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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08L
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08L
管理番号 1384215
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-01 
確定日 2022-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6866363号発明「射出成型用組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6866363号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

1.本件特許の設定登録までの経緯
本件特許第6866363号に係る出願(特願2018−518569号、以下「本願」ということがある。)は、平成28年6月14日(パリ条約に基づく優先権主張:平成27年6月15日、米国)の国際出願日にされたものとみなされる特許出願であり、平成30年2月2日にイメリーズ ミネラルズ リミテッド(以下「特許権者」ということがある。)に出願人変更が適法にされたものであって、令和3年4月9日に特許権の設定登録(請求項の数15)がされ、特許掲載公報が令和3年4月28日に発行されたものである。

2.本件異議申立の趣旨
本件特許につき令和3年10月1日に特許異議申立人栗暢行(以下「申立人」という。)により、「特許第6866363号の特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許を取消すべきである。」という趣旨の本件特許異議の申立てがされた。
(よって、本件特許異議の申立ては、特許請求の範囲の全請求項に記載された発明についての特許であるから、審理の対象外となる請求項はない。)

第2 本件特許の特許請求の範囲に記載された事項
本件特許の特許請求の範囲には、以下のとおりの請求項1ないし15が記載されている。
「【請求項1】
充填剤入りポリマー樹脂の、射出成型による前記樹脂からの物品の製造における使用であって、前記ポリマー樹脂が、リサイクルポリマー及び機能性フィラーを含み、前記機能性フィラーが、無機微粒子を含み、前記無機微粒子が、表面処理されており、かつ前記充填剤入りポリマー樹脂が、2.5g/10分未満の2.16kg/190℃におけるMFIを有する、前記使用。
【請求項2】
機能性フィラーの、リサイクルポリマーを含有するポリマー樹脂における、前記ポリマー樹脂の射出成型性を改善するための使用であって、前記機能性フィラーが、無機微粒子を含み、前記無機微粒子が、表面処理されており、前記機能性フィラーを前記ポリマー樹脂に添加して充填材入りポリマー樹脂が形成され、前記充填剤入りポリマー樹脂が、2.5g/10分未満の2.16kg/190℃におけるMFIを有する、前記使用。
【請求項3】
(1)前記物品が、200℃〜240℃の溶融温度にて、前記充填剤入りポリマー樹脂から加工処理される、及び/又は
(2)(i)射出成型中のピーク射出圧の平均値が、100〜200MPa(1,000〜2,000bar)であり、及び/又は(ii)前記ピーク射出圧の範囲が、0.50MPa(5.0bar)以下である、及び/又は
(3)32ショットにわたる質量範囲が、3.25g〜4.0gの間の平均ショット質量に対して0.008g未満である、
請求項1に記載の使用。
【請求項4】
前記充填剤入りポリマー樹脂が、
(1)2.16kg/190℃において2.0g/10分以下、又は2.16kg/190℃において1.5g/10分以下、又は2.16kg/190℃において1.0g/10分以下、又は2.16kg/190℃において0.5g/10分以下のMFIを有する、及び/又は
(2)少なくとも100のR−MFIを有し、
R−MFI=(21.6kgにおけるMFI)/(2.16kgにおけるMFI)であり、
(21.6kgにおけるMFI)−(2.16kgにおけるMFI)が、少なくとも40であってもよい、及び/又は
(3)少なくとも350mm、例えば少なくとも400mm、若しくは少なくとも450mmのスパイラルフローナンバーを有し、前記スパイラルフローナンバーが、テストされた樹脂の流動長さに係る尺度であり、適切な寸法のスパイラルフローモールドおよびエンゲル55tセルボエレクトリック/E−モーション射出成型装置を使用する以下の条件下でのポリマー樹脂の射出成型によって測定される:
溶融温度:220℃;
背圧:9MPa(90bar);
スクリュー表面速度:550mm/秒;
射出時間:1秒または2秒;
射出速度:30mm/秒または15mm/秒;
金型温度:25℃
請求項1〜3のいずれか1項に記載の使用。
【請求項5】
(a)前記充填剤入りポリマー樹脂が、少なくとも50質量%のリサイクルポリマー(前記充填剤入りポリマー樹脂内のポリマーの全質量を基準として)を含む、及び/又は
(b)前記充填剤入りポリマー樹脂が、複数のポリマー型の混合物、例えばポリエチレンとポリプロピレンとの混合物、又は異なる型のポリエチレン、例えばHDPE、LDPE及び/又はLLDPEの混合物、又は異なる型のポリエチレン(例えば、HDPE、LDPE及び/又はLLDPE)とポリプロピレンとの混合物を含む、及び/又は
(c)前記充填剤入りポリマー樹脂が、バージンポリマーを含まない、
請求項1〜4のいずれか1項に記載の使用。
【請求項6】
前記無機微粒子が、レーザー光散乱による0.1〜2.5μm、例えば0.1〜1.0μmのd50を有し、及び
任意に、前記無機微粒子が、表面処理剤で表面処理されており、前記表面処理剤が、ヒドロカルビル不飽和及びO−及び/又はN−含有酸官能性を含む化合物、及び/又は飽和ヒドロカルビル基及びO−又はN−含有酸官能性を有する化合物である、
請求項1〜5のいずれか1項に記載の使用。
【請求項7】
前記無機微粒子が、炭酸カルシウム、例えば重質炭酸カルシウムである、請求項1〜6のいずれか1項に記載の使用。
【請求項8】
前記充填剤入りポリマー樹脂が、耐衝撃性改良剤及び/又はパーオキサイド含有添加剤を含む、請求項1〜7のいずれか1項に記載の使用。
【請求項9】
充填剤入りポリマー樹脂の射出成型による物品の製造方法であって、前記充填材入りポリマー樹脂が、リサイクルポリマー及び機能性フィラーを含み、前記機能性フィラーが、
無機微粒子を含み、前記無機微粒子が、表面処理されており、かつ前記充填剤入りポリマー樹脂が、2.5g/10分未満の2.16kg/190℃におけるMFIを有する、前記方法。
【請求項10】
前記充填剤入りポリマー樹脂が、
(1)2.16kg/190℃において2.0g/10分以下、又は2.16kg/190℃において1.5g/10分以下、又は2.16kg/190℃において1.0g/10分以下、又は2.16kg/190℃において0.5g/10分以下のMFIを有する、及び/又は
(2)少なくとも100のR−MFIを有し、
R−MFI=(21.6kgにおけるMFI)/(2.16kgにおけるMFI)であり、
(21.6kgにおけるMFI)−(2.16kgにおけるMFI)が、少なくとも40であってもよく、及び/又は
(3)少なくとも350mm、又は少なくとも400mm、又は少なくとも450mmのスパイラルフローナンバーを有し、前記スパイラルフローナンバーが、テストされた樹脂の流動長さに係る尺度であり、適切な寸法のスパイラルフローモールドおよびエンゲル55tセルボエレクトリック/E−モーション射出成型装置を使用する以下の条件下でのポリマー樹脂の射出成型によって測定される:
溶融温度:220℃;
背圧:9MPa(90bar);
スクリュー表面速度:550mm/秒;
射出時間:1秒または2秒;
射出速度:30mm/秒または15mm/秒;
金型温度:25℃
請求項9に記載の方法。
【請求項11】
(a)前記充填剤入りポリマー樹脂が、前記充填剤入りポリマー樹脂中のポリマーの全質量を基準として、少なくとも50質量%のリサイクルポリマーを含む、及び/又は
(b)前記充填剤入りポリマー樹脂が、複数のポリマー型の混合物、例えばポリエチレンとポリプロピレンとの混合物、又は異なる型のポリエチレン、例えばHDPE、LDPE及び/又はLLDPEの混合物、又は異なる型のポリエチレン(例えば、HDPE、LDPE及び/又はLLDPE)とポリプロピレンとの混合物を含む、及び/又は
(c)前記充填剤入りポリマー樹脂が、バージンポリマーを含まない、及び/又は
(d)前記無機微粒子が、レーザー光散乱による0.1〜2.5μm、例えば0.1〜1.0μmのd50を有し、前記無機微粒子が、ヒドロカルビル不飽和及びO−及び/又はN−含有酸官能性を含む化合物、及び/又は飽和ヒドロカルビル基及びO−又はN−含有酸官能性を有する化合物から選択される表面処理剤で表面処理されていてもよい、及び/又は
(f)前記無機微粒子が、炭酸カルシウム、例えば重質炭酸カルシウムである、
請求項9又は10に記載の方法。
【請求項12】
前記充填剤入りポリマー樹脂が、耐衝撃性改良剤を含む、請求項9〜11のいずれか1項に記載の方法。
【請求項13】
製造された前記物品が、3.0mm以下、例えば、1〜3mmの厚みを持つ壁を有し、且つ、(a)少なくとも300%の破断点伸び、(b)少なくとも20MPa、例えば20〜22MPaのUTS、(c)少なくとも900MPaの曲げ弾性率、及び(d)少なくとも40kJ/m2(−20℃±2℃)、例えば少なくとも80kJ/m2(−20℃±2℃)のシャルピー衝撃強さ、のうちの1つ又は複数を有してもよい、請求項9〜12のいずれか1項に記載の方法。
【請求項14】
(a)前記充填剤入りポリマー樹脂が、前記充填剤入りポリマー樹脂の全質量を基準として、0.01質量%〜0.05質量%のパーオキサイド含有添加剤、例えばジクミルパーオキサイド又は1,1−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、及び任意に0.015質量%〜0.025質量%の前記パーオキサイド含有添加剤を含む、及び/又は
(b)前記充填剤入りポリマー樹脂が、前記充填剤入りポリマー樹脂の全質量を基準として、3質量%までのカーボンブラック及び0.5質量%までの酸化防止剤を含む、及び/又は
(c)耐衝撃性改良剤が存在する場合にはそれ以外の、前記充填剤入りポリマー樹脂のポリマー成分が、リサイクルされた混合ポリオレフィン供給材料由来のポリエチレン(例えば、HDPE)及びポリプロピレンからなる、
請求項1〜8のいずれか1項に記載の使用。
【請求項15】
(a)前記充填剤入りポリマー樹脂が、前記充填剤入りポリマー樹脂の全質量を基準として、0.01質量%〜0.05質量%のパーオキサイド含有添加剤、例えばジクミルパーオキサイド又は1,1−ジ−(tert−ブチルパーオキシ)−3,3,5−トリメチルシクロヘキサン、及び任意に0.015質量%〜0.025質量%の前記パーオキサイド含有添加剤を含む、及び/又は
(b)前記充填剤入りポリマー樹脂が、前記充填剤入りポリマー樹脂の全質量を基準として、3質量%までのカーボンブラック及び0.5質量%までの酸化防止剤を含む、及び/又は
(c)耐衝撃性改良剤が存在する場合にはそれ以外の、前記充填剤入りポリマー樹脂のポリマー成分が、リサイクルされた混合ポリオレフィン供給材料由来のポリエチレン(例えば、HDPE)及びポリプロピレンからなる、
請求項9〜13のいずれか1項に記載の方法。」
(以下、上記請求項1ないし15に記載された事項で特定される発明を項番に従い、「本件発明1」ないし「本件発明15」といい、併せて「本件発明」ということがある。)

第3 申立人が主張する取消理由
申立人は、同人が提出した本件異議申立書(以下、「申立書」という。)において、下記甲第1号証ないし甲第3号証を提示し、申立書における申立人の取消理由に係る主張を当審で整理すると、概略、以下の取消理由が存するとしているものと認められる。

取消理由1:本件の請求項1ないし15に記載された事項で特定される各発明は、いずれも甲第1号証に記載された発明に基づき甲第3号証に記載された発明を組み合わせることによって、当業者が容易に発明をすることができるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものであって、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由2:本件特許に係る明細書(以下「本件特許明細書」という。)の発明の詳細な説明の記載では、本件の請求項1ないし15に係る発明を、当業者が実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものではないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであって、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由3:本件特許の請求項1ないし15は、記載不備であり、各項記載の発明が本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでないから、本件の請求項1ないし15の記載は、特許法第36条第6項第1号に適合するものでなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしておらず、本件の請求項1ないし15に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。
取消理由4:本件特許の請求項3ないし8及び10ないし15は、記載不備であり、各項記載の発明が明確でないから、本件の請求項3ないし8及び10ないし15の記載は、特許法第36条第6項第2号に適合するものでなく、同法同条同項(柱書)に規定する要件を満たしておらず、本件の請求項3ないし8及び10ないし15に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

・申立人提示の甲号証
甲第1号証:特表2009−520847号公報
甲第2号証:特開平10−104799号公報
甲第3号証:特表2013−525518号公報
(以下、「甲1」ないし「甲3」と略していう。)

第4 当審の判断
当審は、申立人が主張する上記取消理由についてはいずれも理由がなく、ほかに各特許を取り消すべき理由も発見できないから、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許は、いずれも取り消すべきものではなく、維持すべきもの、と判断する。
以下、各取消理由につき検討・詳述する。

I.取消理由1について

1.各甲号証に記載された事項並びに甲1に記載された発明
取消理由1は、特許法第29条に係るものであるから、上記各甲号証に係る記載事項を確認し、甲1に記載された発明を認定する。(なお、摘示における下線は、当審が付したものである。)

(1)甲1

ア.甲1に記載された事項
上記甲1には、以下の事項が記載されている。

(a1)
「【請求項1】
以下:
(A)ポリエチレン、ポリプロピレン又はそれらの混合物から選択される廃棄材料を80重量%以上含有するポリオレフィン成分を30〜80重量%;及び
(B)(a)結晶性プロピレンホモポリマー、10重量%までのエチレン又は他のα−オレフィンコモノマーを含むプロピレンコポリマー又はそれらの組合せから選択される1以上のプロピレンポリマーと、
(b)コポリマー又はエチレンと他のα−オレフィン及び任意のごく少量のジエンとのコポリマーの組成物であって、該コポリマー又は組成物が15重量%以上のエチレンを含有する、コポリマー又は組成物と、
を含む、600MPa以下の曲げ弾性率を有するヘテロ相ポリオレフィン組成物を20〜70重量%
を含む、ポリオレフィン組成物。
・・(中略)・・
【請求項10】
請求項1に記載のポリオレフィン組成物を含む成形品。
【請求項11】
フィルム又は柔軟なフォイルの形態である、請求項10に記載の成形品。
【請求項12】
射出成形品の形態である、請求項10に記載の成形品。」

(a2)
「【技術分野】
【0001】
ポリオレフィン、特にポリエチレン及びポリプロピレンは、食品や他の商品のパッケージ、繊維、自動車部品及び広範な成形加工品を含む多くの用途に大量に消費されている。しかしながら、ポリオレフィンのそのような膨大な使用は、最初の使用後に生成される廃棄材料の環境負荷に関する懸念を生み出している。
【背景技術】
【0002】
実際、大量の廃棄プラスチック材料は、目下、プラスチック廃棄物の地方自治体毎に異なる回収から来るものであり、主に柔軟なパッケージ(キャストフィルム、吹込成形フィルム及びBOPPフィルム)、堅いパッケージ、吹込成形ボトル及び射出成形容器から構成される。他のポリマー、例えばPVC、PET又はPSから分別する工程において、主に2種類のポリオレフィン系画分、すなわち、ポリエチレン系(特にLDPE、LLDPE)及びポリプロピレン系(ホモポリマー、ランダムコポリマー、ヘテロ相コポリマー)画分が得られるが;いずれにせよこのようなポリマー画分には不純物(例えばフィルムの金属化から来るアルミニウムや吹込成形ボトルからのポリエチレンテレフタレート)が含まれている。実際はポリプロピレン材料とポリエチレン材料の両方が多くの量で同じ画分に存在することができ、したがって該二つの画分は多い方の成分(prevailing component)に基いて「ポリエチレンリッチ」または「ポリプロピレンリッチ」と呼ぶのが正確である。一般に該画分中のポリプロピレン及び/又はポリエチレンは80重量%以上である。
【0003】
主成分と不純物とのこのようなヘテロ性ならびに複雑性により、廃棄ポリオレフィン材料のリサイクルの問題は、依然として最適に解決されているとは云えない。
ポリオレフィン材料を含むプラスチック材料の重要なリサイクルルートは、いわゆる「材料リサイクル」と表され、材料を再処理して、再加工工程、一般に再グラインド又は再ペレット化の後にプラスチック製品にすることであると定義できる。ヨーロッパでは、機械的リサイクルを通じて2003年に再処理された廃棄プラスチックの割合は約14%と見積もられている。
【0004】
一方、欧州指針94/62/ECによると、総プラスチックパッケージに対する機械的リサイクルの目標は、2006年に20%、2008年に22.5%である。
ポリオレフィンの機械的リサイクルの増加に対する深刻な障害となるのが、加工性や特に機械的特性に関する再加工された製品の低品質で表され、リサイクルポリオレフィンのシートやラミネート及びジオメンブレンなどの多くの重要な用途における潜在的な価値を著しく制限している。
【0005】
実際、そのような不均質性と製品への再加工や使用後の廃棄物の回収の段階で起こる劣化により、廃棄ポリオレフィン材料は低い機械特性を有する。
したがってかかる材料の機械特性を向上させるために、比較的大量の充填剤を親和剤(compatibilizing agent)/カップリング剤及びエラストマーポリマーと共に加えることが米国特許5,030,662に記載されている。
【0006】
廃棄ポリオレフィン材料の機械特性、特に引っ張り特性を充填剤や親和剤/カップリング剤を加えることなしに、特定の種類のヘテロ相組成物を加えることにより飛躍的に向上させることができることを発見した。」

(a3)
「【0030】
本発明の組成物に任意に存在する他の成分は、強化剤、特にタルク又は炭酸カルシウムなどの鉱物充填剤、又はガラス繊維などの繊維である。かかる強化剤は例えば組成物の重量に対して5〜50重量%加えることができる。
【0031】
種々のポリマー組成物と充填剤や繊維などの極性添加剤(存在する場合)との間の高い親和性レベルを達成するために、本発明の組成物は親和剤及び/又はカップリング剤を、組成物の総重量に対して好ましくは0.5〜10重量%、より好ましくは0.5〜5重量%含むことができる。かかる親和剤及び/又はカップリング剤の例は、酸素化された置換基で極性に官能化されたPP樹脂、例えば無水マレイン酸又は他のカルボン酸基を含有する化合物でグラフト化したポリプロピレン、又はペルオキシド基を含有するポリプロピレンである。
【0032】
ポリオレフィン組成物中で、好都合に用いられる顔料、安定剤、殺虫剤などの他の添加剤が同様に存在しうる。
本発明の組成物はかかる成分をポリオレフィンポリマーブレンド製造のための当業者に周知の方法を使って機械的混合により調製することができる。例えば、180℃〜260℃の温度でバンバリーミキサー、バスミキサー又はブラベンダーミキサー、一軸又は二軸押出機を用いることができる。」

(a4)
「【実施例】
【0033】
以下の実施例は本発明を例示するものであるがこれを制限するものではない。実施例に記載されている特性に関するデータを得るために用いた方法と情報は以下に列記する。
メルトフローレート(MFR):特に記載されていない限り、ISO1133(230℃/2.16kg);
特性:方法
曲げ弾性率:4mm厚、80mm長さ、10mm幅の射出成形試験片に対して速度2mm/分でISO法178を行う。射出成形はISO294に従う;
引っ張り弾性率:4mm厚のプラークから切り出した試験片(1b)に対して速度1mm/分でISO527/−1、−2を行う;
引っ張り強度及び伸び(降伏点及び破断点):2mm厚のプラークから切り出した試験片(タイプV)に対して速度50mm/分でISO527/−1、−2を行う;
ノッチアイゾット:4mm厚のプラークから切り出した試験片(ノッチタイプA)に対して速度3.46m/秒でISO180を行う;
プラークの製造:以下の記載1参照;
キシレン溶解度:以下の記載2参照。
【0034】
記載1:プラークの製造
CollinモデルP 200M板プレスにて200℃270秒間圧力なし、150バールで300秒間の圧力でプラークサンプルを製造した;試験片を15℃/分の冷却速度で室温まで冷却した。プラーク試験片:
−引っ張り弾性率及びノッチアイゾット衝撃測定には120×120×4mm、
−引っ張り強度/伸び測定には120×120×2mm。
・・(中略)・・
【0036】
実施例1〜10及び比較実施例1C〜6C
以下の材料を実施例として使用した。
廃棄ポリオレフィン材料(成分A)
実施例で使用した廃棄ポリオレフィン材料はCorepla(パッケージプラスチック廃棄物の収集、回収、リサイクルのためのイタリア国のコンソーシアム)により提供された2つのサンプルであった。1つのサンプルはPE(ポリエチレン)リッチの材料であり、以下「PE−A」と称し、他方のサンプルはPP(ポリプロピレン)リッチの材料であり、以下「PP−A」と称し、共にリグラインドされたフレークである。2つのサンプルをNicolet 20 SXBの透過型FTIR分光光度計と化学元素分析により分析した。組成を以下の表1に記載する:主成分としてのPE及びPPに加えて、パッケージ材料に存在するバリア層に含有されているポリエチレンテレフタレート(PET)やエチレン酢酸ビニルコポリマー(EVA)等の極性ポリマーを少量含有しており、これらはPE/PPと機械的に分離することはできず、さらに色素顔料、耐ブロッキング剤、充填剤などのポリマー添加剤を少量含有している。
【0037】
【表1】

【0038】
ヘテロ相ポリオレフィン組成物(成分B)及びエラストマー
HC1:MFR0.8g/10分、曲げ弾性率1200MPaを有する、以下の成分:
A.25℃キシレン溶解画分2重量%を含有する結晶性プロピレンホモポリマー82重量%:
B.25℃のキシレンに一部溶解する、60重量%のエチレンを含有するエチレン/プロピレンコポリマー18重量%
を含むヘテロ相ポリオレフィン組成物。
【0039】
25℃のキシレンに溶解する画分の総含量は15.5重量%であった。
組成物は、MgClに担持させた高収率で高立体特異性のチーグラー・ナッタ触媒の存在下で逐次重合することにより得た。
【0040】
HC2:MFR0.6g/10分、曲げ弾性率80MPaを有する、以下の成分:
A.25℃キシレン溶解画分約6重量%であり、固有粘度[η]1.5dl/gの、3.5重量%のエチレンを含有する結晶性プロピレンランダムコポリマー32重量%;
B.25℃のキシレンに全く溶解しない、実質的に線状のエチレン/プロピレンコポリマー7.5重量%;及び
C.25℃のキシレンに全く溶解せず、固有粘度[η]3.2dl/gを有する、25重量%のエチレンを含有する、エチレン/プロピレンコポリマー60.5重量%
を含むヘテロ相ポリオレフィン組成物。
【0041】
組成物は、MgClに担持させた高収率で高立体特異性のチーグラー・ナッタ触媒の存在下で逐次重合することにより得た。
HC3:MFR約0.6g/10分、曲げ弾性率20MPaを有し、室温でのキシレン溶解画分の含量が76重量%であり、プロピレンと3.3重量%のエチレンとの結晶性コポリマー17重量%と、エチレンを32重量%を含有するプロピレンとエチレンとのエラストマー画分83重量%とを含むヘテロ相ポリオレフィン組成物。
【0042】
HC4:MFR約3g/10分、曲げ弾性率約130MPaを有し、プロピレンと3.3重量%のエチレンとの結晶性コポリマー30重量%と、22.5重量%のエチレンを含有するプロピレンとエチレンとのエラストマー画分70重量%とを含む、ヘテロ相ポリオレフィン組成物。
【0043】
HC5:HC2を有機ペルオキシドでビスブレーキングして、MFRを0.6g/10分から最終的に8g/10分にして得たもの。
HC6:MFR0.6g/10分、曲げ弾性率330MPaを有する、以下の成分:
A.25℃キシレン溶解画分2%を含有する結晶性プロピレンホモポリマー40重量%;及び
B.25℃で一部キシレンに溶解し、60重量%のエチレンを含有するエチレン/プロピレンコポリマー60重量%
を含むヘテロ相ポリオレフィン組成物。25℃のキシレンに溶解する画分の総含量は47重量%であった。組成物は、MgClに担持させた高収率で高立体特異性のチーグラー・ナッタ触媒の存在下で逐次重合することにより得た。
【0044】
EPR:エチレン含量72重量%、ムーニー粘度60(ML1+4、125℃)及び密度0.865g/cm3を有するエチレン−プロピレンコポリマーゴム。かかるコポリマーはPolimeri EuropaよりDutral CO038の商品名で市販されている。
【0045】
Eng.:ムーニー粘度35(ML1+4、121℃)、MFR(190℃/2.16kg)0.5g/10分及び密度0.868g/cm3を有する、61重量%のエチレンと39重量%の1−オクテンとを含有するコポリマー。かかるコポリマーはDow ChemicalよりEngage 8150の商品名で市販されている。
【0046】
カップリング剤
PET又は金属/イオン性不純物のカップリング剤として、以下の材料を用いた:
−Polybond 3200(Crompton):MFR(190℃/2.16kg)=115dg/分、無水マレイン酸含量=1重量%、密度=0.91g/cm3の、無水マレイン酸でグラフト化したプロピレンホモポリマー(以下、PP−MA);
−X00071-53-4 OxyPP(Basell):MFR=1300dg/分、密度=0.90g/cm3、曲げ弾性率=1340MPaの、活性酸素化基を含有するプロピレンホモポリマー基体の樹脂(以下、OPP)
加工条件
実施例の組成物はBambury BY PL4.3ミキサー装置を、200〜210℃で、ピストン圧4バール、164回転/分で5分間操作することにより各成分を混合して得た。各成分の相対量と得られた組成物の最終的な特性を表2及び表3にそれぞれ示す。
【0047】
【表2】

【表3】



イ.甲1に記載された発明
甲1には、上記ア.で摘示した甲1の記載からみて、(A)ポリエチレン、ポリプロピレン又はそれらの混合物から選択される廃棄材料を80重量%以上含有するポリオレフィン成分を30〜80重量%;及び(B)(a)結晶性プロピレンホモポリマー、10重量%までのエチレン又は他のα−オレフィンコモノマーを含むプロピレンコポリマー又はそれらの組合せから選択される1以上のプロピレンポリマーと、(b)コポリマー又はエチレンと他のα−オレフィン及び任意のごく少量のジエンとのコポリマーの組成物であって、該コポリマー又は組成物が15重量%以上のエチレンを含有する、コポリマー又は組成物と、を含む、600MPa以下の曲げ弾性率を有するヘテロ相ポリオレフィン組成物を20〜70重量%を含むポリオレフィン組成物を含む射出成形品の形態である成形品が記載されており(摘示(a1)【請求項1】、【請求項10】及び【請求項12】)、同様に、当該ポリオレフィン組成物の射出成形による成形品の製造において使用する方法についても記載されていると言える。
また、甲1には、比較例2cとして、SiO2の0,25重量%及びCaCO3のわずか量を含有するポリエチレンリッチの「PE−A」なる廃棄ポリオレフィン材料を100重量%を含有し、230℃、2.16kg荷重条件下におけるMFRが2.2g/10分であるポリオレフィン組成物を用いて射出成形を行うことにより曲げ弾性率測定用の試験片を製造したことが記載されており(摘示(a4)【0033】、【表1】ないし【表3】)、同様に、当該ポリオレフィン組成物の射出成形による成形品の製造において使用する方法についても記載されていると言える。
してみると、甲1には、上記摘示(a1)の記載からみて、
「(A)ポリエチレン、ポリプロピレン又はそれらの混合物から選択される廃棄材料を80重量%以上含有するポリオレフィン成分を30〜80重量%;及び(B)(a)結晶性プロピレンホモポリマー、10重量%までのエチレン又は他のα−オレフィンコモノマーを含むプロピレンコポリマー又はそれらの組合せから選択される1以上のプロピレンポリマーと、(b)コポリマー又はエチレンと他のα−オレフィン及び任意のごく少量のジエンとのコポリマーの組成物であって、該コポリマー又は組成物が15重量%以上のエチレンを含有する、コポリマー又は組成物と、を含む、600MPa以下の曲げ弾性率を有するヘテロ相ポリオレフィン組成物を20〜70重量%を含むポリオレフィン組成物の射出成形による成形品の製造における使用。」
に係る発明(以下「甲1発明1」という。)が記載され、
また、上記摘示(a4)の記載からみて、
「SiO2の0.25重量%及びCaCO3のわずか量を含有するポリエチレンリッチの「PE−A」なる廃棄ポリオレフィン材料の100重量%を含有し、230℃、2.16kg荷重条件下におけるMFRが2.2g/10分であるポリオレフィン組成物の射出成形による成形品の製造における使用。」
に係る発明(以下「甲1発明2」という。)が記載されている。

(2)甲2
上記甲2には、ポリアセタール樹脂組成物を射出成形して成る射出成形品であって、前記射出成形品は、酸化防止物質のうちの少なくとも1種を0.001〜5重量%、流動性向上剤のうちの少なくとも1種を0.001〜5重量%、アルデヒド捕獲剤のうちの少なくとも1種を0.001〜10重量%及びハイドロタルサイト類化合物を0.001〜5重量%含有することを特徴とする写真感光材料包装用射出成形品が記載され(【請求項1】及び【請求項3】)、遮光性を付与するためにオイルファーネスカーボンブラックなどの顔料を添加含有させることができること(【0064】及び【0065】)、ハイドロタルサイト類化合物として、ポリアセタール樹脂に対する分散性ないし親和性を向上させて、射出成形適性、物理強度、外観等を向上させるために、表面被覆物質で処理したものを利用するのが好ましいこと(【0092】〜【0096】)並びに遮光性物質の樹脂中への分散性向上、樹脂流動性向上、写真感光材料へのミクログリッドの発生防止等のために、カップリング剤などの表面被覆物質で被覆した遮光性物質を使用するのが好ましいこと(【0146】〜【0151】)も記載されている。

(3)甲3
上記甲3には、メルトフローインデックス(すなわちMFI)は、ポリマーの溶融物の流れ易さの尺度であって、代替的な所定の温度及び代替的な所定の重量によって適用される圧力により、特定の直径と長さのキャピラリーを10分間で流れるポリマーの質量(グラム)として定義され、その測定方法は、同様の基準であるASTMD1238とISO1133に記載されているのに対して、メルトフローレートは、分子量の間接的尺度であり、大きいメルトフローレートは低分子量に対応し、材料の溶融物が加圧下で流れる能力の尺度であって、メルトフローレートは、試験状態での溶融物の粘度に反比例するが、そのような材料の粘度は加えられる力に依存し、メルトフローインデックスの同意語は、メルトフローレートとメルトインデックスであり、一般的にはその略語であるMFI、MFR、及びMIが使用されることが記載されている(【0041】及び【0042】)。

2.検討

(1)甲1発明1に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明1とを対比すると、甲1発明1における「(A)ポリエチレン、ポリプロピレン又はそれらの混合物から選択される廃棄材料を80重量%以上含有するポリオレフィン成分」は、当該ポリマーからなる「廃棄材料」を再度使用しようとするものであるから、本件発明1における「リサイクルポリマー」に相当する。
また、甲1発明1における「(A)ポリエチレン、ポリプロピレン又はそれらの混合物から選択される廃棄材料を80重量%以上含有するポリオレフィン成分・・;及び(B)(a)・・プロピレンコポリマー又はそれらの組合せから選択される1以上のプロピレンポリマーと、(b)・・ヘテロ相ポリオレフィン組成物・・を含むポリオレフィン組成物」は、いずれもポリマーである成分からなるものであるから、本件発明1における「リサイクルポリマー・・を含」む「ポリマー樹脂」に相当する。
そして、甲1発明1における「ポリオレフィン組成物の射出成形による成形品の製造における使用」は、当該ポリオレフィン組成物を射出成形による成形品の製造に使用する方法であることが明らかであるから、本件発明1における「ポリマー樹脂の、射出成型による前記樹脂からの物品の製造における使用」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明1とは、
「ポリマー樹脂の、射出成型による前記樹脂からの物品の製造における使用であって、前記ポリマー樹脂が、リサイクルポリマーを含む、前記使用。」
で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点1:「ポリマー樹脂」につき、本件発明1では「充填剤入りポリマー樹脂」であり、「前記ポリマー樹脂が、リサイクルポリマー及び機能性フィラーを含み、前記機能性フィラーが、無機微粒子を含み、前記無機微粒子が、表面処理されて」いるのに対して、甲1発明1では「(A)ポリエチレン、ポリプロピレン又はそれらの混合物から選択される廃棄材料を80重量%以上含有するポリオレフィン成分を30〜80重量%;及び(B)(a)結晶性プロピレンホモポリマー、10重量%までのエチレン又は他のα−オレフィンコモノマーを含むプロピレンコポリマー又はそれらの組合せから選択される1以上のプロピレンポリマーと、(b)コポリマー又はエチレンと他のα−オレフィン及び任意のごく少量のジエンとのコポリマーの組成物であって、該コポリマー又は組成物が15重量%以上のエチレンを含有する、コポリマー又は組成物と、を含む、600MPa以下の曲げ弾性率を有するヘテロ相ポリオレフィン組成物を20〜70重量%を含むポリオレフィン組成物」であり、「表面処理されて」いる「無機微粒子を含」む「充填剤」又は「機能性フィラー」を含むことにつき特定されていない点
相違点2:「ポリマー樹脂」につき、本件発明1では「2.5g/10分未満の2.16kg/190℃におけるMFIを有する」のに対して、甲1発明1ではポリオレフィン組成物のMFIにつき特定されていない点

(イ)検討
上記相違点1につき検討すると、甲1には、強化剤、特にタルク又は炭酸カルシウムなどの鉱物充填剤、又はガラス繊維などの繊維を組成物の重量に対して5〜50重量%加えることができるとともに、種々のポリマー組成物と充填剤や繊維などの極性添加剤との間の高い親和性レベルを達成するために、親和剤及び/又はカップリング剤を含むことができることは記載されているものの、充填剤や繊維を親和剤及び/又はカップリング剤で事前に表面処理されたものを使用することは記載ないし示唆されているものではなく(摘示(a3)【0030】〜【0031】)、また、甲1に係る発明では、廃棄ポリオレフィン材料の機械特性、特に引っ張り特性を充填剤や親和剤/カップリング剤を加えることなしに、特定の種類のヘテロ相組成物を加えることにより飛躍的に向上させることができることを発見したことが発明の端緒となっている(摘示(a2)【0006】)から、当該記載に照らすと、甲1発明1において、無機微粒子を含む充填剤又は機能性フィラー、特に事前に表面処理されている充填剤又は機能性フィラーを添加使用すべきことを動機づける事項が存するものとは認められない。
また、甲2には、樹脂に対する分散性ないし親和性を向上させて、射出成形適性、物理強度、外観等の向上又は樹脂中への分散性向上、樹脂流動性向上等のために、ハイドロタルサイト類化合物として表面被覆物質で処理したもの又はカーボンブラックなどの遮光性物質をカップリング剤などの表面被覆物質で被覆したものを使用するのが好適であることが記載されている(上記1.(2)摘示参照)ものの、甲1発明1において、甲2に記載された技術を組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められないから、上記相違点1について、甲2に記載された技術を組み合わせて、甲1発明1において当業者が適宜なし得ることということはできない。
なお、甲3の記載を検討しても、MFRとMFI又はMIとが同意語であることが記載されるのみであり、上記相違点1に係る事項を導出できるものでもない。
してみると、上記相違点1は、甲1発明1において、たとえ他の甲号証に記載された技術を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできない。
そして、本件発明1の効果について、本件特許明細書の実施例に係る記載に基づき検討すると、本件発明1に係る発明特定事項を具備する「サンプルB」又は「サンプルC」の場合、未表面処理の充填剤を含む「サンプルA」又は充填剤を含有しない「サンプルD」に比して、「ピーク射出圧力範囲」又は「32ショットに渡る質量範囲」なる射出のばらつきを表すものと認められる物性値(この点については下記II.及びIII.の説示も参照。)も低減化できていることが看取できる(【表1】及び【表2】)と共に、「サンプルB」又は「サンプルC」の場合に、充填剤を含有しない「サンプルD」に比して、MFIが明らかに小さいにもかかわらずSFNの点で略同等になっていることも看取できる(【表3】及び【表4】)から、本件発明1は、甲1発明1に比して、表面処理された機能性フィラーを含有することにより、射出成型適性の点に係る特段の効果を奏しているものとも認められる。
したがって、上記相違点2につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明1、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、たとえ甲2又は甲3に記載された技術を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ.本件発明2ないし8及び14について
本件発明2ないし8及び14につき検討すると、本件発明2ないし8及び14は、いずれも本件発明1を引用するものであって、上記ア.(ア)で示した相違点1及び2に係る事項を包含するものと認められるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明2ないし8及び14についても、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ.本件発明9について
本件発明9につき検討すると、本件発明9は、本件発明1に係る「充填剤入りポリマー樹脂の、射出成型による前記樹脂からの物品の製造における使用(方法)」であったものを、「充填剤入りポリマー樹脂の射出成型による物品の製造方法」に係るものに変換したものであり、その他の事項を同じくするものであるから、甲1発明1との対比において、上記ア.(ア)で示した相違点1及び2に係る事項を包含するものと認められる。
そして、当該相違点1及び2については、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲1発明1において、当業者が適宜なし得ることではなく、本件発明1が、甲1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないのであるから、本件発明9についても、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

エ.本件発明10ないし13及び15について
本件発明10ないし13及び15につき検討すると、本件発明10ないし13及び15は、いずれも本件発明9を引用するものであって、上記ウ.で説示した本件発明9と同様に、上記ア.(ア)で示した相違点1及び2に係る事項を包含するものと認められるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明10ないし13及び15についても、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

オ.甲1発明1に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし15は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲1発明2に基づく検討

ア.本件発明1について

(ア)対比
本件発明1と甲1発明2とを対比すると、甲1発明2における「SiO2の0.25重量%及びCaCO3のわずか量を含有するポリエチレンリッチの「PE−A」なる廃棄ポリオレフィン材料」は、一旦廃棄された「ポリオレフィン材料」なるポリマーを再利用しようとしているから、本件発明1における「リサイクルポリマー」に相当し、甲1発明2における「SiO2の0,25重量%及びCaCO3のわずか量を含有するポリエチレンリッチの「PE−A」なる廃棄ポリオレフィン材料の100重量%を含有」する「ポリオレフィン組成物」は、「廃棄ポリオレフィン材料」を含有するポリマー樹脂(組成物)であることが明らかであるから、本件発明1における「ポリマー樹脂が、リサイクルポリマー・・を含み」に相当する。
また、甲1発明2における「ポリオレフィン組成物の射出成形による成形品の製造における使用」は、「ポリオレフィン組成物」なるポリマー樹脂組成物を射出成型に使用して成型品を製造するにあたり使用するのであるから、本件発明1における「ポリマー樹脂の、射出成型による前記樹脂からの物品の製造における使用」に相当する。
してみると、本件発明1と甲1発明2とは、
「ポリマー樹脂の、射出成型による前記樹脂からの物品の製造における使用であって、前記ポリマー樹脂が、リサイクルポリマーを含む、前記使用。」
で一致し、少なくとも以下の2点で相違する。

相違点3:本件発明1は「ポリマー樹脂が、リサイクルポリマー及び機能性フィラーを含み、前記機能性フィラーが、無機微粒子を含み、前記無機微粒子が、表面処理されて」いるのに対して、甲1発明2では「SiO2の0.25重量%及びCaCO3のわずか量を含有するポリエチレンリッチの「PE−A」なる廃棄ポリオレフィン材料の100重量%を含有」する「ポリオレフィン組成物」であり、「機能性フィラー」の含有につき特定されていない点
相違点4:本件発明1は「充填剤入りポリマー樹脂が、2.5g/10分未満の2.16kg/190℃におけるMFIを有する」のに対して、甲1発明2では「230℃、2.16kg荷重条件下におけるMFRが2.2g/10分であるポリオレフィン組成物」である点

(イ)検討
上記相違点3につき検討すると、甲1には、強化剤、特にタルク又は炭酸カルシウムなどの鉱物充填剤、又はガラス繊維などの繊維を組成物の重量に対して5〜50重量%加えることができるとともに、種々のポリマー組成物と充填剤や繊維などの極性添加剤との間の高い親和性レベルを達成するために、親和剤及び/又はカップリング剤を含むことができることは記載されているものの、充填剤や繊維を親和剤及び/又はカップリング剤で事前に表面処理されたものを使用することは記載ないし示唆されているものではなく(摘示(a3)【0030】〜【0031】)、また、甲1に係る発明では、廃棄ポリオレフィン材料の機械特性、特に引っ張り特性を充填剤や親和剤/カップリング剤を加えることなしに、特定の種類のヘテロ相組成物を加えることにより飛躍的に向上させることができることを発見したことが発明の端緒となっている(摘示(a2)【0006】)から、甲1発明2において、無機微粒子を含む充填剤又は機能性フィラー、特に事前に表面処理されている充填剤又は機能性フィラーを意図的にポリオレフィン組成物に添加使用すべきことを動機づける事項が存するものとは認められない。
また、甲2には、樹脂に対する分散性ないし親和性を向上させて、射出成形適性、物理強度、外観等の向上又は樹脂中への分散性向上、樹脂流動性向上等のために、ハイドロタルサイト類化合物として表面被覆物質で処理したもの又はカーボンブラックなどの遮光性物質をカップリング剤などの表面被覆物質で被覆したものを使用するのが好適であることが記載されている(上記1.(2)摘示参照)ものの、甲1発明2において、甲2に記載された技術を組み合わせるべき動機となる事項が存するものとは認められないから、上記相違点3について、甲2に記載された技術を組み合わせて、甲1発明2において当業者が適宜なし得ることということはできない。
なお、甲3の記載を検討しても、MFRとMFI又はMIとが同意語であることが記載されるのみであり、上記相違点3に係る事項を導出できるものでもない。
してみると、上記相違点3は、甲1発明2において、たとえ他の甲号証に記載された技術を組み合わせたとしても、当業者が適宜なし得たことということはできない。
そして、本件発明1の効果について、本件特許明細書の実施例に係る記載に基づき検討すると、本件発明1に係る発明特定事項を具備する「サンプルB」又は「サンプルC」の場合、未表面処理の充填剤を含む「サンプルA」又は充填剤を含有しない「サンプルD」に比して、「ピーク射出圧力範囲」又は「32ショットに渡る質量範囲」なる射出のばらつきを表すものと認められる物性値(この点については下記II.及びIII.の説示も参照。)も低減化できていることが看取できる(【表1】及び【表2】)と共に、「サンプルB」又は「サンプルC」の場合に、充填剤を含有しない「サンプルD」に比して、MFIが明らかに小さいにもかかわらずSFNの点で略同等になっていることも看取できる(【表3】及び【表4】)から、本件発明1は、甲1発明2に比して、表面処理された機能性フィラーを含有することにより、射出成型適性の点に係る特段の効果を奏しているものとも認められる。
したがって、上記相違点4につき検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明2、すなわち甲1に記載された発明に基づいて、たとえ甲2又は甲3に記載された技術を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものであるということはできない。

(ウ)小括
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

イ.本件発明2ないし8及び14について
本件発明2ないし8及び14につき検討すると、本件発明2ないし8及び14は、いずれも本件発明1を引用するものであって、上記ア.(ア)で示した相違点3及び4に係る事項を包含するものと認められるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明2ないし8及び14についても、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

ウ.本件発明9について
本件発明9につき検討すると、本件発明9は、本件発明1に係る「充填剤入りポリマー樹脂の、射出成型による前記樹脂からの物品の製造における使用(方法)」であったものを、「充填剤入りポリマー樹脂の射出成型による物品の製造方法」に係るものに変換したものであり、その他の事項を同じくするものであるから、甲1発明2との対比において、上記ア.(ア)で示した相違点3及び4に係る事項を包含するものと認められる。
そして、当該相違点3及び4については、上記ア.(イ)で説示した理由により、甲1発明2において、当業者が適宜なし得ることではなく、本件発明1が、甲1に記載された発明に基づき、当業者が容易に発明をすることができたものということはできないのであるから、本件発明9についても、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

エ.本件発明10ないし13及び15について
本件発明10ないし13及び15につき検討すると、本件発明10ないし13及び15は、いずれも本件発明9を引用するものであって、上記ウ.で説示した本件発明9と同様に、上記ア.(ア)で示した相違点3及び4に係る事項を包含するものと認められるから、上記ア.(イ)で説示した理由と同一の理由により、本件発明10ないし13及び15についても、甲1に記載された発明に基づき、たとえ他の甲号証に記載された事項を組み合わせたとしても、当業者が容易に発明をすることができたものということはできない。

オ.甲1発明2に基づく検討のまとめ
以上のとおり、本件発明1ないし15は、甲1に記載された発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(3)小括
以上のとおりであるから、本件発明1ないし15は、いずれも特許法第29条第2項の規定により、特許を受けられないものではない。

3.取消理由1に係るまとめ
よって、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許は、いずれも特許法第29条に違反してされたものではなく、上記取消理由1は、理由がない。

II.取消理由2について
申立人が主張する取消理由2は、本件申立書の記載(第54〜55頁)からみて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明で使用される表面処理された無機微粒子からなる機能性フィラーにつき、「表面処理」の種別が具体的に記載されておらず、また、特定の態様において、上記無機微粒子状物質は、表面処理剤、即ちカップリング調節剤(coupling modifier)で、該無機微粒子状物質が、その表面上に表面処理、特定の態様において、表面処理剤で被覆される等を含むように処理されること並びに表面処理剤の効果が上記無機微粒子状物質及び該微粒子状物質が混ぜ合わされることになるポリマーマトリックスの相溶性を改善し、及び/又は上記リサイクルポリマー中の異なるポリマーの相溶性を改善することであることが開示され(【0025】)、それを踏まえると、本件特許発明においては任意の表面処理を採用できるわけではなく、「ポリマーマトリックスの相溶性」や「リサイクルポリマー中の異なるポリマーの相溶性」を改善し得るものであると理解されるのみであり、実施例においても単に「表面処理された重質炭酸カルシウム」が開示されているのみであるから、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、任意の「表面処理」を採用できることについて、具体的に記載されておらず、しかもそれらが出願時の技術常識に基づいても当業者に理解できないため、当業者は、本件発明1ないし15を実施することができないので、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、当業者が本件発明1ないし15を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものでない、というものと認められる。
しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0025】〜【0029】)を検討すると、表面処理剤の効果は、無機微粒子状物質および該微粒子状物質が混ぜ合わされることになるポリマーマトリックスの相溶性を改善し、リサイクルポリマー中の異なるポリマーの相溶性を改善することであり、表面処理剤は、カップリング調節剤としても役立ち、カップリングは、該ポリマー間および/または該ポリマーと該表面処理剤との間の物理的及び化学的相互作用に関連するものであることが開示されていると共に、実施例に係る記載(【0038】〜【0041】)を検討すると、表面処理の種別は不明であるが、表面処理された重質炭酸カルシウムを使用した「サンプルB」及び「サンプルC」が、未被覆重質炭酸カルシウムを使用した「サンプルA」に比して、「ピーク射出圧力の平均」値及び「平均ショット質量」につき低減化されると共に、「ピーク射出圧力範囲」及び「32ショットに渡る質量範囲」なる射出のばらつきを表すものと認められる物性値も低減化できていることが看取できるから、上記各成分間の相溶性との関係は不明であるものの、各成分間の相溶性の改善に伴い射出成型適性の点で一応の効果を発現しているものと解される。
そして、各成分間の相溶性の改善を意図する「表面処理」の種別により、上記効果の発現が妨げられるものと当業者が認識することができるような技術常識が存するものとも認めることができない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明に「表面処理」の種別につき記載又は示唆がないからといって、本件発明1ないし15を当業者が実施することを妨げる技術的要因が存するものとは認められないから、本件特許明細書の発明の詳細な説明は、本件発明1ないし15を当業者が実施することができるように明確かつ十分に記載したものということができる。
したがって、上記取消理由2は、理由がない。

III.取消理由3について
申立人が主張する取消理由3は、本件申立書の記載(第54〜55頁)からみて、本件特許明細書の発明の詳細な説明には、本件発明で使用される表面処理された無機微粒子からなる機能性フィラーにつき、「表面処理」の種別が具体的に記載されておらず、また、特定の態様において、上記無機微粒子状物質は、表面処理剤、即ちカップリング調節剤(coupling modifier)で、該無機微粒子状物質が、その表面上に表面処理、特定の態様において、表面処理剤で被覆される等を含むように処理されること並びに表面処理剤の効果が上記無機微粒子状物質及び該微粒子状物質が混ぜ合わされることになるポリマーマトリックスの相溶性を改善し、及び/又は上記リサイクルポリマー中の異なるポリマーの相溶性を改善することであることが開示され(【0025】)、それを踏まえると、本件特許発明においては任意の表面処理を採用できるわけではなく、「ポリマーマトリックスの相溶性」や「リサイクルポリマー中の異なるポリマーの相溶性」を改善し得るものであると理解されるのみであり、実施例においても単に「表面処理された重質炭酸カルシウム」が開示されているのみであるから、「表面処理」の種類が規定されていない本件発明1ないし15は、「ポリマーマトリックスの相溶性」や「リサイクルポリマー中の異なるポリマーの相溶性」を改善するという「表面処理」の目的を達成できることを当業者が認識できる範囲を超えるものであり、本件発明1ないし15は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものでない、というものと認められる。
しかるに、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0002】及び【0009】)からみて、本件発明は、ポリマー廃棄物材料を経済的に採算良くリサイクル処理して、射出成型により高品質の製造品とするための新たな組成物の射出成型による物品の製造における使用並びに射出成型による物品の製法の提供を解決すべき課題とするものと認められる。
そして、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載(【0025】〜【0029】)を検討すると、表面処理剤の効果は、無機微粒子状物質および該微粒子状物質が混ぜ合わされることになるポリマーマトリックスの相溶性を改善し、リサイクルポリマー中の異なるポリマーの相溶性を改善することであり、表面処理剤は、カップリング調節剤としても役立ち、カップリングは、該ポリマー間および/または該ポリマーと該表面処理剤との間の物理的及び化学的相互作用に関連するものであることが開示されていると共に、実施例に係る記載(【0038】〜【0041】)を検討すると、表面処理の種別は不明であるが、表面処理された重質炭酸カルシウムを使用した「サンプルB」及び「サンプルC」が、未被覆重質炭酸カルシウムを使用した「サンプルA」に比して、「ピーク射出圧力の平均」値及び「平均ショット質量」につき低減化されると共に、「ピーク射出圧力範囲」及び「32ショットに渡る質量範囲」なる射出のばらつきを表すものと認められる物性値も低減化できていることが看取できるから、上記各成分間の相溶性との関係は不明であるものの、射出成型適性の点で一応の効果を発現しているものと解される。
そして、各成分間の相溶性の改善を意図する「表面処理」の種別により、上記効果の発現が妨げられるものと当業者が認識することができるような技術常識が存するものとも認めることができない。
してみると、本件特許明細書の発明の詳細な説明の記載に接した当業者は、「表面処理」の種別いかんを問わず、本件請求項1ないし15に記載された事項を具備する発明であれば、射出成型適性の点で優れた組成物の使用又は当該組成物を使用する射出成型により成型品の製造が行えるという課題を解決できると認識することができるものと認められるから、本件発明1ないし15は、本件特許明細書の発明の詳細な説明に記載したものということができる。
したがって、上記取消理由3は、理由がない。

IV.取消理由4について
申立人が主張する取消理由4は、本件申立書の記載(第55〜57頁)からみて、大別すると、(a)本件請求項3に記載された「ピーク射出圧」に係る「射出成型中のピーク射出圧の平均値」の範囲と「ピーク射出圧の範囲」との不一致に係る点及び(b)本件請求項4及び10の「スパイラルフローナンバー」の測定条件の不備に係る点により、本件の請求項3、4及び10並びに同各項を引用する請求項5ないし8及び11ないし15の記載では、各項に記載された事項で特定される発明が明確でない、というものと認められる。

1.上記(a)の点について
上記(a)の点につき検討すると、技術常識からみて、成形材料の射出成型適性を当業者が検討する場合、その材料が適度のピーク射出圧及び射出量を有することを要求されると共に、成形物を断続的な射出成型で連続して複数個製造しようとする場合に各射出毎にピーク射出圧及び射出量の変動・ばらつきが少ない方が好適であることも要求されるものと認められるから、前者の「射出成型中のピーク射出圧の平均値」は、単一のポリマー組成物試料につき複数回射出成型に付して各射出におけるピーク射出圧を測定する試験を行った上で、その複数回の測定値を平均して算出した単一の数値であるのに対して、後者の「ピーク射出圧の範囲」は、同一の試験を行った際の複数回の測定値のうち最高値と最低値の差を「範囲」として表した値であるものと解するのが自然である。
この点は、本件特許明細書の実施例において、サンプルAないしDにつき、それぞれ、「ピーク射出圧力の平均」、「ピーク射出圧力範囲」、「平均ショット質量」及び「32ショットに渡る質量範囲」が測定・算出されていることからも看取できる。
そして、本件請求項3においては、「(2)(i)射出成型中のピーク射出圧の平均値が、100〜200MPa(1,000〜2,000bar)であり、及び/又は(ii)前記ピーク射出圧の範囲が、0.50MPa(5.0bar)以下である、及び/又は
(3)32ショットにわたる質量範囲が、3.25g〜4.0gの間の平均ショット質量に対して0.008g未満である、」(下線は当審が付した。)と規定されているとおり、「ピーク射出圧力の平均」及び「ピーク射出圧力範囲」のみならず、「32ショットに渡る質量範囲」についても規定されていることからみても、「ピーク射出圧力の平均」、「ピーク射出圧力範囲」、「平均ショット質量」及び「32ショットに渡る質量範囲」はそれぞれ独立した物性値であり、互いに同一の単位量で数値が一致しなかったとしても不備とはならないものと認められる。

してみると、「ピーク射出圧」に係る「射出成型中のピーク射出圧の平均値」の範囲と「ピーク射出圧の範囲」とが不一致であったとしても、不備であるということはできず、当該不一致により請求項3に係る発明が明確でないということはできない。

2.上記(b)の点について
申立人が主張する上記(b)の点は、より具体化すると、本件請求項4及び10の「スパイラルフローナンバー」の測定条件のうち「射出時間」及び「射出速度」につきそれぞれ択一的に規定されているところ、その選択と組合せにより得られる測定値が大きく変動するものと考えられ、本件請求項4又は10に記載の「少なくとも350mm、例えば少なくとも400mm、若しくは少なくとも450mmのスパイラルフローナンバー」とはどのような条件に基づき特定される値か不明であるから、本件請求項4又は10の記載では、同各項に係る発明が明確でない、というものと認められる。
しかるに、本件請求項4及び10並びに本件特許明細書の発明の詳細な説明(【0016】、【0042】)においては、上記「射出時間」及び「射出速度」の条件につき、「射出時間:1秒または2秒;」「射出速度:30mm/秒または15mm/秒;」と一貫して記載されており、「射出時間:1秒」と「射出速度:30mm/秒」との組合せ又は「射出時間:2秒」と「射出速度:15mm/秒」との組合せの2種の組合せ条件下でスパイラルフローナンバーの測定を行うことを示唆しているものと理解することができる。
この点につき、本件特許明細書の発明の詳細な説明の実施例に係る記載(【0043】〜【0044】)を参酌すると、サンプルBないしDについて、「射出時間/速度」条件として、「30mm/秒で1秒」及び「15mm/秒で2秒」の2種の条件下での「SFN」すなわちスパイラルフローナンバー値のみが記載されており、そのいずれもが400mm以上のSFN値を有することが記載されていることからも裏付けられるものといえる。
してみると、本件請求項4及び10における「スパイラルフローナンバー」の測定条件のうち「射出時間」及び「射出速度」については、この2つの組合せ条件下でSFNの測定を行うことが規定されており、その2つの組合せ条件のいずれであっても「少なくとも350mm、例えば少なくとも400mm、若しくは少なくとも450mmのスパイラルフローナンバー」を有することを規定しているものと認められるから、本件請求項4及び10の各記載では、当該「スパイラルフローナンバー」の測定条件に係る記載に不備はなく、各項に係る発明が明確でないということはできない。

3.小括
以上のとおりであるから、申立人が主張する取消理由4は理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、本件特許に係る異議申立において特許異議申立人が主張する取消理由はいずれも理由がなく、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許は、取り消すことができない。
ほかに、本件の請求項1ないし15に係る発明についての特許を取り消すべき理由も発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-02-24 
出願番号 P2018-518569
審決分類 P 1 651・ 121- Y (C08L)
P 1 651・ 537- Y (C08L)
P 1 651・ 536- Y (C08L)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 細井 龍史
特許庁審判官 橋本 栄和
佐藤 健史
登録日 2021-04-09 
登録番号 6866363
権利者 イメリーズ ミネラルズ リミテッド
発明の名称 射出成型用組成物  
代理人 山崎 一夫  
代理人 市川 さつき  
代理人 服部 博信  
代理人 藤代 昌彦  
代理人 須田 洋之  
代理人 田中 伸一郎  

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