり」、「Z2」「はC(R4)であり」、「Z3」「はN」「であり」、「Z4」「はC(R4)であり」、「Z5」「はN」「であり」、「この時、少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一又は異なり」、
前記「Z2」及び「Z4」の「前記R4」は、それぞれ「C6」「のアリール基」及び「C12」「のアリール基」であり、
前記「Z4」の前記「R4」の「C6」「のアリール基」は、「C6」「のアリール基」を「置換基」として「置換」され、たものとした場合に該当するといえる。
そうすると、上記aと上記(a)より、先願4発明は、本件特許発明1の「有機物層は、下記化1で示される化合物を含み」、「【化1】要件」との要件を具備する。

c 「有機電界発光素子」
先願4発明は、「有機エレクトロルミネッセンス素子」であるから、有機電界発光型の素子ということができる。
上記a及びbより、先願4発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件特許発明1における「有機電界発光素子」に相当する。
また、上記aとbより、先願4発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」の、「陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み」との要件を具備する。

(イ) 一致点及び相違点
a 一致点
本件特許発明1と先願4発明は、以下の構成で一致する。
「 陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含む、有機電界発光素子。
【化1】要件」
(当合議体注:【化1】及びその置換基に関する記載を「【化1】要件」と略記している。)

b 相違点
本件特許発明1と先願4発明とは以下の点で相違する。
(相違点4−1)
「下記化1で示される化合物」が、本件特許発明1は、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」のに対し、先願4発明は、「材料9ab」が上述のものとなっているかどうか不明な点。

(ウ) 判断
相違点4−1について検討する。
a 先願4発明が解決しようとする課題は、上記(1)イ(ア)で述べたとおりであるところ、先願4発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」は、[E]「正孔ブロック層(HBL)」及び[F]「電子輸送層(ETL)」に、「材料9ab」を含み、「特に寿命において顕著に改良された」ものである。
しかしながら、先願4発明の「材料9ab」が、上記の化学構造を有し、かつ、先願4発明の「有機エレクトロルミネッセンス素子」が、「特に寿命において顕著に改良された」ものとなるからといって、上記「材料9ab」のイオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値及びHOMO値とLUMO値との差、あるいは、一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差について、特定の値、上限値あるいは下限値が導かれるわけではない。
してみると、先願4発明の「材料9ab」が、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」蓋然性が高いということはできない。
また、相違点4−1に係る本件特許発明1のイオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値及びHOMO値とLUMO値との差、あるいは、一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差に係る構成が、周知の事項あるいは技術常識であるともいえない。
してみると、上記相違点4−1に係る本件特許発明1の構成は、課題解決のための具体化手段における微差であるということもできない。

b 特許異議申立人の主張について
(a) 特許異議申立人は、特許異議申立書「(4−5)申立理由5(特許法第29条の2)について」「(4−5−1)甲4について」において、「本件特許の出願の日前の出願であって、本件特許の出願後に出願公開された甲4の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、有機物層は、陽極に連続的に配置された発光層、及びホールブロック層(寿命改善層)、電子輸送層を含み、正孔ブロック層は本件特許発明1に記載された化1で示される化合物を含む有機電界発光素子の発明が記載されている(段落[0054]化合物(26)、(60)、(109)、(237)〜(245)、(247)、(248)、(252)〜(254)、(257)〜(275)、段落[0059]、[0060]、[0099]E15、E18、E19参照)。」、「してみれば、本件特許発明1〜14は、甲4の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は屈面に記載された発明と同一又は実質同一である。」と主張する。

(b) しかしながら、実施例E15、E18あるいはE19の記載に基づき把握される、「特に寿命において顕著に改良された、有機半導体を機能性材料として使用した有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明における「材料9u」、「材料9y」あるいは「9aa」が、「本件特許発明1に記載された化1で示される化合物」に含まれるからといって、これら材料の「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」蓋然性が高いということはできない。
あるいは、仮に、【0054】に例示された化合物(26)、(60)、(109)、(237)〜(245)、(247)、(248)、(252)〜(254)、(257)〜(275)及び【0059】〜【0060】等の一般記載に基づき、「燐光または蛍光発光体、特に燐光発光体として、および/または電子ブロックもしくは励起子ブロック層においておよび/または電荷発生層においておよび/または正孔ブロックまたは電子輸送層において」、化合物(26)、(60)、(109)、(237)〜(245)、(247)、(248)、(252)〜(254)、(257)〜(275)のいずれかの材料を含む有機エレクトロルミネッセンス素子の発明を把握できたとしても、これらの材料が、「本件特許発明1に記載された化1で示される化合物」に含まれるからといって、これらの材料の「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」蓋然性が高いとはいえない。
してみれば、特許異議申立人の上記(a)の主張には理由がなく、これを採用することはできない。

(エ) 上記(ア)〜(ウ)においては、実施例E20(「材料9ab」)に基づき、先願4発明を認定し、対比、判断を行ったが、これに替えて、先願4当初明細書等に記載の実施例E13(「材料9x」)、E14(「材料9z」)、E16(「材料9v」)、E17(「材料9w」)、E21(「9ac」)あるいはE22(「9ad」)の記載に基づき把握される、「特に寿命において顕著に改良された、有機半導体を機能性材料として使用した有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明を引用発明とし、対比、判断を行っても同様である。
あるいは、仮に、【0054】に例示の化合物(13)、(46)、(165)、(173)、(174)、(181)、(198)〜(201)、(249)〜(251)及び【0059】〜【0060】の一般記載に基づき、「燐光または蛍光発光体、特に燐光発光体として、および/または電子ブロックもしくは励起子ブロック層においておよび/または電荷発生層においておよび/または正孔ブロックまたは電子輸送層において」、化合物(13)、(46)、(165)、(173)、(174)、(181)、(198)〜(201)、(249)〜(251)のいずれかの材料を含む「有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明を把握できたとして、これら「有機エレクトロルミネッセンス素子」の発明を引用発明とし、対比、判断を行っても同様である。

(オ)小括
本件特許発明1は、本願優先日前の特許出願であって、本願優先日後に出願公開がされた甲4に係る特願2018−504890号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質的同一であるということはできない。

イ 本件特許発明2〜14について
本件特許発明2〜14は、本件特許発明1の構成をすべて具備するもの(あるいは、本件特許発明9〜14においては、「化1で示される化合物」を特定の構造式のものに限定するもの)であるところ、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜14は、本願優先日前の特許出願であって、本願優先日後に出願公開がされた甲4に係る特願2018−504890号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質的同一であるということはできない。

(4) 先願5に基づく拡大先願(29条の2)(申立理由5)について
ア 本件特許発明1について
(ア) 対比
a 「陽極」、「陰極」
(a) 先願5発明の「OLEDデバイス」の製造工程は、上記(2)イ(ウ)に記載されたとおりである。
先願5発明の「OLEDデバイス」の製造工程から、先願5発明は、「80nmの酸化インジウムスズ(ITO)」からなる「アノード電極」の上に、[A]「10nm」の「LG101」からなる「正孔注入層」、[B]「45nm」の「NPD」からなる「正孔輸送層」、[C]「30nm」の「GD」と「化合物B3」と「からなる発光層」、[D]「50nm」の「化合物B3」からなる「正孔ブロッキング層」、「40nm」の「Alq3」からなる「電子輸送層」が、[A]〜[D]の順で積層した積層構造(以下「先願5積層構造」という。)を、「アノード電極」と「1nmのLiFと100nmのAlと」からなる「カソード電極」との間に有する、と理解できる。

(b) 先願5発明の「80nmの酸化インジウムスズ(ITO)」からなる「アノード電極」及び「1nmのLiFと100nmのAlと」からなる「カソード電極」は、「アノード」及び「カソード」の意味内容からみて、それぞれ本件特許発明1の「陽極」及び「陰極」に相当する。

b 「有機物層」、「化1で示される化合物」
(a) 先願5発明の「先願5積層構造」の各層を構成する「LG101」、「NPD」、「GD」、「化合物B3」及び「Alq3」を表す各式からみて、「先願5積層構造」は、有機物層ということができる。

(b) 先願5発明の「先願5積層構造」の[C]「発光層」及び[D]「正孔ブロッキング層」を構成する「化合物B3」は、
本件特許発明1の「化1で示される化合物」において、
「c及びeは」、「それぞれ」、「4」「であり」、
「dは」、「3」「であり」、
「m及びnは、それぞれ、1」「であり」、
「Ra及びRbは、互いに同一」であり、「それぞれ独立に、C1」「のアルキル基」とし、
「R1〜R3は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、4つの「R1」は「水素」、3つの「R2」は「水素」、4つの「R3」の3つは「水素」、1つは「C12」「のアリール基」であり、
「Lは、単結合」であり、
「Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に」、「Z1」「はN」「であり」、「Z2」「はC(R4)であり」、「Z3」「はN」「であり」、「Z4」「はC(R4)であり」、「Z5」「はN」「であり」、「この時、少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一」であり、
前記「Z2」及び「Z4」の「前記R4」は、「C6」「のアリール基」であり、
「前記」「R3」の「アリール基」は、「C6」「のアリール基」を「置換基」として「置換」され、たものとした場合に該当するといえる。
そうすると、上記aと上記(a)より、先願5発明は、本件特許発明1の「前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含み」、「【化1】要件」との要件を具備する。

c 「有機電界発光素子」
先願5発明の「OLEDデバイス」における「OLED」(「Organic Light Emitting Diode」)の意味からみて、先願5発明の「OLEDデバイス」は、電界発光型の素子である。
そうすると、上記aとbより、先願5発明の「OLEDデバイス」は、本件特許発明1における「有機電界発光素子」に相当する。
また、上記aとbより、先願5発明の「OLED素子」は、本件特許発明1の「有機電界発光素子」の、「陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み」との要件を具備する。

(イ) 一致点及び相違点
a 一致点
本件特許発明1と先願5発明は、以下の構成で一致する。
「 陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含む、有機電界発光素子。
【化1】要件」
(当合議体注:【化1】及びその置換基に関する記載を「【化1】要件」と略記している。)

b 相違点
本件特許発明1と先願5発明とは以下の点で相違する。
(相違点5−1)
「下記化1で示される化合物」が、本件特許発明1は、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」のに対し、先願5発明は、上述のものとなっているかどうか不明な点。

(ウ) 判断
相違点5−1について検討する。
a 先願5発明の「OLEDデバイス」は、[C]「発光層」と[D]「正孔ブロッキング層」に「化合物B3」を含み、「長い寿命を有する」ものである。
しかしながら、先願5発明の「化合物B3」が、上記構造を有し、かつ、先願5発明の「OLEDデバイス」が、「長い寿命を有する」ものであるからといって、上記「化合物B3」のイオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値及びHOMO値とLUMO値との差、あるいはが、一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差について、特定の値、上限値あるいは下限値が導かれるわけではない。

してみると、先願5発明の「化合物B3」が、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」蓋然性が高い、ということはできない。
また、相違点5−1に係る本件特許発明1のイオン化ポテンシャルや、HOMO値、LUMO値及びHOMO値とLUMO値との差、あるいは、一重項エネルギー、三重項エネルギー及び一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差に係る構成が、周知の事項あるいは技術常識であるともいえない。
してみると、上記相違点5−1に係る本件特許発明1の構成は、課題解決のための具体化手段における微差ともいうこともできない。

b 特許異議申立人の主張について
(a) 特許異議申立人は、特許異議申立書「(4−5)申立理由5(特許法第29条の2)について」「(4−5−2)甲5について」において、「本件特許の出願の日前の出願であって、本件特許の出願後に出願公開された甲5の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面には、陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、有機物層は、陽極に連続的に配置された発光層、及び正孔プロッキング層(寿命改善層)、電子輸送層を含み、正孔ブロッキング層は本件特許発明1に記載された化1で示される化合物を含む、有機電界発光素子の発明が記載されている(段落[0068]、[0100]、[0278]参照)。」、「してみれば、本件特許発明1〜4及び6〜14は、甲5の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質同一である。」と主張する。

(b) しかしながら、【0278】【表D3】に示される「LT95」が「529」を示す「デバイス4」の発光層(EML)、正孔ブロッキング層(HBL)に含まれる「化合物A116」(【0277】【0128】)が、「本件特許発明1に記載された化1で示される化合物」に含まれるからといって、「化合物A116」の「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」蓋然性が高いとはいえない。
さらに、仮に、請求項1〜3、【発明の概要】【0016】〜【0019】(特に、【0018】)、【0029】、【0066】、【0068】【化20】(特に、「化合物C145〜C147」、「化合物C157〜C159」)及び図1の記載から、「アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードの間に配置された有機層とを含む」「有機発光デバイス」であって、「前記有機層は」、「化合物C145〜C147」(のいずれか)、あるいは、「化合物C157〜C159」(のいずれか)「を含む」「有機発光デバイス」の発明が把握できるとしても、「化合物C145〜C147」あるいは「化合物C157〜C159」が、「本件特許発明1に記載された化1で示される化合物」に含まれるからといって、「化合物C145〜C147」あるいは「化合物C157〜C159」の「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」蓋然性が高いとはいえない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人の上記(a)の主張には理由がなく、これを採用することはできない。

(エ) 上記(ア)〜(ウ)においては、「デバイスの第4のセット」において、「本願発明化合物」として、「化合物3」を使用した「OLEDデバイス」の発明に基づき、引用発明を認定し、対比、判断を行ったが、これに替えて、先願5当初明細書等の【0280】、【0281】【表D4】に記載の、発光層、正孔ブロッキング層に「化合物B7」を含む「デバイス16」の発明、あるいは、請求項1〜3、【発明の概要】【0016】〜【0019】(特に、【0018】)、【0029】、【0066】、【0066】【化6】の記載から理解される、「アノードと、カソードと、前記アノードと前記カソードの間に配置された有機層とを含む」「有機発光デバイス」であって、「前記有機層は」、「化合物B1」、「化合物B4」〜「化合物B6」あるいは「化合物B8」のいずれかを含む「有機発光デバイス」の発明を、先願5当初明細書等に記載された発明として、対比、判断を行っても同様である。

(オ)小括
本件特許発明1は、本願優先日前の特許出願であって、本願優先日後に出願公開がされた甲5に係る特願2015−136658号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質的同一であるということはできない。

イ 本件特許発明2〜4、6〜14について
本件特許発明2〜4、6〜14、本件特許発明1の構成をすべて具備するもの(あるいは、「化1で示される化合物」を特定の構造のものに限定するもの)であるから、本件特許発明1と同じ理由により、本件特許発明2〜4、6〜14は、本願優先日前の特許出願であって、本願優先日後に出願公開がされた甲5に係る特願2015−136658号の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一又は実質的同一であるということはできない。

4 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)(申立理由6)についての判断
(1) 特許異議申立人の主張
ア 特許異議申立人は、特許異議申立書の「(4−6)申立理由6(特許法第36条第6項第1号)について」「(4−6−1)」において、「本件特許発明1における「化1で示される化合物」は無数に存在する。しかしながら、具体的に、本件特許発明1の課題を解決できることを実証しているものは、化1で示される化合物として「LE−01」〜「LE−12」を用いた12個の実施例が示されているに過ぎない。」、「よって、本件特許明細書が、無数に存在する化1で示される化合物の中から化合物から適切に選択して、本件特許発明1が解決しようとする課題を解決することを示しているとは言えない。」と主張する(以下「特許異議申立人主張1」という。)。

イ 特許異議申立人は、同「(4−6−2)」において、「「化1で示される化合物」として「LE−08」を用いた実施例8は寿命が35(hr,T97)で、比較例1の寿命(32(hr,T97))とほぼ同等であり、寿命特性に優れる有機電解発光素子を得るという課題を達成できていない。」、「そうすると、本件特許発明1は、寿命特性に優れる有機電界発光素子を得るという課題を達成できていないものも含んでいることとなるので、当業者が出願時の技術常識に照らして発明の詳細な説明の記載により本件特許発明1の課題を解決できると認識できる範囲を超えるものである。」と主張する(以下「特許異議申立人主張2」という。)。

ウ 特許異議申立人は、同「(4−6−3)」において、「本件特許発明1が解決しようとする課題は、駆動電圧、発光効率及び寿命特性に優れた有機電解発光素子を提供することである。」、「本件特許発明1における化1で示される化合物がどのようなメカニズムでイオン化ポテンシャルが5.5eV以上を満たすようになっているかについては開示も示唆もされておらず、また、比較例2で用いられた化合物BCPのイオン化ポテンシャルが5.5eV以上であるか否かが全く示されていない。」、「よって、本件特許明細書が、無数に存在する化1で示される化合物の中からイオン化ポテンシャルが5.5eV以上である化合物から適切に選択して、本件特許発明1が解決しようとする課題を解決することを示しているとは言えない。」と主張する(以下「特許異議申立人主張3」という。)。

エ 特許異議申立人は、同「(4−6−4)」において、「異議申立人は、上記(4−2)〜(4−4) における「甲1〜甲3に記載された化合物は、本件特許発明における「化1で示される化合物」と同じ構造式の化合物を多数含むものであり、本件特許発明1における「化1で示される化合物」と実質的に同じものであるから、本件特許発明におけるパラメータ(HOMO値とLUMO値との差、三重項エネルギー、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差)に関する規定を満たす蓋然性が高い。」との主張(以下、「異議申立人主張」とする)が妥当であると信じているが、万が一、この異議申立人主張が認められないと仮定した場合において、以下のように考える。」、「本件特許明細書の段落0030には、「両極性化合物は、電子吸引性の大きな電子吸引基(EWG)と、電子供与性の大きな電子供与基(EDG)との両方を有しているため、HOMOとLUMOの電子雲が分離されるという特徴を有する。これによって、化合物の三重項エネルギーと一重項エネルギーとの差(ΔEst)が0.7eV未満と少ないため、HOMO値とLUMO値との差(EHOMO−ELUMO)が3.0eVを超過しても、高い三重項エネルギー(T1)を有することができる」と記載されている。また、本件特許明組書の段落0035には、「前記両極性物質は、電子供与基(EDG)であるフルオレンモイエティと、電子吸引基(EWG)である6員ヘテロ環とが、リンカー基(例えば、フェニレン、ビフェニレン又はターフェニレン)により結合されて基本骨格を形成することが好ましい。なお、両極性化合物としては、例えば、前記化1で示される化合物であることができる。」と記載されている。これらの記載から、電子吸引性の大きな電子吸引基(6員ヘテロ環)と、電子供与性の大きな電子供与基(フルオレンモイエティ)との両方を有する両極性化合物を選択することにより、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満であることを可能としていることが分かる。」、「ここで、万が一、上記異議申立人主張が認められないと仮定した場合、本件特許発明における「化1で示される化合物」は、本件特許明細書の段落0030及び段落0035に記載された内容を満たしているにもかかわらず、本件特許発明におけるパラメータ(HOMO値とLUMO値との差、三重項エネルギー、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差)に関する規定を満たないこととなり、上記本件特許明細書の段落0030及び段落0035に記載の妥当性が疑われることとなる。」と主張する(以下「特許異議申立人主張4」という。)

(2) サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号に記載する要件(いわゆる、サポート要件)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認定できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものと解される。
これを本件特許発明についてみると以下のとおりとなる。

(3) 本件特許発明1について
本件特許発明1〜14は、上記「第2 本件特許発明」に記載のとおりのものであるところ、本件特許発明1は、「陽極と陰極との間に介在した有機物層」が「化1で示される化合物を含み」(当合議体中:「化1」については、「第2」参照。)、「前記化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」との発明特定事項を具備する。

(4) 本件特許明細書の記載
本件特許明細書には、以下の記載がある。
ア 「【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、有機物層を含む有機電界発光素子に関する。
・・・略・・・
【0007】
一方、有機電界発光素子の特性を向上させるため、正孔の電子伝達層への拡散を防止して素子の安定性を向上させるための研究結果が報告されている。発光層と電子伝達層との間にBCPやBPhenなどの材料を使用することで正孔の電子伝達層への拡散を防止し、また、発光層内に制限させることで正孔と電子との再結合率を高める技術が提示されている。しかし、BCPやBPhenなどの誘導体は、正孔に対する酸化安定性に劣り、耐熱性が低いため、結果的に、有機電界発光素子の寿命が短くなり、商品化に至っていない。また、このような材料は、電子の移動を阻害し、有機電界発光素子の駆動電圧が上昇する。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
上述の問題点を解決するため、本発明の目的は、駆動電圧、発光効率及び寿命特性に優れた有機電界発光素子を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上述の目的を達成するため、本発明は、陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含むものである有機電界発光素子を提供する。
【化1】

式中、
Ra及びRbは、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、C1〜C40のアルキル基及びC6〜C60のアリール基からなる群から選択され、又は、互いに結合して縮合環を形成し、
R1〜R3は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜 C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
Lは、単結合、又は、C6〜C18のアリーレン基及び核原子数5〜18のヘテロアリーレン基からなる群から選択され、
Z1〜Z5は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、N又はC(R4)であり、この時、少なくとも1つは、Nであり、前記C(R4)が複数個である場合、複数のC(R4)は、互いに同一又は異なり、
c及びeは、それぞれ、0〜4の整数であり、
dは、0〜3の整数であり、
m及びnは、それぞれ、1〜3の整数であり、
前記R4は、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
前記Ra、Rbのアルキル基、アリール基と、前記R1〜R4のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルシリル基、アリールシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、アリールアミン基と、前記Lのアリーレン基、ヘテロアリーレン基とは、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換又は非置換であり、前記置換基が複数個である場合、複数の置換基は、互いに同一又は異なる。
【0010】
このような化1で示される化合物は、前記有機物層のうちの寿命改善層に 含まれることができる。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、特定の物性を有する化合物からなる寿命改善層、電子輸送層又は電子注入層を有機電界発光素子に導入することで、駆動電圧、発光効率及び寿命特性に優れた有機電界発光素子を提供することが可能である。」

イ 「【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明について詳述する。
【0015】
本発明の一例では、陽極、陰極、及び前記陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、前記有機物層は、下記化1で示される化合物を含むものである有機電界発光素子を提供する。
【化2】
・・・略・・・
【0016】
・・・略・・・本発明の一例によれば、有機電界発光素子は、陽極100、陰極200、及び前記陽極と陰極との間に介在した有機物層300を含む。
・・・略・・・
【0019】
・・・略・・・有機物層300は、好ましくは、正孔注入層301、正孔輸送層302、発光層303、寿命改善層304、電子輸送層305及び電子注入層306からなる群から選択される1種以上を含む。
・・・略・・・
【0025】
寿命改善層304は、有機電界発光素子の寿命を向上させるためのもので、発光層303と電子輸送層305との間に設けられる。寿命改善層304をなす物質としては、特に限定されないが、電子吸引性の大きな電子吸引基(EWG)と電子供与性の大きな電子供与基(EDG)の両方を有する両極性(bipolar)を示す化合物であることが好ましい。特に、寿命改善層304をなす物質としては、前記化1で示される化合物であることがさらに好ましい。
【0026】
具体的に、前記両極性化合物は、イオン化ポテンシャル・・・略・・・が5.5eV以上であることが好ましく、5.5〜7.0eVであることがさらに好ましく、5.6〜6.6eVであることが最も好ましい。また、前記両極性化合物は、HOMO値とLUMO値との差(EHOMO−ELUMO)が3.0eV超であることが好ましく、2.8〜3.8eVであることがより好ましい。また、前記両極性化合物は、三重項エネルギーが2.3eV以上であることが好ましく、2.3〜3.5eVであることがさらに好ましく、2.3〜3.0eVであることが最も好ましい。前記両極性化合物は、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が0.7eV未満であることが好ましく、0.01〜0.7eVであることがさらに好ましい。イオン化ポテンシャル5.5eV 以上の化合物を寿命改善層304に使用する場合、正孔の電子輸送層305への拡散又は移動を防止することができるため、有機電界発光素子の寿命が向上される。
【0027】
一般に、正孔は、有機電界発光素子内においてイオン化ポテンシャルのレベルに従って移動するが、正孔が発光層303を超えて電子輸送層305に拡散又は移動する場合、酸化による非可逆的分解反応が起こって有機電界発光素子の寿命が低下するようになる。しかし、本発明の一例では、イオン化ポテンシャル5 .5eV以上の両極性化合物からなる寿命改善層304によって正孔の電子輸送層305への拡散又は移動が防止されるため、有機電界発光素子の寿命特性を改善することができる。即ち、正孔は、寿命改善層304の高いエネルギー障壁に阻まれて電子輸送層305に拡散又は移動することなく発光層303に留まるようになる。
【0028】
発光層303が赤色燐光物質で形成される場合は、前記寿命改善層304に含まれる両極性化合物のイオン化ポテンシャルが5.5eV以上であれば良く、緑色燐光物質又は青色燐光物質で形成される場合は、両極性化合物のイオン化ポテンシャルが6.0eV以上であることが好ましい。
【0029】
一方、前記両極性化合物は、HOMO値とLUMO値との差(EHOMO−ELUMO)が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、7.0eV未満(当合議体中:「7.0eV」は、「0.7eV」の誤記と認められる。)であることが好ましい。このような化合物を寿命改善層304に使用する場合は、発光層303において形成された励起子が電子輸送層305へ拡散されるのを防ぎ、また、発光層303と電子輸送層305との界面で発光が生じる現象を防ぐことが可能となる。結果的に、これによって、有機電界発光素子のスペクトルの混色を防止し、安定性が高くなり、有機電界発光素子の寿命を向上させることができる。
【0030】
本発明の一例において、両極性化合物は、電子吸引性の大きな電子吸引基(EWG)と、電子供与性の大きな電子供与基(EDG)との両方を有しているため、HOMOとLUMOの電子雲が分離されるという特徴を有する。これによって、化合物の三重項エネルギーと一重項エネルギーとの差(ΔEst)が0.7eV未満と少ないため、HOMO値とLUM O値との差(EHOMO−ELUMO)が3.0eVを超過しても、高い三重項エネルギー(T1)を有することができる。
【0031】
発光層303が赤の燐光物質で形成される場合は、前記寿命改善層304に含まれる両極性化合物の三重項エネルギーが2.3eV以上であれば良いが、緑の燐光物質で形成される場合は、2.5eV以上、青の燐光物質で形成される場合は、2.7eV以上であることが好ましい。
【0032】
一方、前記両極性化合物は、正孔移動度及び電子移動度が、常温で1×10−6cm2/V・s以上であることが好ましい。このような化合物を寿命改善層304に使用する場合、陽極100から注入された正孔の数に比べて電子の注入が遅くなるのを防止し、有機電界発光素子の寿命特性を向上させることが可能となる。
・・・略・・・
【0034】
これに対し、本発明の寿命改善層304に含まれる両極性化合物は、電子供与基(EDG)により正孔移動度が常温で1×10−6cm2/V・s以上となり、電子吸引基(EWG)により電子移動度が常温で1×10−6cm2/V・s以上となる。このような化合物を寿命改善層304に使用する場合、発光層303に電子を効果的に注入させることができる。このように発光層303への電子注入が円滑に行われる場合は、発光層303において励起子の形成効率が高くなり、有機電界発光素子の寿命が改善される。
【0035】
前記両極性物質は、電子供与基(EDG)であるフルオレンモイエティと、電子吸引基(EWG)である6員ヘテロ環とが、リンカー基(例えば、フェニレン、ビフェニレン又はターフェニレン)により結合されて基本骨格を形成することが好ましい。なお、両極性化合物としては、例えば、前記化1で示される化合物であることができる。」

ウ 「【実施例】
【0061】
以下、本発明の実施例を挙げて詳述する・・・略・・・。
【0062】
[準備例1〜12]化合物LE−01乃至LE−12の準備
本発明の両極性化合物として、下記式LE−01乃至LE−12で示される化合物を準備し、ΔEst、三重項エネルギー、イオン化ポテンシャル、EHOMO−ELUMO、電子移動度及び正孔移動度の測定を、当業界で公知の方法で行い、その結果を下記表1に示す。
【化13】

【0063】
【表1】

【0064】
[実施例1〜12]青色蛍光有機電界発光素子の製造
ITO・・・略・・・が1500Åの厚さで薄膜コーティングされたガラス基板を、蒸留水で超音波洗浄を行った。蒸留水洗浄完了後、・・・略・・・溶剤で超音波洗浄を行い、乾燥させた後、UV OZONE洗浄機(Power sonic 405、ファシンテック製)に移送した後、UVを用いて前記基板を5分間洗浄し、真空蒸着機に基板を移送した。
【0065】
上述のように準備されたITO透明電極(基板)の上に、正孔注入層、正孔輸送層、発光層、寿命改善層、電子輸送層、電子注入層及び陰極を順次に蒸着して素子を製造した。得られた素子の構造は、下記表2の通りである。
【0066】
・・・略・・・
【0068】
[比較例1]青色蛍光有機電界発光素子の製造
寿命改善層を使用することなく電子輸送層を30nmに蒸着する以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【0069】
[比較例2]青色蛍光有機電界発光素子の製造
LE−01の代わりに下記構造のBCPを使用する以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【化15】
・・・略・・・
【0070】
[実験例1]
前記実施例1〜12及び比較例1、2で得られたそれぞれの素子について、電流密度10mA/cm2での駆動電圧、電流効率、発光波長及び寿命(T97)を測定し、その結果を下記表3に示す。
【表3】
・・・略・・・
【0072】
表3からわかるように、本発明の寿命改善層を含む実施例1〜12の有機電界発光素子は、比較例1及び2の有機電界発光素子に比べて、優れた電流効率、駆動電圧及び寿命特性を有するものであることが確認された。
【0073】
[実施例13〜20]緑色燐光有機電界発光素子の製造
ITO・・・略・・・が1500Åの厚さで薄膜コーティングされたガラス基板を、蒸留水で超音波洗浄を行った。蒸留水洗浄完了後、・・・略・・・溶剤で超音波洗浄を行い、乾燥させた後、UV OZONE洗浄機(Power sonic 405、ファシンテック製)に移送した後、UVを用いて前記基板を5分間洗浄し、真空蒸着機に基板を移送した。
・・・略・・・
【0077】
[比較例3]緑色燐光有機電界発光素子の製造
寿命改善層を使用することなく電子輸送層を30nmに蒸着する以外は、実施例1と同様にして素子を製造した。
【0078】
[比較例4]緑色燐光有機電界発光素子の製造
LE−01の代わりに下記構造のBCPを使用する以外は、実施例13と同様にして素子を製造した。
・・・略・・・
【0079】
[実験例2]
前記実施例13〜20及び比較例3、4で得られたそれぞれの素子について、電流密度10mA/cm2での駆動電圧、電流効率、発光波長及び寿命(T97)を測定し、その結果を下記表5に示す。
【0080】
【表5】

【0081】
表5からわかるように、本発明の寿命改善層を含む実施例1〜12の有機電界発光素子は、比較例1及び2の有機電界発光素子に比べて、優れた電流効率、駆動電圧及び寿命特性を有するものであることが確認された。」

(5) 本件特許発明の課題
上記(4)によれば、本件特許発明が解決しようとする課題は、「本発明の目的は、駆動電圧、発光効率及び寿命特性に優れた有機電界発光素子を提供すること」(本件特許明細書の【0008】等参照。)であると認められる。

(6) 課題解決手段に係る本件特許明細書の記載及び当該記載から理解される技術的事項
ア課題の解決に至る作用機序(メカニズム)について
上記(4)に示した本件特許明細書の記載(特に、本件特許明細書の【0025】及び【0035】の記載)によれば、本件特許発明における「化1で示される化合物」は、「電子供与性の大きな電子供与基(EDG)」「であるフルオレンモイエティと」、「電子吸引性の大きな電子吸引基(EWG)」「である6員ヘテロ環とが、リンカー基」「により結合されて基本骨格を形成」(【0035】)する、(「電子吸引基(EWG)と」「電子供与基(EDG)の両方を有する」)「両極性」「化合物」(【0025】)であると理解できる。
「両極性化合物」について、本件特許明細書の【0027】には、「正孔は、有機電界発光素子内においてイオン化ポテンシャルのレベルに従って移動」し、「正孔が発光層303を超えて電子輸送層305に拡散又は移動する場合、酸化による非可逆的分解反応が起こって有機電界発光素子の寿命が低下するようになる」ところ、「イオン化ポテンシャル5 .5eV以上の両極性化合物からなる寿命改善層304によって正孔の電子輸送層305への拡散又は移動が防止されるため、有機電界発光素子の寿命特性を改善することができる」と記載されている。
また、本件特許明細書の【0029】には、「両極性化合物」として、「HOMO値とLUMO値との差」「が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」「化合物を寿命改善層304に使用する場合」、「発光層303において形成された励起子が電子輸送層305へ拡散されるのを防ぎ、また、発光層303と電子輸送層305との界面で発光が生じる現象を防ぐことが可能とな」り、「結果的に、これによって、有機電界発光素子のスペクトルの混色を防止し、安定性が高くなり、有機電界発光素子の寿命を向上させることができる」ことが記載されている。
さらに、同【0030】には、「本発明の一例において、両極性化合物は、電子吸引性の大きな電子吸引基(EWG)と、電子供与性の大きな電子供与基(EDG)との両方を有しているため、HOMOとLUMOの電子雲が分離されるという特徴を有する。これによって、化合物の三重項エネルギーと一重項エネルギーとの差(ΔEst)が0.7eV未満と少ないため、HOMO値とLUM O値との差(EHOMO−ELUMO)が3.0eVを超過しても、高い三重項エネルギー(T1)を有することができる。」ことが記載されている。

イ 本件特許明細書に記載された具体例について
本件特許明細書の【0062】には、「化1で示される」「本発明の両極性化合物として」、化合物LE−01〜化合物LE−12が具体的に開示されているところ、【0063】【表1】に記載された「準備例1〜12」の化合物LE−01〜化合物LE−12のイオン化ポテンシャル(5.87〜6.16eV)、EHOMO−ELUMO(3.41〜3.64eV)、三重項エネルギー(計算値)(2.65〜2.83eV)、ΔEst(S1−T1)(計算値)(0.38〜0.57eV)から、化合物LE−01〜化合物LE−12は、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満であるとの要件を満たしていると理解できる。
そして、本件特許明細書の【0064】〜【0072】の「実験例1」の記載からは、寿命改善層として化合物LE−01〜LE−12をそれぞれ用いた実施例1〜実施例12の「青色蛍光有機電界発光素子」の「電流密度10mA/cm2」における、「寿命(hr,T97)」(35(LE−08)〜75(LE−11))、「駆動電圧(V)」(3.8(LE−07)〜4.6(LE−03))及び「電流効率(cd/A)」(6.9(LE−02)〜8.3(LE−08))が、「寿命改善層を使用することなく電子輸送層を30nmに蒸着する以外は」「実施例1と同様にして素子を製造した」「比較例1」の「寿命(hr,T97)」(32)、「駆動電圧(V)」(4.7)及び「電流効率(cd/A)」(5.6)や、「LE−01の代わりに」「BCPを使用する以外は」「実施例1と同様にして素子を製造した」「比較例2」の「寿命(hr,T97)」(28)、「駆動電圧(V)」(5.3)及び「電流効率(cd/A)」(5.9)と比較して、優れた特性のものとなっていることが把握できる。
また、同【0073】〜【0080】の[実験例2]の記載からは、(【表5】の通り)寿命改善層として、化合物LE−01、LE−02、LE−04、LE−05、LE−06、LE−07、LE−08、LE−10をそれぞれ用いた実施例13〜実施例20の「緑色燐光有機電界発光素子」の「電流密度10mA/cm2での」、「寿命(hr,T97)」(51(LE−01)〜89(LE−10))、「駆動電圧(V)」(6.0(LE−07)〜6.8(LE−10))及び「電流効率(cd/A)」(36.6(LE−06)〜41.5(LE−07))が、「寿命改善層を使用することなく電子輸送層を30nmに蒸着する以外は」「実施例1と同様にして素子を製造した」[比較例3]の「寿命(hr,T97)」(45)、「駆動電圧(V)」(7.2)及び「電流効率(cd/A)」(36.8)、あるいは、「LE−01の代わりに」「BCPを使用する以外は」「実施例13と同様にして素子を製造した」[比較例4]の「寿命(hr,T97)」(40)、「駆動電圧(V)」(7.9)及び「電流効率(cd/A)」(40.2)と比較して、優れたものとなっていることが把握できる。
ここで、「比較例2」及び「比較例4」において使用される「BCP」は、同【0007】の記載によれば、従来技術であって、「BCPやBPhenなどの誘導体」は、「正孔の電子伝達層への拡散を防止し」、「発光層内に制限させることで正孔と電子との再結合率を高める」ために「使用」されるものであるが、「正孔に対する酸化安定性に劣り、耐熱性が低いため、結果的に、有機電界発光素子の寿命が短く」、「また」、「電子の移動を阻害し、有機電界発光素子の駆動電圧が上昇する」ものと理解できる。

ウ 判断
上記アの本件特許明細書の記載(特に、「化1で示される化合物」のイオン化ポテンシャルを、5.5eV以上とすることの作用、及び、HOMO値とLUMO値との差を、3.0eVを超過し、三重項エネルギーを、2.3eV以上、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差を、0.7eV未満とすることの作用)と、上記イで述べた実験例1及び実験例2の結果及び当該結果から理解される事項から、化合物LE−01〜LE−12以外の化合物であっても、「陽極と陰極との間に介在した有機物層」が、「両極性化合物」である、「化1で示される化合物」であって、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」化合物を含むこと(課題解決手段)によって、上記アの駆動電圧、発光効率及び寿命特性に優れた有機電界発光素子を提供するとの課題を解決できると当業者は理解する。そして、ひとたび、上記下線部に示す化合物の設計指針が与えられれば、当業者であれば、後記「5(2)」に示すような公知の測定手段(技術常識)を適宜活用して、「化1で示される化合物」に該当する無数の化合物の中から前記設計指針を満たす化合物を選択することができる。
そうしてみると、当業者は、本件特許明細書に記載された上記ア〜イの事項及び技術常識から、上記(3)の発明特定事項を具備する本件特許発明であれば、上記(5)に示した本件特許発明の課題を解決することができることを認識することができるといえる。

エ 特許異議申立人主張1〜4について
(ア) 特許異議申立人主張1及び3について
上記ウで示したとおりである。

(イ) 特許異議申立人主張2について
「「化1で示される化合物」として「LE−08」を用いた実施例8」の「寿命」は「35(hr,T97)」であり、「比較例1」の「寿命」は「32(hr,T97)」である。
実施例8の寿命(35時間)と比較例1の寿命(32時間)とを比較すれば、「LE−08」を用いた実施例8は、「青色蛍光有機電界発光素子」として、寿命特性に優れるものが得られていると当業者は理解できる。また、実施例8の結果から、実施例8の化合物を含む素子構造の最適化や駆動条件の最適化により、寿命特性により優れた有機電界発光素子が得られるとも当業者は理解できる。
そうすると、化合物「LE−08」により、「寿命特性に優れる有機電解発光素子を得るという課題」を解決できると当業者は認識できる。
してみると、特許異議申立人主張2には理由がなく、これを採用することはできない。

(ウ) 特許異議申立人主張4について
上記アの本件特許明細書の【0030】の記載に接した当業者であれば、【0030】の記載は、電子吸引基と電子供与基との両方を有する両極性化合物であれば、三重項エネルギーと一重項エネルギーとの差(ΔEst)が0.7eV未満、HOMO値とLUMO値との差(EHOMO−ELUMO)が3.0eVを超過し、三重項エネルギーが2.3eV以上となるということを意味するのでなく、両極性化合物は、HOMOとLUMOの電子雲が分離されるという特徴を有する点において、化合物の三重項エネルギーと一重項エネルギーとの差(ΔEst)が0.7eV未満、HOMO値とLUMO値との差が3.0eVを超過し、三重項エネルギー(T1)が高いものにできる点において、好ましい構造である、とのことを意味すると理解される。
両極性化合物のHOMOとLUMOの電子雲の(分離)状態は、電子吸引基あるいは電子供与基自体の構造や電子吸引基や電子供与基における置換基(種類、個数、置換位置等)や、電子吸引基と電子供与基とを結合するリンカーの構造(種類、個数、置換位置等)などに依存し、両極性化合物というだけで、特定の値、範囲あるいは特定の上限、下限のHOMO値、LUMO値及びこれらの差、あるいは、特定の値、範囲あるいは特定の上限あるいは下限の一重項エネルギー、三重項エネルギー及びそれらの差となるわけではないことは、技術常識から理解できることである。
そうすると、「電子吸引性の大きな電子吸引基(6員ヘテロ環)と、電子供与性の大きな電子供与基(フルオレンモイエティ)との両方を有する両極性化合物を選択することにより、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満」となるわけではない。また、「本件特許発明における「化1で示される化合物」は、本件特許明細書の段落0030及び段落0035に記載された内容を満たしているにもかかわらず、本件特許発明におけるパラメータ(HOMO値とLUMO値との差、三重項エネルギー、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差)に関する規定を満たないことと」なるからといって、「上記本件特許明細書の段落0030及び段落0035に記載の妥当性が疑われること」になるわけでもない。
ところで、特許異議申立人は、自身の進歩性に関する主張との関係に触れた上で、サポート要件に関する主張(本件特許明細書の段落0030等の記載の妥当性が問題となる点)をしている。しかしながら、そもそも本件特許発明の「本件特許発明における「化1で示される化合物」について、上記ウに示した設計指針を開示する証拠がない以上、進歩性に係る上記主張が容れられないという判断と、当該設計指針が本件特許明細書において十分に開示されたことをもってサポート要件が満たされるとする判断とは何ら矛盾しない。

オ 請求項1の記載を直接または間接的に引用する請求項2〜14についても同様である。

カ 以上のとおりであるから、請求項1〜14に係る発明の範囲まで発明の詳細な説明に開示された内容を拡張し一般化できるとはいえない、ということはできない。

(4) 小括
本件特許の請求項1〜14に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるとはいえない。

5 特許法第36条第6項第2号明確性)(申立理由7)についての判断
(1) 特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、特許異議申立書の「(4−7)申立理由7(特許法第36条第6項第2号)について」「(4−7−1)」において、「本件特許発明1では、「・・・・前記化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である有機電界発光素子。・・・・」と規定されている。」、「本件特許明細書の段落0063の表1には、「計算値(B3LYP/6−31G*)」と記載されていることから、「一重項エネルギー(S1)」及び「三重項エネルギー(T1)」については測定手法(シミュレーション方法)が一応記載されている。」、「しかしながら、「イオン化ポテンシャル」及び「HOMO値とLUMO値との差」については、本件特許明細書の段落0062に「本発明の両極性化合物として、下記式LE−01乃至LE−12で示される化合物を準備し、ΔEs、三重項エネルギー、イオン化ボテンシャル、EHOMO−ELUMO、電子移動度及び正孔移動度の測定を、当業界で公知の方法で行い、その結果を下記表1に示す」と記載されているのみであって、測定方法を1つに特定することができない。」、「よって、本件特許発明1に記載の「イオン化ポテンシャル」及び「HOMO値とLUMO値との差」の測定方法に疑義がある。斯かる疑義が存在するので、「イオン化ポテンシャル」及び「HOMO値とLUMO値との差」について規定した本件特許発明1は不明確であると考えるのが妥当である。」、「以上より、「イオン化ポテンシャル」及び「HOMO値とLUMO値の差」が規定された本件特許発明1は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と主張する(前記の主張を、以下「特許異議申立人主張5」という。)
また、特許異議申立人は、同「(4−7−2)」において、「本件特許発明4及び5では、「・・・・ 前記寿命改善層に含まれる前記化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、6.0eV以上であり、・・・・」と規定されている。」、「しかしながら、「イオン化ポテンシャル」については、本件特許明細書の段落0062に「本発明の両極性化合物として、下記式LE−01乃至LE−12で示される化合物を準備し、ΔEst、三重項工ネルギー、イオン化ポテンシャル、EHOMO−ELUMO、電子移動度及び正孔移動度の測定を、当業界で公知の方法で行い、その結果を下記表1に示す」と記載されているのみであって、測定方法を1つに特定することができない。」、「よって、本件特許発明4及び5に記載の「イオン化ポテンシャル」の測定方法に疑義がある。斯かる疑義が存在するので、「イオン化ポテンシャル」について規定した本件特許発明4及び5は不明確であると考えるのが妥当である。」、「以上より、「イオン化ポテンシャル」が規定された本件特許発明4及び5は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と主張する(前記の主張を、以下「特許異議申立人主張6」という。)
さらに、特許異議申立人は、同「(4−7−3)」において、「本件特許発明8では、「前記化1で示される化合物は、電子移動度及び正孔移動度が、常温で1×10−6cm2/V・s以上である請求項 1に記載の有機電界発光素子」と規定されている。」、「しかしながら、「電子移動度及び正孔移動度」については、本件特許明細書の段落0063の表1の注釈に「電子移軌度及び正孔移動度については、両極性化合物を1μmの厚さで成膜してキャリア移動時間(transit time)の測定を行った」と記載されているのみであって、測定方法を1つに特定することができない。」、「よって、本件特許発明8に記載の「電子移動度及び正孔移動度」の測定方法に疑義がある。斯かる疑義が存在するので、「電子移動度及び正孔移動度」について規定した本件特許発明8は不明確であると考えるのが妥当である。」、 以上より、「電子移動度及び正孔移動度」が規定された本件特許発明8は明確ではないので、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。」と主張する(前記の主張を、以下「特許異議申立人主張7」という。)
そして、「(4−7−4)まとめ」において、「したがって、本件特許発明1、4、5及び8に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対して与えられたものであるから、特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。」と主張する。

(2) 明確性要件についての判断
ア 本件特許発明1は、「陽極と陰極との間に介在した有機物層」が「化1で示される化合物を含み」、「化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV未満である」との発明特定事項を具備する。
また、本件特許発明8は、「前記化1で示される化合物は、電子移動度及び正孔移動度が、常温で1×10−6cm2/V・s以上である」との発明特定事項を具備する。

イ 本件特許発明1の「一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差」、「三重項エネルギー」、「イオン化ポテンシャル」、「HOMO値とLUMO値との差」、「電子移動度」及び「正孔移動度」の測定に関し、本件特許明細書の【0062】には、「ΔEst、三重項エネルギー、イオン化ポテンシャル、EHOMO−ELUMO、電子移動度及び正孔移動度の測定を、当業界で公知の方法で行い、その結果を下記表1に示す。」と記載されている。
また、同【0063】【表1】から、「イオン化ポテンシャル」、「EHOMO−ELUMO」、「電子移動度」、「正孔移動度」が「実測値」であることが理解できる。
さらに、同【表1】の注釈「*」には、「正孔移動度及び電子移動度については、両極性化合物を1μmの厚さで成膜してキャリア移動時間(transit time)の測定を行った」と記載されている。

ウ イオン化ポテンシャルの測定(実測)する方法としては、代表的には(A)光電子分光法(PES)でサンプルがイオン化を開始した電圧から求める方法、あるいは、(B)電気化学的に測定した酸化電位を基準電極に対して補正する方法、あるいは、(C)光電子収量分光(PYS)を用いる方法などが、当業者に知られている(例えば、特開2006−13469号公報の【0180】、特開2012−33892号公報の【0033】、特開2010−192431号公報の【0258】、特開2014−168088号公報の【0119】等参照。)。
してみると、本件特許発明1における「イオン化ポテンシャル」は、上記(A)〜(C)の公知のいずれかの方法(例えば、代表的な(A)光電子分光法を用いて測定すればよいと当業者は理解できる。
してみると、本件特許発明1における「イオン化ポテンシャル」は明確である。本件特許発明4、5及び8についても同様である。

エ 「HOMO値とLUMO値との差」(「EHOMO−ELUMO」)を測定(実測)する方法としては、分光光度計を用いてサンプルの吸収スペクトルを測定し、その吸収末端より(バンドギャップとして)求める方法が一般的である(例えば、特開2014−194017号の【0237】、特開2014−131068号公報の【0059】、特開2010−192431号公報の【0259】等参照。)。
してみると、本件特許発明1における「HOMO値とLUMO値との差」は、一般的な分光光度計を用いる方法を用いて測定すればよいと当業者は理解できる。
してみると、本件特許発明1における「HOMO値とLUMO値との差」は明確である。本件特許発明4、5及び8についても同様である。

オ 「正孔移動度及び電子移動度」の測定(実測)する方法としては、膜厚(d)の薄膜のサンプルを一対の電極で挟み、薄膜に電圧(V)を印加することによって、薄膜に電界(E(=V/d))を印加し、薄膜に電圧を印加した状態で光パルスを照射することによって薄膜に正孔と電子とからなる対を発生させ、電流が流れた時間から発生した正孔または電子の一方の電荷が薄膜を対向する電極へ移動するのに要した時間(t)を測定することにより、電子または正孔の移動度(μ)を、μ=d2/(t・V)(あるいはμ=d/(t・E))として求める「TOF(飛行時間)法」が一般的である(例えば、特開2013−504882号の【0088】〜【0089】、特開2011−258373号公報の【0051】、特開2014−168088号公報の【0118】、【0197】〜【0198】、特開2006−13469号公報の【0125】、【0127】等を参照。)。
してみると、「両極性化合物を1μmの厚さで成膜してキャリア移動時間(transit time)の測定を行った」とされる本件特許発明1の「正孔移動度及び電子移動度」は、一般的なTOF法を用いて測定すればよいと当業者は理解する。
してみると、本件特許発明8における「正孔移動度」及び「電子移動度」は明確である。

カ 特許異議申立人主張5〜7について
(ア) 特許異議申立人主張5及び特許異議申立人主張6について
上記ウで述べたとおり、本件特許発明1における「イオン化ポテンシャル」は、上記(A)〜(C)の公知のいずれかの方法(例えば、代表的な(A)光電子分光法)を用いて測定すればよいと当業者は理解する。
また、上記エで述べたとおり、本件特許発明1における「HOMO値とLUMO値との差」は、一般的な分光光度計を用いる方法を用いて測定すればよいと当業者は理解する。
そうすると、本件特許発明1、4、5及び8は明確である。
特許異議申立人は、「本件特許発明1に記載の「イオン化ポテンシャル」及び「HOMO値とLUMO値との差」の測定方法に疑義がある。斯かる疑義が存在するので、「イオン化ポテンシャル」及び「HOMO値とLUMO値との差」について規定した本件特許発明1は不明確であると考えるのが妥当である。」と主張するだけであって、「イオン化ポテンシャル」及び「HOMO値とLUMO値との差」の測定方法に係る「疑義」に関し、具体的な主張がなされておらず、根拠も示されていない。具体的に言うと、「イオン化ポテンシャル」あるいは「HOMO値とLUMO値との差」の「測定方法」に依存して、「イオン化ポテンシャル」あるいは「HOMO値とLUMO値との差」の測定値(実測値)がどの程度(大きく)変化するか分からない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人主張5及び特許異議申立人主張6には理由がなく、これを採用することはできない。

(イ) 特許異議申立人主張7について
上記オで述べたとおり、本件特許発明8における「正孔移動度」及び「電子移動度」は、一般的なTOF(飛行時間)法を用いて測定すればよいと理解できるから、「正孔移動度」及び「電子移動度」により特定された本件特許発明8は明確である。
特許異議申立人は、「本件特許発明8に記載の「電子移動度及び正孔移動度」の測定方法に疑義がある。斯かる疑義が存在するので、「電子移動度及び正孔移動度」について規定した本件特許発明8は不明確であると考えるのが妥当である。」と主張するだけあって、「電子移動度及び正孔移動度」の測定方法に係る「疑義」については、具体的な主張がなされていないし、その根拠も示されていない。具体的に言うと、「電子移動度及び正孔移動度」の「測定方法」に依存して、「電子移動度及び正孔移動度」の測定値(実測値)がどの程度(大きく)変化するか分からない。
以上のとおりであるから、特許異議申立人主張7には理由がなく、これを採用することはできない。

(3) 小括
本件特許発明1、4、5及び8は、特許を受けようとする発明が明確でないことから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない、ということはできない。

6 特許法第39条第2項(同日出願)(申立理由8)についての判断
(1) 甲6に係る親出願の請求項1に係る発明及び優先権の主張の効果
ア 親出願(特願2017−534328号)の請求項1に係る発明(以下「甲6発明」という。)は、特許第6633637号公報(甲6)の特許請求の範囲の請求項1に記載にされたとおりのものであるところ、甲6発明は、以下のものである。
「 陽極、陰極、及び陽極と陰極との間に介在した有機物層を含み、
前記有機物層は、陽極に連続的に配置された発光層、及び寿命改善層、電子輸送層を含み、
前記寿命改善層は下記化1で示される化合物を含む、有機電界発光素子。
(化1)
【化1】

式中、
Ra及びRbは、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、C1〜C40のアルキル基及びC6〜C60のアリール基からなる群から選択され、又は、互いに結合して縮合環を形成し、
R1〜R2は、互いに同一又は異なり、それぞれ独立に、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
R3は、水素であり、
Lは、単結合、又は、C6〜C18のアリーレン基及び核原子数5〜18のヘテロアリーレン基からなる群から選択され、
c及びeは、それぞれ、0〜4の整数であり、
dは、0〜3の整数であり、
m及びnは、それぞれ、1〜3の整数であり、
複数のR4は、互いに同じものであり、フェニル基であり、
前記R4は、水素、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択され、又は、隣接した基と結合して縮合環を形成し、
前記Ra、Rbのアルキル基、アリール基と、前記R1〜R4のアルキル基、アルケニル基、アルキニル基、シクロアルキル基、ヘテロシクロアルキル基、アリール基、ヘテロアリール基、アルキルオキシ基、アリールオキシ基、アルキルシリル基、アリールシリル基、アルキルボロン基、アリールボロン基、ホスフィン基、ホスフィンオキシド基、アリールアミン基と、前記Lのアリーレン基、ヘテロアリーレン基とは、それぞれ独立に、重水素、ハロゲン基、シアノ基、ニトロ基、アミノ基、C1〜C40のアルキル基、C2〜C40のアルケニル基、C2〜C40のアルキニル基、C3〜C40のシクロアルキル基、核原子数3〜40のヘテロシクロアルキル基、C6〜C60のアリール基、核原子数5〜60のヘテロアリール基、C1〜C40のアルキルオキシ基、C6〜C60のアリールオキシ基、C1〜C40のアルキルシリル基、C6〜C60のアリールシリル基、C1〜C40のアルキルボロン基、C6〜C60のアリールボロン基、C1〜C40のホスフィン基、C1〜C40のホスフィンオキシド基、及びC6〜C60のアリールアミン基からなる群から選択された1種以上の置換基で置換又は非置換であり、前記置換基が複数個である場合、複数の置換基は、互いに同一又は異なる、
ただし、m及びnがそれぞれ1であり、R1〜R3がそれぞれ水素であり、Ra〜Rbがフェニル基であり、Lが単結合であり、複数のR4がフェニル基である化合物;及び下記式LE−06化合物を除く
【化2】

。」

イ 甲6発明についての優先権の主張の効果 最先基礎出願明細書等の記載は、上記第4(2)のとおりであるところ、甲6発明でいう上記「化1で示される化合物」は、「最先基礎出願化学式1化合物」(上記「第4」1(2)及び(3)参照。)において、
「R3」は「水素」であり、
「Z1〜Z5は、互いに同一であるか、あるいは異なり、それぞれ独立に」、 「Z1」は「N」、「Z2」は「C(R4)」、「Z3」は「N」、「Z4」は「C(R4)」、「Z5」は「N」であり、「この時、少なくとも1つはNであり、C(R4)が複数である場合、複数のC(R4)は、互いに同一であ」り、
「複数のR4は、互いに同じものであり、フェニル基であ」る場合のものとするとともに、
「m及びnがそれぞれ1であり、R1〜R3がそれぞれ水素であり、Ra〜Rbがフェニル基であり、Lが単結合であり、複数のR4がフェニル基である化合物」と「式LE−06化合物」とを「除」いたものに該当するといえる。
そうすると、甲6発明における「化1で示される化合物」は、最先基礎出願化学式1化合物に実質的に含まれるといえる。
してみると、甲6発明について、先後願の判断のための基準日は、親出願の最先の優先権主張基礎出願である韓国特許出願第10−2014−0188953号の出願日である2014年12月24日である。

(2) 特許法第39条第2項(同日出願)(申立理由8)について
ア 上記(1)イで述べたとおり、甲6発明について、先後願の判断のための基準日は、2014年12月24日である。
一方、上記「第4」1(3)で述べたとおり、本件特許発明1について、先後願の判断のための基準日は、2015年12月10日である。
そうすると、甲6発明及び本件特許発明1の先後願の判断のための基準日が異なり(甲6発明が先願であり、本件特許発明1が後願である。)、甲6についての特許出願及び本件特許発明1についての特許出願が同日にあったということができず、両者は、特許法第39条第2項における「同一の発明について同日に二以上の特許出願があつたとき」との要件を満たさない。
してみると、本件特許発明1及び甲6発明について、特許法第39条第2項の規定を適用することはできない。

イ 特許異議申立人の主張について
(ア) 特許異議申立人は、「(4−8)申立理由8 (特許法第39条第2項)について)において、「本件特許発明1と甲6の請求項1に記載された発明とは、下記相違点27〜29で相違する。」、「<相違点27>」「本件特許発明1では、「有機物層が化1で示される化合物を含む」ことを規定しているのに対し、甲6の請求項1に記載された発明では、「有機物層における寿命改善層が化1で示される化合物を含む」ことを規定している点。」、「<相違点28>」、「本件特許発明1における「化1で示される化合物」の化学構造よりも甲6の請求項1に記載された発明における「化1で示される化合物」の化学構造がより減縮されたものである点。」、「<相違点29>」「本件特許発明1では、「化1で示される化合物は、イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV末満である」と規定されているのに対し、甲6の請求項1に記載された発明では、上記規定がなされていない点。」、「以上より、相違点27及び28に関しては、本件特許発明1よりも、甲6の請求項1に記載された発明の方が減縮されているものの、相違点29に関しては、本件特許発明1の方が、甲6の請求項1に記載された発明よりも減縮されている。」、「即ち、本件特許発明1及び6の請求項1に記載された発明は、いずれか一方が他方を完全に包含するような形にはなっていないので、特許法第39条第2項に規定される所謂ダブルパテントに該当するものと思料する。」と主張する。

(イ) しかしながら、上記アで述べたとおり、甲6発明と本件特許発明1は、同日の出願の関係にないのであるから、特許法第39条第2項の規定を適用することはできない。

(ウ) 両者が同日出願の関係にあると仮定し、検討したとしても、以下のとおりである。
すなわち、「特許・実用新案審査基準」「第III部 特許要件」「第4章 先願」「3.2 本願発明と他の出願の請求項に係る発明等とが同一か否かの判断」「3.2.2 他の出願が同日出願である場合」によれば、発明Bが発明Aと同日出願の請求項に係る発明である場合において、「(i)発明Aを先願とし、発明Bを後願と仮定したとき。」、「(ii)発明Bを先願とし、発明Aを後願と仮定したとき。」のいずれの時にも発明Aと発明Bとが同一であるときに、発明Aと同日出願発明である発明Bとを「同一」と判断する、とされているところ、「甲6発明を先願、本件特許発明1を後願」と仮定したとき、両者は、少なくとも、「化1で示される化合物」について、本件特許発明1は、「イオン化ポテンシャルが、5.5eV以上であり、HOMO値とLUMO値との差が、3.0eVを超過し、三重項エネルギーが、2.3eV以上であり、一重項エネルギーと三重項エネルギーとの差が、0.7eV末満である」と特定されているのに対して、甲6発明は、そのような特定がない点において、実質的に相違する。あるいは、「本件特許発明1を先願、甲6発明を後願」と仮定したとき、両者は、少なくとも、「化1で示される化合物」を、甲6発明は、「有機物層における寿命改善層が」「含」んでいるのに対して、(先願の)本件特許発明1は、「有機物層が」「含」んでいる点において、実質的に相違する。そうすると、(i)及び(ii)のいずれの時にも発明Aと発明Bとが同一であるということができない。
してみると、甲6発明と本件特許発明1が同日出願の関係にあると仮定したとしても、本件特許発明1と甲6発明とが(実質的に)同一であるということはできない。

(エ) 以上のとおりであるから、上記(ア)の異議申立人の主張は理由がなく、これを採用することはできない。

ウ 小括
本件特許発明1は、甲6に係る親出願の請求項1に記載された発明と実質的同一であるから(かつ、親出願に係る発明は特許されており協議を行うことができないから)、本件特許発明1は、特許法第39条第2項の規定により、特許を受けることができない、ということはできない。

第5 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜14に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜14に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-25 
出願番号 P2019-153845
審決分類 P 1 652・ 121- Y (H05B)
P 1 652・ 161- Y (H05B)
P 1 652・ 537- Y (H05B)
P 1 652・ 113- Y (H05B)
P 1 652・ 4- Y (H05B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 里村 利光
特許庁審判官 植前 充司
河原 正
登録日 2021-01-18 
登録番号 6825195
権利者 ソリュース先端素材株式会社
発明の名称 有機電界発光素子  
代理人 特許業務法人 ユニアス国際特許事務所  
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