• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  C22C
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  C22C
管理番号 1384249
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-12 
確定日 2022-03-09 
異議申立件数
事件の表示 特許第6868761号発明「流体用開閉弁及びそれを用いた空気調和機」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6868761号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6868761号(以下、「本件特許」という。)の請求項1、2に係る特許についての出願(以下、「本願」という。)は、平成27年12月17日に出願され、令和 3年 4月15日にその特許権の設定登録がなされ、同年 5月12日に特許掲載公報が発行された。
その後、同年11月12日に、特許異議申立人 安川千里(以下、「申立人」という。)により、請求項1、2(全請求項)に係る本件特許に対して特許異議の申立て(以下、「本件異議申立」という。)がなされた。

第2 本件発明
本件特許の請求項1、2に係る発明は、本件特許の願書に添付した特許請求の範囲の請求項1、2に記載された事項により特定される以下のとおりのものである(以下、それぞれ「本件発明1」、「本件発明2」といい、これらをまとめて「本件発明」という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)。
【請求項1】
空気調和機であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒が内部を流れるように構成され、
鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物からなる黄銅合金で形成した流体用開閉弁を備える空気調和機。
【請求項2】
空気調和機であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒が内部を流れるように構成され、
鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.060wt%超から79wt%以下、Siを3.060wt%以上から4.0wt%未満、残部がZn及び不純物からなる黄銅合金で形成した流体用開閉弁を備える空気調和機。

第3 特許異議申立について
1 申立理由の概要
申立人は、証拠方法として、いずれも本願の出願前に日本国内又は外国において、頒布された又は電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった、下記2の甲第1号証〜甲第11号証を提出して、以下の申立理由1、2により、本件特許の請求項1、2に係る特許が取り消されるべきものである旨主張している。

(1)申立理由1(サポート要件)
本件発明1、2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合するものではないから、同発明に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消されるべきものである。

(2)申立理由2(進歩性
ア 申立理由2−1
本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第5号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
イ 申立理由2−2
本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第6号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
ウ 申立理由2−3
本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献7〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
エ 申立理由2−4
本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第8号証〜甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
オ 申立理由2−5
本件発明2は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第8号証〜甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。
カ 申立理由2−6
本件発明2は、引用文献6に記載された発明及び引用文献7〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであるから、同法第113条第2号に該当し、取り消されるべきものである。

2 証拠方法
(1)申立人が提出した証拠方法
甲第1号証:特開2001−280757号公報
甲第2号証:特許第4397963号公報
甲第3号証:特開2011−231383号公報
甲第4号証:特開2005−281800号公報
甲第5号証:特開2000−319736号公報
甲第6号証:JISハンドブック3非鉄 2015(日本規格協会)
JIS H 3250(2010) 銅及び銅合金の棒
甲第7号証:JIS冷媒用フレア及びろう付け管継手
JIS B 8607:2008(日本規格協会)
甲第8号証:国際公報第2012/057055号
甲第9号証:国際公報第2013/065830号
甲第10号証:特開2013−124801号公報
甲第11号証:特開2010−255966号公報

(2)令和 2年 7月16日付け拒絶理由通知書で引用された文献
引用文献1:国際公開第2008/081947号
(上記甲第2号証の国際公開)
引用文献6:国際公開第2012/057055号(上記甲第8号証)
引用文献7:特開2011−202722号公報
引用文献8:特開2013−15194号公報
引用文献9:特開2013−124801号公報(上記甲第10号証)
引用文献10:特開2010−255966号公報(上記甲第11号証)

第4 本件明細書の記載事項
1 本件明細書には以下の事項が記載されている。
なお、下線は当審が付与し、「・・・」は記載の省略を表すものであって、以下同様である。
(1)「【0001】
本発明は、冷凍サイクルの冷媒配管系に介装する二方弁や三方弁等の流体用開閉弁に関し、特に環境負荷を低減可能な開閉弁とそれを用いた空気調和機に関するものである。
【背景技術】
【0002】
一般に、冷凍サイクルを用いた機器、例えば空気調和機は、室内機と室外機を冷媒配管により接続して構成され、その冷媒回路には、配管接続後にエアーパージ及び冷媒封入するためサービスポートを有する三方弁を備えている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
図7は特許文献1記載の空気調和機を示し、この空気調和機は室外機100と室内機101を冷媒配管103a、103bで接続して構成してあり、その冷媒配管103a、103bの接続部に二方弁104と三方弁105を介装している。そして、上記三方弁105のサービスポート106を開閉して配管接続後のエアーパージ及び冷媒封入を行っている(特許文献1の段落0044)。」

(2)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記従来の空気調和機は、三方弁105を利用して冷媒を漏洩させることなくエアーパージすることができ、冷媒を漏出させてしまって環境に負荷を与えるようなことなく施工性することができる利点がある。
【0006】
しかしながら、上記二方弁104や三方弁105は形状が複雑で高い精度を必要とするため、加工性の良い材料用いて構成してあり、現状では鉛を含む黄銅合金によって形成してある。この黄銅合金は、耐食性、被削性、機械的性質などの特性に優れるため複雑かつ精度の高い開閉弁には好適な材料であるが、鉛を含んでいるため開閉弁が環境負荷の大きな部品となっている。
【0007】
そこで、上記開閉弁を、鉛含有量が1000ppm以下と実質的に鉛レスといえる黄銅合金製の開閉弁とすることが考えられる。
【0008】
しかしながら、上記開閉弁を鉛レスとすると、開閉弁を構成する黄銅合金が大気中に含まれるアンモニアに反応して応力腐食割れを生じてしまう。
【0009】
特に、冷媒配管に介装されて使用される二方弁や三方弁等の流体用開閉弁は、室外機に設けられていて、常時大気に曝露されており、この大気は犬、猫等の小動物の排泄物から発生するアンモニアに触れやすくなっているところから、前記した応力腐食割れが生じやすい。
【0010】
また、これに加え、冷媒配管に介装されて使用される二方弁や三方弁等の流体用開閉弁は、当該開閉弁内を流れる冷媒によってその温度が60℃程度と大気よりもかなり高くなることもあってアンモニアとの反応に対する感度が高くなり、応力腐食割れが生じやすくなる、という特殊かつ過酷な使用条件下にある。
【0011】
そこで本発明はこのような点をも考慮して鉛レス化を推し進めなしたもので、応力腐食割れを実用レベルで防止した実質的鉛レスの流体用開閉弁及びそれを用いた空気調和機の提供を目的としたものである。
・・・
【発明の効果】
【0014】
本発明は、環境負荷を低減しつつ、流体用開閉弁の応力腐食割れを防止することができ、流体用開閉弁及びこれを用いた空気調和機の信頼性を向上させることができる。」

(3)「【0016】
第1の発明は、鉛の含有量が1000ppm以下であって、Snを0.8%以上含む黄銅合金で流体用開閉弁を形成してある。
【0017】
これにより、冷媒配管に介装されて使用されることにより、アンモニアの多い大気に曝露され、かつ、大気よりも温度が高くなってアンモニアと反応しやすい流体用開閉弁であっても、応力腐食割れを防止することができる。
【0018】
第2の発明は、第1の発明において、流体用開閉弁は更にBiを1.6%以上含む黄銅合金で形成してある。
【0019】
これにより、鉛レス黄銅合金としていてもBiによって良好な加工性を維持することができる。
【0020】
第3の発明は、鉛の含有量が1000ppm以下であって、Siを0.001%以上(0.001%を含まず)含む黄銅合金で流体用開閉弁を形成してある。
【0021】
これにより、冷媒配管に介装されて使用されることにより、アンモニアの多い大気に曝露され、かつ、大気よりも温度が高くなってアンモニアと反応しやすい流体用開閉弁であっても、応力腐食割れを防止することができる。」

(4)「【0040】
表1は当該鉛レス黄銅合金で形成した三方弁の応力腐食割れを評価するために行ったアンモニア応力腐食割れ試験の結果を示す。
【0041】
試験は、図5に示すように14%のアンモニア水を入れたデシケータ内のアンモニア水上方に通気板を配置し、その上に後述する試験品を置き、当該試験品をアンモニア雰囲気中に曝露させ、72時間放置した後、取り出して硝酸液で洗浄し目視にて観察した。観察の結果、ひび割れがないものが○、ひび割れがあるものは×である。なお、アンモニア水の上面と通気板との距離tは約100mmであり、試験品はアンモニア水と非接触の状態である。
【0042】
また、試験品は図2に示す三方弁で、室内配管側ポート22と、サービスポート24と、弁棒受入部26の各部寸法と締め付けトルクは表2の通りである。
【0043】
【表1】

【0044】
【表2】

【0045】
なお、応力腐食割れとしては締め付けトルクが大きい室内配管側ポート22部分ならびにフレアナット27が最も過酷な条件となっているため、この室内配管側ポート22部分ならびにフレアナット27の結果で評価した。
【0046】
この試験結果から、鉛の含有量を1000ppm以下とした鉛レス黄銅合金であっても、Snを0.8%以上、好ましくは1.050%以上含む黄銅合金とすれば応力腐食割れを防止できることがわかる。
【0047】
これにより、冷媒配管に介装されて使用される二方弁や三方弁等の流体用開閉弁、すなわち、アンモニアの多い大気に曝露され、かつ、大気よりも温度が高くなってアンモニアと反応しやすい流体用開閉弁であっても、応力腐食割れを防止することができる。
【0048】
また、この実施の形態で示したようにR32等のHFC系冷媒やHFO−1234yf等炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒またはそれらを主成分とする温暖化係数の低い冷媒を用いた空気調和機にあっては、圧縮機による冷媒圧縮圧が高く、従来の例えば410A冷媒を用いた空気調和機に使用している開閉弁に比べ高い圧縮応力を受けることになっても強力に応力腐食割れを防止することができる。従って、上記低温暖化係数冷媒の採用と鉛レス黄銅合金製開閉弁の使用とによって環境負荷を大きく軽減することができる。」

(5)「【0052】
(実施の形態2)
本実施の形態は、鉛の含有量を1000ppm以下として応力腐食割れを抑制した鉛レス黄銅合金製開放弁の他の例を示す。
【0053】
この開閉弁の鉛レス黄銅合金は、鉛の含有量が1000ppm以下であって、Siを含有する、好ましくはSiを0.001%以上、より好ましくはSiを3.060%以上含む黄銅合金で開閉弁を形成してある。
【0054】
表3は当該鉛レス黄銅合金で形成した三方弁の応力腐食割れを評価するために行ったアンモニア応力腐食割れ試験の結果を示す。
【0055】
試験は、実施の形態1の場合と同様14%のアンモニア水を入れたデシケータ内に通気板を配置し、その上に後述する試験品を置き、当該試験品をアンモニア雰囲気中に曝露させ、72時間放置した後、取り出して硝酸液で洗浄し目視にて観察した。観察の結果、ひび割れがないものが○、ひび割れがあるものは×である。なお、アンモニア水の上面と中板との距離tは約100mmであり、試験品はアンモニア水と非接触の状態である。
【0056】
また、試験品は図2に示す三方弁で、室内配管側ポート22と、サービスポート24と、弁棒受入部26各部の寸法と締め付けトルクは前記実施の形態1で説明した前記表2の通りである。
【0057】
【表3】

【0058】
なお、この実施の形態においても、応力腐食割れとしては締め付けトルクが大きい室内配管側ポート22部分ならびにフレアナット27が最も過酷な条件となっているため、この室内配管側ポート22部分ならびにフレアナット27の結果で評価した。
【0059】
この試験結果から、鉛の含有量を1000ppm以下とした鉛レス黄銅合金であっても、Siを0.001%以上、より好ましくはSiを3.060%以上含む黄銅合金とすれば、Siが耐応力腐蝕割れ性を改善するので応力腐食割れを防止できる。なお、上記Siは耐応力腐蝕割れ性を改善するとともに被削性も改善するのであるが、4.0%以上になるとそれに見合う被削性改善効果が得られなくなるので、4.0%未満までとするのが好ましい(Si:0.001%以上〜4.0%未満)。
【0060】
これにより、前記実施の形態1と同様、冷媒配管に介装されて使用される流体用開閉弁、すなわち、アンモニアの多い大気に曝露され、かつ、大気よりも温度が高くなってアンモニアと反応しやすい流体用開閉弁であっても、応力腐食割れを防止することができる。」

第5 甲号証及び引用文献の記載事項
1 甲第1号証の記載事項
(1)「【請求項1】 冷媒を凝縮液化する凝縮器、同冷媒の圧力を調整する膨張弁、液化冷媒を蒸発させる蒸発器、アキュムレータおよび蒸発気化した同冷媒を圧縮して凝縮器に吐出する密閉型圧縮機などを備えた冷凍装置であって、鉛を含む黄銅合金を用いた接続弁に替えて鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた接続弁を備えたことを特徴とする冷凍装置。
【請求項2】 無鉛黄銅合金がBi、Snを含む無鉛黄銅合金であるか、Bi、Ceを含む無鉛黄銅合金であることを特徴とする請求項1記載の密閉型圧縮機。
【請求項3】 鉛を含む黄銅合金を用いた閉止部材に替えて鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた閉止部材を用いたことを特徴とする請求項1あるいは請求項2記載の冷凍装置。
【請求項4】 鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた接続弁を2個備えるとともに、溶接によらずボルト、ナットなどを用いて密閉容器を形成した密閉型圧縮機を用いたことを特徴とする請求項1から請求項3のいずれかに記載の冷凍装置。」

(2)「【0001】
【発明の属する技術分野】この発明は冷凍装置に関し、さらに詳しくは人体や環境へ公害を及ぼす鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた接続弁を備えた冷凍装置に関する。」

(3)「【0009】
【発明の実施の形態】以下、本発明の実施の形態を詳細に説明する。以下本発明を図1〜4に基づいて説明する。図1に、本発明の冷凍装置の冷凍回路の例を示す。1は蒸発気化した冷媒を圧縮して管路2を経て凝縮器3に吐出する密閉型圧縮機、4は凝縮器3で凝縮液化した冷媒を一時貯蔵するレシーバタンク5へ送る管路、6はレシーバタンク5からの冷媒を送る管路であり、レシーバタンク5から冷媒を送る管路6には冷凍回路中の異物や水分などを除去するフィルタドライヤ7、サイトグラス8、電磁弁9、圧力を減じる膨張弁10が備えられており、膨張弁10を経た液化冷媒は蒸発器11で蒸発して冷熱を発生し、蒸発させた冷媒は管路12を経て密閉型圧縮機1に戻るようになっている。13はアキュムレータ、14は高低圧力スイッチ、15は低圧ゲージ、16、17はファン、18は高圧ゲージを示す。
【0010】図1において、管路2は密閉型圧縮機1と接続弁aを介して接続されており、管路4は接続弁bを介してレシーバタンク5と接続されており、高圧ゲージ18は接続弁cを介してレシーバタンク5と接続されており、管路6は接続弁dを介してレシーバタンク5と接続されており、レシーバタンク5側の管路6と膨張弁10側の管路6は電磁弁9(接続弁)を介して接続されており、管路12は密閉型圧縮機1と接続弁eを介して接続されている。
【0011】これらの接続弁および電磁弁としては、従来、鉛を含む黄銅合金を用いた接続弁や電磁弁が使用されてきた。本発明においてはこれらの接続弁や電磁弁に替えて鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた接続弁a〜eおよび電磁弁9を用いる。
【0012】本発明で使用する無鉛黄銅合金としては、特に限定されないが、例えば特開平7−310133号公報に記載されているような、質量%で、Zn:20〜45%、Bi:0.2〜4%、Sn:0.2〜3%、残部がCuおよび不純物からなるBi、Snを含む耐脱亜鉛腐食特性などに優れる無鉛快削黄銅合金や、特開平5−255778号公報に記載されているような、質量比で57〜61%のCuと、0.5〜4.0%のBiと、0.1〜0.9%のCe、Laなどのミッシュメタルを含み、残余がZnであるBi、Ceなどを含む無鉛快削性黄銅合金などを挙げることができる。」

(4)「【0016】図4に示すように、鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた接続弁aは、硬質ガラス入りテフロン製キャップ20、無鉛黄銅合金を用いて作られた本体21、ステンレス製弁棒22、無鉛黄銅合金を用いて作られたパッキン抑え23、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)製パッキン24、無鉛黄銅合金を用いて作られたフレアナット25や無鉛黄銅合金を用いて作られたボンネット26などからなる閉止部材f1などを備えている。
【0017】上記の閉止部材f1は、接続弁aに設けられている当面は使用されない管路27から冷媒が流出するのを防止し、閉止するために管路27の先端部に装着されている。
【0018】上記の閉止部材f1と同様の目的で同様の構成の他の閉止弁f2〜f4が密閉型圧縮機1に装着されている。
・・・
【0020】
【発明の効果】本発明の請求項1記載の冷凍装置は、冷媒を凝縮液化する凝縮器、同冷媒の圧力を調整する膨張弁、液化冷媒を蒸発させる蒸発器、アキュムレータおよび蒸発気化した同冷媒を圧縮して凝縮器に吐出する密閉型圧縮機などを備えた冷凍装置であって、鉛を含む黄銅合金を用いた接続弁に替えて鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた接続弁を備えたので、接続弁の製造時における溶解、鋳造、溶接などの高温作業の際に鉛を含む蒸気を発生したり、切削・研削時に鉛を含む粉塵を発生したり、あるいはリサイクル時に同様の問題が発生するなどして人体や環境へ悪影響を及ぼすことがなくなるという顕著な効果を奏する。」

(5)「【図1】



2 甲第2号証の記載事項
(1)「【請求項1】
質量比で、Cu59.5〜66.0%、Sn0.7〜2.5%、Bi0.5〜2.5%、Sb0.05〜0.6%と残部がZnと不可避不純物を含有したα+γ組織、或はα+β+γ組織を有する黄銅合金であり、前記黄銅合金成分中のSbをγ相に固溶させると共に、前記黄銅合金中のγ相が各結晶粒を包囲するときの各結晶粒に対するγ相の割合をγ相結晶粒包囲率とし、このγ相結晶粒包囲率の平均値であるγ相平均結晶粒包囲率を28%以上とすることにより、黄銅合金中の腐食割れの進行速度を抑制させ、耐応力腐食割れ性を向上させたことを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた鉛レス黄銅合金。
【請求項2】
Se:0.01〜0.20質量%を含有した請求項1に記載の耐応力腐食割れ性に優れた鉛レス黄銅合金。」

(2)「【0002】
一般に、JIS CAC203、C3604、C3771等の黄銅合金は、耐食性、被削性、機械的性質などの特性に優れるため、バルブ、コック、継手等の水道用配管器材や電子機器部品などに幅広く用いられている。
この種の黄銅合金は、特に、アンモニア雰囲気等の腐食環境に曝され、引張応力が負荷された場合、応力腐食割れが発生する場合がある。この黄銅合金における応力腐食割れを防止する対策として、従来より、各種の提案がなされている。」

(3)「【0009】
この原因としては、鉛入り銅合金は、応力腐食割れの先端がすべり帯(金属の変形の際に金属原子がすべる面)に接したときに分岐が発生し易く、この分岐によって応力が分散される傾向にあり、一方、Bi系鉛レス銅合金は、すべり帯での分岐が起こり難く、直線的な割れを生じて応力集中が起こり易くなっていると考えられる。
このため、特に、Bi系鉛レス銅合金は、鉛入り黄銅合金とは異なる割れの対策が必要になり、具体的には、直線的な割れが生ずることに起因する、応力集中による割れの進行を妨げるような材料面での対策が必要となる。
・・・
【0015】
本発明は、上記の課題点に鑑み、鋭意研究の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、鉛レス黄銅合金における耐応力腐食割れ性を向上させることにあり、具体的には、黄銅合金における腐食割れの進行速度を抑制することにより、鉛レス黄銅合金特有の直線的な割れを食い止め、結晶粒界に存在するγ相に割れが接触する確率を高め、もって、耐応力腐食割れ性の向上に寄与できる鉛レス黄銅合金を提供することにある。」

(4)「【0055】
Sb:0.05〜0.60mass%
Sbは、黄銅合金の耐脱亜鉛性を向上させる元素であり、第一発明においては、Snの含有に加えて、更に、耐応力腐食割れ性の向上を図る場合に含有する。Snを含有したBi+Sb系またはSnを含有したBi+Se+Sb系で、かつ、α+γ組織、或は、α+β+γ組織を有する黄銅合金の場合は、必須元素であり、その他の場合は、任意元素である。腐食初期段階において、Sbを固溶したγ相を含む表面層は全面腐食形態を取るため、応力腐食割れの起点となる割れの発生を抑制することができる。また、Sbはγ相に固溶し、γ相の硬さを増すことにより、割れが発生した場合でも、その割れの進行を抑制することができる。
・・・
【0062】
Ni:0.05〜1.5mass%
Niは、引張強さを向上する場合に含有する、任意元素である。0.05mass%以上の含有で効果がみられるが、含有量を多くし過ぎてもその効果が飽和することから、1.5mass%を上限とする。また、Niは、合金中にSeを含有する場合に、Seの歩留まりを向上する元素でもあり、Seの歩留まりを向上する場合、その含有量は、0.1〜0.3mass%とするのが好ましい。」

(5)「【実施例5】
【0104】
次に、本発明におけるBi系の鉛レス黄銅合金のSb含有量と耐応力腐食割れ性との関係を調査し、耐応力腐食割れ性に対する上記のSbの最適添加範囲(含有量)を証明するために、実施例5の試験を行った。このときの供試材29〜38までの製造方法は、実施例3と同様である。
【0105】
応力腐食割れ試験方法としては、評価基準の試験の場合と同様に、図2のような各供試材のRc1/2ねじ部に、シールテープを巻いたステンレス鋼製ブッシングを9.8N・mのトルクでねじ込んだものを、アンモニア濃度14%のアンモニア水を入れたデシケータ内に入れ、試験時間4、8、12、24、36、48hrが経過する毎にデシケータ内から各供試材を取り出して洗浄した後に、目視確認により割れ有無の評価を行った。
実施例5において、製造した鋳物(供試材29〜38まで)の化学成分(mass%)と、応力腐食割れ時間(hr)の結果を表8に示す。
【0106】
【表8】

【0107】
図16、図17に、表8より得られるSb含有量と応力腐食割れ時間との関係をグラフ化したものを示す。図16は、Sbの含有量が少ない供試材の試験結果を詳細に示すために、各供試材の試験結果を等間隔に棒グラフで示したものであり、図17は、Sbを含有した供試材の全体的な傾向を示すために、各供試材の試験結果を、Sbの含有量に基づきつつ、曲線グラフで示したものである。
図16、図17の結果より、Sbを0.06〜0.60mass%(より確実には、0.06〜0.51mass%)含有することにより、基準Aを満たす耐応力腐食割れ性を発揮する。一方、前述したように、本発明におけるSbの含有量は、0.06<Sb≦0.60mass%であるが、この含有量において基準Bをクリアしている。なお、供試材30(Sb:0.02mass%)、供試材31(Sb:0.04mass%)では、Sb含有による効果は得られなかった。」

(6)「【0191】
本発明の耐応力腐食割れ性に優れた黄銅合金を材料として好適な部材・部品は、特に、バルブや水栓等の水接触部品、即ち、ボールバルブ、ボールバルブ用中空ボール、バタフライバルブ、ゲートバルブ、グローブバルブ、チェックバルブ、バルブ用ステム、給水栓、給湯器や温水洗浄便座等の取付金具、給水管、接続管及び管継手、冷媒管、電気温水器部品(ケーシング、ガスノズル、ポンプ部品、バーナなど)、ストレーナ、水道メータ用部品、水中下水道用部品、排水プラグ、エルボ管、ベローズ、便器用接続フランジ、スピンドル、ジョイント、ヘッダー、分岐栓、ホースニップル、水栓付属金具、止水栓、給排水配水栓用品、衛生陶器金具、シャワー用ホースの接続金具、ガス器具、ドアやノブ等の建材、家電製品、サヤ管ヘッダー用アダプタ、自動車クーラー部品、釣り具部品、顕微鏡部品、水道メーター部品、計量器部品、鉄道パンタグラフ部品、その他の部材・部品に広く応用することができる。更には、トイレ用品、台所用品、浴室品、洗面所用品、家具部品、居間用品、スプリンクラー用部品、ドア部品、門部品、自動販売機部品、洗濯機部品、空調機部品、ガス溶接機用部品、熱交換器用部品、太陽熱温水器部品、金型及びその部品、ベアリング、歯車、建設機械用部品、鉄道車両用部品、輸送機器用部品、素材、中間品、最終製品及び組立体等にも広く適用できる。」

3 甲第3号証の記載事項
(1)「【請求項1】
質量%において、Cu:59.0〜61.0(61.0を除く)%、Bi:0.5〜1.5%、Sn:1.5〜2.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sb:0.02〜0.06%、P:0.04〜0.15で残部がZnと不純物からなり、鍛造性と耐応力腐食割れに優れたことを特徴とする銅基合金。
【請求項2】
質量%において、Cu:59.0〜61.0(61.0を除く)%、Bi:0.5〜1.5%、Sn:1.5〜2.5%、Fe:0.06〜0.2%、Sb:0.02〜0.06%、P:0.04〜0.15、更に、Te:0.01〜0.45%、Se:0.02〜0.45%のうち、少なくとも1種の元素を含有し、残部がZnと不純物からなり、鍛造性と耐応力腐食割れ性に優れたことを特徴とする銅基合金。」

(2)「【0001】
本発明は、鍛造性と耐応力腐食割れ性に優れた銅基合金に関し、特に継ぎ手、バルブなどの優れた鍛造性と高い耐応力腐食割れ性が要求される製品の製造に好適である。」

(3)「【発明が解決しようとする課題】
【0005】
近年、継手やバルブなどを中空鍛造で作る場合が多くなってきているが、これに対応するには、熱間変形抵抗が小さく、アプセット率が90%を超える材料が必要になってくる。
しかも、これらの製品には耐応力腐食割れ性に優れた材料であることが不可欠である。
本発明は、かかる傾向および要請に応えるべくなされたもので、工業的に満足しうる被削性を有し、且つ優れた鍛造性、耐応力腐食割れ性を有する銅基合金の提供を目的とする。」

(4)「【0013】
Sn成分を1.5〜2.5%の範囲にて添加すると熱間鍛造性が改善されるとともにSbとの併用でSn単独で得られないとされる耐応力腐食割れが改善する。
本願成分系においてSn成分が1.5%未満では鍛造性が劣り、2.5%を超えると脆くなる。
・・・
【0015】
Sb成分は、耐応力腐食割れ性を改善する。先に述べたとおりSnとの併用にて特に効果がある。
有効に作用するには少なくとも0.02%の添加が必要である。しかし、Sbは銅合金を非常に脆くさせるので、0.06%が限界である。できれば、0.05%未満が望ましい。」

(5)「【0020】
図1の化学成分と図2の評価結果を検討する。
実施例合金No.1〜10は、特徴としてCu:59.0%以上で61.0%未満であり、Bi:0.5〜1.5%,Sn:1.5〜2.5%,Sb:0.02〜0.06%,P:0.04〜0.15%の範囲であるので、鍛造性、応力腐食割れ性、機械的性質のいずれにおいても実用上、問題がない。
比較例と比較すると、比較例No.21はCu成分が61.8%と61.0%以上なので、鍛造性に劣り、比較例No.22はSn:1.38%と1.5%未満なので鍛造性に劣っていた。
比較例No.23〜25はPが添加されていなく、Sb成分が0.06%を超えているので、機械的性質に問題があった。
特に比較例No.25は、Biが上限を超え、Snが下限以下なので、鍛造性及び耐応力腐食割れ性においても劣っていた。
比較例No.26は、Pが添加されていてもSbが添加されていないため、耐応力腐食割れ性に劣っていた。」

(6)「【図1】


(7)「【図2】



4 甲第4号証の記載事項
(1)「【請求項8】
少なくとも、Cu:61.0〜61.8重量%、Sn:0.8〜2.4重量%、Bi:0.5〜2.0重量%、Pb:0.1重量%以下、Fe:0.1重量%以下、Si:0.1重量%以下、Mn:0.03重量%以下、残部としてZn、及び不可避不純物からなることを特徴とする銅基合金。」

(2)「【背景技術】
【0002】
銅合金中のZnは、CuとZnのイオン化傾向の違いから流体中に溶出しやすくなり、時間の経過とともにそのZn含有量は減少する。例えば、弁・栓類のように適用流体が水等である場合、この脱亜鉛腐食の現象を防ぐことは重要である。特に、弁・栓類の接液部における異種金属の組み合わせで腐食が発生し、弁等のシート部では高速流体のためにエロージョンが発生しやすい。従って、水栓金具等に使用される伸銅品及び鋳物材料には、耐脱亜鉛性、耐エロージョン・コロージョン性が要求される。」

(3)「【0008】
本発明は、上記の課題点に鑑み、鋭意研究の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、耐エロージョン・コロージョン性、耐鋳造割れ性を飛躍的に改善し、更に高温下における耐衝撃性を向上して、切削性、機械的性質、耐食性等が要求されるあらゆる分野に広く適用することが可能な経済性にも優れた銅基合金とこの合金を用いた鋳塊・製品を提供することにある。」

(4)「【0052】
不純物:
Fe、Si、Mnなどは、組織を硬くして切削性を低下させる。また、再利用する際に使用用途を限定してしまう。よって、Fe:0.1重量%以下、Si:0.1重量%以下、Mn:0.03重量%以下とする。」

(5)「【実施例3】
【0076】
衝撃試験
PbとBiとを含有した銅基合金が、100℃を超えるような高温下に曝されると、衝撃値が急に低下するおそれがある。そこで、Biを含有する合金にPbが含まれる場合、或いはPbを含有する合金にBiが含まれる場合において、BiとPbの含有量の好適な比率を見出すため、JIS Z2242による金属材料のシャルピー衝撃試験で評価する。試験片はJIS Z2202Vノッチ試験片を用いた。
【0077】
衝撃試験1
まず、Biを含有する合金にPbが含まれる場合として、本発明合金1に含まれるBi系鉛レス黄銅鋳物(Biを0.5〜2.0重量%含有するもの)のサンプルNo.63〜No.65について、その組成値を表9に示すと共に、各温度におけるシャルピー吸収エネルギーの変化を表10及び図9に示す。この衝撃試験から明らかであるように、本発明合金において、Pb/Bi=0.012以下の比較を満たすものでは、100℃を超えるような高温下においても、180℃付近までは衝撃値の急激な低下を抑制できることが確認された。
【0078】
【表9】

【0079】
【表10】



(6)「【0091】
本発明の銅基合金を材料として好適な部材・部品は、特に、バルブや水栓等の水接触部品、即ち、ボールバルブ、ボールバルブ中の空用ボール、バタフライバルブ、ゲートバルブ、グローブバルブ、チェックバルブ、給水栓、給湯器や温水洗浄便座等の取付金具、給水管、接続管及び管継手、冷媒管、電気温水器部品(ケーシング、ガスノズル、ポンプ部品、バーナなど)、ストレーナ、水道メータ用部品、水中下水道用部品、排水プラグ、エルボ管、ベローズ、便器用接続フランジ、スピンドル、ジョイント、ヘッダー、分岐栓、ホースニップル、水栓付属金具、止水栓、給排水配水栓用品、衛生陶器金具、シャワー用ホースの接続金具、ガス器具、ドアやノブ等の建材、家電製品、サヤ管ヘッダー用アダプタ、自動車クーラー部品、釣り具部品、顕微鏡部品、水道メーター部品、計量器部品、鉄道パンタグラフ部品、その他の部材・部品に広く応用することができる。更には、トイレ用品、台所用品、浴室品、洗面所用品、家具部品、居間用品、スプリンクラー用部品、ドア部品、門部品、自動販売機部品、洗濯機部品、空調機部品、ガス溶接機用部品、熱交換器用部品、太陽熱温水器部品、金型及びその部品、ベアリング、歯車、建設機械用部品、鉄道車両用部品、輸送機器用部品、素材、中間品、最終製品及び組立体等にも広く適用できる。」

5 甲第5号証の記載事項
(1)「【請求項4】 重量比で、Cu59.0〜63.2%、Sn0.3〜2.0%、Bi0.7〜2.5%、Fe0.05〜0.3%、P0.05〜0.15%を含有し、残りがZnと不可避不純物からなる組成を有し、耐脱亜鉛性、熱間鍛造性及び切削加工性に優れた黄銅であることを特徴とする銅基合金。」

(2)「【0032】その他、本発明の銅基合金を材料として好適な部材・部品は、特に、バルブや水栓等の水接触部品、即ち、ボールバルブ、ボールバルブ中の空用ボール、バタフライバルブ、ゲートバルブ、グローブバルブ、チェックバルブ、給水栓、給湯器や温水洗浄便座等の取付金具、給水管、接続管及び管継手、冷媒管、電気温水器部品(ケーシング、ガスノズル、ポンプ部品、バーナなど)、ストレーナ、水道メータ用部品、水中下水道用部品、排水プラグ、エルボ管、ベローズ、便器用接続フランジ、スピンドル、ジョイント、ヘッダー、分岐栓、ホースニップル、水栓付属金具、止水栓、給排水配水栓用品、衛生陶器金具、シャワー用ホースの接続金具、ガス器具、ドアやノブ等の建材、家電製品、サヤ管ヘッダー用アダプタ、自動車クーラー部品、釣り具部品、顕微鏡部品、水道メーター部品、計量器部品、鉄道パンタグラフ部品、その他の部材・部品に広く応用することができる。更には、トイレ用品、台所用品、浴室品、洗面所用品、家具部品、居間用品、スプリンクラー用部品、ドア部品、門部品、自動販売機部品、洗濯機部品、空調機部品、ガス溶接機用部品、熱交換器用部品、太陽熱温水器部品、金型及びその部品、ベアリング、歯車、建設機械用部品、鉄道車両用部品、輸送機器用部品、素材、中間品、最終製品及び組立体等にも広く適用できる。」

(3)「【0048】次に、熱間鍛造用黄銅棒の切削性の評価を行う。
○切削加工条件は、表2に同じである。
○切粉の状況
・従来(JIS C3771)における熱間鍛造用耐脱亜鉛黄銅棒は、図9に示すとおりである。そこで、図9に示す切粉3の状態と図10に示す本発明における熱間鍛造用耐脱亜鉛黄銅棒の切粉2の状態を評価すると、切削加工時の切粉2、3の状況は、何れの材料においても細かく分断されており、良好な切削性を示している。
【0049】次に、鉛の浸出性能試験による評価について述べる。
○試供品:
形状 丸棒φ12×42.9L
試供品を400番のサンドペーパーにて乾式研磨し、また、隙間腐食防止のため、片側端面を絶縁塗料にてマスキングした。暴露表面積は、1本あたり17.29cm2である。
【0050】この場合における成分は、表8に示すとおりである。
【表8】

【0051】○試験方法:
浸出試験
JIS S3200−7:1997水道用器具−浸出性能試験方法による。試験は、7.2部品及び材料試験とし、操作方法は、7.1.3配管途中に設置される給水器具(加熱した水を通水することを目的としたもの)による。
・調整した浸出液(コンディショニング用及び浸出用)の確認は、pHのみとし、初回調整時及び浸出操作時のみpH、硬度、アルカリ度、残留塩素を確認した。
・加熱操作は、90±2℃で行った。
・ブランクとして、浸出操作時と同様な操作を行った試料液を作成した。
・浸出操作時の浸出液(試料液)は、100mLとし、浸出終了後、分析操作のために試供品及び容器を洗浄しながら浸出液を250mL(0.1mol/L硝酸酸性)に希釈調整した。
・試料液の分析は、ICP発光分光分析法にて行った。
○判断基準
水道法に基づく給水装置の構造及び材質に関する基準よると、鉛の浸出性能の判定基準は、0.05mg/リットル以下となっているので、この値を判断基準とした。
【0052】この場合の試験結果は、表9に示すとおりである。
【表9】

【0053】即ち、従来材は、切削性を得るために必要な量の鉛を含有させているため、判定基準を上回っているが、本発明A、Bは、判定基準を下回り合格している。鉛の含有量は、本来的には少ない程良いが、少量になる程、生産コストは増加するので、鉛の溶出量の判定基準を考慮して、鉛の含有量を0.2%以下とした。」

6 甲第6号証の記載事項
(1)「



(2)「3 用語及び定義
・・・
3.2
ビスマス系鉛レス・カドミウムレス快削黄銅
鉛0.1%(質量分率)以下,カドミウム0.0075%(質量分率)以下で,銅を主成分とする亜鉛との合金に,ビスマス0.5〜4.0%(質量分率)などを添加して被削性を改良した銅合金。」

(3)「



(4)「



(5)「



7 甲第7号証の記載事項
(1)「



8 甲第8号証の記載事項
(1)「[請求項1] 73.0〜79.5mass%のCuと、2.5〜4.0mass%のSiと、を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなる合金組成であり、他材とろう付けされた耐圧耐食性銅合金であって、
Cuの含有量[Cu]mass%と、Siの含有量[Si]mass%との間に、62.0≦[Cu]−3.6×[Si]≦67.5の関係を有し、
前記銅合金のろう付け部分の金属組織は、α相マトリックスに少なくともκ相を含み、α相の面積率「α」%と、β相の面積率「β」%と、γ相の面積率「γ」%と、κ相の面積率「κ」%と、μ相の面積率「μ」%との間に、30≦「α」≦84、15≦「κ」≦68、「α」+「κ」≧92、0.2≦「κ」/「α」≦2であり、β≦3、μ≦5、β+μ≦6、0≦「γ」≦7、0≦「β」+「μ」+「γ」≦8の関係を有することを特徴とする耐圧耐食性銅合金。」

(2)「発明が解決しようとする課題
[0008] 本発明は、斯かる従来技術の問題を解決するためになされたものであり、他材とろう付けされた耐圧耐食性銅合金であって、高い耐圧性と優れた耐食性を備えた耐圧耐食性銅合金を提供することを課題とする。」

(3)「[0039] Pb、Biは、バルブ等を成形する際において切削加工が行われる場合、特に優れた被削性が必要とされる場合に添加される。Cu、Si、Znが発明合金において定められた所定量配合されれば、Pb、Biは、各々0.003mass%以上の含有量から効果を発揮する。一方、Pbは人体に有害であること、Biはレアメタルであること、更に、Pb、Biによって、ろう付け後の延性や衝撃特性が劣るようになるので、Pbは0.25mass%以下の含有に留める。好ましくは、Pbは0.15mass%以下であり、更に好ましくは0.08mass%以下である。」

(4)「[0052] 上述した第1発明合金乃至第4発明合金及び比較用の組成の銅合金を用いて、試料L、M、Nを作成した。表1は、試料として作成した第1発明合金乃至第4発明合金及び比較用の銅合金の組成を示す。
[表1]

試料Lは、表1の組成の鋳塊(外径100mm、長さ150mmの円柱形状のもの)を670℃に加熱し、外径17mmの丸棒状に押出加工した(押出材)。
試料Mは、表1の組成の鋳塊(外径100mm、長さ150mmの円柱形状のもの)を670℃に加熱し、外径35mmの丸棒状に押出加工し、その後、670℃に加熱し、横置きにして17.5mmの厚みに熱間鍛造した。この熱間鍛造材を、切削により外径17mmの丸棒材に仕上げた(熱間鍛造材)。
試料Nは、表1の組成の溶湯を直径35mm、深さ200mmの金型に鋳込み、鋳込んだ後、試料Lと同じサイズになるよう旋盤で切削し、外径17mmの丸棒とした(鋳造材)。」

(5)「[0078] 上述したように、本発明に係る耐圧耐食性銅合金は、高い耐圧性と優れた耐食性を備えるので、高圧ガス設備、空調設備、給水・給湯設備等の容器、器具、部材としては、高圧バルブ、プラグバルブ、フードバルブ、ダイヤフラムバルブ、ベローズバルブ、コントロールバルブを始めとする種々のバルブや、管継手、T字継手、チーズ管、エルボ管等の各種の継手や、冷温水弁、低温弁、減圧弁、高温弁、安全弁等の各種の弁や、ジョイント、シリンダー等の油圧容器や、ノズル、スプリンクラー、水栓金具等のろう付けを施される容器、器具、部材に最適である。」

9 甲第9号証の記載事項
(1)「[請求項5] 管状の銅合金熱間鍛造品であって、73.0〜84.0mass%のCuと、0.003〜0.3mass%のPbと、2.5〜4.5mass%のSiを含有し、残部がZn及び不可避不純物からなる合金組成を有し、Cuの含有量[Cu]mass%とPbの含有量[Pb]mass%とSiの含有量[Si]mass%との間に、59≦([Cu]+0.5×[Pb]−4.5×[Si])≦64の関係を有し、形状が、0.4≦(平均内径)/(平均外径)≦0.92、0.04≦(平均肉厚)/(平均外径)≦0.3、1≦(管軸方向長さ)/(平均肉厚)≦10の式を満たし、
熱間鍛造される前の鍛造素材が、管状であって0.3≦(平均内径/平均外径)≦0.88、0.06≦(平均肉厚)/(平均外径)≦0.35、0.8≦(管軸方向長さ)/(平均肉厚)≦12であり、管軸方向のいずれの位置においても0≦(偏肉度)≦30%、0≦(偏肉度)≦75×1/((管軸方向長さ)/(平均肉厚))1/2の式を満たすことを特徴とする銅合金熱間鍛造品。

(2)「[0055]上述した第1発明合金〜第4発明合金及び比較用の組成の銅合金を用いて銅合金熱間鍛造品を作成した。表1は、銅合金熱間鍛造品を作成した合金の組成を示す。
[0056]
[表1]



(3)「[0110]本発明の銅合金熱間鍛造品は、例えば様々な産業機械・設備、自動車の機械部品や電機部品、部材としては、バルブと、ボールバルブと、継手と、架橋ポリエチレン管の継手及び接続金具と、架橋ポリブデン管の管継手及び接続金具と、給排水の接続金具と、ホースニップルと、ガーデニングホースの接続金具と、ガスホースの接続金具と、水道メータの上蓋と、水栓金具と、油圧容器と、ノズルと、スプリンクラーと、フレアナットと、ナットと、給水・給湯設備、空調設備、消防設備及びガス設備の容器や接続金具や器具と、水、温水、冷媒、空気、都市ガス及びプロパンガスが通る容器や器具等に好適に用いることができる。」

10 甲第10号証の記載事項
(1)「【請求項1】
圧縮機、凝縮機、膨張弁、蒸発器、アキュムレータを循環する冷媒として温暖化係数が少なくとも750以下の冷媒を用いた冷凍サイクル装置であって、前記冷媒と熱交換を行う蓄熱熱交換器を内包するとともに前記圧縮機に接触して互いに熱の移動を行うよう構成された蓄熱槽と、前記室内熱交換器と膨張弁との間の冷媒配管と前記蓄熱熱交換器とを結ぶ蓄熱入口冷媒管と、前記蓄熱入口冷媒管の途中に配置されていて冷媒の流れを制御する冷媒制御弁と、前記蓄熱熱交換器のもう一方の出入口とアキュムレータ入口とを結ぶ蓄熱出口冷媒管とを備え、前記圧縮機の吐出温度あるいは、前記蓄熱槽の温度に基づいて前記冷媒制御弁を調整することを特徴とした冷凍サイクル装置。」

(2)「【0034】
(実施の形態1)
図1は、本発明の実施の形態1における冷凍サイクル装置を適用した空気調和機の構成図を示すものである。
【0035】
図1に示すように、この空気調和機は、室外機100と室内機101を、接続配管つまり液側接続配管128およびガス側接続配管129で接続して構成されており、暖・冷房運転を行う。冷媒としてはR22やR410Aに比べ温暖化係数が小さく、その温暖化係数が5以上、750以下、望ましくは350以下の低温暖化冷媒としてある。例えば、HFC−32(R32)やHFC−152a、HFO−1234yf、HFO−1234ze等の単一冷媒、またはそれらを主成分とし、それぞれ2成分混合もしくは3成分混合した混合冷媒としてあり、この実施の形態ではR32を一例として使用している。」

11 甲第11号証の記載事項
(1)「【請求項1】
圧縮機と、四方弁と、室外熱交換器と、膨張弁と、除湿運転時に凝縮器となる第1室内熱交換器及び蒸発器となる第2室内熱交換器と、除湿運転時に前記第1熱交換器の下流側で且つ前記第2室内熱交換器の上流側に位置して冷媒を減圧する除湿弁と、を備え、
前記圧縮機,前記四方弁,前記室外熱交換器,前記膨張弁,前記第1室内熱交換器,前記第2室内熱交換器、及び除湿弁を冷媒配管で接続して冷媒回路を形成し、作動流体としてHFO−1234yf単体冷媒又はHFO−1234yfと他の冷媒とを混合した混合冷媒を循環させて、冷房,暖房及び除湿運転を行う空気調和機であって、
冷房運転時に前記第1室内熱交換器の下流側で且つ前記除湿弁の上流側に気液分離器を配置し、前記気液分離器により気液分離されたガス冷媒を流量調整弁を介して前記圧縮機の吸込側に流入させることを特徴とする空気調和機。
【請求項2】
請求項1において、冷房運転時に、前記除湿弁の下流側で且つ前記第2室内熱交換器の上流側に冷媒を複数流路に分流させる分岐管又はディストリビュータを配置し、前記第2室内熱交換器の出口側で複数流路に分流させた前記冷媒を合流させることを特徴とする空気調和機。
【請求項3】
請求項1又は2において、前記混合冷媒が、地球温暖化係数(GWP)が150を超えないような前記HFO−1234yfと前記他の冷媒との混合比であることを特徴とする空気調和機。」

12 引用文献1の記載事項
(1)「請求の範囲
[1] 鉛レス黄銅合金であって、Snを含有したBi系、Snを含有したBi+Sb系またはSnを含有したBi+Se+Sb系で、かつ、α+γ組織、或は、α+β+γ組織を有する黄銅合金であり、このうちγ相を黄銅合金中に所定の割合で分布させることにより、黄銅合金中における腐食割れの進行速度を抑制させ、耐応力腐食割れ性を向上させたことを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた鉛レス黄銅合金。
・・・」

(2)「[0002] 一般に、JIS CAC203、C3604、C3771等の黄銅合金は、耐食性、被削性、機械的性質などの特性に優れるため、バルブ、コック、継手等の水道用配管器材や電子機器部品などに幅広く用いられている。」

(3)「[0009] この原因としては、鉛入り銅合金は、応力腐食割れの先端がすべり帯(金属の変形の際に金属原子がすべる面)に接したときに分岐が発生し易く、この分岐によって応力が分散される傾向にあり、一方、Bi系鉛レス銅合金は、すべり帯での分岐が起こり難く、直線的な割れを生じて応力集中が起こり易くなっていると考えられる。
このため、特に、Bi系鉛レス銅合金は、鉛入り黄銅合金とは異なる割れの対策が必要になり、具体的には、直線的な割れが生ずることに起因する、応力集中による割れの進行を妨げるような材料面での対策が必要となる。
・・・
[0015] 本発明は、上記の課題点に鑑み、鋭意研究の結果開発に至ったものであり、その目的とするところは、鉛レス黄銅合金における耐応力腐食割れ性を向上させることにあり、具体的には、黄銅合金における腐食割れの進行速度を抑制することにより、鉛レス黄銅合金特有の直線的な割れを食い止め、結晶粒界に存在するγ相に割れが接触する確率を高めると共に、黄銅表面の局部的な腐食を防ぎ、この腐食による亀裂を抑制し、もって、耐応力腐食割れ性の向上に寄与できる鉛レス黄銅合金を提供することにある。」

(4)「[0055] Sb:0.05〜0.60mass%
Sbは、黄銅合金の耐脱亜鉛性を向上させる元素であり、第一発明においては、Snの含有に加えて、更に、耐応力腐食割れ性の向上を図る場合に含有する。Snを含有したBi+Sb系またはSnを含有したBi+Se+Sb系で、かつ、α+γ組織、或は、α+β+γ組織を有する黄銅合金の場合は、必須元素であり、その他の場合は、任意元素である。腐食初期段階において、Sbを固溶したγ相を含む表面層は全面腐食形態を取るため、応力腐食割れの起点となる割れの発生を抑制することができる。また、Sbはγ相に固溶し、γ相の硬さを増すことにより、割れが発生した場合でも、その割れの進行を抑制することができる。
・・・
[0062] Ni:0.05〜1.5mass%
Niは、引張強さを向上する場合に含有する、任意元素である。0.05mass%以上の含有で効果がみられるが、含有量を多くし過ぎてもその効果が飽和することから、1.5mass%を上限とする。また、Niは、合金中にSeを含有する場合に、Seの歩留まりを向上する元素でもあり、Seの歩留まりを向上する場合、その含有量は、0.1〜0.3mass%とするのが好ましい。」

(5)「実施例5
[0104] 次に、本発明におけるBi系の鉛レス黄銅合金のSb含有量と耐応力腐食割れ性との関係を調査し、耐応力腐食割れ性に対する上記のSbの最適添加範囲(含有量)を証明するために、実施例5の試験を行った。このときの供試材29〜38までの製造方法は、実施例3と同様である。
[0105] 応力腐食割れ試験方法としては、評価基準の試験の場合と同様に、図2のような各供試材のRc1/2ねじ部に、シールテープを巻いたステンレス鋼製ブッシングを9.8N・mのトルクでねじ込んだものを、アンモニア濃度14%のアンモニア水を入れたデシケータ内に入れ、試験時間4、8、12、24、36、48hrが経過する毎にデシケータ内から各供試材を取り出して洗浄した後に、目視確認により割れ有無の評価を行った。
実施例5において、製造した鋳物(供試材29〜38まで)の化学成分(mass%)と、応力腐食割れ時間(hr)の結果を表8に示す。
[0106][表8]

[0107] 図16、図17に、表8より得られるSb含有量と応力腐食割れ時間との関係をグラフ化したものを示す。図16は、Sbの含有量が少ない供試材の試験結果を詳細に示すために、各供試材の試験結果を等間隔に棒グラフで示したものであり、図17は、Sbを含有した供試材の全体的な傾向を示すために、各供試材の試験結果を、Sbの含有量に基づきつつ、曲線グラフで示したものである。
図16、図17の結果より、Sbを0.06〜0.60mass%(より確実には、0.06〜0.51mass%)含有することにより、基準Aを満たす耐応力腐食割れ性を発揮する。一方、前述したように、本発明におけるSbの含有量は、0.06<Sb≦0.60mass%であるが、この含有量において基準Bをクリアしている。なお、供試材30(Sb:0.02mass%)、供試材31(Sb:0.04mass%)では、Sb含有による効果は得られなかった。」

(6)「[0191] 本発明の耐応力腐食割れ性に優れた黄銅合金を材料として好適な部材・部品は、特に、バルブや水栓等の水接触部品、即ち、ボールバルブ、ボールバルブ用中空ボール、バタフライバルブ、ゲートバルブ、グローブバルブ、チェックバルブ、バルブ用ステム、給水栓、給湯器や温水洗浄便座等の取付金具、給水管、接続管及び管継手、冷媒管、電気温水器部品(ケーシング、ガスノズル、ポンプ部品、バーナなど)、ストレーナ、水道メータ用部品、水中下水道用部品、排水プラグ、エルボ管、ベローズ、便器用接続フランジ、スピンドル、ジョイント、ヘッダー、分岐栓、ホースニップル、水栓付属金具、止水栓、給排水配水栓用品、衛生陶器金具、シャワー用ホースの接続金具、ガス器具、ドアやノブ等の建材、家電製品、サヤ管ヘッダー用アダプタ、自動車クーラー部品、釣り具部品、顕微鏡部品、水道メーター部品、計量器部品、鉄道パンタグラフ部品、その他の部材・部品に広く応用することができる。更には、トイレ用品、台所用品、浴室品、洗面所用品、家具部品、居間用品、スプリンクラー用部品、ドア部品、門部品、自動販売機部品、洗濯機部品、空調機部品、ガス溶接機用部品、熱交換器用部品、太陽熱温水器部品、金型及びその部品、ベアリング、歯車、建設機械用部品、鉄道車両用部品、輸送機器用部品、素材、中間品、最終製品及び組立体等にも広く適用できる。」

13 引用文献7の記載事項
(1)「【0001】
本発明は、主に、冷凍機・空気調和機の冷媒配管系に介装する空気調和機の三方弁に関するものであって、特に、弁体の通路を弁棒による開閉操作位置によるシール構造の改善に関するものである。
・・・
【0006】
また三方弁は、真鍮材で出来ており、室外機内の冷凍サイクル部品と接続銅配管とをロウ付けする際、フラックス剤を使用する為、ロウ付け後酸処理を行う必要があり、酸処理により、三方弁の内面加工精度が悪くなり、弁棒に取りつけられた複数のOリングとに僅かな隙間が発生し冷媒漏を発生させるという課題を有していた。」

14 引用文献8の記載事項
(1)「【0001】
本発明は、空調サイクルの分岐部等に用いられる逆止弁付き三方弁に関する。
・・・
【0003】
この逆止弁付き三方弁21は、真鍮製でT字管状に形成された本体22と、本体22に収容された樹脂製の弁体23と、本体22の下部に溶接によって接続された銅管24及び銅管25(溶接箇所24a、25a)と、本体22の上部開口に、蓋体27を介して溶接接続された銅管26(溶接箇所26a、27a)とで構成される。この逆止弁付き三方弁21は、図7に示す状態では、弁体23に対する銅管26の内部の冷媒Rの押圧力が、銅管24、25の内部の冷媒Rの押圧力より大きいため、弁体23の弁部23aが本体22の弁座22aに当接して弁口22bが閉じられ、銅管24と銅管25との間で冷媒Rが流れ、銅管26へは冷媒Rが流れない。」

第6 当審の判断
以下に述べるように、特許異議申立書に記載した申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。

1 申立理由1(サポート要件)
(1)サポート要件についての判断手法
特許請求の範囲の記載がサポート要件に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、発明の詳細な説明に記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知的財産高等裁判所特別部 平成17年(行ケ)第10042号判決参照)。

(2)本件発明が解決しようとする課題
上記第4の1(2)の段落【0011】には、本件発明が解決しようとする課題について、「そこで本発明はこのような点をも考慮して鉛レス化を推し進めなしたもので、応力腐食割れを実用レベルで防止した実質的鉛レスの流体用開閉弁及びそれを用いた空気調和機の提供を目的としたものである。」と記載されている。

(3)本件発明1について
上記本件発明が解決しようとする課題に対し、本件発明1の空気調和機は、
「空気調和機であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒が内部を流れるように構成され、
鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物からなる黄銅合金で形成した流体用開閉弁を備える空気調和機。」との技術的事項で特定されている。

(4)上記特定事項を備えた本件発明1が、発明の詳細な説明に発明として記載されたものであって、上記課題を解決し得るものであるかについて検討する。
ア 上記第4の1(3)の段落【0016】〜【0019】には、本件発明1で特定される流体用開閉弁の化学組成に関し、鉛とSnを所定の範囲とすることで、「大気よりも温度が高くなってアンモニアと反応しやすい流体用開閉弁であっても、応力腐食割れを防止することができる」ことが記載されている。
イ また、上記第4の1(4)の段落【0043】の表1には、本件発明1の化学組成を満たす試験品2が、アンモニア雰囲気中に曝露させ、72時間放置した後、取り出して硝酸液で洗浄し目視にて観察した結果、ひび割れがないものであることが確認されている。。
ウ さらに、上記第4の1(4)の段落【0048】には、上記試験品2の試験結果を含む実施の形態について、「この実施の形態で示したようにR32等のHFC系冷媒やHFO−1234yf等炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒またはそれらを主成分とする温暖化係数の低い冷媒を用いた空気調和機にあっては、圧縮機による冷媒圧縮圧が高く、従来の例えば410A冷媒を用いた空気調和機に使用している開閉弁に比べ高い圧縮応力を受けることになっても強力に応力腐食割れを防止することができる」ことも記載されているので、上記試験品2の試験結果も併せて勘案すれば、温暖化係数の低い冷媒を用いることで圧縮機による冷媒圧縮圧が高くなるため、段落【0010】に記載のように60℃程度と大気よりも高い温度において、本件発明1は応力腐食割れを実用レベルで防止できるものであると認められる。
エ 以上から、本件発明1は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。

(5)本件発明2について
上記本件発明が解決しようとする課題に対し、本件発明2の空気調和機は、
「空気調和機であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒が内部を流れるように構成され、
鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.060wt%超から79wt%以下、Siを3.060wt%以上から4.0wt%未満、残部がZn及び不純物からなる黄銅合金で形成した流体用開閉弁を備える空気調和機。」との技術的事項で特定されている。

(6)上記特定事項を備えた本件発明2が、発明の詳細な説明に発明として記載されたものであって、上記課題を解決し得るものであるかについて検討する。
ア 上記第4の1(3)の段落【0020】、【0021】には、本件発明2で特定される流体用開閉弁の化学組成に関し、鉛とSiを所定の範囲とすることで、「大気よりも温度が高くなってアンモニアと反応しやすい流体用開閉弁であっても、応力腐食割れを防止することができる」ことが記載されている。
イ また、上記第4の1(5)の段落【0057】の表3には、本件発明2の化学組成を満たす試験品6が、アンモニア雰囲気中に曝露させ、72時間放置した後、取り出して硝酸液で洗浄し目視にて観察した結果、ひび割れがないものであることが確認されている。
ウ 以上から、本件発明2は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものといえる。

(7)申立人の主張について
ア 申立人は、特許異議申立書の第9〜12ページにおいて、本件発明の流体用開閉弁の化学組成に関し、所定の数値範囲が導き出される根拠が不明であり、数値範囲の上下限近傍であっても、本件発明の課題を解決できるのか不明である旨の主張、及び冷媒から受ける圧力が何ら考慮されていない旨の主張をしている。
イ しかしながら、申立人は、本件発明が課題を解決できない具体的な理由を何ら示しておらず、本件発明が課題を解決できることは上記(3)〜(6)に記載したとおりである。
ウ したがって、申立人の上記主張は採用できない。

(8)小括
したがって、本件発明1、2は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号の規定に適合する。

2 申立理由2−1(進歩性
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 上記第5の1(1)の請求項1には、「冷媒を凝縮液化する凝縮器、同冷媒の圧力を調整する膨張弁、液化冷媒を蒸発させる蒸発器、アキュムレータおよび蒸発気化した同冷媒を圧縮して凝縮器に吐出する密閉型圧縮機などを備えた冷凍装置であって、鉛を含む黄銅合金を用いた接続弁に替えて鉛を含まない無鉛黄銅合金を用いた接続弁を備えたことを特徴とする冷凍装置。」が記載されている。
イ 上記アの接続弁に用いる無鉛黄銅合金の化学組成として、上記第5の1(3)の段落【0012】には、「本発明で使用する無鉛黄銅合金としては、特に限定されないが、例えば特開平7−310133号公報に記載されているような、質量%で、Zn:20〜45%、Bi:0.2〜4%、Sn:0.2〜3%、残部がCuおよび不純物からなるBi、Snを含む耐脱亜鉛腐食特性などに優れる無鉛快削黄銅合金・・・を挙げることができる。」と記載されている。
ウ 上記アの冷凍装置における接続弁が冷媒配管に介装されていることは明らかであり、また、上記第5の1(5)の図1において、密閉型圧縮機と凝縮器の間にある接続弁aの温度が大気よりも高い環境であることも明らかである。
エ そうすると、甲第1号証には、接続弁aに注目すると、次の発明(以下「甲1発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲1発明>
「冷凍装置であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、冷媒が内部を流れるように構成され、
質量%で、Zn:20〜45%、Bi:0.2〜4%、Sn:0.2〜3%、残部がCuおよび不純物からなる無鉛黄銅合金で形成した接続弁を備える冷凍装置。」

(2)本件発明1について
ア 対比
(ア)甲1発明における「冷凍装置」は、本件発明1における「空気調和機」と、圧縮式冷凍機である点で一致する。
(イ)甲1発明における「黄銅無鉛合金」は、本件発明1における「黄銅合金」とCu、Sn、Bi、Znを含有する黄銅合金である点で一致する。
(ウ)甲1発明における「接続弁」は、本件発明1における「流体用開閉弁」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、以下の一致点1−1の点で一致し、以下の相違点1−1〜相違点1−3の点で相違する。

<一致点1−1>
「圧縮式冷凍機であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、冷媒が内部を流れるように構成され、
Cu、Sn、Bi、Znを含有する黄銅合金で形成した流体用開閉弁を備える圧縮式冷凍機。」

<相違点1−1>
本件発明1では、圧縮式冷凍機が「空気調和機」であるのに対し、甲1発明では、「冷凍装置」である点。
<相違点1−2>
本件発明1では、冷媒が「HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒」であるのに対し、甲1発明では、冷媒が不明である点。
<相違点1−3>
本件発明1では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、甲1発明では、「質量%で、Zn:20〜45%、Bi:0.2〜4%、Sn:0.2〜3%、残部がCuおよび不純物」からなる点。

イ 判断
(ア)相違点1−1について
相違点1−1について検討すると、甲第1号証では冷凍装置の具体的な用途が想定されておらず、冷凍装置であれば空気調和機に適用できるとの技術常識があるものともいえないから、甲1発明において、冷凍装置を空気調和機に用いる動機が存在するとはいえない。
(イ)相違点1−2について
相違点1−2について検討すると、甲第10号証の段落【0035】には「この空気調和機は、・・・暖・冷房運転を行う。冷媒としては・・・HFC−32(R32)やHFC−152a、HFO−1234yf、HFO−1234ze等の単一冷媒、またはそれらを主成分とし、それぞれ2成分混合もしくは3成分混合した混合冷媒としてあり、この実施の形態ではR32を一例として使用している。」と記載され、甲第11号証の請求項1には「作動流体としてHFO−1234yf単体冷媒又はHFO−1234yfと他の冷媒とを混合した混合冷媒を循環させて、冷房,暖房及び除湿運転を行う空気調和機」と記載されているところ、本件明細書の段落【0029】には「R32等のHFC系冷媒やHFO−1234yf」が「炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒またはそれらを主成分とする混合冷媒」であると記載されていることから、甲第10号証、甲11号証には、空気調和機に用いる冷媒として、「HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒」を用いることが例示されていると認められるものの、上記(ア)のとおり、甲第1号証では冷凍装置の具体的な用途が想定されておらず、また、特定の冷媒を用いることも想定されていないから、甲1発明において、相違点2に係る冷媒を用いることが動機付けられるとはいえない。
(ウ)相違点1−3について
相違点1−3について検討すると、両者の含有率範囲に重複部分があるものの、甲第1号証には、甲1発明における黄銅合金の含有率範囲を本件発明1の範囲に調整することを動機付ける記載は存在しない。また、甲第2号証〜甲第5号証には、それぞれ、以下の表1に摘記した化学組成を有する銅合金が記載されているものの、甲第2号証、甲第3号証及び甲第5号証の銅合金は、下線を付した数値が本件発明1の黄銅合金の含有率範囲を満たすものではない。そして、甲第4号証の銅合金はFeが不純物である(上記第5の4(4)の段落【0052】)ことから、本件発明1の黄銅合金の含有率範囲を満たすものの、甲第4号証に記載される用途は、冷媒管、空調機部品が例示されるにとどまる(上記第5の4(6)の段落【0091】)から、甲第4号証の開示から、銅合金の用途として空気調和機の流体用開閉弁が想起されるとはいえない。

表1

(本件発明1の黄銅合金の含有率範囲を満たさない点に下線を付した。)

(エ)仮に、上記相違点1−1〜相違点1−3を解消することが、当業者が容易になし得ることであるとしても、甲第1号証は、耐応力腐食割れ性を課題としておらず、耐応力腐食割れ性を課題とする、甲第2号証及び甲第3号証は、上記表1のとおり、本件発明1の黄銅合金の含有率範囲を満たす銅合金の化学組成を開示していないから、本件発明1が応力腐食割れを防止することができるという格別の効果は、甲第1号証〜甲第5号証、甲第10号証及び甲第11号証の記載から当業者が予測し得るものであるとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第5号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

3 申立理由2−2(進歩性
(1)甲第7号証に記載された発明
ア 上記第5の7(1)の摘記によれば、甲第7号証には、「冷媒用フレア及びろう付け管継手」の日本工業規格(JIS B 8607)に関し、「銅及び銅合金に対して腐食性のない冷媒を用いた,冷凍装置の銅管の接続に使用するフレア管継手(管端部のフレア加工を含む。),銅合金ろう付けソケット管継手及びろう付け管継手(以下,管継手と総称する。)」が記載され、この規格で引用するJIS H 3250(銅及び銅合金の棒)には、上記第5の6(5)の摘記のとおり、合金番号がC6801〜C6804の黄銅棒の化学成分が記載されている。
イ また、上記第5の6(2)の摘記によれば、C6801〜C6804の黄銅棒の化学成分は質量%で記載されている。
ウ そうすると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲7A発明」〜「甲7D発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲7A発明>
「銅及び銅合金に対して腐食性のない冷媒を用いた冷凍装置の銅管の接続に使用する管継手であって、質量%で、
Pb:0.01%以下、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜2.5%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.50%以下、Cd:0.0075%以下残部Znからなる黄銅合金で形成した管継手。」

<甲7B発明>
「銅及び銅合金に対して腐食性のない冷媒を用いた冷凍装置の銅管の接続に使用する管継手であって、質量%で、
Pb:0.01超〜0.10%、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜3.0%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.7%以下、Cd:0.0075%以下残部Znからなる黄銅合金で形成した管継手。」

<甲7C発明>
「銅及び銅合金に対して腐食性のない冷媒を用いた冷凍装置の銅管の接続に使用する管継手であって、質量%で、
Pb:0.01%以下、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜2.5%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.50%以下、Cd:0.0075%以下、(Se+Al+Sb+Tc+Ni):0.02〜0.6%残部Znからなる黄銅合金で形成した管継手。」

<甲7D発明>
「銅及び銅合金に対して腐食性のない冷媒を用いた冷凍装置の銅管の接続に使用する管継手であって、質量%で、
Pb:0.01超〜0.10%、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜3.0%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.7%以下、Cd:0.0075%以下、(Se+Al+Sb+Tc+Ni):0.02〜0.6%残部Znからなる黄銅合金で形成した管継手。」

(2)本件発明1について
ア 本件発明1と甲7A発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲7A発明における「冷凍装置」は、本件発明1における「空気調和機」と、圧縮式冷凍機である点で一致する。
b 甲7A発明における「黄銅合金」は、本件発明1における「黄銅合金」と鉛、Cu、Sn、Bi及びZnを含有する黄銅合金である点で一致する。
c 甲7A発明における「管継手」は、本件発明1における「流体用開閉弁」と、流体用部材である点で一致する。
d 以上によれば、本件発明1と甲7A発明とは、以下の一致点7−1の点で一致し、以下の相違点7A−1〜相違点7A−4の点で相違する。

<一致点7−1>
「圧縮式冷凍機であって、
冷媒が内部を流れるように構成され、
鉛、Cu、Sn、Bi及びZnを含有する黄銅合金で形成した流体用部材を備える圧縮式冷凍機。」

<相違点7A−1>
本件発明1では、圧縮式冷凍機が「空気調和機」であるのに対し、甲7A発明では、「冷凍装置」である点。
<相違点7A−2>
本件発明1では、流体用部材が「冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ」る「流体用開閉弁」であるのに対し、甲7A発明では、適用箇所が不明な「管継手」である点。
<相違点7A−3>
本件発明1では、冷媒が「HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒」であるのに対し、甲7A発明では、冷媒が不明である点。
<相違点7A−4>
本件発明1では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、甲7A発明では、「質量%で、Pb:0.01%以下、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜2.5%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.50%以下、Cd:0.0075%以下残部Zn」からなる点。

(イ)判断
a 相違点7A−1について
相違点7A−1について検討すると、相違点7A−1について判断は、上記2(2)イ(ア)の相違点1−1に対する判断と同様である。
b 相違点7A−2について
相違点7A−2について検討すると、上記第5の6(3)の摘記によれば、甲第6号証には、押出棒(BE)及び引抜棒(BD)の用途例としてバルブが示されているから、管継手を流体用開閉弁とすることは、当業者が容易になし得ることである。また、流体用開閉弁は配管に介装されるといえるから、圧縮式冷凍機用の流体用開閉弁は、「冷媒配管に介装され」るといえる。
しかしながら、甲第7号証には、「管継手」が用いられる位置が記載されていないから、「管継手」を「流体用開閉弁」に転用できたとしても、その位置を「温度が大気よりも高い環境下」とする動機が存在するとはいえない。
c 相違点7A−3について
相違点7A−3について検討すると、相違点7A−3について判断は、上記2(2)イ(イ)の相違点1−2に対する判断と同様である。
d 相違点7A−4について
相違点7A−4について検討すると、両者の含有率範囲に重複部分があるものの、甲第7号証には、甲7A発明における黄銅合金の含有率範囲を本件発明1の範囲に調整することを動機付ける記載は存在しない。
e したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 本件発明1と甲7B発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲7B発明とを対比すると、上記一致点7−1の点で一致し、上記相違点7A−1〜相違点7A−3の点で相違し、さらに、以下の相違点7B−4の点で相違する。

<相違点7B−4>
本件発明1では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、甲7B発明では、「質量%で、Pb:0.01超〜0.10%、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜3.0%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.7%以下、Cd:0.0075%以下残部Zn」からなる点。

(イ)判断
a 相違点7A−1〜相違点7A−3及び相違点7B−4についての判断は、それぞれ、上記ア(イ)a〜dにおける相違点7A−1〜相違点7A−4に対する判断と同様である。
b したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明1と甲7C発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲7C発明とを対比すると、上記一致点7−1の点で一致し、上記相違点7A−1〜相違点7A−3の点で相違し、さらに、以下の相違点7C−4の点で相違する。

<相違点7C−4>
本件発明1では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、甲7C発明では、「Pb:0.01%以下、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜2.5%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.50%以下、Cd:0.0075%以下、(Se+Al+Sb+Tc+Ni):0.02〜0.6%残部Zn」からなる点。

(イ)判断
a 相違点7A−1〜相違点7A−3及び相違点7C−4についての判断は、それぞれ、上記ア(イ)a〜dにおける相違点7A−1〜相違点7A−4に対する判断と同様である。
b したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

エ 本件発明1と甲7D発明との対比・判断
(ア)対比
本件発明1と甲7D発明とを対比すると、上記一致点7−1の点で一致し、上記相違点7A−1〜相違点7A−3の点で相違し、さらに、以下の相違点7D−4の点で相違する。

<相違点7D−4>
本件発明1では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、甲7D発明では、「Pb:0.01超〜0.10%、Cu:57.0〜64.0%、Sn:0.1〜3.0%、Bi:0.5〜4.0%、P:0.2%以下、Fe:0.7%以下、Cd:0.0075%以下、(Se+Al+Sb+Tc+Ni):0.02〜0.6%残部Zn」からなる点。

(イ)判断
a 相違点7A−1〜相違点7A−3及び相違点7D−4についての判断は、それぞれ、上記ア(イ)a〜dにおける相違点7A−1〜相違点7A−4に対する判断と同様である。
b したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

オ 甲第2号証〜甲第5号証に記載される銅合金の適用について
(ア)甲第2号証〜甲第5号証には、上記2(2)イ(ウ)の表1に摘記した化学組成を有する銅合金が記載されるものの、これらの銅合金を甲7A発明〜甲7D発明に適用したとしても、少なくとも相違点7A−1及び相違点7A−3は解消されない。

(イ)したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

カ 小括
したがって、本件発明1は、甲第7号証に記載された発明及び甲第2号証〜甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

4 申立理由2−3(進歩性
(1)引用文献1に記載された発明
ア 上記第5の12(1)の請求項1には、「鉛レス黄銅合金であって、Snを含有したBi系、Snを含有したBi+Sb系またはSnを含有したBi+Se+Sb系で、かつ、α+γ組織、或は、α+β+γ組織を有する黄銅合金であり、このうちγ相を黄銅合金中に所定の割合で分布させることにより、黄銅合金中における腐食割れの進行速度を抑制させ、耐応力腐食割れ性を向上させたことを特徴とする耐応力腐食割れ性に優れた鉛レス黄銅合金。」が記載されている。
イ 上記アの黄銅合金の化学組成として、上記第5の12(5)の段落[0106]には、供試材29として、質量比で、Cu:60.7%、Sn:1.5%、Bi:1.5%、Ni:0.2%残部がZnと不可避不純物からなる黄銅合金が記載されている。
ウ そうすると、引用文献1には、供試材29に注目すると、次の発明(以下「引用文献1発明」という。)が記載されているものと認められる。

<引用文献1発明>
「Cu:60.7%、Sn:1.5%、Bi:1.5%、Ni:0.2%残部がZnと不可避不純物からなる黄銅合金」

(2)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用文献1発明とを対比する。
(ア)引用文献1における「黄銅合金」は、本件発明1における「黄銅合金」とCu、Sn、Bi、Znを含有する黄銅合金である点で一致する。
(イ)以上によれば、本件発明1と引用文献1発明とは、以下の一致点2の点で一致し、以下の相違点2−1〜相違点2−3の点で相違する。

<一致点2>
「Cu、Sn、Bi、Znを含有する黄銅合金」

<相違点2−1>
本件発明1では、「黄銅合金」の用途が、「流体用開閉弁」であり、該「流体用開閉弁」が、「冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒が内部を流れるように構成され」、さらに、該「流体用開閉弁」が「空気調和機」に備わるのに対し、引用文献1発明では、「黄銅合金」の用途が不明である点。
<相違点2−2>
本件発明1では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.500wt%超から66.00wt%以下、Snを0.8wt%以上から2.5wt%以下、Biを1.320wt%超から2.120wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、引用文献1発明では、「Cu:60.7%、Sn:1.5%、Bi:1.5%、Ni:0.2%残部がZnと不可避不純物からなる」点。

イ 判断
(ア)相違点2−1について
a 上記第5の13(1)の摘記によれば、引用文献7には、空気調和機に用いられる三方弁が真鍮材で出来ていることが記載され、上記第5の14(1)の摘記によれば、引用文献8には、空調サイクルに用いられる逆止弁付き三方弁が真鍮製であることが記載されている。
b 上記aの引用文献7、8の記載からすると、空気調和機に用いられる三方弁を真鍮(黄銅と同義)で形成することは周知技術であると認められる。
c 一方、引用文献1には、黄銅合金の用途として、上記第5の12(2)の段落[0002]に、「バルブ、コック、継手等の水道用配管器材」が記載され、上記第5の12(6)の段落[0191]に、冷媒管、空調機部品が例示されているに過ぎないから、引用文献1発明の黄銅合金を、空気調和機の、冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられる流体用開閉弁に用いることが想定されているとはいえない。
d そうすると、上記bの周知技術を引用文献1発明に適用する動機が存在するとはいえない。
e また、上記2(2)イ(イ)のとおり、甲第10号証(引用文献9)の段落【0035】や甲第11号証(引用文献10)の【請求項1】には、空気調和機に用いる冷媒として、「HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒」を用いることが例示されているものの、上記cのとおり、引用文献1発明の黄銅合金は、空気調和機の流体用開閉弁に用いることが想定されていないから、この冷媒を用いることも動機付けられるとはいえない。

(イ)相違点2−2について
a 引用文献1において、Niは、引張強さを向上させるために0.05〜1.5mass%添加することができる元素である(上記第5の12(4)の段落[0062])。
b ここで、引用文献1発明においては、Niを上記aの下限値以上の0.2mass%含んでいるから、引用文献1発明のNiは意図的に添加した元素であると認められる。
c そうすると、引用文献1発明において、Niを除くことは想定できない。

ウ 小括
したがって、本件発明1は、引用文献1に記載された発明及び引用文献7〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

5 申立理由2−4(進歩性
(1)甲第1号証に記載された発明
ア 甲第1号証に記載された発明は、上記2(1)で検討した甲1発明である。再掲すると次のとおりである。

<甲1発明>
「冷凍装置であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、冷媒が内部を流れるように構成され、
質量%で、Zn:20〜45%、Bi:0.2〜4%、Sn:0.2〜3%、残部がCuおよび不純物からなる無鉛黄銅合金で形成した接続弁を備える冷凍装置。」

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明における「冷凍装置」は、本件発明2における「空気調和機」と、圧縮式冷凍機である点で一致する。
(イ)甲1発明における「黄銅無鉛合金」は、本件発明2における「黄銅合金」と黄銅合金である点で一致する。
(ウ)甲1発明における「接続弁」は、本件発明2における「流体用開閉弁」に相当する。
(エ)以上によれば、本件発明2と甲1発明とは、以下の一致点1−2の点で一致し、以下の相違点1−4〜相違点1−6の点で相違する。

<一致点1−2>
「圧縮式冷凍機であって、
冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、冷媒が内部を流れるように構成され、
黄銅合金で形成した流体用開閉弁を備える圧縮式冷凍機。」

<相違点1−4>
本件発明2では、圧縮式冷凍機が「空気調和機」であるのに対し、甲1発明では、「冷凍装置」である点。
<相違点1−5>
本件発明2では、冷媒が「HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒」であるのに対し、甲1発明では、冷媒が不明である点。
<相違点1−6>
本件発明2では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.060wt%超から79wt%以下、Siを3.060wt%以上から4.0wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、甲1発明では、「質量%で、Zn:20〜45%、Bi:0.2〜4%、Sn:0.2〜3%、残部がCuおよび不純物」からなる点。

イ 判断
(ア)相違点1−4について
相違点1−4についての判断は、上記2(2)イ(ア)の相違点1−1についての判断と同様である。

(イ)相違点1−5について
相違点1−5についての判断は、上記2(2)イ(イ)の相違点1−2についての判断と同様である。

(ウ)相違点1−6について
相違点1−6について検討すると、甲第8号証、甲第9号証には、それぞれ、以下の表2に摘記した化学組成を有する銅合金が記載されているものの、甲第8号証の銅合金は、下線を付した数値が本件発明2の黄銅合金の含有率範囲を満たすものではない。そして、甲第9号証の銅合金は、本件発明2の黄銅合金の含有率範囲を満たすものの、甲第9号証における用途の記載は、バルブ、空調設備が例示されるに過ぎない(上記第5の9(3)の段落[0110])から、甲第9号証の開示から、銅合金の用途として空気調和機の流体用開閉弁が想起されるとはいえない。

表2

(本件発明2の黄銅合金の含有率範囲を満たさない点に下線を付した。)

(エ)仮に、上記相違点1−4〜相違点1−6を解消することが、当業者が容易になし得ることであるとしても、甲第1号証は、耐応力腐食割れ性を課題としておらず、甲第8号証及び甲第9号証も耐応力腐食割れ性に関する記載はないから、本件発明2が応力腐食割れを防止することができるという格別の効果は、甲第1号証及び甲第8号証〜甲第11号証の記載から当業者が予測し得るものではない。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、甲第1号証に記載された発明及び甲第8号証〜甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

6 申立理由2−5(進歩性
(1)甲第7号証に記載された発明
ア 上記第5の7(1)の摘記によれば、甲第7号証には、「冷媒用フレア及びろう付け管継手」の日本工業規格(JIS B 8607)に関し、「銅及び銅合金に対して腐食性のない冷媒を用いた,冷凍装置の銅管の接続に使用するフレア管継手(管端部のフレア加工を含む。),銅合金ろう付けソケット管継手及びろう付け管継手(以下,管継手と総称する。)」が記載され、この規格で引用するJIS H 3250(銅及び銅合金の棒)には、上記第5の6(5)の摘記のとおり、合金番号がC6932の黄銅棒の化学成分が記載されている。
イ 上記第5の6(2)の摘記によれば、C6932の黄銅棒の化学成分は質量%で記載されている。
ウ そうすると、甲第7号証には、次の発明(以下、「甲7E発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲7E発明>
「銅及び銅合金に対して腐食性のない冷媒を用いた冷凍装置の銅管の接続に使用する管継手であって、質量%で、
Pb:0.10%以下、Cu:74.0〜78.0%、Si:2.7〜3.4%、Bi:0.05%以下、Sn:0.6%以下、P:0.05〜0.2%、Fe:0.10%以下、Cd:0.0075%以下、Mn:0.1%以下、Ni:0.2%以下残部Znからなる黄銅合金で形成した管継手。」

(2)本件発明2について
ア 本件発明2と甲7E発明との対比・判断
(ア)対比
a 甲7E発明における「冷凍装置」は、本件発明2における「空気調和機」と、圧縮式冷凍機である点で一致する。
b 甲7E発明における「黄銅合金」は、本件発明2における「黄銅合金」と鉛、Cu、Si及びZnを含有する黄銅合金である点で一致する。
c 甲7E発明における「管継手」は、本件発明2における「流体用開閉弁」と、流体用部材である点で一致する。
d 以上によれば、本件発明2と甲7E発明とは、以下の一致点7−2の点で一致し、以下の相違点7E−1〜相違点7E−4の点で相違する。

<一致点7−2>
「圧縮式冷凍機であって、
冷媒が内部を流れるように構成され、
鉛、Cu、Sn、Bi及びZnを含有する黄銅合金で形成した流体用部材を備える圧縮式冷凍機。」

<相違点7E−1>
本件発明2では、圧縮式冷凍機が「空気調和機」であるのに対し、甲7E発明では、「冷凍装置」である点。
<相違点7E−2>
本件発明2では、流体用部材が「冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ」る「流体用開閉弁」であるのに対し、甲7E発明では、適用箇所が不明な「管継手」である点。
<相違点7E−3>
本件発明2では、冷媒が「HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒」であるのに対し、甲7E発明では、冷媒が不明である点。
<相違点7E−4>
本件発明2では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.060wt%超から79wt%以下、Siを3.060wt%以上から4.0wt%未満、残部がZn及び不純物」からなるのに対し、甲7E発明では、「質量%で、Pb:0.10%以下、Cu:74.0〜78.0%、Si:2.7〜3.4%、Bi:0.05%以下、Sn:0.6%以下、P:0.05〜0.2%、Fe:0.10%以下、Cd:0.0075%以下、Mn:0.1%以下、Ni:0.2%以下残部Znからなる」からなる点。

(イ)判断
a 相違点7E−1について
相違点7E−1について検討すると、相違点7E−1について判断は、上記2(2)イ(ア)の相違点1−1に対する判断と同様である。
b 相違点7E−2について
相違点7E−2について検討すると、相違点7E−2について判断は、上記3(2)イ(イ)bの相違点7A−2に対する判断と同様である。
c 相違点7E−3について
相違点7E−3について検討すると、相違点7E−3について判断は、上記2(2)イ(イ)の相違点1−2に対する判断と同様である。
d 相違点7A−4について
相違点7A−4について検討すると、両者の含有率範囲に重複部分があるものの、甲第7号証には、甲7E発明における黄銅合金の含有率範囲を本件発明2の範囲に調整することを動機付ける記載は存在しない。
e したがって、本件発明2は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第10号証、甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲第8号証、甲第9号証に記載される銅合金の適用について
(ア)甲第8号証、甲第9号証には、上記5(2)イ(ウ)の表2に摘記した化学組成を有する銅合金が記載されるものの、これらの銅合金を甲7E発明に適用したとしても、少なくとも相違点7E−1及び相違点7E−3は解消されない。

(イ)したがって、本件発明2は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第8号証〜甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、甲第7号証に記載された発明及び甲第6号証、甲第8号証〜甲第11号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

7 申立理由2−6(進歩性
(1)甲第8号証(引用文献6)に記載された発明
ア 上記第5の8(1)の請求項1には、「73.0〜79.5mass%のCuと、2.5〜4.0mass%のSiと、を含有し、残部がZn及び不可避不純物からなる合金組成であり、他材とろう付けされた耐圧耐食性銅合金であって、
Cuの含有量[Cu]mass%と、Siの含有量[Si]mass%との間に、62.0≦[Cu]−3.6×[Si]≦67.5の関係を有し、
前記銅合金のろう付け部分の金属組織は、α相マトリックスに少なくともκ相を含み、α相の面積率「α」%と、β相の面積率「β」%と、γ相の面積率「γ」%と、κ相の面積率「κ」%と、μ相の面積率「μ」%との間に、30≦「α」≦84、15≦「κ」≦68、「α」+「κ」≧92、0.2≦「κ」/「α」≦2であり、β≦3、μ≦5、β+μ≦6、0≦「γ」≦7、0≦「β」+「μ」+「γ」≦8の関係を有することを特徴とする耐圧耐食性銅合金。」が記載されている。
イ 上記アの黄銅合金の化学組成として、上記第5の8(4)の段落[0052]には、合金No.A11として、Cu:75.1mass%、Si:3.0mass%残部がZnと不可避不純物からなる黄銅合金が記載されている。
ウ そうすると、甲第8号証には、次の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されているものと認められる。

<甲8発明>
「Cu:75.1mass%、Si:3.0mass%残部がZnと不可避不純物からなる黄銅合金」

(2)本件発明2について
ア 対比
本件発明2と甲8発明とを対比する。
(ア)甲8発明における「黄銅合金」は、本件発明2における「黄銅合金」とCu、Si、Znを含有する黄銅合金である点で一致する。
(イ)以上によれば、本件発明2と甲8発明とは、以下の一致点8の点で一致し、以下の相違点8−1〜相違点8−3の点で相違する。

<一致点8>
「Cu、Si、Znを含有する黄銅合金」

<相違点8−1>
本件発明2では、「黄銅合金」の用途が、「流体用開閉弁」であり、該「流体用開閉弁」が、「冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられ、HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒が内部を流れるように構成され」、さらに、該「流体用開閉弁」が「空気調和機」に備わるのに対し、甲8発明では、「黄銅合金」の用途が不明である点。
<相違点8−2>
本件発明8では、黄銅合金の化学組成が、「鉛の含有量が1000wtppm以下であって、Cuを59.060wt%超から79wt%以下、Siを3.060wt%以上から4.0wt%未満、残部がZn及び不純物からなる」からなるのに対し、甲8発明では、「Cu:75.1mass%、Si:3.0mass%残部がZnと不可避不純物からなる」点。

イ 判断
(ア)相違点8−1について
a 上記第5の13(1)の摘記によれば、引用文献7には、空気調和機に用いられる三方弁が真鍮材で出来ていることが記載され、上記第5の14(1)の摘記によれば、引用文献8には、空調サイクルに用いられる逆止弁付き三方弁が真鍮製であることが記載されている。
b 上記aの引用文献7、8の記載からすると、空気調和機に用いられる三方弁を真鍮(黄銅と同義)で形成することは周知技術であると認められる。
c 一方、甲第8号証には、黄銅合金の用途として、上記第5の8(5)の段落[0078]に、バルブや弁が例示されているに過ぎないから、甲8発明の黄銅合金を、空気調和機の、冷媒配管に介装され、温度が大気よりも高い環境下で用いられる流体用開閉弁に用いることが想定されているとはいえない。
d そうすると、上記bの周知技術を甲8発明に適用する動機が存在するとはいえない。
e また、上記2(2)イ(イ)のとおり、甲第10号証(引用文献9)の段落【0035】や甲第11号証(引用文献10)の【請求項1】には、空気調和機に用いる冷媒として、「HFC系冷媒、若しくは炭素の二重結合を持つフッ化水素系冷媒の単一冷媒、または、それらを主成分とする混合冷媒であり、かつ地球温暖化係数が5以上750以下の冷媒」を用いることが例示されているものの、上記cのとおり、甲8発明の黄銅合金は、空気調和機の流体用開閉弁に用いることが想定されていないから、この冷媒を用いることも動機付けられるとはいえない。
(イ)相違点8−2について
相違点8−2について検討すると、甲第8号証において、銅合金の化学組成は、高い耐圧性と優れた耐食性を備えるために設定されているので、甲8発明のSiを増加させることは想定されていない。

ウ 小括
したがって、本件発明2は、引用文献6に記載された発明及び引用文献7〜10に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

第7 まとめ
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1、2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-02-28 
出願番号 P2015-245858
審決分類 P 1 651・ 537- Y (C22C)
P 1 651・ 121- Y (C22C)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 境 周一
佐藤 陽一
登録日 2021-04-15 
登録番号 6868761
権利者 パナソニックIPマネジメント株式会社
発明の名称 流体用開閉弁及びそれを用いた空気調和機  
代理人 野村 幸一  
代理人 鎌田 健司  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ