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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  B28B
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B28B
審判 全部申し立て 2項進歩性  B28B
管理番号 1384211
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-29 
確定日 2022-03-04 
異議申立件数
事件の表示 特許第6853158号発明「シリカ焼結体の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6853158号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6853158号の請求項1に係る特許についての出願は、平成29年10月27日を出願日とする出願であり、令和3年3月15日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項(請求項1)の特許について、令和3年9月29日に特許異議申立人藤井晴美(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
請求項1に係る発明(以下、「本件発明1」あるいは単に「本件発明」といい、請求項1に係る特許を「本件特許1」という。)は、特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される、以下のとおりのものである。
「【請求項1】
シリカ粉原料に結合材および硬化性の添加剤を加えたスラリーを、成形型内でゲルキャスティング法により成形し、焼成するシリカ焼結体の製造方法であって、
前記スラリー中のシリカ粉原料として、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ前記シリカ粉の平均粒径が8μm以下のものを用い、前記結合材としてポリエチレンイミン、前記硬化性の添加剤として、エポキシ樹脂を用い、
前記成形型として、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、シリコーンゴムのいずれかの樹脂からなり、前記スラリーが充填される型部と、前記型部に連通する充填口及び吸引口とを有し、前記型部内は、前記充填口及び吸引口を介してのみ外気と連通したものを用い、
真空脱泡し、粘度を200mPa・s以上600mPa・s以下とした前記スラリーを形成した後、
前記吸引口から吸引し前記型部内を負圧にし、前記負圧となった型部内に、前記スラリーを充填、乾燥・固化し、脱型した成形体を形成し、
その後、真空雰囲気中で前記成形体を焼成することを特徴とするシリカ焼結体の製造方法。」

第3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(進歩性欠如)(以下、「申立理由1」という。)
本件発明1は、下記甲1号証に記載された発明及び甲2〜12号証に記載の事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。


甲第1号証:特表2017−507051号公報
甲第2号証:特開2007−70201号公報
甲第3号証:特開昭61−263627号公報
甲第4号証:特開昭61−286260号公報
甲第5号証:特開昭62−223060号公報
甲第6号証:特開昭62−288153号公報
甲第7号証:特開昭62−288154号公報
甲第8号証:特開平4−224165号公報
甲第9号証:特開平6−321614号公報
甲第10号証:特開2000−95573号公報
甲第11号証:特開2009−126753号公報
甲第12号証:特表2007−501761号公報

2 特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)(以下、「申立理由2」という。)
異議申立人の主張する実施可能要件違反の理由は以下のとおりである。
「本件の特許明細書段落[0022]に、「流し込み時の粘度として、200mPa・s以上600mPa・s以下が好ましい。粘度が200mPa・sより小さい場合には、成形型が撥水性を持つため、スラリーが弾かれて充填不良が発生しやすい。また、粘度が800mPa・s以上の場合には、成形型1にスラリーを流し込む際に気泡を巻き込みやすくなり」なる記載があるが、このような粘度のスラリーを得るための具体的方法は何ら記載されておらず、かつ、そのような粘度を有するスラリーを用いて成形体を形成し、その成形体を焼成してシリカ焼結体を製造した実施例も記載されていない。したがって、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という)がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものとはいえない。」

3 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)(以下、「申立理由3」という。)
異議申立人の主張するサポート要件違反の理由は以下のとおりである(当審注:「…」は省略を表す。)。
「本件の特許明細書段落[0022]に、「流し込み時の粘度として、200mPa・s以上600mPa・s以下が好ましい。粘度が200mPa・sより小さい場合には、成形型が撥水性を持つため、スラリーが弾かれて充填不良が発生しやすい。また、粘度が800mPa・s以上の場合には、成形型1にスラリーを流し込む際に気泡を巻き込みやすくなり」なる記載があるが、このような粘度のスラリーを得るための具体的方法は何ら記載されておらず、かつ、そのような粘度を有するスラリーを用いて成形体を形成し、その成形体を焼成してシリカ焼結体を製造した実施例も記載されていない。したがって、…特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載したものともいえない。」

第4 当審の判断
1 申立理由1(進歩性欠如)について
(1)甲1〜甲12に記載の事項
ア 甲1に記載の事項(当審注:「…」は省略を表す。以下、同様である。)
(ア)「【請求項1】
セラミック系スラリー混合物を減圧して、前記セラミック系スラリー混合物から気泡を除去すること、及び、
部品モールドを減圧して、前記部品モールドのキャビティから気泡を除去すること、
のうちの少なくとも一方と、
前記セラミック系スラリー混合物を前記部品モールドの前記キャビティ内に堆積させることと、
前記部品モールドの前記キャビティ内で所定の時間の前記持続期間にわたりセラミック部品を形成することであって、前記セラミック部品が前記セラミック系スラリー混合物から形成される、ことと、
を含む方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本開示は、概して製造プロセスに関し、特に、セラミック部品をキャスティングする方法に関する。」
(ウ)「【背景技術】
【0003】
セラミック系部品は、構造材/建築材、台所用品及び食器、自動車部品、医療器具及び電子デバイスを含む、各種製品に使用することができる。これらセラミック系部品は、望ましい物性及び特性により、このような各種産業で使用され得る。一例として、セラミック系材料は、製造に応じて、高強度特性(例えば破壊靭性、延性)を有し、誘電率特性を有し得、実質的に透明であり得る。従来のセラミック系部品は、典型的に、2つの技術、すなわちセラミック射出成形(CIM)及びセラミックゲルキャスティングを使用して作られる。

【0007】
従来のゲルキャスティングは、追加の問題を含み得る。例えば、従来のゲルキャスティングは、最終セラミック部品内に気泡を形成させ得、気泡は、セラミック部品の強度を実質的に低減させ得、望ましくない表面欠陥を生じさせ得る。気泡は、混合物をモールド内に注ぐ前そうでなければ置く前に混合物中に存在し得、及び/又は気泡は、キャスティングプロセス中のモールド内に存在し得る。加えて、混合物中に含まれたセラミック材料は、ゲルキャスティングプロセス中にモノマー材料と均等に及び/又は完全には組み合わせられ得ず、そのことは、密度のばらつきを有するセラミック部品をもたらし得る。つまり、高濃度のセラミック材料を有する混合物から形成された、セラミック部品の部分は、実質的に緻密であり得、低濃度のセラミック材料を有する混合物から形成された、セラミック部品の部分は、最小密度を有し得る。」
(エ)「【発明を実施するための形態】

【0020】
つぎに図1A及び図1Bを参照すると、セラミック系スラリー混合物100の一例の斜視図が示されている。ある実施形態において、図1Aに示されるように、セラミック系スラリー混合物100は、第1の材料102及び第2の材料104を含み得る。より具体的には、セラミック系スラリー混合物100は、図1Bに示されるように、第1の材料102と第2の材料104との組合せから作られ得る。第1の材料102及び第2の材料104のそれぞれは、本明細書で議論されるように、セラミック系スラリー混合物100の硬化プロセスを開始するために互いに化学反応し得る、別個の材料から作られ得る。つまり、本明細書で議論されるように、第1の材料102と第2の材料104とは、セラミック系スラリー混合物100を形成するために組み合わせられ得、混合物は、続いて硬化を開始し得、最終的にセラミック部品(図3F)を形成し得る。ある非限定的な実施形態において、第1の材料102は、従来の任意の予め混合されたエポキシ材料を含み得る。加えて、本明細書で議論されるように、第1の材料102は、従来の任意の分配材料も含み得、分配材料は、第1の材料102中に含まれた粒子の実質的に均等な分配又は分散を助け得る。ある非限定的な例において、第2の材料104は、従来の任意のエポキシ硬化材料を含み得る。つまり、第2の材料104は、第2の材料104が第1の材料102と混合されるときに第1の材料102を硬化させ得る、従来の任意のエポキシ反応材料を含み得る。非限定的な例において、第1の材料102及び第2の材料104は、ポリエステル系エポキシ又はアクリル化エポキシを含んでもよく、それらを形成するために混合されてもよい。
【0021】
図1A及び図1Bに示されるように、第1の材料102及び第2の材料104のうちの少なくとも一方は、複数のジルコニア粒子106を含み得る。より具体的には、第1の材料102のみが、第1の材料102中に浮遊する複数のジルコニア粒子106を含み得る。図1Aに示されるように、複数のジルコニア粒子106は、第1の材料102の全体に均等に分布され得、もって、任意の粘度の第1の材料102で、複数のジルコニア粒子106の実質的に均一な分散が材料中に存在し得るようになっている。つまり、複数のジルコニア粒子106は、第1の材料102の浮力特性に応じて、第1の材料102の上面又は下面に不必要に集中され得ない。むしろ複数のジルコニア粒子106は、材料全体に均等に「漂い」得る。複数のジルコニア粒子106の均等な分布又は分散は、第1の材料102中に含まれた分配材料の結果であり得る。つまり、第1の材料102中に含まれた分配材料は、複数のジルコニア粒子106が第1の材料102の全体を通して均等に分布又は分散され得ることを確実にし得る。

【0027】
動作204において、セラミック系スラリー混合物100は減圧され得る。より具体的には、動作204において、セラミック系スラリー混合物100は、圧力差を生じさせるために真空に晒され得る。セラミック系スラリー混合物100を真空に晒すことによって、気泡108は、セラミック系スラリー混合物100を通じて低圧領域に移動し得、そのことは、セラミック系スラリー混合物100から気泡108を最終的に除去し得る。本明細書で議論されるように、(動作208に関して以下でより詳細に議論されるように)キャスティングシステムのセラミック部品モールド内にセラミック系スラリー混合物100を置く前に気泡108を除去することによって、セラミック系スラリー混合物100から形成されたセラミック部品の(表面的又は構造的のいずれかの)欠陥は、実質的に最小化及び/又は排除され得る。

【0030】
動作208において、セラミック系スラリー混合物100は、キャスティングシステムの部品モールドのキャビティ内に堆積され得る。セラミック系スラリー混合物100の堆積又は提供は、セラミック系スラリー混合物100を部品モールドの下からキャビティに流動させることを含み得る。つまり、セラミック系スラリー混合物100は、キャスティングシステムの部品モールドのキャビティをキャビティの下部からキャビティの上部へ満たすように提供され得る。動作208におけるセラミック系スラリー混合物100の堆積は、所定量のセラミック系スラリー混合物100をキャスティングシステムの部品モールドに供給することも含み得る。つまり、本明細書で議論されるように、部品モールドのキャビティの幾何形状に応じて、所定量のセラミック系スラリー混合物100がキャスティングシステムの部品モールドに供給され得る。動作208における堆積プロセス中、キャスティングシステムの部品モールド内に堆積されたセラミック系スラリー混合物100中に気泡108が形成され得る。つまり、動作208における堆積プロセスは、キャスティングシステムの部品モールドに堆積又は提供された所定量のセラミック系スラリー混合物100中に、キャスティングシステム内の既存の気泡108又は新たな気泡108を形成させ得る。
【0031】
(仮想線にて示される)任意選択的な動作210において、セラミック系スラリー混合物100を含む部品モールドのキャビティは、所定の時間にわたり継続的に減圧され得る。動作204に関して同様に議論されたように、動作210において、キャスティングシステムの部品モールド内に含まれたセラミック系スラリー混合物100は、圧力差を生じさせるために真空に晒され得る。セラミック系スラリー混合物100を真空に晒すことによって、気泡108は、セラミック系スラリー混合物100を通じて低圧領域に移動し得、そのことは、キャスティングシステムの部品モールド内に堆積されたセラミック系スラリー混合物100から気泡108を最終的に除去し得る。
【0032】
動作212において、部品モールド316のキャビティ314は、動作208におけるセラミック系スラリー混合物100の堆積に続いて減圧され得る。上で同様に議論されたように、動作212において、キャスティングシステムの部品モールド内に含まれたセラミック系スラリー混合物100は、真空に晒され得る。動作212において、モールド316内にある間にセラミック系スラリー混合物100を真空に晒すことは、キャスティングシステム内での更なる加工の前にセラミック系スラリー混合物100が気泡108を有していないことを実質的に確実にし得る。
【0033】
動作214において、セラミック部品は、部品モールドのキャビティ内でセラミック系スラリー混合物100から所定の時間の持続期間にわたり形成され得る。より具体的には、ジルコニア粒子106を含むセラミック系スラリー混合物100は、実質的に硬質のジルコニア系部品(例えばセラミック部品)を形成するために所定の時間の持続期間にわたり硬化し得る。セラミック部品342を形成するための所定時間は、セラミック系スラリー混合物100の化学特性に少なくとも部分的に依存し得る。つまり、セラミック部品を形成するための所定時間は、本明細書で議論されるように、セラミック系スラリー混合物100を形成する第1の材料102及び第2の材料104の組成と、セラミック系スラリー混合物100を形成するために第1の材料102と第2の材料104とを組み合わせるときに起き得る化学反応とに依存し得る。所定時間は、第1の材料102と第2の材料104との間の反応への依存によって、延長された期間を取り得る。例えば、セラミック部品342を形成するための所定時間は、およそ三十(30)秒を有し得る。

【0038】
図3Bに示されるように、モールド減圧部318は、キャビティ314から空気を減圧するために、減圧導管320を介して部品モールド316のキャビティ314と流体連通し得る。モールド減圧部318を使用して部品モールド316のキャビティ314を晒すことは、図2の動作206に対応し得る。供給タンク302及び供給タンク減圧部306に関して同様に議論されたように、キャスティングシステム300のモールド減圧部318は、キャスティングシステム300により実施される更なる動作の前に、キャビティ314から空気を除去するために真空力(FVAC)を加え得る。図3Bに示されるように、減圧導管320は、部品モールド316の上端部322を通じて配置され得、もって、モールド減圧部318が、部品モールド316のキャビティ314内に含まれた空気を減圧導管320から引き出し得るようになっている。
【0039】
図3Bに示されるように、部品モールド316のキャビティ314は、セラミック部品(図3G)を形成するために利用され得る、固有の又は専用の幾何形状を有し得る。つまり、キャビティ314は、本明細書で議論されるキャスティングプロセス中にセラミック部品を形成するために使用される、セラミック系スラリー混合物100を形付け得る専用の幾何形状を有する空所を含み得る。図3Bに示されるように、キャビティ314は、部品モールド316内に傾斜して配向され得る。より具体的には、キャビティ314は、部品モールド316の減圧導管320に隣接して配置された少なくとも1つの傾斜側壁324を含むように、部品モールド316内に形成又は配向され得る。本明細書で議論されるように、キャビティ314の傾斜側壁324は、空気及び/又は気泡108がキャビティ314内で移動して、減圧導管320に隣接して配置され、続いてモールド減圧部318によりキャビティ314から除去されることを可能にするのを助け得る。加えて図3Bに示されるように、キャビティ314はコーティング326を含み得る。コーティング326は、実質的に疎水性を有する従来の任意の材料を含み得る。本明細書で議論されるように、コーティング326は、キャビティ314内に堆積されたセラミック系スラリー混合物100を通じて気泡108が移動し(例えば動作208)て、減圧導管320に隣接して配置され、続いてモールド減圧部318によりキャビティ314から除去されることを可能にするのも助け得る。
【0040】
供給タンク減圧部306及びモールド減圧部318は、別個の真空システム(示されていない)を含んでもよく、単一の真空システム内に含まれた2つの別個の真空ホース(示されていない)であってもよい。
【0041】
図3C〜図3Eに示されるように、供給タンク302内に含まれたセラミック系スラリー混合物100は、図2の動作208に関して同様に議論されたように、部品モールド316のキャビティ314内に堆積され得る。つまり、本明細書で議論される、セラミック系スラリー混合物100を形成する第1の材料102と第2の材料104との組合せは、キャスティングシステム300の供給導管328を介して部品モールド316のキャビティ314に提供され得る。図3C〜図3Eに示されるように、供給導管328は、セラミック系スラリー混合物100を含む供給タンク302のチャンバ304と部品モールド316のキャビティ314とを流体的に接続し得る。より具体的には、図3C〜図3Eに示されるように、部品モールド316は、供給導管328の上方に持ち上げられ得、及び/又は供給導管328は、部品モールド316の下端部330に接続され得る。供給導管328を部品モールド316の下端部330に接続する際に、部品モールド316のキャビティ314は、セラミック系スラリー混合物100で下端部330から上端部322へ満たされ得る。つまり、図3C〜図3Eは、下端部330から上端部322へキャビティ314を満たすために、部品モールド316のキャビティ314内に堆積されるセラミック系スラリー混合物100の進行を示しうる。セラミック系スラリー混合物100は、非限定的に、重力供給、流体ポンプ、及び圧力流を含む従来の任意の流体流技術又はデバイス(示されていない)を使用して、供給タンク302からキャビティ314に供給され得る。

【0048】
図3Gは、図2の動作214に対応し得る、実質的に硬質のセラミック部品342を形成するために硬化する、キャビティ314内に含まれたセラミック系スラリー混合物100を示している。より具体的には、ジルコニア粒子106を含むセラミック系スラリー混合物100は、実質的に硬質のジルコニア系部品(例えばセラミック部品342)を形成するために、所定の時間の持続期間にわたり硬化し得る。図3Fと図3Gを比較すると、硬化プロセス中にジルコニア粒子106は、セラミック部品342の形成を助け得る。より具体的には、図3Fに示され、本明細書で議論されるように、ジルコニア粒子106は、セラミック系スラリー混合物100の全体に均等に分散され得る。硬化プロセスが完了し、図3Gのセラミック部品342が形成されるときに、均等に分布された複数のジルコニア粒子106は、実質的に一様な密度を有するように硬質のセラミック部品342を形成するのを助け得る。つまり、本明細書で議論される、形成又は硬化プロセス中にジルコニア粒子106がセラミック系スラリー混合物100の全体に均等に分布される場合、セラミック部品342は、実質的に一様な密度を有し得る。

【0051】
一旦形成されると、セラミック部品342は、部品モールド316から除去され得、必要に応じて更に加工され得る。図3Hに示されるように、部品モールド316からの除去に続いてキャスティングシステム300から形成された実質的に硬質のセラミック部品342が示され得る。セラミック部品342は、部品モールド316から除去され得、セラミック部品342を利用し得る部品、デバイス又はシステムに直ちに実装され得る。代わりに、図3H及び図3Iに示されるように、セラミック部品342には、更なる機械加工が要求されてもよい。より具体的には、図3Hに示されるように、セラミック部品342は、突起346、348を含み得る。突起346は、セラミック系スラリー混合物100のうち、形成プロセス中に部品モールド316の減圧導管320内に配置され得る部分から形成され得る。突起348は、セラミック系スラリー混合物100のうち、形成プロセス中に部品モールド316内でキャビティ314と供給導管328との間に配置され得る部分から形成され得る。セラミック部品342が実質的に矩形であることが所望される場合、これら不要な突起346、348は、セラミック部品342から除去され得る。より具体的には、図3Iに示されるように、突起346、348を除去し、セラミック部品342を望ましい/要求される幾何形状に作るために、セラミック部品342に関して材料除去プロセスが実施され得る。セラミック部品342に関して使用される材料除去プロセスは、非限定的に、研削、切削、旋削、及び切断を含む、従来の任意の材料除去プロセスを含み得る。」

イ 甲2に記載の事項
(ア)「【請求項1】
15μm以上の粗大粒子数が300個/g以下で、平均粒子径が0.1〜2μm、比表面積が2〜30m2/gであり、しかも構成粒子が球状であるシリカ粉末をキャスト成形した後に焼結してなる、アルミニウム、鉄、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの酸化物換算の含有量がそれぞれ50ppm以下であり、波長が350nmの紫外光の直線透過率が厚さ2mmで60%以上であることを特徴とする透明シリカ焼結体。

【請求項4】
15μm以上の粗大粒子数が300個/g以下で、平均粒子径が0.1〜2μm、比表面積値が2〜30m2/gであり、アルミニウム、鉄、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの酸化物換算の含有量がそれぞれ50ppm以下の球状シリカ粉末を、フロックキャスト成形法により、相対密度が60%以上の成形体とし、得られた成形体を1300℃以上1600℃以下の温度範囲で焼結することを特徴とする透明シリカ焼結体の製造方法。」
(イ)「【背景技術】
【0002】
石英ガラスは、化学薬品容器、光学機器、分析・計測器具、各種半導体製造用治具などに幅広く用いられている。特に、光透過性を利用する分野において透明石英ガラス製品が幅広く用いられている。
【0003】
透明石英ガラス製品は一般に天然水晶等の原料を高温で溶融して製造され、その溶融状態での粘度が高いため、2100℃以上に加熱して成形する必要がある。気泡の残留は透明性を損なうので、場合によっては真空チャンバー内で溶融して脱泡する工程が必要となることもある。その為、特殊な専用の加熱炉が必要であり、消費エネルギーが大きいので、製造コストが高くなる欠点を有している。更に、石英ガラスの塊をつくり、それを機械加工して所望の形状の製品を製造するので加工コストが高くなる欠点がある。
【0004】
高純度の石英ガラスを製造するには、四塩化ケイ素等のガスを酸水素炎中もしくは酸素と混合して分解燃焼させ基材に堆積させる方法も知られているが、原料が高価なため製品も高価となり、石英ファイバー用石英ガラス等の不純物を嫌う用途に限定的に用いられているに過ぎない。また、この様にして作成した石英ガラスは、ハロゲン元素やOH基を含むため軟化点が低く、耐熱性が必要な用途には使えなかった。
【0005】
高純度の透明石英ガラスを得る方法として、ゾルゲル法によって高純度シリカ微粉を製造し(特許文献1)、それを原料とする溶融法や焼結法が検討されている。しかし、この方法においても、ゾルゲル法に用いるシリコン原料は高価であるし、ゾルゲル法によるシリカ粉製造法にはプロセス条件の緻密な制御や長時間の乾燥といったプロセス上の問題が存在する。
【0006】
一方、シリカ粉を原料として、プレス成形(特許文献2)、鋳込み成形(非特許文献1、特許文献3)、押し出し成形(特許文献4)等の通常のセラミックス製造プロセスで用いられる成形体製造方法によって、シリカ粉成形体を作製し、その後、焼成して得る石英ガラス焼結体の製造方法も検討されている。粉体成形によって製品に近い形の成形体を作り焼結して製品を得るので、機械加工の手間が軽減され、製造プロセスにおいて特殊な装置も不要なため、コスト低減が図れると言われているが、一般には、透明な焼結体を得るのは容易でない。
【0007】
一般的な成型方法では、透明な焼結体を得るのに不可欠な、高い密度や均一性を有する成形体を得にくく、従って、残留気泡の少ない透明な焼結体を得るために、真空中やヘリウムと塩素の混合ガス気流中で長時間焼成したり、更に1700〜1850℃で溶融したり、水素ガス中で1700℃で焼成する等、製造プロセス上の様々な工夫が必要であった。
【0008】
また、本願発明者らは、粒度の異なる市販の球状シリカ粉を配合して用い、成型方法を工夫し、成形体の密度と均一性を高め、透光性のあるシリカ焼結体を得たが、光の透過率、特に波長が400nm以下の紫外光領域の透過率は、不十分であった(非特許文献2)。

【発明が解決しようとする課題】
【0010】
従来から用いられている、または検討されてきた透明石英ガラスの製造方法は、特殊な装置が必要だったり、特別に調整したシリカ原料粉を用いたり、製造条件の精密な制御が必要だったり、加工コストがかかり、いずれも製造コストが高くなるという課題があった。加えて、焼結法で透明石英ガラスを得るためには、原料シリカ粉、成形法、焼結法すべてにわたる技術改良が必要であり、特に、この用途に使える入手が容易な原料シリカ粉が見いだせていないという問題があった。
【0011】
透明焼結体の原料として用いるシリカ粉は、微細で粒径のそろった球状シリカ粉が好ましいとの考え方から、例えば、ゾルゲル法によって得たシリカ粉を使用することが検討されたが、ゾルゲル法で製造したシリカ粉はその表面にシラノール基が多く付着しており、それが気泡や失透の原因となるため、昇温過程で水分が含まれない十分に乾燥した雰囲気あるいは高真空雰囲気で焼成しなければならないという課題があった。一方、工業的に得られる安価なシリカ粉を用いると、焼結体に気泡が残留しやすく、あるいは失透しやすく、光の透過率が低いという課題がある。
【0012】
本発明の目的は、これらの従来技術の有する課題を解決して、様々な分野で使用可能な、透明性に優れる、安価な透明シリカ焼結体とその製造方法を提供することにある。」
(ウ)「【発明を実施するための最良の形態】

【0020】
本発明に用いるシリカ粉は、15μm以上の粗大粒子数が300個/g以下で、平均粒子径が0.1〜2μm、比表面積が2〜30m2/gであり、しかも構成粒子が球状であるシリカ粉末である。これらの範囲を外れると、いずれの場合も成形性が悪くなって成形密度の低下や均一性の低下が起こり、ひいては、焼結体中に気泡が残留し、密度低下や透明性の低下が起こる等、焼結体特性に悪影響を及ぼす。15μm以上の粗大粒子数が100個/g以下であると、焼結体の相対密度が99.5%以上で、残留気泡が少なく、紫外光(波長が350nm)の直線透過率が厚さ2mmでが70%以上である焼結体が得られるので、更に好ましい。
【0021】
原料シリカ粉として構成粒子が球状のものからなる、いわゆる球状粉末を使用すると、スラリー粘度を下げることが出来、その結果、高い成形体密度を得ることができるので、焼結体中への気泡の残留を減らすことが出来る。「球状」の程度としては、平均球形度が0.90以上であることが好ましく、特に0.95以上であることが好ましい。平均球形度が大きくなると、転がり抵抗が少なくなるので成形性、充填性が高まり、高い成形体密度を得ることができる。

【0030】
次に、成形体を1300℃以上、1600℃以下の温度で、10分から6時間程度焼成すると、透明シリカ焼結体が得られる。焼成時の雰囲気は、真空等を適用することも勿論可能ではあるが、経済性の観点から常圧の空気が好ましい。」
(エ)「【0043】
(実施例1)
原料シリカ粉の作製
LPG−酸素で形成された火炎中に金属シリコン粉末原料(平均粒子径10μm)を連続的に供給する。火炎処理された生成物は、燃焼ガスとともにブロワーで吸引されつつコアンダブロック構造を有する気流分級機に送られて、コアンダ効果により粗粉と微粉に分級後、それぞれのバグフィルターで捕集される。このときの気流分級機到達時のガス温度は250℃であり、コアンダブロック入口の流速は150m/sで気流分級を行った。分級後微粉側バグフィルターで回収された粉末の特性を表1に示す。
【0044】
フロックキャスト成形法による高密度成形体の作製
得られたシリカ粉が61.2体積%(78.7質量%)となるように、分散剤(セルナD−735、中京油脂製)をシリカ粉に対して1.20質量%、イオン交換水を加えスラリーを調製した。スラリーは、ボールミル(ポリエチレン製のポット、鉄心入りナイロンボール使用)を用い、120rpmで24時間回転させ調整した。スラリーの真空脱泡を行った後、ポリエチレン製の型に鋳込んだ。遠心脱泡(3500rpm−15分)を行い、上澄みを除去した後、相対湿度90%を保持しながら40℃で2時間加温し、フロックキャスト固化させた。その後型からはずし、105℃で12時間乾燥させてシリカ粉の成形体を得た。
【0045】
この成形体の相対密度は、65.0%であった。また、この成形体の内部の均一性を液浸透光法を用いて調べたところ、均一性の高いものであった。
【0046】
透明シリカガラス焼結体の作製および評価
得られた成形体を、シリコニット炉(真空理工製)を用い、1500℃、保持時間30分、空気雰囲気下で焼成した。室温まで冷却後、焼結体を取りだし、評価を行った。焼結体の相対密度は、99.9%であった。紫外可視光透過率を測定したところ、波長が350nmの紫外光の直線透過率が厚さ2mmで94%であった。X線回折の結果、シリカの結晶相は見いだせなかった。実体顕微鏡で観察すると、5〜20μm前後の直径の丸い気泡と見られる影が、1立方mmあたり10個程度観察された。更に、電子顕微鏡で気泡形状を観察すると、球状であった。尚、焼結体の不純物量は原料シリカ粉末の不純物量と同等であり、50ppm以下であった。」

ウ 甲3に記載の事項
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)ポリエチレンイミンを有効成分とするセラミックス原料粉体用分散剤。」(1頁左下欄5〜7行)
(イ)「(産業上の利用分野)
本発明は、セラミックス原料粉体用分散剤又はセラミックス原料を湿式粉砕して粉末化するための分散剤に関するものである。」(1頁左下欄9〜12行)
(ウ)「(従来の技術)
セラミックス製品の製造には、プレス成形法、テープ成形法、押出成形法、射出成形法、鋳込成形法、などが夫々の用途に適用されている。最近では自動車部品などに射出成形法、鋳込成形法が注目されているが、前者は大型製品の製造や脱脂工程時間の長さなどに問題を残しており、後者は溶剤系において適当な分散剤が見当たらず、大量の溶剤を必要とするなどの問題がある。なおその他の成型手段であるプレス成形法やテープ成形法においても有機溶剤系の分散媒を用いることがあるが、効果的な分散剤は見出されていない。
また、セラミックス原料粉体をサブミクロンオーダーにまで微粉砕したい場合には、乾式粉砕では到達粒度に限界がある。従って、特に超微粒子化を目的とする場合には、殆ど湿式粉砕法が採用されている。
この湿式粉砕法では、被処理原料をボールミル、ディスクミル又はコロイドミル等の粉砕装置に適用するのに適当な粘度にまで下げるため、多量の有機溶剤が使用される。因に、ここで有機溶剤が使用されるのは、有機溶剤が水と違って粉体や焼結助剤と反応し難いため、焼成体の強度や密度に影響する恐れが少ないという理由に基くものであるが、従来普通に使用される粉体用分散剤では、スラリーの粘度を低下させるのが困難で、このため多量の溶剤を使用しなければならず、それだけ粉砕能率が低下するのみならず、溶剤の回収も困難でコストが高くつき、その上、労働衛生的にも問題を生じるなどの欠点があった。
(発明の目的)
本発明は、ポリエチレンイミンを有効成分とする新規なセラミックス原料粉体用分散剤を提供することにより、上記諸問題点を解決することを目的としている。」(1頁左下欄13行〜2頁左上欄7行)
(エ)「(問題点解決のための手段)
本発明の要旨は、ポリエチレンイミンを有効成分とするセラミックス原料粉体用分散剤に存する。敷桁すれば、本発明はセラミックス原料粉体を有機溶剤中に分散させるため又はセラミックス原料を有機溶剤中に懸濁して粉砕するに際し、分散質となるセラミックス原料を分散媒である有機溶剤中に良好に分散させるための分散剤に関するものである。
本発明の分散剤により分散されることができるセラミックス原料粉体としては、例えば窒化ケイ素、炭化ケイ素、炭素、サイアロン、窒化アルミニウム、酸化アルミニウム、酸化ジルコニウム、窒化ホウ素、窒化チタン、炭化チタン、酸化ケイ素、酸化マグネシウム、酸化カルシウムなどを例示することができるが、勿論これらに限られるものではない。かつそれらの粒度範囲も、径数百ミクロン程度の粗粒子からナノメータ一単位の超微粒子に至るまで広範に分布していることができる。
本発明分散剤の対象となる有機溶剤は、セラミックスの製造工程における粉砕や鋳込成形などで通常使用されているものであれば何でもよく、具体的には、メタノール、エタノール、インプロパツール等のアルコール系溶剤、酢酸エチル、酢酸ブチル等のエステル系溶剤、ジクロロエチレン、トリクロロエチレン等のハロゲン系溶剤、ベンゼン、トルエン、各種キシレン類の如き炭化水素系溶剤、アセトン、メチルエチルケトンのようなケトン系溶剤、エチルエーテルのようなエーテル系溶剤等が例示される。
本発明の主体であるポリエチレンイミンは、例えばエチレンイミンの開環重合等により得られ、分子量300〜100000、殊に800〜10000の範囲のものが良い結果をもたらす。その適当な使用量は、対象セラミックス粉体100部に対して0.01〜5部、好ましくは0.1〜2.0部である。この際の溶剤量は、溶剤の種類及び対象粉体の粒径や比表面積等の要因により多少相違するが、通常、粉体100部に対して10〜70部の使用量で1000cps以下のスラリーを与える。」(2頁左上欄8行〜左下欄8行)

エ 甲4に記載の事項
(ア)「2. 特許請求の範囲
1.有機バインダーを含有した分散処理液に原料粉体を混合して湿式で一次粒子に分散処理し、該分散処理液と分散処理粉体を分離し、該分散処理粉体を4000kg/cm2以上のプレス成形圧力で成形し、常圧焼成することを特徴とするセラミックスの製造法。
2.前記原料粉体が酸化アルミニウム、炭化ホウ素、窒化ホウ素、炭化チタン、窒化チタン、炭化ケイ素、酸化ジルコニウム、もしくはイットリウム、カルシウム、ハフニウム、マグネシウム、アルミニウム等の酸化物で部分安定化した酸化ジルコニウムから選ばれた1の粉体である特許請求の範囲第1項記載のセラミックスの製造法。
3.前記有機バインダーがメチルセルロース、エチルセルロース、カルボキシメチルセルロース、ヒドロキシエチルセルロース、ポリビニルアルコール、ポリビニルメチルエーテル、ビニルメチルエーテル−無水マレイン酸コポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルオキサゾリドン、ポリビニルスルホン酸、ポリエチレンオキサイド、ポリエチレンイミン、ポリアクリル酸系化合物、ポリアクリルアマイド系化合物、ゼラチン、カゼイン、アラビアゴム、澱粉から選ばれた1種または2種以上の混合物である特許請求の範囲第1項記載のセラミックスの製造法。」(1頁左下欄5行〜右下欄10行)
(イ)「(産業上の利用分野)
本発明は、緻密で均質なセラミックスの製造法に関する。更に詳しくは、原料粉体を湿式で一次粒子に分散処理(本明細書中で、一次粒子に分散させるとは、粒子の凝集体を解砕し、処理液中に分散せしめることを意味する。以下、同じ)し、該分散処理液と分散処理粉体とを分離し、該分限処理粉体を、4000kg/cm2以上のプレス成形圧力で成形し、常圧焼成して、緻密で均質なセラミックス焼結体の製造法を提供することを目的とするものである。」(2頁左上欄7〜17行)
(ウ)「(発明が解決しようとする問題点)
原料粉体と有機バインダーとを混合分散し、該分散処理物をスプレードライした造粒粉体では造造粒体表面に残分又は粉体の結合剤として必要な量以上に多量の有機バインダーが存在するために、このような造粒粉体を用いて成形し焼成すると、有機バインダーが脱脂する際セラミックス焼結体内部の気孔の原因となり緻密で均質な焼結体が得られない。また、有機バインダーを含まない分散粉体をスプレードライして顆粒粉体とした場合には凝集力が低下したり或いは顆粒の大きさが不均一になったり、粒子間の凝集力が異なるために成形時になじみが悪く均質な成形体は得られない。
そして、このような不均質な成形体を焼成すると反りや歪みの原因となり、しかも焼結体内部は緻密で均質にならない。更に、造粒粉体や顆粒粉体を用いて成形体を加圧焼成しても上記と同一の問題点から緻密で均質な焼結体が得られない。また加圧焼成装置は別の問題点として大がかりなものであったり、コストも非常に大となるものである等、多くの欠点がある。」(2頁右上欄11行〜左下欄11行)

オ 甲5に記載の事項
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)ポリアルキレンイミン及び水溶性アニオン樹脂とを含有することを特徴とするセラミック成形用バインダー。
(2)水溶性アニオン樹脂がポリアルキレンイミンで変性された形態で含有されている特許請求の範囲第(1)項記載の成形用バインダー。」(1頁左下欄4〜10行)
(イ)「〔産業上の利用分野〕
本発明は水性溶媒系で用いるセラミック成形用バインダーに関するものであり、特に少ない添加量で、ひび割れがなく高密度、高強度のグリーン(未焼結)シートを成形できるセラミックス成形用バインダーに関するものである。」(1頁右下欄2〜7行)
(ウ)「〔発明が解決しようとする問題点〕
従って、本発明は、添加量が少なくともひび割れが生じず、かつ高密度、高強度の未焼成セラミツク成形体をつくることができるセラミック成形用バインダーを提供することを目的とする。」(2頁右上欄8〜12行)

カ 甲6に記載の事項
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)ポリアルキレンイミン及び/又はその誘導体を用いて分散混合したセラミックス原料を、加圧成形後、焼結することを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法。」(1頁左下欄4〜8行)
(イ)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、分散剤かつバインダーとしてポリアルキレンイミン及び/又はポリアルキレンイミン誘導体を用い、セラミックス原料を加圧成形した後に焼結するセラミックス焼結体の製造方法に関するものである。」(1頁右下欄2〜7行)
(ウ)「〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明は、セラミックス粉体に対して分散剤及びバインダーとして異なった化合物を用いることなく、加圧成形でき、しかもその成形体の焼結性を向上させることができる製造方法を提供することを目的とする。」(2頁右上欄15〜19行)

キ 甲7に記載の事項
(ア)「2.特許請求の範囲
(1)セラミックス原料をポリアルキレンイミン及び/又はその誘導体を用いて分散混合し、次いでバインダーを添加して成形した後、焼結することを特徴とするセラミックス焼結体の製造方法。」(1頁左下欄3〜8行)
(イ)「〔産業上の利用分野〕
本発明は、分散剤としてポリアルキレンイミン及び/又はポリアルキレンイミン誘導体を用い、次いでバインダーを加え、成形した後に焼結するセラミックス焼結体の製造方法に関するものである。」(2頁左上欄2〜7行)
(ウ)「〔発明が解決しようとする問題点〕
本発明は、すぐれた分散剤であるポリアルキレンイミン又はその誘導体を用いた場合の、セラミックス焼結体のきわめてすぐれた製造方法を提供することを目的とする。」(2頁左下欄16〜20行)
(エ)「実施例
ポリエチレンイミン(Mw=1800)1.5部を溶解したエタノール100部、アルミナ200部、マグネシア10部をボールミル中に投入して24時間分散した後、バインダーであるポリビニルブチラール16部、DBP(ジブチルフタレート〉8部を加え、12時間混合して粘度3000cpのスラリーを得た。
これをマイラーシート上に1.2mmドクターブレードでテープ上に成形、乾燥して、生シートを得た。
この生シートの分散性(表面平滑性)は、良好であり、これを脱脂、1600℃で焼結すると、密度3.90g/cm2の良好な焼結体が得られた。」(5頁右上欄12行〜左下欄5行)

ク 甲8に記載の事項
(ア)「【請求項1】 セラミック粉末、有機溶剤、分散剤及び固化剤からなるセラミック粉末組成物を、加温溶融スラリーの状態で金型に注入した後、冷却して固化させ、得られた成形体を脱脂、焼結することを特徴とするセラミック焼結体の製造方法。

【請求項3】 分散剤がアミン系、イミン系及びアミド系有機化合物から選ばれる含窒素系分散剤である請求項1又は2記載の製造方法。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明はセラミック焼結体の製造方法に関する。」
(ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】これらバインダー、ワックス類はセラミック粉末相互を結合するものであり、成形時において成形体の強度を向上させるといった有益な役割を果たすが、セラミック本来の性質からは無用な物であるため、分解、燃焼して除去する脱脂工程が必要である。従来の方法では前記のようにバインダー、ワックス類をセラミック粉末 100重量部に対し15〜25重量部と多量に使用するため脱脂時間が長くなる、あるいはそれらの分解に伴う発生ガスによりクラックが発生する等の多くの欠点、問題を有する。」
(エ)「【0021】実施例1
セラミック粉末として窒化珪素(粒径0.2 μm )、焼結助剤として酸化イットリウム(粒径0.8 μm )、酸化アルミニウム(粒径0.9 μm )の粉末を重量%で93:5:2の比率で配合したものを原料とした。
【0022】上記セラミック配合原料 500gを、無水マレイン酸−ジイソブチレン交互共重合体のオクチルアミンのアミド化物(アミド化率 82%対無水マレイン酸、MW7000)7.5 g、メチルイソブチルケトン(MIBK)117.5 gとプレミックスした後、ボールミルにより所定時間ミリングすることによりスラリーを得た。このスラリーを60℃に加熱し、固化剤として12−ヒドロキシステアリン酸(融点76〜77℃)20gを添加し密閉下、溶解するまで60℃にて撹拌を行った。窒化珪素濃度約78重量%のスラリーが調製出来た。この溶融スラリーの50℃における粘度は2000cps(B型粘度計)であった。スラリーを少量取り出し冷却すると約40℃で固化することが分かった。

【0026】実施例2
実施例1と同じ配合比率のものをセラミック原料として使用した。
【0027】セラミック原料 500gを、牛脂アルキル(炭素数12〜18)ジプロピレントリアミン 7.5g、トルエン175 gとをプレミックスした後、ボールミルにて所定時間ミリングすることによりスラリーを得た。このスラリーを70℃に加熱し、固化剤としてステアリン酸アミド(融点100 〜102 ℃)40gを添加し密閉下、70℃加熱撹拌により溶解した。窒化珪素濃度約70%のスラリーを調製できた。この溶融スラリーの50℃における粘度は2500cps(B型粘度計)であった。スラリーを少量取り出し冷却すると約30℃で固化した。」

ケ 甲9に記載の事項
(ア)「【請求項1】 珪素粉末を主成分とした粉末、分散媒及び分散剤を含み、該分散媒としてはアルコールを用い、該分散剤としてはポリエチレンイミン及びポリオキシエチレン系界面活性剤を用い、更に、該ポリエチレンイミンと該ポリオキシエチレン系界面活性剤との割合は、重量比で90:10から10:90の範囲であり、また、該分散剤の添加割合は、上記粉末100重量部に対して0.15〜3.5重量部であることを特徴とするキャスティング成形用の珪素粉末を含む泥漿。」
(イ)「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、キャスティング成形用の珪素粉末を含む泥漿(以下、本泥漿ともいう。)及びこの泥漿を用いた珪素粉末成形体の製造方法に関し、更に詳しく言えば、鋳込み成形、ドクターブレード成形、金型成形等に用いられる泥漿であって、十分な流動性が高い珪素粉末濃度で得られ、且つ泥漿中の粉末の沈降が抑制される泥漿及び充填密度が高く欠陥のない良好な成形体を提供することを目的とする。本泥漿は、反応焼結により得られる窒化珪素質焼結体の製造等に利用される。」
(ウ)「【0005】
【発明が解決しようとする課題】しかし、上記分散媒として水を用いる場合は、珪素粉末等が水と反応し泥漿が不安定になったり、珪素粉末表面にできた珪素の酸化物により、反応焼結が阻害されたり、また焼結体中のガラス相が多くなり高温強度が低下するという問題がある。
【0006】更に、上記分散媒として有機溶剤を用いる場合、使用される分散剤は親水性の大きいイオン性の親水基を持つイオン型界面活性剤である。これを珪素粉末に適用したところ、分散剤が適切でないために、鋳込み成形やドクターブレードキャスティングを行うのに十分な流動性がある粘度(例えば200センチポアズ以下)を持つ泥漿を、高い珪素粉末濃度で得ることはできないという問題がある。
【0007】本発明は、上記問題点を解決するものであり、添加する分散剤を選ぶことにより、有機溶剤を分散媒として使用しながら、鋳込み成形やドクターブレードキャスティングを行うのに十分な流動性が、高い珪素粉末濃度で得られ、泥漿中の粉末の沈降が抑制される様なキャスティング成形用の珪素粉末を含む泥漿、及び充填密度が高く欠陥のない良好な珪素成形体を製造する方法を提供することを目的とする。」
(エ)「【0019】実施例2
本実施例では分散剤添加量と泥漿粘度、流動性及び成形性との関係を試験したものである。まず、以下に示す各粉末を均一に混合した混合粉末を準備する。
珪素粉末(d90 4.9μm) 74部
炭化珪素(d90 0.8μm) 25部
酸化クロム(d90 2.5μm) 1部
【0020】上記混合粉末に対して以下に示す重量比の組成物を実施例1と同様にしてミルで混合し、泥漿(No.1〜8)を調製した。この泥漿の粘度を測定した(表1に示す。)のち、鋳込みにより角板形状(53×48×9mm)を成形した。

【0022】
【表1】



コ 甲10に記載の事項
(ア)「【請求項4】 セラミック、耐火物又は金属の粉末に炭素粉末を混合した炭素混合粉末あるいは炭素粉末からなる原料粉末に、架橋重合性ポリマーであるポリエチレンイミン、及び気散性分散媒である水を混合してスラリーを調製するスラリー調製工程と、スラリーに硬化剤を混合する硬化剤混合工程と、硬化剤を混合したスラリーを型に注入して硬化させる成形工程と、成形体を脱型して乾燥させる乾燥工程と、乾燥した成形体を脱脂し、非酸化性雰囲気において焼成する脱脂・焼成工程とを備えることを特徴とする焼結体の製造方法。

【請求項6】 前記硬化剤が、水溶性多官能基エポキシ化合物であることを特徴とする請求項4又は5記載の焼結体の製造方法。」
(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、セラミック、耐火物又は金属の粉末に炭素粉末を混合した炭素混合粉末あるいは炭素粉末の成形体、その焼結体の製造方法に関する。」
(ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】しかし、従来の粉末成形体、その焼結体の製造方法では、樹脂としてポリビニルアルコールを用い、分散媒として水を用いる場合、分散剤としてポリカルボン酸アンモニウムやフミン酸アンモニウムを混合しても、これらの分散剤では、炭素粉末を分散させる能力が低く、炭素粉末をスラリー内に均一に分散させることができず、炭素粉末がスラリー内に局部的に集中してしまう。このため、成形体中の炭素分布にむらができ易く、その成形体を焼成して得られる焼結体中の炭素分布にもむらができ易く、製品の品質にばらつきを生ずる不具合がある。かかる不具合は、原料粉末における炭素量が多くなると顕著となる。一方、ポリビニルアルコール以外の樹脂として、エポキシ樹脂、フェノール系樹脂、メラニン系樹脂、ウレタン系樹脂等を用い、分散媒として水を用いることも考えられるが、この場合、それらの樹脂は親油性が高いため、親油性の高い炭素粉末を選択的に取り込み、水から分離し、スラリー混合容器の内面やスラリーを注入する型の内面に付着してしまったり、炭素粉末がスラリー内に局部的に集中してしまう。このため、成形体中や焼結体中の炭素粉末量が減少したり、成形体中や焼結体中の炭素分布にむらができ易く、製品の品質にばらつきを生ずる不具合がある。そこで、本発明は、製品における炭素分布を均質にし得る粉末成形体、その焼結体の製造方法を提供することを目的とする。」

サ 甲11に記載の事項
(ア)「【請求項1】
平均粒径が0.5μm以上1.5μm以下である炭化ケイ素粉及び分散剤をスラリー化する第1工程と、
前記第1工程によって得られたスラリーを焼結し、焼結体を得る第2工程と、
を有することを特徴とする炭化ケイ素焼結体の製造方法。
【請求項2】
前記第1工程では、ポリビニルピロリドン又はポリエチレンイミンを分散剤として用いることを特徴とする請求項1に記載の炭化ケイ素焼結体の製造方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、炭化ケイ素焼結体及び炭化ケイ素焼結体の製造方法に関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかし、従来の炭化ケイ素焼結体は、比較的大きな気孔ができてしまい、プラズマ耐性が高くないことから、プラズマに晒される、エッチング装置のサセプタなどに用いることができない。また、炭化ケイ素粉の平均粒径を約1μm程度の小さな粒径とし、焼結体に形成される気孔を小さくしてプラズマ耐性を高めようとしても、炭化ケイ素粉の平均粒径が約1μm程度に小さくなると、炭化ケイ素分がエタノールなどの溶媒に浮いてしまいスラリー化することができない。
【0004】
本発明はこのような従来の課題を解決するためになされたものであり、その目的とするところは、プラズマ耐性を高めることが可能な炭化ケイ素焼結体及び炭化ケイ素焼結体の製造方法を提供することにある。」

シ 甲12に記載の事項
(ア)「【請求項13】
以下のステップ:
a)部材(40)の壁体(38)の境界を定める、前記請求項のいずれか一項によるモールド(10)の内側部分(14)と外側部分(12)の間に、アモルファス・シリカ粉末と液体に基づくスラリを流し込むステップ、
b)前記液体を少なくとも部分的に排出させてプリフォームを得るステップ、
c)前記プリフォームを前記モールドから取り出してグリーン部材を得るステップ、
d)前記グリーン部材をさらに乾燥するステップ、
e)前記グリーン部材を焼成するステップ、
を含み、ステップb)において、前記壁体(38)の使用される部分の境界を定める少なくとも1つの領域において、前記液体が、前記モールド(10)の前記内側部分(14)と前記外側部分(12)の一方(「透過性部分」(12)と呼ばれ、他方は「非透過性部分」(14)と呼ばれる)だけを通して排出されることを特徴とする焼成シリカ部材の製造方法。

【請求項19】
前記スラリが溶剤と混合されたアモルファス・シリカ系の粉末を含み、前記粉末の粒径範囲が、Fueller−Bolomey則に従うことを特徴とする請求項13から18のいずれか一項に記載の方法。

【請求項24】
前記スラリが、流し込むステップa)の開始時に、1から30ポアズの粘度をもつことを特徴とする請求項19から23のいずれか一項に記載の方法。」
(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、焼成アモルファス・シリカ部材の製造方法と、その方法において使用されるモールドとスラリに関する。」
(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0026】
したがって、簡単であり、低多孔度で、グリーンの時には典型的には1.9を超える高密度で、乾燥の間に実質的に収縮がない、任意の形状の、適切であれば薄い壁体をもつ大きな部材を製造することができ、スラリに用いられる粉末の純度を維持する焼成シリカ部材製造方法が求められている。」

(2)甲1に記載された発明
ア 甲1の上記(1)ア(イ)の【0001】の記載によれば、甲1には、セラミック部品をキャスティングする方法が記載されているところ、この方法として、上記同(ア)の【請求項1】によれば、セラミック系スラリー混合物を減圧して、前記セラミック系スラリー混合物から気泡を除去すること、及び、部品モールドを減圧して、前記部品モールドのキャビティから気泡を除去すること、のうちの少なくとも一方と、前記セラミック系スラリー混合物を前記部品モールドの前記キャビティ内に堆積させることと、前記部品モールドの前記キャビティ内で所定の時間の前記持続期間にわたりセラミック部品を形成することであって、前記セラミック部品が前記セラミック系スラリー混合物から形成される、ことと、を含む方法が記載されている。
イ そして、上記同(エ)の【0020】、【0021】の記載によれば、上記アの「セラミック系スラリー混合物」は、第1の材料102と第2の材料104との組合せから作られ、第1の材料102及び第2の材料104のそれぞれは、セラミック系スラリー混合物100の硬化プロセスを開始するために互いに化学反応し得る別個の材料から作られ、第1の材料102は任意のエポキシ材料を含み得、第2の材料104は任意のエポキシ硬化材料を含み得、第1の材料102のみが、第1の材料102中に浮遊する複数のジルコニア粒子106を含み得るものであると理解できる。
ウ また、上記アで「部品モールドを減圧」することは、上記同(エ)の【0038】によると、部品モールド316のキャビティ314内に含まれた空気を減圧導管320から引き出すことであるといえる。
エ 上記アで「前記セラミック系スラリー混合物を前記部品モールドの前記キャビティ内に堆積させること」は、上記同(エ)の【0041】の記載によれば、セラミック系スラリー混合物を供給導管328を介して部品モールド316のキャビティ314に提供することであるといえる。
オ 上記アで「上記部品モールドの前記キャビティ内で所定の時間の前記持続期間にわたりセラミック部品を形成すること」は、上記同(エ)の【0048】によると、キャビティ314内に含まれたセラミック系スラリー100を、硬質のセラミック部品342を形成するために硬化することであるといえる。
カ そうすると、甲1には、セラミック部品をキャスティングする方法として、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

<甲1発明>
「セラミック系スラリー混合物を減圧して、前記セラミック系スラリー混合物から気泡を除去すること、及び、部品モールドを減圧して、前記部品モールドのキャビティから気泡を除去すること、のうちの少なくとも一方と、前記セラミック系スラリー混合物を前記部品モールドの前記キャビティ内に堆積させることと、前記部品モールドの前記キャビティ内で所定の時間の前記持続期間にわたりセラミック部品を形成することであって、前記セラミック部品が前記セラミック系スラリー混合物から形成される、ことと、を含む方法であって、
上記セラミック系スラリー混合物は、第1の材料と第2の材料との組合せから作られ、第1の材料及び第2の材料のそれぞれは、セラミック系スラリー混合物の硬化プロセスを開始するために互いに化学反応し得る別個の材料から作られ、第1の材料は任意のエポキシ材料を含み得、第2の材料は任意のエポキシ硬化材料を含み得、第1の材料のみが、第1の材料中に浮遊する複数のジルコニア粒子を含み、
上記部品モールドを減圧することは、部品モールドのキャビティ内に含まれた空気を減圧導管から引き出すことであり、
上記セラミック系スラリー混合物を部品モールドのキャビティ内に堆積させることは、セラミック系スラリー混合物を供給導管を介して部品モールドのキャビティに提供することであり、
上記部品モールドの前記キャビティ内で所定の時間の前記持続期間にわたりセラミック部品を形成することは、キャビティ内に含まれたセラミック系スラリーを、硬質のセラミック部品を形成するために硬化することである、方法。」

(3)本件発明1について
ア 甲1発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲1発明を対比する。
甲1発明の「セラミック系スラリー混合物」、「モールド」、「キャビティ」、「供給導管」、「減圧導管」は、それぞれ本件発明1の「スラリー」、「成形型」、「型部」、「充填口」、「吸引口」に相当する。
甲1発明の「セラミック系スラリー混合物を供給導管を介して部品モールドのキャビティに提供する」及び「部品モールドのキャビティ内に含まれた空気を減圧導管から引き出す」との構成から、甲1発明は、本件発明1の「型部に連通する充填口及び吸引口とを有し」との特定事項を有するものといえる。
また、甲1発明の「前記セラミック系スラリー混合物から気泡を除去すること」は、スラリー混合物を減圧することによりなされるものであるから、本件発明1のスラリーを「真空脱泡」することを含むといえる。
さらに、甲1発明は「部品モールドのキャビティ内に含まれた空気を減圧導管から引き出すこと」で「部品モールドを減圧」し、「セラミック系スラリー混合物を供給導管を介して部品モールドのキャビティに提供」し、「キャビティ内に含まれたセラミック系スラリーを、硬質のセラミック部品を形成するために硬化」するものであるから、本件発明1の「前記吸引口から吸引し前記型部内を負圧にし、前記負圧となった型部内に、前記スラリーを充填、乾燥・固化し」との特定事項を備えているといえる。
そうすると、本件発明1と甲1発明は、「成形型として、スラリーが充填される型部と、前記型部に連通する充填口及び吸引口とを有するものを用い、真空脱泡し、前記吸引口から吸引し前記型部内を負圧にし、前記負圧となった型部内に、前記スラリーを充填、乾燥・固化する、方法。」の点で一致し、以下の点で相違しているといえる。

<相違点1>
本件発明1では、スラリーは、シリカ粉原料に結合材および硬化性の添加剤を加えたものであって、前記結合材としてポリエチレンイミン、前記硬化性の添加剤として、エポキシ樹脂を用いたものであるのに対し、甲1発明では、当該特定事項を有しない点。

<相違点2>
本件発明1では、シリカ粉原料は、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ前記シリカ粉の平均粒径が8μm以下のものを用いるのに対し、甲1発明では、当該特定事項を有しない点。

<相違点3>
本件発明1では、成形型として、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、シリコーンゴムのいずれかの樹脂からなり、前記型部内は、前記充填口及び吸引口を介してのみ外気と連通したものを用いるのに対し、甲1発明では、当該特定事項を有していない点。

<相違点4>
本件発明1では、スラリーの粘度が200mPa・s以上600mPa・s以下であるのに対し、甲1発明では、当該特定事項を有していない点。

<相違点5>
本件発明1では、脱型した成形体を形成し、その後、真空雰囲気中で前記成形体を焼成するのに対し、甲1発明では、当該特定事項を有していない点。

(イ)判断
事案に鑑み上記相違点2及び5について検討する。
a 相違点2
(a)甲1には、セラミック系スラリー混合物がシリカ粉原料を含有することについての記載はないし、ましてや、シリカ粉原料の真球度を0.9以上1以下とすることや平均粒径を8μm以下のものとすることを示す記載もないから、上記相違点2は実質的な相違点である。
(b)次に、甲1発明において、セラミック系スラリー混合物がシリカ粉原料を含有し、当該シリカ粉原料として、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ前記シリカ粉の平均粒径が8μm以下のものを用いることが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。
本件発明1は、ゲルキャスティング法により成形体を得る場合、ネジのような複雑形状の成形型にスラリーを流し込むと、型内においてスラリーが行き渡らない箇所が生じ、欠け状の欠陥、或いは気泡を含む欠陥が生じることに対し(【0006】)、例えばネジ等の複雑な形状のセラミックス成形体を製造する際に、クラックを発生させることなく、完全な成形体を得ることのできるセラミックス成形体の製造方法を提供することを発明の課題としている(【0007】)。そして、小さな部品であるネジを量産するため、流動性の良い球状の微粒子が得られるシリカ粉を用いることが好ましく、具体的には、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ平均粒径が8μm以下のシリカ粉原料を用いてスラリー状に調整したものを使用しており、真球度が0.9未満だと、シリカ粉末の充填不良で空隙が発生し、クラックを生じたりや製品強度が低下し、平均粒径が8μmより大きいと、シリカ粉末間の空隙が大きいため、同様にクラックを生じたりや製品強度が低下するとの理解に基づき、本件発明1は、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ前記シリカ粉の平均粒径が8μm以下のシリカ粉原料を採用している(【0021】)。
一方、甲1発明は、上記(1)ア(ウ)の【0007】によれば、従来のゲルキャスティングは、最終セラミック部品内に気泡を形成させ得、気泡は、セラミック部品の強度を実質的に低減させ得、望ましくない表面欠陥を生じさせ、加えて、混合物中に含まれたセラミック材料は、ゲルキャスティングプロセス中にモノマー材料と均等に及び/又は完全には組み合わせられ得ず、そのことは、密度のばらつきを有するセラミック部品をもたらし得るとの問題に対し、改良されたセラミック部品キャスティングのための方法を提供することを発明の課題としたものである。そして、上記同(ア)の【請求項1】の記載によれば、セラミック系スラリー混合物を減圧して、前記セラミック系スラリー混合物から気泡を除去すること、及び、部品モールドを減圧して、前記部品モールドのキャビティから気泡を除去すること、のうちの少なくとも一方と、前記セラミック系スラリー混合物を前記部品モールドの前記キャビティ内に堆積させることと、前記部品モールドの前記キャビティ内で所定の時間の前記持続期間にわたりセラミック部品を形成することであって、前記セラミック部品が前記セラミック系スラリー混合物から形成されることにより、この課題を解決するものである。
ここで、甲1発明の課題は、本件発明1の課題と相違するとともに、甲1発明の課題を解決する手段は、何ら、セラミック系スラリー混合物に含有されるセラミック粒子に着目するものではなく、ましてや、真球度を0.9以上1以下、平均粒径が8μm以下のシリカ粉に着目したものではない。
そうすると、甲1発明の方法において、上記相違点2に係る「真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ前記シリカ粉の平均粒径が8μm以下のものを用い」ることの動機付けはない。
(c)他の証拠についても検討すると、甲2の上記(1)イ(ア)の【請求項1】によると、甲2には、15μm以上の粗大粒子数が300個/g以下で、平均粒子径が0.1〜2μm、比表面積が2〜30m2/gであり、しかも構成粒子が球状であるシリカ粉末をキャスト成形した後に焼結してなる、アルミニウム、鉄、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの酸化物換算の含有量がそれぞれ50ppm以下であり、波長が350nmの紫外光の直線透過率が厚さ2mmで60%以上であることを特徴とする透明シリカ焼結体が記載され、球状の程度としては、平均球形度が0.90以上であることが好ましく、特に0.95以上であることが好ましい(【0021】)ことが記載されている。そして、上記同(イ)の【0011】、【0012】によれば、甲2には、透明焼結体の原料として用いるシリカ粉は、微細で粒径のそろった球状シリカ粉が好ましいとの考え方から、例えば、ゾルゲル法によって得たシリカ粉を使用することが検討されたが、ゾルゲル法で製造したシリカ粉はその表面にシラノール基が多く付着しており、それが気泡や失透の原因となるため、昇温過程で水分が含まれない十分に乾燥した雰囲気あるいは高真空雰囲気で焼成しなければならず、一方、工業的に得られる安価なシリカ粉を用いると、焼結体に気泡が残留しやすく、あるいは失透しやすく、光の透過率が低いという問題に対し、様々な分野で使用可能な、透明性に優れる、安価な透明シリカ焼結体とその製造方法を提供することが課題として記載されており、甲1発明の課題である、改良されたセラミック部品キャスティングのための方法を提供することと相違する。そうすると、当業者が甲2の記載に接したとしても、透明シリカ焼結体を得るのに適した球状であるシリカ粉末を、甲1発明に採用しようとすることはない。さらに、甲1には、セラミック系スラリー混合物に含まれるセラミック粒子としてジルコニア粒子を用いることは記載されているものの、その他のセラミック粒子を適用できることは記載されていないし、ましてや、シリカ粉を用いることは記載されていないのであるから、当業者が甲2の記載に接したとしても、甲2に記載の透明シリカ焼結体を得るための球状であるシリカ粉末に着目するものとはいえない。
また、他の甲3〜12にも、上記相違点2に係る本件発明1の構成に関する記載はないから、甲2〜12の記載を考慮したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

b 相違点5
(a)甲1には、脱型した成形体を形成し、その後、真空雰囲気中で前記成形体を焼成することの記載はないから、上記相違点5は実質的な相違点である。
(b)次に、甲1発明において、脱型した成形体を形成し、その後、真空雰囲気中で前記成形体を焼成することが、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。
甲1発明は、上記a(b)でも述べたとおり、改良されたセラミック部品キャスティングのための方法を提供するとの課題のもと、部品モールドのキャビティ内で所定の時間の持続期間にわたりスラリーを硬化することで、硬質のセラミック部品を提供するものである。そして、部品モールドのキャビティ内でのスラリーの硬化は、セラミック系スラリー混合物が第1の材料と第2の材料との組合せから作られ、第1の材料及び第2の材料のそれぞれがセラミック系スラリー混合物の硬化プロセスを開始するために互いに化学反応し得る別個の材料から作られることで達成される。
しかしながら、甲1発明は、セラミック系スラリー混合物は、互いに反応することで硬化する第1の材料と第2の材料との組合せから作られた硬化物をして硬質のセラミック部品を形成する方法に関するものであって、本件発明1のように、セラミック粒子(シリカ粉)を焼成してセラミック部品を形成する方法とは相違するものである。したがって、甲1発明において、セラミック粒子の焼成工程が介在する余地はないから、甲1発明において、脱型した成形体を形成し、その後、真空雰囲気中で前記成形体を焼成することを適用する動機付けはない。さらに、甲1には、上記(1)ア(エ)の【0051】によると、部品モールドから除去されたセラミック部品は、任意の機械加工が追加で行われても良いが、部品モールドからの除去後、デバイス又はシステムに直ちに実装され得るものであることが記載されているから、甲1に触れた当業者は、焼成工程のような追加の工程を要せず、部品モールドから除去されたセラミック部品を直ちに実装できる点を製造方法の利点として理解するものであって、甲1発明において、部品モールドから除去したセラミック部品を焼成する工程をあえて追加しようとすることはない。
そうすると、上記相違点5に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、上記相違点5に係る容易想到性の判断は、脱型した成形体を焼成する記載のある甲2等の他の証拠によって、左右されるものではない。

c さらに、上記相違点5に係る本件発明1の構成に関連して、本件発明1は、発明の課題が解決できることに対応する効果、すなわち、複雑な形状のセラミックス成形体を製造する際に、クラックを発生させることなく、完全な成形体を得ることのできるという効果を奏するものであるが、この効果は、甲1発明から予測することができない。

(ウ)小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点2及び5は実質的な相違点であるし、また、相違点2及び5に係る本件発明1の事項は、当業者が容易に想到し得るものであるとはいえないから、他の相違点について判断するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲2〜12に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるともいえない。

(エ)ここで、仮に甲2を主たる証拠として検討したとしても、上記a(c)で述べたとおり、甲2は、様々な分野で使用可能な、透明性に優れる、安価な透明シリカ焼結体とその製造方法を提供することを課題とするものであり、甲2の上記(1)イ(ア)の【請求項4】によれば、「15μm以上の粗大粒子数が300個/g以下で、平均粒子径が0.1〜2μm、比表面積値が2〜30m2/gであり、アルミニウム、鉄、ナトリウム、カルシウム、マグネシウムの酸化物換算の含有量がそれぞれ50ppm以下の球状シリカ粉末を、フロックキャスト成形法により、相対密度が60%以上の成形体とし、得られた成形体を1300℃以上1600℃以下の温度範囲で焼結することを特徴とする透明シリカ焼結体の製造方法」により当該発明の課題を解決するものであるから、甲2に記載の透明シリカ焼結体の製造方法において、甲1等に記載の本件発明1の製造方法の「成形型として、スラリーが充填される型部と、前記型部に連通する充填口及び吸引口とを有するものを用い、真空脱泡し、前記吸引口から吸引し前記型部内を負圧にし、前記負圧となった型部内に、前記スラリーを充填、乾燥・固化する、方法。」に対応する製造方法を適用する動機付けがあるとはいえず、結局、本件発明1は、甲2に記載された発明に基づいても、当業者が容易に想到し得るものではない。

(4)申立理由1に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものではない。
したがって、申立理由1には理由がない。

2 申立理由2(実施可能要件違反)について
(1)実施可能要件違反に関する判断
実施可能要件の判断基準
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきものである。
実施可能要件に関する判断
(ア)本件発明1のシリカ焼結体の製造方法は、スラリー中のシリカ粉原料として、真球度、平均粒径、結合材及び硬化性の添加剤の種類を特定しつつ、成形型の素材及び構造、さらには、スラリーの粘度、シリカ焼結体の製造手順により特定されるものである。
そして、本件発明1において、上記アにおける「発明を実施することができる」とは、本件発明1の製造方法を実施することができることであるから、以下、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1におけるシリカ焼成体の製造方法を実施することができるか否かを検討する。
スラリー中のシリカ粉原料について、本件明細書の発明の詳細な説明の【0021】には、「真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ平均粒径が8μm以下のシリカ粉原料を用いてスラリー状に調整したものを使用する」と記載され、同【0022】には、スラリーを調整する際に添加される結合材及び硬化性の添加剤、並びにスラリーを流し込む際の粘度について、「また、流し込み時の粘度としては、200mPa・s以上600mPa・s以下が好ましい。粘度が200mPaより小さい場合には、成形型が撥水性を持つため、スラリーが弾かれて充填不良が発生しやすい。また、粘度が800mPa・s以上の場合には、成形型1にスラリーを流し込む際に気泡を巻き込みやすくなり、得られる成形体に不良が発生しやすい。」と記載され、同【0015】には、成形型の素材及び構造について、「成形型1は、例えばPP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、シリコーンゴムのいずれかの樹脂により形成され、ゲルキャスティング法により焼成前の成形体を得るために使用され」と記載され、同【0020】、【0024】、【0025】には、シリカ焼結体の製造手順について、「先ず、下型2に上型3を重ね合わせた状態の成形型1を形成し、載置台(図示せず)上において、充填口4を下方に向け、吸引口8を上方に向けて配置する。このとき、充填口4は、後述のスラリー中に浸した状態とする。そして、吸引口8に吸引ポンプ(図示せず)を接続し、所定の吸引力により吸引して型部6A、6B内の空間を負圧とする。」(【0020】)、「型部6A、6B内にスラリー料が充填されると、ゲルキャスティング法により成形品を固化させ、下型2から上型3を引き離す。そして成形品(図示せず)を型から取り外し、流入ゲート5及び流出ゲート7部分から余分な部位(バリ)をカットにより除去する。」(【0024】)、「次いで、乾燥後、電気炉(図示せず)内に焼成前の成形品を配置し、所定雰囲気(大気、Heなどの希ガス雰囲気、窒素などの不活性ガス、真空など)内で例えば1400℃で焼成する。」(【0025】)と記載されている。
上記のとおり、本件明細書の発明の詳細な説明には、スラリー中のシリカ粉原料として、真球度、平均粒径、結合材及び硬化性の添加剤の種類に関する記載、成形型の素材及び構造に関する記載、スラリーの粘度に関する記載、シリカ焼結体の製造手順に関する記載を認めることができるから、これらの記載を参照すれば、当業者において、本件発明1のシリカ焼結体の製造方法を実施することができるものと認められる。
さらに、本件発明1のシリカ焼結体の製造方法に関する一般的な記載に加え、本件明細書の発明の詳細な説明の【0031】、【0032】には、具体的な製造方法として、実施例1に関する記載、すなわち、同段落には、実施例1として、真球度0.97、平均粒径2μmの球状シリカ粉を原料として、結合材としてポリエチレンイミンを1wt%添加し、イオン交換水を加えてスラリーと化し、撹拌した後、添加剤としてエポキシ樹脂を3wt%添加し、混合するとともに真空脱泡したスラリーを調製し、当該スラリーをシリコーン樹脂からなる成形型に鋳込み、乾燥後、型から脱型した成形体を、真空雰囲気中焼成することで製造することが記載されているから、実施例1において、実際に、本件発明1で特定された製造方法が実施されていることを理解することができる。
そして、当業者であれば、上記【0020】、【0024】、【0025】に記載した製造方法に関する一般的な記載に照らしながら、実施例での原料の選択、成形型の材料等の諸条件を調整し、本件発明1で特定されたスラリーの粘度の範囲に、適宜調整することができると解するのが相当である。
そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び必要に応じて出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1のシリカ焼結体の製造方法を実施することができるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1について、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されているものというべきである。
したがって、異議申立人が主張する特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)に係る申立理由2には、理由がない。

(イ)申立人の主張する上記第3の2について検討すると、本件明細書の実施例1には、スラリーの粘度の値が明記こそされていないが、実施例1におけるスラリーの粘度は、本件明細書の【0022】において成形型への流し込みに適した粘度として示された、200mPa・s以上600mPa・s以下の範囲であると理解できるし、そもそも、スラリーの粘度を、スラリーの構成成分の配合やイオン交換水の添加量等で調整できることは技術常識であって、スラリーの粘度を特定の範囲に調整することは、当業者の適宜なし得ることである。そうすると、本件発明1において、本件発明1で特定された範囲の粘度であるスラリーを適宜製造することができると解するのが相当であるから、申立人の主張をもって、本件発明1に対応する本件明細書の記載が実施可能要件に適合していないということはできない。

(2)申立理由2に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、申立理由2には理由がない。

3 申立理由3(サポート要件違反)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載が明細書のサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。

(2)サポート要件に関する判断
ア 本件発明の課題について
本件明細書の記載によれば、ゲルキャスティング法により成形体を得る場合、スラリーを成形型に流し込むことになるが、ネジのような複雑形状の成形型にスラリーを流し込むと、型内においてスラリーが行き渡らない箇所が生じ、欠け状の欠陥、或いは気泡を含む欠陥が生じ、型内に空気(気泡)が残ることによって、完全な形状の成形体が得られないという問題(【0006】)に対し、ネジ等の複雑な形状のセラミックス成形体を製造する際に、クラックを発生させることなく、完全な成形体を得ることのできるセラミックス成形体の製造方法を提供すること(【0007】)を発明の課題とするものである。
イ 本件発明の課題を解決することができることに関する発明の詳細な説明の記載について
本件明細書の【0008】には、【課題を解決するための手段】として、
「上記目的を達成するためになされた本発明に係るシリカ焼結体の製造方法は、シリカ粉原料に結合材および硬化性の添加剤を加えたスラリーを、成形型内でゲルキャスティング法により成形し、焼成するシリカ焼結体の製造方法であって、前記スラリー中のシリカ粉原料として、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ前記シリカ粉の平均粒径が8μm以下のものを用い、前記結合材としてポリエチレンイミン、前記硬化性の添加剤として、エポキシ樹脂を用い、前記成形型として、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、シリコーンゴムのいずれかの樹脂からなり、前記スラリーが充填される型部と、前記型部に連通する充填口及び吸引口とを有し、前記型部内は、前記充填口及び吸引口を介してのみ外気と連通したものを用い、真空脱泡し、粘度を200mPa・s以上600mPa・s以下とした前記スラリーを形成した後、前記吸引口から吸引し前記型部内を負圧にし、前記負圧となった型部内に、前記スラリーを充填、乾燥・固化し、脱型した成形体を形成し、その後、真空雰囲気中で前記成形体を焼成することを特徴とする。」と記載されていることから、上記アの発明の課題を解決する手段に関し、以下の点(以下、「本件発明の課題を解決するための特定事項」という。)を理解することができる。
・スラリー中のシリカ粉原料として、真球度が0.9以上1以下のシリカ粉がシリカ粉原料全体の90%以上を占め、且つ前記シリカ粉の平均粒径が8μm以下のものを用いること。
・シリカ粉原料に結合材としてポリエチレンイミン及び硬化性の添加剤としてエポキシ樹脂を加えたスラリーとすること。
・成形型として、PP(ポリプロピレン)、PE(ポリエチレン)、PTFE(ポリテトラフルオロエチレン)、PMMA(ポリメタクリル酸メチル)、シリコーンゴムのいずれかの樹脂からなるものを用いること。
・成形型として、スラリーが充填される型部と、前記型部に連通する充填口及び吸引口とを有し、前記型部内は、前記充填口及び吸引口を介してのみ外気と連通したものを用いること。
・真空脱泡し、粘度を200mPa・s以上600mPa・s以下としたスラリーを形成した後、吸引口から吸引し型部内を負圧にし、前記負圧となった型部内に、前記スラリーを充填、乾燥・固化し、脱型した成形体を形成し、その後、真空雰囲気中で前記成形体を焼成すること。
そして、同【0030】〜【0032】に記載された実施例1の記載によれば、実施例1では、真球度0.97、平均粒径2μmの球状シリカ粉を原料として結合剤(ポリエチレンイミン(日本触媒製))を1wt%添加し、イオン交換水を加えてスラリー化してボールミルにて50rpmで24時間攪拌し、攪拌後に、さらに添加剤としてエポキシ樹脂(ナガセケムテックス製)を3wt%添加し、混合するとともに真空脱泡し、成形型としては、シリコーン樹脂により呼び径M3、頭部に六角ネジ、ネジの首下20mmのネジ形状の型部を有する型と、シリコーン樹脂により頭部に2.5mmの六角穴を形成した型の2つを組み合わせて用い、この成形型にスラリーを鋳込み、乾燥後、型から脱型し、呼び径M3の六角穴付きネジの形状を有する成形体を得、この成形体を真空雰囲気中1400℃で焼成することにより完全な形状を有するシリカ焼結体のネジが得られている一方、同【0033】の比較例1では、石英ガラス製のブロック体に対し、マシニングにより切削し、呼び径M3、ネジの首下が20mmの六角穴付きネジを加工したが、加工作業中において、ネジの首下にクラックが生じ、作業を停止したとされ、上記発明の課題である「ネジ等の複雑な形状のセラミックス成形体を製造する際に、クラックを発生させることなく、完全な成形体を得ることのできる」との点について、同【0030】〜【0032】の実施例1等の記載により裏付けがされているといえる。
ウ 本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明の対比
上記イで述べたとおり、上記「本件発明の課題を解決するための特定事項」を備えることで、上記アの本件発明の課題を解決することができると理解できる。
一方、本件発明1は、上記アの発明の課題を解決するのに必要な手段である「本件発明の課題を解決するための特定事項」を特定事項として含んでいる。
そうすると、本件発明1は、発明の詳細な説明又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるから、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものということができる。
したがって、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)に係る申立理由3には、理由がない。

(3)申立理由3に関するまとめ
以上のとおり、本件特許1は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものではない。
したがって、申立理由3には理由がない。

第5 むすび
上記第4で検討したとおり、本件特許1は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるということはできないし、同法第36条第4項第1号及び同法同条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるということもできず、同法第113条第2号又は第4号に該当するものではないから、上記申立理由1〜3では、本件特許1を取り消すことはできない。
また、他に本件特許1を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-02-22 
出願番号 P2017-207947
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B28B)
P 1 651・ 537- Y (B28B)
P 1 651・ 536- Y (B28B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原 賢一
特許庁審判官 金 公彦
大光 太朗
登録日 2021-03-15 
登録番号 6853158
権利者 クアーズテック株式会社
発明の名称 シリカ焼結体の製造方法  
代理人 澤田 優子  
代理人 木下 茂  

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