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審決分類 審判 全部申し立て 特29条の2  B01J
審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  B01J
審判 全部申し立て 2項進歩性  B01J
管理番号 1384295
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2021-12-23 
確定日 2022-04-06 
異議申立件数
事件の表示 特許第6893221号発明「ニーダー反応器」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6893221号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 結 論
特許第6893221号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。

理 由
第1 手続の経緯
特許第6893221号の請求項1〜6に係る特許についての出願は、2017年(平成29年)8月24日(パリ条約による優先権主張外国庁受理 2016年(平成28年)年8月24日 (KR)韓国)を国際出願日とする出願であって、令和3年6月2日にその特許権の設定登録がされ、同年6月23日に特許掲載公報が発行された。その後、請求項1〜6に係る特許に対し、同年12月23日に特許異議申立人 安藤慶治(以下、単に「申立人」ということもある。)が、特許異議の申立てを行った。

第2 本件発明
特許第6893221号の請求項1〜6の特許に係る発明(以下、「本件発明1」〜「本件発明6」などといい、まとめて「本件発明」という。)は、それぞれ、その特許請求の範囲の請求項1〜6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
原料の反応空間が形成されるチャンバーと、
前記チャンバーの内部に設けられて回転する少なくとも一つの回転軸と、
前記回転軸に回転可能に結合され、前記回転軸の長さ方向に配置される複数のパドルとを含み、
前記複数のパドルの少なくとも一部は、
複数の頂点を有する多角形形状の板に形成される本体と、
前記回転軸に挿入されるように、前記本体の中心に形成される貫通ホールと、
前記複数の頂点から突出し、前記複数の頂点の回転軌跡に一致する少なくとも一つの稜を有する形状に形成される複数の突起とを含み、
前記複数の突起のそれぞれは、前記長さ方向に前記パドルを見た時、前記頂点を中心に非対称に形成され、前記本体の厚さよりも厚く形成されて、前記各頂点を取り囲むように設けられ、
前記チャンバーは、
前記原料が注入される注入部に隣接する第1の空間と、
前記第1の空間に隣接して位置する第2の空間と、
前記第2の空間に隣接して位置し、前記原料の反応により生成される生成物が排出される排出部に隣接する第3の空間とを含み、
前記第1の空間および前記第3の空間に配置される前記複数のパドルは、既に決定された角度ずつ互いにずれて配置されていることを特徴とするニーダー反応器。
【請求項2】
前記パドルの前記本体は、正三角形状の板に形成される、請求項1に記載のニーダー反応器。
【請求項3】
前記第3の空間に配置される前記パドルは、前記第1の空間に配置される前記パドルと反対方向にずれて配置される、請求項1に記載のニーダー反応器。
【請求項4】
前記既に決定された角度は15度である、請求項1に記載のニーダー反応器。
【請求項5】
前記回転軸は、
第1の回転軸と、
前記第1の回転軸の回転方向と同一及び反対の方向の少なくとも一つの方向に回転する第2の回転軸とを含み、
前記第1の回転軸および前記第2の回転軸に配置される前記複数のパドルは、交互に配置される、請求項1に記載のニーダー反応器。
【請求項6】
前記原料は、ピロリドンを含むラクタムである、請求項1に記載のニーダー反応器。」

第3 申立理由の概要
申立人は、下記4の甲第1〜21号証を提出し、次の1〜3について主張している(以下、甲号証は、単に「甲1」などと記載する。)。
1 特許法第29条第2項進歩性)について(同法第113条第2号
本件発明1は、甲1及び甲2に記載の発明、又は、甲1及び従来周知の技術に基づいて当業者が容易に想到できるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
また、本件発明2〜6は、いずれも甲1から甲6に記載の発明、又は、従来周知の技術を組み合わせることにより、当業者が容易に想到できるものであり、特許法第29条第2項の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
2 特許法第29条の2(拡大先願)について(同法第113条第2号
本件発明1は、甲3に記載された発明と実質的に同一であり、特許法第29条の2の規定により特許を受けることができないものであり、特許法第113条第2号の規定により取り消されるべきものである。
3 特許法第36条第6項第2号明確性要件)について(同法第113条第4号
請求項1に記載の「前記複数の突起のそれぞれは、前記長さ方向に前記パドルを見た時、前記頂点を中心に非対称に形成され、前記本体の厚さよりも厚く形成されて、前記各頂点を取り囲むように設けられ、」は、頂点を中心に非対称な形状なるものが、どのような形態なのか理解できず不明確であり、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしておらず、本件は特許法第113条第4号の規定により取り消されるべきものである。

3 証拠方法
甲1:特許第3197179号公報
甲2:特許第5447125号公報
甲3:特許第6771908号公報
甲4:特開2007−237679号公報
甲5:特開2009−23286号公報
甲6:特表2016−538416号公報
甲7:特公昭44−14274号公報
甲8:特表2015−503444号公報
甲9:Daniel U. Witte, “PREDICTION OF MASS TRANSPORT OF SOLVENT / POLYMER SYSTEMS IN HIGH VOLUME KNEADER REACTORS AT FINITE SOLVENT CONCENTRATIONS”, ANTEC2009, 2376-2382頁
10)
甲10:”Company Profi1e”, LIST DRY PROCESSING-INTERLLIGENT PROCESSING, LIST AG, LIST USA INC., LIST AG(SINGAPORE BRANCH, LIST JAPAN KK(当審注:発行日は不明)
甲11:Roland Kunkel, ”A clever alternative”, PROCESS Worldwide 5-2010, PLASTICS ENGINEERING、28〜29頁
甲12:Andreas Diener, Roland Kunkel,” Kontinuierliche Eindampfung und Entgasung von Polymerschmelzen “, 08.11.2006(当審注:2006年11月にケルンで行われたVDI Wissenforum/VDI Kunststofftechnik/Aufbereitungstechnik の年次大会資料)
甲13:”LIST(iges) im Demo-Zentrum Polymersynthese”, VDI INGENIEUR-NACHRICHTEN, 2/2004
甲14:”The Ins and Outs Of Indirect Drying”, CHEMICAL ENGINEERING, December 2003
甲15:”Continuous polymerization Kneader-reactor produces solid granular polymers at low temperature“, PROCESS ENGINEERING ACHEMA 2003, 2/2003
甲16:”LIST LEADERS IN HIGH VISCOSITY PROCESSING TECHNOLOGY, LIST-Continuous Kneader Reactor (LISTCKR) for continuous polymerisations producing solid granular po1yrners.”, Arisdorf, 06.12.2001
甲17:Dipl-Ing. J. List, ”High-volume kneading reactors For thermal processes with extended retention times”, REPRINT OF CPP2/94
甲18:ダニエル・ウィッテ/訳:酒井忠基、「大容量ニーダーを用いた脱気技術」、プラスチックスエージ、 OCT. 2010、78〜83頁
甲19:Boyd T. Safrit, Andreas E. Diener, ”Kneader Technology for the Direct Devolatilization of Temperature Sensitive Elastomers “, ANTEC 2008, May 5,2008
甲20:A. Diener, G. Raouzeos, “Continuous dissolution process of cellulose in NMMO”, 40 CHEMICAL FIBERS INTERNATIONAL, March 1999, Volume 49, 40〜41頁
甲21:「対称図形 Z 8114」、日本工業規格(JIS)工業用語大辞典5版、日本規格協会、2001年3月30日 1314頁

第4 当審の判断
1 特許法第29条第2項進歩性)について
(1)甲1の記載
甲1には、次の記載がある(下線は当審が付与した。)。
「【請求項1】筒体状容器内に平行に配設されて同方向に同速度で回転駆動される複数の回転軸と、前記各々の回転軸に固定されて攪拌作用を行う複数のパドルを具えてなる攪拌装置において、前記パドルが略三角むすび形状を有し、軸方向に間隔をおいて前記回転軸に取付けられるとともに、前記パドルの略三角むすび形状の3つの各先端部に前記間隔に略相当する長さを有する3本のスクレーパが前記回転軸と平行に取付けられ、前記隣接するパドル間に断面が略三角むすび形状を有する軸カバーが取付けられていることを特徴とする攪拌装置。」
「【0001】
【産業上の利用分野】本発明は、高粘度流体、スラリ状物質、粉体等の物質を攪拌混和する攪拌装置に関し、例えば高分子製造プロセスの重合反応器、脱溶剤器、脱モノマ器、ポリエステル、ポリカーボネート、ポリアミドなどの重縮合反応器、あるいは食品工業における各種原料の混合器として用いて好適なものである。」
「【0007】本発明は、このような従来の攪拌装置における問題点を解消するものであり、機械的なセルフクリーニング機能を損なうことなく有効容積率の増大を達成することができる攪拌装置を提供することを課題としている。
【0008】
【課題を解決するための手段】この課題を達成するため、本発明においては、筒体状容器内に平行に配設されて同方向に同速度で回転駆動される複数の回転軸と、前記各々の回転軸に固定されて攪拌作用を行う複数のパドルを具えてなる攪拌装置において次の構成を採用する。
【0009】すなわち、前記パドルが略三角むすび形状を有し、軸方向に間隔をおいて前記回転軸に取付けられるとともに、そのパドルの略三角むすび形状の3つの先端部に前記間隔に略相当する長さを有する3本のスクレーパが回転軸と平行に取付けられ、隣接するパドル間に断面が略三角むすび形状を有する軸カバーが取付けられている構成を採用する。
【0010】
【作用】本発明の攪拌装置は前記した構成を具えており、回転軸の駆動回転によりパドル及びスクレーパが容器内で移動し、容器内の被攪拌物質が攪拌混和される。パドルは間隔をあけて配列され、かつスクレーパもパドル先端部に設けられているだけであるので、それらが容器内で占める体積は小さく、従って有効容積率が増大する。
【0011】また、パドル及びスクレーパの移動により隣接するもの同志が近接して相対移動し、容器内の各部がセルフクリーニングされる。
【0012】
【実施例】以下、本発明による攪拌装置を図1〜図3に示す実施例に基づいて具体的に説明する。図1〜図3において、筒状の容器11は、断面の一部を切り欠いた同じ大きさの2個の円を組合わせた繭形に形成され、同容器11には、同容器11を形成する2個の円の中心にそれぞれ2本の丸軸の回転軸12,13が互いに平行に軸支されている。各回転軸12,13は図示しない駆動源によって、図中矢印のように同一回転方向に同一回転速度で互いに同期して回転駆動されるようになっている。
【0013】容器11の内壁は、回転軸12,13をそれぞれ中心とする2個の円筒壁111,112を繋げたような形の繭形断面を有している。また、回転軸12,13はその外周部に略三角むすび形状断面を持つ軸カバー121,131を有している。
【0014】回転軸12には、所定の間隔を隔てて複数のパドル21〜23が固定されている。各パドル21〜23は、略三角むすび形状断面を持つ厚肉板状に形成されており、回転軸12に対してそれと直交する面内に沿って取付けられている。
【0015】また、これらのパドル21〜23の各尖端は、その回転角度位置に応じて僅かなクリアランスを隔てて前記容器11の内筒壁111あるいは後述する対応するパドル31〜33に対向し得るようにその寸法が選定されている。
【0016】一方、回転軸13にも、同様に、略三角むすび形状断面の複数のパドル31〜33が固定されている。各パドル31〜33はそれぞれ前記パドル21〜23に対応して軸方向に一定間隔だけずらした位置で回転軸13に取付けられる。また、各パドル31〜33の各尖端は、その回転角度位置に応じて僅かなクリアランスを隔てて容器11の円筒壁112あるいは各々対応するパドル21〜23に対向し得るようにその寸法が選定されている。
【0017】さらに、パドル21〜23、31〜33の尖端部にはそれぞれ、その尖端部の断面形状に相当する擬三角形断面のスクレーパ41〜43、51〜53が前記回転軸12,13と平行に固定されている。各スクレーパ41〜43,51〜53の先端面は隣接するパドル21〜23、31〜33に対して軸方向に僅かなクリアランスを隔てて対向している。
【0018】各スクレーパ41〜43,51〜53は同様な構成であるので、いま代表としてパドル22について詳説すると、パドル22尖端両面には合計6個のスクレーパ42が取付けられ、両面のパドル22の先端はそれぞれパドル31,32の側面に近接して対向し得るようになっている。
【0019】各スクレーパ42の先端稜線はスクレーパ42の対応する尖端と同一線上に位置しており、それにより各スクレーパ42の先端は回転軸12の回転角度位置に応じて僅かなクリアランスを隔てて容器11の円筒壁111と連続する表面を有する軸カバー131に対向し得る。
【0020】また、図2に示すように、スクレーパ42と軸カバー121との間には回転に応じて隣接するパドル31,32に取付けられたスクレーパ51,52が互いに入り込むようになっており、その入り込んだときにスクレーパ42の軸中心側の周面とスクレーパ51,52の軸中心側の周面とが僅かなクリアランスを隔てて近接するように寸法が選定されている。
【0021】図3は上記のパドル、スクレーパ及び軸カバーの配列状態を斜視図で模式的に表したものである。
【0022】このような攪拌装置において、被攪拌物質は図示しない入口から容器11内に入れられ、回転軸12,13が駆動回転することでパドル21〜23,31〜33及びスクレーパ41〜43,51〜53の移動による攪拌作用で攪拌され、その後、図示しない出口から取出される。」



(2)甲1に記載された発明(甲1発明)
甲1には、「高粘度流体、スラリ状物質、粉体等の物質を攪拌混和する攪拌装置」(【0001】)に関して、上記(1)の下線部からみて、図1〜図3に記載された実施例として次の発明が記載されていると認められる。
「高粘度流体、スラリ状物質、粉体等の物質を攪拌混和する攪拌装置において、
筒状の容器11には、同容器11を形成する2個の円の中心にそれぞれ2本の丸軸の回転軸12,13が互いに平行に軸支され、回転軸12,13はその外周部に略三角むすび形状断面を持つ軸カバー121,131を有し、
回転軸12には、所定の間隔を隔てて複数のパドル21〜23が固定され、各パドル21〜23は、略三角むすび形状断面を持つ厚肉板状に形成され、
回転軸13には、略三角むすび形状断面の複数のパドル31〜33が固定され、
パドル21〜23、31〜33の尖端部にはそれぞれ、その尖端部の断面形状に相当する擬三角形断面のスクレーパ41〜43、51〜53が前記回転軸12,13と平行に固定され、
各スクレーパ42の先端稜線はスクレーパ42の対応する尖端と同一線上に位置しており、それにより各スクレーパ42の先端は回転軸12の回転角度位置に応じて僅かなクリアランスを隔てて容器11の円筒壁111と連続する表面を有する軸カバー131に対向し得る攪拌装置。」

(3)対比・判断
ア 本件発明1について
本件発明1と甲1発明とを対比する。
甲1発明の「高粘度流体、スラリ状物質、粉体等の物質」、「筒状の容器11」、「回転軸12,13」、「複数のパドル21〜23、31〜33」、「略三角むすび形状断面を持つ厚肉板状に形成され」た「パドル21〜23、31〜33」、及び、「パドル21〜23、31〜33の尖端部に」「それぞれ」「固定され」た「その尖端部の断面形状に相当する擬三角形断面のスクレーパ41〜43、51〜53」であって、「各スクレーパ42の先端稜線はスクレーパ42の対応する尖端と同一線上に位置しており、それにより各スクレーパ42の先端は回転軸12の回転角度位置に応じて僅かなクリアランスを隔てて容器11の円筒壁111と連続する表面を有する軸カバー131に対向し得る」ものは、本件発明1の「原料」、「チャンバー」、「チャンバーの内部に設けられて回転する少なくとも一つの回転軸」、「回転軸の長さ方向に配置される複数のパドル」、「複数のパドルの少なくとも一部は、複数の頂点を有する多角形形状の板に形成される本体」、及び、「複数の頂点から突出し、前記複数の頂点の回転軌跡に一致する少なくとも一つの稜を有する形状に形成される複数の突起」にそれぞれ相当する。
ここで、甲1の【0014】、【0016】には、回転軸12、13にパドル21〜23、31〜33が固定されていることが記載され、【0010】には「回転軸の駆動回転によりパドル及びスクレーパが容器内で移動」と記載されていることから、「パドル21〜23、31〜33」は、「回転軸12,13」に、それぞれ固定されて回転軸12,13の回転ともなって回転するものであり、本件発明1の「回転軸に回転可能に結合され、前記回転軸の長さ方向に配置される複数のパドル」に相当する。
また、本件発明1の「原料の反応空間」及び「ニーダー反応器」と甲1発明の「容器」及び「攪拌装置」とは、「空間」及び「ニーダー」(攪拌装置)である点でそれぞれ共通する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「原料の空間が形成されるチャンバーと、
前記チャンバーの内部に設けられて回転する少なくとも一つの回転軸と、
前記回転軸に回転可能に結合され、前記回転軸の長さ方向に配置される複数のパドルとを含み、
前記複数のパドルの少なくとも一部は、
複数の頂点を有する多角形形状の板に形成される本体と、
前記複数の頂点から突出し、前記複数の頂点の回転軌跡に一致する少なくとも一つの稜を有する形状に形成される複数の突起とを含む、
ニーダー。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点1)
本件発明1は、「ニーダー反応器」であり、「反応空間」を有している「反応器」であるのに対し、甲1発明は、「攪拌装置」であって、反応器であることは規定されていない点。
(相違点2)
「パドル」について、本件発明1の「パドル」には、「前記回転軸に挿入されるように、前記本体の中心に形成される貫通ホール」が設けられているのに対し、甲1発明の「複数のパドル21〜23」に、そのような貫通ホールが形成されていることは規定されていない点。
(相違点3)
「パドル」の「突起」について、本件発明1では、「前記複数の突起のそれぞれは、前記長さ方向に前記パドルを見た時、前記頂点を中心に非対称に形成され、前記本体の厚さよりも厚く形成されて、前記各頂点を取り囲むように設けられ」ることが特定されているのに対し、甲1発明の「スクレーパ41〜43、51〜53」は、そのような突起は規定されていない点。
(相違点4)
「チャンバー」及び「パドル」について、本件発明1では、「前記チャンバーは、前記原料が注入される注入部に隣接する第1の空間と、前記第1の空間に隣接して位置する第2の空間と、前記第2の空間に隣接して位置し、前記原料の反応により生成される生成物が排出される排出部に隣接する第3の空間とを含み、前記第1の空間および前記第3の空間に配置される前記複数のパドルは、既に決定された角度ずつ互いにずれて配置されている」ことが特定されているのに対し、甲1発明は、注入部や排出部の位置は不明であって、「容器11」及び「パドル21〜23,31〜33」について、そのようなことは規定されていない点。

ここで、相違点について検討する。事案に鑑み、まず、相違点4について検討する。
(相違点4について)
甲1の【0022】には、「被攪拌物質は図示しない入口から容器11内に入れられ、回転軸12,13が駆動回転することでパドル21〜23,31〜33及びスクレーパ41〜43,51〜53の移動による攪拌作用で攪拌され、その後、図示しない出口から取出される。」と記載されており、被撹拌物質(高粘度流体、スラリ状物質、粉体等の物質)の容器11における「入口」及び「出口」を備えることは記載されているものの、図示されておらず、甲1の他の明細書の記載をみても、容器11において、被攪拌物質がどの部分から入り、どの部分から取出されるかは判然としない。また、甲1の上記「パドル21〜23,31〜33及びスクレーパ41〜43,51〜53の移動による攪拌作用」について、回転軸12、13が回転することによって、パドル、スクレーパ、軸カバーの相互作用による撹拌作用が生じることは理解できても、それらによる被攪拌物質の移動方向を推測することはできず、容器11内に取り込まれた被攪拌物質が容器11内でどのようにして入口から出口まで移動するのかは不明としかいうほかない。
そうすると、甲1発明の「攪拌装置」において、本件発明1で規定される「原料が注入される注入部に隣接する第1の空間」、「前記第1の空間に隣接して位置する第2の空間」及び「前記第2の空間に隣接して位置し、前記原料の反応により生成される生成物が排出される排出部に隣接する第3の空間」を明確に定めることができない。そして、第1の空間〜第3の空間を定めることができないのであるから、「パドル21〜23,31〜33」の配置を、「前記第1の空間および前記第3の空間に配置される前記複数のパドルは、既に決定された角度ずつ互いにずれて配置されている」ようにすることもできない。
また、図1において、たとえば、容器の左側から被攪拌物質が入り、右側から取出されることを仮定できたとしても、「パドル21〜23,31〜33」を「既に決定された角度ずつ互いにずれて配置さ」せた場合には、「パドル21〜23,31〜33及びスクレーパ41〜43,51〜53」について、図1で示されたような、位置関係ではなくなるため、【0017】に記載されたような「各スクレーパ41〜43,51〜53の先端面は隣接するパドル21〜23、31〜33に対して軸方向に僅かなクリアランスを隔てて対向している」といった位置関係とすることができなくなり、被攪拌物質が「パドル21〜23,31〜33及びスクレーパ41〜43,51〜53」が存在しないところに滞留することが生じるなど、所望の撹拌が行われなくなることは明らかである。
そうすると、甲1発明において、上記相違点4に係る本件発明1の発明特定事項を備えることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
そして、本件発明1は、本件明細書の【0018】〜【0020】に記載されているような、「多量の原料を注入することができる」、「原料との反応時間を短縮することができる」及び「多量の原料を反応することができる」といった格別顕著な作用効果を奏するものである。

したがって、他の相違点について検討するまでもなく、本件発明1は甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

イ 本件発明2〜6について
本件発明2〜6は、本件発明1を直接的又は間接的に引用して更に限定するものであるから、本件発明1と同様に、甲1発明に基づいて、当業者が容易に発明をすることができたものである、ということはできない。

(4)まとめ
上記(3)ア及びイで述べたとおり、申立人の特許法第29条第2項進歩性)について申立理由には、理由がない。

2 特許法第29条の2(拡大先願)について
(1)甲3の記載
甲3には次の記載がある。
「【技術分野】
【0001】
この発明は、粉体、液体、高粘度流体等の混練撹拌を行う混練撹拌装置における撹拌翼構造に関するものである。」
「【0005】
以上から、連続式のセルフクリーニング型混練撹拌装置が多く製造されているが、この混練撹拌装置は、通常、本願に係る図1を参照して説明すると、同径の2つの円が交差する断面形状を有する筒状ケーシング1の内部の処理室2に、両端にスクリュウ羽根3a、3bが、その両スクリュウ羽根3a、3bの間に軸方向に沿って多数の撹拌翼(パドル)10が設けられた2本の回転軸5が互いに平行に配された構成である。また、前記ケーシング1は、一端側上部に供給口6が、他端側下部に排出口7がそれぞれ設けられ、その供給口6と排出口7を除く外周面に加熱・冷却用のジャケット8が設けられている。
【0006】
上記両回転軸5は、それぞれの両端部をケーシング1から突出させており、モータによって両回転軸5、5が回転すると、ケーシング1の供給口6から処理室2に供給された重縮合系樹脂(被処理物)cは、スクリュウ羽根3aによって撹拌翼10に送り込まれるとともに、スクリュウ羽根3bによって撹拌翼10に送り戻され、その撹拌翼10によって混練撹拌されながらケーシング1の他端側へ徐々に移行して重合度の高くなった樹脂c’となって排出口7から排出される。」
「【発明を実施するための形態】
【0016】
この発明に係る混練撹拌装置(ニーダ)の第1の実施形態を図1〜図3に示し、この実施形態の混練撹拌装置は、被処理物として重合度の低い重縮合系樹脂cが供給され、供給された樹脂(被処理物)cを撹拌して重合度を高める重合装置として用いられるものであり、同径の2つの円が交差する断面形状を有する筒状ケーシング1の内部の処理室2に、両端にスクリュウ羽根3a、3bが、その両スクリュウ羽根3a、3bの間に軸方向に沿って多数の撹拌翼(パドル)10が設けられた、ケーシング1の筒軸方向の2本の回転軸5が互いに平行に配されている。各撹拌翼10は板状をして回転軸5に直交している。
上記ケーシング1は、一端側上部に供給口6が、他端側下部に排出口7がそれぞれ設けられ、その供給口6と排出口7を除く外周面に加熱・冷却用のジャケット8が設けられている。
【0017】
上記両回転軸5は、それぞれの両端部をケーシング1から突出させて、その一方の突出端部に図示省略したモータが連結されており、そのモータによって両回転軸5、5は同一方向に同一回転速度で回転する。また、各スクリュウ羽根3a、3bはその中心の取付孔(図示省略)から回転軸5に挿し通してキー止めして回転軸5に直交して取り付けられており、その供給口6側のスクリュウ羽根3aは送り羽根であり、排出口7側のスクリュウ羽根3bは戻し羽根である。
このため、回転軸5が回転駆動することにより、ケーシング1の供給口6から処理室2に供給された重縮合系樹脂(被処理物)cは、スクリュウ羽根3aによって撹拌翼10に送り込まれるとともに、スクリュウ羽根3bによって撹拌翼10に送り戻され、その撹拌翼10によって混練撹拌されながらケーシング1の他端側へ徐々に移行して重合度の高くなった樹脂c’となって排出口7から排出される。
【0018】
上記各撹拌翼10は、各回転軸5、5のそれぞれの軸方向に交互位置で順々に固定されており、各回転軸5の軸方向に沿って同一位相となっている。この位相を、例えば、60度等と異ならせることができる。これらの撹拌翼10は、例えばSUS316等からなり、図3に示すように、ルーローの三角形状板片(図4参照)11の各3辺を適宜に欠如したほぼ正三角形状を呈しており、その中心に回転軸5への取付孔4が形成されている。そのルーローの径は、適宜に設定すれば良いが、例えば、118mmとする。
その欠如した各辺の両側面は、切り込みによって軸心の周方向及び径方向の傾斜面12となっている。すなわち、その傾斜面12は、図3(c)において、a矢印方向に徐々に深くなっているとともに、b矢印方向において、徐々に深くなっており、その傾きは被処理物cを送り出す作用を発揮する。
この撹拌翼10の各頂点には両側に突出する撹拌突起(掻上部材)13が形成されており、この突起(部材)13によって被処理物cの撹拌が促進される。
【0019】
この構成の撹拌翼10を有する図1に示す混練撹拌装置において、その撹拌翼10が図3(c)の矢印方向に回転すると、上記傾斜面12(図3(b)において、下側)によって、回転軸5の軸方向及び径方向(送り出し方向)の力が被処理物cに付与されて撹拌される。また、撹拌突起13によっても撹拌される。
このため、傾斜面12のa、b方向の傾斜角度や撹拌突起13の大きさ・側方への突出量等を適宜に設定することによって、被処理物cの送り量を適宜に設定して供給口6から排出口7に適切な滞留時間でもって適切な撹拌がなされ、適切な重合がなされた被処理物c’が移動する。
なお、図3(b)において、板片11の両側(上下側)に切り込みによってそれぞれ傾斜面12、12を形成しているが、このような構成とすることによって、この撹拌翼10は、図3に示すように左右(両側)対称となり、すなわち、回転軸5に直交する厚み方向の中心を通る線に対して左右回転対称となり、この撹拌翼10をその左右側面を考慮せずに回転軸5に取付け得る。
【0020】
上記実施形態において、ルーローの三角形状板片11の各3辺を欠如していない態様が図4に示す撹拌翼20であり(送り傾斜面22)、さらに、撹拌突起13の形状を異ならせた撹拌翼30(送り傾斜面32)を図5に示す。
図6、図7には、ルーローの三角形状板片11の各3辺一部を欠如しているが、傾斜面をその欠如部の側面に形成したり(図6)、撹拌突起13に形成したりした撹拌翼40、50を示す(送り傾斜面42、52)。
このように、傾斜面12、22、32、42、52の形成位置は適宜に設定することができるため、撹拌度合いを考慮してそれらの傾斜面12、22、32、42、52の形成位置や傾斜角度、及び撹拌突起13の形状も撹拌度合い等を考慮して適宜に設定する。すなわち、例えば、図6、図7の実施形態においても、図3〜図5で示す、板片11の側面の傾斜面12、22、32を形成することもできる。図3〜図6に示す各実施形態においては、各突起(掻上部材)13及び各傾斜面12、22、32、42はそれぞれ3個設けられて回転軸5の周りに120度の間隔回転位置となっている。
したがって、今回開示された実施の形態はすべての点で例示であって制限的なものではないと考えられるべきである。この発明の範囲は、特許請求の範囲によって示され、特許請求の範囲と均等の意味および範囲内でのすべての変更が含まれることが意図される。」
「【図1】


「【図7】



(2)甲3に記載された発明(甲3発明)
甲3の【0005】〜【0006】には、図1に記載された連続式のセルフクリーニング型混練撹拌装置に関して、図7の突起13を備えたものについて、上記下線部からみて、
「連続式のセルフクリーニング型混練撹拌装置において、同径の2つの円が交差する断面形状を有する筒状ケーシング1の内部の処理室2に、両端にスクリュウ羽根3a、3bが、その両スクリュウ羽根3a、3bの間に軸方向に沿って多数の撹拌翼(パドル)10が設けられた2本の回転軸5が互いに平行に配され、
この撹拌翼10の各頂点には両側に突出する撹拌突起(掻上部材)13が形成され、
この撹拌翼10は、ほぼ正三角形状を呈しており、その中心に回転軸5への取付孔4が形成されていて、
前記ケーシング1は、一端側上部に供給口6が、他端側下部に排出口7がそれぞれ設けられ、
両回転軸5、5が回転すると、ケーシング1の供給口6から処理室2に供給された重縮合系樹脂(被処理物)cは、スクリュウ羽根3aによって撹拌翼10に送り込まれるとともに、スクリュウ羽根3bによって撹拌翼10に送り戻され、その撹拌翼10によって混練撹拌されながらケーシング1の他端側へ徐々に移行して重合度の高くなった樹脂c’となって排出口7から排出されるセルフクリーニング型混練撹拌装置。」(以下、「甲3発明」という。)が記載されていると認められる。

(3)対比・判断
甲3発明の「重縮合系樹脂(被処理物)c」、「筒状ケーシング1」、「回転軸5」、「多数の撹拌翼(パドル)10」、「ほぼ正三角形状を呈し」た「撹拌翼10」、「撹拌翼10」の「取付孔4」及び、「撹拌翼10の各頂点に」形成された「撹拌突起(掻上部材)13」は、本件発明1の「原料」、「チャンバー」、「チャンバーの内部に設けられて回転する少なくとも一つの回転軸」、「回転軸の長さ方向に配置される複数のパドル」、「複数のパドルの少なくとも一部は、複数の頂点を有する多角形形状の板に形成される本体」、「回転軸に挿入されるように、本体の中心に形成される貫通ホール」、及び、「複数の突起」にそれぞれ相当する。
また、本件発明1の「原料の反応空間」及び「ニーダー反応器」と甲3発明の「筒状ケーシング1」及び「セルフクリーニング型混練撹拌装置」とは、「空間」及び「ニーダー」(混練攪拌装置)である点でそれぞれ共通する。
そして、甲3発明の「供給口6」及び「排出口7」は、本件発明1の「原料が注入される注入部」及び「排出部」にそれぞれ相当する。ここで、甲3発明では、「重合度の高くなった樹脂c’となって排出口7から排出される」ことから、「重縮合系樹脂(被処理物)c」が「筒状ケーシング1」内で反応することで「重合度の高くなった樹脂c’」となるものといえ、甲3発明の「筒状ケーシング1」は、反応空間を有しているものであって、本件発明1の「原料の反応空間が形成されるチャンバー」に相当し、甲3発明の「排出口7」は、本件発明1の「原料の反応により生成される生成物が排出される排出部」に相当し、甲1発明の「セルフクリーニング型混練撹拌装置」は、本件発明1の「ニーダー反応器」に相当する。

そうすると、本件発明1と甲1発明とは、
「原料の空間が形成されるチャンバーと、
前記チャンバーの内部に設けられて回転する少なくとも一つの回転軸と、
前記回転軸に回転可能に結合され、前記回転軸の長さ方向に配置される複数のパドルとを含み、
前記複数のパドルの少なくとも一部は、
複数の頂点を有する多角形形状の板に形成される本体と、
前記回転軸に挿入されるように、前記本体の中心に形成される貫通ホールと、
複数の突起と、
チャンバーに原料が注入される注入部と原料の反応により生成される生成物が排出される排出部とを含む、
ニーダー反応器。」である点で一致し、次の点で相違が認められる。

(相違点3−1)
「パドル」の「突起」について、本件発明1では、「前記複数の頂点から突出し、前記複数の頂点の回転軌跡に一致する少なくとも一つの稜を有する形状に形成される複数の突起」であり、「前記複数の突起のそれぞれは、前記長さ方向に前記パドルを見た時、前記頂点を中心に非対称に形成され、前記本体の厚さよりも厚く形成されて、前記各頂点を取り囲むように設けられ」ることが特定されているのに対し、甲3発明の「撹拌突起(掻上部材)13」は、そのようなことは規定されていない点。
(相違点3−2)
「チャンバー」及び「パドル」について、本件発明1では、「前記チャンバーは、前記原料が注入される注入部に隣接する第1の空間と、前記第1の空間に隣接して位置する第2の空間と、前記第2の空間に隣接して位置し、前記原料の反応により生成される生成物が排出される排出部に隣接する第3の空間とを含み、前記第1の空間および前記第3の空間に配置される前記複数のパドルは、既に決定された角度ずつ互いにずれて配置されている」ことが特定されているのに対し、甲3発明は、「撹拌翼10」について、そのようなことは規定されておらず、既に決定された角度ずつ互いにずれて配置されていない点。

ここで、事案に鑑み、まず、相違点3−2について検討する。
甲3発明において、仮に、「撹拌翼10」を既に決定された角度ずつ互いにずれて配置されているように配置すると、混練撹拌の状況が大きく異なることになり、所望の混練撹拌が行われなくなることは明らかであって、上記相違点3−2は実質的に相違点である。
したがって、相違点3−1について検討するまでもなく、本件発明1は甲3発明である、ということはできない。

(4)まとめ
上記(3)で述べたように、申立人の特許法第29条の2(拡大先願)について申立理由には、理由がない。

3 特許法第36条第6項第2号明確性)について
点対称の形状とは、特定の点のまわりに180°回転させたときに、もとの形状と重なり合うものを指すことは技術常識であるから、本件発明1において規定される「頂点を中心に非対称な形状」とは、ある形状について、(パドルの)頂点を中心に、その形状(突起)を180°回転させたときに、もとの形状と重なり合う形状ではない形状であると解される。そして、そのように解釈しても、本件明細書の記載と矛盾することはない。
したがって、頂点を中心に非対称な形状なるものが、どのような形態なのか理解できず不明確である、という申立人の主張には理由がない。

第5 むすび
以上のとおり、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、本件発明1〜6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に本件発明1〜6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-29 
出願番号 P2018-569049
審決分類 P 1 651・ 537- Y (B01J)
P 1 651・ 121- Y (B01J)
P 1 651・ 16- Y (B01J)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 蔵野 雅昭
特許庁審判官 瀬下 浩一
川端 修
登録日 2021-06-02 
登録番号 6893221
権利者 ジーエス カルテックス コーポレーション
発明の名称 ニーダー反応器  
代理人 朝比 一夫  
代理人 高橋 康久  
代理人 江部 武史  

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