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審決分類 審判 一部申し立て 2項進歩性  G01K
審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  G01K
管理番号 1384166
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-05 
確定日 2021-12-20 
異議申立件数
事件の表示 特許第6830278号発明「温度センサ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6830278号の請求項1、3、4、5、6に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第6830278号(以下「本件特許」という。)に係る特許出願は、令和元年12月24日にしたものであり、令和3年1月28日にその特許権の設定の登録がされ、同年2月17日にその特許掲載公報が発行された。本件特許の特許請求の範囲に記載された請求項の数は6である。
これに対して、令和3年8月5日に特許異議申立人青木ゆい(以下「申立人」という。)は、証拠として甲1号証〜甲4号証を提出し、本件特許の請求項1、3、4、5、6について特許異議の申立てをした。


第2 本件発明
本件特許の請求項1〜6に係る発明(以下、請求項の番号に従い「本件発明1」等という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された次の事項により特定されるとおりのものである。

「【請求項1】
サーミスタと、先端が該サーミスタに接続された一対の引き出し線と、該サーミスタと該一対の引き出し線の先端部をシールするガラスと、先端が該一対の引き出し線の各々の後端に接続された一対のリード線と、該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部を被覆する合成樹脂製被覆層とを含む温度センサにおいては、
該被覆層はチューブ形状であり、チューブ形状の内層と外層とを予め積層した状態で弾性的に拡張して、該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部に強制的に被嵌し、次いで加熱して該内層を溶融し該外層を収縮することによって配設され、該ガラスの周表面は該外層の内面に直接的に接触せしめられている、ことを特徴とする温度センサ。
【請求項2】
該ガラスの周表面は円筒形状であり、予め積層した該内層と該外層とを該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部に強制的に被嵌する前の状態において、該外層の内径は該ガラスの外径と同一である、請求項1記載の温度センサ。
【請求項3】
該内層はテトラフルオロエチレン・パールオロアルキルビニルエーテル共重合体製であり、該外層はポリテトラフルオロエチレン製である、請求項1又は2記載の温度センサ。
【請求項4】
該一対の引き出し線の各々の該先端部以外の部分には、熱硬化性合成樹脂製チューブが被嵌されている、請求項1から3までのいずれかに記載の温度センサ。
【請求項5】
該チューブはポリイミド、ポリアミド又はポリアミドイミドから形成されている、請求項4記載の温度センサ。
【請求項6】
該一対の引き出し線の一方の該後端と該一対のリード線の一方の該先端との接続部は、該一対の引き出し線の他方の該後端と該一対のリード線の他方の該先端との接続部よりも長手方向前方に位置し、該被覆層は小外径前部、該前部に続く後方に向かって外径が漸次増大する第一の増径部、該第一の増径部に続く中外径中間部、該中間部に続く後方に向かって外径が漸次増大する第二の増径部、及び該第二の増径部に続く大外径後部を有し、該一対の引き出し線の該一方の該後端と該一対のリード線の該一方の該先端との該接続部は、該第一の増径部の後端部と該中間部の前端部とに跨って位置し、該一対の引き出し線の該他方の該後端と該一対のリード線の該他方の該先端との該接続部は、該第二の増径部の後端部と該後部の前端部とに跨って位置する、請求項1から5までのいずれかに記載の温度センサ。」


第3 申立理由の概要
1 申立理由の概要
(1) 申立理由1
申立人は、甲1号証を主引用文献とし、甲2号証を副引用文献として、本件発明1、3は、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項1、3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号により取り消すべきものである旨主張する。
また、甲1号証を主引用文献とし、甲2号証及び甲3号証を副引用文献として、本件発明4、5は、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項4、5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号により取り消すべきものである旨主張する。

(2) 申立理由2
申立人は、甲2号証を主引用文献とし、甲1号証を副引用文献として、本件発明1、3は、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項1、3に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号により取り消すべきものである旨主張する。
また、甲2号証を主引用文献とし、甲1号証及び甲3号証を副引用文献として、本件発明4、5は、当業者が容易に発明することができたものであり、請求項4、5に係る特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであるから、同法113条2号により取り消すべきものである旨主張する。

(3) 申立理由3
申立人は、請求項6に記載の「該一対の引き出し線の該一方の該後端と該一対のリード線の該一方の該先端との該接続部は、該第一の増径部の後端部と該中間部の前端部とに跨って位置」することが、発明の詳細な説明における実施形態に開示されておらず、本件発明6は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えているから、請求項6に係る特許は、特許法36条1項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法113条4号により取り消すべきものである旨主張している。


2 申立人が提出した証拠
申立人は、以下の文書を証拠方法として提出した。
(以下、各甲号証を文献の番号に従い「甲1文献」等という。)

甲1号証:国際公開第2019/087755号
甲2号証:国際公開第2018/167903号
甲3号証:特開2001−52906号公報
甲4号証:本件特許(特許第6830278号)の図1を含む説明資料


第4 引用文献、引用発明等
1 甲1文献
(1) 甲1文献の記載事項
甲1文献には以下の記載がある(下線は当審が付した。以下同様。)。
「[0003] そこで、従来、サーミスタ素子と、引出し線とリード線の接続部位を内層用チューブと外層用チューブとの樹脂被覆層で被覆し、直方体形状の外観を有するように成形された温度センサが提案されている(特許文献1参照)。
[0004] しかしながら、この温度センサは、内層用チューブと外層用チューブとの二重のチューブで形成されているため、厚さ寸法を薄くすることが困難であり、また、被測温物との接触面積を広くすることや被測温物の被測温面の形状に合わせて、例えば、曲面形状に形成することが困難であるという問題が生じる。
一方、一対の絶縁シートの間に感熱素子を配置し、一対の絶縁シートを接着剤で貼着した温度センサが知られている(特許文献2及び特許文献3参照)。
[0005] しかしながら、この温度センサは、絶縁シートが内層、外層の二重構造を構成するものではなく、また、感熱素子の厚さ寸法分が外面側に突出し、絶縁シートが平坦状になり難いという課題が生じる。
[0006]特許第5830636号公報特開平8−54292号公報特開平8−110268号公報特開2004−233267号公報特開2010−123641号公報
[0007] 本発明が解決しようとする課題は、厚さ寸法を薄くし、被測温物との接触面積を広くすることが可能で、測定精度を向上することができる温度センサ及び温度センサを備えた装置を提供することである。」

「[0017] 以下、本発明の第1の実施形態に係る温度センサについて図1乃至図5を参照して説明する。図1乃至図3は温度センサを示し、図4及び図5は温度センサを被測温物に配置した状態を示している。なお、各図において、同一又は相当部分には、同一符号を付し重複する説明を省略する。また、各図では、各部材を認識可能な大きさとするために、各部材の縮尺を適宜変更している。
図1乃至図3に示すように、温度センサ1は、サーミスタ素子2と、引出し線3と、リード線4と、被覆層5とを備えている。
[0018] サーミスタ素子2は、サーミスタ焼結体の感温焼結であり、マンガン(Mn)、ニッケル(Ni)、コバルト(Co)、鉄(Fe)、イットリウム(Y)、クロム(Cr)、銅(Cu)、亜鉛(Zn)等の遷移金属元素の中から選ばれる2種あるいはそれ以上の元素から構成され、結晶構造を有する複合金属酸化物を主成分として含む酸化物のサーミスタ材料で構成される。また、特性向上等のために副成分が含有されていてもよい。主成分、副成分の組成及び含有量は、所望の特性に応じて適宜決定することができる。
[0019] また、サーミスタ素子2は、ガラス等の封止材によって被覆されている。これにより、高温の環境下で温度センサ1が使用される場合にもサーミスタ素子2を効果的に保護することができる。
[0020] 引出し線3は、導電性を有し、サーミスタ素子2の表面に形成された金、銀、銅及び白金等の電極に溶着又ははんだ付け等によって電気的に接続されてガラス等の封止材から導出されている。この引出し線3は、単一の導線から構成され、その材料には、ジュメットや42アロイが好適に用いられる。引出し線3の材料としては、銅(Cu)、鉄(Fe)、クロム(Cr)、ニッケル(Ni)、アルミ(Al)、亜鉛(Zn)、チタン(Ti)又はこれらの少なくとも1種を含む合金を用いることができる。
[0021] この引出し線3は、リード線4に電気的に接続されている。リード線4は、絶縁被覆41された撚り線からなる電線であり、各芯線42が引出し線3に半田付け、溶接や圧着等で電気的に接続される。したがって、引出し線3とリード線4との接続によって接続部位が形成される。なお、リード線の形態は、単線、角線、撚り線等の任意のものが適用可能である。
なお、サーミスタ素子2の形態は、チップサーミスタ及び薄膜サーミスタにリード線4を電気的に接合したものでもよい。
[0022] 被覆層5は、サーミスタ素子2、引出し線3及び引出し線3とリード線4との接続部位を覆って、これらを周囲環境から保護するものである。被覆層5は樹脂材料、例えば、フッ素樹脂から形成されていて内層6及び外層7から構成されている。
[0023] 具体的には、内層6は、フッ素樹脂のFEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共同合体したフッ素樹脂)から形成されており、FEPが溶解して凝固した状態でサーミスタ素子2等が被覆されている。
[0024] 後述の温度センサ1の製造方法で説明するように、内層6は、一対のシート状の樹脂材料(第1の内層材61、第2の内層材62)を加熱して溶解して凝固させたものであり、もともとは一対(2枚)のシート状の樹脂材料が溶解して一体となって単層化したものである。内層6の厚さ寸法は1mm〜1.25mm程度である。
[0025] 外層7は、一対のシート状の樹脂材料、例えば、フッ素樹脂のPTFE(四フッ化エチレン)から形成されており、第1の外層材71及び第2の外層材72を有している。第1の外層材71及び第2の外層材72は、略長方形状で表面が平坦状に形成されており、長さ寸法が約22mm、幅寸法が約6.6mm、厚さ寸法が約0.25mmである。
[0026] したがって、内層6の厚さ寸法が1mm〜1.25mm程度であるのに対し、外層7の厚さ寸法は0.25mm×2(枚)=0.5mmであり、外層7の厚さ寸法より内層6の厚さ寸法の方が大きくなっている。
[0027] 以上のような構成において、内層6に被覆されたサーミスタ素子2、引出し線3及び引出し線3とリード線4との接続部位は、さらに外層7に被覆されている。なお、リード線4は、図示を省略する温度計測回路に接続するため、被覆層5の一端側から露出して導出されるようになっている。したがって、前記サーミスタ素子2の抵抗値の変化に基づいて温度計測回路によって被測温物の温度を検知することができる。
[0028] 具体的には、サーミスタ素子2等は、内層6に被覆されるとともに、一対の外層7の間に挟まれて被覆されている。この場合、被覆層5は、後述するようにプレス工程と加熱工程を経て形成されるため、図3に代表して示すように、外層7(第1の外層材71及び第2の外層材72)の内面側には若干の凹み7aが形成される。つまり、サーミスタ素子2の厚さ寸法の範囲内において、その厚さ寸法を吸収するように、サーミスタ素子2に対応して外層7の内面側にサーミスタ素子2が食い込み変形して凹み7aが形成される。このため、温度センサ1の厚さ寸法が薄型化され、外層7の表面は平坦状が維持されるようになる。
[0029] なお、外層7の内面側に食い込んだサーミスタ素子2の部位、正確にはガラス等の封止材の部位は、内層6に完全には被覆されないで、主として外層7に被覆されることとなる。
[0030] また、温度センサ1は可撓性を有していて曲面状に曲げることが可能となっている。因みに、温度センサ1の厚さ寸法は、約1.5mmに形成することができる。
[0031] 次に、図4及び図5を参照して温度センサ1の製造方法の一例について説明する。一対のシート状の内層材及び一対のシート状の外層材の間にサーミスタ素子2を挟んでプレス工程と加熱工程とを経て、サーミスタ素子2を内層材及び外層材によって被覆して温度センサ1を作製する。
[0032] 図4に示すように、引出し線3及びリード線4が接続されたサーミスタ素子2と、一対の内層材としてシート状の第1の内層材61及び第2の内層材62と、一対の外層材としてシート状の第1の外層材71及び第2の外層材72とを用意する。
[0033] 一対の内層材と一対の外層材とは、それぞれ略同形状であり、長方形状で表面が平坦状をなしている。各内層材(第1の内層材61、第2の内層材62)の厚さ寸法は0.5mmであり、各外層材(第1の外層材71、第2の外層材72)の厚さ寸法は既述のように0.25mmである。なお、内層材及び外層材は、熱可塑性の樹脂であり、内層材はフッ素樹脂のFEPから形成されており、外層材はフッ素樹脂のPTFEから形成されている。
[0034] 内層材のFEPの融点は275℃であり、外層材のPTFEの融点は327℃である。したがって、外層材の方が内層材より融点が高いものとなっている。また、内層材及び外層材ともに耐熱性が良好で200℃以上の温度に耐えることができ、特に、PTFEは−100℃〜+260℃の広い温度範囲にわたって長時間の使用に耐えることができる。
[0035] 図5に示すように、金型を用いたプレス加工によるプレス工程と加熱工程とを経て温度センサ1が作製される。まず、図5(a)に示すように、金型の表面が平坦な下型10上に第1の外層材71を配置し、その上に第1の内層材61を重ねて配置し、さらにその上にサーミスタ素子2を配置する。次いで、図5(b)に示すように、サーミスタ素子2の上に第2の内層材62、第2の外層材72を配置する。したがって、サーミスタ素子2は、内層材及び外層材に挟まれるように配置される。この配置工程に続いて、図5(c)及び(d)に示すように、表面が平坦な下型10上に配置された内層材、外層材及びサーミスタ素子2を金型の表面が平坦な上型11によってプレスし加工する(プレス工程)。
[0036] また、このプレス工程とともに被覆層5である内層材及び外層材を加熱する(加熱工程)。この加熱工程の加熱温度は、内層材のFEPの融点以上の温度に設定して温度センサ1が作製される。
[0037] なお、加熱工程は、プレス工程の前に行ってもよいし、プレス工程と同時に行ってもよく、工程の順序が格別限定されるものではない。加熱工程がプレス工程の前に行われる場合には、内層材が溶解している間にプレス工程が行われる。
[0038] 以上のようなプレスと加熱による製造工程によって作製された温度センサ1は、厚さ寸法が薄いシート状であり、外層7の表面が平坦状に形成される。詳しくは、第1の内層材61及び第1の外層材71と、第2の内層材62及び第2の外層材72との間にサーミスタ素子2がサンドイッチ状態で挟まれ、内層材(第1の内層材61、第2の内層材62)が溶解し一体となって単層化してサーミスタ素子2が内層材及び外層材によって被覆される。
[0039] この場合、サーミスタ素子2は、シート状の内層材及び外層材の間に挟まれるようになるので、第1の内層材61及び第1の外層材71と第2の内層材62及び第2の外層材72との間の周囲は、部材がなく開放される状態となる(例えば、図5(c)参照)。したがって、本実施形態によれば、従来の内層用チューブと外層用チューブとの二重のチューブで形成される温度センサに比し、厚さ寸法を薄くすることが可能となる。
[0040] また、プレス工程と加熱工程とを経て作製される温度センサ1は、そのプレス圧力と加熱温度が適宜調整される。したがって、圧力と熱により、第1の外層材71及び第2の外層材72の内面側には、既述のようにサーミスタ素子2に対応して変形する凹み7aが形成される。この凹み7aはサーミスタ素子2が第1の外層材71及び第2の外層材72の内面側に食い込み厚さ寸法を吸収するための逃げ部であり、これにより、温度センサ1の厚さ寸法が薄型化されるにもかかわらず、外層7の表面を平坦状とすることができる。
[0041] このような温度センサ1によれば、耐久性を有し、薄型化でき、外層7の表面が平坦状で、かつ広い面積を確保することが可能となり、被測温物との接触面積を広く確保して測定精度を向上することができる。」
























(2) 図面から読み取れる事項の認定
甲1文献には、文言上明記されていないものの、温度センサ1における引出し線3がサーミスタ素子2と接続される部分を引出し線3の先端とし、引出し線3がリード線4と接続される部分を引出し線3の後端とすると、図1(a)、図1(b)、図4(a)及び図4(b)の記載から、次の事項を読み取ることができる。
<図面から読み取れる事項>
「 温度センサ1において、一対の引出し線3の先端のそれぞれがサーミスタ素子2に接続され、当該一対の引出し線3の後端のそれぞれと一対のリード線4の芯線42の先端のそれぞれが接続され、少なくとも当該一対の引き出し線3の後端のそれぞれと一対のリード線4の芯線42の先端のそれぞれの接続部位が被覆層5で被覆されていること。」


(3) 甲1発明の認定
上記(2)において認定した事項を踏まえつつ、上記(1)において摘記した記載事項を総合すると、甲1には次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲1発明]
「 サーミスタ素子2と、引出し線3と、リード線4と、被覆層5を備え([0017])、
サーミスタ素子2は、ガラス等の封止材によって被覆され([0019])、
引出し線3は、導電性を有し、サーミスタ素子2の表面に形成された金、銀、銅及び白金等の電極に溶着又ははんだ付け等によって電気的に接続されてガラス等の封止材から導出され([0020])、
リード線4は、絶縁被覆41された撚り線からなる電線であり、各芯線42が引出し線3に半田付け、溶接や圧着等で電気的に接続され、引出し線3とリード線4との接続によって接続部位が形成され([0021])、
一対の引出し線3の先端のそれぞれがサーミスタ素子2に接続され、当該一対の引出し線3の後端のそれぞれと一対のリード線4の芯線42の先端のそれぞれが接続され、少なくとも当該一対の引出し線3の後端のそれぞれと一対のリード線4の芯線42の先端のそれぞれの接続部位が被覆層5で被覆され((2)<図面から読み取れる事項>)、
被覆層5は、サーミスタ素子2、引出し線3及び引出し線3とリード線4との接続部位を覆って、これらを周囲環境から保護するもので、被覆層5は樹脂材料、例えば、フッ素樹脂から形成されていて内層6及び外層7から構成され([0022])、
内層6は、フッ素樹脂のFEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共同合体したフッ素樹脂)から形成されており、FEPが溶解して凝固した状態でサーミスタ素子2等が被覆され([0023])、
内層6は、一対のシート状の樹脂材料(第1の内層材61、第2の内層材62)を加熱して溶解して凝固させたものであり、もともとは一対(2枚)のシート状の樹脂材料が溶解して一体となって単層化したものであり([0024])、
外層7は、一対のシート状の樹脂材料、例えば、フッ素樹脂のPTFE(四フッ化エチレン)から形成されており、第1の外層材71及び第2の外層材72を有し([0025])、
金型の表面が平坦な下型10上に第1の外層材71を配置し、その上に第1の内層材61を重ねて配置し、さらにその上にサーミスタ素子2を配置し、次いで、サーミスタ素子2の上に第2の内層材62、第2の外層材72を配置し([0035])、
この配置工程に続いて、表面が平坦な下型10上に配置された内層材、外層材及びサーミスタ素子2を、金型の表面が平坦な上型11によってプレス加工し([0035])、
このプレス工程とともに被覆層5である内層材及び外層材を加熱し(加熱工程)、この加熱工程の加熱温度は、内層材のFEPの融点以上の温度に設定され([0036])、
このようなプレス工程と加熱工程を経て形成されるため、被覆層5は、第1の外層材71及び第2の外層材72の内面側には若干の凹み7aが形成され、サーミスタ素子2の厚さ寸法の範囲内において、その厚さ寸法を吸収するように、サーミスタ素子2に対応して外層7の内面側にサーミスタ素子2が食い込み変形して凹み7aが形成され、このため、温度センサ1の厚さ寸法が薄型化され、外層7の表面は平坦状が維持されるようになり([0028])、
外層7の内面側に食い込んだサーミスタ素子2の部位、正確にはガラス等の封止材の部位は、内層6に完全には被覆されないで、主として外層7に被覆され([0029])、
厚さ寸法が薄いシート状である([0038])、
温度センサ1([0017])。」

2 甲2文献の記載事項
(1) 甲2文献の記載事項
甲2文献には、以下の記載がある。
「[0006] 本発明の温度センサは、電気機器のコイルの一部を担うコイル要素と、コイル要素の熱を検知する感熱体と、感熱体に接続される一対の電線と、を有する素子本体と、コイル要素及び素子本体を収容し保持する、電気絶縁性の樹脂材料から構成されるハウジングと、を備える。
本発明におけるハウジングは、感熱体を外部から目視できる視認窓が、感熱体に対応する部位に設けられることを特徴とする。」

「[0013] 以下、添付する図面を参照しながら、本発明の実施形態について説明する。
本実施形態の温度センサ1は、図1及び図2に示すように、コイル要素10と、コイル要素10に固定されるセンサ組立体20と、を備え、センサ組立体20が備える感熱体52がコイル要素10の温度を検出することができる。
温度センサ1は、コイル要素10が、図示を省略する回転電機のステータ(固定子)を構成するコイルに電気的に接続されることで当該コイルの一部を構成し、センサ組立体20はコイル要素10の温度を検出することで、回転電機のコイルの温度を検出する。
温度センサ1は、センサ組立体20の一部に視認窓76が設けられており、この視認窓76を通じて感熱体52を外部から目視により確認できるようになっている。
以下、温度センサ1の構成を順に説明し、次いで、温度センサ1の効果を説明する。
[0014]
[コイル要素10]
コイル要素10は、センサ組立体20とともに温度センサ1を構成する。
コイル要素10は、図1及び図2に示すように、導体11と、導体11の表面を被覆する電気絶縁性の被覆13と、を備える直線状の平角線からなる。
コイル要素10は、平坦な面からなる検知面12を備え、この検知面12はハウジング25の内部で被覆体60の検知面65と面で接触する。
コイル要素10は、導体11の両端が、電気機器としての回転電機のステータを構成するコイルに電気的に接続されることで、ステータコイルの一部を担う。
コイル要素10は、両端部を除いてハウジング25に収容され、かつ保持される。
[0015]
[センサ組立体20]
センサ組立体20は、図1〜図3に示すように、ハウジング25と、ハウジング25に収容されるセンサ中間体50と、を備えている。ハウジング25は、第一ハウジング30と第二ハウジング70からなり、センサ中間体50を覆い隠す。第二ハウジング70は、あらかじめコイル要素10及びセンサ中間体50を収容する第一ハウジング30に対して射出成形することによる樹脂モールド体からなる。
センサ組立体20は、コイル要素10が所定位置に固定されることにより、感熱体52がコイル要素10の所定位置に位置決めされる。」

「[0023]
[センサ中間体50]
センサ中間体50は、図5(a),(b)に示すように、素子本体51と、素子本体51に電気的に接続される一対の引出線55,55と、引出線55,55のそれぞれに電気的に接続されるリード線56,56と、を備えている。
なお、センサ中間体50が第一ハウジング30に保持された状態で、素子本体51が配置される側を、温度センサ1の前と定義し、また、リード線56,56が引き出される側を後と定義する。
[0024] 素子本体51は、電気抵抗に温度特性を有する感熱体52と、感熱体52の周囲を覆う封止ガラス53と、を備える円筒状の部材である。
感熱体52は、例えば、サーミスタのように電気抵抗に温度特性を有する素材から構成される。
封止ガラス53は、感熱体52を封止して気密状態に維持することによって、環境条件に基づく化学的な変化及び物理的な変化が感熱体52に生ずるのを避けるために設けられる。封止ガラス53には、非晶質ガラス及び結晶質ガラスのいずれをも用いることができるし、所望の線膨張係数を有するように非晶質ガラスと結晶質ガラスとを混合して用いることもできる。
[0025] 引出線55,55は、例えばジュメット(Dumet)線を用いることができ、図示を省略する電極を介して感熱体52に電気的に接続される。ジュメット線は、内層と内層の周囲に設けられる外層とからなる。内層はガラスと線膨張係数が近い鉄−ニッケル合金からなり、外層は導電率の高い銅又は銅合金がクラッドされたものである。
また、リード線56,56は、細い芯線を撚り合わせた撚線と、撚線を覆う電気絶縁性を有する被覆層57,57とから構成される。リード線56,56は、必要に応じて他の電線を介して、図示を省略する温度計測回路に接続される。なお、被覆層57,57は、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)などのフッ素樹脂から構成される。
[0026] また、センサ中間体50は、図5(a),(b)に示すように、素子本体51及び引出線55,55の全体と、リード線56,56の一部が電気絶縁性を有する被覆体60で覆われており、周囲の環境から素子本体51を保護している。
[0027] 被覆体60は、概ね直方体の形状をなしており、内層61と外層63からなる。
内層61は、外層63の内側に配置され、素子本体51を直接的に被覆する。内層61は、素子本体51の先端からリード線56,56の途中までを気密に封止する。
内層61は、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)からなるフッ素樹脂である。PTFEとPFAはフッ素樹脂であり優れた耐性を有している点では共通するが、PTFEの方がPFAよりも融点が高い。また、PTFEとPFAはいずれも透明性を有しており、特にPFAは高い透明性を有している。
[0028] 次に、外層63は、内層61の外側に密着して設けられる。
外層63は、内層61とともに素子本体51に耐性を付与するものであるのに加えて、製造過程において溶融する内層61を保持する役割を担う。そのために、外層63は、内層61を形成するPFAよりも融点の高いPTFEで形成される。
外層63に平坦な検知面65を備え、この検知面65とコイル要素10の平坦な検知面12が接触することで、被覆体60とコイル要素10は平面同士で接触する。
[0029] 被覆体60は、内層61に対応する内層チューブと、外層63に対応する外層チューブとを用意し、内層チューブの中に素子本体51を挿入するとともに、内層チューブの外側に外層チューブを配置してから加熱及び加圧することで作製される。
[0030] 内層チューブを構成するPFAの融点は302〜310℃であるのに対して、外層チューブを構成するPTFEの融点は327℃であるから、両者を例えば315℃まで加熱すると、内層チューブは溶融するが、外層チューブは溶融することなく、形状を維持することができる。ただし、外層チューブは、この温度まで加熱されると収縮する。PTFEの線膨張係数は10×10−5/℃程度であり、溶融状態にある内層チューブを強く圧縮するので、内層61の緻密化に寄与するのに加え、内層61と外層63の間に生ずる圧力によって両者の間の気密性が担保される。
[0031] 内層チューブが溶融している間に、直方体状のキャビティを有する金型を用いてプレス加工することにより、直方体状の被覆体60を得ることができる。
[0032] ここで、本実施形態は、被覆体60として透明なフッ素樹脂を用いる。これにより、視認窓76を介して、被覆体60の内部に埋設される素子本体51の健全性を目視で確認できる。また、このフッ素樹脂は、他の樹脂材料に比べて弾性に富むため、温度検知対象であるコイル要素10が振動しても、被覆体60はこの振動に追従してコイル要素10に密に押し付けられる。」

「[0044] また、温度センサ1は、被覆体60の平坦な検知面65とコイル要素10の平坦な検知面12が面同士で接触するので、コイル要素10の温度変化に対する感受性が高くなり、検知温度の精度向上に寄与する。
特に、フッ素樹脂から構成される被覆体60は樹脂材料の中で弾性に富むため、温度検知対象であるコイル要素10が振動しても、被覆体60はこの振動に追従してコイル要素10に密に押し付けられるので、検知温度の精度向上に寄与する。」











(2) 図面から読み取れる事項の認定
甲2文献には、文言上明記されていないものの、温度センサ1の備える引出し線55、55が感熱体52に接続される部分を引出し線55、55の先端とし、引出し線55、55がリード線56、56に接続される部分を引出し線55、55の後端とすると、図4(a)、図4(b)、図5(a)及び図5(b)の記載から、次の事項を読み取ることができる。
<図面から読み取れる事項>
「 温度センサ1において、一対の引出し線55、55の後端のそれぞれと一対のリード線56、56の先端のそれぞれが接続され、当該一対の引き出し線55、55は、一対のリード線56、56と接続される後端部分に当該封止ガラス53に被覆されない部分を備え、感熱体52が封止ガラス53に被覆され、さらにこの封止ガラス53が被覆体60により被覆されていること。」


(3) 甲2発明の認定
上記(2)において認定した事項を踏まえつつ、上記(1)において摘記した記載事項を総合すると、甲2文献には次の発明(以下「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。
[甲2発明]
「 コイル要素10と、コイル要素10に固定されるセンサ組立体20を備え、センサ組立体20が備える感熱体52がコイル要素10の温度を検出することができる温度センサ1であって([0013])、
当該温度センサ1は、コイル要素10が回転電機のステータ(固定子)を構成するコイルに電気的に接続されることで当該コイルの一部を構成し、センサ組立体20は、コイル要素10の温度を検出することで、回転電機のコイルの温度を検出するものであり([0013])、
前記センサ組立体20は、ハウジング25と、ハウジング25に収容されるセンサ中間体50を備え([0015])、
このセンサ中間体50は、素子本体51と、素子本体51に電気的に接続される一対の引出線55、55と、引出線55、55のそれぞれに電気的に接続されるリード線56、56を備え([0023])、
素子本体51は、電気抵抗に温度特性を有する感熱体52と、感熱体52の周囲を覆う封止ガラス53を備える円筒状の部材であり([0024])、
感熱体52は、例えば、サーミスタのように電気抵抗に温度特性を有する素材から構成され([0024])、温度検知対象であるコイル要素10の熱を検知し([0006]、[0044])、
引出線55,55は、電極を介して感熱体52に電気的に接続され([0025])、
素子本体51及び引出線55、55の全体と、リード線56、56の一部が電気絶縁性を有する被覆体60で覆われており([0026])、
温度センサ1において、一対の引出し線55、55の後端のそれぞれと一対のリード線56、56の先端のそれぞれが接続され、当該一対の引き出し線3は、一対のリード線56、56と接続される後端部分に当該封止ガラス53に被覆されない部分を備え、感熱体52が封止ガラス53に被覆され、さらにこの封止ガラス53が被覆体60により被覆され((2)<図面から読み取れる事項>
)、
被覆体60は、概ね直方体の形状をなしており、内層61と外層63からなり([0027])、
内層61は、外層63の内側に配置され、素子本体51を直接的に被覆し、素子本体51の先端からリード線56、56の途中までを気密に封止し、PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)からなるフッ素樹脂であり([0027])、
外層63は、内層61の外側に密着して設けられ、内層61とともに素子本体51に耐性を付与するものであるのに加えて、製造過程において溶融する内層61を保持する役割を担い、外層63は、PTFEで形成され、([0028])、PTFEは、フッ素樹脂であり([0027])、
被覆体60は、内層61に対応する内層チューブと、外層63に対応する外層チューブとを用意し、内層チューブの中に素子本体51を挿入するとともに、内層チューブの外側に外層チューブを配置してから加熱及び加圧することで作製され([0029])、
内層チューブを構成するPFAの融点は302〜310℃であるのに対して、外層チューブを構成するPTFEの融点は327℃であるから、両者を315℃まで加熱すると、内層チューブは溶融するが、外層チューブは溶融することなく、形状を維持することができ、ただし、外層チューブは、この温度まで加熱されると収縮し、溶融状態にある内層チューブを強く圧縮するので、内層61の緻密化に寄与するのに加え、内層61と外層63の間に生ずる圧力によって両者の間の気密性が担保される([0030])、
温度センサ1([0013])。」


3 甲3文献
甲3文献には以下の記載がある。
「【0005】
【実施例】本発明の実施例を図面により説明すると、1はサーミスター素子と呼ばれる感温部、2はサーミスター素子1より平行に突き出すジメット線、3はジメット線2に被せたポリイミドチューブ、4はサーミスター素子1を覆う金属保護管、5はポリイミドチューブ3を抑える保護リング、6はポリイミドチューブ3を抑える樹脂モールド、7は接続管である。」










よって、甲3文献には次の技術事項(以下「甲3記載事項」という。)が記載されていると認められる。
[甲3記載事項]
「 サーミスター素子1より平行に突き出すジメット線2に被せたポリイミドチューブ3。」

4 技術常識を示す文献
(1)技術常識を示す文献の記載事項
当審が新たに引用する特開2009−115789号公報には、以下の記載がある。
「【0030】
(実施例1)
本発明の実施例にかかる温度センサ及びその製造方法につき、図1〜図4を用いて説明する。
本例の温度センサ1は、図1〜図3に示すごとく、温度によって電気的特性が変化する感温素子2を有する感温体14と、該感温体14の一対の電極線21にそれぞれ接続された一対の信号線31を先端側に露出させた状態で内蔵するシースピン3と、感温体14を覆うように先端部に配設されたカバー4とを有する。感温体14は、感温素子2と、該感温素子2を電極線21の一部と共に封止する内側保護層51及び外側保護層52とを有する。
【0031】
ここで、感温素子2の熱膨張係数をk1、電極線21の熱膨張係数をk2、内側保護層51の熱膨張係数をk3、外側保護層52の熱膨張係数をk4とする。 このとき、
|k1−k3|<|k1−k2|、|k2−k4|<|k2−k3|
が成り立つ。
【0032】
また、熱膨張係数k1、k2、k3、k4は、|k1−k3|≦5×10−7/℃、|k2−k4|≦4×10−7/℃を満たす。
本例において、感温素子2は、サーミスタ材からなり、電極線21は白金又は白金合金からなる。また、内側保護層51は、1000℃以上の高温にて感温素子2を保護する効果を有する材料で構成される。その材料としては、無機材料、非晶質ガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。それぞれが単独で所望の範囲の熱膨張係数を有すれば単独で用いてもよいが、所望の熱膨張係数を有するように非晶質ガラスと結晶化ガラスとを混合したもの、ガラスに無機材料粉末を添加したもの等を用いて構成してもよい。ガラスに添加する無機材料粉末としては、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、感温素子2を構成するサーミスタ材等が挙げられる。上記内側保護層51を構成する材料としては、高温で安定な結晶化ガラスに感温素子2を構成するサーミスタ材を40重量%以上添加して熱膨張係数を調整したものがより好ましい。
また、外側保護層52は、内側保護層51と同様に1000℃以上の高温にて感温素子2を保護する効果がある材料で構成される。その材料としては、無機材料、非晶質ガラス、結晶化ガラス等が挙げられる。それぞれが単独で上記所望の範囲の熱膨張係数を有する場合には単独で用いることが好ましいが、所望の熱膨張係数を有するように非晶質ガラスと結晶化ガラスとを混合したもの、ガラスに無機材料粉末を添加したもの等を用いて構成してもよい。ガラスに添加する無機材料粉末としては、酸化アルミニウム(Al2O3)、酸化マグネシウム(MgO)、酸化イットリウム(Y2O3)、酸化クロム(Cr2O3)、酸化ジルコニウム(ZrO2)、感温素子2を構成するサーミスタ材料等が挙げられる。上記外側保護層52を構成する材料としては、特に高温で安定な結晶化ガラスに酸化イットリウムを30重量%以下添加してなるものがより好ましい。」

「【0038】
また、図2に示すごとく、上記シースピン3は、ステンレス鋼またはNi基耐熱合金からなる2本の信号線31と、該信号線31の周りに配置したマグネシア等の絶縁粉末からなる絶縁部33と、該絶縁部33の外周を覆うステンレス鋼からなる外管部34とからなる。シースピン3は円柱形状を有し、外管部34は円筒形状を有する。また、信号線31は、絶縁部33及び外管部34から先端側及び後端側に露出している。そして、信号線31の先端は感温体14の電極21と溶接され、信号線31の後端は外部リード線17に接続されている。」








(2) 技術常識の認定
上記(1)において摘記した記載事項から、次の事項を技術常識として認定することができる。

<技術常識>
「 温度によって電気的特性が変化する感温素子を有する感温体と、該感温体の一対の電極線を含む温度センサにおいて、感温素子を電極線の一部と共にガラスよりなる保護層で封止すること。」


第5 当審の判断
1 申立理由1について
(1) 対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
ア 甲1発明の「温度センサ1」は、本件発明1の「温度センサ」に相当し、本件発明1と甲1発明は、「温度センサ」の発明である点で一致する。

イ 甲1発明の「サーミスタ素子2」は、本件発明1の「サーミスタ」に相当し、本件発明1と甲1発明は、「温度センサ」が「サーミスタ」を含む点で一致する。

ウ 甲1発明の「一対の引き出し線3」は、本件発明1の「一対の引き出し線」に相当し、甲1発明の「一対の引出し線3の先端」は、本件発明1の「一対の引き出し線」の「先端」に相当する。そして、甲1発明において、「一対の引出し線3の先端」は、「それぞれがサーミスタ素子2に接続される」から、甲1発明の「一対の引出し線3」は、本件発明1の「先端が該サーミスタに接続された一対の引き出し線」に相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、「温度センサ」が「先端が該サーミスタに接続された一対の引き出し線」を含む点で一致する。

エ 甲1発明の「ガラス等の封止材」は、本件発明1の「ガラス」に相当し、甲1発明において、「サーミスタ素子2」が、当該「ガラス等の封止材」で被覆されていることは、本件発明1の「ガラス」により「サーミスタ」が「シール」されることに相当する。
したがって、本件発明1と甲1発明は、「温度センサ」が「該サーミスタ」を「シールするガラス」を含む点で共通する。

オ(ア) 甲1発明の「一対のリード線4」は、本件発明1の「一対のリード線」に相当し、甲1発明の「一対のリード線4の芯線42の先端」は、本件発明1の「一対のリード線」の「先端」に相当する。
(イ) 甲1発明の「一対の引出し線3の後端」は、本件発明1の「一対の引き出し線」の「後端」に相当する。
(ウ) 甲1発明において、「一対のリード線4の芯線42の先端のそれぞれ」は、「一対の引出し線3の後端のそれぞれ」と接続されるから、上記(ア)及び(イ)の対比結果を踏まえると、甲1発明の「一対のリード線4」は、本件発明1の「先端が該一対の引き出し線の各々の後端に接続された一対のリード線」に相当する。
(エ) したがって、本件発明1と甲1発明は、「温度センサ」が「先端が該一対の引き出し線の各々の後端に接続された一対のリード線」を含む点で一致する。

カ(ア) 甲1発明の「被覆層5」を構成する「内層6」及び「外層7」について、「内層6」は「フッ素樹脂のFEP(テトラフルオロエチレンとヘキサフルオロプロピレンの共同合体したフッ素樹脂)から形成され」、「外層7」は、「一対のシート状の樹脂材料、例えば、フッ素樹脂のPTFE(四フッ化エチレン)から形成され」るものである。これらの「フッ素樹脂」は、合成樹脂であるから、当該「フッ素樹脂」により形成される甲1発明の「被覆層5」は、本件発明1の「合成樹脂製被覆層」に相当する。
前記エで検討したとおり、甲1発明の「ガラス等の封止材」は、本件発明1の「ガラス」に相当するものであるところ、甲1発明の「ガラス等の封止材によって被覆」される「サーミスタ素子2」は、さらに、「被覆層5」により「覆」われるものである。
そうすると、甲1発明の「被覆層5」が「サーミスタ素子2」を「被覆」する「ガラス等の封止材」を「覆」うことは、本件発明1の「合成樹脂製被覆層」が「ガラス」を「被覆」することに相当する。
(イ) 甲1発明の「一対の引出し線3の後端のそれぞれと一対のリード線4の芯線42の先端のそれぞれの接続部位」の「一対の引き出し線3の後端」側の部分は、本件発明1の「該一対の引き出し線の該先端部以外の部分」に相当するから、甲1発明の「被覆層5」が、「一対の引出し線3の後端のそれぞれと一対のリード線4の芯線42の先端のそれぞれの接続部位」の「引出し線3の後端」側の部分を「被覆」することは、本件発明1の「合成樹脂製被覆層」が、「該一対の引き出し線の該先端部以外の部分」を「被覆」することに相当する。
(ウ) 甲1発明の「引出し線3とリード線4との接続部位」の「一対のリード線4」側の部分は、「一対のリード線4の芯線42の先端」であるから、本件発明1の「一対のリードの先端部」に相当する。
そうすると、甲1発明の「被覆層5」が「引出し線3とリード線4との接続部位」を「被覆」することは、本件発明1の「合成樹脂製被覆層」が「該一対のリード線の先端部」を「被覆」することに相当する。
(エ) 上記(ア)〜(ウ)の対比結果をまとめると、本件発明1と甲1発明は、「温度センサ」が「該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部を被覆する合成樹脂製被覆層」を含む点で一致する。


以上ア〜カの対比結果をまとめると、本件発明1と甲1発明は、以下の一致点において一致し、以下の相違点1及び2において相違する。

[一致点]
「 サーミスタと、先端が該サーミスタに接続された一対の引き出し線と、該サーミスタをシールするガラスと、先端が該一対の引き出し線の各々の後端に接続された一対のリード線と、該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部を被覆する合成樹脂製被覆層とを含む、
温度センサ。」

[相違点1]
本件発明1においては、「ガラス」が「一対の引き出し線の先端部をシール」するのに対して、甲1発明においては、「一対のリード線3」の「先端部」が「ガラス等の封止材」により被覆されているか否かが不明である点。

[相違点2]
本件発明1の「被覆層」は、「チューブ形状であり、チューブ形状の内層と外層とを予め積層した状態で弾性的に拡張して、該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部に強制的に被嵌し、次いで加熱して該内層を溶融し該外層を収縮することによって配設され、該ガラスの周表面は該外層の内面に接触せしめられている」のに対して、甲1発明の「被覆層5」は、「シート状」であり、「金型の表面が平坦な下型10上に第1の外層材71を配置し、その上に第1の内層材61を重ねて配置し、さらにその上にサーミスタ素子2を配置し、次いで、サーミスタ素子2の上に第2の内層材62、第2の外層材72を配置し、この配置工程に続いて、表面が平坦な下型10上に配置された内層材、外層材及びサーミスタ素子2を、金型の表面が平坦な上型11によってプレス加工し、このプレス工程とともに被覆層5である内層材及び外層材」を「内層材のFEPの融点以上の温度」で「加熱して」製造されるものであって、「ガラス等の封止材」は、「シート状」の「内層6」により完全には被覆されないで、主として「シート状」の「外層7」により被覆される部位を含むものであるが、その「周表面」が「外層7」に被覆されない点。


(2) 判断
ア 相違点1について
前記第4の4(2)において<技術常識>として示したとおり、「感温素子を電極線の一部と共にガラスよりなる保護層で封止する」ことは、感温素子を備える温度センサという技術分野における技術常識である。
ここで、当該「電極線」は、甲1発明の「引出し線3」に相当するから、甲1発明において、「一対の引出し線3」の「先端部」が「ガラス等の封止材」により被覆されていることは、甲1文献に記載されているに等しい事項である。
したがって、前記相違点1は、実質的な相違点ではない。
仮に当該事項が甲1文献に記載されているに等しい事項ではなかったとしても、甲1発明において、サーミスタ素子2及び引出し線3の電気的接続を保持するために、サーミスタ素子及び引出し線3の先端部を含めてガラス等の封止材で被覆することは、当業者が適宜なし得ることである。

イ 相違点2について
(ア) 「チューブ形状」の「被覆層」とすることについて
甲2発明には、「外層63」及び「内層61」を「外層チューブ」及び「内層チューブ」とすることが開示されているから、「チューブ形状」の「被覆層」で「サーミスタ素子」を被覆するという発想自体は、本件特許の出願時において知られたものであるということができる。
しかしながら、甲1発明においては、甲1文献の段落[0007]に記載されているように、「厚さ寸法を薄くし、被測温物との接触面積を広くすることが可能で、測定精度を向上すること」を課題とし、当該課題を解決するために、甲1文献の段落[0040]、[0041]に記載されているように、温度センサ1の厚さ寸法を薄型化し、外層7の表面を平坦状とし、被測温物との接触面積を広く確保して測温精度を向上するものであるところ、甲1文献の段落[0004]には、被覆層が内層用チューブと外層用チューブとの二重のチューブで形成されていると、「厚さ寸法を薄くすることが困難であり、また、被測温物との接触面積を広くすることや被測温物の被測温面の形状に合わせて、例えば、曲面形状に形成することが困難であるという問題が生じる」旨の記載があるから、甲1発明の被覆層を内層用チューブと外層用チューブの二重のチューブで形成とすることには阻害要因があるというべきである。
そして、甲1文献の上記[0004]、[0007]、[0040]、[0041]以外の記載事項を考慮したとしても、甲1発明のシート状の外層及び内層を、甲2発明の「外層チューブ」及び「内層チューブ」で置き換えることの動機付けとなる記載も示唆もない。
よって、甲1発明において、シート状の外層及び内層を、甲2発明の「外層チューブ」及び「内層チューブ」で置き換えることは、当業者といえども困難なことである。

(イ) 「被覆層」の「外層の内面」に「ガラスの周表面」が「接触」することについて
甲1文献の[0039]に記載されているように、甲1発明では、厚さ寸法を薄くすることを可能とするために、シート状の「第1の外層材71」、「第1の内層材61」と、「第2の内層材62」、「第2の外層材72」で「サーミスタ素子2」を挟み込むようにしていることから、「第1の内層材61」、「第2の内層材62」、「第1の外層材71」、「第2の外層材72」の形状をチューブ形状とし、「ガラス等の封止材」の周表面を「第1の外層材71」及び「第2の外層材72」で覆うようにすることの動機付けが乏しいというべきである。
したがって、甲1発明に甲2発明をいかに適用しても、上記相違点1に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得たことであるとまではいえない。

ウ 小括
上記ア及びイの検討内容を踏まえると、本件発明1は、甲1発明と甲2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(3) 本件発明3、4及び5について
本件発明3は、本件発明1の「チューブ形状」の「被覆層」の「内層」及び「外層」の材料を具体的に特定したものであるから、前記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明3は、甲1発明と甲2発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
また、本件発明4、5は、本件発明1に「該一対の引き出し線の各々の該先端部以外の部分には、熱硬化性合成樹脂製チューブが被嵌されている」という技術的事項を追加したものであるから、たとえ甲3記載事項を考慮したとしても、本件発明1についての理由と同様に、甲1発明、甲2発明及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(4) 申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
申立人は、特許異議申立書12頁において以下の主張1及び主張2の主張をしている。
(ア) 主張1
「甲第2号証には被覆体について、内層チューブに基づく内層61と、外層チューブに基づく外層71と、から構成される例が記載されている。一方で、甲第1号証には、被覆層として、チューブを用いる例とシートを用いる例があることが記載されている(【0003】、【0004】)。したがって、相違点1について、甲第1号証におけるシートを甲第2号証のチューブに置き換えることは、当業者にとってきわめて容易であると言わなければならない。」

(イ) 主張2
「なお、本件特許発明における温度センサは「物の発明」に属する。ところが、「弾性的に拡張」および「強制的に被嵌」は、「方法的記載」であり、「物の発明の規定になじまない。したがって、本件特許の請求項1は、明確製要件(特許方第36条第6項第2号)に反するおそれがあるか、係る「方法的記載」を省いてその発明の要件が特定されるべきである。また、「弾性的に拡張」について、拡張の内容、例えば方向が不明である。「強制的に被嵌」についても、「強制的」は抽象的な表現と解される。」

イ 申立人の主張についての検討
前記(2)イで検討したとおり、甲1文献では、被覆体がチューブ形状であることにより課題を生じる例が記載されているから、チューブ形状の被覆体では、甲1発明の課題を解決し得ないことは明らかである。よって、相違点1について、甲1文献におけるシートを甲2文献のチューブに置き換えることは、当業者にとって容易なことであるとはいえない。
また、チューブ形状の被覆層を拡張するか否かや、チューブ形状の被覆層を被嵌した状態で加熱し、当該被覆層に含まれる外層を収縮させるか否かに応じて、温度センサを構成する被覆層がガラスを締め付ける力が異なることは明らかである。よって、本件発明1の発明特定事項により規定された構造を有する被覆層及び当該被覆層を含む温度センサが物として特定されることになるから、申立人が上記イで指摘する本件特許の請求項1の記載をもって、発明が不明確であるということはできない。また、「弾性的に拡張」及び「強制的に被嵌」の記載が抽象的であったとしても、発明が不明確であるということもできない。
したがって、申立人の上記主張1及び2を採用することはできない。


2 申立理由2について
(1) 対比
本件発明1と甲2発明を対比する。
ア 甲2発明の「温度センサ1」は、本件発明1の「温度センサ」に相当し、本件発明1と甲2発明は、「温度センサ」の発明である点で一致する。

イ 甲2発明の「感熱体52」は、「サーミスタのように電気抵抗に温度特性を有する素材から構成される」から、本件発明1の「サーミスタ」に相当し、本件発明1と甲2発明は、「温度センサ」が「サーミスタ」を含む点で一致する。

ウ 甲2発明の「一対の引出線55、55」は、本件発明1の「一対の引き出し線」に相当する。
また、甲2発明の「一対の引出線55、55」は、「電極を介して感熱体52に電気的に接続され」るものであるから、「一対の引出線55、55」の「感熱体52」と接続される部分は、本件発明1の「一対の引き出し線」の「先端」に相当する。
上記イの検討内容を踏まえると、甲2発明の「一対の引出線55、55」は、本件発明1の「先端が該サーミスタに接続された一対の引き出し線」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明は、「温度センサ」が「先端が該サーミスタに接続された一対の引き出し線」を含む点で一致する。

エ(ア) 甲2発明において、「素子本体51」は、「電気抵抗に温度特性を有する感熱体52と、感熱体52の周囲を覆う封止ガラス53を備える」ものである。
(イ) そして、上記ウで検討したように、甲2発明の「一対の引出線55、55」は、その「先端」が「感熱体52」に接続されるものである。ここで、温度センサにおける「封止」という技術用語について、サーミスタ等の感熱素子とともに感熱素子と電気的配線との接続部位を被覆部材で被覆することを意味することは、技術常識であるから、甲2発明における「一対の引出線55、55」の「先端」の「感熱体52」に接続される部分は、封止ガラス53により被覆されていると認められる。
よって、甲2発明の「一対の引き出し線55、55」の「先端」の「感熱体52」に接続される部分は、本件発明1の「一対の引き出し線の先端部」に相当する。
(ウ) そして、甲2発明において、「封止ガラス53」が「周囲を覆う」ことは、本件発明1において、「ガラス」が「シールすること」に相当する。
(エ) 上記(ウ)を踏まえて、上記(ア)及び(イ)の対比結果を「封止ガラス53」についてまとめると、甲2発明の「封止ガラス53」は、「感熱体2」及び「一対の引き出し線55、55」の「先端」の「感熱体52」に接続される部分の「周囲を覆う」ものであるから、当該「封止ガラス53」は、本件発明1の「該サーミスタ及び該一対の引き出し線の先端部をシールするガラス」に相当する。
(オ) したがって、本件発明1と甲2発明は、「温度センサ」が「該サーミスタ及び該一対の引き出し線の先端部をシールするガラス」を含む点で一致する。

オ 甲2発明の「一対のリード線56、56」は、本件発明1の「一対のリード線」に相当し、甲2発明の「一対のリード線56、56の先端」は、本件発明1の「一対のリード線」の「先端」に相当する。そして、「一対のリード線56、56の先端」のそれぞれは、「一対の引出し線55、55の後端のそれぞれ」と接続されるから、甲2発明の「一対のリード線56、56」は、本件発明1の「先端が該一対の引き出し線の各々の後端に接続された一対のリード線」に相当する。
したがって、本件発明1と甲2発明は、「温度センサ」が「先端が該一対の引き出し線の各々の後端に接続された一対のリード線」を含む点で一致する。

カ(ア) 甲2発明の「被覆体60」を構成する「内層61」及び「外層63」について、「内層61」は「PFA(テトラフルオロエチレン・パーフルオロアルキルビニルエーテル共重合体)からなるフッ素樹脂であり」、「外層63」は「フッ素樹脂」である「PTFEで形成」されるものである。これらのフッ素樹脂は、合成樹脂であるから、当該フッ素樹脂により形成される「内層61」と「外層63」で構成される、甲2発明の「被覆体60」は、本件発明1の「合成樹脂製被覆層」に相当する。
甲2発明において、「被覆体60」は、「素子本体51」を覆うものであり、当該「素子本体51」は、「封止ガラス53」で「周囲を覆」われたものである。よって、甲2発明において、「被覆体60」が「素子本体51」の「周囲」を「覆」うことは、本件発明1の「合成樹脂製被覆層」が「ガラス」を「被覆」することに相当する。
(イ) 甲2発明「一対の引き出し線55、55」の「一対のリード線56、56と接続される後端部分に当該封止ガラス53に被覆されない部分」は、本件発明1の「該一対の引き出し線の該先端部以外の部分」に相当する。そして、「素子本体51及び引出線55、55の全体」は、「被覆体60」に覆われるものであるから、当該「一対の引き出し線55、55」の「後端部分」の「封止ガラス53に被覆されない部分」は、「被覆体60」に覆われている。
よって、甲2発明において、「被覆体60」が「一対の引き出し線55、55」の「後端部分」の「封止ガラス53に被覆されない部分」を「覆」うことは、本件発明1の「合成樹脂被覆層」が「該一対の引き出し線の該先端部以外の部分」を「被覆」することに相当する。
(ウ) 甲2発明においては、「リード線56、56の一部が電気絶縁性を有する被覆体60で覆われ」ているところ、当該「リード線56、56の一部」は、本件発明1の「該一対のリード線の先端部」に相当する。そして、甲2発明において、「被覆体60」が「リード線56、56の一部」を「覆」うことは、本件発明1の「合成樹脂被覆層」が「該一対のリード線の先端部」を「被覆」することに相当する。
(エ) 上記(ア)〜(ウ)の対比結果をまとめると、甲2発明の「被覆体60」は、「素子本体51」、「一対の引き出し線55、55」の「後端部分」の「封止ガラス53に被覆されない部分」及び「リード線56、56の一部」を覆うものであるから、本件発明1の「該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部を被覆する合成樹脂製被覆層」に相当する。
(オ) また、甲2発明の「被覆体60」は、「内層61に対応する内層チューブと、外層63に対応する外層チューブとを用意し、内層チューブの中に素子本体51を挿入するとともに、内層チューブの外側に外層チューブを配置してから加熱及び加圧することで作製」されるものである。そのため、「内層61」と「外層63」からなる「被覆体60」もチューブの形状を備えているといえる。よって、甲2発明の「被覆体60」がチューブの形状を備えることは、本件発明1の「合成樹脂製被覆層」が「チューブ形状」であることに相当する。
(カ) したがって、本件発明1と甲2発明は、「温度センサ」が、「該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部を被覆する合成樹脂製被覆層」を含み、「合成樹脂製被覆層」が「チューブ形状」である点で共通する。


以上ア〜カの対比結果をまとめると、本件発明1と甲2発明は、以下の一致点において一致し、以下の相違点3及び4において相違する。

[一致点]
「 サーミスタと、先端が該サーミスタに接続された一対の引き出し線と、該サーミスタと該一対の引き出し線の先端部をシールするガラスと、先端が該一対の引き出し線の各々の後端に接続された一対のリード線と、該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部を被覆する合成樹脂製被覆層とを含む温度センサにおいては、
該被覆層はチューブ形状である、温度センサ。」

[相違点3]
本件発明1は、「ガラスの周表面は該外層の内面に接触せしめられている」のに対して、甲2発明においては、「外層チューブ」の収縮により、「溶融状態にある内層チューブ」は、「強く圧縮」され、「緻密化」し、「内層61と外層63の間に生ずる圧力によって両者の間の気密性が担保される」のであるから、「封止ガラス53」の周表面は、「内層」の内面に接触し、「外層」の内面には接触していない点。
[相違点4]
本件発明1は、「被覆層」が「チューブ形状の内層と外層とを予め積層した状態で弾性的に拡張して、該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部に強制的に被嵌し、次いで加熱して該内層を溶融し該外層を収縮することによって配設され」るのに対して、甲2発明は、「被覆体60」が「チューブ形状の内層と外層とを予め積層した状態で弾性的に拡張して、該ガラス、該一対の引き出し線の該先端部以外の部分及び該一対のリード線の先端部に強制的に被嵌し、次いで加熱して該内層を溶融し該外層を収縮することによって配設され」るようなものではない点。

(2) 判断
ア 相違点3について
甲1発明において、「ガラス等の封止材の部位は、内層6に完全には被覆されないで、主として外層7に被覆される」ことは開示されているが、「ガラス等の封止材」の周表面が「内層6に完全には被覆されないで、主として外層7に被覆される」ことは、甲1発明において開示されていない。
そして、前記第4 2(3)で認定したとおり、甲2発明においては、「外層チューブ」の収縮により、「溶融状態にある内層チューブ」は、「強く圧縮」され、「緻密化」し、「内層61と外層63の間に生ずる圧力によって両者の間の気密性が担保される」のであるから、甲1発明の「被覆層」により「封止材」を被覆する技術によっても、封止材の甲2発明の「外層63」と「封止ガラス53」の間の「内層61」を排除して「封止ガラス53」の周表面を「外層」の内面に直接的に接触させようとすることの動機付けが乏しく、上記相違点3に係る本件発明1の構成とすることが当業者にとって容易に想到し得たことであるとまではいえない。


イ 小括
上記アの検討内容を踏まえると、上記相違点4について検討するまでもなく、本件発明1は、甲2発明と甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(3) 本件発明3、4及び5について
本件発明3は、本件発明1の「チューブ形状」の「被覆層」の「内層」及び「外層」の材料を具体的に特定したものであるから、前記(2)に示した理由と同様の理由により、本件発明3は、甲2発明と甲1発明に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。
また、本件発明4、5は、本件発明1に「該一対の引き出し線の各々の該先端部以外の部分には、熱硬化性合成樹脂製チューブが被嵌されている」という技術的事項を追加したものであるから、たとえ甲3記載事項を考慮したとしても、本件発明1についての理由と同様に、甲2発明、甲1発明及び甲3記載事項に基づいて当業者が容易に発明できたものではない。

(4) 申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
相違点3について、申立人は、以下の主張をしている。
特許異議申立書15頁
「甲第2号証において、明示はなされていないが、請求項1に係る本件特許発明は、実質的に甲第2号証に記載されているか、少なくとも甲第1号証と甲第2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであると認められる。」

イ 申立人の主張についての検討
上記(2)アで検討したとおり、本件発明1は、実質的に甲第2号証に記載されたものではない。また、甲第1号証と甲第2号証に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。


3 申立理由3について
(1) 本件特許の明細書の記載
本件発明6の「該一対の引き出し線の該一方の該後端と該一対のリード線の該一方の該先端との該接続部は、該第一の増径部の後端部と該中間部の前端部とに跨って位置する」という構成に関し、本件特許の明細書の段落【0017】には、以下の記載がある。(下線は当審で付した。)
「【0017】
上述した通りにして被覆層20を配設すると、図1に図示するとおり、被覆層20は小外径前部26、これに続く後方に向かって外径が漸次増大する第一の増径部28、第一の増径部28に続く中外径中間部30、中間部30に続く外径が漸次増大する第二の増径部32、及び第二の増径部32に続く大外径後部34を有する形態になる。かかる形態は外観上優れていることに加えて取扱い特性も良好である。引き出し線6aの後端とリード線10aの先端との接合部16aは第一の増径部28の後端部と中間部の前端部とに跨って位置し、引き出し線6bの後端とリード線10bの前端との接合部16bは第二の増径部32と後端部の前端部とに跨って位置する。」

(2) 申立理由3についての当審の判断
引き出し線6aと引き出し線6bは、一対の引き出し線6を構成し、リード線10aとリード線10bは、一対のリード線10を構成するのであるから、請求項6に記載の「該一対の引き出し線の該一方の該後端と該一対のリード線の該一方の該先端との該接続部は、該第一の増径部の後端部と該中間部の前端部とに跨って位置」することは、上記の【0017】の下線部に明示されているといえる。
よって、本件発明6の「該一対の引き出し線の該一方の該後端と該一対のリード線の該一方の該先端との該接続部は、該第一の増径部の後端部と該中間部の前端部とに跨って位置」することは、本件特許の発明の詳細な説明に記載された事項であるから、申立理由3は理由がない。

(3) 申立人の主張について
ア 申立人の主張の概要
申立理由3について、申立人は、以下の主張をしている。
特許異議申立書16頁
「甲第4号証において、接続部16aの位置に着目し、特に甲第4号証に示されている第一の増径部28および中外径中間部30との位置関係についてみてみる。そうすると、接続部16aは、その前端部が中外径中間部30の前端部と一致しており、その全てが中外径中間部30の範囲に存在している。」

申立人の主張は、要するに、図1には、接続部16aは、その前端部が中外径中間部30の前端部と一致しており、その全てが中外径中間部30の範囲に存在していることが記載されており、請求項6で特定されている構成と対応しないから、請求項6は、実施形態の記載範囲を超えているというものである。

イ 申立人の主張についての検討
上記(2)に説示したとおり、明細書の段落【0017】には、当該請求項6で特定されている「該一対の引き出し線の該一方の該後端と該一対のリード線の該一方の該先端との該接続部は、該第一の増径部の後端部と該中間部の前端部とに跨って位置」することが記載されている。
したがって、申立人の上記主張を採用することはできない。


第6 むすび
以上のとおりであるから、申立人の主張する理由及び提出した証拠により請求項1、3、4、5、6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1、3、4、5、6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2021-12-06 
出願番号 P2019-232961
審決分類 P 1 652・ 537- Y (G01K)
P 1 652・ 121- Y (G01K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 居島 一仁
特許庁審判官 濱野 隆
清水 靖記
登録日 2021-01-28 
登録番号 6830278
権利者 株式会社大泉製作所
発明の名称 温度センサ  
代理人 小野 尚純  
代理人 金子 吉文  
代理人 鹿角 剛二  
代理人 奥貫 佐知子  

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