• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C02F
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  C02F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C02F
管理番号 1384231
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-10-21 
確定日 2022-04-12 
異議申立件数
事件の表示 特許第6861554号発明「汚泥用脱水剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6861554号の請求項1〜7に係る特許を維持する。 
理由
第1 手続の経緯
特許第6861554号の請求項1〜7に係る特許についての出願は、平成29年3月30日を出願日とする出願であり、令和3年4月1日にその特許権の設定登録がされ、同年同月21日に特許掲載公報が発行され、その後、全請求項(請求項1〜7)に係る特許について、同年10月21日に特許異議申立人特許業務法人藤央特許事務所(以下、「異議申立人」という。)により、特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件発明
請求項1〜7に係る発明(以下、各請求項に係る発明及び特許を項番に対応させて「本件発明1」、「本件特許1」などといい、併せて「本件発明」、「本件特許」ということがある。)は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜7に記載された事項により特定される以下のとおりのものである。
「【請求項1】
表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤。
【請求項2】
繊維状物(a)は、合成繊維、半合成繊維、再生繊維および天然繊維からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1記載の汚泥用脱水剤。
【請求項3】
凝集剤(b)は、無機凝集剤および高分子凝集剤からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項1記載の汚泥用脱水剤。
【請求項4】
無機凝集剤は、ポリ硫酸第二鉄(ポリ鉄)、ポリ塩化アルミニウム(PAC)、塩化第二鉄、硫酸アルミニウム(硫酸バンド)、消石灰および硫化第一鉄からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項3記載の汚泥用脱水剤。
【請求項5】
高分子凝集剤は、ポリアクリルアミド、アクリルアミド・アクリル酸ソーダ共重合物、アクリルアミド・アクリルアミド−2−メチルプロパンスルホン酸ソーダ共重合物、アルキルアミノメタクリレート4級塩重合物、アルキルアミノアクリレート4級塩・アクリルアミド共重合物、ポリビニルアミジン、キトサン、ポリグルタミン酸、アルギン酸、ペクチン、でんぷん、アクリル酸エステルとアクリルアミドとの共重合体およびメタクリル酸エステル重合体からなる群より選ばれる少なくとも一種である、請求項3記載の汚泥用脱水剤。
【請求項6】
100重量部の凝集剤(b)に対して、0.83〜20,000重量部の繊維状物(a)を含有する、請求項1記載の汚泥用脱水剤。
【請求項7】
繊維状物(a)は、長さが3〜30mm、太さが2〜300μmである、請求項1記載の汚泥用脱水剤。」

第3 異議申立人による特許異議の申立理由の概要
1 特許法第29条第2項所定の規定違反(以下、「申立理由1」という。)
(1)本件発明1〜7は、下記(3)に記載の甲第1号証及び甲第2〜7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(2)本件発明1〜7は、下記(3)に記載の甲第2号証及び甲第1、3〜7号証に記載された事項に基づいて、当業者が容易に発明できたものであるから、その特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものである。

(3)異議申立人が提出した証拠方法一覧
甲第1号証:特開昭56−13099号公報
甲第2号証:特開2012−71296号公報
甲第3号証:特開2002−339287号公報
甲第4号証:特開2005−82939号公報
甲第5号証:特開2013−76192号公報
甲第6号証:特開2000−119956号公報
甲第7号証:特開2004−25011号公報
(以下、甲各号証を単に「甲1」などという。)

2 特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(以下、「申立理由2」という。)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


本件発明1に規定されるような「表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤。」について、親水性油剤の量、繊維状物の量、繊維状物、凝集剤及び水の含水率等を特定しないすべての範囲、また、ポリエーテル・ポリエステル共重合体について、種々の組成、分子量及び共重合体を構成する各単位を特定しないすべての「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」について、脱水ケーキの含水率を低減できる作用効果を奏すると認識することはできず、本件発明1は、発明の詳細な説明において発明の課題が解決できることを当業者が認識できるように記載された範囲を超えるものであり、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない。本件発明1を引用する本件発明2乃至7も同様である。(特許異議申立書27〜29頁「(4−4−1)特許法第36条第6項第1号(サポート要件)について」の項)

3 特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(以下、「申立理由3」という。)
本件特許は、特許請求の範囲の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


本件発明1は、(A)表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)を特定するものであるが、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の分子量、共重合体を構成する各単位のモル比等を特定せずに「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」という化合物名が特定されるだけでは、ポリエーテル・ポリエステル共重合体がどの程度の親水性を示すのか不明瞭であり、どのようなポリエーテル・ポリエステル共重合体を含むのか不明瞭である。よって、本件発明1は明確ではなく、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない。本件発明1を引用する本件発明2乃至7も同様である。
(特許異議申立書30頁「(4−4−2)特許法第36条第6項第2号明確性)について」の項)

4 特許法第36条第4項第1号の所定の規定違反(以下、「申立理由4」という。)
本件特許は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載が下記の点で不備のため、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。


本件発明1は、(A)表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)を特定するものであるが、実施例1〜13には、単に親水性油剤として「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」が用いられることが記載されるのみで、具体的にどのような「ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤」で処理して本件発明1の繊維状物(a)を得るのかが理解できない。よって、本件発明1に関し、本件特許の発明の詳細な説明は、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されたものとはいえない(特許法第36条第4項第1号)。本件発明1を引用する本件発明2乃至7も同様である。(特許異議申立書30頁「(4−4−3)特許法第36条4項第1号実施可能要件)について」の項)

第4 当審の判断
1 申立理由1(特許法第29条第2項)について
(1)甲1〜甲7に記載の事項
ア 甲1に記載の事項(当審注:「…」は省略を表す。以下、同様である。)
(ア)「特許請求の範囲
汚泥に繊維と凝集剤を添加混合して汚泥の固形分を凝集脱水させることを特徴とする汚泥の処理方法。」

(イ)「発明の詳細な説明
本発明は、下水汚泥、上水汚泥、河川、湖沼、港湾、海域等の底質、工場排水汚泥などの汚泥の処理方法に関する。特に有機質や微細土粒子を含む汚泥の固形分の凝集、固液分離に適した汚泥の処理方法に関するものである。」(1欄8〜13行)

(ウ)「即ち、本発明の目的は、従来の欠点を改善し、従来の凝集剤を使用しての汚泥の凝集脱水効率を著しく向上させることができ、また脱水ケーキの後処理を容易にすることのできる汚泥の処理方法を提供するものであり、本発明は、汚泥に繊維と凝集剤を添加混合して汚泥の固形分を凝集脱水させることを特徴とする汚泥の処理方法を要旨とするものである。」(4欄3〜10行)

(エ)「本発明に使用される繊維は、石綿、ガラス、繊維、岩綿などの無機繊維、木綿、麻、シユロ、牛毛、羊毛、絹、紙、パルプ、レーヨン、錯酸人絹などの天然有機繊維または人造繊維、ポリエステル、ビニロン、ポリアミド、芳香族ポリアミド、アクリル、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニール、ポリ塩化ビニリデン繊維などの合成繊維、炭素繊維、金属繊維などで、繊維の長さが1〜50mm程度、好ましくは2〜30mm程度のものである。これらの繊維は種々の形態のものを使用することができる。一般には単繊維(通常約100デニール以下の太さのもの)を切断したもの、繊維を複数本集束し適当な集束剤で処理して切断したもの、繊維を複数本集束しよって糸状にして切断したものなどが使用されるが、その他織布、不織布、網状布などを裁断したもの、あるいはそれをほぐしたものなども使用することができる。
これらの繊維は、新しいもの、再生したもの、くず繊維、廃繊維のいづれも使用することができる。廃繊維の活用例としては、中古衣類をこまかく切断したもの、あるいは更にこれをビーターなどでたたいてほぐしたもの、自動車の廃ゴムタイヤを破砕して粉末ゴムや再生ゴムを造るときに得られるタイヤコードのくず繊維等がある。
繊維は、その表面を界面活性剤や分散剤で処理して水に分散しやすくしたものも、そのような処理をしていないものもあるがいづれも使用することができる。
汚泥に対する繊維の添加は、凝集剤によるフロツクの形成を容易にすると共に、フロツクの強度を増しフロツクの圧密性を良くする。また、水分離が良く脱水が早く、脱水ケーキの含水量が低下する。従って、脱水ケーキの取扱いが容易になる等の効果がある。
特に、有機繊維の利用は、脱水ケーキを燃焼するとき燃焼効率をたかめ、また灰の発生を少なくする。また肥料化するときにも有利である。
汚泥に対する繊維の使用量は、汚泥の種類や性状、繊維や凝集剤の種類、使用条件等によって異なるが、大体汚泥の固形分の重量に対し0.05〜150重量%程度、通常0.1〜100重量%程度の範囲で使用される。繊維量が0.05重量%を下まわるときは繊維の添加効果が余り期待できない。また、150重量%を上まわるときは添加の割合に脱水効率が目立って向上せず、かえって汚泥の粘度が上がり繊維がからんだりして後の操作に支障をきたすおそれもあり経済的でない。
汚泥に対する繊維の添加方法は、種々の方法が採用できる。たとえば汚泥に繊維を直接添加混合する方法、繊維を高分子凝集剤の水溶液に添加し分散させておいてこれを汚泥に添加混合する方法、繊維を水に添加分散させておいて(必要ならば界面活性剤、分散剤等を加えて)これを汚泥に添加する方法などの方法をとることができる。
いづれの場合も、繊維が汚泥中にできるだけ一様に分散されることが望ましい。汚泥への繊維の添加の時期は、一般に汚泥に凝集剤を添加する前か、凝集剤と共に添加する方法をとる。汚泥に凝集剤を添加混合したのち繊維を添加する場合は繊維の添加効果を発揮しにくい。但し、2種以上の凝集剤を使用する際、汚泥に対し前後2回に分けて添加し、後の凝集剤の添加によりはじめて汚泥が凝集する様な場合には、前後の凝集剤の添加の中間に繊維を添加することができる。」(4欄16行〜7欄19行)

(オ)「本発明で使用される凝集剤は、各種公知のものを使用できるが、大別すると無機質凝集剤と高分子凝集剤がある。例えば、無機質凝集剤では、硫酸アルミニウム、塩基性塩化アルミニウム、硫酸第一鉄、硫酸第二鉄、塩素化コツパラス、塩化第二鉄、明ばん、生石灰、消石灰などがある。
高分子凝集剤としては、天然あるいは合成のもので、イオン性からアニオン性、カチオン性、非イオン性、両性などの種類がある。いくつか例をあげると、アニオン性のものでは、ポリアクリル酸塩、アクリル酸・マレイン酸共重合物塩、アクリルアミド・アクリル酸ソーダ共重合物、アクリルアミド・ビニールスルホン酸ソーダ共重合物、ポリアクリルアミドの部分加水分解物、カルボキシメチルセルローズのソーダ塩、アルギン酸ソーダなどがある。カチオン性のものでは、ポリジアルキルアミノアルキルアクリレート(メタクリレート)、ポリアミノメチルアクリルアミド、ポリビニルピリジウム塩、ポリジアクリルアンモニウム塩、ポリビニルイミダゾリン、ポリアミン、ポリエチレンイミン、ポリアクリルアミドのカチオン性変性物や、カチオン性共重合物、水溶性アニリン樹脂塩酸塩、ヘキサメチレンジアミン・エピクロルヒドリン重縮合物、キトサン、カチオン澱粉などがある。ノニオン性のものでは、ポリアクリルアミド、ポリビニールアルコール、ポリエチレンオキサイド、ポリビニールピロリドン、水溶性尿素樹脂、澱粉、プルラン、グアガムなどがある。両性のものではゼラチンなどがある。

凝集剤の凝集脱水効果を向上させるために、助剤としてpH調節剤、凝集助剤、界面活性剤、水溶性塩類等を併用することができる。例えば、pH調節剤では、硫酸、塩酸、硝酸、スルファミン酸、炭酸ガス、酢酸、苛性ソーダ、炭酸ソーダ、生石灰、消石灰等がある。凝集助剤では、ベントナイト、カオリン、酸性白土、ゼオライト、硅藻土、水硝子、フライアッシュ、活性白土、活性炭等がある。界面活性剤では、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、両性などの種類があり、いづれも公知のものを使用できるが、一般にはカチオン性のものが好ましい。例えば、長鎖アルキル基を有する脂肪酸あるいは脂環族のモノアミン、ジアミン、トリアミン、アミドアミン、ポリアミノエチルイミダゾリン、長鎖ヒドロキシアルキルジアミン、ロヂンアミン、これらの酸化エチレン付加物、これらのアミンや酸化エチレン付加物の水溶性酸塩、第4級アンモニウム塩等がある。カチオン系界面活性剤の併用は、有機性汚泥やコロイド状物質汚泥に対して有効である。水溶性塩類は、K,Na,Li,Sr,NH4,Ca,Mg,Zn,Fe,Ba,Al,等の塩酸、硝酸、硫酸、スルファミン酸、酢酸などの水溶性塩類などである。」(7欄20行〜10欄16行)

(カ)「実施例 4.
表−4に示す配合割合で、水 100重量部にアコフロツクC485 0.2重量部を添加溶解し、これにPチョップを加えて分散させ繊維入り高分子凝集剤水溶液を造る。実施例2で使用したと同じ下水混合生汚泥 100gに繊維入り高分子凝集剤水溶液を7g添加して約1分間混合しフロツクを形成させ、その固液の濾過試験(自然濾過と圧密濾過)を行い、分離水量と圧密濾過後の脱水ケーキの含水率を測定した。これらの試験結果を表−4に示す。
比較のために、この実施例4の汚泥に対して、繊維を添加しない高分子凝集剤水溶液のみを同様に添加し混合したものを、実施例4と同様に試験し、その結果を表−4に併記した。」(23欄1〜15行)

イ 甲2に記載の事項
(ア)「【請求項1】
複数の繊維が集合してなり、
各繊維の外周面に繊維の長手方向に沿って延在する5〜20個の凹部を有し、
当該凹部には、汚泥が接触する際に毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する筋が繊維の長手方向に沿って延在する、ことを特徴とする汚泥用脱水助剤。
【請求項2】
再生セルロース繊維が集合してなり、含水率が30〜80質量%であることを特徴とする請求項1に記載の汚泥用脱水助剤。
【請求項3】
1mm〜50mmの長さと、1μm〜100μmの繊維径とを有する、請求項1に記載の汚泥用脱水助剤。

【請求項7】
複数の繊維が集合してなり、各繊維の外周面に繊維の長手方向に沿って形成されている5〜20個の凹部を有し、当該凹部には、汚泥が接触する際に毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する筋が繊維の長手方向に沿って延在する、ことを特徴とする汚泥用脱水助剤及び高分子凝集剤を混合してなる脱水助剤含有高分子凝集剤液を、有機性汚泥に添加して、当該有機性汚泥を凝集させた後、機械脱水することを特徴とする汚泥の脱水方法。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、下水処理施設、し尿処理施設、その他排水処理施設から発生する汚泥を脱水処理する為に使用する脱水助剤、並びに、当該脱水助剤を用いた汚泥の脱水方法及び装置に関する。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、上記公知技術の欠点を解決し、難脱水性の汚泥から含水率の低い脱水ケーキを得ることができる脱水助剤、並びに当該脱水助剤を用いる汚泥の脱水方法及び装置を提供することを目的とする。」

(エ)「【発明を実施するための形態】

【0024】
次に、繊維長手方向に延在する筋について説明する。繊維の長手方向に沿って延在する凹部の筋は、本発明の脱水助剤に汚泥が接触する際に、毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する。本発明の脱水助剤は、当該毛細管作用のため、従来の繊維状物を用いる脱水助剤と比較して吸水性能が著しく向上する。この理由はいまだ明らかではないが、汚泥と脱水助剤の接触表面積がふえると共に、毛細管現象により汚泥から水分が吸引されながら移送されること、及び、脱水助剤の内部構造が水分子の通過に好適であるためと考えられる。

【0027】
本発明の脱水助剤は、含水率が30〜80重量%であることが好ましく、40〜70重量%の範囲にあることがより好ましい。含水率が30重量%以下では、汚泥との濡れ性が悪く、脱水助剤が不均一に分散された状態になる。また、後述の高分子凝集剤溶解槽に混合する場合には、高分子凝集剤が完全に溶解して溶解液が高粘度となることもあり、溶解槽内全体に脱水助剤を均一に分散させることが困難である。一方、含水率が80重量%を超えると、繊維に含浸しない遊離の水分が多くなり、フィーダー等で機械的に供給する場合に定量供給が困難である。また、汚泥中に分散する脱水汚泥の繊維分の割合が少なくなるため、経済的に不利である。
【0028】
脱水助剤の水分を調整する方法としては、以下の方法を好ましく用いることができる。乾式紡糸方法によって製造された繊維を用いる場合には、製造後の繊維にスプレーで水を噴霧するなどして含水率を調整した後に所定長さに裁断するか、又は裁断後に水を噴霧する。湿式紡糸方法によって製造された繊維を用いる場合には、溶媒置換し、洗浄後にローラー等で圧搾するか、乾燥させて水分を除去した後に所定長さに裁断するか、裁断後に乾燥させることができる。
【0029】
本発明の脱水助剤を構成する繊維としては、再生セルロース繊維が特に好ましい。再生セルロース繊維としては、セルロースをベースポリマーとするビスコースレーヨン繊維、キュプラレーヨン繊維等の再生人造繊維、セルロースジアセテート繊維、セルローストリアセテート繊維などの半合成再生繊維などを挙げることができる。繊維に凸部や、頂点が筋状に延在する凹部を形成し、或いは含水率を調整し易い点から、ビスコースレーヨン繊維が特に好ましい。再生セルロース繊維は、生分解性を有しており、土壌中で分解して消失するので、脱水ケーキを肥料などに再利用する場合に好適である。生分解性を有していても、綿花、亜麻、羊毛などは、繊維長手方向に延在する筋すなわち水分移送路を有していないので、脱水助剤としての効果が期待できない。
【0030】
本発明の方法において、汚泥に対する脱水助剤の添加量は、各汚泥の濃度に依存して変動する。一般的には、汚泥中のSS(浮遊物質濃度)を100として、0.1〜20重量%、好ましくは1〜10重量%を添加することが好ましい。脱水助剤の添加量が0.1重量%未満の場合には、本発明の効果が得られない。一方、20重量%を超えると、汚泥中に脱水助剤を均一に混合させることが難しくなり、また経済的にも不利である。」

(オ)「【実施例】

【0052】
図9は、脱水助剤J、Kの斜視図である。繊維断面に凹部は無く、繊維長手方向に沿って延在する筋が存在しない。
[実施例1] (本発明の脱水助剤有無による比較)
表2に示す性状を有するオキシデーションディッチ方式下水処理場から発生する余剰汚泥スラリーに、SSを100として絶乾重量で3wt%となるように脱水助剤Aを添加して、汚泥スラリーを調整した。次に、高分子凝集剤(ジメチルアミノエチルアクリレートの塩化メチル四級化物/アクリルアミド共重合体、分子量400万、水道水で0.2%に調整)を使用して脱水試験を行った。汚泥200mlを300mlのビーカーに入れ、高分子凝集剤を所定量添加した後、ビーカー間の移し変えを10回行って汚泥を凝集させた。凝集した汚泥の大きさを測定した後、凝集した汚泥を60メッシュのナイロンろ布に載せて、重力をかけて脱水し、30秒後のろ過水量を測定した。重力ろ過後の汚泥を、2枚のろ布に挟み、ピストン型脱水機を用いて、2kg/cm2の圧力で1分間圧搾した。得られた脱水ケーキの剥離性の評価と含水率の測定を行った。剥離性の評価は、脱水後、2枚のろ布を開いたときに、ろ布から剥がれるケーキ量を目視測定し、ほぼ完全に剥離している場合を◎、半分程度が剥離している場合を△、半分程度より多いが完全には剥離していない場合を○、ろ布全面に付着して剥離していない場合を×と判定した。結果を表3に示す。」

ウ 甲3に記載の事項
(ア)「【請求項1】 繊維長が2〜20mmの未延伸ポリエステル繊維であって、該繊維表面には繊維重量を基準としてポリエーテル・ポリエステル共重合体が0.03重量%以上付着していると共に、水分保持率が5〜40重量%であることを特徴とする抄紙用未延伸ポリエステル繊維。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、抄紙工程での水中分散性に優れ、且つ優れた熱接着性を有する抄紙用の未延伸ポリエステル繊維に関する。」


(ウ)「【0003】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、ポリエステル繊維紙を製造する際、抄紙工程での水中分散性を損なうことなく、接着性に優れた抄紙用ポリエステル未延伸繊維を提供することを目的とする。」

(エ)「【0005】
【発明の実施の形態】…
【0006】上記ポリエステルからなる本発明の未延伸繊維は、抄紙用として使用するためにその繊維長は2〜20mm、好ましくは2〜10mmとする必要があり、繊維長が2mm未満の場合には、水中への分散性が低下するだけでなく、製造時の切断抵抗が大きくなるため、未延伸繊維が伸ばされたり単繊維同士が絡み易くなり、安定した切断が難しくなると共に、得られる未延伸繊維中に繊維塊が多くなって水中への分散性が極端に悪くなるので好ましくない。一方、繊維長が20mmを超えて長くなると、抄紙時、繊維の水中分散性が悪化するので好ましくない。。なお、通常の抄紙用ポリエステル繊維の繊維長の上限は30mmと言われているが、未延伸ポリエステル繊維の場合は、そのヤング率が低いので、繊維同士が水中で絡みやすくなって上限の繊維長が短くなるものと考えられる。
【0007】本発明の抄紙用未延伸ポリエステル繊維は、その繊維表面に繊維重量を基準としてポリエーテル・ポリエステル共重合体が0.03重量%以上、好ましくは0.05重量%以上付着している必要がある。該付着量が0.03重量%未満の場合には、抄紙工程での水中への繊維の分散が不十分となるので好ましくない。なお、付着量があまりに多くなりすぎる場合には、繊維間の接着性が阻害される傾向があるだけでなく、多量のポリエーテル・ポリエステル共重合体は抄紙工程循環水への水質負荷を増大するので、1.5重量%以下とするのが好ましい。
【0008】本発明で用いられる上記ポリエーテル・ポリエステル共重合体は、テレフタル酸および/またはイソフタル酸、低級アルキレングリコール並びにポリアルキレングリコールおよび/またはそのモノエーテルからなる。好ましく用いられる低級アルキレングリコールとしては、例えばエチレングリコール、プロピレングリコール、テトラメチレングリコールがあげられる。一方、ポリアルキレングリコールとしては、平均分子量が600〜6000のポリエチレングリコール、ポリエチレングリコール・ポリプロピレングリコール共重合体、ポリプロピレングリコールが例示できる。さらにポリアルキレングリコールのモノエーテルとしては、ポリエチレングリコール、ポリプロピレングリコール等のモノメチルエーテル、モノエチルエーテル、モノフェニルエーテル等があげられる。なお、該共重合体はテレフタレート単位とイソフタレート単位のモル比が95:5〜40:60の範囲内が水中分散性の点から好ましいが、アルカリ金属塩スルホイソフタル酸、アジピン酸、セバシン酸等を少量共重合していてもよい。以上の成分からなるポリエーテル・ポリエステル共重合体の平均分子量は、使用するポリアルキレングリコールの分子量にもよるが、通常1000〜20000、好ましくは3000〜15000である。平均分子量が1000未満では水中分散性の向上効果が十分でなく、一方20000を越えると該重合体の乳化分散が難しくなる。
【0009】このようなポリエーテル・ポリエステル共重合体は、通常水分散液として繊維表面に付着させるが、該共重合体は比較的容易に水中へ分散させることができる。なお、得られる水性分散液の安定性をより向上させるため、界面活性剤や有機溶媒を少量添加してもよく、また油剤等の各種処理剤を混合使用しても何ら差しつかえない。付着方法はディップ、スプレー、ローラータッチ等の通常の方法が採用されるが、均一に付着させるためにはディップによる方法が適している。」

(オ)「【0012】
【実施例】次に、実施例により本発明を具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。

【0017】[実施例1〜4、比較例1〜3]固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートチップを乾燥後、300℃で溶融し、孔数が1192の紡糸口金を通して、180g/分で吐出し、1150m/分の速度で引取り、単繊維の繊度が約1.3dtex、Δnが0.015の未延伸ポリエステル繊維を得た。該未延伸ポリエステル繊維を約20万dtexのトウとなし、モル比でテレフタル酸80モル%、イソフタル酸20モル%の酸成分、平均分子量3000のポリエチレングリコール70重量%(共重合体重量基準)とエチレングリコールのグリコ−ル成分からなる平均分子量約12000のポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液中を70m/分の速度で通過させ、一対のローラーで絞り率を調整する方法によりトウの水分率を種々変更した。また、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の水性分散液の濃度を種々変更することにより付着量を変えた。ポリエーテル・ポリエステル共重合体が付与されたトウをドラム式カッターに供給して5mmに切断した。各々の例におけるポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量、水分率、水中分散性および裂断長の測定結果をまとめて表1に示す。

【0019】ポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.04重量%、水分率14重量%の実施例1では、ポリエステル繊維の水中分散性は良好で、カッターでの水飛散も無く、抄紙後のポリエステル繊維紙の紙強力(裂断長)も優れた値を示した。ポリエーテル・ポリエステル共重合体付着量0.02重量%、水分率15重量%の比較例1では、ポリエステル繊維の水中分散性が不良で、抄紙されたポリエステル繊維紙の目面が悪く正常品として使用する品質に達しなかった。」

エ 甲4に記載の事項
(ア)「【請求項1】
繊維横断面が、3個の凸部を有し、隣り合う凸部を結ぶ辺が直線または中心方向に湾曲している異形断面ポリエステル繊維であって、繊維横断面の外接円の半径と内接円の半径の比が1.5以上、捲縮数が5〜15山/25mm、繊維長が3〜20mmであることを特徴とする抄紙用異形断面ポリエステル繊維。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、異形断面を有する抄紙用ポリエステル繊維に関する。さらに詳しくは、抄紙時の分散性に優れ、嵩高性、光沢に優れるシートが得られる抄紙用ポリエステル繊維に関する。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明の目的は、抄紙における分散性が良好であり、しかも嵩高性に優れ、適度な光沢を有するシートが得られる抄紙用異形断面ポリエステル繊維を提供することにある。」

(エ)「【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
本発明の異形断面ポリエステル繊維のポリエステルは、繰り返し単位の85モル%以上がエチレンテレフタレートからなるポリエステルが好ましい。エチレンテレフタレート単位が85モル%より少なくなると、融点等の熱的特性が低下するため好ましくない。該ポリエステルは、酸化チタンなどの艶消し剤を含んでいてもよいが、光沢の面から艶消し剤の含有量は1重量%以下であることが望ましい。また、蛍光増白剤や紫外線吸収剤などの添加剤を含んでいてもよい。
【0009】
また、本発明のポリエステル繊維は、繊維横断面が3個の凸部を有し、隣り合う凸部を結ぶ辺が直線または中心方向に湾曲している異形断面ポリエステル繊維である。この辺が1つでも中心方向と逆の方向(すなわち外側)に湾曲していると、繊維の水中分散性が悪化し、嵩高性も低下する。さらに、繊維横断面の外接円の半径(図2のR)と内接円の半径(図2のr)の比(以下、異形度という)R/rが1.5以上である必要がある。異形度が1.5より小さくなると、繊維の水中分散性が悪化する。異形度の好ましい範囲は1.6以上である。ただし、異形度が大きいものは紡糸が難しくなる傾向にあり、より好ましくは1.6〜3.0の範囲、さらに好ましくは1.6〜2.5の範囲である。また、上記繊維横断面形状としたとき、ギラツキ感がなく、適度な光沢を有するシートを得ることができる。
【0010】
さらに、本発明において繊維横断面は、例えば図2に示すような非対称の断面形状であることが、分散性を向上でき、シートの光沢を良好なものとできる点でより好ましい。
【0011】
本発明の異形断面ポリエステル繊維は、嵩高性をさらに高めるため捲縮が付与されており、その捲縮数は5〜15山/25mm、好ましくは6〜13山/25mmである。捲縮数が5山/25mmより少なくなると、十分な嵩高性が得られず、逆に15山/25mmより多くなると、繊維同士が絡み易くなるため均一な分散が難しい。
【0012】
また、繊維長は3〜20mm、好ましくは5〜15mmである。繊維長が3mmより短くなると、ドラム式カッターなどで切断する際の切断抵抗が大きくなって安定した切断が難しくなる。逆に繊維長が20mmよりも長くなると、分散する際の繊維同士の絡みが起こり易くなって均一な分散が難しくなる。
【0013】
以上に説明した、断面形状、捲縮率、繊維長のそれぞれの奏する効果が相まって、抄紙時のポリエステル繊維の分散性を著しく向上でき、しかも、該繊維からは嵩高性の高く、光沢に優れた、極めてバランスのとれたシートが得られるのである。
【0014】
さらに、本発明のポリエステル繊維の表面には、ポリエ−テル・ポリエステル共重合体が0.03重量%以上付与されていることが、水中分散性を向上させる上でより好ましい。付与量の上限は特にないが、環境への影響やコスト等を考慮すれば、実用的には0.5重量%以下とするのが望ましい。」

(オ)「【実施例】
【0016】
以下、実施例により、本発明を更に具体的に説明する。なお、実施例における各項目は次の方法で測定した。
(1)固有粘度
オルソクロロフェノールを溶媒として使用し、35℃で測定した。
(2)分散性、密度、および、光沢
熊谷理機工業式会社製の角形シートマシンを使って、ポリエステル繊維70重量%とNBKP30重量%を水中で撹拌・混合して分散させ、大きさが約25cm×約25cmで、目付けが約50g/m2のシートを作成する。該シートを2枚の吸取紙の間にはさみ込み、付属しているコーチロールで加圧しながら5往復する。得られたシートを室温乾燥後、ドラムの表面温度が120℃に調節された、熊谷理機工業株式会社製の高温用回転型乾燥機を使って熱処理した。熱処理されたシートについて分散性および密度を評価した。
(分散性)
上記シート中の束状の未分散ポリエステル繊維の数を数えて、下記の4段階で評価する。
極めて良好:未分散繊維束はなく、一本一本の繊維の分散が良い状態。
良好 :未分散繊維束はないが、一本一本の繊維の分散がやや悪い状態。
やや良好:未分散繊維束が1〜3個ある状態。
不良 :未分散繊維束が4個以上ある状態。
(密度)
JIS P−8118に示される方法で測定した。密度の低いものは、嵩高性が良好であり、0.15g/cm3以下を合格とした。密度が0.15g/cm3を越えると、ペーパーライクな風合いとなり、好ましくない。
(光沢)
任意に選んだ5人により目視による評価を行い、適度な光沢を有するものを「良好」、ギラツキ感が強いものを「不良」とした。
【0017】
[実施例1〜3、比較例1]
固有粘度が0.64のポリエチレンテレフタレートペレットを170℃の温度で乾燥後、300℃の温度で溶融し、孔数が1500個の図1に示すY形ノズルから吐出量720g/分で吐出し、冷却風を当てて固化させ、770m/分の速度で引取り、未延伸糸を得た。この際、吐出ポリマー温度(紡糸温度)および冷却風を当てる位置(紡糸口金面からの距離)および冷却風温度を表1のように変更し、異形度の異なる未延伸糸を得た。得られた未延伸糸を引き揃えて約50万デシテックスのトウとなし、温水中で3.4倍に延伸し、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の割合が80重量%のエマルジョンで処理後、押し込み式捲縮機により座屈捲縮を施し、8.5山/25mmの捲縮を付与した。それぞれの該捲縮トウを130℃の温度で弛緩熱処理後、ドラム式カッターで10mmの長さに切断した。得られたポリエステル繊維の繊度は2.0〜2.2デシテックスの範囲にあり、ポリエーテル・エステル共重合体の付着量は0.20〜0.25重量%の範囲にあった。結果を表1に示す。」

オ 甲5に記載の事項
(ア)「【請求項1】
放射性炭素(炭素14)を含むバイオマス由来の成分を原料とし互いに融点の異なる2種のポリオレフィンを含んでなる複合繊維であって、該2種のポリオレフィン中、相対的に低融点のポリオレフィンが繊維横断面の外周の少なくとも一部を構成することを特徴とする複合繊維。」

(イ)「【技術分野】
【0001】
本発明は、バイオマス由来の複合短繊維およびそれを用いた不織布に関する。」

(ウ)「【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記従来技術を背景になされたものであり、その目的は、バイオマス由来物質を高い含有率で含む複合繊維を使用することで、従来ポリオレフィン複合繊維と同等の特長を保持しながら、石油資源の消費を抑え、かつ、焼却・廃棄に伴う大気中における二酸化炭素の正味の増大を抑制することである。」

(エ)「【0019】
ここで、本発明におけるバイオマス由来成分の含有割合を特定するにあたって、放射性炭素(炭素14)の測定を行うことの意味について、以下に説明する。バイオマス由来成分とはその発生形態から廃棄物系、未利用系、資源作物系の3種に分類される。バイオマス資源は具体的には、セルロース系作物(パルプ、ケナフ、麦わら、稲わら、古紙、製紙残渣など)、リグニン、木炭、堆肥、天然ゴム、綿花、サトウキビ、油脂(菜種油、綿実油、大豆油、ココナッツ油など)、グリセロール、炭水化物系作物(トウモロコシ、イモ類、小麦、米、キャッサバなど)、バガス、テルペン系化合物、パルプ黒液、生ごみ、排水汚泥などが挙げられる。また、バイオマス資源からグリコール化合物を製造する方法は、特に限定はされないが、菌類や細菌などの微生物などの働きを利用した生物学的処理方法、酸、アルカリ、触媒、熱エネルギーもしくは光エネルギーなどを利用した化学的処理方法、または微細化、圧縮、マイクロ波処理もしくは電磁波処理など物理的処理方法など既知の方法が挙げられる。

【0036】
また本発明の複合繊維は、長繊維として用いてもよいし、該長繊維を熱接着処理に付することによりスパンボンド不織布として用いてもよい。また、数千〜数百万本を集合させた繊維束として切断し繊維長5〜150mm程度の短繊維としてから、紡績工程に付することにより紡績糸として用いてもよいし、該短繊維を乾式法などにより形成した不織布として用いてもよい。また、本発明の複合繊維は単独で用いてもよいが、他の繊維と混合して用いる用途にも適している。従って、混紡、交撚、精紡交撚を行ってもよく、さらに交織、交編して用いてもよいし、混合不織布として用いてもよい。本発明の複合繊維に混合される他の繊維としては、ポリエステル、ナイロン、アクリル、アラミド等の合成繊維;ビスコースレーヨン、キュプラ、ポリノジック等のセルロース系繊維;リヨセル等の溶剤紡糸セルロース系繊維;絹、綿、麻、羊毛その他の獣毛繊維などが挙げられる。」

(オ)「【0046】
[実施例1]
バイオPEポリマー(融点:130℃)を鞘、バイオPPポリマー(融点:160℃)を芯となるよう50/50の重量比率で別々に公知の同芯芯鞘型の複合紡糸口金に供給し、0.3mmの丸穴キャピラリーを1032H孔を有する口金から700g/分の吐出量で押し出した。これを30℃の冷却風で空冷し、1150m/分で巻き取って未延伸糸を得た。この未延伸糸を、2段延伸を行い、ポリエーテル・ポリエステル共重合体/アルキルホスフェートカリウム塩=95/5(重量比率)からなる油剤を0.25重量%付与し、さらに105℃の温風で乾燥した後、5mmの繊維長にカットした。得られた短繊維の繊度は、2.2デシテックスであった。
熊谷理機工業株式会社製の角型シートマシンを用い、上記方法で得られた短繊維と、木材パルプとを80:20の重量割合で水中に投入し、よく撹拌・混合して分散させ、大きさが約25cm×約25cmで、目付が27g/m2のシートを作成した。次に、該シートを室温中で一昼夜以上乾燥させた後、140℃の熱風循環式乾燥機の中で5分間の熱処理を行い、湿式不織布を得た。不織布地合いはレベル1であり、バイオマス由来ポリオレフィンを含有する。結果を表1に示した。」

カ 甲6に記載の事項
(ア)「【請求項1】繊維の表面上に非結晶質過酸化チタン微粒子層、ゼオライト層およびアルキルシリケート層からなる群から選ばれる少なくとも1種の層を有し、さらにその表面に親水性樹脂またはフッ素系樹脂および光触媒半導体が付着していることを特徴とする繊維構造物。
【請求項2】繊維の表面に親水性樹脂またはフッ素系樹脂およびマイクロカプセル化した光触媒半導体が付着していることを特徴とする繊維構造物。
【請求項3】該親水性樹脂が、ポリアルキレングリコール、芳香族ジカルボン酸およびアルキレングリコールからなる共重合体である請求項1または2に記載の繊維構造物。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】本発明は、優れた防汚性(汚れ除去性)を有する繊維構造物に関するものである。また、防汚性だけでなく消臭性、抗菌性をも兼ね備えた繊維構造物に関する。」

(ウ)「【0010】
【発明が解決しようとする課題】本発明は、かかる従来技術の背景に鑑み、防汚性、特に水洗濯により汚れが落ちやすい繊維構造物を提供することを目的とする。また、防汚性と同時に消臭性、抗菌性という多機能をも兼ね備えた清潔な繊維構造物を提供することを目的とする。」

(エ)「【0015】
【発明の実施の形態】本発明の繊維構造物を構成する繊維は、合成繊維、天然繊維を使用することができるが、好ましくはポリエステル系繊維である。かかるポリエステル系繊維には、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレートやこれらを主成分とした共重合ポリエステル系繊維が含まれ、ポリエステル系繊維以外の合成繊維、再生繊維あるいは天然繊維が混紡若しくは混繊されていてもよい。
【0016】本発明でいう繊維構造物は、織物、編物または不織布などの布帛はもちろん、帯状物、紐状物、糸状物などの繊維を含む物であれば、その構造、形状を問わない。また、合成繊維のほかに、木綿、羊毛、絹等の天然繊維またはレーヨン、テンセルなどの半合成繊維を組み合わせたものでも差し支えない。
【0017】本発明の繊維構造物を構成する繊維は、その表面に親水性樹脂またはフッ素系樹脂を有するものである。
【0018】ここでいう親水性樹脂とは、親水性を有する樹脂であり、例えばポリアルキレングリコール系または、アルキレンオキサイド付加物等の樹脂である。なかでもポリアルキレングリコール、芳香族ジカルボン酸およびアルキレングリコールの共重合体が好ましく用いられる。」

キ 甲7に記載の事項
(ア)「【請求項1】
粘土を含む懸濁質を含有している濁水の処理方法であり、濁水を、カルシウムを含む無機系凝集剤を主成分とする凝集剤で凝集処理した後、膜濾過処理する濁水の処理方法。」

(イ)「【0001】
【発明の属する技術分野】
本発明は、トンネルやダム工事のように、粘土混じりの濁水が生じるような施工現場において好適な濁水の処理方法、及び濁水の処理装置に関する。」

(ウ)「【0002】
【従来の技術及び発明が解決しようとする課題】

【0007】
本発明は、トンネルやダム工事現場等で生じる粘土を含む濁水の処理方法を提供することを課題とする。」

(エ)「【0008】
【課題を解決するための手段】

【0017】
凝集剤は、カルシウムを含む無機系凝集剤と有機系凝集剤の混合物にすることが望ましい。混合物であれば、1つの凝集剤投入装置のみでよく、設備費用が軽減される。また両凝集剤を併せて用いることにより、無機系凝集剤の粘性を落とす機能と有機系凝集剤の適度な大きさのフロックを形成する機能とが相俟って、その後のダイナミック濾過を行うのに好適な状態の被処理水を得ることができる。また、混合物中、カルシウムを含む無機系凝集剤の含有量が5質量%以上であることが好ましい。カルシウムを含む無機系凝集剤としては、硫酸カルシウムや塩化カルシウム等が挙げられる。
【0018】
他の無機系凝集剤としては、ポリ塩化アルミニウム、ポリ塩化鉄、硫酸第二鉄、硫酸アルミニウム、ベントナイト、シリカ等が挙げられる。有機系凝集剤としては、ポリアクリル酸エステル系、ポリメタクリル酸エステル系、ポリアクリルアミド系、ポリアミン系、ポリジシアンジアミド系等のカチオン性高分子凝集剤、ポリアクリル酸ソーダ系、ポリアクリルアミド系等のアニオン性高分子凝集剤、ポリアクリルアミド系のノニオン性高分子凝集剤、アミン系等の低分子有機凝集剤等が挙げられる。」

(2)甲1及び甲2に記載された発明
ア 甲1発明
甲1の上記(1)ア(ア)の特許請求の範囲の記載によれば、汚泥の処理方法として、汚泥に繊維と凝集剤を添加混合して汚泥の固形分を凝集脱水させることを特徴とする汚泥の処理方法が記載されており、また、同(エ)の「汚泥に対する繊維の添加方法は、種々の方法が採用できる。たとえば汚泥に繊維を直接添加混合する方法、繊維を高分子凝集剤の水溶液に添加し分散させておいてこれを汚泥に添加混合する方法、繊維を水に添加分散させておいて(必要ならば界面活性剤、分散剤等を加えて)これを汚泥に添加する方法などの方法をとることができる。」の記載によると、汚泥に対する繊維の添加方法として、繊維を高分子凝集剤の水溶液に添加し分散させておいてこれを汚泥に添加混合する方法をとることができると理解できる。
以上の記載を、汚泥に添加する「繊維」及び「高分子凝集剤」に着目して整理すると、甲1には、以下の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

<甲1発明>
「繊維を高分子凝集剤の水溶液に添加し分散させておいてこれを汚泥に添加混合して汚泥の固形分を凝集脱水させる汚泥の処理方法に使用される繊維及び高分子凝集剤。」

イ 甲2発明
甲2の上記(1)イ(ア)の【請求項7】には、「複数の繊維が集合してなり、各繊維の外周面に繊維の長手方向に沿って形成されている5〜20個の凹部を有し、当該凹部には、汚泥が接触する際に毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する筋が繊維の長手方向に沿って延在する、ことを特徴とする汚泥用脱水助剤及び高分子凝集剤を混合してなる脱水助剤含有高分子凝集剤液を、有機性汚泥に添加して、当該有機性汚泥を凝集させた後、機械脱水することを特徴とする汚泥の脱水方法」が記載されており、同(エ)の【0027】には、「本発明の脱水助剤は、含水率が30〜80重量%であることが好まし」いと記載されている。
そして、上記【0027】の含水率に関する記載を考慮しつつ、同【請求項7】の記載を、汚泥の脱水方法に用いる脱水助剤含有高分子凝集剤液に着目して整理すると、以下の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されているといえる。

<甲2発明>
「複数の繊維が集合してなり、各繊維の外周面に繊維の長手方向に沿って形成されている5〜20個の凹部を有し、当該凹部には、汚泥が接触する際に毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する筋が繊維の長手方向に沿って延在する汚泥用脱水助剤及び高分子凝集剤を混合してなる脱水助剤含有高分子凝集剤液において、前記脱水助剤は、含水率が30〜80重量%である、脱水助剤含有高分子凝集剤液。」

(3)甲1を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比すると、甲1発明の「繊維」は、本件発明1の「繊維状物(a)」に相当し、甲1発明の「高分子凝集剤」は、本件発明1の「凝集剤」に含まれる。また、甲1発明の「高分子凝集剤の水溶液」が、「水」を含むことは明らかであるから、本件発明1の「水」に相当するといえる。さらに、甲1発明の「繊維及び高分子凝集剤」は、汚泥に添加混合することで汚泥の固形分を凝集脱水するものであるから、本件発明1の「汚泥用脱水剤」に相当するといえる。
そうすると、両者は「繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1の「繊維状物(a)」は、「表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理」したものであるのに対し、甲1発明においては、当該発明特定事項を有するか否か不明である点。

(イ)判断
以下、相違点1について検討する。
甲1には、繊維の表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理するとの記載はないから、上記相違点1は実質的な相違点である。
次に、甲1発明において、相違点1に係る構成が、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。本件発明1は、本件明細書の記載によれば、「本発明の目的は、汚泥の脱水ケーキの含水率を低減できる汚泥用脱水剤を提供することにある。また本発明の目的は、追加のタンクや装置の設置を行うことなく、簡単に汚泥の脱水ケーキの含水率を低減できる汚泥用脱水剤を提供すること」(【0005】)を発明の課題とし、この課題を「表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤」(【0006】)という脱水助剤を用いることにより解決したものであり、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物を用いることを技術的な特徴とするものであるといえる。一方、甲1の上記(1)ア(エ)には、「繊維は、その表面を界面活性剤や分散剤で処理して水に分散しやすくしたものも、そのような処理をしていないものもあるがいづれも使用することができる。」(5欄20行〜6欄3行)との記載がある。この記載からは、甲1発明において使用する「繊維」は、表面を界面活性剤や分散剤で処理して水に分散しやすくすることが記載されているものの、処理をしない場合と同列に記載されているから、甲1より、理解できることは結局、任意の繊維が使用できるということにとどまり、甲1に記載される「界面活性剤」や「分散剤」に着目し、汚泥中の分散剤を考慮し、さらに具体的な物質の探索までを行おうとする動機付けが、甲1にあるとはいえない。また、甲1には、当該「界面活性剤」や「分散剤」がいかなるものであるか具体的な記載がなく、甲1に記載の界面活性剤や分散剤が、本件発明でいうところの親水性油剤に相当するものであるのか、甲1の記載からは直接的に理解することができない。なお、甲1の上記(1)ア(オ)には、「凝集剤の凝集脱水効果を向上させるために、助剤としてpH調節剤、凝集助剤、界面活性剤、水溶性塩類等を併用することができる。…界面活性剤では、カチオン性、アニオン性、ノニオン性、両性などの種類があり、いづれも公知のものを使用できるが、一般にはカチオン性のものが好ましい。」との記載があるが、当該記載は、凝集剤と併用できる界面活性剤等に関する記載にすぎず、繊維の表面を処理するための界面活性剤に関する記載とは認められない。
さらに、甲1には、甲1発明において、上記相違点1に係る構成を採用する動機付けとなるような記載も示唆もないのであるから、甲3〜7に記載の事項を組み合わせることができるとはいえないが、甲3〜7の記載をみてみると、甲3には、抄紙用未延伸ポリエステルに関する事項が、甲4には、抄紙用異形断面ポリエステル繊維に関する事項が、甲5には、ポリオレフィン複合繊維および不織布に関する事項が、甲6には、防汚性繊維構造物に関する事項が、甲7には、濁水の処理方法に関する事項が、それぞれ記載されている。しかしながら、いずれの証拠にも汚泥用脱水剤に関する記載はなく、汚泥用脱水剤に関する甲1発明に、異なる技術分野に関する甲3〜7に記載の事項を適用する動機付けも見い出し得ないから、甲3〜7の記載を考慮したとしても、上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。
そして、上記相違点1に係る本件発明1の構成に関連して、本件発明1は、親水性油剤としてポリエーテル・ポリエステル共重合体を付与した繊維状物を用いた実施例4は親水性油剤を付与していない繊維状物を用いた比較例2に比べて、優れた脱水効果を示しているが、この効果は、繊維状物について、表面を界面活性剤や分散剤で処理したもの、また処理しないものもいずれも用いることができるとされる甲1発明及び甲3〜7に記載の事項から予測することができない。

(ウ)小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点1に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから、本件発明1は、甲1発明及び甲3〜7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、「汚泥用脱水剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1の「汚泥用脱水剤」に係る事項を含むため、本件発明1が、甲1発明及び甲3〜7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2〜7も、甲1発明及び甲3〜7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

(4)甲2を主引用例とした場合
ア 本件発明1について
(ア)対比
本件発明1と甲2発明とを対比すると、甲2発明の「脱水助剤」は、「複数の繊維が集合してな」るものであるから、本件発明1の「繊維状物(a)」に相当し、甲2発明の「高分子凝集剤」は、本件発明の「凝集剤」に含まれる。また、甲2発明の「脱水助剤」は「含水率が30〜80重量%」であり、水を含むものといえるから、本件発明1の「水を含有する」に相当する。さらに、甲2発明の「脱水助剤含有高分子凝集剤液」は、甲2の上記(1)イ(ウ)に記載されるように、「難脱水性の汚泥から含水率の低い脱水ケーキを得る」ためのものであるから、本件発明1の「汚泥用脱水剤」に相当するといえる。
そうすると、両者は「繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤。」の点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点2>
本件発明1の「繊維状物(a)」は、「表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理」したものであるのに対し、甲2発明においては、当該発明特定事項を有するか否か不明である点。

(イ)判断
以下、相違点2について検討する。
甲2には、繊維の表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理するとの記載はないから、上記相違点2は実質的な相違点である。
次に、甲2発明において、相違点2に係る構成が、当業者にとって容易に想到し得るものであるか否かについて検討する。甲2発明は、「本発明は、上記公知技術の欠点を解決し、難脱水性の汚泥から含水率の低い脱水ケーキを得ることができる脱水助剤、並びに当該脱水助剤を用いる汚泥の脱水方法及び装置を提供すること」(【0010】)を発明の課題とし、この課題を「複数の繊維が集合してなり、各繊維の外周面に繊維の長手方向に沿って延在する5〜20個の凹部を有し、当該凹部には、汚泥が接触する際に毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する筋が繊維の長手方向に沿って延在する、ことを特徴とする汚泥用脱水助剤」(【0013】)を使用することにより解決している。すなわち、甲2発明は、「繊維」を特定する事項として、「各繊維の外周面に繊維の長手方向に沿って形成されている5〜20個の凹部を有し、当該凹部には、汚泥が接触する際に毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する筋が繊維の長手方向に沿って延在する」ことを含み、甲2の上記(1)イ(エ)の【0024】には、「繊維の長手方向に沿って延在する凹部の筋は、本発明の脱水助剤に汚泥が接触する際に、毛細管作用により水分を移送する水分移送路として作用する。本発明の脱水助剤は、当該毛細管作用のため、従来の繊維状物を用いる脱水助剤と比較して吸水性能が著しく向上する。」と記載されている。これらの記載から、繊維の外周面に繊維の長手方向に沿って形成された凹部は、毛細官作用により、従来の脱水助剤よりも吸水性能が高まることが理解できる。また、甲2発明は、「繊維」の含水率の範囲についても特定しており、同【0027】によると、繊維の含水率の範囲を特定することで、汚泥との濡れ性の向上や脱水助剤の均一な分散を可能にするものであると理解できる。
このように、甲2発明の「繊維」は、その外周面に繊維の長手方向に沿って凹部を形成すること、及び含水率を特定の範囲とすることにより、汚泥との濡れ性の向上、脱水助剤の均一な分散、及び高い吸水性能を発揮し、難脱水性の汚泥から含水率の低い脱水ケーキを得て、既に発明の課題を解決しているのであるから、この様な技術的特徴を置換して、または、さらに上記相違点2に係る本件発明1の構成を採用しようとする動機付けは、甲2にあるとはいえない。また仮に、甲2発明の「繊維」において、「ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理」したとしても、甲2発明の「繊維」の外周面に繊維の長手方向に沿って形成された凹部や特定の範囲の含水率が、依然として、汚泥との濡れ性の向上、脱水助剤の均一な分散、及び高い吸水性能を発揮するように両立するといえる根拠もなく、むしろ、「ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理」が、繊維」の外周面に繊維の長手方向に沿って形成された凹部や特定の範囲の含水率が本来であれば発揮し得た作用を阻害することすら考えられるから、甲2に触れた当業者が、甲2発明における繊維に「ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理」を施すことを想起し得ないというべきである。
以上のとおり、甲2発明において、上記相違点2に係る構成を採用する動機付けはない。
また、上記(3)ア(イ)で説示したように、甲1には相違点2に係る構成は記載されておらず、甲3〜7のいずれの証拠にも汚泥用脱水剤に関する技術分野に関する記載はないから、甲1、3〜7の記載を考慮したとしても、上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえない。

(ウ)小括
以上のとおり、少なくとも上記相違点2に係る本件発明1の構成は、当業者が容易に想到し得たものであるとはいえないから、本件発明1は、甲2発明及び甲1、3〜7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

イ 本件発明2〜7について
本件発明2〜7は、「汚泥用脱水剤」に係る発明であるが、いずれの発明も、発明特定事項に、少なくとも本件発明1の「汚泥用脱水剤」に係る事項を含むため、本件発明1が、甲2発明及び甲1、3〜7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない以上、本件発明2〜7も、甲2発明及び甲1、3〜7に記載の事項に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

2 申立理由2(特許法第36条第6項第1号)について
(1)本件発明の課題について
本件明細書の【0002】の【背景技術】には、「処理方法の変化あるいは下水、排水自体の変化により、近年、汚泥の脱水、減量化がより困難になってきており、脱水性の低い、すなわち汚泥の含水率が高い汚泥の廃棄量が増加していることが問題となっている」と記載され、それを受けて同【0005】には、【発明が解決しようとする課題】として、「本発明の目的は、汚泥の脱水ケーキの含水率を低減できる汚泥用脱水剤を提供することにある。また本発明の目的は、追加のタンクや装置の設置を行うことなく、簡単に汚泥の脱水ケーキの含水率を低減できる汚泥用脱水剤を提供すること」が、本件発明の課題として記載されているといえる。

(2)本件発明の課題を解決する手段に関する発明の詳細な説明の記載について
上記(1)の発明の課題を解決するために、同【0006】には、「凝集剤(b)と共に、表面を親水性油剤で処理した繊維状物(a)を脱水助剤として用いると、汚泥中の繊維の分散性を向上させることができ、汚泥の含水率を低減できることを見出し、本発明を完成した。すなわち本発明は、表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤である。」と記載されており、親水性油剤で処理した繊維状物の汚泥中での分散性を向上させることで、汚泥の含水率を低減できることが記載されている。
さらに、発明の詳細な説明の実施例には、表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤を、繊維状物(a)、凝集剤(b)の添加方法等で比較したもの(【0019】〜【0023】【表1】)、親水性油剤を付与した繊維と付与していない繊維とを比較したもの(【0024】〜【0027】【表2】)、繊維の素材、繊維断面形状、添加方法、添加率等の種々の条件を調整し比較したもの(【0028】〜【0037】【表3】)等が記載されており、表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤に関する実施例が比較例よりも高い脱水性を示すことから、表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤を用いることで、汚泥の脱水ケーキの含水率を低減するという本件発明の課題を解決できるものと理解できる。

(3)当業者において本件明細書の発明の詳細な説明に記載される本件発明の課題を解決することができると認識できる範囲と本件発明の対比
上記(2)で述べたとおり、「表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物(a)、凝集剤(b)および水を含有する汚泥用脱水剤」の使用によれば、汚泥の脱水ケーキの含水率を低減するという本件発明の課題を解決できると当業者が理解することができるが、この点は、本件発明の発明特定事項として含まれている。
そうすると、本件発明は、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであって、本件明細書の発明の詳細な説明に記載されたものであるといえるから、特許請求の範囲の記載は、サポート要件に適合するものということができる。
なお、上記第3の2において申立人が主張する、本件発明1が、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤の量、繊維状物の量、繊維状物、凝集剤及び水の含有比率、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の組成、分子量及び各単位のモル比等特定しているか否かについては、上述のサポート要件に関する判断を左右するものではないが、一応検討する。本件発明は、繊維状物、凝集剤および水を含有する汚泥用脱水剤において、繊維状物をポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理することにより発明の課題を解決できると理解できることは、上記(2)で述べたとおりであるが、繊維状物の量、繊維状物、凝集剤及び水の含水率等の特定がないとしても、(最適な条件でない場合も含めて)、これらの条件が同じでありながら繊維状物の表面を親水性油剤で処理していない汚泥用脱水剤に比べれば、本件発明の効果を奏することが理解できる。また、親水性油剤の量や繊維状物の量、及び凝集剤や水の含有比率は、汚泥用脱水剤として適した範囲が想定されているのであって、汚泥用脱水剤としての機能しないような極端な範囲のものは想定されていないと理解できる。さらに、本件発明においては、ポリエーテル・ポリエステル共重合体の組成や分子量は、繊維状物の表面処理に用いられる親水性油剤として機能するものを想定するのであって、親水性油剤として機能しないものは想定されないと理解すべきである。
以上のとおり、異議申立人が主張する点においても、本件特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合していないということはできない。
したがって、特許法第36条第6項第1号所定の規定違反(サポート要件違反)に係る申立理由2には、理由がない。

3 申立理由3(特許法第36条第6項第2号)について
本件発明1の「表面を、ポリエーテル・ポリエステル共重合体である親水性油剤で処理した繊維状物」という記載は、「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」という化合物である「親水性油剤」で表面を処理した「繊維状物」を指すと理解でき、その記載の技術的意味は明確であるといえる。異議申立人の主張する「モル比等を特定せずに「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」という化合物名が特定されるだけでは、ポリエーテル・ポリエステル共重合体がどの程度の親水性を示すのか不明瞭であ」るとの主張は、上記本件発明1の明確性の判断を左右するものではないが、一応検討すると、本件明細書の【0010】には、親水性油剤としての「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」として好適な各種共重合体、同【0011】には、共重合体の「テレフタレート単位:イソフタレート単位」及び「テレフタレート単位+イソフタレート単位:ポリアルキレングリコール単位」のそれぞれの好適な範囲及び共重合体の好適な平均分子量の範囲、同【0012】には、親水性油剤の量及び繊維状物に親水性油剤を付与する方法が、それぞれ記載されており、これらの明細書の記載から、「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」が「親水性油剤」として作用することをより一層明確に把握できる。よって、異議申立人の主張は採用し得ない。
以上のとおり、本件特許請求の範囲の記載が明確性要件に適合していないということはできない。
したがって、特許法第36条第6項第2号所定の規定違反(明確性要件違反)に係る申立理由3には、理由がない。

4 申立理由4(特許法第36条第4項第1号)について
(1)実施可能要件の判断基準
実施可能要件の判断基準は、以下のとおりである。
発明の詳細な説明の記載が実施可能要件に適合するか否かは、明細書の発明の詳細な説明に、当業者が、明細書の発明の詳細な説明の記載及び出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、その発明を実施することができる程度に発明の構成等の記載があるか否かを検討して判断すべきものであるが、ここでいう「実施」とは、物の発明においては、その物を作ることができ、かつ、その物を使用できることである。
そして、発明の詳細な説明の記載が実施可能要件を満たすといえるためには、発明の詳細な説明にその物を生産する方法及び使用する方法についての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても、明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき、当業者がその物を作ることができ、かつ、その物を使用できるのであれば,実施可能要件を満たすということができる。

(2)実施可能要件に関する判断
本件明細書の【0009】には、本件発明の「繊維状物」の種類、長さ及び太さが具体的に記載されており、同【0010】〜【0011】には、「繊維状物」の表面を処理する「親水性油剤」として、各種「ポリエーテル・ポリエステル共重合体」が記載され、同【0012】には、親水性油剤の量及び「繊維状物」に親水性油剤に付与する方法が記載され、同【0013】には、「凝集剤」の種類及び含有量が記載されている。さらに、同【0014】〜【0016】には、「汚泥用脱水剤の製造」が記載されている。これらの本件発明に関する一般的な記載から、本件発明の「汚泥用脱水剤」を製造でき、かつ、「汚泥用脱水剤」を使用することができると理解される。
また、本件発明の実施例として、同【0019】〜【0048】に実施例1〜13が比較例1〜6とともに記載されており、これらの具体的な記載からも、本件発明の「汚泥用脱水剤」を製造でき、かつ、「汚泥用脱水剤」を使用することができることをより理解することができる。
以上のとおり、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び必要に応じて出願時の技術常識に基づいて、過度の試行錯誤を要することなく、本件発明の「汚泥用脱水剤」を製造することができるといえるから、本件明細書の発明の詳細な説明の記載は、本件発明について、当業者がその実施ができる程度に明確かつ十分に記載されているものというべきである。
したがって、特許法第36条第4項第1号所定の規定違反(実施可能要件違反)に係る申立理由4には、理由がない。

第5 むすび
以上のとおりであるから、特許異議申立書に記載した特許異議申立理由によっては、本件請求項1〜7に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件請求項1〜7に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-29 
出願番号 P2017-067207
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C02F)
P 1 651・ 121- Y (C02F)
P 1 651・ 536- Y (C02F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原 賢一
特許庁審判官 大光 太朗
金 公彦
登録日 2021-04-01 
登録番号 6861554
権利者 帝人フロンティア株式会社
発明の名称 汚泥用脱水剤  
代理人 奥貫 佐知子  
代理人 大島 正孝  
代理人 小野 尚純  
代理人 鹿角 剛二  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ