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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A01N
審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備  A01N
管理番号 1384257
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-24 
確定日 2022-03-02 
異議申立件数
事件の表示 特許第6885146号発明「抗ウイルス性成型体」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6885146号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
本件特許第6885146号は平成29年3月28日(優先日:平成28年3月28日)に出願され、令和3年5月17日に特許権の設定登録がなされ、同年6月9日にその特許公報が発行され、その後、請求項1〜5に係る特許に対して、同年11月24日に特許異議申立人 岩部英臣(以下、「申立人」という。)から特許異議の申立てがなされたものである。

第2 本件請求項1〜5に係る発明
本件請求項1〜5に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明5」、まとめて「本件発明」という。)は、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された以下の事項によって特定されるとおりのものである。
「【請求項1】
脂肪酸が被覆された一価銅化合物微粒子及び安定化剤を含有する抗ウイルス性組成物が含有されている、或いは最表面に固定化されている抗ウイルス性成型体であって、前記安定化剤が、サッカリン、サリチル酸、アスパラギン酸、クエン酸から選択される1種以上であることを特徴とする抗ウイルス性成型体。
【請求項2】
前記一価銅化合物が亜酸化銅である請求項1記載の抗ウイルス性成型体。
【請求項3】
前記一価銅化合物微粒子が、更に前記脂肪酸のエステル化合物で被覆されている請求項1又は2記載の抗ウイルス性成型体。
【請求項4】
前記一価銅化合物微粒子が空気中の酸素と反応することにより、前記抗ウイルス性成型体15cm2あたり30万counts以上の量の活性酸素を発生する請求項1〜3の何れかに記載の抗ウイルス性成型体。
【請求項5】
基材上に、前記抗ウイルス性組成物を含有する塗膜が形成されている請求項1〜4の何れかに記載の抗ウイルス性成型体。」

第3 異議申立ての理由についての検討
1 申立人の異議申立ての理由について
申立人の異議申立ての理由は、概要以下のとおりである。
甲第1号証:特開2015−120896号公報
甲第2号証:国際公開第2015/064700号
甲第3号証:特開2014−1190号公報
甲第4号証:登録実用新案第3195611号公報
甲第5号証:特開2015−205998号公報
甲第6号証:特表2014−519504号公報
甲第7号証:特開2014−231525号公報
(以下、甲第1〜7号証を「甲1」〜「甲7」という。)

・申立ての理由1−1
本件発明1及び3〜5は、甲1に記載された発明及び甲4〜6に記載された事項から、本件発明2は、甲1に記載された発明及び甲4〜7に記載された事項から、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由1−2
本件発明1及び3〜5は、甲2に記載された発明及び甲4〜6に記載された事項から、本件発明2は、甲2に記載された発明及び甲4〜7に記載された事項から、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由1−3
本件発明1〜5は、甲3に記載された発明及び甲5〜7に記載された事項から、あるいは、甲3に記載された発明及び甲1及び5〜7に記載された事項から、当業者が容易に発明することができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明に係る特許は、同法第113条第2号に該当し、取り消すべきものである。
・申立ての理由2
本件発明4のように活性酸素発生量を抗ウイルス性成型体15cm2あたり30万counts以上とするための条件が極めて不明であり、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明に基づいて、活性酸素発生量が抗ウイルス性成型体15cm2あたり30万counts以上である抗ウイルス性成型体を作ることはできない。このため、本件発明4は、特許法第36条第4項第1号の規定を満たしておらず、特許を受けることができないものである。
よって、本件発明4に係る特許は、同法第113条第4号に該当し、取り消すべきものである。

2 申立ての理由1−1〜1−3について
(1)甲1の記載事項
ア「【請求項1】
硬化性樹脂に脂肪酸修飾金属超微粒子が分散して成ることを特徴とする硬化性樹脂組成物。
【請求項2】
イオン安定化剤を更に含有する請求項1記載の硬化性樹脂組成物。
【請求項3】
前記脂肪酸修飾金属超微粒子が、金属粒子表面に脂肪酸が配位し、該脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリドが配位してなる金属超微粒子である請求項1又は2記載の硬化性樹脂組成物。

【請求項6】
硬化性樹脂組成物が脂肪酸修飾金属超微粒子含有分散液を含有してなり、
前記脂肪酸修飾金属超微粒子含有分散液が、高沸点溶媒としてグリセリンを使用し、該高沸点溶媒に、銀、銅、亜鉛のいずれかの金属を有する脂肪酸金属塩とサッカリン添加し、これを加熱混合することにより、銀、銅、亜鉛いずれかの金属超微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位してなる脂肪酸修飾金属超微粒子が分散して成る脂肪酸修飾金属超微粒子分散高沸点溶媒を調製し、該脂肪酸修飾金属超微粒子分散高沸点溶媒を低沸点溶媒と混合した後、前記高沸点溶媒及び低沸点溶媒を二相分離すると共に、高沸点溶媒から低沸点溶媒中に脂肪酸修飾金属超微粒子を抽出することにより得られた脂肪酸修飾金属超微粒子含有低沸点溶媒である請求項1〜5の何れかに記載の硬化性樹脂組成物。」

イ「【技術分野】
【0001】
本発明は、金属超微粒子を含有してなる抗菌性樹脂組成物に関するものであり、より詳細には、金属超微粒子の分散性に優れ、優れた光学特性を有し、生産性にも優れた硬化性樹脂組成物に関する。
【背景技術】
【0002】
ナノメートルのオーダーの金属超微粒子は、比表面積が大きいこと、量子サイズ効果によって特有の物性を示すことなど、一般的な材料とはその性質が異なることから、電子材料、磁性材料、光学材料、浸透成膜、触媒材料、抗菌剤など、様々な分野で研究・利用が進められている。
その一方、金属超微粒子は活性が高く不安定であるため、金属超微粒子単体ではその形態を維持しにくいため金属超微粒子同士が凝集してしまい、光学特性が求められる用途においては、透明性が低下し、性能が低下或いは発現しないといった問題がある。」

ウ「【0007】
従って本発明の目的は、分散性、生産性に優れていると共に、抗菌性能を有する銀等の金属を効率よく溶出可能であり、優れた抗菌性能を発現可能な硬化性樹脂組成物を提供することである。
本発明の他の目的は、分散性に優れ少量の脂肪酸修飾金属超微粒子であっても抗菌性能を発現可能な抗菌性硬化性樹脂組成物を提供することである。」

エ「【0011】
(脂肪酸修飾金属超微粒子)
本発明の脂肪酸修飾金属超微粒子における脂肪酸としては、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n−デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等の脂肪族カルボン酸、フタル酸,マレイン酸,イソフタル酸,テレフタル酸,安息香酸、ナフテン酸等の芳香族カルボン酸、シクロヘキサンジカルボン酸等の脂環式カルボン酸等を挙げることができる。
本発明においては、用いる脂肪酸が、ミリスチン酸、ステアリン酸、パルミチン酸等の高級脂肪酸であることが特に好ましく、分岐を有すると共に炭素数の多いものであることが特に好ましい。

金属超微粒子の金属成分は、Cu,Ag,Au,Id,Pd,Pt,Fe,Ni,Co,Zn,Nb,Ru及びRhから成る群から選択される少なくとも1種を用いることができるが、抗菌性能の点から銀、銅、亜鉛が好適であり、特に銀が好適である。」

オ「【0012】
(硬化性樹脂)
本発明の硬化性樹脂組成物に使用し得る硬化性樹脂としては、従来公知の光硬化性樹脂、熱硬化性樹脂、主剤と硬化剤からなる二液型硬化性樹脂等を使用することができるが、好適には、光硬化性樹脂を使用することが好適であり、以下に光硬化性樹脂について説明する。
【0013】
[光硬化性樹脂]
本発明の樹脂組成物に用いる光硬化樹脂としては、紫外線等の光を照射することによって硬化可能な従来公知のアクリル系樹脂を全て用いることができる。…

【0017】
本発明の光硬化型アクリル系樹脂組成物は、従来公知の方法によって、塗料組成物、コーティング剤、或いは接着性組成物等として好適に用いることができるが、フィルム、シート等の樹脂成形品の形状に成形することもできる。
塗膜、樹脂成形品等への硬化条件は、用いるアクリル系樹脂の種類、光重合開始剤、希釈剤或いは脂肪酸修飾金属超微粒子の種類、或いは粘度、光源の種類等によって一概に規定できないが、一般に100乃至500J/cm2の範囲で照射することが好ましい。…
【0018】
[その他の硬化性樹脂]
本発明の樹脂組成物に使用し得る熱硬化性樹脂としては、これに限定されないがフェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の従来公知の熱硬化性樹脂、を挙げることができ、二液型硬化性樹脂としては、エポキシ樹脂、シリコーン樹脂等を挙げることができる。」

カ「【0019】
[イオン安定化剤]
本発明の硬化性樹脂組成物においては、金属イオンの過度の還元を抑制する観点から、イオン安定化剤を含有することが特に好ましい。これにより金属超微粒子の還元を抑制し、抗菌性能を向上することができる。
このようなイオン安定化剤としては、低沸点溶媒又は高沸点溶媒にその一部又は全部が可溶し、且つ、酸解離係数(pka)が4.5以下のものがよく、例えば、サリチル酸(pKa2.8)、アスパラギン酸(pKa1.93)、クエン酸(pKa2.90)、フマル酸(pKa2.9)、安息香酸(pKa4.2)、o-安息香酸スルフィミド(サッカリン(pKa2.2))、m-ヒドロキシ安息香酸(pKa4.1)、o-アミノ安息香酸(pKa2.0)、m-アミノ安息香酸(pKa3.2)、p-アミノ安息香酸(pKa3.1)およびこれらの組み合わせがある。pKaとは酸解離定数であり、多塩基酸の場合は、第1段目の値をKaとした時に、pKa=−logKaで定義される値である。」

キ「【0026】
(脂肪酸修飾金属超微粒子含有分散液)
本発明の硬化性樹脂組成物に含有される脂肪酸修飾金属超微粒子含有分散液は、前述した通り、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等の低沸点溶媒中に平均1次粒子径が100nm以下、特に10〜50nm、平均2次粒子径が900nm以下、特に200nm〜700nmの脂肪酸修飾金属超微粒子が分散してなる分散液であり、硬化性樹脂組成物に含有させて使用した場合、組成物自体の透明性を低下させることがない。尚、本明細書でいう平均1次粒子径とは、金属粒子と金属粒子との間に隙間がないものを一つの粒子とし、その平均をとったものをいう。平均2次粒子径は、金属粒子と金属粒子がパッキングした状態の粒子とし、その平均をとったものをいう。
また脂肪酸修飾金属超微粒子が顕著に凝集することなく均一に分散していることから、優れた抗菌性能を発現することができる。
更にこの脂肪酸修飾金属超微粒子含有分散液においては、分散液中に存在する金属超微粒子は、粒子表面に脂肪酸が配位し、この脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリドが配位した金属超微粒子であることから、分散安定性に顕著に優れており、長時間経過した場合でも沈殿することがほとんどないことから、透明材を構成する樹脂組成物層においても分散性よく均一に分散する。またこの分散液においては、脂肪酸修飾金属超微粒子は、脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリドが配位した金属超微粒子であることから樹脂組成物層で、金属超微粒子表面と樹脂が直接接触することが低減されており、樹脂の分解を有効に抑制して、樹脂の分子量の低下等を低減することができ、成形性や加工性を阻害することも有効に防止されている。」

ク「【0031】
(実施例1)
グリセリン700g(SP値:20)にステアリン酸銀3.85g(ステアリン酸のSP値:9.1)とサッカリン0.385gを加え、150℃で40分間加熱した。グリセリンを60℃まで冷却後、メチルイソブチルケトン700g(SP値:8.7)を加えて攪拌した。1時間程静置した後にメチルイソブチルケトン層を採取し、0.05重量%脂肪酸修飾銀超微粒子含有分散液Aを得た。GC測定により分散液中にはモノステアリン酸グリセリド(SP値:10.8)が755ppm含有していた。
予め希釈溶剤と混合された光硬化型アクリル樹脂(大成ファインケミカル工業社製)と脂肪酸修飾銀超微粒子含有分散液Aと光重合開始剤(チバスペシャリティケミカル社製)をアクリル樹脂分に対して脂肪酸修飾銀超微粒子含有量が0.01重量%になるような重量比率で混合して硬化性樹脂組成物を調製した。この硬化性樹脂組成物を、厚み100μmの易接着PETフィルム上にバーコーターで塗布後、UV照射装置にて硬化させて樹脂組成物から成る塗膜5μmをPETフィルム上に形成した。得られたフィルムについて、透過率測定、抗菌試験を実施した。結果を表1に示した。」

(2)甲2の記載事項
ア「[請求項1] 低沸点溶剤中に、Ag、Cu,Znの何れかの金属超微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位して成る金属超微粒子を含有することを特徴とする金属超微粒子含有分散液。

[請求項3] 高沸点溶剤としてグリセリンを使用し、該高沸点溶剤に、Ag、Cu,Znの何れかの金属を有する脂肪酸金属塩とサッカリンを添加し、これを加熱混合することにより、Ag、Cu,Znの何れかの金属超微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位して成る金属超微粒子が分散して成る金属超微粒子分散高沸点溶剤を調製し、該金属超微粒子分散高沸点溶剤を低沸点溶剤と混合した後、前記高沸点溶剤及び低沸点溶剤を二相分離すると共に、高沸点溶剤から低沸点溶剤中に金属超微粒子を抽出することを特徴とする金属超微粒子含有分散液の製造方法。」

イ「[0015](抗菌成分)
本発明の金属超微粒子含有分散液は、金属超微粒子を形成する抗菌成分として、Ag、Cu,Znの何れかの金属を金属種として有する脂肪酸金属塩とサッカリンとの組合せを用いることが重要な特徴である。
脂肪酸金属塩とサッカリンとの配合比は、重量比で1:0.01〜1:5、特に1:0.1〜1:1の範囲にあることが好ましい。上記範囲を外れると金属超微粒子形成に使用されない成分が増加し、経済性に劣るだけでなく、透明性が低下するおそれがある。
[0016] 本発明において、サッカリンとの組合せで用いられる脂肪酸金属塩における脂肪酸としては、ミリスチン酸,ステアリン酸,オレイン酸,パルミチン酸,n−デカン酸,パラトイル酸,コハク酸,マロン酸,酒石酸,リンゴ酸,グルタル酸,アジピン酸、酢酸等を挙げることができ、中でもステアリン酸を好適に使用することができる。
また金属成分としては、Ag(銀),Cu(銅),Zn(亜鉛)の何れかであり、特に銀が好ましい。
最も好適な脂肪酸金属塩としては、ステアリン酸銀を挙げることができる。
尚、脂肪酸金属塩は金属種の異なるもの等、複数種の脂肪酸金属塩をブレンドして用いることもできる。
[0017](高沸点溶剤)
本発明において、後述する第一工程において高沸点溶剤としてはグリセリンを用いることが重要な特徴である。
前述した通り、本発明においては、脂肪酸金属塩及びサッカリンを含有させる高沸点溶剤としてグリセリンを用いることにより、脂肪酸とグリセリンがエステル反応してグリセリドを形成し、このグリセリドが金属超微粒子に配位した脂肪酸と親和性を有することから、脂肪酸の周囲又は脂肪酸と混合した状態で配位することが可能になる。
尚、後述するように、本発明においては、脂肪酸金属塩とサッカリンを配合したグリセリンに、低沸点溶剤を混合する際に、エチレングリコール、ジエチレングリコール等のグリセリンよりも脂肪酸との親和性が高く、低沸点溶剤と非相溶である高沸点溶剤を更に混合することにより、グリセリンから低沸点溶剤への金属超微粒子の抽出効率を向上することができる。」

ウ「[0024](金属超微粒子含有分散液)
本発明の金属超微粒子含有分散液は、前述した通り、メチルイソブチルケトン、メチルエチルケトン等の低沸点溶剤中に平均1次粒子径が100nm以下、特に10〜50nm、平均2次粒子径が900nm以下、特に200nm〜700nmの粒子が分散してなる分散液であることから、塗料組成物や樹脂組成物と混合した場合、組成物自体の透明性を低下させることがない。尚、本明細書でいう平均1次粒子径とは、金属粒子と金属粒子との間に隙間がないものを一つの粒子とし、その平均をとったものをいう。平均2次粒子径は、金属粒子と金属粒子がパッキングした状態の粒子とし、その平均をとったものをいう。
また金属超微粒子が顕著に凝集することなく均一に分散していることから、優れた抗菌性能を発現することができる。
更に本発明で用いる金属超微粒子含有分散液においては、分散液中に存在する金属超微粒子は、粒子表面に脂肪酸が配位し、この脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリドが配位した金属超微粒子であることから、分散安定性に顕著に優れており、長時間経過した場合でも沈殿することがほとんどないことから、透明材を構成する樹脂組成物層においても分散性よく均一に分散する。またこの分散液においては、金属超微粒子は、脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリドが配位した金属超微粒子であることから樹脂組成物層で、金属超微粒子表面と樹脂が直接接触することが低減されており、樹脂の分解を有効に抑制して、樹脂の分子量の低下等を低減することができ、成形性や加工性を阻害することも有効に防止されている。
[0025] 本発明の金属超微粒子含有分散液は、塗料組成物や樹脂組成物の希釈溶剤として好適に使用することができ、これにより、塗料組成物や樹脂組成物の透明性を損なうことなく、かかる塗料組成物からなる塗膜、或いは樹脂組成物から成る樹脂成形体に抗菌性能を付与することが可能となる。
このような塗料組成物としては、フェノール樹脂、エポキシ樹脂、ウレタン樹脂、メラミン樹脂、尿素樹脂、アルキド樹脂、不飽和ポリエステル樹脂、シリコーン樹脂等の熱硬化性樹脂や、或いは光硬化型アクリル系樹脂等をベース樹脂とするものを挙げることができる。
また樹脂組成物としては、上記熱硬化性樹脂等の他、低−,中−,高−密度ポリエチレン、線状低密度ポリエチレン、線状超低密度ポリエチレン、アイソタクティックポリプロピレン、シンジオタクティックポリプロピレン、プロピレン−エチレン共重合体、ポリブテン−1、エチレン−ブテン−1共重合体、プロピレン−ブテン−1共重合体、エチレン−プロピレン−ブテン−1共重合体等のオレフィン樹脂、ポリエチレンテレフタレート、ポリブチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタエート等のポリエステル樹脂、ナイロン6、ナイロン6,6、ナイロン6,10等のポリアミド樹脂、ポリカーボネート樹脂等の熱可塑性樹脂から成るものを挙げることができる。
本発明の金属超微粒子含有分散液は、透明性に優れていることから、特に高い透明性が要求されるアクリル系樹脂、中でも光硬化型アクリル系樹脂から成る組成物の希釈溶剤として使用することが好適である。」

エ「実施例
[0026] (実施例1)
グリセリン700gにステアリン酸銀3.85gとサッカリン0.385gを加え、150℃で30分間加熱した。グリセリンを60℃まで冷却後、メチルイソブチルケトン700gとエチレングリコール525gを加えて攪拌した。1時間程静置した後にメチルイソブチルケトン層を採取し、銀粒子含有の分散液を得た。
[0027] (実施例2)
加熱時間を40分に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
[0028](実施例3)
メチルイソブチルケトン液に事前にモノステアリン酸グリセリンを0.55重量%添加した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
[0029] (比較例1)
加熱温度を140℃に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。
[0030] (比較例2)
加熱温度を140℃、加熱時間を40分に変更した以外は実施例1と同様に分散液を作製した。」

(3)甲3の記載事項
ア「【請求項1】
一価の銅化合物微粒子と、還元剤と、分散媒を含む抗ウイルス組成物であって、pH6以下であることを特徴とする抗ウイルス組成物。
【請求項2】
前記一価の銅化合物微粒子が、塩化物、酢酸化合物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、およびチオシアン化物からなる群から少なくとも1種類選択されることを特徴とする請求項1に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項3】
前記一価の銅化合物微粒子が、CuCl、CuBr、Cu(CH3COO)、CuSCN、Cu2S、Cu2O、およびCuIからなる群から少なくとも1種選択されることを特徴とする請求項1または2に記載の抗ウイルス組成物。
【請求項4】
前記一価の銅化合物微粒子が、該微粒子の粒径よりも大きい樹脂からなる微粒子に付着および/または埋め込まれてなることを特徴とする請求項1から3のいずれかに記載の抗ウイルス組成物。」

イ「【0014】
以下、本発明の抗ウイルス組成物について詳述する。本発明の抗ウイルス組成物は、抗ウイルス効果を示す一価の銅化合物微粒子と、分散媒と、還元剤と、からなる懸濁液状の抗ウイルス組成物である。
【0015】
本発明の抗ウイルス組成物に用いられる有効成分としては一価の銅化合物微粒子が挙げられる。これらはエンベロープの有無に関わらず、ウイルスを吸着してウイルスを不活化することが可能であり、タンパク質や脂質の存在下でも不活化可能である。一価の銅化合物微粒子のウイルス不活化機構については現在のところ必ずしも明確ではないが、一価の銅化合物微粒子が水分と接触すると、その一部がイオン化し一価の銅イオンを放出するが、この一価の銅イオンはウイルスと接触またはウイルス表面に吸着すると、電子を放出し、結果、この放出された電子が活性種を形成し、形成した活性種により何らかのダメージを与え、不活化させるものと思われる。
【0016】
具体的な一価の銅化合物微粒子としては、塩化物、酢酸化合物、硫化物、ヨウ化物、臭化物、過酸化物、酸化物、水酸化物、シアン化物、チオシアン酸塩またはこれらの混合物からなることが好ましく、中でもCuCl、Cu(CH3COO)、CuI、CuBr、Cu2O、CuOH、CuCN、CuSCNからなる群から少なくとも1種以上選択されることが好適である。」

ウ「【0021】
また本発明の抗ウイルス組成物は還元剤を含むことを特徴とする。有効成分として一価の銅化合物を用いると、分散媒中に溶け出た一価の銅イオンは、安定ではあるが抗ウイルス効果の低い二価になろうとするため、長期に保管すると二価の銅イオンの比率が高くなり抗ウイルス性能が低くなってしまう。しかし、ここで還元剤を添加しておくと、二価の銅イオンが還元作用により抗ウイルス効果の高い一価の銅イオンとなるため、一価の銅イオンの状態が維持され、抗ウイルス効果の高い状態で安定に長期保管できるようになる。さらに本発明の抗ウイルス組成物は水溶液だけでなく、一価の銅化合物微粒子を含んでいるので、常に一価の銅イオンが飽和状態(濃度の高い状態)で溶液中に存在することができる。
【0022】
使用可能な還元剤としては、水素化ホウ素ナトリウムや、次亜燐酸ナトリウムや、ヒドラジンや、2価の錫化合物や、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、アスコルビン酸などのオキシカルボン酸や、それらの塩などが挙げられる。…さらに有機酸では、クエン酸、リンゴ酸、酒石酸、コハク酸、アスコルビン酸などのオキシカルボン酸や、それらの塩などが挙げられる。

【0024】
以上の本実施形態に係る抗ウイルス組成物はスプレー剤などとして使用できる。本実施形態の抗ウイルス組成物は粉体と液体との懸濁液であるので、被処理物に存在しているウイルスを液体中の一価の銅イオンが不活化した後でも、そこに一価の銅化合物微粒子が留まり、空気中の水分などに接触することで一価の銅イオンを放出し続けるため、長期間、抗ウイルス効果を持たせることができる。
【0025】
なお、本実施形態の抗ウイルス組成物には、一価の銅化合物微粒子の分散性をさらに高めるための分散剤を添加してもよい。分散剤としては、例えば界面活性剤や高分子系分散剤を用いることができる。
【0026】
界面活性剤としては、具体的には、アニオン系界面活性剤とノニオン系界面活性剤を使用できる。アニオン系界面活性剤としては、親水基としてカルボン酸、スルホン酸、あるいはリン酸構造を持つものとすることができる。また、カルボン酸系としては、例えば石鹸の主成分である脂肪酸塩やコール酸塩とすることができる。また、スルホン酸系としては合成洗剤に多く使われる直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムやラウリル硫酸ナトリウムなどが挙げられる。より具体的には、脂肪酸ソーダ石鹸、オレイン酸カリウム石鹸、アルキルエーテルカルボン酸塩などのカルボン酸塩、ラウリル硫酸ナトリウム、高級アルコール硫酸ナトリウム、ラウリル硫酸トリエタノールアミン、ポリオキシエチレンラウリルエーテル硫酸ナトリウム、ポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸ナトリウムなどの硫酸塩、ドデシルベンゼンスルホン酸ナトリウム、アルキルナフタレンスルホン酸ナトリウム、アルキルジフェニルエーテルジスルホン酸ナトリウム、アルカンスルホン酸ナトリウム、芳香族スルホン酸ホルマリン縮合物のナトリウム塩などのスルホン酸塩、アルキルリン酸カリウム塩、ヘキサメタリン酸ナトリウム、ジアルキルスルホコハク酸などが挙げられる。これらは単独または複数を組み合わせて用いてもよい。」

エ「【0033】
抗ウイルス組成物をスプレー剤などの剤形としたときに、含有される一価の銅化合物粒子の粒子径が小さいと、分散剤などを入れていても凝集することがある。凝集が起きると、分散媒に均一に分散しにくかったり、ノズルが詰まったり、1度に噴霧できる範囲が狭くなるなど、十分な抗ウイルス効果を発揮できない場合がある。他にもマスクなど抗ウイルス効果を付けたい基材の表面に抗ウイルス組成物を噴霧した場合に、凝集体は基剤との密着性が悪いため脱落する場合がある。」

オ「【0045】
(抗ウイルス組成物の作成)
(実施例1)
市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級、粒径1.0μm)と、還元剤としてアスコルビン酸と、分散媒である水と、の懸濁液(懸濁液濃度1mg/mL)にアスコルビン酸ナトリウムを加えてpH2.0に調整した後、噴射剤であるジメチルエーテル(DME)と混合し、エアゾール容器に充填してエアゾール剤とした。
【0046】
(実施例2)
実施例1で用いたヨウ化銅(I)粉末の代わりに酸化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級)をジェットミルにて粉砕して440nmとした微粒子を用いた以外は同様の条件でエアゾール容器に充填してエアゾール剤とした。
【0047】
(実施例3)
市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級、粒径540nm)と、還元剤としてクエン酸と、分散媒である水と、の懸濁液(懸濁液濃度1mg/mL)にクエン酸ナトリウム加えてpH3.4に調整した後、噴射剤であるジメチルエーテル(DME)と混合し、エアゾール容器に充填してエアゾール剤とした。
【0048】
(実施例4)
市販のヨウ化銅(I)粉末(和光純薬工業株式会社製 和光一級、粒径160nm)と、還元剤として酒石酸と、分散媒である水と、の懸濁液(懸濁液濃度0.1mg/mL)に酒石酸ナトリウムを加えてpH4.0に調整した後、噴射剤であるジメチルエーテル(DME)と混合し、エアゾール容器に充填してエアゾール剤とした。
【0049】
(実施例5)
実施例4で使用した、ヨウ化銅(I)粉末を、水とエタノールを1:1の重量比で混合した溶媒に抗ウイルス組成物において1.0質量%となるように分散した後、還元剤としてクエン酸を抗ウイルス組成物において2.0質量%となるように添加し、クエン酸ナトリウムを加えてpH3.0に調整することで抗ウイルス組成物を得た。
【0050】
(実施例6)
実施例2で使用した、酸化銅(I)粉末を、水とエタノールを1:1の重量比で混合した溶媒に抗ウイルス組成物において1.0質量%となるように分散した後、還元剤としてクエン酸を抗ウイルス組成物において2.0質量%となるように添加し、クエン酸ナトリウムを加えてpH3.0に調整することで抗ウイルス組成物を得た。
【0051】
(実施例7)
実施例1のヨウ化銅(I)粉末をジェットミルで粉砕し、抗ウイルス性を有する子粒子として、平均粒子径160nmのヨウ化銅(I)粒子を得た。また、母粒子として、平均粒子径10μmのナイロン6粒子(東レ株式会社製TR−1)を用いた。ヨウ化銅(I)粒子600gとナイロン6粒子2000gとを十分に混合した。続いて、ノビルタNOB(ホソカワミクロン株式会社製 登録商標)を用いてナイロン6粒子の表面にヨウ化銅(I)粒子をその一部分が露出した状態で埋没させることにより、複合粒子を得た。得られた複合粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を図1に示す。また得られた複合粒子の断面のSEM画像を図2に示す。得られた複合粒子と、還元剤としてのクエン酸と、分散媒である水と、の懸濁液(懸濁液濃度5mg/mL)に、クエン酸ナトリウムを加えてpH3.5に調整した後、噴射剤であるジメチルエーテル(DME)を混合し、エアゾール容器に充填してエアゾール剤とした。
【0052】
(実施例8)
実施例7で用いたヨウ化銅(I)粉末を実施例2の酸化銅(I)粉末に替えた以外、同様の条件で複合粉体を作製し、得られた複合粒子と、還元剤としてのクエン酸と、分散媒である水と、の懸濁液(懸濁液濃度5mg/mL)に、クエン酸ナトリウムを加えてpH3.5に調整した後、噴射剤であるジメチルエーテル(DME)を混合し、エアゾール容器に充填してエアゾール剤とした。
【0053】
(実施例9)
実施例7で作成した複合粒子を、水とエタノールを1:1の重量比で混合した溶媒に抗ウイルス剤において5.0質量%となるように分散した後、還元剤としてクエン酸を抗ウイルス剤において2.0質量%となるように添加し、クエン酸ナトリウムを加えてpH3.0に調整することで抗ウイルス組成物を得た。
【0054】
(実施例10)
実施例8で作成した複合粒子を、水とエタノールを1:1の重量比で混合した溶媒に抗ウイルス剤において5.0質量%となるように分散した後、還元剤としてクエン酸を抗ウイルス剤において2.0質量%となるように添加し、クエン酸ナトリウムを加えてpH3.0に調整することで抗ウイルス組成物を得た。
【0055】
(実施例11)
実施例7のノビルタNOB(ホソカワミクロン株式社製 登録商標)を用いるかわりに遊星型ボールミル(フリッチュ・ジャパン株式会社製)を用いて複合粒子を得た以外は実施例7と同様の方法にてエアゾール剤とした。この時の複合粒子の走査型電子顕微鏡(SEM)画像を図3に示す。
【0056】
(実施例12)
実施例1のヨウ化銅(I)粉末と、市販のゼオライト(ユニオン昭和株式会社製ABSCENTS−2000)を一緒にジェットミルで粉砕し、平均粒子径1μmの、ヨウ化銅(I)粒子とゼオライト粒子からなる粒子混合物を得た。また、母粒子として、平均粒子径10μmのナイロン6粒子(東レ株式会社製TR−1)を用いた。ヨウ化銅(I)粒子とゼオライト粒子からなる粒子混合物600gとナイロン6粒子2000gとを十分に混合した。続いて、自動乳鉢(日陶化学株式会社製)を用いてナイロン6粒子にヨウ化銅(I)粒子とゼオライト粒子をそれらの一部分が露出した状態で埋没させることにより、複合粒子を得た。得られた複合粒子と、還元剤としてのアスコルビン酸と、分散媒である水と、の懸濁液(懸濁液濃度5mg/mL)に、アスコルビン酸ナトリウムを加えてpH3.5に調整した後、噴射剤であるジメチルエーテル(DME)を混合し、エアゾール容器に充填してエアゾール剤とした。

【0062】
(抗ウイルス性の評価)
次に、上記の実施例、比較例の各サンプルをエンベロープウイルスとしてインフルエンザウイルス(influenza A/北九州/159/93(H3N2))を、非エンベロープウイルスとして、ノロウイルスの代替として一般的に使用されているネコカリシウイルス(feline calicivirus(F9株))と接触させて抗ウイルス性を評価した。
【0063】
80g/m2の綿不織布(4cm×4cm)をプラスチックシャーレに入れ、インフルエンザウイルス、ネコカリシウイルスの各々のウイルス懸濁液を0.2mL滴下した。当該不織布それぞれの表面全体に、実施例1〜11および比較例1〜5のサンプルを1mL噴霧した。5分後、反応をとめるためにSCDLPを1.8mL滴下後、ピペッティングによりウイルスを洗い出した。このウイルス洗い出し液を試料原液として、各反応サンプルが10-2〜10-5になるまでMEM希釈液にて希釈を行った(10倍段階希釈)。シャーレに培養したMDCK細胞、又はCrFK細胞にサンプル液100μLを接種した。60分間静置しウイルスを細胞へ吸着させた後、0.7%寒天培地を重層し、48時間、34℃、5%CO2インキュベータにて培養後、ホルマリン固定、メチレンブルー染色を行い、形成されたプラーク数をカウントして、ウイルスの感染価(PFU/0.1ml,Log10);(PFU:plaque-forming units)を算出した。コントロールには実施例のサンプルを用いずウイルス液を加えた場合の値を用いた。各実施例、比較例の形態についておよびウイルス評価の結果を表1に示す。」

(2)甲各号証に記載された発明、及び、本件発明との対比
ア 甲1を主引用例とするもの(申立ての理由1−1)
甲1の請求項1〜3からみて、甲1には以下の甲1発明が記載されている。
「硬化性樹脂に、金属粒子表面に脂肪酸が配位し、該脂肪酸の周囲又は粒子表面にグリセリドが配位してなる脂肪酸修飾金属超微粒子が分散して成り、イオン安定化剤を更に含有することを特徴とする硬化性樹脂組成物。」
そうすると、本件発明1と甲1発明とは以下の点で一致する。
「脂肪酸が周囲に存在する微粒子及び安定化剤を含有する組成物」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点1:
「微粒子」に関し、本件発明1が「一価銅化合物」であるのに対し、甲1発明は「金属」である点。
相違点2:
本件発明1は「脂肪酸が被覆された」ものであるのに対し、甲1発明は「脂肪酸が配位」したものである点。
相違点3:
本件発明1は「サッカリン、サリチル酸、アスパラギン酸、クエン酸から選択される1種以上」の「安定剤」を含有するのに対し、甲1発明は「イオン安定化剤」を含有する点。
相違点4:
本件発明1は「一価銅化合物微粒子及び安定化剤を含有する抗ウイルス性組成物が含有されている、或いは最表面に固定化されている」「抗ウイルス性成型体」であるのに対し、甲1発明は「脂肪酸修飾金属超微粒子が分散して成り、イオン安定化剤を更に含有する」「硬化性樹脂組成物」である点。

イ 甲2を主引用例とするもの(申立ての理由1−2)
甲2の請求項1からみて、甲2には以下の甲2発明が記載されている。
「低沸点溶剤中に、Ag、Cu,Znの何れかの金属超微粒子表面に脂肪酸とグリセリドが配位して成る金属超微粒子を含有することを特徴とする金属超微粒子含有分散液。」
そうすると、本件発明1と甲2発明とは以下の点で一致する。
「微粒子表面に脂肪酸が存在する組成物」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点5:
「微粒子」に関し、本件発明1が「一価銅化合物」であるのに対し、甲2発明は「Ag、Cu,Znの何れかの金属」である点。
相違点6:
本件発明1は「脂肪酸が被覆された」ものであるのに対し、甲2発明は「脂肪酸…が配位」したものである点。
相違点7:
本件発明1は「サッカリン、サリチル酸、アスパラギン酸、クエン酸から選択される1種以上」の「安定剤」を含有するのに対し、甲2発明は「還元剤」を含有する点。
相違点8:
本件発明1は「一価銅化合物微粒子及び安定化剤を含有する抗ウイルス性組成物が含有されている、或いは最表面に固定化されている」「抗ウイルス性成型体」であるのに対し、甲2発明は「金属超微粒子を含有する」「分散液」である点。

ウ 甲3を主引用例とするもの(申立ての理由1−3)
甲3の請求項1及び4からみて、甲3には以下の甲3発明が記載されている。
「一価の銅化合物微粒子と、還元剤と、分散媒を含む抗ウイルス組成物であって、pH6以下であり、前記一価の銅化合物微粒子が、該微粒子の粒径よりも大きい樹脂からなる微粒子に付着および/または埋め込まれてなることを特徴とする抗ウイルス組成物。」
そうすると、本件発明1と甲3発明とは以下の点で一致する。
「一価銅化合物微粒子を含有する組成物」
そして、両者は以下の点で相違する。
相違点9:
本件発明1は「脂肪酸が被覆された」ものであるのに対し、甲3発明はこれが明らかでない点。
相違点10:
本件発明1は「サッカリン、サリチル酸、アスパラギン酸、クエン酸から選択される1種以上」の「安定剤」を含有するのに対し、甲3発明はこれが明らかでない点。
相違点11:
本件発明1は「一価銅化合物微粒子及び安定化剤を含有する抗ウイルス性組成物が含有されている、或いは最表面に固定化されている」「抗ウイルス性成型体」であるのに対し、甲3発明は「微粒子の粒径よりも大きい樹脂からなる微粒子に付着および/または埋め込まれてなる」「抗ウイルス組成物」である点。

(3)判断
ア 甲1発明との相違点1と甲2発明との相違点5は同趣旨であるから、ここで併せて検討する。
(ア)甲1発明及び甲2発明に係る(超)微粒子である「金属」が一価の金属化合物であることについて、甲1及び甲2には何ら記載がなく、示唆もない。
また、係る「金属」を一価の金属化合物とすることを想起させる記載ないし示唆は甲1及び甲2には存在せず、他の甲各号証を参照しても、係る「金属」として一価の金属化合物を用いるようにすることを想到させるものは存在しない。

(イ)申立人は、申立書(23頁11行〜24頁5行)において、以下のとおり主張する。
「甲1発明では、抗菌性能を持たせるために、脂肪酸修飾金属超微粒子の金属成分として銅を用いている(段落【0011】)。また、甲1発明における硬化性樹脂組成物では、イオン安定化剤を用いて金属イオンの状態を維持するようにしているため(段落【0019】)、金属成分である銅は、金属銅ではなく、銅イオンとして存在するものであることが分かる。そして、銅イオンに一価と二価があることは自明の事実である。
ここで、一価の銅化合物(すなわち、一価の銅イオン)が抗菌性や抗ウイルス性を有することは、甲第4号証(段落【0018】)、甲第5号証(段落【0016】,【0025】,【0026】)及び甲第6号証(段落【0028】)に記載されているとおり、本件特許の出願日(優先日)において既に知られた技術常識であって、周知技術である。また、甲第5号証には、銅化合物として、一価の銅化合物や二価の銅化合物が用いられることが記載されているが、銅イオンを溶出し易い観点 及び入手の容易性の観点から一価の銅化合物を用いることが好ましいことが記載されている(段落【0016】)。
これらの事情を踏まえると、甲1発明において、銅を金属成分とした金属超微粒子として、一価の銅化合物の粒子を用いることについては、何ら格別の困難性は無い。また、甲第1号証によれば、金属超微粒子から一価の銅化合物だけを除外するといった特段の事情も認められない。
次に、本件特許明細書によれば、一価銅化合物微粒子は表面活性が高く酸化されやすく凝集しやすいことに着目し、分散液中で均一に分散して抗ウイルス性を発現させるために、一価銅化合物微粒子を脂肪酸によって被覆している(段落【0005】,【0013】)。ここで、甲第1号証には、金属超微粒子は活性が高く不安定であり、金属超微粒子単体ではその形態を維持しにくいために、金属超微粒子同志が凝集してしまうことが記載されている(段落【0002】)。また、甲第6号証(段落【0028】)に記載されているように、一価銅化合物(甲第6号証ではハロゲン化銅(I))の粒子が凝集しやすいことは、本件特許の出願日(優先日)において既に知られた技術常識である。甲1発明でも、脂肪酸修飾金属超微粒子を形成することによって、粒子を凝集させずに均一に分散させて抗菌性能を発現させていることから(段落【0026】)、甲1発明において、銅を金属成分とした金属超微粒子として、一価の銅化合物の粒子を採用することの動機付けは十分にある。」
しかし、上記のとおり、甲1には「金属」との記載はあるものの、これが一価の金属化合物となることについて明らかでない。また、この「金属」を一価の金属化合物とすること、あるいは、甲1発明に係る「組成物」において一価の金属化合物を用いることは、甲1のみならずその余の甲各号証においても、その示唆がない。

(ウ)したがって、相違点2〜4、相違点6〜8について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1発明あるいは甲2発明、及びその余の甲各号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

イ 甲3発明との相違点9について検討する。
相違点9に関し、甲3発明に係る「一価銅化合物微粒子」を「脂肪酸が被覆された」ものとすることの記載ないし示唆は存在しない。
申立人は、甲3【0025】の記載に基づき「界面活性剤を用いれば、一価の銅化合物微粒子の表面に界面活性剤が吸着されることになり、一価の銅化合物微粒子は界面活性剤で被覆されることになる。」と主張する。
しかし、甲3【0025】の「なお、本実施形態の抗ウイルス組成物には、一価の銅化合物微粒子の分散性をさらに高めるための分散剤を添加してもよい。分散剤としては、例えば界面活性剤や高分子系分散剤を用いることができる。」との記載からは、係る「分散剤」は甲3発明に係る「抗ウイルス組成物」に添加しうるものに過ぎず、たとえ添加されて、その際「一価銅化合物微粒子」の表面に界面活性剤が「吸着」したとしても、係る「分散剤」で「一価銅化合物微粒子」の表面が「被覆」されたものになると解されるとは、必ずしもいえない。
そして、この相違点に関し、他の甲各号証を参照しても、甲3発明に係る「一価銅化合物微粒子」を「脂肪酸が被覆された」ものとすることを想起させる記載ないし示唆を見いだすことができない。
したがって、相違点10〜11について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明、及びその余の甲各号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

ウ 本件発明2〜5について
本件発明2〜5は、本件発明1を更に限定するものである。したがって、本件発明1が甲1発明、甲2発明、あるいは、甲3発明、及びその余の甲各号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえないことに鑑みると、本件発明2〜5も甲1発明、甲2発明、あるいは、甲3発明、及びその余の甲各号証に記載された事項から当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(4)まとめ
よって、本件発明1〜5に係る特許に対する申立ての理由1−1〜1−3には、理由がない。

3 申立ての理由2について
(1)申立人の主張
申立人は、申立書(33頁35行〜34頁5行)において、以下のとおり主張する。
「本件特許明細書の【表2】(段落【0044】)には、実験例1,7,8について、活性酸素発生量が記載されている。ここで、本件特許明細書の【表1】(段落【0040】)によれば、実験例7,8の粒子径が2〜3μmで同一であるにもかかわらず、活性酸素発生量(実験例7;205,000、実験例8;39,000)は大きく異なっている。このことから、本件特許発明4のように、活性酸素発生量を抗ウイルス性成型体15cm2あたり30万counts以上とするための条件が極めて不明であり、当業者は、本件特許の発明の詳細な説明に基づいて、活性酸素発生量が抗ウイルス性成型体15cm2あたり30万counts以上である抗ウイルス性成型体を作ることはできない。」

(2)検討
本件発明4は「前記一価銅化合物微粒子が空気中の酸素と反応することにより、前記抗ウイルス性成型体15cm2あたり30万counts以上の量の活性酸素を発生する請求項1〜3の何れかに記載の抗ウイルス性成型体。」と規定されている。これに対し、実験例7及び8は「抗ウイルス性成型体15cm2あたり30万counts以上」との規定を満たさない」ものであり、本件発明4の範囲外である。
本件発明4の範囲外である実験例7及び8のデータから、本件発明4を実施することができないとは、到底言うことができない。
そして、本件発明の詳細な説明は、本件発明を実施することができる程度に記載したものである。

(3)まとめ
よって、本件発明4に係る特許に対する申立ての理由2には、理由がない。

4 まとめ
以上のことから、申立人が主張する申立ての理由にはいずれも理由がなく、これらの申立の理由によっては本件発明に係る特許を取り消すことはできない。

第4 むすび
以上のとおりであるから、異議申立ての理由によっては、本件請求項1〜5に係る発明の特許を取り消すことはできない。また、他に当該特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-02-14 
出願番号 P2017-063565
審決分類 P 1 651・ 121- Y (A01N)
P 1 651・ 536- Y (A01N)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 村上 騎見高
特許庁審判官 吉岡 沙織
大熊 幸治
登録日 2021-05-17 
登録番号 6885146
権利者 東洋製罐グループホールディングス株式会社
発明の名称 抗ウイルス性成型体  
代理人 小野 尚純  
代理人 奥貫 佐知子  

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