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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A23G
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A23G
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  A23G
管理番号 1384189
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-07 
確定日 2022-01-28 
異議申立件数
事件の表示 特許第6844738号発明「チョコレートの砂糖使用量低減方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6844738号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6844738号の請求項1に係る特許についての出願は、令和2年7月17日の出願であって、令和3年3月1日に特許権の設定登録がされ、令和3年3月17日にその特許公報が発行され、令和3年9月7日に、その請求項1に係る発明の特許に対し、市川 真結子(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6844738号の請求項1に係る発明(以下「本件発明」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項によって特定される以下のとおりのものである。

「【請求項1】
砂糖を2〜30質量%含有するチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する事を特徴とする、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法。」

第3 申立理由の概要及び証拠方法
特許異議申立人は、証拠方法として以下の甲第1号証〜甲第6号証を提出して、以下の申立理由を主張している。

(証拠方法)
甲第1号証:特開2017−18096号公報(以下「甲1」という。)
甲第2号証:特開昭51−125719号公報(以下「甲2」という。)
甲第3号証:特開昭62−265234号公報(以下「甲3」という。)
甲第4号証:国際公開第2016/080512号(以下「甲4」という。)
甲第5号証:Stephen T. Beckett著、古谷野哲夫訳、「チョコレートの科学」、株式会社光琳発行、平成19年6月30日、p.87〜91(以下「甲5」という。)
甲第6号証:日高徹著、「食品用乳化剤 第2版」、株式会社幸書房発行、1991年3月1日第2版発行、p.230−233(以下「甲6」という。)

(申立理由の概要)
申立理由1(新規性進歩性
(1)本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
(2)本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲5に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

申立理由2(進歩性
本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲1に記載された発明及び甲2、3、5、6に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

申立理由3(進歩性
本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲4に記載された発明及び甲2、3、5、6に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

申立理由4(進歩性
本件発明は、本件出願前に日本国内又は外国において、頒布された甲6に記載された発明及び甲1、3、5に記載された技術的事項に基いて、本件出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、本件発明に係る特許は、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

申立理由5(明確性要件)
本件発明は、特許請求の範囲の記載が以下(1)〜(3)の点で、特許法第36条第6項第2号に適合するものではないから、本件発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(1)本件発明の「砂糖の使用量を低減する方法」について、何に比べて砂糖の使用量が低減されているのか、不明確である。

(2)本件発明について、砂糖の使用量は変わらずに、単にフォスファチジルコリンだけを含有させる態様も本件発明に含まれるのか不明である。

(3)本件発明について、フォスファチジルコリンを含有することによる甘味の増強作用によらずに、結果として、チョコレートにおける砂糖の使用量が低減されている場合において、別の理由でフォスファチジルコリンが含有されている態様も、本件発明に含まれるのか不明である。

申立理由6(サポート要件)
本件発明は、特許請求の範囲の記載が以下(1)〜(3)の点で、特許法第36条第6項第1号に適合するものではないから、本件発明に係る特許は、同法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

(1)本件明細書の実施例において、本件発明の課題を解決できているものは、甘味成分として、砂糖とマルチトール、砂糖とイヌリン、砂糖と乳糖が配合されたチョコレートのみであり、チョコレートの甘味の感じ方は、チョコレートに配合される甘味成分の種類や配合量によって大きく変わることは、技術常識であるから、甘味成分として、砂糖のみを含む態様、砂糖に乳糖、マルチトール又はイヌリン以外の甘味成分が配合された態様を含む、本件発明は、その全範囲にわたって課題を解決し得るとはいえず、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

(2)本件発明の「砂糖を2〜30質量%含有する」ことについて、本件明細書の実施例において、本件発明の課題を解決できているものは、砂糖の含有量が5質量%及び19.1質量%のチョコレートのみであり、本件明細書の比較例2−1〜比較例2−3(【0024】〜【0026】)をみると、砂糖の含有量が38.2質量%のチョコレートでは、フォスファチジルコリンを含有することによる砂糖の甘味度増強効果が認められないことから、砂糖を30質量%付近含有するチョコレートでは、甘味度増強効果を期待できないと思われるので、本件発明は、「砂糖を2〜30質量%含有する」全範囲にわたって課題を解決し得るとはいえず、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

(3)本件発明の「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ことについて、本件明細書の実施例において、本件発明の課題を解決できているものは、フォスファチジルコリンを0.08〜0.80質量%含有する場合のみであり、フォスファチジルコリンを0.08質量%未満含有する場合において、本件発明の課題を解決できるかは当業者といえども予測することはできないから、本件発明は、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」全範囲にわたって課題を解決し得るとはいえず、発明の詳細な説明に記載された発明とはいえない。

第4 当審の判断
当審は、請求項1に係る特許は、申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。理由は以下のとおりである。

1 申立理由1(新規性進歩性)について

(1)甲1の記載

ア 甲1の記載
甲1a「【請求項1】
マルチトールを含有するチョコレート組成物において、下記の(a)〜(c)の条件を全て満たす低カロリーチョコレート組成物。
(a)組成物全量に対して25〜55質量%のマルチトールを含有する。
(b)砂糖(X)とマルチトール(Y)の存在量の質量比(X):(Y)が1:3〜0:1である。
(c)オレウロペインを組成物全量に対して0.01〜0.5質量%含有する。」

甲1b「【0001】
本願発明は、砂糖の一部をマルチトールに置換し、かつオレウロペインを高濃度含有するオリーブ葉抽出物を配合した低カロリーチョコレート組成物に関する。
・・・・・
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
砂糖の含有量を削減したチョコレートのもかかわらず、チョコレートとして違和感のない甘さの感じ方と「チョコレートの口溶け感」や「カカオ由来の独特の風味」を有する「おいしいチョコレートを食べたという感覚」が得られる低カロリーチョコレート組成物を提供する。具体的には、砂糖の過半量以上をマルチトールに置換し、更にはチョコレートに含まれる脂質量を削減したとしても、甘味の感じ方や口溶け感、食べた直後から口中に広がるチョコレートの香味が本来のチョコレートと遜色なく、摂取後においしいチョコレートを食べたという満足感が得られる低カロリーチョコレート組成物を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本願発明者らは、かかる事情に鑑み鋭意検討を重ねた結果、オレウロペインを配合し、かつ砂糖とマルチトールの存在比率を特定の範囲に設定することにより、食べたときのチョコレート感を損なうことなく大きくカロリーを削減できることを見出し、本発明を完成するに至った。」

甲1c「【実施例】
【0020】
以下、本発明を具体的に説明するが、本発明は下記の例に限定されるものではない。なお、以下特に断りのない限り「%」は「質量%」を示す。
【0021】
官能評価
表1に示した組成物を常法に従い調製し、専門パネル3名の官能評価で行なった。評価項目は、「香味のバランス」[1(非常に悪い)〜7(非常に良い)]、「チョコレート感の変化」[1(かなり感じる)〜7(全く感じない)]、「(チョコレートとして)異質な苦味の有無」[1(かなり感じる)〜7(全く感じない)]を7段階の絶対評価にて実施した。評価点は各々の平均値を求め、さらに被検体ごとに合計値を算出した。なお、カカオマス中のココアバター含有量は55質量%であり、オリーブ葉エキスAは、オレウロペインを全量に対して35質量%含有するオリーブ葉抽出物である。得られた結果を、表1に示す。
【0022】
【表1】

【0023】
表1に示したとおり、砂糖を10質量%、マルチトールを30質量%含有する砂糖(X)とマルチトール(Y)の存在量の質量比(X):(Y)が1:3よりマルチトールの砂糖に対する存在比率が高いチョコレート組成物は良好な結果を示したが、砂糖がマルチトールの3分の1量以上に含まれるチョコレート組成物は全て本願効果が得られないことが分かった。なお、同様の評価を、オリーブ葉Aエキス配合量を0.375質量%に減じた処方で実施したが、各々の処方において、配合量が0.75質量%の場合とほぼ同じ結果を示すことを確認している。
【0024】
処方例
以下、本発明の低カロリーチョコレート組成物の処方例を示すが、これらの処方に限定されるものではない。なお、カカオマス中のココアバター含有量は55質量%、ココアパウダー中の油脂含有量は20質量%である。以下の配合量はいずれも「質量%」を示す。
【0025】
処方例1 チョコレート
成分 配 合 量
オリーブ葉抽出物B 0.2
マルチトール 25
砂糖 5
カカオマス 15
難消化性デキストリン 20
植物油脂混合物A 15
ココアパウダー 残 部
香料 適 量
合 計 100

植物油脂混合物A 大豆油、ナタネ油、コメ油とレシチンの混合物
オリーブ葉抽出物B オレウロペイン含有量25質量%
【0026】
処方例2 チョコレート
成分 配合量
オリーブ葉抽出物C 1
マルチトール 40
砂糖 10
カカオマス 5
植物油脂混合物B 20
ココアパウダー 20
香料 適量
イヌリン 残部
合 計 100

植物油脂混合物B ナタネ油、パーム油、コメ油とレシチンの混合物
オリーブ葉抽出物C オレウロペイン含有量30質量%
【0027】
処方例3 チョコレート
成分 配合量
オリーブ葉抽出物D 0.5
マルチトール 50
砂糖 5
カカオマス 10
植物油脂混合物A 15
ココアパウダー 15
アーモンド破砕物 2
ポリデキストロース 残部
合 計 100

オリーブ葉抽出物D オレウロペイン含有量20質量%」

イ 甲2の記載
甲2a「2.特許請求の範囲
苦味のある化合物を主薬とする内服用液剤医薬品の製造法に於いて、レシチンおよびケフアリンの単独また岐混合物を薬効を奏しない量添加して該液剤医薬品の苦味をおさえることを特徴とする内服用液剤医薬品の製造法。」(特許請求の範囲)

甲2b「 レシチン又はケファリンは主薬化合物の種類により適宜添加量を調節することが出来るが、特に苦味の著るしい場合は生薬1部に対し10〜1000部添加すれば従来極めて困難であった塩基性医薬品の苦味でも完全に消失させ得るものである。」(1頁右下欄12〜16行)

甲2c「 本発明により製造される液剤は不快な苦味が全く無く、レシチンあるいはケフアリンの風味を僅かに呈し、シロップ、色素香料等の撰択使用により好みに合わせて適宜色調香りおよび味を調節することが出来る。」(2頁左上欄13〜17行)

ウ 甲3の記載
甲3a「2.特許請求の範囲
1.苦味性薬物と賦形剤との配合物に対しレシチン又はレシチン類似物が添加されたことを特徴とする苦味抑制製剤組成物。」(特許請求の範囲 請求項1)

甲3b「産業上の利用分野
本発明は苦味を呈する薬物にレシチン又はレシチン類似物を添加処理することによって得られた苦味抑制製剤組成物に関する。本発明の組成物は薬物の苦味を抑制し、かつ、薬物自体の生体での吸収性には影響を与えない組成物であり、本発明においてこれを工業的に簡便に得ることを目的として発明された。」(2頁左上欄3〜9行)

甲3c「 本発明に用いた苦味抑制剤はレシチン及びレシチン類似物であってその一つのレシチンはホスファチジルコリンともよばれ、ジアシル−L−3−グリセリルホスホリルコリンに相当する。生体内では脳髄、神経、血球、卵黄に多く含まれる。又植物種子中にも存在し、工業的には卵黄由来の卵黄レシチン及び大豆由来の大豆レシチンが広く利用されている。レシチンはそのアシル基がC14〜C22であるものが一般であり、容易に酸化されて着色するロウ様物質である。クロロホルム、エーテル、アルコールに可溶、アセトンにはとけにくく、水にはほとんど溶けない。あらゆるpHで両性イオンとして存在し界面活性を有することから、安価に入手される大豆レシチンはその安全性が高いため食品及び薬剤の乳化剤などとして多量に用いられている。本発明においてはレシチンの持つ安全性と水に不溶の性質ならびにリポソーム(閉鎖小胞)形成性を利用し、苦味を呈する薬物の苦味抑制にレシチン及びその類似物を応用した。」(3頁左上欄9行〜右上欄7行)

甲3d「本発明の組成物が苦味を抑制する理由は必ずしも明らかでないが、レシチンと賦形剤との混和物が物理的に該薬物粉末の表面を覆いコーティング膜を形成するのが主な理由と考えられる。即ちレシチンの物理的コーティングと、賦形剤の物理的、化学的作用とが協力し合うものと考えられる。」(4頁左下欄6〜12行)

エ 甲4の記載
甲4a「請求の範囲
[請求項1] ショ糖パルミチン酸エステルを含有し、カカオマスを35質量%以上含有する板状チョコレートであって、
(i)ショ糖パルミチン酸エステル含有量が0.2質量%以上0.5質量%以下であり且つ板状チョコレートの厚さが1mm以上3mm以下である、又は
(ii)ショ糖パルミチン酸エステル含有量が0.1質量%以上0.5質量%以下であり且つ板状チョコレートの厚さが1mm以上2mm以下である、
板状チョコレート。」

甲4b「発明が解決しようとする課題
[0005] 本発明が解決しようとする課題は、高カカオマス含有量のチョコレートの苦味及び渋みを低減させるというものである。
課題を解決するための手段
[0006] 本発明者らは、鋭意研究の結果、チョコレートの形状を工夫し、さらに乳化剤を添加することによって苦味及び渋みを低減させる技術を発明した。
すなわち、本発明は以下の(1)及び(2)を提供する。
(1)ショ糖パルミチン酸エステルを含有し、カカオマスを35質量%以上含有する板状チョコレートであって、
(i)ショ糖パルミチン酸エステル含有量が0.2質量%以上0.5質量%以下であり且つ板状チョコレートの厚さが1mm以上3mm以下である、又は
(ii)ショ糖パルミチン酸エステル含有量が0.1質量%以上0.5質量%以下であり且つ板状チョコレートの厚さが1mm以上2mm以下である、
板状チョコレート。
(2)1個あたりの質量が2g以上6g以下である、(1)に記載の板状チョコレート。
発明の効果
[0007] 本発明によれば、カカオマス含有量が35質量%以上であるチョコレートにおいて、ショ糖パルミチン酸エステルを所定量チョコレート中に配合し、且つチョコレートを所定の厚さとすることにより、苦味及び渋みを低減させることができる。
・・・・・
[0009] 本発明の板状チョコレートは、板状チョコレートの全質量を基準としてカカオマスを35質量%以上含有する。カカオマスの含有量が35質量%未満のチョコレートは、カカオマスによる苦味及び渋みが強くないため、本発明の課題とするところではない。本発明のチョコレートの苦味及び渋み低減効果が顕著に表れるため、カカオマスの含有量は60質量%以上であることが好ましい。」

甲4c「実施例
・・・・・
[0018](製造例1)
砂糖25質量部、カカオマス64質量部、ココアパウダー5質量部、ココアバター4.5質量部、レシチン0.5質量部、香料1質量部を用いて定法によりチョコレート生地(チョコレート原料混合物)を得た。得られたチョコレート生地99.5質量部、ショ糖パルミチン酸エステル0.5質量部を混合してショ糖パルミチン酸エステル含有チョコレート生地を得た。
・・・・・
[0035] 種々のカカオマス含有量のチョコレート生地を使用し、製造例1と同様の方法で製造した、ショ糖パルミチン酸エステルを加えたチョコレート生地、加えなかったチョコレート生地それぞれについて厚さ2.6mmの板状に成形、固化した後、喫食して品質を比較し、ショ糖パルミチン酸エステルの添加によって苦味及び渋みが減少したかの評価を行った。使用したチョコレートについて表7及び品質評価の結果について表8に示した。・・・



オ 甲5の記載
甲5a「(1)レシチン
チョコレートに最もよく使われる界面活性剤はレシチンで,1930年代から使用されている。これは大豆由来の天然物で,健康にも良いとされている。前述したように,レシチンは砂糖に吸着し,分子の他端を油脂中に自由な形で漂わせ,その流動を促進する。Harrisはレシチンが砂糖に強く吸着するためにチョコレートで大きな効果を発揮することを示したが,後になってVernier3)により,共焦点レーザー顕微鏡を用いて経口レシチンが砂糖粒子を取り囲んでいる様子(図5−12)が確認された。
0.1%から0.3%のレシチン添加は,重量でココアバターの10倍の粘性低下効果があるとされている。チョコレート中のレシチンの存在は,乳化剤のない場合と比較し多量の水を包含可能とする。水分はチョコレート粘性に悪影響を及ぼすので,これは非常に重要である。
しかし高濃度のレシチン添加はチョコレート粘性に有害である。例えば,0.5%以上では(図5−13),レシチン濃度の増加とともに塑性粘度は低下するものの,降伏値は上昇する。Bartusch4)は0.5%添加でおよそ85%の砂糖が被覆されることを示している。これ以上の濃度ではレシチンは自由となり,レシチン間で結合することでミセルまたは砂糖粒子周囲で二分子層(レシチンの親油性部位が別のレシチン分子の親油性部位と結合し層状となる;図5−14)を形成し流動を阻害する結果となる。」(88頁図5−11下1行〜89頁図5−12下2行)

甲5b「チョコレートと表示して販売するためには,チョコレートの種類や製造場所,販売場所によってレシチン含量は0.5%から1.0%に制限されている。また,わずかではあるがレシチンはカカオやミルク,特にバターミルク中に天然に存在している。
大豆レシチンは天然のグリセロリン酸(リン脂質)や大豆油などの混合物であり(表5−1),広く食品工業で使われている。しかしこの組成は一定でないので,レシチン製造者によってはチョコレート流動に対し最適なものとするために分画レシチンを製造,供給している。レシチン中のフォスファチジルコリンはダークチョコレートの塑性粘度低下に特に有効であり(図5−15),その他の成分は特に降伏値に対し有害であるとされている。レシチンの組成は一定ではないため,チョコレート粘性低下効果はバッチ毎に変化する。このため,標準化したレシチンを製造するメーカーもある。」(89頁図5−12下6行〜91頁2行)

甲5c「

」(91頁表5−1)

カ 甲6の記載
甲6a「5.8.3 チョコレート292)
チョコレートはカカオ豆を焙焼し磨砕したビタチョコに,カカオバター,粉乳,粉糖などを加えて混合し,回転ロールを用いて微粒化した後,適温で練り合わせ均質化(コンチング)し,さらに適温に保ってカカオバターの微細な安定な結晶を作り(テンパリング),型に流して作られる.」(230頁下から2行〜231頁3行)

甲6b「

表5.62のように,飲用チョコレートではモノグリセリド,レシチンはフレーバーの強さを低下させるが甘味は強くなり持続性も良くなる.モノグリセリドのほうが低濃度で甘味を強くする効果がある.これは乳化剤が砂糖と複合体を作り砂糖に親油性を与えるからで,乳化剤−砂糖複合体形成は図5.65のように,乳化剤添加で1%砂糖溶液の旋光度の大きな変化もわかるといわれる.305)」(232頁表5.62〜233頁11行)

(2)甲1に記載された発明
甲1は、「砂糖の一部をマルチトールに置換し、かつオレウロペインを高濃度含有するオリーブ葉抽出物を配合した低カロリーチョコレート組成物」(甲1b)に関し記載するものであって、その具体例として、処方例1〜3の処方とする低カロリーチョコレート組成物が記載されている(甲1c)。
この低カロリーチョコレート組成物は、チョコレートの処方を、処方例1〜3とすることにより、砂糖の一部をマルチトールに置換するものであることから、チョコレートにおいて、その処方を、処方例1〜3とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法が記載されているともいえる。

そうすると、甲1には、チョコレートにおいて、その処方を処方例1とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法として、
「チョコレートにおいて、その処方を、オリーブ葉抽出物B(オレウロペイン含有量25質量%)0.2質量%、マルチトール25質量%、砂糖5質量%、カカオマス15質量%、難消化性デキストリン20質量%、植物油脂混合物A(大豆油、ナタネ油、コメ油とレシチンの混合物)15質量%、ココアパウダー残部、香料適量、合計100質量%とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」
の発明(以下「甲1発明1」という。)が記載されているといえる。

また、甲1には、チョコレートにおいて、その処方を処方例2とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法として、
「チョコレートにおいて、その処方を、オリーブ葉抽出物C(オレウロペイン含有量30質量%)1質量%、マルチトール40質量%、砂糖10質量%、カカオマス5質量%、植物油脂混合物B(ナタネ油、パーム油、コメ油とレシチンの混合物)20質量%、ココアパウダー20、香料適量、イヌリン残部、合計100質量%とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」
の発明(以下「甲1発明2」という。)も記載されているといえる。

さらに、甲1には、チョコレートにおいて、その処方を処方例3とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法として、
「チョコレートにおいて、その処方を、オリーブ葉抽出物D(オレウロペイン含有量20質量%)0.5質量%、マルチトール50質量%、砂糖5質量%、カカオマス10質量%、植物油脂混合物A(大豆油、ナタネ油、コメ油とレシチンの混合物)15質量%、ココアパウダー15質量%、アーモンド破砕物2質量%、ポリデキストロース残部、合計100質量%とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」
の発明(以下「甲1発明3」という。)も記載されているといえる。

(3)甲1発明1について

ア 本件発明と甲1発明1との対比

(ア)甲1発明1の「チョコレートにおいて」「・・砂糖5質量%・・とする」とは、チョコレートが砂糖を5質量%含有するものといえるから、本件発明の「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」に相当する。

(イ)甲1発明1の「チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」は、チョコレートにおいて、砂糖の一部をマルチトールに置換して、砂糖の使用量を低減させる方法といえるから、本件発明の「チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」に相当する。

(ウ)そうすると、本件発明と甲1発明1とは、
「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレートにおいて、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点(甲1発明1):チョコレートについて、本件発明は、フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有するものであるのに対し、甲1発明1は、フォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合のその含有量が明らかでない点

イ 判断

(ア)新規性について

a 甲1発明1の「チョコレート」における、フォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合その含有量について、甲1には、記載も示唆もされておらず、不明である。

b また、甲1発明1の「チョコレート」は、「植物油脂混合物A(大豆油、ナタネ油、コメ油とレシチンの混合物)15質量%」(決定注:下線は当審が付与。以下同様。)を含有しているものであり、甲5cより、大豆レシチンの場合にはフォスファチジルコリンが含まれている組成が示されていることから、甲1発明1の「植物油脂混合物A(大豆油、ナタネ油、コメ油とレシチンの混合物)15質量%」にも、フォスファチジルコリンが含まれている可能性があるものの、そのような推測にとどまるものである。

c そして、そのような推測を前提としても、甲1発明1の「チョコレート」における、フォスファチジルコリンの含有量は、「植物油脂混合物A(大豆油、ナタネ油、コメ油とレシチンの混合物)15質量%」中のレシチンの含有割合が不明であるから、結局フォスファチジルコリンの含有量を算出できず、不明である。
また、甲1発明1の「チョコレート」が、フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有するといえる技術常識があったとも認められない。

d そうすると、甲1発明1の「チョコレート」について、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ものであることが記載されているに等しいとはいえない。
したがって、相違点(甲1発明1)は、実質的な相違点といえる。

(イ)進歩性について

a 相違点(甲1発明1)について

甲1には、甲1発明1の「チョコレート」におけるフォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合その含有量については、記載も示唆もされておらず、不明である。

本件発明は、所定量の砂糖を含有するチョコレートにおいて、砂糖の甘味を増強することで、砂糖の使用量を低減する方法を提供しようという課題の下、所定量の砂糖を含有するチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを所定量含有させることで、砂糖の甘味を増強することができ、結果として、砂糖の使用量を低減することができることを見いだし(本件明細書の段落【0005】)、「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」において、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有」させることにより、上記課題を解決したものである。

他方、甲1発明1は、砂糖の含有量を削減したチョコレートにもかかわらず、チョコレートとして違和感のない甘さの感じ方と「チョコレートの口溶け感」や「カカオ由来の独特の風味」を有する「おいしいチョコレートを食べたという感覚」が得られる低カロリーチョコレート組成物を提供することを課題とするものであり、オレウロペインを配合し、かつ砂糖とマルチトールの存在比率を特定の範囲に設定することを課題解決手段としたものである(甲1b)から、敢えてフォスファチジルコリンに着目してその含有量を特定範囲に設定する動機付けがあるとはいえない。

さらに、甲6には、チョコレートはレシチンによって甘味が強くなることが記載されているが(甲6b)、レシチンはフレーバーの強さを低下させることも記載されているから(甲6b)、風味を有するチョコレート組成物を得ることを課題とする甲1発明1において、レシチンを配合することは、当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。

また、甲2〜甲6に記載された事項を検討しても、甲1発明1のような「チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」において、「チョコレート」が「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにすることを動機付けることとなる記載や示唆はないし、本件出願当時の技術常識からも動機付けられるものでもない。

したがって、甲1発明1において、「チョコレート」が「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにすることは、当業者といえども、甲1〜甲6に記載された技術的事項から容易に想到し得たとはいえない。

b 本件発明の効果について
本件発明の効果は、本件明細書の効果の記載(【0007】)及び実施例の記載(【0018】〜【0026】)より理解されるように、簡易な方法で、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減することができることであり、そのような効果は、甲1〜甲6の記載された技術的事項から当業者が予測し得る範囲を超えた顕著なものといえる。

(ウ)申立人の主張について
a 申立人は、特許異議申立書20頁6行〜21頁13行において、相違点(甲1発明1)に関し、甲5a〜甲5cの記載及び本件明細書の段落【0015】の記載を指摘し、一般的なレシチンのチョコレートへの配合量が0.1〜2質量%であることは周知の事実であり、甲1発明1のチョコレートも、レシチンの配合量が0.1〜2質量%である蓋然性が高いこと、したがって、甲1発明1のチョコレートは、フォスファチジルコリンを13−16%含有するレシチンが0.1〜2質量%配合されていることによって、フォスファチジルコリンを0.01〜0.32質量%程度含有する蓋然性が高いから、相違点(甲1発明1)は実質的な相違点ではないこと、また、仮に相違点(甲1発明1)が実質的な相違点であるとしても、甲1発明1のチョコレートにおいて、甲5a〜甲5cの記載に基づき、フォスファチジルコリンを0.01〜0.32質量%程度含有させることも、当業者が容易に想到することである旨を主張している。

b (a)しかしながら、レシチンのチョコレートへの配合量について、甲5aには、「0.1%から0.3%のレシチン添加は,重量でココアバターの10倍の粘性低下効果があるとされている」こと、「しかし高濃度のレシチン添加はチョコレート粘性に有害である。例えば,0.5%以上では・・。0.5%添加・・これ以上の濃度では・・ミセルまたは砂糖粒子周囲で二分子層(・・・)を形成し流動を阻害する結果となる」と記載されており、0.1%から0.3%のレシチン添加は、重量でココアバターの10倍の粘性低下効果があるが、高濃度のレシチン添加はチョコレート粘性に有害であることが記載されているにすぎない。
また、甲5bには、「チョコレートと表示して販売するためには,・・・レシチン含量は0.5%から1.0%に制限されている」と記載されており、チョコレートと表示して販売する観点からは、レシチン含量は0.5%から1.0%であると理解される。
そうすると、レシチンのチョコレートへの一般的な配合量について、申立人の主張する、「甲1発明1のチョコレートも、レシチンの配合量が0.1〜2質量%である蓋然性が高い」ともいえない。

(b)さらに、レシチンにおけるフォスファチジルコリンの含有量について、甲5の表5−1(甲5c)には、大豆レシチンの組成として、フォスファチジルコリンが13−16%含まれていることは記載されているものの、甲5には「この組成は一定ではないので、レシチン製造者によっては・・・分画レシチンを製造、供給している」(甲5b)ことや、「レシチンの組成は一定ではないため・・・標準化したレシチンを製造するメーカーもある」(甲5b)ことも記載されている。
そうすると、甲5の表5−1に記載の、大豆レシチンにおける、フォスファチジルコリンの含有比率が13−16%というのは、一定の数値とは認められない。しかも、甲5の上記記載から、レシチンといっても、大豆レシチンの他にも、分画レシチンや標準化したレシチンも存在するといえ、分画や標準化したレシチンにおけるフォスファチジルコリンの含有比率は、分画や標準化されていない大豆レシチンのその含有比率とは異なるものと理解される。
したがって、レシチンの種類を問わず、任意のレシチンにおけるフォスファチジルコリンの一般的な含有量が13−16%であるとは認められず、周知の事実とも認められない。

(c)このように、甲1発明1のチョコレートに含有されるレシチンについて、レシチンのチョコレートへの一般的な配合量は0.1〜2質量%であることさえいい切れない上に、甲1発明1のチョコレートに含有されるレシチンの配合量が0.1〜2質量%であることが明らかではないのであるから、甲1発明1のチョコレートに含有されるレシチンの種類が大豆レシチンか否か不明である上、フォスファチジルコリンの含有量が13−16%であるとは言い切れないことを考慮すると、甲1発明1のチョコレートが、フォスファチジルコリンをどのくらいの質量%含有しているのか、算出することはできないというべきである。

(d)そうすると、申立人の主張する、甲1発明1のチョコレートが、フォスファチジルコリンを0.01〜0.32質量%程度含有する蓋然性が高いとはいえないし、甲1発明1のチョコレートにおいて、甲5a〜甲5cの記載に基づき、フォスファチジルコリンを0.01〜0.32質量%程度含有させることも、当業者が容易に想到し得たものとも認められない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。

ウ 小括
以上より、本件発明は、甲1に記載された発明であるといえず、また、甲1に記載された発明及び甲1〜甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)甲1発明2又は甲1発明3について

ア 本件発明と、甲1発明2又は甲1発明3との対比

(ア)甲1発明2の「チョコレートにおいて」「・・砂糖10質量%・・とする」、又は、甲1発明3の「チョコレートにおいて」「・・砂糖5質量%・・とする」とは、チョコレートが砂糖を10又は5質量%含有するものといえるから、それぞれ、本件発明の「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」に相当する。

(イ)甲1発明2又は甲1発明3の「チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」は、チョコレートにおいて、砂糖の一部をマルチトールに置換して、砂糖の使用量を低減させる方法といえるから、それぞれ、本件発明の「チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」に相当する。

(ウ)そうすると、本件発明と、甲1発明2又は甲1発明3とは、
「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレートにおいて、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点(甲1発明2)又は相違点(甲1発明3):チョコレートについて、本件発明は、フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有するものであるのに対し、甲1発明2又は甲1発明3は、フォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合のその含有量が明らかでない点

イ 判断
相違点(甲1発明2)又は相違点(甲1発明3)は、前記(3)ア(ウ)の相違点(甲1発明1)と同様であるから、前記(3)イで述べたとおりである。
したがって、本件発明は、甲1に記載された発明であるといえず、また、甲1に記載された発明及び甲1〜甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(5)まとめ
よって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものではなく、また、同法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

2 申立理由2(進歩性)について

(1)甲1に記載された発明
甲1の「砂糖の一部をマルチトールに置換し、かつオレウロペインを高濃度含有するオリーブ葉抽出物を配合した低カロリーチョコレート組成物」(甲1b)の具体例として、実施例の【表1】(【0022】)には、実施例2の処方とする低カロリーチョコレート組成物が記載されており(甲1c)、チョコレートにおいて、その処方を、実施例2とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法が記載されているといえる。

そうすると、甲1には、チョコレートにおいて、その処方を実施例2とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法として、
「チョコレートにおいて、その処方を、マルチトール30質量%、砂糖10質量%、カカオマス35質量%、ココアバター10質量%,オリーブ葉エキスA(オレウロペインを全量に対して35質量%含有するオリーブ葉抽出物)0.75質量%、難消化性デキストリン残部、合計100質量%とする、チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」
の発明(以下「甲1発明4」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明と甲1発明4との対比

ア 甲1発明4の「チョコレートにおいて」「・・砂糖10質量%・・とする」とは、チョコレートが砂糖を10質量%含有するものといえるから、本件発明の「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」に相当する。

イ 甲1発明4の「チョコレートにおける砂糖の一部をマルチトールに置換する方法」は、チョコレートにおいて、砂糖の一部をマルチトールに置換して、砂糖の使用量を低減させる方法といえるから、本件発明の「チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」に相当する。

ウ そうすると、本件発明と甲1発明4とは、
「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレートにおいて、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点(甲1発明4):チョコレートについて、本件発明は、フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有するものであるのに対し、甲1発明4は、フォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合のその含有量が明らかでない点

(3)判断

ア 相違点(甲1発明4)は、前記(3)ア(ウ)の相違点(甲1発明1)と同様であるから、前記(3)イで述べたとおりである。
したがって、本件発明は、甲1に記載された発明及び甲1〜甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書22頁5行〜23頁6行において、相違点(甲1発明4)の官能評価に関し、【表1】(甲1c)には「異質な苦味の有無」が「4.3」とあり、他の実施例に比べて数値が低く、異質な苦味が感じられ、甘味が足りないことが、当業者であれば容易に予想できること、苦味を抑制する添加物として、レシチンは周知であり(甲2a、甲2b、甲3a、甲3b)、また、チョコレートの甘味を強くする添加物としても、レシチンは周知である(甲6a)から、甲1発明4において、異質な苦味を緩和し、甘味を維持するために、チョコレートにレシチンを添加してみようとすることは当業者が容易に想到し得ること、その際、レシチンをどのくらい添加するかは当業者が適宜決定し得ることである旨主張している。

しかしながら、甲1発明4は、甲1の「砂糖の一部をマルチトールに置換し・・低カロリーチョコレート組成物」(甲1b)の好ましい具体例の一つである実施例2に基づく発明であり、その実施例2と並んで【表1】(甲1c)に列挙されている比較例1〜5をみると、それらの「異質な苦味の有無」の評価は「2.0〜3.3」(「[1(かなり感じる)〜7(全く感じない)]を7段階の絶対評価にて実施」)(甲1c)であり、これら比較例の評価結果と比較し、甲1発明4の「異質な苦味の有無」評価の「4.3」は高く、比較例と比べて異質な苦味はあまり感じられない評価結果と理解されるから、甲1発明4の認定の根拠となった実施例2と他の実施例との相対的評価はともかく、甲1には「【0023】表1に示したとおり・・砂糖(・・)とマルチトール(・・)の存在量の質量比・・が1:3よりマルチトールの砂糖に対する存在比率が高いチョコレート組成物は良好な結果を示した」(甲1c)として記載されているのであるから、申立人の主張するような点に着目とするとはいえない。
それ故、甲1発明4において、異質な苦味を緩和し、甘味を維持するために、チョコレートにレシチンを添加してみようとは、当業者は容易に想到し得たとはいえない。ましてや、甲1発明4のチョコレートにおいて、甲1発明1と同様、前記1(3)イ(イ)で述べたように、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにしようという動機付けがあるとは認められない以上、当該構成とすることも、当業者が容易に想到し得たとはいえない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。

(4)まとめ
以上より、本件発明は、甲1に記載された発明及び甲1〜甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

3 申立理由3(進歩性)について

(1)甲4に記載された発明
甲4は、「ショ糖パルミチン酸エステルを含有し、カカオマスを35質量%以上含有する板状チョコレートであって、
(i)ショ糖パルミチン酸エステル含有量が0.2質量%以上0.5質量%以下であり且つ板状チョコレートの厚さが1mm以上3mm以下である、又は
(ii)ショ糖パルミチン酸エステル含有量が0.1質量%以上0.5質量%以下であり且つ板状チョコレートの厚さが1mm以上2mm以下である、板状チョコレート」(甲4a)に関し記載するものであって、その具体例として、製造例1並びに[表7]の実施例4〜6(甲4c)には、チョコレートの所定の配合に基づき、製造例1と同様の方法に従い、板状チョコレートを製造したことが記載されている。

そうすると、甲4には、それら板状チョコレートの製造方法として、
「砂糖1.6〜25.2質量部、カカオマス64〜87.0質量部、ココアパウダー5.0〜12.0質量部、ココアバター0〜4.5質量部、レシチン0.5質量部、香料0.1〜1質量部を用いて定法によりチョコレート生地(チョコレート原料混合物)を得、得られたチョコレート生地99.5質量部、ショ糖パルミチン酸エステル0.5質量部を混合してショ糖パルミチン酸エステル含有チョコレート生地を得、その生地を所定の厚さの板状チョコレートに成形する、板状チョコレートの製造方法」
の発明(以下「甲4発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明と甲4発明との対比

ア 甲4発明の「砂糖1.6〜25.2質量部」「を用いて」について、質量部がほぼ質量%と同じといえることから、本件発明の「砂糖を2〜30質量%含有する」とは、砂糖を所定の質量%含有する点で共通する。

イ 甲4発明の「板状チョコレートの製造方法」と、本件発明の「チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」とは、チョコレートに関する方法である点で共通する。

ウ そうすると、本件発明と甲4発明とは、
「砂糖を所定の質量%含有するチョコレートに関する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1(甲4発明):チョコレートについて、本件発明は、フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有するものであるのに対し、甲4発明は、フォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合のその含有量が明らかでない点

相違点2(甲4発明):本件発明では、チョコレートが含有する砂糖の質量%が2〜30質量%であるのに対し、甲4発明では、チョコレート生地(チョコレート原料混合物)が含有する砂糖の質量%が1.6〜25.2質量部である点

相違点3(甲4発明):チョコレートに関する方法について、本件発明は、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法であるのに対し、甲4発明は、板状チョコレートの製造方法である点

(3)判断

ア 相違点について
相違点1(甲4発明)について検討する。

(ア)甲4には、甲4発明のチョコレートにおけるフォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合のその含有量については、記載も示唆もされておらず、不明である。

(イ)前記1(3)イ(イ)で述べたように、本件発明は、所定量の砂糖を含有するチョコレートにおいて、砂糖の甘味を増強することで、砂糖の使用量を低減する方法を提供しようという課題の下、所定量の砂糖を含有するチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを所定量含有させることで、砂糖の甘味を増強することができ、結果として、砂糖の使用量を低減することができることを見いだし(本件明細書の段落【0005】)、「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」において、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有」させることにより、当該課題を解決したものである。

他方、甲4発明は、高カカオマス含有量のチョコレートの苦味及び渋みを低減させることを課題とするものであり、チョコレートの形状を工夫し、さらに乳化剤を添加することを課題解決手段としたものであるから(甲4b)、敢えてフォスファチジルコリンに着目してその含有量を特定範囲に設定する動機付けがあるとはいえない。

また、甲1〜甲3、甲5、甲6に記載された事項を検討しても、甲4発明の「チョコレート」が「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにすることを動機付けることとなる記載や示唆はないし、本件出願当時の技術常識からも動機付けられるものでもない。

(ウ)したがって、甲4発明において、「チョコレート」が「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにすることは、当業者といえども、甲1〜甲6に記載された技術的事項から容易に想到し得たとはいえない。

イ 本件発明の効果について
本件発明の効果は、前記1(3)イ(イ)で述べたように、簡易な方法で、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減することができることであり、そのような効果は、甲1〜甲6の記載された技術的事項から当業者が予測し得る範囲を超えた顕著なものといえる。

ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書24頁5行〜下から8行において、相違点1(甲4発明)に関し、甲2、甲3及び甲6に記載されているとおり、レシチンは苦味を抑制する添加物として周知であるから、甲4発明において、高カカオマスに由来する苦味や渋みを抑制するために、周知の苦味抑制物質であるレシチンを用いようとすることは、当業者が容易になし得ることであり、その際、レシチンをどのくらい添加するかは当業者が適宜決定し得ることである旨を主張している。

しかしながら、甲4発明は、高カカオマス含有量のチョコレートの苦味及び渋みを低減させる課題の下、カカオマス含有量が35質量%以上であるチョコレートにおいて、ショ糖パルミチン酸エステルを所定量チョコレート中に配合し、且つチョコレートを所定の厚さとすることによって、上記課題を既に解決したものである。
また、甲4発明のチョコレート生地(チョコレート原料混合物)は、レシチン0.5質量部を含有しているが、前記1(3)イ(ウ)で述べたことを踏まえると、甲4発明のチョコレート生地に含有されるレシチンの種類が大豆レシチンか否か不明である上、甲4発明のレシチンにおけるフォスファチジルコリンの含有量が13−16%であるとはいいきれないことから、甲4発明のチョコレート生地が、フォスファチジルコリンをどのくらいの質量%含有しているのか、算出することはできない。
そうすると、上記課題を既に解決している甲4発明のチョコレートにおいて、既に含有しているレシチン中に含まれるフォスファチジルコリンの含有量を考慮しつつ、チョコレートにおけるフォスファチジルコリンの含有量が合計0.01〜0.65質量%となるようにしようという動機付けがあるとは認められない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。

(4)まとめ
以上より、相違点2(甲4発明)及び相違点3(甲4発明)を検討するまでもなく、本件発明は、甲4に記載された発明及び甲1〜甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

4 申立理由4(進歩性)について

(1)甲6に記載された発明
甲6は、「食品用乳化剤」の本であって、チョコレートの項目において、チョコレートの製造では、粉糖を含有させていること(甲6a)、及び、表5.62には、飲用チョコレートに乳化剤としてレシチンを0.2〜0.8%含有させると、甘味は強くなり持続性も良くなること(甲6b)が記載されている。これは、粉糖を含有する飲用チョコレートにおいて、レシチンを0.2〜0.8%含有させることによる、甘味を強くする方法が記載されているといえる。

そうすると、甲6には、
「粉糖を含有する飲用チョコレートにおいて、レシチンを0.2〜0.8%含有させることによる、甘味を強くする方法」
の発明(以下「甲6発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明と甲6発明との対比

ア 甲6発明の「粉糖を含有する飲用チョコレート」と、本件発明の「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」とは、砂糖を含有するチョコレートの点で共通する。

イ 甲6発明の「飲用チョコレートにおいて」「甘味を強くする方法」と、本件発明の「チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」とは、チョコレートに関する方法である点で共通する。

ウ そうすると、本件発明と甲6発明とは、
「砂糖を含有するチョコレートに関する方法」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1(甲6発明):チョコレートについて、本件発明は、フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有するものであるのに対し、甲6発明は、フォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合のその含有量が明らかでない点

相違点2(甲6発明):砂糖を含有するチョコレートについて、本件発明は、砂糖を2〜30質量%含有するものであるのに対し、甲6発明は、砂糖の含有量が明らかでない点

相違点3(甲6発明):チョコレートに関する方法について、本件発明は、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法であるのに対し、甲4発明は、飲用チョコレートにおいて甘味を強くする方法である点

(3)判断

ア 相違点について
事案に鑑み、相違点1(甲6発明)及び相違点2(甲6発明)をまとめて検討する。

(ア)甲6には、甲6発明のチョコレートにおける、フォスファチジルコリンの含有の有無、及び、含有している場合のその含有量、並びに、粉糖の含有量については、記載も示唆もされておらず、不明である。

(イ)前記1(3)イ(イ)で述べたように、本件発明は、所定量の砂糖を含有するチョコレートにおいて、砂糖の甘味を増強することで、砂糖の使用量を低減する方法を提供しようという課題の下、所定量の砂糖を含有するチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを所定量含有させることで、砂糖の甘味を増強することができ、結果として、砂糖の使用量を低減することができることを見いだし(本件明細書の段落【0005】)、「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」において、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有」させることにより、当該課題を解決したものである。

他方、甲6発明は、「食品用乳化剤」の本において、乳化剤であるレシチンの飲用チョコレートの甘味に与える影響として、飲用チョコレートにレシチンを0.2〜0.8%含有させると、甘味は強くなり持続性も良くなるという技術的特徴を示したものにすぎず、さらに積極的に、砂糖の使用量を低減する方法を提供しようという課題があるものとは認められない。
そのような甲6発明の飲用チョコレートにおいて、「砂糖を2〜30質量%含有する」ようにすること、及び、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにしようという動機付けがあるとは認められない。

また、甲1〜甲5に記載された事項を検討しても、甲6発明の「飲用チョコレート」において、「砂糖を2〜30質量%含有する」ようにすること、及び、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにすることを動機付ける記載や示唆はないし、本件出願当時の技術常識からも動機付けられるものでもない。

(ウ)したがって、甲6発明の「飲用チョコレート」において、「砂糖を2〜30質量%含有する」ようにすること、及び、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ようにすることは、当業者といえども、甲1〜甲6に記載された技術的事項から容易に想到し得たとはいえない。

イ 本件発明の効果について
本件発明の効果は、前記1(3)イ(イ)で述べたように、簡易な方法で、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減することができることであり、そのような効果は、甲1〜甲6の記載された技術的事項から当業者が予測し得る範囲を超えた顕著なものといえる。

ウ 申立人の主張について
申立人は、特許異議申立書25頁11行〜26頁18行において、相違点1(甲6発明)に関し、甲1の課題からも理解されるように、チョコレートの甘味を維持しながら、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減するという課題は、本件出願当時、周知の課題であるから、当該課題において、甲6発明を利用し、チョコレートにレシチンを含有させることで、チョコレートの甘味を維持しながら、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減してみることは、当業者であれば容易に想到し得るものであること、甲3より、レシチンはフォスファチジルコリンともよばれることから(甲3b)、レシチンのチョコレートの砂糖の甘味を増強する作用は、フォスファチジルコリンによる作用ともいえること、また、甲6発明のチョコレートは、レシチンを0.2〜0.8%含有するものであるが、レシチンのチョコレートへの砂糖の甘味を増強する作用をさらに期待して、一般的なレシチンのチョコレートへの配合量の上限値の2質量%まで試してみることは、当業者であれば容易に想到するものであり、甲5より、大豆レシチンはフォスファチジルコリンを13−16%含有することから、甲6発明のチョコレートがレシチン0.2〜2質量%配合されることにより、フォスファチジルコリンを0.03〜0.32%含有するものであるから、甲6発明のチョコレートにおいて、相違点1(甲6発明)の本件発明の構成とすることは、当業者が容易に想到し得る旨を主張している。

しかしながら、甲6発明は、乳化剤であるレシチンの飲用チョコレートの甘味に与える影響として、飲用チョコレートにレシチンを0.2〜0.8%含有させると、甘味は強くなり持続性も良くなるという技術的事項を示したものにすぎないから、甲6発明において、レシチンのチョコレートへの砂糖の甘味を増強する作用を、さらに期待して、レシチンの配合量を増やそう、という動機付けがあるとは認められない。
さらに、前記1(3)イ(ウ)で述べたように、レシチンのチョコレートへの一般的な配合量に関し、申立人の主張する、「一般的なレシチンのチョコレートへの配合量が0.1〜2質量%であることが周知の事実であり」とはいえず、さらに、レシチンの種類を問わず、任意のレシチンにおけるフォスファチジルコリンの一般的な含有量が13−16%であるとは認められないから、甲6発明のチョコレートにおいて、レシチンを0.2〜2質量%配合させること、及び、それによりフォスファチジルコリンを0.03〜0.32%含有するものとすることは、当業者が容易に想到し得るものとも認められない。
したがって、申立人の前記主張は採用できない。

(4)まとめ
以上より、相違点3(甲6発明)を検討するまでもなく、本件発明は、甲6に記載された発明及び甲1〜甲6に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してなされたものではないから、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものではない。

5 申立理由5(明確性要件)について

(1)申立人の主張(1)について
本件明細書には、「【0013】・・・なお、通常のチョコレートにおける砂糖の量は35〜45質量%程度であり、本発明においては、より少ない砂糖の量で、通常の量の砂糖を入れた場合と同様の甘味を感じることができるものである。」及び「【0014】フォスファチジルコリンを含むレシチンは、従来からチョコレートに使用されてきた素材である。しかし、通常量の砂糖が存在するチョコレートにおいて、レシチンを使用することで、甘さが顕著に強まる傾向は認識されなかった。すなわち本発明は、砂糖を減らしたチョコレートにおいて、レシチンにより甘さを増強できる効果を見いだしたことに基づく発明である。」と記載されている。
これらの記載より、通常のチョコレートにおける砂糖の量は35〜45質量%程度であるところ、本件発明では、チョコレートにフォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有させることにより、結果として、「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」として、砂糖の使用量を低減させることとなると理解される。
そうすると、本件発明の「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレートにおいて、・・・砂糖の使用量を低減する方法」は、「通常のチョコレートにおける砂糖の量」(35〜45質量%程度)に比べて、砂糖の使用量が低減されると理解され、チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法として明確といえる。

(2)申立人の主張(2)について
本件発明は、前記(1)で述べたように理解されるものであり、「チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する方法」と特定されている発明であるから、砂糖の使用量は変わらずに、単にフォルファチジルコリンだけを含有させる態様は、本件発明に含まれないといえ、本件発明は明確といえる。

(3)申立人の主張(3)について
前記(1)で述べたように、本件発明は、チョコレートにフォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有させることにより、結果として、「砂糖を2〜30質量%含有するチョコレート」として、砂糖の使用量を低減させる方法と理解されるものであるから、本件発明は明確といえる。

(4)まとめ
したがって、本件発明は明確であるといえ、特許法第36条第6項第2号に適合するものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。

6 申立理由6(サポート要件)について

(1)特許法第36条第6項第1号の判断の前提について
特許法第36条第6項は、「第二項の特許請求の範囲の記載は、次の各号に適合するものでなければならない。」と規定し、その第1号において「特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであること。」と規定している。同号は、明細書のいわゆるサポート要件を規定したものであって、特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものとされている。
以下、この観点に立って、判断する。

(2)特許請求の範囲の記載
前記第2に記載したとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
発明の詳細な説明には、背景技術(【0002】〜【0003】)、発明が解決しようとする課題(【0003】)、課題を解決するための手段(【0005】)、発明の効果(【0007】)及び実施例(【0018】〜【0026】)が記載されている。

(4)判断
事案に鑑み、申立人の主張(1)〜(3)を、纏めて検討する。

ア 本件発明の課題について
発明の詳細な説明の背景技術の記載(【0002】〜【0003】)、発明が解決しようとする課題の記載(【0003】)、課題を解決するための手段の記載(【0005】)、発明の効果の記載(【0007】)及び実施例の記載(【0018】〜【0026】)からみて、本件発明の解決しようとする課題は、所定量の砂糖を含有するチョコレートにおいて、砂糖の甘味を増強することで、砂糖の使用量を低減する方法を提供することであると認める。

イ 本件発明の実施例として、実施例(【0018】〜【0026】)には、甘味成分として、砂糖と糖アルコールとしてのマルチトール、砂糖と食物繊維としてのイヌリン、砂糖と乳糖を配合した、砂糖を5質量%又は19.1質量%含有するチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを0.1〜0.35質量%含有するようにしたもの(実施例1−1〜1−6、実施例1−7〜1−12、実施例1−13〜1−18)を官能評価に供した結果、フォスファチジルコリンを含有しないもの(比較例1−1、1−2、1−3)と比較し、甘味度が増強されたこと、及び、上記実施例1−7〜1−12と、フォスファチジルコリンを含有するが甘味成分として砂糖を含有しない点が異なるもの(比較例1−4〜1−10)と比較し、砂糖を含有することにより甘味度が増強されたこと、砂糖を19.1質量%含有するチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを0.4〜0.80質量%含有するようにしたもの(実施例1−23、1−24)を官能評価に供した結果、フォスファチジルコリンを含有しないもの(比較例1−12)と比較し、甘味度が増強されたことを、それぞれ具体的に確認し、所定量の砂糖を含むチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを所定量含むことにより、砂糖の甘味増加効果を確認したこと記載されている。

ウ 本件発明の、「チョコレートにおける砂糖の使用量を低減する」こと、「砂糖を2〜30質量%含有する」こと、及び、「フォスファチジルコリンを0.01〜0.65質量%含有する」ことについて、本件明細書には、一般的な実施の態様の記載として、以下のことが記載されている。
「【0013】
・・本発明は砂糖の代わりに、砂糖以外の高甘味度甘味料を添加するのではなく、減らした砂糖の甘味を増強する事で、砂糖の使用量を減らすことができるものである。そのため、本発明においては低減することができるとは言え、チョコレート中に2〜30質量%の砂糖を含有している必要がある。この量は、より望ましくは4〜25質量%であり、更に望ましくは15〜22質量%である。砂糖の量が適当であることで、砂糖の量を減らしても、十分な甘味を感じられるチョコレートを得る事ができる。
・・・・・
【0014】
フォスファチジルコリンを含むレシチンは、従来からチョコレートに使用されてきた素材である。・・・本発明は、砂糖を減らしたチョコレートにおいて、レシチンにより甘さを増強できる効果を見いだしたことに基づく発明である。
【0015】
本発明においては、チョコレート中にPCを0.01〜0.65質量%含有する必要がある。この量は、より望ましくは0.04〜0.6質量%であり、更に望ましくは0.07〜0.5質量%である。PCの量が適当であることで、適当な甘味増強効果を得ることができる。」

これらの記載より、申立人の主張(2)について、本件発明は、砂糖を減らしたチョコレートにおいて、フォスファチジルコリンを所定量含むことにより、砂糖の甘味を増強することで、砂糖の使用量を減らすことができるものであって、チョコレート中に2〜30質量%の砂糖を含有している必要があり、実施例は、当該範囲中のより好ましい含有量や更に望ましい含有量で実施したものと理解される。
申立人の主張(3)について、フォスファチジルコリンの含有量に関しても、フォスファチジルコリンが少ない含有量については、実施例で更に望ましい含有量で実施したものと理解される。
そして、申立人の主張(1)について、本件発明の砂糖の使用量を減らす方法においては、甘味成分として、砂糖を所定量含むことが必要であるから、砂糖を所定量含んでいれば、砂糖単独であっても、また、実施例以外の甘味成分が配合された態様であっても、砂糖の甘味を増強し、砂糖の使用量を減らすことができると理解できる。

そうすると、実施例のようにチョコレートを調製すれば、砂糖の甘味を増強することで、砂糖の使用量を低減できることを考慮すると、実施例で確認した範囲だけでなく、砂糖の甘味増強作用の技術的思想に基づいて、たとえその程度に変化が生じるとしても、一定程度課題が解決し得ると、当業者は理解できるといえる。

(5)まとめ
したがって、本件発明についての特許請求の範囲の記載は発明の詳細な説明に記載したものであるといえ、特許法第36条第6項第1号に適合するものである。
よって、本件発明に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たすものであるから、同法第113条第4号の規定により取り消すことができない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立ての理由及び証拠によっては、本件発明に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-01-14 
出願番号 P2020-122690
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A23G)
P 1 651・ 113- Y (A23G)
P 1 651・ 537- Y (A23G)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 瀬良 聡機
特許庁審判官 齊藤 真由美
冨永 保
登録日 2021-03-01 
登録番号 6844738
権利者 不二製油株式会社
発明の名称 チョコレートの砂糖使用量低減方法  

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