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審決分類 審判 一部申し立て 発明同一  H01B
管理番号 1384260
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-11-25 
確定日 2022-01-27 
異議申立件数
事件の表示 特許第6876861号発明「複合電線及び該複合電線の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6876861号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6876861号の請求項1ないし11に係る特許についての出願は、令和2年11月18日に出願され、令和3年4月28日にその特許権の設定登録がされ、令和3年5月26日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年11月25日に特許異議申立人鈴木憲治(以下、「特許異議申立人」という。)は、特許異議の申立を行った。

第2 本件発明
特許第6876861号の請求項1ないし5の特許に係る発明は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1ないし5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
合成樹脂繊維から成る芯線と、該芯線の周囲に設けた導電層とから成る複合電線において、
前記導電層は、複数本の導電金属線と、該導電金属線の隣線同士を接着すると共に前記導電金属線の外表面を覆う前記導電金属線よりも融点が低い低融点金属とから成り、
全ての前記導電金属線は前記芯線の表面に沿って直接又は前記低融点金属を介して密接しており、
前記導電層は前記芯線の周囲を隙間なく覆っていることを特徴とする複合電線。
【請求項2】
前記導電金属線は前記芯線に対し、螺旋状に巻回したことを特徴とする請求項1に記載の複合電線。
【請求項3】
前記導電層は外周を円形に整形したことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合電線。
【請求項4】
前記導電金属線は銅線とし、前記低融点金属はスズとしたことを特徴とする請求項1又は2に記載の複合電線。
【請求項5】
前記導電層を合成樹脂材から成る絶縁被覆層で覆ったことを特徴とする請求項1に記載の複合電線。」

第3 申立理由の概要
特許異議申立人は、証拠として特開2021−163652号公報(以下、「甲1号証」という。)を提出し、請求項1ないし5に係る特許は特許法第29条の2の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし5に係る特許を取り消すべきものである旨主張する。

第4 甲号証の記載
1 甲1号証には、以下の記載がある。(下線は、当審で付した。以下同じ。)

「【特許請求の範囲】
【請求項1】
繊維状又は紐状の芯線を中心として、その外周に複数の導体素線が撚り合わされた電線導体であって、
前記電線導体の断面積が0.03mm2以上0.13mm2以下であり、
前記電線導体の外径Xが0.24mm以上0.45mm以下であり、
前記電線導体の撚りピッチYが、前記電線導体の外径Xと前記導体素線の直径D(mm)について以下の関係式(I)及び(II)を満たすことを特徴とする電線導体。
(D×導体素線の数)mm≦Y≦15mm(但し、Xは0.24mm以上0.34以下である)・・・(I)
(D×導体素線の数)mm≦Y≦45.45×X−0.45mm(但し、Xは0.34mmより大きく、0.45mm以下である)・・・(II)
【請求項2】
前記電線導体の撚りピッチYが1mm以上5mm以下である、請求項1に記載の電線導体。
【請求項3】
前記導体素線の本数が6以上20以下である、請求項1又は2に記載の電線導体。
【請求項4】
前記電線導体が円形圧縮加工されている、請求項1乃至3のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項5】
前記導体素線の材料が純銅である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項6】
前記導体素線の材料が銅合金である、請求項1乃至4のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項7】
前記導体素線の外周の一部又は全体にめっきが施されている、請求項1乃至6のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項8】
前記芯線の材料が、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール繊維、液晶ポリエステル繊維及びアラミド繊維からなる群から選択される、請求項1乃至7のいずれか1項に記載の電線導体。
【請求項9】
請求項1乃至8のいずれか1項に記載の電線導体と、前記電線導体の外周に設けられた絶縁被覆層とを備える電線。」

「【技術分野】
【0001】
本発明は、電線導体、電線、通信用電線、シールド電線、端子付き電線及び自動車用ワイヤーハーネスに関する。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、極細線であっても、電線製造時の外観特性が良好であり、且つ絶縁耐力性に優れた電線を製造可能な電線導体を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の他の目的は、このような電線導体を備える電線、通信用電線、シールド電線、端子付き電線及び自動車用ワイヤーハーネスを提供することを目的とする。」

「【0026】
[電線導体]
<電線導体の構成>
本実施形態に係る電線導体は、芯線を中心として、その外周に複数の導体素線が撚り合わされて形成されている。図1は本発明の実施形態に係る電線導体の概要を説明する概略断面図の一例である。図1に示すように、本発明の実施形態に係る電線導体1は、電線導体1の中心に配置された芯線10と、芯線10の外周を取り囲むように配置された複数の導体素線20と、を備える。電線導体1に適切な強度を付与するため、電線導体1は、芯線10に複数の導体素線20が撚り合わされて形成される。芯線10の外周に複数の導体素線20を撚り合わせて配置することで、導体素線20が芯線10を締め付けて電線導体1の空隙率が下がる。これにより、電線導体1の強度を高く維持することができ、電線導体1の断面積も小さくできる。
【0027】
電線導体1の撚りの程度は、芯線10及び導体素線20の本数及び直径等に応じて、電線導体1の断面積、電線導体撚りピッチYが所望の範囲内になるよう設計される。このような電線導体1は、自動車、電車、航空機等の車両に使用される通信用電線、シールド電線、端子付き電線等の様々な電線の導体として適用可能であり、例えば、自動車用ワイヤーハーネスに適用される場合、各電線は信号通信の役割を果たす。また、電線導体1の周方向を絶縁体である被覆樹脂で被覆することにより絶縁被覆層30を備える電線を形成することができる。被覆樹脂の材料は、一般の被覆電線で使用される絶縁樹脂であればよく、用途に応じて適宜設計することができる。
【0028】
<極細線>
極細線は、通電部の断面積が0.13mm2以下である電線であり、現在、自動車等の車両内で使用される最小断面積クラスの電線導体で構成される。本実施形態に係る電線導体の断面積は0.03mm2以上0.13mm2以下である。これにより、芯線と複数の導体素線とを備える本実施形態に係る電線導体を極細線として使用することができる。また、芯線の直径は0.10mm以上0.20mm以下であることが好ましく、複数の導体素線の各々の直径は、0.04mm以上0.20mm以下であることが好ましい。これにより、芯線と複数の導体との電線導体を作製した場合に、電線導体の断面積を極細線として要求される範囲内に維持しやすくなる。また、複数の導体素線における各導体素線の直径は同じであっても異なっていてもよい。芯線を複数使用する場合も同様に、各芯線の直径は同じであっても異なっていてもよい。尚、芯線及び導体素線の数、圧縮工程前後の電線導体の断面積の変化等に応じて、また、導体抵抗と強度の要求に応じて、芯線及び導体素線の直径は上記の範囲内において適宜選択することができる。
【0029】
<芯線>
本実施形態に係る撚線に使用される芯線は、繊維状又は紐状の形状を有し、好ましくはこのような形状の複数の素線が束になって形成されている。芯線はテンションメンバとして使用されるため、一定の強度を有することが好ましい。芯線の強度は特に限定されるものではないが、電線導体に高い強度を付与させることができ、さらには電線導体を極細線として使用しても衝撃による断線を抑制しやすくする観点から、使用される芯線は、2000MPa以上の引張強度を有することが好ましく、3000MPa以上の引張強度を有することがより好ましい。尚、芯線の引張強度の上限値は特に限定されないが、製造上の取り扱いの観点から8000MPa以下であることが好ましい。このように、芯線が高い引張強度を有することにより、電線導体に優れた耐衝撃性を付与しやすくなる。尚、芯線の導電率については、一定以上の導電率を有する導体素線の使用により電線導体全体に所望の導電率を付与することができれば、芯線は導電率を有していなくてもよい(0%IACSでもよい)。一方、芯線が僅かにでも導電率を有することにより、導体素線の本数の削減に伴う軽量化、サイズダウンに寄与することができる。
【0030】
芯線の材料は、テンションメンバとして使用することができれば特に限定されるものではないが、上記のような高い引張強度を有する材料が好ましい。このような芯線の材料は、例えば、炭素繊維、ポリパラフェニレンベンゾビスオキサゾール(PBO)繊維、液晶ポリエステル繊維、アラミド繊維、ポリアミド繊維及びポリアリレート繊維からなる群から選択され、PBO繊維、液晶ポリエステル繊維及びアラミド繊維からなる群から選択されることが好ましく、特に、強度の観点から、4000MPa以上の引張強度を有するPBO繊維がより好ましい。複数の芯線が使用される場合、このような芯線の材料は、同じであっても異なっていてもよい。また、炭素繊維は、様々なタイプの繊維を使用することができ、例えば、IMタイプ、HMタイプ、UHMタイプ等が挙げられる。さらに、芯線の導電性の改善及び電線導体としての製造の向上のために、芯線の表面に導電性を示す金属めっき、例えば、Cu、Ni、Sn、Ag、Au等によるめっきが施されていてもよい。
【0031】
芯線の本数は、1本以上であれば特に限定されるものではないが、1本であることが好ましい。これにより、電線導体の中心に芯線を配置しても、電線導体全体に適切な強度及び導電性をバランスよく付与しつつ、芯線を中心として、複数の導体素線を芯線の外周に容易に撚り合わせることができる。
【0032】
<導体>
本実施形態に係る電線導体に用いられる複数の導体素線において、各導体素線の材料は、電線導体全体に所定の導電性を付与し、芯線と共に撚線を形成することができれば特に限定されるものではない。このような導体素線の材料は、例えば、C1100系のタフピッチ銅、無酸素銅、リン脱酸銅等の純銅、又は、Cu−Cr系合金、Cu−Ag系合金、Cu−Sn系合金、Cu−Zn系合金、Cu−Zr系合金、Cu−Mg系合金及びCu−Nb系合金、Cu−Mg−Zn系合金、Cu−Ni−Si系合金等の銅合金が好ましい。各導体素線の材料は、同じであっても異なっていてもよい。また、同じ種類の銅合金を使用する場合、各銅合金に含まれる金属成分の含有量は互いに同じであっても異なっていてもよい。さらに、導体素線の導電性の改善及び電線導体としての製造の向上のために、導体素線の外周の一部又は全体に金属めっき、例えば、Cu、Ni、Sn、Ag、Au等によるめっきが施されていてもよく、特にSnめっきが好ましい。」

「【0036】
電線導体の外径Xが0.24mm以上0.45mm以下の範囲内である電線導体において、電線導体の撚りピッチYが上記関係式(I)及び(II)を満たすことにより、電線導体の外径Xと導体素線の直径Dに応じて電線導体の撚りピッチYが所望の範囲に制御され、導体素線同士が繊維状又は紐状の芯線にしっかりと接触し、繊維又は紐の流れ出しが防止される。これにより、絶縁被覆層を備える電線を製造する際に生じ得るコブ、凹凸等の外観不良が防止され、電線製造時の外観特性が良好な電線導体を得ることができる。また、導体素線が芯線に強固に巻きつくことで電線導体自体の構造も強固となり、撚り解け、電線導体の外径の局所的な増大等も抑制されるため、絶縁耐力性に優れた電線を製造可能な極細線の電線導体を製造することができる。さらに、このような電線導体により、電線の製造時において繊維状又は紐状の芯線の一部が絶縁被覆層に混在し、絶縁被覆層に芯線が貫通することが防止される。そのため、良好なストリップ性を示し、絶縁性能が担保された電線を製造することが可能となる。」

「【0042】
<電線導体の円形圧縮加工>
本実施形態に係る電線導体において、電線導体は円形圧縮加工されていることが好ましい。電線導体が円形圧縮加工されることにより、複数の導体素線がより密に芯線に撚り合わされると共に、電線導体の径方向の断面がより真円に近くなる。これにより、より高い強度及び真円度を有する電線導体を得ることが可能となる。また、上述したように、電線導体を円形圧縮加工した場合、JASO D611:2014の附属書Aの「図A.1 テンションメンバ入り導体」に示された導体構造が、より真円に近くなる。図3に、このような導体構造を電線導体の径方向の断面図で示す。図3に示されるように、テンションメンバとしての芯線10に複数の導体素線20が撚り合わされた電線導体の外周に絶縁被覆層30が被覆されることで各導体素線20の形状が歪み、芯線10により負荷がかかる。極細線の場合、一般に、繊維状の芯線10に負荷がかかると、繊維が電線導体の外側にはみ出てしまい、絶縁性能の低下を招くおそれがある。本実施形態に係る電線導体では、上述の関係式(I)及び(II)を満たすように電線導体の撚りピッチYが制御されている。このような電線導体がさらに円形圧縮加工されることにより、図3に示される導体構造がより真円に近い導体構造を示し、電線導体からの繊維のはみ出しをより防止することができ、電線の製造時における絶縁性能の低下をより抑制できる。尚、真円度は、電線導体の外径Xに対する電線導体(複合導体)の径の差の最大値、すなわち、(dmax−dmin)/{(dmax+dmin)/2}として定義する。
【0043】
[電線]
本実施形態に係る電線は、上述の電線導体と、当該電線導体の外周に設けられた絶縁被覆層とを備え、絶縁被覆層は電線導体の外周面上に設けられている。絶縁被覆層の形状は、特に限定されるものではなく、電線導体の形状に応じて適宜設計することができる。
【0044】
<絶縁被覆層>
絶縁被覆層には、絶縁性を有する樹脂が使用されており、そのような樹脂は、熱可塑性樹脂、熱硬化性樹脂のいずれであってもよい。熱可塑性樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン樹脂(PTFE)、ポリエチレン樹脂(PE)、ポリプロピレン樹脂(PP)、ポリアセタール樹脂(POM)、ポリスチレン樹脂(PS)、ポリカーボネート樹脂(PC)、ポリアミド樹脂(PA)、ポリ塩化ビニル樹脂(PVC)、ポリフェニレンサルファイド樹脂(PPS)、ポリメチルメタクリレート樹脂(PMMA)、アクリロニトリルブタジエンスチレン樹脂(ABS)、アクリロニトリルスチレン樹脂(AS)等を挙げることができる。また、熱硬化性樹脂としては、例えば、フェノール樹脂(PF)、エポキシ樹脂(EP)、メラミン樹脂(MF)、尿素樹脂(ユリア樹脂)(UF)、不飽和ポリエステル樹脂(UP)、ジアリルフタレート樹脂(PDAP)、ポリウレタン樹脂(PUR)、シリコン樹脂(SI)等を挙げることができる。これらは、単独で使用してもよく、2種以上を適宜混合して使用してもよい。これらの樹脂のうち、安価でかつ自動車用電線に要求される機械特性の観点からポリ塩化ビニル樹脂が好ましい。また、絶縁被覆層は、このような樹脂を含む単層であってもよく、又は、このような樹脂を含む層が複数積層されていてもよい。絶縁被覆層の厚さは、特に限定されるものではないが、軽量・細径化の観点から0.1mm以上0.3mm以下が好ましく、0.1mm以上0.2mm以下がより好ましい。」

「【0048】
[電線導体及び電線の製造方法]
本実施形態に係る電線導体は、各線径の芯線及び導体素線を用意し、芯線の外周に対して複数の導体素線を撚り合わせる撚線工程、任意に圧縮工程を経て製造される。導体素線にめっきを施す場合、めっきの剥離が懸念されるため、圧縮行程を省略することができ、圧縮工程の後にめっきを施すことも可能である。また、予めめっきが施された導体素線を使用してもよい。圧縮工程の製造条件は、芯線及び導線素線の数、圧縮工程後の所望とする電線導体の断面積等に応じて、適宜設計することができるが、通常は電線導体の外径よりも小さいダイス穴に電線導体を通すことによって圧縮する。また、撚線工程前に、任意に癖取りのための熱処理を実施することができる。熱処理を実施する場合、各種材料の強度が10%以上下がらない条件に適宜設定される。撚線工程では、電線導体の撚りピッチを所望の範囲に制御することができる。また、必要に応じて、得られた電線導体に絶縁性の樹脂を被覆することにより、電線導体と、絶縁被覆層とを備える電線を作製することができる。」

【図1】

【図3】

上記段落【0042】の記載及び図1、3の記載から、甲1号証に記載された電線導体1は、電線導体1からの繊維のはみ出しを防止するように、導体素線20が芯線10周囲を覆っていると認められる。

2 上記記載から、甲1号証には以下の発明(以下、「先願発明」という。)が記載されている。

「電線導体1の中心に配置された芯線10と、芯線10の外周を取り囲むように配置された複数の導体素線20と、を備える電線導体1であって、
芯線10の材料はアラミド繊維であり、
導体素線20は、導体素線の導電性の改善及び電線導体としての製造の向上のために、導体素線20の外周全体にSnめっきが施された、純銅又は銅合金からなり、
繊維の流れ出しを防止する為に、導体素線20同士が芯線10にしっかりと接触し、
電線導体1が円形圧縮加工されることにより、複数の導体素線20がより密に芯線に撚り合わされると共に、電線導体1の径方向の断面をより真円に近くし、電線導体1からの繊維のはみ出しを防止するように、導体素線20が芯線10周囲を覆っている電線導体1。」

第5 当審の判断
1 請求項1に係る発明について
請求項1に係る発明(以下、「本件発明」という。)と先願発明とを対比する。
(1)先願発明の「芯線10」の材料はアラミド繊維であるから、先願発明の「芯線10」は、本件発明の「合成樹脂瀬にから成る芯線」に相当する。

(2)先願発明の「導体素線20」は、「導体素線20の外周全体にSnめっきが施された、純銅又は銅合金からな」っており、Snの融点は、純銅及び銅合金の融点より低いことを考慮すると、先願発明の「導体素線20の外周全体にSnめっきが施された、純銅又は銅合金からな」る「導体素線20」を「芯線10の外周を取り囲むように配置」した部分と、本件発明の「複数本の導電金属線と、該導電金属線の隣線同士を接着すると共に前記導電金属線の外表面を覆う前記導電金属線よりも融点が低い低融点金属とから成」る「導電層」とは、複数本の導電金属線と、前記導電金属線の外表面を覆う前記導電金属線よりも融点が低い低融点金属とから成る導電部分である点で共通する。
そして、先願発明の「電線導体1」と、本件発明の「複合電線」は、合成樹脂繊維から成る芯線と、該芯線の周囲に設けた導電部分とから成る複合電線である点で共通する。

(3)先願発明の「繊維の流れ出しを防止する為に、導体素線20同士が芯線10にしっかりと接触」することは、本件発明の「全ての前記導電金属線は前記芯線の表面に沿って直接又は前記低融点金属を介して密接」することのうち、全ての前記導電金属線は前記芯線の表面に沿って前記低融点金属を介して密接することに対応するから、先願発明は、本件発明の「全ての前記導電金属線は前記芯線の表面に沿って直接又は前記低融点金属を介して密接」することと同様の構成を備えている。

(4)先願発明の「電線導体1が円形圧縮加工されることにより、複数の導体素線20がより密に芯線に撚り合わされると共に、電線導体1の径方向の断面をより真円に近くし、電線導体1からの繊維のはみ出しを防止するように、導体素線20が芯線10周囲を覆」うことと、本件発明の「前記導電層」が「前記芯線の周囲を隙間なく覆っていること」は、前記導電部分が前記芯線の周囲を覆っている点で共通する。

(5)そうすると、本件発明と先願発明との一致点、相違点は次のとおりである。

[一致点]
「合成樹脂繊維から成る芯線と、該芯線の周囲に設けた導電部分とから成る複合電線において、
前記導電部分は、複数本の導電金属線と、該導電金属線の隣線同士を接着すると共に前記導電金属線の外表面を覆う前記導電金属線よりも融点が低い低融点金属とから成り、
全ての前記導電金属線は前記芯線の表面に沿って直接又は前記低融点金属を介して密接しており、
前記導電部分は前記芯線の周囲を覆っていることを特徴とする複合電線。」

[相違点1]
本件発明の「導電層」は、「低融点金属」により「該導電金属線の隣線同士を接着」しており、この接着により、隣線同士が接着されることにより、「該芯線の周囲に設けた」「導電層」となっているのに対して、先願発明はそのような特定はされていない点。

[相違点2]
本件発明の「前記導電層」は「前記芯線の周囲を隙間なく覆っている」のに対して、先願発明はそのような特定はされていない点。

(6)判断
ア 特許法第29条の2の規定は、特許出願に係る発明が当該特許出願の日前の他の特許出願であって、当該特許出願後に出願公開の発行がされたものの願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面に記載された発明(先願発明)と同一であるときは、その発明については、特許を受けることができない旨を定め、ここで「発明」とは,「自然法則を利用した技術的思想の創作のうち高度のものをいう。」(同法第1条)と規定されている。
すなわち、特許法第29条の2を根拠として先願発明と同一の発明である後願発明について特許を受けることができないとされるのは、先願発明の開示によって後願発明の技術的思想が開示されていると認められるからであるところ、上記のように、先願発明と後願発明に相違点が存在する場合に、当該相違点が、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって新たな効果を奏するものではないもの)であって、両発明が同一であるということができるかどうかについては、両者の技術的思想を対比して検討する必要がある。

イ 甲1号証に係る出願の願書に最初に添付した明細書、特許請求の範囲又は図面(以下、「先願明細書等」という。)には、上記第4の1のとおりの記載があり、先願明細書等における技術的課題は、
「【0008】
本発明は、極細線であっても、電線製造時の外観特性が良好であり、且つ絶縁耐力性に優れた電線を製造可能な電線導体を提供することを目的とする。
【0009】
また、本発明の他の目的は、このような電線導体を備える電線、通信用電線、シールド電線、端子付き電線及び自動車用ワイヤーハーネスを提供することを目的とする。」
と記載されているように、極細線であっても、電線製造時の外観特性が良好であり、且つ絶縁耐力性に優れた電線を製造可能な電線導体を提供することである。
また、段落【0032】に「さらに、導体素線の導電性の改善及び電線導体としての製造の向上のために、導体素線の外周の一部又は全体に金属めっき、例えば、Cu、Ni、Sn、Ag、Au等によるめっきが施されていてもよく、特にSnめっきが好ましい。」と記載されているように、先願発明のSnめっきは、導体素線の導電性の改善及び電線導体としての製造の向上のために用いられている。
加えて、先願明細書等では、段落【0042】に記載されているように、電線導体が円形圧縮加工されることにより、複数の導体素線がより密に芯線に撚り合わされると共に、電線導体の径方向の断面をより真円に近くし、電線導体1からの繊維のはみ出しを防止することは、記載されているものの、Snめっきにより導体素線20を接着することは記載されていない。

ウ 一方、本件発明は、本件特許明細書に
「【0022】
続いて、銅線3aを巻回した芯線2を、低融点金属であるスズ(Sn)を溶融している図4に示すメッキ槽6内に繰り入れながら浸漬する。メッキ槽6内において、溶融したスズが、銅線3aの表面を数μmの厚みで覆うと共に、隣接する銅線3a間に入り込み、銅線3aの外表面にスズ層3bを形成する。このメッキ工程により、図6に示すように、銅線3a、スズ層3bによる導電層3が形成され、導電層3は芯線2の周囲を隙間なく覆うことになる。」

「【0030】
この加熱工程により、スズ層13bにより隣線同士が接着された銅線13aが、芯線12の周囲を隙間なく覆い、銅線13aとスズ層13bによる導電層13を形成する。なお、整形工程と加熱工程とは逆の順序であってもよい。また、実施例2においても、図13で示す状態の芯線12、導電層13を本発明の複合電線11とすることもできる。」
と記載されているように、溶融したスズが隣接する銅線間に入り込み銅線の外表面にスズ層を形成(接着)したり、加熱工程によりスズ層により隣線同士が接着されることにより、導電層を芯線の周囲に隙間なく覆うものである。
すなわち、本件発明は、相違点1及び2に係る構成を備えることによって、本件特許明細書に
「【0033】
このように、実施例1、2で製造された複合電線1、11の導電層3、13は、スズ層3b、13bと隣線同士をスズで接着した銅線3a、13aとにより構成されているので、芯線2、12の周囲を完全に覆っている。従って、圧着接続端子への圧着のために絶縁被覆層4、14を剥離しても、芯線2、12、銅線3a、13aばらけることがない。また、銅線3a、13aによる良好な可塑性を有するので、圧着接続端子の圧着片によって良好に加締めることができる。」
と記載されているように、隣線同士をスズで接着した銅線により構成することにより、芯線や銅線がばらけることがないとの特有の効果を奏するものである。
そして、本件発明は、本件特許明細書に
「【0004】
そのために、電線は従来使用されていた銅線に代わって、細径化しても切断の虞れが少ない所謂繊維電線が用いられることがある。しかし、導体としての繊維電線自体は複数の素線から成り、可塑性に乏しく、ばらけ易く圧着接続端子への圧着の対応が難しい。」
と記載された課題を解決するものである。

エ してみれば、本件発明の解決しようとする課題と、先願発明の「極細線であっても、電線製造時の外観特性が良好であり、且つ絶縁耐力性に優れた電線を製造可能な電線導体を提供する」との課題は異なるといえる。

オ そうすると、先願発明において、上記相違点1及び2の構成を採用することは、課題解決のための具体化手段における微差(周知技術、慣用技術の付加、削除、転換等であって新たな効果を奏するものではないもの)であるということはできない。

カ したがって、上記相違点1及び2に係る構成を備える本件発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

2 請求項2ないし5に係る発明について
請求項2ないし5に係る発明は、請求項1に係る発明を減縮した発明であるから、上記1と同じ理由により、請求項2ないし5に係る発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

第6 特許異議申立人の主張について
特許異議申立人は、甲1号証に「導体素線の隣線同士を接着する」との記載はないとした上で、甲1号証の段落【0048】における「圧縮工程の後にめっきを施すことも可能である。」及び「通常は電線導体の外径よりも小さいダイス穴に電線導体を通すことによって圧縮する。」の記載を根拠として、圧縮行程の後には導体素線の隣線同士は密着していることから、圧縮行程の後に前記導体素線に金属めっきが施されると、金属めっきの金属が導体素線の隣線同士を接着していることは明らかである旨主張する。
しかしながら、甲1号証の段落【0032】に「導体素線の導電性の改善及び電線導体としての製造の向上のために、導体素線の外周の一部又は全体に金属めっき、例えば、Cu、Ni、Sn、Ag、Au等によるめっきが施されていてもよく、特にSnめっきが好ましい。」と記載されているように、先願発明のめっきは、導体素線の導電性の改善及び電線導体としての製造の向上を目的としたものであり、また、金属めっきの金属が導体素線の隣線同士を接着することは記載されていないから、先願発明の金属めっきが導体素線の隣線同士を接着するということはできない。
そうすると、本件発明は、先願明細書等に記載された発明と同一であるとはいえない。

第7 むすび
したがって、特許異議申立人の理由及び証拠によっては、請求項1ないし5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-01-17 
出願番号 P2020-191593
審決分類 P 1 652・ 161- Y (H01B)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 辻本 泰隆
特許庁審判官 ▲吉▼澤 雅博
小田 浩
登録日 2021-04-28 
登録番号 6876861
権利者 株式会社デルタプラス
発明の名称 複合電線及び該複合電線の製造方法  
代理人 日比谷 洋平  
代理人 日比谷 征彦  
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