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審決分類 |
審判 全部申し立て 2項進歩性 C07C 審判 全部申し立て 特36条4項詳細な説明の記載不備 C07C 審判 全部申し立て 1項2号公然実施 C07C 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備 C07C 審判 全部申し立て 1項3号刊行物記載 C07C |
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管理番号 | 1384286 |
総通号数 | 5 |
発行国 | JP |
公報種別 | 特許決定公報 |
発行日 | 2022-05-27 |
種別 | 異議の決定 |
異議申立日 | 2021-12-20 |
確定日 | 2022-04-14 |
異議申立件数 | 1 |
事件の表示 | 特許第6890709号発明「1,3−ブチレングリコール製品」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 |
結論 | 特許第6890709号の請求項1ないし2に係る特許を維持する。 |
理由 |
第1 手続の経緯 特許第6890709号の請求項1ないし2に係る特許についての出願は、令和1年9月5日に出願された特願2019−162352号の一部を、令和2年11月9日に新たな特許出願としたものであって、令和3年5月27日にその特許権の設定登録がされ、同年6月18日にその特許公報が発行され、その後、令和3年12月20日に平居 博美(以下「特許異議申立人」という。)により特許異議の申立てがされたものである。 第2 本件発明 本件の請求項1〜2に係る発明は、願書に添付した特許請求の範囲の請求項1〜2に記載された事項により特定される次のとおりのもの(以下「本件発明1」などと、また、これらを合わせて「本件発明」ということがある。)である。 「【請求項1】 下記条件のガスクロマトグラフィー分析において、 1,3−ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上であり、 1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超え、10ppm以下であり、 前記の相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分として、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体を含む、1,3−ブチレングリコール製品であって、 90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度(酢酸換算)が0.0015重量%以下である、前記1,3−ブチレングリコール製品。 (ガスクロマトグラフィー分析の条件) 分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム(膜厚1.0μm×長さ30m×内径0.25mm) 昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。 試料導入温度:250℃ キャリアガス:ヘリウム カラムのガス流量:1mL/分 検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃ 【請求項2】 1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールが、アセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物の還元体である請求項1に記載の1,3−ブチレングリコール製品。」 第3 特許異議申立人が申し立てた理由の概要 1 特許異議申立人が申し立てた理由の概要 特許異議申立人が申し立てた取消理由は、以下の理由1〜6である。 [理由1]本件の請求項1〜2に係る発明は、下記の甲第1号証に記載された本件特許出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明であって、特許法第29条第1項第2号に該当するから、請求項1〜2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 [理由2]本件の請求項1〜2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第7、8号証に記載された発明であって、特許法第29条第1項第3号に該当するから、請求項1〜2に係る特許は、特許法第29条第1項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 [理由3]本件の請求項1〜2に係る発明は、本件特許出願前に日本国内又は外国において、頒布された下記の甲第7〜10号証に記載された発明に基いて、本件特許出願前にその発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者が容易に発明をすることができたものであるから、請求項1〜2に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであり、同法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。 [理由4]本件の請求項1〜2に係る特許は、発明の詳細な説明の記載が特許法第36条第4項第1号に適合しない。 よって、請求項1〜2に係る特許は、特許法第36条第4項第1号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 理由4の具体的な理由は、次のとおりである。 Genomatica社製Brontideの各種物性を測定し、甲第3号証にその結果を記載した。Genomatica社製Brontideは、本件実施例1と同様に、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲のピークは検出限界以下(10ppm以下)であるため、相対保持時間が1.35〜1.45の面積率が0ppmを超え、10ppm以下であるものであると判断した。しかし、90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度(酢酸換算)が0.00492重量%であり、0.0015重量%を大きく上回っており、本件発明1を満たしていない。 従って、Genomatica社製Brontideのデータから相対保持時間が1.35〜1.45の面積率の低減は90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度の低下には結びつかないことがわかる。ところが、本件明細書の記載から、どのようにすれば相対保持時間が1.35〜1.45の面積率を小さくしたままで90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度も低くすることができるのかについて発明の詳細な説明から理解することができない。 [理由5]本件の請求項1〜2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に適合しない。 よって、請求項1〜2に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 理由5の具体的な理由は、次のとおりである。 本件明細書には、実施例が1つしか記載されておらず、確かに本件実施例1では相対保持時間が1.35〜1.45の面積率と90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度とが共に低くなっているが、本件実施例1以外のどのような製造条件で相対保持時間が1.35〜1.45の面積率と90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度とが共に低くなるのか不明である。実際、上述したGenomatica社製Brontideのように相対保持時間が1.35〜1.45の面積率を低減しても90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度が高くなり、本件発明の課題が解決できていないものがある。また、Genomatica社製Brontideのデータから相対保持時間が1.35〜1.45の面積率と90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度とは無関係であることがわかるが、どのようにすればこれら2つのパラメータを共に低くすることができるのかについては本件明細書には記載されていない。 [理由6]本件の請求項1〜2に係る特許は、特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第2号に適合しない。 よって、請求項1〜2に係る特許は、特許法第36条第6項に規定する要件を満たしていない特許出願に対してなされたものであり、同法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。 理由6の具体的な理由は、次のとおりである。 理由6−1:本件発明1の「1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超え、10ppm以下であり、」との発明特定事項について、本件明細書の【0057】に「上述の1,3−ブチレングリコール製品について、後述の条件にてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲のピークは検出限界以下(10ppm以下)であった。」として、実施例1では検出以下であるにもかかわらず、「相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超え」ているとされる根拠が何ら記載されておらず、当業者であっても検出限界以下のピークからピーク面積率が0ppmを超えることが理解できないため、本件発明1は不明確である。 理由6−2:本件発明1の「前記の相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分として、酢酸と1,3−ブチレングリコールのエステル体を含む、1,3−ブチレングリコール製品であって、」との発明特定事項について、仮に検出限界以下のピークに基づき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超えていたと判断できるとしても、検出限界以下のピークに基づき、実施例1が酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体を含むことは当業者であっても理解できないため、本件発明1は不明確である。 理由6−3:物の発明についての請求項にその物の製造方法が記載されている場合において、その請求項の記載が「発明が明確であること」という要件に適合するといえるのは、出願時においてその物をその構造又は特性により直接特定することが不可能であるか、又はおよそ実際的でないという事情(以下、「不可能・非実際的事情」という)が存在するときに限られる。本件発明2では「1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールが、アセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物の還元体である」と特定されており、「物の発明において請求項にその物の製造方法が記載されている場合」に該当するが、本件発明1では、ガスクロマトグラフィー分析を行って、発明を特定していることから、本件発明2には、不可能・非実際的事情が存在していないから、本件発明2は不明確である。 特許異議申立人が提示した甲各号証は次のとおり。 甲第1号証:株式会社ダイセルのホームページ、インターネット、URL<https://www.daicel.com/yuuki/product/index.php?act=list_view&free_word=&ac=0&cid=19&x=61&y=5>(以下「甲1」という。下記甲各号証についても同様。) 甲第2号証:特開2016−160253号公報 甲第3号証:平居 博美、実験成績証明書、2021年12月20日 甲第4号証:特表2012−525158号公報 甲第5号証:特開2016−63823号公報 甲第6号証:特開2018−148891号公報 甲第7号証:国際公開第00/07969号 甲第8号証:特開2001−213825号公報 甲第9号証:特開2001−288131号公報 甲第10号証:特開2001−213824号公報 第4 当審の判断 当審は、本件発明1〜2に係る特許は、特許異議申立人が申し立てた理由及び証拠方法によって取り消すべきものではないと判断する。 理由は以下のとおりである。 1 甲各号証について (1)甲各号証の記載事項 甲1: 1a)「 」 甲2: 2a)「【0050】 ・・・ *6:1,3-ブチレングリコール 化粧品グレード(13BGUK)(ダイセル社製)」 甲3: 3a)「 」 甲4: 4a)「【請求項1】 1,3-ブタンジオール(1,3-BDO)を産生するのに十分な量で発現する1,3-BDO経路酵素をコードする少なくとも1つの外来性核酸を含む1,3-BDO経路を有する微生物を含み、該1,3-BDO経路が 2-アミノ-4-ケトペンタノアート(AKP)チオラーゼ、AKP脱水素酵素、2-アミノ-4-ヒドロキシペンタノアートアミノトランスフェラーゼ、2-アミノ-4-ヒドロキシペンタノアート酸化還元酵素(脱アミノ化)、2-オキソ-4-ヒドロキシペンタノアートデカルボキシラーゼ、3-ヒドロキシブチルアルデヒド還元酵素、AKPアミノトランスフェラーゼ、AKP酸化還元酵素(脱アミノ化)、2,4-ジオキソペンタノアートデカルボキシラーゼ、3-オキソブチルアルデヒド還元酵素(ケトン還元)、3-オキソブチルアルデヒド還元酵素(アルデヒド還元)、4-ヒドロキシ-2-ブタノン還元酵素、AKPデカルボキシラーゼ、4-アミノブタン-2-オンアミノトランスフェラーゼ、4-アミノブタン-2-オン酸化還元酵素(脱アミノ化)、4-アミノブタン-2-オンアンモニアリアーゼ、ブテノンヒドラターゼ、AKPアンモニア-リアーゼ、アセチルアクリラートデカルボキシラーゼ、アセトアセチル-CoA還元酵素(CoA依存性、アルデヒド形成)、アセトアセチル-CoA還元酵素(CoA依存性、アルコール形成)、アセトアセチル-CoA還元酵素(ケトン還元)、3-ヒドロキシブチリル-CoA還元酵素(アルデヒド形成)、3-ヒドロキシブチリル-CoA還元酵素(アルコール形成)、4-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドラターゼ、及びクロトナーゼからなる群から選択される酵素を含む、非天然微生物。」 4b)「【0002】 本発明は一般に、有機化合物を産生することのできる生合成過程及び生物に関する。より具体的には、本発明は、有用化学物質1,3-ブタンジオールを産生することのできる非天然生物に関する。」 甲5: 5a)「【請求項1】 1,3-ブタンジオール(1,3-BDO)を産生するのに十分な量で発現する1,3-BDO経路酵素をコードする少なくとも1つの外来性核酸を含む1,3-BDO経路を有する微生物を含み、該1,3-BDO経路が 2-アミノ-4-ケトペンタノアート(AKP)チオラーゼ、AKP脱水素酵素、2-アミノ-4-ヒドロキシペンタノアートアミノトランスフェラーゼ、2-アミノ-4-ヒドロキシペンタノアート酸化還元酵素(脱アミノ化)、2-オキソ-4-ヒドロキシペンタノアートデカルボキシラーゼ、3-ヒドロキシブチルアルデヒド還元酵素、AKPアミノトランスフェラーゼ、AKP酸化還元酵素(脱アミノ化)、2,4-ジオキソペンタノアートデカルボキシラーゼ、3-オキソブチルアルデヒド還元酵素(ケトン還元)、3-オキソブチルアルデヒド還元酵素(アルデヒド還元)、4-ヒドロキシ-2-ブタノン還元酵素、AKPデカルボキシラーゼ、4-アミノブタン-2-オンアミノトランスフェラーゼ、4-アミノブタン-2-オン酸化還元酵素(脱アミノ化)、4-アミノブタン-2-オンアンモニアリアーゼ、ブテノンヒドラターゼ、AKPアンモニア-リアーゼ、アセチルアクリラートデカルボキシラーゼ、アセトアセチル-CoA還元酵素(CoA依存性、アルデヒド形成)、アセトアセチル-CoA還元酵素(CoA依存性、アルコール形成)、アセトアセチル-CoA還元酵素(ケトン還元)、3-ヒドロキシブチリル-CoA還元酵素(アルデヒド形成)、3-ヒドロキシブチリル-CoA還元酵素(アルコール形成)、4-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドラターゼ、及びクロトナーゼからなる群から選択される酵素を含む、非天然微生物。」 5b)「【0002】 本発明は一般に、有機化合物を産生することのできる生合成過程及び生物に関する。より具体的には、本発明は、有用化学物質1,3-ブタンジオールを産生することのできる非天然生物に関する。」 甲6: 6a)「【請求項1】 1,3-ブタンジオール(1,3-BDO)経路を有する非天然大腸菌であって、1,3-BDOを産生するのに十分な量で発現する1,3-BDO経路酵素を各々コードする少なくとも4つの外来性核酸を含み、該1,3-BDO経路酵素が、4-ヒドロキシブチリル-CoAデヒドラターゼ、クロトナーゼ、3-ヒドロキシブチリル-CoA還元酵素(アルデヒド形成)、及び3-ヒドロキシブチルアルデヒド還元酵素である、前記非天然大腸菌。」 甲7: 7a)「したがって、本発明は、臭気が無く、経時変化の少ない高純度1,3−ブチレングリコール及びその製造方法を提供することを目的としている。」(2頁6〜7行) 7b)「第2図は1,3−ブチレングリコールの特定条件(実施例の項に詳述する。)下のHPLC分析(測定波長210nm)によるチャートを示す。図2−1は実施例1の製品、図2−2は実施例2の製品、図2−3は比較例1の製品に関するチャートである。横軸は溶出時間(ピークがある場合にはその保持時間が数字で示されており、単位は分である。)、縦軸はミリ吸光度(mAbs)である。 1,3−ブチレングリコールは紫外部に吸収を殆ど持たないためにピークは極めて小さいが、その保持時間は図2−1では5.5分付近、図2−2では5.4分付近、図2−3では5.4分付近に現れる。 本発明で問題にする不純物は、その保持時間が20〜30分のものであり、品の悪い製品の場合には図2−3に示すように、23.5分、25.4分、26.4分、27.7分付近に大きなピークが現れ、即ち吸光度が大きい。品質のかなり良い場合には図2−2に示すように、23.4分、26.3分付近に小さなピーク(吸光度0.01以下)しか現れない。品質が非常に良い場合には図2−1に示すように、20〜30分の間にはピークが現れない(吸光度0.005以下)。 また、38〜42分付近のピークは臭気や経時変化には殆ど影響しないことがわかった。」(8頁下から4行〜9頁12行) 7c)「[実施例1] 第1図に示されるフローシートにしたがって本発明の方法を実施例に基づいて説明する。 原料としてアセトアルドール100部、水素6.5部を液相水素還元用反応器(図示せず)に仕込み、触媒としてラネーニッケルを3.5部加え、該反応器を温度125〜135℃、圧力150kg/cm2に保持して液相水素還元を行った。反応後の液は触媒を分離した後、苛性ソーダで中和し、アルコール類を除去して粗1,3−ブチレングリコール(A)を得た。 粗1,3−ブチレングリコール(A)を第1図に示す脱水塔1−1に仕込んだ。脱水塔では仕込み液量100部に対して塔頂より水を抜き出し、還流水として真水15部を加え、圧力50torrで蒸留塔底部より水分0.5重量%以下の粗1,3−ブチレングリコールを得た。 脱水された粗1,3−ブチレングリコールは次に、脱塩塔1−2に仕込まれた。ここでは仕込液量100部に対して蒸発残分として、塩、高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が底部より5部排出された。塔頂からは1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部が95部留出された。 脱塩塔1−2より留出された1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部は、脱高沸点物蒸留塔1−3に仕込まれ、高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が底部より20部排出された。塔頂からは低沸点物を含む粗1,3−ブチレングリコール(CR)が80部留出され、アルカリ反応器1−4に仕込まれた。この際仕込液に対して苛性ソーダ濃度が0.2重量%となるように10重量%苛性ソーダ水溶液を添加した。アルカリ反応器での反応温度を120℃に維持して、滞留時間20分で反応を行った。 反応器を出た反応粗液は脱アルカリ塔1−5へ仕込まれた。ここでは仕込液量100部に対して、苛性ソーダと高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が塔底より10部排出された。塔頂からは1,3−ブチレングリコール及び低沸点物が90部留出され、次の製品塔へ仕込まれた。製品蒸留塔1−6においては、仕込液量100部に対して塔頂から低沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部が10重量%留出され、塔底からは製品1,3−ブチレングリコールが取り出された。 製造直後の1,3−ブチレングリコールは、臭気評点は3でり、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は0.001であり、HPLC分析において、相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.005以下であった。 この1,3−ブチレングリコールを用いて40℃での経時変化試験を行ったところ、1ヶ月後の臭気評点は3、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は0.001と変化が無かった。 3ヶ月後においても所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は0.002と微増して若干微量不純物含有量が増加したが、HPLC分析の相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.005以下であり、臭気評価は3であり依然として無臭であった。結果を表1に示す。」(11頁2行〜12頁16行) 7d)「[比較例1] 脱高沸点物蒸留塔1−3までは実施例1と同様な条件で運転を行い、脱高沸点物蒸留塔1−3の塔頂から1,3−ブチレングリコール及び低沸点物を留出させた。留出液はそのまま製品蒸留塔へ仕込まれた。製品蒸留塔1−6においては、仕込液量100部に対して塔頂から低沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部が10重量%留出された。塔底からは製品1,3−ブチレングリコールが取り出された。 製造直後の1,3−ブチレングリコールの臭気評点は3であり、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は1.131であり、HPLC分析で、相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.05以上であった。 この1,3−ブチレングリコールを用いて40℃での経時変化試験を行ったところ、1ヶ月後の臭気評点は5、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は1.160であった。3ヶ月後には臭気評点は10、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は1.193となり、HPLC分析の相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.05以上であり、微臭が発生していた。結果を表1に示す。」(12頁下から6行〜13頁11行) 7e)「 」 甲8: 8a)「【0003】 【発明が解決しようとする課題】本発明の目的は、製造3ヶ月後においても臭気の著しく低減された、経時変化の少ない高純度1,3−ブチレングリコールを提供することである。」 8b)「【0006】 【発明の実施の形態】以下、本発明について詳細に説明する。 アセトアルドール類 ・・・本発明において、アセトアルドール類とは水素添加により1,3−ブチレングリコールを生成するもののことであり、具体的には、アセトアルドール、その環化二量体であるパラアルドール、アセトアルデヒドの一種の環状3量体であるアルドキサン等、又はこれらの混合物である。・・・本発明においては、水添原料としてはアセトアルドール、パラアルドール、アルドキサン及びそれらの混合物が使用できる。・・・上記水添原料は、通常未反応アセトアルデヒドを縮合工程にリサイクルするため、アセトアルデヒドの少なくとも一部を留去したものであるが、残存アセトアルデヒド、クロトンアルデヒド、他の少量のアルデヒド成分、低沸点物、アルデヒドダイマーやトリマー等の高沸点物、水分等を含有している。水添原料は、10〜20重量%の水分を含んでいるものが使用できる。水分を除く、アセトアルドール分換算純度95〜98重量%のものが好ましく使用される。」 8c)「【0023】 [実施例1〜2]図−1に示されるフローシートにしたがって本発明の方法を実施例に基づいて説明する。原料としてアセトアルドール100部、水素を6.5部反応器(図示せず)に仕込んだ。反応器を温度125〜135℃、圧力150Kg/cm2に保持した。触媒としてラネーニッケルを3.5部加えた。反応器から取り出した反応粗液は触媒を分離したのち、苛性ソーダで中和された。その後、アルコール類を除去した粗1,3−ブチレングリコールを図−1に示す脱水塔1−1に仕込んだ。脱水塔では仕込み液量100部に対して塔頂より水15部を加え、圧力50torrで蒸留塔底部より水分0.5重量%以下の粗1,3−ブチレングリコールを得た。脱水された粗1,3−ブチレングリコールは次に、脱塩塔1−2に仕込まれた。ここでは仕込液量100部に対して蒸発残分として、塩、高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が底部より5部排出された。塔頂からは1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部が95部留出された。 【0024】脱塩塔1−2より留出された1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部は、脱高沸物蒸留塔1−3に仕込まれ、高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が底部より20部排出された。塔頂からは1,3−ブチレングリコール及び低沸点物が80部留出され、アルカリ反応器1−4に仕込まれた。この際仕込液に対して苛性ソーダ濃度が0.2重量%となるように10重量%苛性ソーダ水溶液を添加した。アルカリ反応器での反応温度を120℃に維持して、滞留時間20分反応を行った(実施例1)。実施例2ではアルカリ反応器での反応温度100℃、滞留時間30分とした以外は実施例1と同じに行った。アルカリ反応器を出た反応粗液は脱アルカリ塔1−5へ仕込まれた。ここでは仕込液量100部に対して、アルカリと高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が塔底より10部排出された。塔頂からは1,3−ブチレングリコール及び低沸点物が90部留出され、次の製品塔へ仕込まれた。製品蒸留塔1−6においては、仕込液量100部に対して塔頂から低沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部が10重量%留出された。塔底からは製品1,3−ブチレングリコールが取り出された。製造直後と3ヶ月後の1,3−ブチレングリコールについて、過マンガン酸カリウム退色時間と、臭気評点を測定した。結果を表1に示す。」 8d)「【0026】 【表1】 」 8e)「【図1】 」 甲9: 9a)「【0024】(実施例1)アセトアルデヒドを水酸化ナトリウム水溶液の存在下に縮合して得られたパラアセトアルドール反応液を中和処理した後、未反応アセトアルデヒドの一部を回収した後の反応粗液を、下記性能のラネーニッケルの鹸濁した連続懸濁気泡塔に供給し、下記反応条件で水添反応を行い、ラネーニッケルを濾別して、水添反応粗液を得た。」 甲10: 10a)「【0018】(実施例1)アセトアルデヒドを水酸化ナトリウム水溶液の存在下に縮合して得られたパラアセトアルドール反応液を中和処理した後、未反応アセトアルデヒドを分離除去して得られたパラアセトアルドール液を、水添触媒であるラネーニッケルの鹸濁した連続懸濁気泡塔に供給し、下記反応条件で水添反応を行い、ラネーニッケルを濾別して、水添反応粗液を得た。」 (2)引用発明 ア 甲1発明 甲1には、株式会社ダイセルの製品である、1,3−ブタンジオール(化粧品用)[13BGUK]が記載されているところ、甲1はインターネット上で製品を紹介するページの画面表示の印刷物(印刷日:2021年12月10日)であるから、当該ページに「1,3−ブタンジオール(化粧品用)[13BGUK]」が掲載された時点において、1,3−ブタンジオール(化粧品用)[13BGUK]が日本国内又は外国において公然実施をされていたと認められるが、その掲載日は甲1からは不明であり、上記印刷日は分割出願である本件特許に係る出願の原出願(以下「原出願」ということがある。)の出願後であるから、甲1の記載のみからは、甲1に記載の1,3−ブタンジオール(化粧品用)[13BGUK]が原出願の出願前に日本国内又は外国において公然実施をされた発明(以下「公然実施発明」という。)であるとはいえない。 一方、甲2には、「1,3-ブチレングリコール 化粧品グレード(13BGUK)(ダイセル社製)」との記載があり、甲1に記載された「1,3−ブチレングリコール」、「化粧品」、「13BGUK」、「ダイセル」と一致し、甲2に係る特許出願の明細書を作成するにあたって、上記1,3−ブチレングリコールが販売されていたと認められ、甲2の出願日は、原出願の出願前であるから、甲1に記載の以下の発明(以下「甲1発明」という。)が公然実施発明であったと認める。 「製品名が1,3−ブタンジオール(化粧品用)[13BGUK]である1,3−ブタンジオール。」 イ 甲7発明 甲7には、臭気が無く、経時変化の少ない高純度1,3−ブチレングリコール及びその製造方法についての記載があるところ、実施例1として、1,3−ブチレングリコールの具体的な製造方法が記載されている。したがって、甲7には、以下の発明(以下「甲7発明」という。)が記載されていると認める。 「以下の製造方法において、製品1,3−ブチレングリコールとされる1,3−ブチレングリコール。 製造方法:原料としてアセトアルドール100部、水素6.5部を液相水素還元用反応器(図示せず)に仕込み、触媒としてラネーニッケルを3.5部加え、該反応器を温度125〜135℃、圧力150kg/cm2に保持して液相水素還元を行う。反応後の液は触媒を分離した後、苛性ソーダで中和し、アルコール類を除去して粗1,3−ブチレングリコール(A)を得る。 粗1,3−ブチレングリコール(A)を第1図に示す脱水塔1−1に仕込む。脱水塔では仕込み液量100部に対して塔頂より水を抜き出し、還流水として真水15部を加え、圧力50torrで蒸留塔底部より水分0.5重量%以下の粗1,3−ブチレングリコールを得る。 脱水された粗1,3−ブチレングリコールは次に、脱塩塔1−2に仕込まれる。ここでは仕込液量100部に対して蒸発残分として、塩、高沸点物および1,3−グリコールの一部が底部より5部排出される。塔頂からは1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部が95部留出される。 脱塩塔1−2より留出された1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部は、脱高沸点物蒸留塔1−3に仕込まれ、高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が底部より20部排出される。塔頂からは低沸点物を含む粗1,3−ブチレングリコール(CR)が80部留出され、アルカリ反応器1−4に仕込まれる。この際仕込液に対して苛性ソーダ濃度が0.2重量%となるように10重量%苛性ソーダ水溶液を添加する。アルカリ反応器での反応温度を120℃に維持して、滞留時間20分で反応を行う。 反応器を出た反応粗液は脱アルカリ塔1−5へ仕込まれる。ここでは仕込液量100部に対して、苛性ソーダと高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が塔底より10部排出される。塔頂からは1,3−ブチレングリコール及び低沸点物が90部留出され、次の製品塔へ仕込まれる。製品蒸留塔1−6においては、仕込液量100部に対して塔頂から低沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部が10重量%留出され、塔底からは製品1,3−ブチレングリコールが取り出される。 」 ウ 甲8発明 甲8には、製造3ヶ月後においても臭気の著しく低減された、経時変化の少ない高純度1,3−ブチレングリコールについての記載があるところ、実施例1、2として、1,3−ブチレングリコールの具体的な製造方法が記載されている。したがって、甲8には、以下の発明(以下「甲8発明」という。)が記載されていると認める。 「以下の製造方法において、製品1,3−ブチレングリコールとされる1,3−ブチレングリコール。 製造方法:原料としてアセトアルドール100部、水素を6.5部反応器(図示せず)に仕込む。反応器を温度125〜135℃、圧力150Kg/cm2に保持する。触媒としてラネーニッケルを3.5部加える。反応器から取り出した反応粗液は触媒を分離したのち、苛性ソーダで中和される。その後、アルコール類を除去した粗1,3−ブチレングリコールを図−1に示す脱水塔1−1に仕込む。脱水塔では仕込み液量100部に対して塔頂より水15部を加え、圧力50torrで蒸留塔底部より水分0.5重量%以下の粗1,3−ブチレングリコールを得る。脱水された粗1,3−ブチレングリコールは次に、脱塩塔1−2に仕込まれる。ここでは仕込液量100部に対して蒸発残分として、塩、高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が底部より5部排出される。塔頂からは1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部が95部留出される。 脱塩塔1−2より留出された1,3−ブチレングリコール、低沸点物及び高沸点物の一部は、脱高沸物蒸留塔1−3に仕込まれ、高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が底部より20部排出される。塔頂からは1,3−ブチレングリコール及び低沸点物が80部留出され、アルカリ反応器1−4に仕込まれる。この際仕込液に対して苛性ソーダ濃度が0.2重量%となるように10重量%苛性ソーダ水溶液を添加する。アルカリ反応器での反応温度を120℃に維持して、滞留時間20分反応を行う(実施例1)。実施例2ではアルカリ反応器での反応温度100℃、滞留時間30分とした以外は実施例1と同じに行う。アルカリ反応器を出た反応粗液は脱アルカリ塔1−5へ仕込まれる。ここでは仕込液量100部に対して、アルカリと高沸点物および1,3−ブチレングリコールの一部が塔底より10部排出される。塔頂からは1,3−ブチレングリコール及び低沸点物が90部留出され、次の製品塔へ仕込まれる。製品蒸留塔1−6においては、仕込液量100部に対して塔頂から低沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部が10重量%留出される。塔底からは製品1,3−ブチレングリコールが取り出される。 【図1】 」 2 理由1について (1)本件発明1について 本件発明1と甲1発明とを対比すると、両者は、 「1,3−ブチレングリコール製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−1> 本件発明1は「下記条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3−ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上であり、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超え、10ppm以下であり、前記の相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分として、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体を含む」こと、 「90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度(酢酸換算)が0.0015重量%以下である」こと、 「(ガスクロマトグラフィー分析の条件) 分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム(膜厚1.0μm×長さ30m×内径0.25mm) 昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。 試料導入温度:250℃ キャリアガス:ヘリウム カラムのガス流量:1mL/分 検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃」を特定しているのに対し、甲1発明はそのような特定をしていない点。 上記相違点1−1について検討する。 甲1及び甲2には、上記相違点1−1に係る技術的事項については記載も示唆もないから、甲1及び甲2の記載からは甲1発明が上記相違点1−1に係る本件発明1の技術的事項を有するものであるとはいえない。 甲3は原出願の出願後の2021年12月20日に作成されたものであるところ、甲3には、甲1発明と同じ製品名を有する製品についての各種分析結果が示されている。しかし、甲3には、分析に供した試料をいつ入手した物であるかについての記載はないから、当該試料がいつ製造された物であるかは不明である。 そして、通常、各種工業製品については経時的に常に同じ物性を有する製品が製造されるという技術常識はない。 したがって、甲1発明が甲3で示された分析結果で示される物性を有するものであるとはいえない。 よって、甲1発明は本件発明1と上記相違点1−1において実質的に相違するものであり、本件発明1は公然実施発明であるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1について「1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールが、アセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物の還元体である」ことを特定するものであるところ、上述のとおり、甲1は、本件発明1と、相違点1−1を有するものであるから、本件発明2についても同様に相違点1−1を有する。 また、甲4〜6には、3−ヒドロキシブチルアルデヒド還元酵素等の酵素により1,3−ブチレングリコールを製造することが、甲7及び8には、アセトアルドールの水素還元により1,3−ブチレングリコールを得ることが記載されているに過ぎない。 したがって、本件発明2についてされた上記特定事項を検討するまでもなく、本件発明2は甲1発明と実質的に相違するものであり、本件発明2は公然実施発明であるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、理由1は理由がない。 3 理由2について (1)本件発明1について ア 甲7発明について 本件発明1と甲7発明とを対比すると、両者は、 「1,3−ブチレングリコール製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−7> 本件発明1は「下記条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3−ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上であり、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超え、10ppm以下であり、前記の相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分として、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体を含む」こと、 「90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度(酢酸換算)が0.0015重量%以下である」こと、 「(ガスクロマトグラフィー分析の条件) 分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム(膜厚1.0μm×長さ30m×内径0.25mm) 昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。 試料導入温度:250℃ キャリアガス:ヘリウム カラムのガス流量:1mL/分 検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃」を特定しているのに対し、甲7発明はそのような特定をしていない点。 上記相違点1−7について検討する。 甲7には、上記相違点1−7に係る技術的事項については記載も示唆もない。 (ア)製造方法について ここで、たとえ甲7に上記相違点1−7に係る技術的事項についての記載がなくとも、甲7発明の製造方法が、本件発明1の製造方法と一致すれば、甲7発明が上記相違点1−7に係る技術的事項を備えるといえると考えられる。 そこで、本件発明1と甲7発明の製造方法について検討する。 本件明細書には、【0029】〜【0049】に1,3−ブチレングリコール製品の一般的な製造方法が記載され、【0050】〜【0061】に実施例が記載されている。 本件明細書に実施例として記載された製造方法と甲7発明の製造方法とを対比すると、両者は、液相水素還元用反応器における液相水素還元、脱水塔における脱水、脱塩塔における脱塩、脱高沸点物蒸留塔における脱高沸点物、アルカリ反応器におけるアルカリ反応、脱アルカリ塔における脱アルカリ、製品蒸留塔における蒸留を行う点で共通する。 しかし、液相水素還元用反応器における液相水素還元について、本件明細書に記載の実施例では、「原料として30重量%の水を含むアセトアルドール溶液100部(アセトアルドール70部と水30部の混合溶液)に対し、水素10部を液相水素還元用反応器に仕込み、触媒としてラネーニッケルを15部加え、該反応器を135℃、300atmに保持して」行うのに対し、甲7発明は、「原料としてアセトアルドール100部、水素6.5部を液相水素還元用反応器(図示せず)に仕込み、触媒としてラネーニッケルを3.5部加え、該反応器を温度125〜135℃、圧力150kg/cm2に保持して液相水素還元を行う。反応後の液は触媒を分離した後、苛性ソーダで中和し、アルコール類を除去して」行うものであり、本件明細書に記載の実施例と、甲7発明とは、原料が相違し(本件明細書に記載の実施例で原料が水を含む。)、水素、触媒であるラネーニッケルの使用量が相違し、反応圧力が異なる。 したがって、製造方法が一致するとはいえない。 そして、本件明細書には「【0033】水添原料は水を含んでいてもよいし、含まなくてもよいが、1,3−ブチレングリコールの純度の観点からは含んでいることが好ましい。水添原料における水の含有量は特に限定されないが、例えば、2重量%以上が好ましく、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは15重量%以上である。なお、その上限値は、例えば、50重量%、40重量%、又は35重量%であってもよい。水の含有量が上記範囲内である場合、得られる粗1,3−ブチレングリコールに含まれる酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が低減されるため、最終的に得られる1,3−ブチレングリコール製品の純度が高くなる傾向がある。これは、水添原料に水がある程度含まれていることにより、上記エステル体が加水分解されて1,3−ブチレングリコールとなることに起因する。」、「【0036】還元反応に使用する水添触媒の量、水素量、還元反応における水素圧、反応温度、反応時間(滞留時間)が上記範囲内にあることにより、エステル体のカルボン酸部分の水素化が急速に進行してアルコールとなる。その結果、酢酸と1,3−ブチレングリコールのエステル体が低減され、高い純度である本発明の1,3−ブチレングリコール製品が得られることになる。」との記載があること、一般的に化学反応において製造条件が異なれば、製造物が異なることに鑑みれば、甲7発明が本件明細書の実施例に記載の1,3−ブチレングリコール製品と同様の物性を有しているとはいえない。 また、仮に、甲7発明の製造方法が本件明細書に記載の一般的な製造方法に包含されるものであったとしても、そのことにより、相違点1−7に係る本件発明1の技術的事項を備える1,3−ブチレングリコール製品が得られているということはできない。 したがって、甲7発明は本件発明1と上記相違点1−7において実質的に相違するものであり、本件発明1は甲7に記載された発明であるとはいえない。 (イ)甲7に記載の物性等について 本件明細書には「【0026】一般的に、1,3−ブチレングリコールを製造する場合、その製造過程において副産物が産生する。・・・また、原料となるアセトアルドール類に不純物として含まれる酢酸や、アセトアルドール類の製造において使用した苛性ソーダを中和するために使用される酢酸と、1,3−ブチレングリコールの縮合物(酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体)が副生する。 【0027】そして、これらの副産物は臭気原因物質や酸性原因物質としての性質を有し得る。特に、上記エステル体は臭気原因物質と酸性原因物質としての両方の性質を有するものであると考えられる。これは、上記エステル体が水により加水分解されると、酢酸が発生するためである。」との記載があるから、相違点1−7に係る酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が臭気、酸性に関連する物質であることが理解できる。 一方、甲7には、実施例1として「製造直後の1,3−ブチレングリコールは、臭気評点は3でり、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は0.001であり、HPLC分析において、相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.005以下であった。この1,3−ブチレングリコールを用いて40℃での経時変化試験を行ったところ、1ヶ月後の臭気評点は3、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は0.001と変化が無かった。3ヶ月後においても所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は0.002と微増して若干微量不純物含有量が増加したが、HPLC分析の相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.005以下であり、臭気評価は3であり依然として無臭であった。」(摘示7c)と記載される一方で、比較例1として「製造直後の1,3−ブチレングリコールの臭気評点は3であり、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は1.131であり、HPLC分析で、相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.05以上であった。この1,3−ブチレングリコールを用いて40℃での経時変化試験を行ったところ、1ヶ月後の臭気評点は5、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は1.160であった。3ヶ月後には臭気評点は10、所定条件下での紫外分光光度計による210nmでの吸光度は1.193となり、HPLC分析の相対保持時間が4.0〜5.5の範囲に溶出する各ピークの吸光度が0.05以上であり、微臭が発生していた。」(摘示7d)と記載されており、また、第2図として、実施例、比較例についてのHPLC分析結果が記載されており(摘示7e)、問題となる不純物の保持時間(20〜30分)のピークについて、微臭が発生している比較例1の物はピークが現れるのに対し、実施例1の物についてはピークが現れない旨(摘示7b)が記載されている。 しかし、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が臭気に関連する物質であるとの事項が、本件明細書に一般的な記載として存在し、甲7に、甲7発明の1,3−ブチレングリコールが臭気を有しない等の特性を有するものであったとしても、相違点1−7に係る技術的事項は、特定条件での酸濃度、特定条件でのガスクロマトグラフィー分析に係るものであるから、甲7発明が相違点1−7に係る本件発明1の技術的事項を備えるということはできない。 以上のとおりであるから、甲7発明は本件発明1と上記相違点1−7において実質的に相違するものであり、本件発明1は甲7に記載された発明であるとはいえない。 イ 甲8発明について 本件発明1と甲8発明とを対比すると、両者は、 「1,3−ブチレングリコール製品。」である点で一致し、以下の点で相違する。 <相違点1−8> 本件発明1は「下記条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3−ブチレングリコールのピークの面積率が99.5%以上であり、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超え、10ppm以下であり、前記の相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分として、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体を含む」こと、 「90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度(酢酸換算)が0.0015重量%以下である」こと、 「(ガスクロマトグラフィー分析の条件) 分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム(膜厚1.0μm×長さ30m×内径0.25mm) 昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。 試料導入温度:250℃ キャリアガス:ヘリウム カラムのガス流量:1mL/分 検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃」を特定しているのに対し、甲8発明はそのような特定をしていない点。 上記相違点1−8について検討する。 甲8には、上記相違点1−8に係る技術的事項については記載も示唆もない。 (ア)製造方法について ここで、たとえ甲8に上記相違点1−8に係る技術的事項についての記載がなくとも、甲8発明の製造方法が、本件発明1の製造方法と一致すれば、甲8発明が上記相違点1−8に係る技術的事項を備えるといえると考えられる。 そこで、本件発明1と甲8発明の製造方法について検討する。 本件明細書には、【0029】〜【0049】に1,3−ブチレングリコール製品の一般的な製造方法が記載され、【0050】〜【0061】に実施例が記載されている。 本件明細書に実施例として記載された製造方法と甲8発明の製造方法とを対比すると、両者は、反応器における水素還元、脱水塔における脱水、脱塩塔における脱塩、脱高沸点物蒸留塔における脱高沸点物、アルカリ反応器におけるアルカリ反応、脱アルカリ塔における脱アルカリ、製品蒸留塔における蒸留を行う点で共通する。 しかし、反応器における水素還元について、本件明細書に記載の実施例では、「原料として30重量%の水を含むアセトアルドール溶液100部(アセトアルドール70部と水30部の混合溶液)に対し、水素10部を液相水素還元用反応器に仕込み、触媒としてラネーニッケルを15部加え、該反応器を135℃、300atmに保持して」行うのに対し、甲8発明は、「原料としてアセトアルドール100部、水素を6.5部反応器(図示せず)に仕込む。反応器を温度125〜135℃、圧力150Kg/cm2に保持する。触媒としてラネーニッケルを3.5部加える。反応器から取り出した反応粗液は触媒を分離したのち、苛性ソーダで中和される。その後、アルコール類を除去」することにより行うものであり、本件明細書に記載の実施例と、甲8発明とは、原料が相違し(本件明細書に記載の実施例で原料が水を含む。)、水素、触媒であるラネーニッケルの使用量が相違し、反応圧力が異なる。 したがって、製造方法が一致するとはいえない。 そして、本件明細書には「【0033】水添原料は水を含んでいてもよいし、含まなくてもよいが、1,3−ブチレングリコールの純度の観点からは含んでいることが好ましい。水添原料における水の含有量は特に限定されないが、例えば、2重量%以上が好ましく、より好ましくは5重量%以上、さらに好ましくは10重量%以上、特に好ましくは15重量%以上である。なお、その上限値は、例えば、50重量%、40重量%、又は35重量%であってもよい。水の含有量が上記範囲内である場合、得られる粗1,3−ブチレングリコールに含まれる酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が低減されるため、最終的に得られる1,3−ブチレングリコール製品の純度が高くなる傾向がある。これは、水添原料に水がある程度含まれていることにより、上記エステル体が加水分解されて1,3−ブチレングリコールとなることに起因する。」、「【0036】還元反応に使用する水添触媒の量、水素量、還元反応における水素圧、反応温度、反応時間(滞留時間)が上記範囲内にあることにより、エステル体のカルボン酸部分の水素化が急速に進行してアルコールとなる。その結果、酢酸と1,3−ブチレングリコールのエステル体が低減され、高い純度である本発明の1,3−ブチレングリコール製品が得られることになる。」との記載があること、一般的に化学反応において製造条件が異なれば、製造物が異なることに鑑みれば、甲8発明が本件明細書の実施例に記載の1,3−ブチレングリコール製品と同様の物性を有しているとはいえない。 さらに、甲8に、水添原料は、10〜20重量%の水分を含んでいるものが使用できることが記載され(摘示8b)、甲9、10に、アセトアルデヒドを水酸化ナトリウム水溶液の存在下に縮合して得られたパラアセトアルドール反応液を中和処理した後、未反応アセトアルデヒドの一部を回収又は分離除去した後、ラネーニッケルを用いて水添反応を行う旨が記載されているが(摘示9a、10a)、これらの記載は、水添原料が水分を含んでいてもよいことが記載され、また、アセトアルデヒドからパラアセトアルドールの水添反応物(1,3−ブチレングリコール)を製造する方法が記載されているに過ぎず、そのことによって、甲8発明の製造方法が、甲1の実施例に記載の製造方法と異ならないとすることはできない。 また、仮に、甲8発明の製造方法が本件明細書に記載の一般的な製造方法に包含されるものであったとしても、そのことにより、相違点1−8に係る本件発明1の技術的事項を備える1,3−ブチレングリコール製品が得られているということはできない。 したがって、甲8発明は本件発明1と上記相違点1−8において実質的に相違するものであり、本件発明1は甲8に記載された発明であるとはいえない。 (イ)甲8に記載の物性等について 上記ア(イ)で述べたとおり、相違点1−8に係る酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が臭気、酸性に関連する物質であることが理解できる。 一方、甲8には、実施例1、2として、製造直後と3ヶ月後の1,3−ブチレングリコールについての臭気評点の測定結果が記載されており(摘示8c、d)、製造直後、3ヶ月後において臭気評点がいずれも3であったことが記載されている。 しかし、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が臭気、酸性に関連する物質であるとの事項が、本件明細書に一般的な記載として存在し、甲8発明の1,3−ブチレングリコールが臭気が著しく低減されている等の特性を有するものであったとしても、相違点1−8に係る技術的事項は、特定条件での酸濃度、特定条件でのガスクロマトグラフィー分析に係るものであるから、甲8発明が相違点1−8に係る本件発明1の技術的事項を備えるということはできない。 以上のとおりであるから、甲8発明は本件発明1と上記相違点1−8において実質的に相違するものであり、本件発明1は甲8に記載された発明であるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1について「1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールが、アセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物の還元体である」ことを特定するものであるところ、上述のとおり、甲7、8発明はそれぞれ、本件発明1と、相違点1−7及び1−8を有するものであるから、本件発明2についても同様に相違点1−7及び1−8を有する。 したがって、本件発明2についてされた上記特定事項を検討するまでもなく、本件発明2は甲7及び8発明と実質的に相違するものであり、本件発明2は甲7及び甲8に記載された発明であるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、理由2は理由がない。 4 理由3について (1)本件発明1について ア 甲7発明について 本件発明1と甲7発明との一致点・相違点は上記3(1)アで示したとおりである。 相違点1−7について検討するに、甲7には、臭気が無く、経時変化の少ない高純度1,3−ブチレングリコール及びその製造方法を提供することを目的としていることが記載されている(摘示7a)ものの、甲7には、相違点1−7に係るガスクロマトグラフィー分析、酸濃度に着目して、それらを本件発明1で特定されるとおりのものとすることは記載も示唆もされていない。 したがって、甲7発明において、相違点1−7に係る本件発明1の技術的事項を採用することは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 そして、本件明細書【0013】に記載されるとおり、本件発明1は、無臭であって、水を含む状態においても経時による酸濃度の上昇がないため、化粧品や保湿剤等の用途に好適に使用される、という効果を奏するものである。 よって、本件発明1は、甲7に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることがきたものであるとはいえない。 イ 甲8発明について 本件発明1と甲8発明との一致点・相違点は上記3(1)イで示したとおりである。 相違点1−8について検討するに、甲8には、製造3ヶ月後においても臭気の著しく低減された、経時変化の少ない高純度1,3−ブチレングリコールを提供することを目的としていることが記載されている(摘示8a)ものの、甲8〜10のいずれにも、相違点1−8に係るガスクロマトグラフィー分析、酸濃度に着目して、それらを本件発明1で特定されるとおりのものとすることは記載も示唆もされていない。 したがって、甲8発明において、相違点1−8に係る本件発明1の技術的事項を採用することは当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 そして、本件明細書【0013】に記載されるとおり、本件発明1は、無臭であって、水を含む状態においても経時による酸濃度の上昇がないため、化粧品や保湿剤等の用途に好適に使用される、という効果を奏するものである。 したがって、本件発明1は、甲8〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることがきたものであるとはいえない。 (2)本件発明2について 本件発明2は、本件発明1について「1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールが、アセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物の還元体である」ことを特定するものであるところ、上述のとおり、甲7、8発明はそれぞれ、本件発明1と、相違点1−7及び1−8を有するものであるから、本件発明2についても同様に相違点1−7及び1−8を有し、それら相違点に係る技術的事項は当業者が容易になし得た事項であるとはいえない。 したがって、本件発明2についてされた上記特定事項を検討するまでもなく、本件発明2は甲7並びに甲8〜10に記載された発明に基いて当業者が容易に発明をすることができたものであるとはいえない。 (3)まとめ 以上のとおりであるから、理由3は理由がない。 5 理由4について (1)判断の前提 物の発明における発明の実施とは、その物を生産、使用等をする行為をいうから(特許法第2条第3項第1号)、物の発明については、明細書にその物を製造する方法及び使用することについての具体的な記載が必要であるが、そのような記載がなくても明細書及び図面の記載並びに出願当時の技術常識に基づき当業者がその物を製造し、使用することができるのであれば、実施可能要件を満たすということができる。 (2)本件明細書等の記載 本件明細書及び図面(以下「本件明細書等」という。)には次の記載がある。 本a)「【技術分野】 【0001】 本発明は1,3−ブチレングリコール製品に関する。 【背景技術】 【0002】 1,3−ブチレングリコールは無色透明、無臭の液体であり、低揮発性、低毒性、高吸湿性等の性質を備え、化学的安定性に優れる。このため、1,3−ブチレングリコールの用途は各種の合成樹脂、界面活性剤の原料をはじめ、化粧品、吸湿剤、高沸点溶剤、不凍液の素材等の多岐にわたっている。特に近年では、1,3−ブチレングリコールは保湿剤として優れた性質を有することが注目されており、化粧品業界での需要が拡大している。 【0003】 従来の製造方法で得られる1,3−ブチレングリコールは、水を含有した状態に長期間置くと酸濃度(酸性度)が上昇するという問題があった。酸濃度が上昇する原因は定かではなかったが、粗1,3−ブチレングリコールに含まれる副産物に関係すると考えられていた。 【0004】 化粧品は水を含むことが一般的であり、製造から一般消費者が実際に使用するまでに長い期間を要する。また、化粧品は保存安定性等の観点から液性が厳密に調整されている。従来の方法で得られた1,3−ブチレングリコールを化粧品に使用する場合、酸濃度の上昇により化粧品の液性バランスが崩れ、本来発揮されるべき効果が失われる可能性がある。また、化粧品の酸濃度の上昇により、使用者の肌荒れ等が発生する可能性もある。また、水を含まない化粧品であっても、使用時や保管時に吸湿することにより、その酸濃度が上昇することもあった。このため、粗1,3−ブチレングリコールから副産物を除去し、1,3−ブチレングリコールを高純度化することが求められていた。 ・・・ 【発明の概要】 【発明が解決しようとする課題】 【0007】 しかしながら、これらの精製方法から得られる1,3−ブチレングリコール製品も依然として副産物が含まれており、臭気を有するという問題や、水を含むと経時により酸濃度が上昇するという問題があった。 【0008】 従って、本発明の目的は、無臭であって、水を含む状態においても経時による酸濃度の上昇を生じにくい、高純度の1,3−ブチレングリコール製品を提供することにある。 【課題を解決するための手段】 【0009】 本発明者らは、上記目的を達成するため鋭意検討した結果、従来の製造方法で得られる1,3−ブチレングリコール製品の酸濃度が上昇する原因の一つが、1,3−ブチレングリコール製品に含まれる副産物が水の存在下において加水分解され、有機酸(例えば酢酸)が生じることであることを突き止めた。そして、粗1,3−ブチレングリコールの製造方法を改良することにより、無臭であって、水を含む状態においても経時による酸濃度の上昇が生じにくい、高純度の1,3−ブチレングリコール製品が得られることを見出した。本発明はこれらの知見に基づいて完成させたものである。 【0010】 すなわち、本発明では、下記条件のガスクロマトグラフィー分析において、 1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が100ppm以下である1,3 −ブチレングリコール製品を提供する。 (ガスクロマトグラフィー分析の条件) 分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム(膜厚1.0μm×長さ30m×内径0.25mm) 昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。 試料導入温度:250℃ キャリアガス:ヘリウム カラムのガス流量:1mL/分 検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃ 【0011】 上記1,3−ブチレングリコール製品は、90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度(酢酸換算)が0.002重量%以下であることが好ましい。 【0012】 上記1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールは、アセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物の還元体であることが好ましい。 【発明の効果】 【0013】 本発明の1,3−ブチレングリコール製品は、無臭であって、水を含む状態においても経時による酸濃度の上昇がないため、化粧品や保湿剤等の用途に好適に使用される。」 本b)「【図面の簡単な説明】 【0014】 【図1】本発明の1,3−ブチレングリコール製品に関する製造方法(精製方法)のフローチャートである。 【図2】実施例1における1,3−ブチレングリコール製品のガスクロマトグラフィー分析のチャートである。 【図3】比較例1における1,3−ブチレングリコール製品のガスクロマトグラフィー分析のチャートである。」 本c)「【発明を実施するための形態】 【0015】 本発明の1,3−ブチレングリコール製品は、下記条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が100ppm以下であることを特徴とする。 【0016】 (ガスクロマトグラフィー分析の条件) 分析カラム:固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム(膜厚1.0μm×長さ30m×内径0.25mm) 昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。 試料導入温度:250℃ キャリアガス:ヘリウム カラムのガス流量:1mL/分 検出器及び検出温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃ 【0017】 上記ピークの面積率は、例えば、100ppm以下が好ましく、より好ましくは50ppm以下、さらに好ましくは20ppm以下、特に好ましくは10ppm以下である。なお、本発明において、ピークの「面積率」とは、チャートに現れる全てのピークの面積の和に対する特定のピークの面積の割合を意味するものである。また、全てのピークとは、例えば、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が7.8まで分析を継続して停止した場合に現れるピークの全てを意味する。上記ピークの面積率が上記範囲にあることにより、臭気の発生や、水を含む状態における経時による酸濃度の上昇が低減される傾向がある。 【0018】 上記条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたときの相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分としては、例えば、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が挙げられる。すなわち、本発明の1,3−ブチレングリコール製品は、副産物としての前記エステル体の含有量が少ないことが好ましい。 【0019】 本発明の1,3−ブチレングリコール製品において、上記条件のガスクロマトグラフィー分析における1,3−ブチレングリコールのピークの面積率は、例えば、99.5%以上であることが好ましく、より好ましくは99.7%以上、さらに好ましくは99.8%以上、特に好ましくは99.9%以上である。上記ピークの面積率が上記範囲にあることにより、臭気の発生や、水を含む状態における経時による酸濃度の上昇が低減される傾向がある。 【0020】 本発明の1,3−ブチレングリコール製品では、上記条件のガスクロマトグラフィー分析における1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたときの、相対保持時間が1.6〜1.8の範囲に現れるピークの面積率が、例えば、2000ppm以下であることが好ましく、より好ましくは1000ppm以下、さらに好ましくは600ppm以下、特に好ましくは200ppm以下である。上記ピークの面積率が上記範囲にあることにより、臭気の発生や経時による着色が低減される傾向がある。上記面積率の下限は、例えば、10ppm、20ppm、50ppm、又は100ppmであってもよい。 【0021】 上記条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたときの相対保持時間が1.6〜1.8の範囲に現れるピークに該当する成分としては、例えば、原料(アセトアルデヒド)の三量体の水素化物が挙げられる。すなわち、本発明の1,3−ブチレングリコール製品は、副産物としての前記水素化物の含有量が少ないことが好ましい。 【0022】 本発明の1,3−ブチレングリコール製品において、90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度(酢酸換算)は特に限定されないが、例えば、0.002重量%以下であることが好ましく、より好ましくは0.0015重量%以下、さらに好ましくは0.001重量%以下、特に好ましくは0.0005重量%以下である。上記酸濃度の上限は、例えば、0.00005重量%、0.0001重量%であってもよい。なお、90重量%水溶液とは、1,3−ブチレングリコール製品と水(例えば純水)とを混合し、1,3−ブチレングリコール製品が90重量%となる様に調整した水溶液を意味する。また、本発明の1,3−ブチレングリコール製品(100℃で1週間保持する前)において、90重量%水溶液の酸濃度(酢酸換算)は、上記範囲内であることが好ましい。 ・・・ 【0024】 本発明の1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールは、例えば、(1)アセトアルドール類の還元体、(2)1,3−ブチレンオキサイドの加水分解物、(3)エリスリトールの選択的水素化分解物、(4)ブタジエンへの選択的水付加物、(5)n−ブタナール−3−オンの水素化物、(6)1−ブタノール−3−オンの水素化物、(7)3−ヒドロキシ−1−ブタン酸の水素化物、(8)β−ブチロラクトンの水素化物、及び(9)ジケテンの水素化物が挙げられる。なお、本発明の1,3−ブチレングリコールは上記(1)〜(9)のうちの一種又は二種以上の混合物であってもよい。 【0025】 本発明の1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールは(1)アセトアルドール類の還元体であることが好ましい。また、アセトアルドール類の還元体としては、1,3−ブチレングリコールの収率の観点からは、アセトアルドール類の液相還元体であることが好ましい。・・・ 【0026】 一般的に、1,3−ブチレングリコールを製造する場合、その製造過程において副産物が産生する。例えば、・・・。また、原料となるアセトアルドール類に不純物として含まれる酢酸や、アセトアルドール類の製造において使用した苛性ソーダを中和するために使用される酢酸と、1,3−ブチレングリコールの縮合物(酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体)が副生する。 【0027】 そして、これらの副産物は臭気原因物質や酸性原因物質としての性質を有し得る。特に、上記エステル体は臭気原因物質と酸性原因物質としての両方の性質を有するものであると考えられる。これは、上記エステル体が水により加水分解されると、酢酸が発生するためである。また、上記アセタール体は臭気原因物質としての性質を色濃く有するものであると考えられる。なお、1,3−ブチレングリコールには、上記アセタール体やエステル体以外にも、臭気原因物質や酸性原因物質に相当する副産物が含まれると考えられる。ここで、臭気原因物質とは、それ自身が現に臭気を発している物質だけでなく、経時的に臭気を発するものに変化する物質も含むものとして定義される。また、酸性原因物質とは、水を含むと経時により酸濃度が上昇する物質と定義される。 【0028】 これらの副産物、特に、上記のアセタール体やエステル体は、従来の蒸留等の精製手段を用いても完全に取り除くことは難しい。これは、精製段階において、粗1,3−ブチレングリコールが高温条件に付されることや、アルカリ処理に付されることにより、新たな副産物が産生するためであると考えられる。このため、上述の通り、特許文献1〜6の1,3−ブチレングリコール製品が多くの副産物を含むことから臭気を有し、さらに水を含む状態において経時による酸濃度の上昇が生じる。したがって、純度の高い1,3−ブチレングリコール製品を得るためには粗1,3−ブチレングリコールを精製する方法を改良するだけでは充分でなく、粗1,3−ブチレングリコールの製造方法そのものを改良することが必要であるといえる。 【0029】 1,3−ブチレングリコールの製造にはアセトアルドール類を含む水添原料が使用される。アセトアルドール類は水素還元により1,3−ブチレングリコールとなる化合物であれば特に限定されないが、例えば、アセトアルドール、その環化二量体であるパラアルドール、アセトアルデヒドの一種の環状3量体であるアルドキサン、及びこれらの混合物等が挙げられる。 【0030】 アセトアルドール類(例えばアセトアルドールやパラアルドール)の製造方法は特に限定されないが、例えば、塩基性触媒の存在下におけるアセトアルデヒドのアルドール縮合反応により得られたものでも、アルドキサンの熱分解等で得られたものであってもよい。上記の反応により得られたアセトアルドール類を含む反応粗液を酸により中和して、1,3−ブチレングリコールの製造に使用してもよい。・・・なお、本明細書において、1,3−ブチレングリコールよりも沸点の低い化合物を「低沸点物」、1,3−ブチレングリコールよりも沸点の高い化合物を「高沸点物」とそれぞれ称する場合がある。 【0031】 上記反応粗液は、必要に応じて、脱アルコール蒸留、脱水蒸留、脱塩、脱不純物等の前処理に付し、未反応アセトアルデヒドやクロトンアルデヒド等の副産物を除去したものを使用してもよい。前処理の方法としては、蒸留、吸着、イオン交換、加熱高沸点物化、分解等が挙げられる。蒸留は、減圧、常圧、加圧、共沸、抽出、反応等の種々の蒸留方法が使用できる。 【0032】 水添原料におけるアセトアルドール類の含有量は特に限定されないが、例えば、50重量%以上(例えば50〜99重量%)であることが好ましく、より好ましくは60重量%以上(例えば60〜98重量%)、さらに好ましくは65〜98重量%、特に好ましくは80〜95重量%、最も好ましくは85〜95重量%である。アセトアルドール類の含有量が上記範囲内であることにより、粗1,3−ブチレングリコールに含まれる不純物が低減される傾向がある。 【0033】 水添原料は水を含んでいてもよいし、含まなくてもよいが、1,3−ブチレングリコールの純度の観点からは含んでいることが好ましい。水添原料における水の含有量は特に限定されないが、例えば、2重量%以上が好ましく、・・・。なお、その上限値は、例えば、50重量%、40重量%、又は35重量%であってもよい。水の含有量が上記範囲内である場合、得られる粗1,3−ブチレングリコールに含まれる酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が低減されるため、最終的に得られる1,3−ブチレングリコール製品の純度が高くなる傾向がある。これは、水添原料に水がある程度含まれていることにより、上記エステル体が加水分解されて1,3−ブチレングリコールとなることに起因する。 【0034】 以下、粗1,3−ブチレングリコールの製造方法について説明する。本製造方法では、アセトアルドール類を含む水添原料を水添触媒の存在下で還元することにより粗1,3−ブチレングリコールを得ることを特徴とする。 【0035】 水添触媒としては、例えば、ラネーニッケル等が挙げられる。水添触媒は、鹸濁又は充填して使用することができるが、鹸濁させて使用することが好ましい。使用する水添触媒の量は特に限定されないが、水添原料100重量部に対して、例えば、1〜30重量部が好ましく、・・・。還元反応に使用する水素量は特に限定されないが、水添原料100重量部に対して、例えば、0.5〜40重量部が好ましく、・・・。還元反応における反応系内の圧力(全圧)は特に限定されないが、例えば、150〜500atmが好ましく、・・・。反応系内の全圧に対する水素圧(水素の分圧)の割合は特に限定されないが、例えば、全圧の80%以上(80〜100%)であることが好ましく、・・・。反応系内の水素圧(水素の分圧)は特に限定されないが、例えば、100〜500atmが好ましく、・・・。還元反応における反応温度は特に限定されないが、例えば、110〜140℃が好ましく、・・・。還元反応における反応時間(滞留時間)は特に限定されないが、例えば、30〜300分間が好ましく、・・・。 【0036】 還元反応に使用する水添触媒の量、水素量、還元反応における水素圧、反応温度、反応時間(滞留時間)が上記範囲内にあることにより、エステル体のカルボン酸部分の水素化が急速に進行してアルコールとなる。その結果、酢酸と1,3−ブチレングリコールのエステル体が低減され、高い純度である本発明の1,3−ブチレングリコール製品が得られることになる。本反応は、回分式、半回分式、又は連続式のいずれでも行うことができる。 【0037】 上記水添原料の水素還元により得られた粗1,3−ブチレングリコールは、例えば、脱水工程、脱塩工程、脱高沸点物蒸留工程、アルカリ反応工程、脱アルカリ工程、蒸留工程を経ることにより、1,3−ブチレングリコール製品として得ることができる。 【0038】 上記粗1,3−ブチレングリコールの高沸点物の含有率は特に限定されないが、例えば、0.1〜20重量%であることが好ましく、・・・。粗1,3−ブチレングリコール中の高沸点物の含有率が上記範囲内にあることにより、最終的に得られる1,3−ブチレングリコール製品に含まれる副産物の量が低減される傾向がある。 【0039】 脱高沸点物蒸留工程後の粗1,3−ブチレングリコール中の高沸点物の含有率は、1.0重量%以下、好ましくは0.5重量%以下である。高沸点物の含有率が少ない粗1,3−ブチレングリコールを使用することにより、アルカリ反応工程において、塩基と共に加熱処理されても高沸点物の分解反応による低沸点物の生成が無いか、あるいは極めて少なくなる。その結果、臭気がなく、さらに水を含む状態において経時による酸濃度の上昇が生じにくい、高品質の1,3−ブチレングリコール製品が得られる傾向がある。 【0040】 図1は本発明の1,3−ブチレングリコール製品を得るための実施態様の一例を示した装置のフローシートである。Aは脱水塔であり、脱水工程に関連する。Bは脱塩塔であり脱塩工程に関連する。Cは脱高沸点物蒸留塔であり脱高沸点物蒸留工程に関連する。Dはアルカリ反応器でありアルカリ反応工程に関連する。Eは脱アルカリ塔であり脱アルカリ工程に関連する。Fは製品蒸留塔であり蒸留工程に関連する。A−1、B−1、C−1、E−1、F−1はコンデンサーである。A−2、C−2、F−2はリボイラーである。・・・ 【0041】 水添原料の水素還元により得られた粗1,3−ブチレングリコール(「X−1」に相当)は、脱水塔Aに供給される。脱水塔Aでは蒸留により塔頂部から水が留出され、塔底部より1,3−ブチレングリコールを含む粗1,3−ブチレングリコール流が得られる。上記粗1,3−ブチレングリコール流は脱塩塔Bに供給される。脱塩塔Bでは蒸留により塔頂部から脱塩後の粗1,3−ブチレングリコール流が得られ、塔底部から塩や高沸点物等が排出される。 【0042】 上記の脱塩後の粗1,3−ブチレングリコール流は脱高沸点物蒸留塔Cに供給される。脱高沸点物蒸留塔Cでは、塔底部から高沸点物が排出される。一方、塔頂部からは脱高沸点物後の粗1,3−ブチレングリコール流が得られる。脱高沸点物蒸留塔Cにより蒸留された粗1,3−ブチレングリコールは、アルカリ反応器(例えば流通式管型反応器)Dに供給され、塩基処理される。アルカリ反応器D又はその上流では、塩基が脱高沸点物後の粗1,3−ブチレングリコール流に対して0.05〜10重量%、好ましくは0.1〜1.0重量%添加される。塩基の添加量が10重量%を超えると、蒸留塔、配管等で塩基が析出し、閉塞の原因となる傾向がある。また、高沸点化合物の分解反応が起こることもあり、かえって副産物が発生する傾向がある。0.05重量%未満の場合は、副産物を分解する効果が小さいため、いずれも好ましくない。 【0043】 アルカリ反応器D又はその上流で添加される塩基は特に限定されないが、例えば、アルカリ金属化合物が好ましい。アルカリ金属化合物としては、例えば、苛性ソーダ、苛性カリ、(重)炭酸ソーダ、(重)炭酸カリが挙げられるが、最終的に得られる1,3−ブチレングリコール製品に含まれる副産物を低減する観点からは、苛性ソーダ、苛性カリが好ましい。塩基は固体状のものをそのまま加えてもよいが、操作上及び対象液との接触を促進するため水溶液で添加することが好ましい。なお、上記の塩基は1種を単独で用いてもよいし、2種以上を同時に使用してもよい。 【0044】 アルカリ反応器Dでの反応温度は特に限定されないが、例えば、90〜140℃が好ましく、より好ましくは110〜130℃である。反応温度が90℃未満である場合は長い反応滞留時間が必要になるため、反応器容量が大きくなり不経済であること、反応温度が140℃を超えると最終的に得られる1,3−ブチレングリコール製品の着色が増加することにある。反応滞留時間は、例えば、5〜120分が好ましく、より好ましくは10〜30分である。反応滞留時間が5分未満である場合は反応が不十分となり、最終的に得られる1,3−ブチレングリコール製品の品質が悪化すること、反応滞留時間が120分を超えると大きな反応器が必要になり設備費が高くなるため、経済性の観点から不利であることにある。 【0045】 アルカリ反応器Dを出た後、反応粗液流は脱アルカリ塔(薄膜蒸発器)Eに供給され、蒸発により塩基等が塔底部から除去される。一方、脱アルカリ塔Eの塔頂部からは脱塩基後の粗1,3−ブチレングリコール流が得られる。脱アルカリ塔Eに用いられる蒸発器は、プロセス流体への熱履歴を抑制する目的で、滞留時間の短い自然流下型薄膜蒸器、強制攪拌型薄膜蒸発器が適当である。 【0046】 脱アルカリ塔Eに用いられる蒸発器において、例えば、塔頂部は100torr以下、好ましくは5〜20torrの減圧下で蒸発が行われる。蒸発器の温度は、例えば、90〜120℃が好ましい。塔頂部から留出した低沸点物を含む粗1,3−ブチレングリコール流が製品蒸留塔Fへ供給される。 【0047】 製品蒸留塔Fは、例えば、多孔板塔、泡鐘塔等が挙げられるが、スルーザー・パッキング、メラパック(共に住友重機械工業(株)の商品名)等を充填した圧損失の低い充填塔がより好ましい。これは、1,3−ブチレングリコールは高温(例えば150℃以上)で熱分解し、低沸点物が生成することから、蒸留温度を低くするためである。また、1,3−ブチレングリコールにかかる熱履歴(滞留時間)が長い場合も同様に影響が出るためである。従って、採用されるリボイラーはプロセス側流体の滞留時間が短いもの、例えば、自然流下型薄膜蒸発器、強制攪拌型薄膜蒸発器等の薄膜蒸発器が好ましい。 【0048】 製品蒸留塔Fは、仕込み液中の低沸点物濃度が5重量%以下である場合、その理論段数は、例えば、10〜20段であることが好ましい。仕込み液は塔頂部から塔の高さの20〜70%の位置に供給されることが好ましい。製品蒸留塔Fでの蒸留は、塔頂部の圧力が、例えば、100torr以下であることが好ましく、より好ましくは5〜20torrである。還流比は、例えば、0.5〜2.0であることが好ましい。 【0049】 図1では、製品蒸留塔Fへの仕込みは、脱アルカリ塔Eの塔頂ベーパーをコンデンサーE−1で凝縮した液をフィードしているが、脱アルカリ塔Eからの塔頂ベーパーを直接製品蒸留塔Fへフィードしてもよい。製品蒸留塔Fでは、塔頂部から低沸点物等の不純物が留出され、製品としての1,3−ブチレングリコールは製品蒸留塔Fの塔底部から得られる(「Y」に相当する)。」 本d)「【実施例】 【0050】 以下、実施例により本発明をさらに具体的に説明するが、・・・。なお、実施例で用いている「部」は、特別の説明が無い限り「重量部」を意味する。 【0051】 [実施例1] 図1を用いて1,3−ブチレングリコールの製造方法を説明する。 原料として30重量%の水を含むアセトアルドール溶液100部(アセトアルドール70部と水30部の混合溶液)に対し、水素10部を液相水素還元用反応器に仕込み、触媒としてラネーニッケルを15部加え、該反応器を135℃、300atmに保持して液相水素還元を行った。反応後の液は触媒を分離した後、苛性ソーダで中和し、アルコール類を除去して粗1,3−ブチレングリコール(1)を得た。 【0052】 粗1,3−ブチレングリコール(1)(図1中における「X−1」に相当)を脱水塔Aに仕込んだ。脱水塔Aでは仕込み液量100部に対して塔頂部より水を抜き出し、還流水として真水15部を加え、圧力を50torrとして、塔底部より水が0.5重量%以下の粗1,3−ブチレングリコール(2)が得られた。なお、塔頂部より抜き出された水は排出された(図1中における「X−2」に相当)。 【0053】 次に、粗1,3−ブチレングリコール(2)を脱塩塔Bに仕込んだ。脱塩塔Bでは、塔底部より、塩、高沸点物、及び1,3−ブチレングリコールの一部が蒸発残分として排出された(図1中における「X−3」に相当)。蒸発残分の排出量は、仕込み液量100部に対して5部であった。一方、塔頂部からは、1,3−ブチレングリコール、低沸点物、及び高沸点物の一部を含む粗1,3−ブチレングリコール(3)が得られた。 【0054】 次に、粗1,3−ブチレングリコール(3)を脱高沸点物蒸留塔Cに仕込んだ。脱高沸点物蒸留塔Cでは、塔底部から、高沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部が排出された(図1中における「X−4」に相当)。排出量は、仕込み液量100部に対して20部であった。一方、塔頂部からは、低沸点物を含む粗1,3−ブチレングリコール(4)が80部得られた。次に、粗1,3−ブチレングリコール(4)をアルカリ反応器Dに仕込んだ。この際、仕込み液に対する苛性ソーダの濃度が0.2重量%となるように、10重量%苛性ソーダ水溶液を添加した。アルカリ反応器Dでの反応温度を120℃に維持し、滞留時間20分で反応を行った。 【0055】 次に、アルカリ反応器Dから出た反応粗液を脱アルカリ塔Eに仕込んだ。脱アルカリ塔Eでは、塔底部から、苛性ソーダ、高沸点物、及び1,3−ブチレングリコールの一部が排出された(図1中における「X−5」に相当)。排出量は、仕込み液量100部に対して10部であった。一方、塔頂部からは、1,3−ブチレングリコール及び低沸点物を含む粗1,3−ブチレングリコール(5)が90部得られた。 【0056】 次に、粗1,3−ブチレングリコール(5)を製品蒸留塔Fへ仕込んだ。製品蒸留塔Fでは、仕込み液量100部に対して、塔頂部から低沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部が10部留出され(図1中における「X−6」に相当)、塔底部からは1,3−ブチレングリコール製品が90部得られた(図1中における「Y」に相当)。 【0057】 上述の1,3−ブチレングリコール製品について、後述の条件にてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲のピークは検出限界以下(10ppm以下)であった。後述の水分添加加熱試験を行ったところ、酸濃度は0.0005重量%であり、加熱前の酸濃度の0.0005重量%から変化がないことがわかった。さらに、臭気試験の点数は1であった。 【0058】 [比較例1] 株式会社ダイセル製13ブチレングリコール(品番:13BGO)について、後述の条件にてガスクロマトグラフィー分析を行った結果、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率は135ppmであった。後述の水分添加加熱試験を行ったところ、酸濃度は0.0024重量%であり、加熱前の酸濃度の0.0005重量%から大幅に増加したことがわかった。さらに、臭気試験の点数は2であった。 【0059】 [ガスクロマトグラフィー分析] 以下の条件で、対象となる1,3−ブチレングリコール製品のガスクロマトグラフィー分析を行った。実施例1における1,3−ブチレングリコールのガスクロマトグラフィー分析のチャートを図2に示す。また、比較例1における1,3−ブチレングリコールのガスクロマトグラフィー分析のチャートを図3に示す。 (ガスクロマトグラフィー分析の条件) 分析装置:島津 GC2010 分析カラム:Agilent J&W GC カラム − DB−1(固定相がジメチルポリシロキサンであるカラム、膜厚1.0μm×長さ30m×内径0.25mm、アジレント・テクノロジー株式会社製) 昇温条件:5℃/分で80℃から120℃まで昇温した後、2℃/分で160℃まで昇温し2分保持する。さらに、10℃/分で230℃まで昇温し、230℃で18分保持する。 試料導入及び温度:スプリット試料導入法、250℃ スプリットのガス流量及びキャリアガス:23mL/分、ヘリウム カラムのガス流量及びキャリアガス:1mL/分、ヘリウム 検出器及び温度:水素炎イオン化検出器(FID)、280℃ 注入試料:0.2μLの80重量%1,3−ブチレングリコール製品水溶液 【0060】 [水分添加加熱試験(酸濃度分析)] 対象となる1,3−ブチレングリコール製品を90重量%の水溶液に調整し、100℃で1週間保持した後のものをサンプルとして、以下の手法により酸濃度分析を行った。なお、保持前の酸濃度分析は、100℃で1週間保持する前の1,3−ブチレングリコール製品を対象としたこと以外は同様にして行った。 (酸濃度分析) 電位差自動滴定装置(京都電子工業製AT−510)を用いて電位差滴定法によって測定した。サンプル50gを蒸留水50gで希釈し、撹拌しながら0.01Nの水酸化ナトリウム水溶液を自動終点停止するまでビュレットから滴定した。次いで、下記式に基づいて酢酸換算の酸濃度を算出した。 酸濃度(重量%)=滴定量(ml)×F×A×(100/サンプル量(g)) F:1.0(0.01N水酸化ナトリウム水溶液のファクター) A:0.0006(1mlの水酸化ナトリウム水溶液に相当する酢酸のグラム数) 【0061】 [臭気試験] 対象となる1,3−ブチレングリコール製品を広口試薬瓶に入れ、密栓し室温に静置した後、大気中で速やかに臭いを嗅ぎ、以下の1,3−ブチレングリコール製品との相対評価にて点数を付けた。 1:臭いを感じない 2:僅かに臭気がある 【符号の説明】 【0062】 A:脱水塔 B:脱塩塔 C:脱高沸点物蒸留塔 D:アルカリ反応器 E:脱アルカリ塔 F:製品蒸留塔 A−1、B−1、C−1、E−1、F−1:コンデンサー A−2、C−2、F−2:リボイラー X−1:粗1,3−ブチレングリコール X−2:水(排水) X−3:塩、高沸点物、及び1,3−ブチレングリコールの一部 X−4:高沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部 X−5:苛性ソーダ、高沸点物、及び1,3−ブチレングリコールの一部 X−6:低沸点物及び1,3−ブチレングリコールの一部 Y:1,3−ブチレングリコール製品」 本e)「【図1】 【図2】 【図3】 」 (3)判断 本件発明は、1,3−ブチレングリコール製品である物の発明である。 発明の詳細な説明には、ガスクロマトグラフィー分析の条件、酸濃度、原料の種類、原料の製造方法についての記載、粗1,3−ブチレングリコールの製造方法における水添触媒、圧力、水素分圧、反応温度、反応時間等の記載、粗1,3−ブチレングリコールから1,3−ブチレングリコール製品を製造する際の工程、各工程における操作、試薬の量、種類、温度、圧力等についての一般的な記載があり(摘示本c)、実施例として、30重量%の水を含むアセトアルドール溶液から1,3−ブチレングリコールを製造する方法の具体的な記載、得られた1,3−ブチレングリコール製品について、ガスクロマトグラフィー分析の結果、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲のピークは検出限界以下(10ppm以下)であったこと、水分添加加熱試験の結果、酸濃度は0.0005重量%であり、加熱前の酸濃度の0.0005重量%から変化がなかったこと、臭気試験の点数は1であったことの記載がある(摘示本d)。 また、発明の詳細な説明には、1,3−ブチレングリコールの用途は各種の合成樹脂、界面活性剤の原料をはじめ、化粧品、吸湿剤、高沸点溶剤、不凍液の素材等の多岐にわたっており、保湿剤としても注目されていることが記載されている(摘示本a)。 さらに、図面として製造方法のフローチャート、実施例、比較例におけるガスクロマトグラフィー分析のチャートが記載されている(摘示本b、e)。 以上の本件発明の詳細な説明及び図面の記載から、本件明細書等には、本件発明の物を製造する方法についての一般的・具体的な記載があるといえ、本件明細書等の記載及び原出願の出願当時の技術常識に基づいて当業者は本件発明の物を使用することができるといえる。 したがって、本件発明の詳細な説明の記載は、当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載したものであるといえる。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の主張は、甲3には、Genomatica社製Brontideがガスクロマトグラフィー分析については本件発明の条件を満たす一方、酸濃度については本件発明の条件を満たさないから、本件明細書等の記載から、どのようにすれば相対保持時間が1.35〜1.45の面積率を小さくしたままで90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度も低くすることができるのかについて発明の詳細な説明から理解することができないというものと解される。 本件明細書【0017】の「上記ピークの面積率が上記範囲にあることにより、臭気の発生や、水を含む状態における経時による酸濃度の上昇が低減される傾向がある。」との記載等から、本件発明におけるガスクロマトグラフィー分析と酸濃度とは一定の関連性を有するとはいえるものの、【0018】〜【0020】、【0027】等の記載から、ガスクロマトグラフィー分析における相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する物質、酸濃度の上昇原因となる物質は、酢酸と1,3ーブチレングリコールとのエステル体を含む各種成分であることが理解できるから、本件発明において特定されるガスクロマトグラフィー分析及び酸濃度は必ずしも連動しないことが理解できる。 一方、本件明細書等には、ガスクロマトグラフィー分析における面積率と酸濃度がある程度の関連があること、相対保持時間が1.6〜1.8の範囲に現れるピークの面積率が臭気に影響があること、原料の種類、1,3ーブチレングリコールの製造過程に産生する副産物が酸濃度等に影響すること、水添原料におけるアセトアルドール類の含有量が特定範囲内であることにより不純物が低減される傾向があること、水添原料の含水量が1,3−ブチレングリコール製品の純度に影響すること、還元反応に使用する水添触媒の量、水素量、還元反応における水素圧、反応温度、反応時間(滞留時間)が酢酸と1,3−ブチレングリコールのエステル体の量、1,3−ブチレングリコール製品の純度に影響すること、粗1,3−ブチレングリコールの高沸点物の含有率が1,3−ブチレングリコール製品に含まれる副産物の量、酸濃度に影響すること、アルカリ反応器における塩基の種類、添加量が副産物の分解、低減に影響することが記載されている(【0017】、【0019】、【0020】、【0024】〜【0027】、【0032】、【0033】、【0036】、【0038】、【0039】、【0042】、【0043】)。 そして、上記(3)で述べたとおり、発明の詳細な説明には、本件発明の物を製造する方法について一般的・具体的な記載があるから、当該記載、特に実施例の記載及び原出願の出願時の技術常識に基づいて原料の種類、その含水量、水添触媒の量、圧力、反応温度、時間等を設定して、ガスクロマトグラフィー分析及び酸濃度について本件発明の条件を満たす1,3−ブチレングリコールを製造することができるといえる。 本件発明において特定されるガスクロマトグラフィー分析及び酸濃度は必ずしも連動しないことは上述のとおりであるから、Genomatica社製Brontideがガスクロマトグラフィー分析については本件発明の条件を満たす一方、酸濃度については本件発明の条件を満たさないとしても、本件発明の実施可能要件の判断に何ら影響を与えない。 よって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、理由4は理由がない。 6 理由5について (1)判断の前提 特許請求の範囲の記載が特許法第36条第6項第1号に規定する要件(いわゆる「明細書のサポート要件」)に適合するか否かは、特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し、特許請求の範囲に記載された発明が、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か、また、その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである。 (2)本件明細書等の記載 上記5(2)に示したとおりである。 (3)判断 ア 本件発明の課題 本件明細書、特許請求の範囲及び図面の全体の記載事項(特に【0008】の記載)並びに原出願の出願時の技術常識からみて、本件発明の解決しようとする課題は、「無臭であって、水を含む状態においても経時による酸濃度の上昇を生じにくい、高純度の1,3−ブチレングリコール製品を提供すること」であると認める。 イ 判断 上記5(3)で述べたとおり、本件明細書等には、本件発明の物を製造する方法についての一般的・具体的な記載があるといえ、本件明細書等の記載及び原出願の出願当時の技術常識に基づいて当業者は本件発明の物を使用することができるといえるところ、実施例には、得られた1,3−ブチレングリコール製品が、ガスクロマトグラフィー分析を行った結果、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲のピークは検出限界以下(10ppm以下)であったこと、水分添加加熱試験を行ったところ、酸濃度は0.0005重量%であり、加熱前の酸濃度の0.0005重量%から変化がないこと、臭気試験の点数は1であったこと(【0057】)、すなわち、無臭であって、水を含む状態においても経時による酸濃度の上昇を生じにくい、高純度の1,3−ブチレングリコール製品が得られたことが記載されている。 してみると、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明で、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであり、また、その記載や示唆がなくとも当業者が原出願の出願時の技術常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるといえる。 したがって、本件発明は発明の詳細な説明であるといえる。 (4)特許異議申立人の主張について 特許異議申立人の主張する理由は、実施例1以外のどのような製造条件で相対保持時間が1.35〜1.45の面積率と90重量%水溶液を100℃で1週間保持した後の酸濃度とが共に低くなるのか不明であり、どのようにすればこれら2つのパラメータを共に低くすることができるのかについては本件明細書には記載されていないというものである。 しかし、上記5(3)及び(4)でも述べたとおり、本件明細書等には、本件発明の物を製造する方法についての一般的・具体的な記載があるといえ、本件明細書等の記載及び原出願の出願当時の技術常識に基づいて当業者は本件発明の物を使用することができるといえ、また、特に実施例の記載及び原出願の出願時の技術常識に基づいて原料の種類、その含水量、水添触媒の量、圧力、反応温度、時間等を設定して、ガスクロマトグラフィー分析及び酸濃度について本件発明の条件を満たす1,3−ブチレングリコールを製造することができるといえるから、本件明細書等には、上記2つのパラメータを共に低くすることができるのかについて記載されているといえる。 したがって、特許異議申立人の主張は採用できない。 (5)まとめ 以上のとおりであるから、理由5は理由がない。 7 理由6について (1)理由6−1について 請求項1の「1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたとき、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークの面積率が0ppmを超え、10ppm以下であり、」との発明特定事項は、請求項1に記載の「ガスクロマトグラフィー分析」についてのものであるところ、「ピークの面積率が0ppmを超え」との事項は、その文言自体に不明確な点はなく、当業者はその技術的意味を明確に把握できるといえる。 特許異議申立人は、実施例1との関係について指摘するので、念のため、その点についても検討する。 一般に、各種分析機器における分析には検出限界が存在することが原出願の出願時の技術常識であるところ、「検出限界」の技術的意味は、当該分析機器で検出できる最低の量である。したがって、検出限界以下であるとは、必ずしも対象の物質が試料中に存在しないことを意味するのではなく、当該機器によっては検出できない量であることを意味するといえる。 本件明細書の実施例1の「相対保持時間が1.35〜1.45の範囲のピークは検出限界以下(10ppm以下)であった。」との記載についても同様に考えることができ、「検出限界以下」との記載は、必ずしも対象の物質が試料中に存在しないことを意味するのではなく、当該機器によっては検出できない量(10ppm以下)であることを意味するといえる。 請求項1との関係では、実施例1については、試料中に対象の物質が10ppm以下の量で存在するといえ、何ら矛盾する点はない。 したがって、請求項1に係る特許を受けようとする発明は明確である。 以上のとおりであるから、理由6−1は理由がない。 (2)理由6−2について 請求項1の「前記の相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分として、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体を含む」との発明特定事項において、「相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分」が「酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体」であるとする点は、ガスクロマトグラフィーにおける特定の相対保持時間に現れるピークの成分を特定するものであって、何ら不明確な点はない。 また、請求項1の「1,3−ブチレングリコール」が「酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体を含む」とする点についても含有成分を特定するものであって、何ら不明確な点はない。 特許異議申立人は、実施例1について指摘するので、念のため、その点についても検討する。 上記(1)で述べたとおり、実施例1の「相対保持時間が1.35〜1.45の範囲のピークは検出限界以下(10ppm以下)であった。」との記載については、試料中に対象の物質が10ppm以下の量で存在するといえるところ、本件明細書【0018】には、「上記条件のガスクロマトグラフィー分析において、1,3−ブチレングリコールのピークの相対保持時間を1.0としたときの相対保持時間が1.35〜1.45の範囲に現れるピークに該当する成分としては、例えば、酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が挙げられる。すなわち、本発明の1,3−ブチレングリコール製品は、副産物としての前記エステル体の含有量が少ないことが好ましい。」と記載されており、相対保持時間が1.35〜1.45の範囲におけるピークに対応する成分が酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体であることが記載されているから、10ppm以下の量で存在する物質として酢酸と1,3−ブチレングリコールとのエステル体が存在するといえる。 したがって、実施例1の記載を考慮しても、何ら不明確な点はない。 よって、請求項1に係る特許を受けようとする発明は明確である。 以上のとおりであるから、理由6−2は理由がない。 (3)理由6−3について 請求項2の「1,3−ブチレングリコール製品における1,3−ブチレングリコールが、アセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物の還元体である」との記載は、「1,3−ブチレングリコール」がアセトアルドール、パラアルドール、及びアルドキサンからなる群より選択される少なくとも1つの化合物が還元されたものであること、すなわち、1,3−ブチレングリコールの状態を表現したものであり、当該記載は「1,3−ブチレングリコール」の製造方法を記載したものであるとはいえない。 したがって、請求項2に係る特許を受けようとする発明は明確である。 以上のとおりであるから、理由6−3は理由がない。 (4)まとめ 以上のとおりであるから、理由6は理由がない。 第5 むすび 以上のとおりであるから、請求項1〜2に係る特許は、特許異議申立書に記載された特許異議申立理由及び証拠方法によっては、取り消すことができない。 また、他に請求項1〜2に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。 よって、結論のとおり決定する。 |
異議決定日 | 2022-03-28 |
出願番号 | P2020-186343 |
審決分類 |
P
1
651・
121-
Y
(C07C)
P 1 651・ 537- Y (C07C) P 1 651・ 112- Y (C07C) P 1 651・ 113- Y (C07C) P 1 651・ 536- Y (C07C) |
最終処分 | 07 維持 |
特許庁審判長 |
村上 騎見高 |
特許庁審判官 |
冨永 保 関 美祝 |
登録日 | 2021-05-27 |
登録番号 | 6890709 |
権利者 | 株式会社ダイセル |
発明の名称 | 1,3−ブチレングリコール製品 |
代理人 | 特許業務法人後藤特許事務所 |