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審決分類 |
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 H01M 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 H01M 審判 全部申し立て 2項進歩性 H01M |
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管理番号 | 1384276 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-16 |
確定日 | 2022-03-28 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6888139号発明「二次電池用結着剤」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6888139号の請求項1〜8に係る特許を維持する。 |
理由 |
1 手続の経緯 特許第6888139号の請求項1〜8に係る特許(以下、「本件特許」という。)についての出願は、令和2年2月26日の出願であって、令和3年5月21日にその特許権の設定登録がなされ、同年6月16日にその特許掲載公報が発行された。 本件は、その後、その特許について、同年12月16日付けで特許異議申立人安藤宏(以下、「申立人」という。)により請求項1〜8(全請求項)に対してなされた特許異議申立事件である。 2 本件発明 本件特許の特許請求の範囲の請求項1〜8に係る発明(以下、これらをそれぞれ「本件発明1」〜「本件発明8」という。また、これらをまとめて「本件発明」という。)は、願書に添付された特許請求の範囲の請求項1〜8に記載された、次の事項により特定されるとおりのものである。 「【請求項1】 高分子化合物を含む二次電池用結着剤であって、 前記高分子化合物は、アクリル系繰り返し単位を含み、 前記高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、14以下であり、 前記高分子化合物は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む、二次電池用結着剤。 【化1】 〔式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R2は、それぞれ独立に、ONa基又はOLi基である。〕 【請求項2】 前記高分子化合物は、下記式(2)で表される繰り返し単位を含む、請求項1に記載の二次電池用結着剤。 【化2】 【請求項3】 請求項1又は2に記載の二次電池用結着剤と、活物質と、を含む、二次電池電極用合剤。 【請求項4】 前記活物質が、炭素材料を含む、請求項3に記載の二次電池電極用合剤。 【請求項5】 前記活物質が、ケイ素及びケイ素酸化物のうち少なくとも一方を含む、請求項3又は4に記載の二次電池電極用合剤。 【請求項6】 請求項3〜5のいずれか1項に記載の二次電池電極用合剤を含む、二次電池用電極。 【請求項7】 請求項6に記載の二次電池用電極を含む、二次電池。 【請求項8】 請求項6に記載の二次電池用電極を含む、リチウムイオン二次電池。」 3 特許異議申立理由の概要 申立人は、次の甲第1号証〜甲第8号証(以下、それぞれ「甲1」〜「甲8」という。)を提出し、以下の(1)〜(4)の特許異議申立理由を主張している。 (証拠方法) 甲1:国際公開第2018/173717号 甲2:国際公開第2019/065705号 甲3:国際公開第2014/207967号 甲4:本件特許に係る出願の令和2年10月15日提出の意見書 甲5:国際公開第2018/180812号 甲6:特開平10−168104号公報 甲7:「化学大辞典」第1版第5刷,株式会社東京化学同人,1998年6月1日発行,第498頁 甲8:国際公開第2016/171278号 (1)本件特許の請求項1、3〜8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当し、特許を受けることができないし、また、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲1に記載された発明に基いて、その出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(特許異議申立書(以下、「申立書」という。)第15頁第12行〜第16頁最終行)。 (2)本件特許の請求項1〜8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲2に記載された発明及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(申立書第17頁第1行〜第19頁第9行)。 (3)本件特許の請求項1〜8に係る発明は、本件特許の出願前日本国内または外国において電気通信回線を通じて公衆に利用可能となった甲3に記載された発明及び周知の技術事項に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものであって、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないから、その発明に係る特許は取り消されるべきものである(申立書第19頁第10〜22行)。 (4)請求項1〜8には、けん化処理により作製することが特定されておらず、本件特許は、その特許請求の範囲の記載が不備のため、本件発明の課題を解決するための手段が反映されていないから、特許法第36条第6項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、取り消されるべきものである(申立書第19頁第23行〜第20頁第15行)。 4 本件明細書の記載 本件の願書に添付された明細書(以下、「本件明細書」という。)には、次の記載がある。 「【0013】 このような状況下、本発明は、結着力に優れる、二次電池用結着剤を提供することを主な目的とする。また、本発明は、当該二次電池用結着剤を利用した、二次電池電極用合剤、二次電池用電極、及び二次電池を提供することも目的とする。」 「【0020】 1.二次電池用結着剤 本発明の二次電池用結着剤は、高分子化合物を含む二次電池用結着剤である。高分子化合物は、アクリル系繰り返し単位を含む。また、高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度は、14以下である。本発明の二次電池用結着剤は、高分子化合物がこのような構成を充足することにより、優れた結着性を発揮する。黄色度と結着力の関係については着色成分となる不純物が結着剤と基材間に存在することにより、結着剤の結着を阻害することが考えられる。すなわち、アクリル系繰り返し単位を含む高分子化合物は、これら繰り返し単位を形成する各モノマーを共重合した場合、未反応のモノマーによる着色が生じやすい。未反応モノマーは、なるべく少ないことが望ましいが、完全に無くすことは困難であり、黄色度の大きさに影響を与え、その量や種類によって着色が変化し、黄色度も変化する。また、黄色度は、高分子化合物を製造する際のけん化条件(けん化温度や、各成分の混合速度など)によっても変化する。さらに、未反応のモノマーと反応するヒドラジン等の製造工程における添加も、黄色度に影響し、黄色度の大きさを調整することができる。従って、本発明の二次電池用結着剤において、高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度は、けん化温度を低くしたり、けん化時において各成分を一括で混合したり、ヒドラジンなどを用いることにより、黄色度を14以下に設定しやすくなる。」 「【0064】 [二次電池用結着剤の合成] (製造例1) 攪拌機、温度計、N2ガス導入管、還流冷却機および滴下ロートを備えた反応槽に、水768質量部および無水硫酸ナトリウム12質量部を仕込み、N2ガスを吹き込んで系内を脱酸素した。続いて、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88%)1質量部およびラウリルパーオキシド1質量部を仕込み、内温を60℃まで昇温した後、アクリル酸メチル51.8質量部および酢酸ビニル208質量部を滴下漏斗により4時間かけて滴下した。その後、内温を65℃で2時間保持した。その後、固形分を濾別した。上記同様の反応槽に、メタノール450質量部、水420質量部、水酸化ナトリウム132質量部、ヒドラジン0.52質量部を仕込み、前記固形分を10分割し、30℃の環境で10時間かけて分割添加した。全量添加した後、30℃の条件下で3時間撹拌しながら、混合した。攪拌終了後、固体を濾別後、メタノールで洗浄し、70℃で8時間乾燥し、ビニルアルコール/アクリル酸エステル共重合体(二次電池用結着剤)を取得した。得られた共重合体について、以下の条件で1H−NMR(BRUKER)測定を行った結果、前記式(1)及び(2)で表される各繰り返し単位に由来する構造を含んでいることが確認された。」 「【0067】 (製造例2) 製造例1において、上記固形分、メタノール450質量部、水420質量部、水酸化ナトリウム132質量部、ヒドラジン0.52質量部を、30℃に保持しながら一括混合し、そのまま3時間撹拌したこと以外は、製造例1と同様にして、ビニルアルコール/アクリル酸エステル共重合体(二次電池用結着剤)を取得した。得られた共重合体について、前記と同様にして1H−NMR(BRUKER)測定を行った結果、前記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位に由来する構造を含んでいることが確認された。また、製造例1と同様にして、得られた共重合体の3質量%水溶液の黄色度の測定を行った。結果を表1に示す。 【0068】 (製造例3) 製造例1におけるラウリルパーオキシド1質量部を、ジメチル2,2−アゾビス(2−メチルプロピオネート)0.5質量部に変更した以外は、製造例1と同様にして、ビニルアルコール/アクリル酸エステル共重合体(二次電池用結着剤)を取得した。得られた共重合体について、前記と同様にして1H−NMR(BRUKER)測定を行った結果、前記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位に由来する構造を含んでいることが確認された。また、製造例1と同様にして、得られた共重合体の3質量%水溶液の黄色度の測定を行った。結果を表1に示す 【0069】 (製造例4) 製造例1において、上記固形分を、40℃に保持しながら10時間かけて撹拌、混合したこと以外は、製造例1と同様にして、ビニルアルコール/アクリル酸エステル共重合体(二次電池用結着剤)を取得した。得られた共重合体について、前記と同様にして1H−NMR(BRUKER)測定を行った結果、前記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位が確認された。また、製造例1と同様にして、得られた共重合体の3質量%水溶液の黄色度の測定を行った。結果を表1に示す。 【0070】 (製造例5) 製造例1において、上記固形分を、50℃に保持しながら10時間かけて撹拌、混合したこと以外は、製造例1と同様にして、ビニルアルコール/アクリル酸エステル共重合体(二次電池用結着剤)を取得した。得られた共重合体について、前記と同様にして1H−NMR(BRUKER)測定を行った結果、前記式(1)及び(2)で表される繰り返し単位に由来する構造を含んでいることが確認された。また、製造例1と同様にして、得られた共重合体の3質量%水溶液の黄色度の測定を行った。結果を表1に示す。 【0071】 [二次電池電極用合剤及び電極の作製] (実施例1) 製造例1で得られた共重合体4質量部を水96質量部に溶解させ、結着剤(結着剤組成物)の水溶液を得た。次に、電極活物質として人造黒鉛(日立化成株式会社製、MAG−D)90.2質量部、一酸化ケイ素(大阪チタニウムテクノロジーズ)6.8質量部および結着剤水溶液75質量部に加え混練した。さらに、粘度調製用の水96質量部を添加して混練することで、スラリー状の負極合剤を調製した。得られた負極合剤を厚さ18μmの圧延銅箔上に塗布し、乾燥させた後、ロールプレス機(大野ロール株式会社製)により、圧延銅箔と塗膜とを密着接合させ、次に加熱処理(減圧、120℃、12時間以上)を行って負極を作製した。得られた負極における活物質層の厚みは42μmであり、当該負極の容量密度は3.24mAh/cm2であった。 【0072】 (実施例2) 結着剤として製造例2で得られた共重合体を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。 【0073】 (実施例3) 結着剤として製造例3で得られた共重合体を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。 【0074】 (比較例1) 結着剤として製造例4で得られた共重合体を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。 【0075】 (比較例2) 結着剤として製造例5で得られた共重合体を使用したこと以外は、実施例1と同様にして負極を作製した。 【0076】 [結着力] 実施例1−3及び比較例1−2で得られた負極について、それぞれ、集電極である銅箔から活物質層を剥離したときの剥離強度(N/15mm)を測定し、結着力とした。具体的な方法として、負極を幅80mm×15mmに切り出して粘着テープを表面(負極活物質層側)に貼り付けた後、両面テープでステンレス製の板に貼り付け負極(集電体側)を固定し、これを評価用サンプルとした。この評価用サンプルを用いて引張試験機(株式会社島津製作所製 小型卓上試験機EZ−SX)にてステンレス製の板に対する負極の90度剥離試験(ステンレス製の板に固定した負極に対する粘着テープの90度剥離試験)を実施し、負極における活物質層と集電体間の剥離強度を測定した。表1に剥離試験(剥離強度)の評価結果を示す。 【0077】 【表1】 」 5 各甲号証の記載 (1)甲1の記載 甲1には、次の記載がある。なお、各甲号証に記載された発明の認定に関連する箇所には、当審で下線を付した。以下、同じ。 「[0005]本発明は、接着性に優れた層を形成できる、非水系二次電池用バインダー組成物、前記バインダー組成物と水とを含む非水系二次電池用スラリー組成物、並びに充放電の繰り返しによる放電容量の低下及び電池膨れが抑制された非水系二次電池を提供することを目的とする。 課題を解決するための手段 [0006]本発明者らは、上記課題に鑑みて鋭意研究した結果、特定の成分を特定割合で含む非水溶性重合体と、特定の水溶性重合体とを組み合わせたバインダー組成物が、上記課題を解決できることを見出し、本発明を完成した。」 「[0013][1.非水系二次電池用バインダー組成物] 本発明の非水系二次電池用バインダー組成物は、非水溶性重合体及び水溶性重合体を含む。」 「[0156][製造例1−1](非水溶性重合体A1の製造) イソプレンゴム(日本ゼオン株式会社製、製品名「Nipol IR2200」)をトルエンに溶解し、濃度25%のイソプレンゴム溶液を準備した。続いて、直鎖アルキルベンゼンスルホン酸ナトリウムをイオン交換水に溶解し、固形分濃度5%の水溶液を調製した。上記イソプレンゴム溶液500gと上記水溶液500gとをタンク内に投入し、撹拌して予備混合を行った。続いて、得られた予備混合液をタンク内から定量ポンプにて100g/分の速度でマイルダー(太平洋機工社製、製品名「MDN303V」)へと移送し、回転数20000rpmで撹拌して、乳化(転相乳化)した。次に、得られた乳化液中のトルエンをロータリーエバポレータにて減圧留去した後、コック付きのクロマトカラム中で1日静置して2層に分離し、分離後の下層部分を除去することにより、濃縮を行った。そして、上層部分を100メッシュの金網で濾過して、ポリイソプレン(IR)の粒子を含むラテックスを調製した。得られたポリイソプレンのラテックスの固形分濃度は60%、含まれるポリイソプレン粒子の体積平均粒子径は0.9μmであった。 エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてのアクリル酸5部、乳化剤としてのラウリル硫酸ナトリウム2.5部(イオン交換水を加えて20%水溶液として使用)を容器Xに加え撹拌し、乳化を行った。 その後、容器Xに作製した体積平均粒子径が0.9μmの粒子状ポリイソプレンを含むラテックス(固形分濃度60%)を固形分相当で95部加え2時間放置し、放置後に攪拌を行った。十分に攪拌した後、更に、重合開始剤としてのテトラエチレンペンタアミン0.6部及びt−ブチルヒドロオキシド0.6部を容器Xに添加して、グラフト重合を開始した。反応温度は、30℃を維持した。グラフト重合開始から1.5時間後、70℃に昇温し、3時間保持した後、重合転化率が97%以上となったことを確認して反応を停止させ、粒子に対しエチレン性不飽和カルボン酸単量体単位からなるグラフト部分が導入された粒子状重合体(非水溶性重合体A1)を含む水分散液(固形分濃度:40%)を得た。」 「[0160][製造例2−2](水溶性重合体W2の製造) セプタム付き1Lフラスコに、イオン交換水720gを投入して、温度40℃に加熱し、流量100mL/分の窒素ガスでフラスコ内を置換した。次に、イオン交換水10gと、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてのアクリル酸25部と、(メタ)アクリルアミド単量体としてのアクリルアミド35部と、ヒドロキシ基含有ビニル単量体としての2−ヒドロキシエチルアクリレート40部とを混合して、シリンジでフラスコ内に注入した。その後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液8部をシリンジでフラスコ内に追加した。更に、その15分後に、重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液22部をシリンジで追加した。4時間後、重合開始剤としての過硫酸カリウムの2.5%水溶液4部をフラスコ内に追加し、更に重合促進剤としてのテトラメチルエチレンジアミンの2.0%水溶液11部を追加して、温度を60℃に昇温し、重合反応を進めた。3時間後、フラスコを空気中に開放して重合反応を停止させ、生成物を温度80℃で脱臭し、残留単量体を除去した。その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整することにより、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、(メタ)アクリルアミド単量体単位及びヒドロキシ基含有ビニル単量体単位を所定の割合で含有する水溶性重合体W2を含む水溶液を得た。この水溶液の一部を取り出し、濃度を1%に調整して、調整後の水溶液の粘度を測定した。」 「[0162][実施例1] (負極スラリー組成物の調製) ディスパー付きのプラネタリーミキサーに、負極活物質としての人造黒鉛(日立化成社製、製品名「MAG−E」)100部、導電材としてのカーボンブラック(TIMCAL社製、製品名「Super C65」)1部、さらに非水溶性重合体A1と水溶性重合体W3を固形分比で、2:1で混合したものを3部(固形分相当)加えて混合物を得た。得られた混合物をイオン交換水で固形分濃度50%に調整した後、25℃で60分間混合した。次に、イオン交換水で固形分濃度48%に調整した後、更に25℃で15分間混合して混合液を得た。更に10分間混合した後、減圧下で脱泡処理することにより、流動性の良い非水系二次電池負極用スラリー組成物を得た。」 「[0167][実施例2] 負極スラリー組成物の調製において、水溶性重合体W3の代わりに水溶性重合体W2を用いた以外は実施例1と同様にして、リチウムイオン二次電池を製造した。」 (2)甲2の記載 甲2には、次の記載がある。 「[0012]このような状況下、本発明は、十分な結着力を有し、非水電解質二次電池を低抵抗化できる電極用バインダーを提供することを主な目的とする。 課題を解決するための手段 [0013]本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した。その結果、ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、及びポリビニルアルコールを含むバインダーを、非水電解質二次電池の電極に用いることにより、十分な結着力を発揮し、さらに非水電解質二次電池を低抵抗化できることを見出した。」 「[0016]以下、本発明の非水電解質二次電池電極用バインダー、非水電解質二次電池用電極合剤、非水電解質二次電池用電極、非水電解質二次電池、及び電気機器について詳述する。」 「[0090]以下、本発明を実施例によりさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。 [0091]<共重合体Aの作製> 以下の工程1〜3により、共重合体Aを作製した。 [0092](工程1:ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合させた前駆体(前駆体)の合成) 攪拌機、温度計、N2ガス導入管、還流冷却機及び滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、水768g及び無水硫酸ナトリウム12gを仕込み、N2ガスを吹き込んで系内を脱酸素した。続いて、部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88%)1g及びラウリルパーオキシド1gを仕込み、内温を60℃まで昇温した後、アクリル酸メチル104g(1.209mol)及び酢酸ビニル155g(1.802mol)を滴下ロートにより4時間かけて滴下した。その後、内温を65℃で2時間保持した。次いで、固形分を濾別することにより、前駆体288g(10.4質量%含水)を得た。得られた前駆体をDMFに溶解させた後、フィルターにてろ過し、分子量測定装置(ウォーターズ社製2695、RI検出器2414)を用いてろ液中の前駆体の分子量を測定した。標準ポリスチレン換算で算出された数平均分子量は1,880,000であった。 [0093](工程2:ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体(共重合体)の合成) 工程1と同様の反応槽に、メタノール450g、水420g、水酸化ナトリウム132g(3.3mol)及び工程1で得られた前駆体288g(10.4質量%含水)を仕込み、攪拌下で30℃、3時間ケン化反応を行った。ケン化反応終了後、得られた共重合体をメタノールで洗浄、濾過し、70℃で6時間乾燥させ、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体(ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、アルカリ金属はナトリウム、ケン化度98.8%)193gを得た。得られた共重合体の体積平均粒子径は、180μmであった。 [0094](工程3:ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体(共重合体)の粉砕) 工程2で得られた共重合体193gを、ジェットミル(日本ニューマチック工業(株)製、LJ)により粉砕し、微粉末状の共重合体(共重合体A)173gを得た。得られた共重合体Aの粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置((株)島津製作所製、SALD−7100)により測定したところ、体積平均粒子径は39μmであった。 [0095]<バインダー、電極合剤、及び電極の作製> (実施例1) 上記で得られた共重合体A2.7質量部とポリビニルアルコール((株)クラレ製、クラレポバール105、数平均分子量22,000)0.3質量部とを水50質量部に溶解させ、バインダー(バインダー組成物)の水溶液を得た。次に、電極活物質として人造黒鉛(日立化成(株)製、MAG−D)96.5質量部、及び導電助剤としてアセチレンブラック(AB)(電気化学工業(株)製、デンカブラック(登録商標))0.5質量部を上記バインダー水溶液に加え混練した。さらに、粘度調製用の水70質量部を添加して混練することで、スラリー状の負極合剤を調製した。得られた負極合剤を厚さ10μmの電解銅箔上に塗布し、乾燥させた後、ロールプレス機(大野ロール(株)製)により、電解銅箔と塗膜とを密着接合させ、次に加熱処理(減圧中、140℃、3時間以上)を行って負極を作製した。得られた負極における活物質層の厚みは100μmであり、当該負極の容量密度は3.0mAh/cm2であった。 [0096](実施例2) 実施例1において、共重合体Aを2.4質量部用い、ポリビニルアルコール((株)クラレ製、クラレポバール105、数平均分子量22,000)を0.6質量部用いたこと以外は、実施例1と同様にして、負極を作製した。得られた負極における活物質層の厚みは101μmであり、当該負極の容量密度は3.0mAh/cm2であった。」 (3)甲3の記載 甲3には、次の記載がある。 「[0015]本発明は、上記課題に鑑みてなされたものであり、その主な目的は、充放電の繰り返しに起因する負極活物質の体積変化によって負極集電体から負極合剤が剥離したり、負極活物質が脱離したりしないような結着力と結着持続性を示し、特に、45℃以上でも当該結着力と結着持続性を有しているとともに増粘剤の効果も併せ持つ材料を提供し、かつ、水を分散剤に用いたスラリーにて作成され、負極活物質の容量を低下させることのない非水電解質二次電池用負極合剤を提供することにある。 課題を解決するための手段 [0016]本発明者らは、上記課題を解決するために鋭意検討した結果、特定の結着剤を含む非水電解質二次電池用負極合剤を用いることで、負極集電体からの負極合剤の剥離や、負極活物質の脱離を防ぎ、寿命特性に優れた非水電解質二次電池が得られることを見出し、本発明を完成するに至った。」 「[0034]<非水電解質二次電池用負極合剤> 本実施形態の非水電解質二次電池用負極合剤は、負極活物質、導電助剤および結着剤を有し、結着剤がビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含んでいることを特徴とする。 [0035](結着剤) 本実施形態において結着剤として用いられるビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体は、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルを主体とする単量体を重合触媒の存在下で重合し、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体とし、該共重合体をアルカリ金属を含むアルカリの存在下、水性有機溶媒と水の混合溶媒中でケン化することにより得られる。」 「[0104]以下、実施例により本実施形態を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。 [0105](結着剤の作製) (製造例1)ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体の合成 撹拌機、温度計、N2ガス導入管、還流冷却機および滴下ロートを備えた容量2Lの反応槽に、水768g、無水硫酸ナトリウム12gを仕込み、N2ガスを吹き込んで系内を脱酸素した。続いて部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88%)1g、ラウリルパーオキシド1gを仕込み内温60℃まで昇温した後、アクリル酸メチル104g(1.209mol)および酢酸ビニル155g(1.802mol)の単量体を滴下ロートにより4時間かけて適下(当審注:「滴下」の誤記であると認める。)した後、内温65℃で2時間保持し反応を完結させた。その後、固形分を濾別することによりビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体288g(10.4%含水)を得た。得られた重合体をDMFに溶解させた後フィルターにてろ過を実施、分子量測定装置(ウォーターズ社製2695、RI検出器2414)により求めた数平均分子量は18.8万であった。 [0106](製造例2)ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物の合成 上記同様の反応槽に、メタノール450g、水420g、水酸化ナトリウム132g(3.3mol)および製造例1で得られた含水共重合体288g(10.4%含水)を仕込み、撹拌下で30℃、3時間ケン化反応を行った。ケン化反応終了後、得られた共重合体ケン化物をメタノールで洗浄、濾過し、70℃で6時間乾燥させ、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物(ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、アルカリ金属はナトリウム)193gを得た。ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物の質量平均粒子径は180μmであった。 [0107](製造例3)ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物の粉砕 上記ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物193gを、ジェットミル(日本ニューマチック工業社製LJ)により粉砕し、微粉末状のビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物173gを得た。得られた共重合体ケン化物の粒子径をレーザー回折式粒度分布測定装置(島津製作所社製SALD−7100)により測定し、得られた体積平均粒子径を質量平均粒子径に読み替えた。質量平均粒子径は39μmであった。以降、製造例3で得られたビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物を共重合体1と表記する。 [0108]得られた共重合体1の1質量%水溶液の粘度は1,630mPa・s、ビニルエステルとエチレン性不飽和カルボン酸エステルの共重合組成比はモル比で6/4であった。」 「[0111](Si/C負極の作製) (実施例1) Si(Si:5−10μm 福田金属箔紛工業株式会社製)10質量部とC(非晶質炭素、ソフトカーボン)90質量部を出発材料とし、バッチ式高速遊星ミル(ハイジーBX254E、クリモト社製)を用いて、ジルコニア製のボール及び容器にてメカニカルミリング処理(常温、常圧、アルゴンガス雰囲気下)を行うことにより、Siの表面にソフトカーボンを被覆した複合粉末(Si/C=1/9複合体)を作製した。 [0112]上記で得られた活物質(Si/C=1/9複合体)85質量部、製造例3で得られたビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体(共重合体1)10質量部、アセチレンブラック(AB)(電気化学工業株式会社製、商品名デンカブラック(登録商標))3質量部、気相成長炭素繊維(昭和電工社製、VGCF)2質量部、水400質量部を混合してスラリー状の負極合剤を調製した。 [0113]得られた合剤を厚さ40μmの電解銅箔上に塗布・乾燥後、電解銅箔と塗膜とを密着接合させ、次に、加熱処理(減圧中、180℃、3時間以上)を行って負極を作製した。活物質層の厚みは152μm、負極の容量密度は3.0mAh/cm2であった。」 (4)甲4の記載 甲4には、次の記載がある。 「理由1,2.新規性及び進歩性 拒絶理由通知書におきましては、「引用文献1に記載された発明の「得られた共重合体ケン化物をメタノールで洗浄」は、出願時の技術常識を考慮すると、モノマー残の除去工程であるといえるし(必要であれば、引用文献2の段落0056等を参照。)、さらに、引用文献1に記載された発明は、30℃で3時間ケン化反応を行うものでもある。そうすると、引用文献1に記載された発明は、その製造方法から、請求項1に係る発明の「高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、14以下である」という特定事項を満たすといえる。」とのご見解が示されました。 しかしながら、モノマー残を含む共重合体は、けん化によって着色されますので、けん化した共重合体をメタノールで洗浄しましても、黄色度を14以下にまで低減することは困難であります。」(【意見の内容】欄) (5)甲5の記載 甲5には、次の記載がある。 「[0001]本明細書に開示の技術は、リチウムイオン二次電池等に使用可能な非水電解質二次電池電極用バインダー及びその用途、並びに、該バインダーに用いられるカルボキシル基含有架橋重合体又はその塩の製造方法に関する。」 「[0006]本明細書に開示の技術は、このような事情に鑑みてなされたものであり、優れた結着性を備える非水電解質二次電池用水系バインダー、該バインダーに用いられる重合体又はその塩並びにその製造方法を提供する。 課題を解決するための手段 [0007]本発明者らが鋭意検討した結果、カルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩(以下、架橋重合体(塩)ともいう。)であって、架橋重合体(塩)内に単量体として残存するアクリル酸量を制御した架橋重合体又はその塩を含む非水電解質二次電池電極用バインダーを用いて得られた電極合剤層が、優れた結着性を示すという知見を得た。本明細書によれば、かかる知見に基づき以下の手段が提供される。 [0008]本明細書の開示は、非水電解質二次電池電極用バインダーに用いられるカルボキシル基を有する架橋重合体又はその塩の製造方法を提供する。この架橋重合体又はその塩の製造方法は、全構造単位に対して、エチレン性不飽和カルボン酸単量体に由来する構造単位を50質量%以上100質量%以下含む単量体成分を沈殿重合する重合工程と、 前記重合工程の後に1又は複数回の洗浄工程を備え、 前記洗浄工程により、前記架橋重合体及びその塩の総量に対する前記エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその塩を未中和型に換算した総量を5.0質量%以下とすることができる。」 「[0056]本開示の製造方法では、重合工程を経て得られた架橋重合体分散液を洗浄する、洗浄工程を備えることができる。洗浄工程により、重合工程における未反応単量体(及びその塩)を除去することができる。洗浄工程は、重合工程に引き続き、遠心分離及び濾過等の固液分離工程を経た後、固液分離工程により得られたケーキ成分を有機溶剤又は有機溶剤/水の混合溶剤を用いて洗浄することにより行われる。上記洗浄工程を備えた場合、架橋重合体が二次凝集した場合であっても使用時に解れやすく、さらに残存する未反応単量体が除去されることにより結着性や電池特性の点でも良好な性能を示す。尚、洗浄工程は、1又は複数回行うことができる。洗浄工程の回数は特に限定されるものではないが、例えば1回とすることができる。洗浄工程の回数は、また例えば2回以上であり、また例えば3回以上であり、また例えば4回以上であり、また例えば5回以上であり、また例えば6回以上であり、また例えば7回以上である。 洗浄工程において使用する洗浄溶剤としては、重合溶媒として用いる溶剤を使用することができる。具体的な洗浄溶剤としては、メタノール、t−ブチルアルコール、アセトン、アセトニトリル及びテトラヒドロフラン等の水溶性溶剤の他、ベンゼン、酢酸エチル、ジクロロエタン、n−ヘキサン、シクロヘキサン及びn−ヘプタン等が挙げられ、これらの1種を単独であるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。又は、これらと水との混合溶媒として用いてもよい。これらの内でも、未反応単量体(及びその塩)の除去効率の点でメタノール等のアルコール系溶剤、及びアセトニトリルを好適に用いることができる。 洗浄溶剤の使用量は、特に限定されるものではないが、架橋重合体に対する質量比として0.1倍以上20倍以下の洗浄溶剤を用いることができ、0.2倍以上15倍以下でもよく、0.3倍以上10倍以下でもよい。」 6 引用発明 (1)甲1に記載された発明 上記5の(1)の摘記中、実施例2で調製された負極スラリー組成物に用いる非水系二次電池用バインダー組成物に注目すると、上記5の(1)(特に、[0013]、[0160]、[0162]、[0167]参照。)によれば、甲1には、次の発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。 「非水溶性重合体及び水溶性重合体を含む非水系二次電池用バインダー組成物であって、 イオン交換水と、エチレン性不飽和カルボン酸単量体としてのアクリル酸25部と、(メタ)アクリルアミド単量体としてのアクリルアミド35部と、ヒドロキシ基含有ビニル単量体としての2−ヒドロキシエチルアクリレート40部とを混合して、重合反応を進め、重合反応を停止させ、残留単量体を除去し、その後、水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整することにより、エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位、(メタ)アクリルアミド単量体単位及びヒドロキシ基含有ビニル単量体単位を含有する水溶液水溶性重合体W2を含む水溶液を得て、 非水溶性重合体A1と水溶性重合体W2を混合した、 非水系二次電池用バインダー組成物。」 (2)甲2に記載された発明 上記5の(2)の摘記中、実施例1で調製された非水電解質二次電池電極用バインダーに注目すると、上記5の(2)(特に、[0016]、[0092]、[0093]、[0095]参照。)によれば、甲2には、次の発明(以下、「甲2発明」という。)が記載されていると認められる。 「非水電解質二次電池電極用バインダーであって、 部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88%)1g及びラウリルパーオキシド1gを仕込み、アクリル酸メチル104g及び酢酸ビニル155gを滴下し、前駆体288g(10.4質量%含水)を得て、 メタノール450g、水420g、水酸化ナトリウム132g及び前駆体288g(10.4質量%含水)を仕込み、ケン化反応を行い、メタノールで洗浄、濾過し、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体(ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、アルカリ金属はナトリウム、ケン化度98.8%)193gを得た後、 得られた共重合体193gを粉砕し、微粉末状の共重合体(共重合体A)173gを得て、 微粉末状の共重合体(共重合体A)2.7質量部とポリビニルアルコール0.3質量部とを水50質量部に溶解させ、得た、非水電解質二次電池電極用バインダー。」 (3)甲3に記載された発明 上記5の(3)の摘記中、実施例1で調製された負極合剤に用いる共重合体である結着剤に注目すると、上記5の(3)(特に、[0034]、[0035]、[0105]〜[0107]、[0111]参照。)によれば、甲3には、次の発明(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。 「ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体を含んでいる、非水電解質二次電池用負極合剤に含まれる結着剤であって、 部分ケン化ポリビニルアルコール(ケン化度88%)1g、ラウリルパーオキシド1gを仕込み、アクリル酸メチル104gおよび酢酸ビニル155gを滴下し、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体288g(10.4質量%含水)を得て、 メタノール450g、水420g、水酸化ナトリウム132gおよびビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体288g(10.4質量%含水)を仕込み、ケン化反応を行った後、メタノールで洗浄、濾過し、ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物(ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、アルカリ金属はナトリウム)193gを得た後、 上記ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体ケン化物193gを、粉砕して得た結着剤。」 7 対比・判断 (1)特許法第29条第1項第3号、及び、同法同条第2項について (1)−1 甲1を主たる引例とした場合(上記3の(1)) (1)−1−1 対比 本件発明1と甲1発明とを対比する。 ア 甲1発明の「非水系二次電池用バインダー組成物」は、「非水系二次電池」において、バインダーの機能を有するものであるから、本件発明1の「二次電池用結着剤」に相当する。 イ 甲1発明は、「水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整することにより、」「エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位」「を含有する水溶液水溶性重合体W2を含む水溶液を得」るものであるため、その「エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位」のカルボキシル基の水素に代えて、「水酸化リチウム」由来のリチウムイオンが結合していると考えられる。 そうすると、甲1発明の「水酸化リチウムの10%水溶液を用いて生成物のpHを8に調整することにより、」「エチレン性不飽和カルボン酸単量体単位」「を含有する水溶液水溶性重合体W2を含む水溶液を得て、非水溶性重合体A1と水溶性重合体W2を混合した」事項は、本件発明1の「高分子化合物を含」み、「前記高分子化合物は、アクリル系繰り返し単位を含み、」「前記高分子化合物は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む」事項に相当する。 「【化1】 〔式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R2は、それぞれ独立に、ONa基又はOLi基である。〕」 ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲1発明とは、 「高分子化合物を含む二次電池用結着剤であって、 前記高分子化合物は、アクリル系繰り返し単位を含み、 前記高分子化合物は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む、二次電池用結着剤。 【化1】 〔式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R2は、それぞれ独立に、ONa基又はOLi基である。〕」で一致し、次の点で相違する。 (相違点1) 本件発明1は、「高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、14以下であ」るのに対し、甲1発明は、高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、どの程度であるかが不明である点。 (1)−1−2 相違点についての判断 ア 甲1には、「高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度」について、何ら記載がない。 イ 申立人は申立書において、次の主張をしている。 「本件明細書には、高分子化合物を製造する際のけん化によって着色が生じることが記載されている(段落0020)。この点については、特許権者(当時出願人)も、令和2年10月15日提出の意見書(甲第4号証)において、「モノマー残を含む共重合体は、けん化によって着色されますので、けん化した共重合体をメタノールで洗浄しましても、黄色度を14以下にまで低減することは困難であります。」と主張している。 甲1発明の水溶性重合体はけん化を経ずに製造されており、本件明細書における「着色」が生じる余地はないものである。甲1発明の水溶性重合体について3質量%水溶液を調整し、黄色度を測定すれば、14以下になる蓋然性が極めて高い。」(申立書第15頁最後から2行〜第16頁第7行) ウ しかしながら、以下の理由により、上記イの主張には理由がない。 エ 本件明細書には、「アクリル系繰り返し単位を含む高分子化合物は、これら繰り返し単位を形成する各モノマーを共重合した場合、未反応のモノマーによる着色が生じやすい。未反応モノマーは、なるべく少ないことが望ましいが、完全に無くすことは困難であり、黄色度の大きさに影響を与え、その量や種類によって着色が変化し、黄色度も変化する」(【0020】)と記載されており、この記載から、けん化を経ているか否かに関係なく、未反応のモノマーは黄色度に影響を与えることが理解できる。 オ 一方、上記イの特許権者による意見書の主張は、「モノマー残を含む共重合体」がけん化前に着色しているか否かについては言及していない。 カ そうすると、上記エより、けん化を経ているか否かに関係なく、未反応のモノマーは黄色度に影響を与え、上記オより、けん化によってさらに黄色度が大きくなると解されるから、上記イのように、「甲1発明の水溶性重合体はけん化を経ずに製造されて」いるからといって、本件明細書における「着色」が生じる余地はないとまでいえない。 キ したがって、甲1発明の水溶性重合体について3質量%水溶液を調整し、黄色度を測定しても、14以下になるとまでいえない。 ク 以上によれば、相違点1は実質的な相違点である。 よって、本件発明1は甲1発明であるとはいえない。 ケ また、甲1には、甲1発明において、水溶性重合体の3質量%水溶液の黄色度を14以下とすることを動機付ける記載も見当たらないから、本件発明1は、甲1発明に基いて当業者が容易に発明ができたものとはいえない。 コ さらに、請求項3〜8は請求項1を引用するものであって、本件発明3〜8は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるため、本件発明3〜8と甲1発明とは、少なくとも上記相違点1で相違するものであるから、本件発明3〜8も同様の理由により、甲1発明であるとはいえず、甲1発明に基いて当業者が容易に発明ができたものとはいえない。 (1)−2 甲2を主たる引例とした場合(上記3の(2)) (1)−2−1 対比 本件発明1と甲2発明とを対比する。 ア 甲2発明の「非水電解質二次電池電極用バインダー」は、本件発明1の「二次電池用結着剤」に相当する。 イ 甲2発明の「ビニルエステル/エチレン性不飽和カルボン酸エステル共重合体(ビニルアルコールとエチレン性不飽和カルボン酸アルカリ金属中和物との共重合体、アルカリ金属はナトリウム、ケン化度98.8%)193gを得た」事項は、本件発明1の「高分子化合物を含」み、「前記高分子化合物は、アクリル系繰り返し単位を含み、」「前記高分子化合物は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む」事項に相当する。 「【化1】 〔式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R2は、それぞれ独立に、ONa基又はOLi基である。〕」 ウ 上記ア、イより、本件発明1と甲2発明とは、 「高分子化合物を含む二次電池用結着剤であって、 前記高分子化合物は、アクリル系繰り返し単位を含み、 前記高分子化合物は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含む、二次電池用結着剤。 【化1】 〔式(1)において、R1は、それぞれ独立に、水素原子又はメチル基であり、R2は、それぞれ独立に、ONa基又はOLi基である。〕」で一致し、次の点で相違する。 (相違点2) 本件発明1は、「高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、14以下であ」るのに対し、甲2発明は、高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、どの程度であるかが不明である点。 (1)−1−2 相違点についての判断 ア 甲2には、「高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度」について、何ら記載がない。 イ 申立人は申立書において、概ね次の主張をしている(申立書第17頁第20行〜第18頁第12行)。 本件明細書の製造例2と、甲2の共重合体Aの作製を比較すると、前者は、ヒドラジンを使用しているのに対し、後者は使用していない点で相違する。 ここで、甲2において、得られた共重合体をメタノールで洗浄、濾過する工程は、甲5を参照すれば未反応単量体を除去する工程と解される。そして、最終目的物中の不純物の除去は周知の課題である。 よって、甲2の共重合体Aに残存する未反応単量体の残存を一層低くするため、洗浄に代えて、あるいは洗浄に加えて、除去手段を採用する動機付けが存在する。 とりわけ、バインダーの分野において、残存する未反応単量体を除去することで結着性や電池特性が良好となることが知られており(甲5及び他4件)、甲2において、共重合体Aに残存する未反応単量体を除去する動機付けが一層働く。 そして、けん化において、水性媒体中に水溶性無機還元剤を添加して未反応単量体を除去する手法は周知であって、ヒドラジンは代表的な還元剤であるから、甲2の共重合体Aの作製におけるけん化工程で水溶性無機還元剤としてヒドラジンを用いて、本件発明1の「高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、14以下」とすることは、当業者が容易になし得たことである。 ウ 甲2発明は、「ケン化反応を行」った後、得られた共重合体を「メタノールで洗浄、濾過し」ているのに対し、甲5に記載された「洗浄工程は、重合工程に引き続き、遠心分離及び濾過等の固液分離工程を経た後、固液分離工程により得られたケーキ成分を有機溶剤又は有機溶剤/水の混合溶剤を用いて洗浄することにより行われる。」([0056])すなわち、甲5では、固液分離工程により得られたケーキ成分を洗浄しており、重合後、まず洗浄してから濾過する甲2発明とは、洗浄と分離の順番が異なる。 エ そうすると、当業者が、甲5を参酌したとしても、甲2発明の「洗浄、濾過」が、未反応単量体を除去する工程であると解するとまでいえないから、甲2発明の「洗浄、濾過」において、「メタノール」での「洗浄、濾過」に代えて、あるいは、同「洗浄、濾過」に加えて、ヒドラジンを用いた未反応単量体の除去を採用する動機付けが存在しない。 オ また、本件明細書に記載された製造例2は、単量体として、「アクリル酸メチル51.8質量部および酢酸ビニル208質量部」を用いているのに対し、甲2発明は、単量体として、「アクリル酸メチル104g及び酢酸ビニル155g」、すなわち、アクリル酸メチル104重量部及び酢酸ビニル155重量部を用いている。 カ そうすると、(1)−1の(1)−1−2のエより、未反応のモノマーにより黄色度が変化するところ、上記オのとおり、本件明細書に記載された製造例2と甲2発明とは、重合前の単量体の割合が異なるから、未反応の単量体の量も異なり、洗浄前の両者の黄色度も異なると考えられる。 キ したがって、仮に、甲2発明の「洗浄、濾過」において、「メタノール」での「洗浄、濾過」に代えて、あるいは、同「洗浄、濾過」に加えて、ヒドラジンを用いた未反応単量体の除去を採用する動機付けが存在したとしても、甲2発明の「バインダー組成物」は、本件明細書に記載された製造例2の結着剤と同程度の黄色度となるか否かは不明であるといわざるを得ないし、どの程度の黄色度となるかも不明である。 ク よって、本件発明1は、甲2発明に基いて当業者が容易に発明ができたものとはいえない。 ケ また、請求項2〜8は請求項1を引用するものであって、本件発明2〜8は、本件発明1の発明特定事項を全て含むものであるため、本件発明2〜8と甲2発明とは、少なくとも上記相違点2で相違するものであるから、本件発明2〜8も同様の理由により、甲2発明に基いて当業者が容易に発明ができたものとはいえない。 (1)−3 甲3を主たる引例とした場合(上記3の(3)) (1)−2−1 対比・判断 ア 申立人が申立書において主張(申立書第19頁第12行)しているように、甲3発明は甲2発明と同様である。 イ そうすると、上記(1)−2で述べた理由と同様の理由により、本件発明1〜8は、甲3発明に基いて当業者が容易に発明ができたものとはいえない。 (2)特許法第36条第6項第1号について(上記3の(4)) ア 本件発明の解決しようとする課題は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載によれば、「結着力に優れる、二次電池用結着剤を提供すること」(【0013】)であると認める。 イ そして、本件明細書には、実施例1〜3の結着剤は、比較例1、2の結着剤と比較して結着力に優れていることが記載(【0064】、【0067】〜【0077】)されている。 ウ また、上記イの実施例1〜3の結着剤は、本件発明1の発明特定事項を全て満たし、比較例1、2の結着剤は、本件発明1の発明特定委事項を全て満たすとはいえないものである。 エ よって、本件発明1は、上記アの課題を解決し得るものといえるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。 オ また、本件発明2〜8も、同様の理由により、発明の詳細な説明に記載されたものといえる。 カ なお、申立人は申立書において、概ね次の主張をしている。 本件発明は、けん化処理によりビニルアルコール繰り返し単位を含む高分子化合物を用いることを前提として、上記アの課題を解決しているにも関わらず、本件発明1は、けん化処理により作製されたものであることが含まれていない。 キ しかしながら、上記カの「本件発明は、けん化処理によりビニルアルコール繰り返し単位を含む高分子化合物を用いることを前提と」するものであるとの主張の根拠が不明である。 ク また、申立人が申立書において述べている(第20頁第1〜9行)ように、本件発明1は、けん化処理でも中和処理でも得ることができるものである。 ケ そして、同一の物質であれば、けん化処理を経て作製されたものと、中和処理を経て作製されたものとで、上記アの「結着力」が大きく異なるとは考えづらいし、また、そのような証拠もない。 コ さらに、本件発明1の「前記高分子化合物の3質量%水溶液の黄色度が、14以下であ」ることは、上記アの課題を解決するための手段の一つであるが、本件明細書【0020】に記載されるように、黄色度は、けん化を経ているか否かに関係なく、未反応のモノマーの量や種類によっても変化するものであるから、けん化処理が上記アの課題を解決するための前提であるとはいえない。 サ よって、本件発明1は、けん化処理によって作製されたものであることが特定されていなくても、上記アの課題を解決し得るものといえるから、発明の詳細な説明に記載されたものである。 8 むすび 以上のとおり、本件の請求項1〜8に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議の申立ての理由によっては、取り消すことはできず、また、他に本件の請求項1〜8に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-03-14 |
出願番号 | P2020-030542 |
審決分類 |
P
1
651・
537-
Y
(H01M)
P 1 651・ 113- Y (H01M) P 1 651・ 121- Y (H01M) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
井上 猛 |
特許庁審判官 |
平塚 政宏 土屋 知久 |
登録日 | 2021-05-21 |
登録番号 | 6888139 |
権利者 | 住友精化株式会社 |
発明の名称 | 二次電池用結着剤 |
代理人 | 水谷 馨也 |
代理人 | 田中 順也 |