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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  H01M
管理番号 1384167
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-05 
確定日 2022-01-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6853321号発明「積層型電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6853321号の請求項1、2に係る特許を維持する。 
理由 1 手続の経緯
特許第6853321号の請求項1、2に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和1年9月25日の出願であって、令和3年3月15日にその特許権の設定登録がなされ、同年3月31日にその特許掲載公報が発行された。
本件は、その後、その特許について、同年8月5日付けで特許異議申立人金田綾香(以下、「申立人」という。)により請求項1、2(全請求項)に対して特許異議の申立てがなされたものである。

2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1、2に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」、「本件発明2」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1、2に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
積層型電池であって、
金属層と前記金属層の内面に設けられた樹脂接着層とを含む第1基材と、前記第1基材に対向する第2基材と、前記第1基材と前記第2基材とをヒートシールして、前記第1基材と前記第2基材との間に封止空間を形成するシール部と、を有する外装体と、
前記封止空間に設けられた膜電極接合体であって、積層方向に交互に積層された複数の第1電極板および複数の第2電極板を有する膜電極接合体と、
前記第1電極板に接続され、前記積層方向で見たときの第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第1タブと、
前記第2電極板に接続され、前記第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第2タブと、を備え、
前記積層型電池の重量は、500g以上であり、
前記第1方向における前記第1基材および前記第2基材の寸法は、200mm以上であり、
前記シール部のシール長さは、900mm以上であり、
前記積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である、
積層型電池。
【請求項2】
前記積層方向で見たときの前記積層型電池の面積は、20,000mm2以上である、
請求項1に記載の積層型電池。」

3 特許異議申立理由の概要
申立人は、次の甲第1号証及び甲第2号証(以下、それぞれ「甲1」及び「甲2」という。)を提出し、以下の(1)〜(4)の特許異議申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲1:特開2018−56131号公報
甲2:「大容量フィルム型リチウムイオン電池事業を開始します」,積水化学工業株式会社,2016年12月12日(https://www.sekisui.co.jp/news/2016/1296962_26478.html)

(1)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(2)本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1及び甲2に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである。

(3)本件特許は、その特許請求の範囲の記載が下記ア、イの点で不備のため、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

ア 本件発明は、シール条件が特定されていないから、封止性能の低下を抑制するという課題を解決できない。

イ 本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、第1タブ及び第2タブが対向する位置に接続される構成以外の構成については、開示も示唆もされていない。

(4)本件特許は、その特許請求の範囲の記載が下記アの点で不備のため、本件発明が明確とはいえないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである。

ア 請求項1の「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るとの発明特定事項の技術的意義が不明である。

4 各甲号証の記載事項
(1)甲1の記載事項
甲1には、次の記載がある。なお、甲1に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。
「【技術分野】
【0001】
本発明は、リチウムイオン二次電池などの単位電池の製造方法、及び、このような単位電池を複数用いて構成される電池モジュールに関する。
【背景技術】
【0002】
リチウムイオン二次電池は、モバイルフォン、デジタルカメラなどの携帯用小型機器の電源に用いられる蓄電デバイスとして普及してきたが、近年は電動バイク、電気自転車などの移動手段の電源や、住宅や商業施設などの電源として用いられるなど、大型で大容量かつ大電流の電源においても需要が拡大している。」
「【0018】
図1(A)は予備加工を施していない単位電池100を示している。単位電池100の電池本体部110は、複数のシート状正極と複数のシート状負極とがセパレータを介して積層された電極積層体、および電解液(いずれも図示しない)が、平面視で矩形のラミネートフィルム外装材内に収容された構造となっている。そして、電池本体部110の一方の端部(辺)からは正極引き出しタブ120が、また、前記一方の端部と対向する他方の端部(辺)からは負極引き出しタブ130が引き出されている。上記のような複数のシート状正極電極と複数のシート状負極電極とがセパレータを介して積層された積層方向をシート厚方向として定義する。
【0019】
正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130は、いずれも平面状で、ラミネートフィルム外装材内において、それぞれ、シート状正極電極の正極集電タブ、シート状負極電極の負極集電タブと直接またはリード体などを介して接続されている。ラミネートフィルム外装材は、熱融着樹脂層を有する金属ラミネートフィルムにより構成されている。より具体的には、例えば2枚の金属ラミネートフィルムが、熱融着樹脂層同士を相対して重ねられてラミネートフィルム外装材を構成し、シート状正極電極、シート状負極電極およびセパレータを有する電極積層体や電解液を、内部に収容した状態でラミネートフィルム外装材の外周辺が熱シールされることで、その内部が密閉されている。」
「【0030】
図1(D)は予備加工された単位電池100の寸法関係等を説明する図である。本実施形態に係る電池モジュール1000を構成するために用いられる単位電池100は以下のような寸法関係等を有している。
・単位電池100の寸法(引き出しタブを除く):L270mm、W130mm
・引き出しタブの幅:80mm
・正極側の継ぎ足しタブ部材140の貫通孔145:φ5
・負極引き出しタブ130の貫通孔135:φ5
・貫通孔145と貫通孔135との間の距離:350mm
・貫通孔145と貫通孔135に適用するネジ889:M4
・単位電池100の重量:800g
次に、以上のように準備加工される単位電池100の製造から引き出しタブなどへの穿孔工程までをより詳しく説明する。図2は単位電池100の製造のために複数準備される材料の一部を示す図であり、図2(A)は正極電極20を示しており、図2(B)は負極電極30を示しており、図2(C)はセパレータ40を示している。」
「【0034】
図3に示す工程では、上記のような各素材を、例えばしたから順に、負極電極30、セパレータ40、正極電極20、セパレータ40、負極電極30・・・・正極電極20、セパレータ40、負極電極30のように積層する。このようにして構成される、図4に示す積層体においては、最下部、最上部には必ず負極電極30が配されるようにしている。」
「【0037】
図6に示す工程では、下に凸の型押しがなされている第1ラミネートフィルム外装材61と、上に凸の型押しがなされている第2ラミネートフィルム外装材62とで、電池要素50を収容する。この時、正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130とは、第1ラミネートフィルム外装材61及び第2ラミネートフィルム外装材62の外に引き出された状態とされる。第1ラミネートフィルム外装材61及び第2ラミネートフィルム外装材62としては、アルミニウム箔の表裏を樹脂でコーティングしたシートを用いる。」
「【0039】
図7に示す工程では、正極引き出しタブ120と負極引き出しタブ130とを、第1ラミネートフィルム外装材61及び第2ラミネートフィルム外装材62の外に引き出された状態で、電解液を注液する開口を残し、ラミネートフィルム外装材の周縁を熱溶着する。次に、前記開口から電解液(不図示)を注液した後、前記開口を接着により封口し、ラミネートフィルム外装材内に電池要素50、正極集電タブ24、負極集電タブ34、電解液(不図示)を封止する。図7における斜線に示す領域は、ラミネートフィルム外装材が熱溶着や接着によって貼り合わされている領域を示している。」
「【0149】
本実施形態に用いる単位電池100が、第1実施形態で用いた単位電池100と異なる点は、正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が、ラミネートフィルム外装材の同じ辺から引き出されている点である。
【0150】
図40(D)は予備加工された第2実施形態に係る単位電池100の寸法関係等を説明する図である。この単位電池100は以下のような寸法関係等を有している。
・単位電池100の寸法(引き出しタブを除く):L270mm、W230mm
・引き出しタブの幅:40mm
・正極側の継ぎ足しタブ部材140の貫通孔145:φ5
・負極引き出しタブ130の貫通孔135:φ5
・貫通孔145と貫通孔135との間の距離:100mm
・貫通孔145と貫通孔135に適用するネジ889:M4
・単位電池100の重量:800g
さらに、正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が、ラミネートフィルム外装材の同じ辺から引き出されている、第3実施形態に係る単位電池100として、以下のような寸法関係等を有するものを準備した。
・単位電池100の寸法(引き出しタブを除く):L150mm、W80mm
・引き出しタブの幅:12mm
・正極側の継ぎ足しタブ部材140の貫通孔145:φ4
・負極引き出しタブ130の貫通孔135:φ4
・貫通孔145と貫通孔135との間の距離:30mm
・貫通孔145と貫通孔135に適用するネジ889:M3
・単位電池100の重量:150g
また、以上の第1実施形態乃至第3実施形態に係る単位電池100と同寸法の比較例1乃至比較例3に係る単位電池100を用意した。比較例1乃至比較例3に係る単位電池100は、いずれも、単位電池100を製造する際、予め正極引き出しタブ120や負極引き出しタブ130、継ぎ足しタブ部材140などに孔を設けておく製造方法を採用している。」
「【図1】



「【図40】




(2)甲2の記載
甲2には、次の記載がある。





5 引用発明
(1)甲1に記載された発明
ア 上記4の(1)の図1(D)より、正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が引き出されている方向は、単位電池100のWの方向とほぼ直角なLの方向であることが看取できる。
したがって、上記4の(1)の図1(D)に示された単位電池100に注目すると、上記4の(1)(特に、【0018】、【0019】、【0030】、【0034】参照。)によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明1」という。)が記載されていると認められる。
「電極積層体、および電解液が、平面視で矩形のラミネートフィルム外装材内に収容された構造となっている電池本体部110を有し、
電池本体部110の一方の端部(辺)からは正極引き出しタブ120が、また、前記一方の端部と対向する他方の端部(辺)からは負極引き出しタブ130が引き出されており、
正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が引き出されている方向は、単位電池100のLの方向であり、
正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130は、いずれも平面状で、ラミネートフィルム外装材内において、それぞれ、シート状正極電極の正極集電タブ、シート状負極電極の負極集電タブと直接またはリード体などを介して接続されており、
ラミネートフィルム外装材は、熱融着樹脂層を有する金属ラミネートフィルムにより構成されており、2枚の金属ラミネートフィルムが、熱融着樹脂層同士を相対して重ねられてラミネートフィルム外装材を構成し、シート状正極電極、シート状負極電極およびセパレータを有する電極積層体や電解液を、内部に収容した状態でラミネートフィルム外装材の外周辺が熱シールされることで、その内部が密閉されており、
引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mm、Wの方向は130mmであり、
引き出しタブの幅は80mmであり、
単位電池100の重量は800gであり、
電極積層体は、負極電極30、セパレータ40、正極電極20、セパレータ40、負極電極30・・・・正極電極20、セパレータ40、負極電極30のように積層された、単位電池100。」

イ 上記4の(1)の図40(D)より、正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が引き出されている方向は、単位電池100のWの方向とほぼ直角なLの方向であることが看取できる。
したがって、上記4の(1)の図40(D)に示された単位電池100に注目すると、上記4の(1)(特に、【0018】、【0019】、【0034】、【0149】、【0150】参照。)によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明2」という。)が記載されていると認められる。
「電極積層体、および電解液が、平面視で矩形のラミネートフィルム外装材内に収容された構造となっている電池本体部110を有し、
正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が、ラミネートフィルム外装体の同じ辺から引き出されており、
正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が引き出されている方向は、単位電池100のLの方向であり、
正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130は、いずれも平面状で、ラミネートフィルム外装材内において、それぞれ、シート状正極電極の正極集電タブ、シート状負極電極の負極集電タブと直接またはリード体などを介して接続されており、
ラミネートフィルム外装材は、熱融着樹脂層を有する金属ラミネートフィルムにより構成されており、2枚の金属ラミネートフィルムが、熱融着樹脂層同士を相対して重ねられてラミネートフィルム外装材を構成し、シート状正極電極、シート状負極電極およびセパレータを有する電極積層体や電解液を、内部に収容した状態でラミネートフィルム外装材の外周辺が熱シールされることで、その内部が密閉されており、
引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mmであり、Wの方向は不明であり、
引き出しタブの幅は40mmであり、
単位電池100の重量は800gであり、
電極積層体は、負極電極30、セパレータ40、正極電極20、セパレータ40、負極電極30・・・・正極電極20、セパレータ40、負極電極30のように積層された、単位電池100。」

ウ なお、上記イの甲1発明2の認定にあたり、上記4の(1)の【0150】には、図40(D)の単位電池100について、「・単位電池100の寸法(引き出しタブを除く):L270mm、W230mm」と記載されているのに対し、上記4の(1)の図40(D)には、「W=130mm」と記載されており、Wの長さについて両者は矛盾している。

エ ここで、図40(D)は概念図であることから、縮尺が正確であるとはいえないところ、図40(D)の単位電池100において、引き出しタブの幅40mm及び貫通孔145と貫通孔135との間の距離100mmと、Wとを比較すると、単位電池の幅Wが130mmであるようにも考えられるし、図1(D)の単位電池100の幅Wと図40(D)の単位電池100の幅Wとを比較すると、図40(D)の単位電池100の幅Wが230mmであるようにも考えられる。すなわち、図40(D)の単位電池100の幅Wが不明であるといわざる得ない。

オ したがって、甲1発明2の単位電池100の寸法については、「引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mmであり、Wの方向は不明であ」ると認定した。

6 対比・判断
6−1 特許法第29条第1項第3号、及び、同法同条第2項について(上記3の(1)及び(2))
(1)甲1発明1を主たる引用発明とした場合
(1)−1 本件発明1について
本件発明1と甲1発明1とを対比する。
ア 本件発明1の「積層型電池」は、「封止空間に設けられた膜電極接合体であって、積層方向に交互に積層された複数の第1電極板および複数の第2電極板を有する膜電極接合体と」を備えるものであるところ、甲1発明1の「単位電池100」は、「電極積層体」が、「負極電極30、セパレータ40、正極電極20、セパレータ40、負極電極30・・・・正極電極20、セパレータ40、負極電極30のように積層された」ものであるから、本件発明1の「積層型電池」に相当する。

イ 甲1発明1の「ラミネートフィルム外装材は、熱融着樹脂層を有する金属ラミネートフィルムにより構成されており、2枚の金属ラミネートフィルムが、熱融着樹脂層同士を相対して重ねられてラミネートフィルム外装材を構成し、シート状正極電極、シート状負極電極およびセパレータを有する電極積層体や電解液を、内部に収容した状態でラミネートフィルム外装材の外周辺が熱シールされることで、その内部が密閉されて」いる事項は、本件発明1の「金属層と前記金属層の内面に設けられた樹脂接着層とを含む第1基材と、前記第1基材に対向する第2基材と、前記第1基材と前記第2基材とをヒートシールして、前記第1基材と前記第2基材との間に封止空間を形成するシール部と、を有する外装体と、前記封止空間に設けられた膜電極接合体」「を備え」る事項に相当する。

ウ 甲1発明1の「電極積層体は、負極電極30、セパレータ40、正極電極20、セパレータ40、負極電極30・・・・正極電極20、セパレータ40、負極電極30のように積層された」事項は、本件発明1の「積層方向に交互に積層された複数の第1電極板および複数の第2電極板を有する膜電極接合体」「を備え」る事項に相当する。

エ 甲1発明1の「ラミネートフィルム外装材」を含む「電池本体部110の一方の端部(辺)からは正極引き出しタブ120が、また、前記一方の端部と対向する他方の端部(辺)からは負極引き出しタブ130が引き出されており」、「正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130は、いずれも平面状で、ラミネートフィルム外装材内において、それぞれ、シート状正極電極の正極集電タブ、シート状負極電極の負極集電タブと直接またはリード体などを介して接続されて」いる事項は、本件発明1の「第1電極板に接続され、前記積層方向で見たときの第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第1タブと、前記第2電極板に接続され、前記第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第2タブと、を備え」る事項に相当する。

オ 甲1発明1の「単位電池100の重量は800gであ」る事項は、本件発明1の「積層型電池の重量は、500g以上であ」る事項に相当する。

カ 甲1発明1の「ラミネートフィルム外装体」は、「単位電池100」の外装体であって、その寸法は「単位電池100の寸法」であるといえるから、甲1発明1は、「正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が引き出されている方向は、単位電池100のLの方向であり、」「引き出しタブを除く単位電池100の寸法がL方向は270mm」である事項は、本件発明1の「第1方向における前記第1基材および前記第2基材の寸法は、200mm以上であ」る事項に相当する。

キ 上記ア〜カより、本件発明1と甲1発明1とは、
「積層型電池であって、
金属層と前記金属層の内面に設けられた樹脂接着層とを含む第1基材と、前記第1基材に対向する第2基材と、前記第1基材と前記第2基材とをヒートシールして、前記第1基材と前記第2基材との間に封止空間を形成するシール部と、を有する外装体と、
前記封止空間に設けられた膜電極接合体であって、積層方向に交互に積層された複数の第1電極板および複数の第2電極板を有する膜電極接合体と、
前記第1電極板に接続され、前記積層方向で見たときの第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第1タブと、
前記第2電極板に接続され、前記第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第2タブと、を備え、
前記積層型電池の重量は、500g以上であり、
前記第1方向における前記第1基材および前記第2基材の寸法は、200mm以上である、
積層型電池。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点1)
本件発明1は、「シール部のシール長さは、900mm以上であり、前記積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である」のに対し、甲1発明1は、「引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mm、Wの方向は130mmであり、引き出しタブの幅は80mmであ」る点。

ク 相違点1について検討する。

ケ 甲1発明1は、「引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mm、Wの方向は130mmであり、引き出しタブの幅は80mmであ」るから、本件発明1の「シール部のシール長さ」に相当する長さは、270mm×2+130mm×2=800mmであり、「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値」に相当する値は、80mm×2=160mmであり、いずれの値も本件発明1の範囲外である。

コ 一方、甲2には、住宅用蓄電システムに搭載するフィルム型リチウムイオン単電池であって、甲2の左下の写真の説明によれば、そのサイズが、「長さ510mm×幅209mm×厚さ5.1mm以下」のフィルム型リチウムイオン単電池が記載されている。

サ そして、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池は、本件発明1の「シール部のシール長さ」に相当する長さが、510mm×2+209mm×2=1438mmと算出できる。

シ さらに、甲2の左下のフィルム型リチウムイオン単電池の写真において、写真上のサイズやサイズの比が実際の寸法を反映していると考えられるところ、写真の3つの電池のうちの一番上の電池の左上の辺に注目すると、概ね幅が18mm、タブが2mmと実測(実測は当審による。)でき、甲2記載の幅は「209mm」であるから、タブの幅は概ね209mm×2mm/18mm=23.2mmである。

ス そうすると、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池は、本件発明1の「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値」に相当する値が、23.2mm×2=46.4mmである。

セ したがって、上記コに照らせば、上記サ及びスより、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池は、「シール部のシール長さ」も「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値」も、本件発明1の範囲内である蓋然性が高いといえる。

ソ そして、甲1には、背景技術として、「リチウムイオン二次電池は、・・・(略)・・・近年は電動バイク、電気自転車などの移動手段の電源や、住宅や商業施設などの電源として用いられるなど、大型で大容量かつ大電流の電源においても需要が拡大している」(【0002】)と、住宅の用途に用いることが示唆されており、また、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池は住宅用蓄電システムに搭載することが記載されている。

タ そうすると、甲1発明1の「単位電池」と甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池とは、いずれも住宅用の電源として用いるものである点で共通しているから、甲1発明1の「単位電池」において、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池の寸法を採用する動機があるといえる。

チ しかしながら、本件発明1は、「積層型電池の重量は、500g以上であり、」「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である」との発明特定事項を有することにより、本件明細書に記載された「重量が大きい積層型電池1の使用時等において不意に積層型電池1が動き、シール部46のうちタブ16,26と溶着している部分に大きな力が加わった場合であっても、シール長さLのうちシール破れが生じ得る割合を小さくすることができ」るため、「積層型電池1の封止性能の低下を抑制することができる」(【0072】)との効果を奏するものであるところ、甲1、甲2には、当該効果について記載も示唆もされていないから、当業者が当該効果を予測することは困難である。

ツ したがって、本件発明1は、甲1及び甲2に記載も示唆もされていない異質な効果を奏するものであることを勘案すると、甲1発明1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(1)−2 本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明2と甲1発明1とは、少なくとも、上記(1)−1のキで示した相違点1で相違するから、上記(1)−1のケ〜テで検討した理由と同様の理由により、本件発明2も、甲1発明1及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)甲1発明2を主たる引用発明とした場合
(2)−1 本件発明1について
本件発明1と甲1発明2とを対比する。
ア 本件発明1の「積層型電池」は、「封止空間に設けられた膜電極接合体であって、積層方向に交互に積層された複数の第1電極板および複数の第2電極板を有する膜電極接合体と」を備えるものであるところ、甲1発明2の「単位電池100」は、「電極積層体」が、「負極電極30、セパレータ40、正極電極20、セパレータ40、負極電極30・・・・正極電極20、セパレータ40、負極電極30のように積層された」ものであるから、本件発明1の「積層型電池」に相当する。

イ 甲1発明2の「ラミネートフィルム外装材は、熱融着樹脂層を有する金属ラミネートフィルムにより構成されており、2枚の金属ラミネートフィルムが、熱融着樹脂層同士を相対して重ねられてラミネートフィルム外装材を構成し、シート状正極電極、シート状負極電極およびセパレータを有する電極積層体や電解液を、内部に収容した状態でラミネートフィルム外装材の外周辺が熱シールされることで、その内部が密閉されて」いる事項は、本件発明1の「金属層と前記金属層の内面に設けられた樹脂接着層とを含む第1基材と、前記第1基材に対向する第2基材と、前記第1基材と前記第2基材とをヒートシールして、前記第1基材と前記第2基材との間に封止空間を形成するシール部と、を有する外装体と、前記封止空間に設けられた膜電極接合体」「を備え」る事項に相当する。

ウ 甲1発明2の「電極積層体は、負極電極30、セパレータ40、正極電極20、セパレータ40、負極電極30・・・・正極電極20、セパレータ40、負極電極30のように積層された」事項は、本件発明1の「積層方向に交互に積層された複数の第1電極板および複数の第2電極板を有する膜電極接合体」「を備え」る事項に相当する。

エ 甲1発明2の「正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が、ラミネートフィルム外装体の同じ辺から引き出されており、」「正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130は、いずれも平面状で、ラミネートフィルム外装材内において、それぞれ、シート状正極電極の正極集電タブ、シート状負極電極の負極集電タブと直接またはリード体などを介して接続されて」いる事項は、本件発明1の「第1電極板に接続され、前記積層方向で見たときの第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第1タブと、前記第2電極板に接続され、前記第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第2タブと、を備え」る事項に相当する。

オ 甲1発明2の「単位電池100の重量は800gであ」る事項は、本件発明1の「積層型電池の重量は、500g以上であ」る事項に相当する。

カ 甲1発明2は、「正極引き出しタブ120及び負極引き出しタブ130が引き出されている方向は、単位電池100のLの方向であり、」「引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mm」である事項は、本件発明1の「第1方向における前記第1基材および前記第2基材の寸法は、200mm以上であ」る事項に相当する。

キ 甲1発明2の「引き出しタブの幅は40mmであ」るため、甲1発明2において、「正極引き出しタブ120」及び「負極引き出しタブ130」の幅の寸法の合計値は80mmとなるから、甲1発明2の「引き出しタブの幅は40mmであ」る事項は、本件発明1の「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である」事項に相当する。

ク 上記ア〜キより、本件発明1と甲1発明2とは、
「積層型電池であって、
金属層と前記金属層の内面に設けられた樹脂接着層とを含む第1基材と、前記第1基材に対向する第2基材と、前記第1基材と前記第2基材とをヒートシールして、前記第1基材と前記第2基材との間に封止空間を形成するシール部と、を有する外装体と、
前記封止空間に設けられた膜電極接合体であって、積層方向に交互に積層された複数の第1電極板および複数の第2電極板を有する膜電極接合体と、
前記第1電極板に接続され、前記積層方向で見たときの第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第1タブと、
前記第2電極板に接続され、前記第1方向において前記シール部を通って前記外装体の外側に延び出た第2タブと、を備え、
前記積層型電池の重量は、500g以上であり、
前記第1方向における前記第1基材および前記第2基材の寸法は、200mm以上であり、
前記積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である、
積層型電池。」で一致し、次の相違点で相違する。

(相違点2)
本件発明1は、「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るのに対し、甲1発明2は、「引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mmであり、Wの方向は不明であ」る点。

ケ 相違点2について検討する。

コ 甲1発明2は、「引き出しタブを除く単位電池100の寸法がLの方向は270mmであり、Wの方向は不明であ」るから、本件発明1の「シール部のシール長さ」に相当する長さも不明である。

サ 一方、甲2には、住宅用蓄電システムに搭載するフィルム型リチウムイオン単電池であって、甲2の左下の写真の説明によれば、そのサイズが、長さ510mm×幅209mm×厚さ5.1mm以下のフィルム型リチウムイオン単電池が記載されている。

シ そして、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池は、本件発明1の「シール部のシール長さ」に相当する長さが、510mm×2+209mm×2=1438mmであり、「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値」が、本件発明1の範囲内であるといえる。

ス また、甲1には、背景技術として、「リチウムイオン二次電池は、・・・(略)・・・近年は電動バイク、電気自転車などの移動手段の電源や、住宅や商業施設などの電源として用いられるなど、大型で大容量かつ大電流の電源においても需要が拡大している」(【0002】)と、住宅の用途に用いることが示唆されており、また、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池は住宅用蓄電システムに搭載することが記載されている。

セ そうすると、甲1発明2の「単位電池」と甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池とは、いずれも住宅用の電源として用いるものである点で共通しているから、甲1発明2の「単位電池」において、甲2に記載されたフィルム型リチウム単電池の寸法を採用する動機があるといえる。

ソ しかしながら、本件発明1は、「積層型電池の重量は、500g以上であり、」「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である」との発明特定事項を有することにより、「重量が大きい積層型電池1の使用時等において不意に積層型電池1が動き、シール部46のうちタブ16,26と溶着している部分に大きな力が加わった場合であっても、シール長さLのうちシール破れが生じ得る割合を小さくすることができ」るため、本件明細書に記載された「積層型電池1の封止性能の低下を抑制することができる」(【0072】)との効果を奏するものであるところ、甲1、甲2には、当該効果について記載も示唆もされていないから、当業者が当該効果を予測することは困難である。

タ したがって、本件発明1は、甲1及び甲2に記載も示唆もされていない異質な効果を奏するものであることを勘案すると、甲1発明2及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)−2 本件発明2について
ア 本件発明2は、本件発明1の発明特定事項を全て有するものであるから、本件発明2と甲1発明1とは、少なくとも、上記(1)−1のクで示した相違点2で相違するから、上記(1)−1のコ〜タで検討した理由と同様の理由により、本件発明2も、甲1発明2及び甲2に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6−2 特許法第36条第6項第1号について(上記3の(3))
(1)シール条件について
ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「封止性能の低下を抑制することができる積層型電池を提供すること」(【0005】)であると認められる。

イ そして、本件発明1は、「重量は、500g以上であり、前記第1方向における前記第1基材および前記第2基材の寸法は、200mm以上であり、前記シール部のシール長さは、900mm以上」である大型の積層型電池であっても、「前記積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である」との発明特定事項を有することにより、シール部の「タブ16,26と溶着している部分の長さの割合を小さくすることができ」るため、本件明細書に記載された「積層型電池1の封止性能の低下を抑制することができる」(【0071】、【0072】)との効果を奏し、上記アの課題を解決するものである。

ウ ここで、シール部46およびタブ16、26等の材質や、シール部46の幅の長さ、熱圧着条件等のシール条件により、積層型電池1の封止性能が異なると考えられる。

エ しかしながら、本件発明1は、上記ウのシール条件が同一の条件下で、本件発明1の発明特定事項を有する場合と有さない場合とを比較した時に、本件発明1の発明特定事項を有する場合、上記アの課題を解決し得るものであると解される。

オ また、特定のシール条件下でのみ、本件発明1が上記課題を解決するものともいえない。

カ よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。

(2)第1タブ及び第2タブについて
ア 本件発明の解決しようとする課題は、上記(1)のアに示したとおりのものである。

イ そして、本件発明1は、「重量は、500g以上であり、前記第1方向における前記第1基材および前記第2基材の寸法は、200mm以上であり、前記シール部のシール長さは、900mm以上」である大型の積層型電池であっても、「前記積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である」との発明特定事項を有することにより、「タブ16,26と溶着している部分の長さの割合を小さくすることができ」るため、本件明細書に記載された「積層型電池1の封止性能の低下を抑制することができる」(【0071】、【0072】)との効果を奏し、上記アの課題を解決するものである。

ウ ここで、膜電極接合体5において対向する位置にタブ16、26が接続されている構成以外の構成については、発明の詳細な説明に開示されていない。

エ しかしながら、例えば、甲1の図40(A)〜(D)に示されているように、膜電極接合体5において対向する位置以外にタブが接続されている構成は、周知のものである。

オ また、本件発明1は、タブの接続位置が同一の条件下において、本件発明1の発明特定事項を有する場合と有さない場合とを比較した時に、本件発明1の発明特定事項を有する場合、上記(1)のアの課題を解決し得るものであると解される。

カ さらに、タブの接続位置が対向する場合でのみ、本件発明1が上記課題を解決するものともいえない。

キ よって、本件発明1及びそれを引用する本件発明2は、発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。

6−3 特許法第36条第6項第2号について(上記3の(4))
(1)「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るとの発明特定事項について
ア 本件発明1は、「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るとの発明特定事項を有するものである。

イ そして、本件明細書及び本件の願書に添付された図面には、次の記載がある。
「【0047】
また、本実施の形態において、外装体40のシール部46のシール長さLは、900mm以上であってもよい。シール長さLは、第1シール部分46aのシール長さL1と、第2シール部分46bのシール長さL2と、第3シール部分46cのシール長さL3と、第4シール部分46dのシール長さL4との合計値(L1+L2+L3+L4)で表すことができる(図5参照)。シール長さL1は、第2方向d2における第1シール部分46aの長さに相当する。シール長さL2は、第2方向d2における第2シール部分46bの長さに相当する。シール長さL3は、第1方向d1における第3シール部分46cの長さに相当する。シール長さL4は、第1方向d1における第4シール部分46dの長さに相当する。なお、ここで、シール長さLとは、シール部46の最外縁(シール部46の幅方向において封止空間45とは反対側の縁)の長さを意味し、シール長さL1,L2,L3,L4とは、対応するシール部分46a,46b,46c,46dの最外縁の長さを意味する。」
「【図5】




ウ 上記イの記載によれば、上記アの発明特定事項について何ら不明な点はないので、本件発明1及びそれを引用する本件発明1は、明確である。

エ なお、申立人は特許異議申立書(第25頁第2〜4行)において、本件発明1は、「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るとの発明特定事項の技術的意義が不明であると主張している、すなわち、特許法第36条第4項第1号で定める委任省令要件違反について主張していると解されるので、念のため以下検討する。

オ 本件明細書の記載によれば、本件発明1は、「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るとの発明特定事項を有するシール長さが長い大きな積層型電池において、「積層方向で見たときに前記第1方向と直交する第2方向における前記第1タブの寸法と前記第2タブの寸法との合計値は、18mm以上90mm以下である」との発明特定事項を有することにより、「シール長さLに対するタブ16,26と溶着している部分の長さの割合を小さくすることができ」るため、本件明細書に記載された「積層型電池1の封止性能の低下を抑制することができる」(【0071】)との効果を奏するものである。

カ ここで、シール部において、タブが存在しない個所(以下、「個所A」という。)では、第1基材の樹脂接着層と第2基材の樹脂接着層とが接着しているのに対し、タブが延び出た個所(以下、「個所B」という。)では、第1基材の樹脂接着層と第2基材の樹脂接着層との間にタブ及びシーラントが存在するから、個所Bは個所Aと比較して封止性能に劣ると考えられる。

キ そうすると、本件発明1は、上記オのとおり、「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るとの発明特定事項を有するシール長さが長い大きい積層型電池であっても、「タブ16,26と溶着している部分の長さの割合を小さくすることができ」、封止性能に優れる個所Aの長さの割合を上げることができるから、封止性能の低下を抑制することができるといえる。

ク したがって、本件発明1の「シール部のシール長さは、900mm以上であ」るとの発明特定事項は、シール長さが長い大きい積層型電池であるという前提条件に係る発明特定事項であり、本件発明1の技術的意義は本件明細書の記載から理解することができるから、本件は、本件発明1及びそれを引用する本件発明2について、特許法第36条第4項第1号で定める要件を満たすものである。

7 むすび
以上のとおり、本件の請求項1、2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-12-20 
出願番号 P2019-174643
審決分類 P 1 651・ 537- Y (H01M)
P 1 651・ 536- Y (H01M)
P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 市川 篤
土屋 知久
登録日 2021-03-15 
登録番号 6853321
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 積層型電池  
代理人 中村 行孝  
代理人 柏 延之  
代理人 高田 泰彦  
代理人 綿貫 力  
代理人 浅野 真理  
代理人 堀田 幸裕  
代理人 宮嶋 学  

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