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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  A61K
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  A61K
管理番号 1384267
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-08 
確定日 2022-03-18 
異議申立件数
事件の表示 特許第6883347号発明「化粧用組成物、美容組成物、関節保護組成物、組成物」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6883347号の請求項1に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯

特許第6883347号の請求項1〜3に係る特許(以下「本件特許」という。)についての出願は、平成27年2月26日を出願日(以下「原出願日」という。)とする特願2015−37222号の一部を令和1年6月17日に新たな出願(特願2019−111729号)としたものであり、令和3年5月12日にその特許権の設定登録がされ、令和3年6月9日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許の請求項1に対し、令和3年12月8日に特許異議申立人 永井 望(以下「申立人」という)により特許異議の申立てがなされた。

第2 本件発明

本件特許の請求項1に係る発明は、本件特許の特許請求の範囲の請求項1に記載された事項により特定される次のとおりのものであると認める。

「【請求項1】
N−アセチルグルコサミンと、黒生姜の根茎の水、エタノール又は含水エタノール抽出物とを含有する関節若しくは軟骨の保護用又は維持用組成物。」

以下、本件特許の請求項1に係る発明を「本件発明1」という。

第3 申立理由の概要

申立人は、証拠として、以下の甲第1号証〜甲第10号証(以下、号証番号の順に「甲1」、「甲2」・・・と略記する。)を提出するとともに、特許異議申立書(以下「申立書」という。)において、以下の申立理由1の1、申立理由1の2、及び申立理由2により、本件発明1に係る特許は取り消されるべき旨主張している。

<申立理由1の1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)>
本件発明1は、甲1〜甲4に記載された事項に基いて、本件特許の原出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

<申立理由1の2(甲2〜10に基づく進歩性欠如)>
本件発明1は、甲2〜甲10に記載された事項に基いて、本件特許の原出願日前に当業者が容易に発明をすることができたものであるから、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

<証拠>
・甲1の1:はぴねすくらぶ,2015年1月,Vol.65,2015年新春号,p.35
・甲1の2:はぴねすくらぶ,2015年1月,Vol.65,2015年新春号,表紙頁
・甲1の3:はぴねすくらぶ,2015年1月,Vol.65,2015年新春号,奥付頁
・甲1の4:甲1の1における「たっぷり軟骨成分!実感が違う!」というタイトルの記事の拡大図
・甲1の5:甲1の1における「ふしぶしの軟骨成分をサポート」というタイトルの記事の拡大図
・甲1の6:甲1の1における「その他のサポート成分」というタイトルの記事の拡大図
・甲2:「元気とうるおいを体内からサポート N−アセチルグルコサミン」,平成26年(2014年)9月17日,

・甲3:グルコサミン研究,2014,Vol.10,p.37-43
・甲4:新薬と臨牀,2003,Vol.52,No.3,p.71(301)-82(312)
・甲5:特開2003-81838号公報
・甲6:Journal of Dermatological Science,2011,Vol.63,p.93-103
・甲7:タイ発の抗肥満対応の注目素材「ブラックジンジャー」,
平成26年(2014年)10月16日,
information/blackginger/>
・甲8:科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書,
平成24年(2012年)4月1日,
・甲9:特開2009-51790号公報
・甲10:Photodermatol Photoimmunol Photomed,2014,Vol.30,No.5,
p.237-245

<申立理由2(サポート要件違反)>
本件発明1に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものである。
よって、本件発明1に係る特許は、同法第113条第4号の規定により、取り消されるべきものである。

第4 甲号証に記載された事項

各甲号証には、以下の事項が記載されている。外国語で記載された文献は、当審合議体による日本語訳を記載する。また、文献中の参照文献番号は省略した。なお、下線は当審合議体が付した。

[甲1に記載された事項]
甲1は、平成27年(2015年)1月5日に頒布された、株式会社はぴねすくらぶの会員向けカタログである。このカタログには以下の記載がある。

(甲1a)
「たっぷり軟骨成分!実感が違う!
『GCCグルサミン・コンドロイチン滑らかバランス』は、グルコサミン、コンドロイチンをはじめ、健康な歩みに必要な成分をぎゅっと凝縮。毎日続けやすい価格で、たっぷりの軟骨サポート成分を補えます。」(p.35)

(甲1b)
「グルコサミン
ふしぶしの軟骨成分をサポート。
植物由来の高純度グルコサミンをたっぷり1,520mg配合。グルコサミンは年齢とともに減少しますが、スムーズな動きに欠かせない成分です。」(p.35)

(甲1c)
「24種の軟骨構成成分充実配合!
コンドロイチンをはじめ、特殊製法で粉末化した秋鮭のさまざまな軟骨成分を補えます。
その他のサポート成分
黒ショウガエキス
赤ショウガエキス
キャッツクロー
4種のビタミン」(p.35)

[甲2に記載された事項]
甲2は、インターネットアーカイブが保存するウェブサイトを閲覧できるサービスである「Wayback Machine」(ウェイバックマシン)により、平成26年(2014年)9月17日に保存された焼津水産化学工業のウェブサイトである。そして、このウェブサイトには以下の記載がある。

(甲2a)
「N−アセチルグルコサミンは、通常のグルコサミンと比べて、利用される割合が約3倍!※
その秘密は、カラダの中の成分と同じカタチだから!
食品やサプリメントなどで口から摂取した、Nーアセチルグルコサミンや通常のグルコサミン、ヒアルロン酸は、それぞれ体内で吸収され、その後、ひざ関節軟骨、肌、眼球などの体内組織に運ばれて利用されます。この利用される割合が高いほどその効果が期待できます。

N−アセチルグルコサミンはカラダの中の成分と同じカタチなので、利用される割合は通常のグルコサミンよりも約3倍も高く、同じ量を摂取した場合、N−アセチルグルコサミンの方が効率よく利用されます。」

(甲2b)
「N−アセチルグルコサミンは、もともと体内に存在するものと同じで摂取後にそのまま利用することができるため、利用される割合が高い。
通常のグルコサミンは、体内で吸収された後、N−アセチルグルコサミンに変換しなければならないため、利用される割合が低い。」

(甲2c)
「N−アセチルグルコサミンにはさまざまな生理機能がありますが、とくに注目されているのが「変形性ひざ関節症」の痛みを和らげる作用です。
N−アセチルグルコサミンは関節液のヒアルロン酸の成分でもあり、軟骨の摩耗を防ぎ、円滑に関節を動かす重要な成分です。通常は年を取ると軟骨や関節液を作り出す能力が低下し、生合成のスピードが分解に追いつかなくなってしまうのです。それをカバーするには食品などからN−アセチルグルコサミンを積極的に摂取することが望ましいですね。
身近な食品でN−アセチルグルコサミンを含んでいるのは牛乳ですが、100ml当たりわずか11mgと微量であり、一日に摂取目安である500mgを牛乳だけで摂取するには無理があります。ですから補助食品(サプリメント)という形で摂るのが一番の近道です。N−アセチルグルコサミン自体は体内に存在するものですから体内組織との相性もよく、通常のグルコサミンと比較してほのかな甘みがあるため食品として摂るのにとても適しているといえます。
また、N−アセチルグルコサミンの吸収率は、通常のグルコサミンの3倍程度と特に高いですから、量的にも多くを摂らなくてすみ、とくにお年寄りの方々の負担が軽減されると思います。QOL(生活の質)の高い生活を送って頂きたいですね。」

[甲3に記載された事項]
甲3は、平成26年(2014年)に頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(甲3a)
「変形性膝関節症(膝OA)は関節軟骨が年齢とともに弾力性を失い,使い過ぎによりすり減り,関節が変形する疾患である。その患者数は潜在的な患者を含め数千万人と推定されており,わが国の急激な高齢化問題において今後もさらなる増加が予想されている。生体内で関節,皮膚,結合組織などに存在するN−アセチルD−グルコサミン(以下,GlcNAc)について,過去に500mg/日以上経口摂取させた試験で関節痛に対する効果が確認されている。今回,われわれは,より少ないGlcNAc用量の膝関節痛改善効果を検討した。40歳以上の健康な男女を対象に,膝関節に違和感・痛みがある者,また膝OAのKellgren-Lawrence(K-L)分類で0,I,IIと診断された者68名を4群に分け,それぞれGlcNAc300mg/日,GlcNAc500mg/日,D−グルコサミン塩酸塩(以下,GlcN)1,500mg/日とプラセボ1,500mg/日を12週間連続投与させ,無作為化二重盲検並行比較試験を実施した。その結果,日本整形外科学会制定の変形性膝関節症疾患治療成績判定基準(JOAスコア)では,プラセボ群と比較して,摂取12週間においてGlcNAc300mg/日とGlcNAc500mg/日投与群で有意な改善効果がみられた。膝関節痛の自覚症状(VAS)の各項目については,被験食品摂取群において,摂取前に比べて,摂取4,6,8週で有意な自覚症状の改善がみられた。また,軟骨代謝への効果を評価するため,II型コラーゲン分解マーカーCTX-IIおよび合成マーカーCPIIを測定し,CTX-II/CPII比においても,GlcNAc投与群で値の減少する傾向がみられた。」
(p.37の要旨)

(甲3b)
「N−アセチルグルコサミン(以下,GlcNAc)は,グルコースの2位のヒドロキシル基がアセチルアミノ基に置換したアミノ糖であり,生体内で関節,皮膚,結合組織などに存在している。GlcNAcとD−グルクロン酸が交互にβ1-4結合した二糖の繰り返し構造をもつヒアルロン酸は,関節軟骨ではクッションとして,皮膚ではハリに貢献している。現在関節痛改善において大きな市場を持つD−グルコサミン塩酸塩(以下,GlcN)は塩であることによる特有のえぐみと,多くの製剤が1日1,500mg配合であることから,摂取粒数が多くなり,利用者の嚥下時負担が大きいという問題がある。これに対しGlcNAcは,ほのかな甘みを有し,錠剤だけでなく飲料や食品などに幅広く使用することができる。また,GlcNよりも利用効率がよく,少量で効果があるとの報告もあり,GlcNAcはGlcNの問題点を解決することができる食品素材として期待されている。」(p.38左欄4〜21行)

(甲3c)
「以上のように医師による客観的診断によるJOAスコアでは,被験食品摂取群でプラセボ群との間に有意差のある改善効果がみられ,その効果はすでに報告されているGlcNAc500mg/日,GlcN1,500mg/日とともに,GlcNAc300mg/日という比較的低用量摂取群でもみられることが確認された。一方,被験者の主観的な自覚症状であるVASスコアではいわゆるプラセボ効果のあることがわかったが,摂取群ではそれを超える改善効果を示すことわかった。
また今回の試験では,他覚所見,および自覚症状に加えて客観的な指標として,II型コラーゲン代謝マーカーに及ぼす影響を調べた。膝関節痛の症状や効果を表すバイオマーカーは世界で多く検討されており,CTX-II,ヒアルロン酸,COMP,MMPなどがあるが定まったものはいまだにない。長岡ら,Ishijimaらは膝関節痛を表すバイオマーカーとしてII型コラーゲンの代謝マーカーを報告している。また上記報告のなかで,軟骨の代謝がその分解と合成のバランスの上に成立しており,単独の指標よりも分解マカーと合成マーカーの比を指標とするほうに,より合理性があるとしている。すなわち分解マーカーと合成マーカーの比は,II型コラーゲンの合成反応に対する分解反応の相対的な強さを表し分解マーカー/合成マーカーの比が減少した場合は,軟骨分解の相対的抑制,または軟骨合成の相対的亢進を示すものと考えられる。本試験においてCTX-II(分解マーカー)/CPII(合成マーカー)比は,GlcNAc300mg/日摂取群,GlcNAc500mg/日摂取群で摂取前に比べて減少し,プラセボ摂取群では増加した。またGlcNAc300mg/日摂取群では,t検定において12週でプラセボ摂取群の間に有意傾向(p=0.13)がみられた。個別のマーカーでは,CTX-IIにおいて,GlcNAc300mg/日摂取群,GlcNAc500mg/日摂取群で摂取前に比べて減少し,プラセボ摂取群では増加した。またcpIIについては,GlcNAc300mg/日摂取群,GlcNAc500mg/日摂取群で摂取前に比べて増加し,プラセボ摂取群では減少した。この結果により,GlcNAc300mg/日以上の摂取によりII型コラーゲンの代謝が改善される可能性が示唆された。
これらのことより,GlcNAcは300mg/日および500mg/日の摂取用量で膝関節痛の改善効果をもつこと,そしてこの効果はGlcN1,500mg/日と同等またはそれ以上のものであることが示唆された。また,GlcNAc摂取によりII型コラーゲンの代謝が改善される可能性が示唆された。」(p.42左欄下から10行〜右欄最下行)

[甲4に記載された事項]
甲4号証は、平成15年(2003年)3月10日に頒布された刊行物であり、以下の記載がある。

(甲4a)
「天然型N−アセチルグルコサミン含有ミルクの、変形性膝関節症に対する有効性および安全性をプラセボを対照とした二重盲検・並行群間比較によって検討した。変形性膝関節症患者に対し、天然型N−アセチルグルコサミンを125mLあたりに1000mg(高用量)または500mg(低用量)を含有する低脂肪乳もしくはプラセボを1日1本(125mL)、8週間投与し、4週毎に診察を行って膝疾患治療判定基準により変形性膝関節症の改善度を確認した。
その結果、天然型N−アセチルグルコサミン含有ミルクを投与することにより、膝疾患治療判定基準の成績が向上し、最終的に疼痛・階段昇降能、圧痛において有意に改善した。
また、その有効性は含有する天然型N−アセチルグルコサミンの用量と投与期間に依存する傾向があることが確認された。」(p.71の要約)

(甲4b)
「グルコサミンおよびグリコサミノグリカンは元々体内で合成されるものであるが、加齢に伴って合成能が低下する。そこでグルコサミン塩酸塩や硫酸塩などのグルコサミン塩類を経口摂取するなどして体外から補充する対処法が考えられ、その有効性が多く報告されている。しかし、グルコサミン塩類は独特の味を有し、pH変化や加熱に対する安定性に問題があるため、剤形がハードカプセルや錠剤などに制限され、その用途が限定されていた。同じグルコサミン類でも、N−アセチルグルコサミンは、グルコサミン塩類に比べ化学的に安定で、良質の甘味を有することから医薬品や食品に幅広く使用できる特徴をもつ。最近食品への添加も可能な天然型のN−アセチルグルコサミンが量的に工業生産されるようになり、グルコサミン塩類と同様に医薬品や食品への応用がなされてきている。」(p.72左欄2〜19行)

(甲4c)
「筆者らの研究において、グルコサミン塩酸塩1500mgおよび1000mg/日の経口投与試験において変形性膝関節症の諸症状に著明な改善効果をもたらし、さらにその改善効果が8週間にわたって持続してみられたことを報告しており、単に痛みの除去など対症療法的な効果ではなく関節軟骨の修復作用によるものであることが示唆されている。
一方、N−アセチルグルコサミンも標識放射性同位体を用いたラットによる体内動態試験の結果、経口投与後速やかに血中移行され、その一部は結合組織や軟骨組織等のグリコサミノグリカンの生合成に利用されていることが認められており、グルコサミン塩酸塩と同様に変形性関節症の改善効果が期待されているが、これまで臨床試験報告はほとんどなかった。
今回の試験でも、グルコサミン塩酸塩と同様に投与期間を8週間とした。結果に示されたようにN−アセチルグルコサミン高含有ミルクおよび低含有ミルク投与群のいずれにおいても、投与開始4週後より改善効果が確認されたが、投与後8週後の方がさらに改善度が高かった。
この結果はN−アセチルグルコサミン含有ミルクが変形性膝関節症に対し、即効的な作用だけでなく持続的で長期的な作用も持つことを示していた。
また、高用量投与(1000mg/日)と低用量投与(500mg/日)の投与用量の違いによる比較では、治療成績判定基準値評点においては統計的に有意である明確な差はなかったものの、「疼痛・階段歩行能」および「圧痛」の比較的強い負荷をかけた場合の痛みに関する改善率については、明らかに高用量の方が優れており、今回採用した用量の範囲内における用量依存性が示唆された。グルコサミン塩酸塩の変形性膝関節症改善有効量に関しては、戸田らの報告によると非ステロイド系消炎鎮痛剤とグルコサミン塩酸塩1007mg/日を同時投与した場合、非ステロイド系消炎鎮痛剤単独投与に比べて改善率(Lequesneの重傷度指数)に差はなかったとしているが、今回の研究においては500mg/日投与においても前述のように改善効果が確認された。一方、前報で筆者らが採用したレモン果汁ドリンク剤に比べて、本試験ではややプラセボの効果が高い傾向がみられた。これは、筋・骨格系を形成し関節症の予防の一助となるカルシウムやタンパク質を多く含むミルクを長期投与したことが何らかの効果を及ぼしたことが考えられ、変形性関節症に対するN−アセチルグルコサミンおよびカルシウムなどの変形性関節症に有効と考えられるその他の成分との治療・予防効果に対する相乗効果に関しては今後の研究課題である。」(p.75右欄下から3行〜p.79左欄下から2行)

[甲5に記載された事項]
甲5は、平成15年(2003年)3月19日に公開された特許文献であり、以下の事項が記載されている。

(甲5a)
「【請求項1】 グルコサミン、その誘導体またはそれらの薬理学的に許容される塩の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するマトリックスメタロプロテアーゼ13発現抑制剤。」(【請求項1】)

(甲5b)
「【0002】
【従来の技術】MMPは、活性中心に金属イオンを有する一群のタンパク分解酵素の総称であり、軟骨などの結合組織の分解及び再構築に関与し、関節軟骨破壊の中心的役割を担っている。MMPは、現在までにヒトで数多くのMMPが同定され(Biol.Chem.378,151ー160,1997)、基質特異性の違いから、コラゲナーゼ群、ゼラチナーゼ群、ストロメライシン群、膜型を含むその他の群の4つの群に大別される。そして、MMPが蛋白質(コラーゲン、ゼラチン、糖蛋白質等)を分解することによって軟骨関節破壊に関与することが知られている
【0003】正常軟骨組織では、軟骨細胞からの細胞外基質の産生と、上述のようなMMPによる関節軟骨破壊の均衡が保たれているが、これには、MMP前駆体の産生やその活性化、MMP阻害因子の産生、軟骨細胞からの蛋白質の合成調節といったさまざまな体内調節機構が働いている。しかし、関節疾患においては、感染、自己免疫不全または代謝異常等の様々な原因によって、この平衡のバランスが崩れ、分解因子であるMMPの活性が相対的に強くなり、徐々に関節破壊、すなわち関節の変形が進行していく。そして、通常、関節軟骨の破壊が生じている関節には炎症反応が起こっているので、各種炎症性サイトカイン刺激により、MMP産生が促進され、反対にMMP阻害因子の発現は抑制される結果、関節軟骨の破壊を更に進行させてしまう。【0004】ところで、MMP群のうち、MMP13は、1994年にFreije, J. M.等によって乳ガン組織に見出されたMMPであるが(J. Biol. Chem. 269,16766-16773 ,1994)、変形性関節症(以下、OAということもある。)の軟骨細胞からも産生され(J. Clin. Invest. 97,2011-2019,1996)、MMP群のなかで最も強力なタイプIIコラーゲン分解能を有すること、及びIL−1,TNF等のサイトカインで活性化したヒト軟骨培養細胞から大量に発現されることが知られている。
【0005】 このように、MMP13は関節軟骨を構成する蛋白質の大半を占めるコラーゲンを最も強力に分解することに加えて、炎症状態の関節軟骨における分解にも関わっているため、変形性関節症の関節軟骨破壊に中心的役割を担うMMPであることが示唆されている(ArthritisRheum.44,585-594,2001)。したがって、最も強力なタイプIIコラーゲン分解能を有するMMP13の発現阻害剤は、関節疾患なかでも関節の変形を伴う関節疾患の予防または治療に有用であることが推察される。」(【0002】〜【0005】)

(甲5c)
「【0012】
本発明のグルコサミンの誘導体としては、例えば、N−アセチルグルコサミンのような誘導体が例示できる。グルコサミン誘導体は体内において、グルコサミンに変化しうる化合物であるグルコサミンのアセチル誘導体であるN−アセチルグルコサミンが好ましい。」(【0012】)

(甲5d)
「【0020】
【発明の効果】グルコサミン、その誘導体またはそれらの塩は、MMP13発現抑制作用、TIMP2発現促進作用を有している。従って、グルコサミン、その誘導体またはそれらの塩を含有する製剤は、MMP13発現抑制剤またはTIMP2発現促進剤として有用である。さらに、グルコサミン、その誘導体またはそれらの塩は、MMP13発現抑制作用及びTIMP発現促進作用をあわせもっているため、関節軟骨の破壊を抑制する顕著な効果を発揮でき、優れた関節疾患の予防治療剤を提供することができる。MMP13はコラゲナーゼ活性が強く、一方TIMP2はゼラチナーゼ阻害活性が強く、かつ細胞増殖因子でもあることから、グルコサミン、その誘導体またはそれらの塩を含有するグルコサミン製剤は、関節軟骨の破壊を多面的に抑制することが可能となることから、増強された関節疾患の治療または予防効果を発揮することができる。」(【0020】)

(甲5e)
「【0027】試験例2 塩酸グルコサミンのインターロイキン1(IL−1)刺激軟骨細胞におけるMMP13発現への影響
手術治療が必要な変形性関節症患者から、十分なインフォームドコンセントを行った後、切除破棄すべき軟骨組織を採取し、以下の実験を行った。採取した軟骨を、ハサミで細切し、0.1%コラゲナーゼ(Sigma社製)Dulbeco's modification of Eagle's medium (DMEM )溶液中で37℃、一晩、振蕩処理を行った。酵素処理の後、100μmストレーナーで濾過し、軟骨細胞を10 %牛胎児血清を含まないDulbeco's modification of Eagle's medium (DMEM )中に懸濁し、2 ×10 5 cells/well の密度で24穴プレートに播種した。培養液を交換しながら細胞がコンフルーエントになるまで培養し、刺激実験を行った。播種時に各ウエルには、IL−1(5ng/ml )および塩酸を所定濃度(1ng/ml、10ng/ml)で添加し、48時間後に培養上清を回収し、培養上清中のMMP13発現量を市販のキット(MMP−13測定用キット、富士薬品製)を用いて測定した。対照は、IL−1(5ng/ml )のみを添加し、塩酸グルコサミンは無添加とした。同様な実験を3組行い、MMP13発現量の平均値を算出した。その結果を[図2]に示す。[図2]において、対照とは、塩酸グルコサミンを添加していない場合を示し、塩酸グルコサミンをGluと示す。
【0028】試験例2の結果から、関節軟骨細胞において、塩酸グルコサミンはMMP13の発現促進作用を示し、軟骨破壊を抑制する効果があり、関節疾患の予防または治療に有用であることが示された。さらに、インターロイキン1(IL-1)の存在下で塩酸グルコサミンの添加によってMMP13発現量が減少することから、インターロイキン1などの各種サイトカインが活性化している炎症状態の関節疾患においても、優れた治療効果を発揮できることが確認された。さらに、試験例1の結果をあわせ考えると、グルコサミン、その誘導体またはそれらの塩が、MMP13とTIMP2という関節軟骨での作用が相異なる2つの因子の発現量に影響を与えることが示されたことによって、関節疾患を多面的に治療することが可能となり、優れた関節疾患の治療効果が得られることが確認された。」(【0027】〜【0028】)

[甲6に記載された事項]
甲6は、本件特許出願日前の平成23年(2011年)に頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

あり、以下の事項が記載されている。

(甲6a)
「背景:N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)及びその誘導体は、その特有の性質から、サプリメントや治療用途に利用されている。GlcNAcは主として、表皮及び真皮の細胞外マトリックスの構造及び保湿において重要な役割を果たすヒアルロン酸の前駆体としての機能が知られていた。
目的:ヒト不死化皮膚線維芽細胞(HS68)に対するGlcNAcのUVBダメージからの保護効果を調べた。次に、UVB誘発性コラゲナーゼに対するGlcNAcの阻害効果及びそれらの効果の分子メカニズムを調べた。
方法:これらの効果は、半定量PCR、ウェスタンプロッティング、及び酵素活性アッセイによって評価した。
結果:G1cNAcは、UVBに曝露されたHS68細胞の生存率を高め、ROS産生を阻害した。HS68細胞をGlcNAcで前処理すると、UVBが誘導するコラゲナーゼMMP-1及びMMP-13の産生を阻害した。さらにウェスタンブロット分析により、GlcNAcがUVBに曝露されたHS68細胞におけるコラーゲン分解の増強を著しく抑制することが明らかとなった。GlcNAcはUVBによるc-Jun、c-Fos、NF-κBの活性化と、AP-1及びNF-κBの上流モジュレーターであるMAPK及びP13K/Aktのリン酸化を抑制した。さらに、GlcNAcはUVBに誘発されたCa2+のHS68細胞への流入及びCa2+/カルモジュリン依存性キナーゼ(CaMKs)のリン酸化を減少させた。
結論:この結果は、GlcNAcがUVBによって誘発されるコラーゲン分解性MMP産生を、Ca2+依存性Akt、MAPKs/AP-1及びNF-κBシグナル伝達を妨害することにより阻害することを示唆する。したがって、それらは皮膚の光老化の予防と治療に有用である可能性がある。」(p.93のSUMMARY)

(甲6b)
「3.2. GlcNAcのUVB刺激によるMMP-1及びMMP-13の産生及びHS68細胞におけるコラーゲン分解に対する阻害作用
HS68細胞におけるMMP-1及びMMP-13の発現に対するGlcNAcの効果を調べるために、細胞にUVB(600mJ/cm2)を照射し、MMP-1およびMMP-13のmRNA発現と酵素活性を半定量RT-PCR又はリアルタイムPCRと、MMPアッセイキットを使用して測定した。図2A-Eに示すように、GlcNAcはUVB誘発性のMMP-1及びMMP-13のmRNAの発現と酵素活性を著しく阻害した。これは転写機構によりMMP-1及びMMP-13の産生を阻害する可能性があることを示唆している。次に、抗I型コラーゲン抗体を用いたウェスタンブロッティングにより、GlcNAcがUVBにより誘発したコラーゲンレベルの低下を防止するか確認した。図2Fに示すように、GlcNAcはUVBにより誘発したI型コラーゲンの発現の減少を防止した。これらにより、我々のデータは、GlcNAcが、UVBによりMMP-1及びMMP-13の発現を低下させることを防ぐことを示唆している。さらにGlcNAcは、UVBによって減少したI型プロコラーゲンの発現を増強し、用量依存的に照射によるコラーゲン分解を抑制すると考えられる。」(p.96右欄の「3.2.」の項目)

[甲7に記載された事項]
甲7は、Wayback Machineにより、平成26年(2014年)10月16日に保存された健康EXPOのウェブサイトであり、以下の事項が記載されている。

(甲7a)
「ブラックジンジャーは、日本では黒ショウガ(黒ウコン)とも呼ばれ、タイ名は、クラチャイダムという。タイでは、膝や腰の関節痛時に根茎部を煎じて飲まれ、古くから健康食として活用されてきた。そのルーツはショウガ科の植物だが、いわゆる生姜とは一線を画す。」(p.1)

(甲7b)
「プロダクトチャンピオンには12種類のタイハーブが選定されておりますが、その中でもブラックジンジャーはタイでの食経験が豊富だということで注目をしました。特にタイ北部では腰や膝などの関節痛緩和目的で食されているという実績のある非常に面白い素材であり、何か新しい作用があるのではないかと考え開発を始めました。」(p.3)

(甲7c)
「ダイエット食品としてはもちろんのこと、タイでは関節痛緩和に用いられていることなどから今後さらに新しい分野での可能性も考えられます。」(p.3)

[甲8に記載された事項]
甲8は、平成24年(2012年)4月1日に日本学術振興会のウエプサイトで公開された科学研究費助成事業(科学研究費補助金)研究成果報告書であり、以下の事項が記載されている。

(甲8a)
「炎症性サイトカインとして知られているTNF-αの感受性を低減することにより、TNF-αの過剰産生により惹起される各種臓器障害や炎症反応などの種々の生体内イベントを軽減あるいは調節できる天然由来低分子化合物を探索することを目的とし、各種薬用資源素材抽出エキスについてTNF-α高感受性株であるL929細胞を用いたTNF-α誘発細胞障害抑制活性試験を実施した。その結果、数種のタイ天然薬物(Piper chaba果実、Sapindus rarak果皮、Kaempferia parviflora根茎、Shorea roxburghii樹皮、Mammea siamansis花部)やカンカニクジュヨウ(Cistanche tubulosa肉質茎)などから種々の活性寄与成分を明らかにするとともに、GalN/LPS誘発肝障害モデルマウスを用いたin vivo肝保護作用試験を検討するとともに、それらの活性発現の必須構造、構造活性相関および作用メカニズム解析を実施した。」(p.1の「研究成果の概要(和文)」)
(当審合議体注:「Kaempferia parviflora根茎」は黒生姜の根茎である。要すれば、「日本地域薬局薬学会誌,2014年6月20日発行,第2巻・第1号,p.15〜p.23の『Kaempferia parviflora(“黒ショウガ”)の機能性に関する研究』,<URL>http://www.jscp.info/journal/book.html,http://www.jscp.info/journal/img/pdf05.pdf」を参照。)

(甲8b)
「TNF-α(tumor necrosisfactor-α:腫瘍壊死因子)は、当初、腫瘍部位に出血性壊死を誘導する因子として発見されたが、その歴史的経緯とは別に、近年では炎症を通した生体防御機構に広く関わるサイトカインとして理解されるようになった。生体防御機構において重要な働きを担っているTNF-αであるが、その持続的かつ過剰な産生や、不適切な場所や時間での産生は、組織障害を引き起こしたり、慢性関節リウマチ、クローン病や糖尿病におけるインスリン抵抗性などの原因や増悪をもたらすことが知られている。従来、このTNF-αの過剰な産生や遊離を抑制する機能分子の探索が広く実施されてきたが、近年、TNF-αに対する抗ヒトTNF-αモノクローナル抗体製剤が関節リウマチ、クローン病などの治療を目的に臨床で使用されている。」(p.1左欄最下行〜p.2左欄14行)

(甲8c)
「タイ天然薬物Kaempferia parviflora根茎に含有されるメトキシフラボノイド化合物にマウス初代培養肝細胞を用いたGalN誘発細胞障害抑制活性を見いだした。」(p.3左欄9〜12行)

[甲9に記載された事項]
甲9は、平成21年(2009年)3月12日に頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(甲9a)
「【請求項1】
ブラックジンジャーの抽出物を含有することを特徴とする抗酸化剤。
【請求項2】
スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)様作用、一重項酸素による膜脂質の過酸化抑制作用、過酸化水素消去作用、及びラジカル消去作用の少なくともいずれかを有する請求項1に記載の抗酸化剤。」(請求項1〜2)
(当審合議体注:「ブラックジンジャーの抽出物」は黒生姜の抽出物である。)


(甲9b)
「【0002】
近年、生体成分を酸化させる要因として、活性酸素が注目されており、その生体への悪影響が問題となっている。活性酸素は、生体細胞内のエネルギー代謝過程で生じるものであり、スーパーオキサイド〔即ち、酸素分子の一電子還元で生じるスーパーオキシドアニオン(・O2−)、過酸化水素(H2O2)、一重項酸素(1O2)、ヒドロキシラジカル(・OH)〕等がある。このような活性酸素は食細胞の殺菌機構にとって必須であり、ウイルスや癌細胞の除去に重要な働きを果たしている。
しかし、前記活性酸素の過剰な生成は生体内の膜及び組織を構成する生体内分子を攻撃し、各種疾患を誘発する。生体内で生産され、他の活性酸素の出発物質ともなっているスーパーオキサイドは、通常、細胞内に含まれているスーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)の触媒作用により逐次消去されている。しかし、スーパーオキサイドの産生が過剰な場合、あるいはSODの作用が低下している場合には、スーパーオキサイドの消去が不十分になってスーパーオキサイド濃度が高くなる。このことが、関節リウマチ、ベーチェット病等の組織障害、心筋梗塞、脳卒中、白内障、シミ、ソバカス、しわ、糖尿病、動脈硬化、肩凝り、冷え性、皮膚の老化などを起こす原因の一つであると考えられている。」(【0002】の第1〜2段落)

(甲9c)
「【0047】
(製造例1)
−ブラックジンジャーの水抽出物の製造−
抽出原料としてブラックジンジャーの根茎部の粉砕物100gを、水1,000mLに投入し、穏やかに攪拌しながら2時間、80℃に保った後、濾過した。濾液を40℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。得られた抽出物の収率を表1に示す。
【0048】
(製造例2)
−ブラックジンジャーの50質量%エタノール抽出物の製造−
抽出原料としてブラックジンジャーの根茎部の粉砕物100gを、50質量%エタノール(水とエタノールとの質量比1:1)1,000mLに投入し、穏やかに攪拌しながら2時間、80℃に保った後、濾過した。濾液を40℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。得られた抽出物の収率を表1に示す。
【0049】
(製造例3)
−ブラックジンジャーのエタノール抽出物の製造−
抽出原料としてブラックジンジャーの根茎部の粉砕物100gを、エタノール1,000mLに投入し、穏やかに攪拌しながら2時間、80℃に保った後、濾過した。濾液を40℃で減圧下に濃縮し、更に減圧乾燥機で乾燥して、抽出物(粉末状)を得た。得られた抽出物の収率を表1に示す。
【0050】
【表1】

」(【0047】〜【0050】)

(甲9d)
「【0051】
(実施例1)
−スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)様作用試験−
製造例1〜3の各抽出物を試料として用い、下記の試験法によりスーパーオキサイド消去作用を試験した。
試験管に0.05mol/Lの炭酸水素ナトリウム緩衝液(pH10.2)2.4mL、2mmol/Lのキサンチン0.1mL、3mmol/LのEDTAを0.1mL、50μg/mLのウシ血清アルブミン(BSA)0.1mL、及び0.75mmol/Lのニトロブルーテトラゾリウム0.1mLを加えた。これに各試料溶液0.1mLを添加し、25℃で10分間放置した。
次に、キサンチンオキシダーゼ溶液0.1mLを加え、素早く攪拌し、25℃で20分間反応した。その後、6mmol/Lの塩化銅0.1mLを加えて反応を停止させ、波長560nmにおける吸光度を測定した。同様の方法で空試験を行い補正した。
測定した各吸光度より、下記数式1によりスーパーオキサイド消去率を求めた。
<数式1>
スーパーオキサイド消去率(%)=
{1−(St−Sb)/(Ct−Cb)}×100
ただし、前記数式1中、Stは試料溶液の波長560nmにおける吸光度、Sbは試料溶液ブランクの波長560nmにおける吸光度、Ctはコントロール溶液の波長560nmにおける吸光度、Cbはコントロール溶液ブランクの波長560nmにおける吸光度、をそれぞれ表す。
【0052】
次に、試料濃度を段階的に減少させて上記スーパーオキサイド消去率の測定を行い、スーパーオキサイドの消去率が50%になる試料濃度(μg/mL)を内挿法により求めた。結果を表2に示す。
【0053】
【表2】

表2の結果から、製造例1〜3のブラックジンジャーの抽出物が、高いスーパーオキサイド消去作用を有し、SOD様作用を有することが確認できた。」(【0051】〜【0053】)

[甲10に記載された事項]
甲10は、平成26年(2014年)に頒布された刊行物であり、以下の事項が記載されている。

(甲10a)
「背景
慢性的な皮膚の紫外線(UV)への曝露は活性酸素種(ROS)を増加させ、c-Jun及びc-Fosの活性化によりマトリックスプロテアーゼ(MMPs)の発現を刺激する。これらのシグナルカスケードは、細胞外マトリックス(ECM)の分解を引き起こし、その結果光老化が生じる。
方法
この研究では、Kaempferia parviflora Wall.ex.Baker(黒生姜)エタノール抽出物のUVBにより誘発された生体内の光老化に対する予防効果をインビボで評価した。K.parviflora抽出物(KPE)による抗光老化効果を調べるために、KPEを経口投与(100又は200mg/kg/day)したヘアレスマウスにUVBを13週間照射した。
結果
UVB対照群と比較すると、KPEはしわの形成を顕著に防止し、I、III及びVII型コラーゲンコラーゲン遺伝子(COL1A1、COL3A1、COL7A1を増加させ、コラーゲン繊維の減少を著しく防止した。しわ形成の減少は、UVBが誘発したc-Jun及びc-Fos活性の抑制を介するMMP-2、MMP-3、MMP-9、MMP-13の発現の有意な減少と関連していた。KPEはまた皮膚で抗酸化酵素として機能するカタラーゼの発現を促進した。さらにKPE処理より、nuclear factor kappaB(NF-κB)、interleukin-1β(IL-1β)及びcyclooxygenase-2(COX-2)などの炎症性メディエーターの発現が抑制された。
結論
この結果から、KPEの経口摂取により、UVBによるヘアレスマウスの光老化を有意に防止し、天然の抗光老化成分としての可能性が示唆された。」
(p.237頁、SUMMARY)

(甲10b)
「KPEの調製
K.parviforaの根茎はタイのパンコクで収集された。韓国ソウルの延世大学のバイオテクノロジー部門に証拠標本を寄託した。乾燥した根茎を粉砕し、95%エタノールに室温で24時間浸漬した。K.parviforaのろ液をロータリーエバポレータ(Heidolph instruments GmbH&CO.KG.,ドイツ,シュヴァーバッハ)により減圧下で濃縮し、K.parviforaの抽出物(KPE)を収率9.56%で得た。」
(p.238右欄第2段落)

(甲10c)
「KPEのUVB誘発コラーゲン分解に対する影響
皮膚の老化において、UV照射によりコラーゲン繊維束の空間密度が減少する。コラーゲンの量は、コラーゲン合成の減少かコラーゲン分解の増加によって減少する。UVB照射によって、UVB対照群では青色で染色された小さい領域で示されるコラーゲン繊維の分解が誘発されたのに対し、KPEはコラーゲン分解を有意に阻害した(図3A)。定量分析の結果も、KPEによるコラーゲン分解防止効果を裏付けるものである(図3B)。I型、III型及びVII型コラーゲンを合成するCOL1A1,COL3A1,COL7A1のmRNAレベルは、KPEによってUVB対照群と比べ有意に増加した(図3C)。この結果はKPBがUVBにより誘発されるコラーゲンの分解を抑制し、コラーゲンの合成を促進することを示唆する。」(p.240右欄第2段落〜p.241左欄第1段落)

(甲10d)
「KPEのUVB誘発MMP発現に対する影響
UV照射はMMP発現を誘発し、皮膚の光老化に関連する様々なECM成分の分解や性状の変化が生じる。KPE処理群におけるMMP-3及びMMP-13のmRNA及びタンパクのレベルは、UVB対照群と比べ有意に減少した(図4A,B)。ゼラチンザイモグラフィー分析により、KPEはまたMMP-2及びMMP-9活性レベルを低下させることが示された(図4C)。これらのデータから、KPEはUVBに誘発されるMMPの発現を有意に低下させることが確認された。」(p.241左欄第2段落)

第5 本件明細書の発明の詳細な説明に記載された事項

本件明細書の発明の詳細な説明(以下「発明の詳細な説明」という。)には、以下の事項が記載されている。なお、下線は当審合議体が付した。

「【技術分野】
【0001】
本発明は、アミノ糖と、フラボノイド類含有植物とを含有する化粧用組成物、美容組成物、関節保護組成物、組成物に関する。
・・・
【0003】
近年研究が進み、シワ形成の原因としては、コラーゲン、エラスチン等の真皮マトリックスの線維減少、変性によるものであることが明らかになってきた。これを誘導する因子として、特にマトリックスメタロプロテアーゼ(和名:マトリックス金属タンパク分解酵素、以下「MMPs」と記す。)の関与が指摘されている。
【0004】
MMPsは、活性部位に亜鉛(II)イオンを保有する細胞外マトリックス分解酵素の総称である。また、MMPsはその構造と基質特異性の違いから、コラゲナーゼ(MMP−1及び13)、ゼラチナーゼ(MMP−2及び9)、ストロメライシン(MMP−3及び10)などのサブファミリーが知られている。このうちMMP−13の主要な基質は、線維状コラーゲン類(I型、II型、III型)およびゼラチン類、プロテオグリカン類、サイトカイン類および細胞外マトリックスの他の構成要素である。
・・・
【0006】
またMMPsによる軟骨の分解は、変形性関節症(退行性骨関節症、肥大性骨関節症などとよばれることもある)に深く関係していることが知られており、特にMMP−13はII型コラーゲン に対して高い分解活性を有し、変形性関節症の軟骨変性に重要な基質分解酵素と考えられている(非特許文献2)。関節等における軟骨細胞では、インターロイキン1ベータ(以下「IL1b」とも記載する)等の各種の炎症性サイトカイニンにより、MMP−13の発現が亢進することが知られている(非特許文献3)。またMMP−13は、関節リウマチ、骨関節炎においても過剰発現されることが知られている。従ってMMP−13の発現を抑制することは、関節の軟骨におけるコラーゲンの減少の防止等の関節保護に有用であり、変形性関節症をはじめとした軟骨コラーゲン分解に関連する疾患の予防及び改善等に有効である。」

「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の通り、様々な素材のMMP−13の発現抑制作用が知られている。
しかしながら、これらの素材による作用は十分に高いものではなく、より一層高いMMP−13の発現抑制作用を奏する技術が求められている。
したがって、本発明の課題は、安全性が高く、効果的にMMP−13の発現を抑制することにより、皮膚の老化防止、関節保護等に有効な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
・・・
本発明はアミノ糖と、フラボノイド類含有植物とを含有する関節保護組成物を提供するものである。
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性が高く、効果的にMMP−13の発現を抑制することにより、皮膚の老化防止作用や関節保護作用から選ばれる少なくとも1の作用に有効な組成物が得られる。また本発明の組成物は、関節痛や関節の可動域の制限を防止することにより、身体のバランス能力、体力や移動能力の低下といったロコモティブシンドローム(運動器機能症候群)の予防及び防止に寄与し得る。」

「【0015】
(アミノ糖)
本発明でいうアミノ糖とは、糖のヒドロキシル基がアミノ基で置換された構造を有する化合物及びその誘導体ならびにこれらの塩を意味する。本発明で用いるアミノ糖は、フラボノイド類含有植物(後述)と組み合わせてなる組成物としての状態で、ヒトを含む哺乳類に適用したときに本発明の課題を解決する効果を発揮する限り、化学構造、純度、性状や調製方法は特定のものに限定されない。・・・特に本発明の効果を高めるために、グルコサミン類の中でも、グルコサミンのアシル化誘導体が好ましく、N−アセチルグルコサミン(C8H15NO6)がとりわけ好ましい。・・・。」

「【0019】
本発明で用いるフラボノイド類含有植物としては、例えば、フラバン類を含有するものとして黒生姜、ウンシュウミカンなどの柑橘類等が挙げられ、フラボノール類を含有するものとして、オオイタドリ、イチョウ等が挙げられ、フラバノール類を含有するものとして、茶等が挙げられ、プロアントシアニジン類を含有するものとして、松、ブドウ、リンゴ、クランベリー等が挙げられる。本発明の組成物は、これらのフラボノイド類含有植物のうち1種のみを含有していてもよく、2種以上を混合して含有していてもよい。本発明では、フラボノイド類含有植物として、とりわけ、松、黒生姜及びオオイタドリから選ばれる1種以上を用いることが好ましい。以下これら好ましい素材について説明する。
・・・
【0041】
(黒生姜)
本発明で用いられる黒生姜(Kaempferia Parviflora)とは東南アジアに自生するショウガ科、バンウコン属の植物であり、精力増進、滋養強壮、血糖値の低下、体力回復、消化器系の改善、膣帯下、痔核、痔疾、むかつき、口内炎、関節痛、胃痛の改善等の報告がある。このように、黒生姜は、長期にわたり人間に摂取されてきた実績のある天然植物であって安全性が高い。
【0042】
本発明で用いられる黒生姜の使用部位としては、根、葉、茎、花又は枝等が挙げられる。なかでも、好ましいのは、根茎である。
・・・
【0044】
黒生姜の抽出物は、黒生姜又はその加工物を溶媒で抽出することによって得られる。・・・抽出に使用される溶媒としては、エタノール、メタノール、イソプロパノール、ブタノール等の低級アルコール、酢酸エチル、酢酸メチル等の低級エステル、アセトン、及びこれらと水との混合溶媒が挙げられる。水のみで行うことも有効である。中でも、水単独又はエタノール単独、若しくは水とエタノールとの混合溶媒(いわゆる含水エタノール)を使用するのが好ましい。含水エタノールを用いる場合、含水エタノール中のエタノール濃度は20質量%以上80質量%以下の濃度であることが好ましく、40質量%以上60質量%以下の濃度であることがより好ましい。」

「【0068】
本発明の組成物は、天然物由来で安全に非経口摂取及び/又は経口摂取できるのみならず、後述する実施例の記載から明らかな通り、アミノ糖とフラボノイド類含有植物とを含有することにより、MMP−13遺伝子発現の抑制作用を得ることができる。特に本発明の組成物は、これを非経口摂取及び/又は経口摂取することにより、種々の組織や細胞におけるMMP−13の産生を抑制することができる。・・・また本発明の組成物は、関節等の軟骨細胞におけるMMP−13の産生を抑制することで、関節の軟骨におけるコラーゲンの減少等の関節保護に有用であり、変形性関節症、関節リウマチ、骨関節炎等の軟骨コラーゲン分解に関連する疾患の予防及び改善に有効である。本発明の組成物は、これらの作用のいずれか1種又は2種以上を奏することができる化粧用組成物、経口用組成物として有用であり、またこれらの作用のいずれか1種又は2種以上を奏することができることにより、美容組成物、関節保護組成物等として有用である。
【0069】
特に、本発明の組成物はMMP−13の発現の抑制を通じて、軟骨コラーゲンの分解を抑制することにより、関節等における軟骨を保護して健全な状態を保つのに役立つ。軟骨の保護は、関節痛を予防及び改善し、関節可動域の制限を防止して関節をスムーズに動きやすくすることに繋がる。関節の痛みや可動域の制限は、バランス能力、体力、移動能力の低下をきたすとされ、いわゆるロコモティブシンドローム(運動器機能症候群)の原因となる。したがって、本願発明の組成物は、関節痛及び関節可動域の制限に伴うロコモティブシンドローム(運動器機能症候群)を予防及び防止し、バランス能力、体力、移動能力の低下を防止して、姿勢維持(背中が丸まってしまうことの防止)や、筋肉を柔軟で若々しく保つことに寄与し得る。」

「【0072】
<試験液の調製I>
(1)の液として、10%FBS−DMEM培地を用いた。
(2)アミノ糖含有液
アミノ糖として、N−アセチルグルコサミン(ナカライテスク社製、以下「NAG」とも略記する。)を用いた。これを10mg/mL濃度となるよう10%FBS−DMEM培地に溶解し、1.5時間転倒撹拌した後、フィルタリングしたものを、更に同培地により段階希釈して、NAGを目的とする最終濃度(下記表1参照)の3倍及び6倍の濃度で含有する10%FBS−DMEM培地をそれぞれ作成した。
・・・
【0080】
〔実施例2、比較例3及び4、並びに参考例5及び6〕
下記の<試験液の調製II>の通りに各種(i)−(iv)の液を調製し、得られた試験液を、下記の<MMP−13発現試験II>に供した。
【0081】
<試験液の調製II>
(i)の液として、10%FBS−DMEM培地を用いた。
(ii)アミノ糖含有液
<試験液の調製I>における(2)において、調製したアミノ糖含有液の濃度を、目的とする最終濃度(下記表2参照)の4倍の濃度とした以外は、<試験液の調製I>の(2)と同様にした。
(iii)黒生姜含有液
黒生姜として下記の<黒生姜エキスの製造方法>により製造した粉末状のエキス(以下、「BG」ともいう、)を用いた。得られた粉末状のエキスを10mg/mL濃度となるよう10%FBS−DMEM培地に溶解し、1.5時間転倒撹拌した後、フィルタリングしたものを、更に同培地により段階希釈して、黒生姜エキスを、目的とする最終濃度(下記表2参照)の4倍の濃度で含有する10%FBS−DMEM培地を作成した。
(iv)発現誘導剤含有液
<試験液の調製I>における(4)において、10%FBS−DMEM10mLに対してIL1b原液(10μg/mL)を2.67μL添加して調製した以外は、該(4)と同様とした。
【0082】
(黒生姜エキスの製造方法)
黒生姜の根茎を細片化した後乾燥してチップ状の根茎を得た。この根茎チップ300gを秤量し、60%含水エタノール3Lとともに3角フラスコに入れる。途中で何回か攪拌しながら室温で24時間静置する。減圧濾過後、残ったチップに60%含水エタノール3Lに再度浸漬して、室温で24時間静置して抽出を行う。これを減圧濾過して、2回目の抽出液を得た。前記1回目、2回目の抽出液を併せ、これを約1/6の体積に減圧濃縮して原液とした。得られた原液を乾燥させて粉末状のエキスを得た。得られたエキス中の5,7-dimethoxyflavoneの含有量は6質量%であった。
【0083】
<MMP−13発現試験II>
上記の(1)−(4)の液を添加する代わりに、正常ヒト関節軟骨細胞に下記の表2の量で上記(i)、(ii)、(iii)及び(iv)の各液をこの記載順で添加したほかは、<MMP−13発現試験I>と同様にして、遺伝子発現値を得た。実施例2、比較例3及び4、参考例3の遺伝子発現値について、参考例4の発現値の平均値を1としたときの割合を、遺伝子発現の相対値として求めた。得られた相対値の平均値を、図2に示す。
【0084】
【表2】

【0085】
図2に示す結果から明らかな通り、アミノ糖と黒生姜とを組み合わせた実施例2は、IL1bの添加により誘導されたMMP−13の遺伝子発現を有意に抑制した。これに対して、アミノ糖と黒生姜とをそれぞれ単独で配合した比較例3及び4では、有意な抑制作用は見られなかった。この結果から、アミノ糖と黒生姜とを組み合わせることにより、本発明の組成物が、優れたMMP−13発現抑制作用を奏することは明らかである。そして、本発明の組成物が、このMMP−13発現抑制を通じて、軟骨や皮膚等各種の結合組織におけるコラーゲンの蓄積量の減少を有効に防止でき、美容や関節保護等に有効であることも明らかである。」
(当審合議体注:実施例2で用いられた「アミノ糖」は、<試験液の調製I>の(2)で用いられた「N−アセチルグルコサミン(ナカライテスク社製、以下「NAG」とも略記する。)」(【0072】)である。)

「【図2】

【図2】 図2は、実施例2及び比較例3及び4のサンプルによるMMP−13遺伝子発現抑制作用を評価した結果を示すグラフである。」(【図2】及び【図2】の説明)

第6 申立理由1の1(甲1を主引用例とする進歩性欠如)について

申立理由1の1の概要は、本件発明1は、甲1発明と甲2〜4に記載された発明に基づき当業者が容易に想到できたものであり、進歩性を有さない、というものである(申立書p.19〜21のウ)。
そこで、当該申立理由1の1について検討する。

1 甲1に記載された発明
甲1には、「GCCグルコサミン・コンドロイチン滑らかバランス」という名称で、「はぴねすくらぶ」の会員向けに販売されている、グルコサミン及びコンドロイチンを含む組成物(甲1a)が記載されている。
そして、甲1の「たっぷり軟骨成分」(甲1a)、「グルコサミン ふしぶしの軟骨成分をサポート・・・グルコサミンは年齢とともに減少しますが、スムーズな動きに欠かせない成分です。」(甲1b)、及び「24種の軟骨構成成分充実配合! コンドロイチンをはじめ、特殊製法で粉末化した秋鮭のさまざまな軟骨成分を補えます。」(甲1c)という記載から、上記組成物は、グルコサミン及びコンドロイチンを含む24種の軟骨構成成分が配合された、軟骨構成成分を補うための組成物であるといえる。
さらに、甲1には、その他の成分として黒ショウガエキス、赤ショウガエキス、キャッツクロー及び4種のビタミンを含むこと(甲1c)が記載されている。
以上の記載から、甲1には、次のとおりの発明が記載されていると認められる。
「グルコサミン及びコンドロイチン含む24種の軟骨構成成分、並びにその他の成分として黒ショウガエキス、赤ショウガエキス、キャッツクロー及び4種のビタミンを含有する、軟骨構成成分を補うための組成物」(以下「甲1発明」という。)

2 本件発明1と甲1発明との対比

甲1発明の「黒ショウガエキス」は黒生姜の抽出物である。
そして、軟骨構成成分を補うことにより、関節若しくは軟骨の保護又は維持が促進されることが期待できるといえるので、甲1発明の「軟骨構成成分を補うための」という用途は、本件発明1の「関節若しくは軟骨の保護用又は維持用」という用途に相当する。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、「黒生姜の抽出物を含有する、関節若しくは軟骨の保護用又は維持用の組成物。」である点で一致し、以下の点で相違する。

(相違点1)
本件発明1では、黒生姜の抽出物が「黒生姜の根茎の水、エタノール又は含水エタノール抽出物」であることが特定されているのに対し、甲1発明では上記のような特定がされていない点。

(相違点2)
本件発明1は、黒生姜の抽出物と「N−アセチルグルコサミン」とを組み合わせて含有するのに対し、甲1発明は、黒生姜の抽出物(黒ショウガエキス)と「グルコサミン」とを組み合わせて含有する点。

相違点の判断

(1)相違点1について

黒生姜の根茎から、抽出溶媒として水、エタノール又は含水エタノールを用いて黒生姜の抽出物を調製することは、甲7(甲7a)、甲8(甲8a)、甲9(甲9c)及び甲10(甲10a)に記載されるように、本件特許の原出願日当時の周知技術(以下「周知技術」という。)である。
よって、甲1発明の黒生姜の抽出物を、黒生姜の水、エタノール又は含水エタノール抽出物にすることは、単なる周知技術を適用したものに過ぎない。

(2)相違点2について

ア 本件発明1における「N−アセチルグルコサミン」及び「黒生姜」は、発明の詳細な説明(上記第5)に記載されるように、それぞれアミノ糖(【0015】)及びフラボノイド類含有植物(【0019】、【0041】〜【0044】)に相当する。
そして、発明の詳細な説明(上記第5)には、「本発明によれば、安全性が高く、効果的にMMP−13の発現を抑制することにより、皮膚の老化防止作用や関節保護作用から選ばれる少なくとも1の作用に有効な組成物が得られる。」(【0012】)、「本発明で用いるアミノ糖は、フラボノイド類含有植物(後述)と組み合わせてなる組成物としての状態で、ヒトを含む哺乳類に適用したときに本発明の課題を解決する効果を発揮する」(【0015】)、及び「アミノ糖とフラボノイド類含有植物とを含有することにより、MMP−13遺伝子発現の抑制作用を得ることができる」(【0068】)と記載されている。
さらに、発明の詳細な説明(上記第5)の(【0081】〜【0085】)には、アミノ糖(N−アセチルグルコサミン)と、黒生姜の根茎の含水エタノール抽出物を組み合わせた組成物を用いた実施例2では、IL1bの添加により誘導されたMMP−13の遺伝子発現を有意に抑制したのに対し、上記N−アセチルグルコサミンと上記黒生姜抽出物とをそれぞれ単独で用いた比較例3及び4では有意な抑制作用は見られなかったという実験結果から、上記N−アセチルグルコサミンと黒生姜抽出とを組み合わせることにより、優れたMMP−13発現抑制作用を奏することが明らかになったことが記載されている。
これらの記載から、本件発明1は、N−アセチルグルコサミンと黒生姜抽出物(黒生姜の根茎の水、エタノール又は含水エタノール抽出物)とを組み合わせて用いることにより、優れたMMP−13遺伝子発現抑制作用が相乗的に奏されることに基づいて、関節若しくは軟骨の保護又は維持という用途に適用し得る組成物であるといえる。

イ これに対し、甲1発明は、グルコサミン及びコンドロイチンを含む24種の軟骨構成成分、並びにその他の成分として黒ショウガエキス、赤ショウガエキス、キャッツクロー及び4種のビタミンを含有する、軟骨構成成分を補うための組成物である。
そして、甲1に記載されるグルコサミンは24種の軟骨構成成分の一つであって、黒ショウガエキス(黒生姜抽出物)もその他の成分の一つであるにすぎず、甲1には、グルコサミンと黒ショウガエキス(黒生姜抽出物)その組合せに着目することは記載も示唆もない。
また、甲1発明の組成物は、「GCCグルコサミン・コンドロイチン滑らかバランス」という名称で、「はぴねすくらぶ」の会員向けに販売されている商品であるから、上記組成物の成分組成は商品化の際に最適化されたものであると解されるところ、甲1には、甲1発明における24種の軟骨構成成分の一つであるグルコサミンを、他の軟骨構成成分に変更することは、商品の性質からみて想定されないことである。

ウ 一方、甲2〜甲4には、以下の(ア)〜(ウ)の事項が記載されていると認められる。

(ア)N−アセチルグルコサミンは変形性膝関節症等の予防・改善効果を有する成分として周知である(甲2c、甲3a、甲4a)。

(イ)同じ量を摂取した場合に利用される割合は、N−アセチルグルコサミンの方がグルコサミンよりも約3倍高いことが知られている(甲2a)。
そして、臨床試験結果から、N−アセチルグルコサミンは300及び500mg/日の用量で、グルコサミン塩酸塩1,500mg/日と同等かそれ以上の膝関節痛改善効果を有することが示唆された(甲3c)。

(ウ)グルコサミン塩類は塩であることによる特有のえぐみがあり、用量が1日1,500mgとされていることから、摂取粒数が多くなり、利用者の嚥下時負担が大きくQOLが低下する問題があるのに対し、N−アセチルグルコサミンは、良質な甘味を有し、グルコサミン塩よりも利用効率がよく、少量で効果があるとの報告もあるので、グルコサミン塩酸塩の問題を解決できる食品素材として期待されている(甲3b、甲4b)。

エ しかし、甲2〜4には、N−アセチルグルコサミンは、変形性膝関節症等の予防・改善効果を有する成分で、グルコサミンよりも、利用効率、服用のしやすさ等で利点があることが記載されているとしても、黒生姜抽出物と組み合わせることは記載も示唆もない。
そして、甲1発明の組成物は、グルコサミンを含むものであるが、上記イで説示したように、甲1発明の組成物の成分組成は商品化の際に最適化されたものであり、甲1には、甲1発明における24種の軟骨構成成分の一つであるグルコサミンを、他の軟骨構成成分に変更することは想定されないものである。
そうすると、本件特許の原出願日当時に上記ウ(ア)〜(ウ)の事項が知られていたことを考慮しても、甲1発明において、24種の軟骨構成成分の一つであるグルコサミンと、その他の成分の一つである黒ショウガエキス(黒生姜抽出物)との組合せに着目した上で、甲1発明の「グルコサミン」を、甲2〜甲4に記載される「N−アセチルグルコサミン」に変更することを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

(3)よって、甲1発明、甲1〜甲4に記載された事項から、甲1発明を、相違点1及び2に係る本件発明1の構成を備えたものとすることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

4 本件発明1の効果について

本件発明1により、N−アセチルグルコサミンと黒生姜抽出物(黒生姜の根茎の水、エタノール又は含水エタノール抽出物)とを組み合わせて用いることにより、優れたMMP−13遺伝子発現抑制作用が相乗的に奏されることに基づいて、関節若しくは軟骨の保護又は維持という用途に適用できる組成物を提供できるという効果が得られたことは、上記3(2)アで説示したとおりである。
そして、このような効果は、甲1発明、甲1〜甲4に記載された事項から、当業者が予測し得たものであるとはいえない。

5 まとめ

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲1発明、甲1〜甲4に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第7 申立理由1の2(甲2〜10に基づく進歩性欠如)について

申立理由1の2の概要は、本件発明1は、甲2〜6に記載された発明と、甲7〜10に記載された発明から当業者が容易に想到できたものであって、進歩性を有するものではない、というものである(申立書p.21〜22のエ)。
そこで、当該申立理由1の2について検討する。

1 甲2〜6には、それぞれ以下の事項が記載されていると認められる。

(ア)甲2には、甲2a〜甲2cの記載、特に「N−アセチルグルコサミンにはさまざまな生理機能がありますが、とくに注目されているのが「変形性ひざ関節症」の痛みを和らげる作用です。」(甲2c)という記載から、「N−アセチルグルコサミンを含む、変形性ひざ関節症の痛みを和らげる作用を有する組成物。」の発明が記載されている。

(イ)甲3には、甲3a〜甲3cの記載、特に「GlcNAcは300mg/日および500mg/日の摂取用量で膝関節痛の改善効果をもつこと,・・・また,GlcNAc摂取によりII型コラーゲンの代謝が改善される可能性が示唆された」(甲3c)という記載から、「N−アセチルグルコサミンを含む、変形性膝関節症を改善する作用を有する組成物。」の発明が記載されている。

(ウ)甲4には、甲4a〜甲4cの記載、特に「天然型N−アセチルグルコサミン含有ミルクを投与することにより、膝疾患治療判定基準の成績が向上し、最終的に疼痛・階段昇降能、圧痛において有意に改善した」(甲4a)の記載から、「変形性膝関節症を改善する作用を有する、N−アセチルグルコサミン含有ミルク。」の発明が記載されている。
そして、甲4には、変形性関節症に対するN−アセチルグルコサミン及びカルシウムなどの変形性関節症に有効と考えられるその他の成分との治療・予防効果に対する相乗効果に関しては、今後の研究課題であること(甲4c)。が記載されている。

(エ)甲5には、甲5a〜甲5eの記載、特に甲5aの記載から、「グルコサミン、その誘導体又はそれらの薬理学的に許容される塩の中から選ばれる少なくとも1種の化合物を含有するマトリックスメタロプロテアーゼ13発現抑制剤。」の発明が記載されていると認められる。
そして、甲5には、「最も強力なタイプIIコラーゲン分解能を有するMMP13の発現阻害剤は、関節疾患なかでも関節の変形を伴う関節疾患の予防または治療に有用であることが推察される」こと(甲5bの【0005】)、グルコサミンの誘導体としては、体内においてグルコサミンに変化しうる化合物であるN−アセチルグルコサミンが好ましいこと(甲5c)、インターロイキン(IL-1)の存在下で塩酸グルコサミンの添加によってMMP13発現量が減少したことを確認した試験例2(甲5e)、が記載されている。

(オ)甲6には、甲6a〜甲6bの記載から、「N−アセチルグルコサミン(GlcNAc)を含有する、UVBによって誘発されるコラーゲン分解性のMMP-1及びMMP-13を阻害するための組成物。」の発明が記載されていると認められる。
そして、甲6には、上記組成物が皮膚の光老化の予防と治療に有用である可能性があることが記載されている(甲6aの「結論」)。

2 甲7〜10には、それぞれ以下の事項が記載されていると認められる。

(ア)甲7には、甲7a〜甲7cの記載から、「膝や腰等の関節痛を緩和するために用いられる、ブラックジンジャー(黒生姜)の根茎部を煎じて得られる組成物。」の発明が記載されていると認められる。

(イ)甲8には、甲8a〜甲8cの記載、特に甲8cの記載から、「GalN誘発細胞障害抑制活性作用を有する、Kaempferia parviflora根茎(黒生姜の根茎)の抽出エキス。」の発明が記載されていると認められる。
そして、甲8には、Kaempferia parviflora根茎(黒生姜の根茎)の抽出エキスはTNF-α誘発細胞障害抑制活性があるという趣旨の記載(甲8a)、TNF-αの持続的かつ過剰な産生や、不適切な場所や時間での産生は、慢性関節リウマチ等の原因や憎悪をもたらすことが知られていること(甲8b)が記載されている。

(ウ)甲9には、甲9a〜甲9dの記載、特に甲9c及び甲9dの記載から、「ブラックジンジャー(黒生姜)の水抽出物、50%質量%エタノール抽出物、及びエタノール抽出物のいずれかを含有する、スーパーオキサイドジスムターゼ(SOD)様作用を有する抗酸化剤。」の発明が記載されていると認められる。
そして、甲9には、スーパーオキサイドの消去が不十分になってスーパーオキサイド濃度が高くことが、関節リウマチ、皮膚の老化等を起こす原因の一つであると考えられていること(甲9b)が記載されている。

(エ)甲10には、甲10a〜甲10dの記載から、「UVBにより誘発されるMMP-3及びMMP-13の発現を減少させる、Kaempferia parviflora Wall.ex.Baker(黒生姜)の95%エタノール抽出物。」の発明が記載されている。
そして、甲10には、上記抽出物が、光老化を有意に防止し、天然の抗光老化成分としての可能性があることを示唆する記載(甲10aの「結論」)がある。

3 上記1から、N−アセチルグルコサミンが、MMP-13の発現を抑制する作用を有することや、変形性膝関節症等の関節疾患の予防や治療に用い得る成分であることは、本件特許の原出願日当時に知られていたといえる。
また、上記2から、黒生姜の根茎の抽出物が、MMP-13の発現を減少させることや、膝や腰等の関節痛を緩和する作用を有することは、本件特許の原出願日当時に知られていたといえる。
しかし、甲2〜甲6及び甲7〜甲10のいずれにも、N−アセチルグルコサミンと黒生姜の根茎の抽出物とを組み合わせることについて、記載も示唆もされていないし、組み合せることが、自明な事項であるともいえない。
そうすると、甲2〜甲6に記載された各発明、甲7〜甲10に記載された各発明、甲2〜甲6及び甲7〜甲10に記載された事項から本件発明1の構成を得ることを、当業者が容易に想到し得たとはいえない。

4 本件発明1の効果について

本件発明1により、N−アセチルグルコサミンと黒生姜抽出物(黒生姜の根茎の水、エタノール又は含水エタノール抽出物)とを組み合わせたことにより相乗的に奏される優れたMMP−13遺伝子発現抑制作用に基づいて、関節若しくは軟骨の保護又は維持という用途に適用できる組成物を提供できるという効果が得られたことは、上記第6の3(2)アで説示したとおりである。
そして、このような効果は、甲2〜甲6に記載された各発明、甲7〜甲10に記載された各発明、甲2〜甲6及び甲7〜甲10に記載された事項から、当業者が予測し得たものであるとはいえない。

5 まとめ

以上のとおりであるから、本件発明1は、甲2〜甲6に記載された各発明、甲7〜甲10に記載された各発明、甲2〜甲6及び甲7〜甲10に記載された事項から、当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。

第8 申立理由2(サポート要件違反)

申立理由2の概要は、本件発明1に含まれる全てのN−アセチルグルコサミン及び黒生姜抽出物の含有比、用量の範囲において、本件発明1の課題を解決できることを、当業者が認識できるとはいえない、というものである(申立書p.23のウ)。
そこで、当該申立理由2について検討する。

1 発明の詳細な説明(上記第5)には、本件発明1の課題及びその解決手段について、以下の記載がある。

「【発明が解決しようとする課題】
【0010】
以上の通り、様々な素材のMMP−13の発現抑制作用が知られている。
しかしながら、これらの素材による作用は十分に高いものではなく、より一層高いMMP−13の発現抑制作用を奏する技術が求められている。
したがって、本発明の課題は、安全性が高く、効果的にMMP−13の発現を抑制することにより、皮膚の老化防止、関節保護等に有効な組成物を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
・・・
本発明はアミノ糖と、フラボノイド類含有植物とを含有する関節保護組成物を提供するものである。
・・・
【発明の効果】
【0012】
本発明によれば、安全性が高く、効果的にMMP−13の発現を抑制することにより、皮膚の老化防止作用や関節保護作用から選ばれる少なくとも1の作用に有効な組成物が得られる。また本発明の組成物は、関節痛や関節の可動域の制限を防止することにより、身体のバランス能力、体力や移動能力の低下といったロコモティブシンドローム(運動器機能症候群)の予防及び防止に寄与し得る。」

上記記載及び本件特許の請求項1の記載から、本件発明1の課題は、安全性が高く、効果的にMMP−13の発現を抑制することにより、関節若しくは軟骨の保護又は維持に有効な組成物を提供することである。
そして、上記課題の解決手段は、アミノ糖であるN−アセチルグルコサミン(【0015】)と、フラボノイド類含有植物である黒生姜の根茎の水、エタノール又は含水エタノール抽出物(【0019】、【0041】〜【0044】)との組合せにより、効果的にMMP−13の発現を抑制することによって、関節若しくは軟骨の保護又は維持という用途に適用できる組成物を提供する、ということであるといえる。

2 また、発明の詳細な説明(上記第5)の(【0081】〜【0085】)には、アミノ糖(N−アセチルグルコサミン)と、黒生姜の根茎の含水エタノール抽出物を組み合わせた組成物を用いた実施例2が記載されている。
そして、上記実施例2では、上記N−アセチルグルコサミンと黒生姜抽出物との組合せによって、IL1bの添加により誘導されたMMP−13の遺伝子発現が有意に抑制されたのに対し、上記N−アセチルグルコサミンと上記黒生姜抽出物とをそれぞれ単独で用いた比較例3及び4では有意な抑制作用は見られなかったという実験結果が示されており、これらの実験結果から、上記N−アセチルグルコサミンと黒生姜抽出物とを組み合わせて用いることにより、優れたMMP−13発現抑制作用が相乗的に奏されることを、当業者は認識できるといえる。

3 さらに、本件特許の原出願日当時、N−アセチルグルコサミンがMMP-13の発現を抑制することにより変形性膝関節症などの関節疾患の治療・予防効果を奏すること(甲5a〜甲5e、甲6a〜甲6b)、及び黒ショウガ(黒生姜)の根茎部のエタノール抽出物がUVBによって誘発されたMMP-13の発現を減少させる作用を有すること(甲10a〜甲10d)が知られていたのであるから、当業者は、N−アセチルグルコサミン及び黒生姜抽出物の含有量を適切に調整して組み合わせることによって、上記1で説示した課題を解決できることを認識できるといえる。

4 まとめ

以上のように、発明の詳細な説明の記載から、本件発明1により上記1で説示した課題を解決できることを当業者は認識できるといえるので、本件発明1は発明の詳細な説明に記載されたものであるといえる。
よって、本件発明1に係る特許は、特許法第36条第6項第1号に規定する要件に適合する特許出願に対してされたものである。

第9 むすび

したがって、本件特許の請求項1に係る特許を、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由により取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-08 
出願番号 P2019-111729
審決分類 P 1 651・ 537- Y (A61K)
P 1 651・ 121- Y (A61K)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 原田 隆興
特許庁審判官 中西 聡
前田 佳与子
登録日 2021-05-12 
登録番号 6883347
権利者 株式会社東洋新薬
発明の名称 化粧用組成物、美容組成物、関節保護組成物、組成物  
代理人 ▲高▼津 一也  
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