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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
管理番号 1384212
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-09-30 
確定日 2022-01-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6851905号発明「電気式脱イオン水製造装置の運転方法および電気式脱イオン水製造装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6851905号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6851905号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成29年5月29日に出願され、令和3年3月12日にその特許権の設定登録がされ、同年同月31日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項に係る特許に対して、同年9月30日に、特許異議申立人 柴田 隆史(以下、「申立人」という。)により甲第1〜4号証を証拠方法として特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜7に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明7」といい、これらを総称して「本件発明」ということがある。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【特許請求の範囲】
【請求項1】
電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
(i)電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質と、処理水水質を計測し、
(ii)処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出し、
(iii)抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、
(iv)運転条件が変更された運転により目標処理水水質が得られたかを判定し、
(i)〜(iv)の工程を、目標処理水水質が得られるまで繰り返し、
(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている、
電気式脱イオン水製造装置の運転方法。
【請求項2】
請求項1に記載の電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
運転条件候補は、複数の事業所に設置されている電気式脱イオン水製造装置における、被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータに基づいて得られる、
電気式脱イオン水製造装置の運転方法。
【請求項3】
請求項1または2に記載の電気式脱イオン水製造装置の運転方法であって、
電気式脱イオン水製造装置の被処理水は、逆浸透膜分離装置の処理水である、
電気式脱イオン水製造装置の運転方法。
【請求項4】
電気式脱イオン水製造装置であって、
被処理水水質と、処理水水質を計測する水質計測手段と、
処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出する運転条件候補抽出手段と、
運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、目標処理水水質が得られたかを判定し、目標処理水水質が得られない場合に、その時の処理水水質に基づいて運転条件取得手段による運転条件の取得、運転条件候補抽出手段による運転条件の抽出を繰り返す制御手段と、
を含み、
運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている、
電気式脱イオン水製造装置。
【請求項5】
請求項4に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
運転条件は、複数の事業所に設置されている電気式脱イオン水製造装置における、被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータに基づいて得られる、
電気式脱イオン水製造装置。
【請求項6】
請求項4または5に記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
変更すべき運転条件候補は、それぞれが複数の運転条件の組み合わせである、
電気式脱イオン水製造装置。
【請求項7】
請求項4〜6のいずれか1つに記載の電気式脱イオン水製造装置であって、
電気式脱イオン水製造装置の被処理水は、逆浸透膜分離装置の処理水である、
電気式脱イオン水製造装置。」

第3 特許異議申立理由の概要
1 各甲号証
甲第1号証:特開2013−188683号公報
甲第2号証:特開2012−192379号公報
甲第3号証:特開2003−275767号公報
甲第4号証:特開2011−190663号公報

2 特許法第29条第2項進歩性)について
本件発明1及び4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明1及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。
本件発明2〜3及び5〜7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるから、本件発明2〜3及び5〜7に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

3 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
本件発明1の「(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている」との発明特定事項について、本件特許明細書の段落【0035】〜【0043】(特許異議申立書の30頁20行の「【00395】は「【0039】」の誤記と認める。)には、複数の事業所の電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質及び処理水水質のデータと運転条件を確率統計的に解析すること、及び目標処理水水質が得られる確率(成功確率)の高い順に優先順位を付けて供給されることが記載されているが、本件特許明細書には、確率統計的な解析の具体的な内容については何ら記載されておらず、また、目標処理水水質が得られる確率とはいかなるもので、いかにしてその確率を算出するのかも何ら記載されておらず、更に、具体的な実施例においても、確率統計的な解析を行って、目標処理水水質が得られる確率の優先順位をつけることが行われているといえない。
ここで、水処理を行う事業者であれば、目標処理水水質を得たいと思うのが必然であるから、「目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位」を付けるという動作は、単なる願望であり、どのように解析して、どのように確率(成功確率)の高い順に優先順位を付けるか、ということが技術の本質であるが、それらに関する記載が全くない本件発明1は、第三者がこれを実施することはできない。
そして、電気脱イオン水製造装置の被処理水水質及び処理水水質のデータと運転条件を確率統計的に解析し、目標処理水水質が得られる確率(成功確率)の高い順に優先順位を付けることは、出願時の技術常識に照らしても、本件発明1に係る範囲まで、発明の詳細な説明に開示された内容を拡張ないし一般化できるとはいえず、本件発明1においては、発明の詳細な説明において課題を解決できることが具体的に裏付けられている内容(実施例)に比べて本件発明1の範囲が広すぎるので、サポート要件違反に該当し、本件発明2〜7についてみても事情は同じであるから、本件発明1〜7に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。

第4 特許異議申立理由についての当審の判断
1 特許法第29条第2項進歩性)について
(1)甲第1号証の記載事項及び甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証には以下(1a)〜(1e)の記載がある(当審注:下線は当審が付与した。また、「・・・」は記載の省略を表す。以下、同様である。)。
(1a)「【特許請求の範囲】
【請求項1】
原水を透過水と第1濃縮水とに分離する膜分離装置と、
透過水を脱塩処理して脱塩水と第2濃縮水とを製造する電気脱イオン装置と、
原水を前記膜分離装置に供給する原水ラインと、
透過水を前記電気脱イオン装置に供給する透過水ラインと、
透過水の流量を第1検出流量値として出力する第1流量検出手段と、
入力された駆動周波数に応じた回転速度で駆動され、前記原水ラインを流通する原水を前記膜分離装置に向けて圧送する第1加圧ポンプと、
入力された電流値信号に対応する駆動周波数を前記第1加圧ポンプに出力する第1インバータと、
前記第1流量検出手段から出力された前記第1検出流量値が前記電気脱イオン装置における脱塩水の流量値と第2濃縮水の流量値との合計値に基づく第1目標流量値となるように、前記第1加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を前記第1インバータに出力する第1制御部と、
脱塩水の流量を第2検出流量値として出力する第2流量検出手段と、
入力された駆動周波数に応じた回転速度で駆動され、前記透過水ラインを流通する透過水を前記電気脱イオン装置に向けて圧送する第2加圧ポンプと、
入力された電流値信号に対応する駆動周波数を前記第2加圧ポンプに出力する第2インバータと、
前記第2流量検出手段から出力された前記第2検出流量値が予め設定された第2目標流量値となるように、前記第2加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を前記第2インバータに出力する第2制御部と、
を備える水処理システム。
・・・
【請求項3】
前記電気脱イオン装置で製造される脱塩水の電気的特性を検出する電気的特性検出手段を備え、
前記第2制御部は、前記電気的特性検出手段で検出された脱塩水の電気的特性に基づいて、前記第2目標流量値を設定する、請求項1又は2に記載の水処理システム。
・・・
【請求項5】
透過水のカルシウム硬度を測定する硬度測定手段と、
前記電気脱イオン装置から排出される第2濃縮水の排水流量を調節可能な排水弁と、を備え、
前記第2制御部は、(i)予め取得された炭酸カルシウム溶解度、及び前記硬度測定手段の測定硬度値に基づいて、第2濃縮水における炭酸カルシウムの許容濃縮倍率を演算し、(ii)当該許容濃縮倍率の演算値、及び脱塩水の前記第2目標流量値から第2濃縮水の排水流量を演算し、(iii)脱塩濃縮水の実際排水流量が前記排水流量の演算値となるように、前記排水弁を制御する、
請求項1〜3のいずれか一項に記載の水処理システム。」

(1b)「【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
上述したEDI装置では、需要箇所で要求される水質を満足する脱塩水(純水)を製造するため、透過水の水質に応じて脱塩水の流量を調節する必要が生じる場合がある。また、EDI装置では、スケールの生成やファウリングによる脱塩室又は濃縮室の閉塞を防止するため、透過水の水質に応じて回収率を調節する必要が生じる場合がある。いずれの場合も、EDI装置に供給される透過水の流量を増減しなくてはならない。そのため、上記従来例のように、EDI装置に供給される透過水の流量を一定とする制御では、安定した水質及び流量の純水を製造することが困難となる。
【0007】
従って、本発明は、膜分離装置と電気脱イオン装置とを接続した水処理システムにおいて、電気脱イオン装置で脱塩水の流量や回収率を調節した場合でも、安定した水質及び流量の純水を製造することができる水処理システムを提供することを目的とする。」

(1c)「【0016】
(第1実施形態)
本発明の第1実施形態に係る水処理システム1について、図面を参照しながら説明する。本実施形態に係る水処理システム1は、例えば、淡水から純水を製造する純水製造システムに適用される。
・・・
【0018】
図1に示すように、第1実施形態に係る水処理システム1は、第1加圧ポンプ2と、第1インバータ3と、膜分離装置としてのRO膜モジュール4と、第2加圧ポンプ5と、第2インバータ6と、電気脱イオン装置としてのEDI装置7と、第1濃縮水排出弁8と、透過水排出手段としてのリリーフ弁9と、を備える。
【0019】
また、水処理システム1は、第1制御部10と、第2制御部20と、第3制御部30と、第1排水弁11〜第3排水弁13と、第1流量検出手段としての第1流量センサ14と、温度検出手段としての温度センサ15と、第2流量検出手段としての第2流量センサ16と、を備える。図1(及び後述の図5)では、電気的な接続の経路を破線で示す。
【0020】
また、水処理システム1は、原水ラインL1と、透過水ラインL2と、脱塩水ラインL3と、第1濃縮水ラインL4と、透過水排出手段としての透過水排出ラインL5と、第2濃縮水ラインL6と、を備える。本明細書における「ライン」とは、流路、径路、管路等の流体の流通が可能なラインの総称である。
・・・
【0047】
第1制御部10は、RO膜モジュール4の流量フィードバック水量制御として、第1流量センサ14の第1検出流量値Qp1が第1目標流量値Qp1´となるように、速度形デジタルPIDアルゴリズムにより第1加圧ポンプ2を駆動するための駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第1インバータ3に出力する。
・・・
【0053】
第2制御部20は、EDI装置7の流量フィードバック水量制御として、第2流量センサ16の第2検出流量値Qp2が予め設定された第2目標流量値Qp2´となるように、速度形デジタルPIDアルゴリズムにより第2加圧ポンプ5を駆動するための駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第2インバータ6に出力する。水処理システム1において、EDI装置7の流量フィードバック水量制御が実行されることにより、EDI装置7から送出される脱塩水W4の流量は、第2目標流量値Qp2´となるように調整される。・・・
【0054】
また、第2制御部20は、透過水W2の温度に基づいて、EDI装置7の回収率制御(以下、「温度フィードフォワード回収率制御」ともいう)を実行する。・・・」

(1d)「【0094】
(第2実施形態)
次に、本発明の第2実施形態に係る水処理システム1Aの構成について、図5を参照して説明する。なお、第2実施形態では、主に第1実施形態との相違点について説明する。・・・
【0095】
図5は、第2実施形態に係る水処理システム1Aの全体構成図である。第2実施形態に係る水処理システム1Aは、第1実施形態における温度センサ15(図1参照)の代わりに、硬度測定手段としての硬度センサ17を備える。また、第2実施形態に係る水処理システム1Aは、電気的特性検出手段としての比抵抗センサ18を備える。更に、第2実施形態に係る水処理システム1Aは、第1実施形態における第2制御部20(図1参照)の代わりに、第2制御部20Aを備える。
【0096】
硬度センサ17は、透過水ラインL2を流通する透過水W2のカルシウム硬度(炭酸カルシウム換算値)を測定する機器である。硬度センサ17は、接続部J3において透過水ラインL2に接続されている。接続部J3は、第2加圧ポンプ5とEDI装置7の間(第2加圧ポンプ5と分岐部J4との間)に配置されている。硬度センサ17は、第2制御部20Aと電気的に接続されている。硬度センサ17で測定された透過水W2のカルシウム硬度(以下、「測定硬度値」ともいう)は、第2制御部20Aへ検出信号として送信される。
・・・
【0098】
第2制御部20Aは、CPU及びメモリ含むマイクロプロセッサ(不図示)により構成される。第2制御部20Aは、第1実施形態の第2制御部20と同じく速度形デジタルPIDアルゴリズムにより脱塩水W4の流量フィードバック水量制御(図3参照)を実行する。
【0099】
上記流量フィードバック水量制御において、第2制御部20Aは、比抵抗センサ18で検出された脱塩水W4の測定比抵抗値Rmに基づいて、流量フィードバック水量制御における第2目標流量値Qp2´を設定する。
・・・
【0105】
また、第2制御部20Aは、透過水W2の硬度に基づいて、脱塩水W4の回収率制御(以下、「水質フィードフォワード回収率制御」ともいう)を実行する。具体的には、第2制御部20Aは、(i)予め取得された炭酸カルシウム溶解度、及び硬度センサ17の測定硬度値Ccに基づいて、第2濃縮水W5における炭酸カルシウムの許容濃縮倍率を演算し、(ii)当該許容濃縮倍率の演算値、及び脱塩水W4の第2目標流量値Qp2´から第2目標排水流量値Qd2´を演算し、(iii)第2濃縮水W5の実際排水流量が当該排水流量の演算値(第2目標排水流量値Qd2´)となるように、第1排水弁11〜第3排水弁13を制御する。
【0106】
水質フィードフォワード回収率制御は、第2制御部20Aにおける流量フィードバック水量制御(第1実施形態の第2制御部20による流量フィードバック水量制御と実質的に同じ)と並行して実行される。・・・
・・・
【0123】
上述した第2実施形態に係る水処理システム1Aによれば、例えば、以下のような効果が得られる。
【0124】
第2制御部20Aは、EDI装置7において、流量フィードバック水量制御(図3参照)を実行する。このため、水処理システム1Aは、EDI装置7において回収率を増減させた場合においても、安定した流量の透過水W2をEDI装置7へ供給することができる。
【0125】
また、第2制御部20Aは、上述した流量フィードバック水流制御において、脱塩水W4の測定比抵抗値Rmに基づいて第2目標流量値Qp2´を設定する。このように、水処理システム1Aにおいては、脱塩水W4の測定比抵抗値Rmに応じて、脱塩水W4の流量が適切に調整されるので、需要箇所で要求される水質を維持することができる。
【0126】
更に、第2制御部20Aは、EDI装置7において、水質フィードフォワード回収率制御(図7参照)を実行する。このため、水処理システム1Aは、脱塩水W4の回収率を最大としつつ、EDI装置7における炭酸カルシウム系スケールの析出をより確実に抑制することができる。」

(1e)「【図5】



イ 前記ア(1a)によれば、甲第1号証には「水処理システム」が記載されており、当該「水処理システム」は、原水を透過水と第1濃縮水とに分離する膜分離装置と、透過水を脱塩処理して脱塩水と第2濃縮水とを製造する電気脱イオン装置と、原水を前記膜分離装置に供給する原水ラインと、透過水を前記電気脱イオン装置に供給する透過水ラインと、透過水の流量を第1検出流量値として出力する第1流量検出手段と、入力された駆動周波数に応じた回転速度で駆動され、前記原水ラインを流通する原水を前記膜分離装置に向けて圧送する第1加圧ポンプと、入力された電流値信号に対応する駆動周波数を前記第1加圧ポンプに出力する第1インバータと、前記第1流量検出手段から出力された前記第1検出流量値が前記電気脱イオン装置における脱塩水の流量値と第2濃縮水の流量値との合計値に基づく第1目標流量値となるように、前記第1加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を前記第1インバータに出力する第1制御部と、脱塩水の流量を第2検出流量値として出力する第2流量検出手段と、入力された駆動周波数に応じた回転速度で駆動され、前記透過水ラインを流通する透過水を前記電気脱イオン装置に向けて圧送する第2加圧ポンプと、入力された電流値信号に対応する駆動周波数を前記第2加圧ポンプに出力する第2インバータと、前記第2流量検出手段から出力された前記第2検出流量値が予め設定された第2目標流量値となるように、前記第2加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を前記第2インバータに出力する第2制御部と、を備え、前記電気脱イオン装置で製造される脱塩水の電気的特性を検出する電気的特性検出手段を備え、前記第2制御部は、前記電気的特性検出手段で検出された脱塩水の電気的特性に基づいて、前記第2目標流量値を設定するものであり、更に、透過水のカルシウム硬度を測定する硬度測定手段と、前記電気脱イオン装置から排出される第2濃縮水の排水流量を調節可能な排水弁と、を備え、前記第2制御部は、(i)予め取得された炭酸カルシウム溶解度、及び前記硬度測定手段の測定硬度値に基づいて、第2濃縮水における炭酸カルシウムの許容濃縮倍率を演算し、(ii)当該許容濃縮倍率の演算値、及び脱塩水の前記第2目標流量値から第2濃縮水の排水流量を演算し、(iii)脱塩濃縮水の実際排水流量が前記排水流量の演算値となるように、前記排水弁を制御するものである。

ウ 前記イによれば、甲第1号証には、
「原水を透過水と第1濃縮水とに分離する膜分離装置と、
透過水を脱塩処理して脱塩水と第2濃縮水とを製造する電気脱イオン装置と、
原水を前記膜分離装置に供給する原水ラインと、
透過水を前記電気脱イオン装置に供給する透過水ラインと、
透過水の流量を第1検出流量値として出力する第1流量検出手段と、
入力された駆動周波数に応じた回転速度で駆動され、前記原水ラインを流通する原水を前記膜分離装置に向けて圧送する第1加圧ポンプと、
入力された電流値信号に対応する駆動周波数を前記第1加圧ポンプに出力する第1インバータと、
前記第1流量検出手段から出力された前記第1検出流量値が前記電気脱イオン装置における脱塩水の流量値と第2濃縮水の流量値との合計値に基づく第1目標流量値となるように、前記第1加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を前記第1インバータに出力する第1制御部と、
脱塩水の流量を第2検出流量値として出力する第2流量検出手段と、
入力された駆動周波数に応じた回転速度で駆動され、前記透過水ラインを流通する透過水を前記電気脱イオン装置に向けて圧送する第2加圧ポンプと、
入力された電流値信号に対応する駆動周波数を前記第2加圧ポンプに出力する第2インバータと、
前記第2流量検出手段から出力された前記第2検出流量値が予め設定された第2目標流量値となるように、前記第2加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を前記第2インバータに出力する第2制御部と、を備え、
前記電気脱イオン装置で製造される脱塩水の電気的特性を検出する電気的特性検出手段を備え、前記第2制御部は、前記電気的特性検出手段で検出された脱塩水の電気的特性に基づいて、前記第2目標流量値を設定するものであり、
更に、
透過水のカルシウム硬度を測定する硬度測定手段と、
前記電気脱イオン装置から排出される第2濃縮水の排水流量を調節可能な排水弁と、を備え、
前記第2制御部は、(i)予め取得された炭酸カルシウム溶解度、及び前記硬度測定手段の測定硬度値に基づいて、第2濃縮水における炭酸カルシウムの許容濃縮倍率を演算し、(ii)当該許容濃縮倍率の演算値、及び脱塩水の前記第2目標流量値から第2濃縮水の排水流量を演算し、(iii)脱塩濃縮水の実際排水流量が前記排水流量の演算値となるように、前記排水弁を制御するものである、水処理システム。」の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1発明とを対比した場合、本件発明1と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1:本件発明1は、「電気式脱イオン水製造装置の運転方法」が、
「(ii)処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出し、(iii)抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い」、「(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている」ものであるのに対して、甲1発明は、「第1流量検出手段から出力された第1検出流量値が電気脱イオン装置における脱塩水の流量値と第2濃縮水の流量値との合計値に基づく第1目標流量値となるように、第1加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第1インバータに出力する第1制御部と」、「第2流量検出手段から出力された第2検出流量値が予め設定された第2目標流量値となるように、第2加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第2インバータに出力する第2制御部と、を備え、電気脱イオン装置で製造される脱塩水の電気的特性を検出する電気的特性検出手段を備え、前記第2制御部は、前記電気的特性検出手段で検出された脱塩水の電気的特性に基づいて、前記第2目標流量値を設定するものであり、更に、透過水のカルシウム硬度を測定する硬度測定手段と、前記電気脱イオン装置から排出される第2濃縮水の排水流量を調節可能な排水弁と、を備え、前記第2制御部は、(i)予め取得された炭酸カルシウム溶解度、及び前記硬度測定手段の測定硬度値に基づいて、第2濃縮水における炭酸カルシウムの許容濃縮倍率を演算し、(ii)当該許容濃縮倍率の演算値、及び脱塩水の前記第2目標流量値から第2濃縮水の排水流量を演算し、(iii)脱塩濃縮水の実際排水流量が前記排水流量の演算値となるように、前記排水弁を制御する」ものである点。

イ 以下、前記アの相違点1について検討すると、前記(1)ア(1b)によれば、甲1発明は、従来のEDI装置では、需要箇所で要求される水質を満足する脱塩水(純水)を製造するため、透過水の水質に応じて脱塩水の流量を調節する必要が生じる場合があり、また、EDI装置では、スケールの生成やファウリングによる脱塩室又は濃縮室の閉塞を防止するため、透過水の水質に応じて回収率を調節する必要が生じる場合があり、いずれの場合も、EDI装置に供給される透過水の流量を増減しなくてはならないが、従来技術のように、EDI装置に供給される透過水の流量を一定とする制御では、安定した水質及び流量の純水を製造することが困難となる、という課題(以下、「甲1課題」という。)を解決して、膜分離装置と電気脱イオン装置とを接続した水処理システムにおいて、電気脱イオン装置で脱塩水の流量や回収率を調節した場合でも、安定した水質及び流量の純水を製造することができる水処理システムを提供することを目的とするものである。

ウ そして、前記(1)ア(1c)〜(1e)によれば、甲1発明は、第1制御部において、第1流量センサの第1検出流量値が第1目標流量値となるように、第1加圧ポンプを駆動するための駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第1インバータに出力する、流量フィードバック水量制御を実行し、第2制御部において、第2流量センサの第2検出流量値が予め設定された第2目標流量値となるように、第2加圧ポンプを駆動するための駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第2インバータに出力する、流量フィードバック水量制御を実行し、また、前記流量フィードバック水量制御において、第2制御部は、比抵抗センサで検出された脱塩水の測定比抵抗値に基づいて、流量フィードバック水量制御における第2目標流量値を設定するものであり、更に、第2制御部において、(i)予め取得された炭酸カルシウム溶解度、及び硬度センサの測定硬度値に基づいて、第2濃縮水における炭酸カルシウムの許容濃縮倍率を演算し、(ii)当該許容濃縮倍率の演算値、及び脱塩水の第2目標流量値から第2目標排水流量値を演算し、(iii)第2濃縮水の実際排水流量が当該排水流量の演算値(第2目標排水流量値)となるように、第1排水弁11〜第3排水弁を制御する、水質フィードフォワード回収率制御を行うことで、EDI装置において回収率を増減させた場合においても、安定した流量の透過水をEDI装置へ供給することができ、需要箇所で要求される水質を維持することができ、また、脱塩水の回収率を最大としつつ、EDI装置における炭酸カルシウム系スケールの析出をより確実に抑制することができるものであり、これにより、甲1課題を解決するものである。

エ ここで、本件発明1の「運転条件」は、本件特許明細書の段落【0036】〜【0037】の「特に、各種のデータを時系列のデータとして記憶しておくことによって、運転条件の変更と処理水水質の変化の関係なども解析される。そして、このような多くのデータの確率統計的な解析によれば、処理水水質が悪化した場合における対処法を1つだけでなく複数用意することができる。」、「ここで、対処策は、目標処理水水質が得られる確率(成功確率)の高い順に優先順位をつけて供給されことが好適である。」との記載によれば、処理水水質を制御する際の「対処法」、「対処策」に対応するものであり、甲1発明においては、「第1制御部」における「流量フィードバック水量制御」、「第2制御部」における「流量フィードバック水量制御」及び「第2制御部」における「水質フィードフォワード回収率制御」が、処理水水質を制御する際の「対処法」、「対処策」として、本件発明1の「運転条件」に対応するものである。

オ そして、前記イ〜エによれば、甲1発明に係る電気式脱イオン装置の制御は、甲1課題を解決するための、「第1制御部」における「流量フィードバック水量制御」、「第2制御部」における「流量フィードバック水量制御」及び「第2制御部」における「水質フィードフォワード回収率制御」に特定されるものであり、制御する運転条件として、これら「流量フィードバック水量制御」及び「水質フィードフォワード回収率制御」以外に選択の余地はないから、選択すべき運転条件候補を抽出することを想定したものではない。
また、前記「流量フィードバック水量制御」及び「水質フィードフォワード回収率制御」は、単に、現在運転中の装置において測定された第1検出流量値、第2検出流量値、脱塩水の測定比抵抗値及び測定硬度値に基づいて逐次制御を行うものに過ぎず、被処理水水質や処理水水質等のデータを蓄積して、当該蓄積したデータを過去のデータとして利用することを想定したものでもない。
更に、前記(1)ア(1d)(【0106】)によれば、前記「流量フィードバック水量制御」及び「水質フィードフォワード回収率制御」は、並行して実行される制御なのであって、これらに優先順位を付けることも想定できない。
これらのことからみれば、甲1発明においては、電気式脱イオン水製造装置についての過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出することや、選択すべき運転条件候補に、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位を付けることはもともと想定できないのであるから、甲第2〜3号証の記載事項にかかわらず、そのような甲1発明を、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとする動機付けは存在しない。

カ してみれば、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないから、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)本件発明2〜3について
本件発明2〜3は、直接的又は間接的に本件発明1を引用するものであって、本件発明2〜3と甲1発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点1の点で相違する。
そして、甲1発明において、前記相違点1に係る本件発明1の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないことは、前記(2)カに記載のとおりであって、甲第4号証について検討しても事情は同じである。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明2〜3は、甲1発明及び甲第2〜4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(4)本件発明4について
ア 本件発明4と甲1発明とを対比した場合、本件発明4と甲1発明とは、少なくとも以下の点で相違する。
・相違点1’:本件発明4は、「電気式脱イオン水製造装置」が、「処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出する運転条件候補抽出手段と、運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、目標処理水水質が得られたかを判定し、目標処理水水質が得られない場合に、その時の処理水水質に基づいて運転条件取得手段による運転条件の取得、運転条件候補抽出手段による運転条件の抽出を繰り返す制御手段と、を含み、運転条件候補抽出手段において抽出された運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている」ものであるのに対して、甲1発明は、「第1流量検出手段から出力された第1検出流量値が電気脱イオン装置における脱塩水の流量値と第2濃縮水の流量値との合計値に基づく第1目標流量値となるように、第1加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第1インバータに出力する第1制御部と」、「第2流量検出手段から出力された第2検出流量値が予め設定された第2目標流量値となるように、第2加圧ポンプの駆動周波数を演算し、当該駆動周波数の演算値に対応する電流値信号を第2インバータに出力する第2制御部と、を備え、電気脱イオン装置で製造される脱塩水の電気的特性を検出する電気的特性検出手段を備え、前記第2制御部は、前記電気的特性検出手段で検出された脱塩水の電気的特性に基づいて、前記第2目標流量値を設定するものであり、更に、透過水のカルシウム硬度を測定する硬度測定手段と、前記電気脱イオン装置から排出される第2濃縮水の排水流量を調節可能な排水弁と、を備え、前記第2制御部は、(i)予め取得された炭酸カルシウム溶解度、及び前記硬度測定手段の測定硬度値に基づいて、第2濃縮水における炭酸カルシウムの許容濃縮倍率を演算し、(ii)当該許容濃縮倍率の演算値、及び脱塩水の前記第2目標流量値から第2濃縮水の排水流量を演算し、(iii)脱塩濃縮水の実際排水流量が前記排水流量の演算値となるように、前記排水弁を制御する」ものである点。

イ 以下、前記アの相違点1’について検討すると、前記相違点1’は、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出すること、及び抽出された運転条件候補に目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位を付けることに係る相違点である点で、前記相違点1と同様である。
すると、前記(2)イ〜カに記載したのと同様の理由により、甲1発明において、前記相違点1’に係る本件発明4の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものではない。
したがって、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明4は、甲1発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(5)本件発明5〜7について
本件発明5〜7は、直接的又は間接的に本件発明4を引用するものであって、本件発明5〜7と甲1発明とを対比すると、いずれの場合であっても、少なくとも前記相違点1’の点で相違する。
そして、甲1発明において、前記相違点1’に係る本件発明4の発明特定事項を有するものとすることを、甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易になし得るものではないことは、前記(4)イに記載のとおりであって、甲第4号証について検討しても事情は同じである。
してみれば、そのほかの相違点について検討するまでもなく、本件発明5〜7は、甲1発明及び甲第2〜4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(6)小括
よって、本件発明1及び4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜3号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではなく、本件発明2〜3及び5〜7は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2〜4号証に記載された事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではないから、前記第3の2の特許異議申立理由は理由がない。

2 特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について
(1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)の判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものであるから、以下、この観点に基づいて検討する。

(2)サポート要件についての当審の判断
ア 本件特許明細書には、以下(a)〜(c)の記載がある。
(a)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ここで、EDIへの供給水(被処理水)の水質や温度が比較的安定している場合、EDIの運転条件を調整する必要はないが、被処理水中のイオン成分(硬度、炭酸、シリカなど)、pH、水温等の変化により、EDIの運転条件の調整が必要となる。
【0006】
経験豊富な運転員であれば、EDIの処理水水質の悪化の状況を観察して、EDIの処理水水質が改善する可能性の高い方法から順次あるいは同時に実行するなどして水質の改善を図り、それでダメなら処理水量を下げる、運転を停止するなどの処置を講じる。しかし、様々な条件に対して特定の人の経験則を単純に適用しても必ずしも良好な運転ができるわけではない。
【0007】
電気式脱イオン水製造装置においては被処理水の水質だけでなく、運転時間または停止時間の長さ、EDIスタックに印加する電流値、流量値、圧力値、水温など処理水水質に影響する条件が多岐にわたるため高精度の運転制御が必要である。また、電気式脱イオン水製造システムとして、EDIの前段に逆浸透膜分離装置を設ける場合も多く、この場合には逆浸透膜分離装置の運転状態もEDIの処理水水質に影響する。
・・・
【発明の効果】
【0013】
被処理水水質や運転時間等の変動に対して、従来の運転制御よりも精度の高い運転制御が可能となる。」

(b)「【0025】
「電気式脱イオン水製造システムの自動制御」
まず、電気式脱イオン水製造装置18に印加する直流電源装置の電流値を決定する。これは原水の水質分析から逆浸透膜分離装置12の処理水水質をシミュレーションで算出し、電気式脱イオン水製造装置18に供給される水質条件から決定される。
【0026】
変動要因としては、原水水質や逆浸透膜分離装置12の閉塞や経年劣化による除去率の低下、電気式脱イオン水製造装置18に内包されているイオン交換樹脂のイオン形の変化などがあり、これらが変動することで処理水水質にも影響が出る。これ以外にも電気式脱イオン水製造装置18の運転条件(特に自動制御可能な運転条件)は様々なものがあり、逆浸透膜分離装置12への供給流量、処理水流量、供給水圧力、濃縮水圧力、逆浸透膜分離装置12へ加圧水を供給するためのポンプ10の駆動(ポンプ10に電力を供給するインバーターの出力)、電気式脱イオン水製造装置18の流量、装置起動時または停止時の循環運転時間などがある。
【0027】
このようにして、基本的な運転条件が決定され、通常は決定された運転条件で電気式脱イオン水製造システムが運転される。しかし、各種の要因で、電気式脱イオン水製造装置18の処理水水質が悪化する場合がある。表1には、処理水水質が悪化した場合の推定原因とその対処方法例を示している。
・・・
【0029】
このように、処理水水質が悪化する原因は複数あり、その対策も複数知られている。しかし、実際にどのような対処が有効であるかは、必ずしも明確ではない。特に、処理水水質の悪化には、複数の要因があり相互に関連するものもあるため、適切な対処が何であるかを特定するのは難しい。
【0030】
従って、制御部50における自動制御は、EDIへの給水水質が悪化して処理水水質が悪化している場合に、EDIの電流値を高くし、それでも処理水水質がよくならない場合にEDIの処理水量を低下させるなど比較的単純なものに限定している。このため、処理水の悪化に対し、自動制御では対処できないことも多く、電気式脱イオン水製造システムの運転者は、このような場合に、経験を基に他の運転条件を変更し、処理水水質の改善を図っている。
【0031】
本実施形態では、多くのデータ(運転条件データ、水質データなど)をデータサーバ60に蓄積し、これを演算装置62によって解析して、各種の状況に対する多数の解決策を用意する。従って、演算装置62からの情報に基づいて、各種の自動制御を行うことができる。」

(c)「【0032】
例えば、事業所Aに設けられた電気式脱イオン水製造システムにおいて、少なくとも電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質(逆浸透膜分離装置12の処理水質)と処理水水質を連続または断続的に計測し、その計測結果を運転条件とともに、データサーバ60に送信する。なお、電気式脱イオン水製造システムへ流入してくる原水水質、逆浸透膜分離装置12の運転条件もデータサーバ60に送信するとよい。
・・・
【0037】
そして、事業所Aにおける処理水水質が悪化した際には、演算装置62は、データサーバ60にある膨大なデータを解析して得られた複数の対処策(運転条件の変更)の候補を制御部50に供給する。ここで、対処策は、目標処理水水質が得られる確率(成功確率)の高い順に優先順位をつけて供給されことが好適である。また、対処策の運転条件は、自動制御可能な機器の運転条件とすることで、対処策を自動的に実行することが可能となる。
【0038】
そして、電気式脱イオン水製造装置においては、供給された対処策に応じて各種機器の運転条件を制御する。特に、複数の対処策が優先順位をつけて供給されている場合には、優先順位に応じて対処策をその制御結果つまり処理水水質が適正値となるまでトライアンドエラー法によって変更する。なお、対処策実行後に処理が落ち着くまでに所定の時間が必要であり、その時間は待ってから評価を行う。また、1以上の対処策を実行しても、目標処理水水質まで改善されない場合には、再度その時の状態のデータに基づく、対処策を入手することを繰り返す。
・・・
【0048】
このような対策を順次変更しながら、処理水水質が要求基準を満たすまでトライアンドエラーで繰り返し、最終的な判定でYesとなることで処理を終了する。」

イ 前記ア(a)によれば、本件発明は、EDIへの供給水(被処理水)の水質や温度が比較的安定している場合、EDIの運転条件を調整する必要はないが、被処理水中のイオン成分(硬度、炭酸、シリカなど)、pH、水温等の変化により、EDIの運転条件の調整が必要となるのであり、このとき、経験豊富な運転員であれば、EDIの処理水水質の悪化の状況を観察して、EDIの処理水水質が改善する可能性の高い方法から順次あるいは同時に実行するなどして水質の改善を図り、それでダメなら処理水量を下げる、運転を停止するなどの処置を講じるが、様々な条件に対して特定の人の経験則を単純に適用しても必ずしも良好な運転ができるわけではない、という課題、また、電気式脱イオン水製造装置においては被処理水の水質だけでなく、運転時間または停止時間の長さ、EDIスタックに印加する電流値、流量値、圧力値、水温など処理水水質に影響する条件が多岐にわたるため高精度の運転制御が必要であり、電気式脱イオン水製造システムとして、EDIの前段に逆浸透膜分離装置を設ける場合も多く、この場合には逆浸透膜分離装置の運転状態もEDIの処理水水質に影響する、という課題(以下、これらを「本件課題」という。)を、被処理水水質や運転時間等の変動に対して、従来の運転制御よりも精度の高い運転制御を可能とすることで解決するものである。

ウ すなわち、前記ア(b)によれば、電気式脱イオン水製造システムの自動制御においては、基本的な運転条件が決定され、通常は決定された運転条件で電気式脱イオン水製造システムが運転されるのであるが、電気式脱イオン水製造装置の処理水水質が悪化する場合があり、その原因は複数あり、その対策も複数知られているが、実際にどのような対処が有効であるかは必ずしも明確ではなく、特に、処理水水質の悪化には、複数の要因があり相互に関連するものもあるため、適切な対処が何であるかを特定するのは難しかったのであり、従来、制御部における自動制御は、EDIへの給水水質が悪化して処理水水質が悪化している場合に、EDIの電流値を高くし、それでも処理水水質がよくならない場合にEDIの処理水量を低下させるなど比較的単純なものに限定していたので、処理水の悪化に対し自動制御では対処できないことも多く、電気式脱イオン水製造システムの運転者は、このような場合に、経験を基に他の運転条件を変更し、処理水水質の改善を図っていたのを、本件発明では、多くのデータ(運転条件データ、水質データなど)をデータサーバに蓄積し、これを演算装置によって解析して、各種の状況に対する多数の解決策を用意し、演算装置からの情報に基づいて、各種の自動制御を行うことができるようにするものである。
具体的には、前記ア(c)によれば、例えば事業所Aにおける処理水水質が悪化した際には、演算装置は、データサーバにある膨大なデータを解析して得られた複数の対処策(運転条件の変更)の候補を制御部に供給するものであり、対処策は、目標処理水水質が得られる確率(成功確率)の高い順に優先順位をつけて供給されことが好適であるものである。
そして、電気式脱イオン水製造装置においては、供給された対処策に応じて各種機器の運転条件を制御するのであるが、特に、複数の対処策が優先順位をつけて供給されている場合には、優先順位に応じて対処策をその制御結果つまり処理水水質が適正値となるまでトライアンドエラー法によって変更するものであり、このような対策を順次変更しながら、処理水水質が要求基準を満たすまでトライアンドエラーで繰り返し、最終的な判定でYesとなることで処理を終了するものであり、そうすることで、被処理水水質や運転時間等の変動に対して、従来の運転制御よりも精度の高い運転制御を可能として、本件課題を解決するものである。

エ そして、多くのデータ(運転条件データ、水質データなど)をデータサーバに蓄積し、処理水水質が悪化した際に、演算装置により、データサーバにある膨大なデータを解析して得られた複数の対処策(運転条件の変更)の候補を制御部に供給し、電気式脱イオン水製造装置において、供給された対処策に応じて各種機器の運転条件を制御し、対処策をその制御結果つまり処理水水質が適正値となるまでトライアンドエラー法によって変更し、このような対策を順次変更しながら、処理水水質が要求基準を満たすまでトライアンドエラーで繰り返し、最終的な判定でYesとなることで処理を終了する制御を行うことは、本件発明1における、「(i)電気式脱イオン水製造装置の被処理水水質と、処理水水質を計測し、(ii)処理水水質に改善が必要な場合には、電気式脱イオン水製造装置についての、過去の被処理水水質および処理水水質のデータと、その際の運転条件のデータの解析結果に基づいて、選択すべき運転条件候補を抽出し、(iii)抽出された運転条件候補に基づいて運転条件を変更して運転を行い、(iv)運転条件が変更された運転により目標処理水水質が得られたかを判定し、(i)〜(iv)の工程を、目標処理水水質が得られるまで繰り返」す、との発明特定事項(以下、「本件発明特定事項」という。)に基づく制御にほかならない。

オ そうすると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明特定事項により本件課題を解決できることを理解するのであり、このことと前記(1)によれば、本件発明1に係る請求項1の記載は、サポート要件に適合するというべきである。
そして、本件発明2〜7に係る請求項2〜7の記載について検討しても事情は同じであるから、同記載はサポート要件に適合する。

(3)申立人の主張について
ア 前記第3の3のサポート要件についての申立人の主張について検討すると、本件特許明細書の記載に接した当業者は、本件発明特定事項により本件課題を解決できることを理解することは、前記(2)オに記載のとおりであって、本件発明1は、「(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている」、との発明特定事項によるまでもなく、本件発明特定事項によって本件課題を解決できるものである。

イ すなわち、前記(2)ア(c)(【0037】)の「ここで、対処策は、目標処理水水質が得られる確率(成功確率)の高い順に優先順位をつけて供給されことが好適である。」という記載からみれば、「運転条件候補」に「目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位」を付けることは、本件発明特定事項により本件課題を解決した上で、更に装置の制御を好適なものとする実施態様に過ぎないのであって、仮に、運転条件候補に優先順位を付ける際の確率統計的な解析の具体的な内容や、目標処理水質が得られる確率の算出方法が明らかでなく、更に、本件特許明細書に記載された実施例において、確率統計的な解析を行って、目標処理水水質が得られる確率の優先順位を付けることが行われていないとしても、本件発明1が、「(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている」との発明特定事項によるまでもなく、本件課題を解決できることに変わりはない。

ウ そうすると、仮に、本件発明1における「(iii)において選択すべき運転条件候補は複数であり、目標処理水水質が得られる確率の高い順に優先順位が付けられている」、との発明特定事項の具体的な内容が明らかでないとしても、当業者は、本件発明1により本件課題を解決できることを理解できるのであり、このことと前記(1)によれば、本件発明1に係る請求項1の記載はサポート要件に適合するというべきである。
そして、本件発明2〜7に係る請求項2〜7の記載について検討しても事情は同じであるので、前記第3の3のサポート要件についての申立人の主張は採用できない。

(4)小括
したがって、前記第3の3の特許異議申立理由は理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるので、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2021-12-27 
出願番号 P2017-105208
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原 賢一
特許庁審判官 金 公彦
関根 崇
登録日 2021-03-12 
登録番号 6851905
権利者 オルガノ株式会社
発明の名称 電気式脱イオン水製造装置の運転方法および電気式脱イオン水製造装置  
代理人 特許業務法人YKI国際特許事務所  

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