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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23L
管理番号 1384165
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-05 
確定日 2021-12-03 
異議申立件数
事件の表示 特許第6829935号発明「アルコール飲料」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6829935号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6829935号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成27年9月3日(優先権主張 平成27年4月13日)の出願であって、令和3年1月27日にその特許権の設定登録がされ、同年2月17日にその特許掲載公報が発行され、その後、令和3年8月5日に日本香料工業会(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜5に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。

「【請求項1】
リモネンと、ポリフェノール成分とを含む、アルコール飲料であって、
前記アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含み、
前記ポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分である、シトラス風味のアルコール飲料(ただし、ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの、多価不飽和脂肪酸エマルションを含むもの、並びに、ワイン又は果実ワインを含むものを除く)。
【請求項2】
請求項1に記載のアルコール飲料であって、
前記アルコール飲料の全体に対して、前記リモネンを0.5ppm以上1,000ppm以下含む、アルコール飲料。
【請求項3】
請求項1または2に記載のアルコール飲料であって、
容器詰めされたアルコール飲料。
【請求項4】
請求項1乃至3いずれか一項に記載のアルコール飲料であって、
pHが7未満である、アルコール飲料。
【請求項5】
請求項1乃至4いずれか一項に記載のアルコール飲料であって、
アルコール濃度が1〜25%である、アルコール飲料。」

第3 特許異議申立人が申し立てた理由の概要
[理由1−1]本件発明1〜5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1号証に係る発明であるから、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由1−2]本件発明1〜5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第10号証に係る発明であるから、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由2−1]本件発明1〜5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第1〜4号証に係る発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由2−2]本件発明1〜5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第5〜9号証に係る発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由2−3]本件発明1〜5は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された刊行物に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明である、甲第10〜14、4号証に係る発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
[理由3]本件発明1〜5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。
よって、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。
[理由4]本件発明1〜5に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しない。
よって、本件発明1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。


甲第1号証:特開2014−14321号公報(以下「甲1」ということがある。他の甲各号証についても同様。)
甲第2号証:J.Agric.Food Chem.,(2003),Vol.51,No.11,pp.3442−3447
甲第3号証:伊奈和夫ら著,新版 緑茶・中国茶・紅茶の化学と機能,株式会社アイ・ケイコーポレーション,2007年12月15日初版発行,pp.74−75
甲第4号証:佐藤節子ら,「市販飲料のう蝕誘発性リスク」,口腔衛生会誌,(2007),57,pp.117−125
甲第5号証:特開2003−79335号公報
甲第6号証:伊藤三郎編,シリーズ<<食品の化学>> 果実の科学,株式会社朝倉書店,1994年3月1日第3刷発行,pp.113−115
甲第7号証:特開2004―168936号公報
甲第8号証:カガクなキッチン,家事の科学,「クエン酸水溶液のpH【濃度別の実測値を公開】」,2020年12月17日更新,令和3年6月25日検索,インターネット,<URL:https://kagakucook.com/citric−acid−ph/>
甲第9号証:アサヒビール株式会社,人とお酒のイイ関係 ほどよく、楽しく、いいお酒。,「お酒の分類と製造工程」,令和3年6月28日検索,インターネット,<URL:https://www.asahibeer.co.jp/csr/tekisei/health/make.html>
甲第10号証:クックパッド,カリフォルニアざくろのカクテル,2014年11月6日公開、令和3年7月13日検索,インターネット,<URL:https://cookpad.com/recipe/2871269>
甲第11号証:J.Agric.Food Chem.,(2001),Vol.49,No.3,pp.1358−1363
甲第12号証:J.Agric.Food Chem.,(1972),Vol.20,No.5,pp.1029−1030
甲第13号証:GEORGIAN MEDICAL NEWS,(2006),No11(140),pp.70−77
甲第14号証:藤巻正生ら編,食料工業、株式会社恒星社厚生閣,1985年9月25日初版第1刷発行,p.446
甲第15号証:吉田隆志ら監修,植物ポリフェノール含有素材の開発−その機能性と安全性−,株式会社シーエムシー出版,2007年2月28日第1刷発行,pp.34−35
甲第16号証:特願2015−174035号の令和2年7月9日提出の意見書
甲第17号証:果実飲料の日本農林規格,最終改正 平成25年12月24日農林水産省告示第3118号

なお、甲8、甲9は、本件優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となったものとはいえないが、これらの文献は本件優先日時点における一般的な技術水準を示したものとして提示されたものと認める。

第4 当審の判断
当審は、本件発明1〜5に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由により取り消すべきものではないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 甲各号証の記載事項
甲1:
1a)「【請求項1】
果汁を含有することを特徴とする容器入り茶アルコール飲料。」

1b)「【0001】
本発明は、容器入り茶アルコール飲料に関する。」

1c)「【0035】
表1に示した(また、後記する表2〜4に示す)タンニン量の調整は、サンプル中の濃度が表中に示されたとおりとなるように、事前にタンニン量を測定しておいた茶抽出物の添加量を調整することにより行った。茶抽出物中のタンニン量、延いてはサンプル中のタンニン量の測定は、次のようにして行った。なお、茶抽出物として、フレーバーを添加していない紅茶のエキスを抽出した紅茶エキスパウダーを使用した。以下、かかる紅茶エキスパウダーを茶抽出物Aという。」

1d)「【0052】
【表3】



1e)「【0058】
[5]まとめ
以上、表1〜4から明らかなように、果汁を含有させた茶アルコール飲料は、アルコールのべたつき、苦味や渋味を始めとした雑味が少なく、容器入りの茶アルコール飲料として好適であることが確認された。また、Brix換算値とタンニン量が、Brix換算値/タンニン量で50〜3400の範囲にあると、これらの効果を確実に奏することができ、より好適であることが確認された。さらに、好ましいタンニン量が0.001〜0.5g/100mLであること、及び果汁がマスカット、オレンジ及びライチのうちの少なくとも一つ、好ましくはいずれか一つであるとより確実にこれらの効果を確実に奏することができることが確認された。また、茶として、発酵茶及び半発酵茶のうちの少なくとも一つ、好ましくはいずれか一つを用いた容器入り茶アルコール飲料を提供できることが確認された。さらに、発酵茶としては紅茶を、半発酵茶としてはジャスミン茶であれば、前記した効果を奏することのできる容器入り茶アルコール飲料を提供できることが確認された。」

甲2(訳文で示す。):
2a)「搾りたてのオレンジ果汁の果肉、濁液及び澄液中の揮発性化合物の分布」(3442頁、表題)

2b)「

」(3444頁、表1)

甲3:
3a)「


」(74〜75頁、表V−7)

甲4;
4a)「

」(121頁、表3)

甲5:
5a)「【請求項1】カキノキ科カキノキ属植物の果実又は未熟果由来のタンニン又は該タンニン精製物を含有することを特徴とする食品の香味劣化抑制剤。
・・・
【請求項3】食品に、カキノキ科カキノキ属植物の果実又は未熟果由来のタンニン又は該タンニン精製物を0.01〜500ppm配合することを特徴とする食品の香味の劣化抑制方法。
・・・
【請求項5】食品がシトラール含有食品である請求項1又は2記載の香味劣化抑制剤
【請求項6】食品がシトラール含有食品である請求項3又は4記載の香味の劣化抑制方法。」

5b)「【0020】また、本発明は特にシトラールを含有する製品に広く適用することが出来る。適応対象は特に制限は無いが、例えば、果汁飲料類、果実酒類、乳酸飲料類、炭酸飲料類、コーヒー、緑茶、紅茶、ウーロン茶等の飲料類、アイスクリーム、氷菓等の冷菓類、チューイングガム、チョコレート等の和洋菓子類、ジャム類、パン類、スープ類、各種調味料類、各種インスタント飲食品類、各種スナック食品類、健康食品類、果汁等の食品素材、フレーバー等の食品添加物類などを上げることが出来る。」

5c)「【実施例】
【0022】以下、本発明を実施例に基づいてさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
〔実施例1〕洗浄したカキ(Diospyros kaki)の未熟果1kgをミキサーで破砕・搾汁した後、バスケット式遠心濾過機で搾汁滓を分離することにより懸濁果汁600mlを得た。この懸濁果汁に珪藻土を加えて攪拌した後、濾紙を使って不溶物を濾別し清澄果汁とした。得られた清澄果汁を前記多孔性樹脂「HP−20」を充填したカラムに通してタンニンを吸着させた後、カラムを蒸留水で洗浄、50重量%エタノール水溶液を通してカラムからタンニンを脱着させた。得られたタンニン溶液を減圧下で濃縮後、凍結乾燥することにより淡褐色の粉末としてカキタンニン(以下、本明細書ではカキ(Diospyros kaki)由来のタンニンを総称して「カキタンニン」と呼ぶ)10gを得た。
【0023】〔実施例2〕洗浄したカキ(Diospyros kaki)の未熟果1kgをミキサーで破砕した後、50重量%エタノール水溶液10lを加えて室温で浸漬抽出した。抽出滓をバスケット式遠心濾過機で分離した後、抽出液を減圧下で800mlまで濃縮した。濃縮された抽出液を実施例1と同様、多孔性樹脂「HP−20」を充填したカラムに通してタンニンを吸着させた後、カラムを蒸留水で洗浄、50重量%エタノール水溶液を通してカラムからタンニンを脱着させた。得られたタンニン溶液を減圧下で濃縮後、凍結乾燥することにより淡褐色の粉末としてカキタンニン15gを得た。
【0024】〔実施例3〕市販の柿渋粉末(三桝嘉七商店製:アストリン(商品名))50gを蒸留水1000mlに分散・溶解し珪藻土を加えて攪拌した後、濾紙を使って不溶物を濾別した。得られた柿渋溶液を実施例1と同様、多孔性樹脂「HP−20」を充填したカラムに通してタンニンを吸着させた後、カラムを蒸留水で洗浄、50重量%エタノール水溶液を通してカラムからタンニンを脱着させた。得られたタンニン溶液を減圧下で濃縮後、凍結乾燥することにより淡褐色の粉末としてカキタンニン12gを得た。
【0025】〔処方例1〕
レモン香料作成処方
メチル ヘプタノエート 0.50g
テルピネオール 1.00g
リナロール 1.00g
デカナール 1.25g
オクタナール 1.25g
ゲラニル アセテート 1.75g
シトラール 60.00g
レモンオイル 100.00g
リモネン 833.25g
合計 1000.00g
【0026】〔試験例1〕(レモン飲料の加熱虐待試験)
グラニュー糖5g、クエン酸0.1g、レモン香料0.1g及び水にて全量100gに調製しレモン飲料を作成した。尚、ここで用いたレモン香料は処方例1に従って作成した。上記レモン飲料に実施例1乃至3のカキタンニンを15ppm添加したものと、無添加のものをそれぞれガラス容器に充填し殺菌した。これらを40℃の恒温槽中、14日間保管した。加熱虐待後のサンプルは習熟したパネル8人を選んで官能評価を行った。香気変化のない対照としては香味劣化抑制剤を添加していない冷蔵(5℃)保管のレモン飲料を使用し、香気の劣化度合いを評価した。その結果は表1のとおりである。なお、表1中の評価の点数は、下記の基準で採点(0〜4点)した各パネルの平均点である。
(採点基準)
劣化臭*を非常に強く感じる:4点
劣化臭*を強く感じる :3点
劣化臭*を感じる :2点
劣化臭*を若干感じる :1点
劣化臭*を感じない :0点
*薬品臭およびアセトフェノン様の臭い
【0027】
(表1)
レモン飲料の加熱虐待試験
添加量(ppm) 官能評価平均点
無添加冷蔵保管品 − 0.3
無添加加熱虐待品 − 3.9
実施例1のカキタンニン添加加熱虐待品 15 0.5
実施例2のカキタンニン添加加熱虐待品 15 0.6
実施例3のカキタンニン添加加熱虐待品 15 0.8
アスコルビン酸添加加熱虐待品 100 3.4
【0028】表1から明らかなように、実施例1乃至3のカキタンニンからなる香味劣化抑制剤を添加することにより、レモン飲料の劣化臭である薬品臭およびアセトフェノン様の臭いの発生を顕著に抑制した。その効果は一般に広く使用されている抗酸化剤のアスコルビン酸よりも高く且つ少量の添加量で劣化抑制効果を示した。
【0029】〔試験例2〕(レモン飲料の光虐待試験)
グラニュー糖5g、クエン酸0.1g、レモン香料0.1g及び水にて全量100gに調製しレモン飲料を作成した。尚、ここで用いたレモン香料は処方例1に従って作成した。これに上記実施例1乃至3いずれかのカキタンニンを5ppm添加したものと、無添加のものをそれぞれガラス容器に充填し殺菌した。これらを光安定性試験器(東京理化器械株式会社製「LST−300型」)を用いて光照射を行なった。照射条件は、15000ルクス(白色蛍光ランプ40W×15本)、5日間、温度は10℃である。光照射を行なった後、習熟したパネル8人を選んで官能評価を行った。そしてこの場合、対照としては香味劣化抑制剤を添加していない蛍光灯未照射(冷蔵保管)のレモン飲料を使用し、香味の変化(劣化度合い)を評価した。その結果は表2のとおりである。 なお、表2中の評価の点数は、下記の基準で採点(0〜4点)した各パネルの平均点である。
(採点基準)
劣化臭*を非常に強く感じる:4点
劣化臭*を強く感じる :3点
劣化臭*を感じる :2点
劣化臭*を若干感じる :1点
劣化臭*を感じない :0点
*グリーン、金属様の劣化臭
【0030】
(表2)
レモン飲料の光虐待試験
添加量(ppm) 官能評価平均点
無添加遮光冷蔵保管品 − 0.4
無添加光虐待品 − 3.9
実施例1のカキタンニン添加光虐待品 5 1.2
実施例2のカキタンニン添加光虐待品 5 1.0
実施例3のカキタンニン添加光虐待品 5 1.5
アスコルビン酸添加光虐待品 100 2.8
【0031】表2から明らかなように、実施例1乃至3のカキタンニンからなる香味劣化抑制剤を添加することにより、レモン飲料の劣化臭であるグリーン、金属様の臭いの発生を顕著に抑制した。その効果は一般に広く使用されている抗酸化剤のアスコルビン酸よりも高く且つ少量の添加量で劣化抑制効果を示した。」

甲6:
6a)「ii) タンニン カキタンニンの成分はプロアントシアニジンのポリマーであり,エピカテキン,カテキン-3-ガレート,エピガロカテキン,ガロカテキン-3-ガレートが1:1:2:2の割合で結合した高分子物質である13).」(114頁下から4〜2行)

甲7:
7a)「【請求項14】
請求項1〜12のいずれかに記載のシトラス様香料組成物を0.0001〜50重量%含有することを特徴とする請求項13記載の食品。」

7b)「【0060】
飲料類としては、例えば果汁飲料、ハチミツ飲料、野菜飲料等の果実飲料類、コーラ飲料、炭酸飲料、果汁入炭酸飲料、スポーツドリンク、豆乳、ビタミン補給飲料、ミネラル補給飲料、栄養、滋養ドリンク等の食系飲料類、乳類入炭酸飲料等の炭酸飲料類、乳酸菌飲料等の乳飲料類、緑茶、レモンティー、ハーブティー、コーヒー飲料等の嗜好飲料類、チューハイ、カクテルドリンク、発泡酒、果実酒、薬味酒等のアルコール飲料類を挙げることができる。」

7c)「【0076】
(オレンジ果汁飲料)
下記処方に従い、実施例1〜40のシトラス様香料組成物(オレンジ)を含むオレンジ果汁飲料を常法にて調製したところ、フレッシュ感があり、優れた嗜好性を有するオレンジ果汁飲料を得ることができた。
(処方) (Kg)
果糖ぶどう糖液糖(75%) 30.0
クエン酸(結晶) 0.5
ビタミンC 0.05
バレンシアオレンジ果汁 50.0
シトラス様香料組成物 0.4
(実施例1〜40)
着色料 0.2
水で全量 200L とする。
【0077】
(グレープフルーツ果汁飲料)
下記処方に従い、実施例81〜90のシトラス様香料組成物(グレープフルーツ)を含むグレープフルーツ果汁飲料を常法にて調製したところ、フレッシュ感があり、優れた嗜好性を有するグレープフルーツ果汁飲料を得ることができた。
(処方) (Kg)
果糖ぶどう糖液糖(75%) 40.0
クエン酸(結晶) 5.0
ビタミンC 0.1
グレープフルーツ果汁 50.0
シトラス様香料組成物 0.2
(実施例81〜90)
着色料 0.1
水で全量 200L とする。」

7d)「【0103】
(低アルコール飲料)
エチルアルコール(95%) 7.50L
果糖ぶどう糖液糖Bx=75° 5.20Kg
オレンジ透明濃縮果汁55° 0.80Kg
クエン酸(結晶) 0.35Kg
クエン酸三ナトリウム 0.05Kg
香料(実施例1〜40) 0.20Kg
水 適量
合計 100.00L
上記処方で得られた低アルコール飲料は、オレンジ様の香気・香味を有し、優れた清涼感、爽快感があり、優れた嗜好性を有していた。
【0104】
(低アルコール飲料)
エチルアルコール(95%) 7.30L
果糖ぶどう糖液糖Bx=75° 5.40Kg
グレープフルーツ1/7濃縮透明果汁 0.70Kg
クエン酸(結晶) 0.31Kg
クエン酸三ナトリウム 0.05Kg
香料(実施例81〜90) 0.20Kg
水 適量
合計 100.00L
上記処方で得られた低アルコール飲料は、グレープフルーツ様の香気・香味を有し優れた清涼感、爽快感があり、優れた嗜好性を有していた。」

甲8:
8a「

クエン酸濃度40%では、pHは1未満の強酸性になりました。濃度が下がれば、当然酸性も弱まり、pHは上昇します。それでも、0.1%ではpHが2.67と、まずまず強めの酸性を示しました。」(「クエン酸水溶液のpH(濃度別)の項)

甲9:
9a)「



」(1〜3頁)

甲10:
10a)「カリフォルニアざくろのカクテル」(1頁、表題)

10b)「

」(1頁、材料の項)

甲11(訳文で示す。):
11a)「

」(1361頁左欄、表2)

甲12(訳文で示す。):
12a)「

」(1030頁右欄、表2)

甲13(訳文で示す。):
13a)「シングルストレングスざくろ果汁には、2,216±70 mg/Lのフェノール類(94%はプニカラジン)が含まれている・・・」(74頁右欄6〜7行)

甲14:
14a)「1-2 ウォッカ(vodka)
・・・アルコールは40〜50%で,・・・」(446頁左欄9〜13行)

甲15:
15a)「4 ポリフェノールが味に与える影響
・・・
ポリフェノールは渋味あるいは苦味を呈する。・・・この渋味の閾値はプロシアニジンが1.48mg/L,ガロタンニンが1.69mg/Lと報告されており(表7),かなり低濃度でも感知することができるようである。」(34頁16〜28行)

15b)「

」(35頁、表7)

甲16:
16a)「(i)しかしながら、主引用発明の引用文献1等記載の発明は、令和1年10月17日付で提出した意見書内で説明しましたように、いずれも実施例に具体的に記載された飲料です。すなわち、引用発明は、課題を解決するために具体的に完成されたものであるため、その飲料における原料や製法なども実施例に記載された通りのものに限定されるべきです。そのため、引用発明を出発点として、これをアルコール飲料とすることは、当該実施例に記載された原料および製法などを変えることであり、引用発明で得られていた作用、効果、風味が変更することにつながります。そして、各引用文献全体の記載を参酌しても、どのようにすれば引用発明の作用、効果、風味を変えずに、アルコール飲料に変更することができるのか、記載も示唆もありません。すなわち、引用発明をアルコール飲料に変更することは、引用文献の開示を超えることであり、当業者といえども、引用発明を出発点として、アルコール飲料という相違点に係る構成を導くことは決して容易ではありません」(6〜7頁、(6−2)、(i)の項)

甲17:
17a)「

」(10頁)

2 甲1、5、10に記載された発明
甲1には、容器入り茶アルコール飲料についての記載があるところ(摘示1a〜1e)、表3のNo.12の飲料の記載からみて、
「アルコール度数が3%、紅茶抽出物である茶抽出物Aのタンニン量が0.01g/100mL、オレンジの果汁の使用量がBrix換算値(%)で3.4、Brix換算値/タンニン量が340である飲料。」の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。

甲5には、食品の香味劣化抑制剤についての記載があるところ(摘示5a〜5c)、試験例1及び2のレモン飲料の記載からみて、
「グラニュー糖5g、クエン酸0.1g、レモン香料0.1g及び水にて全量100gに調製し、作成したレモン飲料にカキタンニンを15又は5ppm添加した飲料。ただし、上記レモン香料は、以下の処方により作成されたものである。
レモン香料作成処方
メチル ヘプタノエート 0.50g
テルピネオール 1.00g
リナロール 1.00g
デカナール 1.25g
オクタナール 1.25g
ゲラニル アセテート 1.75g
シトラール 60.00g
レモンオイル 100.00g
リモネン 833.25g
合計 1000.00g」の発明(以下「甲5発明」という。)が記載されていると認める。

甲10には、カリフォルニアざくろのカクテルについての記載があるところ(摘示10a〜10b)、その材料の記載からみて、
「カリフォルニアザクロを搾った果汁30ml、ウォッカ45ml、グレープフルーツジュース45ml、ライム果汁15ml、ガムシロップ15ml、氷適量、飾り用オレンジの皮適量を材料とするカリフォルニアざくろのカクテル」の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されていると認める。

3 理由1−1、2−1(甲1を主引用例とする理由)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「飲料」は、アルコール度数が3%であるから、本件発明1の「アルコール飲料」に相当する。
甲1発明は「オレンジの果汁」を含むところ、甲2の記載(摘示2a〜2b)から、オレンジの果汁はリモネンを含有するといえるから、本件発明1の「リモネン」を含むことに相当する。
甲1発明は、紅茶抽出物である茶抽出物Aのタンニンを含有するといえるところ、甲3の記載から、紅茶がタンニンの1種であるプロアントシアニジンを含有するといえるから(なお、技術常識からみて甲3の「プロアントンアニジン酸」は「プロアントシアニジン」の誤記と認める。)、本件発明1の「ポリフェノール成分」を含み、「前記ポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分である」ことに相当する。
甲1発明は、多価不飽和脂肪酸エマルション、ワイン、果実ワインを含むものではない。
したがって、本件発明1と甲1発明とは、
「リモネンと、ポリフェノール成分とを含む、アルコール飲料であって、前記ポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分である、アルコール飲料(ただし、多価不飽和脂肪酸エマルションを含むもの、並びに、ワイン又は果実ワインを含むものを除く)。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−1−1>
本件発明1は「アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含」むと特定しているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。

<相違点1−1−2>
アルコール飲料について、本件発明1が「シトラス風味」と特定しているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。

<相違点1−1−3>
本件発明1は「ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの」を「除く」と特定しているのに対し、甲1発明はそのようなものに相当するか否かが不明である点。

事案に鑑みて、相違点1−1−3について検討する。
甲1には、「ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの」を「除く」ことは記載されていない。
甲1発明においてオレンジ果汁の使用量はBrix換算値(%)で3.4であるところ、そのことのみでは、本件発明1で除かれている「ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの」に該当するかは不明である。
甲17には、オレンジジュースの規格として、オレンジジュース(ストレート)の糖用屈折計示度が10°Bx以上であることが記載されているところ、「10°Bx以上」(下線は当審が付与。)とされているから、甲1発明においてBrix換算値(%)で3.4とされていても、その値から甲1発明の飲料におけるオレンジジュースのストレート換算での濃度を算定することはできず、甲1発明が「ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの」ではないということもできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明であるということはできない。

また、甲1には、「ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの」ではない飲料とすることについて何ら示唆がされていない。
甲2には、搾りたてのオレンジ果汁の果肉、濁液及び澄液中の揮発性化合物の分布についての記載(摘示2a〜2b)、甲3には、紅茶に含まれるプロアントシアニジン、タンニン等の量についての記載(摘示3a)、甲4には、各種飲料の主成分とう蝕誘発性リスク評価についての記載(摘示4a)がそれぞれあるのみであり、これら甲各号証の記載及び技術常識を参酌しても、甲1発明について、「ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの」を「除く」とすることが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
そして、本件発明1は、リモネンを含有する製品として、その劣化臭の生成が十分に抑制された製品を実現することができるという、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである(【0014】、実施例)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明2〜5について
本件発明2〜5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲1に記載された発明であるということはできず、甲1〜4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいうことはできない。

(3)まとめ
したがって、理由1−1、2−1は理由がない。

4 理由2−2(甲5を主引用例とする理由)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲5発明とを対比する。
甲5発明の「飲料」は飲料である限りにおいて、本件発明1の「アルコール飲料」に相当する。
甲5発明は「リモネン」を含有する。
甲5発明は「レモン香料」が添加された「レモン飲料」であるから、本件発明1の「シトラス風味」の「飲料」であるといえる。
甲5発明は「ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの、多価不飽和脂肪酸エマルションを含むもの、並びに、ワイン又は果実ワインを含むもの」ではない。
したがって、本件発明1と甲5発明とは、
「リモネンを含む、飲料であって、シトラス風味の飲料(ただし、ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの、多価不飽和脂肪酸エマルションを含むもの、並びに、ワイン又は果実ワインを含むものを除く)。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−5−1>
飲料について、本件発明1は「アルコール飲料」であるのに対し、甲5発明は「レモン飲料」である点。

<相違点1−5−2>
本件発明1は「ポリフェノール成分」を「含」み、「前記アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含み、前記ポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分である」と特定しているのに対し、甲5発明は、カキタンニンが所定量添加されているが、ポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分であることが特定されていない点。

事案に鑑みて、相違点1−5−2について検討する。
甲5には、レモン飲料にプロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分を所定量添加することについては記載も示唆もされていない。
甲6には、カキタンニンの成分はプロアントシアニジンのポリマーであることが記載されているが(摘示6a)、カキタンニンがプロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分であることは記載されていない。
甲7には、シトラス様香料組成物を含有する食品、各種果汁飲料、低アルコール飲料についての記載(摘示7a〜7d)、甲8には、クエン酸水溶液のpHについての記載(摘示8a)、甲9には、お酒の定義、酒税法に関する記載(摘示9a)が、それぞれあるのみであり、甲6〜9の記載及び技術常識を参酌しても、甲5発明1において、上記相違点1−5−2に係る本件発明1の技術的事項を採用することが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
そして、本件発明1は、リモネンを含有する製品として、その劣化臭の生成が十分に抑制された製品を実現することができるという、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである(【0014】、実施例)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲5〜9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明2〜5について
本件発明2〜5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲5〜9に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいうことはできない。

(3)まとめ
したがって、理由2−2は理由がない。

5 理由1−2、2−3(甲10を主引用例とする理由)について
(1)本件発明1について
本件発明1と甲10発明とを対比する。
甲10発明の「カクテル」は材料として「ウォッカ」を用いているから、本件発明1の「アルコール飲料」に相当する。
甲10発明は「カリフォルニアザクロを搾った果汁」、「グレープフルーツジュース」を含有するところ、甲11には、手絞りグレープフルーツジュースにリモネンが含まれること(摘示11a)、甲12には、ライムエッセンスにリモネンが含まれること(摘示12a)がそれぞれ記載されているから、甲10発明のカクテルは「リモネン」を含むといえる。
また、甲13には、シングルストレングスざくろ果汁には、2,216±70 mg/Lのフェノール類(94%はプニカラジン)が含まれていることが記載されているところ(摘示13a)、ブニカラジンはエラジタンニンであるから(本件明細書【0030】)、甲10発明が「カリフォルニアザクロを搾った果汁」をその材料とすることは、本件発明1の「ポリフェノール成分」「を含む」こと、「前記ポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分である」ことに相当する。
甲10発明は、カリフォルニアザクロを搾った果汁30ml、グレープフルーツジュース45ml及びライム果汁15mlを含有するところ、それらを合わせたカクテル中の濃度は60%であり、また、「多価不飽和脂肪酸エマルションを含むもの、並びに、ワイン又は果実ワインを含むもの」ではない。
してみると、本件発明1と甲10発明とは、
「リモネンと、ポリフェノール成分とを含む、アルコール飲料であって、前記ポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分である、アルコール飲料(ただし、ストレート換算で3〜30%の果汁を含むもの、多価不飽和脂肪酸エマルションを含むもの、並びに、ワイン又は果実ワインを含むものを除く)。」である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1−10−1>
本件発明1が「アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含」むと特定しているのに対し、甲10発明はそのような特定をしていない点。

<相違点1−10−2>
アルコール飲料について、本件発明1が「シトラス風味の」と特定しているのに対し、甲10発明はそのような特定をしていない点。

事案に鑑みて、相違点1−10−1について検討する。
甲10には、アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含むことは記載されていない。
甲13には、シングルストレングスざくろ果汁には、2,216±70 mg/Lのフェノール類(94%はプニカラジン)が含まれていることが記載されているところ(摘示13a)、仮に甲10発明のカリフォルニアザクロを搾った果汁が甲13に記載の2,216 mg/Lのフェノール類(94%はプニカラジン)を含有するとした場合、甲10発明のカクテルにおけるブニカラジンの濃度は、約417ppm(2216×0.94×30/150)と算出される。
しかし、甲10発明のカクテルには、グレープフルーツジュース、ライム果汁が相当量含まれており、これらにプロアントシアニジン、エラジタンニン又はガロタンニンが一切含まれていないかは不明であるから、甲10発明が、ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含むか否かは不明である(なお、特表2014−501764号公報、【0096】には、ライムにエラジタンニンが含まれることが記載されている。)。
そして、甲10発明が「アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含」むということもできない。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲10に記載された発明であるということはできない。

また、甲10には、アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含むものとすることは示唆されていない。
甲11には、手絞りグレープフルーツジュース中の重要香気成分の濃度についての記載(摘示11a)、甲12には、ライムエッセンスで識別された化合物についての記載(摘示12a)、甲13には、シングルストレングスざくろ果汁に含まれるフェノール類ついての記載(摘示13a)、甲14には、ウォッカについての記載(摘示14a)、甲4には、各種飲料の主成分とう蝕誘発性リスク評価についての記載(摘示4a)がそれぞれあるのみであり、これら甲各号証の記載及び技術常識を参酌しても、甲10発明について、「アルコール飲料全体に対して、前記ポリフェノール成分を0.01ppm以上500ppm以下含」むとすることが当業者が容易になし得た事項であるということはできない。
そして、本件発明1は、リモネンを含有する製品として、その劣化臭の生成が十分に抑制された製品を実現することができるという、当業者が予測し得ない顕著な効果を奏するものである(【0014】、実施例)。
したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲10〜14、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(2)本件発明2〜5について
本件発明2〜5はいずれも本件発明1を直接的・間接的に引用してさらに技術的事項を限定した発明であるから、本件発明1と同様に、甲10〜14、4に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいうことはできない。

(3)まとめ
したがって、理由1−2、2−3は理由がない。

6 理由3について
(1)理由3の具体的な理由の概要
本件発明1はアルコール飲料中のポリフェノール含量が0.01〜500ppmであることが規定されているが、本件明細書の実施例1〜16には、添加されたポリフェノール量は0.1ppm又は1.0ppmの2例の記載しかない。
一方、本件明細書【0018】には、ポリフェノール成分は限られた添加量であっても十分な劣化臭生成抑制作用を示すことから、リモネン含有製品に対して、ポリフェノール成分に由来する良好な後味を付与しつつ、リモネンの劣化を抑制することができることが、【0032】には、リモネン含有製品が飲料や食料品である場合、良好な後味を付与する観点から、ポリフェノール成分の添加量の上限値が決まり、「ポリフェノール成分の添加量の上限値を3,000ppm以下とすることができ、より好ましくは1,000ppm以下とすることができ、さらに好ましくは500ppm以下とすることができる。」と記載されている。
ここで、甲15には、ポリフェノール成分であるプロシアニジン、ガロタンニンの渋み閾値はそれぞれ1.48mg/L(=l.48ppm)、1.69mg/L(=1.69ppm)であることが記載されており、500ppm以下の高濃度では、良好な後味が付与されるとは到底考えられない。
また、ポリフェノール成分を1ppmを超え500ppm以下の高濃度で飲料に配合した場合であってもポリフェノール成分に由来する良好な後味を付与することができる(すなわち、本件発明の課題が解決される)という知見が、本件出願時における技術常識であったということでもない。
したがって、実施例1〜16のポリフェノール量0.1ppm又は1.0ppmのみの試験結果をもって、1ppmを超え500ppm以下の範囲にまで、実施例に開示された内容を拡張ないし一般化することはできない。
よって、本件発明1〜5は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えるものである。

(2)判断の前提
以下の観点に立って判断する。
特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(3)発明の詳細な説明の記載
a)「【技術分野】
【0001】
本発明は、アルコール飲料に関する。
・・・
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明者らは、上述のシトラスフレーバーに含まれる香気成分のうち、リモネンを効果的に劣化抑制する技術の開拓を目指し、検討を行った。
ここで、上記の文献のうち、特許文献1〜3に開示される技術は、シトラールに対して劣化臭の生成を抑制することができることが示されているものの、リモネンに対して劣化を抑制できるかは不明であった。
また、特許文献4に開示される技術について、エリオシトリンを30%含むエリオシトリン含有物によりリモネンの残存率を高めることができることが示されている。しかしながら、このエリオシトリン含有物の添加量として200ppm(有効成分として60ppm)もの添加量が必要となり、少量でも効果的にリモネンの劣化抑制ができる技術を開拓するだけの余地があった。
【0009】
このような事情を鑑み、本発明はリモネンの香気を効果的に保つための劣化臭生成抑制方法、また、リモネンの劣化臭の生成が十分に抑制された製品を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の課題を解決するために、本発明者らが鋭意検討したところ、リモネンを含有する製品に、特定のポリフェノールを作用させた際、極めて顕著な劣化臭抑制作用が発揮されることを見出した。
また、このように顕著な劣化臭抑制作用をもたらすことから、限られた添加量であっても十分に劣化臭の生成を抑制することができる。
また、このような知見に基づくことにより、リモネンを含有する製品として、その劣化臭の生成が十分に抑制された製品を実現することができる。
・・・
【発明の効果】
【0014】
本発明の劣化臭生成抑制方法においては、リモネンを含有する製品に対して、特定のポリフェノール成分を添加することで劣化臭の生成を抑制する。
ここで、この特定のポリフェノール成分は、従来存在する添加剤よりも顕著にリモネンの劣化を抑制することができ、少量の添加であっても十分に効果を発揮することができる。
また、このような知見に基づき、リモネンを含有する製品として、その劣化臭の生成が十分に抑制された製品を実現することができる。」

b)「【0017】
すなわち、本実施形態に係る劣化臭生成抑制方法は、リモネンを含有する製品に対して、特定のポリフェノール成分を添加するものであり、これによって、リモネンに対して加熱や長期保存を行った際に生じる劣化臭成分の生成を抑制することができる。
【0018】
ここで、本実施形態の劣化臭生成抑制方法に用いられる特定のポリフェノール成分は、極めて高い劣化臭生成抑制作用を示す。
一方、ポリフェノールは一般的に渋みを呈することが知られており、たとえば飲料や食品等のリモネン含有製品に対して、少量のポリフェノールを添加する場合は良好な後味を付与することができる。
すなわち、このポリフェノール成分は限られた添加量であっても十分な劣化臭生成抑制作用を示すことから、たとえば、飲料や食品等のリモネン含有製品に対して、ポリフェノール成分に由来する良好な後味を付与しつつ、リモネンの劣化を抑制することができる。
【0019】
(リモネンを含有する製品)
・・・
このリモネンを含有する製品として、より具体的には、リモネンを含む飲料や食品、また、香粧品を挙げることができる。
本実施形態においては、後述する特定のポリフェノール成分を含有させることによりリモネンに由来する劣化臭成分の生成が抑制された製品が提供される。
【0020】
飲料としては、清涼飲料、アルコール飲料、乳酸菌飲料、無果汁飲料、果汁入り飲料、紅茶、緑茶、栄養ドリンクなどの飲料が挙げられ、・・・
これらのなかでも、本実施形態の劣化臭生成抑制方法は、製品が飲料である場合にとくに好ましく用いられる。
以下、リモネン含有製品が飲料である場合を例示して、説明を続ける。
【0021】
本実施形態に係る飲料としてはアルコール飲料であってもよく、またノンアルコール飲料であってもよい。なお、アルコール飲料としてのアルコール濃度の下限値は、たとえば1%以上であり、好ましくは2%以上であり、より好ましくは3%以上である。
また、アルコール飲料としてのアルコール濃度の上限値は、たとえば25%以下であり、好ましくは20%以下である、より好ましくは18%以下である。
【0022】
本実施形態に係る飲料のpHに関して、リモネンは、飲料のpHが低くなるほど、変性を起こしやすくなり、結果として、劣化臭を招く化合物を生成しやすくなる傾向がある。
このことから、本実施形態に係る劣化臭生成抑制方法においては、飲料が酸性、すなわち、飲料のpHが7未満である場合に、その効果が顕著なものとなる。・・・
【0023】
また、上記のようなpHに調整するために、適宜、飲料に対してpH調整剤を添加することもできる。このpH調整剤としては、設計する製品に合わせて適宜選択すればよいが、例えばクエン酸のようなカルボン酸やクエン酸ナトリウムのようなカルボン酸塩等が挙げられる。
また、このpH調整剤は、製品のpHを逐次観測しながら、添加量を調整すればよい。
【0024】
本実施形態の劣化臭生成抑制方法においては、加熱時や保存時において、劣化成分がリモネンから生成することを抑制する。
たとえば、本実施形態の劣化臭生成抑制方法においては、加熱時や保存時においてリモネンから発生するp−サイメンの生成を抑制する。
本発明者らは、このp−サイメンに由来する灯油のような臭いがリモネンの香気を損なう原因となることを見出した。また、本実施形態の劣化臭生成抑制方法によりこのp−サイメンの生成を効果的に抑制できることから、結果として、効果的にリモネンの香気を保つことができることを見出した。
【0025】
本実施形態において、製品の全体におけるリモネンの含有量は、設計する製品に合わせて適宜設定することができる。
このリモネンの含有量の下限値としては、たとえば製品の全体に対して0.05ppm以上であり、好ましくは0.1ppm以上であり、より好ましくは0.5ppm以上である。
また、リモネンの含有量の上限値は、たとえば製品の全体に対して3,000ppm以下であり、好ましくは2,000ppm以下であり、より好ましくは1,000ppm以下である。
・・・
【0027】
(ポリフェノール成分)
続いて、本実施形態の劣化臭生成抑制方法に用いられるポリフェノール成分について説明する。
【0028】
本実施形態の劣化臭生成抑制方法に用いられるポリフェノール成分は、プロアントシアニジン、エラジタンニンおよびガロタンニンからなる群から選ばれる1種又は2種以上のポリフェノール成分である。
【0029】
プロアントシアニジンは、エピカテキン、カテキン、エピガロカテキン、ガロカテキンが複数個重合した構造を有するポリフェノールであり、その具体例としては、プロシアニジンA1(Procyanidin A1)、プロシアニジンA2(Procyanidin A2)、プロシアニジンB1(Procyanidin B1)、プロシアニジンB2(Procyanidin B2)、プロシアニジンB3(Procyanidin B3)、プロシアニジンC1(Procyanidin C1)、プロシアニジンC2(Procyanidin C2)、プロデルフィニジンB1(ProdelphinidinB1)、プロデルフィニジンB2(ProdelphinidinB2)、プロデルフィニジンB3(ProdelphinidinB3)等が挙げられる。
また、本実施形態のプロアントシアニジンにおけるカテキンの重合態様としては、上で列挙した化合物群の態様に限定されるものでなく、その位置異性体も含まれるものである。また、プロアントシアニジンにはガロイル化されたもの、配糖体化されたものも存在しており、これらも同様の効果を示すと考えられる。
また、劣化臭生成抑制作用の向上等を目的として、プロアントシアニジンに対して特定の化学変換を行った誘導体も本実施形態の劣化臭生成抑制方法に適用することができる。
本実施形態の劣化臭生成抑制方法においては、上記のプロアントシアニジンのうち、プロシアニジンB2、プロシアニジンB1、プロシアニジンC1がとくに好ましく用いられる。
【0030】
エラジタンニンとしては加水分解によりエラグ酸を与える、ヘキサヒドロキシジフェニル基、サングイソルボイル基、ガロイル基を有する化合物が挙げられる。
具体的には、プニカラジン(Punicalagin)、プニカリン(Punicalin)、カスタラジン(Castalagin)、ベスカラジン(Vescalagin)オイゲニイン(Eugeniin)、サングイインH−1(Sanguiin H−1)、サングイインH−4(Sanguiin H−4)、2,3−ヘキサヒドロキシジフェノイルグルコース(2,3−hexahydroxydiphenoylglucose)、4,6−ヘキサヒドロキシジフェノイルグルコース(4,6−hexahydroxydiphenoylglucose)、ケブラグ酸(Chebulagic acid)、ゲラニイン(Geraniin)、グラナチンA(Granatin A)、グラナチンB(Granatin B)、エラエオカルプシン(Elaeocarpusin)、コリラギン(Corilagin)、コルヌシインA(Cornusiin A)、コルヌシインB(Cornusiin B)、アグリモニイン(Agrimoniin)、エンブリカニン(Emblicanin)、プニグルコニン(Punigluconin)、テリマグランジンI(Tellimagrandin I)、テリマグランジンII(Tellimagrandin II)、カスアリクチン(Casuarictin)、ペデュンクラギン(Pedunculagin)、ケブリン酸(Chebulic acid)等が挙げられる。
本実施形態の劣化臭生成抑制方法においては、上記のエラジタンニンのうち、プニカラジン、プニカリン、カスタラジン、ベスカラジン、オイゲニイン、テリマグランジンI、テリマグランジンIIが好ましく用いられる。また、これらの中でもプニカラジン、オイゲニイン、テリマグランジンIがとくに好ましく用いられる。
【0031】
ガロタンニンとしては、タンニン酸(tannic acid)、ハマメリタンニン(Hamamelitannin)、モノガロイルグルコース(monogalloylglucose)、ジガロイルグルコース(digalloylglucose)、トリガロイルグルコース(trigalloylglucose)、テトラガロイルグルコース(tetragalloylglucose)、ペンタガロイルグルコース(pentagalloylglucose)、ヘキサガロイルグルコース(hexagalloylglucose)、ヘプタガロイルグルコース(heptagalloylglucose)、オクタガロイルグルコース(octagalloylglucose)、ノナガロイルグルコース(nonagalloylglucose)、デカガロイルグルコース(decagalloylglucose)、ウンデカガロイルグルコース(undecagalloylglucose)、ドデカガロイルグルコース(dodecagalloylglucose)等が挙げられる。
本実施形態の劣化臭生成抑制方法においては、上記のガロタンニンのうち、タンニン酸、ハマメリタンニンがとくに好ましく用いられる。
【0032】
本実施形態の劣化臭生成抑制方法においては、上記のポリフェノール成分をリモネン含有製品に対して添加することで達成される。
その添加量は、適用させる製品の種類等に応じ適宜設定することができるが、リモネン含有製品全体に対して、たとえば0.01ppm以上であり、好ましくは0.1ppm以上、より好ましくは0.5ppm以上、さらに好ましくは1ppm以上である。ポリフェノール成分の添加量をこのように設定することでリモネンの劣化を十分に抑制することができる。
また、ポリフェノール成分の添加量の上限値はとくに限定されないが、たとえばリモネン含有製品全体に対して30,000ppm以下である。
また、リモネン含有製品が飲料や食料品である場合、良好な後味を付与する観点から、このポリフェノール成分の添加量の上限値を3,000ppm以下とすることができ、より好ましくは1,000ppm以下とすることができ、さらに好ましくは500ppm以下とすることができる。
【0033】
(香料組成物)
上述の劣化臭生成抑制方法においては、リモネンを含有する製品に対して、特定のポリフェノールを添加する態様を示したが、他の実施形態として、事前にリモネンと、ポリフェノール成分とを含有する香料組成物を調製しておき、この香料組成物を各種製品に添加することで所望の効果を発現することもできる。
・・・
【0035】
ここで、先述の通り、リモネンは加熱時や長期保存時、また、pHの低い環境におかれることにより、変性を招きやすくなる。これに対し、本実施形態の香料組成物においては、ポリフェノール成分を添加することで十分にリモネンの劣化を抑制することができる。
この香料組成物に関する具体的な態様として、香料組成物を不活性ガスとともに容器に収容した上で密閉し、冷暗所に保管することが、シトラスフレーバー固有の香気を保つ観点から好ましい態様である。」

c)「【実施例】
・・・
【0038】
まず、本実施例項において、飲料中に含まれる成分の量はガスクロマトグラフィ(GC)分析を用いて定量を行っている。この分析の手順は以下に示す通りである。
・・・
【0039】
(実施例1)
モデル液として、アルコール濃度5.0%、リモネン10ppmを含む飲料を用意し、この飲料のpHを、クエン酸およびクエン酸三ナトリウムを用いてpHが3.0となるように調整した。なお、ここでpHは東亜ディーケーケー社製のpHメーター HM−30Rを用いて測定した。
この飲料に対し、プロアントシアニジンに属するポリフェノールであるプロシアニジンB2を飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表1に示した。
【0040】
(実施例2)
実施例1の方法において、プロシアニジンB2の添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例1と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表1に示した。
【0041】
(実施例3)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対して、エラジタンニンに属するポリフェノールであるプニカラジンを、飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表1に示した。
【0042】
(実施例4)
実施例3の方法において、プニカラジンの添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例3と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表1に示した。
【0043】
(実施例5)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対して、ガロタンニンに属するポリフェノールであるタンニン酸を、飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量の量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表1に示した。
【0044】
(実施例6)
実施例5の方法において、タンニン酸の添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例5と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表1に示した。
【0045】
【表1】


【0046】
(実施例7)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対し、プロアントシアニジンに属するポリフェノールであるプロシアニジンB1を飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表2に示した。
【0047】
(実施例8)
実施例7の方法において、プロシアニジンB1の添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例7と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表2に示した。
【0048】
(実施例9)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対して、プロアントシアニジンに属するポリフェノールであるプロシアニジンC1を、飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表2に示した。
【0049】
(実施例10)
実施例9の方法において、プロシアニジンC1の添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例9と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表2に示した。
【0050】
(実施例11)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対して、エラジタンニンに属するポリフェノールであるオイゲニインを、飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量の量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表2に示した。
【0051】
(実施例12)
実施例11の方法において、オイゲニインの添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例11と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表2に示した。
【0052】
(実施例13)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対して、エラジタンニンに属するポリフェノールであるテリマグランジンIを、飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量の量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表2に示した。
【0053】
(実施例14)
実施例13の方法において、テリマグランジンIの添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例13と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表2に示した。
【0054】
(実施例15)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対して、ガロタンニンに属するポリフェノールであるハマメリタンニンを、飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した上で、37℃の温度にて7日間静置した。静置後、飲料に含まれるp−サイメンの量の量を定量した。
このp−サイメンの含有量について、後述する比較例1における含有量との比として表2に示した。
【0055】
(実施例16)
実施例15の方法において、ハマメリタンニンの添加量を1.0ppmに調整する以外は、実施例15と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれるp−サイメンの量を定量した。結果は表2に示した。
【0056】
(比較例1)
実施例1と同様の方法で調製した飲料に対して、何も添加することなく、実施例1と同様の方法で静置を行い、飲料中に含まれる各成分の量を定量した。この比較例1の結果を対照(100%)として表1および表2に示した。
【0057】
【表2】

【0058】
以上の表1、2の結果から、リモネンを有する飲料に対して、プロアントシアニジン、エラジタンニン、ガロタンニンのいずれかのポリフェノール成分を加えることで、リモネンの劣化を顕著に抑制することができることが認められる。このポリフェノール成分の添加量は従来提案されていたものよりも少ないものであり、本願で用いられるポリフェノール成分の効果の顕著性が認められる。」

(4)判断
ア 課題
本件明細書(特に【0009】)及び特許請求の範囲の全体の記載事項並びに出願時の技術常識からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「リモネンの劣化臭の生成が十分に抑制された製品を提供すること」であると認める。

イ 判断
上記課題に関して、本件の発明の詳細な説明には、リモネンを含有する製品に、特定のポリフェノールを作用させた際、極めて顕著な劣化臭抑制作用が発揮されることを見出したこと、顕著な劣化臭抑制作用をもたらすことから、限られた添加量であっても十分に劣化臭の生成を抑制することができること、リモネンを含有する製品として、その劣化臭の生成が十分に抑制された製品を実現することができること(【0010】)、ポリフェノールは一般的に渋みを呈することが知られており、たとえば飲料や食品等のリモネン含有製品に対して、少量のポリフェノールを添加する場合は良好な後味を付与することができること、ポリフェノール成分は限られた添加量であっても十分な劣化臭生成抑制作用を示すことから、たとえば、飲料や食品等のリモネン含有製品に対して、ポリフェノール成分に由来する良好な後味を付与しつつ、リモネンの劣化を抑制することができること(【0018】)、リモネンを含有する製品としてアルコール飲料があること、アルコール濃度に関する事項(【0019】〜【0021】)、pHに関する事項(【0022】〜【0023】)、本発明者らは、このp−サイメンに由来する灯油のような臭いがリモネンの香気を損なう原因となることを見出し、本実施形態の劣化臭生成抑制方法によりこのp−サイメンの生成を効果的に抑制できることから、結果として、効果的にリモネンの香気を保つことができることを見出したこと(【0024】)、リモネンの含有量に関する事項(【0025】)、ポリフェノール成分の種類及びその量に関する事項(【0027】〜【0032】)が記載されている。
また、実施例1〜16、比較例1として、各種ポリフェノール成分を0.1又は1.0ppm、リモネンを含むアルコール飲料及びフェノール類を含まないアルコール飲料について、p−サイメンの分析結果が示されており、ポリフェノール成分を加えることで、リモネンの劣化を顕著に抑制できることが認められること(【0058】)が記載されている。
したがって、本件発明の詳細な説明には、本件発明における各成分及びその量等についての記載、ポリフェノール成分を配合することの技術的意義の記載、及びその具体的な裏付けの記載があるといえることから、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、当業者が、出願時の技術常識に照らし、上記課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。
よって、本件発明は発明の詳細な説明に記載したものである。

特許異議申立人の主張について、特許異議申立人は「良好な後味を付与」することが本件発明の課題であることを前提とした主張であると認められるところ、本件発明の解決しようとする課題は上記アで示したとおりであり、「良好な後味を付与」することは課題ではないから、当該主張はその前提において誤りがあり採用できない。
仮に、良好な後味を付与することが本件発明の解決しようとする課題であったとしても、本件発明におけるポリフェノール成分の濃度について、本件明細書には、「リモネン含有製品が飲料や食料品である場合、良好な後味を付与する観点から、このポリフェノール成分の添加量の上限値を3,000ppm以下とすることができ、より好ましくは1,000ppm以下とすることができ、さらに好ましくは500ppm以下とすることができる。」との記載があり(【0032】)、この記載から、当業者はポリフェノール成分の濃度が500ppmであっても良好な後味が付与されると理解するといえる。甲15で示された閾値は、pH4.5の水溶液において渋味を感じる最低濃度を示しているに過ぎず、当該閾値を超えた濃度であるからといって、リモネンを含有するアルコール飲料において良好な後味が付与されないということはできない。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(5)まとめ
したがって、理由3は理由がない。

7 理由4について
(1)理由4の具体的な理由の概要
令和1年10月17日付け手続補正書によって、請求項1の「リモネンと、ポリフェノール成分とを含むリモネン含有製品」が、「リモネンと、ポリフェノール成分とを含むアルコール飲料」に補正され、リモネン含有製品がアルコール飲料に特定された。
本件出願に係る令和2年7月9日付け意見書(甲16)の(6)(6−2)(i)において、特許権者は、「しかしながら、主引用発明の引用文献1等記載の発明は、・・・すなわち、引用発明をアルコール飲料に変更することは、引用文献の開示を超えることであり、当業者といえども、引用発明を出発点として、アルコール飲料という相違点に係る構成を導くことは決して容易ではありません。」と述べて、アルコール飲料とレモン飲料の差異を強調している。
しかしながら、本件明細書の【0039】に「アルコール濃度5.0%、リモネン10ppmを含む飲料をpHが3.0となるように調整し、この飲料に対し、プロシアニジンB2を飲料全体の0.1ppmとなるように添加し、密栓した」とあるだけで、アルコールを含まない、例えば上記引用文献1(特開平6−38723号公報) のレモン飲料やオレンジ飲料の原料や製法と全く変わらない。要するに、単に溶媒を水からアルコール水溶液(5%の低濃度)に変えただけに過ぎない。
また、本件発明1〜5は物の発明であり、物を生産する方法の発明ではない。
よって、本件発明1〜5において「アルコール飲料」に特定した意味が不明確である。

(2)判断の前提
以下の観点に立って判断する。
特許法第36条第6項第2号は、特許請求の範囲の記載に関し、特許を受けようとする発明が明確でなければならない旨規定する。この趣旨は、特許請求の範囲に記載された発明が明確でない場合には、特許の付与された発明の技術的範囲が不明確となり、第三者に不測の不利益を及ぼすことがあり得るため、そのような不都合な結果を防止することにある。そして、特許を受けようとする発明が明確であるか否かは、特許請求の範囲の記載のみならず、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、当業者の出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。

(3)判断
一般的に、「アルコール飲料」とはアルコールを含有する飲料のことをいうといえ(広辞苑、第六版、DVD−ROM版、「アルコール飲料」の項)、本件明細書にも、それと矛盾する記載はない(例えば【0021】)。
したがって、本件発明における「アルコール飲料」は明確であり、第三者に不測の不利益を及ぼすほどに不明確であるということはできない。
特許異議申立人の主張は、アルコール飲料に特定した意味が不明確であるというものであるが、たとえ、アルコール飲料に特定した意味が不明確であったとしても、そのことにより、特許請求の範囲の「アルコール飲料」との記載が不明確となるということはできず、上述のとおり、「アルコール飲料」に不明確な点はない。
なお、特許異議申立人は、「もし仮に、本特許明細書に開示されていない、アルコール飲料製造に必要な特別な工程等があるならば、本特許はサポート要件や実施可能要件を満たしていないことになる。」とも主張するが、本件発明のアルコール飲料の製造に、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されていない「特別な工程等」が必要であるという根拠を見出すことはできず、本件発明のアルコール飲料は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載により当業者がその課題を解決できると認識できるものであり、また、当業者が製造することができるものであると認める。
したがって、特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(4)まとめ
したがって、理由4は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠方法によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-11-19 
出願番号 P2015-174035
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 113- Y (A23L)
P 1 651・ 537- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 冨永 保
吉岡 沙織
登録日 2021-01-27 
登録番号 6829935
権利者 アサヒビール株式会社
発明の名称 アルコール飲料  
代理人 速水 進治  

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