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審決分類 審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1384287
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-20 
確定日 2022-04-19 
異議申立件数
事件の表示 特許第6893247号発明「半二次電池および二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6893247号の請求項1〜3に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6893247号(以下、「本件特許」という。)の請求項1〜3に係る特許についての出願は、2018年(平成30年)3月20日(優先権主張 平成29年9月28日)を国際出願日として出願され、令和3年6月2日にその特許権の設定登録がされ、同年6月23日に特許掲載公報が発行されたものであり、その後、その特許の請求項1〜3に係る特許に対し、同年12月20日に特許異議申立人 安井総一(以下、「申立人」という。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
本件特許の請求項1〜3に係る発明(以下、それぞれの請求項に係る発明を「本件発明1」等という。また、本件特許の願書に添付した明細書を「本件明細書」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜3に記載された次のとおりのものである。
「 【請求項1】
正極集電体および正極合剤層を有する正極と、
前記正極上に形成される絶縁層と、を有し、
先端角度が30°、径が3mmの釘を速度40mm/secで前記正極集電体を突き刺し、前記正極集電体が破断した時の強度である引張強度が16N以下であり、
前記絶縁層は、イオン液体またはエーテル系溶媒、および電解質塩を有する半固体電解液、並びに担持粒子を含む半固体電解質と、低融点材料である半固体電解質バインダとを有する半固体電解質層であり、
前記低融点材料の融点はリチウム複合酸化物からなる正極活物質の価数減少温度以下であり、
前記担持粒子と前記低融点材料の合計に対する前記低融点材料の添加量は4wt%〜15wt%である半二次電池。
【請求項2】
請求項1の半二次電池において、
前記低融点材料はフッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重合体である半二次電池。
【請求項3】
請求項1の半二次電池において、
前記正極集電体の厚みは15μm以下である半二次電池。」

第3 特許異議の申立ての理由の概要
本件特許の請求項1〜3に係る特許は、下記1のとおり、特許法113条2号に該当する。証拠方法は、下記2の甲第1号証〜甲第8号証(以下、単に「甲1」等という。)である。

1 申立理由(進歩性
本件発明1〜3は、甲2〜4に記載された事項を勘案して、甲1に記載された発明及び甲5〜8に記載された事項に基いて、その発明の属する技術分野における通常の知識を有する者(以下、「当業者」という。)が容易に発明をすることができたものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものである。
したがって、請求項1〜3に係る特許は、特許法第113条第2号に該当し取り消されるべきものである。

2 証拠方法
(1)甲第1号証(甲1):特開2017−59432号公報
(2)甲第2号証(甲2):「Tetraethylene Glycol Dimethyl Ether 安全データシート」、2018年10月3日、東京化成工業株式会社
(3)甲第3号証(甲3):「リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド製品情報」、[online]、キシダ化学株式会社、[令和3年12月3日検索]、インターネットURL〈http://www.kishida.co.jp/product/catalog/detail/id/19757〉
(4)甲第4号証(甲4):「二酸化けい素安全データシート」、2016年9月7日、国産化学株式会社
(5)甲第5号証(甲5):特開2017−147148号公報
(6)甲第6号証(甲6):特開2017−147136号公報
(7)甲第7号証(甲7):特開2017−45611号公報
(8)甲第8号証(甲8):石原毅、「リチウムイオン2次電池用セパレータ開発動向」、2017年5月、株式会社東レリサーチセンター

第4 申立理由(進歩性)についての当審の判断
当審は、以下に述べるとおり、特許異議申立書に記載した上記第3の1の特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできないと判断した。

1 甲1の記載事項及び甲1に記載された発明
1−1 甲1の記載事項
甲1には、以下の記載がある。
なお、下線は注目すべき記載箇所に、また、点線(・・・)は記載摘記を省略した箇所に対し、それぞれ当審が付したものである(以下同じ。)。
(1)「金属酸化物粒子とイオン伝導材とを含む擬似固体電解質であって、
前記イオン伝導材は、グライム類またはN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミドのいずれか一方と、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドを含むリチウム塩との混合物であり、
前記イオン伝導材は、前記金属酸化物粒子に担持されていることを特徴とする擬似固体電解質。」(【請求項1】)
(2)「本発明は、全固体二次電池の技術に関し、特に、リチウムイオンを伝搬する電解質である擬似固体電解質、および該擬似固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池に関するものである。」(【0001】)
(3)「より高性能な全固体二次電池に向けて、電極活物質との良好な接触を確保できかつ高い導電性を有しながら、化学的・構造的な安定性が従来以上に高い固体電解質が強く求められている。」(【0012】)
(4)「本発明の目的は、電極活物質との接触性、導電性、および化学的・構造的な安定性が高いレベルでバランスしており、その結果、従来のバルク型全固体リチウム二次電池よりも高出力化(高レートの充放電)を可能にする固体電解質、および該固体電解質を用いた全固体リチウム二次電池を提供することにある。」(【0013】)
(5)「図1に示したように、本発明に係る全固体リチウム二次電池100は、正極層10と負極層30とが電解質層20を介して積層され、それらが電池ケース40に収容されている。正極層10は、正極集電体11と正極合剤層12とからなり、正極50に電気的に接続されている。」(【0022】)
(6)「電解質層20は本発明の擬似固体電解質からなり、該擬似固体電解質は金属酸化物粒子とイオン伝導材とを含み、該イオン伝導材が金属酸化物粒子に担持されているものである。また、該イオン伝導材は、イオン液体またはイオン液体に類似の性質を示すグライム類と、リチウム塩との混合物であり、結着材を更に含有することがより好ましい。」(【0026】)
(7)「本発明で用いるイオン液体としては、電解質として機能する公知のイオン液体を利用可能であるが、イオン伝導性(導電性)の観点から、特にN,N-ジエチル-N-メチル-N-(2-メトキシエチル)アンモニウムビス(トリフルオロメタンスルホニル)イミド(DEME-TFSI)を好ましく用いることができる。」(【0027】)
(8)「グライム類(R-O(CH2CH2O)n-R’(R、R’は飽和炭化水素、nは整数)で表される対称グリコールジエーテルの総称)としては、イオン液体に類似の性質を示す公知のグライム類を利用可能であるが、イオン伝導性(導電性)の観点から、テトラグライム(テトラエチレンジメチルグリコール、G4)、トリグライム(トリエチレングリコールジメチルエーテル、G3)、ペンタグライム(ペンタエチレングリコールジメチルエーテル、G5)、ヘキサグライム(ヘキサエチレングリコールジメチルエーテル、G6)を好ましく用いることができる。」(【0028】)
(9)「リチウム塩としては、例えば、LiPF6、LiBF4、LiClO4、LiCF3SO3、LiCF3CO2、LiAsF6、LiSbF6、リチウムビスオキサレートボラート(LiBOB)、およびリチウムイミド塩(例えば、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド、LiFSI)を好ましく用いることができる。」(【0029】)
(10)「金属酸化物粒子としては、電気化学的安定性の観点から、絶縁性粒子であり有機溶媒に不溶であることが好ましい。例えば、シリカ(SiO2)粒子、γ−アルミナ(Al2O3)粒子、セリア(CeO2)粒子、ジルコニア(ZrO2)粒子を好ましく用いることができる。また、他の公知の酸化物電解質粒子を用いてもよい。」(【0033】)
(11)「上記の擬似固体電解質を用いて電解質層20を形成する方法としては、擬似固体電解質の粉末を、成型ダイス等を用いてペレット状に圧縮成型する方法や、粉末状のバインダを擬似固体電解質の粉末に添加・混合し、シート化する方法などがある。一例として、擬似固体電解質の粉末に結着材粉末(例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末)を添加・混合することにより、柔軟性の高い擬似固体電解質シートを得ることができる。」(【0039】)
(12)「正極集電体11は、二次電池製造プロセス中の加熱や二次電池の運転温度に耐えられる耐熱性を有する低抵抗導電体であれば特段の限定はなく、従前のリチウム二次電池における正極集電体と同様のものを用いることができる。例えば、金属箔(厚さ10μm以上100μm以下)・・・が挙げられる。また、金属種としては、アルミニウム・・・を用いることができる。」(【0040】)
(13)「[実施例1]
(擬似固体電解質の作製)
まず、テトラグライム(G4)とリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)とを『G4:LiFSI=1:1』のモル比率で混合してイオン伝導材を用意した。次に、該イオン伝導材(G4-LiFSI)とシリカナノ粒子(SiO2)とを『G4-LiFSI:SiO2=80:20』の体積比率で混合し、メタノールを添加し30分間よく混合して擬似固体電解質スラリーを調合した。その後、該スラリーをシャーレに広げ、メタノールを留去して擬似固体電解質(QSE)粉末を得た。」(【0063】)
(14)「(電解質層の作製)
上記のQSE粉末にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末5質量%を添加し、よく混合しながら伸ばしてシートを作製した。次に、該QSEシートを直径12 mmのサイズで打ち抜いて実施例1の電解質層を得た。」(【0064】)
(15)「(正極層の作製)
正極活物質のLiFePO4(LFP)と導電材のアセチレンブラック(AB)とを『LFP:AB=78:22』の質量比で混合した。次に、LFPとABの混合物(LFP-AB)と先のQSE粉末とを『LFP-AB:QSE=50:50』の質量比で混合した。次に、該『LFP-AB+QSE』混合物にPTFE粉末10質量%を添加し、よく混合しながら伸ばして正極合剤シートを作製した。次に、該正極合剤シートを直径7 mmのサイズで打ち抜いて実施例1の正極合剤層を得た。」(【0065】)
(16)「該正極合剤層を直径7 mmの金属アルミニウム箔と積層し、圧着して実施例1の正極層を得た。」(【0066】)
(17)「(電極群の作製)
上記で用意した正極層、電解質層および負極層を積層し、圧着して実施例1の電極群を作製した。」(【0068】)
(18)「(評価用二次電池の作製)
上記で用意した電極群を2032型コインセル(宝泉株式会社製)の中に封止して、実施例1の評価用二次電池を作製した。」(【0069】)
(19)「

」(【図1】)

1−2 甲1に記載された発明
上記1−1における甲1の記載事項のうち、特に実施例1に関する記載(【0063】、【0064】〜【0066】、【0068】、及び【0069】)に着目した上で、特に「正極層、電解質層および負極層を積層し、圧着して」作製される「電極群」(【0068】)のうち正極層と電解質層とによる一部の積層構造部分を「構造体」と称することにすると、甲1には以下のような「構造体」に関する発明(以下、「甲1発明」という。)が記載されていると認められる。

「正極活物質としてLiFePO4(LFP)を用いた正極合剤層と金属アルミニウム箔を積層、圧着した正極層と、
正極層に積層、圧着される電解質層と、を有し、
電解質層は、テトラグライム(G4)とリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)とを1:1のモル比率で混合したイオン伝導材とシリカナノ粒子とを、80:20の体積比で混合した擬似固体電解質(QSE)粉末にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を5質量%添加して作製される電解質層である、
評価用二次電池の電極群の一部を構成する構造体。」

2 甲2の記載事項
甲2には、テトラエチレングリコールジメチルエーテルに関して、以下の記載がある。
(1)「化学名または一般名:テトラエチレングリコールジメチルエーテル」(3.組成、成分情報)
(2)「別名:Tetraglyme」(3.組成、成分情報)
(3)「化学式:C10H22O5」(3.組成、成分情報)
(4)「物理的状態(20℃):液体
・・・
比重:1.01」(9.物理的及び化学的性質)

3 甲3の記載事項
甲3には、リチウムビス(フルオロスルホニル)イミドに関して、以下の記載がある。
(1)「和名 リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド」(基本情報)
(2)「分子量 187.07」(詳細情報)
(3)「比重 d≒2.32」(詳細情報)

4 甲4の記載事項
甲4には、二酸化けい素に関して、以下の記載がある。
(1)「製品名称:二酸化けい素(無水ケイ酸、沈降性)(国産1級)」(1.化学品及び会社情報)
(2)「比重/密度:2.2(非晶)〜2.65(結晶)」(9.物理的及び化学的性質)

5 甲5の記載事項
甲5には、以下の記載がある。
(1)「積層ラミネート型電池のさらなる薄型化を図る目的で、従来のオレフィン系樹脂製の多孔質フィルムや不織布に代えて、電極活物質層の上に多孔質の絶縁層を配置することが提案されている。」(【0003】)
(2)「集電体シート31を、図2に示すL方向へ搬送しながら、集電体シート31の一方の面31a(図1に示す電極集電体11の一方の面11a)側に配置された第1のコータC1によって、集電体シート31の一方の面31aに、活物質層材料を塗布して第1の塗膜32(図1に示す第1の塗膜22)を形成する。」(【0015】)
(3)「集電体シート31(電極集電体11)を構成する金属材料としては、例えば、アルミニウム、チタン、ニッケル、ステンレス鋼等の金属が挙げられる。」(【0017】)
(4)「続いて、集電体シート31を、図2に示すL方向へ搬送しながら、第2のコータC2によって、第1の塗膜32の一方の面32a(図1に示す第1の塗膜22の一方の面22a)に、絶縁層材料を塗布して第2の塗膜33(図1に示す第2の塗膜23)を形成する。」(【0031】)
(5)「絶縁層材料としては、例えば、絶縁性フィラー、バインダーおよび溶媒(第2の溶媒)を含むスラリー状の組成物が挙げられる。」(【0032】)
(6)「バインダーとしては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF−HFP(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有樹脂・・・等が挙げられる。」(【0034】)
(7)「

」(図1)
(8)「

」(【図2】)

6 甲6の記載事項
甲6には、以下の記載がある。
(1)「積層ラミネート型電池のさらなる薄型化を図る目的で、従来のオレフィン系樹脂製の多孔質フィルムや不織布に代えて、電極活物質層の上に多孔質の絶縁層を配置することが提案されている。」(【0003】)
(2)「<製造方法>
本発明の第一実施形態は、図1に例示するような、平面視で矩形の電極集電体1と、電極活物質層2と、絶縁層3と、ゲル電解質層4とがこの順で積層して配置された積層構造Sを備えるリチウムイオン二次電池(以下、単に「二次電池」ということがある。)10の製造方法である。」(【0012】)
(3)「本実施形態の製造方法においては、電極集電体の表面1aに形成された電極活物質層の表面2aに、絶縁性フィラー、第一溶媒及びバインダー樹脂を含む樹脂組成物を塗布し、さらに続けて、前記塗布した前記樹脂組成物の塗膜の表面に、電解質、第二溶媒及びゲルマトリックスを含む電解質組成物を塗布する。この連続的な塗布により、前記絶縁性フィラー、前記第一溶媒及び前記バインダー樹脂を含む絶縁層3と、絶縁層3の表面3aに前記電解質、前記第二溶媒及び前記ゲルマトリックスを含むゲル電解質層4を形成する工程を有する。」(【0016】)
(4)「以下では、第一電極を構成する電極集電体1が負極集電体であり、電極活物質層2が負極活物質層である場合を説明するが、第一電極が正極である場合にも以下の説明と同様に実施することができる。」(【0018】)
(5)「前記第一溶媒中に後述のリチウム塩が含まれていてもよい。」(【0029】)
(6)「前記バインダー樹脂としては、例えば、ポリフッ化ビニリデン(PVDF)、PVDF−HFP(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)等のフッ素含有樹脂・・・等が挙げられる。」(【0030】)
(7)「

」(【図1】)

7 甲7の記載事項
甲7には、以下の記載がある。
(1)「図1は、本発明の好ましい実施形態に係る全固体二次電池(リチウムイオン二次電池)を模式化して示す断面図である。本実施形態の全固体二次電池10は、負極側からみて、負極集電体1、負極活物質層2、固体電解質層3、正極活物質層4、正極集電体5を、この順に積層してなる構造を有しており、隣接する層同士は直に接触している。」(【0011】)
(2)「本発明の全固体二次電池において、各層(すなわち、負極活物質層、固体電解質層及び/又は正極活物質層、以下同様。)はバインダーを含有することも好ましい。・・・本発明に用いることができるバインダーは、通常、電池材料の正極または負極用結着剤として用いられるバインダーが好ましく、特に制限はなく、例えば、以下に述べる樹脂からなるバインダーが好ましい。」(【0039】)
(3)「含フッ素樹脂としては、例えば、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)、ポリビニレンジフルオリド(PVdF)、ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンの共重合物(PVdF−HFP)が挙げられる」(【0040】)
(4)「本発明の全固体二次電池を作製するには、上記(iii)で形成した固体電解質層上に、正極活物質層を常法により形成して4層構造の積層体を得、上記正極活物質層上に集電体(金属箔)を重ねて5層構造の積層体を調製する。・・・得られた5層構造の積層体はそのまま全固体二次電池として用いてもよく、通常は、この5層構造の積層体を適当なハウジング(コインケース等)に収めて全固体二次電池として用いる。」(【0076】)
(5)「

」(【図1】)

8 甲8の記載事項
甲8には、以下の記載がある。
(1)「セパレータはLIBの中で、負極と正極の間に挿入され使われている。図1に代表例として、円筒の電池を示す。通常の電池においては、電気絶縁性を担保するという最も基本的な能力を発揮する必要がある。」(1ページ左欄)
(2)「【セパレータの機能】」「異常時の安全性確保」「高温時→溶融・空孔閉鎖(シャットダウン(SD)特性)」(1ページ右欄 図1)
(3)「通常時の電池機能に加えて、異常時の安全性確保という点から、電池が異常になった場合に、セパレータとして果たすべき機能が三つある。・・・二つ目が、何らかの異常反応が起こって電池内に高温な条件が発生した場合、セパレータの穴が塞がり、電極間のリチウムイオンの流れを停止して安全に電池の機能を止める『シャットダウン(SD)機能』・・・」(1ページ右欄)

9 本件発明1についての進歩性判断
(1)対比
本件発明1と甲1発明とを対比する。
ア 甲1発明において「正極層」を構成する「金属アルミニウム箔」は、甲1の【0040】において、正極集電体の態様として金属箔が挙げられ、かつ、金属種としてアルミニウムを用いることができることも記載されているから、本件発明1の「正極集電体」に相当する。

イ 上記アの検討を踏まえると、甲1発明における正極合剤層と金属アルミニウム箔を積層、圧着した「正極層」は、本件発明1の「正極集電体および正極合剤層を有する」「正極」に相当する。

ウ 甲1発明において「電解質層」の「イオン伝導材」の一部を構成する「テトラグライム(G4)」は、甲1の【0028】に「グライム類(R-O(CH2CH2O)n-R’(R、R’は飽和炭化水素、nは整数)で表される対称グリコールジエーテルの総称)」が、イオン伝導性(導電性)の観点から「イオン伝導材」として好ましく用いることができることが説明されているものであり、また、本件明細書【0037】に、エーテル系溶媒の一例として、イオン伝導性の観点から「公知のグライム(R-O(CH2CH2O)n-R’(R、R’は飽和炭化水素、nは整数)で表される対称グリコールジエーテルの総称)」として好ましく用いることができる物質として示される「テトラグライム(テトラエチレンジメチルグリコール、G4)」と同じ物質となっており、当然に本件明細書に記載されるエーテル系溶媒と同様の作用を奏するものと考えられるから、本件発明1の半固体電解液が有している「エーテル系溶媒」に相当する。

エ 甲1発明において「電解質層」の「イオン伝導材」の一部を構成する「リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)」は、本件明細書【0036】に電解質塩の一例として示される「リチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)」と同じ物質となっており、当然に本件明細書に記載される電解質塩と同様の作用を奏するものと考えられるから、本件発明1の半固体電解液が有している「電解質塩」に相当する。

オ そして、上記ウ及びエを踏まえると、本件発明1の「半固体電解液」と甲1発明における「電解質層」の「イオン伝導材」とは、少なくとも電解質層に用いられる「電解液」である点において一致をする。

カ 甲1発明における「電解質層」の「シリカナノ粒子」は、甲1の【0026】及び【0033】の記載から、イオン伝導材を担持し、電気化学的安定性の観点から絶縁性粒子であり有機溶媒に不溶である金属酸化物粒子となっていることが把握されるものであり、また、本件明細書【0051】に記載される半固体電解液を担持または保持する担持粒子として、本件明細書【0031】に電気化学的安定性の観点から絶縁性粒子であり有機溶媒またはイオン液体を含む半固体電解液に不要であるものとして例示される「シリカ(SiO2)粒子」と同じ物質の粒子となっており、当然に本件明細書に記載される担持粒子と同様に電解液を担持または保持する機能を有するものと考えられるから、本件発明1の「担持粒子」に相当する。

キ 甲1発明における「電解質層」の「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」は、甲1の【0039】の記載から、柔軟性の高い擬似固体電解質シートを得るために添加される結着材粉末(粉末状のバインダ)であることが把握されるものであり、また、本件明細書【0053】に記載される、半固体電解質の粉末に添加・混合される半固体電解質バインダ同様、電解質層をシート化するために添加されるものとなっていることから、本件発明1の「半固体電解質バインダ」と甲1発明における「電解質層」の「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」とは、少なくとも電解質層に用いられる「バインダ」である点において一致をする。

ク 甲1発明における「LiFePO4(LFP)」を用いた「正極活物質」は、本件明細書【0025】に、遷移金属を含むリチウム複合酸化物からなる正極活物質の材料の一例として「LiMPO4・・・(ただし、M=・・・Fe、・・・などを少なくとも1種以上含む)」が示されていることからして、本件発明1の「リチウム複合酸化物からなる正極活物質」に相当する。

ケ 甲1発明において正極層と電解質層とを有する「評価用二次電池の電極群の一部を構成する構造体」は、本件明細書【0014】に「半固体電解質層300および正極100または負極200が一体構造になっているものを半二次電池と称する場合がある。」とも説明される、本件発明1の「半二次電池」に相当する。

コ 本件発明1の「半二次電池」は、本件明細書において、「リチウムイオン二次電池を例として説明」(【0012】)されており、かつ、本件発明1の「リチウム複合酸化物からなる正極活物質」は、「充電過程においてリチウムイオンが脱離し、放電過程において負極合剤層の負極活物質から脱離したリチウムイオンが挿入される」(【0025】)と説明されているとおり、「リチウムイオン二次電池」の正極活物質であることを前提としたものである。また、これに対し、甲1発明の「評価用二次電池の電極群の一部を構成する構造体」は、甲1の【0001】に記載されるように「全固体リチウム二次電池」に関するものとされている。
そうすると、本件発明1と甲1発明とは、いずれもリチウム二次電池に関する発明である点でも共通する。

サ そして、本件発明1における「半固体電解質層」は、本件明細書に明示的な定義がなされているものではないが、上記ウ〜コの内容も踏まえた上で、以下のように検討すると、甲1発明における「電解質層」は、本件発明1の「半固体電解質層」である「絶縁層」に相当するといえる。

(ア)本件発明1の「半固体電解質バインダ」及び「半固体電解液」という用語の解釈
本件発明1の「半固体電解質バインダ」及び「半固体電解液」について、本件明細書には、何故「半固体」という文字が入っているのか用語の定義が明示的になされているわけではないものの、それぞれ「半固体電解質層」における「バインダ」及び「電解液」を意味する用語と解するのが自然である。

(イ)本件明細書の記載から把握される本件発明1の「半固体電解質層」に係る一連の特徴
そして、本件明細書には、本件発明1における「半固体電解質層」に関して明示的な定義は記載されていない一方、上記(ア)の「半固体電解質バインダ」及び「半固体電解液」という用語の解釈も踏まえつつ、「半固体電解質層」に関する記載を総合的に勘案すると、かかる「半固体電解質層」とは、
a 正極と負極の間にリチウムイオンを伝達させる媒体となり、かつ、電子の絶縁体としても働き、正極と負極の短絡を防止するように機能する(特に本件明細書【0052】の記載参照)層であって、
b バインダ、担持粒子及び電解液(特に本件明細書【0017】の記載及び上記(ア)参照)を有し、
c 上記担持粒子は上記電解液を担持または保持する(特に本件明細書【0051】及び上記(ア)参照)機能を有し、
d 半固体電解質層をシート状とするために上記バインダが添加される(特に【0053】参照及び上記(ア)参照)、
という一連の特徴を備えるものであることが把握される。
そこで以下では、上記一連の特徴、すなわち、上記a〜dの成分及び機能を満たすものであれば、「半固体電解質層」に相当するといえる前提で検討を進める。

(ウ)甲1発明の「電解質層」が本件発明1の「半固体電解質層」に係る一連の特徴を有しているか否かの検討
甲1発明におけるテトラグライム(G4)とリチウムビス(フルオロスルホニル)イミド(LiFSI)とを1:1のモル比率で混合したイオン伝導材とシリカナノ粒子とを、80:20の体積比で混合した擬似固体電解質(QSE)粉末にポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末を5質量%添加して作製される「電解質層」が、本件発明1の「半固体電解質層」に係る一連の特徴を有しているか否かを検討する。

a 本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)aの特徴について
上記(イ)aのように「正極と負極の間にリチウムイオンを伝達させる媒体となり、かつ、電子の絶縁体としても働き、正極と負極の短絡を防止するように機能する」ことは、リチウム二次電池の「電解質」であれば、半固体電解質に限ることなく当然果たすべき機能として、広く一般に知られていたものであり、格別なものではない。
そして、甲1発明の「電解質層」は、甲1の【0001】に記載されるような「リチウムイオンを伝搬する電解質」の層であり、かつ、そこに含まれる「シリカナノ粒子」は、甲1の【0033】記載のように「絶縁性粒子」として機能をすることからみても、本件発明1の「半固体電解質層」同様に、「正極と負極の間にリチウムイオンを伝達させる媒体となり、かつ、電子の絶縁体としても働き、正極と負極の短絡を防止する」との、リチウム二次電池の電解質が当然果たすべき機能を備えたものと理解するのが自然である。
そうすると、甲1発明の「電解質層」は、本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)aの特徴を備えたものといえる。

b 本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)bの特徴について
上記キ、カ、及びウ〜オの内容を踏まえると、甲1発明の「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」、「シリカナノ粒子」及び「イオン伝導材」を備える「電解質層」は、本件発明1の「半固体電解質層」同様に、バインダ、担持粒子及び電解液を有するものといえる。
そうすると、甲1発明の「電解質層」は、本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)bの特徴を備えたものといえる。

c 本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)cの特徴について
上記カの内容を踏まえると、甲1発明の「電解質層」の「シリカナノ粒子」は、本件発明1の「半固体電解質層」の「担持粒子」同様に、電解液を担持または保持する機能を有するものと考えられる。
そうすると、甲1発明の「電解質層」は、本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)cの特徴を備えたものといえる。

d 本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)dの特徴について
上記キの内容を踏まえると、甲1発明の「電解質層」の「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」は、本件発明1の「半固体電解質層」の「半固体電解質バインダ」同様に、電解質層をシート化するために添加されるものである。
そうすると、甲1発明の「電解質層」は、本件発明1の「半固体電解質層」に係る上記(イ)dの特徴を備えたものといえる。

e そうすると、甲1発明における「電解質層」は、上記(イ)a〜dに挙げた本件発明1の「半固体電解質層」としての一連の特徴をひととおり満たすものである。

(エ)小括
以上のとおりであるから、甲1発明における「電解質層」は、本件発明1の「半固体電解質層」に相当し、また、本件発明1で「半固体電解質層」であるとされている「絶縁層」にも相当する。

シ また、上記サ(ア)における本件発明1の「半固体電解質バインダ」及び「半固体電解液」という用語の解釈と、上記オ、キ及びサの検討結果とを併せて参酌すると、甲1発明の「電解質層」の「イオン伝導材」及び「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」は、それぞれ本件発明の「半固体電解質層」の「半固体電解液」及び「半固体電解質バインダ」に相当する。

ス そして、甲1発明の「電解質層」は、「正極層」に積層、圧着されるものであるから、「絶縁層」が「正極上に形成される」といえる点でも、本件発明1と甲1発明とは一致をする。

セ 以上によれば、本件発明1と甲1発明とは、
<一致点>
「正極集電体および正極合剤層を有する正極と、
前記正極上に形成される絶縁層と、を有し、
前記絶縁層は、イオン液体またはエーテル系溶媒、および電解質塩を有する半固体電解液、並びに担持粒子を含む半固体電解質と、半固体電解質バインダとを有する半固体電解質層であり、
正極活物質がリチウム複合酸化物からなる、
半二次電池。」
である点で一致し、以下の点で相違する。

<相違点1>
本件発明1の半二次電池の正極集電体は、「先端角度が30°、径が3mmの釘を速度40mm/secで前記正極集電体を突き刺し、前記正極集電体が破断した時の強度である引張強度が16N以下」との特性を満たすのに対し、甲1発明の構造体における正極層の金属アルミニウム箔は、そのような特性を満たすことは開示されていない点。

<相違点2>
本件発明1の半二次電池の半固体電解質に用いられる半固体電解質バインダは、「リチウム複合酸化物からなる正極活物質の価数減少温度以下」の「融点」を有する「低融点材料」であるのに対し、甲1発明の構造体の電解質層に用いられる「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」が、そのような要件を満たす材料であるか否かは不明である点。

<相違点3>
本件発明1の半二次電池の半固体電解質は、「前記担持粒子と前記低融点材料の合計に対する前記低融点材料の添加量は4wt%〜15wt%である」との添加量の条件を満たすものであるのに対し、甲1発明の構造体の電解質層は、相違点2のように、そもそも本件発明1の「低融点材料」に相当するものが用いられているか否かが不明であるから、かかる添加量の条件を満たすか否かも自ずと不明である点。

(2)相違点の検討
事案に鑑み、相違点2〜3についてまとめて検討する。
ア 本件発明1の相違点2〜3に係る発明特定事項が一体不可分の関係にあること
本件発明1の相違点3に係る発明特定事項は、本件発明1の相違点2に係る発明特定事項のように、半二次電池の半固体電解質に用いられる半固体電解質バインダとして「低融点材料」が用いられることを前提としたものである。
そうすると、本件発明1の相違点2〜3に係る発明特定事項は、本件発明1において一体不可分の関係にあるものといえる。

イ 相違点2及び3が実質的な相違点であるか否かについて
(ア)甲1発明1の構造体において、正極合剤層の正極活物質として用いられる「LiFePO4(LFP)」に関する本件発明1の「価数減少温度」に相当する温度は明らかではなく、したがって、電解質層に用いられる「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」の融点が、かかる温度以下といえるかどうか、すなわち、本件発明1の相違点2に係る発明特定事項のような関係を満たすかどうかは不明である。

(イ)なお、甲1発明の「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」は、たとえば、特開平11−269350号公報の【0007】に「上記フッ素樹脂粉末のなかでも、ポリテトラフルオロエチレンは、融点が320〜330℃と最も耐熱性が高く」と記載されるように、耐熱性が高いことが一般に知られていた材料であるし、また、本件明細書【0049】に低融点材料として例示された材料でもないことから、これが、本件発明1の相違点2に係る発明特定事項のような関係を満たす「低融点材料」といえる蓋然性も高いものとはいえない。

(ウ)以上のとおりであるから、相違点2は、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点であるといわざるを得ない。
また、上記アのような相違点2と3との一体不可分の関係に照らし、相違点3も、本件発明1と甲1発明との実質的な相違点であるといわざるを得ない。

ウ 相違点2及び3に係る発明特定事項の想到容易性について
(ア)動機付けの検討
a 上記第4の5〜7を参酌すると、
(a)甲5の【0034】にバインダーとして記載された「PVDF−HFP(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)」、
(b)甲6の【0030】にバインダー樹脂として記載された「PVDF−HFP(ポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体)」、
(c)甲7の【0039】〜【0040】にバインダーである含フッ素樹脂として記載された「ポリビニレンジフルオリドとヘキサフルオロプロピレンの共重合物(PVdF−HFP)」
は、いずれも本件明細書【0049】に「低融点材料」として例示される「フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重体(P(VDF-HFP))」に相当する。

b しかしながら、甲5〜7の記載事項からは、「フッ化ビニリデン・ヘキサフルオロプロピレン共重体(P(VDF-HFP))」に相当する上記a(a)〜(c)の材料が、バインダー材料として特に優れたものであることを伺わせる事情は把握できないので、甲1発明の「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」に対し、置換してまで採用しようとする動機付けを何らも見出すことができない。また仮に、甲5〜7記載の上記a(a)〜(c)のバインダー材料を、甲1発明に対して採用する動機付けがあったとしても、そもそも、本件発明1のような、「低融点材料の融点はリチウム複合酸化物からなる正極活物質の価数減少温度以下」という正極活物質に対する融点の関係性を満たすかどうかまでは不明といわざると得ない。

c また、上記第4の1〜8の甲1〜8におけるその他の記載事項を参酌したところで、甲1発明の「ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)粉末」を、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項の条件を満たすバインダー材料とする、特段の動機付けを見いだすこともできない。

(イ)効果の検討
a 本件明細書【0005】、【0008】、【0025】、及び【0047】によれば、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項は、二次電池の正極活物質として望ましいリチウム複合酸化物が用いられる場合において、正極活物質の価数減少温度を超えると、正極から酸素が放出され、正極と負極との短絡により火花などが生じ、発火する可能性があるのに対し、半固体電解質バインダとして融点が正極活物質の価数減少温度以下の低融点材料を用いることにより、正極活物質の価数減少温度以下で材料が溶解し、二次電池への釘刺しで現れた正極または負極断面を絶縁保護し、二次電池の安全性を向上できるという、技術的意味を理解することができる。

b また、本件明細書【0050】によれば、相違点3に係る本件発明1の発明特定事項は、正極及び負極断面の絶縁性を確保し、かつ、二次電池の抵抗が高くならないよう十分な半固体電解液を保持する担持粒子の含量を確保するとの、技術的意味を理解することができる。

c そして、本件発明1の相違点2及び3に係る発明特定事項の上記a及びbのような技術的意味によってもたらされる効果は、甲1〜8の記載事項、及び本件特許に係る出願前の技術常識からでは、予期できないものとなっている。

(ウ)申立人の主張の検討
相違点2に関する申立人の主張(当審注:特許異議申立書において、申立人が「相違点1」としている点について主張していること。)について検討する。
a 申立人は、
「甲第5−7号証には、絶縁層に含まれるバインダとして、甲1発明におけるPTFEと同じフッ素含有樹脂であるポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)が記載されている。PVDF−HFPは、融点が、リチウム複合酸化物からなる正極活物質の価数減少温度以下である低融点材料である(本件明細書の段落0049)。
甲第5−7号証に記載された発明の技術分野は、甲1発明の技術分野と同じく、固体電解質を用いたリチウム二次電池である。甲第5−7号証に記載されたPVDF−HFPも甲1発明のPTFEも、絶縁層に含まれるバインダである。また、本件発明1が解決しようとする「安全性の向上」という課題(本件明細書の段落0005)は、リチウム二次電池に関わる当業者にとって広く知られた周知の課題である。そうすると、周知の課題を解決するために、甲1発明のPTFEに代え、周知のPVDF−HFPを適用することは、公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない。」(特許異議申立書第14頁第10〜22行)
と主張するが、たとえ、申立人が主張をするとおり、甲5〜7に記載されるようなポリフッ化ビニリデン−ヘキサフルオロプロピレン共重合体(PVDF−HFP)が周知であり、本件発明1が解決しようとする「安全性の向上」という課題(本件明細書の段落0005)は、リチウム二次電池に関わる当業者にとって広く知られた周知の課題であったとしても、「PVDF−HFPは、融点が、リチウム複合酸化物からなる正極活物質の価数減少温度以下である低融点材料」であり、このことにより、正極活物質の価数減少温度以下で材料が溶解し、二次電池への釘刺しで現れた正極または負極断面を絶縁保護するので、「安全性の向上」という課題を解決するにあたり特に優れているとのことは、甲5〜7の記載事項、及び本件特許に係る出願前の技術常識からでは導き出すことができず、「周知の課題を解決するために、甲1発明のPTFEに代え、周知のPVDF−HFPを適用することは、公知材料の中からの最適材料の選択にすぎない。」としている、上記主張の判断内容は採用することができない。

b また、申立人は、
「さらに本件の優先日前に、リチウム二次電池のセパレータの機能として、電気絶縁性を担保する通常時の機能に加え、異常時(高温時)には安全性確保のため溶融してセパレータの穴を塞ぎ、電極間のリチウムイオンの流れを停止する機能があることは知られていた(甲第8号証)。電気絶縁性を有するセパレータは、甲1発明の絶縁層と同じ機能をもつ。そうすると当業者は、甲1発明のPTFEに代え、周知のPVDF−HFPを適用し、異常時(高温時)にPVDF−HFPが溶融するようにして「安全性の向上」を図るという作用効果が予測可能である。従って本件発明1は、作用効果も予測し得る範囲のものであり、格別なものではない。」(特許異議申立書第14頁第23行〜第15頁第2行)
とも主張するが、上記(イ)aで検討したような「半固体電解質バインダとして融点が正極活物質の価数減少温度以下の低融点材料を用いることにより、正極活物質の価数減少温度以下で材料が溶解し、二次電池への釘刺しで現れた正極または負極断面を絶縁保護し、二次電池の安全性を向上できる」という、相違点2に係る本件発明1の発明特定事項の技術的意味は、甲8の記載事項から示唆されるものでなく、「本件発明1は、作用効果も予測し得る範囲のものであり、格別なものではない。」としている、上記主張の判断内容は採用することができない。

c よって、相違点2に関する申立人の主張を採用することもできない。

(エ)小括
以上のとおりであるから、相違点2及び3は、甲1に記載された発明と甲1〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

エ 相違点の検討のまとめ
そうすると、相違点1について検討するまでもなく、本件発明1は、甲1に記載された発明と甲1〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

10 本件発明2及び3についての進歩性判断
本件特許の請求項2及び3は、いずれも請求項1を引用するものである。
そうすると、上記9で検討したとおり、本件発明1が甲1に記載された発明と甲1〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない以上、本件発明2及び3についても同様に、甲1に記載された発明と甲1〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。

11 申立理由(進歩性)についての当審の判断のまとめ
以上のとおり、本件発明1〜3は、甲1に記載された発明と甲1〜8に記載された事項に基いて、当業者が容易になし得たものとはいえない。
したがって、申立理由(進歩性)によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議申立書に記載した特許異議の申立ての理由によっては、本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件特許の請求項1〜3に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-04-04 
出願番号 P2019-544219
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 池渕 立
特許庁審判官 市川 篤
太田 一平
登録日 2021-06-02 
登録番号 6893247
権利者 株式会社日立製作所
発明の名称 半二次電池および二次電池  
代理人 特許業務法人平木国際特許事務所  
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