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審決分類 審判 全部申し立て 特36条6項1、2号及び3号 請求の範囲の記載不備  H01M
審判 全部申し立て 2項進歩性  H01M
管理番号 1384299
総通号数
発行国 JP 
公報種別 特許決定公報 
発行日 2022-05-27 
種別 異議の決定 
異議申立日 2022-01-06 
確定日 2022-04-05 
異議申立件数
事件の表示 特許第6897707号発明「リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池」の特許異議申立事件について、次のとおり決定する。 
結論 特許第6897707号の請求項1ないし6に係る特許を維持する。 
理由 第1 手続の経緯
特許第6897707号の請求項1ないし6に係る特許についての出願は、平成30年1月4日(優先権主張 平成29年1月6日)を国際出願日とする特願2018−531269号の一部を平成31年4月22日に新たな特許出願として出願され、令和3年6月14日にその特許権の設定登録がされ、令和3年7月7日に特許掲載公報が発行された。その後、その特許に対し、令和4年1月6日に特許異議申立人前田洋志により特許異議の申立てがされた。

第2 本件発明
特許第6897707号の請求項1ないし6の特許に係る発明(以下、それぞれ「本件発明1」ないし「本件発明6」という。」)は、その特許請求の範囲の請求項1ないし6に記載された事項により特定される次のとおりのものである。
「【請求項1】
表面に低結晶炭素層を有する黒鉛質粒子を含み、
前記黒鉛質粒子は、黒鉛1質量部に対する前記低結晶炭素層の比率(質量比)が0.005〜10であり、
前記黒鉛質粒子は、フロー式粒子解析計で求められる、円形度の低い側からの累積頻度が90個数%における円形度(Upper値)と円形度の低い側からの累積頻度が10個数%における円形度(Lower値)との差(Upper値−Lower値)である円形度の標準偏差が、0.05〜0.1であり、
前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であり、
前記黒鉛質粒子に対して532nmのレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける1580cm−1〜1620cm−1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm−1〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)が、0.10〜0.60であるリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項2】
前記黒鉛質粒子の平均粒子径が、2μm〜30μmである請求項1に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項3】
非晶質炭素粒子をさらに含み、前記黒鉛質粒子及び前記非晶質炭素粒子の混合粒子についてのフロー式粒子解析計で求められる円形度の低い側からの累積頻度が90個数%における円形度(Upper値)と円形度の低い側からの累積頻度が10個数%における円形度(Lower値)との差(Upper値−Lower値)である円形度の標準偏差が、0.05〜0.1である請求項1又は請求項2に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項4】
前記非晶質炭素粒子の含有率が、1質量%〜30質量%である請求項3に記載のリチウムイオン二次電池用負極材。
【請求項5】
集電体と、
前記集電体の表面に配置され、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載のリチウムイオン二次電池用負極材を含む負極合剤層と、
を有するリチウムイオン二次電池用負極。
【請求項6】
請求項5に記載のリチウムイオン二次電池用負極を備えるリチウムイオン二次電池。」

第3 申立理由の概要
異議申立人前田洋志の申立理由の概要は、次の理由1及び理由2のとおりである。
1.理由1
主たる証拠として特開2016−213204号公報(以下「文献1」という。)及び従たる証拠として特開2011−175842号公報(以下「文献2」という。)、特開2007−242282号公報(以下「文献3」という。)、及び、特開2014−165156号公報(以下「文献4」という。)を提出し、請求項1ないし6に係る特許は、特許法第29条第2項の規定に違反してされたものであるから、請求項1ないし6に係る特許は取り消されるべきものである。

2.理由2
請求項1に記載の「前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であり、」は、その技術的意味が不明であるから、特許を受けようとする発明が不明確であり、請求項1及び請求項1を引用する請求項2ないし6に係る特許は、特許法第36条第6項第2号に規定する要件を満たしていない特許出願に対してされたものであり、取り消されるべきものである。

第4 文献の記載
1 文献1(特開2016−213204号公報)について
(1) 文献1には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、非水系二次電池に用いる非水系二次電池用炭素材と、その炭素材を用いて形成された負極と、その負極を有する非水系二次電池に関するものである。」

「【0017】
<非水系二次電池用炭素材>
本発明の非水系二次電池用炭素材は、以下のような特性を持つ。
【0018】
(1)ラマンR値
非水系二次電池用炭素材のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPAの強度IAと、1360cm−1付近のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出して定義する。つまり、ラマン値は下記式1で表される。
式1:
ラマンR値=ラマンスペクトル分析における1360cm−1付近のピークPBの強度IB/1580cm−1付近のピークPAの強度IA
ラマンR値は0.01以上、好ましくは0.05以上、より好ましくは0.1以上、更に好ましくは0.15以上である。また1以下、好ましくは0.9以下、より好ましくは0.8以下である。
【0019】
ラマンR値が大きすぎると、粒子表面の結晶が乱れ、電解液との反応性が増し、効率の低下を招く傾向があり、ラマンR値が小さすぎると充放電反応性が低下して、高温保存時のガス発生増加、大電流充放電特性低下の傾向がある。
【0020】
なお、本発明においては、上記ラマンR値の範囲内であるものの中で、黒鉛粒子に非晶質炭素物を被覆したものが、粒子界面におけるLiイオン挿入脱離が容易、且つ粒子に適度の硬さを与えて高密度電極においても粒子が過度に変形することを防ぐことにより、初期サイクル時の充放電不可逆容量が低く、大電流充放電特性に優れた非水溶媒二次電池が得られる点で好ましい。
【0021】
ラマンスペクトルはラマン分光器で測定できる。具体的には、測定対象粒子を測定セル内へ自然落下させることで試料充填し、測定セル内にアルゴンイオンレーザー光を照射しながら、測定セルをこのレーザー光と垂直な面内で回転させながら測定を行なう。
アルゴンイオンレーザー光の波長 :514.5nm
試料上のレーザーパワー :25mW
分解能 :4cm−1
測定範囲 :1100cm−1〜1730cm−1
ピーク強度測定、ピーク半値幅測定:バックグラウンド処理、スムージング処理(単純平均によるコンボリューション5ポイント)」

「【0049】
(12)平均粒径(d50)
非水系二次電池用炭素材の平均粒径(d50)は通常40μm以下、好ましくは、30μm以下、より好ましくは25μm以下であり、通常、3μm以上、好ましくは、4μm以上、より好ましくは5μm以上である。平均粒径が大きすぎるとこの粒径範囲を超えて極板化した際に、筋引きなどの工程上の不都合が出ることが多く、また、この粒径範囲を下回ると、表面積が大きくなりすぎ電解液との活性を抑制することが難しくなる傾向がある。」

「【0052】
(14)平均円形度
非水系二次電池用炭素材の粒径10μm〜40μmの範囲の粒子について測定した下記式で与えられる円形度(=粒子投影面積と同じ面積の円の周長/粒子投影像の周長)が通常0.85以上、好ましくは、0.9以上、より好ましくは0.93以上である。平均円形度がこの範囲を下回ると、大電流充放電特性の低下が生じる傾向がある。」

「【0109】
<他の炭素材との混合>
本発明の非水系二次電池用炭素材は、何れか一種を単独で、又は二種以上を任意の組成及び組み合わせで併用して、リチウムイオン二次電池の負極材として好適に使用することができる。本発明の非水系二次電池用炭素材一種又は二種以上を、他の一種又は二種以上のその他炭素材と混合し、これを非水系二次電池、好ましくはリチウムイオン二次電池の負極材として用いても良い。
【0110】
上述の非水系二次電池用炭素材にその他炭素材を混合する場合、非水系二次電池用炭素材とその他炭素材の総量に対する非水系二次電池用炭素材の混合割合は、通常10重量%以上、好ましくは20重量%以上、また、通常90重量%以下、好ましくは80重量%以下の範囲である。その他炭素材の混合割合が、前記範囲を下回ると、添加した効果が現れ難い傾向がある。一方、前記範囲を上回ると、非水系二次電池用炭素材の特性が現れ難い傾向がある。
【0111】
その他炭素材としては、天然黒鉛、人造黒鉛、非晶質被覆黒鉛、非晶質炭素の中から選ばれる材料を用いる。これらの材料は、何れかを一種を単独で用いても良く、二種以上を任意の組み合わせ及び組成で併用しても良い。
・・・(中略)・・・
【0114】
非晶質炭素としては、例えば、バルクメソフェーズを焼成した粒子や、有機化合物を不融化処理し、焼成した粒子を用いることができる。」

「【0128】
<非水系二次電池>
本発明の非水系二次電池、特にリチウムイオン二次電池の基本的構成は、従来公知のリチウムイオン二次電池と同様であり、通常、リチウムイオンを吸蔵・放出可能な正極及び負極、並びに電解質を備える。負極としては、上述した本発明の負極を用いる。
正極は、正極活物質及びバインダを含有する正極活物質層を、集電体上に形成したものである。 」

「【0156】
(電極シートの作製)
本発明の炭素材を負極材料として用い、活物質層密度1.70±0.03g/cm3の活物質層を有する極板を作製した。具体的には、負極材料20.00±0.02gに、1質量%カルボキシメチルセルロースナトリウム塩水溶液を20.00±0.02g(固形分換算で0.200g)、及び重量平均分子量27万のスチレン・ブタジエンゴム水性ディスパージョン0.50±0.05g(固形分換算で0.2g)を、キーエンス製ハイブリッドミキサーで5分間撹拌し、30秒脱泡してスラリーを得た。
【0157】
このスラリーを、集電体である厚さ18μmの銅箔上に、負極材料が14.5±0.3mg/cm2付着するように、ドクターブレードを用いて幅5cmに塗布し、室温で風乾を行った。更に110℃で30分乾燥後、直径20cmのローラを用いてロールプレスして、活物質層の密度が1.70±0.03g/cm3になるよう調整し電極シートを得た。
【0158】
(非水系二次電池(2016コイン型電池)の作製)
上記方法で作製した電極シートを直径12.5mmの円盤状に打ち抜き、リチウム金属箔を直径14mmの円板状に打ち抜き対極とした。両極の間には、A:エチレンカーボネートとエチルメチルカーボネートの混合溶媒(容量比=3:7)に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液、B:エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(容量比=2:4:4)に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液、C:エチレンカーボネートとプロピレンカーボネートとジエチルカーボネートの混合溶媒(容量比=1:5:4)に、LiPF6を1mol/Lになるように溶解させた電解液(表中ではそれぞれ電解液A、B、Cと表す)を含浸させたセパレータ(多孔性ポリエチレンフィルム製)を置き、A〜Cの電解液を使用した2016コイン型電池をそれぞれ作製した。」

「【0163】
実施例1
黒鉛粒子(a)とコールタールピッチ(a)とを混合し、不活性ガス中で1300℃の熱処理を施し焼成物を粉砕・分級処理することにより、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が被覆された複層構造炭素材を得た。焼成収率から、得られた複層構造炭素材は、黒鉛重量部に対して3重量部の非晶質炭素で被覆されていることが確認された。
【0164】
このサンプルについて、前記測定法で粒径d50、タップ密度、比表面積、ラマンR値、O/C、N/C、S/C、N/C+S/C、N/O、S/Oを測定・算出した。結果を表1に示す。また、前記測定法に従い、不可逆容量、放電容量、初期効率、放電負荷特性を測定した。結果を表2に示す。」

「【0169】
実施例2
黒鉛粒子(a)を黒鉛粒子(b)に変えた以外は、実施例1と同様に行い複層構造炭素材を得た。これについて、実施例1と同様の方法で物性、及び電池特性の測定を行った。結果を表1、表2に示す。」

「【0171】
【表1】



上記表1には、実施例1における「黒鉛粒子の粒径(d50)」が「20μm」、「ラマンR値」が「0.29」と記載されている。

(2)文献1より、次の技術事項を読み取ることができる。
ア 段落【0001】及び【0109】より、文献1は、「リチウムイオン二次電池の負極材として使用する非水系二次電池用炭素材」に関するものであることがわかる。

イ 段落【0163】及び表1より、非水系二次電池用炭素材は、「黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が被覆された複層構造炭素材」であり、「複層構造炭素材は黒鉛重量部に対して3重量部の非晶質炭素で被覆され」、「黒鉛粒子の粒径(d50)」は「20μm」、「ラマンR値」は「0.29」であるとの技術事項を読み取ることができる(なお「黒鉛重量部」は原文のままである。)。

ウ 段落【0052】より、「非水系二次電池用炭素材」の「円形度(=粒子投影面積と同じ面積の円の周長/粒子投影像の周長)」は「通常0.85以上、好ましくは、0.9以上、より好ましくは0.93以上である」との技術事項を読み取ることができる。

エ 段落【0018】、【0021】より、「非水系二次電池用炭素材のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPAの強度IAと、1360cm−1付近のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出して定義」され、「ラマンスペクトル」は「レーザー光の波長:514.5nm」で「測定」されることがわかる。

オ 段落【0111】には「その他炭素材としては、・・・非晶質炭素・・・を用いる」と記載され、段落【0114】には「非晶質炭素としては、・・・粒子を用いる」と記載されていることから、段落【0109】、【0110】における「その他炭素材」を「非晶質炭素粒子」と読み替えると、段落【0110】より、「非水系二次電池用炭素材に非晶質炭素粒子を混合する場合、非水系二次電池用炭素材と非晶質炭素粒子の総量に対する非水系二次電池用炭素材の混合割合は、10重量%以上、」「90重量%以下」「である。」との技術事項を読み取ることができる。

(3)文献1に記載された発明について
異議申立人が申立書に引用し、かつ文献1における最も代表的な実施例である実施例1に着目すると、上記(2)アないしオより、文献1には次の発明(以下、「引用発明1」という。)が記載されているものと認められる。
「リチウムイオン二次電池の負極材として使用する非水系二次電池用炭素材であって、
非水系二次電池用炭素材は、黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が被覆された複層構造炭素材であり、複層構造炭素材は黒鉛重量部に対して3重量部の非晶質炭素で被覆され、黒鉛粒子の粒径(d50)は20μm、ラマンR値は0.29であり、
非水系二次電池用炭素材の円形度(=粒子投影面積と同じ面積の円の周長/粒子投影像の周長)は通常0.85以上、好ましくは、0.9以上、より好ましくは0.93以上であり、
非水系二次電池用炭素材のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPAの強度IAと、1360cm−1付近のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出して定義され、ラマンスペクトルはレーザー光の波長:514.5nmで測定され、
非水系二次電池用炭素材に非晶質炭素粒子を混合する場合、非水系二次電池用炭素材と非晶質炭素粒子の総量に対する非水系二次電池用炭素材の混合割合は、10重量%以上、90重量%以下である、
非水系二次電池用炭素材。」

2.文献2(特開2011−175842号公報)について
(1)文献2には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、リチウム二次電池用負極材、該負極材を用いたリチウム二次電池用負極及びリチウム二次電池に関する。」

「【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
<リチウム二次電池用負極材>
【0015】
本発明のリチウム二次電池用負極材は、真円を1.00として、円相当径から求めた円の周囲長を粒子像の周囲長で割ることで得られる円形度が、0.85以上0.90以下であることを特徴とする。負極材の円形度が前記範囲内であると、高電極密度化においても圧縮性及び電極密着性が低下せず、低電極密度時のような電池特性を維持することができる。ここで、電極密着性とは、スチレンブタジエンゴム等の結着剤を含んだ負極材と集電体である銅箔等で構成する電極が、両者とも剥離せずに密着しているかどうかをはんだんする指標である。一般的に強い力で電極を圧縮した場合、負極材と銅箔は剥離し易く、充放電効率等の電池特性が低下する傾向にある。また、電池の高容量には、電極の圧縮による高密度化が必要不可欠であるため、電極密着性の低下を制御することが重要となる。
【0016】
また、本発明のリチウム二次電池用負極材は、円形度が異なる少なくとも2種類の炭素粒子を混合してなることが好ましい。ここで、2種類の炭素粒子を炭素Aと炭素Bとすると、炭素Aの円形度は0.88以上、炭素Bの円形度は0.88未満であり、炭素Bに比べて炭素Aが高い円形度であり、真円(円形度1.00)に近づく。炭素Aの円形度は0.90以上であることがさらに好ましい。また、炭素Bの円形度は0.80以上0.85未満であることがさらに好ましい。炭素Aと炭素Bの円形度の差は、0.05以上が好ましく、0.10以上0.15以下がより好ましい。
【0017】
なお、本発明における円形度は、真円を1.00として、円相当径から求めた円の周囲長を粒子像の周囲長で割ることで得られる値であるが、例えば、フロー式粒子像分析装置(例えば、シスメックス株式会社 FPIA−3000)で測定することができる。」

「【0023】
また、本発明のリチウム二次電池用負極材は、真密度が2200kg/m3以上であることが好ましい。炭素の分類の観点では、結晶性が低い炭素(非晶質炭素)に比べると結晶性が高い炭素、いわゆる黒鉛が好ましい。炭素の結晶性は、充放電効率に大きく影響を与え、結晶性が高い程、充放電効率に優れる点で好ましい。」

(2)上記(1)より、文献2には、次の技術(以下、「文献2に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「リチウム二次電池用負極材(【0001】)として、円形度が異なる少なくとも2種類の炭素粒子を混合し、2種類の炭素粒子を炭素Aと炭素Bとすると(【0016】)、フロー式粒子像分析装置で円形度を測定した(【0017】)場合に、炭素Aの円形度は0.88以上、炭素Bの円形度は0.88未満であり、炭素Bに比べて炭素Aが高い円形度であり、炭素Aの円形度は0.90以上であることがさらに好ましく、また、炭素Bの円形度は0.80以上0.85未満であることがさらに好ましく、炭素Aと炭素Bの円形度の差は、0.05以上が好ましく、0.10以上0.15以下がより好ましい(【0015】)」技術。

3.文献3(特開2007−242282号公報)について
(1)文献3には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、電池、特に黒鉛系材料を含む負極を有する非水電解質二次電池に関する。」

「【0009】
本発明に係る電池によれば、負極が、複数の天然黒鉛の造粒体を含有し、前記造粒体のかさ密度が、0.20g/cm3以上0.70g/cm3以下であることから、エネルギー密度が高く、負荷特性及びサイクル特性が向上した電池を構成することが可能となる。」

「【0026】
<実施例>
本発明に係る電池の実施例について、以下、説明する。
【0027】
まず、第1の実施例について説明する。
天然黒鉛として中国産天然黒鉛試料粉末を用意し、この試料粉末を、ハンマーミルを用いて粉砕処理した。 ・・・(省略)・・・
【0028】
【表1】(省略)
【0029】
次に、第2の実施例について説明する。
前述の第1実施例で説明した粉砕処理に30分間かけた天然黒鉛を、スプレードライヤー付き攪拌混合機を用いて造粒処理した。造粒処理は、黒鉛微粉50gに対し、カルボキシルメチルセルロース(CMC)1.0%水溶液を30g投入し、攪拌混合により造粒を行った。ドライヤー乾燥温度は110℃とした。
この造粒処理によって得られた造粒体を、比表面積測定、粒度分布測定、球形度測定によって評価した。
比表面積測定はBET法により測定した。この際、吸着質を窒素とし、脱気温度を120℃脱気時間を30分とした。
粒度分布測定は、堀場製レーザ回折/散乱式粒度分布測定装置により行った。
球状度測定は、SYSMEX(株)製フロー製粒子像分析装置 FPIA3000を用いた。黒鉛粒子をビーカーに入れ、精製水50ml、分散媒ポリ(オキシエチレン)−オクチルフェニルエーテル(和光製薬製)を加え、超音波に300W、3秒かけたものをサンプルとし、機器吸引により測定を開始した。画像解析は天然黒鉛粒子の個々の投影画像の面積を同等の円に置き換えた時の円周径をLとし、実際の周囲長をlとし、L/lを円形度と規定した。ここでは、円形度が0.85以下の粒子(個数基準)が少なく、円形度(体積基準)も高い値であれば、形状が球形に近いと判断する。
【0030】
本実施例における評価結果を、〔表2〕〜〔表4〕に示す。
攪拌装置回転速度1000rpmでは、〔表2〕に示すように、全てのパラメータに対して変化は確認されなかった。
攪拌装置回転速度2000rpmでは、〔表3〕に示すように、時間を追うごとに比表面積が減少し、D50が増加した。このことから、微粉同士が接着し、造粒されていると考えられる。
また、時間を追うごとに、球状化度が高くなって行く様子が確認され、攪拌に伴う凝集体同士の摩擦により形状は球形化されることがわかった。
また、各処理時間ごとの造粒体のかさ密度を測定したところ、比表面積,体積平均粒径,円形度の各数値から、かさ密度は0.20g/cm3以上0.70g/cm3以下が好ましいことが確認できた。この数値範囲内でかさ密度を選定することにより、円形度が0.85以下の粒子を個数基準で20%以下とすることができ、特にかさ密度を0.52g/cm3以上0.70g/cm3以下とすれば、更に比表面積を、6.5m2/g以上8.7m2/g以下にもすることができる。比表面積が10m2/gを超える場合、初回充放電効率が低下するため、好ましくない。
なお、この造粒体は、実際の電池の製造においては、後述する第3の実施例で一例を示すような焼成などの他の工程を経て活物質層を形成するに至るものであるが、少なくとも焼成によっては、かさ密度の変化を殆ど生じないものであることが確認できた。
また、攪拌装置回転速度4000rpmでは、〔表4〕に示すように、回転数が高すぎるため、微粉はさらに粉砕され、造粒には至らなかった。」

「【0032】
【表3】



(2)異議申立人が申立書に引用した第2の実施例に着目すると、上記(1)より、文献3には、次の技術(以下、「文献3に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「黒鉛系材料を含む負極を有する非水電解質二次電池(【0001】)において、負極が、天然黒鉛の造粒体を含有し(【0009】)、天然黒鉛を、スプレードライヤー付き攪拌混合機を用いて造粒処理し、フロー製粒子像分析装置で球状度測定すると(【0029】)、攪拌装置回転速度2000rpmでは、時間を追うごとに球状化度が高くなって行き、円形度が0.85以下の粒子を個数基準で20%以下とすることができる(【0030】)、技術。」

4.文献4(特開2014−165156号公報)について
(1)文献4には、次の事項が記載されている(下線は当審で付与した。)。
「【0001】
本発明は、非水電解液二次電池、特に高出力型のリチウムイオン二次電池および非水電解液二次電池の負極板の製造方法に関するものである。」

「【0039】
負極板は、図1に示されるような、導電性を有するフィルムからなる負極集電体1と、前記負極集電体1の少なくとも一つの表面に設けられた負極合剤層2とからなる。」

「【0041】
負極合剤層2は、少なくとも負極活物質3と、前記負極活物質3を前記負極集電体1の表面に固定化するためのバインダ4とからなる。」

「【0043】
負極活物質3としては、黒鉛粉末を用い、かつ、吸油量が50cm3/100g以上から100cm3/100g以下であるものを用いる。」

「【0046】
また、黒鉛粉末の表面近傍に十分な量の電解液を保持するためには、局所的に黒鉛粉末間の空隙が小さくなっている状態を避ける、すなわち前記負極合剤層の密度は層内で均等であることが望ましい。特に、異なる物性を有する二種類以上の黒鉛粉末を混合すると、充填性が向上し、局所的に黒鉛粉末が密に充填された状態になりやすい。このような異粒子混合による局所的な充填性向上を回避するため、本発明の黒鉛粉末としては、上述の吸油量値に加えて、球形に近い円形度0.5以上のものを90%以上含むようにすることが望ましい。前記の球形に近く充填性の高い円形度0.5以上の黒鉛粉末に対して、充填性の低い円形度0.5未満の黒鉛粉末が10%より多く含まれると、負極合剤層内で局所的に充填性が低下するため、負極合剤層内に粗密が生じてしまう。また、充填性の低い円形度が0.5未満の黒鉛粉末を主として用いる場合、前記黒鉛粉末の平均粒子径が3μm未満の微小なものになると、黒鉛粉末が局所的に密に充填されてしまう。ここで、本発明の目的とする入出力特性の優れた電池においては、負極集電体から負極合剤層の表面までの距離を短くする、すなわち負極合剤層の厚みを薄くすることが必要で、最小で30μmまで薄く設計するため、前記黒鉛粉末の平均粒子径は大きくとも30μmとすることが望ましい。よって、前記の円形度が0.5未満の黒鉛粉末を主として用いる場合は、さらに黒鉛粉末の平均粒子径が3μm以上から30μm以下のものを用いることが望ましい。」

(2)上記(1)より、文献4には、次の技術(以下、「文献4に記載された技術」という。)が記載されているものと認められる。
「リチウムイオン二次電池の負極板は、負極集電体1と、前記負極集電体1の少なくとも一つの表面に設けられた負極合剤層2とからなり(【0001】、【0039】)、負極合剤層2は、少なくとも負極活物質3と、バインダ4とからなり(【0041】)、負極活物質3としては、黒鉛粉末を用い(【0043】)、黒鉛粉末としては、球形に近い円形度0.5以上のものを90%以上含むようにする(【0046】)」技術。

第5 当審の判断
1.理由1について
(1)本件発明1について
ア 対比
本件発明1と引用発明1とを対比する。
(ア)引用発明1における「黒鉛粒子の表面」を「被覆」する「非晶質炭素」と、本件発明1における「黒鉛質粒子」「表面」の「低結晶炭素層」とは、「黒鉛質粒子」「表面」の「炭素層」の点で共通する。
次に、引用発明1における「リチウムイオン二次電池の負極材」は、「表面に非晶質炭素が被覆され」た「黒鉛粒子」が含まれており、「黒鉛粒子」が「黒鉛重量部に対して3重量部の非晶質炭素で被覆されて」いるから、本件発明1における「リチウムイオン二次電池の負極材」が「表面に低結晶炭素層を有する黒鉛質粒子を含み、前記黒鉛質粒子は、黒鉛1質量部に対する前記低結晶炭素層の比率(質量比)が0.005〜10であ」ることと、「表面に炭素層を有する黒鉛質粒子を含」む点で共通する(なお、文献1には「黒鉛重量部」と記載されているに過ぎないから、引用発明1の黒鉛と非晶質炭素との質量比は特定できない。)
しかしながら、本件発明1では黒鉛質粒子表面の炭素層が「低結晶炭素層」であって、「黒鉛1質量部に対する前記低結晶炭素層の比率(質量比)が0.005〜10であ」るのに対し、引用発明1では、「黒鉛粒子の表面」は「非晶質炭素」で被覆されており、黒鉛1質量部に対する比率(質量比)は特定されない点で相違する。

(イ)引用発明1における「非水系二次電池用炭素材」の「円形度(=粒子投影面積と同じ面積の円の周長/粒子投影像の周長)」が「通常0.85以上、好ましくは、0.9以上、より好ましくは0.93以上であ」ることと、本件発明1における「前記黒鉛質粒子は、フロー式粒子解析計で求められる、円形度の低い側からの累積頻度が90個数%における円形度(Upper値)と円形度の低い側からの累積頻度が10個数%における円形度(Lower値)との差(Upper値−Lower値)である円形度の標準偏差が、0.05〜0.1であり、前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であ」ることとは、「前記黒鉛質粒子の円形度を0.9程度とする。」点で共通する。
しかしながら、本件発明1では、黒鉛質粒子の円形度が「フロー式粒子解析計で求められる、円形度の低い側からの累積頻度が90個数%における円形度(Upper値)と円形度の低い側からの累積頻度が10個数%における円形度(Lower値)との差(Upper値−Lower値)である円形度の標準偏差が、0.05〜0.1であり、前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であ」るのに対し、引用発明1では、その旨特定されていない点で相違する。

(ウ)引用発明1における「ラマンスペクトルはレーザー光の波長:514.5nmで測定され」、「非水系二次電池用炭素材のラマンR値は、1580cm−1付近のピークPAの強度IAと、1360cm−1付近のピークPBの強度IBとを測定し、その強度比R(R=IB/IA)を算出して定義され」、「前記黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が被覆された複層構造炭素材」の「ラマンR値は0.29であ」ることと、本件発明1における「前記黒鉛質粒子に対して532nmのレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける1580cm−1〜1620cm−1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm−1〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)が、0.10〜0.60である」こととは「前記黒鉛質粒子に対して所定波長のレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける1580cm−1〜1620cm−1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm−1〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)が、0.10〜0.60である」との条件を満たしている点で共通する。
しかしながら、本件発明1では、ラマンスペクトルを測定するレーザー光の波長が「532nm」であるのに対し、引用発明1では「514.5nm」である点で相違する。

(エ)引用発明1における「リチウムイオン二次電池の負極材」は「黒鉛粒子」からなるから、本件発明1における「リチウムイオン二次電池用負極材」に相当する。

よって、本件発明1と引用発明1とは、次の一致点、相違点を有するものと認められる。
(一致点)
「表面に炭素層を有する黒鉛質粒子を含み、
前記黒鉛質粒子は、円形度を0.9程度とし、
前記黒鉛質粒子に対して所定波長のレーザー光を照射したときのラマンスペクトルにおける1580cm−1〜1620cm−1の範囲にあるピーク強度IGに対する1300cm−1〜1400cm−1の範囲にあるピーク強度IDの比であるラマンR値(ID/IG)が、0.10〜0.60であるリチウムイオン二次電池用負極材。」

(相違点1)
本件発明1では黒鉛質粒子表面の炭素層が「低結晶炭素層」であって、「黒鉛1質量部に対する前記低結晶炭素層の比率(質量比)が0.005〜10であ」るのに対し、引用発明1では、黒鉛粒子の表面は「非晶質炭素」で被覆されており、黒鉛1質量部に対する比率(質量比)は特定されない点。

(相違点2)
本件発明1では、黒鉛質粒子の円形度が「フロー式粒子解析計で求められる、円形度の低い側からの累積頻度が90個数%における円形度(Upper値)と円形度の低い側からの累積頻度が10個数%における円形度(Lower値)との差(Upper値−Lower値)である円形度の標準偏差が、0.05〜0.1であり、前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であ」るのに対し、引用発明1では、その旨特定されていない点。

(相違点3)
本件発明1では、ラマンスペクトルを測定するレーザー光の波長が「532nm」であるのに対し、引用発明1では「514.5nm」である点。

イ 判断
事案に鑑みて、まず相違点2について検討する。
(ア)文献2に記載された技術を再掲すれば、次のとおりである。
「リチウム二次電池用負極材として、円形度が異なる少なくとも2種類の炭素粒子を混合し、2種類の炭素粒子を炭素Aと炭素Bとすると、フロー式粒子像分析装置で円形度を測定した場合に、炭素Aの円形度は0.88以上、炭素Bの円形度は0.88未満であり、炭素Bに比べて炭素Aが高い円形度であり、炭素Aの円形度は0.90以上であることがさらに好ましく、また、炭素Bの円形度は0.80以上0.85未満であることがさらに好ましいく、炭素Aと炭素Bの円形度の差は、0.05以上が好ましく、0.10以上0.15以下がより好ましい」技術。

(イ)そこで文献2に記載された技術を参酌して、上記相違点2が当業者にとって容易に想到し得たか否かについて検討する。
a 引用発明1は「黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が被覆された複層構造炭素材」を用いることが前提であるところ、文献2に記載された技術では、「炭素粒」として、引用文献2の段落【0023】に「炭素の分類の観点では、結晶性が低い炭素(非晶質炭素)に比べると結晶性が高い炭素、いわゆる黒鉛が好ましい。炭素の結晶性は、充放電効率に大きく影響を与え、結晶性が高い程、充放電効率に優れる点で好ましい。」と記載されているとおり、結晶性が高い黒鉛粒子そのものを用いることが推奨されているのであるから、「非晶質炭素が被覆された」黒鉛粒子を用いる引用発明1に文献2に記載された技術を参酌することは、当業者に動機付けられないことである。

b また、文献2には、炭素Aと炭素Bを混合したものについて、「円形度」の低い側からの累積頻度がどのような分布を示すのかは何ら記載されていないから、文献2に記載された技術は、円形度の低い側からの累積頻度が90個数%における円形度(Upper値)と円形度の低い側からの累積頻度が10個数%における円形度(Lower値)との差(Upper値−Lower値)である円形度の標準偏差について、その範囲を特定するものではない。
よって、仮に文献2に記載された技術を参酌し、引用発明1における「黒鉛粒子の表面に非晶質炭素が被覆された複層構造炭素材」を、文献2に規定されたとおり「円形度が異なる少なくとも2種類の複層構造炭素材を混合し、2種類の複層構造炭素材を複層構造炭素Aと複層構造炭素Bとし、複層構造炭素Aと複層構造炭素Bの円形度の差は、0.05以上が好ましく、0.10以上0.15以下」としても、上記相違点2に係る「円形度の標準偏差が、0.05〜0.1」という条件が満たされることにはならない。

c また、文献3に記載された技術は「天然黒鉛」の「円形度が0.85以下の粒子」を「個数基準で20%以下とする」もの、文献4に記載された技術は「黒鉛粉末」として「円形度0.5以上のものを90%以上含むようにする」ものに過ぎず、上記相違点2に係る構成は、記載も示唆もされていない。

ウ まとめ
以上のとおり、相違点1、3について検討するまでもなく、本件発明1は、文献1に記載された発明及び文献2ないし文献4に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(2)本件発明2ないし6について
本件発明2ないし6に係る請求項2ないし6は、請求項1を引用しているから、本件発明1における上記相違点2に係る構成と同じ構成を備えるものである。
よって、上記1に記載したのと同様の理由により、本件発明2ないし6は、文献1に記載された発明及び文献2ないし文献4に記載された技術に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものとはいえない。

(3)特許異議申立人の主張について
ア 本件発明1について
(ア)特許異議申立人の主張
特許異議申立人は、本件発明1と甲第1号証に記載された発明(以下、甲1発明という。)との相違点が、
(相違点1’)甲1発明では、「前記黒鉛質粒子は、フロー式粒子解析計で求められる、円形度の低い側からの累積頻度が90個数%における円形度(Upper値)と円形度の低い側からの累積頻度が10個数%における円形度(Lower値)との差(Upper値−Lower値)である円形度の標準偏差が、0.05〜0.1であ」ること(以下、「円形度の標準偏差が、0.05〜0.1であること」という。)が明らかでない点。
(相違点2’)甲1発明では、「前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であ」ること(以下、「円形度が、0.7〜0.9であること」という。)が明らかでない点。
にあるとしつつ(申立書第15頁第5ないし16行)、上記相違点について、
a (相違点1’)に係る「円形度の標準偏差が0.05〜0.1であること」は、「円形度のばらつきが小さいことを規定したものであると解される」(申立書第15頁第19ないし20行)こと、及び(相違点2’)に係る「円形度が0.7〜0.9であること」は、「円形度が大きい粒子が多いことを規定したものであると解される」(申立書第17頁第12ないし13行)ことを前提として、

b (相違点1’)について、甲第2号証(文献2)には、負極材の円形度が「0.85以上0.90以下」であることにより、「高電極密度化においても圧縮性及び電極密着性が低下せず、低電極密度時のような電池特性を維持することができ」ること、及び「電極材を構成する炭素A(円形度:0.88以上)及び炭素B(円形度:0.88未満)について両者の円形度の差は、「0.15」以下が好ましいこと、が記載されていることから、甲第1号証(文献1)に記載された発明を甲第2号証(文献2)に記載された上記規定を満足するものとした場合、負極材の円形度のばらつきは小さく、その結果、本件発明1の上記特定事項を満たす蓋然性が高い(申立書第15頁第21行ないし第16頁第16行)。

c (相違点2’)について、甲第3号証(文献3)には「円形度が0.85以下の粒子を個数基準で20%以下とすること」が記載され、甲第4号証(文献4)には「球形に近い円形度0.5以上のものを90%以上含む」ことが記載されているから、甲第3号証(文献3)、甲第4号証(文献4)を参照したうえで、甲1発明において,円形度が大きい粒子を多くすることは当業者が容易になし得たことである(申立書第16頁第22行ないし第18頁第5行)。
と主張している。

(イ)当審の判断
a しかしながら、「(ア)a」について、本件発明1における「円形度の標準偏差が0.05〜0.1であること」は、「円形度のばらつきが小さい」ことを意味しているのではなく、円形度の累積頻度におけるばらつき、すなわち「円形度の標準偏差」が「0.05〜0.1」の範囲にあるように、円形度がばらついていることを意味している。
よって、申立人の主張は、前提において、本件発明1の技術的意味を正解していないものである。

b 次に、「(ア)b」について、甲第2号証(文献2)に、「負極材の円形度」が「0.85以上0.90以下」であるとの記載や、「円形度の差が「0.15」以下」であるとの記載があるからといって、これらの記載は、負極材における「円形度の標準偏差」が「0.05〜0.1」の範囲にあることを意味しない。
また、甲第2号証(文献2)のこれらの記載からは、円形度のばらつきを推定し得ないのであるから、「円形度の標準偏差」が「0.05〜0.1」の範囲にあること満たす蓋然性が高いともいえない。

c 次に、「(ア)c」について、本件発明1では、「円形度が0.7〜09であること」と「円形度の標準偏差が0.05〜0.1であること」の両方によって「円形度」の累計分布が特定され、これらの条件が同時に満たされることによって「初期充放電効率及びパルス充電特性に優れる」(本件特許明細書の段落【0078】参照)という作用効果が奏されるようになるのであるから、甲第3号証(文献3)や甲第4号証(文献4)に「円形度が0.85以下の粒子を個数基準で20%以下とすること」や「円形度が0.7〜0.9であること」といった「円形度」の累計分布についての断片的な記載がなされているからといって、「円形度が0.7〜09である」とともに「円形度の標準偏差が0.05〜0.1である」という本件発明1の「円形度」の累計分布の特定は、当業者であっても容易になし得たことではない。

d よって、異議申立人の主張は採用できない。

イ 本件特許発明2ないし6について
(ア)異議申立人は、本件発明2に相当する「平均粒径(d50)」が甲第1号証(文献1)(段落【0049】及び【表1】)に記載され、本件特許発明3と同様に「非晶質炭素粒子」をさらに含むことが甲第1号証(文献1)(【0109】ないし【0111】、【0114】)に記載され、本件発明4と一部が重複する「非晶質炭素粒子の含有率」が甲第1号証(文献1)(【0110】)に記載され、炭素材(負極材料)を含有する「活物質層」を「集電体」の上に配置して「コイン型電池」を作成することが甲第1号証(文献1)(【0156】〜【0158】)に記載されているから、本件発明2ないし6も、甲1発明及び甲第2号証(文献2)ないし甲第4号証(文献4)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到できた発明であると主張している(申立書第18頁第9行ないし第20頁第2行)。

(イ)しかし、本件発明2ないし6に係る請求項2ないし6は、請求項1を引用しているから、本件発明1における発明特定事項を備えるものである。
よって、特許異議申立人の上記(ア)の主張の当否を判断するまでもなく、本件発明2ないし6は、上記「第5」「1(1)」で述べたのと同じ理由により、当業者といえども、甲1発明及び甲第2号証(文献2)ないし甲第4号証(文献4)に記載された事項に基づいて、当業者が容易に想到できたものではない。
よって、異議申立人の主張は採用できない。

2.理由2について
(1)異議申立人の主張
異議申立人は、請求項1における「前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であり」との特定事項(以下、「特定事項D」という。)について、本件特許明細書の段落【0012】には、この規定を満たすことによって如何なる効果を奏するのか等については一切記載がなく、また、段落【0077】に記載された【表1】のとおり、比較例1も上記特定事項Dを満たしているから、特定事項Dの技術的意味を把握することができず、特許を受けようとする発明が不明確であると主張している。
また、「技術的意味」と「明確性要件」との関係について、判例1(平成17年(行ケ)第10148号 知財高裁 H17.11.1判決)及び判例2(平成15年(行ケ)第206号 東京高裁 H16.6.30判決)を引用している。
(申立書第20頁第3行ないし第22頁第8行)

(2)当審の判断
ア 本件特許明細書に記載された比較例1は、請求項1における特定事項Dを満たしているものの、「円形度の標準偏差」は「0.04」であって、本件発明1が規定する「0.05〜0.1」との要件を満たしていない。
そして、本件発明1における「初期充放電効率及びパルス充電特性に優れる」(本件特許明細書の段落【0078】参照)という効果は、請求項1に記載された個々の要件から個別に奏される効果の総和ではなく、各要件(例えば、「円形度の標準偏差」及び上記特定事項D)が相互に関連し合った結果として相乗的に奏される効果であるから、本件特許明細書に「前記黒鉛質粒子についての前記累積頻度が10個数%における円形度が、0.7〜0.9であり」との事項についての個別的な説明が記載されておらず、また、比較例1が上記特定事項Dを満足しているからといって、上記特定事項Dが本件発明1にとって技術的に無意味なものとなることはない。

イ 異議申立人が提示した判例1は、請求項1に記載された不等式の左辺の数式と右辺の数式とが、それぞれ特性の異なる管状部材に対して求められた数式である場合についてのものであり、本件に適切でない。
また、判例2は、旧特許法第36条第5項第2号(特許を受けようとする発明の構成に欠くことができない事項のみを記載した項(以下「請求項」という。)に区分してあること)に関する判例であって、本件に適切でない。

ウ よって、異議申立人の主張は採用できない。

第6 むすび
したがって、特許異議の申立ての理由及び証拠によっては、請求項1ないし6に係る特許を取り消すことはできない。
また、他に請求項1ないし6に係る特許を取り消すべき理由を発見しない。
よって、結論のとおり決定する。
 
異議決定日 2022-03-25 
出願番号 P2019-081128
審決分類 P 1 651・ 121- Y (H01M)
P 1 651・ 537- Y (H01M)
最終処分 07   維持
特許庁審判長 山田 正文
特許庁審判官 山本 章裕
清水 稔
登録日 2021-06-14 
登録番号 6897707
権利者 昭和電工マテリアルズ株式会社
発明の名称 リチウムイオン二次電池用負極材、リチウムイオン二次電池用負極及びリチウムイオン二次電池  
代理人 特許業務法人太陽国際特許事務所  
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