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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 B29C |
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管理番号 | 1384229 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-10-18 |
確定日 | 2021-12-23 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6860778号発明「プリフォームカバー,複合プリフォーム,容器の製造方法」の特許異議申立事件について,次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6860778号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 主な手続の経緯等 特許第6860778号(請求項の数は6。以下「本件特許」という。)は,平成28年10月24日にされた特許出願に係るものであって,令和3年3月31日にその特許権が設定登録され,同年4月21日に特許掲載公報が発行されたものである。 その後,令和3年10月18日に特許異議申立人小泉紗矢香(以下,単に「申立人」という。)より本件特許の請求項1〜6に係る発明についての特許に対して特許異議の申立てがされた。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜6に係る発明は,願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下,請求項の番号に応じて各発明を「本件発明1」,「本件発明2」…といい,これらを併せて「本件発明」という場合がある。)。 「【請求項1】 EVOH樹脂からなるEVOH層を備えるプリフォームカバーであって, 前記EVOH樹脂は,温度180℃,歪み速度10s−1で測定した一軸伸長粘度の最大値が3.0×104(Pa・s)以上であり, 前記EVOH樹脂は,温度210℃,荷重2.16kgの条件で測定されたMFRが6g/10min以下である,プリフォームカバー。 【請求項2】 前記EVOH樹脂は,エチレン含有量が32mol%以下である,請求項1に記載のプリフォームカバー。 【請求項3】 前記EVOH層は,一対のポリオレフィン層によって挟まれている,請求項1又は請求項2に記載のプリフォームカバー。 【請求項4】 前記EVOH層は,厚さが0.3〜1mmである,請求項1〜請求項3の何れか1つに記載のプリフォームカバー。 【請求項5】 プリフォームと,これに重ねられたプリフォームカバーを備える複合プリフォームであって, 前記プリフォームカバーは,請求項1〜請求項4の何れか1つに記載のプリフォームカバーである,複合プリフォーム。 【請求項6】 請求項5に記載の複合プリフォームを二軸延伸ブロー成形する工程を備える容器の製造方法。」 第3 申立人の主張に係る申立理由の概要 申立人の主張は,本件発明1〜6は,特許法29条2項の規定により特許を受けることができない発明であるから,本件発明1〜6に係る特許は同113条2号に該当し取り消されるべきであるというものであって,概略次のとおりである。 1 本件発明1〜6は,甲1に記載された発明を主たる引用発明(以下「甲1発明」という。)としたとき,その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下,「当業者」という。)がこの甲1発明に基いて容易に発明をすることができたものである(以下,決定の便宜上,「申立理由1」という。)。 2 証拠方法として書証を申出,以下の文書(甲1〜9)を提出する。 ・甲1: 特開2016−124569号公報 ・甲2: 特開2014−12395号公報 ・甲3: 特開2014−12394号公報 ・甲4: 特開2013−18547号公報 ・甲5: 特開2012−46198号公報 ・甲6: 特開2011−126544号公報 ・甲7: 特開2009−299017号公報 ・甲8: 特開2004−249474号公報 ・甲9: 特開昭63−194947号公報 第4 当合議体の判断 当合議体は,以下述べるように,上記申立理由1には理由がないと判断する。 1 引用発明 (1) 甲1の記載 甲1には,次の記載がある。(下線は本決定による。以下同じ。) ・「【請求項1】 複合容器において, プラスチック材料製の容器本体と, 前記容器本体の外面にプラスチック製部材とを備え, 前記容器本体および前記プラスチック製部材は,ブロー成形により一体として膨張されており, 少なくとも前記プラスチック製部材の表面に,アンカーコート層が形成されていることを特徴とする複合容器。」 ・「【0035】 次にプラスチック製部材40について説明する。プラスチック製部材40(40a)は後述するようにプリフォーム10aの外側を取り囲むように設けられ,プリフォーム10aの外側に密着された後,プリフォーム10aとともに2軸延伸ブロー成形されることにより得られたものである。」 ・「【0040】 このようなプラスチック製部材40aとしては,プリフォーム10aに対して収縮する作用をもたないものであってもよく,収縮する作用をもつものであってもよい。 【0041】 プラスチック製部材40aがプリフォーム10aに対して収縮する作用をもつ場合,プラスチック製部材(収縮チューブ)40aは,プリフォーム10aの外側に設けられ,このプリフォーム10aと一体となって加熱され,2軸延伸ブロー成形されることにより得られたものである。このようなプラスチック製部材(収縮チューブ)40aとしては,プリフォーム10aに対して収縮する作用をもつものであればよい。なお,プラスチック製部材(収縮チューブ)40aは,それ自体が収縮性ないし弾力性を持ち,外的な作用を加えることなく収縮可能なものであってもよい。あるいは,プラスチック製部材(収縮チューブ)40aは,外的な作用(例えば熱)が加えられた際,プリフォーム10aに対して収縮(例えば熱収縮)するものであってもよい。」 ・「【0068】 プラスチック製部材40aは,多層からなるものであってもよく,例えば,最内面と最外面との層を構成する主成分が同じであっても,異なっていてもよい。具体的な層構成としては,最内面から,低密度PE/接着層/EVOH/接着層/低密度PEのもの,PP/接着層/EVOH/接着層/PPのものが挙げられる。接着層を構成する接着剤としては,例えば,ポリ酢酸ビニル系接着剤,ポリアクリル酸エステル系接着剤,シアノアクリレート系接着剤,エチレン共重合体接着剤,セルロース系接着剤,ポリエステル系接着剤,ポリアミド系接着剤,ポリイミド系接着剤,アミノ樹脂系接着剤,フェノール樹脂系接着剤,エポキシ系接着剤,ポリウレタン系接着剤,ゴム系接着剤,シリコーン系接着剤などが挙げられる。 【0069】 プラスチック製部材40aは,例えば,ポリエチレン,ポリプロピレン,ポリエチレンテレフタレート,ポリエチレンナフタレート,ポリ−4−メチルペンテン−1,ポリスチレン,AS樹脂,ABS樹旨,ポリ塩化ビニル,ポリ塩化ビニリデン,ポリ酢酸ビニル,ポリビニルアルコール,ポリビニルアセタール,ポリビニルブチラール,フタル酸ジアリル樹脂,フッ素系樹脂,ポリメタクリル酸メチル,ポリアクリル酸,ポリアクリル酸メチル,ポリアクリロニトリル,ポリアクリルアミド,ポリブタジエン,ポリブテン−1,ポリイソプレン,ポリクロロプレン,エチレンプロピレンゴム,ブチルゴム,ニトリルゴム,アクリルゴム,シリコーンゴム,フッ素ゴム,ナイロン6,ナイロン6,6,ナイロンMXD6,芳香族ポリアミド,ポリカーボネート,ポリテレフタル酸エチレン,ポリテレフタル酸ブチレン,ポリナフタレン酸エチレン,Uポリマー,液晶ポリマー,変性ポリフェニレンエーテル,ポリエーテルケトン,ポリエーテルエーテルケトン,不飽和ポリエステル,アルキド樹脂,ポリイミド,ポリスルホン,ポリフェニレンスルフィド,ポリエーテルスルホン,シリコーン樹脂,ポリウレタン,フェノール樹脂,尿素樹脂,ポリエチレンオキシド,ポリプロピレンオキシド,ポリアセタール,エポキシ樹脂などを含んでなる樹脂材料を用いて作製することができる。このうちポリエチレン(PE),ポリプロピレン(PP),ポリエチレンテレフタレート(PET),ポリエチレンナフタレート(PEN)等の熱可塑性非弾性樹脂を含ませることが好ましい。また,樹脂材料は,上記した樹脂を構成する2以上のモノマー単位が重合した共重合体を含んでいてもよい。さらに,樹脂材料は上記した樹脂を2種以上を含んでなるものであってよい。また,熱可塑性樹脂の溶融物に不活性ガス(窒素ガス,アルゴンガス)を混ぜることで,0.5〜100μmの発泡セル径を持つ発泡部材を使用し,この発泡プリフォームを成形することによって,遮光性を高めることができる。」 ・「【0072】 またプラスチック製部材40aは,酸素バリア性又は水蒸気バリア性等のガスバリア性を有する材料を含んでいてもよい。例えば,プラスチック製部材40(40a)が多層からなる場合,プラスチック製部材40(40a)は,酸素バリア性又は水蒸気バリア性等のガスバリア性を有する材料からなる層(ガスバリア層)を備えていてもよい。この場合,プリフォーム10aとして多層プリフォームやブレンド材料を含むプリフォーム等を用いることなく,複合容器10Aのガスバリア性を高め,容器内への酸素の侵入を防ぎ,内容液が劣化することを防止し,また,容器内から外部への水蒸気の蒸散を防ぎ,内容量が減少することを防止することができる。例えば,容器本体10のうち,肩部12,首部13,胴部20および底部30の全域にプラスチック製部材40を設け,この部分のガスバリア性を高めてもよい。このような材料としては,PE(ポリエチレン),PP(ポリプロピレン),MXD−6(ナイロン),EVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)またはこれらの材料に脂肪酸塩などの酸素吸収材を混ぜることも考えられる。」 ・「【0082】 次に,プラスチック製部材40aの製造方法について説明する。 【0083】 一実施形態において,プラスチック製部材40aは,樹脂材料を含んでなる樹脂シートを成形することにより製造することができる。成形方法としては,例えば,深絞り成形,または樹脂シートをチューブ状に成形し,その端部を融着,または接着する方法などが挙げられる。また,多層からなるプラスチック製部材40aは,2以上の樹脂シートを,上記した接着剤を介して積層させた積層樹脂シートを成形することにより得ることができる。 【0084】 上記樹脂シートは,市販品を用いてもよいし,従来公知の方法により製造することができる。本発明においては,押出成形により製造することが好ましく,押出成形が,Tダイ法またはインフレーション法により行われることが好ましい。 【0085】 例えば,以下の方法で,押出成形により樹脂シートを成形することができる。上記した樹脂材料を乾燥させた後,熱可塑性樹脂の融点以上の温度(Tm)〜Tm+70℃の温度に加熱された溶融押出機に供給して,樹脂材料を加熱溶融し,例えばTダイ等のダイよりシート状に押し出し,押し出されたシート状物を回転している冷却ドラム等で急冷固化することにより樹脂シートを成形することができる。溶融押出機としては,一軸押出機,二軸押出機,ベント押出機,タンデム押出機等を目的に応じて使用することができる。 【0086】 加熱温度は,インフレーション法では,好ましくは170〜230℃,より好ましくは180〜220℃,Tダイ法では好ましくは180〜300℃,より好ましくは210〜270℃である。 上記の樹脂材料は,例えば,0.3〜30g/10分,インフレーション法では好ましくは0.3〜8g/10分,0.3〜6g/10分,Tダイ法では好ましくは0.3〜20g/10分,より好ましくは4〜15g/10分のメルトフローレート(MFR)を有するものである。メルトフローレートとは,JIS K7210−1995に規定された方法において,温度190℃,荷重21.18Nの条件で,A法により測定される値である。樹脂材料のMFRが0.3g/10分以上であれば,成形加工時の押出負荷を低減することができる。また,樹脂材料のMFRが30g/10分以下であれば,該樹脂材料からなる樹脂シートの機械的強度を高めることができる。」 ・「【図6】 ![]() 」 ・「【図7】 ![]() 」 (2) 甲1に記載された発明 上記(1)での摘記,特に【請求項1】,【0068】,【0072】等の記載から,甲1には次のとおりの発明(以下「甲1発明」という。)が記載されていると認める。 「プリフォームの外側を取り囲むように設けられるプラスチック製部材であって,ガスバリア性を有する材料からなる層(ガスバリア層)としてEVOH(エチレンビニルアルコール共重合体)層を備えた,具体的な層構成として,低密度PE(ポリエチレン)/接着層/EVOH/接着層/低密度PE,あるいは,PP(ポリプロピレン)/接着層/EVOH/接着層/PPからなるプラスチック製部材。」 2 申立理由1について (1) 本件発明1について(甲1発明との対比・判断) ア 本件発明1と甲1発明とを対比すると,甲1発明の「プラスチック製部材」は,プリフォームの外側を取り囲むように設けられるものであるから,本件発明1の「プリフォームカバー」に相当する。 そうすると,本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は,それぞれ次のとおりであると認められる。 ・ 一致点 「EVOH樹脂からなるEVOH層を備えるプリフォームカバー」である点。 ・ 相違点1 EVOH層を構成するEVOH樹脂について,本件発明1は「温度180℃,歪み速度10s−1で測定した一軸伸長粘度の最大値が3.0×104(Pa・s)以上」であるとともに「温度210℃,荷重2.16kgの条件で測定されたMFRが6g/10min以下」であるのに対し,甲1発明はそのような特定を有しない点。 イ 上記相違点1について,検討する。 本件明細書には,本件発明1の実施例において,EVOH樹脂として「日本合成化学社製ソアノールBX6804B」を用いる旨の記載があるところ(【0031】,【表1】。また,当該樹脂の物性について,温度180℃,歪み速度10s−1で測定した一軸伸長粘度の最大値が6.9×104(Pa・s)であること,温度210℃,荷重2.16kgの条件で測定されたMFRが3.8g/10minであることが併せて記載されている。以下,このEVOH樹脂を単に「BX6804B」という場合がある。),甲2〜6には,このEVOH樹脂と同じ樹脂が記載されている(例えば,甲2の【0085】には,「EVOHペレット(「BX6804B」,商品名,日本合成化学工業社製)」との記載がうかがえる。)。すなわち,「BX6804B」という商品名のEVOH樹脂は本件特許の出願前にすでに知られており,当該EVOH樹脂は本件発明1の条件を満たす蓋然性が高いといえる。 しかし,EVOH樹脂として「BX6804B」が当業者に周知のものであったとしても,数多あるEVOH樹脂の中から,あえて「BX6804B」を選択し,これを甲1発明のEVOH樹脂として採用しようとする動機付けはないといえる。また,「BX6804B」がプラスチック製部材(プリフォームカバー)の材料として使用されていたとする証拠もみあたらない。さらに,甲1発明のEVOH樹脂について,「温度180℃,歪み速度10s−1で測定した一軸伸長粘度の最大値が3.0×104(Pa・s)以上」であるとともに「温度210℃,荷重2.16kgの条件で測定されたMFRが6g/10min以下」という物性とすることが単なる設計事項であるということもできない。 仮に,甲1発明のEVOH樹脂として「BX6804B」を採用する動機付けがあるといえたとしても,本件発明1は,EVOH樹脂が相違点1に係る物性,特に,一軸伸長粘度の最大値3.0×104(Pa・s)以上との物性を有することにより,二軸延伸ブロー成形が行われた場合にEVOH層を均一に延伸させることができるといった効果を奏するものであるといえるところ(本件明細書【0011】,【0032】〜【0034】),このような効果は,甲1発明及び甲2〜6の記載からは予測できない顕著なものであるといえる。 ウ 以上のとおりであるから,本件発明1は,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。 (2) 本件発明2〜6について 請求項2〜6は請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものであるから,本件発明2〜6については,本件発明1についての上記判断と同様に,甲1発明を主たる引用発明としたとき,甲1発明から容易に発明できたものということはできない。 (3) 小括 以上のとおりであるから,申立人主張の申立理由1には理由がない。 第5 むすび したがって,申立人の主張する申立理由によっては,請求項1〜6に係る特許を取り消すことはできない。また,他に当該特許が特許法113条各号のいずれかに該当すると認めうる理由もない。 よって,結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2021-12-14 |
出願番号 | P2016-207555 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(B29C)
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最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
大島 祥吾 |
特許庁審判官 |
須藤 康洋 岩本 昌大 |
登録日 | 2021-03-31 |
登録番号 | 6860778 |
権利者 | キョーラク株式会社 |
発明の名称 | プリフォームカバー、複合プリフォーム、容器の製造方法 |
代理人 | SK特許業務法人 |
代理人 | 伊藤 寛之 |
代理人 | 奥野 彰彦 |