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審決分類 審判 一部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B60C
審判 一部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B60C
審判 一部申し立て 2項進歩性  B60C
管理番号 1384178
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-08-20 
確定日 2022-03-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6835284号発明「空気入りタイヤ」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6835284号の請求項1ないし2、4ないし10、15ないし20に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6835284号(以下「本件特許」という。)の請求項1〜20に係る特許についての出願は、令和2年7月28日に出願され、令和3年2月8日にその特許権の設定登録がされ、令和3年2月24日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年8月20日 に特許異議申立人加藤浩志(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされ、当審は、令和3年12月15日付けで取消理由を通知した。これに対し、特許権者は、令和4年2月17日に意見書を提出した。


第2 本件発明
本件特許の請求項1〜20に係る発明(以下「本件発明1〜20」という。)は、その請求項1〜20に記載された事項により特定される、次のとおりのものである。
「【請求項1】
トレッド部を有する空気入りタイヤであって、
前記トレッド部のゴム層が、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムを含有するゴム成分を含むと共に、
前記ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを5質量部超、25質量部以下含み、
正規リムに組み込み、内圧を250kPaとした際のタイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)とし、タイヤが占める空間の体積を仮想体積V(mm3)としたとき、下記(式1)および(式2)を満足することを特徴とする空気入りタイヤ。
1700≦(Dt2×π/4)/Wt≦2827.4 ・・・・・・(式1)
[(V+1.5×107)/Wt]≦2.88×105 ・・・・・・(式2)
【請求項2】
下記(式3)を満足することを特徴とする請求項1に記載の空気入りタイヤ。
[(V+2.0×107)/Wt]≦2.88×105 ・・・・・・(式3)
【請求項3】
下記(式4)を満足することを特徴とする請求項2に記載の空気入りタイヤ。
[(V+2.5×107)/Wt]≦2.88×105 ・・・・・・(式4)
【請求項4】
正規リムに組み込み、内圧を250kPaとした際のタイヤの外径をDt(mm)、タ
イヤの断面高さHt(mm)としたとき、(Dt−2×Ht)が、470(mm)以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項3のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項5】
扁平率が、40%以上であることを特徴とする請求項1ないし請求項4のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項6】
扁平率が、45%以上であることを特徴とする請求項5に記載の空気入りタイヤ。
【請求項7】
扁平率が、47.5%以上であることを特徴とする請求項6に記載の空気入りタイヤ。
【請求項8】
前記トレッド部のゴム層の、30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(30℃tanδ)が0.15未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項7のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項9】
前記カーボンブラック量CB(質量部)と前記タイヤの断面幅Wt(mm)とが、下記(式5)を満足することを特徴とする請求項1ないし請求項8のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
CB×Wt≧900 ・・・・・・・・・・・(式5)
【請求項10】
下記(式6)を満足することを特徴とする請求項9に記載の空気入りタイヤ。
CB×Wt≧1500 ・・・・・・・・・・・(式6)
【請求項11】
タイヤ周方向に連続して延びる周方向溝をトレッド部に有しており、
前記トレッド部の接地面における前記周方向溝の溝幅L0に対する前記周方向溝の最大の深さの80%の深さにおける溝幅L80の比(L80/L0)が、0.3〜0.7であることを特徴とする請求項1ないし請求項10のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項12】
タイヤ周方向に連続して延びる複数本の周方向溝をトレッド部に有しており、
前記複数本の周方向溝の断面積の合計が、前記トレッド部の断面積の10〜30%であることを特徴とする請求項1ないし請求項11のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項13】
タイヤ軸方向に延びる複数本の横溝をトレッド部に有しており、
前記複数本の横溝の容積の合計が、前記トレッド部の体積の2.0〜5.0%であることを特徴とする請求項1ないし請求項12のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項14】
前記横溝の少なくとも1本が、溝幅/溝深さが0.50〜0.80の横溝であることを特徴とする請求項13に記載の空気入りタイヤ。
【請求項15】
正規リムに組み込み、内圧を250kPaとした際のタイヤの外径をDt(mm)としたとき、Dtが、685(mm)未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項14のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項16】
前記断面幅Wt(mm)が、205mm未満であることを特徴とする請求項1ないし請求項15のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
【請求項17】
前記断面幅Wt(mm)が、200mm未満であることを特徴とする請求項16に記載の空気入りタイヤ。
【請求項18】
前記トレッド部のゴム層のタイヤ半径方向厚みをTd(mm)とし、前記トレッド部のゴム層の、30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪率1%の条件下で測定された損失
正接を30℃tanδとしたとき、下記(式7)を満足することを特徴とする請求項1ないし請求項17のいずれか1項に記載の空気入りタイヤ。
(30℃tanδ/Td)×100≧2.00 ・・・・・・・(式7)
【請求項19】
下記(式8)を満足することを特徴とする請求項18に記載の空気入りタイヤ。
(30℃tanδ/Td)×100≧2.50 ・・・・・・・(式8)
【請求項20】
下記(式9)を満足することを特徴とする請求項19に記載の空気入りタイヤ。
(30℃tanδ/Td)×100≧3.00 ・・・・・・・(式9)」


第3 証拠方法
1 申立人は、特許異議申立において、甲第1号証〜甲第9号証(以下「甲1〜9」という。)を提出した。
甲第1号証:Simone Falcioni、The European Tyre and Rim Technical Organization、2018年1月、“ETRTO STANDARDS MANUAL 2018”、G.1〜G.5ページ、P.4〜P.6ページ、P.22〜P.27ページ、P.30〜P.33ページ
甲第2号証:特開2017−171853号公報
甲第3号証:特開2014−201281号公報
甲第4号証:特開平10−175403号公報
甲第5号証:特開2000−289411号公報
甲第6号証:特開2019−135117号公報
甲第7号証:特開2020−97644号公報
甲第8号証:特開平6−102149号公報
甲第9号証:特開2017−109527号公報

2 特許権者は、意見書とともに、乙第1号証〜乙第8号証(以下「乙1〜8」という。)を提出した。
乙第1号証:特開2012−236934号公報
乙第2号証:特開2012−31302号公報
乙第3号証:特表2008−518065号公報
乙第4号証:国際公開第2017/203766号
乙第5号証:特許第5810204号公報
乙第6号証:特許第6346125号公報
乙第7号証:特許第6249930号公報
乙第8号証:特許第5435175号公報


第4 取消理由の概要
当審において、本件発明1、2、4〜10、15〜20(以下これらをまとめて「本件発明」という。)に係る特許に対して通知した取消理由の要旨は、次のとおりである。
[取消理由1]
本件発明は、甲1に記載された発明であるから、その特許は、特許法29条1項3号の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
[取消理由2]
本件発明は、甲1に記載された発明、甲3、4、8に記載された技術的事項及び周知の技術に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、その特許は、特許法29条2項の規定に違反してされたものであり、取り消されるべきものである。
[取消理由3]
本件発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるので、取り消されるべきものである。


第5 甲各号証の記載
1 甲1
(1)本件特許の出願前に公開された甲1には、次の記載がある。なお、かっこ内は日本語訳で、特許異議申立書及びそれに添付された甲1訳文によるものである。
ア G.2ページ
「TYRE DEFINITION
A pneumatic tyre is a flexible component of the wheel assembly made of rubber and reinforcing materials.」
(タイヤ定義
空気入りタイヤは、ゴムと補強材で構成された、車輪を構成するフレキシブルな部品である。なお、日本語訳は、特許異議申立書に記載されたものである。以下同じ。)
イ G.3ページ



「SECTION HEIGHT
Half the difference between the overall diameter and nominal rim diameter.」
(断面高さ
外径と標準リム径の差の1/2。)
「SECTION WIDTH
The linear distance between the outsides of the sidewalls of an inflated tyre excluding elevations due to labelling (markings), decorations, or protective bands or ribs.」
(断面幅
空気入りタイヤの両サイドウォールの外側の直線距離であり、ラベル(マーキング)や装飾、保護バンドやリブによる高さを除いたもの。)
ウ G.4ページ
「OVERALL DIAMETER
The diameter of an inflation tyre at the outermost surface of the tread.」
(外径
空気を入れたタイヤのトレッド最外周部の直径。)
「TYRE MEASUREMENT
Measurements should be taken on the unloaded tyre mounted on its measuring rim at the recommended inflation pressure and allowed to stand for a minimum of 24 hours at normal room temperature before readjustment of the pressure back to its original level.」
(タイヤの測定
測定は、測定リムに装着し、内圧を推奨のものとし、荷重を貸さないで行われ、常温で24時間以上放置した後、圧力を元のレベルに再調整する。)
「NOMINAL RIM DIAMETER
The rim specified by the relevant subcommittee for the measurement of the tyre.」
(測定リム
関係する小委員会により、タイヤを測定するために特定されたリム。)
「NOMINAL ASPECT RATIO
One hundred times the ratio of the section height to the section width of the tyre on its theoretical rim.」
(標準扁平率
理論リム上のタイヤの断面幅に対する断面高さの日を100倍したもの。)
「NOMINAL RIM DIAMETER
It is a size code figure for reference purposes only, as indicated in the tyre and rim size designation.」
(標準リム径
タイヤとリムのサイズ寸法を指定する参照目的だけのサイズ記号の数値。)
エ G.5ページ
「INFLATION PRESSURE
Inflation pressure means the pressure taken with the tyre at ambient temperature and does not include any pressure build-up due to tyre usage.」
(内圧
内圧とは、常温でのタイヤの圧力を意味し、タイヤの使用による圧力の上昇は含まない。)
オ P.4ページ



(「1. TYRE SIZA DESIGNATION AND MARKINGS」1.タイヤ寸法の設計とマーキング、「TYRE SIZE」タイヤ寸法、「SERVICE DESCRIPTION」サービス解説、「Nominal Section width(mm)」標準断面幅(mm)、「Nominal Aspect Ratio (or=H/S)」標準扁平率(mm)、「Structure or Construction Code」構造又は組立記号、「Nominal Rim Diameter Code」標準リム径記号、「Load Index」荷重記号、「Speed Symbol」速度記号、「METRIC”A”TYRES」メトリック“A”タイヤ、「Nominal Overall Diameter」標準外径、「Metric A Rim (Asymmetric)」メトリックAリム(非対称))
カ P.6ページ
「3.3 Inflation Pressures for Tyre
Dimensions Measurement
180kPa for Standard Load Tyres,
220kPa for Extra Load or Reinforced tyres,
180kPa for Standard Load and 230kPa for Extra Load S type temporary use spare tyres,
420kPa for T type temporary use spare tyres.」
(3.3 寸法測定のための内圧
標準荷重タイヤは180kPa、
重荷重タイヤ又は補強タイヤは220kPa、
標準荷重タイヤの一時使用スペアタイヤは180kPaであり、重荷重Sタイプの一時使用スペアタイヤは230kPa、
Tタイプの一時使用スペアタイヤは420kPa。)
キ P.22ページ



(「8.6 ‘70’ SERIES−METRIC DESIGNATION」8.6‘70’シリーズ−メトリック設計)、「TYRE SIZE DESIGNATION」タイヤ寸法設計、「Load Index」荷重記号、「Std」標準、「Reinf.」補強、「MEASUREING RIM WIDTH CODE」測定リム幅記号、「TYRE DIMENDION (mm)」タイヤ諸元(mm)、「DESIGN」設計、「Section Width」断面幅、「Overall Diameter」外径、「MAXIUM IN SEVICE」最大サービス、「Overall Width」総幅、「Overall Diameter」外径、「LOAD CAPACITY (kg)」荷重容量(kg)、「Std.」標準、「Reinf.」補強、「INFLATION PRESSURE (kPa)」内圧(kg)、「Std.」(標準)、「Reinf.」補強)
ク P.24ページ


(中略)


(「8.6 ‘65’ SERIES−METRIC DESIGNATION」8.6‘65’シリーズ−メトリック設計)、「TYRE SIZE DESIGNATION」タイヤ寸法設計、「Load Index」荷重記号、「Std」標準、「Reinf.」補強、「MEASUREING RIM WIDTH CODE」測定リム幅記号、「TYRE DIMENDION (mm)」タイヤ諸元(mm)、「DESIGN」設計、「Section Width」断面幅、「Overall Diameter」外径、「MAXIUM IN SEVICE」最大サービス、「Overall Width」総幅、「Overall Diameter」外径、「LOAD CAPACITY (kg)」荷重容量(kg)、「Std.」標準、「Reinf.」補強、「INFLATION PRESSURE (kPa)」内圧(kg)、「Std.」(標準)、「Reinf.」補強)
ケ P.26ページ


(中略)


(「8.6 ‘60’ SERIES−METRIC DESIGNATION」8.6‘60’シリーズ−メトリック設計)、「TYRE SIZE DESIGNATION」タイヤ寸法設計、「Load Index」荷重記号、「Std」標準、「Reinf.」補強、「MEASUREING RIM WIDTH CODE」測定リム幅記号、「TYRE DIMENDION (mm)」タイヤ諸元(mm)、「DESIGN」設計、「Section Width」断面幅、「Overall Diameter」外径、「MAXIUM IN SEVICE」最大サービス、「Overall Width」総幅、「Overall Diameter」外径、「LOAD CAPACITY (kg)」荷重容量(kg)、「Std.」標準、「Reinf.」補強、「INFLATION PRESSURE (kPa)」内圧(kg)、「Std.」(標準)、「Reinf.」補強)
コ P.30ページ



(「8.6 ‘50’ SERIES−METRIC DESIGNATION」8.6‘50’シリーズ−メトリック設計)、「TYRE SIZE DESIGNATION」タイヤ寸法設計、「Load Index」荷重記号、「Std」標準、「Reinf.」補強、「MEASUREING RIM WIDTH CODE」測定リム幅記号、「TYRE DIMENDION (mm)」タイヤ諸元(mm)、「DESIGN」設計、「Section Width」断面幅、「Overall Diameter」外径、「MAXIUM IN SEVICE」最大サービス、「Overall Width」総幅、「Overall Diameter」外径、「LOAD CAPACITY (kg)」荷重容量(kg)、「Std.」標準、「Reinf.」補強、「INFLATION PRESSURE (kPa)」内圧(kg)、「Std.」(標準)、「Reinf.」補強)
サ P.32ページ



(「8.7 ‘45’ SERIES−METRIC DESIGNATION」8.7‘45’シリーズ−メトリック設計)、「TYRE SIZE DESIGNATION」タイヤ寸法設計、「Load Index」荷重記号、「Std」標準、「Reinf.」補強、「MEASUREING RIM WIDTH CODE」測定リム幅記号、「TYRE DIMENDION (mm)」タイヤ諸元(mm)、「DESIGN」設計、「Section Width」断面幅、「Overall Diameter」外径、「MAXIUM IN SEVICE」最大サービス、「Overall Width」総幅、「Overall Diameter」外径、「LOAD CAPACITY (kg)」荷重容量(kg)、「Std.」標準、「Reinf.」補強、「INFLATION PRESSURE (kPa)」内圧(kg)、「Std.」(標準)、「Reinf.」補強)

(2)甲1には、上記(1)コ及びサのとおり、タイヤ寸法設計が以下のア〜エである空気入りタイヤについて、断面幅、外径及び扁平率がそれぞれ記載されている。これらの記載に基づいて、各タイヤについて、断面高さ(=(外径−標準リム径)/2。以下「α」という。)、(外径2×π/4)/断面幅(以下「β」という。)、仮想体積(=[(外径/2)2−((外径/2)−断面高さ)2]×π×断面幅。以下「γ」という。)、(仮想体積+1.5×107)/断面幅(以下「δ」という。)を求めると、次のとおりとなる。
ア 145/50R21
・断面幅:150mm
・外径:679mm
・扁平率:50%
・標準リム径:21インチ(ミリメートルに換算すると、533.4mm)
・α:72.8
・β:2414.01
・γ:2.08×107
・δ:2.39×105
イ 195/50R20
・断面幅:201mm
・外径:704mm
・扁平率:50%
・標準リム径:20インチ(508mm)
・α:98
・β:1936.60
・γ:3.75×107
・δ:2.61×105
ウ 205/50R19
・断面幅:214mm
・外径:689mm
・扁平率:50%
・標準リム径:19インチ(482.6mm)
・α:103.2
・β:1742.27
・γ:4.06×107
・δ:2.60×105
エ 215/45R20
・断面幅:214mm
・外径:689mm
・扁平率:45%
・標準リム径:20インチ(508mm)
・α:97
・β:1817.12
・γ:3.93×107
・δ:2.55×105

(3)上記(1)及び(2)を踏まえると、甲1には、以下の発明が記載されているといえる。
ア 「空気入りタイヤであって、
ゴム部分を有し、
測定用リムに組み込み、内圧を180kPa又は220kPaとした際のタイヤが占める空間の体積をγ(仮想体積)としたとき、βが2414.01、δが2.39×105である空気入りタイヤ。」(以下「甲1発明1」という。)
イ 「空気入りタイヤであって、
ゴム部分を有し、
測定用リムに組み込み、内圧を180kPa又は220kPaとした際のタイヤが占める空間の体積をγ(仮想体積)としたとき、βが1936.60、δが2.61×105である空気入りタイヤ。」(以下「甲1発明2」という。)
ウ 「空気入りタイヤであって、
ゴム部分を有し、
測定用リムに組み込み、内圧を180kPa又は220kPaとした際のタイヤが占める空間の体積をγ(仮想体積)としたとき、βが1742.27、δが2.60×105である空気入りタイヤ。」(以下「甲1発明3」という。)
エ 「空気入りタイヤであって、
ゴム部分を有し、
測定用リムに組み込み、内圧を180kPa又は220kPaとした際のタイヤが占める空間の体積をγ(仮想体積)としたとき、βが1817.12、δが2.55×105である空気入りタイヤ。」(以下「甲1発明4」という。)

2 甲2
(1)本件特許の出願前に公開された甲2には、次の記載がある。
「【0005】
本発明の目的は、雪上性能および耐チッピング性のバランスを従来レベル以上に向上するようにしたタイヤトレッド用ゴム組成物を提供することにある。」
「【0009】
本発明のゴム組成物をトレッド部に使用した乗用車用空気入りタイヤは、雪上性能および耐チッピング性を従来レベル以上に向上させることができる。」
「【0019】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、カーボンブラックを20質量%以上含む充填剤をジエン系ゴム100質量部に対し50〜100質量部配合する。充填剤の配合量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物の雪上性能および耐チッピング性をより高いレベルでバランスさせることができる。充填剤の配合量が50質量部未満であると、高いレベルの耐チッピング性を確保することができない。充填剤の配合量が100質量部を超えると、雪上性能が悪化してしまう。
【0020】
また充填剤100質量%中のカーボンブラックの含有量は20質量%以上、好ましくは20〜60質量%にする。充填剤中のカーボンブラックの含有量をこのような範囲にすることにより、ゴム組成物の雪上性能および耐チッピング性を両立することが可能になる。
「【0027】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、乗用車用空気入りタイヤに好適に使用することができる。このゴム組成物をトレッド部に使用した乗用車用空気入りタイヤは、積雪路面を走行するときの雪上性能と、耐チッピング性とのバランスを従来レベル以上に向上することができる。
「【0030】
得られた22種類のゴム組成物を150℃、30分の条件でプレス加硫して、雪上性能評価用の試験片(厚みが12mm以上)を作成した。また22種類のゴム組成物をキャップトレッドに用いたサイズ(225/60R17)の空気入りタイヤを加硫成形した。それぞれの空気入りタイヤを用いて、耐チッピング性を下記に示す方法により評価した。」(下線は、当審が付与したものである。以下特段の当審注のない限り同じ。)
「【補正の内容】
【請求項1】
ブタジエンゴムを10〜30質量%、スチレンブタジエンゴムを30〜80質量%および天然ゴムを含むジエン系ゴム100質量部に対し、カーボンブラックを20質量%以上含む充填剤を50〜100質量部、硫黄をS質量部、加硫促進剤をA質量部およびオイルを配合したゴム組成物であって、前記スチレンブタジエンゴムが、スチレン含有量が22〜38質量%である乳化重合スチレンブタジエンゴムおよび/または溶液重合スチレンブタジエンゴムからなる複数のブレンドであり、前記天然ゴムおよびブタジエンゴムの質量比(NR/BR)が0.3以上、前記硫黄および加硫促進剤の配合比(S/A)が0.8以下であると共に、前記オイルを含むゴム組成物中のオイル成分の合計が15〜25質量部であることを特徴とするタイヤトレッド用ゴム組成物。
【請求項2】
請求項1に記載のタイヤトレッド用ゴム組成物を、トレッド部に使用した乗用車用空気入りタイヤ。」(当審注:下線は補正箇所を示し、甲2に記載されたとおりのものである。)
「【補正の内容】
【0007】
本発明のタイヤトレッド用ゴム組成物は、ブタジエンゴムを10〜30質量%、スチレン含有量が22〜38質量%の乳化重合スチレンブタジエンゴムおよび/または溶液重合スチレンブタジエンゴムの複数のブレンドからなるスチレンブタジエンゴムを30〜80質量%および天然ゴムをブタジエンゴムとの質量比(NR/BR)で0.3以上含むジエン系ゴム100質量部に、カーボンブラックを20質量%以上含む充填剤を50〜100質量部およびゴム組成物中のオイル成分の合計が15〜25質量部になるようにオイルを配合すると共に、硫黄(S)および加硫促進剤(A)の質量比(S/A)を0.8以下にしたので、雪上性能および耐チッピング性を従来レベル以上に向上させることができる。」(当審注:下線は補正箇所を示し、甲2に記載されたとおりのものである。)
「【補正の内容】
【0033】
【表1】


(上記表1において、枠囲いは、当審が付与したものである。)

(2)上記記載事項から、以下の事項が認定できる。
ア 【0033】の表1の記載からみて、標準例及び実施例1〜5のタイヤの製造で使用されるゴム組成物において、そのゴム成分はイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含むものであり、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを20質量部含むものである。
イ 【0030】には、実施例のタイヤ(以下「甲2タイヤ」という。)として「225/60R17」が記載されている。甲2タイヤについて、外径、断面幅、標準リム径、扁平率、α、β、γ、δの値を上記1(1)ケの「8.6 ‘60’ SERIES−METRIC DESIGNATION」の表及び上記1(2)の計算式に基づいて求めると、以下のとおりである。
甲2タイヤ
・断面幅:237mm
・外径:702mm
・扁平率:60%
・標準リム径:17インチ(ミリメートルに換算すると、431.8mm)
・α:135.1
・β:1633.11
・γ:5.70×107
・δ:3.04×105

3 甲3
(1)本件特許の出願前に公開された甲3には、次の記載がある。
「【請求項1】
トレッド、サイドウォール、クリンチおよびベースペンを有する空気入りタイヤであって、
トレッドが、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、シリカを35〜70質量部、カーボンブラックを0〜25質量部含有し、tanδが0.20以下であり、体積固有抵抗率が8.0LogΩ・cm以上であるトレッド用ゴム組成物により形成され、
サイドウォールが、ジエン系ゴム成分100質量部に対して、シリカを10〜40質量部、カーボンブラックを0〜27質量部含有し、tanδが0.15以下であり、体積固有抵抗率が8.0LogΩ・cm以上であるサイドウォール用ゴム組成物により形成され、
クリンチが、窒素吸着比表面積が100〜1500m2/gでありジブチルフタレート吸油量が65〜600ml/100gであるカーボンブラックをゴム組成物全体に占める体積分率で4〜45%含有し、体積固有抵抗率が7.00LogΩ・cm以下であるクリンチ用ゴム組成物により形成され、
クリンチおよびベースペンが導電経路の少なくとも一部を構成する空気入りタイヤ。」
「【背景技術】
【0002】
近年、車の低燃費化に対する要求が強くなり、転がり抵抗の少ないタイヤに対する要求もますます強くなっている。そこで、トレッドやその他のタイヤを構成する部材を構成するゴム組成物の損失正接(tanδ)を低減する手法が広く採用されている。
【0003】
例えば、トレッド用ゴム組成物のtanδを低減しウェットグリップ性能を維持するために、カーボンブラックに替えてシリカなどの無機充填剤を配合する手法がある。また、サイドウォール、クリンチ、タイヤ内部部材などにおいてもカーボンブラックに替えてシリカなどの無機充填剤を配合することで、ゴム組成物を低tanδ化するという手法も採用されている。しかし、これらの手法によれば、カーボンブラックに比べて導電性に劣る無機充填剤を含有することになるため、ゴム組成物の体積固有抵抗率(Ω・cm)が高くなり、タイヤの通電性が悪化することが知られている。」
「【0008】
前述のようにタイヤの転がり抵抗を少なくすることを目的とし、タイヤのあらゆる部材にシリカなどの無機充填剤を配合することが行われている。しかしながら、リムと接するクリンチ用ゴム組成物にシリカなどの無機充填剤を多用し過ぎると、当該ゴム組成物の強度が低下してしまい、走行中にクリンチに損傷が生じる(リムチェーフィング性能が悪化する)という問題がある。
【0009】
本発明は、トレッドおよびサイドウォールが低tanδ性に優れるが体積固有抵抗率の高いトレッド用ゴム組成物およびサイドウォール用ゴム組成物により形成されるにもかかわらず、転がり抵抗特性だけでなく、通電性およびリムチェーフィング性能にも優れた空気入りタイヤを提供することを目的とする。」
「【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、トレッドおよびサイドウォールが低tanδ性に優れるが体積固有抵抗率の高いトレッド用ゴム組成物およびサイドウォール用ゴム組成物により形成されるにもかかわらず、所定のカーボンブラックを所定の体積分率で含有するクリンチ用ゴム組成物により形成されるクリンチを有し、当該クリンチとベースペンが導電経路の少なくとも一部を構成する空気入りタイヤとすることで、転がり抵抗特性、通電性およびリムチェーフィング性能に優れた空気入りタイヤを提供することができる。」
「【0016】
トレッド用ゴム組成物が含有するジエン系ゴム成分としては、天然ゴム(NR)、ポリイソプレンゴム(IR)、スチレンブタジエンゴム(SBR)、ブタジエンゴム(BR)、変性スチレンブタジエンゴム(変性SBR)、変性ブタジエンゴム(変性BR)や、極性基を有するジエン系ゴムなどが挙げられる。極性基としては、ブロモ基、クロロ基などのハロゲン基、エポキシ基、アミノ基などが挙げられ、極性基を有するジエン系ゴムとしては、ハロゲン化ブタジエンゴム、エポキシ化天然ゴム(ENR)などが挙げられる。特にグリップ性能および転がり抵抗特性を両立することができるという点から、SBRおよび/またはENRを含有することが好ましく、なかでも、汎用性に優れるという点からはSBRを含有することがより好ましく、石油外資源比率を高くできるという点からはENRを含有することがより好ましい。」
「【0020】
トレッド用ゴム組成物におけるジエン系ゴム成分100質量部に対するカーボンブラックの含有量は、0〜25質量部であり、2〜25質量部が好ましく、3〜25質量部がより好ましい。カーボンブラックの含有量は、転がり抵抗の低減という点からは含有しないことが好ましいが、紫外線劣化防止という点からは2質量部以上が好ましく、3質量部以上がより好ましい。また、カーボンブラックの含有量が25質量部を超える場合は、転がり抵抗の低減効果が不充分となる傾向がある。」
「【0074】
製造例TR1〜TR4(トレッド用ゴム組成物)
表1に示す配合処方に従い、1.7Lバンバリーミキサーを用いて、配合材料のうち、硫黄および加硫促進剤以外の材料を180℃になるまで混練りすることで混練り物を得た。次に、得られた混練り物に硫黄および加硫促進剤を添加し、2軸オープンロールを用いて、105℃になるまで練り込み、未加硫のトレッド用ゴム組成物を得た。また、得られた未加硫ゴム組成物を160℃の条件下で20分間プレス加硫し、加硫ゴム組成物を得た。」
「【0082】
実施例1〜20および比較例1〜11
表3〜7に示す各タイヤ部材用未加硫ゴム組成物を用いて各試験用タイヤ(サイズ:195/65R15)を作製した。また、ベースペンの構造(図1〜4)を表3〜7に示す。表3〜7に示すタイヤ部材以外の部位については、全ての実施例および比較例において、一般的な配合のゴム組成物により形成された各部材を統一して使用した。得られた試験用タイヤを用いて以下の評価を行った。
【0083】
<転がり抵抗特性試験>
各試験用タイヤをリム組みし(リム:15×6JJ)、内圧230kPa、荷重3.43kNおよび速度80km/hで走行させたときの転がり抵抗を転がり抵抗試験機を用いて測定し、実施例3を100とした時の指数で表示した。結果を表3〜7に示す。指数が大きいほど低燃費性に優れていることを示す。転がり抵抗特性指数は100以上を性能目標指数とする。」
「【0086】


「【0088】
【表3】


(上記表1及び3において、枠囲みは当審が付与したものである。)

(2)上記(1)の記載事項から、以下の事項が認定できる。
ア 【0086】の表1の記載からみて、トレッド用ゴム組成物(TR)のうち、TR2及びTR3のタイヤの製造で使用されるゴム組成物において、そのゴム成分はイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含むものであり、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを5〜25質量部含むものである。
イ 【0082】には、実施例の各試験用タイヤとして「195/65R15」が記載されており、【0088】には、実施例2及び3においてトレッド用ゴム組成物のうちTR2を使用すること(以下「甲3タイヤ」という。)が記載されている。甲3タイヤについて、外径、断面幅、標準リム径、扁平率、α、β、γ、δの値を上記1(1)クの「8.6 ‘65’ SERIES−METRIC DESIGNATION」の表及び上記1(2)の計算式に基づいて求めると、以下のとおりである。
甲3タイヤ
・断面幅:201mm
・外径:635mm
・扁平率:65%
・標準リム径:15インチ(ミリメートルに換算すると、381mm)
・α:127
・β:1575.58
・γ:4.07×107
・δ:2.77×105

4 甲4
(1)本件特許の出願前に公開された甲4には、次の記載がある。
「【請求項1】トレッド部からサイドウオール部をへてビード部のビードコアで折り返すカーカス、このカーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内方に配される補強部材、体積固有抵抗が1×108Ωcm以上の絶縁性ゴム材から成りかつトレッド部を形成するキャップゴム体、及びこのキャップゴム体のタイヤ半径方向内側に配されるベース層とこのベース層から前記キャップゴム体を貫通してのびかつ外端面がトレッド接地面の一部をなす貫通端子部とを具えるとともに体積固有抵抗が1×107Ωcm以下の導電性ゴム材からなるベースゴム体を具える一方、
前記絶縁性ゴム材は、ジエン系ゴム、及び共役ジエン系モノマーと芳香族ビニル化合物との共重合体の内の一種又は二種以上を用いたゴム基材の100重量部に対して、30〜100重量部のシリカと3〜20重量部のカーボンブラックとを含むとともに、
前記導電性ゴム材は、ジエン系ゴム、及び共役ジエン系モノマーと芳香族ビニル化合物との共重合体の内の一種又は二種以上を用いたゴム基材の100重量部に対して、0〜50重量部のシリカと25重量部以上のカーボンブラックとを含み、
しかも25゜Cの温度における前記絶縁性ゴム材のゴム硬度Hs1を前記導電性ゴム材のゴム硬度Hs2以下とした空気入りタイヤ。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、低転がり抵抗性とウエット性能(耐ウエットスキッド性)との向上のためにトレッドゴムの補強剤としてシリカを用いたタイヤにおいて、この優れた低転がり抵抗性能及びウエット性能を維持し、かつ操縦安定性を損ねることなく車両に発生する静電気を路面に効果的に放電でき、しかもこれらの特性を使用初期から終期にいたり安定して発揮する空気入りタイヤに関する。
【0002】
【従来の技術、及び発明が解決しようとする課題】近年、自動車の低燃費性を高めかつ排気ガスの低減化を促進するために、シリカをトレッドゴムの補強剤として用いたタイヤが提案されている。このものは、低温側でのヒステリシスロスが高く維持されるため優れたウエット性能を発揮する一方、高温側でのヒステリシスロスが低いため転がり抵抗が減じるなど、低転がり抵抗性能とウエット性能とを両立して向上しうるという利点がある。
【0003】しかしながらその半面、シリカは電気絶縁性が高いため、シリカ配合のトレッドゴムのタイヤを使用した場合、車両に静電気が溜まりやすいという欠点があり、この静電気の蓄積は、例えば運転者がガソリンスタンドで燃料タンクの蓋を開けようとした際に、火花を発生させる恐れを招くなど危険であり、又走行中、ラジオノイズ等の電波障害を引き起こすなど多くの電気的誤動作の原因ともなる。」
「【0027】又前記トレッド部2を形成するトレッドゴム13は、トレッド面を有する半径方向外側のキャップゴム体15と、その内側に配されるベースゴム体16との2層構造をなし、キャップゴム体15は、前記トレッド部2の全巾に亘って延在し、トレッド面にはタイヤ周方向にのびる縦溝Gm及びこれに交わる方向にのびる横溝Gyなどで構成する自在なパターン形状のトレッド溝Gを凹設している。」
「【0033】ここで前記キャップゴム体15は、シリカを主の補強剤として配合した体積固有抵抗が1×108Ωcm以上の絶縁性ゴム材22からなり、この絶縁性ゴム材22は、ジエン系ゴム、及び共役ジエン系モノマーと芳香族ビニル化合物との共重合体の内の一種又は二種以上を用いたゴム基材の100重量部に対して、30〜100重量部のシリカと3〜20重量部のカーボンブラックとを含む。すなわち、タイヤの低転がり抵抗性とウエット性能とを両立して高いレベルで発揮するために、シリカを30重量部以上配合することが必要であり、この時、他の必要なゴム物性、例えばゴム弾性、ゴム硬度、発熱性等を得るために、カーボンブラックを補助的に配合し、その配合量を20重量部以下とする。なおカーボンブラックが20重量部を超えると、前記低転がり抵抗性等のシリカによる効果が減じられ、かつゴム硬度が過大となるなど前記他のゴム物性が得られ難い。又シリカが100重量部を超えると、前記他のゴム物性を得るために、カーボンブラックの3重量部以上の配合が困難となり、光酸化防止効果が減じて耐候性を著しく損ねる。」
「【0047】
【実施例】図1に示す構造を有し、かつトレッドゴム13として表1の仕様の配合ゴム材(A1〜A6)と表2の仕様の配合ゴム材(B1〜B6)と組み合わせたタイヤサイズが205/65R15のタイヤを、表3の仕様に基づき試作するとともに、試供タイヤの耐候性、低転がり抵抗性、ウエット性能、直進安定性、負荷状態のタイヤ電気抵抗をそれぞれ測定しかつ比較した。なおキャップゴム体15として配合ゴム材(A1〜A6)を用い、かつベースゴム体16として配合ゴム材(B1〜B6)を用いている。」
「【0050】
【表1】


(上記表1及び3において、枠囲みは当審が付与したものである。)
「【0054】表3に示すように、本願の比較例タイヤであるサンプル品1、2、3、6、7、12のうち、サンプル品1、2は、低転がり抵抗性、ウエット性能、直進安定性、タイヤ電気抵抗等の諸性能に優れているが、キャップゴム体15にカーボンブラックを含んでいないため耐候性が悪く商品化が難しい。サンプル品3は、ベースゴム体16における体積固有抵抗が高いため、未走行時においても必要なタイヤ電気抵抗が得られない。サンプル品6、7は、キャップゴム体15のカーボンブラック含有量が過大であるため、シリカによる低転がり抵抗性及びウエット性能の向上効果が発揮できない。なおこのものは、ベースゴム体16の摩耗抵抗指数K2がキャップゴム体15の摩耗抵抗指数K1より低いため、1000km走行後の摩耗によって貫通端子部19の接地性が減じ、タイヤ電気抵抗を悪くしている。この傾向はサンプル品11にも見られる。又サンプル品12では、ベースゴム体16のゴム硬度HS2がキャップゴム体15のゴム硬度HS1より小であり、好ましい直進安定性等の操縦安定性が得られない。」

(2)上記(1)の記載事項から、次の事項が認定できる。
ア 【0050】の表1の記載からみて、トレッドゴム13としての配合ゴム材(A1〜A6)のうち、A5のゴム成分はイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含むものであり、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部含むものである。
イ 【0047】には、実施例のタイヤサイズとして「205/65R15」(以下「甲4タイヤ」という。)が記載されている。甲4タイヤについて、外径、断面幅、標準リム径、扁平率、α、β、γ、δの値を上記1(1)クの「8.6 ‘65’ SERIES−METRIC DESIGNATION」の表及び上記1(2)の計算式に基づいて求めると、以下のとおりである。
甲4タイヤ
・断面幅:209mm
・外径:647mm
・扁平率:65%
・標準リム径:15インチ(ミリメートルに換算すると、381mm)
・α:133
・β:1573.08
・γ:4.49×107
・δ:2.87×105

5 甲5
(1)本件特許の出願前に公開された甲5には、次の記載がある。
「【請求項1】トレッド部からサイドウオール部をへてビード部のビードコアに至るカーカス、このカーカスの半径方向外側かつ前記トレッド部の内方に配される補強コード部材、トレッド部の接地面側に配されるキャップゴム体、及びこのキャップゴム体のタイヤ半径方向内側に配されるベース部とこのベース部から前記キャップゴム体を貫通してのびかつ外端面が前記接地面の一部をなす貫通端子部とを具えるベースゴム体を具える一方、
前記キャップゴム体は、シリカにより補強される絶縁性ゴム材からなるとともに、前記ベースゴム体は、カーボンブラックの表面の少なくとも一部をシリカで被覆したシリカ処理カーボンブラックにより補強される導電性ゴム材からなることを特徴とする空気入りタイヤ。
【請求項2】前記絶縁性ゴム材は、ジエン系ゴムを用いたゴム基材の100重量部に対して、30〜100重量部のシリカと3〜20重量部のカーボンブラックとを含みかつ体積固有抵抗が1×108Ωcmを越えるとともに、前記導電性ゴム材は、ジエン系ゴムを用いたゴム基材の100重量部に対して、35〜60重量部のシリカ処理カーボンブラックを含みかつ体積固有抵抗が1×108Ωcm以下としたことを特徴とする請求項1記載の空気入りタイヤ。」
「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、トレッドゴムの充填剤としてシリカを用いたタイヤにおいて、その優れた低転がり抵抗性能とウエット性能とを発揮しつつ電気抵抗を低減した空気入りタイヤに関する。」
「【0018】先ず、キャップゴム体11は、接地面2Sのうち前記貫通端子部10Bを除く略全域で露出するように形成され、路面との接地性に最も重要な影響を与える。本発明では、このキャップゴム体11は、充填剤としてシリカを主に配合することにより補強されたゴム材からなり、これによりドライ路面での転がり抵抗を低減する一方ウエット路でのグリップ性が向上される。」
「【0020】前記キャップゴム体11は、例えばゴム基材の100重量部に対して、30〜100重量部のシリカを含み、これによって、キャップゴム体11は、タイヤの転がり抵抗の低減とウエット性能とをより高いレベルで両立しうる。
【0021】前記ゴム基材としては、ジエン系ゴム、すなわち天然ゴム(NR)、ブタジエンの重合体であるブタジエンゴム(BR)、いわゆる乳化重合のスチレンブタジエンゴム(E−SBR)、溶液重合のスチレンブタジエンゴム(S−SBR)、イソプレンの重合体である合成ポリイソプレンゴム(IR)、ブタジエンとアクリロニトリルとの共重合体であるニトリルゴム(NBR)、クロロプレンの重合体であるクロロプレンゴム(CR)などを挙げることができ、これらを単独で用いてもよく、また2種以上を互いにブレンドして使用してもよい。」
「【0023】なお、キャップゴム体11に要求される他のゴム物性、例えばゴム弾性、ゴム硬度、耐摩耗性等を得るために、前記ジエン系ゴム基材100重量部に対して3〜20重量部のカーボンブラックを補助的に配合するのが好ましい。
【0024】前記カーボンブラックの配合量が20重量部を超えると、シリカによる低転がり抵抗性等の優れた効果が減少し、またゴムが硬くなる傾向にあるなどキャップゴム体11として満足のゆくゴム物性が得られ難い。また前記シリカの配合量が100重量部を超えると、前記他のゴム物性を得るためのカーボンブラックの3重量部以上の配合が困難となり、光酸化防止効果が下がり耐候性を著しく損ねるため好ましくない。」
「【0043】先ず、キャップゴム体に用いたゴム材、ベースゴム体に用いたゴム材の配合例を表1に示す。
【0044】
【表1】


(上記表1において、枠囲みは当審が付与したものである。)
「【0046】次に、図1に示す構造の空気入りタイヤ(サイズ:175/70R13)を表1に示したゴムを適宜表2に示すように組み合わせて試作し、タイヤの転がり抵抗、ウエット性能、電気抵抗をそれぞれ測定して評価した。なおビード部、サイドウォール部のゴムの体積固有抵抗をそれぞれ略1×107Ωcmとしている。テストの方法は次の通りである。」
「【0049】<電気抵抗>ドイツの WDK、 Blatt3で規定される「荷重下でのタイヤ電気抵抗の測定手順」に基づき測定しうるものであって、図6に示すように、台板30に対して絶縁状態で取付く鋼板31上に、タイヤ1を前記負荷状態で垂直に接地させ、リムJと鋼板31との間の電気抵抗を、印加電圧(500V)、気温 (25℃) 、湿度(50%) 、内圧(200Kpa)、縦荷重(450Kgf)の条件で測定した。Log 表示(Ω)である。
【0050】
【表2】



(2)上記(1)の記載事項から、次の事項が認定できる。
ア 【0044】の表1の記載からみて、トレッドのキャップゴム体のうち、まる1及びまる2のゴム成分はイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含むものであり、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを5ないし10質量部含むものである。
イ 【0046】には、実施例のタイヤサイズとして「175/70R13」(以下「甲5タイヤ」という。)が記載されている。甲5タイヤについて、外径、断面幅、標準リム径、扁平率、α、β、γ、δの値を上記1(1)キの「8.6 ‘70’ SERIES−METRIC DESIGNATION」の表及び上記1(2)の計算式に基づいて求めると、以下のとおりである。
甲5タイヤ
・断面幅:177mm
・外径:576mm
・扁平率:70%
・標準リム径:13インチ(ミリメートルに換算すると、330.2mm)
・α:122.9
・β:1472.18
・γ:3.10×107
・δ:2.60×105

6 甲6
(1)本件特許の出願前に公開された甲6には、次の記載がある。
「【請求項1】
タイヤ周方向に延在して環状をなすトレッド部と、該トレッド部の両側に配置された一対のサイドウォール部とを備え、前記トレッド部の表面にタイヤ周方向に延在する主溝を備えた空気入りタイヤにおいて、
前記主溝の溝深さが7mm〜11mmであり、
前記トレッド部を構成するトレッド用ゴム組成物は、ゴム成分として天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとを含み、このゴム成分の平均ガラス転移温度Tgが−50℃以下であり、前記ゴム成分100質量部に対してシリカ50質量部〜100質量部が配合され、前記シリカの配合量はカーボンブラックおよびシリカの合計量の80質量%以上であり、アロマオイルが前記シリカ量に対して40質量%以下配合されたことを特徴とする空気入りタイヤ。」
「【背景技術】
【0002】
近年、空気入りタイヤを構成するゴム組成物に関して、耐摩耗性、低燃費性(低転がり性能)、ウェット路面における操縦安定性能(ウェット性能)の向上やタイヤ重量の軽減を可能にし、これら性能を高次元で両立するための様々な対策が提案されている(例えば、特許文献1を参照)。一般的に、これら性能のうち耐摩耗性については、例えば、空気入りタイヤのトレッド部を構成するトレッド用ゴム組成物にカーボンブラックを多量に配合することで向上できることが知られている。しかしながら、このような配合では転がり特性の悪化が懸念される。そこで、カーボンブラックに替えてシリカを配合して転がり特性の向上を図ることも提案されているが、シリカの配合比率が高いと耐摩耗性や耐久性が低下する恐れがあり、これら性能を両立することが困難であるという問題がある。そのため、トレッド用ゴム組成物の配合を最適化して、耐久性(悪路走行時の耐外傷性)を維持しながら、耐摩耗性、低転がり性能、ウェット路面における操縦安定性を向上するための対策が求められている。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明の目的は、耐久性(悪路走行時の耐外傷性)を維持しながら、耐摩耗性、低転がり性能、ウェット路面における操縦安定性を向上することを可能にした空気入りタイヤを提供することにある。」
「【発明の効果】
【0006】
本発明の空気入りタイヤは、トレッド用ゴム組成物が上述の配合であるため、耐久性(悪路走行時の耐外傷性)を維持しながら、耐摩耗性、低転がり性能、ウェット路面における操縦安定性を向上することができる。特に、このトレッド用ゴム組成物を、主溝の溝深さが上述の範囲であるトレッド部に採用しているので、上述の性能を効果的に発揮することができる。」
「【0010】
本発明において、「接地面積」とは、タイヤを正規リムにリム組みして正規内圧を充填した状態で平面上に垂直に置いて正規荷重を加えたときのタイヤ軸方向の両端部(接地端)の間の接地領域の面積である。「正規リム」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、当該規格がタイヤ毎に定めるリムであり、例えば、JATMAであれば標準リム、TRAであれば“Design Rim”、或いはETRTOであれば“Measuring Rim”とする。「正規内圧」とは、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている空気圧であり、JATMAであれば最高空気圧、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“INFLATION PRESSURE”であるが、タイヤが乗用車用である場合には180kPaとする。「正規荷重」は、タイヤが基づいている規格を含む規格体系において、各規格がタイヤ毎に定めている荷重であり、JATMAであれば最大負荷能力、TRAであれば表“TIRE ROAD LIMITS AT VARIOUS COLD INFLATION PRESSURES”に記載の最大値、ETRTOであれば“LOAD CAPACITY”であるが、タイヤが乗用車用である場合には前記荷重の88%に相当する荷重とする。」
「【0019】
本発明のトレッドゴム層11を構成するゴム組成物(以下、「トレッド用ゴム組成物」と言う。)において、ゴム成分はジエン系ゴムであり、具体的には、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとの3種で構成される。ジエン系ゴムとして、天然ゴムとスチレンブタジエンゴムとブタジエンゴムとの3種を用いることで、ゴム組成物の耐摩耗性を良好にすることができる。天然ゴムやブタジエンゴムとしては、空気入りタイヤのトレッド用ゴム組成物に通常用いられるものを使用するとよい。スチレンブタジエンゴムとしては、乳化重合スチレンブタジエンゴム、溶液重合スチレンブタジエンゴムを用いることができ、これらを単独又は複数のブレンドとして含有してもよい。」
「【0025】
本発明のトレッド用ゴム組成物には、カーボンブラックを配合することができる。カーボンブラックを配合することにより、ゴム組成物の強度を高くし耐摩耗性を高くすることができる。カーボンブラックとしては、ASTM D1765により分類された等級が、例えばISAF級であるカーボンブラックを使用することが好ましい。カーボンブラックの配合量は、ジエン系ゴム100質量部に対して好ましくは3質量部〜30質量部、より好ましくは5質量部〜20質量部である。」
「【0036】
更に、各トレッド用ゴム組成物をトレッド部に用いて、タイヤサイズが235/65R16であり、図1に示す基本構造を有し、図2に示すトレッドパターンを基調とし、主溝の溝深さと、主溝の溝面積比率とを表1〜3のように設定した空気入りタイヤを作製し、下記に示す方法により、耐摩耗性能、低転がり性能、ウェット路面における操縦安定性能(ウェット性能)、悪路走行時の耐外傷性能(耐久性)の評価を行った。」
「【0041】
【表1】


(上記表1において、枠囲みは当審が付与したものである。)
「【0045】
表1〜3から明らかなように、実施例1〜15の空気入りタイヤは標準例1の空気入りタイヤに対して、耐久性を良好に維持しながら、耐摩耗性能、低転がり性能、ウェット性能を向上し、これら性能をバランスよく両立した。
【0046】
一方、比較例1の空気入りタイヤは、トレッド用ゴム組成物がブタジエンゴムを含まないため、ウェット性能および耐久性が悪化した。比較例2の空気入りタイヤは、トレッド用ゴム組成物が天然ゴムを含まないため、ウェット性能および耐久性が悪化した。比較例3の空気入りタイヤは、トレッド用ゴム組成物におけるアロマオイルの配合量が多すぎるため耐摩耗性能、ウェット性能、および耐久性が悪化した。比較例4の空気入りタイヤは、シリカの配合量が少なすぎるため、ウェット性能が悪化した。比較例5の空気入りタイヤは、シリカの配合量が多すぎるため、耐摩耗性が悪化した。比較例6の空気入りタイヤは、主溝の溝深さが小さすぎるため、ウェット性能が悪化した。比較例7の空気入りタイヤは、主溝の溝深さが大きすぎるため、耐摩耗性能および耐久性が悪化した。」

(2)上記(1)の記載事項から、次の事項が認定できる。
ア 【0041】の表1の記載からみて、トレッド部のトレッド用ゴム組成物は、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含むものであり、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部含むものである。
イ 【0046】には、実施例のタイヤサイズとして「235/65R16」(以下「甲6タイヤ」という。)が記載されている。甲6タイヤについて、外径、断面幅、標準リム径、扁平率、α、β、γ、δの値を上記1(1)クの「8.6 ‘65’ SERIES−METRIC DESIGNATION」の表及び上記1(2)の計算式に基づいて求めると、以下のとおりである。
甲6タイヤ
・断面幅:240mm
・外径:712mm
・扁平率:65%
・標準リム径:16インチ(ミリメートルに換算すると、406.4mm)
・α:152.8
・β:1658.97
・γ:6.44×107
・δ:3.31×105

7 甲7
(1)本件特許の出願前に公開された甲7には、次の記載がある。
「【請求項1】
天然ゴム20〜45質量%、スチレンブタジエンゴム20〜45質量%およびブタジエンゴム20〜45質量%の合計100質量%からなるジエン系ゴム100質量部に、無機フィラーを80〜100質量部および炭素数3〜20のアルキル基を有するアルキルシランを0.5〜5質量部配合してなるゴム組成物であって、23℃のゴム硬度が68以上であることを特徴とするタイヤ用ゴム組成物。」
「【請求項4】
前記無機フィラーがカーボンブラックおよびシリカを含み、カーボンブラックの配合量(Mc)に対するシリカの配合量(Ms)の質量比(Ms/Mc)が2.5〜19であることを特徴とする請求項1〜3のいずれかに記載のタイヤ用ゴム組成物。」
「【技術分野】
【0001】
本発明は、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、低転がり抵抗性および雪上性能に優れたタイヤ用ゴム組成物およびそれを含む空気入りタイヤに関する。
【背景技術】
【0002】
高性能車両に装着されるオールシーズンタイヤには、高速走行時の安全性を高めるためドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能に優れ、燃費性能を高くするため転がり抵抗を小さくすることが求められるのに加え、雪上性能を高くすることが求められている。しかしこれらの特性は相反するため高次元で両立させることが困難である。例えば雪上性能の改良を目的に、ゴム組成物のゴム硬度を低くすると、トレッド部の剛性が低下し、ドライ操縦安定性能およびウェット操縦安定性能が低下する。また、ガラス転移温度を低くするため、ブタジエンゴムの含有量を多くすると、シリカの分散性を低下させてしまい、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能および低転がり抵抗性が悪化してしまうという課題があった。」
「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、低転がり抵抗性および雪上性能に優れたタイヤ用ゴム組成物およびそれを含む空気入りタイヤを提供することにある。」
「【0021】
無機フィラーは、シリカおよびカーボンブラックを含有することができる。シリカおよびカーボンブラックを配合することにより、ゴム硬度を高くし、かつ転がり抵抗を小さくすることができる。シリカの配合量(Ms)およびカーボンブラックの配合量(Mc)の合計(Ms+Mc)は、ジエン系ゴム100質量部に対し好ましくは80〜100質量部、より好ましくは95質量部以下、さらに好ましくは83〜94質量部である。また、カーボンブラックの配合量(Mc)に対するシリカの配合量(Ms)の質量比(Ms/Mc)は、好ましくは2.5〜19、より好ましくは3.0〜18である。質量比(Ms/Mc)が2.5未満であると、転がり抵抗を十分に小さくすることができない。また19を超えると、ドライ操縦安定性能を十分に改良することができない。」
「【実施例】
【0054】
表3に示す配合剤を共通配合とし、表1,2に示す配合からなる19種類のタイヤ用ゴム組成物(実施例1〜8、標準例、比較例1〜10)を、硫黄および加硫促進剤を除く成分を、1.7Lの密閉式バンバリーミキサーで5分間混練りした後、ミキサーから放出して室温冷却した。これを1.7Lの密閉式バンバリーミキサーに投入し、硫黄および加硫促進剤を加えて混合することにより、タイヤ用ゴム組成物を調製した。なお表1のスチレンブタジエンゴム(SBR)の欄に、製品の配合量に加え、括弧内に油展成分を除く正味のSBRの配合量を記載した。また表3に記載した配合剤の配合量は、表1,2に記載したジエン系ゴム100質量部に対する質量部で示した。」
「【0058】
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物をトレッドゴムに使用した19種類のオールシーズンタイヤ(タイヤサイズ195/65R15)を加硫成形し、以下に示す試験方法でドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、雪上性能および転がり抵抗性を測定した。上述のオールシーズンタイヤのトレッドパターンは、タイヤ周方向に延びる一対の内側主溝及び一対の外側主溝を含む4本の主溝が設けられ、これら主溝によりセンター陸部と該センター陸部の外側に位置する一対の中間陸部と該中間陸部の外側に位置する一対のショルダー陸部とが区画された空気入りタイヤにおいて、前記センター陸部、前記中間陸部及び前記ショルダー陸部の各々にタイヤ周方向に間隔をおいて複数本のサイプが設けられ、前記センター陸部のサイプはその一方の端部に溝幅が広く形成された拡幅部を有し、前記ショルダー陸部のサイプは接地端のタイヤ幅方向外側から前記外側主溝の側に向かって延在し、前記センター陸部及び前記ショルダー陸部のサイプのタイヤ周方向に対する向きが前記中間陸部のサイプとは逆向きであり、前記センター陸部のサイプのタイヤ周方向に対する傾斜角度θCEと、前記中間陸部のサイプのタイヤ周方向に対する傾斜角度θMDと、前記ショルダー陸部のサイプのタイヤ周方向に対する傾斜角度θSHとがθCE<θMD<θSH<90°の関係を満たし、前記中間陸部のサイプにおける前記内側主溝の側の端部が前記センター陸部のタイヤ周方向に隣接するサイプの端部の間に配置され、タイヤ全周のいずれの位置においてもタイヤ子午線上に前記センター陸部のサイプ及び前記中間陸部のサイプの少なくとも一方が存在するものとした。
【0059】
ドライ操縦安定性能
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着した。試験車両を比較的凸凹の少ない乾燥路面上を走行させ、ハンドルをきったときの応答性を評点1〜5を付けて官能評価し、表1,2の「ドライ操縦安定性能」の欄に記載した。この指数が大きいほどドライ操縦安定性能が優れることを意味し、評点3が合格レベルとする。
【0060】
ウェット操縦安定性能
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着した。試験車両を比較的凸凹の少ない湿潤路面上を走行させ、ハンドルをきったときの応答性を評点1〜5を付けて官能評価し、表1,2の「ウェット操縦安定性能」の欄に記載した。この指数が大きいほどウェット操縦安定性能が優れることを意味し、評点3が合格レベルとする。
【0061】
雪上性能
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧250kPaを充填し、試験車両に装着した。試験車両を圧雪路面上を走行させ、ハンドルをきったときの応答性を評点1〜5を付けて官能評価し、表1,2の「雪上性能」の欄に記載した。この指数が大きいほど雪上グリップ性能が優れることを意味し、評点3が合格レベルとする。
【0062】
転がり抵抗
上記で得られたタイヤ用ゴム組成物を標準リムに組み付け、空気圧210kPaを充填し、ドラム径1707mmで、JIS D4230に準拠する室内ドラム試験機にかけて、試験荷重4.82kN、速度80km/時の抵抗力を測定し、転がり抵抗とした。得られた結果は、標準例の値を100にする指数として表1,2の「転がり抵抗」の欄に記載した。この指数が小さいほど転がり抵抗が小さく、指数が98以下であれば低転がり抵抗性が優れることを意味する。
【0063】
【表1】


(上記表1において、枠囲みは当審が付与したものである。)
「【0067】
表1,2から明らかなように実施例1〜10のゴム組成物により得られたタイヤ用ゴム組成物は、ドライ操縦安定性能、ウェット操縦安定性能、雪上性能および低転がり抵抗性に優れることが確認された。」

(2)上記(1)の記載事項から、次の事項が認定できる。
ア 【0063】の表1の記載からみて、実施例のタイヤゴム組成物は、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含むものであり、ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを10質量部含むものである。
イ 【0058】には、実施例のタイヤサイズとして「195/65R15」(以下「甲7タイヤ」という。)が記載されている。甲7タイヤについて、外径、断面幅、標準リム径、扁平率、α、β、γ、δの値を上記1(1)クの「8.6 ‘65’ SERIES−METRIC DESIGNATION」の表及び上記1(2)の計算式に基づいて求めると、以下のとおりである。
甲7タイヤ
・断面幅:201mm
・外径:635mm
・扁平率:65%
・標準リム径:15インチ(ミリメートルに換算すると、381mm)
・α:127
・β:1575.58
・γ:4.07×107
・δ:2.77×105

8 甲8
(1)本件特許の出願前に公開された甲8には、次の記載がある。
ア 明細書
「【0011】図2は、内圧(Kgf/cm2)と、外径(mm)との関係で、外径変化を実験して測定したグラフ説明図であって、正常品のタイヤの場合には、内圧が変化しても殆ど外径が変化しないが(正常タイヤの場合には、外径変化が1mm〜2mm)、同一方向に二枚のシート材料を貼った場合とか、一枚しか貼るのを忘れた場合等には、内圧が変化すると、外径も大きく変化し(不具合のタイヤは、外径変化が約7mm以上変化する)、異常タイヤであることが判別できる。
【0012】なお、以上の外径変化は、どのサイズでも同程度の変化があり、タイヤサイズ別に設定する必要はない。また、図3は内圧(Kgf/cm2)と、タイヤWの幅(mm)との関係で、幅変化を実験して測定したグラフ説明図であって、正常品のタイヤの場合には、内圧が変化しても殆ど幅が変化しないが、同一方向に二枚のシート材料を貼った場合とか、一枚しか貼るのを忘れた場合等には、内圧が変化すると、幅も大きく変化し、異常タイヤであることが判別できる。」
イ 図面
図2



(イ)図3




9 甲9
(1)本件特許の出願前に公開された甲9には、次の記載がある。
ア 明細書
「【0080】
図1において、両矢印TCはキャップ層66の厚さを表している。この厚さTCは、ベース層64とキャップ層66との境界68の法線に沿って計測される、この境界68からトレッド面28までの長さで表される。本発明においては、この厚さTCはショルダーリブにおける最小の厚さで表される。
【0081】
このタイヤ2では、キャップ層66の厚さTCと主溝32Mの深さDとの差は−3mm以上が好ましい。この場合、キャップ層66が適切な厚さを有しているので、このタイヤ2が十分な距離を走行しても、このキャップ層66がベース層64の露出を防止する。このタイヤ2では、チッピングが発生しにくい。このタイヤ2では、この差は20mm以下が好ましい。これにより、トレッド4のボリュームに占めるキャップ層66のボリュームの割合が適切に維持される。このタイヤ2では、ベース層64による転がり抵抗の低減効果が十分に発揮される。」
イ 図面
図1





第6 当審の判断
1 取消理由通知に記載した取消理由について
(1)取消理由1及び2について
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明1〜4とを対比するに、後者の「空気入りタイヤ」と前者の「トレッド部を有する空気入りタイヤ」とは、空気入りタイヤであることで共通する。
後者の「ゴム部分を有し」と前者の「前記トレッド部のゴム層が、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムを含有するゴム成分を含む」とは、タイヤがゴム部分を有することで共通する。
後者の「タイヤが占める空間の体積をγ(仮想体積)」は、「[(外径/2)2−((外径/2)−断面高さ)2]×π×断面幅」で計算されるものであることから、前者の「タイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)とし、タイヤが占める空間の体積を仮想体積V(mm3)」に相当し、後者のタイヤの「(外径2×π/4)/断面幅」であるβの値は、それぞれ2414.01、1936.60、1742.27、1817.12であることから、前者の「(式1)」である「1700≦(Dt2×π/4)/Wt≦2827.4」に相当し、後者のタイヤの「(仮想体積+1.5×107)/断面幅」であるδの値は、それぞれ2.39×105、2.61×105、2.60×105、2.55×105であることから、前者の「(式2)」である「[(V+1.5×107)/Wt]≦2.88×105」に相当する。
以上のことから、本件発明1と甲1発明1〜4の一致点および相違点は、次のとおりである。
<一致点>
「空気入りタイヤであって、
ゴム部分を有し、
リムに組み込み、内圧を所定の値とした際のタイヤの断面幅をWt(mm)、外径をDt(mm)とし、タイヤが占める空間の体積を仮想体積V(mm3)としたとき、下記(式1)および(式2)を満足する空気入りタイヤ。
1700≦(Dt2×π/4)/Wt≦2827.4 ・・・・・・(式1)
[(V+1.5×107)/Wt]≦2.88×105 ・・・・・・(式2)」
<相違点1>
空気入りタイヤについて、本件発明1では、トレッド部を有するのに対して、甲1発明1〜4では、そのような構成を有するか明らかでない点。
<相違点2>
ゴム部分について、本件発明1では、トレッド部のゴム層が、イソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴムおよびブタジエンゴムを含有するゴム成分を含むと共に、前記ゴム成分100質量部に対してカーボンブラックを5質量部超、25質量部以下含むのに対して、甲1発明1〜4では、そのような構成を有するか明らかでない点。
<相違点3>
リムについて、本件発明1では、正規リムであるのに対して、甲1発明1〜4では、測定用リムである点。
<相違点4>
所定の値について、本件発明1では、250kPaであるのに対して、甲1発明1〜4では、180kPa又は220kPaである点。
(イ)検討
事案に鑑み、まず、相違点2について検討する。
(あ)甲1発明1〜4は、ゴム部分を有するものの、そのゴム成分については明らかでないことから、相違点2は実質的な相違点であるといえる。
そうすると、本件発明1は、甲1発明1〜4であるということはできない。
(い)甲2タイヤ〜甲7タイヤは、上記第5の1〜7のとおり、空気入りタイヤであって、トレッド部のゴム層がイソプレン系ゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムを含有するゴム成分を含むとともに、カーボンブラックの含有量をゴム成分100重量部に対して5〜20重量部を含むものであるが、「(外径2×π/4)/断面幅」であるβの値はすべて1700未満となっている。
つまり、トレッド部のゴム層がイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムのすべてを含有するゴム成分を含み、カーボンブラックの含有量をゴム成分100重量部に対して5〜20重量部を含む空気入りタイヤは、βの値が1700未満である場合には、甲2〜7から、本件特許の出願前に周知の技術であったということはできるが、βの値が1700以上である場合には、甲2〜7からだけでは、周知の技術であったということはできない。
そうすると、甲1発明1〜4はいずれもβの値が1700以上であることから、甲1発明1〜4に対して上記周知の技術を適用することはできない。
また、甲8〜甲9、乙1〜乙8にも、βの値が1700以上の空気入りタイヤであって、トレッド部のゴム層がイソプレンゴム、スチレンブタジエンゴム及びブタジエンゴムのすべてを含有するゴム成分を含み、カーボンブラックの含有量をゴム成分100重量部に対して5〜20重量部を含むタイヤについては記載されておらず、示唆もされていない。
以上のことより、甲1発明1〜4、甲2〜9及び乙1〜8に記載された技術、上記周知の技術に基いて、相違点2に係る本件発明1の構成とすることは、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
(う)よって、本件発明1は、相違点2以外の相違点1、3,4について検討するまでもなく、甲1発明1〜4、甲2〜9及び乙1〜8に記載された技術、上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
イ 本件発明2、4〜10、15〜20について
本件発明2、4〜10、15〜20は、本件発明1に対して、上記第2のとおり、請求項2、4〜10、15〜20において特定した事項をさらに付加することにより限定された発明である。
そうすると、本件発明2、4〜10、15〜20も、上記1で示したのと同様の理由により、甲1発明1〜4であるということはできないし、甲1発明1〜4、甲2〜9及び乙1〜8に記載された技術、上記周知の技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。
ウ まとめ
したがって、本件発明1、2、4〜10、15〜20は、特許法29条1項3号及び特許法29条2項の規定に違反してされたものであるとはいえないから、取消理由1、2は理由がない。

(2)取消理由3について
本件特許の明細書の【0039】には、以下の記載がある。
「【0039】
上記(式1)は、タイヤの断面幅Wtに対して、タイヤを横方向から見たときの面積[(Dt/2)2×π)=(Dt2×π/4)]を大きくして、式1に規定する数値範囲を満足することにより、サイド部の熱放出性を向上させると共に、トレッド部と路面との間の摩擦を軽減させることができるため、低転がり抵抗化を図ることができると考えられる。」
この記載によれば、本件発明は、タイヤにおいて、サイド部の熱放出性を向上させるとともに、トレッド部と路面との間の摩擦の軽減、つまり、低転がり抵抗化を図ることを課題とし、上記式1に規定する数値範囲を満たす構成により当該課題を解決するものである。
そして、本件発明の「(式1)」に規定する数値範囲は、上記のとおり、【0038】に「本発明においては、タイヤの断面幅Wt(mm)と外径Dt(mm)とが、1700≦(Dt2×π/4)/Wt≦2827.4(式1)を満足するようにしている。」と記載されている。
また、本件発明の実施例として明細書の【0168】〜【0191】には性能評価試験及び実験と、その結果として表1には実施例1−1〜実施例1−5、表3には実施例2−1〜2−5、表5には実施例3−1〜実施例3−5、表7には実施例4−1〜4−3について記載されている。
ここで、タイヤの占める空間の体積が同じである場合には、タイヤの外径Dtが大きいほどすなわちタイヤを横方向から見たときの面積((Dt/2)2×π)が大きいほどそのサイド部の表面積が増えることから、当該サイド部における熱放出性が向上することは明らかである。また、タイヤの外径Dtが大きいほどすなわち「(Dt/2)2×π)」の値が大きいほど転がり抵抗が少なくなることも技術常識である。
してみると、上記の実施例において「(式1)」の値が1737〜2131の数値範囲にとどまり、それ以上の数値範囲については性能評価試験及び実験の結果によって十分に裏付けられていなくとも、上記の明らかな事項や技術常識に照らせば、「(式1)」の値が大きいほど、サイド部の熱放出性を向上させるとともに、低転がり抵抗化を図ることができることは、当業者であれば当然に理解できることである。
してみると、本件発明の式1に規定する数値範囲は、発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えているとはいえず、サポート要件を満たしている。
したがって、本件発明は、特許請求の範囲の記載が、特許法第36条6項1号に規定する要件を満たしている特許出願に対してされたものであるから、取消理由3は理由がない。

2 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、特許異議申立書において、本件発明2、4〜10、15〜20に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法36条4項1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしていない特許出願に対してされたものであると主張する。
(1)本件発明2について
申立人の主張は、要するに、耐チッピング性能について、本件発明2及び請求項2の記載を引用する本件発明4〜10、15〜20について、発明の詳細な説明では、「(式2)」及び「(式3)」の両方の条件を満たす「実施例3−5」の方が、「(式2)」の条件を満たすが「(式3)」の条件を満たさない「実施例3−4」よりも評価結果が優れたものではないので、実施可能要件を満たさないというものである。
しかしながら、「実施例3−1」〜「実施例3−5」のタイヤの製造方法、性能評価手法及びその結果については、本件特許の明細書の【0157】〜【0182】(特に、【0180】〜【0182】)に具体的に記載されていることから、本件発明2は、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており、実施可能要件を満たしている。
そして、各実施例における評価結果の優劣は実施可能要件と関連するものではなく、「実施例3−5」の評価結果が「実施例3−4」の評価結果よりも優れていなければ実施可能要件を満たさないとする理由は見当たらない。
なお、【0181】に「耐チッピングの評価に際しては比較例3−7における結果を100として評価を行った。」と記載されており、「実施例3−5」の結果である「106」は、「比較例3−7」の「100」と比べて耐チッピング性能が優れていることが理解できることから、本件発明2は、本件特許の耐チッピング性能を向上するという課題を解決するものであるといえる。

(2)本件発明18〜20について
申立人の主張は、要するに、耐チッピング性能について、本件発明19の「(式8)」の条件を満たす「実施例2−4」及び「実施例2−5」の方が、本件発明18の「(式7)」の条件しか満たさない「実施例2−1」よりも評価結果が優れたものではないので、実施可能要件を満たさないというものである。
しかしながら、「実施例2−2」及び「実施例2−3」は本件発明20の「(式9)」の条件を満たすものであり、そして、「実施例2−1」〜「実施例2−5」のタイヤの製造方法、性能評価手法及びその結果については、本件特許の明細書の【0157】〜【0182】(特に、【0176】〜【0178】)に具体的に記載されていることから、本件発明18〜20は、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており、実施可能要件を満たしている。
そして、各実施例における評価結果記の優劣は実施可能要件と関連するものではなく、「実施例2−4」及び「実施例2−5」の評価結果が「実施例2−1」の評価結果よりも優れていなければ実施可能要件を満たさないとする理由は見当たらない。
なお、【0177】に「耐チッピングの評価に際しては比較例2−7における結果を100として評価を行った。」と記載されており、「実施例2−4」「実施例2−5」の評価結果である「115」「110」は、「比較例2−7」の「100」と比べて耐チッピング性能が優れていることが理解できることから、本件発明19は、本件特許の耐チッピング性能を向上するという課題を解決するものであるといえる。

(3)請求項8の記載を引用する本件発明18について
申立人の主張は、要するに、請求項8に記載された「トレッド部のゴム層の、30℃、周波数10Hz、初期歪5%、動歪率1%の条件下で測定された損失正接(30℃tanδ)が0.15未満である」という条件と、請求項18の「(30℃tanδ/Td)×100≧2.00 (式7)」の条件を同時に満たす実施例が発明の詳細な説明に記載されていないので、実施可能要件を満たさないというものである。
しかしながら、この2条件を満たすことは、損失正接が0.15未満でかつトレッド部のゴム層のタイヤ半径方向厚みであるTdが7.5mm未満であることと同じである。そして、本件特許の明細書の【0157】〜【0182】に記載のタイヤの製造方法を踏まえると、損失正接が0.15未満であるゴム組成物を使用し、Tdを7.5mm未満、例えば、損失正接を0.147であるゴム組成物を使用した場合にTdを7.4mmとすることで、この2条件を満たすタイヤを製造できることは当業者にとって明らかである。そうすると、本件発明18は、発明の詳細な説明に当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載されており、実施可能要件を満たしている。

(4)したがって、本件発明2、4〜10、15〜20に係る特許は、その発明の詳細な説明が特許法36条4項1号に規定する要件(実施可能要件)を満たしている特許出願に対してされたものであるから、申立人の主張は採用できない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-03-17 
出願番号 P2020-127612
審決分類 P 1 652・ 537- Y (B60C)
P 1 652・ 536- Y (B60C)
P 1 652・ 121- Y (B60C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 島田 信一
特許庁審判官 出口 昌哉
芦原 康裕
登録日 2021-02-08 
登録番号 6835284
権利者 住友ゴム工業株式会社
発明の名称 空気入りタイヤ  
代理人 神野 直美  
代理人 清水 敏  
代理人 上代 哲司  

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