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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  F16F
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  F16F
審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載  F16F
管理番号 1384264
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-02 
確定日 2022-02-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6882866号発明「シリンダ装置、及びシリンダ装置の製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6882866号の請求項1ないし5に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6882866号の請求項1〜5に係る特許についての出願は、平成28年8月9日に出願され、令和3年5月11日にその特許権の設定がされ、令和3年6月2日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和3年12月2日付けで、特許異議申立人中川賢治(以下、「異議申立人」という。)から、請求項1〜5に係る特許について特許異議の申し立てがされたものである。

第2 本件発明
特許第6882866号の請求項1〜5の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」〜「本件発明5」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜5に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

[本件発明1]
「筒状のアウターシェルと、
前記アウターシェルの側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部と、
前記アウターシェルの外周に取り付けられるブラケットとを備え、
前記ブラケットは、前記アウターシェルの外周を抱持して前部に割の入った断面C字状の筒状部と、前記筒状部の周方向の両端から径方向外側へ突出する一対の取付部とを有し、
前記筒状部には、少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され、
前記筒状部の各側部から前記各取付部にかけてのみにリブが設けられている
ことを特徴とするシリンダ装置。」
[本件発明2]
「前記孔は、前記割と前記筒状部の直径方向に向かい合う位置まで形成されている
ことを特徴とする請求項1に記載のシリンダ装置。」
[本件発明3]
「前記孔の前記筒状部の背部に位置する部分の軸方向長さは、前記孔の前記筒状部の側部に位置する部分の軸方向長さよりも長い
ことを特徴とする請求項1又は2に記載のシリンダ装置。」
[本件発明4]
「前記孔の形状は、前記筒状部の中心を通る軸が鉛直方向へ延びるように前記筒状部を配置するとともに前記筒状部の前部を正面に向けた状態で、前記軸に対して左右対称形状とされている
ことを特徴とする請求項1から3の何れか一項に記載のシリンダ装置。」
[本件発明5]
「筒状のアウターシェルと、前記アウターシェルの側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部と、前記アウターシェルの外周に取り付けられるブラケットとを備え、前記ブラケットは、前記アウターシェルの外周を抱持して前部に割の入った断面C字状の筒状部と、前記筒状部の周方向の両端から径方向外側へ突出する一対の取付部とを有し、前記筒状部には、少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成されているシリンダ装置の製造方法であって、
前記突出部を前記筒状部の背部から外方へ突出させた状態で前記突出部を前記アウターシェルに溶接する突出部溶接工程と、
前記ブラケットを周方向に回転し、前記突出部を前記筒状部の側部から外方へ突出させるブラケット位置変更工程と、
前記筒状部を前記アウターシェルに溶接するブラケット溶接工程とをこの順に行う
ことを特徴とするシリンダ装置の製造方法。」

第3 申立理由の概要
異議申立人の申立理由の概要は次のとおりである。
1 請求項1及び3に係る発明は、甲第1号証に記載された発明であるか、又は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1及び3に係る特許は、特許法第29条第1項第3号又は第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
また、請求項2及び4に係る発明は、甲第1号証及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項2及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
2 請求項1、2及び4に係る発明は、甲第3号証に記載された事項と甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項1、2及び4に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
また、請求項3に係る発明は、甲第3号証に記載された事項と甲第1号証に記載された事項、及び、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された周知技術に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであり、請求項3に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、取り消すべきものである。
3 請求項1〜5に係る特許は、特許法第36条第6項第2項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。
4 請求項1〜4に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであるから、取り消すべきものである。

証拠方法
甲第1号証:特開2015−197129号公報
甲第2号証:特開2009−216129号公報
甲第3号証:米国特許第5282645号明細書
甲第4号証:特開2007−320332号公報

第4 各甲号証の記載
1 甲第1号証
(1)甲第1号証に記載の事項
甲第1号証には、次の記載がある(下線は当審で付したもの。)。
「【0001】
本発明は、車両のサスペンション装置に使用されるシリンダ装置に関する。」
「【0002】
一般に、ストラット式サスペンション装置に使用されるシリンダ装置は、ストラットチューブであるシリンダの外周にブラケットが取り付けられて該ブラケットにハブキャリア(ナックルスピンドル)が結合される(例えば「特許文献1」参照)。また、減衰力発生機構を収容するケースがシリンダの外周に横付け、すなわち、シリンダ軸線に対して垂直に接合された、所謂、減衰力制御バルブ横付け型シリンダ装置が知られている。そして、これらを組み合わせたシリンダ装置、すなわち、シリンダの軸線方向端部にブラケットが取り付けられた制御バルブ横付け型シリンダ装置(以下「シリンダ装置」という)が周知である。
【0003】
ところで、このようなシリンダ装置では、サスペンションレイアウト上、シリンダから突出するケース(制御バルブ)をブラケットによって被われる部分(軸線方向端部)に配置することがある。この場合、ブラケットの円筒部に開口を設けて該開口を通してシリンダの側壁にケースを接合するが、ケースをシリンダの側壁に溶接するときにトーチとブラケットとが干渉するのを防ぐため、ブラケットにケース外径に対して十分に大きい開口を形成する必要があり、ブラケットの剛性の確保が問題となる。」
「【0010】
図1に示されるように、シリンダ装置1は、ストラットチューブであるシリンダ2と、シリンダ2の軸線方向(図1における上下方向、以下「軸線方向」という)一端(上端)から突出するロッド3と、シリンダ2の側壁に設けられて径方向(図1における左右方向)外側(右側)へ突出する円筒形の突出部4と、軸線方向他端部5(図1における下端部)に取り付けられるブラケット6と、を有する。なお、突出部4は、図1に仮想線で示される減衰力制御バルブ7を収容するためのケースである。また、図1において符号8で示されるのは、サスペンション装置のリンクが接続されるリンク接続部である。
【0011】
図1、図2に示されるように、ブラケット6は、シリンダ2の他端部5の外周を被うようにしてシリンダ2の他端部5に固着される円筒部9を有する。円筒部9は、軸直角平面による断面がC字形に形成される。換言すると、円筒部9は、周方向(図2におけるC方向)端部10,11が一定の間隔で開くC字形断面を有する。また、ブラケット6は、円筒部9の軸線方向へ延びる各端部10,11から、径方向外側(図1における紙面手前側)へ延びる一対の延出部12,15を有する。なお、一対の延出部12,15は、相互に略平行に配置されて一定の間隔をあけて対向する板形状に形成される。」
「【0013】
ブラケット6の一側(図1における右側)には、シリンダ2の側壁を臨む開口部18が設けられる。開口部18は、第1穴部13に対して軸線方向他端側(図1における下側)に配置されるとともに第2穴部14に対して軸線方向一端側(図1における上側)に配置される。また、開口部18は、突出部4を囲繞して円筒部9の周方向一端部10を跨ぐ(通過する)ように開口する。また、開口部18は、突出部4をシリンダ2の側壁に溶接するときにトーチとブラケット6とが干渉しないように、突出部4に対して十分なクリアランスを有している。
【0014】
図1、図2に示されるように、ブラケット6は、円筒部9の周方向一端部10を跨いで(通過して)開口部18の周囲の一部に沿って形成されるリブ部19(補強部)を有する。換言すると、リブ部19は、円筒部9の周方向一端部10における第1穴部13の近傍に設けられる。また、図2に示されるように、リブ部19は、一端(円筒部9の周方向一端部10を超えて延びる側の端部)が、シリンダ2の軸線に沿って延びる開口部18の中心線L1を超えて延びる。第1実施形態において、リブ部19は、開口部18の周縁に沿って肉盛溶接によって所要の組織および寸法の金属を溶着させることにより形成される。また、図3に示されるように、リブ部19は、ブラケット6の表面からの高さ寸法H1および厚さ寸法T1が、ブラケット6の板厚寸法T0よりも大きく設定される。
【0015】
なお、ブラケット6の一側(図1における右側)には、軸線方向一端側(図1における上側)の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1まで延びる補強のための内フランジ部20が形成される。また、ブラケット6の一側には、軸線方向他端側(図1における下側)の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1を超えて延びる補強のための外フランジ部21が形成される。同様に、ブラケット6の他側(図1における左側)には、内フランジおよび外フランジ(符号省略)が形成される。」
「【図1】


「【図2】



(2)甲第1号証に記載の発明
甲第1号証に記載の事項より、甲第1号証には次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されているといえる。

[甲1発明]
「ストラットチューブであるシリンダ2と、シリンダ2の側壁に設けられて径方向外側へ突出する円筒形の突出部4と、軸線方向他端部5に取り付けられるブラケット6とを有し、
ブラケット6は、シリンダ2の他端部5の外周を覆うようにしてシリンダ2の他端部5に固着される円筒部9を有し、円筒部9は、軸直角平面による断面がC字形に形成され、円筒部9の軸線方向へ延びる各端部10,11から径方向外側へ延びる一対の延出部12,15を有し、一側には、シリンダ2の側壁を臨み、突出部4を囲繞して円筒部9の周方向一端部10を跨ぐように開口する開口部18が設けられ、
ブラケット6の一側には、軸線方向一端側の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1まで延びる補強のための内フランジ部20及び軸線方向他端側の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1を超えて延びる補強のための外フランジ部21が形成され、同様に、ブラケット6の他側には、軸線方向一端側の端縁に沿って延出部15から延びる補強のための内フランジ部20及び軸線方向他端側の端縁に沿って延出部12から延びる補強のための外フランジ部21が形成されている
シリンダ装置1。」

2 甲第2号証
甲第2号証には次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、緩衝器とステアリングナックルを連結するナックルブラケットの改良に関する。」
「【0014】
図1から図3に示すように、一実施の形態におけるナックルブラケット1は、断面C型のブラケット本体2と、ブラケット本体2の両端から平行して延びて図示しないステアリングナックルに締結される一対の取付片3,4と、各取付片3,4の上端を内側へ曲げて形成される各支持片5,6とを備えて構成されている。
【0015】
そして、このナックルブラケット1は、各支持片5,6とブラケット本体2の内縁で緩衝器の外筒10の外周を抱持し、また、各支持片5,6とブラケット本体2とが上記外筒10に溶接されることによって、緩衝器に取付けられる。
【0016】
以下、各部について詳しく説明すると、ブラケット本体2は、断面C型であって、図3に示すように、背部に切欠2aが設けられている。この切欠2aは、ナックルブラケット1の軽量化のために設けられており、設けなくともよい。」
「【0018】
また、取付片3,4の下端は、外方へ折り曲げられてフランジ部3b,4bが設けられ、取付片3,4の強度向上が図られている。」
「【0020】
上述のようなナックルブラケット1の各部を形成するに当たっては、具体的には、図4に示すように、一枚の金属板でなる母材Pをプレス加工することによって行われ、まず、母材Pのうち取付片3,4に対応する部位c,dに台形状のリブ3c,4cを形成する加工が行われ、フランジ部3b,4bも同時に加工される。」
「【図1】


「【図3】



3 甲第3号証
(1)甲第3号証に記載の事項
甲第3号証には、次の事項が記載されている(訳は、異議申立人が提出した訳を基に、当審で訳したものである。)

「FIG. 1 is a longitudinal sectional view of a hydraulic damper having a first embodiment of an electro-hydraulic pressure regulating valve assembly according to the present invention.」(第1欄第65行〜68行)
「訳:図1は、本発明の第1実施形態に係る電気油圧式圧力調整バルブアセンブリを有する油圧ダンパーの縦断面図である。」

「A hydraulic damper is indicated generally at 10 in FIG. 1. The damper 10 includes an outer reservoir tube 12 closed at its lower end by an end cap 14. A bracket 16 is provided about a lower portion of the reservoir tube 12 for securing the damper 10 to a vehicular road wheel assembly (not illustrated) in a well-known manner. A seal cover 18 is welded or otherwise secured to the upper end of the reservoir tube 12.
A fluid-filled inner cylinder 20 is spaced inwardly from and concentric with the reservoir tube 12. The interior volume between the inner cylinder 20 and the reservoir tube 12 forms a fluid reservoir 22. A piston 24 is slidably mounted inside the inner cylinder 20 and divides the interior volume of the inner cylinder 20 into an upper chamber 26 and a lower chamber 28. The piston 24 includes internal valving (not illustrated) which permits one-way flow from the lower chamber 28 to the upper chamber 26 as the piston 24 reciprocates in the inner cylinder 20. A compression valve assembly 30 secured to the lower end of the inner cylinder 20 controls the one-way flow of fluid from the reservoir 22 into the lower chamber 28 during operation of the damper 10 as described below.
A piston rod 32 is attached at its inner end to the piston 24 and is connected at its upper end (not shown) to bodywork of a vehicle in any conventional manner. The piston rod 32 passes through a rod guide 34 mounted at the upper end of the inner cylinder 20 and held in position by the seal cover 18. An annular elastomeric seal (not illustrated) is seated on the rod guide 34 and has sealing contact with the piston rod 32 to prevent loss of hydraulic fluid from the upper chamber 26 as the piston 24 strokes in the inner cylinder 20 during operations.
A tubular sleeve insert 36 is fitted between the inner cylinder 20 and the reservoir tube 12 near the lower end of the inner cylinder 20. The sleeve insert 36 includes a plurality of radially, spaced-apart ribs 38 on its outer surface which produce an interference fit against the reservoir tube 12. A pair of annular flanges 40,42 provided on the inner surface of the sleeve insert 36 support a sealing ring 44 which provides a fluid seal against the inner cylinder 20.
An undercut 46 in the upper end of the sleeve insert 36 forms an annular seat 48 for receiving a lower end of an intermediate tube 50 concentrically mounted between the inner cylinder 20 and the reservoir tube 12. The upper end of the intermediate tube 50 is mounted on the rod guide 34. If desired, an annular spacer 52 can be provided between the intermediate tube 50 and the seal cover 18. An annular fluid port 54 is provided in the rod guide 34 to permit fluid to pass from the upper chamber 26 to a bypass channel 56 formed in the annular space between the inner cylinder 20 and the intermediate tube 50. The bypass channel 56 is in fluid communication with an annular fluid receiving chamber 58 formed between the inner cylinder 20 and the sleeve insert 36.
A tubular adapter 60 having internal threads is received in complementary openings 62,64 in the bracket 16 and the reservoir tube 12 and is sealingly secured to the sleeve insert 36 by any suitable means. A plurality of radial channels 66 are provided in the adapter 60 which are in fluid communication with the reservoir 22. As described below, a continuously variable electro-hydraulic pressure regulating valve assembly indicated generally at 100 is threaded to the adapter 60. The valve assembly 100 changes the damping force provided by the damper 10 by permitting fluid to flow from the bypass channel 56 to the reservoir 22 as described below.」(第2欄第20行〜第3欄第22行)
「訳:油圧ダンパーは一般に図1の10で示されている。このダンパー10は、エンドキャップ14によって下端が閉ざされた外側の貯留管12を含む。ブラケット16は、ダンパー10を車両のロードホイールアセンブリ(図示せず)に周知の方法で固定するため、貯留管12の下部に備えられている。シールカバー18は、貯留管12の上端に溶接またはその他の方法で固定されている。
流体が充填された内筒20は、貯留管12の内側に間隔を空けて、貯留管12と同心となるように設けられている。内筒20と貯留管12との間の内部容積は、流体貯留部22を形成している。ピストン24は、内筒20の内部に摺動可能に取り付けられ、内筒20の内部容積を上部チャンバ26と、下部チャンバ28に分割する。ピストン24は、ピストン24が内筒20内を往復運動している時に下部チャンバ28から上部チャンバ26への一方向流れを可能にする内部バルブ(図示せず)を含む。内筒20の下端に固定された圧縮弁アセンブリ30は、後述するようにダンパー10の作動中に流体貯留部22から下部チャンバ28への一方向の流れを制御する。
ピストンロッド32は、内側端部がピストン24に取り付けられ、その上端(図示せず)が任意の方法で車用のボディワークに接続されている。ピストンロッド32は、内筒20の上端に取り付けられたロッドガイド34を通過し、シールカバー18によって位置を保持される。環状エラストマーシール(図示せず)は、ロッドガイド34に着座し、作動中にピストン24が内筒20内をストロークしている時に上部チャンバ26から油圧流体が漏れることを防止するために、ピストンロッド32と密封接触している。
筒状のスリーブ挿入部36は、内筒20と内筒20の下端近くにある貯留管12との間に嵌合される。スリーブ挿入部36には、貯留管12に締まりばめされる外面に、複数の放射状に離間したリブ38が設けられている。スリーブ挿入部36の内面に設けられた一対の環状フランジ40,42は、内筒20に対して流体シールを提供する封止リング44を支持する。
スリーブ挿入部36の上端におけるアンダーカット46は、内筒20と貯留管12との間に同心円状に設けられた中間管50の下端を受ける環状シート48を形成する。中間管50の上端は、ロッドガイド34に嵌め込まれている。所望により、環状スペーサー52は、中間管50とシールカバー18との間に設けることができる。環状流体ポート54はロッドガイド34に設けられ、上部チャンバ26から内筒20と中間管50との間の環状空間に形成されるバイパス通路56に流体を通すことを可能にする。バイパス通路56は、内筒20とスリーブ挿入部36十の間に形成された環状流体受室58と連通している。
雄ねじを有する環状アダプタ60は、ブラケット16及び貯留管12の補充孔62,64に受けられ、任意の適切な手段によってスリーブ挿入部36に密封固定される。複数のラジアル通路66は環状アダプタ60に設けられており、これらは流体貯留部22と連通している。後述するように、100として一般に示される連続的に可変的な電気油圧調整バルブアセンブリは、アダプタ60に通される。このバルブアセンブリ100は、後述するようにバイパス通路56から流体貯留部22に流体が流れることを許容することによって、ダンパー10の減衰力を調整する。」
「Fig.1



上記甲第3号証に記載の事項より、次の事項が認定できる。

・油圧ダンパー10は、貯留管12と、バルブアセンブリ100と、ブラケット16を備える。
・貯留管12は、油圧ダンパー10の筒状の外筒を構成している。
・バルブアセンブリ100は、貯留管12の側部に径方向外側へ突出する突出部として備えられている。
・ブラケット16は、貯留管12の下部外周に備えられている。
・ブラケット16は、貯留管12の外周を抱持する筒状部と、筒状部から径方向外側へ突出する取付部を有している。
・ブラケット16の筒状部には、取付部と反対側にバルブアセンブリ100の挿通を許容する補充孔62が形成されている。

(2)甲第3号証に記載の発明
甲第3号証に記載の事項及び上記認定事項より、甲第3号証には次の発明(以下「甲3発明」という。)が記載されているといえる。

[甲3発明]
「筒状の貯留管12と、
貯留管12の側部に径方向外側へ突出する突出部であるバルブアセンブリ100と、
貯留管12の下部外周に備えられたブラケット16を備えた油圧ダンパー10であって、
ブラケット16は、貯留管12の外周を抱持する筒状部と、筒状部から径方向外側へ突出する取付部とを有し、
ブラケット16の筒状部には、取付部と反対側にバルブアセンブリ100の挿通を許容する補充孔62が形成されている、
油圧ダンパー10。」

4 甲第4号証
甲第4号証には次の事項が記載されている。
「【0001】
本発明は、自動車や産業車両等の車両の車輪側ナックルアームに取付けるためのナックルブラケットを備えたストラット型ショックアブソーバに関わり、詳しくはこのナックルブラケットをアウターシェルに溶接によって接合するための構造に関する。」
「【0016】
図1に示すように、本実施の形態のストラット型ショックアブソーバ1はアウターシェル2と、このアウターシェル2に装着されるナックルブラケット3とを備え、このナックルブラケット3は上記アウターシェル3を抱持する略筒状のブラケット本体4と、このブラケット本体4から横方向に突出形成した一対のナックルアーム取付用の挟持部5と、この挟持部5の下縁部にこの下縁部を経てブラケット本体4の下縁部前半に亘って連続する外側へ屈曲形成されたフランジ部7と、このフランジ部7が形成されていないブラケット本体4の下縁部後半4cに設けられた延長部6と、この延長部6とフランジ部7との間に設けられた縁切り部とを備え、上記延長部6及びアウターシェル2の境界部と、フランジ部7及びアウターシェル2の境界部とが全周に亘ってアーク溶接法で溶接(図2に二点鎖線Yで示す)されて接合されている。
【0017】
以下、更に詳述すると、上記ナックルブラケット3は板状の母材を屈曲形成することで、上記ブラケット本体4、一対のナックルアーム取付用の挟持部5及びフランジ部7が形成されており、上記挟持部5にはナックルアーム取付用の上下一対の取付孔11が穿設されている。
【0018】
上記ブラケット本体4の挟持部5とは反対側には、図2に示すように、軽量化のための開口窓12が切欠き形成されている。
【0019】
上記挟持部5の下縁部からブラケット本体4の下縁部前半に亘って設けられた上記フランジ部7は、板状の母材を屈曲形成することで上記ブラケット本体4と挟持部5とを一体形成する際に同じく一体的に形成されている。
【0020】
そして、この屈曲形成時に必要となる曲げ代(図3の二点鎖線で囲まれた部分Rを示す)に相当する長さHを有する本発明の延長部6がブラケット本体4の下縁部後半4cに設けられている。
【0021】
上記延長部6とフランジ部7との間には同じく本発明の縁切り部としての円弧状の切欠き部9が設けられており、上記フランジ部7を屈曲形成する際に延長部6が影響を受けて外側へ倒れないようになっている。
【0022】
従って、この延長部6の下縁部及びアウターシェル2外周面の境界部と、フランジ部7下面及びアウターシェル2外周面の境界部とは上記切欠き部9を除いて略同一直線状となって溶接時の溶接線X(図4に図示する)が直線状となるようになっている。
【0023】
このように構成されたストラット型ショックアブソーバ1においては、そのアウターシェル2にナックルブラケット3をアーク溶接法で接合するには、先ず、ナックルブラケット3のブラケット本体4内にアウターシェル2を挿入する。
【0024】
次いで、図4に示すように、このアウターシェル2を略水平に配置された中心軸Oのまわりに回転させながら、アーク溶接機のトーチTをアウターシェル2の側部に向けることで、上記ブラケット本体4の延長部6の下縁部及びアウターシェル2外周面の境界部と、フランジ部7下面及びアウターシェル2外周面の境界部とを溶接し、アウターシェル2に対してナックルブラケット3を接合する。
【0025】
このとき、この延長部6の下縁部及びアウターシェル2外周面の境界部と、フランジ部7下面及びアウターシェル2外周面の境界部とは、略同一直線上になって直線状の溶接線Xを形成しているので、アウターシェル2を上記中心軸Oのまわりに単に回転させるだけで溶接時におけるトーチTとの距離を一定にでき、従来例で示したようなアウターシェル2を後退させると言う余分な工程を不要とすることができる。
【0026】
従って、溶接時の作業効率が良くなるばかりでなく、延長部6の下縁部とアウターシェル2外周面との境界部から溶接作業を始めた場合でも、従来例で示したような段差部8が存在しないので、溶接時に溶けて垂れ落ちた溶融金属がフランジ部7の外周面に付着して外観上の見栄えを悪くする可能性も払拭することができる。
【0027】
又、上記縁切り部を円弧状の切欠き部9としたので、上記フランジ部7の屈曲成形時に応力集中することを防止できる。
【0028】
尚、本発明は前記実施の形態に限定されるものではなく、例えば、以下のように変更することも可能である。
【0029】
(1)本実施の形態では、上記フランジ部7をブラケット本体4及び挟持部5の下縁側に設けたが、これに限定されるものではなく、上記ブラケット本体4及び挟持部5の上縁部に設けても良く、又、上下両縁部に設けても良い。
【0030】
(2)本実施の形態では、延長部6の下縁部及びアウターシェル2外周面の境界部と、フランジ部7下面及びアウターシェル2外周面の境界部とを全周に亘って溶接したが、これに限定されるものではなく、要求される強度に合わせて部分的に溶接しても良い。
【0031】
(3)本実施の形態では、上記縁切り部を円弧状の切欠き部9としたが、これに限定されるものではなく、V字状の切欠き部でも単なるスリットでも良い。
【0032】
(4)本実施の形態では、アウターシェル2内の構造については説明を省略したが、このアウターシェル2は単筒型でも複筒型でもいずれの構造のものを採用することができる。」
「【図1】



第5 当審の判断
1 特許法第36条第6項第2号について
事案に鑑みて、まず、特許法第36条第6項第2号について検討する。
(1)異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書において、本件の請求項1〜5に係る発明の発明特定事項である「孔」が形成されている位置に関し、「背部」及び「側部」が筒状部のどのあたりを指しているのか明細書を参酌しても特定できず不明確であり、本件の請求項1に係る発明及び請求項1の記載を引用する請求項2〜4に係る発明並びに請求項5に係る発明は不明確である旨主張する(第23ページ第20行〜第24ページ第22行)。
(2)当審の判断
請求項1及び5には「前部」、「背部」、及び「側部」と記載されているところ、当業者における技術常識に照らして、筒状部には、「前部」、「前部」に反対側の「背部」及び、これら「前部」、「背部」に対して側方となる「側部」の、少なくとも4つの部位が観念できる(願書に添付した明細書(以下、「本件特許明細書」という。)の段落【0033】も参照。)。そして、「筒状部」に形成された「孔」について、本件の請求項1及び5では、「少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」(下線は当審で付した。)として特定されていることからすれば、「孔」は突出部の挿通を許容することを前提として側部から背部にかけて形成されているということを特定するものであるといえる。つまり、本件の請求項1及び5において、「孔」は、突出部が背部から突出した状態と、突出部が側部から突出した状態とを実現できる程度の形状の孔であることが明確に特定されているといえる(本件特許明細書の段落【0038】及び【0039】の側部開口81と背部開口82に関する部分の記載も参照。)。
したがって、本件の請求項1及び5での「少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」との記載から「孔」の形成されている位置は明確であり、他に請求項1〜5の記載について不明確な点もないから、本件発明1及び請求項1の記載を引用する本件発明2〜4並びに本件発明5は明確である。

2 特許法第36条第6項第1号について
(1)異議申立人の主張
異議申立人は、特許異議申立書において、本件の請求項1の記載においては、「孔」の構成が「少なくとも一方の側部から背部にかけて」「形成され」ていることしか特定されておらず、甲第1号証に記載の発明のような突出部の外形と孔の内径が略同様のものも含まれてしまう。つまり、本件の請求項1〜4の記載は、発明の課題を解決するための手段が反映されていないため、本件の請求項1〜4に係る発明は、発明の詳細な説明に記載した範囲を超えている旨主張する(第24ページ第24行〜第25ページ第18行)。
(2)当審の判断
本件特許明細書には、「突出部を筒状部の側部から外方へ突出させた状態では、いくら突出部を挿通するための孔を大きくしたとしても溶接するのが難しい」ことを課題として、「突出部をアウターシェルに容易に溶接できるとともに、ブラケットをアウターシェルに溶接等で固定した状態で突出部を筒状部の側部から外報へ突出させられるシリンダ装置」「の提供」を目的とし、かかる課題を解決するための手段として、シリンダ装置のブラケットの筒状部において「少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」との構成を採用している(本件特許明細書の段落【0007】〜【0010】を参照。)。そして、かかる構成により、「孔」が、突出部が背部から突出した状態と、突出部が側部から突出した状態とを実現できる程度の形状であることが特定され、上述の目的を達成しているものといえる(本件特許明細書の段落【0038】及び【0039】を参照。)。
かかる構成は本件の請求項1〜4に係る発明の発明特定事項として記載されているから、本件の請求項1〜4においては、発明の詳細な説明に記載された、発明の課題を解決するための手段が反映されているといえ、本件の請求項1〜4の記載は、特許を受けようとする発明が発明の詳細な説明に記載したものであるといえる。

3 特許法第29条第1項第3号及び同条第2項について
(1)甲1発明を主引用発明として
ア 本件発明1について
ア)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
(ア)甲1発明の「シリンダ2」、「突出部4」、「ブラケット6」、「円筒部9」、「延出部12,15」、「開口部18」及び「内フランジ部20と外フランジ部21」は、それぞれ、本件発明1の「アウターシェル」、「突出部」、「ブラケット」、「筒状部」、「取付部」、「孔」及び「リブ」に相当する。
(イ)ストラットチューブは、筒状であるといえるから、上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「ストラットチューブであるシリンダ2」は、本件発明1の「筒状のアウターシェル」に相当する。
(ウ)甲1発明のシリンダ2の側壁とは、シリンダ2の側部のことであるから、上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「シリンダ2の側壁に設けられて径方向外側へ突出する円筒形の突出部4」は、本件発明1の「前記アウターシェルの側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部」に相当する。
(エ)甲1発明の「ブラケット6」は、「シリンダ2の他端部5の外周を覆うようにしてシリンダ2の他端部5に固着される円筒部9を有」するものであるから、シリンダ2の外周に取り付けられているといえる。したがって、上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「シリンダ2の他端部5の外周を覆うようにしてシリンダ2の他端部5に固着される円筒部9を有」する「軸線方向他端部5に取り付けられるブラケット6」は、本件発明1の「前記アウターシェルの外周に取り付けられるブラケット」に相当する。
(オ)甲1発明の「円筒部9」は、「シリンダ2の他端部5の外周を覆うようにしてシリンダ2の他端部5に固着される」ものであり、シリンダ2の外周を抱持しているといえ、また、「軸直角平面による断面がC字形に形成され」るものであるから、前部に割の入った断面C字状であるといえる。
したがって、上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「ブラケット6は、シリンダ2の他端部5の外周を覆うようにしてシリンダ2の他端部5に固着される円筒部9を有し、円筒部9は、軸直角平面による断面がC字形に形成され」ることは、本件発明1の「前記ブラケットは、前記アウターシェルの外周を抱持して前部に割の入った断面C字状の円筒部と」「を有する」ことに相当する。
(カ)甲1発明の「円筒部9」の「各端部10,11」は、円筒部9の周方向の両端といえるから、本件発明1の「筒状部の周方向の両端」に相当する。
したがって、上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「ブラケット6は」、「円筒部9の軸線方向へ延びる各端部10,11から径方向外側へ延びる一対の延出部12,15を有」することは、本件発明1の「前記ブラケットは」、「前記筒状部の周方向の両端から径方向外側へ突出する一対の取付部」「を有」することに相当する。
(キ)甲1発明の「開口部18」は、「ブラケット6」の「円筒部9」の一側に、「シリンダ2の側壁を臨み、突出部4を囲繞して円筒部9の周方向一端部10を跨ぐように開口する」よう設けられているものであるから、突出部4の挿通を許容する大きさであるといえる。
したがって、上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「円筒部9は」、「一側には、シリンダ2の側壁を臨み、突出部4を囲繞して円筒部9の周方向一端部10を跨ぐように開口する開口部18が設けられ」ていることは、本件発明1の「前記筒状部には、少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」ていることとの対比において、「前記筒状部には前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」ていることの限度で一致する。
(ク)甲1発明の「内フランジ部20」は、「ブラケット6の一側」に、「軸線方向一端側の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1まで延びる」よう「形成されている」ものであり、また、「外フランジ部21」は、「ブラケット6の一側」に、「軸線方向他端側の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1を超えて延びる」よう「形成されている」ものである。
さらに、甲1発明の「ブラケット6の他側」には、「内フランジ部20」及び「外フランジ部21」と同様の構成(「内フランジ部20」及び「外フランジ部21」)が形成されている。ここでブラケット6の一側及び他側とは、円筒部9の各側部である(甲第1号証の【図1】及び【図2】を参照。)から、甲1発明においてブラケット6の一側に形成された「内フランジ部20」及びブラケット6の他側に形成された「内フランジ部20」並びにブラケット6の一側に形成された「外フランジ部21」及びブラケット6の他側に形成された「外フランジ部21」は、円筒部9の各側部から延出部12,15にかけてのみ設けられているといえる。
したがって、上記(ア)を踏まえると、甲1発明の「ブラケット6の一側には、軸線方向一端側の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1まで延びる補強のための内フランジ部20及び軸線方向他端側の端縁に沿って延出部12から開口部18の中心線L1を超えて延びる補強のための外フランジ部21が形成され、同様に、ブラケット6の他側には、軸線方向一端側の端縁に沿って延出部15から延びる補強のための内フランジ部20及び軸線方向他端側の端縁に沿って延出部12から延びる補強のための外フランジ部21が形成されている」ことは、本件発明1の「前記筒状部の各側部から前記各取付部にかけてのみリブが設けられている」ことに相当する。
(ケ)甲1発明の「シリンダ装置1」は、本件発明1の「シリンダ装置」に相当する。
(コ)以上から、本件発明1と甲1発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点1]
「筒状のアウターシェルと、
前記アウターシェルの側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部と、
前記アウターシェルの外周に取り付けられるブラケットとを備え、
前記ブラケットは、前記アウターシェルの外周を抱持して前部に割の入った断面C字状の筒状部と、前記筒状部の周方向の両端から径方向外側へ突出する一対の取付部とを有し、
前記筒状部には、前記突出部の挿通を許容する孔が形成され、
前記筒状部の各側部から前記各取付部にかけてのみにリブが設けられている
シリンダ装置。」
[相違点1]
「孔」に関し、本件発明1は、「前記筒状部には、少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」とされているのに対し、甲1発明は、「円筒部9」の「一側には、シリンダ2の側壁を臨み、突出部4を囲繞して円筒部9の周方向一端部10を跨ぐように開口する開口部18が設けられ」とされている点。

イ)判断
上記1(2)で説示のとおり、本件発明1の「孔」は突出部の挿通を許容することを前提として側部から背部にかけて形成されているつまり、「孔」は、突出部が背部から突出した状態と、突出部が側部から突出した状態が実現できる程度の形状の孔であるといえる。
これに対し、甲1発明の「開口部18」は、「円筒部9」の「一側には、シリンダ2の側壁を臨み、突出部4を囲繞して円筒部9の周方向一端部10を跨ぐように開口する開口部18が設けられ」たものであるから、突出部4が円筒部9の側部から突出した状態で突出部4の挿通を許容するものに留まるものである。
したがって、本件発明1の「孔」と甲1発明の「開口部18」は、その形状、機能において異なるから、相違点1は実質的な相違点であるといえる。
よって、本件発明1は、甲1発明、すなわち、甲第1号証に記載された発明であるとはいえない。
甲第2号証には、緩衝器に取り付けられるナックルブラケット1のナックルブラケット本体2の背部に切欠2aが設けられている点が記載されており、かかる切欠2aは、甲1発明の開口部18に類似する構成とはいえるものの、ナックルブラケット本体2の一方の側部から背部にかけて設けられたものではないから(甲第2号証の【図1】及び【図3】を参照。)、本件発明1の「前記筒状部には、少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」との構成を開示ないし示唆するものではない。
また、甲第2号証に記載のものの切欠2aは、緩衝器の側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部を挿通するものではないから、甲第2号証の切欠2aを甲1発明の開口部18に適用する動機付けも存在しない。
以上のとおりであるから、本件発明1は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに限定するものであるから、本件発明2〜4と甲1発明との間には、少なくとも上記相違点1が存在する。
したがって、上記アのイ)と同様の理由により、本件発明3は、甲第1号証に記載された発明ではなく、また、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。さらに、本件発明2及び4は、甲第1号証に記載された発明及び甲第2号証に記載された事項に基いて当業者が容易に発明をすることができたものではない。

(2)甲3発明を主引用発明として
ア 本件発明1について
ア)対比
本件発明1と甲3発明とを対比する。
(ア)甲3発明の「貯留管12」、「バルブアセンブリ100」、「ブラケット16」、「筒状部」、「取付部」、「補充孔62」及び「油圧ダンパー10」は、それぞれ、本件発明1の「アウターシェル」、「突出部」、「ブラケット」、「筒状部」、「取付部」、「孔」及び「シリンダ装置」に相当する。
(イ)上記(ア)を踏まえると、甲3発明の「ブラケット16は、貯留管12の外周を抱持する筒状部と、筒状部から径方向外側へ突出する取付部とを有」することは、本件発明1の「前記ブラケットは、前記アウターシェルの外周を抱持して前部に割の入った断面C字状の筒状部と、前記筒状部の周方向の両端から径方向外側へ突出する一対の取付部とを有」することとの対比において、「前記ブラケットは、前記アウターシェルの外周を抱持する筒状部と、前記筒状部から径方向外側へ突出する取付部とを有」するとの限度で一致する。
(ウ)甲3発明において「筒状部」の「取付部と反対側」とは、本件発明1の「筒状部」における「取付部」との位置関係からみて、「筒状部」の「背部」に相当し(甲第3号証のFig.1を参照。)、上記(ア)を踏まえると、甲3発明の「ブラケット16の筒状部には、取付部と反対側にバルブアセンブリ100の挿通を許容する補充孔62が形成されている」ことは、本件発明1の「前記筒状部には、少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」ていることとの対比において、「前記筒状部には、背部に前記突出部の挿通を許容する孔が形成され」ている限度で一致する。
(エ)以上から、本件発明1と甲3発明との一致点及び相違点は次のとおりとなる。

[一致点2]
「筒状のアウターシェルと、
前記アウターシェルの側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部と、
前記アウターシェルの外周に取り付けられるブラケットとを備え、
前記ブラケットは、前記アウターシェルの外周を抱持する筒状部と、前記筒状部から径方向外側へ突出する取付部とを有し、
前記筒状部には、背部に前記突出部の挿通を許容する孔が形成されている、
シリンダ装置。」
[相違点2]
「筒状部」に関し、本件発明1は、「前部に割の入った断面C字状」であるのに対し、甲3発明はこのような特定がされていない点。
[相違点3]
「取付部」に関し、本件発明1は、「筒状部の両端から」「突出する一対の取付部」とされているのに対し、甲3発明の筒状部の断面形状が特定されていないことも相俟って、甲3発明の「取付部」が筒状部の両端から突出するとの特定はされていないし、その数も一対であるとの特定もされていない点。
[相違点4]
「孔」に関し、本件発明1は、「筒状部」の「少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する孔」とされているのに対し、甲3発明は、「筒状部」の「取付部の反対側にバルブアセンブリ100の挿通を許容する補充孔62」とされている点。
[相違点5]
本件発明1は、「前記筒状部の各側部から前記各取付部にかけてのみにリブが設けられている」のに対し、甲3発明は、リブに相当する構成は特定されていない点。

イ)判断
事案に鑑み、相違点4について検討する。
(ア)上記1(2)で説示のとおり、本件発明1の「孔」は突出部の挿通を許容することを前提として側部から背部にかけて形成されている、つまり、「孔」は、突出部が背部から突出した状態と、突出部が側部から突出した状態とを実現できる程度の形状の孔であるといえる。
これに対し、甲3発明の「補充孔62」は、「円筒部」の「取付部の反対側にバルブアセンブリ100の挿通を許容する補充孔62」であるから、バルブアセンブリ100が円筒部の取付部の反対側、すなわち背部から突出した状態でバルブアセンブリ100の挿通を許容するものに留まるものといえる。
そして、上記(1)アのア)(キ)及び(1)アのイ)で説示のとおり、甲第1号証に記載のものの「開口部18」は、円筒部9の一側に、シリンダ2の側壁を臨み、突出部4を囲繞して円筒部9の周方向一端部10を跨ぐように開口する開口部18が設けられたものであるから、突出部4が円筒部9の側部から突出した状態で突出部4の挿通を許容するものに留まるものである。
また、甲第2号証に記載のものの切欠2aは、上記(1)アのイ)で説示のとおり、ナックルブラケット本体2の一方の側部から背部にかけて設けられたものではないし、緩衝器の側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部を挿通するものでもない。さらに、甲第4号証に記載のものの開口窓12も甲第2号証に記載のものの切欠2aと同様に、ブラケット本体4の一方の側部から背部にかけて設けられたものではないし、緩衝器の側部に設けられて径方向外側へ突出する突出部を挿通するものでもない。
このように、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証には、相違点4に係る本件発明の構成が記載ないし示唆されていないから、甲3発明において、甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、相違点4に係る本件発明1の構成となすことは当業者であっても容易になしうるものではない。
したがって、その余の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は、甲3発明並びに甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができものではない。
(イ)この点に関し、異議申立人は、特許異議申立書において、甲3発明において、本件発明1の孔(8)に相当するopening(62)は、背部及び側部に跨がって設けられているので、「少なくとも一方の側部から背部にかけて」設けられている旨主張する(第16ページ第4行〜第17ページ第11行及び第20ページ第16行〜第19行。)。
しかしながら、本件発明1の「孔」は、「筒状部」の「少なくとも一方の側部から背部にかけて前記突出部の挿通を許容する」ものとして特定されており、かかる特定から、「孔」は突出部の挿通を許容することを前提として側部から背部にかけて形成されているということを特定するものであるといえる。つまり、本件の請求項1及び5に係る発明において、「孔」は、突出部が背部から突出した状態と、突出部が側部から突出した状態とを実現できる程度の形状の孔であり(上記1(2)を参照。)、甲3発明の「補充孔62」が「取付部と反対側に」「形成されている」構成、つまり、背部に形成されている構成とは異なるといえる。
したがって、異議申立人の上記主張は採用できない。

イ 本件発明2〜4について
本件発明2〜4は、本件発明1の発明特定事項をすべて含みさらに限定するものであるから、本件発明2〜4と甲1発明との間には、少なくとも上記相違点4が存在する。
したがって、上記アのイ)と同様の理由により、本件発明2〜4は、甲3発明並びに甲第1号証、甲第2号証及び甲第4号証に記載された事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができものではない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1〜5に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1〜5に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。


 
異議決定日 2022-02-09 
出願番号 P2016-156496
審決分類 P 1 651・ 113- Y (F16F)
P 1 651・ 121- Y (F16F)
P 1 651・ 537- Y (F16F)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 平田 信勝
特許庁審判官 田村 嘉章
尾崎 和寛
登録日 2021-05-11 
登録番号 6882866
権利者 KYB株式会社
発明の名称 シリンダ装置、及びシリンダ装置の製造方法  
代理人 石川 憲  

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