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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23L
審判 全部申し立て 2項進歩性  A23L
管理番号 1384172
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-16 
確定日 2022-01-11 
異議申立件数
事件の表示 特許第6830813号発明「高タンパク果実風味飲料、高タンパク果実および野菜調製物、ならびに関連する方法および食品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6830813号の請求項1ないし25に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6830813号の請求項1〜25に係る特許についての出願は、2014年10月23日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2013年10月23日 デンマーク(DK))を国際出願日とする出願であって、令和3年1月29日にその特許権の設定登録がされ、同年2月17日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年8月16日に特許異議申立人 フォンテラ コーオペレイティブ グループ リミティド(以下、「異議申立人」という。)は、特許異議の申立てを行った。

第2 本件特許発明
特許第6830813号の請求項1〜25の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜25に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
高タンパク果実風味飲料において、
− 水、
− 甘味料、
− 総量が少なくとも4%(w/w)のタンパク質、
− 総量が前記飲料の総重量に対して少なくとも2%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物であって、前記変性ホエータンパク質組成物が、
− 総量が乾燥重量基準で前記変性ホエータンパク質組成物の総重量に対して少なくとも60%(w/w)のタンパク質、
− 1〜10ミクロンの範囲の粒径を有する不溶性ホエータンパク質粒子であって、前記不溶性ホエータンパク質粒子の量は、前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量に対して50〜100%(w/w)の範囲である、不溶性ホエータンパク質粒子
を含み、前記変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が、少なくとも20である、変性ホエータンパク質組成物の固形物、
− 果実風味剤、および
− 食品酸
を含み、
3.0〜4.8の範囲のpHを有することを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項2】
請求項1に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記変性ホエータンパク質組成物が、
− 粉末、または
− 水性懸濁液
であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項3】
請求項1または2に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が、少なくとも30であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項4】
請求項1または2に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が、少なくとも40であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項5】
請求項1または2に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が、少なくとも50であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項6】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量が、乾燥物質基準で少なくとも70%(w/w)であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項7】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量が、乾燥物質基準で少なくとも75%(w/w)であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項8】
請求項1乃至5の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量が、乾燥物質基準で少なくとも80%(w/w)であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項9】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、タンパク質の前記総量が、少なくとも5%(w/w)であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項10】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、タンパク質の前記総量が、少なくとも6%(w/w)であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項11】
請求項1乃至8の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、タンパク質の前記総量が、少なくとも8%(w/w)であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項12】
請求項1乃至11の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、加熱処理されていることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項13】
請求項1乃至12の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記甘味料が、糖、糖アルコールおよび/または高甘味度甘味料を含むことを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項14】
請求項1乃至13の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記果実風味剤が、オレンジ風味剤、レモン風味剤、ライム風味剤、パイナップル風味剤、リンゴ風味剤、ナシ風味剤、イチゴ風味剤、チェリー風味剤、クランベリー風味剤、グレープフルーツ風味剤から選択されることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項15】
請求項1乃至14の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記果実風味剤が食品酸も含むことを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項16】
請求項1乃至15の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記飲料の実質的に全ての前記食品酸が、前記果実風味剤によって与えられていることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項17】
請求項1乃至16の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、食品酸が、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、酢酸、安息香酸、酪酸、乳酸、フマル酸、コハク酸、アスコルビン酸、アジピン酸、リン酸およびこれらの混合物からなる群から選択されることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項18】
請求項1乃至17の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、総量が少なくとも0.1%(w/w)の食品酸を含むことを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項19】
請求項1乃至18の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、前記果実風味剤が果汁または果汁濃縮物を含むか、またはさらにそれから構成されることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項20】
請求項1乃至19の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、タンパク質の前記総量に対して5%未満のカゼインを含むことを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項21】
請求項1乃至20の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、1mL当たり最大で106個の生菌を含むことを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項22】
請求項1乃至21の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、3〜400cPの範囲の粘度を有することを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項23】
請求項1乃至22の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料において、総灰分が最大で2%(w/w)であることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料。
【請求項24】
請求項1乃至23の何れか1項に記載の高タンパク果実風味飲料を製造する方法において、
a)混合物であって、
− 水、
− 甘味料、
− 総量が少なくとも4%(w/w)のタンパク質、
− 総量が前記飲料の総重量に対して少なくとも2%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物であって、前記変性ホエータンパク質組成物が、
− 総量が乾燥重量基準で前記変性ホエータンパク質組成物の総重量に対して少なくとも60%(w/w)のタンパク質、
− 1〜10ミクロンの範囲の粒径を有する不溶性ホエータンパク質粒子であって、前記不溶性ホエータンパク質粒子の量は、前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量に対して50〜100%(w/w)の範囲である、不溶性ホエータンパク質粒子
を含む固形物、
− 果実風味剤、および
− 食品酸
を含む混合物を生成するステップと、
b)前記混合物をパッケージングするステップと
を含み、
i)前記混合物はパッケージングの前、間または後に熱処理されるか、または
ii)前記混合物は1種以上の熱処理された材料から作られていることを特徴とする、方法。
【請求項25】
請求項24に記載の方法において、前記混合物のpHが4.8より高い場合、食品酸の添加によって前記混合物のpHを3.0〜4.8の範囲のpHに低下させるステップをさらに含むことを特徴とする方法。」
(以下、請求項順に、「本件特許発明1」、「本件特許発明2」、……、「本件特許発明25」ともいう。)

第3 申立理由の概要及び証拠
1 申立理由
異議申立人は、証拠方法として甲第1号証〜甲第8号証を提出し、以下の申立理由1〜3を主張している。

申立理由1:
本件特許発明1〜本件特許発明25は、甲第1号証に記載された発明、及び甲第2号証、甲第5〜8号証の記載に基いて当業者が容易に発明することができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、その特許は同法第29条の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

申立理由2:
本件特許発明1〜本件特許発明25は、高タンパク質果実風味飲料において、タンパク質の総量、変性ホエータンパク質組成物の固形物の量、変性ホエータンパク質組成物の総重量に対するタンパク質の量、不溶性ホエータンパク質粒子の粒径、変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の総量に対する不溶性ホエータンパク質粒子の量、変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比を規定するが、その規定についての臨界的意義が実施例により十分に裏付けられておらず、当業者が、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できると認識できない範囲を含むものであるから、本件特許発明1〜本件特許発明25に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

申立理由3:
本件特許発明1〜本件特許発明25は、高タンパク質果実風味飲料において、タンパク質の総量、変性ホエータンパク質組成物の固形物の量、変性ホエータンパク質組成物の総重量に対するタンパク質の量、不溶性ホエータンパク質粒子の粒径、変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の総量に対する不溶性ホエータンパク質粒子の量、変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比を規定するが、その規定についての臨界的意義が実施例により十分に裏付けられていないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件特許発明1〜本件特許発明25を当業者が実施できるように記載されておらず、本件特許発明1〜本件特許発明25に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。

2 異議申立人の提出した証拠
甲第1号証:特表2014−532423号公報

甲第2号証:「広辞苑 第七版 第1586頁」, 令和3年2月15日(発行日), 株式会社岩波書店(発行所)

甲第3号証:International Journal of Dairy Science, 1(1), 93-99, 2006(訳文添付)

甲第4号証:International Dairy Journal, 21(2011), 222-228(訳文添付)

甲第5号証:国際公開第2006/058538号(訳文添付)

甲第6号証:Food Hydrocolloids, 47:41-50 (2015)(訳文添付)

甲第7号証:J Am Dent Assoc., 2016 April; 147(4):255-263(訳文添付)

甲第8号証:Journal of Food Quality, 28(2005), 386-401(訳文添付)

第4 当審の判断
1.申立理由1(進歩性欠如)について
(1)甲1−1の記載(当審注:甲1は、2011年11月2日、2012年9月11日を優先日とする国際出願の公表公報であって、公表日が本件優先日よりも後であるから、本件優先日前に頒布された刊行物ではない。そこで、発行日が本件優先日より前であり、本件優先日前に頒布された、甲1に対応する国際公開第2013/065014号を甲1−1とした。甲1−1の記載事項は、甲1を参照した当審による訳文で示す。)
甲1−1には、以下の記載がある。
記載事項(甲1−1−1)
「1.液体栄養組成物の調製方法であって、
a)4〜6のpHを有し、そして約2重量%〜約25重量%の非加水分解ホエータンパク質を含む液体組成物を熱処理し、ここで前記ホエータンパク質が、変性状態で存在する熱変性できるタンパク質の少なくとも約55%を構成する成分を含むか、又はその成分により供給され、そして前記熱処理が40秒間、90℃に少なくとも等しいF0−値を有し、そして
b)前記液体組成物を回収することを含み、
ここで前記回収された液体組成物が、
c)20℃及び100s-1の剪断速度で測定される場合、200cP未満の粘度、又は
d)体積加重平均粒径パラメーターD[4、3]により分類される場合、20μm未満の平均粒径、又は
e)実質的に観察できないゲル化又は凝集、又は
f)上記(c)〜(e)の二以上の任意の組み合せを有する、方法。
2.液体栄養組成物であって、
a)約2重量%〜約25重量%の非加水分解ホエータンパク質、ここで前記ホエータンパク質が、変性状態で存在する熱変性できるタンパク質の少なくとも約55%を構成する成分を含むか、又はその成分により供給され、
b)0〜約30重量%の脂肪、及び
c)約0〜約45重量%の炭水化物を含み、
ここで、前記栄養組成物が、4〜6のpHで、40秒間、90℃に少なくとも等しいF0−値を有する熱処理を受け、そして d)20℃及び100s-1の剪断速度で測定される場合、200cP未満の粘度、又は
e)体積加重平均粒径パラメーターD[4、3]により分類される場合、20μm未満の平均粒径、又は
f)実質的に観察できないゲル化又は凝集、又は
g)上記(d)〜(f)の二以上の任意の組み合せを有する、液体栄養組成物。
3.前記栄養組成物が、約4〜約6のpH、及び20℃の温度及び100s-1の剪断速度で、200cP未満の粘度、及び実質的に観察できないゲル化又は凝集を有する、請求項2に記載の液体栄養組成物。
4.前記熱処理が、10分間、121℃に少なくとも等しい、請求項1に記載の方法又は請求項2又は3に記載の液体栄養組成物。
5.前記熱処理が、5秒間、140℃に少なくとも等しい、請求項4に記載の方法又は請求項4に記載の液体栄養組成物。
6.前記液体栄養組成物が、室温での少なくとも3ヶ月間の貯蔵の後、観察できるゲル化又は観察できる凝集を示さない、請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法又は液体栄養組成物。
7.前記液体栄養組成物が、欧州委員会による特定医療用食品(FSMP)指令により推奨されるような量のミネラルを少なくとも含む、請求項1〜6のいずれか一項に記載の方法又は液体栄養組成物。」(特許請求の範囲)

記載事項(甲1−1−2)
「ホエータンパク質は、疾患又は症状を患っている個人を治療するための適切なタンパク質源として、又は悪液質、筋肉減少症の疾患又は症状の治療の結果としての適切なタンパク質源として、及び健康な個人、例えば運動選手及び活動的高年齢者のための価値ある栄養源として認識されている。本発明に使用されるホエータンパク質源として、いずれかの市販のホエータンパク質源、すなわち次のものが使用され得る:公知のホエーのいずれかの調製方法により得られるホエー、及びその調製されるホエータンパク質画分、又はホエータンパク質の大部分を構成するタンパク質、例えばβ−ラクトグロブリン、α−ラクトアルブミン及び血清アルブミン、例えば液体ホエー、又は粉末形態でのホエー、例えばホエータンパク質分離物(WPI)又はホエータンパク質濃縮物(WPC)。しかしながら、適切な処理を行わない場合、ホエータンパク質又はホエータンパク質画分は、典型的には、一定条件下で加熱される場合、ゲルを形成し(pH6.5超での加熱が強い弾性ゲルをもたらし;一方では、pH6.5未満で、凝固物が形成される)、そしてゲルの形成が熱安定性液体栄養組成物の配合にとって有害であることが理解されるであろう。
ホエータンパク質−安定化エマルションの熱安定性は特に、pH及びイオン強度に対して敏感であることが報告されている(Demetriades K & McClements D J (1998), Influence of pH and heating on physicochemical properties of whey protein-stabilized emulsions containing a non-ionic surfactant. Journal of Agricultural and Food Chemistry, 46, 3936-3942; Demetriades K, Coupland J N & McClements D J (1997), Physical properties of whey protein stabilized emulsions as related to pH and NaCl. Journal of Food Science, 62, 342−347; Hunt J A & Dalgleish D G (1995), Heat stability of oil-in-water emulsions containing milk proteins: effect of ionic strength and pH. Journal of Food Science, 60, 1120−1123)。タンパク質の等電点(pI)近くでのpHで、タンパク質含有液滴の電荷は低く、そして従って、タンパク質−タンパク質相互作用が好ましく、そしてタンパク質凝集が急激に発生する。
しかしながら、pHがpIから離れて調節される場合(主要ホエータンパク質の加重平均はpH5.0である)、タンパク質分子上の電荷は高められる。大きな静電反発力が、発生する凝集を克服し、そして従って、凝集速度が低められる。これまでは、長い貯蔵寿命を有する低粘度エマルションを生成するためには、ホエータンパク質は、その系のpHが、高粘度液体、ペースト又はゲルの形成を回避するために、ホエータンパク質の等電点から十分に離れ、すなわち<pH4又は>pH6である場合にのみ使用され得た。
二価(すなわち、カルシウム及びマグネシウム)及び/又は一価(すなわち、ナトリウム、カリウム)のカチオンの存在がタンパク質安定化エマルションの物理化学的性質及び安定性に悪影響を与えることがまた、報告されている(Keowmaneechai E & McClements D J (2002), Effect of CaCl2 and KCl on physiochemical properties of model nutritional beverages based on whey protein stabilized oil-in-water emulsions. Journal of Food Science, 67, 665-671; Kulmyrzaev A A, & Schubert H (2004), Influence of KCl on the physicochemical properties of whey protein stabilized emulsions. Food Hydrocolloids, 18, 13-19; Ye A & Singh H (2000), Influence of calcium chloride addition on the properties of emulsions stabilized by whey protein concentrate. Food Hydrocolloids, 14, 337-346)。ミネラルの添加による水性相のイオン強度の上昇が、タンパク質上の電荷の静電遮蔽を引起し、これが液滴間の低められた静電反発力を導き、そして従って、凝集を促進する。二価イオンは、単価イオンよりも顕著な効果を有する。当業者により理解されるように、組成物中のタンパク質濃度が高いほど、より低い量のミネラルでも、有害な効果を発生するのに十分であろう。
高温処理がホエータンパク質含有エマルション、例えばミルクにおける硫黄異臭の発生を導くことは従来良く知られている(Steely J S (1994) Chemiluminescence detection of sulphur compounds in cooked milk. In: Sulfur compounds in Foods, ACS Symposium Series 564)。pHは、少なくとも90℃への加熱の間、発生する脱脂乳ホエーの熱活性化スルフヒドリル(−SH)基に対して有意な効果を有することが示されている。ホエーのpHがpH6.0未満に低められるにつれて、発生される硫化物の量が低められる。対照的に、6超のpH〜約pH9への上昇は、熱揮発性硫化物の量の上昇により達成される(Townley R C & Gould I A (1943), A quantitative study of the heat labile sulfides of milk. III. Influence of pH, added compounds, homogenization and sunlight Journal of Dairy Science, 26, 853-867)。6.0未満のpHでの風味の利点にもかかわらず、化合物のpHを、ほぼ等電点に低めることが、ホエータンパク質がこのpH範囲で凝集する傾向があるので、制限された加工性を導くことが、従来技術において良く知られている。
それらの困難性を克服し、そして所望するpH及び熱安定性を有する高タンパク質液体栄養組成物を提供するか、又は有用な選択肢を公衆に提供することが、本発明の目的である。」(第2頁第3行〜第3頁第24行)

記載事項(甲1−1−3)
「ある実施態様によれば、液体栄養組成物に存在する熱変性できるタンパク質の約55%超が変性されるか、又は液体栄養組成物に存在する熱変性できるタンパク質の約65%超が変性される。一つの例によれば、液体栄養組成物に存在する熱変性できるタンパク質の約70%超が変性されるか、又は液体栄養組成物に存在する熱変性できるタンパク質の約75%超が変性される。例えば、本発明の液体栄養組成物のある実施態様によれば、組成物に存在する熱変性できるタンパク質の約80%超、約85%超、約90%超、約95%超が変性される。」(第12頁第16行〜第23行)

記載事項(甲1−1−4)
「本明細書のためには、平均粒径(D[4,3]又はD[3,2]により特徴づけられる)は、エマルション系飲料に関して1.46及び懸濁液中の粉末に関して1.52の粒子についての、及び1.33の溶媒についての屈折率を用いて、Malvern Mastersizer 2000 (Malvern Instruments Ltd, Worcs, UK)により測定される。
本明細書のためには、再構成された粉末の一次凝集物サイズは、自然pHで10%全固形分(TS)懸濁液を均質化し(150/50バール)、そして上記のようにして、1.52の粒子及び1.33の溶媒についての屈折率を用いて、Malvern Mastersizer 2000 (Malvern Instruments Ltd, Worcs, UK)により、平均粒径(D[4,3]により特徴づけられる)を決定することにより測定される。
加熱後の一次凝集物成長は、10%TSタンパク質懸濁液をとり、そして120℃で15分間オートクレーブにおいて加熱し、そして上記のように、D[4,3]を測定することにより決定される。
タンパク質濃度を評価するための方法は、例えばケルダール法によりタンパク質の窒素を測定する方法が、当該分野において良く知られている。この方法は、窒素測定に基づき、そしてタンパク質濃度は、乳タンパク質においての6.38の変換計数により全窒素結果を乗じることにより計算される。
タンパク質変性の程度の決定方法は、当該分野において周知である。本明細書において使用される1つの典型的な方法は、HPLCに依存し(Elgar et al (2000) J Chromatography A, 878, 183-196);そして使用のための適切な他の方法は、Agilent 2100 Bioanalyzer (Agilent Technologies, Inc. 2000, 2001-2007, Waldbronn, Germany)及びマイクロ流体チップに依存した方法、及びAgilent 2100 Expert software (e.g. Anema, (2009) International Dairy J, 19, 198-204)及びポリアクリルアミドゲル電気泳動(例えば、Patel et al, (2007) Le Lait, 87, 251-268)を用いる方法を包含する。
粉末は、次の式に従って、全タンパク質の割合(TN×6.38)として残留変性可能タンパク質を測定することにより特徴づけられ得る:
%残留変性可能タンパク質=(可溶性変性可能タンパク質)×100/(全窒素×6.38)
ここで、可溶性ホエータンパク質は、上記のように、逆相HPLC(Elgar et al., 2000)を用いて決定され、そしてタンパク質(g)/100gの粉末として表される。
変性可能ホエータンパク質は、Σ(ウシ血清アルブミン+α−ラクトアルブミン+β−ラクトグロブリン+ラクトフェリン+免疫グロブリン)として測定される。
注意して製造されたチーズWPC80に関して、上記成分の合計は典型的には、TNの60〜63%であり、そして結果的に、変性された変性可能タンパク質の割合が、次の式に従って評価され得る:
1−[(残留変性可能タンパク質)/61]×100
液体栄養食品はしばしば、それらが栄養物、例えば脂肪、タンパク質及び炭水化物を、少なくとも0.5kcal/g又は少なくとも0.5kcal/mLの発熱量を達成するためのレベル及び組み合せで含むので、カロリー密度が高い。医療又は経腸食品のグループにおいては、3kcal/gまでの又はさらにそれ以上の熱量密度が知られている。そのような高熱量密度は、加熱の悪影響、すなわちゲル化又は汚損を伴わないでは、高濃度のホエータンパク質を得るには困難を伴う。」(第17頁第1行〜第18頁第11行)

記載事項(甲1−1−5)
「本発明への使用のために適切なWPCを調製するための典型的な方法は、国際出願PCT/NZ2007/000059号(国際特許公開第2007/108709号として公開される)及びPCT/NZ2010/000072号(国際特許公開第2010/120199号として公開される)(その全体が参照により本明細書に組込まれる)に提供される。
タンパク質、例えばWPC又はWPI成分は、WPCの混合物又はタンパク質の混合物から調製され得る。種々の実施態様によれば、タンパク質は、ホエータンパク質濃縮物(WPC)又はホエータンパク質分離物(WPI)であるか、又はそれを含む。
熱処理は、必要とされる変性を付与するために、及びそれが懸濁できることを確保するために、タンパク質、例えばWPCの調製に適用される。ホエータンパク質は、変性された状態で凝集に対して敏感である高レベルの球状タンパク質を含む。β−ラクトグロブリンの変性温度はpH依存性であり、そしてpH6.7で、不可逆的変性が、そのタンパク質が65℃以上に加熱される場合、発生する。この変性は、遊離チオール基を露出させると考えられ、それにより、凝集体形成をもたらす重合を導くタンパク質間ジスルフィド結合形成を開始することが報告されている。他のジスルフィド架橋及びシステイン残基が、重合反応において役割を果たしていると考えられる。α−ラクトアルブミンもまた、約65℃の変性温度を有する。
タンパク質凝集体のサイズ、形状及び密度は、多くの環境及び処理パラメーター、例えば温度、加熱速度、圧力、剪断、pH及びイオン強度により影響される。それらのパラメーターの組み合せに依存して、凝集体は、ゲル、フィブリン又はコンパクト微粒子を形成することができる。例えば、微粒子化されたホエーは、特定のイオン強度及び剪断条件下で形成され得る。それらの粒子は、コンパクト構造、低い固有粘度及び低い比体積を有する。さらに、剪断条件下で生成された微粒子ホエーについて、凝集体サイズと加熱温度との間に関係が存在することが知られている。」(第20頁第10行〜第32行)

記載事項(甲1−1−6)
「本発明に使用するための典型的なタンパク質は、ホエータンパク質、例えばホエータンパク質濃縮物及びホエータンパク質分離物を包含する。ホエータンパク質は、すべての必須アミノ酸、高システイン含量、高ロイシン含量を提供するその卓越したアミノ酸プロフィール、消化の容易さ、及び生活性に関連するタンパク質、例えばラクトグロブリン、イムノグロブリン及びラクトフェリンを提供することで知られている完全タンパク質として認識されている。
WPCは、ホエータンパク質に富んでいるが、また、他の成分、例えば脂肪、ラクトース、及びチーズホエー基材のWPCの場合、グリコマクロペプチド(GMP)、非変性であるカゼイン関連の非球状タンパク質も含む。ホエータンパク質濃縮物の製造のための典型的な方法は、膜濾過を利用し、そして本発明への適用のために特に適合されたWPCの製造のための別の方法は本明細書に記載される。
従って、本明細書において使用される場合、「WPC」とは、少なくとも20%(w/w)にタンパク質含有率を高めるために、ラクトースが少なくとも部分的に除去されているホエー画分である。ある実施態様によれば、WPCは、ホエータンパク質として合計固形物の少なくとも35%、少なくとも40%、少なくとも55%(w/w)、少なくとも65%、及びある実施態様によれば、少なくとも80%を有する。いくつかの例によれば、ホエータンパク質の割合は、WPCが由来するホエーの割合に比較して、実質的に不変である。一実施態様によれば、WPCは蒸発されたホエータンパク質濃縮液である。本明細書のために、用語「WPC」とは、前後関係が許す場合、WPIを包含する。
特に企画されるWPIは、ホエータンパク質のTSの少なくとも90%を有するWPI及びWPCを包含する。
WPIは、無視できる脂肪及びラクトース含量と共にホエータンパク質から主に構成される。従って、WPIの調製は典型的には、より厳格な分離方法、例えば精密濾過及び限外濾過又はイオン交換クロマトグラフィーの組み合せを必要とする。WPIは、少なくとも90重量%の固形物がホエータンパク質である組成物を言及することが一般的に認識されている。」(第24頁第4行〜第26行)

記載事項(甲1−1−7)
「実施例
次の実施例は、本発明の実施を、さらに例示する。
実施例1:種々の変性レベルでのホエータンパク質により調製された典型的な液体栄養製剤の熱安定性
この実施例は、本発明の製剤への使用のために、実質的に変性されたホエータンパク質の適合性を決定するために、それらのホエータンパク質を含む、pH5.4で調製された種々の典型的な液体栄養組成物の熱安定性を示す。
方法
典型的な栄養製剤を、表2に詳細にされる、変性されたWPC粉末(粉末A〜I)又は生来のホエー(WPC392)を用いて、表1従って調製した。栄養製剤の調製方法は、図1に説明される。各製剤のpHを、90℃で油浴において加熱する前、pH5.4に調節した。90℃での各製剤についての視覚的凝集の時間を決定した。



結果
変性されたWPC(粉末A〜F)を含む製剤は、表3に示されるように、pH5.4で、生来のWPC(392)に比較して、卓越した熱安定性を示した。異なった製造方法を用いて製造された粉末についての熱安定性の差異は、生産者が、本発明を機能させるために使用する成分の幅広い選択肢を有する。本発明を用いる人々は、それらの工程を最良に適合するようタンパク質成分を選択すべきである。
それらの結果は、本発明の液体栄養製剤が、pH4〜6で微生物増殖を制御するために適用される熱処理の後、熱安定性であることを示す。」(第26頁第10行〜第28頁第10行)

記載事項(甲1−1−8)
「実施例8:スムージー形態での典型的液体栄養製剤
この実施例は、スムージー形態での典型的液体栄養製剤の調製を記載する。
方法
粉末A、WPI895又はWPC392の形での5%タンパク質、1%ペクチン、10%スクロース及び(添加される脂肪なし)を含むスムージーを調製した。
スクロースを、2つの部分に分けた:スクロースの第1部分を、5部のスクロースに対して1部のガムの割合でペクチンと共に乾式ブレンドし、残りのスクロースを、タンパク質成分と共に乾式ブレンドした。タンパク質/スクロースブレンドを、最終重量の約45%に等しい周囲の逆浸透水中に再組合し、そしてさらに60分間、撹拌し、十分に水和化した。ペクチン/スクロースブレンドを、60〜70℃で、RO水(最終重量の約35%)に、一定撹拌下で添加し、そして十分に水和化するために、さらに30分間、撹拌した。次に、ペクチン混合物を、タンパク質混合物に添加し、そして5分間、混合した。50%クエン酸/50%乳酸の1:1ブレンドを、撹拌下で急速に添加し、pHを4.0に下げた。その混合物を、RO水により、最終体積に調節し、次に、APVラニーホモジナイザーにより、150/50バールで均質化した。
スムージーを、間接的加熱のためにプレート熱交換器を備えたミニ低温殺菌装置において加熱処理した。処理条件は次の通りであった:流速は30L/時であり、予備加熱温度は70℃であり;熱処理は90℃で30秒であり、充填温度は4℃であった。水のすべてがシステムをフラッシュすることを確かめるために、充填の前、5分間、プラントを運転した。製品を200mLのPETジャー中に充填し、そして必要とされるまで、周囲温度で貯蔵した。
サンプルを、ゼロ時間で及び30℃で3ヶ月の貯蔵の後、分離、沈殿及び粘度について評価した。
結果
3ヶ月にわたるスムージーの粘度を図7Aに示す。WPI895を含むスムージーは、30℃で貯蔵に基づいて非常に急速な分離及び沈殿を示し、従って、粘度は測定されなかった。WPC392を含むスムージーは、分離しなかったが、しかし時間にわたって粒子を形成し(図7B)、そしてまた、2ヶ月後、粘度が上昇し始め、これが製品の口当たりを損なう。変性されたタンパク質(粉末A)を含むスムージーは、低粘度を保持し、そして分離しなかった。製品の粘度は時間と共に低下したが、しかし3ヶ月後、安定化しているように見えた。
スムージーの非公式官能分析は、粉末Aを含む製剤が、WPI895及びWPC392を含むスムージーよりも卓越した官能特性を有したことを示した。5%タンパク質で、WPI895はより渋味があり、ところがWPC392は渋味及びウェット・ウール・ノート(wet wool notes)の両者を有した。
それらの結果は、スムージー形態での本発明の液体栄養製剤が、pH4での熱処理に続いて、安定性であり、そして貯蔵の後、最適な粘度及び官能性質を保持することを示す。」(第37頁第5行〜第38頁第15行)

記載事項(甲1−1−9)


」(Figure 7A)

(2)甲2の記載
甲2には、以下の記載がある。
記載事項(甲2−1)
「スムージー【smoothie】…凍らせた果物・野菜などを牛乳・ヨーグルトとともにミキサーで攪拌してとろりとさせた冷たい飲み物。」(第1586頁下段「スムージー」の項)

(3)甲5の記載(甲5の記載事項は、訳文で示す。)
甲5には、以下の記載がある。
記載事項(甲5−1)
「1.適量の可溶性又は分散性タンパク質材料を含む水性溶液またはコロイド状分散物を脱気し、70℃超の高温に加熱し、次いで55℃未満の温度にまで冷却することによる、直径0.1〜5μmの平均粒径を有する変性タンパク質材料の調製方法であって、加熱及び冷却が、
a)前記材料を69.5℃未満の温度に予備加熱する、
b)前記材料を70〜120℃の間の温度(T)にて攪拌しながら5〜300秒の時間(td)加熱する、及び
c)ステップb)の材料を温度(T)から55℃未満の温度にまで30秒より短い時間(tq)で冷却する、
ことを特徴とする方法。

7.前記タンパク質材料がホエータンパク質を含む、請求項6に記載の方法。

9.得られた変性タンパク質材料の変性の割合が50〜100重量%、特に60〜75重量%である、先の請求項のいずれかに記載の方法。」(特許請求の範囲)

(4)甲6の記載(甲6の記載事項は、訳文で示す。)
甲6には、以下の記載がある。
記載事項(甲6−1)
「標準のホエータンパク質濃縮物(WPC 392)及びマイクロ粒子化ホエータンパク質濃縮物(WPC 550)の試料はFonterra Co-operative Group Ltd., Auckland, New Zealandから入手した。ホエータンパク質濃縮物粉末の組成を表1に示す。」(第42頁左欄下から第6〜9行)

記載事項(甲6−2)


」(第42頁 Table 1)

(5)甲7の記載(当審注:甲7は発行日が本件優先日よりも後であるから、本件優先日前に頒布された刊行物ではないが、甲7の記載事項を、訳文で示す。)
甲7には、以下の記載がある。
記載事項(甲7−1)
「序論
アメリ力では過去35年問で甘味飲料の消費量が劇的に増加しており、炭酸飲料が最も高い頻度で消費されており、その内、子供、10代、若年成人が主な消費者である。
1942年のソフトドリンクの年間生産量は、1人あたり12オンスの飲料として約60杯に相当し、その数は2005年からほぼ10倍に増加している。1999年から2002年の間に13歳から18歳までの1日あたりの炭酸飲料/果汁飲料の消費量は26オンスであった。公共の利益のための科学センターは、2004年に男性、女性、子供全体について、これらの飲料の1人当たり総消費量は年間約68ガロンであったと報告した。甘酸っばい味に対する我々の噌好が高まったため、21世紀における酸蝕症の有病率も増加している。酸性飲料の摂取は、口腔環境が酸蝕性となる一因であり、歯科医にとって懸念すぺきことである。
市販の非乳飲料のpHは、2.1(ライムジュース濃縮物)から7.4(天然水)の範囲である。pHが4.0未満の市販の飲料は、歯列に損傷を与える可能性がある。酸が飲料に添加され、飲料に独特の味を与えるフレーパープロファイルを構成する。酸は、酸味とピリッとした味をもたらし、飲料に含まれる糖の甘さとのパランス調整に寄与する飲料の味に重要な要素である。リン酸はコーラ飲料に添加され、酸味を与え、細菌やカビの増殖を減少することで、保存可能期間を改善する。クエン酸は、柑橘系飲料に天然に存在し、他の多くの飲料にも添加され、ピリッとした風味を付与するとともに防腐剤として機能する。リンゴ酸は、リンゴ、ナシ、サクランボ中に天然に存在し、果汁飲料、強化ジュース、スポーツドリンク、アイスティーなど多くの非炭酸飲料に添加されるが、本来の風味を高めるからである。また、リンゴ酸は、炭酸飲料を人工的に甘くするために添加され、味を強化し、他の添加香料の量を低減する。これらの酸添加物は、飲料に独特の糖/酸の特徴的な味を付与する。」(「INTRODUCTION」第1〜第2パラグラフ)

(6)甲8の記載(甲8の記載事項は、訳文で示す。)
甲8には、以下の記載がある。
記載事項(甲8−1)
「官能評価分析パネルは、4℃で保存されたホエーバナナ飲料の官能特性を説明及び数値化するための表現を用いた。製品は独特のバナナフレーバーと最小限のオフフレーバーを有する、酸っぱく、甘く、口当たりの良い飲料であった。消費者パネルは、酸味及び酸度が品質に重要な要素であることを示した。」(第386頁「ABSTRACT」第8行〜第12行)

記載事項(甲8−2)


」(第388頁 TABLE 1)

記載事項(甲8−3)
「ホエーバナナ飲料の調製
表1に示すホエーバナナ飲料の処方を加熱ゲル化を防ぐための最適化結果に基づき開発した。バナナピューレ1部に対し、酸性化(20%ストッククエン酸を最終pH4.0になるまで加えた)水2部のブレンドを、攪拌機及びNO-BAC Unithermプロセシングシステム(Cherry-Burrel Amc International, IA)の無菌ホモナイジングバルブの備わったサージタンクの中で調製した。」(第388頁第7行〜第13行)

記載事項(甲8−4)


」(第389頁 TABLE 2)

(7)甲1−1に記載された発明
記載事項(甲1−1−8)から、甲1−1には、
「粉末Aの形での5%タンパク質、1%ペクチン、10%スクロース、逆浸透水、クエン酸、及び乳酸を含む、pH4.0のスムージー。」の発明(以下、「甲1−1発明」という。)が記載されていると認められる。

(8)本件特許発明についての検討
ア 本件特許発明1について
(ア)本件特許発明1と甲1−1発明との対比
甲1−1発明の「粉末Aの形での5%タンパク質」、「スクロース」、「逆浸透水」、「pH4.0」はそれぞれ、本件特許発明1の「総量が少なくとも4%(w/w)のタンパク質」、「甘味料」、「水」、「3.0〜4.8のpH」に相当し、甲1−1発明の「クエン酸」、「乳酸」は、本件特許発明1の「食品酸」に相当する。
そして、甲1−1発明の「スムージー」は「総量が少なくとも4%(w/w)のタンパク質」(本件特許明細書【0038】)を含むから、本件特許発明1の「高タンパク」「飲料」に相当する。
また、記載事項(甲1−1−7)には、粉末Aが変性されたWPC粉末であること、記載事項(甲1−1−6)には、WPCは蒸発されたホエータンパク質濃縮液であることが記載されているから、甲1−1発明の粉末Aは、本件特許発明1の「変性ホエータンパク質組成物」に相当する。
さらに、記載事項(甲1−1−7)の表3には、粉末Aのタンパク質含量%は79.1%であることが記載されており、甲1−1発明は粉末Aの形でタンパク質を5%含むから、甲1−1発明はタンパク質を3.96%含むといえる。
本件特許発明1の「変性ホエータンパク質組成物の固形物」は、本件特許明細書の発明の詳細な説明の、「「固形物」という用語は、組成物の水が全て完全に除去されて残る変性ホエータンパク質組成物の固形物、すなわち、タンパク質、脂肪、炭水化物、および乳ミネラルなどの変性ホエータンパク質組成物の非揮発性成分に関する。食品の固形物含有量は実施例1.7により測定することが好ましい。変性ホエータンパク質固形物は、固体の形態である必要はなく、その相当部分が飲料中に溶解した形態で存在し得ることに留意すべきである。」(【0069】、【0070】)との記載を参酌すると、変性ホエータンパク質組成物におけるタンパク質などの非揮発性成分であると解される。
そうすると、甲1−1発明における3.96%のタンパク質は、変性ホエータンパク質の固形物を構成する非揮発性成分であるといえるから、本件特許発明1の「総量が前記飲料の総重量に対して少なくとも2%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物」に相当する。
また、記載事項(甲1−1−4)には、再構成された粉末の一次凝集サイズは、自然pHで10%全固形分(TS)懸濁を均質化して粒子の平均粒径を決定することにより測定されることが記載されているから、記載事項(甲1−1−7)の表3の「10%TSタンパク質溶液の一次凝集サイズ 1.70μm」は、変性ホエータンパク質の粒子の一次凝集サイズであるといえる。
そして、変性ホエータンパク質の粒子は不溶性であるから、甲1−1発明における、一次凝集サイズ1.70μmの変性ホエータンパク質の粒子は、本件特許発明1の「1〜10ミクロンの範囲の粒径を有する不溶性ホエータンパク質粒子」に相当する。

本件特許発明1と甲1−1発明とを対比すると、
「高タンパク飲料において、
− 水、
− 甘味料、
− 総量が少なくとも4%(w/w)のタンパク質、
− 総量が前記飲料の総重量に対して少なくとも2%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物であって、前記変性ホエータンパク質組成物が、
− 総量が乾燥重量基準で前記変性ホエータンパク質組成物の総重量に対して少なくとも60%(w/w)のタンパク質、
− 1〜10ミクロンの範囲の粒径を有する不溶性ホエータンパク質粒子
を含む、変性ホエータンパク質組成物の固形物、および
− 食品酸
を含み、
3.0〜4.8の範囲のpHを有することを特徴とする、高タンパク飲料。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1
高タンパク飲料が、本件特許発明1は、「果実風味剤を含」む、高タンパク「果実風味」飲料であるのに対し、甲1−1発明は、果実風味剤を含まない高タンパク飲料である点。

相違点2
不溶性ホエータンパク質粒子の量が、本件特許発明1は、「前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量に対して50〜100%(w/w)の範囲である」のに対し、甲1−1発明は、不溶性ホエータンパク質粒子の量が不明である点。

相違点3
変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が、本件特許発明1は「少なくとも20である」のに対し、甲1−1発明は、変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が不明である点。

(イ)申立理由1(進歩性欠如)についての検討
事案に鑑み、相違点3について検討する。
記載事項(甲1−1−1)には、液体栄養組成物が、欧州委員会による特定医療用食品(FSMP)指令により推奨されるような量のミネラルを含むことが記載されているが、甲1−1には、甲1−1発明の粉末Aに含まれる灰分の重量は記載されていない。
また、甲1−1には、粉末Aの総タンパク質:灰分の重量比についても記載がなく、他の甲号証を考慮しても、甲1−1発明の粉末Aの総タンパク質:灰分の重量比に着目し、「少なくとも20」とする動機付けは見いだせない。
そして、本件特許発明1は、甲1−1発明及び他の甲号証の記載から当業者が予測できない格別顕著な効果を奏すると認められる。
そうすると、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1−1発明及び他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(ウ)異議申立人の主張について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
甲1のスムージーには、灰分(ミネラル)を添加していないから、スムージーが過多の灰分を含有するものとみなすことはできない。
甲1には、実施例8で使用した各サンプルにおける灰分(ミネラル分)に関する明示的な記載はない。実施例8で使用した粉末Aは甲6に記載の微細粒子化ホエータンパク質濃縮物(MP−WPC550)に由来しており、甲6には、タンパク質79.1に対し灰分(ミネラル)が2.8とされているから、甲1のスムージーにおいては、変性ホエータンパク質の総タンパク質:灰分の重量比は79.1:2.8≒28、すなわち明らかに20より大であり、本件特許発明1と一致する蓋然性が高い。
また、変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比を少なくとも20とすることは、格別な効果を奏するものではなく、当業者により適宜なされる設計的事項にすぎない。

異議申立人の主張について検討する。
本件特許発明1の総タンパク質:灰分の重量比は、高タンパク質果実風味飲料に含まれる変性ホエータンパク質組成物についての特定であるから、甲1−1発明においては、スムージーに含まれる粉末Aの総タンパク質:灰分の重量比に相当する。
そして、甲1−1発明のスムージーに灰分を添加していないから、スムージーが過多の灰分を含有するとみなすことはできないとはいえないし、スムージー全体の灰分からスムージーに含まれる粉末Aの総タンパク質:灰分の重量比を特定することもできない。
甲1−1には、実施例8で使用した粉末Aの灰分に関する明示的な記載がないことは、異議申立人の主張するとおりである。
甲6には、異議申立人の主張する「MP−WPC550」との記載はないが、記載事項(甲6−1)には、表1に標準のホエータンパク質濃縮物(WPC 392)及びマイクロ粒子化ホエータンパク質濃縮物(WPC 550)の組成を示すことが記載されており、記載事項(甲6−2)には、「標準WPC」と「MP−WPC」が記載されているから、「標準WPC」が「WPC 392」であり、「MP−WPC」が「WPC 550」であり、かつ、異議申立人の主張する「MP−WPC550」であると解して検討する。
記載事項(甲6−2)の表1の「MP−WPC」は、100g中にタンパク質が79.1g/含まれるから、タンパク質含量が79.1%である点で、甲1発明の粉末Aと共通するものの、その他に共通する事項はない。そして、両者は、名称も「MP−WPC」と「粉末A」と一致しないから、両者が同じものであるとする理由はない。
そして、実施例8で使用した粉末Aが、MP−WPCに「由来」しているという異議申立人の主張も十分な説明や証拠がなく、両者の関係は明らかでないから、粉末Aの総タンパク質:灰分の重量比が、MP−WPCの総タンパク質:灰分の重量比に一致するとも認められない。

また、粉末Aの灰分の重量割合が明らかでなく、粉末Aの総タンパク質:灰分の重量比にも着目していない甲1発明において、変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比を少なくとも20とすることが、当業者により適宜なされる設計的事項にすぎないとはいえない。
そして、本件特許発明1は、甲1−1発明及び他の甲号証の記載から当業者が予測できない格別顕著な効果を奏すると認められる。
そうすると、異議申立人の主張は採用することができない。

(エ)小括
以上のとおり、本件特許発明1は、甲1−1発明及び他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでなく、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものではない。

イ 本件特許発明2〜本件特許発明25について
本件特許発明2〜本件特許発明25は、本件特許発明1の発明特定事項すべてを、その発明特定事項とするものである。
したがって、本件特許発明1が、甲1−1発明及び他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない以上、本件特許発明2〜本件特許発明25も、甲1−1発明及び他の甲号証の記載に基いて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。

ウ 小括
よって、本件特許発明1〜本件特許発明25に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してされたものではなく、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2.申立理由2(サポート要件違反)及び申立理由3(実施可能要件違反)について
(1)サポート要件(申立理由2)について
ア サポート要件の判断手法
特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるとされる。

イ 本件特許発明1〜本件特許発明25のサポート要件
(ア)本件特許発明1〜本件特許発明25の解決しようとする課題
本件特許発明1〜本件特許発明25の解決しようとする課題は、本件特許の特許請求の範囲の記載及び発明の詳細な説明の記載(特に、【0001】)から、果実風味剤および高タンパク変性ホエータンパク質組成物を含む新規なタイプの高タンパク果実風味飲料、およびその飲料の製造方法を提供することであると認められる。

(イ)検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、高タンパク質果実風味飲料は、水を含むこと(【0019】〜【0021】)、甘味料を含むこと(【0022】、【0023】)、総量が少なくとも4%(w/w)のタンパク質を含むこと(【0036】)、総量が前記飲料の総重量に対して少なくとも2%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物であって、前記変性ホエータンパク質組成物が、総量が乾燥重量基準で前記変性ホエータンパク質組成物の総重量に対して少なくとも60%(w/w)のタンパク質、1〜10ミクロンの範囲の粒径を有する不溶性ホエータンパク質粒子であって、前記不溶性ホエータンパク質粒子の量は、前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量に対して50〜100%(w/w)の範囲である、不溶性ホエータンパク質粒子を含み、前記変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が、少なくとも20である、変性ホエータンパク質組成物の固形物を含むこと(【0036】〜【0053】、【0069】〜【0080】)、果実風味剤を含むこと(【0090】)、食品酸を含むこと(【0091】〜【0095】)、3.0〜4.8の範囲のpHを有すること(【0101】)が記載されており、a)混合物を生成するステップと、b)混合物をパッケージングするステップとを含み、i)混合物は熱処理されるか、ii)混合物は熱処理された材料から作られていることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料を製造する方法(【0117】〜【0138】)も記載されている。
そして、スイートホエータンパク質濃縮物の水溶液を熱処理することにより、0.5〜10ミクロンの不溶性ホエータンパク質粒子を67%含み、総タンパク質:灰分の重量比が約23.6(13/0.55)であると認められ、乾燥物質の固形分が略95%である変性ホエータンパク質組成物を製造したこと(実施例2、【0383】〜【0392】)、実施例1(当審注:実施例2の誤記と認められる)の製品と類似する、タンパク質を82%含有する変性ホエータンパク質組成物であるタンパク質材料Bを、甘味料であるスクロース、食品酸であるクエン酸、水と混合してpH4.0またはpH4.5のプレミックスを製造し、さらにプレミックスを果実風味剤であるリンゴジュースと混合し、殺菌、均質化処理を行うことにより、タンパク質含有量が8%(w/w)であり、少なくとも8%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物を含むと認められる高タンパク質果実風味飲料を製造したこと、高タンパク質果実風味飲料の注意深いpHの制御が良好な味、例えば高い果汁感を持った製品を得るのに重要であること、タンパク質材料Bを含有する高タンパク質果実風味飲料は、知覚粘度が飲料に適しており、新鮮度が高いこと(実施例3、【0393】〜【0403】、図1)が実施例として記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1〜本件特許発明25の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があるから、本件特許発明1〜本件特許発明25は、いずれも、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件特許発明1〜本件特許発明25の課題「果実風味剤および高タンパク変性ホエータンパク質組成物を含む新規なタイプの高タンパク果実風味飲料、およびその飲料の製造方法を提供すること」を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。

(ウ)異議申立人の主張について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。
本件特許発明1〜本件特許発明25は、高タンパク質果実風味飲料において、タンパク質の総量、変性ホエータンパク質組成物の固形物の量、変性ホエータンパク質組成物の総重量に対するタンパク質の量、不溶性ホエータンパク質粒子の粒径、変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の総量に対する不溶性ホエータンパク質粒子の量、変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比、pHを規定するが、実施例で発明特定事項の条件を変え、その効果を見ているのは果汁感の評価に係るpHだけであるところ、pHを下げれば果汁感が高まることは技術常識であるから、その他の規定についての臨界的意義が実施例により十分に裏付けられておらず、当業者が、本件特許発明が解決しようとする課題を解決できると認識できない範囲を含むものである。

異議申立人の主張について検討する。上記イ(イ)のとおり、本件特許発明1〜本件特許発明25は、発明の詳細な説明の記載により、または出願時の技術常識に照らして、当業者が本件特許発明1〜本件特許発明25の課題「果実風味剤および高タンパク変性ホエータンパク質組成物を含む新規なタイプの高タンパク果実風味飲料、およびその飲料の製造方法を提供すること」を解決できると認識できる範囲のものである。
そして、発明特定事項のそれぞれについて、臨界的意義までが実施例で十分に裏付けられていなければ、当業者が本件特許発明1〜本件特許発明25の課題を解決できることについて認識できないとはいえないから、異議申立人の主張は採用できない。

(エ)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜本件特許発明25について、特許請求の範囲の記載は特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、本件特許発明1〜本件特許発明25に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていないものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

(2)実施可能要件(申立理由3)について
実施可能要件の判断手法
方法の発明における実施とは、その方法の使用をする行為をいうから(特許法第2条第3項第2号)、方法の発明について、例えば、明細書等に当業者がその方法を使用することができる程度の記載があるか、そのような記載がなくても、出願時の技術常識に基づいて当業者がその方法を使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。
物の発明における実施とは、物の生産、使用等の行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、その物を生産し、かつ、その物を使用できる程度の記載があれば、実施可能要件を満たすということができる。

イ 本件特許発明1〜本件特許発明25の実施可能要件
(ア)検討
本件特許明細書の発明の詳細な説明には、高タンパク質果実風味飲料は、水を含むこと(【0019】〜【0021】)、甘味料を含むこと(【0022】、【0023】)、総量が少なくとも4%(w/w)のタンパク質を含むこと(【0036】)、総量が前記飲料の総重量に対して少なくとも2%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物であって、前記変性ホエータンパク質組成物が、総量が乾燥重量基準で前記変性ホエータンパク質組成物の総重量に対して少なくとも60%(w/w)のタンパク質、1〜10ミクロンの範囲の粒径を有する不溶性ホエータンパク質粒子であって、前記不溶性ホエータンパク質粒子の量は、前記変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の前記総量に対して50〜100%(w/w)の範囲である、不溶性ホエータンパク質粒子を含み、前記変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比が、少なくとも20である、変性ホエータンパク質組成物の固形物を含むこと(【0036】〜【0053】、【0069】〜【0080】)、果実風味剤を含むこと(【0090】)、食品酸を含むこと(【0091】〜【0095】)、 3.0〜4.8の範囲のpHを有すること(【0101】)が記載されており、a)混合物を生成するステップと、b)混合物をパッケージングするステップとを含み、i)混合物は熱処理されるか、ii)混合物は熱処理された材料から作られていることを特徴とする、高タンパク果実風味飲料を製造する方法(【0117】〜【0138】)も記載されている。
そして、スイートホエータンパク質濃縮物の水溶液を熱処理することにより、0.5〜10ミクロンの不溶性ホエータンパク質粒子を67%含み、総タンパク質:灰分の重量比が約23.6(13/0.55)であると認められ、乾燥物質の固形分が略95%である変性ホエータンパク質組成物を製造したこと(実施例2、【0383】〜【0392】)、実施例1(当審注:実施例2の誤記と認められる)の製品と類似する、タンパク質を82%含有する変性ホエータンパク質組成物であるタンパク質材料Bを、甘味料であるスクロース、食品酸であるクエン酸、水と混合してpH4.0またはpH4.5のプレミックスを製造し、さらにプレミックスを果実風味剤であるリンゴジュースと混合し、殺菌、均質化処理を行うことにより、タンパク質含有量が8%(w/w)であり、少なくとも8%(w/w)の変性ホエータンパク質組成物の固形物を含むと認められる高タンパク質果実風味飲料を製造したこと、高タンパク質果実風味飲料の注意深いpHの制御が良好な味、例えば高い果汁感を持った製品を得るのに重要であること、タンパク質材料Bを含有する高タンパク質果実風味飲料は、知覚粘度が飲料に適しており、新鮮度が高いこと(実施例3、【0393】〜【0403】、図1)が実施例として記載されている。
そうすると、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1〜本件特許発明25の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があるから、本件特許発明1〜本件特許発明25を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。

(イ)異議申立人の主張について
異議申立人は異議申立書において、概略、以下の主張をする。

本件特許発明1〜本件特許発明25は、高タンパク質果実風味飲料において、タンパク質の総量、変性ホエータンパク質組成物の固形物の量、変性ホエータンパク質組成物の総重量に対するタンパク質の量、不溶性ホエータンパク質粒子の粒径、変性ホエータンパク質組成物のタンパク質の総量に対する不溶性ホエータンパク質粒子の量、変性ホエータンパク質組成物の総タンパク質:灰分の重量比、pHを規定するが、実施例で発明特定事項の条件を変え、その効果を見ているのは果汁感の評価に係るpHだけであるところ、pHを下げれば果汁感が高まることは技術常識であるから、その他の規定についての臨界的意義が実施例により十分に裏付けられておらず、本件特許明細書は、本件特許発明1〜本件特許発明25の全体において、高タンパク質果実風味飲料の経口知覚粘度、果汁感、異臭度の改善・向上が奏されることを理解できる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから、本件特許明細書は、特許法第36条第4項第1号の規定に違反して特許されたものである。

異議申立人の主張について検討する。上記イ(ア)のとおり、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1〜本件特許発明25の発明特定事項に対応した説明の記載や実施例の記載があり、高タンパク質果実風味飲料が、高い果汁感を持ち、知覚粘度が飲料に適しており、新鮮度が高いことが記載されているから、本件特許発明1〜本件特許発明25の全体を当業者が実施することができる程度に明確かつ十分に記載されているといえる。
そして、発明特定事項のそれぞれについて、臨界的意義までが実施例で十分に裏付けられていなくても、当業者は本件特許発明1〜本件特許発明25を実施することができるから、異議申立人の主張は採用できない。

(ウ)小括
以上のとおり、本件特許発明1〜本件特許発明25について、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載は特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないとすることはできない。
よって、本件特許発明1〜本件特許発明25に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていないものではないから、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものではない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1〜25に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1〜25に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2021-12-24 
出願番号 P2016-525049
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A23L)
P 1 651・ 121- Y (A23L)
P 1 651・ 536- Y (A23L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 冨永 みどり
小堀 麻子
登録日 2021-01-29 
登録番号 6830813
権利者 アーラ フーズ エエムビエ
発明の名称 高タンパク果実風味飲料、高タンパク果実および野菜調製物、ならびに関連する方法および食品  
代理人 青木 篤  
代理人 特許業務法人北青山インターナショナル  
代理人 三橋 真二  
代理人 渡辺 陽一  
代理人 中島 勝  
代理人 上原 路子  

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