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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B23K
管理番号 1384223
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-08 
確定日 2022-01-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6856963号発明「プリフォームはんだ及び該プリフォームはんだを用いて形成されたはんだ接合体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6856963号の請求項1〜2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6856963号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜2に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、2020年(令和2年)7月22日(優先権主張 令和元年7月26日)を国際出願日とする出願である特願2020−541601号の一部を令和2年9月10日に新たな特許出願としたものであって、令和3年3月23日に特許権の設定登録がされ、同年4月14日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月8日付けでその請求項1〜2に係る特許に対し、特許異議申立人、赤松智信(以下「申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。

第2 本件発明
本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜2に係る発明(以下、順に「本件発明1」〜「本件発明2」といい、これらを総称して「本件発明」という。)は、それぞれ、本願の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
Snを主成分とする鉛フリーはんだ、及び、該鉛フリーはんだよりも融点の高い金属粒子を含むプリフォームはんだであって、
前記金属粒子は、Ni含量が10〜90質量%であるCu−Ni合金で形成されており、
前記鉛フリーはんだはSn−Cu−Ni系鉛フリーはんだ合金であり、
前記金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が形成されている、プリフォームはんだ。
【請求項2】
基材と、該基材と接合した請求項1記載のプリフォームはんだにより構成されるはんだ接合部とを含む、はんだ接合体。」

第3 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも、本願の優先権主張の日前に日本国内又は外国において頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった後記する甲第1〜4号証を提出し、以下の申立理由1により、本件特許の請求項1〜2に係る特許を取り消すべきものである旨主張している。

1 申立理由1(進歩性
本件発明1〜2は、甲第1号証に記載された発明と、甲第2〜4号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、同発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当するので、取り消されるべきものである。

[証拠方法]
甲第1号証:国際公開第2007/125991号
甲第2号証:国際公開第03/21664号
甲第3号証:特許第6443568号公報
甲第4号証:特開2011−54892号公報
(以下、甲第1号証〜甲第4号証をそれぞれ「甲1」〜「甲4」ということがある。)

第4 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜2に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(進歩性)について

(1)各甲号証の記載事項、及び甲号証に記載された発明

ア 甲第1号証(国際公開第2007/125991号)の記載事項
甲1には以下の記載がある(「・・・」は記載の省略を表す。下線は、当審による。以下同様。)。

(ア)「[0004]
ところで半導体素子と基板とをダイボンディング接合する時、基板上にフォームはんだを置いて加熱すると、フォームはんだが溶融したときに半導体素子の重量で溶融はんだがはんだ付け部間から押し出され、はんだ付け部間のはんだの量が少なくなってしまうことがある。はんだによる接合は、はんだ付け部間に適量のはんだが存在することではんだが有する本来の接合強度を発揮できるものであるが、上述のように上に置いた半導体素子の重量ではんだ付け部間のはんだが押し出されると、半導体素子と基板との間のクリアランスが狭くなりすぎてそこに十分な量のはんだが存在できなくなり、接合強度が弱くなってしまう。つまり、はんだ接合では、クリアランスが適当であると、最大の接合強度を発揮できるが、部分的にクリアランスの狭い部分ができると、接合部全体の接合強度が弱くなってしまうのである。
[0005]
そこで、従来よりはんだ付け部間を適当に離間させた状態ではんだ付けして、はんだ付け部間に適量のはんだを保つようにするため、はんだ付け部間にはんだよりも融点の高い高融点金属粒(以下、単に金属粒という)、例えばNi、Cu、Ag、Fe、Mo、W等の金属粒を複数個挟み込むことが行われていた。しかし、はんだ付けを行う度毎に、金属粒をはんだ付け部間に置いていたのでは非常に手間がかかって生産効率が悪いため、予め金属粒をその中に分散させたフォームはんだが使用されていた。
[0006]
特許文献1には、シート状はんだの上に金属粒をホッパーで散布し、該金属粒を埋め込みローラーでシート状はんだ中に埋め込む、ローラー埋め込み法が開示されている。このときの金属粒として、丸型、三角、柱状、片状、微粒子状のもの等を用いている。
[0007]
特許文献2もローラ埋め込み法を開示するもので、得られるフォームはんだは、粒径が30〜70μmの金属粒をはんだ中に埋め込んだものである。
特許文献3は、金属粒が混在した複合はんだインゴットの製造方法を開示するが、この方法では、金属粒とフラックスを一緒に練ったものを溶融はんだ中に投入して攪拌、冷却、固化する。ここで用いる金属粒の粒径は、20μm、50μm、100μmである。
[0008]
特許文献4は、二枚のはんだシートの間にホッパーで散布した金属粒を有する重ねシートを作製し、次いでこれを圧延して二枚のシートを圧着するフォームはんだの製造方法を開示する。金属粒の直径の平均値が30〜300μm、直径分布の標準偏差が2.0μm以下という金属粒を用いている。
特許文献1:特開平3-281088号公報
特許文献2:特開平6-685号公報
特許文献3:特開平6-31486号公報
特許文献4:特開2005-161338号公報
発明の開示
発明が解決しようとする課題
[0009]
ところで従来のフォームはんだではんだ付けが行われた半導体素子と基板とから成る電子部品は、半導体素子が基板に対して傾斜して接合されたり、はんだ付け部に少しの衝撃が加わるとはんだ付け部が容易に剥離したりすることがあった。」

(イ)「課題を解決するための手段
[0017]
本発明者らは、金属粒の粒子径のバラツキがある一定値以下であれば、傾斜が少なくなり、また金属粒の周囲にはんだとの合金層が形成されていれば、金属粒とはんだとの接合強度が向上し、ダイボンディング用のフォームはんだとして優れた性能を発揮できることを見い出して本発明を完成させた。
・・・
[0022]
ここに、上記バラツキの範囲は金属粒の粒径の40%以内、好ましくは20%以内にするのが好ましい。
本発明にかかるフォームはんだにおいて、高融点金属粒とはんだの接合面には空気やフラックスの巻き込みあるいは残留が見られないから、はんだ付けを行った後でも接合部にはボイドが全く存在しない。
[0023]
本発明のフォームはんだは、金属粒の周囲にはんだとの合金層が形成されていなければならないものである。はんだは一般の電子部品の製造に用いられるものであれば如何なるはんだでもよいが、近時のPb規制に対してはSn主成分の鉛フリーはんだが適している。
[0024]
はんだ中に分散させる金属粒は、鉛フリーはんだの主成分であるSnと合金しやすいNi、Ag、Cu、Feのいずれかが好適である。金属粒の周囲に形成される合金層は、Snと金属粒との金属間化合物である。例えば金属粒がNiであり、はんだがSn主成分の鉛フリーはんだであれば、金属粒の表面にはNiとSnの金属間化合物であるNi3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4等が形成され、金属粒がCu、はんだがSn主成分の鉛フリーはんだであれば、金属粒の表面にはCu3SnやCu6Sn5等の金属間化合物が形成される。
[0025]
これらの金属はいずれも融点が1000℃以上と高く、通常のはんだ付け温度では溶融しない。換言すれば、本発明で用いる金属粒を構成する金属(合金も含む)は、使用するはんだ合金の主成分と合金層(金属間化合物)を形成するとともに、溶融温度がはんだ合金の融点よりも少なくとも300℃以上高い金属の粒子である。」

(ウ)「発明の効果
[0026]
本発明のフォームはんだは、それを使って半導体素子と基板とをはんだ付けしたときに、半導体素子が基板に対して傾斜して接合されないため、はんだ量の不足による接合強度の低下がなく、また金属粒の周囲にはんだとの合金層が形成されているため金属粒とはんだ接合強度が向上するという優れたはんだ付け部が得られるものである。
[0027]
本発明の電子部品は、半導体素子と基板間のはんだ付け部にボイドが存在していなく、また半導体素子と基板との接合強度が強いため、外部から衝撃が加わっても容易に剥離しないという従来の電子部品にはない信頼性を有している。」

(エ)「[0031]
本発明のフォームはんだ10は、図1に示すように、金属粒1が板状となったはんだ2中に分散して存在している。金属粒1は、はんだ2と金属的に接合されており、金属粒1の周囲には合金層8が形成されている。また金属粒1の周囲には、空気やフラックスが存在していない。
[0032]
上記フォームはんだ10を半導体素子4と基板5間に置いて、加熱・溶融し、フォームはんだを溶融させて作られた電子部品12は、図2に示すように半導体素子4が基板5に対して平行に接合されており、はんだ2中に分散された金属粒1の周囲にはボイドが全く存在していない。
[0033]
本発明にかかるフォームはんだの製造方法は、混合母合金法を例にとって説明すれば次のとおりである。
先ず、実際にはんだ中に分散させる量よりも多い量の金属粒を熱分解可能な液状フラックスと混合して混合物にする。得られた混合物を溶融はんだ中に投入し、攪拌後、急冷して混合母合金にする。この混合母合金を所定量計量し、これを溶融はんだ中に投入して攪拌後、鋳型に鋳込み、急冷してビレットにする。次いで、このビレットを押出機で押し出して帯状材にし、得られた帯状材を圧延機で圧延してリボン材にする。その後、このリボン材を所定の形状に打ち抜いて板状はんだ中に金属粒が多数分散されたフォームはんだにする。
・・・
[0036]
上記したフラックスの松脂と活性剤は、たとえばSn99質量%、残りCu、Ni、Pを微量添加したSn-Cu-Ni-P系の鉛フリーはんだ(融点:約230℃)と金属粒を分散させるときの温度である285℃で分解またははんだ浴表面に浮上・分離してはんだ中には決して残らない。また上記した溶剤は沸点が230℃以下であるため、やはり同鉛フリーはんだの溶融温度で完全に揮散してはんだ中には残らない。・・・
[0042]
本発明のフォームはんだは、如何なる組成の合金でも良いが、近時のPb使用規制の関係から、鉛フリーはんだが適当である。鉛フリーはんだとは、Snを主成分とし、これにAg、Cu、Sb、Bi、In、Zn、Ni、Cr、Mo、Fe、Ge、Ga、P等を適宜添加したものである。Snは金属粒を侵食しやすいものであるため、Ni粒を使用する場合は、鉛フリーはんだ中にはNiを添加しておくとよい。
[0043]
つまり鉛フリーはんだ中にNiが含有されていると、高融点金属粒としてNi粒を使用する場合、溶融した鉛フリーはんだがNi粒と接触したときにNi粒が侵食されにくくなるからである。Ni含有鉛フリーはんだとしては、Sn-Cu-Ni-P系、Sn-Ag-Ni系、Sn-Cu-Ni系、Sn-Ag-Cu-Ni系、Sn-Zn-Ni系、Sn-Sb-Ni系、Sn-Bi-Ni系、Sn-In-Ni系、等がある。
[0044]
リボン材からは例えばプレス打ち抜きによって各種形状、例えば、ペレット、ワッシャーのようないわゆるフォームはんだに加工される。・・・」

(オ)「[実施例1]
[0045]
フォームはんだ:10×10×0.1(mm)
フォームはんだの製造方法:混合母合金法
金属粒:Ni(直径50μm、バラツキ10μm以内)
はんだ:Sn-0.7Cu-0.06Ni-0.005P
金属粒周囲の金属間化合物:Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4
はんだ付け方法:10×10×0.3(mm)の半導体素子を30×30×0.3(mm)の基板(ニッケルメッキした銅基板)にフォームはんだでダイボンディング接合を行った。すなわち、フォームはんだを半導体素子と基板間に挟み込み、酸素濃度が10ppmの窒素水素混合ガス雰囲気中で235℃以上に3分間、ピーク温度280℃、総リフロー時間15分間でリフローを行った。」

(カ)「請求の範囲
[1] 板状はんだ中に高融点金属粒が分散されたフォームはんだにおいて、前記金属粒が、はんだ合金の融点+300℃以上の融点を有し、粒径20〜300μmであり、該高融点金属粒の粒子径のバラツキが粒子径の40%以内であり、かつ高融点金属粒の周囲には、はんだの主成分と高融点金属粒との合金層が形成されていることを特徴とするフォームはんだ。
[2] 前記高融点金属粒は、Ni、Ag、Cu、Feおよびそれらの合金からなる群から選んだ1種または2種以上であり、はんだはSn主成分の鉛フリーはんだであって、高融点金属粒の周囲に形成される合金層は、Snと高融点金属粒との金属間化合物であることを特徴とする請求項1記載のフォームはんだ。」

(キ)「[図1]



イ 甲第1号証に記載された発明

(ア)上記ア(イ)、(エ)に摘記した甲1の[0023]〜[0024]、[0036]、[0042]〜[0043]の鉛フリーはんだに関する記載内容に照らして、上記ア(オ)に摘記した甲1の実施例1の「はんだ:Sn-0.7Cu-0.06Ni-0.005P」は、「Sn主成分の鉛フリーはんだ」であると認められる。

(イ)上記ア(イ)、(エ)に摘記した甲1の[0024]〜[0025]、[0043]の金属粒に関する記載内容に照らして、上記ア(オ)に摘記した甲1の実施例1の「金属粒:Ni」は、「はんだ合金の融点よりも少なくとも300℃以上高い」「溶融温度」を有する「高融点金属粒」であって「Ni粒」であると認められる。また、上記ア(オ)に摘記した甲1の実施例1の「金属粒:Ni(直径50μm、バラツキ10μm以内)」の「バラツキ」は、上記ア(イ)に摘記した甲1の[0022]の金属粒に関する記載内容に照らして、上記金属粒の粒径のバラツキを意味すると認められる。

(ウ)上記ア(イ)に摘記した、甲1の[0024]の「例えば金属粒がNiであり、はんだがSn主成分の鉛フリーはんだであれば、金属粒の表面にはNiとSnの金属間化合物であるNi3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4等が形成され」との記載及び[0025]の「本発明で用いる金属粒を構成する金属(合金も含む)は、使用するはんだ合金の主成分と合金層(金属間化合物)を形成する」との記載から、上記ア(オ)に摘記した甲1の実施例1の「金属粒周囲の金属間化合物:Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4」は、はんだの主成分であるSnとNi粒との金属間化合物(合金層)であると認められる。

(エ)上記(ア)〜(ウ)を踏まえ、更に上記ア(ア)〜(キ)の記載事項を総合勘案し、特に実施例1の「フォームはんだ」に着目すると、甲1には次の発明が記載されていると認められる。

「はんだ中に高融点金属粒が分散されたフォームはんだにおいて、
はんだは、Sn主成分の鉛フリーはんだである、Sn−0.7Cu−0.06Ni−0.005Pであり、
前記高融点金属粒が、はんだ合金の融点よりも少なくとも300℃以上高い溶融温度を有し、直径50μmであり、粒径のバラツキが10μm以内である、Ni粒であり、
高融点金属粒であるNi粒の周囲には、はんだの主成分であるSnと高融点金属粒であるNi粒との金属間化合物(合金層)であるNi3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4が形成されている、フォームはんだ。」
(以下、「甲1発明」という。)

ウ 甲第2号証(国際公開第03/21664号)の記載事項
甲2には以下の記載がある。

(ア)「技術分野
本発明は配線部材上に搭載した回路素子(チップ部品)を樹脂封止してなる半導体装置に関する。」(第1頁第4〜6行)

(イ)「発明の開示
本発明の目的は、基板上に回路素子としてのチップ部品を搭載し、搭載チップ部品を樹脂封止してなる半導体装置を外部配線基板に搭載する場合に1次実装はんだ材の流出やこれによる短絡、断線、チップ部品の位置ずれを防止できる半導体装置、該半導体装置を用いた構造体、またはこれらを用いた電子装置を提供することにある。
本発明の半導体装置は、チップ部品と配線部材とを固着したはんだ層が樹脂層で包囲され、はんだ層がマトリックス金属に金属粉末を分散させた複合材で構成されたことを特徴とする。」(第2頁第9〜17行)

(ウ)「(実施例2)
実施例1によって得た半導体装置11は配線基板14上に搭載され、図6に示した本実施例構造体15に適用された。・・・はんだ層5は、実施例1で説明したように、Sn−5wt%Sb合金からなるマトリックス金属5AにW粉末(粒径:1μm)5Bを分散させた複合体で構成され、W粉末5Bの添加量は50vol%に調整されている。いずれのチップ部品6、8、9も基板1、配線パターン4、樹脂層10によって完全に包囲され、これらのチップ部品を固着しているはんだ層5もチップ部品6、8、9、配線パターン4、樹脂層10によって完全に包囲されている。
このような構造体15においても、はんだ層5が他の固体物質によって周囲を完全に包囲されている部分にあって、マトリックス金属5Aに金属粉末5Bが分散された状態にあることが重要な点である。はんだ層5がこのような構成を有することにより、半導体装置11が外部配線接続層(Sn−3wt%Ag−0.5wt%Cuはんだ材)12を用いて2次実装(加熱温度:260?)される際、はんだ層5のマトリックス金属(Sn−5wt%Sb)5Aが溶融状態になってもW粉末5Bは溶融せず固相状態を維持できる。
実施例1において説明した利点ないし効果は、直接的には構造体15を得る2次実装の過程で享受できる。その詳細は既述してあるので重複を避けるため、要点を示すにとどめる。
(1)固相状態を維持する金属粉末5Bの存在によって、はんだ層5が再溶融してもその実質的体積膨張を小さくし、内圧の過大な上昇、剥離、溶融はんだ材の流出、短絡を抑制し、金属粉末5Bの目詰まり現象によって溶融はんだ材の流出、短絡が抑制する。
(2)固相状態を維持する金属粉末5Bの存在によって再溶融はんだ層5の実質的粘度を高め、外力印加に伴うチップ部品の移動を抑制し、浮きや位置ずれを抑制する。
(3)溶融はんだ材5の周辺材料との実質的接触面積を小さくし、併せて流動性を低めることにより、周辺材料物質の溶解とそれに伴う低融点化を抑制する。
・・・
表1は各種金属粉末添加のはんだ材を用いてチップ部品搭載した構造体の回路機能消失に基づく不良発生率を示す。ここで言う回路機能消失は、はんだ材5が再溶融・流出して短絡することによる。いずれの金属粉末5Bを添加した場合も、短絡による回路機能消失不良は0.013%以下であり、比較用構造体(表1)の3.45%より圧倒的に低い値を示している。また、金属粉末5Bの密度はSiの2.33g/cm3からPtの21.45g/cm3まで変わっているけれども、不良発生率との明確な相関(不良率の金属粉末密度依存性)は見られない。この点から、はんだ材5用の金属粉末5Bとして表2に掲げた全ての金属が適用可能である。上記金属粉末5Bの中で、コスト、粉末製造上の容易性、マトリックス金属5Aとの接合性の観点から、Cu、Fe、Ni、Sb、Zn、Ag、Ptが更に好ましい。


また、表3は各種代替粉末を適用した構造体の回路機能消失に基づく不良発生率を示す。いずれの粉末5Bを用いた場合でも、不良発生率は0.018%以下と優れている。代替粉末5Bは、2次実装段階においてマトリックス金属5Aの再溶融を生じても、はんだ材5が流出及び短絡しない観点から選択される。また、1次実装段階において、融点に達したマトリックス金属粉末5Aの溶融及び結合と同時に、フラックス剤5Cによる金属粉末5Bの表面クリーニング(特に表面酸化膜の除去)も進行し、瞬時にマトリックス金属5Aと金属粉末5Bの結合(金属粉末5Bの表面に溶融したマトリックス金属5Aがぬれる)が完結する点も考慮して選択される。また、本発明においては、金属粉末5Bは表2に掲げた合金粉末に限られない。主成分としてのAg又は/及びCuとともにSn,Au,Fe,Ge,Mn,Ni,Sb,Si,Zn,Pd,Pt,P,Pb,Alの群から選択された1種類以上の金属を含む合金材であっても適用可能である。


本発明において、はんだ材5に添加できる金属粉末5Bは、表2に掲げた単体金属粉末に限られない。Al、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、Mn、Mo、Ni、Sb、Si、W、Zn、Ti、Pd、Ta、Pt、Ag、C、Pの群から選択された2種類以上の物質からなる合金材であっても、それが粉末である限り適用可能である。例えば、Fe−50wt%Ni、Fe−42wt%Ni、Fe−29wt%Ni−17wt%Co、Fe−30wt%Ni−13wt%Co−0.3wt%Si−0.8wt%Mn−0.02wt%C−0.3wt%Be、Fe−0.3wt%C−0.5wt%Mn−0.2wt%Si−0.87wt%Cr−0.2wt%Mo、Fe−0.53wt%C−0.3wt%Mn−1.0wt%Cr−0.17wt%V、Fe−18wt%Ni−8wt%Cr、Cu−67wt%Al、Ag−28wt%Cu、Al−1.5wt%Be、Al−7.6wt%Ca、Al−10wt%Ce、Al−10wt%Co、Al−10wt%Cr、Al−1.8wt%Fe、Al−53wt%Ge、Al−15wt%Mn、Al−3wt%Mo、Al−5.7wt%Ni、Al−22wt%Pd、Al−30wt%Sb、Al−11.7wt%Si、Al−3wt%Te、Al−2.5wt%Ti、Al−3.3wt%V、Al−3wt%W、Al−5wt%Zr、Fe−3.8wt%B、Ni−4wt%B、Fe−1.2wt%C、Cu−3wt%Co、Ge−27wt%Co、Co−10wt%Mn、Co−8wt%Mo、Ni−30wt%Co、Zn−5wt%Co、Fe−50wt%Cu、Cu−40wt%Ge、Cu−50wt%Ni、Cu−31wt%Sb、Cu−15wt%Si、Cu−30wt%Sn、Cu−8wt%Ti、Cu−31wt%Zn、Cu−11wt%Zr、Fe−35wt%Ge、Fe−11wt%Mn、Fe−15wt%Mo、Fe−6wt%P、Fe−20wt%Sb、Fe−19wt%Si、Fe−18wt%Ta、Fe−8wt%Ti、Ni−25wt%Ga、Mn−3wt%Mo、Ni−10wt%Mn、Ni−25wt%Mo、Si−13wt%Mo、Mo−5wt%Ti、Mo−10wt%W、Ni−11wt%P、Ni−17wt%Pd、Ni−36wt%Sb、Ni−11.5wt%Si、Ni−32.5wt%Sn、Ni−22wt%Zn、Sb−9.8wt%Pdの如き合金材は、金属粉末5B用として特に好ましい材料である。」(第25頁第2行〜第31頁第19行)

(エ)「請求の範囲
1.チップ部品と配線部材とを固着したはんだ層が樹脂層で包囲され、前記はんだ層がマトリックス金属に金属粉末を分散させた複合体で構成されたことを特徴とする半導体装置。

2.チップ部品と配線部材とを固着したはんだ層が樹脂層で封止され、前記はんだ層がマトリックス金属に前記マトリクッス金属とは異なる金属粉末を分散させた複合体で構成されたことを特徴とする半導体装置。

3.チップ部品と配線部材とを固着したはんだ層が樹脂層で封止され、前記はんだ層がマトリックス金属に前記マトリクッス金属の融点よりも高い融点を有する金属粉末を分散させた複合体で構成されたことを特徴とする半導体装置。

4.請求項1〜3のいずれかにおいて、前記マトリックス金属がSnを主成分とする金属、又はSn、Sb、Zn、Cu、Ni、Au、Ag、P、Bi、In、Mn、Mg、Si、Ge、Ti、Zr、V、Hf、Pdの群から選択された2種以上からなる合金であり、
前記金属粉末がAl、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、Mn、Mo、Ni、Sb、Si、W、Zn、Ti、Pd、Ta、Pt、Agの群から選択された1種の金属、又はAl、Co、Cr、Cu、Fe、Ge、Mn、Mo、Ni、Sb、Si、W、Zn、Ti、Pd、Ta、Pt、Ag、C、Pの群から選択された少なくとも1種を含む合金からなることを特徴とする半導体装置。」(第76頁第1〜23行)

(オ)「



エ 甲第3号証(特許第6443568号公報)の記載事項
甲3には以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
2つの接合対象物を接合する接合材であって、
Snを主成分とする第1層と、
Snより高い融点を有する金属を主成分とする第2層と、
を備え、
前記第1層と前記第2層とは積層され、
前記第1層におけるSnの量は、Snと前記金属との間で金属間化合物を形成するSnの化学量論量よりも多く、
前記第2層の前記金属は、粉末であり、
前記第2層の前記金属は、Niの含有量が5〜30重量%であるCuNi又はCu−2Ni−4Coであり、
前記第2層は、2つの前記第1層の間に配置されている、接合材。
【請求項2】
2つの接合対象物を接合する接合材であって、
Snを主成分とする第1層と、
Snより高い融点を有する金属を主成分とする第2層と、
を備え、
前記第1層と前記第2層とは積層され、
前記第1層におけるSnの量は、Snと前記金属との間で金属間化合物を形成するSnの化学量論量よりも多く、
前記第2層は、フラックスを含み、
前記第2層の前記金属は、Niの含有量が5〜30重量%であるCuNi又はCu−2Ni−4Coであり、
前記第2層は、2つの前記第1層の間に配置されている、接合材。
【請求項3】
前記金属間化合物は、(CuNi)6Sn5であり、
(CuNi)6Sn5を形成するSnとCuNiとの割合として、Sn/CuNiの重量の比率は1.6以上である、請求項1又は2に記載の接合材。」

(イ)「【0038】
[接合方法]
本発明の実施の形態の接合材10を用いた接合方法について説明する。
【0039】
図2A〜図2Cは、本発明に係る実施の形態の接合材10を用いた接合方法の各工程を示す。
【0040】
図2Aに示すように、対向する2つの接合対象物14a、14bとの間に接合材10を配置する。接合材10は、2つの接合対象物14a、14bの間に挟み込まれる。なお、実施の形態において、接合対象物14a、14bにおいて、接合材10と接触する面は、Cuを主成分とする金属で形成されている。
【0041】
図2Bに示すように、接合対象物14aから接合対象物14bへ向かう方向30に接合材10を加圧しながら熱処理を行う。具体的には、対向する2つの接合対象物14a、14b間の距離が小さくなるように、加圧治具によって接合対象物14aの上面を押圧する方向30へ加圧する。また、Sn合金の融点、例えば純Snであれば231℃以上であって、且つCuの融点、即ち1084℃より低い温度で接合材10に対して熱処理を行う。
【0042】
この熱処理によって、第1層11のSnが溶融する。溶融したSnが、第2層12のCuNi合金と接触することによって化学反応が起こり、250℃以上の融点の金属間化合物15である(CuNi)6Sn5が形成される。金属間化合物15の形成に伴い、体積が減少することによって金属間化合物15中に隙間が形成される。この隙間に溶融したSnが次々に流入するため、ボイドの発生を抑制することができる。これは、Snの量がCuとの間で(CuNi)6Sn5を形成する化学量論量よりも多いためである。」

(ウ)「【図2A】

【図2B】



オ 甲第4号証(特開2011−54892号公報)の記載事項
甲4には以下の記載がある。

(ア)「【請求項1】
銅粉末及び/又はアルミニウム粉末、金属ナノ粒子、及びバインダーからなる導電性ペーストを焼成した後、当該焼結物にSn-Cu-Ni系鉛フリーはんだを用いてはんだ付けを行い、当該はんだ接合部に金属間化合物を形成させることを特徴とするはんだ接合。」

(イ)「【0007】
本発明者は、ナノレベルサイズの金属超微粒子がその金属の融点よりも格段に低い温度で焼結するという特性に着目して鋭意検討した結果、ナノサイズの金属粒子と銅粉末及び/又はアルミニウム粉末を組合せて配合することにより、通電性に優れた導電性ペーストが得られ、当該導電性ペーストを用いて銅粉末及び/又はアルミニウム粉末を焼成して焼結物を形成した後、当該焼結物にSn-Cu-Ni系組成の鉛フリーのはんだを用いてはんだ付けを行うことにより、銅粉末及び/又はアルミニウム粉末の焼結物とはんだ層間に強固な金属間化合物を形成させることが可能となり、高い電気伝導性を有し、接合強度及び耐熱性を向上させたはんだ接合及びはんだ接合物、はんだ継手の提供を可能とした。」

(ウ)「【0022】
上記の如く本発明の導電性ペーストを用いて銅焼結物を形成した後、当該銅焼結物にSn-Cu-Ni系鉛フリーはんだを用いてはんだ付けを行うと、はんだ接合部に形成する金属間化合物の組成は、(Cu,Ni)6Sn5組成であるため、強固な金属間化合物が形成される。
従って、本発明の導電性ペーストを用いて銅焼結物を形成した後、当該銅焼結物にSn-Cu-Ni系鉛フリーはんだを用いてはんだ付けを行なった場合、強固な金属間化合物が形成されるため、高い電気伝導性を有した銅焼結物に接合強度及び耐熱性を向上させたはんだ接合が可能となり、高い電気伝導性を有し、しかも接合強度及び耐熱性に優れたはんだ接合物、はんだ継手の提供が可能である。
また、はんだ接合部に形成した金属間化合物にエージング処理等を行いうことによって金属間化合物層を更に成長させて、より強固な接合強度を保持することも可能である。」

(2)本件発明1〜2と甲1発明との対比と判断

ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。

(ア)甲1発明における「はんだ」中に「高融点金属粒」が分散された「フォームはんだ」は、本件発明1における「はんだ」及び「金属粒子」を含む「プリフォームはんだ」に相当する。

(イ)本件明細書の【0021】には、「このうち、Sn−Cu−Ni系及びSn−Ni系鉛フリーはんだ合金が好ましい。また、このような鉛フリーはんだ合金にNi、Co、Ge、Ga、Cr、P、Si、Ti、V、Mn、Fe、Zr、Nb、Mo、Pd、Te、Pt、Au等が適宜添加されたものであってもよい。」と記載されており、当該記載からして、甲1発明における「Sn主成分の鉛フリーはんだである、Sn−0. 7Cu−0.06Ni−0.005P」は、本件発明1における「Snを主成分とする鉛フリーはんだ」であって、「Sn−Cu−Ni系鉛フリーはんだ合金」に相当する。

(ウ)甲1発明における「はんだ合金の融点よりも少なくとも300℃以上高い溶融温度を有し、直径50μmであり、粒径のバラツキが10μm以内である」「高融点金属粒」は、本件発明1における「該鉛フリーはんだよりも融点の高い金属粒子」に相当する。

(エ)本件発明1において、「前記金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が形成されている」ことと、甲1発明において、「高融点金属粒であるNi粒の周囲には、はんだの主成分であるSnと高融点金属粒であるNi粒との金属間化合物(合金層)であるNi3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4が形成されている」こととは、いずれも、「前記金属粒子の表面に金属間化合物が形成されている」限りにおいて共通する。

(オ)そうすると、本件発明1と甲1発明とは、次の点で一致する。

[一致点]
「Snを主成分とする鉛フリーはんだ、及び、該鉛フリーはんだよりも融点の高い金属粒子を含むプリフォームはんだであって、
前記鉛フリーはんだはSn−Cu−Ni系鉛フリーはんだ合金であり、
前記金属粒子の表面に金属間化合物が形成されている、プリフォームはんだ。」の点。

(カ)一方で、本件発明1と甲1発明とは、次の点で相違する。

[相違点1]
金属粒子の材質について、本件発明1では、「Ni含量が10〜90質量%であるCu−Ni合金」であるのに対し、甲1発明では、「Ni」である点。

[相違点2]
金属粒子の表面に形成されている金属間化合物が、本件発明1では、「(Cu、Ni)6Sn5」であるのに対し、甲1発明では、「Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4」である点。

(キ)事案に鑑み、まず上記[相違点2]について検討する。

a 上記[相違点2]が実質的な相違点であるか否かについて検討する。

(a)本件発明1では,金属粒子の表面に形成されている金属間化合物が、「(Cu、Ni)6Sn5」であるところ、上記「(Cu、Ni)6Sn5」が、どのような化合物であるかについて技術常識を参酌しつつ以下検討すると、例えば、特表2010-512250号公報には、以下の記載がある。

「【0056】
加速衝撃性能は半田接合部の形状によって大きく左右される。前記結果において加速衝撃性能に最も優れた実施例3、4と比較例1、4の微細構造を図16に示した。まず、半田接合部の形状を考察すると、実施例に係る合金の場合、比較例の合金と比較して銅(Cu)の含量が約2倍程度多いため、リフロー工程上でCu6Sn5組成の金属間化合物の形成後に銅(Cu)とニッケル(Ni)の内部拡散によって(Cu、Ni)6Sn5組成の金属間化合物の形成速度が増加する。したがって、銅(Cu)とニッケル(Ni)の置換時間が長くなり、(Cu、Ni)6Sn5金属間化合物層とバルク半田間の熱膨張係数の差によってバルク半田に圧縮応力が作用し、金属間化合物の形状が針状構造を形成する。」

(b)上記(a)の記載を含め、技術常識からすると、本件発明1の「(Cu、Ni)6Sn5」は、Cu6Sn5におけるCuの一部をNiで置換したものに相当する金属間化合物であると解されるところ、本件発明1の「(Cu、Ni)6Sn5」にはCuが含まれているのに対して、甲1発明の「Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4」にはCuが含まれていない点で、少なくとも、本件発明1の「(Cu、Ni)6Sn5」と、甲1発明の「Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4」とは異なる金属間化合物であり、上記[相違点2]は、実質的な相違点である。

(c)よって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1発明であるとはいえない。

b 次に、上記[相違点2]の容易想到性について検討する。

(a)上記金属間化合物について、上記(1)ア(イ)に摘記したとおり、甲1には、「金属粒の周囲に形成される合金層は、Snと金属粒との金属間化合物である。例えば金属粒がNiであり、はんだがSn主成分の鉛フリーはんだであれば、金属粒の表面にはNiとSnの金属間化合物であるNi3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4等が形成され、金属粒がCu、はんだがSn主成分の鉛フリーはんだであれば、金属粒の表面にはCu3SnやCu6Sn5等の金属間化合物が形成される。」と記載されているものの([0024])、甲1の当該箇所やその他の箇所を見ても、金属粒の表面に「(Cu、Ni)6Sn5」を形成することは記載も示唆もされておらず、甲1発明における「Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4」を「(Cu、Ni)6Sn5」に替える動機付けがあるとはいえない。
また、仮に、甲1発明の金属粒の材質を「Ni」から、本件発明1の「Ni含量が10〜90質量%であるCu−Ni合金」に替えることができれば、当該代替により、必然的に「(Cu、Ni)6Sn5」が形成される可能性もあることについても更に検討するに、甲1の上記(1)アの摘記箇所やその他の箇所を見ても、金属粒として、Cu−Ni合金を用いることについて記載も示唆もされておらず、加えて、Ni含量を10〜90質量%に調節することについて記載も示唆もされておらず、甲1発明において、金属粒の材質を「Ni」から上記Cu−Ni合金に代替する動機付けがあるとはいえないので、上記「(Cu、Ni)6Sn5」の必然的な形成も見込めない。

(b)更に、本件発明1が、「プリフォームはんだ中の金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が形成されていることで、(Cu、Ni)6Sn5が有する優れた熱伝導性により、はんだ接合部の熱伝導性も優れる」(【0019】、【0038】〜【0047】に記載された実施例2)との効果を奏するものであるのに対して、甲1発明は、「金属粒の周囲にはんだとの合金層が形成されているため金属粒とはんだ接合強度が向上する」(上記(1)ア(ウ)に摘記した甲1の[0026]を参照。)との効果を奏するといえるものの、はんだ接合部の熱伝導性については何ら検討されておらず、本件発明1の上記効果は、甲1発明から予測可能な範囲のものとはいえない。

(c)そして、以下(c−1)〜(c−3)のとおり、甲2〜4のいずれの甲号証を参照しても、甲1発明における「Ni3Sn、Ni3Sn2、Ni3Sn4」を「(Cu、Ni)6Sn5」に替えることを動機付ける記載又は示唆を見出すことができず、また、本件発明1の上記効果は甲1発明及び甲2〜4に記載された事項から予測可能な範囲のものとはいえない。

(c−1)甲2について
上記(1)ウ(ウ)に摘記したとおり、甲2には、はんだ材5に添加できる金属粉末5Bとして、「Cu−50wt%Ni」等の各種の合金材が例示されているものの(第30頁第10行〜31頁第19行)、甲1発明において、甲2の上記多数例示された各種の合金材の中から、「Cu−50wt%Ni」を選択して用いる動機が見あたらず、甲1発明において、甲2に記載された事項を参酌しても、上記(a)で述べたような金属粒の材質の代替による「(Cu、Ni)6Sn5」の必然的な形成も見込めない。
また、甲2の上記(1)ウの摘記箇所や、その他の箇所を見ても、本件発明1の如く、プリフォームはんだ中の金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が形成されていること及びそれにより奏される「はんだ接合部の熱伝導性が優れたものになる」という上記(b)で述べた効果は、記載も示唆もされていない。

(c−2)甲3について
上記(1)エ(イ)〜(ウ)に摘記したとおり、甲3には、図2Bに示すように、接合対象物14aから接合対象物14bへ向かう方向30に接合材10を加圧しながら熱処理を行うことで、第1層11中のSnが溶融して、第2層12のCuNi合金と接触することによって化学反応が起こり、金属間化合物である(CuNi)6Sn5が形成される旨が記載されているものの(【0041】〜【0042】)、上記(CuNi)6Sn5の形成は、上記接合対象物の間に上記接合材を配置して、上記熱処理等を行い接合する段階でのものであって、本件発明1の如く、部品間の接合を行う際に、予め「プリフォームはんだ中の金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が存在すること」は甲3には記載も示唆もされていない。
また、上記(1)エ(イ)に摘記したとおり、甲3には、上記熱処理等を行い接合する段階において、金属間化合物15の形成に伴い、体積が減少することによって金属間化合物15中に隙間が形成され、この隙間に溶融したSnが次々に流入するため、ボイドの発生を抑制することができる旨の効果が記載されているものの(【0042】)、甲3に記載されたこの効果は、本件発明1の上記(b)で述べた効果とは異なる効果であって、甲3のその他の箇所を見ても、本件発明1の如く、部品間の接合を行う際に予めプリフォームはんだ中の金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が存在することにより奏される上記(b)で述べた効果については記載も示唆もされていない。

(c−3)甲4について
上記(1)オ(ウ)に摘記したとおり、甲4には、導電性ペーストを用いて銅焼結物を形成した後、当該銅焼結物にSn-Cu-Ni系鉛フリーはんだを用いてはんだ付けを行うと、はんだ接合部に(Cu,Ni)6Sn5の組成の金属間化合物が形成されることが記載されているものの(【0022】)、上記(Cu,Ni)6Sn5の形成ははんだ付けを行う段階でのものであり、本件発明1の如く、部品間の接合を行う際に、予め「プリフォームはんだ中の金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が存在すること」は甲4には記載も示唆もされていない。
また、上記(1)オ(ウ)に摘記したとおり、甲4には、上記はんだ付けを行なった場合に、強固な金属間化合物である(Cu,Ni)6Sn5が形成されるため、高い電気伝導性を有した銅焼結物に接合強度及び耐熱性を向上させたはんだ接合が可能となり、高い電気伝導性を有し、しかも接合強度及び耐熱性に優れたはんだ接合物、はんだ継手の提供が可能である旨の効果が記載されているものの(【0022】)、甲4に記載されたこの効果は本件発明1の上記(b)で述べた効果とは異なる効果であって、甲4のその他の箇所を見ても、本件発明1の如く、部品間の接合を行う際に予めプリフォームはんだ中の金属粒子の表面に(Cu、Ni)6Sn5が存在することにより奏される上記(b)で述べた効果については記載も示唆もされていない。

(ク)上記[相違点2]について上記(キ)のとおりであるから、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明と甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明2について

(ア)本件発明1を引用することによって、本件発明1の特定事項の全てを備える本件発明2も、少なくとも上記[相違点2]で、甲1発明と相違している。

(イ)上記[相違点2]の事項に関しては、上記ア(キ)のとおりであり、本件発明2は、甲1発明と、甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)まとめ
以上のとおり、本件発明1〜2は、甲1に記載された発明と、甲2〜4に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないから、同発明に係る特許が、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるとはいえない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-01-07 
出願番号 P2020-152002
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B23K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 粟野 正明
特許庁審判官 祢屋 健太郎
市川 篤
登録日 2021-03-23 
登録番号 6856963
権利者 株式会社日本スペリア社
発明の名称 プリフォームはんだ及び該プリフォームはんだを用いて形成されたはんだ接合体  
代理人 柳野 隆生  
代理人 中川 正人  
代理人 柳野 嘉秀  
代理人 関口 久由  
代理人 森岡 則夫  

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