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審決分類 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  C08J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C08J
審判 全部申し立て 2項進歩性  C08J
管理番号 1384222
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-07 
確定日 2022-02-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6859494号発明「衝撃吸収シート、粘着テープ及び表示装置」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6859494号の請求項1ないし22に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6859494号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし22に係る特許についての出願は、2020年(令和2年)7月17日(優先権主張 2019年(令和1年)7月17日(2件))を国際出願日とする特願2020−544687号に係る特許出願であって、令和3年3月29日にその特許権の設定登録(請求項の数22)がされ、同年4月14日に特許掲載公報が発行され、その後、その特許に対し、同年10月7日に特許異議申立人 満田 真希(以下、「特許異議申立人」という。)により、特許異議の申立て(対象請求項:請求項1ないし22)がされたものである。

第2 本件発明
本件特許の請求項1ないし22に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし22に記載された事項により特定される次のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明22」といい、これらを総称して「本件発明」という場合がある。)。

「【請求項1】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、
−35℃における引張伸度が6%以上である、衝撃吸収シート。
【請求項2】
厚さが200μm以下である請求項1に記載の衝撃吸収シート。
【請求項3】
前記発泡樹脂層を構成する樹脂がアクリル系重合体を含む請求項1又は2に記載の衝撃吸収シート。
【請求項4】
前記発泡樹脂層の密度が0.3g/cm3以上0.8g/cm3以下である請求項1〜3のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項5】
23℃における25%圧縮強度が200kPa以上700kPa以下である請求項1〜4のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項6】
23℃における衝撃吸収率が25%以上である請求項1〜5のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項7】
前記発泡樹脂層が中空粒子を含有する請求項1〜6のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項8】
前記発泡樹脂層が、内部に混入された気体からなる気泡を有する請求項1〜7のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項9】
電子機器に使用される請求項1〜8のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項10】
表示装置の背面側に配置される請求項1〜9のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート。
【請求項11】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の衝撃吸収シートと、前記衝撃吸収シートの少なくともいずれか一方の面に設けられる粘着材とを備える粘着テープ。
【請求項12】
請求項1〜10のいずれか1項に記載の衝撃吸収シート、又は請求項11に記載の粘着テープを備える、表示装置。
【請求項13】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、
下記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない、衝撃吸収シート。
[動的屈曲耐性試験]
−35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで前記衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。
【請求項14】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
前記発泡樹脂層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合したアクリル系重合体を含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、
−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有する、衝撃吸収シート。
【請求項15】
23℃における衝撃吸収率が20%以上である請求項14に記載の衝撃吸収シート。
【請求項16】
前記発泡樹脂層が、内部に混入された気体からなる気泡を有する請求項14又は15に記載の衝撃吸収シート。
【請求項17】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
前記発泡樹脂層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合したアクリル系重合体を含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、
23℃における25%圧縮強度が200kPa以上700kPa以下であって、
23℃における衝撃吸収率が20%以上である、衝撃吸収シート。
【請求項18】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
前記発泡樹脂層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合したアクリル系重合体を含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、
23℃における衝撃吸収率が20%以上であって、
以下の動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない、衝撃吸収シート。
[動的屈曲耐性試験]
−35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで前記衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。
【請求項19】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
前記発泡樹脂層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合したアクリル系重合体を含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、
前記発泡樹脂層が中空粒子を含有し、
23℃における衝撃吸収率が20%以上である、衝撃吸収シート。
【請求項20】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
前記発泡樹脂層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合したアクリル系重合体を含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、
23℃における25%圧縮強度が200kPa以上700kPa以下であって、
前記発泡樹脂層が、内部に混入された気体からなる気泡を有する、衝撃吸収シート。
【請求項21】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
前記発泡樹脂層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合したアクリル系重合体を含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、
前記発泡樹脂層が、内部に混入された気体からなる気泡を有し、
以下の動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない、衝撃吸収シート。
[動的屈曲耐性試験]
−35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで前記衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。
【請求項22】
発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
前記発泡樹脂層が、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合したアクリル系重合体を含み、
前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、
前記発泡樹脂層が中空粒子を含有し、
前記発泡樹脂層が、内部に混入された気体からなる気泡を有する、衝撃吸収シート。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人が主張する申立理由は以下のとおりである。

1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1〜6、8〜13に係る発明は、本件特許の国際出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第1号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、当該請求項に係る発明は、甲第1号証に記載された発明に基づいて、その優先日前にこの発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1〜6、8〜13に係る発明は、本件特許の国際出願日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第2号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、当該請求項に係る発明は、甲第2号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

3 申立理由3(甲第3号証に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1〜6、8〜13に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第3号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、当該請求項に係る発明は、甲第3号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

4 申立理由4(甲第4号証に基づく新規性進歩性
本件特許の請求項1、2、4〜6、8〜13に係る発明は、本件特許の優先日前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲第4号証に記載された発明であるから、特許法第29条第1項第3号に該当し特許を受けることができないものであり、また、当該請求項に係る発明は、甲第4号証に記載された発明に基づいて、その優先日前に当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、本件特許の上記請求項に係る特許は、同法第113条第2号に該当し取り消すべきものである。

5 申立理由5(実施可能要件
本件特許の請求項1〜13、15〜19に係る特許は、下記の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(1)発泡樹脂の種類が規定されていない本件発明1は、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明1の全体を実施できる程度に発明の構成等の記載があるとはいえない。本件発明2〜12及び本件発明13も同様である。
(2)引張伸度の上限の規定のない本件発明1は、その引張伸度が1000%や10000%のものも本件発明1の技術範囲に含まれているにも関わらず、発明の詳細な説明には、これらのものをどのように得ることができるのかについて開示がないから、本件発明1の全体を実施できる程度に発明の構成等の記載があるとはいえない。本件発明2〜12も同様である。
(3)本件発明2は、厚さの下限が規定されていないから、本件発明2を実施できる程度に発明の構成等の記載があるとはいえない。本件発明3〜12も同様である。
(4)本件発明6、13、15、17〜19は、衝撃吸収率の上限が規定されていないから、これらの発明を実施できる程度に発明の構成等の記載があるとはいえない。本件発明16も同様である。

6 申立理由6(サポート要件)
本件特許の請求項1ないし22に係る特許は、下記の点で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、同法第113条第4号に該当し取り消すべきものである。

(1)本件発明14〜18、20及び21について、本件明細書に接した当業者は、ウレタン(メタ)アクリレートに由来する発泡樹脂層について、「中空粒子を採用した」発泡樹脂層を用いるのであれば、本件の課題を解決し得ると理解するのであって、中空粒子を採用していないウレタン(メタ)アクリレートに由来する発泡樹脂層についてまで本件の課題を解決し得ると認識できない。
(2)本件発明14〜22は、アクリル系重合体を含む発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであり、発泡樹脂層の多くが本件アクリル系重合体以外の樹脂であって、本件アクリル系重合体が少量しか含まれていないものが、本件発明の課題を解決すると当業者は認識できない。
(3)本件発明1の「−35℃における引張伸度が6%以上」との規定は、有効数字の関係から、5.5%以上を意味すると解される。しかしながら、本件明細書の比較例1−3は、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上」であるにも関わらず、本件発明の課題を解決できていないから、本件発明1の規定では本件発明の課題を解決できないことが明らかである。本件発明2〜12についても同様である。
(4)本件発明14の「前記ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され」における「5質量%以上」との規定は、有効数字の関係から4.5%以上を意味すると解される。しかしながら、本件明細書の比較例1−3は、「ウレタン(メタ)アクリレート(A1)が、前記モノマー成分(A)に対して、5質量%以上含有され、−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有する」衝撃吸収シートであるにも関わらず、本件発明の課題を解決できないことが明らかである。そうすると、本件発明14の規定では、本件発明の課題を解決し得ると当業者は認識できない。本件発明14及び15についても同様である。
(5)(4)と同様に、比較例1−3は、本件発明17、19、20、22の規定を満足しているにも関わらず、−35℃での動的屈曲試験において破断しており、本件発明の課題を解決できないことが明らかである。そうすると、本件発明17、19、20、22の規定では、本件発明の課題を解決し得ると当業者は認識できない。

7 証拠方法
甲第1号証 :国際公開第2019/235529号
甲第2号証 :特開2020−33528号公報
甲第3号証 :国際公開第2012/081561号
甲第4号証 :国際公開第2015/152222号

表記については、おおむね特許異議申立人の特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」ないし「甲4」という。

第4 当審の判断
当審は、以下述べるように、特許異議申立人の申立理由1ないし6には、いずれも理由はないと判断する。

1 申立理由6(サポート要件)について
(1)サポート要件の判断基準
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明であって、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲内のものであるか否か、また、その記載がなくとも、当業者が出願時の技術常識に照らし、当該発明が解決しようとする課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断されるべきである。

(2)特許請求の範囲の記載
本件特許の特許請求の範囲の記載は、上記第2のとおりである。

(3)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明は、おおむね次のとおりである。下線については当審において付与した。

・「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、電子機器、特に携帯電話などの携帯電子機器は、様々な環境下で使用されることを想定する必要があり、電子機器に使用される衝撃吸収シートは、例えば低温環境下において、各種性能を維持することが求められることがある。しかし、従来の衝撃吸収シートに使用される発泡体は、高い衝撃吸収性を維持しながら、低温環境下における耐屈曲性を良好にすることは難しい。
【0006】
そこで、本発明は、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供することを第1の課題とする。
また、本発明は、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供することを第2の課題とする。」

・「【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者らは、上記第1の課題を解決するために鋭意検討した結果、−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度を所定値以上のものとすることで上記第1の課題を解決できることを見出し、以下の第1の発明を完成させた。又は、23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じないものとすることで上記第1の課題を解決できることを見出し、以下の第1の発明を完成させた。
また、本発明者らは、上記第2の課題を解決するために鋭意検討した結果、発泡樹脂層をアクリル系重合体により形成し、かつアクリル系重合体においてウレタン(メタ)アクリレートを所定量使用することで上記第2の課題を解決できることを見出し、以下の第2の発明を完成させた。」

・「【0013】
(第1の発明)
[衝撃吸収シート]
本発明の第1の発明の第1形態に係る衝撃吸収シートは、発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、−35℃における引張伸度が6%以上であり、−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有することを特徴とする。
本発明の第1の発明の第2形態に係る衝撃吸収シートは、発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じないことを特徴とする。
第1の発明の衝撃吸収シートは、第1形態又は第2形態であることで、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する。さらに、本発明の第1の発明の第2形態である衝撃吸収シートは、低温環境下における耐屈曲性を示す動的屈曲耐性試験において傷が生じないことから、電子機器の表示装置への不要な応力が抑えられる。また、本発明の第1の発明の第2形態である衝撃吸収シートは、低温環境下における耐屈曲性を示す動的屈曲耐性試験において破断しないことにより、屈曲点の衝撃吸収性を失わない。
・・・」

・「【0014】
(損失係数(tanδ))
第1の発明の第1形態に係る衝撃吸収シートは、−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有するものである。この温度範囲内に損失係数(tanδ)のピークがない場合、衝撃吸収シートの耐衝撃性能が不十分となる。耐衝撃性能をさらに良好とする観点から、好ましくは−20〜23℃の間、より好ましくは−18〜20℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有することが好ましい。なお、上記温度範囲内のピークは、後述する測定方法で損失係数(tanδ)を測定した際の最大ピークであることが好ましい。
なお、損失係数(tanδ)は、−100℃〜100℃の温度範囲で動的粘弾性測定装置を用いて測定するとよい。
本発明における損失係数(tanδ)は、例えば、後述するように、発泡樹脂層を構成する樹脂成分を適宜変更することで調整できる。例えば、アクリル系重合体においては、モノマー成分の種類及び含有量によって調整することができる。
【0015】
(−35℃における引張伸度)
本発明の第1形態に係る衝撃吸収シートは、−35℃における引張伸度が6%以上となるものである。衝撃吸収シートは、−35℃におけるにおける引張伸度が6%未満であると、低温環境下における耐屈曲性が不十分となる。衝撃吸収シートは、低温環境下における引張伸度が高くなると、低温環境下における耐屈曲性が良好となる。低温環境下における耐屈曲性の観点から、−35℃における引張伸度は、6.5%以上が好ましく、7.0%以上がより好ましく、7.5%以上がさらに好ましい。
また、−35℃における引張伸度の上限は、特に限定されないが、例えば600%以下、好ましくは500%以下であり、一定の機械強度及び高い衝撃吸収性能を確保する観点から、25%以下が好ましく、20%以下がより好ましく、15%以下がさらに好ましい。
本発明における−35℃における引張伸度は、例えば、後述するように、発泡樹脂層を構成する樹脂成分を適宜変更することで調整できる。例えば、アクリル系重合体においては、モノマー成分の種類及び含有量によって調整することができる。
なお、引張伸度とは、衝撃吸収シートを破断するまで引っ張って引張力が最大となるときの伸度(「引張強度最大伸度」ともいう)を意味する。引張伸度は、JIS K6767に記載の方法に従って測定したものであるが、測定は−35℃環境下で行う。また、密度などによっても調整できる。
また、引張伸度は、MD及びTD方向の両方向を測定して、引張伸度が高い方向のものを採用する。また、いずれの方向がMD及びTD方向であるか不明である場合には、引張伸度が最大となる方向の引張伸度を測定するとよい。MD方向とは、Machine Directionの略であり、後述する塗布などの際の樹脂の流れ方向と一致する。また、TD方向とは、Transverse Directionの略であり、MD方向に直交する方向である。
【0016】
(23℃における衝撃吸収率)
第1の発明の第1形態に係る衝撃吸収シートは、衝撃吸収性を良好にする観点から、23℃における衝撃吸収率が25%以上であることが好ましく、28%以上であることがより好ましく、32%以上であることがさらに好ましい。
第1の発明の第2形態に係る衝撃吸収シートは、23℃における衝撃吸収率が25%以上である。第1の発明の第2形態に係る衝撃吸収シートは、23℃における衝撃吸収率が25%未満であると、衝撃吸収性が不十分となる。第1の発明の第2形態に係る衝撃吸収シートは、衝撃吸収性を良好にする観点から、23℃における衝撃吸収率が28%以上であることが好ましく、30%以上であることがより好ましく、32%以上であることがさらに好ましい。
なお、23℃における衝撃吸収率とは、後述する実施例に記載する方法にて測定されるものである。23℃における衝撃吸収率を25%以上とすることで、衝撃吸収性能、特に局所的な衝撃に対する衝撃吸収性を高くすることが可能になる。なお、衝撃吸収率とは、後述する実施例で示す測定方法で測定できる。
【0017】
(低温環境下における耐屈曲性)
第1の発明の第2形態に係る衝撃吸収シートは、以下の動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した際に1mm以上の傷が生じないものである。衝撃吸収シートは、動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した際に折り曲げの中心部に1mm以上の傷が生じるようであると低温環境下における耐屈曲性が不十分となる。衝撃吸収シートは、低温環境下における耐屈曲性を良好にする観点から、動的屈曲耐性試験後に、0.8mm以上の傷が生じないことが好ましく、0.6mm以上の傷が生じないことがより好ましく、0.4mm以上の傷が生じないことがさらに好ましく、傷が生じない(0mm)であることが特に好ましい。
なお、動的屈曲耐性試験で生じる傷とは、折り曲げの中心部の衝撃吸収シートの厚み方向に貫通しているものをいう。中心部以外に傷が生じた場合は再測定した。
サンプルに10mm以上の傷が生じた場合は、破断回数を記録する。
<動的屈曲耐性試験>
35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。
なお、動的屈曲耐性試験は、実施例に記載されるとおり、市販の耐久試験器により実施できる。」

・「【0021】
[発泡樹脂層]
第1の発明の衝撃吸収シートにおいて発泡樹脂層を構成する樹脂は、アクリル系重合体、熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン樹脂等が挙げられる。発泡樹脂層を構成する樹脂としては、アクリル系重合体を含むことが好ましい。アクリル系重合体は、好ましくはウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合した重合体である。アクリル系重合体は、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を使用することで、高い衝撃吸収性能を維持しつつ、低温環境下における破断伸度が高くなり耐屈曲性が良好になる。
また、第1の発明の衝撃吸収シートにおける発泡樹脂層を構成する樹脂は、熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン樹脂を併用するとよい。これらを含む樹脂を、後述するように発泡して発泡樹脂層を得ることで、衝撃吸収シートは、高い衝撃吸収性能を維持しつつ、低温環境下における破断伸度が高くなり耐屈曲性が良好になる。
【0022】
(アクリル系重合体)
アクリル系重合体に使用されるウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、モノマー成分(A)に対して、5質量%以上80質量%以下で含有されることが好ましい。5質量%以上であると、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を使用した効果を十分に発揮することができ、低温環境下における破断伸度が高くなる。一方、80質量%以下であると、アクリル系重合体が本来有する性能を発揮し、衝撃吸収性能を良好にする。
これら観点から、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、モノマー成分(A)に対して、より好ましくは10質量%以上60質量%以下、さらに好ましくは14質量%以上40質量%以下で含有される。」

・「【0054】
(気泡)
第1の発明の発泡樹脂層は、気泡を有することが好ましい。発泡樹脂層の気泡は、中空粒子を含有させる手段により形成することができる。発泡樹脂層は、中空粒子を含有し、気泡が中空粒子内部の空間により形成されることが好ましい。
発泡樹脂層に含有される中空粒子としては、特に限定されず、中空の無機系微小球状体であってもよく、中空の有機系微小球状体であってもよく、中空の有機無機複合体の微小球状体であってもよい。中空の無機系微小球状体としては、例えば、中空ガラスバルーン等のガラス製の中空バルーン、中空シリカバルーン、中空アルミナバルーン等の金属化合物製の中空バルーン、中空セラミックバルーン等の磁器製中空バルーンなどが挙げられる。また、中空の有機系微小球状体としては、例えば中空アクリルバルーン、中空の塩化ビニリデンバルーン、フェノールバルーン、及びエポキシバルーン等の樹脂製の中空バルーンなどが挙げられる。
・・・
【0058】
また、発泡樹脂層の気泡は、中空粒子以外の手段により形成されてもよく、例えば、樹脂組成物に混入された気体により形成させてもよい。この場合、気泡は、発泡樹脂層を構成する樹脂組成物に直接形成された空隙であり、気泡の内面が樹脂組成物よりなる。すなわち、発泡樹脂層の気泡は、その内壁がシェル構造を有しない気泡となる。発泡樹脂層に混入された気体は、発泡樹脂層を構成する樹脂組成物に配合された発泡剤などから発生した気体でもよいが、後述するメカニカルフロス法などにより樹脂組成物の外部から混入された気体であることが好ましい。」

・「【0068】
[衝撃吸収シートの製造方法(その1)]
以下、衝撃吸収シートの製造方法について詳細に説明する。以下では、まず、気泡を中空粒子から形成する場合の発泡樹脂層の製造方法を説明する。
発泡樹脂層は、樹脂成分、又は硬化などすることで樹脂成分となる樹脂成分の前駆体と、中空粒子と、その他必要に応じて配合される添加剤とを含有する樹脂組成物から形成すればよい。以下、樹脂成分がアクリル系重合体である場合を例に詳細に説明する。
発泡樹脂層の形成においては、まず、モノマー成分(A)、又はモノマー成分(A)の少なくとも一部を重合した成分と、中空粒子と、その他必要に応じて配合される添加剤とを含有するアクリル系樹脂組成物を調製すればよい。
次いで、アクリル系樹脂組成物を膜状にし、上記したモノマー成分(A)、又はモノマー成分(A)の少なくとも一部を重合した成分を重合することで発泡樹脂層を形成すればよい。具体的には、発泡樹脂層は、好ましくは、剥離紙、剥離フィルム、基材等の適当な支持体上に、モノマー成分(A)又はモノマー成分(A)の少なくとも一部を重合した成分、中空粒子、及び光重合開始剤等を含有するアクリル系樹脂組成物を塗布し、塗布層を形成させ、該層を、活性エネルギー線により硬化させることにより形成するとよい。なお、形成した塗布層の上には、活性エネルギー線を照射する前にさらに剥離紙、剥離フィルムなどを重ね合わせてもよい。
なお、上記アクリル系発泡樹脂層の形成の際に用いられる剥離紙、剥離フィルムなどのセパレータは、作製後の衝撃吸収シートを使用する前までに適宜剥離されるとよい。
【0069】
ここで、アクリル系樹脂組成物に含まれるモノマー成分(A)は、部分重合されていることが好ましい。モノマー成分(A)は一般的には粘度が非常に低い。そのため、アクリル系樹脂組成物としては、部分重合(一部重合)を行ったものを使用することで、より効率良く第1の発明の衝撃吸収シートを製造することができる。
モノマー成分(A)が部分重合されたアクリル系樹脂組成物は、例えば、下記のようにして作製することができる。まず、中空粒子を含有せず、その他成分(A3)としての多官能モノマーを除くモノマー成分(A)を含み、かつ必要に応じて光重合開始剤等が配合された組成物に対して、活性エネルギー線を用いた重合によって部分重合を行い、これにより、いわゆるシロップ状の硬化性アクリル樹脂材料を調製する。このときの粘度は、200mPa・s以上5,000mPa・s以下に調整されていることが好ましく、300mPa・s以上4,000mPa・s以下に調整されていることがより好ましい。粘度を上記範囲内に調整することで、中空粒子の浮き上がりを防止して、厚さ方向の空隙率を均一にすることができる。なお、粘度とは、B型粘度計における粘度測定において、測定温度23℃、100rpmの条件で測定された粘度である。
次いで、この硬化性アクリル樹脂材料に、中空粒子及び必要に応じてその他成分(A3)としての多官能モノマーなどを加えて撹拌混合して、硬化性アクリル樹脂材料中に中空粒子を分散させたアクリル系樹脂組成物を調製することができる。
・・・
【0071】
次に、アクリル系樹脂組成物に混入された気体により気泡を形成する場合の発泡樹脂層の製造方法の例を説明する。気泡をアクリル系樹脂組成物に混入された気体により形成する場合、発泡樹脂層は、例えば、アクリル系エマルジョンを原料として製造するとよい。アクリル系エマルジョンは、アクリル系重合体の水分散体である。アクリル系エマルジョンにおいて、アクリル系重合体の平均粒子径は、シート厚さより小さくなくてはならず、好ましくは100μm以下である。また、取り込んだ泡を安定化するため、アクリル系重合体の平均粒子径は5μm以下がより好ましい。更に、泡の安定性を向上させるため、アクリル系重合体の平均粒子径は1μm以下がさらに好ましく、500nm以下がよりさらに好ましく、300nm以下がよりさらに好ましい。樹脂の平均粒子径は、粒度分布測定装置(Microtrac社製、Nanotrac 150)で測定される体積平均粒径として測定することができる。
【0072】
アクリル系エマルジョンは、例えば、必要に応じて配合される、重合開始剤、乳化剤、分散安定剤などの存在下に、モノマー成分(A)を乳化重合、懸濁重合、分散重合等させることで得ることができる。発泡樹脂層は、アクリル系エマルジョンなどのエマルジョンを含むエマルジョン組成物(アクリル系樹脂組成物)を原料として後述する方法で製造できる。
エマルジョン組成物は、分散媒として水を含む。また、水以外にも、メチルアルコール、エチルアルコール、イソプロピルアルコールなどの極性溶媒を含んでいてもよい。また、エマルジョン組成物は、界面活性剤などからなる起泡剤、架橋剤などが必要に応じて配合されていてもよい。エマルジョン組成物の固形分量は、例えば、好ましくは30質量%以上70質量%以下、より好ましくは35質量%以上60質量%以下である。
【0073】
上記したエマルジョン組成物には、気体を混入することで気泡を形成し、気泡が形成されたエマルジョン組成物を膜状にすることで発泡樹脂層を製造できる。
エマルジョン組成物への気体の混入は、メカニカルフロス法により行うことが好ましい。具体的には、エマルジョン組成物を、撹拌羽等で撹拌し、大気中の空気やガスを混入させる方法であり、供給は連続式でもバッチ式でもよい。ガスには窒素、空気、二酸化炭素、アルゴン等を用いることができる。気体の混入量は、得られる発泡樹脂層が上記した密度になるように適宜調整するとよい。具体的には撹拌時間や、空気やガスとの混合割合を調整するとよい。
気泡が形成されたエマルジョン組成物は、その後、剥離紙、剥離フィルム、基材等の適当な支持体上に塗布して、塗布層を形成し、該層を加熱して乾燥させることで、発泡樹脂層を得ることができる。ここで、加熱温度は、特に限定されないが、45〜155℃が好ましく、50〜150℃がより好ましい。」

・「【0076】
[衝撃吸収シートの製造方法(その2)]
以下、衝撃吸収シートの製造方法について詳細に説明する。以下では、発泡樹脂層を構成する樹脂組成物に配合された発泡剤などから発生した気体により気泡を形成する場合の発泡樹脂層の製造方法を説明する。
【0077】
第1の発明の衝撃吸収シートの発泡樹脂層は、特に制限はないが、少なくとも樹脂および熱分解型発泡剤を含む発泡性組成物からなる発泡性シートを加熱して熱分解型発泡剤を発泡させることで製造できる。また、好ましくは発泡性シートを架橋し、架橋した発泡性シートを加熱して発泡させる。
発泡体シートの製造方法は、より具体的には、以下の工程(1)〜(3)を含むことが好ましい。
工程(1):少なくとも樹脂および熱分解型発泡剤を含む発泡性組成物からなる発泡性シートを成形する工程
工程(2):発泡性シートに電離性放射線を照射して発泡性シートを架橋させる工程
工程(3):架橋させた発泡性シートを加熱し、熱分解型発泡剤を発泡させて、発泡体シートを得る工程
【0078】
工程(1)において、発泡性シートを成形する方法は、特に限定されないが、例えば、樹脂及び添加剤を押出機に供給して溶融混練し、押出機から発泡性組成物をシート状に押出すことによって成形すればよい。また、発泡性シートは、発泡性組成物をプレスなどすることにより成形してもよい。発泡性シートの成形温度(すなわち、押出し時の温度、又はプレス時の温度)は、50℃以上250℃以下が好ましく、80℃以上180℃以下がより好ましい。
【0079】
工程(2)において発泡性組成物を架橋する方法としては、発泡性シートに電子線、α線、β線、γ線等の電離性放射線を照射する方法を用いる。上記電離放射線の照射量は、得られる発泡体シートの架橋度が上記した所望の範囲となるように調整すればよいが、1〜12Mradであることが好ましく、1.5〜10Mradであることがより好ましい。
【0080】
工程(3)において、発泡性組成物を加熱し、熱分解型発泡剤を発泡させるときの加熱温度は、熱分解型発泡剤の発泡温度以上であればよいが、好ましくは200〜300℃、より好ましくは220〜280℃である。工程(3)においては、発泡性組成物は発泡されて気泡が形成されて発泡体となる。
【0081】
また、本製造方法において、発泡体シートは、圧延や延伸などの方法により、薄厚化してもよい。
【0082】
ただし、本製造方法は、上記に限定されずに、上記以外の方法により、発泡体シートを得てもよい。例えば、電離性放射線を照射する代わりに、発泡性組成物に予め有機過酸化物を配合しておき、発泡性シートを加熱して有機過酸化物を分解させる方法等により架橋を行ってもよい。
また、架橋が必要ではない場合には、工程(2)が省略されてもよく、その場合、工程(3)では、未架橋の発泡性シートを加熱して発泡させるとよい。」

・「【0087】
(第2の発明)
[発泡樹脂層]
本発明の第2の発明の衝撃吸収シートは、発泡樹脂層を含み、発泡樹脂層がアクリル系重合体を含む。アクリル系重合体は、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を含むモノマー成分(A)を重合した重合体である。アクリル系重合体は、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を使用することで、低温環境下における耐屈曲性が良好になる。
【0088】
(アクリル系重合体)
アクリル系重合体に使用されるウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、モノマー成分(A)に対して、5質量%以上で含有される。5質量%未満となると、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)を使用した効果を十分に発揮できず、低温環境下における耐屈曲性が良好にならない。
また、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、モノマー成分(A)に対して、他のモノマー成分を含有させるために、例えば95質量%以下含有させるとよい。さらに、本発明では、配合組成をある特定の範囲にすると、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できる。そのような観点から、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、モノマー成分(A)に対して、好ましくは8質量%以上60質量%以下、より好ましくは10質量%以上50質量%以下で含有され、さらに好ましくは15質量%以上40質量%以下である。
【0089】
<ウレタン(メタ)アクリレート(A1)>
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、少なくともウレタン結合と、(メタ)アクリロイル基とを有する化合物であり、好ましくはポリアルキレンオキサイド骨格を有する。ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、ポリアルキレンオキサイド骨格を有することで、柔軟性が付与され、低温環境下における耐屈曲性が良好となりやすい。
ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、1分子中における(メタ)アクリロイル基の数が1つである単官能でもよいし、1分子中における(メタ)アクリロイル基の数が2つ以上である多官能でもよいが、単官能であることが好ましい。単官能であることで、衝撃吸収シートの柔軟性が損なわれにくくなり、それにより、低温環境下における耐屈曲性を向上させることができる。また、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、単官能を含有する限り、単官能と多官能を併用することも好ましく、その際の多官能は2官能であることがより好ましい。単官能と多官能を併用する場合、単官能のウレタン(メタ)アクリレート(A1)の含有量(質量部)を、多官能のウレタン(メタ)アクリレート(A1)の含有量よりも多くすることが好ましい。
なお、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)は、上記の第1の発明で説明したものと同様であり、その説明は省略する。
【0090】
アクリル系重合体は、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)と、(A1)成分以外のモノマー成分との共重合体であることが好ましい。アクリル系重合体は、好ましくはウレタン(メタ)アクリレート(A1)と、アルキル(メタ)アクリレート(A2)の共重合体、又は、ウレタン(メタ)アクリレート(A1)と、アルキル(メタ)アクリレート(A2)と、これら(A1)及び(A2)成分以外のその他モノマー(A3)の共重合体である。
【0091】
<アルキル(メタ)アクリレート(A2)>
アルキル(メタ)アクリレート(A2)の使用量を一定の範囲内に調整すると、後述するように、tanδのピーク温度を所望の範囲内に調整して、衝撃吸収性能を向上させやすくなる。そのような観点から、アルキル(メタ)アクリレート(A2)は、モノマー成分(A)に対して、例えば4質量%以上94質量%含有されるとよい。低温環境下における耐屈曲性を良好にしつつ衝撃吸収性能を向上させやすくする観点から、アルキル(メタ)アクリレート(A2)は、モノマー成分(A)に対して、好ましくは30質量%以上89質量%以下、より好ましくは45質量%以上84質量%以下、さらに好ましくは50質量%以上78質量%以下含有される。
なお、アルキル(メタ)アクリレート(A2)は、上記の第1の発明で説明したものと同様であり、その説明は省略する。
【0092】
<その他モノマー(A3)>
その他モノマー(A3)としての単官能モノマーは、モノマー成分(A)に対して、例えば0質量%以上20質量%以下含有される。含有量を20質量%以下とすることで、衝撃吸収性能、及び低温環境下における耐屈曲性を良好に維持しやすくなる。これら観点から、その他モノマー(A3)としての単官能モノマーは、モノマー成分(A)に対して、好ましくは0質量%以上8質量%以下、より好ましくは0質量%以上4質量%以下含有される。
【0093】
アクリル重合体に使用するその他モノマー(A3)としては、(A1)及び(A2)成分以外のモノマーであればよく、単官能モノマーであってもよいし、多官能モノマーであってもよいが、多官能モノマーが好ましい。また、その他モノマー(A3)としては、単官能モノマーと多官能モノマーを併用してもよい。
アクリル系重合体におけるその他モノマー(A3)としての多官能モノマーは、モノマー成分(A)に対して、例えば0.5質量%以上20質量%以下含有される。多官能モノマーの含有量を上記範囲内とすると、適度にネットワークを形成でき、衝撃吸収性能、及び低温環境下における耐屈曲性を良好にしやすくなる。その他モノマー(A3)としての多官能モノマーの上記含有量は、好ましくは1質量%以上15質量%以下、より好ましくは2質量%以上10質量%以下である。
なお、その他モノマー(A3)は、上記の第1の発明で説明したものと同様であり、その説明は省略する。
【0094】
なお、発泡樹脂層における樹脂成分は、アクリル系重合体から構成されるとよく、本発明の効果を阻害しない限り、他の樹脂成分を含有してもよい。アクリル系重合体は、発泡樹脂層における樹脂成分の主成分であり、その含有量は、発泡樹脂層の樹脂成分全量に対して、好ましくは70質量%以上、より好ましくは90質量%以上、最も好ましくは100質量%である。
【0095】
(気泡)
第2の発明の発泡樹脂層は、気泡を有する。発泡樹脂層は、中空粒子を含有し、気泡が中空粒子内部の空間により形成されることが好ましい。また、発泡樹脂層の気泡は、中空粒子以外の手段により形成されてもよく、例えば、樹脂組成物に混入された気体により形成させてもよい。
なお、気泡や気泡を形成する中空粒子は、上記の第1の発明で説明したものと同様であり、その説明は省略する。
【0096】
発泡樹脂層は、上記モノマー成分(A)、及びモノマー成分(A)を部分重合又は完全重合して得たアクリル系重合体の少なくともいずれかを含むアクリル系樹脂組成物から形成される。アクリル系樹脂組成物は、上記の第1の発明で説明したものと同様であり、その説明は省略する。
【0097】
発泡樹脂層の密度は、好ましくは0.3g/cm3以上0.8g/cm3以下ある。密度を上記範囲内とすると、衝撃吸収シートに衝撃が加えられたときに、その衝撃が衝撃吸収シートで十分に吸収することが可能となる。衝撃吸収シートの密度は、衝撃吸収性能をより向上させる観点から、0.45g/cm3以上0.8g/cm3以下であることがより好ましく、0.6g/cm3以上0.78g/cm3以下であることがさらに好ましい。なお、発泡樹脂層の密度は見掛け密度を意味する。
【0098】
樹脂発泡層は、独立気泡を有するものでもよいし、連続気泡を有するものであってもよいし、独立気泡及び連続気泡の両方を有するものであってもよいが、主に独立気泡を有するものであることが好ましい。具体的には、衝撃吸収シートの独立気泡率は、60%以上100%以下が好ましく、70%以上100%以下がより好ましく、80%以上100%以下がさらに好ましい。なお、独立気泡率とは、例えば、JIS K7138(2006)に準拠して求めることができる。
【0099】
発泡樹脂層の厚さは、衝撃吸収シートが薄くても適切な衝撃吸収性能と屈曲性能を発揮できる厚さであればよく、200μm以下が好ましく、20μm以上180μm以下であることがより好ましく、50μm以上150μm以下であることがさらに好ましい。」

・「【実施例】
【0111】
本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によってなんら限定されるものではない。
【0112】
(第1の発明)
・・・
【0113】
<損失係数(tanδ)>
測定装置:動的粘弾性測定装置(製品名「DVA−200」、アイティー計測制御株式会社製)を用いて、せん断モード、1Hz、歪み量:0.1%、温度範囲:−100℃〜100℃、昇温速度:1℃/minの条件下で、損失係数(tanδ)を測定した。
測定サンプルは、衝撃吸収シートを厚み1mmになるよう積層し、10mm×5mmに切り抜いたものを使用した。
測定サンプルにおいて−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークがある場合は「A」と評価し、ピークがない場合は「B」と評価した。
なお、−25〜25℃の間に損失係数(tanδ)のピークがある場合は、ピーク温度を示す。
【0114】
<衝撃吸収性試験>
衝撃吸収シート(50mm角)をアクリル板(100mm角、厚さ10mm)の中心に載せて、この衝撃吸収シートを載せた該アクリル板の面の反対側の面に加速度センサーを取り付けた。なお、アクリル板は、四隅を長さ35mmのボルトにて台座に固定し、該アクリル板の上面が台座面より25mmの位置となるよう保持したものである。
衝撃吸収シートの中心位置に対して、100mmの高さから13.8g(直径15mm)の鉄球を落下させ、衝撃吸収シートと衝突した際の加速度を測定した。また、該衝撃吸収シートは交換せずに同様の鉄球落下、加速度測定を6回繰り返し、全7回分の加速度の平均値を加速度(L1a)とした。また、衝撃吸収シートをアクリル板に置かずに同様の鉄球落下、加速度測定を行った全7回分の加速度の平均値を加速度(L0a)とし、得られた加速度(L1a)及び加速度(L0a)より、7回平均の衝撃吸収率を、以下の式により算出した。なお、試験は、温度23℃、湿度50RH%の条件下で行った。
7回平均の衝撃吸収率(%)=(L0a−L1a)/L0a×100
7回平均の衝撃吸収率の結果より以下の評価基準にて評価した。
A:7回平均の衝撃吸収率が25%以上であった。
B:7回平均の衝撃吸収率が25%未満であった。
【0115】
<動的屈曲耐性試験>
衝撃吸収シートを50mm×10mmにカットしたサンプルを用いて、高温高湿環境耐久試験器(ユアサシステム機器株式会社製、「CL09−typeD01−FSC90」)により衝撃吸収シートの耐屈曲性を評価した。高温高湿耐久試験器は、一対の架台を備え、架台の間にサンプルを架設した。架台間の距離は30mmとした。このとき、サンプルは、その長手方向が架台の対向する方向に一致するように架設した。また、サンプルは、その両端を各架台の上面それぞれに両面テープ(商品名「ナイスタック」、ニチバン株式会社製)により貼り付けた。
【0116】
サンプルは、架設する際、左右7mmずつ架台の上に乗せ、貼り合わせ、元の長さより伸長したり、架台間において下方に垂れ下がったりしすぎないようにした。各架台の下方には、スライド機構が取り付けられており、架台は、これらが対向する方向に沿って往復運動することが可能である。高温高湿環境耐久試験器(ユアサシステム機器株式会社製)では、常温でサンプルを貼り合わせ、風や不要な応力等でサンプルが変形しないようにし、オーブンを−35℃に設定した。炉内が−35℃になったことを確認し30分静置した後に、往復運動を開始した。
その後、架台は、架台間距離が6mmとなるように互いに近づけることでサンプルを屈曲させ、次いで、再び架台を互いに遠ざけて30mmの架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返した。4,000回屈曲後、最大の傷の最大長さ(mm)を測定した。
なお、サンプルが4,000回屈曲する前に破断した場合は、破断した破断点回数を示す。
【0117】
実施例1−1〜1−8、比較例1−1〜1−7で使用した各成分は、以下のとおりである。
(1)メチルアクリレート:MA((株)日本触媒製)
(2)2−エチルヘキシルアクリレート:2EHA((株)日本触媒製)
(3)n−ブチルアクリレート:BA((株)日本触媒製)
(4)アクリル酸
(5)ウレタンアクリレート:ポリプロピレングリコールの片末端にアクリロイルオキシエチルイソシアネートを反応させて得たウレタンアクリレート、単官能(ただし、少量の2官能含有)、重量平均分子量:1.5万、商品名「2.0 PEM−X264」(株式会社旭硝子製)
(6)2官能(メタ)アクリレート:商品名「NKエステルAPG−400」、新中村化学工業(株)製
(7)3官能(メタ)アクリレート:商品名「NKエステルA−9300−3CL」、新中村化学工業(株)製
(8)光重合開始剤(商品名「Irgacure184」、BASFジャパン(株)製)
(9)中空粒子(商品名「エクスパンセル920DE80d30」、日本フィライト(株)製)、平均粒径:80μm
(10)熱可塑性エラストマー(1):商品名「DYNARON 1321P」、HSBR、JSR株式会社製
(11)熱可塑性エラストマー(2):商品名「ハイブラー(登録商標)7311F」、株式会社クラレ製、水添スチレン−イソプレン−ブタジエンブロック共重合体、スチレン含有量12質量%
(12)ポリオレフィン樹脂:商品名「カーネルKF283」、メタロセン化合物の重合触媒によって得られた直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、密度:0.921g/cm3、日本ポリエチレン株式会社製
(14)熱分解型発泡剤:アゾジカルボンアミド
(15)分解温度調整剤:商品名「OW−212F」、酸化亜鉛、堺化学工業株式会社製
(16)フェノール系酸化防止剤:2,6−ジ−t−ブチル−p−クレゾール
【0118】
[実施例1−1]
メチルアクリレート、2−エチルヘキシルアクリレート、ウレタンアクリレート、及び光重合開始剤を表1に示す配合に従って混合し、その混合物を紫外線を用いた重合によって部分重合を行うことにより、粘度を2,000mPa・sに調整したシロップ状の硬化性アクリル樹脂材料を得た。本樹脂材料に、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、及び中空粒子を表1に示す配合に従って混合し、硬化性アクリル樹脂組成物を作製した。これを剥離紙上に23℃で塗布し、得られた塗布層の上にさらに剥離紙を重ね合わせた。その後、紫外線を照射して厚さ104μmの衝撃吸収シートを作製した。なお、紫外線は、照度:4mW/cm2、光量:720mJ/cm2となる条件にて照射した。
衝撃吸収シートの損失係数(tanδ)のピークは2.3℃であった。
【0119】
[実施例1−2〜1−6]
各成分の配合量を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1−1と同様にして衝撃吸収シートとした。
【0120】
[実施例1−7]
熱可塑性エラストマー(1)90.0質量部、ポリオレフィン樹脂10.0質量部と、熱分解型発泡剤2.3質量部と、分解温度調整剤1質量部と、フェノール系酸化防止剤0.5質量部とを原料として用意した。これらの材料を溶融混練後、プレスすることにより厚み0.3mmの発泡性樹脂シートを得た。得られた発泡性樹脂シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を4.5Mrad照射させて、発泡性シートを架橋させた。次に、架橋した発泡性シートを250℃に加熱することによって発泡性樹脂シートを発泡させ、密度0.4g/cm3、厚さ199μmの衝撃吸収シートを作製した。
衝撃吸収シートの損失係数(tanδ)のピークは−24.2℃であった。
【0121】
[実施例1−8]
熱可塑性エラストマー(2)50.0質量部、ポリオレフィン樹脂50.0質量部と、熱分解型発泡剤9.0質量部と、分解温度調整剤1質量部と、フェノール系酸化防止剤0.5質量部とを原料として用意した。これらの材料を溶融混練後、プレスすることにより厚み0.3mmの発泡性樹脂シートを得た。得られた発泡性樹脂シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を6.0Mrad照射させて、発泡性シートを架橋させた。次に、架橋した発泡性シートを250℃に加熱することによって発泡性樹脂シートを発泡させ、密度0.56g/cm3、厚さ198μmの衝撃吸収シートを作製した。
衝撃吸収シートの損失係数(tanδ)のピークは−22.1℃であった。
【0122】
[比較例1−1〜1−7]
各成分の配合量を表1に示す通りに変更した以外は、実施例1−1と同様にして衝撃吸収シートとした。
【0123】
【表1】


【0124】
以上の表1から明らかなように、各実施例では、−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が所定値以上であることで、耐衝撃性及び低温環境下における耐屈曲性の両方が良好になった。
また、各実施例では、23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じないことで、耐衝撃性及び低温環境下における耐屈曲性の両方が良好になった。
【0125】
(第2の発明)
[評価方法]
衝撃吸収シートの各物性や性能は、第1の発明と同様に厚さ、密度、引張強度及び引張強度最大点伸度、圧縮強度、損失係数(tanδ)、衝撃吸収性試験、及び動的屈曲耐性試験で評価した。
なお、衝撃吸収性試験では、20%以上を「A」、20%未満を「B」とした。
なお、動的屈曲耐性試験では、4,000回屈曲後、1mm以上の傷がないものを「A」、1mm以上の傷があるものを「B」とした。また、サンプルが4,000回屈曲する前に破断した場合は、破断した破断点回数を示す。
【0126】
実施例2―1〜2―8、比較例2―1〜2―3で使用した各成分は、第1の発明の実施例及び比較例で使用した各成分と同様のものを使用した。
【0127】
[実施例2―1〜2―8、比較例2―1〜2―3]
表2に記載の2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート以外のモノマー成分、及び光重合開始剤を表1に示す配合に従って混合し、その混合物を紫外線を用いた重合によって部分重合を行うことにより、粘度を2,000mPa・sに調整したシロップ状の硬化性アクリル樹脂材料を得た。本樹脂材料に、2官能(メタ)アクリレート、3官能(メタ)アクリレート、及び中空粒子を表2に示す配合に従って混合し、アクリル系樹脂組成物を作製した。これを剥離紙上に23℃で塗布し、得られた塗布層の上にさらに剥離紙を重ね合わせた。その後、紫外線を照射して厚さ103μmの衝撃吸収シートを作製した。なお、紫外線は、照度:4mW/cm2、光量:720mJ/cm2となる条件にて照射した。
【0128】
【表2】

【0129】
以上の表2から明らかなように、各実施例では、発泡樹脂層を構成する樹脂にアクリル系重合体を使用し、かつその構成モノマーに所定量のウレタン(メタ)アクリレートを含有させることで、低温環境下における耐屈曲性が良好になった。」

(4)サポート要件の判断
発明の詳細な説明の【0005】ないし【0006】によると、本件発明1ないし13に係る発明の解決しようとする課題は、「衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供すること」であり(以下、「発明の課題1」という。)、本件発明14ないし22に係る発明の解決しようとする課題は、「低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供すること」である(以下、「発明の課題2」という。)。
まず、発明の課題1に関して、発明の詳細な説明には、発明の課題1の解決手段として、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度を所定値以上のものとすること」、又は「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じないものとすること」で解決できることを見出したとされ(【0007】)、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有」することの技術的意義と調整法が記載され(【0014】)、また「−35℃における引張伸度が6%以上である」ことの技術的意義及び調整法も記載されていて(【0015】)、発明の課題1を解決する衝撃吸収シートの製造方法についても具体的に記載され(【0068】〜【0082】)、具体的に製造されたシートにおいて「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」実施例及び「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」実施例の衝撃吸収シートの衝撃吸収性と動的屈曲試験・破断点回数は、これらを満たさない比較例に比べて優れていることが示されている。
そうすると、当業者は、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度を6%以上の」又は「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」衝撃吸収シートは、発明の課題1を解決できると理解する。
そして、本件発明1又は本件発明13は、これらの事項を満たす衝撃吸収シートであるから、発明の課題1を解決できると認識できる範囲のものであるし、請求項1を直接又は間接的に引用する本件発明2ないし12についても、発明の課題1を解決できると認識できる範囲のものである。
次に、発明の課題2に関して、発明の詳細な説明には、発明の課題2の解決手段として、「発泡樹脂層をアクリル系重合体により形成し、かつアクリル系重合体においてウレタン(メタ)アクリレートを5質量%以上使用すること」で解決できることを見出したとされ(【0007】)、「発泡樹脂層をアクリル系重合体により形成し、かつアクリル系重合体においてウレタン(メタ)アクリレートを5質量%以上使用すること」の技術的意義が記載されていて(【0088】、【0089】及び援用として【0022】〜【0027】)、発明の課題2を解決する衝撃吸収シートの製造方法についても具体的に記載され(【0109】)、具体的に製造されたシートにおいて「発泡樹脂層をアクリル系重合体により形成し、かつアクリル系重合体においてウレタン(メタ)アクリレートを5質量%以上使用」している実施例の衝撃吸収シートの衝撃吸収性と動的屈曲試験・破断点回数は、これらを満たさない比較例に比べて優れていることが示されている。
そうすると、当業者は、「発泡樹脂層をアクリル系重合体により形成し、かつアクリル系重合体においてウレタン(メタ)アクリレートを5質量%以上使用」している衝撃吸収シートは、発明の課題2を解決できると理解する。
そして、本件発明14、17ないし22は、これらの事項を満たす衝撃吸収シートであるから、発明の課題2を解決できると認識できる範囲のものであるし、請求項14を直接又は間接的に引用する本件発明15及び16についても、発明の課題2を解決できると認識できる範囲のものである。
よって、本件発明1ないし22は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるというべきであり、本件特許の特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合する。

(5)特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、サポート要件に関し、上記第3 6に記載の(1)ないし(5)で特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張しているので以下検討する。
ア (1)中空粒子について
発明の課題2を解決する第2の発明である本件発明14ないし22についての製造方法についての発明の詳細な説明において、「なお、衝撃吸収シートの製造方法は、上記の第1の発明で説明した衝撃吸収シートの製造方法(その1)ものと実質的に同様であり、その説明は省略する。」(【0109】)との記載があり、当該「第1の発明で説明した衝撃吸収シートの製造方法(その1)」には、中空粒子を利用する以外の製造方法についても明記されているから、当該記載をみた当業者は、第2の発明の製造方法についても同様に中空粒子以外でも製造可能であると理解するから、特許異議申立人の上記(1)の主張は失当であり、採用できない。
イ (2)本件アクリル系重合体について
当業者は、発明の詳細な説明から、本件アクリル系重合体をわずかでも含有すれば、全く配合しないものに比べれば、発明の課題2を解決するものと理解するから、特許異議申立人の上記(2)の主張は失当であり、採用できない。
ウ (3)引張伸度の「6%以上」との規定について
発明の詳細な説明の段落【0015】において、「−35℃における引張伸度は、6.5%以上が好ましく、7.0%以上がより好ましく、7.5%以上がさらに好ましい。」との記載があり、有効数字2桁での記載となっていること、及び、実施例1−1から実施例1−8及び比較例1−1から比較例1−7における引張伸度の具体的な数値からみて、本件特許の請求項1における「引張伸度が6以上」との記載は、引張伸度が5.5%以上を意味すると当業者は解さないから、特許異議申立人の上記(3)の主張は失当であり、採用できない。
エ (4)及び(5)の請求項14の「5質量%以上」について
発明の詳細な説明の実施例2−1から実施例2−8及び比較例2−1から比較例2−3におけるウレタンアクリレートの配合量の記載の数値からみて、本件特許の請求項14における「5質量%以上」との記載は、4.5質量%以上を意味すると当業者は解さないから、特許異議申立人の上記(4)及び(5)の主張は失当であり、採用できない。

(6)サポート要件のまとめ
したがって、申立理由6によっては、本件特許の請求項1ないし22に係る特許を取り消すことはできない。

2 申立理由5(実施可能要件)について
(1)実施可能要件の判断基準
本件発明は、「衝撃吸収シート」及び当該衝撃吸収シートを利用した「粘着テープ」及び「表示装置」という物の発明である。そして、物の発明について、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるか否かを検討して判断されるべきである。

(2)発明の詳細な説明の記載
本件特許の発明の詳細な説明には、上記1(3)の記載がある。

(3)実施可能要件の判断
ア 本件発明1〜13について
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0013】〜【0067】には、本件発明1〜13の各発明特定事項について具体的に記載され、本件発明1〜13の衝撃吸収シートの製造方法(その1)が発明の詳細な説明の段落【0068】〜【0075】に、また、本件発明1〜13の衝撃吸収シートの製造方法(その2)が発明の詳細な説明の段落【0076】〜【0082】に記載され、さらに、具体的な実施例が段落【0112】〜【0124】に具体的な製造条件を含めて記載されている。
そうすると、本件発明1〜13について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。

イ 本件発明15〜19について
本件特許の発明の詳細な説明の段落【0088】〜【0108】には、本件発明15〜19の各発明特定事項について具体的に記載され、本件発明15〜19の衝撃吸収シートの製造方法が発明の詳細な説明の段落【0109】〜【0110】に、また、本件発明15〜19の具体的な実施例が段落【0125】〜【0129】に具体的な製造条件を含めて記載されている。
そうすると、本件発明15〜19について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。

ウ まとめ
したがって、本件発明1〜13、15〜19について、発明の詳細な説明に、当業者が、発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その物を製造し、使用することができる程度の記載があるといえる。

(4)特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、実施可能要件に関し、上記第3 5に記載の(1)ないし(4)の点で特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない旨主張しているので、以下検討する。
ア (1)発泡樹脂の種類について
実施可能要件の判断基準は、上記(1)のとおりであって、発泡樹脂の種類が特許請求の範囲に規定されていないことをもって、実施不可能であるということはできないから、特許異議申立人の上記(1)の主張は失当であり、採用できない。
イ (2)引張伸度の上限の規定について
衝撃吸収シートの−35℃における引張伸度については、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0015】に記載の所定の範囲のものと理解するし、また、当該段落には「発泡樹脂層を構成する樹脂成分を適宜変更することで調整できる」と記載されていることから、当業者はその伸度が大きいものであっても適宜実施できるといえ、特許異議申立人の上記(2)の主張は失当であり、採用できない。
ウ (3)厚さの下限の規定について
衝撃吸収シートの厚さについては、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0019】に記載の所定の範囲のものと理解して、請求項に記載がなくとも当業者は本件発明を実施できるから、特許異議申立人の上記(3)の主張は失当であり、採用できない。
エ (4)衝撃吸収率の上限について
衝撃吸収シートの衝撃吸収率については、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明の段落【0016】、【0105】に記載の所定の範囲のものと理解して、請求項に記載がなくとも当業者は本件発明を実施できるから、特許異議申立人の上記(4)の主張は失当であり、採用できない。

(5)実施可能要件についてのまとめ
したがって、申立理由5によっては、本件特許の請求項1〜13、15〜19に係る特許を取り消すことはできない。

3 申立理由1(甲1に基づく新規性進歩性)について
甲1の公知日は、2019年12月12日であって、本件特許の優先日である2019年7月17日より後に公開されたものであり、新規性進歩性の根拠となる証拠とはなりえないが、特許異議申立人が主張するように、仮に、本件特許の優先権主張が認められないとしても以下述べるとおり、本件特許に対する甲1に基づいての新規性及及び進歩性の取消理由には理由がない。
(1)甲1発明
甲1の[請求項1]、[請求項8]、[請求項11]、[請求項12]、[0008]、[0017]、[0019]、[0024]、[0030]、[0031]、[0035]、[0036]、[0055]、[0063]、[0069]、「0070]、[0073]、[0074]、[0077]の[表1]及び[0078]の記載を、実施例4に関して整理すると、甲1には次の発明(以下、「甲1実施例4発明」という。)が記載されていると認める。

<甲1実施例4発明>
「熱可塑性エラストマー(JSR株式会社製、製品名「DYNARON 8300P」)100質量部とポリオレフィン「カーネルKF283」10質量部を共に混練し、熱分解型発泡剤4.0質量部と、分解温度調整剤1.0質量部と、フェノール系酸化防止剤0.5質量部を溶融混練後、120℃でプレスすることにより厚さ0.3mmの発泡性シートを得、当該発泡性シートを冷却速度30℃/分で約3分間かけて常温(23℃)まで冷却し、その後、樹脂発泡体シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を2.5Mrad照射して架橋させ、次に発泡性シートを250℃に加熱することによって発泡性シートを発泡させて得た、見かけ密度0.5g/cm 3 、厚さ0.35mm、20%圧縮強度が365kPaである、樹脂発泡体シート。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲1実施例4発明とを対比する。
甲1実施例4発明の「樹脂発泡体シート」は、本件発明1の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1実施例4発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点1−1>
本件発明1は、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」と特定するのに対して、甲1実施例4発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点1−1について検討する。
甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「損失係数(tanδ)のピーク」がどこにあるのか及び「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについて、甲1には「損失係数(tanδ)のピーク」及び「引張伸度」という文言自体存在しておらず、甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の損失係数のピーク位置及び−35℃における引張伸度は不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン樹脂の種類及び配合量について、実施例1−7が「DYNARON 1231P」90質量部、「カーネルKF283」10質量部であるのに対し、甲1実施例4発明は、「JSR株式会社製、「DYNARON 6200P」100質量部、「カーネルKF283」10質量部と、熱可塑性エラストマーの種類と配合量が相違するし、熱分解型発泡剤の配合量も実施例1−7が、2.3質量部に対し甲1実施例4発明は、4.0質量部と異なっていて、製造条件についても発泡性シートの冷却条件及び架橋条件(500keVにて4.5Mradに対し500keVにて2.5Mrad)が同じということができない。
そうすると、甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)を形成する樹脂の種類及び製造方法が、本件特許明細書における実施例1−7と異なるから、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じ「損失係数(tanδ)のピーク」と「−35℃における引張伸度」を有するとはいえない。
よって、相違点1−1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲1実施例4発明、すなわち、甲1に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲1には樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「損失係数(tanδ)のピーク」がどこにあるのか及び「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについての記載はなく、損失係数のピークを調整しようとする動機付けとなる記載はないし、同じく、「−35℃における引張伸度」を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」と樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点1−1に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲1実施例4発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲1実施例4発明、すなわち甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、以下の主張をする。
(ア)甲1実施例4発明は「伸縮性を有し、衝撃吸収性に優れた樹脂発泡体シート。」なので、相違点に係る引張伸度に優れているといえるし、衝撃吸収性能が良好であるともいえる。そして、甲1実施例4発明の熱可塑性エラストマーとポリオレフィンの配合比は、本件特許明細書段落【0053】に記載の好ましい範囲内であり、甲1実施例4発明の密度は、本件特許明細書の段落【0059】に記載の好ましい範囲と重複し、甲1実施例4発明の原材料の熱可塑性エラストマーの「DYNARON6200P」は本件特許明細書の段落【0041】に記載の熱可塑性エラストマーであり、ポリオレフィンは、実施例1−7と同じ「カーネルKF283」で、配合されている熱分解発泡剤、分解温度調整剤、フェノール系酸化防止剤についても同一の物質が利用され、製造方法が非常に近似しているから、得られる衝撃吸収シートも同様の物性を示すといえる。

以下、上記主張(ア)について検討する。
甲1実施例4発明と、本件特許の発明の詳細に記載の実施例1−7とを対比した結果は、上記(1)での対比のとおり、少なくとも、熱可塑性エラストマーとポリオレフィンとの配合比、製造方法が異なっていることから、特許異議申立人の上記主張(ア)は失当であって採用できない。

(3)本件発明2ないし6、8ないし12について
本件発明1が、甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(2)のとおりであるから、本件発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件発明2ないし6、8ないし12についても同様に甲1に記載された発明ではなく、また、甲1に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明13について
ア 本件発明13と甲1実施例4発明とを対比する。
甲1実施例4発明の「樹脂発泡体シート」は、本件発明13の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。

そうすると、本件発明13と甲1実施例4発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点1−2>
本件発明13は、「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、
下記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない、衝撃吸収シート。
[動的屈曲耐性試験]
−35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで前記衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。」と特定するのに対して、甲1実施例4発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点1−2について検討する。
甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」がどの程度であるのか、及び上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲したときに衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのか、甲1には「衝撃吸収率」及び「動的屈曲性試験」という文言自体存在しておらず、甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」及び上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのかは不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、上記(1)において対比したとおりであって、甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)が、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じ「23℃における衝撃吸収率」であるということができないし、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷が同程度となるということもできない。
そうすると、相違点1−2は、実質的な相違点であるから、本件発明13は、甲1実施例4発明、すなわち、甲1に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲1には樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」について及び上記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷についての記載はなく、23℃における衝撃吸収率を調整しようとする動機付けとなる記載はないし、同じく、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷の程度を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、」上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲1実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、」上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点1−2に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲1実施例4発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明13は、甲1実施例4発明、すなわち甲1に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)申立理由1(甲1に基づく新規性進歩性)のまとめ
以上のとおりであるから、申立理由1には、理由がない。

4 申立理由2(甲2に基づく新規性進歩性)について
甲2の公知日は、2020年3月5日であって、本件特許の優先日である2019年7月17日より後に公開されたものであり、新規性進歩性の根拠となる証拠とはなりえないが、特許異議申立人が主張するように、仮に、本件特許の優先権主張が認められないとしても以下述べるとおり、本件特許に対する甲2に基づいての新規性及及び進歩性の取消理由には理由がない。
(1)甲2発明
甲2の【請求項1】、【請求項2】、【請求項4】、【請求項5】、【請求項6】、【請求項7】、【請求項8】、【請求項9】、【請求項10】、【0004】、【0005】、【0007】、【0012】、「0013】、【0016】、【0019】、【0034】、【0044】、【0046】【0047】、【0054】、【0055】、【0056】、【0057】、【0058】、【0059】、【0060】、【0061】、【0067】の【表2】に記載された事項を、実施例4に関して整理すると、甲2には次の発明(以下、「甲2実施例4発明」という。)が記載されていると認める。

<甲2実施例4発明>
「JSR株式会社製、製品名「DYNARON 6200P」75質量部と、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、商品名「UJ790」25質量部と、熱分解型発泡剤3.5質量部と、分解温度調整剤1.2質量部と、フェノール系酸化防止剤0.5質量部とを溶融混練後、プレスすることにより厚さ0.3mmの発泡性シートを得、得られた発泡性シートの両面に加速電圧500keVにて電子線を3Mrad照射して架橋させ、次に発泡性シートを250℃に加熱することによって発泡させて得た、見かけ密度0.25g/cm3、厚さ0.35mm、25%圧縮強度が12kPaである、発泡体シート。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲2実施例4発明とを対比する。
甲2実施例4発明の「発泡体シート」は、本件発明1の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲2実施例4発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点2−1>
本件発明1は、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」と特定するのに対して、甲2実施例4発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点2−1について検討する。
甲2実施例4発明の発泡体シート(衝撃吸収シート)の「損失係数(tanδ)のピーク」がどこにあるのか及び「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについて、甲2には「損失係数(tanδ)のピーク」及び「引張伸度」という文言自体存在しておらず、甲2実施例4発明の発泡体シート(衝撃吸収シート)の損失係数のピーク位置及び−35℃における引張伸度は不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン樹脂の種類及び配合量について、実施例1−7が「DYNARON 1231P」90質量部、「カーネルKF283」10質量部であるのに対し、甲2実施例4発明は、「JSR株式会社製、「DYNARON 6200P」100質量部、直鎖状低密度ポリエチレン樹脂、商品名「UJ790」25質量部と、熱可塑性エラストマーの種類と配合量が相違するし、熱分解型発泡剤の配合量も実施例1−7が2.3質量部に対し甲2実施例4発明は、3.5質量部と異なっていて、製造条件についても発泡性シートの冷却条件及び架橋条件(500keVにて4.5Mradに対し500keVにて3Mrad)が同じということができない。
そうすると、甲2実施例4発明の発泡体シート(衝撃吸収シート)を形成する樹脂の種類及び製造方法が、本件特許明細書における実施例1−7と異なるから、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じ「損失係数(tanδ)のピーク」と「−35℃における引張伸度」を有するとはいえない。
よって、相違点2−1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲2実施例4発明、すなわち、甲2に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲2には発泡体シート(衝撃吸収シート)の「損失係数(tanδ)のピーク」がどこにあるのか及び「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについての記載はなく、損失係数のピークを調整しようとする動機付けとなる記載はないし、同じく、「−35℃における引張伸度」を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲2実施例4発明の発泡体シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」発泡体シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点2−1に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲2実施例4発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲2実施例4発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、以下の主張をする。
(ア)甲2実施例4発明は「衝撃吸収性を備える発泡体シート。」なので、衝撃吸収性能が良好であるといえる。そして、甲2実施例4発明の熱可塑性エラストマーとポリオレフィンの配合比は、本件特許明細書段落【0053】に記載の好ましい範囲内であり、甲2実施例4発明の密度は、本件特許明細書の段落【0059】に記載の好ましい範囲と重複し、甲2実施例4発明の原材料の熱可塑性エラストマーの「DYNARON6200P」は本件特許明細書の段落【0041】に記載の熱可塑性エラストマーであり、ポリオレフィンは、本件特許明細書の段落【0047】に記載の好ましい樹脂で、配合されている熱分解発泡剤、分解温度調整剤、フェノール系酸化防止剤についても同一の物質が利用され、製造方法が非常に近似しているから、得られる衝撃吸収シートも同様の物性を示すといえる。

以下、上記主張(ア)について検討する。
甲2実施例4発明と、本件特許の発明の詳細に記載の実施例1−7とを対比した結果は、上記(1)での対比のとおり、組成及び製造方法が共に異なっていることから、特許異議申立人の上記主張(ア)は失当であって採用できない。

(3)本件発明2ないし6、8ないし12について
本件発明1が、甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(2)のとおりであるから、本件発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件発明2ないし6、8ないし12についても同様に甲2に記載された発明ではなく、また、甲2に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明13について
ア 本件発明13と甲2実施例4発明とを対比する。
甲2実施例4発明の「発泡体シート」は、本件発明13の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。

そうすると、本件発明13と甲2実施例4発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点2−2>
本件発明13は、「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、
下記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない、衝撃吸収シート。
[動的屈曲耐性試験]
−35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで前記衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。」と特定するのに対して、甲2実施例4発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点2−2について検討する。
甲2実施例4発明の発泡体シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」がどの程度であるのか、及び上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲したときに衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのか、甲2には「衝撃吸収率」及び「動的屈曲性試験」という文言自体存在しておらず、甲2実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」及び上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのかは不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、上記(1)において対比したとおりであって、甲2実施例4発明の発泡体シート(衝撃吸収シート)が、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じ「23℃における衝撃吸収率」であるということができないし、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷が同程度となるということもできない。
そうすると、相違点2−2は、実質的な相違点であるから、本件発明13は、甲2実施例4発明、すなわち、甲2に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲2には発泡体シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」について及び上記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷についての記載はなく、23℃における衝撃吸収率を調整しようとする動機付けとなる記載はないし、同じく、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷の程度を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、」上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲2実施例4発明の発泡体シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、」上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点2−2に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲2実施例4発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明13は、甲2実施例4発明、すなわち甲2に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)申立理由2(甲2に基づく新規性進歩性)のまとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の申立理由2には、理由がない。

5 申立理由3(甲3に基づく新規性進歩性)について
(1)甲3発明
甲3の[請求項1]、[請求項6]、[請求項10]、[請求項11]、[請求項12]、[0001]、[0002]、[0004]、[0005]、[0006]、[0008]、[0009]、[0010]、「0013]、[0015]、「0018]、[0022]、[0024]、[0026]、[0027]、[0031]、[0040]、[0041]、[0042]、[0043]、[0044]〜[0053]の記載を、実施例4に関して整理すると、甲3には次の発明(以下、「甲3実施例4発明」という。)が記載されていると認める。

<甲3実施例4発明>
「(A1−1)株式会社クラレ製:登録商標「ハイブラー」品番「5127」60質量部、(A2−2)株式会社クラレ製:登録商標「ハイブラー」品番「7311」20質量部、(B−1)日本ポリプロ株式会社製「EG8B」(ランダムポリプロピレン)20質量部、熱分解型発泡剤 永和化成株式会社製:アゾジカルボンアミド「AC#K3」3質量部、分解温度調整剤 株式会社ADEKA製:登録商標「アデカスタブ」品番「CDA−1」1質量部、酸化防止剤 株式会社ADEKA製:登録商標「アデカスタブ」品番「FP−2000」0.5質量部を配合し、これを押出機に供給して170℃で溶融混練し、厚さ0.8mm、幅300mmの樹脂シートを製造し、得られた樹脂シートの両面に加速電圧800kVの電子線を3.6Mrad照射して架橋した後、この架橋樹脂シートを250℃の加熱炉を通過させることにより発泡させて架橋樹脂発泡シートを得、次いで、架橋樹脂発泡シートを200℃の加熱炉に供給して加熱し、供給する速度と、加熱炉から出てきた架橋樹脂発泡シートを巻き取る速度との比(架橋樹脂発泡シートを巻き取る速度/架橋樹脂シートを発泡炉に供給する速度)を3.7とすることにより、発泡中の架橋樹脂発泡シートをシート押出方向に延伸して得られた架橋樹脂発泡シート。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲3実施例4発明とを対比する。
甲3実施例4発明の「架橋樹脂発泡シート」は、本件発明1の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。
甲3実施例4発明に配合されている(A1−1)株式会社クラレ製:登録商標「ハイブラー」品番「5127」及び(A2−2)株式会社クラレ製:登録商標「ハイブラー」品番「7311」は、それぞれの損失係数(tanδ)の最大ピーク温度は、20℃と−17℃(段落【0043】の表1)であるから、甲3実施例4発明は、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有」するといえる。

そうすると、本件発明1と甲3実施例4発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有する、衝撃吸収シート」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点3−1>
本件発明1は、「−35℃における引張伸度が6%以上である」と特定するのに対して、甲3実施例4発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点3−1について検討する。
甲3実施例4発明の架橋樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについて、甲3には「引張伸度」という文言自体存在しておらず、甲3実施例4発明の架橋樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の−35℃における引張伸度は不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン樹脂の種類及び配合量について、実施例1−7が「DYNARON 1231P」90質量部、「カーネルKF283」10質量部であるのに対し、甲3実施例4発明は、「(A1−1)株式会社クラレ製:登録商標「ハイブラー」品番「5127」60質量部、(A2−2)株式会社クラレ製:登録商標「ハイブラー」品番「7311」20質量部、(B−1)日本ポリプロ株式会社製「EG8B」(ランダムポリプロピレン)20質量部と、熱可塑性エラストマーの種類と配合量が相違するし、熱分解型発泡剤の配合量も実施例1−7が、2.3質量部に対し甲3実施例4発明は、3.0質量部と異なっていて、製造条件についても発泡性シートの架橋条件(500keVにて4.5Mradに対し800keVにて23.6Mrad)が同じでなく、さらに、実施例1−7は、架橋発泡後延伸しないのに対し、甲3実施例4発明は延伸するものである。
そうすると、甲3実施例4発明の架橋樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)を形成する樹脂の種類及び製造方法が、本件特許明細書における実施例1−7と異なるから、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じ「−35℃における引張伸度」を有するとはいえない。
そうすると、相違点3−1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲3実施例4発明、すなわち、甲3に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲3には架橋樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについての記載はなく、「−35℃における引張伸度」を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、「−35℃における引張伸度が6%以上である」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲3実施例4発明の架橋樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても「−35℃における引張伸度が6%以上である」架橋樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点3−1に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲3実施例4発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲3実施例4発明、すなわち甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、以下の主張をする。
(ア)甲3実施例4発明は「伸び等の物性バランス優れる衝撃吸収材。」なので、衝撃吸収材に求められる程度の引張伸度を有するといえる」し、「甲3発明は、−25℃〜25℃の間にすくなくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、かつ「−20℃以下の低温環境下においても高い曲げ強度を示す、柔軟性や伸び等の物性バランスに優れる衝撃吸収材」なので、「−35℃における引張伸度が6%以上である」ことを満足しているといえる。
加えて、甲3実施例4発明のブロック共重合体(熱可塑性エラストマー)とポリオレフィンの配合比は、本件特許明細書段落【0053】に記載の好ましい範囲内であり、甲3実施例4発明の密度は、本件特許明細書の段落【0059】に記載の好ましい範囲と重複し、甲3実施例4発明における23℃での衝撃吸収率は、本件特許明細書の段落【0016】の好ましい範囲内である。
さらに、甲3実施例4発明と本件の実施例1−7とは、原材料の種類、配合されている熱分解発泡剤、分解温度調整剤、フェノール系酸化防止剤についても同一の物質が利用され、製造方法が非常に近似しているから、得られる衝撃吸収シートも同様の物性を示すといえる。

以下、上記主張(ア)について検討する。
衝撃吸収材に求められる程度の引張伸度が、「−35℃における引張伸度が6%以上」であることを示す証拠はなく、−25℃〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有する衝撃吸収材であれば「−35℃における引張伸度が6%以上」である衝撃吸収シートであるといえる技術常識及びそれを示す証拠もないし、「−20℃以下の低温環境下においても高い曲げ強度を示す、柔軟性や伸び等の物性バランスに優れる衝撃吸収材」であれば、「−35℃における引張伸度が6%以上である」という技術常識及びそれを示す証拠もないから、特許異議申立人の最初の主張は失当であり、採用できない。
甲3実施例4発明は本件の実施例1−7と同様の特性を有するとの主張については、甲3実施例4発明と、本件特許の発明の詳細に記載の実施例1−7とを対比した結果は、上記(1)での対比のとおり、組成及び製造方法が共に異なっていることから、特許異議申立人の当該主張も失当であり、採用できない。

(3)本件発明2ないし6、8ないし12について
本件発明1が、甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(2)のとおりであるから、本件発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件発明2ないし6、8ないし12についても同様に甲3に記載された発明ではなく、また、甲3に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明13について
ア 本件発明13と甲3実施例4発明とを対比する。
甲3実施例4発明の「架橋樹脂発泡シート」は、本件発明13の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。
甲3実施例4発明の23℃の衝撃吸収率は71%であるから、本件発明13の「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり」を満足している。

そうすると、本件発明13と甲3実施例4発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シートであって、
23℃における衝撃吸収率が25%以上である、衝撃吸収シート。」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点3−2>
本件発明13は、「下記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない、衝撃吸収シート。
[動的屈曲耐性試験]
−35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで前記衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。」と特定するのに対して、甲2実施例4発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点3−2について検討する。
甲3実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲したときに衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのか、甲3には「動的屈曲性試験」という文言自体存在しておらず、甲3実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのかは不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、上記(1)において対比したとおりであって、甲3実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)が、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じように、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷が同程度となるということもできない。
そうすると、相違点3−2は、実質的な相違点であるから、本件発明13は、甲3実施例4発明、すなわち、甲3に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲3には樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の上記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷についての記載はなく、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷の程度を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲3実施例4発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点3−2に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲3実施例4発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明13は、甲3実施例4発明、すなわち甲3に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)申立理由3(甲3に基づく新規性進歩性)のまとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の申立理由3には、理由がない。

6 申立理由4(甲4に基づく新規性進歩性)について
(1)甲4発明
甲4の[請求項1]、[請求項7]、[0001]、[0002]、[0008]、[0031]、[0032]、[0035]、[0045]、[0046]〜[0052]、[0058]、「0059]の[表1]の記載を、実施例3に関して整理すると、甲4には次の発明(以下、「甲4実施例3発明」という。)が記載されていると認める。

<甲4実施例3発明>
「ポリオレフィン系樹脂(日本ポリエチレン株式会社製、商品名.カーネルKF370)70質量部、及びスチレン系熱可塑性エラストマー(株式会社クラレ製、商品名.ハイブラー(登録商標)7311)30質量部からなる樹脂成分100質量部、熱分解型発泡剤2質量部、分解温度調整剤1質量部、及び酸化防止剤0.5質量部を、押出機に供給して140℃で溶融混練して得た樹脂組成物を押出成形し、厚み0.3mmの長尺シート状にし、前記長尺シート状の樹脂組成物の両面に加速電圧500kVの電子線を4.5Mrad照射して樹脂組成物を架橋し、その後、この樹脂組成物を熱風及び赤外線ヒーターにより250℃に保持された発泡炉内に連続的に送り込んで加熱して発泡させると同時に、MD方向及びTD方向に延伸して得られた発泡シート。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲4実施例3発明とを対比する。
甲4実施例3発明の「発泡シート」は、本件発明1の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲4実施例3発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点4−1>
本件発明1は、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」と特定するのに対して、甲4実施例3発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点4−1について検討する。
甲4実施例3発明の樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)の「損失係数(tanδ)のピーク」がどこにあるのか及び「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについて、甲4には「損失係数(tanδ)のピーク」及び「引張伸度」という文言自体存在しておらず、甲4実施例3発明の発泡シート(衝撃吸収シート)の損失係数のピーク位置及び−35℃における引張伸度は不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、熱可塑性エラストマー及びポリオレフィン樹脂の種類及び配合量について、実施例1−7が「DYNARON 1231P」90質量部、「カーネルKF283」10質量部であるのに対し、甲4実施例3発明は、スチレン系熱可塑性エラストマー(株式会社クラレ製、商品名.ハイブラー(登録商標)7311)30質量部と「カーネルKF283」70質量部であって、熱可塑性エラストマーの種類と配合量が相違するし、熱分解型発泡剤の配合量も実施例1−7が、2.3質量部に対し甲4実施例3発明は、2質量部と異なっていて、製造条件についても、実施例1−7は、架橋発泡後に延伸しないのに対し、甲4実施例3は延伸を行っている点で全く異なっている。
そうすると、甲4実施例3発明の発泡シート(衝撃吸収シート)を形成する樹脂の種類及び製造方法が、本件特許明細書における実施例1−7と異なるから、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じ「損失係数(tanδ)のピーク」と「−35℃における引張伸度」を有するとはいえない。
そうすると、相違点4−1は、実質的な相違点であるから、本件発明1は、甲4実施例3発明、すなわち、甲4に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲4には発泡シート(衝撃吸収シート)の「損失係数(tanδ)のピーク」がどこにあるのか及び「−35℃における引張伸度」がどの程度であるのについての記載はなく、損失係数のピークを調整しようとする動機付けとなる記載はないし、同じく、「−35℃における引張伸度」を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲4実施例3発明の発泡シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても「−25〜25℃の間に少なくとも1つは損失係数(tanδ)のピークを有し、−35℃における引張伸度が6%以上である」と樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点4−1に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲4実施例3発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明1は、甲4実施例3発明、すなわち甲4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 特許異議申立人の主張の検討
特許異議申立人は、以下の主張をする。
(ア)甲4実施例3発明の熱可塑性エラストマーとポリオレフィンの配合比は、本件特許明細書段落【0053】に記載の好ましい範囲内であり、甲4実施例3発明の原材料の熱可塑性エラストマーは本件特許明細書の段落【0043】に記載される株式会社クラレ製の「ハイブラー」シリーズであり、ポリオレフィンは、実施例1−7と同じ「カーネルKF283」で、配合されている熱分解発泡剤、分解温度調整剤、フェノール系酸化防止剤についても同一の物質が利用され、製造方法が非常に近似しているから、得られる衝撃吸収シートも同様の物性を示すといえる。

以下、上記主張(ア)について検討する。
甲4実施例3発明と、本件特許の発明の詳細に記載の実施例1−7とを対比した結果は、上記(1)での対比のとおり、組成及び製造方法が共に異なっていることから、特許異議申立人の上記主張(ア)は失当であり、採用できない。

(3)本件発明2、4ないし6、8ないし12について
本件発明1が、甲4に記載された発明ではなく、また、甲4に記載された発明から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないのは上記(2)のとおりであるから、本件発明1の特定事項をすべて有し、更に限定する本件発明2、4ないし6、8ないし12についても同様に甲4に記載された発明ではなく、また、甲4に記載された発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものともいえない。

(4)本件発明13について
ア 本件発明13と甲4実施例3発明とを対比する。
甲4実施例3発明の「発泡シート」は、本件発明13の「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」に相当する。

そうすると、本件発明13と甲4実施例3発明は、
「発泡樹脂層を含む衝撃吸収シート」
で一致し、以下の点で相違又は一応相違する。

<相違点4−2>
本件発明13は、「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、
下記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない、衝撃吸収シート。
[動的屈曲耐性試験]
−35℃の環境下、30mmの架台間距離で前記衝撃吸収シートが架設された一対の架台を、架台間距離6mmとなるように近づけることで前記衝撃吸収シートを屈曲させた後、再び前記一対の架台を遠ざけて元の架台間距離とする往復運動を、1分あたり46回の周期で4,000回繰り返す。」と特定するのに対して、甲4実施例3発明は、この点を特定しない点

そこで、相違点4−2について検討する。
甲4実施例3発明の発泡シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」がどの程度であるのか、及び上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲したときに衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのか、甲4には「衝撃吸収率」及び「動的屈曲性試験」という文言自体存在しておらず、甲4実施例3発明の発泡シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」及び上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートにどの程度の傷が生じるのかは不明である。
本件特許明細書に記載の実施例1−7と対比しても、上記(1)において対比したとおりであって、甲4実施例3発明の発泡シート(衝撃吸収シート)が、当該実施例1−7の衝撃吸収シートと同じ「23℃における衝撃吸収率」であるということができないし、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷が同程度となるということもできない。
そうすると、相違点4−2は、実質的な相違点であるから、本件発明13は、甲4実施例3発明、すなわち、甲4に記載された発明でない。

また、上述のとおり、甲4には発泡シート(衝撃吸収シート)の「23℃における衝撃吸収率」について及び上記動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷についての記載はなく、23℃における衝撃吸収率を調整しようとする動機付けとなる記載はないし、同じく、上記「動的屈曲耐性試験」で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに生じる傷の程度を調整しようとする動機付けとなる記載はない。
そして、その他のいずれの証拠にも、「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、」上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」衝撃吸収シートは開示されていない。
そうすると、甲4実施例3発明の発泡シート(衝撃吸収シート)について、当業者においても「23℃における衝撃吸収率が25%以上であり、」上記「動的屈曲耐性試験で4,000回屈曲した衝撃吸収シートに1mm以上の傷が生じない」樹脂発泡シート(衝撃吸収シート)とすることが容易に想到し得たものとすることはできない。
そして、当該相違点4−2に係る発明特定事項を有することにより、衝撃吸収性能を良好に維持しながら、低温環境下でも良好な耐屈曲性を有する衝撃吸収シートを提供できるとの甲4実施例3発明からみて格別の効果を奏するものである。
よって、本件発明13は、甲4実施例3発明、すなわち甲4に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものとはいえない。

(5)申立理由4(甲4に基づく新規性進歩性)のまとめ
以上のとおりであるから、特許異議申立人の申立理由4には、理由がない。

第5 むすび
したがって、特許異議申立人が主張する特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許の請求項1ないし22に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1ないし22に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。

よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2022-01-28 
出願番号 P2020-544687
審決分類 P 1 651・ 536- Y (C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J)
P 1 651・ 113- Y (C08J)
P 1 651・ 537- Y (C08J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 加藤 友也
特許庁審判官 奥田 雄介
大島 祥吾
登録日 2021-03-29 
登録番号 6859494
権利者 積水化学工業株式会社
発明の名称 衝撃吸収シート、粘着テープ及び表示装置  
代理人 田口 昌浩  
代理人 虎山 滋郎  
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