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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A01N
管理番号 1384194
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-15 
確定日 2022-04-13 
異議申立件数
事件の表示 特許第6843813号発明「抗微生物部材」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6843813号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6843813号の請求項1ないし5に係る特許についての出願は、平成30年11月16日(優先権主張 平成30年9月6日)に特許出願され、令和3年2月26日に特許権の設定登録がされ、同年3月17日にその特許公報が発行され、その後、同年9月15日に、特許異議申立人 岩部 英臣(以下「特許異議申立人」という。)により、請求項1〜5に係る特許に対して、特許異議の申立てがされ、同年12月22日付けで当審から取消理由通知が通知され、令和4年3月4日に意見書が提出されたものである。

第2 特許請求の範囲の記載
本件の特許請求の範囲の請求項1〜5に係る発明(以下、それぞれ「本件特許発明1」〜「本件特許発明5」という。まとめて、「本件特許発明」ということもある。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。

「【請求項1】
基材表面に、抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物が固着されてなり、かつ、前記電磁波硬化型樹脂の硬化物を含む基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜4μmであることを特徴とする抗ウィルス性部材。
【請求項2】
前記電磁波硬化型樹脂の硬化物は、基材表面に島状に散在してなるか、又は、抗ウィルス成分を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物が形成された領域と電磁波硬化型樹脂の硬化物が形成されていない領域が混在した状態となっている請求項1に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項3】
前記抗ウィルス成分は、銅化合物であって、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認される請求項1又は2に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項4】
前記抗ウィルス成分は、銅化合物であって、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4〜50である請求項1〜3のいずれか1項に記載の抗ウィルス性部材。
【請求項5】
前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の重合開始剤およびベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、
アルキルフェノン系の重合開始剤とベンゾフェノン系の重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の重合開始剤/ベンゾフェノン系の重合開始剤=1/1〜4/1である請求項1〜4のいずれか1項に記載の抗ウィルス性部材。」

第3 取消理由及び特許異議申立理由
1 特許異議申立人が申し立てた理由
特許異議申立人は、下記の甲第1〜10号証を提出し、以下の異議申立理由を主張している。
(1)進歩性(特許異議申立書4頁(3)には、特許法第29条第1項3号の記載があるが、1頁「3.申立ての理由」の記載、3頁「理由の要点」の記載、5〜37頁の「具体的理由」の記載、39頁(5)むすびの記載から、「特許法第29条第2項」の誤記であると認める。)
異議申立理由1:請求項1〜5に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布され又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった下記の甲第1号証に記載された発明および甲第2号証〜甲第8号証に記載された技術的事項に基いて、本件特許の優先日前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜5に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであって、同法第113条第2号の規定により取消されるべきものである。

(2)明確性要件
異議申立理由2:請求項1〜5に係る発明に関して、甲第9号証の「光触媒物質」は、「光を吸収する半導体固体」であると解されることと、甲第10号証に光導電性を示す半導体として、CuI,CuCl,CuBr,Cu2S(MxS(M=Cu、x=2))、CuS(MxS(M=Cu、x=1))が記載されていることを考慮すると、本件特許発明で特定している「光触媒物質」と「抗ウィルス成分としての銅化合物」には、同じ化合物が包含され区別できないから、「光触媒物質」と「抗ウィルス成分としての銅化合物」の関係が不明確で、結果として、「抗ウィルス成分としての銅化合物」と「光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」との関係で、本件特許発明で特定している「電磁波硬化型樹脂の硬化物」も不明確で、特許を受けようとする発明が不明確である。
したがって、本件特許は、特許請求の範囲の記載が不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号の規定により取消されるべきものである。



甲第1号証:特開2013−193966号公報
甲第2号証:特表2007−504291号公報
甲第3号証:特表2006−506105号公報
甲第4号証:米国特許出願公開第2013/0323642号明細書(抄訳添付)
甲第5号証:特開2017−78331号公報
甲第6号証:特開平8−252302号公報
甲第7号証:特開平8−299418号公報
甲第8号証:国際公開第2013/108707号
甲第9号証:大谷文章著、≪復刻版≫光触媒標準研究法、2017年12月15日、表紙、目次、p.36〜40、奥付
甲第10号証:特開昭64−7480号公報

2 当審が通知した取消理由
「取消理由:(明確性要件)本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。



1 請求項1の「基材表面に、抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物が固着されてなり、・・・抗ウィルス性部材。」(決定注:下線は当審にて追加。以下同様。)との記載について、銅化合物が抗ウィルス性部材に含むことを特定する一方で、光触媒物質を含まないことを特定事項としているところ、特許異議申立人の提出した甲第9号証(大谷文章 著,<<復刻版>>光触媒標準研究法,2017年12月15日,p.36〜40)には、「現在,ひろくつかわれている「光触媒反応・・・」という用語は,『酸化チタンなどの半導体とよばれる固体材料が光を吸収することによって生じる励起電子および正孔がおこす化学反応』をあらわすことがほとんどである.ここでは,これを「狭義の光触媒反応の定義」とする.」(37頁1〜4行)と最初の定義として紹介されて記載され、「総合的に判断すると,最初の定義がもっとも適であると定義される.」(40頁5〜7行)との記載があり、特許異議申立人の提出した甲第10号証(特開昭64−7480号公報)には、特許請求の範囲(6)に「光導電性を示す電極として用いられるp型半導体は、・・・CuI,CuCl,CuBr,MxS(M=Cu・・・1≦x≦2)・・・より選択される・・・」との記載がある。
また、本件特許明細書をみても、抗ウイルス成分としての銅化合物の定義はなく、【0022】に無機系抗微生物剤の例示が示されているだけである。
したがって、甲第9号証、甲第10号証の上記記載を考慮すると、銅化合物も光触媒物質に該当するのであるから、結局のところ、請求項1の銅化合物に該当する範囲は明確でなく、発明の範囲が不明確となっている。

2 上記のとおり含まれることが許容される銅化合物の範囲が不明であるから、請求項1の「光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」の範囲も結果的に不明確となっている。

3 請求項2〜5の記載についても、請求項1の記載を直接または間接的に引用しているので、上記1,2の点で、同様に発明の範囲が不明確となっている。」

3 特許権者の提出した証拠
特許権者は、取消理由通知に対して、下記の乙第1号証及び乙第2号証を提出し、請求項1〜5に係る特許を受けようとする発明が明確であることを主張している。


乙第1号証:大谷文章著、≪復刻版≫光触媒標準研究法、2017年12月15日、表紙、p.45、47、198、199、440、441、468
乙第2号証:小野嘉夫 外2名、触媒の事典、2000年11月1日、株式会社 朝倉書店、表紙、p.297

第4 当審の判断
当審は、請求項1〜5に係る特許は、当審の通知した取消理由及び特許異議申立人が申し立てた理由によっては、取り消すことはできないと判断する。
理由は以下のとおりである。

1 甲号証(刊行物又は電子的技術情報)
(1)甲第1号証
本件特許の優先日前に日本国内で頒布された刊行物である甲第1号証には、以下の記載がある。
(1a)「【請求項1】
ウイルス感染阻止化合物を含有するウイルス感染阻止剤と、合成樹脂とを含有することを特徴とする樹脂組成物。
【請求項2】
合成樹脂が硬化性樹脂であることを特徴する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項3】
合成樹脂が熱可塑性樹脂であることを特徴する請求項1に記載の樹脂組成物。
【請求項4】
硬化性樹脂が、活性エネルギー線を照射することによって硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂であることを特徴する請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項5】
熱可塑性樹脂が、ポリ塩化ビニル系樹脂又はポリオレフィン系樹脂であることを特徴する請求項3に記載の樹脂組成物。
【請求項6】
ウイルス感染阻止化合物が、単量体成分としてスチレンスルホン酸又はスチレンスルホン酸塩を含有する重合体であることを特徴とする請求項1乃至請求項5の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項7】
ウイルス感染阻止化合物が、スチレンスルホン酸塩−スチレン共重合体、スチレンスルホン酸−スチレン共重合体又はスチレンスルホン酸塩−スチレンスルホン酸−スチレン三元共重合体を含有していることを特徴とする請求項6に記載の樹脂組成物。
【請求項8】
硬化性樹脂が、活性エネルギー線硬化性樹脂であり、活性エネルギー線の照射によって架橋構造を形成する単量体成分を含有していることを特徴とする請求項4に記載の樹脂組成物。
【請求項9】
硬化性樹脂が更に分子中に重合性不飽和結合を有するオリゴマーを含有していることを特徴とする請求項8に記載の樹脂組成物。
【請求項10】
合成樹脂が、重量平均分子量が400〜3000で且つ2個以上の(メタ)アクリロイル基を有する脂肪族ウレタンアクリレート樹脂を含有することを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項11】
硬化性樹脂が熱硬化性樹脂であり、上記熱硬化性樹脂がフェノール樹脂、尿素樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂又はポリウレタン樹脂であることを特徴とする請求項2に記載の樹脂組成物。
【請求項12】
無機粒子又は合成樹脂粒子を含有していることを特徴とする請求項1乃至請求項11の何れか1項に記載の樹脂組成物。
【請求項13】
請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の樹脂組成物100重量部と、溶剤10〜1000重量部とを含有することを特徴とする樹脂溶液。
【請求項14】
基材と、請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の樹脂組成物から形成され且つ上記基材上に積層一体化された樹脂層とを有していることを特徴とする積層体。
【請求項15】
請求項1乃至請求項12の何れか1項に記載の樹脂組成物からなることを特徴とする樹脂シート。
【請求項16】
樹脂層はその表面粗さが0.5〜2.5μmで且つ平均波長が0.04mm以下であることを特徴とする請求項14に記載の積層体。」

(1b)「【0007】
しかしながら、特許文献1で開示されている無機系抗ウイルス剤は金属成分を含有しており、金属アレルギーを引き起こすという問題点を有している。又、特許文献2で開示されている抗ウイルス性塗料組成物は、水溶性であり、接着力が要求されるポリオレフィン系の内装材などに塗装しづらいという問題点を有している。更に、特許文献3で開示されている光触媒を含む塗料は、光が弱くても問題ないが、長時間光の当たらない屋内等の場所には使えないという問題点がある。
・・・
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
本発明は、ウイルスがヒトに感染するのを効果的に阻止して症状の発現の予防或いは症状が表れたとしても症状の軽減を図ることができる樹脂組成物、この樹脂組成物を含有する樹脂溶液、上記樹脂組成物を用いた積層体及び樹脂シートを提供する。
【課題を解決するための手段】
【0010】
本発明の樹脂組成物は、ウイルス感染阻止化合物を含有するウイルス感染阻止剤と、合成樹脂とを含有することを特徴とする。
【0011】
ウイルス感染阻止化合物とは、ウイルス感染阻止効果を有する化合物をいう。「ウイルス感染阻止効果」とは、インフルエンザウイルス、コロナウイルス、カリシウイルスなどのRNAウイルスが細胞に感染できないか又は感染後に細胞中で増殖できなくする効果をいう。このようなウイルスの感染性の有無を確認する方法としては、例えば、「医・薬科ウイルス学」(1990年4月初版発行)に記載されているようなプラック法や赤血球凝集価(HAU)測定法などが挙げられる。
【0012】
ウイルス感染阻止化合物としては、ウイルス感染阻止効果を有しておれば、特に限定されず、例えば、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの紫外線領域応答型光触媒、白金、パラジウム又は酸化銅微粒子と混合された酸化タングステン、酸化タングステンなどのタングステン系光触媒などの可視光領域応答型光触媒、ハイドロキシアパタイト、スルホン酸基又はその塩を有する重合体などが挙げられ、スルホン酸基又はその塩を有する重合体が好ましい。なお、ウイルス感染阻止化合物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0013】
樹脂組成物を太陽光が十分に照射されない場所にて使用する場合には、ウイルス感染阻止化合物としては、可視光領域応答型光触媒、ハイドロキシアパタイト、スルホン酸基又はその塩を有する重合体が好ましい。
【0014】
スルホン酸基又はその塩を有する重合体としては、スルホン酸基又はその塩を有しておれば、特に限定されず、例えば、単量体成分としてスチレンスルホン酸又はその塩を有する重合体が挙げられる。なお、スルホン酸基又はその塩を有する重合体は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0015】
スルホン酸基又はその塩を有する重合体中において、スチレンスルホン酸又はその塩の含有量は、少ないと、ウイルス感染阻止化合物のウイルス感染阻止効果が低下することがあり、又は、樹脂組成物を塗料に用いた場合に塗料から形成された塗膜が水分に接触することによって白化を生じる可能性があるので、20モル%以上が好ましい。
【0016】
ウイルス感染阻止化合物としてスルホン酸基又はその塩を有する重合体を用いた場合において、樹脂組成物を塗料に用いた場合に塗料から形成された塗膜が水分に接触することによって白化を生じる虞れがあるときは、重合体中に単量体成分として疎水性を有する単量体を含有させた共重合体が好ましい。」

(1c)「【0027】
樹脂組成物中におけるウイルス感染阻止化合物の含有量は、少ないと、樹脂組成物のウイルス感染阻止効果が低下することがあり、多いと、合成樹脂の耐久性が低下することがあるので、0.5〜20重量%が好ましく、0.5〜10重量%がより好ましい。
【0028】
樹脂組成物を構成している合成樹脂としては、硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の何れであってもよい。
【0029】
硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、活性エネルギー線を照射することによって硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂、熱によって硬化する熱硬化性樹脂が挙げられる。なお、硬化性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0030】
活性エネルギー線としては、特に限定されず、例えば、可視光線、紫外線、電子線、α線、β線、γ線、X線、イオン線などの電離放射線が挙げられる。
【0031】
紫外線の光源としては、特に限定されず、例えば、超高圧水銀灯、高圧水銀灯、低圧水銀灯、カーボンアーク灯、ブラックライト蛍光灯、メタルハライドランプ灯などが挙げられる。紫外線の波長は190〜380nmの波長領域が好ましい。樹脂組成物に対する照射量としては50〜1500mJ/cm2が好ましい。
【0032】
電子線の光源としては、特に限定されず、例えば、コッククロフトワルト型、バンデグラフト型、共振変圧器型、絶縁コア変圧器型、直線型、ダイナミトロン型、高周波型などの各種電子線加速器が挙げられる。電子線の加速電圧は100〜1000kVが好ましく、100〜300kVが好ましい。樹脂組成物に対する照射量は20〜150kGyが好ましい。
【0033】
活性エネルギー線硬化性樹脂としては、例えば、アクリル酸樹脂が挙げられる。アクリル酸樹脂としては、例えば、メタクリル酸樹脂、アクリル酸樹脂、アクリル酸ウレタン樹脂、アクリル酸ポリエステル樹脂、アクリル酸エポキシ樹脂などが挙げられる。なお、活性エネルギー線硬化性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0034】
熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂、ユリア樹脂、メラミン樹脂、エポキシ樹脂、ジアリルフタレート樹脂などが挙げられる。なお、熱硬化性樹脂は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。
【0035】
活性エネルギー線硬化性樹脂を用いる場合には、樹脂組成物中に光重合開始剤が含有されていることが好ましい。光重合開始剤としては、特に限定されず、例えば、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル、ベンゾインエチルエーテル、ベンゾインイソプロピルエーテル、ベンゾイン−n−ブチルエーテル、ベンゾインイソブチルエーテル、アセトフェノン、ジメチルアミノアセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン、4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル−2(ヒドロキシ−2−プロピル)ケトン、ベンゾフェノン、p−フェニルベンゾフェノン、4,4’−ジエチルアミノベンゾフェノン、ジクロロベンゾフェノン、2−メチルアントラキノン、2−エチルアントラキノン、2−ターシャリーブチルアントラキノン、2−アミノアントラキノン、2−メチルチオキサントン、2−エチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン、2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、ベンジルジメチルケタール、アセトフェノンジメチルケタールなどが挙げられる。なお、光重合開始剤は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよい。」

(1d)「【0057】
本発明の樹脂組成物を用いて基材表面に樹脂層を積層一体化して積層体とすることによって、基材にウイルス感染阻止効果を付与することができる。
【0058】
基材表面に、樹脂組成物からなる樹脂層を積層一体化させる方法としては、特に限定されず、例えば、(1)樹脂溶液を基材上に塗布、乾燥させ、必要に応じて合成樹脂を硬化させることによって基材上に樹脂組成物から形成された樹脂層を積層一体化させる方法、(2)樹脂組成物を押出機に供給して溶融混練しTダイから樹脂シートを製造し、この樹脂シートを基材上に積層一体化させる方法などが挙げられる。」

(1e)「【0061】
上記積層体において樹脂層の厚みは、薄いと、樹脂層のウイルス感染阻止効果が低下することがあり、厚いと、樹脂層に亀裂が生じてウイルス感染阻止効果が低減する虞れがあるので、5〜300μmが好ましく、5〜100μmがより好ましい。
【0062】
樹脂組成物から形成された樹脂層や成形品の表面の耐摩耗性を向上させるために、樹脂組成物中に無機粒子又は合成樹脂粒子を含有させてもよい。無機粒子としては、例えば、シリカ粒子、アルミナ粒子などが挙げられる。合成樹脂粒子としては、ジメチロールトリシクロデカンジアクリレート粒子、アクリル樹脂粒子、ウレタン樹脂粒子などが挙げられる。
【0063】
無機粒子又は合成樹脂粒子の平均粒子径は、積層体の樹脂層又は成形品の厚みよりも小さいことが好ましい。無機粒子又は合成樹脂粒子の平均粒子径が、積層体の樹脂層又は成形品の厚みに比して大きすぎると、積層体の樹脂層又は成形品の表面平滑性が低下し、表面に引っ掛かることによって樹脂層又は成形品の表面に傷がつきやすくなるという問題を生じる。
【0064】
具体的には、積層体の樹脂層又は成形品の厚みをdとした場合、無機粒子又は合成樹脂粒子の平均粒子径rは、0.05d<r<1.5dであることが好ましく、0.5d<r<1.1dであることが好ましく、d<r<1.1dであることがより好ましい。無機粒子及び合成樹脂粒子の平均粒子径は、JIS Z8825−1に準拠したレーザー回折式粒度分布測定装置によって測定された値をいう。
【0065】
一方で、基材が建築物の床面である場合、この床面に積層一体化された樹脂層が平滑過ぎると、滑るなどの悪影響を及ぼす可能性があるので、樹脂層は、その表面粗さ(Ra)が0.5〜2.5μmで且つ平均波長(Sm)が0.04mm以下であることが好ましい。樹脂層の表面粗さ(Ra)はJIS B0601に準拠して測定された値をいう。樹脂層の平均波長(Sm)はJIS B0601に準拠して測定された値をいう。樹脂層の表面粗さ(Ra)及び平均波長(Sm)は、樹脂組成物中に含有させる無機粒子又は合成樹脂粒子の種類又はその粒子径によって調整すればよい。」

(1f)「【発明の効果】
【0081】
本発明の樹脂組成物は、上述の如き構成を有していることから、ウイルス感染阻止効果を有する成形品を容易に作製し、又は、所望の基材にウイルス感染阻止効果を容易に付与することができ、基材又は成形品に起因してウイルスが人間に感染するのを概ね阻止して症状の発現を防止し或いは症状が表れたとしても症状の軽減を図ることができる。」

(2)甲第2号証
本件特許の優先日前に日本国内又は外国において頒布された刊行物である甲第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
親水性高分子スラリーを調製すること、酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリー中へ分散すること、次いで、該スラリーを押し出すか又は成型して親水性高分子材料を形成することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法であって、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている、方法。」

(2b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法、ウイルスを不活化するための親水性高分子材料、及びこれを含むデバイスに関する。
【0002】
より詳しくは、本発明は、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含む親水性高分子材料であって、該粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている、親水性高分子材料に関する。
【0003】
特に好ましい実施態様において、本発明は、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含む多層親水性高分子材料に関する。
【背景技術】
【0004】
WO01/74166においては、イオン化銅がその中に封入された微細粒子を有しかつその表面から突き出ている、抗微生物及び抗ウイルス高分子材料が記載され、特許請求されており、上記刊行物の関連する教示は参照により本明細書に援用される。
【0005】
上記刊行物においては、高分子材料は任意の合成高分子でありえ、記載されている例は、ポリアミド(ナイロン)、ポリエステル、アクリル、ポリプロピレン、シラスチックゴム及びラテックスであることが示されている。
【0006】
しかし気付かれるように、上記特許の実施例1はその中に銅粉末が加えられたポリアミド二成分化合物の調製に関するものであり、抗ウイルス、抗真菌、抗細菌活性の試験が、当該繊維を用いて実施されていた。
【0007】
上記特許の実施例4においては、ラテックスグローブが作製されているが、これらはその表面から突き出たイオン性の銅の微細粒子を有するラテックスから作られていた。
【0008】
上記明細書の記載の時点では、上記刊行物の、例えば図1に見られるように、そこに挙げられている高分子材料は全て、イオン性の銅の微細粒子が高分子材料の表面から突き出ているときのみ、抗微生物剤及び抗ウイルス剤として効果があると考えられていた。
【発明の開示】
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明により、親水性高分子材料と共に機能するとき、たとえCu++とCu+の両方を放出する粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されていても、抗ウイルス特性を有する材料及びそれらに基づいたデバイスを製造することが可能であることが驚くべきにもここに発見された。
【0010】
上記先の明細書においては教示も示唆もされていないこの驚くべき発見を踏まえて、本発明により、親水性高分子スラリーを調製すること、酸化銅(I)及び酸化銅(II)を含むイオン性銅粉末混合物を該スラリーに分散すること、次いで、該スラリーを押し出すか又は成型して親水性高分子材料を形成することを含む、親水性高分子材料に抗ウイルス特性を付与する方法であって、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている、方法がここに提供される。」

(2c)「【0022】
本発明のさらなる局面においては、それと接触したウイルスを不活化するためのデバイスが提供され、該デバイスは、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含む親水性高分子材料から形成されたコンドームの形状をしており、該粒子は該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入され、かつその中で主要な活性成分である。
【0023】
本発明のさらに別の局面においては、それと接触したウイルスを不活化するためのデバイスが提供され、該デバイスは、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含む親水性高分子材料から形成されたダイヤフラムの形状をしており、該粒子は該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている。
【0024】
本発明はまた、それと接触したウイルスを不活化するためのデバイスを提供し、該デバイスはCu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含む親水性高分子材料から形成されたグローブの形状をしており、該粒子は、該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている。
【0025】
本発明はまた、それと接触したウイルスを不活化するためのデバイスを提供し、該デバイスは親水性高分子材料から形成されかつさらなる親水性高分子材料の薄層でコーティングされたグローブの形状をしており、該さらなる親水性高分子材料は、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含み、該粒子は、該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されている。
【0026】
本発明の、特に好ましい実施態様においては、Cu++とCu+の両方を放出する水不溶性粒子の混合物を含む、ウイルスを不活化するための親水性高分子材料が提供され、該粒子は該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入され、かつその中で唯一の抗ウイルス成分である。
【0027】
PCT/IL03/00230に対応する米国特許出願10/339886(これの関連する教示も参照により本明細書に援用される)においては、フィルター材料を含むウイルスを不活化するためのデバイスを記載し、特許請求しており、該デバイスは、それの中に含まれる、Cu+及びCu++イオンならびにそれらの組み合わせからなる群から選択されるイオン性の銅を有する。
【0028】
上記明細書においては、繊維の表面に酸化銅の形成をもたらす銅溶液を用いたセルロース繊維のめっきが記載されており、ここで、用いられるプロセスにより、酸化銅分子の一部としてCu(I)とCu(II)の種の両方が得られる。次いで、上記繊維を、HIV−1の不活化で効果的であることが分かっているフィルター中に含める。上記フィルターを用いたさらなる試験で、この組み合わせは西ナイル熱ウイルスの不活化及びアデノウイルスの中和でも効果的であることが明らかにされており、それゆえ、本発明の抗ウイルス親水性高分子材料もまた、同様のメカニズムで機能するためそのようなウイルスに対して効果的であると考えられる。
【0029】
本発明による親水性高分子材料のメカニズムは完全には理解されていないが、得られた結果を踏まえ、高分子材料を流体の水性媒体と接触させたとき、該媒体は該高分子内から銅のカチオン種を浸出させ、そしてPCT/IL03/00230に記載されているように、この抗ウイルス活性は、カチオン種と水との酸化還元反応を利用し、水と接触したときにCu(II)とCu(I)との間の転換を可能にすると考えられる。Cu(II)はCu(I)よりも安定である一方で、Cu(I)はHIVに対してCu(II)よりも効果的である。Cu(II)化合物はCu(I)化合物よりも非常にゆっくりと酸化し、生産物の保存期間を増加する。」

(2d)「実施例1
a)ある量の酸化銅粉末を、自体公知であり前述の先行技術に記載されている酸化還元プロセスを通じて製造した。この製造において、ホルムアルデヒドを還元剤として用いた。得られた粉末は、酸化銅(I)と酸化銅(II)の混合物を示す濃い茶色であった。
b)この粉末を乾燥させ、約4ミクロンの粒子径まで製粉した。
c)ある量の二成分ラテックスを混合し、成型可能な液体状態にするために約150℃の温度で加熱した。
d)ラテックス内にこの粉末を1重量%、2重量%、及び3重量%含む3つのサンプルを作った。より詳細には、サンプル1では、1グラムの粉末を100グラムの加熱ラテックススラリーに加え、サンプル2では、2グラムの粉末を100グラムの加熱ラテックススラリーに加え、サンプル3では、3グラムの粉末を100グラムの加熱ラテックススラリーに加えた。
e)次いで、得られたスラリーを成型して、複数のラテックスバッグを形成した。
【0067】
実施例1に記載された手順に関して、理解されるように、水不溶性銅含有化合物をスラリー段階で加えるため、同様のシステムが任意の成型又は押出しプロセスに適用することができる。それゆえ、銅化合物を製造のこの段階で加えるため、グローブ、チューブ、シース、バッグ、ニップルシールド、コンドーム、ダイヤフラム又は任意の所望の生産物を含むがこれに限定されない任意の生産物を、成型又は押出しを通じて作ることができる。
【0068】
唯一の制限は、銅化合物の粒径が、押出し機械を通じたスラリーの流れを妨げないように十分に小さくなくてはならないことに留意すべきであり、これは上記プロセスにおいて、約4ミクロンの粒径を用いている理由である。さらに、3重量%の銅化合物をラテックススラリーに加えたときでさえ、スラリーの粘度に識別可能な相違はないことに留意すべきであり、本発明の汎用性をさらに裏付けている。
【0069】
最終生産物を、観察のため電子顕微鏡下に置いた。目視又は分光学的測定によって、酸化銅粒子は成型生産物の表面に認識できなかった。これはポリエステルポリマーを用いて同様のプロセスを実施したときになされた観察とは異なっていた。
【0070】
ポリエステル繊維の場合、酸化銅化合物の粒子が、2ミクロンの大きさまで製粉したときでさえ、依然として高分子表面から突き出ていることに気付いた。
【0071】
実施例2
Cu++とCu+の両方を放出する実施例1に従って作られた複数のバッグを、試験のために、臨床免疫学のルースベン−アリ協会(Ruth Ben−Ari Institute of Clinical Immunology)とイスラエルのカプランメディカルセンター(Kaplan Medical Center)のエイズセンターに送った。
【0072】
方法:HIVを含んだ培地のアリコートを、UV滅菌Cupron銅含有ラテックスバッグ又は銅を含有していないUV滅菌ラテックスバッグ中に置いた。いかなる材料にも曝露していないウイルスストックを、感染性のポジティブコントロールとして使った。ウイルス活性のネガティブコントロールとしては、いかなるウイルスも含まない培地をCupron銅含有バッグ中に置いた。室温における20分間のインキュベーション後、それぞれのバッグからの50μlの滴を、10%のウシ胎仔血清(FCS)を含んだ40μlの新鮮培地と混合し、それぞれの混合物を10%FCSを含んだ1mlの培地中の標的細胞に加えた。次いで、このウイルス−細胞混合物を、37℃のCO2加湿インキュベーター中の24ウェルプレートで、インキュベートした。4日間のインキュベート後、1ウェルあたりに存在するウイルスの量を定量した。
【0073】
結果:ウイルスを含有し、銅を含まないラテックスバッグに曝露した培地のウイルス感染性は、用いたストックウイルスのものと同様であったが、ウイルスをスパイクし、Cupron銅カチオン放出バッグに曝露した培地中又はスパイクしていない培地中では、ウイルス感染性は測定されなかった。
【0074】
それゆえ、Cupron銅カチオン放出ラテックスバッグは、ウイルスを不活化した。
【0075】
実施例2の結果は、本発明によるデバイスは、それと接触した流体中のウイルスを不活化するのに効果的であり、それゆえ、例えば、本発明による血液保存バッグは、その中に保存された血液が当該血液の受容者にウイルスを感染させないことを確実にしうることを最終的に証明している。」

(3)甲第3号証
本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第3号証には、以下の記載がある。
(3a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
液体通路を区切るハウジングを包含する、ウイルスの不活性化のための装置であって、該通路にはろ過物質が提供されており、該ろ過物質がそこに組み入れられたCu+及びCu++イオン並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される銅イオンを有する、装置。
【請求項2】
請求項1に記載の装置であって、多層フィルターを有し、該多層フィルターがそのインレットに第1の多孔性媒体、次いでそれに接触させる液体中に含まれるHIVを不活性化するための銅イオンを含む物質、次いで銅イオンを除くための活性炭の層、次いで残留した炭粒子を除くためのフィルターを有する装置。」

(3b)「【技術分野】
【0001】
本発明は、ウイルスを不活性化するための方法及び装置に関する。
【0002】
より詳細には、本発明はウイルスを不活性化するための装置であって、そのウイルスを不活性化するフィルターを使用するもの、並びに、血液バンクのために献血をろ過すること、及びHIVに感染した女性からの母乳を、HIVを伝染することなく乳児に与えるためにろ過することに適用したり、またガスマスクに適用したりするために該フィルターを使用する方法に関する。
【0003】
さらに詳細には、本発明によって、これでHIVを含むウイルスの不活性化のための装置が提供され、その装置は液体通路を区切るハウジングを包含し、該通路にはろ過物質が提供されており、該ろ過物質がそこに組み入れられたCu+及びCu++イオン並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される銅イオンを有する。」

(3c)「【0048】
これまでに述べたように、HIVの不活性化に有効な表面を得るために、銅の陽イオン種が得られなければならない。銅の有効な化合物はCu(I)又はCu(II)種のいずれか、あるいは両方を含んでいなければならない。これらの種をセルロース上で得るのを確かにするために、Pd++は適用されなければならず、それによって同時にすべての繊維の等しい飽和が存在するようにする。大きな繊維パックがPd++溶液に入れられた場合、溶液にあたる最初の繊維はパックのその他の部分より多くのPd++溶液を吸収し、それにより陽イオン銅の沈殿を攪乱する。加えて、繊維はSn++を含む最初のプロセスと2番目のプロセスPd++との間に水中で洗浄されなければならない。繊維間に残されたSn++溶液残余物は、繊維間の溶液への直接的なPd++の還元を引き起こし、繊維上のランダムなPd++の還元のみを可能にし、それにより再び銅の沈殿を生じる。これらの2つの点は小さく見えるかもしれないが、これらはメッキに直接の効果を有している。
【0049】
加えて、銅溶液の適用システムにおいて、プロセスに対する変化が必要である。還元プロセスの繊維への副作用は水素の形成である。この水素は繊維の表面の気泡として現われる。水素は、銅溶液と繊維表面上のPd++との相互作用の結果として生じる。もし水素が形成されてすぐに繊維の表面から取り除かれないと、空気に曝される繊維は元素銅によってコートされるだろう。元素銅の表面のすぐ下の繊維は黒色の酸化銅である。しかしながら、もし水素が気泡の形成時にすぐに取り除かれれば、所望の陽イオン種が繊維パック中で得られる。所望の色は、銅金属色または黒色の酸化銅とは異なる暗褐色である。陽イオン種のさらなる兆候は、繊維が電気を伝導しないということである。
【0050】
このプロセスはCu(I)及びCu(II)種の両方を酸化銅分子の部分として産生する。分析は、Cu2O中の表面上で形成されたものはCu(I)70%、Cu(II)30%であることを示してきた。これらの化合物はHIVの不活性化に非常に有効であることが証明されてきた。抗ウイルス活性は水との陽イオン種の酸化還元反応を利用し、水と接触するときにCu(II)とCu(I)との間のスイッチを可能にする。Cu(I)はHIVに対しCu(II)よりも有効であり、一方Cu(II)はCu(I)よりも安定である。Cu(II)化合物はCu(I)化合物よりもよりゆっくりと酸化し、製品の保管寿命を上げる。
・・・
【0052】
図1を参照すると、本発明による装置2の略図が示されている。装置はコンテナ4を有し、該コンテナは、ろ過されていない液媒体6(血液や母乳であってもよい)を受け、そのアウトレット10に提供されるフィルターユニット8へ導くためのものである。該ユニットはユニット8のインレットに第1の多孔性媒体12を包含し、ついで物質14を包含し、該物質は、Cu+及びCu++イオン、並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される銅イオンを含み、それらを放出するように適応されている。該銅イオンは上記と同様に調製された後、該物質へ導入される。
【0053】
物質14の層に続いて、状況に応じて、通過する液体から白血球を除去するために、0.6ミクロンまでのフィルター16を組み込んださらなる層がある。
【0054】
層14または、状況に応じて層16の後に、フィルターを通過する液体から銅イオンを除去するための活性炭の層18がある。この層18に続いて、さらに残留炭粒子を除去するためのフィルター20があり、このフィルター20は、好ましくは0.4ミクロンより大きい粒子の通過を妨げるものである。
【0055】
装置にはさらに、図示はしていないが、フィルター装置2を通る液の移動を促進するためのポンピング手段が提供される。
【0056】
理解されるであろう通り、上記の図1に関する記載は、血液バンクにおける使用やそれと同様の使用のための、可能な装置の単なる略図であり、感染した授乳中の母親に配給する装置は、おそらく母親の胸から母乳を抽出し、ついで本発明によるフィルター装置を通じて母乳をポンプするように設計された胸ポンプであろう。」

(3d)「【実施例】
【0058】
実施例1
ヒト血漿或いは、以下の、分岐群A、B、若しくはCからの野生型実験室の又は基礎臨床HIV−1分離株、あるいはヌクレオシド、ノンヌクレオシド又はプロテアーゼ耐性分岐群B HIV−分離株、を引き起こす(T細胞指向性)合胞体、或いは分岐群B HIV−1分離株を引き起こす(マクロファージ指向性)非合胞体のいずれか1つの106×TCID50(患者の50%において感染を引き起こす、組織培養インドーズ(Tissue Culture InDose))を含むRPMI1640媒体(GibcoBRL,Life Technologies, Paisley, UK)を、異なる濃度の銅粉末(媒体の体積当たりの銅の重さのパーセンテージで表される)を含むシャフトへ加えた。5分の培養後、媒体を0.2μmシリンジフィルター(Sartorius, Gottingen, Germany)及び100mgの炭素(活性炭)を含む別のシャフトを通過させた。ついで、ろ過物のアリコート(10、20及び50μl)を、cMAGI(ウェルの底に付着した単層として細胞が成長する、T細胞系)又はMT−2細胞(細胞が懸濁液として成長する、T細胞系)のいずれかである105の標的細胞へ加え、3日間、37℃で、5%CO2湿性インキュベータにて培養した。コントロールとして、同じ条件下でウイルスを銅なしのフィルターに通過させた。
【0059】
ウイルスの伝染力はHIV−1 p24抗原レベル(p24抗原捕獲キット、SAIC Frederick, Frederick, MD, USA、製造者の指示による)を測定することによって、及び/又はHIV−1感染されたcMAGI標識細胞(β−ガラクトシダーゼ遺伝子へ融合したHIV−1 LTRを含む血漿と安定してトランスフェクションされた細胞は、HIV−1に感染すると青に染まる)を数えることによって判断された。MT2細胞のHIV−1感染の細胞変性効果もまた、合胞体形成の顕微鏡評価によって分析された。後者のデータは2人の独立観察者による2重のサンプルの分析によって得られた。
【0060】
図2において、2つの代表例に示されるように、血清中又は媒体中のHIV−1IIIB或いはHIV−1 SF162の感染力は、50%銅フィルターでろ過した後、青かったcMAGI細胞の数によって判断されるように(つまり、HIV−1に感染した細胞は青く染まる)、それぞれなくなった。対照的に、銅を含まない(0%)同様のフィルターでろ過した同量のウイルスは、高い感染力をもたらした。
【0061】
その他の上述したHIV−1分離株のすべてで、同様の結果が得られた。これは、銅フィルターが、基礎臨床分離株や現在臨床的に用いられている抗ウイルス薬に耐性のある分離株を含む、幅広いHIV−1分離株の感染力をなくすことができることを示している。さらに、ウイルスをたった10%(重量/体積)の銅フィルターに5分間曝すと、HIV−1感染力がなくなった。」

(4)甲第4号証
本件特許の優先日前に外国において頒布された刊行物である甲第4号証には、以下の記載がある。
訳文にて示す。
(4a)「要約
本発明は、アルキンベースの基質、アジドベースの基質、Cu(II)塩および光誘導性還元剤を含む組成物を含む。本発明はさらに、光誘導性のCu(I)触媒によるアジド−アルキン付加環化反応を使用して、所与のパターンの化学構造を固体基板の表面の一部に固定化する方法を含む。」

(4b)「[0024] 図1A〜1Cを含む図1は、光触媒されたCuAAC反応の化学的性質を示している。図1Aを参照すると、銅触媒によるアジド−アルキン反応は、3つのステップで起こることが示されている。アルキン(a)はCu(I)と反応して、銅−アセチリド(b)を生成する。次に、この種はアジド(c)と反応して、付加環化生成物(d)を生成する。Cu(I)が再生され、トリアゾール生成物(e)が形成されると、この触媒サイクルが完了する。ラジカル媒介プロセスでは、Cu(I)はCu(II)の還元によって生成される(反応R1)。Cu(I)が生成されると、Cu(I)は潜在的にCu(II)とCu(0)に不均化する可能性があり(反応D)、あるいはラジカル反応(反応R2)によってさらに還元されて金属の銅になることも予想される。わかりやすくするために、存在するリガンドは省略されている。図1Bは、光誘起CuAAC反応の開始スキームを示している。・・・」

(4c)「[0046] 本明細書で使用される場合、「光誘導性還元剤」という用語は、所与の時間の還元剤の照射時に少なくとも1つの還元種を生成する分子を指す。一実施形態では、電磁照射は、紫外線、可視光、または赤外線の電磁放射を含む。別の実施形態では、少なくとも1つの還元剤は、還元剤の照射に利用される所与の時間内に、Cu(II)塩を所与の程度までCu(I)種に還元することができる。非限定的な実施形態では、上記所与の程度は、(i)Cu(I)種に還元された反応系中のCu(II)塩の量と、(ii)還元前の反応系中のCu(II)塩の最との間の比率として計算される。」

(4d)「[0071] 本発明は、アルキンベースの基質、アジドベースの基質、Cu(II)塩および光化学還元剤を含むシステムを照射することによって、CuAAC反応が光誘導され得るという予想外の発見に関する。システムへの照射により、少なくとも1つの還元剤が生成され、生成された還元剤はCu(II)と相互作用して、1,2,3−トリアゾールを形成するCuAAC反応を 触媒するCu(I)種を局所的に生成する。・・・
[0072] ・・・この触媒作用は、従来の光重合プロセスでのラジカルまたはカルボカチオン種の生成と類似の方法で、Cu(I)の光化学的生成を利用可能とし、CuAAC反応の空間的および時間的制御を可能にする。図1に示されるように、開裂型光開始剤を使用して、Cu(II)をCu(I)に還元するラジカルを生成することができる。一時的に生成されたCu(I)は、1,3−双極子付加環化反応を触媒し、Cu(0)に還元される前に、光誘導性アジド−アルキン付加環化反応(pCuACC)を可能にする。不均化は、Cu(I)とラジカルの別の潜在的結果である。」

(4e)「[0077] 本発明で熟慮された少なくとも1つのCu(II)塩は、Cu(II)を含む塩であり、 たとえば、硫酸(II)、塩化銅(II)、臭化銅(II),ヨウ化銅(II)、過塩素酸銅 (II)、硝酸銅(II)、水酸化銅(II)、酸化銅(II)、および水和物とそれらの混合物であるが、これらに限定されない。限定されるものではない水和物の例は、硫酸(II)五水和物、硝酸(II)水和物、硝酸(II)2.5H2O、過塩素酸銅(II)六水和物、塩化銅(II)二水和物 などである。
[0078] 本発明で熟慮された少なくとも1つの光誘導性還元剤は、所与の期間、所与の強度で所与の波長で該還元剤を照射すると、少なくとも1つの還元種を生成する分子である。当技術分野で知られているラジカル光開始剤、例えばベンゾインエーテルや、ベンゾフェノン、ジエトキシアセトフェノンなどのフェノン誘導体を使用することができる。一実施形態では、照射は、紫外線電磁放射(約10nmから約400nmの波長)、可視電磁放射(約400nmから約750nmの波長)、または赤外線電磁放射(約750nmから約300,000のnmの放射波長)を含む。・・・」

(4f)「[0080] 一実施形態では、少なくとも1つの還元剤は、所与の時間の組成物への照射時に、組成物の少なくとも1つのCu(II)塩を所与の程度までCu(I)種に還元することができる。別の実施形態では、上記所与の程度は、約0.01%から約5%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は約5%から約10%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は、約10%から約25%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は、約25%から約50%である。さらに別の実施形態では、所与の程度は、約50%から約75%である。別の実施形態では、所与の程度は、約75%から約100である。
[0081] 本発明内で熟慮された少なくとも1つの還元剤の非限定的な例は、以下のとおりである。
[0082] 1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトン(Irgacure184;Ciba,Hawthorne、N.J.) ;
[0083] 1−ヒドロキシ−シクロヘキシル−フェニル−ケトンとベンゾフェノンの1:1混合物(Irgacure 500; Ciba, Hawthorne、N.J.) ;
[0084] 2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニル−1−プロパノン(DarocurTM 1173; Ciba, Hawthorne, N.J.)
[0085] 2−ヒドロキシ−1−[4−(2−ヒドロキシエトキシ)フェニル]−2−メチル−1−プロパノン(Irgacure 2959; Ciba, Hawthorne, N.J.)」

(4g)「[0106] 少なくとも1つの還元剤は、組成物の約0.01から約25重量パーセント(重量%)、より好ましくは組成物の約0.1から約20重量パーセント(重量%)、より好ましくは組成物の約1から約15重量パーセント(重量%)、より好ましくは組成物の約2から約10重量パーセント(重量%)の範囲の量で使用することができる。」
・・・
[0108] 一態様では、本発明は、式(I)の化合物を調製する方法を含む:
・・・
この方法は、以下のステップを含む。
[0109] (i)式(II)の化合物:
R−C≡C−H (II)と、
式(III)の化合物:
R1−N3 (III)と、
少なくとも1つのCu(II)塩と、少なくとも1つの光誘導性還元剤を第1の混合物を生成するために混合し、・・・
(ii)第1の混合物の少なくとも一部を、第2の混合物を生成するために、所与の期間、所与の強度で所与の波長の電磁放射に曝露し、それにより、少なくとも1つのCu(II)塩が所与の程度までCu(I)種に還元される。」

(5)甲第5号証
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第5号証には、以下の記載がある。
(5a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
基板と、
前記基板の一方面又は両面上に積層される表層樹脂層と、
前記表層樹脂層上に存在する機能性物質とからなることを特徴とするトイレブース用化粧板。
【請求項2】
さらに、前記表層樹脂層上には、カチオン担体粒子が露出して配置され、
前記機能性物質は、前記カチオン担体粒子の露出面上に担持されている請求項1に記載のトイレブース用化粧板。
【請求項3】
前記カチオン担体粒子は、アルミナ含有粒子である請求項2に記載のトイレブース用化粧板。
・・・
【請求項12】
前記表層樹脂層は、耐酸化性樹脂からなる請求項1〜11のいずれか1に記載のトイレブース用化粧板。
【請求項13】
前記表層樹脂層には、凹陥模様が形成されてなる請求項1〜12のいずれか1に記載のトイレブース用化粧板。
【請求項14】
前記凹陥模様の深さは、10〜50μmである請求項13に記載のトイレブース用化粧板。
【請求項15】
前記表層樹脂層の表面粗さは、測定長さ12.5mmの条件で、JIS B 0601に基づく算術平均粗さ(Ra)が0.1〜10μmである(但し、凹陥模様を除く)請求項1〜14のいずれか1に記載のトイレブース用化粧板。
【請求項16】
扉、仕切り板及び壁面からなるトイレブースであって、
基板と、前記基板の一方面又は両面上に積層される表層樹脂層と、前記表層樹脂層上に存在する機能性物質とからなるトイレブース用化粧板が、前記扉、前記仕切り板及び前記壁面のいずれかに用いられていることを特徴とするトイレブース。
【請求項17】
前記トイレブース用化粧板は、さらに、前記表層樹脂層上に露出して配置されるカチオン担体粒子を有し、前記機能性物質は、前記カチオン担体粒子の露出面上に担持されている請求項16に記載のトイレブース。」

(5b)「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1に記載のフラッシュパネルで、薬剤をパネル中空部内に封入した担体を介して保持した場合には、気体透過性化粧層の表面がフラッシュパネルの表面となるため、消臭、防虫に関してはある程度の効果を有すると考えられるが、フラッシュパネルに付着した細菌等に対しては、継続的な効果が小さいという問題があった。
また、フラッシュパネル本体に直接含浸させた場合には、清掃作業を行うと、表面の薬剤は除去されてしまい、抗菌性を維持することができないという問題があった。
【0009】
また、特許文献4では、紫外線応答型の光触媒が使用されている上、光触媒の使用は紫外線が照射される範囲のみで限定的であり、トイレの壁面の化粧材ではなく、抗ウィルス機能を充分に発揮できないという問題があった。さらに、特許文献5では、算術平均粗さ(Ra)が0.3μmの化粧板に光触媒を担持する技術が開示されているが、キッチン等で使用される防汚性化粧板であり、トイレの壁面への使用や抗ウィルス機能については明示されていない。
【0010】
また、図5は、従来の化粧板を模式的に示す概略断面図である。
この化粧板3では、紫外線等で活性化される光触媒などの機能性物質14が表層樹脂層12に固定されている。
【0011】
図5に示した化粧板3では、光触媒などの機能性物質14が表層樹脂層12に長時間接触すると表層樹脂層12を劣化させることがある。具体的には、表層樹脂層12の変色や機能性物質14の脱落が生じることがある。これによって、機能性が低下するだけでなく、表層樹脂層12の変色による化粧板3の意匠性の低下、表面の凹凸の発生による化粧板3の外観の不具合を引き起こすという問題があった。
【0012】
本発明は、このような問題に鑑みてなされたものであり、メラミン樹脂等からなる表層樹脂層の劣化を防ぎ、機能性の効果の維持に優れたトイレブース用化粧板及びそれを用いたトイレブースを提供することを目的とする。特に、抗菌性、抗ウィルス性の効果の維持に優れたトイレブース用化粧板及びそれを用いたトイレブースを提供することを目的とする。」

(5c)「【0027】
さらに、本発明のトイレブース用化粧板において、上記凹陥模様の深さは、10〜50μmであることが望ましく、上記表層樹脂層の表面粗さは、測定長さ12.5mmの条件で、JIS B 0601に基づく算術平均粗さ(Ra)が0.1〜10μmである(但し、凹陥模様を除く)ことが望ましい。
凹陥模様の形成方法としては、例えば、その表面に凸状模様が形成された金属製賦型板や、PETフィルムなどを表層樹脂層とプレス機との間に介在させ、プレス機により化粧板をプレスする方法が挙げられる。その際、金属製賦型板やPETフィルムの表面をサンドブラスト等により粗化させ、粗化表面を形成してプレスすることにより、表層樹脂層の表面を所定粗さの粗化面とすることができる。
【0028】
本発明のトイレブースは、扉、仕切り板及び壁面からなるトイレブースであって、
基板と、上記基板の一方面又は両面上に積層される表層樹脂層と、上記表層樹脂層上に存在する機能性物質とからなるトイレブース用化粧板が、上記扉、上記仕切り板及び上記壁面のいずれかに用いられていることを特徴とする。
上記トイレブースにおいて、上記トイレブース用化粧板は、さらに、上記表層樹脂層上に露出して配置されるカチオン担体粒子を有し、上記機能性物質は、上記カチオン担体粒子の露出面上に担持されていることが望ましい。
【発明の効果】
【0029】
本発明のトイレブース用化粧板では、機能性物質は表層樹脂層上に存在するため、抗菌性、抗ウィルス性等、機能性物質としての本来の機能を発揮することができ、その効果を長期間維持することができる。また、化粧板であるからトイレブース壁面全体を構成することになり、換気機能により空気中のウィルスが撹拌されて壁面に接触する確率が高くなり、充分な抗ウィルス機能を発現できる。
【0030】
本発明においては、化粧板表面(表層樹脂層)に凹陥模様を形成することで、空気や水のような流動媒体中のウィルスをトラップさせることができ、ウィルスを失活させやすい。可視光応答型光触媒の場合は、凹陥模様の深さは、は、10μm〜50μmであることが望ましく、また、化粧板表面(表層樹脂層)の表面粗さに関し、JIS B 0601に基づく算術平均粗さ(Ra)が0.1〜10μmであることが望ましい(凹陥模様部分を除く)。凹陥模様の深さが浅い場合は、トラップしたウィルスが脱離しやすく、逆に深すぎると可視光が入射しにくくなるため触媒機能が発揮されず、いずれにせよ充分な抗ウィルス機能を発現させることが難しい。また、上記算術平均粗さ(Ra)が0.1μm未満では、ウィルスを充分にトラップさせることができず、一方、上記算術平均粗さ(Ra)10μmを超えると、光触媒が凹陥模様を構成する溝部の底部に凝集して担持されてしまい、やはり抗ウィルス機能が低下してしまう。このように、凹陥模様および上記表面粗さの範囲は、トイレブース用の化粧板として特有の範囲である。
なお、凹陥模様は、導管の窪み状に形成でき、木目調の化粧板とする場合は好適である。」

(5d)「【0081】
(抗ウィルス性評価)
実施例1及び比較例1で得られた光触媒が担持された化粧板の抗ウィルス性を評価するために、JIS R1756 可視光応答形光触媒材料の抗ウィルス性試験方法に準じて抗ウィルス性に関する測定を行った。実施例2〜7では、バクテリオファージ液を試料に滴下してフィルムで被覆する代わりに、1辺50±2mm角の試料をバイクテリオファージ液に浸漬して、マグネチックスターラーで撹拌しながら、バウテリオファージ液を流動させた。また、光源は白色光としこれを24時間照射した。測定結果は、大腸菌に対して不活化されたウィルス濃度で表す。ここで、ウィルス濃度の指標として、大腸菌に対して不活化されたウィルスの濃度(ウィルス不活度)を使用した。
・・・
【0085】
表1に示すように、実施例1のトイレブース用化粧板では、大腸菌に感染することができるウィルスの濃度が830個/ミリリットル以下という結果であり、ウィルス不活度に換算すると99.99%以上相当(ウィルス不活性度が−4.00と同等か、それよりも抗ウィルス性に優れた値)になり、高い抗ウィルス性を有することが確認された。これに対して、比較例1のトイレブース用化粧板では、大腸菌に感染することができるウィルスの濃度が約827000個/ミリリットルという結果であり、ウィルス不活度に換算すると約90%であり(ウィルス不活性度が−1.00)、ウィルスの残留している度合いが実施例1に比べて高く、抗ウィルス性が実施例1に比べて劣ることが確認された。TiO2単独では可視光領域で十分に触媒活性を発現できないと推定される。
【0086】
実施例2〜4でも、ウィルス不活性度が−4.00以上であり、ウィルスが流動性の媒体中で運動していても、トイレブース用化粧板表面に凹陥模様を形成することにより、ウィルスを失活させる機能を有し、高い抗ウィルス性を有することが確認される。一方、実施例2〜4、実施例6,7の比較から、表層樹脂層の算術平均粗さ(Ra)が0.1〜10μmの場合は、特に抗ウィルス機能が高くなることが分かる。このように、トイレブースでは、換気扇により菌を含む空気が流動しているが、トイレブース用化粧板表面に凹陥模様を形成すること、あるいは、表層樹脂層の算術平均粗さ(Ra)を調整することで、空気のような流動媒体中のウィルスをトラップさせることができ、ウィルスを失活させることができることが確認される。つまり、トイレブース用化粧板として最適であることがわかる。」

(6)甲第6号証
本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第6号証には、以下の記載がある。
(6a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 抗菌性物質が混合されている電子線硬化型の塗料部分をシート素材の少なくとも1部分に有することを特徴とする抗菌性シート素材。」

(6b)「【0006】本発明はこれらの点に鑑みてなされたものであり、抗菌性物質が混合されている電子線硬化型の塗料を利用することにより、公害を誘発するおそれのある溶剤や光重合開始剤を使用しないで抗菌性シート素材を提供することができ、多種多様な積層構造の抗菌性シート素材を提供することができ、製造効率を高くすることができ、製造コストも低廉な抗菌性シート素材およびその製造方法を提供することを目的とする。」

(6c)「【0013】
【作用】本発明によれば、抗菌性物質が混合されている電子線硬化型の塗料を利用して抗菌性を発揮する部分をシート素材の少なくとも1部分に形成しているので、公害を誘発するおそれのある溶剤や光重合開始剤を使用しない安全な抗菌性シート素材を提供することができ、電子線はシート素材を透過するために、シート素材と抗菌性物質が混合されている電子線硬化型の塗料部分との位置的な組合せを自由に設定することができ、多種多様な積層構造の抗菌性シート素材を提供することができ、製造効率を高くすることができ、製造コストも低廉とすることができる。
【0014】
【実施例】以下、本発明の実施例を図1から図4について説明する。
【0015】図1は本発明の1実施例を示す。
【0016】本実施例は本発明の抗菌性シート素材の基本的構成を示しており、その構成を製造方法とともに説明する。
【0017】まず、基材シート層1の上面に、抗菌性物質2が混合されている液状の電子線硬化型の塗料3を塗布し、その後電子線硬化型の塗料3および基材シート層1に向けて電子線を照射させて液状の電子線硬化型の塗料3を硬化させて電子線硬化型の塗料層4を形成させて抗菌性シート素材5を製造する。
【0018】前記基材シート層1としては、合成樹脂フィルム、紙、布、動植物の皮、金属箔等のあらゆるシート状の素材を用いることができ、抗菌性シート素材5の用途に応じて選択するとよい。同様に基材シート層1の厚さも抗菌性シート素材5の用途に応じて選択するとよい。
【0019】前記抗菌性物質2としては、かび、バクテリア、ビールス、細菌等の菌類やダニ等の微小害虫等が接近するのを防止したり、接触した菌類等の増殖を抑えたり、菌類等を殺す等の作用を発揮するすべての物質を採用することができ、抗菌性シート素材5の用途に応じて選択するとよい。特に、人体に毒性の影響を与えないものを選択すると安全性に優れたものとなる。このような抗菌性物質2の例としては、イミダゾール系有機物、チアゾリ系有機物、ゼオライトに銀を担持させたもの等が用いられており、市販品としてはセラミック抗菌剤としてのアバサイダーA(株式会社サンギ製の商品名)を挙げることができる。
【0020】前記電子線硬化型の塗料3としては、電子線を照射することにより硬化する合成樹脂材料等のあらゆる素材を用いることができ、例えばラジキュアー(関西ペイント株式会社式製の商品名)を挙げることができる。この電子線硬化型の塗料3は溶剤を用いることなく液状となり、紫外線硬化型の塗料と異なり光重合開始剤を必要としないで硬化し、しかも素材の温度上昇はあまり伴わずに硬化するものである。
【0021】この電子線硬化型の塗料3と抗菌性物質2とによって形成される電子線硬化型の塗料層4の厚さは、一方の抗菌性物質2に求められている抗菌性の度合いを満たすに十分であり、他方の電子線硬化型の塗料3に求められている硬さの度合いを満たすに十分である厚さにするとよい。従って、1μm以下でもよく、例えば0.1μm程度でも設計条件を満たせばよい。
【0022】次に、本実施例の作用を説明する。
【0023】本実施例によれば、抗菌性物質2が混合されている電子線硬化型の塗料3を利用して抗菌性を発揮する部分をシート素材の少なくとも1部分、即ち基材シート層1の上面側に形成して抗菌性シート素材5を製造している。
【0024】従って、この抗菌性シート素材5は、公害を誘発するおそれのある溶剤や光重合開始剤を使用していない安全なものとなる。また、電子線硬化型の塗料層4を形成する一方の抗菌性物質2により優れた抗菌作用が発揮される。更に、電子線硬化型の塗料層4を形成する他方の硬化させられた電子線硬化型の塗料3により硬さが付与され、抗菌性をより一層高められ、しかも抗菌性シート素材5自身の強度、耐久性、耐候性等が高められ、寿命も長くされている。」

(7)甲第7号証
本件特許の優先日前に日本国内において頒布された刊行物である甲第7号証には、以下の記載がある。
(7a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】 バインダーに、抗菌剤を0.5〜3重量%を添加混合して抗菌剤混合バインダーを形成し、且つ該抗菌剤混合バインダーをスクリーン印刷用の刷版スクリーンに設けられた透過面を透過させて、パネルまたはシート材料に塗布して抗菌性被膜を形成することを特徴とする抗菌性被膜を有するパネルまたはシート材料。」

(7b)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】前記従来の抗菌剤を練り込んだプラスチックフィルムの場合、その製造に当たっては500kg〜1000kg程度の大きな数量を1ロットとしない限り、経済的な効果は生ぜず、少量の需要に対応できないという問題点があった。
【0004】本発明は、前記従来の問題点を解決することを目的とする抗菌性被膜を有するパネルまたはシート材料並びにパネルまたはシート材料に抗菌性被膜を形成する方法を提供しようとするものである。」

(7c)「【0006】
【作用】前記構成より成る本発明によれば、抗菌処理を必要とする部分のみに、抗菌剤混合バインダーが塗布され、抗菌性被膜が形成される。」

(7d)「【0011】前記刷版スクリーン5の透過面4は、前記抗菌剤混合バインダー1の塗布面が、例えば温水噴射洗浄装置を備えた便座の操作用のパネル2の場合、該操作用のパネル2に直接抗菌剤混合バインダー1を塗布して抗菌処理を必要とする部分のみに形成すればよく、抗菌処理を不要とする部分は透過面4を形成する必要はない。」

(7e)「【0017】
【発明の効果】本発明は上述のようであるから、抗菌剤をプラスチックフィルムに練り込むという従来の抗菌シートと異なり、抗菌処理を必要とする部分のみに抗菌剤混合バインダーを塗布することができるので、抗菌剤の使用量を最低限に押さえることができる。また、従来の抗菌シートは、その製造に当たって500kg〜1000kg程度の大きな数量を1ロットとしない限り、経済的な効果は生じないが、本発明によれば単に刷版スクリーンの透過面を適宜変更するのみで、少量の需要にも迅速に対応することができる。」

(8)甲第8号証
本件特許の優先日前に電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第8号証には、以下の記載がある。
(8a)「請求の範囲
[請求項1] ポリオキシアルキレン基を有するアクリル単量体(a1)、水酸基を有するアクリル単量体(a2)、並びに前記アクリル単量体(a1)及びアクリル単量体(a2)以外のアクリル単量体(a3)を必須原料として共重合して得られたアクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、水酸基を有する(メタ)アクリレート(C)とを反応させ、その反応物を水媒体中で分散させることで得られることを特徴とする活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物。」

(8b)「[0006] 本発明が解決しようとする課題は、貯蔵安定性に優れ、またその硬化塗膜の外観が良好で、かつ温水浸漬後でも基材との高い密着性を有する活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物、該組成物を含有する活性エネルギー線硬化型水性塗料、及び該塗料で塗装された物品を提供することである。」

(8c)「[0065] 〔実施例1:活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物(W−1)の調製〕
攪拌機、温度計及び冷却管を備えた4つ口フラスコに、合成例1で得られた重合体(A−1)の65質量%溶液615g(重合体(A−1)として400g)、メトキノン0.2g、ジブチル錫ジラウレート0.2g、PETA混合物472g、及び4,4’−ジシクロヘキシルメタンジイソシアネート(以下、「H12MDI」と略記する。)128gを仕込み、80℃まで昇温した後、同温度で5時間撹拌混合し、赤外線スペクトルで2250cm−1のイソシアネート基の吸収が消失したことを確認して反応を終了した。次いで、得られた反応物とイオン交換水1,285gとを混合し、さらに光重合開始剤(BASFジャパン株式会社製「イルガキュア500」、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトンとベンゾフェノンとのモル比1:1の共融混合物)40gを混合して、活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物(W−1)を得た。」

(9)甲第9号証
本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第9号証には、以下の記載がある。
(9a)「「光触媒反応」および「光触媒」という用語の定義
なにごとでも,基礎の基礎はことばの定義である.ほかの学問でもだいじであるとは思うが,とくに自然科学では,用語の定義をさいしょにはっきりさせておかないと,議論がかみあわない.おどろくべきことに,光触媒に関連する 基本用語については,光触媒がまだ発展途上であるという認識があるのか,誰もきちんと定義しようとしないようである2.このために,重要であるにもかかわらず,はっきりとしていない部分があるように思われる,本書では,まずさいしょにこの用語について考えてみる3.」

(9b)「現在,ひろくつかわれている「光触媒反応(photocatalytic reaction4)」という用語は,『酸化チタンなどの半導体とよばれる固体材料が光を吸収することによって生じる励起電子および正孔がおこす化学反応』をあらわすことがほとんどである.ここでは,これを「狭義の光触媒反応の定義」とする.
理化学辞典第5版の「光触媒反応」の項目では『触媒あるいは基質の光吸収によっておこる触媒反応をいう,また光の吸収により暗反応の触媒を生成しておこる反応も広義の光触媒とよぶ』としており,原理よりも現象論的な定義 (ここでは「理化学辞典の定義」)をおこない,以下の3つの反応例をあげている.
(1)ZnO,TiO2などの粉末を空気下エタノール中で光照射するとエタノールのアセトアルデヒドへの連鎖的酸化が起こる.
(2)TiO2を酸素で光照射するとオレフィンの酸化や高分子の酸化劣化を引き起こす.
(3)無酸素下の含水エタノール中でTiO2に光を照射すると,エタノ--ルはカルボニル化合物に酸化されるとともに水が水素に還元される.
これらの反応の機構は,すべて狭義の光触媒反応の定義の範囲にふくまれる.しかし,理化学辞典の定義では,光を吸収する物質は半導体固体には限定していない.したがって,溶液中の色素や光合成系におけるクロロフィルなどの分子や,固体表面に吸着された物質であってもよい.これら,光を吸収する物質の物質量が反応前後で変化しない場合に「触媒反応」であるとみなすならば,これらも光触媒反応といえる.理化学辞典の表現では,光触媒反応の定義にもちいられている「触媒反応」の定義がこれまた明確でないので,さらに問題がのこるが,『光を照射したときに起こる反応において,光を吸収する物質が反応前後で変化しない場合に光触媒反応とよぶ』と解釈できる.これを「広義の光触媒反応の定義」とする.」(37頁1行〜38頁7行)

(9c)「以上のことから総合的に判断すると,最初にのべた狭義の定義がもっとも適切であると考えられる.この場合に,光を吸収する半導体固体が「光触媒」であると定義される.反応前後でこの光触媒に変化がないことがもとめられるが,どのような分析のレベルでそのことを実証するのかについてはきめることができない.たとえば,表面の第一層の原子配列が変化しても定量的な証拠をえることは非常に困難である.したがって,通常は反応終了後に固体が溶解して減少あるいは消失したり,反応前と明らかに色や状態がちがわないかぎり,変化がない,あるいは,少ないと見る場合がほとんどであり,この場合には光触媒とよばれる.ところで,ポルフィリンなどのように半導体固体以外の化学物質が光を吸収して酸化還元反応が起こる場合に,光を吸収して反応を誘起するが,反応前後で変化しない化学物質を光触媒とよぶことがある.これを排除する理由はないが,歴史的には,このような化学物質を光増感剤21 (photosensitizer),これによって起こる反応を光増感反応(photosensitized reaction)とよんでいたことを付記しておく22.」(40頁5〜18行)

(10)甲第10号証
本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である甲第10号証には、以下の記載がある。
(10a)「2.特許請求の範囲
(1)固体電解質と、前記固体電解質の可動金属イオンを電気化学的に出し入れする物質で表面を覆った光導電性を示す電極と、前記固体電解質の可動金属イオンあるいは可動金属イオンの金属を含む電極とで構成される光二次電池。
(2)光導電性を示す電極は、n型半導体あるいはp型半導体である特許請求の範囲第1項記載の光二次電池。
(3)光導電性を示す電極は、有機半導体である特許請求の範囲第1項記載の光二次電池。
(4)光導電性を示す電極は、特許請求の範囲第2項および第3項記載の半導体を接合したものである特許請求の範囲第1項記載の光二次電池。
(5)光導電性を示す電極として用いられるn型半導体は、シリコン,CdS,CdSe,CdTe,MoSe2,CuInSe2,WSe2,GaAs,GaP,GaSb,AlxGa1−xAs(0<x<1),InP,MoS2,MoSe2,WSe2,MxInS2(M=CuあるいはAg,0<x<1),MxInSe2(M=CuあるいはAg,0<x<1)より選択される単結晶または多結晶またはアモルファス状態の半導体である特許請求の範囲第1項または第2項記載の光二次電池。
(6)光導電性を示す電極として用いられるp型半導体は、AgI,AgCl,AgBr,CuI,CuCl,CuBr,MxS(M=CuあるいはAg,1≦x≦2),MxMo6S8−y(M=CuあるいはAg,0≦x≦8,0≦y≦0.5)より選択される単結晶または多結晶またはアモルファス状態の半導体である特許請求の範囲第1項または第2項記載の光二次電池。」

2 乙号証の記載
(1)乙第1号証
甲第9号証と同じ刊行物の乙第1号証には、甲第9号証とは、別の箇所の記載として、以下の記載がある。
(1a)「電子−正孔と酸化還元
フォトダイオードやフォトトランジスタなどの「半導体素子」では,光を吸収したケイ素などの半導体中で生じる電子や正孔が,素子や配線のなかを移動する物理過程だけが起こるのに対し,光触媒反応では,電子と正孔が固体の外に出てべつの化学物質に移動して化学反応が起こる26.これまでの報告では, 電子や正孔が溶媒や真空中に飛びだしたことを明確にしめす根拠はえられていないので,電子や正孔は半導体の表面に吸着された物質に移動すると考えてよい.電子が移動すると物質の還元が,正孔が移動すると物質の酸化が起こる. その結果,光触媒反応の第一段階はかならず酸化還元反応となる.いっぽう, 電子と正孔が再結合すると熱が生じて光触媒はもとの状態にもどり,正味の化学反応は起こらない.」(45頁2〜12行)

(1b)「光触媒反応における吸着の役割
光触媒は固体なので,化学反応の基質がふくまれている液相あるいは気相との接点としての表面がかならず存在する.金属への水素の吸蔵現象などをのぞくと,固体内に化学物質が入り込むことはないので,光触媒反応が起こるためには,(1)光触媒から何らかの活性種が飛びだして,液相あるいは気相中の化学物質と反応するか,(2)化学物質が光触媒の表面に吸着され420,固体中の励起電子や正孔,あるいは,それらが表面に吸着された化学物質と反応して生じた活性種と反応することが考えられる.前者については,励起電子あるいは正孔421そのものが飛びだすことはないが,酸素の存在下で生じる過酸化水素が気相に遊離するのではないか,という提案422もある.しかし,この場合の過酸化水素も,おそらく表面に吸着された酸素などから生じたものであり,基本的には後者の吸着種経由の反応にふくまれる.」(198頁12行〜199頁3行)

(1c)「本多−藤嶋効果と光触媒反応
このような光触媒による水の分解の原点と言えるものが,この本多-藤嶋効果58 (Honda-Fujishima Effect)である.これは,光触媒ではなく,光電極(光電気化学)反応で,酸化チタン電極と白金電極の系において,両電極がおなじ電解液(electrolyte59)に浸漬されている場合には,酸化チタン電極にアノーディックバイアス(プラス側の電位)をかけて光を照射すると,白金電極から酸化チタン電極へ電流が流れ(電子の流れは逆),酸化チタン電極上で酸素,白金電極上で水素が発生する60現象である.また,酸化チタン電極と白金電極をそれぞれ浸漬する電解液のpHをかえると61,バイアスをかけなくても光電流が流れる.前項の脚注でのべたように,pHを変化させることは電位を変化させることとおなじ意味であるから,このように電解液のpHをかえることなどを「化学バイアス(chemical bias)」をかけるという.酸化チタンに白金などの微粒子を担持させたものは,この光電気化学反応系を小さくしたものであると考えて,「短絡光電池(short-circuited photoelectrochemical cell)」とよばれたこともあった.この場合,条件さええらべば,バイアスなし62で水の酸素と水素への分解が起こる.酸化チタン電極系でバイアスが必要なのは,電極内と外部回路,および電解質溶液系の抵抗により,よぶんなエネルギーが必要なためと考えられる.光触媒系では,この点が有利であるが,電極系とはちがって発生する水素と酸素の分離が必要となる.」(440頁13行〜441頁16行)

(1d)「緒言
これまでにどんな研究がおこなわれてきたか,ということが要領よくまとまっているのがよい152.さいきんの光触媒に関する論文では,光触媒反応のルーツが「本多-藤嶋効果」の論文153であるとして,さいしょに引用しているものが多い, この論文はたしかに,光触媒反応の研究の火付け役になったことはまちがいないが,基本的には光電気化学反応による水の光分解であり,光エネルギ一にくわえて,電気エネルギーあるいは両極間のpHのちがいのような化学エネルギーを供給している点で,光触媒反応とはことなっている.むしろ,固体への光照射による水分解の可能性をしめしたことが大きい.したがって,光触媒による水の分解に関する論文において,その研究の端緒となったという意味で,この「本多-藤嶋効果」の論文を引用するのは適切であるが,有機化合物の光触媒分解反応に関して言えば,ルーツと言えそうな論文はずっとふるいものがあると思われる154.」(468頁2〜14行)

(2)乙第2号証
本件特許出願前に日本国内において頒布された刊行物である乙第2号証には、以下の記載がある。
(2a)「触媒作用 catalysis
化学反応に対する触媒の作用.触媒反応は触媒の作用によって進行する反応であり,反応系と触媒の状態の違いから,均一系触媒反応*と不均一系触媒反応*に大別される.触媒反応の過程は,(1)触媒作用が行われる触媒の部分(活性点*)への反応分子の拡散などによる接近,(2)活性点への吸着あるいは配位,(3)活性点上の反応, (4)生成物分子の活性点からの脱離,(5)拡散などによる触媒から気相などへの生成物分子の離脱,から成り立つ.多孔質触媒の場合,反応速度はしばしば(1)や(5)の拡散過程に支配される場合が,通常,反応過程の活性化エネルギー*は他の過程に比べて大きいので,(3)が律速段階*となる.このとき反応速度は活性点あるいは活性種の数に比例するから,触媒が均質であれば速度は触媒量あるいは表面積に比例することになる.触媒反応が化学平衡を越えて進むことはないが,生成物のうち平衡論的に不利なものを選択的に合成することは可能である.」(297頁 触媒作用の項目)

当審が通知した取消理由(明確性)についての判断
1 請求項1の記載について
前記第2に記載したとおり、請求項1の記載は、「基材表面に、抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物が固着されてなり、かつ、前記電磁波硬化型樹脂の硬化物を含む基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜4μmであることを特徴とする抗ウィルス性部材。」であるところ、「基材表面に、抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含」むこと、「脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含ま」ないこと、「光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物が固着されてな」ること、「前記電磁波硬化型樹脂の硬化物を含む基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜4μmであること」をすべて条件として合わせもつ「抗ウィルス性部材」として特定されたものであることは理解できる。

2 当審が通知した取消理由の明確性要件欠如の内容について
前記第3 2に記載したように、当審が通知した取消理由の明確性要件欠如の内容は、「基材表面に、抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物が固着されてなり、・・・抗ウィルス性部材。」との記載について、銅化合物が抗ウィルス性部材に含むことを特定する一方で、光触媒物質を含まないことを特定事項としているところ、甲第9号証の定義記載と甲第10号証の光導電性を示す電極として用いられるp型半導体は、CuI,CuCl,CuBr,MxS(M=Cu,1≦x≦2)より選択されるとの記載と、本件特許明細書をみても、抗ウイルス成分としての銅化合物の定義がないことを考慮すると、銅化合物も光触媒物質に該当し、請求項1の銅化合物に該当する範囲は明確でなく、発明の範囲が不明確となっているというものである。
しかしながら、甲第9号証の「光触媒反応」という用語は,『酸化チタンなどの半導体とよばれる固体材料が光を吸収することによって生じる励起電子および正孔がおこす化学反応』をあらわすことがほとんどである.ここでは,これを「狭義の光触媒反応の定義」とすることを光触媒反応の一応の定義であるとしても、甲第9号証と同一の刊行物の別の箇所の記載に基づく乙第1号証には、「フォトダイオードやフォトトランジスタなどの「半導体素子」では,光を吸収したケイ素などの半導体中で生じる電子や正孔が,素子や配線のなかを移動する物理過程だけが起こるのに対し,光触媒反応では,電子と正孔が固体の外に出てべつの化学物質に移動して化学反応が起こる」との記載や、「光触媒は固体なので,化学反応の基質がふくまれている液相あるいは気相との接点としての表面がかならず存在する.金属への水素の吸蔵現象などをのぞくと,固体内に化学物質が入り込むことはないので,光触媒反応が起こるためには,(1)光触媒から何らかの活性種が飛びだして,液相あるいは気相中の化学物質と反応するか,(2)化学物質が光触媒の表面に吸着され420,固体中の励起電子や正孔,あるいは,それらが表面に吸着された化学物質と反応して生じた活性種と反応することが考えられる.」との記載もあり、甲第10号証の光導電性を示す電極として用いられるp型半導体として例示されたCuI,CuCl,CuBr,MxS(M=Cu,1≦x≦2)を光触媒物質と断定することはできない。
そして、甲第9号証、乙第1号証の記載全体を参酌すると、光触媒物質の技術的意味を厳密に作用機構から定義付けることとはそもそも困難であり、本件特許明細書で特段の定義がない以上、請求項に記載された「光触媒物質を含まない」という特定事項は、「光触媒」作用を発現する「物質」を含まないということを、本件特許発明の技術的思想との関係で特定していると理解すれば良く、該物質を含まない範囲で、「抗ウィルス成分としての銅化合物」を特定しているものと、両特定事項の関係も理解すれば良いので、それらの特定事項が併存するからといって、第三者の不測の不利益を生じるまでに不明確であるとはいえない。

特許異議申立人は、甲第9号証、甲第10号証を提出して、同じ銅化合物が包含され区別できないから、「光触媒物質」と「抗ウィルス成分としての銅化合物」の関係が不明確で、結果として、「抗ウィルス成分としての銅化合物」と「光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」との関係で、本件特許発明で特定している「電磁波硬化型樹脂の硬化物」も不明確で、特許を受けようとする発明が不明確である旨主張している。
しかしながら、上述のとおり、甲第9号証と乙第1号証の記載全体を参酌すると、光触媒物質の定義を厳密に作用の面から本件出願時の技術常識に基づいたものとして記載しているものはない上に、甲第10号証の光導電性を示す電極として用いられるp型半導体として例示された銅化合物が甲第9号証の光触媒反応に用いられている光触媒に該当するのかどうかも断定できない以上、たまたま銅化合物として想定される共通のものがあるからといって、第三者の不測の不利益を生じるまでに不明確であるとはいえず、「光触媒物質」と「抗ウィルス成分としての銅化合物」の関係や「抗ウィルス成分としての銅化合物」と「光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」を、「光触媒」作用を発現する「物質」を含まないということを、本件特許発明の技術的思想との関係で特定していると理解すれば発明の範囲は明確であるといえる。
したがって、上記異議申立人の主張を採用することはできない。
よって、当審が通知した明確性要件に関する取消理由は解消している。

取消理由で採用しなかった特許異議申立理由(異議申立理由1)についての検討

1 甲第1号証に記載された発明
甲第1号証は、請求項1を引用する請求項2をさらに引用する請求項4をさらに引用する請求項14をさらに引用する請求項16に係る発明として、以下の発明が認定できるといえる。

「基材と、ウイルス感染阻止化合物を含有するウイルス感染阻止剤と、活性エネルギー線を照射することによって硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物から形成され且つ上記基材上に積層一体化された、表面粗さが0.5〜2.5μmで且つ平均波長が0.04mm以下である樹脂層とを有している積層体。」(以下「甲1発明」という。)

2 本件特許発明1と甲1発明との対比・判断
(1)対比
甲1発明の「基材と、」「ウイルス感染阻止剤と、活性エネルギー線を照射することによって硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物から形成され且つ上記基材上に積層一体化された樹脂層とを有している積層体」は、本件特許発明1の「基材表面に、」「抗ウィルス成分としての銅化合物」「を含」む「電磁波硬化型樹脂の硬化物が固着されてな」る「抗ウィルス性部材」と、「基材表面に、抗ウィルス成分を含む硬化型の樹脂の硬化物が固着されてな」る「抗ウィルス性部材」である点に限り共通している。
また、甲1発明の「ウイルス感染阻止化合物」は、本件特許発明1の「抗ウィルス成分としての銅化合物」と、「抗ウィルス成分としての化合物」である限りにおいて共通している。

したがって、本件特許発明1と甲1発明とは、「基材表面に、抗ウィルス成分としての化合物を含む硬化型樹脂の硬化物が固着されてなる抗ウィルス性部材。」である点で一致し、以下の点で相違する。

相違点1−1:本件特許発明1が「抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」であることを特定しているのに対して、甲1発明では、「ウイルス感染阻止剤と、活性エネルギー線を照射することによって硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂又は熱硬化性樹脂とを含有する樹脂組成物から形成された樹脂層」であることが特定されている点。

相違点2−1:本件特許発明1が「電磁波硬化型樹脂の硬化物を含む基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜4μmである」ことを特定しているのに対して、甲1発明においては、「基材上に積層一体化された、表面粗さが0.5〜2.5μmで且つ平均波長が0.04mm以下である樹脂層とを有している」と特定している点。

(2)相違点の判断
ア 相違点1−1の判断
(ア)甲第1号証のウイルス感染阻止剤としては、摘記(1b)に、例示として、酸化チタン、酸化亜鉛、酸化セリウムなどの紫外線領域応答型光触媒、白金、パラジウム又は酸化銅微粒子と混合された酸化タングステン、酸化タングステンなどのタングステン系光触媒などの可視光領域応答型光触媒、ハイドロキシアパタイト、スルホン酸基又はその塩を有する重合体などが挙げられ、スルホン酸基又はその塩を有する重合体が好ましいことや、ウイルス感染阻止化合物は、単独で用いられても二種以上が併用されてもよいことや、樹脂組成物を太陽光が十分に照射されない場所にて使用する場合には、ウイルス感染阻止化合物としては、可視光領域応答型光触媒、ハイドロキシアパタイト、スルホン酸基又はその塩を有する重合体が好ましいことが記載されており(摘記(1b))、可視光領域応答型光触媒やスルホン酸基又はその塩を有する重合体等が好ましい例として挙げられる一方、銅の酸化物については、酸化タングステン、酸化タングステンなどのタングステン系光触媒などの可視光領域応答型光触媒に混合される成分として白金やパラジウムとともに例示されているだけであり、実施例においてもスルホン酸基又はその塩を有する重合体(p−スチレンスルホン酸ナトリウム−スチレンランダム共重合体)が用いられている。
また、硬化性樹脂としても、「樹脂組成物を構成している合成樹脂としては、硬化性樹脂又は熱可塑性樹脂の何れであってもよい。・・・硬化性樹脂としては、特に限定されず、例えば、活性エネルギー線を照射することによって硬化する活性エネルギー線硬化性樹脂、熱によって硬化する熱硬化性樹脂が挙げられる。」(摘記(1c))との記載を前提に説明されており、樹脂組成物を構成している合成樹脂の選択肢の一つとして活性エネルギー線硬化性樹脂が挙げられているにすぎない。
したがって、親水性高分子材料と共に機能するとき、たとえCu++とCu+の両方を放出する粒子が該親水性高分子材料内に直接かつ完全に封入されていても、抗ウイルス特性を有する材料及びそれらに基づいたデバイスを製造することが可能であることが驚くべきにもここに発見された(摘記(2a))ことに基づく甲第2号証や液体通路を区切るハウジングを包含する、ウイルスの不活性化のための装置であって、該通路にはろ過物質が提供されており、該ろ過物質がそこに組み入れられたCu+及びCu++イオン並びにそれらの組み合わせからなる群より選択される銅イオンを有する装置に関する(摘記(3a))ことに基づく甲第3号証の技術的事項を考慮しても、甲1発明において、樹脂組成物から形成された樹脂層を、敢えて光触媒物質を含まない構成にして、「抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」に特定することには、動機付けがあるとはいえない。

(イ)また、アルキンベースの基質、アジドベースの基質、Cu(II)塩および光誘導性還元剤を含む組成物や光誘導性のCu(I)触媒によるアジド−アルキン付加環化反応を使用して、所与のパターンの化学構造を固体基板の表面の一部に固定化する方法を前提とした甲第4号証(摘記(4a))や、メラミン樹脂等からなる表層樹脂層の劣化を防ぎ、機能性の効果の維持に優れたトイレブース用化粧板及びそれを用いたトイレブースを提供することを目的として、トイレブース用化粧板において、凹陥模様の深さは、10〜50μmであることが望ましく、上記表層樹脂層の表面粗さは、測定長さ12.5mmの条件で、JIS B 0601に基づく算術平均粗さ(Ra)が0.1〜10μmである(但し、凹陥模様を除く)ことが望ましいとして、光触媒の使用を前提として上限特定をしている甲第5号証(摘記(5b)摘記(5c))を考慮しても、甲1発明において、樹脂組成物から形成された樹脂層を、敢えて光触媒物質を含まない構成にして、「抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」に特定することには、動機付けがあるとはいえないことは、同様である。

(ウ)さらに、抗菌性物質が混合されている電子線硬化型の塗料を利用することにより、公害を誘発するおそれのある溶剤や光重合開始剤を使用しないで抗菌性シート素材を提供することができ、多種多様な積層構造の抗菌性シート素材を提供することができ、製造効率を高くすることができ、製造コストも低廉な抗菌性シート素材およびその製造方法を提供することを目的とする甲第6号証、抗菌剤を練り込んだプラスチックフィルムの場合、その製造に当たっては500kg〜1000kg程度の大きな数量を1ロットとしない限り、経済的な効果は生ぜず、少量の需要に対応できないという問題点に基づき、バインダーに、抗菌剤を0.53重量%を添加混合して抗菌剤混合バインダーを形成し、且つ該抗菌剤混合バインダーをスクリーン印刷用の刷版スクリーンに設けられた透過面を透過させて、パネルまたはシート材料に塗布して抗菌性被膜を形成する抗菌性被膜を有するパネルまたはシート材料に関する甲第7号証、貯蔵安定性に優れ、またその硬化塗膜の外観が良好で、かつ温水浸漬後でも基材との高い密着性を有する活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物を提供するために、ポリオキシアルキレン基を有するアクリル単量体(a1)、水酸基を有するアクリル単量体(a2)、並びに前記アクリル単量体(a1)及びアクリル単量体(a2)以外のアクリル単量体(a3)を必須原料として共重合して得られたアクリル樹脂(A)と、ポリイソシアネート化合物(B)と、水酸基を有する(メタ)アクリレート(C)とを反応させ、その反応物を水媒体中で分散させることで得られる活性エネルギー線硬化型水性樹脂組成物を形成した甲第8号証のいずれを考慮しても、上記相違点1−1に関し、その構成を動機付けるものはない。

(エ) したがって、相違点1−1について、甲1発明において、「抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」に特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(オ)本件特許発明1の効果について
本件特許発明1は、前記第2の請求項1に特定した構成全体を採用することで、本件特許明細書【0009】に記載される予測できない顕著な効果を奏している。

(カ)特許異議申立人は、甲第2,3号証に、光触媒物質と併用されていない銅化合物が示されていることや、甲第4号証の光重合開始剤の記載、甲第5号証の表面樹脂層や化粧板表面の平均粗さの記載があることを挙げて、本件特許発明1は、甲第1号証記載の発明、甲第2〜5号証記載の技術的事項から当業者が容易に発明することができたものである旨主張している。
しかしながら、甲1発明においては、樹脂組成物から形成された樹脂層には、光触媒物質を成分として排除するものではないし、抗ウイルス成分として光触媒物質との共存を前提としない銅化合物は記載されていないし、電磁波硬化型樹脂の硬化物の使用を必須としているわけでもないことを考慮すると、甲第2〜5号証の記載があるからといって、敢えて光触媒物質を使用しない構成とした上で、それらの甲号証の一部の構成のみを採用することには、動機付けがあるとはいえない。
したがって、上記特許異議申立人の主張を採用することはできない。

(3)小括
本件特許発明1は、相違点2−1を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができるとはいえない。

3 本件特許発明2〜5と甲1発明との対比・判断
(1)対比
本件特許発明2〜5は、本件特許発明1の発明特定事項をすべて含み、それぞれ、「前記電磁波硬化型樹脂の硬化物は、基材表面に島状に散在してなるか、又は、抗ウィルス成分を含む電磁波硬化型樹脂の硬化物が形成された領域と電磁波硬化型樹脂の硬化物が形成されていない領域が混在した状態となっている」こと、「前記抗ウィルス成分は、銅化合物であって、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することでCu(I)とCu(II)の共存が確認される」こと、「前記抗ウィルス成分は、銅化合物であって、前記銅化合物は、X線光電子分光分析法により、925〜955eVの範囲にあるCu(I)とCu(II)に相当する結合エネルギーを5分間測定することで算出される、前記銅化合物中に含まれるCu(I)とCu(II)とのイオンの個数の比率(Cu(I)/Cu(II))が0.4〜50である」こと、「前記光重合開始剤は、アルキルフェノン系の重合開始剤およびベンゾフェノン系の重合開始剤を含み、
アルキルフェノン系の重合開始剤とベンゾフェノン系の重合開始剤の比率は、重量比でアルキルフェノン系の重合開始剤/ベンゾフェノン系の重合開始剤=1/1〜4/1である」をさらに技術的に限定したものである。
したがって、本件特許発明2〜5と甲1発明との対比において、前記2(1)での本件特許発明1と甲1発明との対比と同様、両者は、一致点として、「基材表面に、抗ウィルス成分としての化合物を含む硬化型樹脂の硬化物が固着されてなる抗ウィルス性部材。」である点で一致し、少なくとも前記相違点1−1、相違点2−1に対応する相違点として、それぞれ、相違点1−2〜相違点1−5(「抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」に特定することに関する相違点)、相違点2−2〜相違点2−5(「電磁波硬化型樹脂の硬化物を含む基材表面のJIS B 0601に準拠した算術平均粗さ(Ra)は、0.1〜4μmである」ことを特定することに関する相違点)を有する。

(2)相違点の判断
本件特許発明2〜5と甲1発明との対比においての相違点1−2〜相違点1−5の判断においても、前記2(2)で、本件特許発明1と甲1発明との相違点1−1について判断したのと同様に、甲1発明において、「抗ウィルス成分としての銅化合物と、還元力のある光重合開始剤とを含み、脂肪酸で被覆された一価の銅化合物粒子を含まず、かつ、光触媒物質を含まない電磁波硬化型樹脂の硬化物」に特定することは、当業者が容易になし得る技術的事項であるとはいえない。

(3)小括
以上のとおり、本件特許発明2〜5も、上記相違点2−2〜相違点2−5を含めて、その他の相違点を検討するまでもなく、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができるとはいえない。

4 異議申立理由1の判断のまとめ
以上のとおり、本件特許発明1〜5は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜8号証に記載された技術的事項から当業者が容易に発明することができるとはいえないので、異議申立理由1には、理由がない。

5 異議申立理由の判断のまとめ
以上のとおり、異議申立理由1及び異議申立理由2(取消理由)には、理由がない。

第5 むすび
したがって、請求項1〜5に係る特許は、取消理由通知に記載した取消理由及び特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠によっては、取り消すことができない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-03-28 
出願番号 P2018-215696
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01N)
P 1 651・ 537- Y (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 瀬良 聡機
齊藤 真由美
登録日 2021-02-26 
登録番号 6843813
権利者 イビデン株式会社
発明の名称 抗微生物部材  
代理人 特許業務法人 安富国際特許事務所  
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