• ポートフォリオ機能


ポートフォリオを新規に作成して保存
既存のポートフォリオに追加保存

  • この表をプリントする
PDF PDFをダウンロード
審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  B26D
管理番号 1384274
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-14 
確定日 2022-03-23 
異議申立件数
事件の表示 特許第6886092号発明「切断加工用刃物及びその製造方法」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6886092号の請求項1ないし15に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6886092号(以下、「本件特許」という。)の請求項1ないし15に係る特許についての出願(特願2020−156127号)は、令和2年9月17日に出願され、同3年5月18日にその特許権の設定登録がされ、同年6月16日に特許掲載公報が発行された。
その後、本件特許に対し、令和3年12月14日に特許異議申立人 小西美奈子(以下、「申立人」という。)により特許異議の申立てがされた。


第2 本件特許発明
本件特許の請求項1ないし15の特許に係る発明(以下、各請求項の特許に係る発明を「本件特許発明1」などといい、本件特許発明1ないし15をまとめて「本件特許発明」という。)は、それぞれ、特許請求の範囲の請求項1ないし15に記載された事項により特定される次のとおりのものである。

「【請求項1】
上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用される切断加工用刃物であって、
扇形状の刃物本体と、前記刃物本体の外周部に沿って配置される刃部とを備え、
前記刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、微小な凹凸からなる粗面部が形成されており、
前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり、
切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とすることを特徴とする切断加工用刃物。
【請求項2】
前記粗面部は、前記刃部の周方向に沿って同一幅の帯状となるように形成されている請求項1に記載の切断加工用刃物。
【請求項3】
前記粗面部は、前記刃部の側面に対し、ブラスト加工を施すことにより形成されていることを特徴とする請求項1又は2に記載の切断加工用刃物。
【請求項4】
上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置において使用される切断加工用刃物であって、
扇形状に形成される刃物本体と、スリットを形成する溝切り刃と、スリットの端部を形成する切込生成刃とを備え、
前記溝切り刃は、前記刃物本体の厚み方向両側縁に沿ってそれぞれ設けられており、
前記溝切り刃の外側側面であって該溝切り刃の刃先を含む領域に、微小な凹凸からなる粗面部が形成されており、
前記粗面部の最大高さSzは、10μm以上400μm以下の範囲であり、
切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とすることを特徴とする切断加工用刃物。
【請求項5】
前記粗面部は、前記溝切り刃の周方向に沿って同一幅の帯状となるように形成されている請求項4に記載の切断加工用刃物。
【請求項6】
前記粗面部は、前記溝切り刃の側面に対し、ブラスト加工を施すことにより形成されていることを特徴とする請求項4又は5に記載の切断加工用刃物。
【請求項7】
前記切込生成刃は、前記刃物本体の一端側に着脱自在に取り付け可能に構成される請求項4から6のいずれかに記載の切断加工用刃物。
【請求項8】
前記刃物本体における外周縁よりも径方向外側に前記切込生成刃の刃先部を配置して、前記切込生成刃を保持可能に構成される請求項4から7のいずれかに記載の切断加工用刃物。
【請求項9】
前記切込生成刃は、平刃の刃先部を備えていることを特徴とする請求項4から8のいずれかに記載の切断加工用刃物
【請求項10】
前記切込生成刃は、半円筒状の刃先部を備えていることを特徴とする請求項4から9のいずれかに記載の切断加工用刃物。
【請求項11】
前記切込生成刃は、前記刃先部の先端に刃先切欠き部を有していることを特徴とする請求項9または10に記載の切断加工用刃物。
【請求項12】
前記切込生成刃の幅は、前記刃物本体の厚みと略同一寸法であることを特徴とする請求項4から11のいずれかに記載の切断加工用刃物。
【請求項13】
上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用され、切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑を前記一対のライナー間から離脱可能な切断加工用刃物の製造方法であって、
扇形状の刃物本体の外周部に沿って配置される刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域に、ブラスト加工によって、最大高さSzが、10μm以上400μm以下の範囲となる微小な凹凸からなる粗面部を形成する粗面部形成ステップを備えることを特徴とする切断加工用刃物の製造方法。
【請求項14】
前記ブラスト加工において、平均粒径が300μm以上1.1mm以下の珪砂または金属片が前記刃部の側面に吹きつけられることを特徴とする請求項13に記載の切断加工用刃物の製造方法。
【請求項15】
前記粗面部形成ステップは、前記刃部の周方向に沿って同一幅の帯状の前記粗面部を形成するようにブラスト加工を施すことを特徴とする請求項13又は14に記載の切断加工用刃物の製造方法。」


第3 申立理由の概要
申立人は、主たる証拠として特開2014−91197号公報(以下「文献1」という。)並びに従たる証拠として特許第6618650号公報(以下「文献2」という。)及び特許第6648912号公報(以下「文献3」という。)を提出し、本件特許発明1ないし15は特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、本件特許発明1ないし15は取り消すべきものである旨主張する。


第4 文献の記載
1 文献1について
(1)記載事項
文献1には、次の記載がある。(下線は当審で付与した。以下、同様。)

ア 「【0005】
切断加工用刃物60は、図9及び図10に示すような溝切り装置70に取り付けられる。図9は溝切り装置の概略構成を示す側面図であり、図10は正面図である。この溝切り装置70には、上述した切断加工用刃物60が2枚取り付けられるが、それぞれの刃物を切断加工用刃物60a,60bとして、溝切り装置70の構成について以下説明する。
【0006】
溝切り装置70は、上側回転軸71及び下側回転軸72を備えている。上側回転軸71及び下側回転軸72は、互いに平行に、シート給送ラインLを挟んで対向するように配置されており、それぞれ円盤状の一対の上側回転ホルダ73,73及び一対の下側回転ホルダ74,74を備えている。
【0007】
一対の上側回転ホルダ73,73には、2枚の切断加工用刃物60a,60bがそれぞれボルト等の締結具(図示せず)により挟持されている。これら切断加工用刃物60a、60bは、一対の回転ホルダ73,73の外周に沿って所定の間隔を空けて、かつ、それぞれの切込生成刃62a,62bが、外周方向に沿って向き合うように取り付けられる。これに対し、一対の下側回転ホルダ74,74のそれぞれの対向面には、2枚の受刃75,75が、切断加工用刃物60a及び60bの厚み寸法に対応した所定間隔をあけて取り付けられる。
【0008】
次に、以上の構成を備えた溝切り装置70を用いて、段ボールシート50にスリットを形成する方法を説明する。図9に示すように、上側回転ホルダ73,73及び下側回転ホルダ74,74を回転させた状態で、溝切り装置70のシート給送ラインL上に沿って、段ボールシート50を図9の右側から溝切り装置70に給送する。これにより、切断加工用刃物60aが、受刃75,75の隙間に挟み込まれて、段ボールシート50が切断され、図7に示すような終端部53を終点とした前方スリット51が形成される。同様に、他方の切断加工用刃物60bが、受刃75,75の隙間に挟み込まれて、段ボールシート50が切断され、始端部54を起点とした後方スリット52が形成される。」

イ 「【0010】
ところが、従来から用いられている切断加工用刃物を用いてスリット加工を行った場合、図11に示すように、切断面に細いひげ状の切断屑50aが残ってしまうという問題があった。具体的に説明すると、上記切断加工用刃物により切断される段ボールは、通常、図12に示すように、表面ライナーaと裏面ライナーbとの間に波型形状の中芯cが配置される構造を有しており、切断時の切断加工用刃物と受刃との押圧により、図12に示す様に中芯cの山部分と谷部分との中間部分が略S字状に潰された状態で切断されることになり、切断線が中芯cの波形方向に平行ではなく複数の山部分や谷部分を斜めに横切ることがある。したがって、図12において、中芯cでのdで示す部分は細い切断屑50aとなり、段ボール紙の切断端部に繋がってひげ状にぶら下がって残留してしまう。この細い切断屑50aは、幅1〜2mm、長さは短いもので10数mm、長いもので300mm以上にもおよぶものが確認されている。」

ウ 「【0021】
以下、本発明の実施形態について添付図面を参照して説明する。図1は、本発明の一実施形態にかかる切断加工用刃物を示す側面図であり、図2は、そのA−A断面図である。切断加工用刃物1は、段ボールシートや合成樹脂製シート等のシート材を切断してスリットをするための刃物であり、図1及び図2に示すように、刃物本体2と、刃部21と、粗面部3と、切込生成刃4とを備えている。
【0022】
刃物本体2は、ステンレスや鉄等の金属材料により形成されており、図1に示すように、側面視において扇形状に形成されている。
【0023】
刃部21は、従来の切断加工用刃物60(図8参照)と同様に、刃物本体2の外周部に沿って配置されている。本実施形態における刃部21は、スリットを形成できるように構成されているため、図2に示すように、刃物本体2の厚み方向両側縁にそれぞれ設けられている。
【0024】
粗面部3は、刃物本体2の側面に設けられる凹凸面により構成されており、刃部21により切断したシート材の切断端面と接触し、切断端面に残留する切断屑を除去する機能を有している。この粗面部3は、刃物本体2の厚み方向両側面にそれぞれ設けられており、刃物本体2の側面に対し、複数の線状溝31を形成することにより構成されている。より具体的には、例えば、1mm〜5mmの幅を有する深さ1mm〜5mmの線状溝31を1mm〜5mmのピッチ間隔で複数形成することにより構成されている。各線状溝31は、その長手方向が刃物本体2の径方向となるように形成されている。また、粗面部3は、刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で、刃物本体2の周方向に沿って形成されている。粗面部3の幅(刃物本体2の径方向における長さ)は、図1及び図2に示すように、刃物本体2の周方向に沿って同一寸法となるように(同一幅の帯状)となるように形成されており、粗面部3の最外表面3aは、図2の断面図に示すように、刃物本体2の外周部に沿って配置される刃部21の刃先部21aと面一となるように形成されている。なお、当該最外表面3aが、粗面部3が形成されていない刃物本体2の側面よりも僅かに外方(側面に対して垂直な方向)に突出するように構成し、刃部21の刃先部21aと面一とならないように構成してもよい。
【0025】
切込生成刃4は、切断加工用刃物1によりスリット加工されるときに出る屑片の一端を段ボールシートから切り落とすための刃であり、刃物本体2の外周面の一端から径方向外方に、刃物本体2の端面と面一になるように突出しており、端面の幅方向両側に角部を備えている。
【0026】
以上の構成を備えた切断加工用刃物1は、例えば図9及び図10に示すような溝切り装置70に取り付けられて使用される。段ボールシートにスリットを形成する方法は、上記背景技術で説明した方法と同一であるため、ここでは詳細な説明を省略する。
【0027】
本実施形態に係る切断用加工刃物1は、刃物本体2の側面に、刃部21により切断したシート材の切断端面と接触する粗面部3が形成されているため、図3に示すように、刃部がシート材を切断し当該シート材の下方側に抜ける際に、粗面部がシート材の切断端面と接触しつつシート材の下方側に向けて移動することとなる。このときに粗面部における凹凸表面との摩擦によってシート材の切断端面に残留するひげ状の切断屑を切断端面から効果的に削り落として取り除きつつ、シート下方側に切断屑を落とすことが可能となる。この結果、段ボールシート等のシート材を切断した際に形成される切断面を綺麗な状態とすることができる。」

エ 「【0031】
以上、本発明の一実施形態に係る切断加工用刃物1について説明したが、切断加工用刃物1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。例えば、上記実施形態においては、シート材に対してスリットを形成できるように切断加工用刃物1を構成するために、刃部21は、刃物本体2の厚み方向両側縁にそれぞれ設けられているが、このような形態に特に限定されない。例えば、単にシート材を切断して分離できるように、図4の概略構成断面図に示すように、単一の刃部21を刃物本体2の外周部に沿って配置するように構成してもよい。
【0032】
また、上記実施形態においては、粗面部3は、刃物本体2の側面に対し、複数の線状溝を形成することにより構成されているが、このような構成に特に限定されず、例えば、図5に示すように、刃物本体2の側面に対し、格子状のギザギザの凹凸を形成するローレット加工を施すことにより粗面部3を形成してもよい。或いは、図6に示すように、刃物本体2の側面に対して、所定深さの孔32を複数形成することにより、粗面部3を構成してもよい。」

オ 「【図1】


【図2】



カ 「【図4】



キ 「【図10】


【図11】


【図12】




(2)引用発明
文献1には、上記(1)アないしキの記載からみて、物の発明として、次の発明(以下、「引用発明A」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明A>
「切断加工用刃物60a、60bと受刃75、75との協働によって、表面ライナーaと裏面ライナーbの間に中芯cを備える段ボールシート50を切断してスリットを形成する溝切り装置70において使用される切断加工用刃物1であって、
扇形状に形成される刃物本体2と、前記刃物本体2の外周部に沿って、厚み方向両側縁にそれぞれ設けられている、スリットを形成する刃部21と、スリットの端部を形成する切込生成刃4とを備え、
前記刃物本体2の側面に、刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で、深さ1mm〜5mmの線状溝31からなる粗面部3が形成されており、
切断時に形成される前記中芯cに基づく細いひげ状の切断屑50aと前記粗面部3との接触により段ボールシート50の切断端面から前記切断屑50aを取り除く、
切断加工用刃物1。」

また、文献1には、上記(1)アないしキの記載からみて、物を生産する方法の発明として、次の発明(以下、「引用発明B」という。)が記載されていると認められる。

<引用発明B>
「切断加工用刃物60a、60bと受刃75、75との協働によって、表面ライナーaと裏面ライナーbの間に中芯cを備える段ボールシート50を切断する溝切り装置70において使用され、切断時に形成される前記中芯cに基づく細いひげ状の切断屑50aを段ボールシート50の切断端面から取り除く切断加工用刃物1の製造方法であって、
扇形状の刃物本体2の側面に、刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で、深さ1mm〜5mmの線状溝31からなる粗面部3を形成する粗面部形成ステップを備える、
切断加工用刃物1の製造方法。」


2 文献2ないし文献3について
(1)文献2の記載事項
文献2には、次の記載がある。

ア 「【0012】
上記特許文献1や特許文献2に開示の切断加工用刃物は、摩耗状況の激しい切込生成刃のみを交換可能に構成しているという優れた効果を奏するものではあるが、切込生成刃が段ボールシートに差し込まれる際の衝撃によって、この切込生成刃の位置がずれてしまう場合があるという問題があった。具体的に説明すると、切込生成刃が、段ボールシートとの当接・突き破り時の衝撃によって、刃物本体の径方向内側に移動してしまい、切込生成刃の先端における刃先部の適正な位置(刃物本体の外周縁からの突出量)を維持できなくなる場合が発生するという問題があった。その結果、スリット端部を形成できない、或いは、形成できたとしてもスリット端部に破れが発生してしまうことになる。
【0013】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、刃物本体に対する切込生成刃の位置ズレを効果的に防止することができる切断加工用刃物を提供することを目的とする。」

イ 「【0023】
切込生成刃4は、切断加工用刃物1によりスリット加工されるときに出る屑片の一端を段ボールシート等のシート材から切り落とし、スリットの端部を形成するための刃部である。この切込生成刃4は、図1や図5(a)〜(e)に示すように、刃物本体2の一端側に着脱自在に取り付けられる平板状の取付部41と、取付部41の一端部に形成される刃先部42とを備えている。刃先部42は、平刃として構成されている。取付部41の厚みは、例えば、3mm〜15mmの範囲に設定される。ここで、図5(a)は、切込生成刃4を上方から見た場合の平面図であり、図5(b)は、図5(a)において示される矢視B方向から見た場合の側面図である。また、図5(c)は、図5(a)において示される矢視C方向から見た場合の底面図である。また、図5(d)は、図5(a)において示される矢視D方向から見た場合の側面図であり、図5(e)は、図5(a)において示される矢視E方向から見た場合の側面図である。切込生成刃4は、図1に示すように、刃物本体2の外周面から径方向外側に、刃先部42が突出するようにして刃物本体2の一端側に固定される。この切込生成刃4の幅は、刃物本体2の厚みと略同一寸法となるように構成することが好ましい。また、取付部41は、刃物本体2の径方向に沿う方向に長尺となるように構成されており、刃物本体2に形成されるボルト孔21に対応して形成される貫通孔43を備えている。本実施形態においては、取付部の輪郭が、平面視矩形状となるように構成している。なお、切込生成刃4は、ボルト50を締め付けることにより、ボルト頭で取付部41を刃物本体2側に押さえ付けることによって、刃物本体2の所定位置に固定される。貫通孔43の周囲の部分が、ボルト50のボルト頭と当接する部分となる。

ウ 「【0025】
また、切込生成刃4が備える取付部41は、刃物本体2の一端側に対向する側の一方面上(刃物本体2の一端側の端面に接触する底面45)に形成される取付部粗面部を備えている。本実施形態においては、取付部粗面部は、取付部41の一方面(底面45)に対し、複数の微小幅の取付部線状溝44を形成することにより構成されており、これら各取付部線状溝44は、設置される刃物本体2の径方向に対して垂直な方向に延びるように形成されている。また、各取付部線状溝44は、刃物本体2の径方向に沿って同一間隔をあけて配置されるように形成することが好ましい。
【0026】
取付部粗面部を構成する各取付部線状溝44の溝幅(刃物本体2の径方向に沿う方向の幅)や、溝深さの寸法は、適宜設定することができるが、例えば、溝幅を0.2mm〜2mm程度、溝深さを0.2mm〜2mm程度に形成する。また、各取付部線状溝44同士の間隔についても、適宜設定することができるが、例えば、0.5mm〜2mm程度に形成することが好ましい。このような取付部線状溝44は、例えば、レーザー加工やエッチング処理、切削加工等を取付部の一方面に施すことにより形成することができる。
【0027】
また、取付部粗面部を構成する取付部線状溝44の形成エリアについては、少なくとも長孔状の貫通孔43が形成される領域を含むように設定することが好ましい。より好ましくは、図5(c)に示すように、取付部41の底面の略全領域に亘るように複数の取付部線状溝44の形成エリアを設定する。」

エ 「【0037】
以上、本発明の一実施形態に係る切断加工用刃物1について説明したが、切断加工用刃物1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態においては、取付部粗面部は、複数の微小幅の線状溝44を形成することにより構成されているが、取付部41の一方面に対し、格子状のギザギザの凹凸を形成するローレット加工を施すことにより取付部粗面部を形成してもよい。刃物本体粗面部についても同様にローレット加工により形成することができる。また、所定領域に対してブラスト処理を行うことによって他の領域よりも表面を粗くすることにより刃物本体粗面部や取付部粗面部を形成してもよい。また、取付部粗面部を形成する領域に対してブラスト処理を行うことによって他の領域よりも表面を粗くした上で、上述の複数の微小幅の取付部線状溝44を形成して取付部粗面部を構成してもよく、同様に、刃物本体粗面部を形成する領域に対してブラスト処理を行うことによって他の領域よりも表面を粗くした上で、上述の複数の微小幅の刃物本体線状溝22を形成して刃物本体粗面部を構成してもよい。」

オ 「【図1】



カ 「【図5】




(2)文献3の記載事項
文献3には、次の記載がある。

ア 「【0012】
上記特許文献1や特許文献2に開示の切断加工用刃物は、摩耗状況の激しい切込生成刃のみを交換可能に構成しているという優れた効果を奏するものではあるが、切込生成刃が段ボールシートに差し込まれる際の衝撃によって、この切込生成刃の位置がずれてしまう場合があるという問題があった。具体的に説明すると、切込生成刃が、段ボールシートとの当接・突き破り時の衝撃によって、刃物本体の径方向内側に移動してしまい、切込生成刃の先端における刃先部の適正な位置(刃物本体の外周縁からの突出量)を維持できなくなる場合が発生するという問題があった。その結果、スリット端部を形成できない、或いは、形成できたとしてもスリット端部に破れが発生してしまうことになる。
【0013】
本発明は、このような問題を解消するためになされたものであり、刃物本体に対する切込生成刃の位置ズレを効果的に防止することができる切断加工用刃物を提供することを目的とする。」

イ 「【0029】
切込生成刃4は、切断加工用刃物1によりスリット加工されるときに出る屑片の一端を段ボールシート等のシート材から切り落とし、スリットの端部を形成するための刃部である。この切込生成刃4は、図1や図5(a)〜(d)に示すように、刃物本体2の一端側に着脱自在に取り付けられる平板状の取付部41と、取付部41の一端部に形成される刃先部42とを備えている。刃先部42は、平刃として構成されている。取付部41の厚みは、例えば、3mm〜15mmの範囲に設定される。ここで、図5(a)は、切込生成刃4を上方から見た場合の平面図であり、図5(b)は、図5(a)において示される矢視B方向から見た場合の側面図である。また、図5(c)は、図5(a)において示される矢視C方向から見た場合の側面図であり、図5(d)は、図5(a)において示される矢視D方向から見た場合の側面図である。切込生成刃4は、図1に示すように、刃物本体2の外周面から径方向外側に、刃先部42が突出するようにして刃物本体2の一端側に固定される。この切込生成刃4の幅は、刃物本体2の厚みと略同一寸法となるように構成することが好ましい。また、取付部41は、刃物本体2の径方向に沿う方向に長尺となるように構成されており、刃物本体2に形成されるボルト孔21に対応して形成される貫通孔43を備えている。本実施形態においては、取付部の輪郭が、平面視矩形状となるように構成している。なお、切込生成刃4は、ボルト50を締め付けることにより、ボルト頭で取付部41を刃物本体2側に押さえ付けることによって、刃物本体2の所定位置に固定される。貫通孔43の周囲の部分が、ボルト50のボルト頭と当接する部分となる。」

ウ 「【0031】
また、切込生成刃4が備える取付部41は、長孔状の貫通孔43を介してボルト孔21に設置されるボルト50が有するボルト頭と当接する側の一方面上に形成される粗面部を備えている。本実施形態においては、粗面部は、取付部41の一方面に対し、複数の微小幅の線状溝44を形成することにより構成されており、これら各線状溝44は、設置される刃物本体2の径方向に対して垂直な方向に延びるように形成されている。また、各線状溝44は、刃物本体2の径方向に沿って同一間隔をあけて配置されるように形成することが好ましい。
【0032】
粗面部を構成する各線状溝44の溝幅(刃物本体2の径方向に沿う方向の幅)や、溝深さの寸法は、適宜設定することができるが、例えば、溝幅を0.2mm〜2mm程度、溝深さを0.2mm〜2mm程度に形成する。また、各線状溝44同士の間隔についても、適宜設定することができるが、例えば、0.5mm〜2mm程度に形成することが好ましい。このような線状溝44は、例えば、レーザー加工やエッチング処理、切削加工等を取付部の一方面に施すことにより形成することができる。
【0033】
また、粗面部を構成する線状溝44の形成エリアについては、少なくとも長孔状の貫通孔43が形成される領域を含むように設定する。より好ましくは、図5(a)に示すように、取付部41の一方面の略全領域に亘るように複数の線状溝44の形成エリアを設定する。」

エ 「【0040】
以上、本発明の一実施形態に係る切断加工用刃物1について説明したが、切断加工用刃物1の具体的構成は、上記実施形態に限定されない。上記実施形態においては、粗面部は、取付部41の一方面に対し、複数の微小幅の線状溝44を形成することにより構成されているが、例えば、取付部41の一方面に対し、格子状のギザギザの凹凸を形成するローレット加工を施すことにより粗面部を形成してもよい。或いは、所定領域に対してブラスト処理を行うことにより他の領域よりも表面を粗くすることにより粗面部を形成してもよい。また、粗面部は、取付部41の一方面の所定領域に対してブラスト処理を行うことにより他の領域よりも表面を粗くしたうえで、上述の複数の微小幅の線状溝44を形成することにより構成してもよい。」

オ 「【図1】



カ 「【図5】




第5 当審の判断
1 本件特許発明1について
(1)対比
本件特許発明1と引用発明Aとを対比すると、引用発明Aの「切断加工用刃物60a、60b」及び「受刃75、75」は、上記第4の1(1)キにおける【図10】の記載及び本件特許の【図18】の記載からして、本件特許発明1の「上刃」及び「下刃」に相当する。
以下、同様に、引用発明Aの「表面ライナーaと裏面ライナーb」、「中芯c」、「段ボールシート50」、「溝切り装置70」、「切断加工用刃物1」、「扇形状に形成される刃物本体2」、「刃部21」、「粗面部3」、「切断時」、及び、「細いひげ状の切断屑50a」は、それぞれ、本件特許発明1の「一対のライナー」、「中芯」、「段ボールシート」、「切断装置」、「切断加工用刃物」、「扇形状の刃物本体」、「刃部」、「粗面部」、「切断過程」、及び、「糸状の切断屑」に相当する。
また、引用発明Aの「刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で」形成される「粗面部3」は、本件特許発明1の「刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域」に形成される「粗面部」に、「切断加工用刃物の側面」に形成される「粗面部」という限りにおいて相当する。
さらに、引用発明Aの「段ボールシート50の切断端面から前記切断屑50aを取り除く」ことは、上記第4の1(1)キにおける【図11】及び【図12】の記載からみて、本件特許発明1の「一対のライナー間から切断屑を離脱可能とする」ことに相当する。

(2)一致点及び相違点
そうすると、本件特許発明1と引用発明Aとは、以下の一致点1で一致し、相違点1で相違する。

<一致点1>
「上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用される切断加工用刃物であって、
扇形状の刃物本体と、前記刃物本体の外周部に沿って配置される刃部とを備え、
前記切断加工用刃物の側面に粗面部が形成されており、
切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とする、
切断加工用刃物。」

<相違点1>
切断加工用刃物の側面に形成される「粗面部」について、
本件特許発明1は、「刃部の側面」であって該刃部の「刃先を含む領域」に形成される「微小な凹凸」からなる「粗面部」であって、前記粗面部の「最大高さSz」が、「10μm以上400μm以下の範囲」であるのに対し、
引用発明Aは、「刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で」形成される「深さ1mm〜5mmの線状溝31」からなる「粗面部3」である点。


(3)判断
上記相違点1について検討する。

引用発明Aは、粗面部3を、刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で形成するものであって、刃物本体2の外周部に沿って設けられている刃部21の側面の刃先21aを含む領域に形成するものではない。
また、上記第4の1(1)オ及びカにおける【図2】及び【図4】の記載からみて、線状溝31が形成される刃物本体2の厚みは、当該線状溝31の深さに比べて厚く形成されていると認められる一方で、刃部21の刃先部21aの厚みは、線状溝31の深さに比べて薄く形成されていると認められるものであり、引用発明Aにおいて、深さ1mm〜5mmの線状溝31を、当該線状溝31の深さよりも薄く形成されている刃部21の刃先部21aを含む領域に形成しようとする動機を見いだすことはできず、当業者において通常の設計変更によって容易に想到できたものとはいえない。

また、文献2には、シート材にスリットを形成するための切断加工用刃物1において、切込生成刃4の取付部41の底面45の略全領域に亘るように取付部粗面部を構成する取付部線状溝44を形成するという技術的事項について記載されているが、この技術的事項における取付部粗面部は、刃物本体2に対する切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために切込生成刃4の取付部41の底面45の略全領域に亘るように形成される粗面部であり、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に形成される粗面部であるということはできない。
すなわち、文献2には、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項のように、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に粗面部を形成することについて記載されているとは認められない。また、文献2の取付部粗面部は、切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために形成されるものであり、ひげ状の切断屑を切断端面から効果的に削り落として取り除きつつ、シート下方側に切断屑を落とすことを目的とする引用発明Aに適用する動機も見いだせない。

したがって、本件特許発明1は、引用発明A及び文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。

なお、申立人は、異議申立書において、本件特許発明1について、文献1記載の発明に文献2記載の発明を組み合わせることによる容易想到性を主張し、文献3記載の発明を組み合わせることによる容易想到性については主張していないものであるが、以下、文献3記載の発明を組み合わせることによる容易想到性についても検討する。
文献3には、シート材にスリットを形成するための切断加工用刃物1において、切込生成刃4の取付部41の一方面の略全領域に亘るように粗面部を構成する線状溝44を形成するという技術的事項について記載されているが、この技術的事項における粗面部は、刃物本体2に対する切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために切込生成刃4の取付部41の一方面の略全領域に亘るように形成される粗面部であり、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に形成される粗面部であるということはできない。
すなわち、文献3にも、相違点1に係る本件特許発明1の特定事項のように、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に粗面部を形成することについて記載されているとは認められない。また、文献3も、文献2と同様に、切込生成刃の位置ズレを効果的に防止することを目的とするものであり、引用発明Aに適用する動機は見いだせない。

したがって、本件特許発明1は、引用発明A及び文献2ないし3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。


2 本件特許発明2ないし3について
本件特許発明2ないし3は、本件特許発明1に対して、さらに請求項2ないし3に記載される事項を追加したものである。
よって、本件特許発明2ないし3と引用発明Aとは、上記1(2)に示した相違点1で相違するものであり、上記1(3)に示した判断と同様の判断により、本件特許発明2ないし3は、上記引用発明A及び文献2ないし3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。


3 本件特許発明4について
(1)対比
本件特許発明4と引用発明Aとを対比すると、引用発明Aの「切断加工用刃物60a、60b」及び「受刃75、75」は、上記第4の1(1)キにおける【図10】の記載及び本件特許の【図18】の記載からして、本件特許発明4の「上刃」及び「下刃」に相当する。
以下、同様に、引用発明Aの「表面ライナーaと裏面ライナーb」、「中芯c」、「段ボールシート50」、「溝切り装置70」、「切断加工用刃物1」、「扇形状に形成される刃物本体2」、「刃部21」、「切込生成刃4」、「粗面部3」、「切断時」、及び、「細いひげ状の切断屑50a」は、それぞれ、本件特許発明4の「一対のライナー」、「中芯」、「段ボールシート」、「溝切り装置」、「切断加工用刃物」、「扇形状に形成される刃物本体」、「溝切り刃」、「切込生成刃」、「粗面部」、「切断過程」、及び、「糸状の切断屑」に相当する。
また、引用発明Aの「刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で」形成される「粗面部3」は、本件特許発明4の「溝切り刃の外側側面であって該溝切り刃の刃先を含む領域」に形成される「粗面部」に、「切断加工用刃物の側面」に形成される「粗面部」という限りにおいて相当する。
さらに、引用発明Aの「段ボールシート50の切断端面から前記切断屑50aを取り除く」ことは、上記第4の1(1)キにおける【図11】及び【図12】の記載からみて、本件特許発明4の「一対のライナー間から切断屑を離脱可能とする」ことに相当する。

(2)一致点及び相違点
そうすると、本件特許発明4と引用発明Aとは、以下の一致点2で一致し、相違点2で相違する。

<一致点2>
「上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートにスリットを形成する溝切り装置において使用される切断加工用刃物であって、
扇形状に形成される刃物本体と、スリットを形成する溝切り刃と、スリットの端部を形成する切込生成刃とを備え、
前記溝切り刃は、前記刃物本体の厚み方向両側縁に沿ってそれぞれ設けられており、
前記切断加工用刃物の側面に粗面部が形成されており、
切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑と前記粗面部との接触により前記一対のライナー間から前記切断屑を離脱可能とする、
切断加工用刃物。」

<相違点2>
切断加工用刃物の側面に形成される「粗面部」について、
本件特許発明4は、「溝切り刃の外側側面」であって該溝切り刃の「刃先を含む領域」に形成される「微小な凹凸」からなる「粗面部」であって、前記粗面部の「最大高さSz」が、「10μm以上400μm以下の範囲」であるのに対し、
引用発明Aは、「刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で」形成される「深さ1mm〜5mmの線状溝31」からなる「粗面部3」である点。


(3)判断
上記相違点2について検討する。

引用発明Aは、粗面部3を、刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で形成するものであって、刃物本体2の外周部に沿って設けられている刃部21の外側側面の刃先21aを含む領域に形成するものではない。
また、上記第4の1(1)オ及びカにおける【図2】及び【図4】の記載からみて、線状溝31が形成される刃物本体2の厚みは、当該線状溝31の深さに比べて厚く形成されていると認められる一方で、刃部21の刃先部21aの厚みは、線状溝31の深さに比べて薄く形成されていると認められるものであり、引用発明Aにおいて、深さ1mm〜5mmの線状溝31を、当該線状溝31の深さよりも薄く形成されている刃部21の刃先部21aを含む領域に形成しようとする動機を見いだすことはできず、当業者において通常の設計変更によって容易に想到できたものとはいえない。

また、文献2には、シート材にスリットを形成するための切断加工用刃物1において、切込生成刃4の取付部41の底面45の略全領域に亘るように取付部粗面部を構成する取付部線状溝44を形成するという技術的事項について記載されているが、この技術的事項における取付部粗面部は、刃物本体2に対する切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために切込生成刃4の取付部41の底面45の略全領域に亘るように形成される粗面部であり、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の外側側面に形成される粗面部であるということはできない。
すなわち、文献2には、相違点2に係る本件特許発明4の特定事項のように、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の外側側面に粗面部を形成することについて記載されているとは認められない。また、文献2の取付部粗面部は、切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために形成されるものであり、ひげ状の切断屑を切断端面から効果的に削り落として取り除きつつ、シート下方側に切断屑を落とすことを目的とする引用発明Aに適用する動機も見いだせない。

したがって、本件特許発明4は、引用発明A及び文献2に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。

なお、申立人は、異議申立書において、本件特許発明4について、文献1記載の発明に文献2記載の発明を組み合わせることによる容易想到性を主張し、文献3記載の発明を組み合わせることによる容易想到性については主張していないものであるが、以下、文献3記載の発明を組み合わせることによる容易想到性についても検討する。
文献3には、シート材にスリットを形成するための切断加工用刃物1において、切込生成刃4の取付部41の一方面の略全領域に亘るように粗面部を構成する線状溝44を形成するという技術的事項について記載されているが、この技術的事項における粗面部は、刃物本体2に対する切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために切込生成刃4の取付部41の一方面の略全領域に亘るように形成される粗面部であり、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の外側側面に形成される粗面部であるということはできない。
すなわち、文献3にも、相違点2に係る本件特許発明4の特定事項のように、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の外側側面に粗面部を形成することについて記載されているとは認められない。また、文献3も、文献2と同様に、切込生成刃の位置ズレを効果的に防止することを目的とするものであり、引用発明Aに適用する動機は見いだせない。
したがって、本件特許発明4は、引用発明A及び文献2ないし3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。


4 本件特許発明5ないし12について
本件特許発明5ないし12は、本件特許発明4に対して、さらに請求項5ないし12に記載される事項を追加したものである。
よって、本件特許発明5ないし12と引用発明Aとは、上記3(2)に示した相違点2で相違するものであり、上記3(3)に示した判断と同様の判断により、本件特許発明5ないし12は、上記引用発明A及び文献2ないし3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。


5 本件特許発明13について
(1)対比
本件特許発明13と引用発明Bとを対比すると、引用発明Bの「切断加工用刃物60a、60b」及び「受刃75、75」は、上記第4の1(1)キにおける【図10】の記載および本件特許の【図18】の記載からして、本件特許発明13の「上刃」及び「下刃」に相当する。
以下、同様に、引用発明Bの「表面ライナーaと裏面ライナーb」、「中芯c」、「段ボールシート50」、「溝切り装置70」、「切断時」、「細いひげ状の切断屑50a」、「切断加工用刃物1」、「扇形状の刃物本体2」、及び、「粗面部3」は、それぞれ、本件特許発明13の「一対のライナー」、「中芯」、「段ボールシート」、「切断装置」、「切断過程」、「糸状の切断屑」、「切断加工用刃物」、「扇形状の刃物本体」、及び、「粗面部3」に相当する。
また、引用発明Bの「細いひげ状の切断屑50aを段ボールシート50の切断端面から取り除く」ことは、上記第4の1(1)キにおける【図11】及び【図12】の記載からみて、本件特許発明13の「糸状の切断屑を前記一対のライナー側から離脱可能」とすることに相当する。
さらに、引用発明Bの「刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で」形成される「粗面部3」は、本件特許発明13の「刃部の側面であって該刃部の刃先を含む領域」に形成される「粗面部」に、「切断加工用刃物の側面」に形成される「粗面部」という限りにおいて相当する。


(2)一致点及び相違点
そうすると、本件特許発明13と引用発明Bとは、以下の一致点3で一致し、相違点3で相違する。

<一致点3>
「上刃と下刃との協働によって、一対のライナーの間に中芯を備える段ボールシートを切断する切断装置において使用され、切断過程で形成される前記中芯に基づく糸状の切断屑を前記一対のライナー側から離脱可能な切断加工用刃物の製造方法であって、
切断加工用刃物の側面に粗面部を形成する粗面部形成ステップを備える、
切断加工用刃物の製造方法。」

<相違点3>
粗面部形成ステップにおいて、切断加工用刃物の側面に形成される「粗面部」について、
本件特許発明13は、「扇形状の刃物本体の外周部に沿って配置される刃部の側面」であって該刃部の「刃先を含む領域」に、「ブラスト加工」によって形成される、「最大高さSz」が、「10μm以上400μm以下の範囲」となる「微小な凹凸」からなる「粗面部」であるのに対し、
引用発明Bは、「扇形状の刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で」形成される「深さ1mm〜5mmの線状溝31」からなる「粗面部3」である点。


(3)判断
上記相違点3について検討する。

引用発明Bは、粗面部3を、刃物本体2の側面に刃部21の刃先21aとの間に所定間隔をあけた状態で形成するものであって、刃物本体2の外周部に沿って配置される刃部21の側面であって該刃部21の刃先21aを含む領域に形成するものではない。
また、上記第4の1(1)オ及びカにおける【図2】及び【図4】の記載からみて、線状溝31が形成される刃物本体2の厚みは、当該線状溝31の深さに比べて厚く形成されていると認められる一方で、刃部21の刃先部21aの厚みは、線状溝31の深さに比べて薄く形成されていると認められるものであり、引用発明Bにおいて、深さ1mm〜5mmの線状溝31を、当該線状溝31の深さよりも薄く形成されている刃部21の刃先部21aを含む領域に形成しようとする動機を見いだすことはできず、当業者において通常の設計変更によって容易に想到できたものとはいえない。

また、文献2には、シート材にスリットを形成するための切断加工用刃物1において、切込生成刃4の取付部41の底面45の略全領域に亘るように取付部粗面部を構成する取付部線状溝44を形成するという技術的事項について記載されているが、この技術的事項における取付部粗面部は、刃物本体2に対する切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために切込生成刃4の取付部41の底面45の略全領域に亘るように形成される粗面部であり、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に形成される粗面部であるということはできない。
すなわち、文献2には、相違点3に係る本件特許発明13の特定事項のように、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に粗面部を形成することについて記載されているとは認められない。また、文献2の取付部粗面部は、切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために形成されるものであり、ひげ状の切断屑を切断端面から効果的に削り落として取り除きつつ、シート下方側に切断屑を落とすことを目的とする引用発明Bに適用する動機も見いだせない。
さらに、文献3には、シート材にスリットを形成するための切断加工用刃物1において、切込生成刃4の取付部41の一方面の略全領域に亘るように粗面部を構成する線状溝44を形成するという技術的事項について記載されているが、この技術的事項における粗面部は、刃物本体2に対する切込生成刃4の位置ズレを効果的に防止するために切込生成刃4の取付部41の一方面の略全領域に亘るように形成される粗面部であり、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に形成される粗面部であるということはできない。
すなわち、文献3にも、相違点3に係る本件特許発明13の特定事項のように、刃物本体2の外周部に沿って配置される溝切り刃3の側面に粗面部を形成することについて記載されているとは認められない。また、文献3も、文献2と同様に、切込生成刃の位置ズレを効果的に防止することを目的とするものであり、引用発明Bに適用する動機は見いだせない。
したがって、本件特許発明13は、引用発明B及び文献2ないし3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。


6 本件特許発明14ないし15について
本件特許発明14ないし15は、本件特許発明13に対して、さらに請求項14ないし15に記載される事項を追加したものである。
よって、本件特許発明14ないし15と引用発明Bとは、上記5(2)に示した相違点3で相違するものであり、上記5(3)に示した判断と同様の判断により、本件特許発明14ないし15は、上記引用発明B及び文献2ないし3に記載された技術的事項に基いて、当業者が容易に想到し得るものではない。


第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件特許発明1ないし15を取り消すことはできない。
また、他に本件特許発明1ないし15を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。

 
異議決定日 2022-03-08 
出願番号 P2020-156127
審決分類 P 1 651・ 121- Y (B26D)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 河端 賢
特許庁審判官 貞光 大樹
大山 健
登録日 2021-05-18 
登録番号 6886092
権利者 近畿刃物工業株式会社
発明の名称 切断加工用刃物及びその製造方法  
代理人 藤飯 章弘  

プライバシーポリシー   セキュリティーポリシー   運営会社概要   サービスに関しての問い合わせ