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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C08J 審判 全部申し立て 2項進歩性 C08J 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C08J 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C08J |
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管理番号 | 1384230 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-10-20 |
確定日 | 2022-02-17 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6862079号発明「ポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法及びポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6862079号の請求項1ないし8に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6862079号(請求項の数は8。以下、「本件特許」という。)は、2020年(令和2年)4月30日を国際出願日とする特願2020−551435号の一部を、特許法第44条第1項の規定に基づいて、令和3年2月8日に新たに出願した特許出願(特願2021−17959号)に係るものであって、同年4月2日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、同年10月20日に特許異議申立人 早川いづみ(以下、「申立人」という。)から本件特許の請求項1〜8に係る特許に対して特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件特許の請求項1〜8に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」といい、これらをまとめて「本件発明」ということがある。)は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された事項により特定される次のとおりのものである。 【請求項1】 少なくとも下記工程(1)〜(2)を含むことを特徴とするポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法。 (1)少なくとも非結晶性ポリエステル樹脂からなる原材料であって、非結晶性ポリエステルを樹脂全体量の90〜100重量%の範囲で含む原材料を、準備及び混合する工程 (2)前記原材料から原反シートを作成し、当該原反シートから、下記特性i)〜iv)を有するポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程であって、 i)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値とし、 ii)振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度をA1とし、それを20〜60J/mmの範囲内の値とし、 iii)80℃の温水中で、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、前記A2を21.5〜45J/mmの範囲内の値とし、かつ、前記A1との関係で、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値とし、 iv)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値とし、かつ、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とするポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程 【請求項2】 前記工程(2)において、収縮前のフィルムのMD方向における延伸倍率を100〜200%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1に記載のポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法。 【請求項3】 前記工程(2)において、収縮前のフィルムのTD方向における延伸倍率を300〜600%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項1又は2に記載のポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法。 【請求項4】 前記工程(2)において、特性v)として、収縮前のフィルムのJIS K7105に準拠して測定されるヘイズ値を5%以下の値とすることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一項に記載のポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法。 【請求項5】 少なくとも下記工程(1´)〜(4´)を含むことを特徴とするポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法。 (1´)下記特性i)〜v)を有するポリエステル系シュリンクフィルムから長尺筒状物を形成する工程であって、 i)非結晶性ポリエステルを、樹脂全体量の90〜100重量%の範囲で含み、 ii)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値とし、 iii)振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度をA1とし、それを20〜60J/mmの範囲内の値とし、 iv)80℃の温水中で、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、前記A2を21.5〜45J/mmの範囲内の値とし、前記A1との関係で、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値とし、 v)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値とし、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とするポリエステル系シュリンクフィルムから長尺筒状物を形成する工程 (2´)前記長尺筒状物を、自動ラベル装着装置に供給し、必要な長さに切断する工程 (3´)必要な長さに切断された前記長尺筒状物を、内容物を充填したPETボトルに外嵌する工程 (4´)前記長尺筒状物を外嵌した前記PETボトルを、熱風トンネル又はスチームトンネルの内部を通過させ、前記長尺筒状物を、均一に加熱して熱収縮させる工程 【請求項6】 前記工程(1´)において、特性vi)として、収縮前のフィルムのMD方向における延伸倍率を100〜200%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項5に記載のポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法。 【請求項7】 前記工程(1´)において、特性vii)として、収縮前のフィルムのTD方向における延伸倍率を300〜600%の範囲内の値とすることを特徴とする請求項5又は6に記載のポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法。 【請求項8】 前記工程(1´)において、特性viii)として、収縮前のフィルムのJIS K7105に準拠して測定されるヘイズ値を5%以下の値とすることを特徴とする請求項5〜7のいずれか一項に記載のポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法。 第3 申立人の主張に係る申立理由の概要 申立人は、甲第1〜5号証を提出し、本件特許は、以下の申立理由1〜5により、取り消されるべきものである旨主張している。 1 申立理由1(甲第1号証に基づく新規性・進歩性) 本件発明1〜8は甲第1号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当するか、あるいは、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が甲第1号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであって同法同条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。 2 申立理由2(甲第2号証に基づく新規性・進歩性) 本件発明1〜8は甲第2号証に記載された発明であるから特許法第29条第1項第3号に該当するか、あるいは、当業者が甲第2号証に記載された発明に基づいて容易に発明をすることができたものであって同法同条第2項の規定により特許を受けることができない発明であるから、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第2項の規定により取り消されるべきものである。 3 申立理由3(実施可能要件) 本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明1〜8について、当業者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものでないから、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 4 申立理由4(サポート要件) 本件発明1〜8に係る特許請求の範囲の請求項1〜8の記載は、本件特許の明細書の発明の詳細な説明に記載したものではないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 5 申立理由5(明確性要件) 本件発明1〜8に係る特許請求の範囲の請求項1〜8の記載は、明確でないから、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件特許の請求項1〜8に係る特許は、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 6 証拠方法 (1)甲第1号証:特開2011−184690号公報 (2)甲第2号証:特開2007−56156号公報 (3)甲第3号証:PCT/JP2020/018280号の令和2年9月23日付け上申書 (4)甲第4号証:特表2011−524921号公報 (5)甲第5号証:特開2010−149521号公報 表記については、おおむね特許異議申立書の記載に従った。以下、順に「甲1」ないし「甲5」という。 第4 当審の判断 当審は、以下述べるように、上記申立理由にはいずれも理由がないと判断する。 1 申立理由1について (1)証拠に記載された事項等 ア 甲1の記載 甲1には以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。 ・「【請求項7】 共重合ポリエステル組成物を溶融押出して得たシートをTg+5〜Tg+20℃の温度で主延伸方向に延伸して延伸フィルムを得る段階、及び 前記延伸フィルムをTg+5〜Tg+50℃の温度で熱処理させる段階を含む、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。 【請求項8】 前記共重合ポリエステル組成物は、 (i)二塩基酸成分100モル%を基準にして、テレフタル酸残渣を90モル%以上含む二塩基酸成分、及び (ii)ジオール成分100モル%を基準にして、(a)ジエチレングリコール1〜20モル%、(b)ネオペンチルグリコール5〜30モル%、及び(c)エチレングリコール50〜90モル%を含むジオール成分を含むことを特徴とする請求項7に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。」 ・「【0001】 本発明は、外部包装材などに用いられる熱収縮性ポリエステル系フィルムに関するものであり、特に、外観仕上がり性に優れているため、容器のラベル用に適した熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。」 ・「【0003】 熱収縮性フィルムとは、延伸配向後、一定の温度以上でまた延伸前の形態に収縮されようとする特性を用いて多様な形態の容器を包装するのに用いられるフィルムを言う。」 ・「【0021】 本発明の好ましい実施例によれば、本発明のポリエステル系フィルムは(i)二塩基酸成分100モル%を基準にして、テレフタル酸残渣を90モル%以上含む二塩基酸成分、及び(ii)ジオール成分100モル%を基準にして、(a)ジエチレングリコール1〜20モル%、(b)ネオペンチルグリコール5〜30モル%、及び(c)エチレングリコール50〜90モル%を含むジオール成分を含む共重合ポリエステル組成物から製造され得る。 【0022】 本発明の共重合ポリエステル組成物のうち二塩基酸成分としては、例えば、ジメチルテレフタレート(DMT)またはテレフタル酸(TPA)などの通常的に用いられる酸成分を用いることができるが、特に、テレフタル酸残渣を90モル%以上含む二塩基酸成分が好ましい。テレフタル酸残渣を90モル%以上含む場合には、延伸及び熱処理過程において配向などによる微細結晶構造が生成されてフィルムの耐熱性が向上するというメリットがある。 【0023】 本発明の共重合ポリエステル組成物のうちジオール成分としては、ジオール成分100モル%を基準にして、ジエチレングリコール1〜20モル%、ネオペンチルグリコール5〜30モル%、及びエチレングリコール50〜90モル%を含むジオール成分を用いることができる。」 ・「【0037】 1.共重合ポリエステル樹脂の製造 共重合ポリエステル樹脂を下記表1に記載のように組成を変化させながら製造した。これらの共重合ポリエステル樹脂の製造は、本発明の属する技術分野において通常的に用いられ、周知のポリエステル標準製法に従った(例:韓国特許第10−0987065号の実施例1〜7)。 【0038】 」 ・「【0039】 2.ポリエステル系フィルムの物性比較 前記製造した樹脂11〜14を用いてポリエステル系フィルムを製造した。具体的に、該当樹脂を溶融押出して得たシートを80℃で主収縮方向に4倍延伸比で一軸延伸した後、延伸されたフィルムを主延伸方向に両端部を85〜105℃の温度に加熱された区間に速い速度で通過させて厚さ40μmのポリエステル系フィルムを製造した。 【0040】 」 ・「【0045】 (4)熱収縮率 フィルムを測定しようとする方向に長さ300mm及びその垂直方向に幅が15mmになるように裁断して試料を製造し、60℃、70℃、80℃、90℃または100℃を維持する恒温水槽で10秒間熱処理した後、収縮された長さを測定し、下記式によって計算した: 熱収縮率(%)=[(300−熱処理後の試料の長さ)/300]×100」 ・「【0047】 」 イ 甲1に記載された発明 アの摘記事項、特に実施例1に記載されたポリエステル系フィルムの製造方法について整理すると、甲1には以下の発明(以下、「甲1製造発明」という。)が記載されていると認められる。なお、表1の「TA」、「EG」、「NPG」との記載は、請求項8及び【0021】の記載に鑑み、それぞれテレフタル酸残渣、エチレングリコール、ネオペンチルグリコールを意味するものと解される。 <甲1製造発明> 容器のラベル用に適した熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であって、 テレフタル酸残渣100重量部、エチレングリコール80重量部、ネオペンチルグリコール20重量部からなる共重合ポリエステル樹脂を製造する段階と、 前記共重合ポリエステル樹脂を溶融押出して得たシートを80℃で主収縮方向に延伸した後、延伸されたフィルムを主延伸方向に両端部を85〜105℃の温度で熱処理してポリエステル系フィルムを製造する段階であって、厚さ40μm、80℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が59%、90℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が71%のポリエステル系フィルムを製造する段階を含む、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。 また上記アの摘記事項、特に、実施例1に記載されたポリエステル系フィルムの製造方法に加えて【0003】の記載に鑑みれば、甲1には以下の発明(以下、「甲1使用発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲1使用発明> 容器のラベル用に適した熱収縮性ポリエステル系フィルムの使用方法であって、 厚さ40μm、80℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が59%、90℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が71%のポリエステル系フィルムを熱収縮させて容器の包装に使用する方法。 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲1製造発明を対比すると、甲1製造発明の「容器のラベル用に適した熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件発明1の「ポリエステル系シュリンクフィルム」に相当する。 また、甲1製造発明の「テレフタル酸残渣100重量部、エチレングリコール80重量部、ネオペンチルグリコール20重量部からなる共重合ポリエステル樹脂を製造する段階」は、本件発明1の「少なくとも非結晶性ポリエステル樹脂からなる原材料」を「準備及び混合する工程」のうち「非結晶性ポリエステル樹脂」と特定される点を除いたその余の特定事項に相当し、甲1製造発明の「前記共重合ポリエステル樹脂を溶融押出して得たシートを80℃で主収縮方向に延伸した後、延伸されたフィルムを主延伸方向に両端部を85〜105℃の温度で熱処理させてポリエステル系フィルムを製造する段階」は、それぞれ、本件発明1の、「前記原材料から原反シートを作成し、当該原反シートから、」「ポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程」に相当する。 さらに、甲1製造発明の「厚さ40μm」、「80℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が59%、90℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が71%」は、それぞれ、本件発明1の「i)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値と」する点、「v)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値と」する点に相当する。そして、甲1製造発明の「80℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率」と「90℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率」との比は、0.831(59/71)であるから、本件発明1の「B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とする」に相当する。 してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。 ・一致点 少なくとも下記工程(1)〜(2)を含むことを特徴とするポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法。 (1)少なくともポリエステル樹脂からなる原材料を、準備及び混合する工程 (2)前記原材料から原反シートを作成し、当該原反シートから、下記特性i)、iv)を有するポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程であって、 i)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値とし、 iv)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値とし、かつ、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とするポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程 ・相違点1−1 原材料について、本件発明1が「非結晶性ポリエステルを樹脂全体量の90〜100重量%の範囲で含む原材料」と特定するのに対し、甲1製造発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点1−2 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明1が「ii)振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度をA1とし、それを20〜60J/mmの範囲内の値」と特定するのに対し、甲1製造発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点1−3 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明1が「iii)80℃の温水中で、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、前記A2を21.5〜45J/mmの範囲内の値とし、かつ、前記A1との関係で、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値」と特定するのに対し、甲1製造発明においてはそのような特定を有しない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず相違点1−2について検討する。 甲1には、熱収縮性ポリエステル系フィルムの収縮前の耐衝撃強度について記載がなく、それが20〜60J/mmの範囲内の値となる蓋然性が高いといえる根拠もない。したがって、相違点1−2は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲1製造発明であるとはいえない。 また、甲1明細書の発明の詳細な説明の記載や他の証拠をみても、甲1製造発明において当該パラメータに着目し、「20〜60J/mmの範囲内の値」とする動機もない。よって、本件発明1は甲1製造発明から容易に発明をすることができたものともいえない。 なお、特許異議申立書において申立人は、甲3の参考図2に記載されたフィルムの厚さとA2の関係、及び、本件特許明細書の図8に記載されたA2/A1とB1/B2の関係を根拠として、甲1実施例1〜3の熱収縮性ポリエステル系フィルムの収縮前の耐衝撃強度は20〜60J/mmの範囲内となる蓋然性が高いと主張している。 しかしながら、甲3の参考図2の関係式は、甲1実施例1〜3とは異なる材料のフィルムにおける測定値に基づくものであって、甲1実施例1〜3のフィルムに当てはまるとはいえないし、また、フィルムの厚さから収縮前の耐衝撃強度を推定できるという技術常識もないから、申立人の主張は失当である。 (3)本件発明2〜4について 請求項2〜4の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、上記(2)で検討したとおり、本件発明1は甲1製造発明ではないし、甲1製造発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の全ての特定事項を有する本件発明2〜4もまた、甲1製造発明ではないし、甲1製造発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明5について ア 対比 本件発明5と甲1使用発明を対比すると、甲1使用発明の「容器のラベル用に適した熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件発明1の「ポリエステル系シュリンクフィルム」に相当する。 また、甲1使用発明の「厚さ40μm」、「80℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が59%、90℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率が71%」は、それぞれ、本件発明5の「ii)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値と」する点、「v)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値と」する点に相当する。そして、甲1使用発明の「80℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率」と「90℃の恒温水槽で10秒間熱処理した場合の熱収縮率」との比は、0.831(59/71)であるから、本件発明5の「B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とする」に相当する。 してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。 ・一致点 少なくとも下記工程(1´)を含むことを特徴とするポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法。 (1´)下記特性ii)、v)を有するポリエステル系シュリンクフィルムを形成する工程であって、 ii)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値とし、 v)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値とし、かつ、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とするポリエステル系シュリンクフィルムを形成する工程 ・相違点1−4 本件発明5が「ポリエステル系シュリンクフィルムから長尺筒状物を形成する」のに対し、甲1使用発明はそのような特定を有しない点。 ・相違点1−5 原材料について、本件発明5が「非結晶性ポリエステルを樹脂全体量の90〜100重量%の範囲で含む原材料」と特定するのに対し、甲1使用発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点1−6 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明5が「iii)振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度をA1とし、それを20〜60J/mmの範囲内の値」と特定するのに対し、甲1使用発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点1−7 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明5が「iv)80℃の温水中で、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、前記A2を21.5〜45J/mmの範囲内の値とし、かつ、前記A1との関係で、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値」と特定するのに対し、甲1使用発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点1−8 本件発明5が「(2´)前記長尺筒状物を、自動ラベル装着装置に供給し、必要な長さに切断する工程」を有するのに対し、甲1使用発明はそのような特定を有しない点。 ・相違点1−9 本件発明5が「(3´)必要な長さに切断された前記長尺筒状物を、内容物を充填したPETボトルに外嵌する工程」を有するのに対し、甲1使用発明はそのような特定を有しない点。 ・相違点1−10 本件発明5が「(4´)前記長尺筒状物を外嵌した前記PETボトルを、熱風トンネル又はスチームトンネルの内部を通過させ、前記長尺筒状物を、均一に加熱して熱収縮させる工程」を有するのに対し、甲1使用発明はそのような特定を有しない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず相違点1−6について検討する。 甲1には、熱収縮性ポリエステル系フィルムの収縮前の耐衝撃強度について記載がなく、それが20〜60J/mmの範囲内の値となる蓋然性が高いといえる根拠もない。したがって、相違点1−6は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明5が甲1使用発明であるとはいえない。 また、甲1明細書の発明の詳細な説明の記載や他の証拠をみても、甲1使用発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて当該パラメータに着目し、「20〜60J/mmの範囲内の値」となるようなフィルムを選択する動機もない。よって、本件発明5は甲1使用発明から容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)本件発明6〜8について 請求項6〜8の記載は、請求項5の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、上記(4)で検討したとおり、本件発明5は甲1使用発明ではないし、甲1使用発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明5の全ての特定事項を有する本件発明6〜8もまた、甲1使用発明ではないし、甲1使用発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (6)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する申立理由1には理由がない。 2 申立理由2について (1)証拠に記載された事項等 ア 甲2の記載 甲2には以下の記載がある。なお、下線は当審で付した。 ・「【請求項5】 フィルム製膜時の延伸工程で、最初にフィルム幅方向に2倍以上延伸し、次いでフィルム長手方向に2倍以上延伸する事を特徴とする請求項1に記載の熱収縮性ポリエステル系フィルムを製造する方法。」 ・「【0001】 本発明は、熱収縮性ポリエステル系フィルムに関し、さらに詳しくはラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム及びその製造方法と該熱収縮性ポリエステル系フィルムからなる熱収縮性ラベルに関するものである。特にラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。さらに詳しくは、収縮不足が発生しにくく、かつ透明性が良好な長手方向に収縮する熱収縮性ポリエステル系フィルムに関する。」 ・「【0002】 近年、包装品の、外観向上のための外装、内容物の直接衝撃を避けるための包装、ガラス瓶またはプラスチックボトルの保護と商品の表示を兼ねたラベル包装等を目的として、熱収縮プラスチックフィルムが広範に使用されている。これらの目的で使用されるプラスチック素材としては、ポリ塩化ビニル系フィルム、ポリスチレン系フィルム、ポリエステル系フィルムなどの延伸フィルムは、ポリエチレンテレフタレート(PET)容器、ポリエチレン容器、ガラス容器などの各種容器において、ラベルやキャップシールあるいは集積包装の目的で使用されている。」 ・「【0048】 (1)熱収縮率 フィルムを10cm×10cmの正方形に裁断し、所定温度±0.5℃の温水中において、無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた後、フィルムの縦および横方向の寸法を測定し、下記(1)式に従いそれぞれ熱収縮率を求めた。該熱収縮率の大きい方向を主収縮方向とした。 熱収縮率={(収縮前の長さ−収縮後の長さ)/収縮前の長さ}×100(%) (1)」 ・「【0059】 実施例に用いたポリエステルは以下の通りである。 【0060】 ポリエステル1 : ジオール成分としてエチレングリコール70モル%とネオペンチルグリコール30モル%、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸100モル%とからなるポリエステル(IV 0.72dl/g) ポリエステル2 : ポリエチレンテレフタレート(IV 0.75dl/g) 【0061】 (実施例1) ポリエステル1とポリエステル2を重量比90:10で混合して押出し機に投入した。それを280℃で溶融し、Tダイから押出し、表面温度30℃のチルロール上で急冷して厚み360μmの未延伸フィルムを得た。この未延伸フィルムのTgは67℃であった。 該未延伸フィルムを、フィルム温度が90℃になるまで予備加熱した後、テンターで横方向に75℃で4倍に延伸し、110℃・2秒間で熱固定して中央部の厚み90μm、端部の厚み90μm〜150μmのフィルムを得た。 次にTD幅方向で厚みが100μm以上ある端部位置を切り落とし、フィルム幅方向の厚みが90μm〜99μmのフィルムを得た。 次に縦延伸機を用いて、予熱ロール上でフィルム温度が70℃になるまで予備加熱後、延伸ロール表面温度75℃で3倍に延伸後、表面温度25℃の冷却ロールで冷却し、厚み30μmのフィルムを得た。」 ・「【0077】 」 ・「【0078】 本発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムは、ラベルとして使用する場合、熱収縮による収縮不足の発生が極めて少ない良好な仕上がりが可能であり、かつミシン目開封性、透明性も良好でありラベル用途として極めて有用である。」 イ 甲2に記載された発明 アの摘記事項、特に実施例1に記載されたポリエステル系フィルムの製造方法について整理すると、甲2には以下の発明(以下、「甲2製造発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲2製造発明> ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法であって、 ジオール成分としてエチレングリコール70モル%とネオペンチルグリコール30モル%、ジカルボン酸成分としてテレフタル酸100モル%とからなるポリエステル(以下、「ポリエステル1」という。)とポリエチレンテレフタレート(以下、「ポリエステル2」という。)を重量比90:10で混合して押出し成形し未延伸フィルムを得る工程と、 フィルム製膜時の延伸工程で、最初にフィルム幅方向に2倍以上延伸し、次いでフィルム長手方向に2倍以上延伸する工程であって、厚み30μm、80℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が44%、90℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が54%のフィルムを得る工程を含む、熱収縮性ポリエステル系フィルムの製造方法。 また、上記アの摘記事項、特に実施例1に記載されたポリエステル系フィルムの製造方法に加えて【0002】、【0078】の記載に鑑みれば、甲2には次の発明(以下、「甲2使用発明」という。)が記載されていると認められる。 <甲2使用発明> ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルムの使用方法であって、 厚み30μm、80℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が44%、90℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が54%のフィルムを熱収縮させて容器のラベルとして使用する方法。 (2)本件発明1について ア 対比 本件発明1と甲2製造発明とを対比すると、甲2製造発明の「ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件発明1の「ポリエステル系シュリンクフィルム」に相当する。 また、甲2製造発明の「ポリエステル1とポリエステル2を重量比90:10で混合」する工程は、本件発明1の「少なくとも非結晶性ポリエステル樹脂からなる原材料」を「準備及び混合する工程」のうち「非結晶性ポリエステル樹脂」と特定される点を除いたその余の特定事項に相当し、甲2製造発明の前記混合物を「押出し成形し未延伸フィルムを得る工程」、「フィルム製膜時の延伸工程で、最初にフィルム幅方向に2倍以上延伸し、次いでフィルム長手方向に2倍以上延伸する工程」は、それぞれ、本件発明1の「前記原材料から原反シートを作成」する点、「当該原反シートから」「ポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程」に相当する。 さらに、甲2製造発明の「厚み30μm」、「80℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が44%、90℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が54%」は、それぞれ、本件発明1の「i)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値と」する点、「iv)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値」とする点に相当する。そして、甲2製造発明の「80℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率」と「90℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率」との比は、0.815(44/54)であるから、本件発明1の「B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とする」点に相当する。 してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。 ・一致点 少なくとも下記工程(1)〜(2)を含むことを特徴とするポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法。 (1)少なくともポリエステル樹脂からなる原材料を、準備及び混合する工程 (2)前記原材料から原反シートを作成し、当該原反シートから、下記特性i)、iv)を有するポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程であって、 i)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値とし、 iv)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値とし、かつ、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とするポリエステル系シュリンクフィルムを作成する工程 ・相違点2−1 原材料について、本件発明1が「非結晶性ポリエステルを樹脂全体量の90〜100重量%の範囲で含む原材料」と特定するのに対し、甲2製造発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点2−2 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明1が「ii)振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度をA1とし、それを20〜60J/mmの範囲内の値」と特定するのに対し、甲2製造発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点2−3 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明1が「iii)80℃の温水中で、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、前記A2を21.5〜45J/mmの範囲内の値とし、かつ、前記A1との関係で、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値」と特定するのに対し、甲2製造発明においてはそのような特定を有しない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず相違点2−2について検討する。 甲2には、熱収縮性ポリエステル系フィルムの収縮前の耐衝撃強度について記載がなく、それが20〜60J/mmの範囲内の値となる蓋然性が高いといえる根拠もない。したがって、相違点2−2は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1が甲2製造発明であるとはいえない。 また、甲2明細書の発明の詳細な説明や他の証拠をみても、甲2製造発明において、当該パラメータに着目し、「20〜60J/mmの範囲内の値」とする動機もない。よって、本件発明1は、甲2製造発明から容易に発明をすることができたものともいえない。 なお、特許異議申立書において申立人は、甲3の参考図2に記載されたフィルムの厚さとA2の関係、及び、本件特許明細書の図8に記載されたA2/A1とB1/B2の関係を根拠として、甲2実施例1、3〜6の熱収縮性ポリエステル系フィルムの収縮前の耐衝撃強度は20〜60J/mmの範囲内となる蓋然性が高いと主張している。 しかしながら、甲3の参考図2の関係式は、甲2実施例1、3〜6とは異なる材料のフィルムにおける測定値に基づくものであって、甲2実施例1、3〜6のフィルムに当てはまるとはいえないし、また、フィルムの厚さから収縮前の耐衝撃強度を推定できるという技術常識もないから、申立人の主張は失当である。 (3)本件発明2〜4について 請求項2〜4の記載は、請求項1の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、上記(2)の検討のとおり、本件発明1は甲2製造発明ではないし、甲2製造発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明1の特定事項を全て有する本件発明2〜4もまた、甲2製造発明ではないし、甲2製造発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (4)本件発明5について ア 対比 本件発明5と甲2使用発明とを対比すると、甲2使用発明の「ラベル用途に好適な熱収縮性ポリエステル系フィルム」は、本件発明5の「ポリエステル系シュリンクフィルム」に相当する。 また、甲2使用発明の「厚み30μm」、「80℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が44%、90℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率が54%」は、それぞれ、本件発明5の「ii)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値と」する点、「v)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値と」する点に相当する。そして、甲2使用発明の「80℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率」と「90℃の温水中において無荷重状態で10秒間処理して熱収縮させた熱収縮率」との比は、0.815(44/54)であるから、本件発明5の「B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とする」点に相当する。 してみると、両者の一致点、相違点はそれぞれ次のとおりである。 ・一致点 少なくとも下記工程(1´)を含むことを特徴とするポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法。 (1´)下記特性ii)、v)を有するポリエステル系シュリンクフィルムを形成する工程であって、 ii)収縮前の前記ポリエステル系シュリンクフィルムの厚さを10〜40μmの範囲内の値とし、 v)80℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃の温水中で、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、前記B1を35〜80%の範囲内の値とし、前記B2を45〜85%の範囲内の値とし、かつ、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とするポリエステル系シュリンクフィルムを形成する工程 ・相違点2−4 本件発明5が「ポリエステル系シュリンクフィルムから長尺筒状物を形成する」のに対し、甲2使用発明はそのような特定を有しない点。 ・相違点2−5 原材料について、本件発明5が「非結晶性ポリエステルを樹脂全体量の90〜100重量%の範囲で含む原材料」と特定するのに対し、甲2使用発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点2−6 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明5が「iii)振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度をA1とし、それを20〜60J/mmの範囲内の値」と特定するのに対し、甲2使用発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点2−7 ポリエステル系シュリンクフィルムの特性について、本件発明5が「iv)80℃の温水中で、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、前記A2を21.5〜45J/mmの範囲内の値とし、かつ、前記A1との関係で、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値」と特定するのに対し、甲2使用発明においてはそのような特定を有しない点。 ・相違点2−8 本件発明5が「(2´)前記長尺筒状物を、自動ラベル装着装置に供給し、必要な長さに切断する工程」を有するのに対し、甲2使用発明はそのような特定を有しない点。 ・相違点2−9 本件発明5が「(3´)必要な長さに切断された前記長尺筒状物を、内容物を充填したPETボトルに外嵌する工程」を有するのに対し、甲2使用発明はそのような特定を有しない点。 ・相違点2−10 本件発明5が「(4´)前記長尺筒状物を外嵌した前記PETボトルを、熱風トンネル又はスチームトンネルの内部を通過させ、前記長尺筒状物を、均一に加熱して熱収縮させる工程」を有するのに対し、甲2使用発明はそのような特定を有しない点。 イ 判断 事案に鑑み、まず相違点2−6について検討する。 甲2には、熱収縮性ポリエステル系フィルムの収縮前の耐衝撃強度について記載がなく、それが20〜60J/mmの範囲内の値となる蓋然性が高いといえる根拠もない。したがって、相違点2−6は実質的な相違点であるから、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明5が甲2使用発明であるとはいえない。 また、甲2明細書の発明の詳細な説明の記載や他の証拠をみても、甲2使用発明の熱収縮性ポリエステル系フィルムにおいて当該パラメータに着目し、「20〜60J/mmの範囲内の値」となるようなフィルムを選択する動機もない。よって、本件発明5は甲2使用発明から容易に発明をすることができたものともいえない。 (5)本件発明6〜8について 請求項6〜8の記載は、請求項5の記載を直接又は間接的に引用するものである。そして、上記(4)で検討したとおり、本件発明5は甲2使用発明ではないし、甲2使用発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもないから、本件発明5の全ての特定事項を有する本件発明6〜8もまた、甲2使用発明ではないし、甲2使用発明に基づいて容易に発明をすることができたものでもない。 (6)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する申立理由2には理由がない。 3 申立理由3について (1)判断基準 本件発明1〜4はポリエステル系シュリンクフィルムという物を製造する方法の発明であるところ、物の製造方法の発明において、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その製造方法を使用し、その製造方法により生産した物を使用することができる程度の記載があることを要する。 また、本件発明5〜8は、ポリエステル系シュリンクフィルムを使用する方法の発明であるところ、方法の発明にあっては、実施可能要件を充足するためには、発明の詳細な説明に、当業者が発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その方法を使用することができる程度の記載があることを要する。 これを踏まえ、以下検討する。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、次のとおりの記載がある。 ・「【0008】 そこで、本発明の発明者らは、乳酸由来の構造単位を事実上含まない場合において、所定の耐衝撃強度を所定範囲内の値に制限し、かつ収縮温度付近の収縮率の比率等を制限することによって、均一かつ安定的に収縮するシュリンクフィルムが得られることを見出し、本発明を完成させたものである。 すなわち、本発明は、優れた耐衝撃性を有し、かつ、収縮温度付近における収縮率の均一性や安定性に優れたシュリンクフィルム等の製造方法及びそれらのフィルム等の使用方法を提供することを目的とする。 【課題を解決するための手段】 【0009】 ・・・ すなわち、本発明のポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法によって得られたポリエステル系シュリンクフィルムであれば、非結晶性ポリエステル樹脂の含有量を具体的に制限することによって、耐衝撃強度や、収縮温度付近における収縮率を所望範囲に、更に容易に調整しやすくできるとともに、ヘイズ値等についても、定量性をもって制御しやすくなる。 なお、樹脂全体量のうち、非結晶性ポリエステル樹脂の残分は、結晶性ポリエステル樹脂やポリエステル樹脂以外の樹脂が寄与する値である。 また、収縮前のフィルム厚さを所定範囲内の値に具体的に制限することによって、A2/A1×100で表される数値やB1/B2×100で表される数値等を、それぞれ所定範囲内の値に更に容易に制御しやすくなる。 また、耐衝撃強度のA1を所定範囲内の値に具体的に制限することによって、収縮前のポリエステル系シュリンクフィルムにおいて、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される所定範囲の数値である、良好な耐衝撃強度を得ることができる。 また、耐衝撃強度のA2を所定範囲内の値に具体的に制限することによって、A2/A1×100で表される数値を、所定範囲内の値に制御しやすくなる。 また、A2/A1×100で表される数値を、所定範囲内の値に具体的に制限することによって、A1やA2の耐衝撃強度の値が多少ばらついた場合であっても、所定影響因子の要因を低下させることによって、所定条件で収縮させたポリエステル系シュリンクフィルムにおいて、良好な耐衝撃強度A1やA2に由来した所定割合(A2/A1×100)を得ることができる。 更にまた、収縮率のB1および収縮率のB2を、それぞれ所定範囲内の値に具体的に制限することによって、B1/B2×100で表される数値を、所定範囲内の値に制御しやすくなる。 また、B1/B2×100で表される数値を、所定範囲内の値に具体的に制限することによって、耐衝撃強度のA1やA2の値が多少ばらついた場合であっても、所定影響因子の要因を低下させて、ポリエステル系シュリンクフィルムの収縮温度付近(例えば、80〜90℃、以下同様である。)において、安定的かつ均一な収縮率に由来した所定割合(B1/B2×100)を得ることができる。 よって、このように、非結晶性ポリエステル樹脂の含有量、収縮前のフィルム厚さ、A1、A2、B1、B2、(A2/A1×100)及び(B1/B2×100)を、それぞれ所定範囲内の値に制限することによって、優れた耐衝撃性を有し、かつ、収縮温度付近における収縮率の均一性や安定性に優れたシュリンクフィルムが得られる製造方法を提供することができる。 その上、後述するように、所定の落下試験において、良好な結果を得ることができる。」 ・「【0020】 また、非結晶性ポリエステル樹脂として、例えば、テレフタル酸少なくとも80モル%からなるジカルボン酸と、エチレングリコール50〜80モル%及び、1,4ーシクロヘキサンジメタノール、ネオペンチルグリコール及びジエチレングリコールから選ばれた1種以上のジオール20〜50モル%からなるジオールよりなる非結晶性ポリエステル樹脂を好適に使用できる。必要に応じ、フィルムの性質を変化させるために、他のジカルボン酸及びジオール、あるいはヒドロキシカルボン酸を使用してもよい。また、それぞれ単独でも、あるいは、混合物であっても良い。 一方、結晶性ポリエステル樹脂として、ポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリブチレンナフタレート、ポリプロピレンテレフタレート等があるが、それぞれ単独であっても、あるいは混合物であっても良い。」 ・「【0021】 また、ポリエステル樹脂が、非結晶性ポリエステル樹脂と、結晶性ポリエステル樹脂との混合物である場合、良好な耐熱性や収縮率等を得るために、ポリエステル系シュリンクフィルムを構成する樹脂の全体量に対し、非結晶性ポリエステル樹脂の配合量を、90〜100重量%の範囲内の値とすることが好ましく、91〜100重量%の範囲内の値とすることが更に好ましい。」 ・「【0022】 2.構成(a) 構成(a)は、第1の実施形態のポリエステル系シュリンクフィルムにおいて、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度(A1と称する場合がある。)を20〜60J/mmの範囲内の値とする旨の必要的構成要件である。 この理由は、このように収縮前の耐衝撃強度を所定範囲内の値とすることにより、ポリエステル系シュリンクフィルムにおいて、良好な耐衝撃強度を得ることができるためである。」 ・「【0026】 3.構成(b) 構成(b)は、第1の実施形態のポリエステル系シュリンクフィルムの耐衝撃強度をA1とし、80℃の温水中、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値とする旨の必要的構成要件である。 この理由は、このようにA2/A1×100で表される数値を所定範囲内の値とすることにより、構成(a)等の耐衝撃強度の値が多少ばらついた場合であっても、所定影響因子の要因を低下させ、ポリエステル系シュリンクフィルムにおいて、良好な耐衝撃強度及び所定割合を得ることができるためである。」 ・「【0030】 4.構成(c) 構成(c)は、第1の実施形態のポリエステル系シュリンクフィルムにつき、80℃、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とする旨の必要的構成要件である。 この理由は、このようにB1/B2×100で表される数値を所定範囲内の値とすることにより、構成(a)や構成(b)の耐衝撃強度の値が多少ばらついた場合であっても、所定影響因子の要因を下げて、ポリエステル系シュリンクフィルムの収縮温度付近において、安定的かつ均一な収縮率を得ることができるためである。」 ・「【0052】 [第2の実施形態] 第2の実施形態は、第1の実施形態のポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法に関する実施形態である。 【0053】 1.原材料の準備及び混合工程 まずは、原材料として、非結晶性ポリエステル樹脂、結晶性ポリエステル樹脂、ゴム系樹脂、帯電防止剤、加水分解防止剤等の、主剤や添加剤を準備することが好ましい。 次いで、攪拌容器内に、秤量しながら、準備した結晶性ポリエステル樹脂や非結晶性ポリエステル樹脂等を投入し、攪拌装置を用いて、均一になるまで、混合攪拌することが好ましい。 【0054】 2.原反シートの作成工程 次いで、均一に混合した原材料を、絶乾状態に乾燥することが好ましい。 次いで、典型的には、押し出し成形を行い、所定厚さの原反シートを作成することが好ましい。 より具体的には、例えば、押出温度180℃の条件で、L/D24、押出スクリュー径50mmの押出機(田辺プラスチック(株)製)により、押し出し成形を行い、所定厚さ(通常、10〜100μm)の原反シートを得ることができる。 【0055】 3.ポリエステル系シュリンクフィルムの作成 次いで、得られた原反シートにつき、シュリンクフィルム製造装置を用い、ロール上やロール間を移動させながら、加熱押圧して、ポリエステル系シュリンクフィルムを作成する。 すなわち、所定の延伸温度、延伸倍率で、フィルム幅を基本的に拡大させながら、加熱押圧しながら、所定方向に延伸することにより、ポリエステル系シュリンクフィルムを構成するポリエステル分子を所定形状に結晶化させることが好ましい。 そして、その状態で固化させることによって、装飾やラベル等として用いられる熱収縮性のポリエステル系シュリンクフィルムを作成することができる。 【0056】 4.ポリエステル系シュリンクフィルムの検査工程 作成したポリエステル系シュリンクフィルムにつき、連続的又は間断的に、下記特性等を測定し、所定の検査工程を設けることが好ましい。 すなわち、所定の検査工程によって、下記特性等を測定し、所定範囲内の値に入ることを確認することによって、より均一な収縮特性等を有するポリエステル系シュリンクフィルムとすることができる。 1)ポリエステル系シュリンクフィルムの目視検査 2)厚さむら測定 3)引張弾性率測定 4)引裂強度測定 5)SSカーブによる粘弾性特性測定 【0057】 そして、第2の実施形態のポリエステル系シュリンクフィルムの製造において、下記(a)〜(c)の測定を加味することが好ましいと言える。 (a)振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される、収縮前の耐衝撃強度A1。 (b)80℃の温水中で、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、A2/A1×100で表される数値。 (c)80℃、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、B1/B2×100で表される数値。」 ・「【0058】 [第3の実施形態] 第3の実施形態は、ポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法に関する実施形態である。 したがって、公知のシュリンクフィルムの使用方法を、いずれも好適に適用することができる。 【0059】 例えば、ポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法を実施するに際して、まずは、ポリエステル系シュリンクフィルムを、適当な長さや幅に切断するとともに、長尺筒状物を形成する。 次いで、当該長尺筒状物を、自動ラベル装着装置(シュリンクラベラー)に供給し、更に必要な長さに切断する。 次いで、内容物を充填したPETボトル等に外嵌する。 【0060】 次いで、PETボトル等に外嵌したポリエステル系シュリンクフィルムの加熱処理として、所定温度の熱風トンネルやスチームトンネルの内部を通過させる。 そして、これらのトンネルに備えてなる赤外線等の輻射熱や、90℃程度の加熱蒸気を周囲から吹き付けることにより、ポリエステル系シュリンクフィルムを均一に加熱して熱収縮させる。 よって、PETボトル等の外表面に密着させて、ラベル付き容器を迅速に得ることができる。」 ・「【0062】 以下、本発明を実施例に基づき、詳細に説明する。但し、特に理由なく、本発明の権利範囲が、実施例の記載によって狭められることはない。 なお、実施例において、用いた樹脂は、以下の通りである。 (PETG1) ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール70モル%、1,4−シクロヘキサンジメタノール25モル%、ジエチレングリコール5モル%からなる非結晶性ポリエステル (PETG2) ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール72モル%、ネオペンチルグリコール25モル%、ジエチレングリコール3モル%からなる非結晶性ポリエステル (APET) ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:エチレングリコール100モル%からなる結晶性ポリエステル (PBT) ジカルボン酸:テレフタル酸100モル%、ジオール:1,4−ブタンジオール100モル%からなる結晶性ポリエステル 【0063】 [実施例1] 1.ポリエステル系シュリンクフィルムの作成 攪拌容器内に、非結晶性ポリエステル樹脂(PETG1)を100重量部用いた。 次いで、この原料を絶乾状態にしたのち、押出温度180℃の条件で、L/D24、押出スクリュー径50mmの押出機(田辺プラスチック(株)製)により、押し出し成形を行い、厚さ100μmの原反シートを得た。 次いで、シュリンクフィルム製造装置を用い、原反シートから、延伸温度83℃、延伸倍率(MD方向:105%、TD方向:480%)で、厚さ30μmのポリエステル系シュリンクフィルムを作成した。」 (3)判断 本件特許の明細書【0052】〜【0057】には、本件発明1〜4に係るポリエステル系シュリンクフィルムを製造する方法について好ましい実施形態が具体的に記載され、さらに実施例の記載もある。してみれば、当業者であれば、本件発明1〜4に係る製造方法の発明をどのように実施するのか理解できる。 してみると、当業者は、発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に基づき、その製造方法を使用し、かつ、その製造方法により生産したフィルムを使用することができるということができるものであり、当業者がその実施にあたり、過度の試行錯誤を要するものともいえない。 また、本件特許の明細書【0058】〜【0060】には、本件発明5〜8に係るポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法について好ましい実施形態が具体的に記載され、さらに実施例の記載もあるから、当業者であれば、本件発明5〜8に係る使用方法の発明をどのように実施するのか理解できる。 してみると、当業者は、発明の詳細な説明の記載内容及び出願時の技術常識に基づき、その方法を使用することができるということができるものであり、当業者がその実施にあたり、過度の試行錯誤を要するものともいえない。 よって、本件特許の明細書の発明の詳細な説明の記載は、実施可能要件に適合するものといえる。 なお、特許異議申立書において申立人は、「本件特許の請求項1〜4に係る発明において、ポリエステル系シュリンクフィルムを製造する工程(工程(2))が具体的にどのような工程であるかが記載されておらず、[B][C][D][E]を全て満足するポリエステル系シュリンクフィルムを製造する方法が記載されておらず、実施例以外のフィルムを製造する方法を当業者が理解できない。本件特許比較例1に記載のフィルムは、樹脂は実施例1〜3と同じPETG1を使用し、かつ[F][G]を満足する延伸倍率で延伸されているにもかかわらず、[D]を満足していない。」、「上記と同様に、本件特許の請求項5〜8に係る発明において、ポリエステル系シュリンクフィルムを製造する工程(工程(1’))が具体的にどのような工程であるかが記載されておらず、[I][J][K][L]を全て満足するポリエステル系シュリンクフィルムを製造する方法が記載されておらず、実施例以外のフィルムを製造する方法を当業者が理解できない。」(特許異議申立書45頁)等主張している。 しかしながら、所望するフィルム性能を得るために、適切な材料を選択することや種々の加工条件を調整することは、当業者が通常行うことであり、上記のように本件特許の明細書には実施例として具体的な条件が記載されているところ、当業者であれば、実施例の記載を参考に条件を適宜調整することにより、過度の試行錯誤を要することなく本件発明1〜8を実施することができるものと認められる。 よって、申立人の主張は採用できない。 (4)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する申立理由3には理由がない。 4 申立理由4について (1)判断基準 特許請求の範囲の記載が、サポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載を対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)発明の詳細な説明の記載 本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、3(2)のとおりの記載がある。 (3)判断 本件発明の課題は、「優れた耐衝撃性を有し、かつ、収縮温度付近における収縮率の均一性や安定性に優れたシュリンクフィルム等の製造方法及びそれらのフィルム等の使用方法を提供すること」(明細書【0008】)である。 そして、本件特許の明細書には「非結晶性ポリエステル樹脂の含有量を具体的に制限することによって、耐衝撃強度や、収縮温度付近における収縮率を所望範囲に、更に容易に調整しやすくできるとともに、ヘイズ値等についても、定量性をもって制御しやすくなる」(同【0009】)ことが記載され、ポリエステル樹脂が、非結晶性ポリエステル樹脂と、結晶性ポリエステル樹脂との混合物である場合、良好な耐熱性や収縮率等を得るために、「ポリエステル系シュリンクフィルムを構成する樹脂の全体量に対し、非結晶性ポリエステル樹脂の配合量を、90〜100重量%の範囲内の値とする」(同【0021】)こと、良好な耐衝撃強度を得るために「収縮前の耐衝撃強度(A1と称する場合がある。)を20〜60J/mmの範囲内の値とする」(同【0022】)こと、耐衝撃強度の値が多少ばらついた場合であっても、所定影響因子の要因を低下させ、ポリエステル系シュリンクフィルムにおいて、良好な耐衝撃強度及び所定割合を得るために「80℃の温水中、10%収縮させた後に、振り子式フィルムインパクトテスターにより測定される耐衝撃強度をA2としたときに、A2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値とする」(同【0026】)こと、さらには、 A1やA2の耐衝撃強度の値が多少ばらついた場合であっても、所定影響因子の要因を下げて、ポリエステル系シュリンクフィルムの収縮温度付近において、安定的かつ均一な収縮率を得るため、「80℃、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB1とし、90℃、10秒の条件で収縮させた場合の収縮率をB2としたときに、B1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とする」(同【0030】)が記載されており、かつ、本件特許の明細書の発明の詳細な説明には、これらの要件を満たす実施例も記載されている。 これらの記載に接した当業者であれば、ポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法及びそれらのフィルムの使用方法において、ポリエステル系シュリンクフィルムを構成する樹脂の全体量に対して、非結晶性ポリエステル樹脂の配合量を、90〜100重量%の範囲内の値とし、収縮前の耐衝撃強度A1を20〜60J/mm、特定条件下でのA2/A1×100で表される数値を60〜110%の範囲内の値、特定条件下の収縮率の比であるB1/B2×100で表される数値を70〜90%の範囲内の値とするという特定事項を満たすことにより、本件発明の課題を解決するものと認識する。 そして、本件発明1及び本件発明5はいずれも、これら本件発明の課題を解決すると認識できる特定事項を全て有するものであるから、本件発明1及び本件発明5は、本件発明の課題を解決するものといえる。 本件発明1又は本件発明5の特定事項を全て有する本件発明2〜4及び6〜8についても同様である。 なお、特許異議申立書において申立人は、「本件特許の請求項1〜8に係る発明において、ポリエステル系シュリンクフィルムを構成するポリエステルの組成が何ら限定されていないが、実施例に記載されているのは非結晶性ポリエステルとしてPETG1またはPETG2を使用したフィルムのみである。それ以外の組成の非結晶性ポリエステルを使用したフィルムまで権利範囲を含む本件特許の請求項に係る発明は、発明の詳細な説明に記載された範囲を超えるものである。(特許異議申立書45頁)」と主張している。 しかしながら、シュリンクフィルムとして本件発明の特定する性状を有していれば課題解決できるものと当業者は認識するものであって、発明の課題を解決する上で、ポリエステルの組成は関係がないから、申立人の主張は採用できない。 (4)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する申立理由4には理由がない。 5 申立理由5について (1)判断基準 特許を受けようとする発明が明確であるかは、特許請求の範囲の記載だけでなく、願書に添付した明細書の記載及び図面を考慮し、また、出願時における技術常識を基礎として、特許請求の範囲の記載が、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるか否かという観点から判断されるべきである。 以下、申立人の主張について検討する。 (2)判断 特許異議申立書において申立人は、本件発明1〜8について、非結晶性ポリエステルとそれ以外のポリエステルをどのようにして区別するのかが何ら記載されておらず発明の範囲が不明確である旨主張している。 しかしながら、「非結晶性ポリエステル」との用語は、当業者において一般に認識されるものであって、当業者であれば、非結晶性ポリエステルと結晶性ポリエステルとを通常区別できるものと認められる。加えて、上記3(2)のとおり、本件特許の明細書【0020】には、結晶性ポリエステル及び非結晶性ポリエステルの具体例が記載されていることからみても、本件発明1〜8は、第三者の利益が不当に害されるほどに不明確であるとはいえない。 したがって、本件特許の請求項1〜8の記載は、明確性要件に適合する。 (3)小括 以上のとおりであるから、申立人の主張する申立理由5には理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載された申立ての理由によっては、請求項1〜8に係る特許を取り消すことはできない。 また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-02-09 |
出願番号 | P2021-017959 |
審決分類 |
P
1
651・
113-
Y
(C08J)
P 1 651・ 121- Y (C08J) P 1 651・ 536- Y (C08J) P 1 651・ 537- Y (C08J) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
加藤 友也 |
特許庁審判官 |
奥田 雄介 植前 充司 |
登録日 | 2021-04-02 |
登録番号 | 6862079 |
権利者 | タキロンシーアイ株式会社 |
発明の名称 | ポリエステル系シュリンクフィルムの製造方法及びポリエステル系シュリンクフィルムの使用方法 |
代理人 | 田中 有子 |
代理人 | 江森 健二 |