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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C09D
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C09D
管理番号 1384190
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-08 
確定日 2022-02-16 
異議申立件数
訂正明細書 true 
事件の表示 特許第6841531号発明「防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6841531号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1−4〕について訂正することを認める。 特許第6841531号の請求項1ないし4に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6841531号の請求項1〜4に係る特許についての出願は、平成30年5月21日(優先権主張 平成29年6月1日、日本)を国際出願日とする出願であって、令和3年2月2日にその特許権の設定登録がされ、同年3月10日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年9月8日に特許異議申立人安藤慶治は特許異議の申立てを行い、当審は、令和3年11月2日付けで取消理由を通知した。この取消理由通知に対して、特許権者は、同年12月10日に意見書の提出及び訂正の請求を行った。この訂正請求に対し、特許異議申立人に意見書を提出する機会を与えたが、指定された期間に意見書は提出されなかった。

第2 本件訂正の適否についての判断
1 本件訂正の内容
本件訂正の内容は、次の訂正事項1のとおりである。なお、訂正前の請求項2〜4は、訂正前の請求項1の記載を引用しているから、本件訂正は、一群の請求項1〜4について請求されている。
(訂正事項1)
特許請求の範囲の請求項1に「(但し、前記イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位が前記ポリエステルウレタン樹脂(A)に含まれるものを除く。)」という限定を追加する(請求項1を直接又は間接的に引用する請求項2〜4についても同様に訂正する。)。

2 訂正の目的の適否、新規事項の有無、及び、特許請求の範囲の拡張・変更の存否について
(訂正事項1について)
訂正前の請求項1において、「ポリエステルウレタン樹脂(A)がポリエステルポリオール(a)とイソシアネート化合物(b)とをウレタン化反応させて得られる生成物であ」ることが特定されているところ、訂正事項1は、「ポリエステルウレタン樹脂(A)」について、「前記イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位が前記ポリエステルウレタン樹脂(A)に含まれるものを除く」というものである。
一方、後述するように、甲1発明におけるポリエステルウレタン樹脂(甲1発明では「分解性ポリウレタン」)は、その合成過程で鎖延長剤として1,4−ブタンジオールが用いられていることから、甲1発明においては、イソシアネート化合物(甲1発明では「3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)」)に由来するユニット同士には、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位がポリエステルウレタン樹脂に含まれるものとなっている。
そうすると、訂正事項1は、甲1発明のポリエステルウレタン樹脂を含まないことを規定するものといえ、特許法第120条の5第2項ただし書第1号に規定する特許請求の範囲の減縮を目的とするものであり、新規事項を追加するものではなく、実質上特許請求の範囲を拡張し、又は変更するものではなく、特許法第120条の5第9項で準用する特許法第126条第5項及び第6項に適合する。
また、請求項1を引用する請求項2〜4についても、同様である。

3 小括
以上のとおり、特許請求の範囲を、訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項〔1〜4〕について訂正することを認める。

第3 本件発明
上記第2で述べたとおり、本件訂正後の請求項1〜4について訂正することを認めるので、本件の請求項1〜4に係る発明は、令和3年12月10日付けの訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲の請求項1〜4に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下、請求項に係る発明を、項番号に応じて「本件発明1」などといい、まとめて「本件発明」ともいう。)である。
「【請求項1】
ポリエステルウレタン樹脂(A)および防汚薬剤(B)を含有する防汚塗料組成物であって、
前記ポリエステルウレタン樹脂(A)がポリエステルポリオール(a)とイソシアネート化合物(b)とをウレタン化反応させて得られる生成物であり、
前記ポリエステルポリオール(a)は、下記式(1)又は式(2)で表される、防汚塗料組成物(但し、前記イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位が前記ポリエステルウレタン樹脂(A)に含まれるものを除く。)。
【化1】

(式中、nは、1〜100の整数であり、n個のR1は、互いに同一又は異なり、n個のR1のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基であり、(n+1)個のR2は、互いに同一又は異なり、(n+1)個のR2のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基である。)
【化2】

(式中、r及びsは、それぞれ、0〜100の整数である。但し、r+s≧1である。(r+s)個のR4は、互いに同一又は異なる。R3は、アルキレン基であり、R4は、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基である。)
【請求項2】
前記式(1)のポリエステルポリオール(a)は、下記式(3)で表されるジカルボン酸又はその誘導体を含む酸成分と、下記式(4)で表されるジオール化合物を含む多価アルコールとをエステル化反応またはエステル交換反応させて得られる生成物である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
HOOC−R1−COOH (3)
HO−R2−OH (4)
【請求項3】
前記式(2)の前記ポリエステルポリオール(a)は、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、α−アセトラクトンから選ばれるラクトン化合物を、下記式(5)で表されるジオール化合物を含む多価アルコールを開始剤とし、開環重合させて得られる生成物である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
HO−R3−OH (5)
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物。」

第4 取消理由通知に記載した取消理由の概要
本件訂正前の請求項1〜4に係る発明に対して、当審が令和3年11月2日付けで特許権者に通知した取消理由の概要は、次のとおりである。
「理由1(新規性)請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
理由2(進歩性)請求項1〜4に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲1に記載された発明又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。

甲1:Shanshan Chen, Chunfeng Ma, Guangzhao Zhang,"Biodegradable polymer as controlled release system of organic antifoulant to prevent marine biofouling", Progress in Organic Coatings, 104(2017),58-63(特許異議申立人が提出した甲第1号証)」

第5 取消理由通知に記載した取消理由についての当審の判断
1 甲1の記載(甲1の部分翻訳文を以下に示す。下線は当審が付与した。)
(1)第58頁左中欄「ARTICLE INFO(文献情報)」
記事の履歴
2016年9月28日受領
2016年11月7日修正版の受領
2016年12月12日承認
2016年12月22日オンラインで公開

(2)第58頁左下欄第1行〜右下欄第7行
1.はじめに
海洋生物のファウリングは、海洋産業や海事活動における世界的な問題である。重金属を含む自己研磨コポリマー(SPCs)コーティングは,海洋生物のファウリング対策として有効であるが,高毒性の殺生物剤を放出し,主鎖が非分解性であるため,生態系に悪影響を及ぼすとして使用が禁止されている[1−4]。分解性ポリマーは、自己研磨性の表面を形成し、防汚剤のキャリアや放出システムとして機能する。特に、主鎖が分解性であることから、静的な海洋環境では非常に限られた防汚性しか持たない従来のSPCsとは異なり、動的および静的な環境で良好な防汚性能を示す[5−11]。しかし,結晶化度が高いため,基材への接着性が低く,また分解が遅いため,用途が限定されていた[6,7,12]。密着性を向上させ,劣化を抑制するためには,結晶化度や球晶サイズを小さくする必要がある[5,8,13]。本研究では,ポリ(エチレンアジペート)(PEA),ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA),ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA)の各セグメントを用いて,再生可能な資源を原料とした分解性ポリウレタンを調製した[14−18]」。ポリウレタンは,有機防汚剤(4,5−ジクロロ−2−オクチルイソチアゾロン)のキャリアとして使用された。我々は、ポリウレタンの劣化、防汚剤の放出、防汚性と機械的特性を調査した。私たちの目標は、良好な防汚性能と基材への高い接着性を備えた、環境に優しい海洋防汚システムを開発することです。

(3)第58頁右下欄第8行〜最終行
2.実験
2.1.材料
Xuchuan Chem社のポリ(エチレンアジペート)ジオール(PEA,Mw=2000g/mol),ポリ(1,4−ブチレンアジペート)ジオール(PBA,Mw=2000g/mol),ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)ジオール(PHA,Mw=2000g/mol)を使用前に減圧下で2時間乾燥させた。アルドリッチ社の1,4−ブタンジオール(1,4−BD)も同様に乾燥させた。3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)(Aladdin社製)とジブチルスズジラウレート(DBTDL)(Aldrich社製)は受け取ったまま使用した。テトラヒドロフラン(THF)は、使用前にCaH2で還流し、蒸留した。4,5−クロロ−2−オクチルイソチアゾロン(DCOIT)は,ThankfulChemicalCo.(広州)から提供された。)人工海水(ASW)は,ASTMD1141−98(2013)に準拠して調製した[19]。その他の試薬はいただいたものを使用した。

(4)第59頁左下欄第1行〜最終行
2.2ポリエステル系ポリウレタンの合成
ポリエステル系ポリウレタンは、ポリアディエーション(Scheme 1)により合成した。まず,IPDIとポリエステルジオールを,窒素雰囲気下のTHF中で70℃×1時間反応させてプレポリマーを得た。続いて,鎖延長剤として1,4−BD,触媒としてDBTDLを加え,80℃で3時間反応させた後,生成物をヘキサンに2回沈殿させてろ過し,40℃で24時間真空乾燥させた。1H NMR(図81,600MHz,CDCl3,ppm):4.07(OCH2CH2CH2CH2O),3.79(CONHCH(CH2)2),3.21,2.91(C(CH3)CH2NHCO),2.35(COCH2CH2CH2CO),FTIR(図S2,cm−1):3530(OH),3380(NH),2950(CH2),1735(CO),1530(CN)。便宜上,ポリエステルベースのポリウレタンをPEAx−PU,PBAx−PU,PHAx−PUと表記しているが,xは1HNMRで測定したポリエステルのソフトセグメントの重量パーセントを表している。特性データを表1にまとめ、詳細はSupporting Information(SI)に掲載しています。

(5)第61頁左欄第17行〜右欄第5行
海水用防汚材の用途で重要となるポリウレタンの基材への接着力を測定した。Fig.2にエポキシ樹脂基材とポリウレタンの接着強度を示す。参考資料として生分解性ポリ(−カプロラクトン)ベースのポリウレタン(PCL80−PU)を使用した。参考資料は、接着強度がわずか1.0±0.21MPaであった。しかし、今回のポリエステル系ポリウレタンは、接着強度が4.0MPa以上と非常に優れた接着特性を持っています。PEA40−PU、PEA60−PU、PEA80−PUの接着強度は、それぞれ5.7、7.2、5.3MPaであった。つまり、PEA60−PUが最も高い接着強度を示している。PEA60−PUとPEA40−PUはどちらもアモルファスであるが,ソフトセグメントの多いPEA60−PUの方が基板表面との接触が多く,水素結合も多く形成される。しかし、ソフトセグメントの含有量を80wt%まで増やすと、ポリウレタンは半結晶となり、基材との接触が激減するという。我々は、25℃のASW中でポリウレタンの加水分解を時間の関数として調べた(図3)。一般的に、各フィルムは初期段階で比較的急激な質量減少を示す。これはおそらく,いくつかの低モル質量成分が迅速に放出されたことに起因する[24,25]。7日後には、質量減少は時間に対してほぼ直線的になり、一定の速度で劣化していることがわかった。PEA−PUでは、ソフトセグメントの含有量が40wt%から80wt%に増加するにつれて、質量損失が増加した。一方、PBA80−PUやPHA80−PUは、PEA80−PUよりも劣化率が低い。分解率はポリマーの結晶化度に大きく影響されます。非晶質領域は小分子が侵入しやすいため、結晶化度が低下すると分解率が高くなるのである。一方,ポリマー中のエステル基の密度が高いほど,分解速度は大きくなる[5,26]。したがって,PEA40−PUとPEA60−PUは非晶質ではあるものの,エステル基密度が最も高いPEA80−PUよりも低い分解率を示した。特に,PEA80−PUはエステル基密度が最も高く,結晶性が最も低いため,PBA80−PUやPHA80−PUよりも高い分解率を示した。

(6)第61頁右欄下から2行〜第62頁右欄第15行
これらのシステムの防汚性能は,海のフィールドテストで評価された。海水に浸した後の試験パネルの典型的な画像をFig.5に,対応するファウリングレーティングをFig.6に示す。2ヶ月後,エポキシ樹脂の表面を持つ対照パネルはバイオファウリングに完全に覆われており,試験場でのファウリング圧力が強かったことを示している。しかし、DCOITを含む分解性ポリマーで構築された表面では、はるかに少ないファウリングが観察され、その場での防汚性能は、分解性セグメントの含有量(PEA40−PUからPEA80−PUまで)とともに増加するが、セグメントがPEA、PBA、PHAに変わるとわずかに滅少する。これは、分解性ポリマーが自己研磨面を形成し、付着した生物や無機物を研磨して除去できるためと考えられる。さらに、DCOITを放出して生物付着を抑制することができます。PEA40−PUからPEA80−PUへの防汚性能の向上は、DCOITの浸食速度と放出速度の向上によるものと考えられる(図3、4)。PEA80−PU/DCOITとPBA80−PU/DCOITは、いずれもわずかな生物のコロニー形成で良好なantifouling性能を示し、フォーマーはさらに良好であることがわかる。これは、PEA80−PU/DCOITとPBA80−PU/DCOITの分解率とDCOIT放出率が高いためである。PHA80−PU/DCOITについては、自己研磨率が低いため、ファウリングしてしまうのである。実際、システムの優れたバイオファウリング防止能力には、合理的な自己研磨率と防汚剤の放出制御の両方が重要である。また、6ヶ月間の長期防汚性も評価した。PEA40−PU/DCOITまたはPEA60−PU/DCOITを塗布したパネルは、一部の海洋生物によってファウリングされた。これは、分解とDCOITの放出が遅いシステムは防汚能力が限られているためである。また,PEA80−PU/DCOITやPBA80−PU/DCOITは良好な防汚性能を示したが,PHA80−PU/DCOITは防汚された。この事実は、コーティングの現場での防汚性能が、侵食速度とDCOIT放出速度の両方によって決定されることを示している。なお、今回は静的な条件下での防汚性能のみを調査したことに留意すべきである。本システムは,水の流れによって劣化率と防汚剤放出率が増加するため,動的な条件ではより優れた防汚性能を示すことが期待される。

2 甲1に記載された発明
上記2(1)から、甲1には、「良好な防汚性能と基材への高い接着性を備えた、環境に優しい海洋防汚システム」について記載され、該システムは、ポリ(エチレンアジペート)(PEA,Mw=2000g/mol)、ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA,Mw=2000g/mol)、ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA,Mw=2000g/mol)の各セグメントを用いた分解性ポリウレタンを含み、該ポリウレタンは、有機防汚剤(4,5−ジクロロ−2−オクチルイソチアゾロン(DCOIT))のキャリアとして使用されたことが記載されている。
そして、同(4)から、該分解性ポリウレタンの合成は、IPDI(3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート)とポリエステルジオールを窒素雰囲気下のTHF中で70℃×1時間反応させてプレポリマーを得て、続いて、鎖延長剤として1,4−BD、触媒としてDBTDLを加え、80℃で3時間反応させた後、生成物をヘキサンに2回沈殿させてろ過し、40℃で24時間真空乾燥させて得られたものであることが理解できる。なお、「1,4−BD」は、1,4−ブタンジオールであり、「DBTDL」は、ジラウリン酸ジブチルすずを指すことは明らかである。
ここで、上記「ポリエステルジオール」とは、同(1)でセグメントとして示された、ポリ(エチレンアジペート)(PEA)、ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA)、ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA)を指すことも明らかである。

そうすると、甲1には、
「良好な防汚性能と基材への高い接着性を備えた、環境に優しい海洋防汚システムにおいて、
該海洋防汚システムは、ポリ(エチレンアジペート)(PEA,Mw=2000g/mol)、ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA,Mw=2000g/mol)、ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA,Mw=2000g/mol)の各セグメントを用いた分解性ポリウレタンを含み、
該分解性ポリウレタンは、有機防汚剤(4,5−ジクロロ−2−オクチルイソチアゾロン(DCOIT))のキャリアとして使用され、
該分解性ポリウレタンの合成は、3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)とポリ(エチレンアジペート)(PEA)、ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA)、ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA)を窒素雰囲気下のTHF中で70℃×1時間反応させてプレポリマーを得て、続いて、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール(1,4−BD)、触媒としてジラウリン酸ジブチルすず(DBTDL)を加え、80℃で3時間反応させた後、生成物をヘキサンに2回沈殿させてろ過し、40℃で24時間真空乾燥させて得られたものである、海洋防汚システム。」(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

3 対比・判断
(1)本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「分解性ポリウレタン」、「有機防汚剤(4,5−ジクロロ−2−オクチルイソチアゾロン(DCOIT))」及び「海洋防汚システム」は、本件発明1の「ポリエステルウレタン樹脂(A)」、「防汚薬剤(B)」及び「防汚塗料組成物」にそれぞれ相当する。
そして、甲1発明の「分解性ポリウレタン」は、「ポリ(エチレンアジペート)(PEA)」、「ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA)」、「ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA)」及び鎖延長剤として1,4−ブタンジオール(1,4−BD)と「3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)」とを反応させて合成されたものであるところ、甲1発明の「ポリ(エチレンアジペート)(PEA)」、「ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA)」及び「ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA)」は、本件発明1の式(1)において、「R1がn−ブチル基、R2がエチル基である化合物」、「R1がn−ブチル基、R2がn−ブチル基である化合物」及び「R1がn−ブチル基、R2がn−ヘキシル基である化合物」にそれぞれ相当し、また、甲1発明の「3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)」は、本件発明1の「イソシアネート化合物(b)」に相当し、その反応は、本件発明1の「ウレタン化反応」に相当する。
さらに、上記n−ブチル基、エチル基、n−ヘキシル基はいずれも、直鎖アルキレン基であるから、本件発明1の「R1は、互いに同一又は異なり、n個のR1のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基であり、(n+1)個のR2は、互いに同一又は異なり、(n+1)個のR2のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基である」という規定を充足する。
また、甲1発明において、「ポリ(エチレンアジペート)(PEA)」、「ポリ(1,4−ブチレンアジペート)(PBA)」、「ポリ(1,6−ヘキサメチレンアジペート)(PHA)」はいずれも「Mw=2000g/mol」であり、「Mw」は分子量を示すから、本件発明1の式(1)において、「nは、1〜100の整数であり」という規定を充足することは明らかである。
また、甲1発明の「分解性ポリウレタン」は、その合成過程で、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール(1,4−BD)が用いられており、1,4−ブタンジオール(1,4−BD)は、「3−イソシアナトメチル−3,5,5−トリメチルシクロヘキシルイソシアネート(IPDI)」(イソシアネート化合物)と架橋するものであることから、甲1発明の「分解性ポリウレタン」は、本件発明1において除かれた「イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位が前記ポリエステルウレタン樹脂(A)に含まれるもの」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「ポリエステルウレタン樹脂(A)および防汚薬剤(B)を含有する防汚塗料組成物であって、
前記ポリエステルウレタン樹脂(A)がポリエステルポリオール(a)とイソシアネート化合物(b)とをウレタン化反応させて得られる生成物であり、
前記ポリエステルポリオール(a)は、下記式(1)又は式(2)で表される、防汚塗料組成物。
【化1】

(式中、nは、1〜100の整数であり、n個のR1は、互いに同一又は異なり、n個のR1のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基であり、(n+1)個のR2は、互いに同一又は異なり、(n+1)個のR2のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基である。)
【化2】

(式中、r及びsは、それぞれ、0〜100の整数である。但し、r+s≧1である。(r+s)個のR4は、互いに同一又は異なる。R3、アルキレン基であり、R4は、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基である。)」である点で一致し、次の点で相違が認められる。
(相違点)
本件発明1では、「前記イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位が前記ポリエステルウレタン樹脂(A)に含まれるものを除く。」と特定されているのに対し、甲1発明の「分解性ポリウレタン」は、「前記イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位が前記ポリエステルウレタン樹脂(A)に含まれるもの」に相当し、本件発明1は甲1発明を除いている点。

ここで、相違点について検討する。
甲1発明の「分解性ポリウレタン」について、鎖延長剤として用いられた1,4−ブタンジオール(1,4−BD)を用いずに合成した場合、又は、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール以外のものを用いた場合は、その架橋構造が大幅に変化して防汚性能や接着性が変わるものと解され、そのような場合に、甲1発明で規定された「良好な防汚性能と基材への高い接着性を備えた、環境に優しい海洋防汚システム」となるかどうかは明らかではない。また、甲1には、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール以外のものは示されておらず、どのような鎖延長剤を用いればいいのかについては不明である。
そうすると、甲1発明の「分解性ポリウレタン」として、鎖延長剤として用いられた1,4−ブタンジオールを用いずに合成したものや、鎖延長剤として1,4−ブタンジオール以外のものを用いて合成したものは想定されていないというべきであり、甲1発明において、上記相違点に係る発明特定事項を備えること(イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位がポリエステルウレタン樹脂に含まれないようにすること)は当業者が容易に想到し得ることであるということはできない。

(本件発明1の効果について)
本件発明1は、本件明細書【0012】に記載されるように、「海水中において長期間に亘って安定した塗膜溶解速度を維持し、クラック等の塗膜異常を起こすことなく、安定した防汚性能を維持できる」という格別顕著な作用効果を奏するものであり、その作用効果は実施例において確認されているといえる。

(まとめ)
本件発明1は、甲1発明と同一ではなく、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(2)本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1を引用し、さらに限定するものであるから、本件発明1と同様な理由から、甲1発明と同一ではなく、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

第6 取消理由通知において採用しなかった特許異議申立理由について
申立人は、甲2(中国特許出願公開第102731745号明細書)を引用し、本件発明1〜4は、甲1及び甲2の記載から当業者が容易に発明をすることができたものである旨主張している。
しかしながら、上記第5 3で述べたように、甲2の記載を参照するまでもなく、本件発明1〜4は、甲1発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものであるということはできない。なお、甲2に記載されたものは本件発明1における「防汚薬剤(B)」成分を含んでおらず、そもそも、甲1発明に組み合わせる動機付けはない。

第7 むすび
以上のとおりであるから、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜4に係る特許を取り消すことはできない。また、他に請求項1〜4に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
発明の名称 (57)【特許請求の範囲】
【請求項1】
ポリエステルウレタン樹脂(A)および防汚薬剤(B)を含有する防汚塗料組成物であって、
前記ポリエステルウレタン樹脂(A)がポリエステルポリオール(a)とイソシアネート化合物(b)とをウレタン化反応させて得られる生成物であり、
前記ポリエステルポリオール(a)は、下記式(1)又は式(2)で表される、防汚塗料組成物(但し、前記イソシアネート化合物に由来するユニット同士が、1,4−ブタンジオールに由来するユニットで連結された構造部位が前記ポリエステルウレタン樹脂(A)に含まれるものを除く。)。
【化1】

(式中、nは、1〜100の整数であり、n個のR1は、互いに同一又は異なり、n個のR1のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基であり、(n+1)個のR2は、互いに同一又は異なり、(n+1)個のR2のうちの一部又は全部が、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基である。)
【化2】

(式中、r及びsは、それぞれ、0〜100の整数である。但し、r+s≧1である。(r+s)個のR4は、互いに同一又は異なる。R3は、アルキレン基であり、R4は、直鎖アルキレン基であるか、又はα位とβ位以外の位置で分岐されている分岐アルキレン基である。)
【請求項2】
前記式(1)のポリエステルポリオール(a)は、下記式(3)で表されるジカルボン酸又はその誘導体を含む酸成分と、下記式(4)で表されるジオール化合物を含む多価アルコールとをエステル化反応またはエステル交換反応させて得られる生成物である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
HOOC−R1−COOH (3)
HO−R2−OH (4)
【請求項3】
前記式(2)の前記ポリエステルポリオール(a)は、ε−カプロラクトン、δ−バレロラクトン、γ−ブチロラクトン、β−プロピオラクトン、α−アセトラクトンから選ばれるラクトン化合物を、下記式(5)で表されるジオール化合物を含む多価アルコールを開始剤とし、開環重合させて得られる生成物である、請求項1に記載の防汚塗料組成物。
HO−R3−OH (5)
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか1つに記載の防汚塗料組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物。
 
訂正の要旨 審決(決定)の【理由】欄参照。
異議決定日 2022-02-08 
出願番号 P2019-522125
審決分類 P 1 651・ 121- YAA (C09D)
P 1 651・ 113- YAA (C09D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 亀ヶ谷 明久
特許庁審判官 門前 浩一
川端 修
登録日 2021-02-22 
登録番号 6841531
権利者 日東化成株式会社
発明の名称 防汚塗料組成物、該組成物を用いて形成される防汚塗膜を表面に有する塗装物  
代理人 奥野 彰彦  
代理人 SK特許業務法人  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 伊藤 寛之  
代理人 SK弁理士法人  
代理人 奥野 彰彦  

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