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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  C08J
管理番号 1384171
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-11 
確定日 2022-02-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6834210号発明「シート」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6834210号の請求項1ないし3、5ないし9に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6834210号(請求項の数は9。以下、「本件特許」という。)は、平成28年7月14日にされた特許出願(特願2016−139803号)に係るものであって、令和3年2月8日にその特許権の設定登録がされ、同年同月24日に特許掲載公報が発行されたものである。
その後、令和3年8月11日に特許異議申立人 高橋和秀(以下、「申立人」という。)から本件特許の請求項1〜3、5〜9に係る特許に対して特許異議の申立てがされ、当審において同年11月5日付けで申立人に対し審尋し、期間を指定して回答書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかった。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜3、5〜9に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明9」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜3、5〜9に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

【請求項1】
繊維幅が10nm以下であり、かつアニオン基を有する繊維状セルロースと、
ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体と、を含有するシートであって、
前記含窒素化合物由来の単位はイソシアネート化合物及びカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種に由来する単位であり、
前記シートのヘーズが30%以下であるシート。
【請求項2】
吸水率が5000%以下である請求項1に記載のシート。
【請求項3】
全光線透過率が86%以上である請求項1又は2に記載のシート。
【請求項5】
前記ポリオール由来の単位はジオール由来の単位である請求項1〜4のいずれか1項に記載のシート。
【請求項6】
引張弾性率が2.0GPa以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載のシート。
【請求項7】
引張強度が40MPa以上である請求項1〜6のいずれか1項に記載のシート。
【請求項8】
JIS K 7373に準拠して測定した前記シートの黄色度をYI1とし、前記シートを200℃で4時間真空乾燥した後の黄色度をYI2とした場合、YI2−YI1の値が50以下である請求項1〜7のいずれか1項に記載のシート。
【請求項9】
前記ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体の含有量は、前記シートの全質量に対して、15質量%以上85質量%以下である請求項1〜8のいずれか1項に記載のシート。

第3 申立人の主張に係る申立理由の概要
特許異議申立書における申立人の主張は、概略以下のとおりであって、本件発明1〜3、5〜9は特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであるから、請求項1〜3、5〜9に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきもの、というものである。

1 申立理由(拡大先願)
本件発明1〜3、5〜9は、その出願の日前の他の特許出願であって、その出願後に出願公開がされた先願(甲1)の願書に最初に添付された明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、しかもこの発明の発明者がその出願前の特許出願に係る上記の発明の発明者と同一でなく、またこの出願の時において、その出願人が上記特許出願の出願人と同一でもないので、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものである。

2 証拠等
・甲1:特願2016−24756号(特開2017−141394号公報)
・甲2:特開2010−229182号公報

第4 当審の判断
当審は、以下述べるように、上記申立理由には理由がないと判断する。

1 証拠に記載された発明
(1)甲1の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲の記載
本件特許に係る出願日前に出願されその出願後に出願公開された甲1の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲には、以下の記載がある。
・「【0015】
本発明は以上のような問題点を考慮してなされたもので、セルロース本来の優れた特性を生かした材料設計を可能にする樹脂組成物、樹脂成形体及びその製造方法を提供することを課題とする。特に、セルロースの分散状態を維持したまま樹脂と成形体を形成することで、耐熱性や熱膨張性だけでなく、優れた光学特性を示す材料を提供することが出来る。
なお、ここで言う成形体とは、セルロース繊維と樹脂を混合した組成物を用いて形成したフィルム状、シート状、構造体等の形態を指す。また、組成物とは樹脂が架橋や硬化反応等をする前の状態を指すものとする。」
・「【0024】
<セルロース繊維>
本発明は、セルロース繊維と樹脂とを含んだ樹脂成形体であり、そのセルロース繊維は、成形体中で平均繊維幅が3nm以上200nm以下という高分散状態を維持したものである。ただし、繊維幅200nm程度の比較的大きなサイズのセルロース繊維を含むと、繊維幅が可視光の波長に近づくために成形体の透明性低下を招くとともに、表面積低下やセルロースの絡み合いが低下することで機械特性の低下を引き起こす。このことから繊維幅は100nm以下がより好ましく、20nm以下が更に好ましい。」
・「【0072】
(実施例1)
以下の手順により、セルロース繊維分散体の調製及び樹脂との組成物の調製、及び樹脂成形体の作製を行った。
【0073】
(1)試薬・材料
セルロース: 漂白クラフトパルプ(フレッチャー チャレンジ カナダ「MACHENZIE」)
TEMPO: 市販品(東京化成工業社製、98%)
次亜塩素酸ナトリウム: 市販品(和光純薬社製、CL:5%)
臭化ナトリウム: 市販品(和光純薬社製)
【0074】
(2)TEMPO酸化処理
乾燥重量10gの漂白クラフトパルプを2lのガラスビーカー中イオン交換水500ml中で一晩静置し、パルプを膨潤させた。ここにTEMPO0.1gと臭化ナトリウム1gを添加して攪拌し、パルプ懸濁液とした。さらに攪拌しながらセルロース重量当たり5mmol/gの次亜塩素酸ナトリウムを添加した。この際、約1Nの水酸化ナトリウム水溶液を添加してパルプ懸濁液のpHを約10.5に保持した。
その後、2時間反応させ、エタノール10gを添加して反応を停止し、セルロースにカルボキシル基が導入された酸化セルロースを得た。なお、この際導入されたカルボキシル基は反応媒中に残存する反応試薬に由来するナトリウムイオンを対イオンとした塩を形成する。続いて0.5Nの塩酸を滴下してpHを2まで低下させた。
ガラスフィルターを用いてセルロースをろ別し、さらに0.05Nの塩酸で3回洗浄してカルボキシル基をカルボン酸とした後に純水で5回洗浄し、固形分濃度20%の湿潤状態の酸化セルロースを得た。得られた酸化セルロースは、水酸化ナトリウムによる中和滴定からセルロースの乾燥重量当たりカルボキシル基量は1.6mmol/gと算出された。
【0075】
(3)アルカリ金属処理
上記により調製した酸化セルロースを固形分濃度5%となるよう水を加えて懸濁液とし、ここにアルカリ種としてアルカリ金属の水酸化物である、水酸化ナトリウムを酸化セルロースのカルボキシル基量に対して1.0当量加えた。2時間攪拌した後ガラスフィルターを用いて酸化セルロースをろ別し、対イオン置換酸化セルロースを得た。
【0076】
(4)分散処理
溶媒置換した酸化セルロースを分散媒となる水に加え、ミキサー(大阪ケミカル社製、アブソルートミル、14,000rpm)を用いて1時間処理することにより固形分濃度0.2%のセルロース繊維分散体を得た。得られた分散体の660nmにおける光線透過率は94%を示した。また、このときのセルロース繊維の繊維幅の平均値は4nmであった。
【0077】
(5)組成物の調製
分散処理したセルロース繊維と樹脂(荒川化学工業社製、ウレタンアクリレートエマルジョンタイプ、ビームセットEM−92)と光重合開始剤(BASF社製、Irgacure2959)を固形分重量比にてこの順に3:100:1となるようにスターラーにて一晩混合し、セルロース繊維と樹脂の組成物を調製した。
【0078】
(6)樹脂成形体の作製
調製した上記の組成物をPETフィルム(ルミラーT60−75μm:東レ)にアプリケーターにて塗工してオーブンにて120℃で10分間乾燥した。次に、高圧水銀ランプにより300mJ/cm2の紫外線を照射した後にPETフィルムを剥離することで、50μm厚の樹脂成形体を作製した。」
・「【0084】
(実施例7)
実施例1と同様にして、セルロース繊維と樹脂と光重合開始剤の固形分重量比がこの順に100:100:1となるように調製した他は同様の条件にて樹脂成形体を作製した。」
・「【0091】
[組成物のセルロース繊維幅測定]
上述の組成物をセルロース繊維が組成物に対して0.001%となるように水で希釈し、マイカ上に展開して自然乾燥させた後、透過型電子顕微鏡にて観察した。100サンプルを無作為に取り出し、平均値を平均繊維幅(nm)として求めた。」
・「【0093】
[成形体の光線透過率]
得られた50μm厚の樹脂成形体について、UV−VIS分光光度計(島津製作所社製、UV3600)を用いて波長660nmにおける光透過率(%)を測定した。」
・「【0094】
[引張り強度・破断伸び]
得られた50μm厚の樹脂成形体について、15mm幅、70mm長さの短冊状に切り出し、恒温恒湿槽付き引張試験機(テスター産業社製、TE−7001)を用いてチャック間隔50mm、試験速度5mm/minにて温度23℃、相対湿度30%の環境下で引張り強度(N/mm2)及び破断伸び(%)を測定した。なお、測定前に予め2日間測定環境にて調湿した。」
・「



(2)甲1の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲に記載された発明
上記(1)での摘記、特に【0072】〜【0078】、【0084】、【0093】、【表2】の記載からみて、甲1の願書に最初に添付された明細書及び特許請求の範囲には次の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されていると認められる。
「繊維幅が4nmであり、かつカルボキシル基を有する繊維状セルロースと、樹脂(荒川化学工業社製、ウレタンアクリレートエマルジョンタイプ、ビームセットEM−92)と、を含有する50μm厚の樹脂成形体であって、波長660nmにおける光透過率が95%で、引張り強度が74Mpaである樹脂成形体。」

2 申立理由についての判断
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と先願発明を対比すると、先願発明の「カルボキシル基」は、本件明細書【0024】に「アニオン基としては、例えば、・・・カルボキシル基又はカルボキシル基に由来する置換基」と記載されていることから、本件発明1の「アニオン基」に相当する。
また、先願発明の「樹脂(荒川化学工業社製、ウレタンアクリレートエマルジョンタイプ、ビームセットEM−92)」は、甲2【0034】に「前記反応性ポリマーエマルジョンは、前記ポリウレタンアクリレートを水中にエマルジョン化したものであり、自己乳化型エマルジョンである。市販品として、荒川化学社製のビームセットEM−90、ビームセットEM−92等がある。」と記載されていることから、反応性ポリウレタンアクリレートであって、ポリオール成分とポリイソシアネート成分から合成されるものであることは当業者にとって技術常識である。したがって、先願発明の「樹脂(荒川化学工業社製、ウレタンアクリレートエマルジョンタイプ、ビームセットEM−92)」は、本件発明1の「ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体」であって「前記含窒素化合物由来の単位はイソシアネート化合物に由来する単位」に相当する。
さらに、先願発明の「樹脂成形体」は50μm厚であり、甲1【0094】からみて少なくとも15mm幅、70mm長さ以上の広がりを有しているシート状の形態であるといえるから、本件発明1の「シート」に相当する。
そうすると、両者の一致点及び相違点は、それぞれ次のとおりである。
・一致点
「繊維幅が10nm以下であり、かつアニオン基を有する繊維状セルロースと、
ポリオール由来の単位及び含窒素化合物由来の単位を含む重合体と、を含有するシートであって、
前記含窒素化合物由来の単位はイソシアネート化合物及びカルボジイミド化合物から選択される少なくとも1種に由来する単位であるシート。」である点。
・相違点1
シートのヘーズについて、本件発明1は「30%以下」と特定するのに対し、先願発明はそのような特定を有しない点。

イ 判断
上記相違点1について検討する。
ヘーズ値は、繊維状セルロースと重合体の混合比率、重合体の材質、セルロース繊維長、シートの厚さに依存することが技術常識であると解される。(この点について、本件明細書【表1】からも、重合体の混合比率が高いほどヘーズが大きくなること、及び、重合体の材質もヘーズに影響を及ぼすことが裏付けられている。)
そうすると、先願発明が本件発明1と相違点1以外の点で一致する構成を有していることのみをもって、先願発明が30%以下のヘーズを有する蓋然性が高いということにはならないし、他にヘーズが30%以下といえるだけの証拠がない。
なお、特許異議申立書において申立人は、先願発明が、本件明細書の実施例8で作製されたシートとほぼ同等のカルボキシル基導入量を有すること及び平均繊維幅が一致していることに加え、光線透過率が高くセルロース繊維の凝集体が多数存在しないとみられることを根拠として、本件明細書実施例8のシートと同等のヘーズを有する蓋然性が高いと主張している。
しかしながら、上記のとおり、ヘーズは繊維状セルロースと重合体の混合比率や重合体の材質、セルロース繊維長、シートの厚さにも依存するものであるところ、申立人の主張するような根拠のみをもって本件明細書実施例8のシートと同等のヘーズを有する蓋然性が高いとはいえない。加えて、この点について、上記第1のとおり、当審は申立人に審尋を行い回答書を提出する機会を与えたが、申立人からは応答がなかったものである。
したがって、上記相違点1は実質的な相違点であり、本件発明1と先願発明とが同一であるとはいえない。

(2)本件発明2、3、5〜9について
請求項2、3、5〜9の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、本件発明1が先願発明と同一であるということができないのは上記(1)で検討したとおりであるから、本件発明2、3、5〜9も同様の理由により、先願発明と同一であるということはできない。

(3)小括
以上のとおりであるから、申立人の主張する申立理由には理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、請求項1〜3、5〜9に係る特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。



 
異議決定日 2022-01-27 
出願番号 P2016-139803
審決分類 P 1 652・ 161- Y (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 大島 祥吾
特許庁審判官 須藤 康洋
奥田 雄介
登録日 2021-02-08 
登録番号 6834210
権利者 王子ホールディングス株式会社
発明の名称 シート  
代理人 特許業務法人特許事務所サイクス  

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