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審決分類 |
審判 全部申し立て 特29条の2 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1384184 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-08-27 |
確定日 | 2021-12-21 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6854777号発明「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6854777号の請求項1ないし7に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6854777号(以下、「本件特許」という。)についての出願は、2016年(平成28年)12月8日(優先権主張 平成27年12月11日)を国際出願日とする出願であって、令和3年3月18日にその特許権の設定登録(請求項の数7)がされ、同年4月7日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年8月27日に特許異議申立人 渡辺 陽子(以下、「特許異議申立人」という。)より、特許異議の申立て(対象となる請求項:請求項1ないし7)がされたものである。 第2 本件特許発明 本件特許の請求項1ないし7に係る発明(以下、これらの発明を順に「本件特許発明1」、「本件特許発明2」などという場合があり、また、これらをまとめて「本件特許発明」という場合がある。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1ないし7に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 「【請求項1】 ポリオレフィン系樹脂と、平均一次粒子径が0.05〜0.8μmの微細フィラーを含み、連通ボイドを有するポリオレフィン延伸多孔性フィルムであり、 25〜65質量%の前記ポリオレフィン系樹脂と、32〜72質量%の前記微細フィラーと、0.01〜3質量%の分散剤とを含み、 前記微細フィラーが、疎水化剤を表面に有する無機微細粉末を含み、 前記疎水化剤が、炭素数8〜24の有機カルボン酸及び/又は炭素数8〜24の有機カルボン酸の塩を含み、 JIS Z0221で測定した透水度が10,000〜85,000秒であり、 JIS Z0208で測定した透湿度が700〜2,500g/m2・24hである ことを特徴とする、ポリオレフィン延伸多孔性フィルム。 【請求項2】 JIS P8117で測定した透気度が5,000〜85,000秒である、 請求項1に記載のポリオレフィン延伸多孔性フィルム。 【請求項3】 ぬれ張力が31〜42mN/mである、 請求項1又は2に記載のポリオレフィン延伸多孔性フィルム。 【請求項4】 密度が0.45〜0.7g/cm3である、 請求項1〜3のいずれか1項に記載のポリオレフィン延伸多孔性フィルム。 【請求項5】 浸漬液に蒸留水を用いてJIS K7112のA法で測定したフィルム密度をρwとし、浸漬液の表面張力が27.3mN/mの液体を用いてJIS K7112のA法で測定したフィルム密度をρsとしたとき、密度ρsと密度ρwとの差が、0.15〜1.15である、 請求項1〜4のいずれか1項に記載のポリオレフィン延伸多孔性フィルム。 【請求項6】 浸漬液に蒸留水を用いてJIS K7112のA法で測定した延伸前のフィルム密度をρ0、延伸後のフィルム密度をρwとし、浸漬液の表面張力が27.3mN/mの液体を用いてJIS K7112のA法で測定したフィルム密度をρsとしたとき、下記式で定義される連通ボイド率と前記全体ボイド率との比(連通ボイド率/全体ボイド率)が、0.4〜0.85である、請求項1〜5のいずれか1項に記載のポリオレフィン延伸多孔性フィルム。 【請求項7】 前記無機微細粉末が、炭酸カルシウムである、 請求項1〜6に記載のポリオレフィン延伸多孔性フィルム。」 第3 特許異議申立理由の概要 特許異議申立人が申し立てた請求項1ないし7に係る特許に対する特許異議申立理由の要旨(下記1〜5)は、次のとおりである。 1 申立理由1(新規性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明であり、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 2 申立理由2(進歩性) 本件特許の請求項1ないし7に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、それらの特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 3 申立理由3(拡大先願) 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、甲第2号証の出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明と同一であり、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 なお、「6 証拠方法」の甲第2号証は、本件特許の優先日より前の日を優先日とする外国語特許出願であって、その出願後に国際公開がされたものであるから、甲第2号証は、「6 証拠方法」において記載の甲第2A号証を指すものであって、申立理由3は、次に記載のものと解し、検討を進めるものとする。 本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、本件優先日前を優先日とする甲第2A号証の外国語特許出願の国際出願日における国際出願の明細書、請求の範囲又は図面(以下、「甲2A当初明細書等」という。)に記載された発明と同一であり、特許法第184条の13で読み替えて準用する同法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。 4 申立理由4(実施可能要件) 本件特許発明1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 5 申立理由5(サポート要件) 本件特許発明1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない出願に対してされたものであるから、それらの特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。 なお、申立理由4及び申立理由5の具体的理由は、次のとおりである。 (1)「平均一次粒子径」の条件に関する不備 本件特許発明1では、「微細フィラー」について、「平均一次粒子径が0.05〜0.8μm」である点が規定されている。 ・・・ この点に関し、本件特許明細書には、実施例として、微細フィラーの平均一次粒子径が0.15〜0.75μmである例しか開示されておらず、微細フィラーの平均一次粒子径が0.15μm未満である例の開示はない。 ここで、微細フィラーの粒径が小さい(例えば、0.10μm未満)ほど、均一な分散が困難になることが知られる。 かかる場合、微細フィラーの平均一次粒子径が0.15μm未満であっても、「延伸多孔性フィルム中にボイドを効率よく形成」できるといえる根拠は見出せない。 そうすると、微細フィラーの平均一次粒子径が0.15μm未満である場合の本件特許発明1は、「延伸多孔性フィルム中にボイドが効率よく形成」されるという「微細フィラー」の目的を達成できることを当業者が認識できる範囲を超えるものであるといえる。 また、本件特許明細書には、微細フィラーの平均一次粒子径が0.15μm未満であっても所望のボイドを形成できることについて具体的に記載されておらず、しかもそれらが出願時の技術常識に基づいても当業者が理解できないため、当業者は本件特許発明1に係るポリオレフィン延伸多孔性フィルムを実施することはできない。 よって、本件特許発明1は、本件特許明細書に記載したものでなく、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1に係る発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 請求項1を引用する本件特許発明2乃至7についても同様である。 (2)「透水度」及び「透湿度」の条件に関する不備 本件特許発明1では、「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」について、「JIS Z0221で測定した透水度が10,000〜85,000秒」であり、かつ、「JIS Z0208で測定した透湿度が700〜2,500g/m2・24h」である点が規定されている。 ・・・ 本件特許明細書の記載に基づけば、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの透水度及び透湿度を所望の値に調整するためには、少なくとも、以下の各種条件を調整する必要がある。 ・「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」の構成成分の種類及びその含有量 ・「微細フィラーの粒子径」 ・「疎水化処理の程度」 ・「フィルム内部のボイドの数」 ・「ボイドの連通度」 ・「ボイドの大きさ」 ・「フィルムの延伸倍率」 しかし、本件特許発明1には、上記各種条件のうち、「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」の構成成分の種類及びその含有量、及び「微細フィラーの粒子径」に相当し得ると考えられる以下の条件しか規定されていない。 ・「ポリオレフィン系樹脂と、平均一次粒子径が0.05〜0.8μmの微細フィラーを含み、連通ボイドを有するポリオレフィン延伸多孔性フィルム」である点 ・「25〜65質量%の前記ポリオレフィン系樹脂と、32〜72質量%の前記微細フィラーと、0.01〜3質量%の分散剤とを含」む点 ・「前記微細フィラーが、疎水化剤を表面に有する無機微細粉末を含」む点 ・「前記疎水化剤が、炭素数8〜24の有機カルボン酸及び/又は炭素数8〜24の有機カルボン酸の塩を含」む点 そうすると、「疎水化処理の程度」、「フィルム内部のボイドの数」、「ボイドの連通度」、「ボイドの大きさ」、「フィルムの延伸倍率」等が規定されていない本件特許発明1は、具体的にどのようなものであるかを理解することができないから、本件特許発明1の実施にあたり、当業者に期待し得る程度を超える試行錯誤を行う必要があると認められる。 また、上記が規定されていない本件特許発明1は、本件特許明細書に記載したものでなく、また、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件特許発明1に係る発明尾を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものでない。 請求項1を引用する本件特許発明2乃至7についても同様である。 6 証拠方法 甲第1号証:特開平1−203439号公報 甲第2号証:特表2019−503408号公報(特願2018−5291 71号) 甲第3号証:特開平7−278329号公報 甲第4号証:特開昭62−79238号公報 甲第5号証:特開平9−268234号公報 (上記の証拠の各表記については、概ね特許異議申立書の記載にしたがった。) なお、「第3 3」に記載のとおり、甲第2号証については、次の甲第2A号証を指すものと読み替えるものとする。 甲第2A号証:国際公開第2017/093003号 第4 特許異議申立理由についての判断 1 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)についての判断 (1) 主な証拠の記載事項等 ア 甲第1号証の記載事項 甲第1号証には、「多孔性フイルムおよびその製造方法」に関し、次の記載がある。 「2.特許請求の範囲 1.ポリオレフィン系樹脂100重量部と、平均粒径が0.3〜2.0μm、比表面積が10m2/g以下であり、かつ表面処理を施した水酸化マグネシウム50〜400重量部とからなる樹脂組成物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸したものであることを特徴とする多孔性フィルム。 2.表面処理が、脂肪酸、脂肪酸金属塩または脂肪酸アミドによる表面処理である特許請求の範囲第1項記載の多孔性フィルム。 3.ポリオレフィン系樹脂100重量部と平均粒径が0.3〜2.0μm、比表面積が10m2/gであり、かつ表面処理を施した水酸化マグネシウム50〜400重量部とを配合し、次いで溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸することを特徴とする多孔性フィルムの製造方法。 4.表面処理が、脂肪酸、脂肪酸金属塩または脂肪酸アミドによる表面処理である特許請求の範囲第3項記載の多孔性フィルムの製造方法。」(第1頁左下欄第4行ないし同頁右下欄第3行) 「[産業上の利用分野] 本発明は、多孔性フィルム及びその製造方法に関し、さらに詳しくは、ポリオレフィン系樹脂と表面処理を施した水酸化マグネシウムからなる多孔性フィルム及びその製造方法に関するものである。」(第1頁右下欄第5ないし10行) 「[発明が解決しようとする課題] 本発明の課題は液状の化合物を含まず、ポリオレフィン系樹脂からなる、引張物性、透湿性、通気性、生産安定性に優れ、厚みが薄く、低坪量が可能な多孔性フィルムを提供することにある。」(第2頁左下欄第17行ないし同頁右下欄第1行) 「[課題を解決するための手段] 本発明者らは、上記課題を達成するため、鋭意検討し、遂に本発明に到った。 すなわち、本発明はポリオレフィン系樹脂100重量部と、平均粒径が0.3〜2.0μm、比表面積が10m2/g以下であり、かつ表面処理を施した水酸化マグネシウム50〜400重量部とからなる樹脂組成物を溶融製膜した後、少なくとも一軸方向に1.1倍以上延伸したものであることを特徴とする多孔性フィルム及びその製造方法である。」(第2頁右下欄第2ないし11行) 「本発明では上記した水酸化マグネシウムを表面処理しておくことが必須であり、表面処理を施さない水酸化マグネシウムを用いた場合は、水酸化マグネシウムの凝集が生じ、分散性が劣る。そのため均一白化せず、また延伸性が著しく低下する。 ・・・ 本発明で使用する表面処理剤としては、脂肪酸、脂肪酸金属塩及び脂肪酸アミドが適当であり、特に常温で固体状となるものが好ましい。脂肪酸、脂肪酸金属塩や脂肪酸アミドとして、ステアリン酸、ステアリン酸ナトリウム、ステアリン酸カルシウム、パルミチン酸、パルミチン酸ナトリウム、パルミチン酸カルシウム、ミリスチン酸、ミリスチン酸ナトリウム、ミリスチン酸カルシウム、ラウリン酸、ラウリン酸ナトリウム、ラウリン酸カルシウム、オレイン酸、オレイン酸ナトリウム、オレイン酸カルシウム、ステアリン酸アミド、オレイン酸アミド等が例示され、特に、ステアリン酸ナトリウム、パルミチン酸ナトリウム、ミリスチン酸ナトリウム、ラウリン酸ナトリウム、オレイン酸ナトリウムが好適である。」(第3頁右上欄第3行ないし同頁左下欄第10行) 「また、本発明の効果を妨げない範囲で、無機充填剤として表面処理を施した水酸化マグネシウムの他に硫酸バリウム、炭酸カルシウム等の他の無機充填剤を添加してもよい。 なお、ポリオレフィン系樹脂には常法に従い熱安定剤、紫外線安定剤、帯電防止剤、顔料、螢光剤等を添加しても差し支えない。」(第3頁右下欄第第5ないし11行) 「[実施例] 以下、実施例により本発明を説明する。 なお、この実施例で用いたフィルムの物性評価方法は以下の通りである。 (1)強度:25mm(巾)×100mm(長さ)のフィルムを引張りスピード200mm/minでテンシロン引張り試験機にて破断時強度をMD(流れ方向)、TD(流れに垂直な方向)について各々測定した。 (2)透湿度:ASTM E96-66(D)に準じて測定した。 (3)穴:孔径が0.1μm以上の孔数を測定した。 実施例1〜6、比較例1〜9 MI=2.0、ρ=0.92の線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)100重量部に表−1に示す充填剤を表−1に示す量を添加し、ヘンシェルミキサーで混合し、二軸スクリュー押出機を用いてペレット化した後、Tダイ成形機によって押し出し、表−2に示す延伸倍率で延伸した後の多孔性フィルムの厚みになるように、それぞれ製膜した。 次いで、80℃で、表−2に示す延伸倍率で、一軸または二軸方向に延伸し、多孔性フィルムを得た。 得られたフィルムについて上記に示す物性を測定し、その結果を表−2に示した。 なお、比較例7ではペレット化ができず、また、比較例2、6、8および9では延伸を試みたが延伸切れが多く、多孔性フィルムが得られなかった。 実施例7、8 線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)の代わりに、実施例7では、MI=2.0、ρ=0.92の低密度ポリエチレン(LDPE)と、MI=2.0、ρ=0.96の高密度ポリエチレン(HDPE)を、実施例8では、MI=2.0、ρ=0.92の線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)と、MI=1.5、ρ=0.90のポリプロピレン(PP)をそれぞれ3:7の割合で用いた以外は、実施例2と同様の方法で多孔性フィルムを得た。 得られたフィルムの物性測定結果を表−2に示す。 」(第4頁右上欄第1行ないし第5頁下欄末行) イ 甲第1号証に記載された発明 上記アの記載、特に、実施例1、2の記載を中心にまとめると、甲第1号証には次の発明が記載されていると認める。 「MI=2.0、ρ=0.92の線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)100重量部に、平均粒径0.69μmの水酸化マグネシウム(表面処理剤としてステアリン酸ナトリウムを、水酸化マグネシウムに対して2重量%添加)を60重量部添加し、ヘンシェルミキサーで混合し、二軸スクリュー押出機を用いてペレット化した後、Tダイ成形機によって押し出し、延伸倍率6倍で延伸、製膜し得られた、ASTM E96-66(D)に準じて測定した透気度が1500g/m224hrの多孔性フィルム。」(以下、「甲1実施例1発明」という。) 「MI=2.0、ρ=0.92の線状低密度ポリエチレン(L-LDPE)100重量部に、平均粒径0.69μmの水酸化マグネシウム(表面処理剤としてステアリン酸ナトリウムを、水酸化マグネシウムに対して2重量%添加)を100重量部添加し、ヘンシェルミキサーで混合し、二軸スクリュー押出機を用いてペレット化した後、Tダイ成形機によって押し出し、延伸倍率5倍で延伸、製膜し得られた、ASTM E96-66(D)に準じて測定した透気度が2300g/m224hrの多孔性フィルム。」(以下、「甲1実施例2発明」という。) (2) 判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲1実施例1発明とを対比する。 甲1実施例1発明の「線状低密度ポリエチレン」、「水酸化マグネシウム」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリオレフィン系樹脂」、「微細フィラー」に相当する。 そして、甲1実施例1発明の「線状低密度ポリエチレン」を原料とする「多孔性フィルム」は延伸工程を経て成膜されるものであるから、本件特許発明の「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」に相当する。 また、甲1実施例1発明の「水酸化マグネシウム」は、その平均粒径が0.69μmであるから、本件特許発明1の微細フィラーの「平均一次粒子径が0.05〜0.8μm」との特定事項を満たすとともに、甲1実施例1発明の「水酸化マグネシウム」は、表面処理剤としてステアリン酸ナトリウムを、水酸化マグネシウムに対して2重量%添加されたものであるから、本件特許発明1の「前記微細フィラーが、疎水化剤を表面に有する無機微細粉末を含み、前記疎水化剤が、炭素数8〜24の有機カルボン酸及び/又は炭素数8〜24の有機カルボン酸の塩を含」むとの特定事項を満たしている。 さらに、甲1実施例1発明は、「線状低密度ポリエチレン」100重量部と「水酸化マグネシウム」60重量部を含むものであるから、「線状低密度ポリエチレン」の割合は、100/(100+60)=62.5質量%、「水酸化マグネシウム」の割合は、60/(100+60)=37.5質量%と計算され、本件特許発明1の「25〜65質量%の前記ポリオレフィン系樹脂と、32〜72質量%の前記微細フィラー」とを含むとの特定事項を満たしている。 してみると、本件特許発明1と甲1実施例1発明は、 「ポリオレフィン系樹脂と、平均一次粒子径が0.05〜0.8μmの微細フィラーを含み、連通ボイドを有するポリオレフィン延伸多孔性フィルムであり、 25〜65質量%の前記ポリオレフィン系樹脂と、32〜72質量%の前記微細フィラーとを含み、 前記微細フィラーが、疎水化剤を表面に有する無機微細粉末を含み、 前記疎水化剤が、炭素数8〜24の有機カルボン酸及び/又は炭素数8〜24の有機カルボン酸の塩を含む、 ポリオレフィン延伸多孔性フィルム。」 の点で一致し、次の点で相違する。 ・相違点1 ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの組成に関し、本件特許発明1は「0.01〜3質量%の分散剤」を含むものであるのに対し、甲1実施例1発明にはそのような特定がない点。 ・相違点2 ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの透水度及び透湿度に関し、本件特許発明1は「JIS Z0221で測定した透水度が10,000〜85,000秒」であり、「JIS Z0208で測定した透湿度が700〜2,500g/m2・24h」と特定されるのに対し、甲1実施例1発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 (相違点1について) 甲第1号証には、多孔性フィルムの組成として、「分散剤」を添加する旨の記載はない。 なお、甲第1号証には、「本発明では上記した水酸化マグネシウムを表面処理しておくことが必須であり、表面処理を施さない水酸化マグネシウムを用いた場合は、水酸化マグネシウムの凝集が生じ、分散性が劣る。そのため均一白化せず、また延伸性が著しく低下する。」(第3頁右上欄第3ないし7行)との記載があるが、当該記載はあくまで、水酸化マグネシウムの分散性の問題から表面処理を施すことを要する点を示すにとどまるものであるから、「分散剤」を添加することを示唆するものではない。 したがって、相違点1は実質的な相違点である。 よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件特許発明1は、甲1実施例1発明であるとはいえない。 次いで、進歩性について検討する。 (相違点1について) 甲1実施例1発明における水酸化マグネシウムの分散性は、水酸化マグネシウムの表面をステアリン酸ナトリウムで表面処理を行うことで達成されるものである。してみると、さらに分散剤を添加する動機付けがあるとはいえない。 してみると、分散剤を添加すること自体が周知技術であるとしても、甲1実施例1発明において、さらに分散剤を添加する動機付けがあるとはいえない。 (相違点2について) 相違点1について検討したとおり、本件特許発明1の組成は甲1実施例1発明と同一ではなく、また、延伸フィルムの延伸方法も異なることから、甲1実施例1発明の「多孔性フィルム」が、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を満たす蓋然性が高いとはいえない。 また、甲1実施例1発明の「多孔性フィルム」において、透水度と透湿度を、相違点2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすものとする動機付けもない。 そして、本件特許発明1は、相違点1、2に係る本件特許発明1の特定事項を満たすことにより、「難透水性と透湿性の両性能を兼ね備えた、ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」を得るとの格別の効果を得るものである。 よって、本件特許発明1は、甲1実施例1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものでもない。 なお、甲1実施例2発明についても、甲1実施例1発明と同様に判断される。(以下、「甲1実施例1発明」と「甲1実施例2発明」をあわせて、「甲1発明」という。) イ 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1は甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2ないし7についても同様に、甲1発明ではなく、また、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。 (3) 申立理由1(新規性)及び申立理由2(進歩性)についてのまとめ 上記(2)の検討のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条第1項第3号、同法同条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。 2 申立理由3(拡大先願)についての判断 (1) 甲2A号証の優先権について 甲2A号証の優先権について、特許異議申立人より優先権の有効性に関する証拠の提出がなかったため、職権で調査したところ、優先権は認められるものと判断されたため、以下、実体的内容について検討を進める。 (2) 甲第2A号証の記載事項等 ア 甲2A当初明細書等の記載事項 甲2A当初明細書等には、「極薄通気性フィルム用表面処理フィラー」に関し、次の記載がある。 但し、便宜上、摘記は訳文として甲第2号証の文章のみとする。 「【特許請求の範囲】 【請求項1】 少なくとも1つの熱可塑性ポリマー及び表面処理フィラー材料製品を含む、1〜10g/m2の坪量を有する通気性フィルムであって、前記表面処理フィラー材料製品が、 A)少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料であって、 −0.1μm〜7μmの範囲の重量中央粒径d50、 −≦15μmのトップカット粒径d98、 −窒素及びISO9277にしたがうBET法を使用して測定される、0.5〜150m2/gの比表面積(BET)、並びに −前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料の全乾燥重量に基づいて、≦1重量%の残留全含水率、 を有する材料、並びに B)前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料の表面の処理層であって、 i.1つ以上リン酸モノエステル及びその塩反応生成物並びに/若しくは1つ以上のリン酸ジエステル及びその塩反応生成物のリン酸エステルブレンド、並びに/又は ii.少なくとも1つの飽和脂肪族直鎖若しくは分岐鎖カルボン酸及びその塩反応生成物、並びに/又は iii.少なくとも1つの脂肪族アルデヒド及び/若しくはその塩反応生成物、並びに/又は iv.少なくとも1つのポリジアルキルシロキサン、並びに/又は v.i.〜iv.による前記材料の混合物、 を含む処理層 を含み、 表面処理フィラー材料製品が、前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料の全乾燥重量に基づいて、0.1〜3重量%の量で処理層を含む、通気性フィルム。 【請求項2】 前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料が、湿式粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料である、請求項1に記載の通気性フィルム。 【請求項3】 前記少なくとも1つの熱可塑性ポリマーが、好ましくはポリプロピレン、ポリエチレン、ポリブチレン、及びそれらの混合物からなる群から選択され、かつより好ましくは高密度ポリエチレン(HDPE)、直鎖状低密度ポリエチレン(LLDPE)、低密度ポリエチレン(LDPE)、超低密度ポリエチレン(ULDPE)、極低密度ポリエチレン(VLDPE)、及びそれらの混合物からなる群から選択される、ポリオレフィンである、請求項1又は2に記載の通気性フィルム。 【請求項4】 前記通気性フィルムが、通気性フィルムの全重量に基づいて、1〜85重量%、好ましくは2〜80重量%、より好ましくは5〜75重量%、更により好ましくは10〜65重量%、及び最も好ましくは15重量%〜60重量%の量で前記表面処理フィラー材料製品を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項5】 前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料が、天然粉砕炭酸カルシウム、沈降炭酸カルシウム、改質炭酸カルシウム、表面処理炭酸カルシウム、又はそれらの混合物、及び好ましくは天然粉砕炭酸カルシウムである、請求項1〜4のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項6】 前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料が、 a)0.25μm〜5μm、好ましくは0.5μm〜4μm、及び最も好ましくは0.6μm〜1μmの重量中央粒径d50、並びに/又は b)≦12.5μmの、好ましくは≦10μmの、より好ましくは≦7.5μmの及び最も好ましくは≦3μmのトップカット粒径d98、並びに/又は c)すべての粒子の少なくとも65重量%、好ましくは少なくとも70重量%、更により好ましくは少なくとも75重量%及び最も好ましくは少なくとも80重量%が<1μmの粒径を有するような細かさ、 を有する、請求項1〜5のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項7】 前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料が、窒素及びISO9277にしたがうBET法を使用して測定される、0.5〜50m2/g、より好ましくは0.5〜35m2/g、及び最も好ましくは0.5〜15m2/gの比表面積(BET)を有する、請求項1〜6のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項8】 前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料が、前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料の全乾燥重量に基づいて、0.01〜0.2重量%、好ましくは0.02〜0.15重量%、及び最も好ましくは0.04〜0.15重量%の残留全含水率を有する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項9】 前記少なくとも1つの粉砕炭酸カルシウム含有フィラー材料の表面の処理層が、少なくとも1つの飽和脂肪族直鎖若しくは分岐鎖カルボン酸及びそれらの塩反応生成物を含み、好ましくは前記少なくとも1つの飽和脂肪族直鎖若しくは分岐鎖カルボン酸が、ペンタン酸、ヘキサン酸、ヘプタン酸、オクタン酸、ノナン酸、デカン酸、ウンデカン酸、ラウリン酸、トリデカン酸、ミリスチン酸、ペンタデカン酸、パルミチン酸、ヘプタデカン酸、ステアリン酸、ノナデカン酸、アラキジン酸、ヘンイコシル酸、ベヘン酸、トリコシル酸、リグノセリン酸及びそれらの混合物からなるカルボン酸からなる群から選択される、請求項1〜8のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項10】 前記表面処理フィラー材料製品が、23℃(±2℃)の温度で、0.1〜1mg/g、好ましくは0.2〜0.9mg/g、及び最も好ましくは0.2〜0.8mg/gの水分吸収を有する、請求項1〜9のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項11】 前記表面処理フィラー材料製品が、≧250℃の、好ましくは≧260℃の、及び最も好ましくは≧270℃の揮発開始温度を有する、請求項1〜10のいずれか一項に記載の通気性フィルム。 【請求項12】 前記フィルムが、5〜10g/m2、好ましくは6〜10g/m2、より好ましくは7〜9g/m2及び最も好ましくは約8g/m2の坪量を有する、請求項1〜11のいずれか一項に記載の通気性フィルム。」 「【技術分野】 【0001】 本発明は、1〜10g/m2の坪量を有する通気性フィルム、通気性フィルムを製造するためのプロセス、通気性フィルム中のフィラーとしての表面処理フィラー材料製品の使用、通気性フィルムを含む物品並びに衛生用途、医療用途、ヘルスケア用途、ろ過材料、ジオテキスタイル製品、農業用途、園芸用途、衣類、履物製品、鞄製品、家庭用途、工業用途、包装用途、建築用途、又は建設における通気性フィルムの使用に関する。」 「【発明が解決しようとする課題】 【0029】 しかし、記載された通気性フィルムは、極薄通気性フィルム、すなわち1〜10g/m2の坪量を有するフィルムが、フィルムの破断時の力、破断時の伸び、弾性率又は水柱、並びに表面品質などのその機械的特性の低下なしではほとんど作製できないという欠点を有する。 【0030】 したがって、極薄通気性フィルム、すなわち1〜10g/m2の坪量を有し、より高い坪量のフィルムと比較して、維持されるか又は改善された機械的特性及び良好な表面品質を有するフィルムの供給は、依然として当業者の興味を引く。 【0031】 したがって、1〜10g/m2の坪量を有する通気性フィルムを提供することが、本発明の目的である。破断時の力、破断時の伸び、弾性率又は水柱などの良好な機械的特性を有する通気性フィルムを提供することも望ましい。良好な通気性及び低いフィルム欠陥レベルを保持する通気性フィルムを提供することも望ましい。良好な色特性及び低いメヤニ特性などの良好な加工性を有する通気性フィルムを提供することも望ましい。 【0032】 本発明の別の目的は、1〜10g/m2の坪量を有する通気性フィルム用フィラー材料の供給である。通気性フィルム用途において良好な分散特性及び配合性能を示す、通気性フィルム用フィラー材料を提供することも望ましい。高温耐性を有するフィラー材料を提供することも望ましく、したがって、通気性フィルムの製造時の高い加工温度が可能になる。更に、低い吸水性を示し、したがって、関連する揮発性物質、特に水によって直面する問題を低減又は回避するフィラー材料を提供することが望ましい。破断時の力、破断時の伸び、弾性率又は水柱などの良好な機械的特性を付与しかつフィルムの表面品質を改善する、通気性フィルム用フィラー材料を提供することも望ましい。連続プロセスを使用して、マスターバッチ又は化合物への加工を可能にする、通気性フィルム用フィラー材料を提供することも本発明の目的である。 【0033】 前述の目的及びその他の目的は、独立請求項において本明細書で定義されるような主題によって解決される。」 「【0055】 本発明の意味における用語「通気性フィルム」は、例えば、ミクロ細孔の存在によって、ガス及び水蒸気が通過できるポリマーフィルムを指す。通気性フィルムの「通気性」は、g/(m2・日)で規定される、その水蒸気透過率(WVTR)によって測定できる。例えば、ポリマーフィルムは、少なくとも1000g/(m2・日)のWVTRを有する場合、「通気性」があると見なしてよい。WVTRは、ASTM E398にしたがってLyssy L80−5000測定装置を用いて決定されてよい。」 「【0072】 本文献を通して、炭酸カルシウム含有フィラーの「粒径」は、その粒径分布によって記載される。値dxは、それに対して粒子のx重量%が、dx未満の直径を有する直径を示す。これは、d20値は、その値においてすべての粒子の20重量%がそれより小さい粒径であり、d98値は、その値においてすべての粒子の98重量%がそれより小さい粒径であることを意味する。d98値はまた、「トップカット」としても呼ばれる。d50値はしたがって重量中央粒径であり、すなわちすべての粒子の50重量%は、この粒径より小さい。本発明の目的に関して、特に示されない限り、粒径は重量中央粒径d50として規定される。重量中央粒径d50値又はトップカット粒径d98値を決定するために、米国のMicromeritics社のSedigraph5100又は5120装置を使用できる。方法及び機器は、当業者に既知であり、フィラー及び顔料の粒径を決定するために一般的に使用される。測定は、0.1重量%Na4P2O7の水溶液中で実施される。サンプルは、高速攪拌機及び超音波を使用して分散される。」 「【0249】 一実施形態によれば、通気性フィルムは、UV吸収剤、光安定剤、加工安定剤、酸化防止剤、熱安定剤、核剤、金属不活性化剤、耐衝撃性改良剤、可塑剤、潤滑剤、レオロジー変性剤、加工助剤、顔料、染料、蛍光増白剤、抗菌薬、帯電防止剤、スリップ剤、粘着防止剤、カップリング剤、分散剤、相溶化剤、脱酸素剤、酸補足剤、マーカー、防曇剤、表面改質剤、難燃剤、発泡剤、煙抑制剤、ガラス繊維、炭素繊維及び/若しくはガラスバブルなどの補強剤、又は前述添加剤の混合物からなる群から選択される添加剤を更に含む。」 「【0287】 実施例 1 測定方法及び材料 以下に、実施例で実施される測定方法及び材料が記載される。 ・・・ 【0295】 水蒸気透過率(WVTR) 通気性フィルムのWVTR値を、ASTM E398にしたがって、Lyssy L80−5000(PBI−Dansensor A/S、デンマーク)測定装置を用いて測定した。 ・・ 【0297】 2 材料 CC1(発明):スイスのOmya International AGから市販されている天然粉砕炭酸カルシウム(d50:0.8μm;d98:3μm、<0.5μmの粒子含量=35%)、天然粉砕炭酸カルシウムの全重量に基づいて、2.2重量%ステアリン酸(Sigma−Aldrich、Crodaから市販)で表面処理。BET:8.5m2/g 【0298】 CC2(発明):スイスのOmya International AGから市販されている天然粉砕炭酸カルシウム(d50:1.7μm;d98:6μm、<0.5μmの粒子含量=12%)、天然粉砕炭酸カルシウムの全重量に基づいて、1.0重量%ステアリン酸(Sigma−Aldrich、Crodaから市販)で表面処理。BET:3.4m2/g。 【0299】 P1:LLDPE Dowlex 2035G(MFR:6g/10分(190℃、2.16kg)、密度:技術データシートにより0.919g/cm3)、米国のDow Chemical Companyから市販。 【0300】 P2:LDPE Dow SC 7641(MFR:2g/10分(190℃、2.16kg)、密度:技術データシートにより0.923g/cm3)、米国のDow Chemical Companyから市販。 【0301】 P3:ポリエチレン Elite 5230G(MFR:4g/10分(190℃、2.16kg)、密度:技術データシートにより0.916g/cm3)、米国のDow Chemical Companyから市販。 【0302】 P4:ポリプロピレンホモポリマーBraskemポリプロピレンH358−02(MFR:2.1g/10min(230℃、2.16kg)、密度:技術データシートにより0.900g/cm3)、Braskem Europe GmbHから市販。 【0303】 3 実施例 実施例1−化合物(CO)の調製 50重量%CC1又はCC2を含有する化合物をそれぞれ、実験室規模のBuss混錬機(Buss AGからのPR46、スイス)で連続的に作製した。得られた化合物を、20と25℃の間の開始温度を有する水浴中でスプリングロードペレタイザー(spring load pelletizer)、型式SLC(Gala、米国)でペレット化した。作製した化合物の組成及びフィラー含量を、以下の表1にまとめる。正確なフィラー含量を、灰分によって決定した。 【0304】 【表1】 【0305】 表1に示す結果は、良好な品質を有する化合物が製造されたことを裏付ける。 【0306】 実施例2−通気性フィルムの作製 実施例1の化合物を使用して、通気性フィルムを、統合MDO−IIユニット(Dr.Collin GmbH、ドイツ)を備えるパイロット押出キャストフィルムラインによって製造し、押出機の温度設定は195℃−210℃−230℃−230℃であり、押出機の回転速度はそれぞれ、およそ35rpm及び20rpmだった。延伸ユニットの回転速度を、「良好な」延伸フィルムが達成されるまで変化させ最適化した。 【0307】 得られた通気性フィルムのフィルム品質を目視で検査し、フィルムを、それらの水蒸気透過率(WVTR)及び静水圧力に関して試験した。結果を次の表2に示す。 【0308】 【表2】 【0309】 表2に示す結果は、本発明の通気性フィルムが良好な品質及び通気性を有することを裏付けた。」 イ 甲第2A号証に記載された発明 上記アの記載、特に実施例2のサンプル2、8の記載を中心にまとめると、甲2A当初明細書等には、次の発明が記載されていると認める。 「ポリプロピレンホモポリマー(BraskemポリプロピレンH358−02)50重量%と、天然粉砕炭酸カルシウムの全重量に基づいて、2.2重量%ステアリン酸で表面処理された天然粉砕炭酸カルシウム(d50:0.8μm;d98:3μm、<0.5μmの粒子含量=35%)50重量%を使用し、統合MDO−IIユニットを備えるパイロット押出キャストフィルムラインによって延伸製造された、通気性フィルムであって、 ASTM E398にしたがって測定された水蒸気透過率(WVTR)が1600g/(m2×日)である通気性フィルム。」(以下、「甲2サンプル2発明」という。) 「ポリプロピレンホモポリマー(BraskemポリプロピレンH358−02)50重量%と、天然粉砕炭酸カルシウムの全重量に基づいて、2.2重量%ステアリン酸で表面処理された天然粉砕炭酸カルシウム(d50:0.8μm;d98:3μm、<0.5μmの粒子含量=35%)50重量%を使用し、統合MDO−IIユニットを備えるパイロット押出キャストフィルムラインによって延伸製造された、通気性フィルムであって、 ASTM E398にしたがって測定された水蒸気透過率(WVTR)が2100g/(m2×日)である通気性フィルム。」(以下、「甲2サンプル8発明」という。) (3) 判断 ア 本件特許発明1について 本件特許発明1と甲2サンプル2発明とを対比する。 甲2サンプル2発明の「ポリプロピレンホモポリマー」、「天然粉砕炭酸カルシウム」は、それぞれ、本件特許発明1の「ポリオレフィン系樹脂」、「微細フィラー」に相当する。 そして、甲2サンプル2発明の「ポリプロピレンホモポリマー」を原料とする「通気性フィルム」は延伸製造されるものであるから、本件特許発明の「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」に相当する。 また、甲2サンプル2発明の「天然粉砕炭酸カルシウム」は、d50が0.8μmであるから、本件特許発明1の微細フィラーの「平均一次粒子径が0.05〜0.8μm」との特定事項を満たすとともに、甲2サンプル2発明の「天然粉砕炭酸カルシウム」は2.2重量%ステアリン酸で表面処理されたものであるから、本件特許発明1の「前記微細フィラーが、疎水化剤を表面に有する無機微細粉末を含み、前記疎水化剤が、炭素数8〜24の有機カルボン酸及び/又は炭素数8〜24の有機カルボン酸の塩を含」むとの特定事項を満たしている。 さらに、甲2サンプル2発明は、「ポリプロピレンホモポリマー」50重量%と、「天然粉砕炭酸カルシウム」50重量%含むものであるから、本件特許発明1の「25〜65質量%の前記ポリオレフィン系樹脂と、32〜72質量%の前記微細フィラー」とを含むとの特定事項を満たしている。 してみると、本件特許発明1と甲2サンプル2発明は、 「ポリオレフィン系樹脂と、平均一次粒子径が0.05〜0.8μmの微細フィラーを含み、連通ボイドを有するポリオレフィン延伸多孔性フィルムであり、 25〜65質量%の前記ポリオレフィン系樹脂と、32〜72質量%の前記微細フィラーとを含み、 前記微細フィラーが、疎水化剤を表面に有する無機微細粉末を含み、 前記疎水化剤が、炭素数8〜24の有機カルボン酸及び/又は炭素数8〜24の有機カルボン酸の塩を含む、 ポリオレフィン延伸多孔性フィルム。」 の点で一致し、次の点で相違する。 ・相違点3 ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの組成に関し、本件特許発明1は「0.01〜3質量%の分散剤」を含むものであるのに対し、甲2サンプル2発明にはそのような特定がない点。 ・相違点4 ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの透水度及び透湿度に関し、本件特許発明1は「JIS Z0221で測定した透水度が10,000〜85,000秒」、「JIS Z0208で測定した透湿度が700〜2,500g/m2・24h」と特定されるのに対し、甲2サンプル2発明にはそのような特定がない点。 上記相違点について検討する。 (相違点3について) 甲2サンプル2発明には、「分散剤」を含む点は特定されていない。 この点について、甲2当初明細書には、 「一実施形態によれば、通気性フィルムは、・・・、分散剤、・・・からなる群から選択される添加剤を更に含む。」との記載があるものの、当該記載はあくまで、必要に応じ添加しうる旨の記載にすぎず、その添加の目的も明らかではないし、ましてや、添加にあたりどのような添加割合にするのかについても示唆されるものでもない。 よって、当該相違点3は、実質的な相違点であるといえる。 (相違点4について) 相違点3について検討したとおり、本件特許発明1の組成は甲2サンプル2発明と同一であるとはいえないし、また、延伸フィルムの延伸方法についても同じであるとはいえないから、甲2サンプル2発明の「通気性フィルム」が、相違点4に係る本件特許発明1の特定事項を満たす蓋然性が高いとはいえない。 以上のとおりであるから、本件特許発明1と甲2サンプル2発明は同一ではない。 なお、甲2サンプル8発明についても、甲2サンプル2発明と同様に判断される。(以下、「甲2サンプル2発明」と「甲2サンプル8発明」をあわせて、「甲2発明」という。) イ 本件特許発明2ないし7について 本件特許発明2ないし7はいずれも、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。 そして、上記アで検討のとおり、本件特許発明1と甲2発明は同一ではないから、本件特許発明1の全ての特定事項を含む本件特許発明2ないし7についても同様に、甲2発明と同一ではない。 (4) 申立理由3(拡大先願)についてのまとめ 上記(2)の検討のとおりであるから、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるとはいえない。 3 申立理由4(実施可能要件)及び申立理由5(サポート要件)についての判断 (1) 本件特許明細書の記載事項 本件特許明細書には次の事項が記載されている。 「【技術分野】 【0001】 本発明は、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムに関する。 【背景技術】 【0002】 従来、熱可塑性樹脂を延伸して形成される樹脂延伸多孔性フィルムが知られている。この樹脂延伸多孔性フィルムは、引っ張り強度、折り曲げ強度、耐衝撃性、耐久性、耐水性、耐薬品性等の基本性能に優れることから、近年、ポスターや商業印刷等の印刷用途のみならず、投票用紙、パッケージラベル、インモールドラベル等の幅広い分野において利用が促進している。 【0003】 これらの基本性能に加えて、樹脂延伸多孔性フィルムに良好な吸水性及び透気性を付与する試みがなされている。例えば、特許文献1には、熱可塑性樹脂に表面を親水化剤で処理した無機微細粉末を配合した樹脂組成物を延伸することで、フィルム基材内部に多数のボイド(空孔)が形成された、樹脂延伸フィルムが開示されている。この樹脂延伸フィルムは、水系接着剤や水系インキ、或いはその溶媒となる水分に対する吸収性が良く、フィルム基材表面に塗料を塗工した際に、フィルム基材は塗料の一部を吸収するが気泡は発生させずに、均一な塗工外観が得られることから、水系インキや水系接着剤等が塗工されるフィルム系合成紙等の塗工用原反として有用であるとされている。 【先行技術文献】 【特許文献】 【0004】 【特許文献1】特開2014−080025号公報 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0005】 一方、吸水性や透水性が要求されず、過剰な水の透過を抑制する難透水性及び適度な透湿性が要求される技術分野も数多くある。例えば、農業用マルチフィルム(マルチングフィルム)では、雨水による泥はねの防止、畝の浸食防止、肥料流出防止等の観点から、土壌へ過剰な水が透過することを抑制する難透水性が要求される。それと同時に、農業用マルチフィルムでは、根に対して十分な保湿性を有しつつ圃場中の余剰水分を蒸散させる観点から、適度な透湿性も求められる。同様の特性の両立は、医療用材料、衣料材料、包装材料、衛生材料などの用途においても求められることがある。 しかしながら、従来公知の樹脂延伸多孔性フィルムにおいて、難透水性は容易に達成できるものの、同時に適度な透湿性をも兼ね備えたもの、すなわち延伸フィルムの一方の面から他の面に向けて、水は通しにくいが水蒸気は容易に通すものは実現できていなかった。 【0006】 本発明は、かかる背景技術に鑑みてなされたものである。その目的は、難透水性と適度な透湿性とを兼ね備えた、樹脂延伸多孔性フィルムを提供することにある。」 「【課題を解決するための手段】 【0007】 本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水蒸気の通過と水の浸入とを制御する特定のボイドを有する樹脂延伸多孔性フィルムが、難透水性と透湿性の両性能を兼ね備えたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った。」 「【発明を実施するための形態】 【0013】 ・・・ 【0014】 [ポリオレフィン延伸多孔性フィルム] 本実施形態のポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、ポリオレフィン系樹脂と所定の微細フィラーとを少なくとも含み、さらにフィルム内部に連通しているボイド(連通ボイド)を有する、延伸フィルムである。なお、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムを、以降「延伸多孔性フィルム」とも称することもある。 【0015】 ボイド及び連通ボイドは、延伸多孔性フィルム中に存在する空孔(空隙)であり、延伸多孔性フィルムに多孔性(多孔質構造)を与え、延伸多孔性フィルムに後述する所定の透湿度を与えるものである。ここでは、フィルム中で各々独立して区画されている微小空孔をボイドとし、隣接する2以上のボイドが例えば線状、矩形状、球状、網目状、不定形状に連通することで形成された、比較的に高容量の空孔を連通ボイドとする。ボイド及び連通ボイドは、少なくとも延伸多孔性フィルムの内部に存在していればよく、延伸多孔性フィルムの表面においてその一部が外部に露出していてもよい。このようなボイド及び連通ボイドの形成方法は、特に限定されないが、例えば内部紙化法や発泡法等の公知の方法により行うことができる。例えば、内部紙化法の場合、ポリオレフィンフィルムを延伸して製膜する際に、ポリオレフィン系樹脂中に含有される微細フィラーを核として、フィルム内にボイドを形成するのが一般的である。」 「【0016】 <ポリオレフィン系樹脂> 本実施形態の延伸多孔性フィルムに使用することができるポリオレフィン系樹脂としては、高密度ポリエチレン、中密度ポリエチレン、低密度ポリエチレン等の結晶性エチレン系樹脂、結晶性プロピレン系樹脂、ポリメチル−1−ペンテン、エチレン−環状オレフィン共重合体等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0017】 これらの中でも、耐水性、耐溶剤性、耐薬品性及び生産コスト等の観点から、結晶性エチレン系樹脂、結晶性プロピレン系樹脂が好ましい。結晶性プロピレン系樹脂としては、プロピレンを単独重合させたアイソタクティック重合体又はシンジオタクティック重合体がより好ましい。また、主成分となるプロピレンと、エチレン、1−ブテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、4―メチル−1−ペンテン等のα―オレフィンとの共重合体を使用することもできる。共重合体は、モノマー成分が2元系でも3元系以上の多元系でもよく、またランダム共重合体でもブロック共重合体でもよい。 【0018】 ポリオレフィン系樹脂の含有量は、特に限定されないが、延伸多孔性フィルムの総量に対して、25質量%以上が好ましく、30質量%以上がより好ましく、35質量%以上がさらに好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂の含有量は、特に限定されないが、延伸多孔性フィルムの総量に対して、65質量%以下が好ましく、60質量%以下がより好ましく、55質量%以下がさらに好ましい。ポリオレフィン系樹脂の含有量を上記の下限値以上、上限値以下とすることで、特に好ましい多孔質構造を有する延伸多孔性フィルムが得られ易い傾向にある。また、上記の範囲とすることで、特に難透水性が得られ易い傾向にある。」 「【0019】 <微細フィラー> 本実施形態の延伸多孔性フィルムに使用することができる微細フィラーは、特定の範囲の平均一次粒子径を有することを特徴とする。この平均一次粒子径とは、延伸多孔性フィルムに、後述する所定の空孔を与えるものである。そして、この微細フィラーは、その表面に、従来の延伸多孔性フィルムに用いられる無機フィラー、典型的には炭酸カルシウムと比べて高い疎水性を示す、疎水性表面を有することが望ましい。この疎水性とは、延伸多孔性フィルムに、後述する所定の透水度と透湿度とを与えるものである。 【0020】 疎水性表面を有する微細フィラーとしては、それ自体が疎水性である微細粉末をそのまま用いることもできる。また、微細粉末を疎水化処理したものを用いることができる。微細粉末としては、無機微細粉末、有機微細粉末のいずれも用いることができる。疎水化処理は、微細粉末の表面を表面処理剤(疎水化剤)で処理することにより行うことができる。疎水化処理された微細粉末は、その表面に疎水化剤を有し、この疎水化剤によって疎水性が付与されている。微細フィラーは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0021】 無機微細粉末の具体例としては、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウム、焼成クレー、タルク、酸化チタン、硫酸バリウム、酸化亜鉛、酸化マグネシウム、珪藻土、酸化珪素などの微細粉末、中空ガラスビーズ等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭酸カルシウム、焼成クレー、珪藻土は、安価で延伸時に多くの空孔を形成させることができ、空孔率の調整が容易なために好ましい。また、重質炭酸カルシウム、軽質炭酸カルシウムは、多くの種類の市販品があり、その平均粒子径や粒度分布が所望のものを得やすいためにより好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0022】 有機微細粉末としては、延伸多孔性フィルムの構成母材となる上記のポリオレフィン系樹脂とは異なる種類の樹脂であって、その融点又はガラス転移点が、当該ポリオレフィン系樹脂の融点又はガラス転移点よりも高い樹脂からなる微細粉末を用いることができる。このような有機微細粉末を用いると、延伸多孔性フィルムの構成母材のポリオレフィン系樹脂に対する非相溶性を高めることができ、延伸成形する際の空孔形成性が向上する傾向にある。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0023】 延伸多孔性フィルムの構成母材となるポリオレフィン系樹脂に使用可能な、有機微細粉末の具体例としては、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリアミド、ポリカーボネート、ポリスチレン、環状オレフィン単独重合体、エチレン−環状オレフィン共重合体、ポリエチレンサルファイド、ポリイミド、ポリメタクリレート、ポリエチルエーテルケトン、ポリエチレンスルフィド、ポリフェニレンスルフィド、メラミン樹脂粒子等であって、構成母材となるポリオレフィン系樹脂の融点よりも高い融点(例えば170〜300℃)又はガラス転移温度(例えば170〜280℃)を有し、かつ構成母材となるポリオレフィン系樹脂に非相溶のものが挙げられるが、これらに特に限定されない。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。 【0024】 これらの微細粉末の表面を疎水化処理する疎水化剤としては、脂肪酸、脂環族カルボン酸、芳香族カルボン酸、樹脂酸等の有機カルボン酸、及びそれらの塩、アミド、又は炭素数1〜6のアルコールとのエステル;ポリ(メタ)アクリル酸;シランカップリング剤等が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、脂肪酸、及びそれらの塩が好ましい。これらは、1種を単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。 これらの疎水化剤は、上記の微細粉末の表面を修飾して、微細フィラーを疎水化することで、これを含む延伸多孔性フィルムの疎水性を向上させやすいものである。 【0025】 上記の脂肪酸としては、カプリル酸、カプリン酸、ラウリン酸、ミリスチン酸、パルミチン酸、ステアリン酸、アラキジン酸、ベヘン酸、リグノセリン酸等の飽和脂肪酸;エライジン酸、パルミトレイン酸、オレイン酸、リノール酸、リノレン酸、セトレイン酸、エルカ酸、リシノール酸等の不飽和脂肪酸が挙げられるが、これらに特に限定されない。これらの中でも、炭素数8〜24の脂肪酸が好ましく、炭素数12〜20の脂肪酸がより好ましく、オレイン酸、ステアリン酸がさらに好ましい。また、これらの有機カルボン酸の塩として、K、Na、Ag、Al、Ba、Ca、Cu、Fe、Li、Mg、Mn、Pb、Sn、Sr、Znなどの金属塩が挙げられる。中でも金属石鹸が好ましく、Al、Znの金属石鹸がより好ましく、ステアリン酸アルミニウム、ステアリン酸亜鉛がさらに好ましく、ステアリン酸アルミニウムが特に好ましい。 【0026】 上記のシランカップリング剤としては、3−クロロプロピルトリメトキシシラン、ビニルトリメトキシシラン、ビニルトリエトキシシラン、ビニルトリス(2−メトキシエトキシ)シラン、3−メタクリオキシプロピルトリメトキシシラン、3−グリシドキシプロピルトリメトキシシラン、3−メルカプトプロピルトリメトキシシラン、3−アミノプロピルトリエトキシシラン等が挙げられるが、これらに特に限定されない。 延伸多孔性フィルム中におけるこれらの疎水化剤の存在は、例えば質量分析法による疎水化剤に由来するピーク(例えば、ステアリン酸のピーク)の有無などから判断することができる。 なお、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムに含まれる疎水化剤は、微細粉末の表面に担持されているものであってもよく、微細フィラーから系中に分散したものであってもよく、ポリオレフィン系樹脂に別添したものであってもよい。 【0027】 疎水性表面を有する微細フィラー総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、0.01質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.15質量%以上であることがさらに好ましい。また、疎水性表面を有する微細フィラー総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、15質量%以下であることが好ましく、10質量%以下であることがより好ましく、6質量%以下であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルム総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、0.005質量%以上であることが好ましく、0.01質量%以上であることがより好ましく、0.05質量%以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルム総量に対する疎水化剤の含有量は、特に限定されないが、10質量%以下であることが好ましく、8質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。疎水化剤の含有量が上記の下限値以上であることにより、微細フィラーに十分な疎水化処理が施され、延伸多孔性フィルムの透水性が抑えられる傾向にある。疎水化剤の含有量が上記の上限値以下であることが、コストの面から好ましい。 【0028】 疎水化処理は、常法にしたがって行うことができ、その方法は特に限定されない。例えば、疎水化剤を有機溶媒の溶液又はスラリーとして微細粉末に噴霧し、所定時間撹拌することにより行うことができる。別の例としては、微細粉末を水中に分散させた水スラリーに疎水化剤を添加して、攪拌、混合することより行うことができる。微細粉末がアルカリ土類金属を含む場合には、疎水化剤として、さらにアルカリ土類金属に対してキレート能を有する化合物を加えてもよい。また、疎水化剤と水とをなじませるために、疎水化剤を水可溶性有機溶媒の溶液又はスラリーとして添加してもよい。攪拌、混合した状態の微細フィラーは、さらに脱水、乾燥を行い、粉末状の微細フィラーを得てもよい。 【0029】 疎水化剤を用いた疎水化処理は、例えば、特開平11−349846号公報、特開2002−363443号公報、WO2001−027193号公報、WO2004−006871号公報に記載された方法により行うことができる。 【0030】 微細フィラーの平均一次粒子径は、通常0.05μm以上であり、0.07μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.12μm以上であることがさらに好ましい。また、微細フィラーの平均一次粒子径は、通常0.8μm以下であり、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。微細フィラーの平均一次粒子径が上記の下限値以上であることにより、延伸多孔性フィルム中にボイドが効率よく形成される傾向にある。また、微細フィラーの平均一次粒子径が上記の上限値以下であることにより、粒径の大きなものに比べて配合量が同一であればより多数の微細フィラーを延伸多孔性フィルム中に含有せしめることができる。これにより、連通ボイドが効率よく形成されやすくなり、透湿度が高まる傾向にあるとともに、粗大粒子の混入により延伸時にフィルムが破断することが抑制される傾向にある。」 「【0041】 延伸多孔性フィルムの総量に対する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、32質量%以上であることが好ましく、39質量%以上であることがより好ましく、44質量%以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの総量に対する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、72質量%以下であることが好ましく、62質量%以下であることがより好ましく、52質量%以下であることがさらに好ましい。微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることにより、ボイドの数が増加して連通ボイドの形成が容易となり、また多孔質構造によって透湿性が向上する傾向にある。さらに、微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることにより、延伸多孔性フィルムを延伸成形しやすく歩留りが向上する傾向にある。また、微細フィラーの含有量が上記の上限値以下であることにより、延伸時にフィルムが破断することが抑制される傾向にある。 【0042】 延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、32質量%以上であることが好ましく、35質量%以上であることがより好ましく、40質量%以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、72質量%以下であることが好ましく、60質量%以下であることがより好ましく、50質量%以下であることがさらに好ましい。疎水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることにより、多孔質構造によって透湿性が向上する傾向にある。また、疎水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の上限値以下であることにより、透水性を抑えやすい。 【0043】 延伸多孔性フィルムの総量に対する親水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましく、0.5質量%以上であることがより好ましい。また、親水性表面を有する微細フィラーの含有量は、特に限定されないが、延伸多孔性フィルムの総量に対して、10質量%以下であることが好ましく、7質量%以下であることがより好ましく、5質量%以下であることがさらに好ましい。親水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の下限値以上であることによって、透湿性が向上しやすい。また、親水性表面を有する微細フィラーの含有量が上記の上限値以下であることにより、難透水性を維持しやすい。 【0044】 疎水性表面を有する微細フィラーと、親水性表面を有する微細フィラーとを併用する場合に、延伸多孔性フィルムに含まれる、疎水性表面を有する微細フィラーの含有量と、親水性表面を有する微細フィラーの含有量との比は、特に限定されないが、難透水性と透湿性とを所期のものに調整しやすい観点から、相対的に疎水性表面を有する微細フィラーを多めにすることが好ましく、具体的には質量基準で、(疎水性表面を有する微細フィラーの含有量)/(親水性表面を有する微細フィラーの含有量)とした比が、99.5/0.5〜85/15の範囲内であることが好ましく、99/1〜89/11の範囲内であることがより好ましく、98.5/1.5〜92/8の範囲内であることがさらに好ましい。 疎水性表面を有する微細フィラーと親水性表面を有する微細フィラーのそれぞれの含有量が上記範囲内であれば、仮に延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水化剤の含有量よりも、親水化剤の含有量が多い場合であっても、難透水性の効果を十分に担保しやすい。 【0045】 なお、延伸多孔性フィルムの総量に対する疎水性表面を有する微細フィラーの含有量は、疎水化処理前の微細フィラー(微細粉末)の質量を基準として算出するのが容易である。同様に、延伸多孔性フィルムの総量に対する親水性表面を有する微細フィラーの含有量は、親水化処理前の微細フィラー(微細粉末)の質量を基準として算出するのが容易である。」 「【0046】 <その他の添加剤> 本実施形態の延伸多孔性フィルムには、必要に応じて分散剤、熱安定剤、紫外線安定剤、酸化防止剤、ブロッキング防止剤、核剤、滑剤、着色剤等の公知の添加剤を配合してもよい。これらの添加剤は、フィルムの総量100質量%に対して、0.01〜3質量%の割合で配合するのが好ましい。 【0047】 分散剤は、例えば、上述したポリオレフィン系樹脂を含むフィルム中に微細フィラーを高分散させる目的で用いられる。二次粒子を形成した微細フィラーを使用する場合、二次粒子の状態で微細フィラーを高分散させることが好ましい。分散剤としては、シランカップリング剤、オレイン酸、ステアリン酸等の高級脂肪酸、金属石鹸、ポリアクリル酸、ポリメタクリル酸若しくは無水マレイン酸変性ポリプロピレン又はこれらの塩等を例示することができる。 【0048】 分散剤の含有量は、特に限定されないが、フィルムの総量に対して、0.01〜3質量%が好ましい。分散剤の含有量が0.01質量%以上であることにより、微細フィラーが十分に分散するため、連通ボイドが得られやすく、所定の透水度及び透湿度が得られる傾向にある。また、分散剤の含有量が3質量%以下であることにより、フィルムの延伸性が良好で成形時における延伸切れが抑えられる傾向にある。なお、上述した疎水化剤と分散剤の合計量は、フィルムの総量に対して、0.25〜8質量%が好ましく、0.3〜6質量%がより好ましい。」 「【0049】 [ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの製造] 次に、本実施形態の延伸多孔性フィルムの製造方法について説明する。 本実施形態の延伸多孔性フィルムは、従来公知の種々の方法、例えば内部紙化法や発泡法等の公知の方法により製造することができ、その製法は特に限定されない。ここでは、延伸成形と同時に多孔性フィルムが得られる好適な製法の1つとして、内部紙化法による製法を詳述する。 【0050】 <樹脂組成物の調製及び樹脂シートの成形> 内部紙化法による延伸多孔性フィルムの製造では、まず、ポリオレフィン系樹脂及び微細フィラーを含む樹脂組成物を調製する。具体的には、ポリオレフィン系樹脂、微細フィラー、及び必要に応じて各種添加剤を配合し、これを溶融混練することにより樹脂組成物を調製することができる。このとき、樹脂組成物の各成分の配合割合を上述した好ましい数値範囲内とすることにより、後述する樹脂シートの延伸成形によって所定の透水度及び透湿度を具備するポリオレフィン延伸多孔性フィルムが得られ易い傾向にある。 次いで、この樹脂組成物をシート状に溶融押出して、微細フィラーを内部に含むポリオレフィン系樹脂シートを成形する。その後、得られたポリオレフィン系樹脂シートを少なくとも一方向に延伸することにより、本実施形態の延伸多孔性フィルムを得ることができる。 【0051】 <延伸> 1軸延伸する方法としては、樹脂シートの搬送方向にロール群の周速差を利用して延伸するロール間延伸(縦延伸)法、樹脂シートの搬送方向に直交する方向(幅方向)にテンターオーブンを利用して延伸するクリップ延伸(横延伸)法などを挙げることができる。 【0052】 2軸延伸する方法としては、上記の縦延伸法と、上記の横延伸法を組み合わせて利用した逐次2軸延伸法を挙げることができる。また、樹脂シートの搬送方向の延伸と、樹脂シートの搬送方向に直交する方向の延伸を同時に行う同時2軸延伸法を挙げることができる。より具体的には、テンターオーブンとパンタグラフの組合せ、テンターオーブンとリニアモーターの組合せによる同時2軸延伸方法などによる方法を挙げることができる。また、インフレーションフィルムの延伸方法であるチューブラー法による同時2軸延伸法を挙げることができる。 【0053】 ポリオレフィン系樹脂シートの延伸は、上記の縦1軸延伸、横1軸延伸、逐次2軸延伸、同時2軸延伸等から適宜選択することができる。さらにポリオレフィン系樹脂シートが積層体である場合には、各層の延伸方法がすべて同じであっても、各層の延伸方法が異なっていてもよい。各層の延伸方法が異なる場合、各層の延伸方法は上記の延伸方法から適宜選択すればよい。これらの中でも、逐次2軸延伸法、同時2軸延伸法が好ましく、逐次2軸延伸法がより好ましい。 【0054】 延伸多孔性フィルムの延伸倍率は、特に制限されず、得られる延伸多孔性フィルムの特性等を考慮して、適宜決定すればよい。本発明では構成母材にポリオレフィン系樹脂を用い、所期の連通ボイドを形成する目的から、縦1軸延伸時の延伸倍率は3〜11倍の範囲であることが好ましく、4〜10倍の範囲であることがより好ましく、5〜7倍の範囲であることがさらに好ましい。横1軸延伸時の延伸倍率は4〜11倍の範囲であることが好ましく、4〜10倍の範囲であることがより好ましく、5〜9倍の範囲であることがさらに好ましい。逐次2軸延伸時、又は同時2軸延伸時の面積延伸倍率は10〜90倍の範囲であることが好ましく、15〜75倍の範囲であることがより好ましく、30〜60倍の範囲であることがさらに好ましい。延伸倍率を上記の範囲とすることで、延伸ムラを防いで均一な膜厚となるよう安定した延伸成形ができ、また、フィルムの表面まで連通した所望のボイドが得られ易く、所定の透水度と透湿度が得られる傾向にある。 【0055】 延伸多孔性フィルムの延伸温度は、特に限定されないが、構成母材となるポリオレフィン系樹脂の結晶化温度よりも高い温度であり、且つ融点よりも5℃以上低いことが好ましく、10℃以上低いことがより好ましい。また、2種以上の樹脂を用いる場合は含有量の最大を占める樹脂の結晶化温度よりも高い温度であり、且つ融点より5℃以上低い温度で行うことが好ましい。例えば、ポリオレフィン系樹脂に融点が155〜167℃であるプロピレン単独重合体を用いる場合は、延伸温度は100〜162℃であることが好ましい。また、ポリオレフィン系樹脂に融点が121〜136℃である高密度ポリエチレンを用いる場合は、延伸温度は70〜131℃であることが好ましい。なお、延伸処理後に、必要に応じて、延伸温度より高温での熱処理を施してもよい。」 「【0065】 [ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの特徴] 本実施形態の延伸多孔性フィルムは、ポリオレフィン系樹脂のフィルムの内部に多数のボイドが形成されており、これらのボイドの少なくとも一部は、相互に連通した連通ボイドを形成している。さらにボイド及び連通ボイドは、疎水化剤によって表面を疎水性に処理された微細なフィラーを内在している。これにより延伸多孔性フィルムは、後述する透水度を示す程度に水の透過が抑制される難透水性を有するとともに、後述する透湿度を示す程度に水蒸気が透過する透湿性を有する。 【0066】 すなわち、本実施形態の延伸多孔性フィルムは、水を殆ど通さないのに対して、水蒸気を十分に通過させることができる。延伸多孔性フィルムがこのような特性を示すのは、ボイドの少なくとも一部がフィルム内で連通しており、フィルム表面の開口から連通ボイドを通じて、水蒸気が延伸多孔性フィルム内を通過することができるためであると推測される。一方で、オレフィン系樹脂そのものの疎水性、及び疎水性表面を有する微細フィラーの存在により、連通ボイド内への水の浸入及び水の透過が抑制されていることにより、延伸多孔性フィルム内の水の通過は抑制されていると推測される。なお、疎水性表面を有する微細フィラーに加えて、親水性表面を有する微細フィラーを併用する場合には、透湿性が適度に向上する傾向がある。 【0067】 延伸多孔性フィルムの透湿度、透気度、及び透水度は、微細フィラーの粒子径、含有量、疎水化処理の程度、疎水性表面を有する微細フィラーと親水性表面を有する微細フィラーとの併用、フィルム内部のボイドの数、ボイドの連通度、又はボイドの大きさを調整することによって制御することができる。 【0068】 なお、延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合には、延伸多孔性フィルムを構成するいずれの層についても、疎水性表面を有する平均一次粒子径が0.05〜0.8μmの微細フィラーを含むことが好ましい。また、延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合には、複数の層全体として、後述する透水度及び透湿度を満たすことで、所望の難透水性と透湿性とが達成される。 【0069】 <厚み> 延伸多孔性フィルムにおける厚みとは、JIS K7130:1999に準拠して測定した値をいう。延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合には、複数の層全体として測定した値である。延伸多孔性フィルムが複数の層から構成される場合の各層の厚みは、電子顕微鏡を用いてその断面を観察し、外観より層間の界面を判断して厚み比率を求め、上で測定した厚みと各層の厚み比率から算出する。 【0070】 延伸多孔性フィルムの厚みは、所望性能に応じて適宜設定すればよく、特に制限されないが、農業用材料として用いるのであれば、20μm以上であることが好ましく、40μm以上であることがより好ましく、50μm以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの厚みは、500μm以下であることが好ましく、400μm以下であることがより好ましく、300μm以下であることがさらに好ましい。延伸多孔性フィルムの厚みが上記の下限値以上であることにより、延伸多孔性フィルムは十分な機械的強度が得られ、延伸多孔性フィルムの延伸成形や敷設の際にフィルムの破断を防止しやすい傾向にある。また延伸多孔性フィルムの厚みが上記の上限値以下であることにより、延伸多孔性フィルムが重くなりすぎず、取り扱いが容易になる傾向にある。 【0071】 <密度> 延伸多孔性フィルムの密度は、0.45g/cm3以上であることが好ましく、0.5g/cm3以上であることがより好ましく、0.55g/cm3以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの密度は、0.7g/cm3以下であることが好ましく、0.65g/cm3以下であることがより好ましく、0.6g/cm3以下であることがさらに好ましい。延伸多孔性フィルムの密度が上記の下限値以上であることにより、延伸の際にフィルムの破断を防止しやすく、また延伸多孔性フィルムに十分な機械的強度が得られる傾向にある。延伸多孔性フィルムの密度が上記の上限値以下であることにより、フィルム内部に連通するボイドが生じやすく、透湿性が発現しやすい傾向にある。延伸多孔性フィルムの密度は、微細フィラーの含有量や、フィルムの延伸軸数及び延伸倍率を調整することにより制御することができる。 【0072】 延伸多孔性フィルムにおける密度とは、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求められる値をいう。なお、この密度は、後述する密度ρwに等しい。延伸多孔性フィルムは、フィルムの中に適切に連通ボイドが形成されることにより、所定の密度を有するものとなる。 【0073】 <ボイド率> 延伸多孔性フィルムにおけるボイド率とは、フィルム全体の体積に対する、フィルム中の空孔が占める体積の割合(体積率)をいう。ここで、フィルム中の全ての空孔の体積率を示すものを、「全体ボイド率」と称する。また、フィルム中の空孔のうち、フィルム内部で独立している空孔の体積率を示すものを、「内部独立ボイド率」と称する。さらに、フィルム中の空孔のうち、フィルムの表面と連通している空孔の体積率を示すものを、「連通ボイド率」と称する。 【0074】 延伸多孔性フィルムの全体ボイド率は下記の式(1)で求められる。 式(1)中、ρ0はJIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求められる延伸前のフィルムの密度である。ρwはJIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求められる延伸後のフィルムの密度である。 【0075】 ここで、延伸前の空孔を有しないフィルムの密度を示すρ0は、延伸後の空孔を有するフィルムから空孔部分を除いた、ポリオレフィン系樹脂及び微細フィラーを含む樹脂組成物が占める部分の密度を示す真密度とほぼ同じである。 【0076】 また、本実施形態の延伸多孔性フィルムの内部に形成された連通している空孔の界面は疎水性であるため、短時間・無加圧下ではフィルム内部の空孔に水が浸透し難い。したがって、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて測定することにより得られるρwは、フィルム内部で独立している空孔が占める体積と、フィルムの表面と連通している空孔が占める体積と、フィルム自身が占める体積とに基づく、延伸後のフィルムの密度に相当する。 【0077】 よって、式(1)に示すように、ρ0とρwとの差を利用して、延伸多孔性フィルムの内部に形成された全ての空孔がフィルム全体に占める割合を、全体ボイド率として求めることができる。 【0078】 次に、延伸多孔性フィルムの内部独立ボイド率は下記の式(2)で求められる。式(2)中、ρ0の定義は式(1)と同じである。ρsはJIS K7112:1999のA法において、浸漬液として蒸留水に代えて表面張力が27.3mN/mの液体を用いて求められる密度である。 【0079】 この浸漬液によれば、対象物の表面が疎水性であっても濡れやすい特徴を有することから、延伸多孔性フィルムの表面から内部まで連通している空孔(連通ボイド)を満たすことができる。一方で、表面張力が27.3mN/mの液体を用いた場合でも、フィルム表面に連通していない空孔(内部独立ボイド)はこの液体で満たされずに空孔として残存する。したがって、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液として蒸留水に代えて表面張力が27.3mN/mの液体を用いて測定することにより得られるρsは、フィルム内部で独立している空孔が占める体積と、フィルム自身が占める体積とに基づく、延伸後のフィルムのみかけ密度に相当する。表面張力が27.3mN/mの液体は、JIS K6768:1999の表に記載されている配合(メタノール80体積%と蒸留水20体積%とを混合)に従い調製することができ、また、ぬれ張力試験用混合液等の名称で市販されるものを使用することができる。 【0080】 よって、式(2)に示すように、ρ0とρsとの差を利用して、延伸多孔性フィルムの内部に形成された、フィルム外部と連通していない、フィルム内部で独立している空孔がフィルム全体に占める割合を、内部独立ボイド率として求めることができる。 【0081】 続いて、延伸多孔性フィルムの連通ボイド率は、下記の式(3)で求められる。 【0082】 延伸多孔性フィルムの表面まで連通している空孔に注目すると、この空孔は蒸留水では満たされず、表面張力が27.3mN/mの液体で満たされる。したがって、式(3)に示すように、全体ボイド率と内部独立ボイド率の差から、フィルム表面と連通している空孔がフィルム全体に占める割合を、連通ボイド率として求めることができる。 【0083】 本実施形態の延伸多孔性フィルムは、適度な透湿性及び難透水性を示すことで、水蒸気を透過すると共に、過度な水の浸透を抑制する。これはフィルム中に形成される全体の空孔のうち、連通ボイドが適度な割合で存在することによって達成される。すなわち、連通ボイド率と全体ボイド率との比を表す、(連通ボイド率/全体ボイド率)の値に好適な範囲が存在する。この(連通ボイド率/全体ボイド率)は、下記の式(4)で表される。 【0084】 本実施形態の延伸多孔性フィルムは、(連通ボイド率/全体ボイド率)の値が0.4〜0.85であることが好ましく、0.5〜0.8であることがより好ましく、0.6〜0.75であることがさらに好ましい。同値が同範囲内であることで、所期の透湿性を達成しやすい。延伸多孔性フィルムの(連通ボイド率/全体ボイド率)の値は、用いる微細フィラーの含有量、微細フィラーの粒子径や、延伸多孔性フィルムの延伸倍率等を調整することにより制御することができる。 【0085】 また、延伸多孔性フィルムの全体ボイド率は、40〜80%であることが好ましく、50〜70%であることがより好ましく、55〜65%であることがさらに好ましい。また、内部独立ボイド率は、5〜50%であることが好ましい。また、連通ボイド率は30〜75%であることが好ましく、35〜65%であることがより好ましく、40〜60%であることがさらに好ましい。 【0086】 またさらに、上記式(4)の分子である密度ρsと密度ρwとの差(ρs−ρw)は、JIS K7112:1999のA法において蒸留水を用いて測定した密度ρwと、蒸留水に代えて表面張力が27.3mN/mの液体を使用して測定した密度ρsの差を示すものである。 【0087】 本実施形態の延伸多孔性フィルムは、ρs−ρwの値が、0.15〜1.15であることが好ましく、0.3〜1.0であることがより好ましく、0.5〜0.9であることがさらに好ましい。密度差が上記の下限値以上であることにより、透湿性を発揮させやすくする傾向がある。密度差が上記の上限値以下であることにより、透湿性を抑制する傾向にある。 【0088】 <透水度> 本実施形態の延伸多孔性フィルムにおける透水度とは、上記課題で説明するところの「難透水性」を示すものである。さらに、この透水度は、農業用材料等として使用した場合に殆ど水は通さないことを示すものである。また、この透水度は、JIS Z0221:1976に準拠して測定した透水度を意味する。 【0089】 このような延伸多孔性フィルムの透水度は、10,000秒以上であり、12,000秒以上であることが好ましく、14,000秒以上であることがより好ましく、20,000秒以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透水度は、85,000秒以下であり、78,000秒以下であることが好ましく、70,000秒以下であることがより好ましく、50,000秒以下であることがさらに好ましい。透水度が上記の下限値以上であることにより、水の通過が抑制される傾向にある。また、透水度の値は大きいほど難透水性であることを示すが、透水度が上記の上限値以下であっても、難透水性は十分に担保できる。延伸多孔性フィルムの透水度は、微細フィラーの含有量、粒子径や、フィルムの延伸倍率を調整することにより得られる連通ボイド率で制御することができる。また、疎水性表面を有する微細フィラーや親水性表面を有する微細フィラーの含有量及びこれらの含有量の比の調整によっても制御することができる。 【0090】 <透湿度> 本実施形態の延伸多孔性フィルムにおける透湿度とは、上記課題で説明するところの「適度な透湿性」を示すものである。さらに、この透湿度は、農業用材料等として使用した場合に内部空間が蒸れて結露したりしないよう、フィルムの一方の面側の水蒸気圧が高い場合には、他の面に向けて速やかに水蒸気の移動が行われることを示すものである。また、この透湿度は、JIS Z0208:1976に準拠して、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した透湿度を意味する。 【0091】 このような延伸多孔性フィルムの透湿度は、700g/m2・24hr以上であり、800g/m2・24hr以上であることが好ましく、1,000以上g/m2・24hr以上であることがより好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透湿度は、2,500g/m2・24hr以下であり、2,400g/m2・24hr以下であることが好ましく、2,000g/m2・24hr以下であることがより好ましい。透湿度が上記の下限値以上であることで、水蒸気が延伸多孔性フィルムを容易に透過して、延伸多孔性フィルムに被覆された内部空間に水蒸気が溜まることが防止される傾向にある。また、透湿度が上記の上限値以下であることで、透湿性と難透水性とを両立しやすい傾向にある。延伸多孔性フィルムの透湿度は、微細フィラーの含有量、粒子径や、フィルムの延伸倍率を調整することにより得られる連通ボイド率で制御することができる。また、疎水性表面を有する微細フィラーや親水性表面を有する微細フィラーの含有量及びこれらの含有量の比の調整によっても制御することができる。 【0092】 <透気度> 本実施形態の延伸多孔性フィルムにおける透気度とは、農業用材料等として使用した場合に、作物の呼吸や根粒菌の窒素固定等を妨げないように、適度に通気することを示すものであり、JIS P8117:2009に準拠して測定した透気度を意味する。延伸多孔性フィルムの透気度は、5,000秒以上であることが好ましく、10,000秒以上であることがより好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透気度は、85,000秒以下であることが好ましく、75,000秒以下であることがより好ましい。延伸多孔性フィルムの透気度が上記範囲内であれば、適切な通気性を有していると言える。 【0093】 <ぬれ張力> 本実施形態の延伸多孔性フィルムは、農業用材料等として使用する際に、予め不織布等の他部材との貼り合せ加工や、商品名等を表面に印刷加工したものを、商品として販売することがある。 延伸多孔性フィルムにおけるぬれ張力とは、延伸多孔性フィルムに貼り合せ加工やオフセット印刷等の二次加工を施すことを容易とするための特徴であり、ダインレベルの異なる複数のぬれ張力評価インクペン(英国Corona Supplies社製)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下で塗布後、約2秒後の液膜の状態で濡れているか弾くかを判定して、境界となるダインレベルから決定される。 【0094】 延伸多孔性フィルムのぬれ張力は、表面張力が31mN/m以上であることが好ましく、33mN/m以上であることがより好ましい。また、延伸多孔性フィルムのぬれ張力は、42mN/m以下であることが好ましく、37mN/m以下であることがより好ましい。表面張力が上記の下限値以上であることで、二次加工の際に接着剤や塗料等をはじくことがない傾向にあるため、加工性の点から好ましい。また、表面張力が上記の上限値以下であることで、フィルム表面の耐水性が発揮され、また、フィルム表面にオフセット印刷で印刷を施す際には、湿し水が広がることなく良好な画像を形成する傾向にあるため好ましい。」 「【実施例】 【0097】 以下、製造例及び実施例を挙げて本発明を具体的に説明する。なお、以下の実施例に示す材料、使用量、割合、処理内容、処理手順等は、本発明の趣旨を逸脱しない限り適宜変更することができる。したがって、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。 【0098】 [評価手法] 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの評価は、以下の方法で行った。 【0099】 <透水度> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの透水度を、JIS Z0221:1976に準拠し、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。 【0100】 <透湿度> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの透湿度を、JIS Z0208:1976に準拠して、温度40℃、相対湿度90%の条件で測定した。 【0101】 <透気度> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの透気度を、JIS P8117:2009に準拠して測定した。 【0102】 <微細フィラーの平均一次粒子径> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムに含まれる微細フィラーの平均一次粒子径は、延伸多孔性フィルムの切断面を電子顕微鏡により観察し、無作為に抽出した100個の微細フィラーのそれぞれにおいて、一次粒子の輪郭上の2点間の距離の最大値(最大径)を求め、その平均値を平均一次粒子径とした。 【0103】 <微細フィラーの平均二次粒子径> 微細フィラーが凝集体の場合、表面処理を行った後の微細フィラーをメタノールで湿らせた後、水に分散させてスラリーを作成し、このスラリーに対してレーザー回折型粒度分布測定装置((株)島津製作所製:SALD−2200)を用いて測定した体積基準のメジアン径(D50)を平均二次粒子径とした。 【0104】 <ぬれ張力> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムのぬれ張力を、ダインレベルの異なる複数のぬれ張力評価インクペン(英国Corona Supplies社製)を用いて、23℃、相対湿度50%の条件下で塗布後、約2秒後の液膜の状態で濡れているか弾くかを判定して、境界となるダインレベルから決定した。 【0105】 <密度> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの密度ρwを、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて、温度23℃の条件で測定した。 【0106】 <全体ボイド率> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムについて、延伸前の樹脂組成物のペレットの密度ρ0を、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液に蒸留水を用いて求めた。密度ρw及び密度ρ0を用いて、上記式(1)から、全体ボイド率を算出した。 【0107】 <連通ボイド率> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムの密度ρsを、JIS K7112:1999のA法において、浸漬液として蒸留水に代えて、市販の表面張力が27.3mN/mの液体(商品名:ぬれ張力試験用混合液No.27.3、和光純薬工業社製)を用いて求めた。密度ρs及び密度ρwを用いて、式(3)から、連通ボイド率を算出した。 【0108】 <連通ボイド率と全体ボイド率との比> 連通ボイド率及び全体ボイド率を用いて、式(4)から、連通ボイド率と全体ボイド率との比(連通ボイド率/全体ボイド率)を算出した。 【0109】 <ρs−ρw> 各実施例、比較例で得られた延伸多孔性フィルムについて、密度ρs及び密度ρwを用いて、ρs−ρwを算出した。 【0110】 [微細フィラーの調製] <疎水性表面を有する微細フィラーの調製例1> 軽質炭酸カルシウム微細粉末(商品名:ブリリアント1500、白石カルシウム社製、表面処理なし、平均一次粒子径:0.15μm)10000gをニーダーで撹拌しながら、これに疎水化剤としてステアリン酸亜鉛(商品名:ZP、大日化学工業社製)15.0gをメタノール100mlに分散させた分散液を添加し、30分撹拌した。攪拌により得られた混合物を80℃で1時間乾燥させて、表1の樹脂組成物の配合例(a)の微細フィラー(A)を得た。また、微細粉末と疎水化剤の配合割合を表1の樹脂組成物の配合例(b)〜(d)に記載の配合割合とする以外は、樹脂組成物の配合例(a)に用いる微細フィラー(A)の調製例と同様にして、樹脂組成物の配合例(b)〜(d)の微細フィラー(A)を得た。樹脂組成物の配合例(a)〜(d)に用いた微細フィラー(A)は凝集体を形成し、平均二次粒子径は何れも0.7μmであった。 【0111】 <疎水性表面を有する微細フィラーの調製例2> 上記調整例1のステアリン酸亜鉛に代えて、疎水化剤としてステアリン酸アルミニウム(商品名:アルミニウムステアレート900、日油社製)を用いて、微細粉末と疎水化剤の配合割合を表1の樹脂組成物の配合例(e)〜(n),(v),(y)〜(zz)に記載の配合割合とする以外は、上記調製例1と同様にして、樹脂組成物の配合例(e)〜(n),(v),(y)〜(zz)の微細フィラー(A)を得た。樹脂組成物の配合例(e)〜(n),(v),(y)〜(zz)に用いた微細フィラー(A)は凝集体を形成し、平均二次粒子径は何れも0.7μmであった。 【0112】 <疎水性表面を有する微細フィラーの調製例3> 市販の重質炭酸カルシウム(商品名:カルテックス 5、丸尾カルシウム社製、平均一次粒子径:0.9μm)を、表1の配合例(o)〜(u),(y),(z)の微細フィラー(B)として、そのまま使用した。当該品は、重質炭酸カルシウムをステアリン酸アルミニウムで、10000:15の配合割合で、表面処理したものである。 【0113】 <疎水性表面を有する微細フィラーの調製例4> 市販の二酸化チタン(商品名:タイペーク A−100、石原産業社製、平均一次粒子径:0.15μm)を、表1の樹脂組成物の配合例(a),(b)に用いる微細フィラー(C)として、そのまま使用した。当該品は、二酸化チタンをステアリン酸で、95:5の配合割合で、表面処理したものである。 【0114】 <親水性表面を有する微細フィラーの調製例1> 市販の二酸化チタン(商品名:タイペーク CR60、石原産業社製、平均一次粒子径:0.21μm)を、表1の樹脂組成物の配合例(c)〜(r),(u),(v),(y)〜(zz)に用いる微細フィラー(D)として、そのまま使用した。当該品は、ルチル型二酸化チタンを水酸化アルミニウムで、95:5の配合割合で、表面処理したものである。 【0115】 <親水性表面を有する微細フィラーの調製例2> 市販の親水性表面処理炭酸カルシウム(商品名:AFF−Z、ファイマテック社製、平均一次粒子径:1.0μm)を、表1の樹脂組成物の配合例(s),(t),(w),(x)に用いる微細フィラー(E)として、そのまま使用した。当該品は、重質炭酸カルシウムをジアリルアミンコポリマー及びアルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムで、100:4.8の配合割合で、表面処理したものである。 【0116】 【表1】 【0117】 [樹脂組成物の作製] 表1の樹脂組成物の配合例(a)に記載の原料を、同表に記載の配合割合で混合して、原料混合物(a)を得た。原料混合物(a)を210℃に設定した2軸混練機にて溶融混練し、次いで230℃に設定した押出機にてストランド状に押し出し、冷却後にストランドカッターにて切断して樹脂組成物(a)のペレットを作成した。この樹脂組成物(a)のペレットを、以降の延伸多孔性フィルムの製造例で作製した。樹脂組成物(a)の作製例と同様にして、表1の樹脂組成物配合例(b)〜(zz)の原料を、同表に記載の配合割合で用いて、樹脂組成物(b)〜(zz)のペレットを作製した。 【0118】 [延伸多孔性フィルムの製造] <延伸多孔性フィルムの製造例1> 樹脂組成物(a)をコア層用として、樹脂組成物(b)を表スキン層用及び裏スキン層用として用い、これらを250℃に設定した3台の押出機でそれぞれ溶融混練し、これを共押出Tダイに導入してダイ内で表スキン層/コア層/裏スキン層となるように積層してシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸3層積層樹脂シートを得た。 【0119】 この無延伸3層積層樹脂シートを、142℃まで加熱した後、多数のロール群の周速差を利用したロール間延伸法にて樹脂シートの搬送方向(縦方向)に5倍の延伸倍率で1軸延伸し、その後60℃にて冷却して1軸延伸された樹脂延伸フィルムを得た。 【0120】 次いで、この1軸延伸された樹脂延伸フィルムを、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて樹脂シートの幅方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで160℃まで加熱して2秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして逐次2軸延伸された2軸/2軸/2軸の3層の、製造例1の延伸多孔性フィルムを得た。樹脂延伸フィルムの搬送速度は、120m/minに制御した。 【0121】 <延伸多孔性フィルムの製造例2〜7,12〜14> 製造例1の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例2〜7,12〜14の延伸多孔性フィルムを得た。 【0122】 <延伸多孔性フィルムの製造例8> コア層用の樹脂組成物(j)を、250℃に設定した押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸の樹脂シートを得た。 【0123】 この無延伸単層樹脂シートを、142℃まで加熱した後、多数のロール群の周速差を利用したロール間延伸法にて樹脂シートの搬送方向(縦方向)に5倍の延伸倍率で1軸延伸し、その後60℃にて冷却して1軸延伸された樹脂延伸フィルムを得た。 【0124】 次いで、この1軸延伸された樹脂延伸フィルムを、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて、樹脂シートの搬送方向に直交する方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで165℃まで加熱して4秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして逐次2軸延伸された単層の、製造例8の延伸多孔性フィルムを得た。 【0125】 <延伸多孔性フィルムの製造例9,15,16,19〜21> 製造例8の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例9,15,16,19〜21の延伸多孔性フィルムを得た。 【0126】 <延伸多孔性フィルムの製造例10> コア層用の樹脂組成物(k)を、250℃に設定した押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸の樹脂シートを得た。 【0127】 この無延伸単層樹脂シートを、140℃まで加熱した後、多数のロール群の周速差を利用したロール間延伸法にて樹脂シートの搬送方向(縦方向)に5倍の延伸倍率で1軸延伸し、その後60℃にて冷却して1軸延伸された樹脂延伸フィルムを得た。 【0128】 次いで、スキン層用の樹脂組成物(l)を、250℃に設定した2台の押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、上記の1軸延伸された樹脂延伸フィルムの両面に積層して3層構造の積層物を得た。 【0129】 次いで、この3層積層物を、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて、樹脂シートの幅方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで160℃まで加熱して2秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして逐次2軸延伸された1軸/2軸/1軸の3層の、製造例10の延伸多孔性フィルムを得た。樹脂延伸フィルムの搬送速度は、120m/minに制御した。 【0130】 <延伸多孔性フィルムの製造例17> 製造例10の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例17の延伸多孔性フィルムを得た。 【0131】 <延伸多孔性フィルムの製造例11> コア層用の樹脂組成物(l)を、250℃に設定した押出機で溶融混練し、これをTダイからシート状に押し出し、これを冷却装置にて80℃まで冷却して無延伸の樹脂シートを得た。 【0132】 次いで、この無延伸単層樹脂シートを、テンターオーブンを用いて再び162℃まで加熱した後、155℃でテンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて、樹脂シートの幅方向(横方向)に8倍の延伸倍率で延伸し、クリップで保持したままさらにオーブンで160℃まで加熱して2秒間熱処理を行った。その後60℃まで冷却し、耳部をスリットして横1軸延伸された単層の、製造例11の延伸多孔性フィルムを得た。樹脂シートと樹脂延伸フィルムの搬送速度は、120m/minに制御した。 【0133】 <延伸多孔性フィルムの製造例18> 製造例11の延伸多孔性フィルムと同様にして、表2に記載の樹脂組成物を用いて、表2に記載の延伸条件にて、製造例18の延伸多孔性フィルムを得た。 【0134】 <延伸多孔性フィルムの製造例22> 製造例8の延伸多孔性フィルムと同様にして、樹脂組成物(zz)を用いて、表2に記載の延伸条件にて、延伸多孔性フィルムを得ようとしたが、テンター延伸機を用いたクリップ延伸法にて樹脂シートの幅方向(横方向)に延伸した際に、フィルムの破断が多発し、安定して延伸多孔性フィルムを得ることができなかった。そのため製造例22の延伸多孔性フィルムについては後述する評価は行っていない。 【0135】 <実施例1> 製造例1の延伸多孔性フィルムの両面に、コロナ放電処理装置(機器名:HF400F、春日電気社製)で、連続的にコロナ放電処理を施した。処理条件は長さ0.8mのアルミニウム製放電電極と、絶縁ロールとしてシリコーン被膜ロールとを用い、放電電極と絶縁ロールとのギャップを5mm、ライン処理速度を15m/分、印加エネルギー密度を4,200J/m2とした。続いて、金属ニップロールを用いて後述する表面処理剤を塗布した後、80℃で熱風乾燥してロール状に巻き取った。このようにして、製造例1の延伸多孔性フィルムに表面処理を行うことにより、実施例1の延伸多孔性フィルムを得た。 【0136】 表面処理剤としては、4級アンモニウム塩系ポリマー(三菱化学(株)製、商品名:サフトマーST−1000)固形分0.5質量%、プロピレンオキサイド変性ポリエチレンイミン(日本触媒(株)製、商品名:エポミンPP−061)固形分濃度0.5質量%、ポリアミド・エピクロロヒドリン樹脂(星光PMC(株)製、商品名:WS4002)固形分濃度0.5質量%の水溶液を用いた。 【0137】 <実施例2〜12,14,15,比較例1〜5> 製造例1の延伸多孔性フィルムに代えて、表2に示す製造例2〜17の延伸多孔性フィルムを用いた以外は、実施例1と同様に表面処理を行い、実施例2〜12,14,15,比較例1〜5の延伸多孔性フィルムを得た。実施例3のポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、表面のぬれ張力が39mN/mであった。 【0138】 <実施例13,比較例6,7> 表2に示す製造例3,18,19の延伸多孔性フィルムをそのまま用いて、表面処理を行わなかったものを、実施例13,比較例6,7の延伸多孔性フィルムとした。実施例13のポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、表面のぬれ張力が41mN/mであった。 【0139】 【表2】 【0140】 【表3】 【0141】 [評価] 表2,表3に延伸多孔性フィルムの製造条件、物性、及び評価結果をまとめて示す。 表3に示すとおり、ステアリン酸亜鉛処理によって表面を疎水化した微細フィラーを含む実施例1の延伸多孔性フィルムは、難透水性と透湿性とを兼ね備えたものなっている。さらに、疎水性表面を有する微細フィラーと、水酸化アルミニウム処理によって親水性表面を有する微細フィラーとを含む実施例2の延伸多孔性フィルムは、実施例1よりも透湿度が高まり、難透水性と透湿性とを兼ね備えたものなっている。 【0142】 また、ステアリン酸アルミニウム処理によって疎水性表面を有する微細フィラーと、親水性表面を有する微細フィラーとを含む実施例3〜15の延伸多孔性フィルムも同様に、難透水性と透湿性とを兼ね備えたものなっている。 【0143】 これに対し、疎水性表面を有するが粒子径が粗大な炭酸カルシウムを多く含む比較例1〜5は、難透水性と透湿性の両立が困難であった。たとえば比較例1では全体ボイドに対して連通ボイドの割合が比較的に高く、比較例2〜5は、逆に連通ボイドが乏しいことが分かる。 また、比較例6、7は、疎水性表面を有する微細フィラーを含まないものであり、透水度の値がきわめて低く、水がきわめて浸透しやすいものであることが分かる。 【0144】 ここで、実施例1〜15、比較例6の延伸多孔性フィルムは、全体ボイド率から、フィルムの内部に十分にボイドが形成されていることが分かる。さらに、連通ボイド率、及び(連通ボイド率/全体ボイド率)から、連通ボイドが良好に形成されていることが分かる。このとき、実施例1〜15の延伸多孔性フィルムは透水度及び透湿度が適切な値を示すのに対して、比較例6の延伸多孔性フィルムは透水度がきわめて高いことから、実施例1〜15では、連通ボイドを通じた水の透過を、疎水性表面を有する微細フィラーによって制御できていることが分かる。またさらに、実施例1〜15の延伸多孔性フィルムは、ρs−ρwが所定の範囲であることにより、難透水性を発揮するものとなっている。 【0145】 実施例3、10、12を対比すると、密度ρwが0.45g/cm3より低いと透水度が低く(水を浸透しやすく)、透湿度が高く(水蒸気を通しやすく)なる傾向があり、密度が0.7g/cm3より高いと透水度が高く、透湿度が低くなる傾向にあることがわかる。」 (2) 申立理由4(実施可能要件)についての判断 ア 実施可能要件の判断基準 本件特許発明1ないし7は「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」という物の発明であるところ、物の発明について実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を生産し、使用することができる程度の記載があることを要する。 イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記(1)のとおりの記載がある。 ウ 実施可能要件についての判断 本件特許発明1について、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムを構成する材料のうち、ポリオレフィン系樹脂の種類及び好ましい含有割合(段落【0016】ないし【0018】)、微細フィラーの具体的な材質例、好ましい含有量、疎水化表面を有する微細フィラーの材質、平均一次粒子径の範囲とその技術的意味(段落【0019】ないし【0030】)、分散剤の具体的な材料及びその添加割合(段落【0047】ないし【0048】)、透水度の範囲とその技術的意味(段落【0088】ないし【0089】)、透湿度の範囲とその技術的意味(段落【0090】ないし【0091】)の記載があり、かつ、本件特許発明1の特定事項を満たす具体的な実施例も多数記載されている。 してみれば、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、本件特許発明1について、当業者が過度の試行錯誤を要することなく、実施できる程度の記載があるものといえる。 請求項1の記載を直接または間接的に引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。 エ 特許異議申立人の主張について 以下、特許異議申立人が主張する理由について検討する。 (ア) 「平均一次粒子径」の条件に関する不備について 特許異議申立人は、微細フィラーの粒径が小さいものは、均一な分散が困難であるとの技術常識をふまえ、実施例は0.15μmから0.75μmである例のみにとどまるから、0.15μm未満のものを用いた場合において具体的に記載されていない旨主張する。 しかしながら、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、微細フィラーの平均一次粒子径が0.05〜0.8μmとすること、及びその技術的の意味が記載(段落【0030】)されていること、さらに、分散剤を用いることにより微細フィラーを十分に分散させることの記載(段落【0048】)をふまえるならば、本件特許発明について、当業者が実施することができないものとはいえない。 (イ) 「透水度」及び「透湿度」の条件に関する不備について 特許異議申立人も特許異議申立書において自認しているように、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムの透水度及び透湿度の調整に関し、 ・「ポリオレフィン延伸多孔性フィルム」の構成成分の種類及びその含有量 ・「微細フィラーの粒子径」 ・徐鮨性表面を有する微細フィラーの「疎水化処理の程度(疎水化剤の含有量)」 ・「フィルム内部のボイドの数」 ・「ボイドの連通度」 ・「ボイドの大きさ」 ・「フィルムの延伸倍率」 についてそれぞれ調整の方向性が記載されている。 そして、その全てについて明示するものではないものの、幾つかの条件を調整し、透水度及び透湿度の条件を満たすポリオレフィン延伸多孔性フィルムを作製した実施例についても記載されている。 これらの記載に接した当業者であれば、本件特許発明について、当業者が実施することができないものとはいえない。 オ 申立理由4(実施可能要件)についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえないので、申立理由4によって取り消すことはできない。 (3) 申立理由5(サポート要件)についての判断 ア サポート要件の判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 イ 本件特許の発明の詳細な説明の記載 本件特許の発明の詳細な説明には、上記(1)のとおりの記載がある。 ウ サポート要件についての判断 本件特許発明における課題は、「難透水性と適度な透湿性とを兼ね備えた、樹脂延伸多孔性フィルムを提供すること」(段落【0006】)である。 そして、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、「上記課題を解決するために鋭意検討した結果、水蒸気の通過と水の浸入とを制御する特定のボイドを有する樹脂延伸多孔性フィルムが、難透水性と透湿性の両性能を兼ね備えたものとなることを見出し、本発明を完成するに至った」こと(段落【0007】)、「本実施形態のポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、ポリオレフィン系樹脂と所定の微細フィラーとを少なくとも含み、さらにフィルム内部に連通しているボイド(連通ボイド)を有する、延伸フィルムである」こと(段落【0014】)、「本実施形態の延伸多孔性フィルムに使用することができる微細フィラーは、特定の範囲の平均一次粒子径を有することを特徴とする。この平均一次粒子径とは、延伸多孔性フィルムに、後述する所定の空孔を与えるものである。そして、この微細フィラーは、その表面に、従来の延伸多孔性フィルムに用いられる無機フィラー、典型的には炭酸カルシウムと比べて高い疎水性を示す、疎水性表面を有することが望ましい。この疎水性とは、延伸多孔性フィルムに、後述する所定の透水度と透湿度とを与えるものである」こと(段落【0019】)、「微細フィラーの平均一次粒子径は、通常0.05μm以上であり、0.07μm以上であることが好ましく、0.1μm以上であることがより好ましく、0.12μm以上であることがさらに好ましい。また、微細フィラーの平均一次粒子径は、通常0.8μm以下であり、0.6μm以下であることが好ましく、0.5μm以下であることがより好ましく、0.4μm以下であることがさらに好ましい。微細フィラーの平均一次粒子径が上記の下限値以上であることにより、延伸多孔性フィルム中にボイドが効率よく形成される傾向にある。また、微細フィラーの平均一次粒子径が上記の上限値以下であることにより、粒径の大きなものに比べて配合量が同一であればより多数の微細フィラーを延伸多孔性フィルム中に含有せしめることができる。これにより、連通ボイドが効率よく形成されやすくなり、透湿度が高まる傾向にあるとともに、粗大粒子の混入により延伸時にフィルムが破断することが抑制される傾向にある」こと(段落【0030】)、「延伸多孔性フィルムの透水度は、10,000秒以上であり、12,000秒以上であることが好ましく、14,000秒以上であることがより好ましく、20,000秒以上であることがさらに好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透水度は、85,000秒以下であり、78,000秒以下であることが好ましく、70,000秒以下であることがより好ましく、50,000秒以下であることがさらに好ましい。透水度が上記の下限値以上であることにより、水の通過が抑制される傾向にある。また、透水度の値は大きいほど難透水性であることを示すが、透水度が上記の上限値以下であっても、難透水性は十分に担保できる」こと(段落【0089】)、「延伸多孔性フィルムの透湿度は、700g/m2・24hr以上であり、800g/m2・24hr以上であることが好ましく、1,000以上g/m2・24hr以上であることがより好ましい。また、延伸多孔性フィルムの透湿度は、2,500g/m2・24hr以下であり、2,400g/m2・24hr以下であることが好ましく、2,000g/m2・24hr以下であることがより好ましい。透湿度が上記の下限値以上であることで、水蒸気が延伸多孔性フィルムを容易に透過して、延伸多孔性フィルムに被覆された内部空間に水蒸気が溜まることが防止される傾向にある。また、透湿度が上記の上限値以下であることで、透湿性と難透水性とを両立しやすい傾向にある」こと(段落【0091】)が記載され、これらの条件を満たす具体的な実施例も記載されている。 以上の記載をふまえると、当業者であれば、ポリオレフィン延伸多孔性フィルムは、「ポリオレフィン系樹脂と所定の微細フィラーとを少なくとも含み、さらにフィルム内部に連通しているボイド(連通ボイド)を有する、延伸フィルム」であって、微細フィラーの「平均一次粒子径が0.05〜0.8μm」であり、疎水性表面を有する微細フィラーを含むものとすることで、課題を解決するものと認識できる。 そして、本件特許発明1は、「ポリオレフィン系樹脂」と、「平均一次粒子径が0.05〜0.8μmの微細フィラー」を含み、「連通ボイドを有するポリオレフィン延伸多孔性フィルム」であり、・・・「微細フィラーが、疎水化剤を表面に有する無機微細粉末」を含み、・・・JIS Z0221で測定した透水度が10,000〜85,000秒であり、 JIS Z0208で測定した透湿度が700〜2,500g/m2・24hであるものであるから、当然課題を解決するものであると認識できる。 請求項1の記載を直接または間接的に引用する本件特許発明2ないし7についても同様である。 エ 特許異議申立人の主張について (ア) 「平均一次粒子径」の条件に関する不備について 上記(4)エ(ア)で検討したとおり、微細フィラーの平均一次粒子径の特定範囲全体にわたって実施できるものであり、かつ、上記ウの検討のとおり、当業者であれば課題を解決すると認識できるものである。 (イ) 「透水度」及び「透湿度」の条件に関する不備について 上記(4)エ(イ)で検討したとおり、当業者であれば実施し得るものであり、かつ、上記ウの検討のとおり、当業者であれば課題を解決すると認識できるものである。 オ 申立理由5(サポート要件)についてのまとめ したがって、本件特許の請求項1ないし7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるといえないので、申立理由5によって取り消すことはできない。 第5 結語 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に本件特許の請求項1ないし7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-12-10 |
出願番号 | P2017-555134 |
審決分類 |
P
1
651・
16-
Y
(C08J)
P 1 651・ 536- Y (C08J) P 1 651・ 537- Y (C08J) P 1 651・ 121- Y (C08J) P 1 651・ 113- Y (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
相田 元 植前 充司 |
登録日 | 2021-03-18 |
登録番号 | 6854777 |
権利者 | 株式会社ユポ・コーポレーション |
発明の名称 | ポリオレフィン延伸多孔性フィルム |
代理人 | 真田 有 |